大判カメラのフォーカシングスクリーン すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ

 レンジファインダーカメラや最近のミラーレス一眼カメラを除けば、一眼レフカメラや二眼レフカメラ、大判カメラなどにはフォーカシングスクリーン(ピントグラス)が備わっています。レンズから入った光を結像させるとともに、ピント合わせをおこなうという非常に重要なパーツです。
 フォーカシングスクリーンは「すりガラスタイプ」と「フレネルレンズタイプ」の2種類に大別できます。それぞれ特徴がありますが、今回は大判カメラのフォーカシングスクリーンに焦点をあててみたいと思います。

すりガラスタイプ 最もベーシックなフォーカシングスクリーン

 大判カメラのフォーカシングスクリーンはこんな感じです。フィールドタイプのカメラの裏蓋を開けると、そこにフォーカシングスクリーンが見えます。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン(Linhof MasterTechnika 2000)

 すりガラスタイプは昔から使われているもので、ガラスの片面がすりガラス状になっているだけというシンプルなものです。ここにレンズからの光が当たると結像します。
 すりガラスのきめが細かいので非常に鮮明に結像されるのが特徴です。
 一方、フォーカシングスクリーンの周辺部ではレンズからの光が斜めに入ってくるので、フォーカシングスクリーンの後ろ側から見るとかなり暗く落ち込んでしまいます。

 下の写真はすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したものです。わかり易くするため、カメラには#1のレンズボードだけを装着し、レンズは着けていません。
 1枚目は蛇腹を80mm引出した状態、2枚目は250mm引出した状態です。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 80mm引き出した状態では周辺部は真っ黒、250mm引出しても十分な明るさにならないことがわかると思います。
 このように、短焦点レンズ(蛇腹の引出し量が少ない)の場合、フォーカシングスクリーンの周辺部はかなり暗くなってしまいます。焦点距離が長く(蛇腹の引出し量が多く)なるにつれて周辺部の暗さは少しずつ解消されますが、中心部に比べるとやはり暗いです。

 わかり易くするため、図にしてみました。

 上の図でもわかるよに、中心部、およびその周辺はフォーカシングスクリーンに対して垂直、またはそれに近い角度で光が入ってきますが、周辺部に行くほど入射角が斜めになっていきます。これはレンズの焦点距離が短くなるほど顕著になります。
 このため、ルーペでピント合わせをしようとしても、ルーペをフォーカシングスクリーンに垂直にあてると光が入ってこないので、視界が真っ暗という状況になってしまいます。

 これを解消するには光の入射方向に対してルーペのレンズ面が垂直になるように傾ければ良いのですが、そうするとルーペのピントが合わなくなってしまいます。伸縮型のルーペを使うとか、斜めから入射してくる光が見えるようなレンズ径の大きなルーペを用いるなどの工夫が必要になります。

 このように、すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは使いにくいと思われるかもしれませんが、鮮明な像が得られるのと、ピントの山がとてもつかみ易いという利点があります。
 ピント合わせ用のルーペは6~7倍の倍率のものを使うことが多いのですが、シビアなピント合わせをするときは20倍くらいのものを使うこともあります。それくらいの倍率で見てもすりガラスのざらつきがさほど気になりません。

 因みにすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは自分で作ることもできます。既定のサイズにカットした透明のガラスの片面を、#2500くらいの耐水ペーパーで根気よく磨くだけです。#2500の耐水ペーパーの粒度は6㎛程度らしいので、非常にきめ細かなすりガラスになります。

フレネルレンズタイプ 明るくて見やすいフォーカシングスクリーン

 すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンに比べて、圧倒的に明るい像が得られるのがフレネルタイプのフォーカシングスクリーンです。
 肉眼では全くわかりませんが、レンズを薄くスライスし、周辺部だけを残して中をくり抜いたものを同心円状に並べたような構造をしています。

 上の図のように、薄くスライスしたレンズの周辺部だけを残すことで、三角プリズムのような形になります。ここに斜めから入射してきた光があたると屈折して、フォーカシングスクリーンに対して垂直に近い角度の光になります。これによって、フォーカシングスクリーンの周辺部で暗く落ち込んでしまうのを防ぐことができます。

 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したのが下の2枚の写真です。
 1枚目が蛇腹を80mm引出した状態、2枚目が250mm引出した状態で、すりガラスタイプと条件は同じです。

▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 蛇腹を80mm引出した状態では周辺部の落ち込みは見られますが、250mm引出した状態ではフォーカシングスクリーン全面がほぼ同じ明るさになっており、周辺部の落ち込みは感じられません。このため、短焦点レンズを使った場合でも周辺部の落ち込みが少ないので、ピント合わせはすりガラスタイプに比べると格段にし易くなります。

 しかし、ルーペを使うと同心円状のフレネルレンズが目立ってしまい、特に高倍率のルーペではフレネルレンズの縞模様に被写体が埋もれてしまうような感じになります。6~7倍くらいの倍率であればそれほど気になりませんが、20倍というような高倍率ルーペではピントが合わせ難くなります。
 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンの同心円は、およそ1mmに12~15本ありますので、ピッチは0.067mm~0.083mmといったところです。これはすりガラスのざらつきに比べると桁違いに大きい値です。

 フレネルレンズ自体はアクリルやポリカーボネイトなどのごく薄い素材でできているらしく、フォーカシングスクリーンとして用いる場合は、結像のためのすりガラスと保護用の透明のガラスでサンドイッチされた構造になっています。

鮮明な像を優先するか、明るさを優先するか

 すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ、それぞれの特徴はおわかりいただけたと思いますが、どちらのタイプを選ぶかは人それぞれだと思います。
 私は主にすりガラスタイプを使っていますが、いちばんの理由は鮮明な結像とピントの合わせやすさです。レンズを前後させたとき、ピントが立ってくるところと、それを超えてピントが崩れていくところがとてもわかり易く、ピントの山でピタッと止めることができます。

 また、大判カメラはアオリを使うことも多く、レンズの前後とアオリの量を微妙に調整しながらピント合わせを行ないます。フォーカシングノブをほんの1ミリほど動かしただけでピントが移動するのがわかるのは、やはりすりガラスタイプならではと思っています。

 周辺部の暗さについては口径の大きなルーペを使うことで凌いでいます。私は直径49mmのレンズを用いた自作のルーペを使っていますが、斜め45度くらいから覗いても視界が確保されるので、暗くてピント合わせができないというようなことはありません。
 難点は少々大きくて重いということです。

 WISTA 45 SPには標準のフレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンがついているのですが、時たまWISTAを持ち出すと、明るいフォーカシングスクリーンはありがたいと感じます。短焦点レンズを使う頻度が高ければ、フレネルレンズタイプは便利だと思います。

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 異なるタイプのフォーカシングスクリーンを取付けたバック部を二つ用意しておいて、被写体や使用するレンズによって使い分けるという方法もあるかも知れませんが、慣れの問題も大きいので、いろいろ試してみて自分に合ったものを選ぶということになると思います。
 なお、大判カメラのバック部に取付けられているフォーカシングスクリーンの交換は簡単にできますが、結像面がフィルム面とピッタリ同じ位置にないと、ピント合わせをしてもピントがずれた写真になってしまいますので、交換する場合は結像面位置の計測が必要になります。

(2021.11.23)

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