レンズやカメラの保管に気を遣う方は多いと思います。特に日本のように湿気の多い国では、レンズにカビが生えてしまうのではないかと心配になります。防湿庫を購入して、そこに大切な機材を保管している方もいらっしゃるでしょうし、もう少しお手軽に、ドライボックスの中にシリカゲルなどの乾燥剤を入れて保管している方もいらっしゃるでしょう。
私も中型の防湿庫を1台持っていますが、すべての機材がその中に納まりきるわけではありません。むしろ、入りきらない機材の方がはるかにたくさんあります。それでも、数年前に35mm判のカメラとレンズのほとんどを処分してしまったので、機材の量は半分以下になりましたが、まだその辺りにゴロゴロしています。
防湿庫で保管する機材とそうでない機材を区別してるかというと、実は特にそういうことをしているわけではありません。正直なところ、防湿庫に入れたり出したりするのが面倒くさいので、すべて手の届くあたりに転がしておきたいというのが本音です。
もちろん、レンズにとってカビは大敵なので、湿気の少ないところで保管するに越したことはありません。防湿庫には湿度計がついており、大体、30~40%に保たれています。湿気を取りながらも乾燥しすぎない、適度な状態にしてくれています。
しかし、どんなに快適な温度や湿度であっても、レンズをカビから完全に守ることはできないと思っています。そもそも、空気中には常にカビが浮遊しており、それがレンズ内に入り込んで腰を落ち着けてしまうのが問題なわけです。ですから、レンズ内に空気の流れをつくり、入り込んだカビが腰を落ち着けないようにすることが最も効果的だと思っています。
そういう視点で考えると、防湿庫の中は空気の流れが皆無に等しいので、長期間そのままにしておくとレンズ内に入り込んだカビが増殖し、固着してしまう可能性が高いのではないかと想像するわけであります。もちろん、防湿庫内はカビが繁殖しにくい環境なので、すぐにカビが生えるわけではなく、長期間にわたって触らないのであれば、その辺りに転がしておくよりも防湿庫に入れておいた方が望ましいのは言うまでもありません。しかし、防湿庫に入れてさえおけば絶対に安心というわけではないということです。
あらためて自分の持っている機材を見てみると、非常に出番の少ないレンズというのがあります。例えば、PENTAX67用のフィッシュアイ 35mmレンズなどは、実際に持ち出すのは1年に数回程度です。こういうレンズがいちばんカビに襲われやすいのだと思います。
前置きが長くなりましたが、私は毎日のようにカメラやレンズを手に取っており、どのカメラやレンズでも最低、4~5日に1回は可動部分を動かすようにしています(カメラは空シャッターを切ったり、レンズはヘリコイドや絞りを動かしたり)。毎日、すべての機材を構ってはいられないので、4~5日ですべての機材が一回りするという感じです。
こうすることでレンズ内に空気の流れをつくり、カビが付着するのを防いでいます。なので、防湿庫に入れておくよりも、手の届くところに置いてあった方が出し入れの手間が省け、実は都合が良いのです。
また、大判レンズにはシャッターが組み込まれていますが、ここに使われているスローガバナーという部品(低速シャッターを司る重要なパーツです)は、長期間動かさないでおくと動きが鈍くなってしまうことがあります。そうなると、分解して清掃・修理をしなくてはならなくなります。カビだけでなく、可動部分の故障対策という意味でも、ときどき動かすことがカメラやレンズのためには好ましいということです。
もちろん、そのうえで防湿庫等で保管すれば最高であることは言うまでもありません。
ちょっと自慢げに聞こえたら申し訳ないのですが、私はレンズに目視で確認できるようなカビを生やしたことはありません。特別なことをしなくても、週に1~2回、可動部を動かすことでカビの発生はかなり防げると思っています。わかり易く言うと、カメラやレンズはいつもかまってあげることが大切ではないかということです。頻繁に使うレンズにカビが生えたという話しはあまり聞いたことがありません。
一方、空気の流れをつくると、小さなホコリもレンズ内に舞い込んでしまいます。しかし、微細なホコリも定期的に空気の流れをつくることで出たり入ったりするので、長期的に見ればホコリも増えるでしょうが、いきなりレンズ内にどんどん蓄積されてしまうというわけではありません。微細なホコリは着地するのにかなりの時間がかかるらしいので、やはり空気の流れをつくることは効果があると思います。
誤解のないように付け加えますが、決して防湿庫を否定しているわけではありませんし、効果がないと言っているわけでもありません。防湿庫の効果は十分認めておりますが、防湿庫に入れてさえおけば安心ということではなく、防湿庫を使ったうえで、ときどき機材を動かしてあげることで防カビ効果は倍増するであろうし、何よりも、機材を健全な状態で長く使うことができるであろうということです。
カビも小さなうちであれば割と簡単に落とすことができますが、レンズに深く入り込んでしまったカビは拭いた程度では取れません。カビの発生を完璧に防ぐことができないのであれば、カビを早期に発見することがやはり重要になります。
夜な夜な愛しいレンズを手に取り、酒でも飲みながら、このレンズでこんなものを撮影したいとか想像するのも楽しいものです。すべてを吸い込んでしまうのではないかと思われるような美しいレンズを眺めながら、撮影のイメージングとレンズのカビ防止とカビの早期発見が同時にできるのであれば、これを一石二鳥と言わずに何というのでしょう?
くれぐれも、レンズに酒をこぼさないように注意は必要ですが。
(2021.3.15)