PENTAX67用で焦点距離300mmの望遠レンズです。35mm判カメラ用の150mmくらいのレンズの画角に相当します。ED(特殊低分散)ガラスが採用されたレンズです。
レンズの主な仕様
このレンズが発売される前は☆のつかない「smc PENTAX67 1:4 300mm」というレンズがあったのですが、それに比べて仕様もお値段も格段にグレードアップされました。ヘリコイドリングのところにグリーンの線が入り、前のモデルとの差を見せつけているという感じです。
前玉側から覗き込むと、吸い込まれるような妖しい美しさがあります。
レンズの仕様は以下の通りです(リコーイメージング株式会社 公式HPより引用)。
画角 : 17度
レンズ構成枚数 : 9群9枚
最小絞り : 32
最短撮影距離 : 2.0m
フィルター径 : 82mm
最大径x長さ : 92.5mm × 209.5mm
重さ : 1,650g
重いけれど使い易いレンズ
前のモデルのレンズ構成が5群5枚だったのに対し、こちらは9群9枚構成になり、レンズ枚数がほぼ倍増しています。また、インナーフォーカス方式が採用されているため、ヘリコイドリングを回してもレンズの全長が変化しないので、バランスの移動も起きません。そして、ヘリコイドリングは軽く、とても滑らかに動きます。これは非常に薄い被写界深度の中においても、とてもピント合わせがし易いです。まさに1mmほど動かしてピントの山を移動させたい時など、この滑らかさがないと大変です。
ヘリコイドはオーバーインフになっていて、無限遠を通り過ぎて少し先まで回ります。前のモデルがオーバーインフになっていたかどうか記憶がありません。
最短撮影距離が2mと、前のモデルの半分以下になっているのも使い勝手が良く、ありがたいです(前モデルの最短撮影距離は5m)。
三脚座は鏡筒と一体になっていて取り外しはできませんが、とても薄型なので特に支障は感じません。手持ち撮影の時には手のひらにちょうど収まり、レンズを支えながら指でヘリコイドを回すことができるので便利です。
とはいえ、かなり大きくて重いレンズであることには間違いありません。レンズ先端からマウント面まで約210mmあります。PENTAX67のフランジバックが約85mmですので、このレンズをカメラに取付けたときのレンズ先端からカメラ後端まで、全長は300mmを越えます。そして、レンズ単体の重さが1,650gですので、小ぶりなレンズ2~3本分の重さです。このレンズをカメラバッグに入れると途端に重くなり、持ち歩くのは決して楽ではありません。大判カメラ用で使っているニコンのM300というレンズと比較してみるとこの違いです(下の写真)。開放F値が2段以上違いますので当然と言えば当然ですが、M300は重さがわずか290gですから、いかにPENTAXのレンズが大きいかがわかります。
浅いピントとシャープな写り
しかし、その大きさや重さを差し引いても使いたくなる魅力のあるレンズであることも事実です。このレンズ、とにかくキレが良くて、撮影済みのポジをライトボックスで見るとエッジのシャープさが良くわかります。被写界深度が浅いこともあり、ピントの合っている部分がまるで浮き上がっているような立体感を感じます。いわゆるヌケの良い描写をするとともに、ピントのピーキーさが際立っているレンズだと思います。
下の写真はほとんど落葉して幹と枝ばかりになった木を撮影したものです。
白く輝く枝を逆光気味で撮影しています。白い枝が飛ばない程度に露出を若干オーバー目にして、裸木なりの力強さを狙ってみました。画面上ではわかりにくいかもしれませんが、枝の先端までくっきりと写っています。コントラストが高く、キリッと引き締まった印象を受ける描写だと思います。ちょっとオーバーかも知れませんが、その場の空気まで写し込むといった表現が当てはまるくらいです。
この写真では鋭い点光源がないのでそもそも色収差は起こりにくいかもしれませんが、ポジを高倍率のルーペで確認しても色収差らしきものは見当たりません。さすが、EDレンズといった感じです。
また、ファインダー上でピントのヤマがはっきりとわかり、ピント合わせのし易いレンズです。ヘリコイドリングを回したときにピントがスーッと立ってくるのは気持ちの良いものです。
素の状態で使ってこそ
このレンズに1.4xのリアコンバータをつけると420mmに、2xのリアコンバータをつけると600mmの超望遠になりますが、画質の低下が目立ちます。リアコンバータが特に粗悪というわけではありませんが、このレンズの性能が高いだけにそのギャップがわかりやすいのだと思います。どうしても長い玉が必要というのでなければ、リアコンバータの併用はお勧めしません。単独で使ってこそ性能が発揮されるレンズではないかと思います。
PENTAX67用のレンズは二線ボケの傾向がありますが、このレンズも撮影条件によっては若干二線ボケが出ることがあります。風景など遠景を撮る分にはほとんど気になることはありませんが、野草撮影などのように比較的近景を撮ると、二線ボケが気になることがあります。
そういったレンズのクセというか個性を把握しながら撮影するのも写真の面白さかもしれません。
(2020.12.28)