撮影中にクマに出会ったら... クマ避けの鈴は効果があるのか?

 10月の後半に山形、秋田、青森方面に紅葉の撮影に行ってきました。訪れた時はまだ色づきはじめでしたが、わずか一週間で一気に紅葉が進んだ感じでした。

 秋田県の、とある滝の撮影に行った時のことです。
 その滝は車を降りてから山道を30分ほど登った先にあります。最近はあちこちで目にする「熊注意!」の看板がここにもありました。私は山に入るときはクマ避けの鈴(ベアベル)をつけるのですが、この日も腰につけて歩き始めました。
 15分ほど歩いた頃でしょうか、視界の隅に動くものが飛び込んできました。「もしや...」と思って右の方を見ると真っ黒な岩のようなものがもぞもぞと動いています。たぶんクマです。距離は50~60m、もしかしたらもう少し離れていたかもしれません。こちらに背を向けているらしく、顔は見えません。
 相手はこちらの存在に気がついているのかどうかわかりませんが、走っている様子もなく、ソーシャルディスタンスを保っていると思っているのか、ゆっくりとした足取りで森の中に消えていきました。見えていた時間は4~5秒だと思います。

 私がつけているベアベルは結構甲高い音がするので、かなり離れていても聞こえます。人間でさえ聞こえるのですから、クマの耳には確実に届いていたと思われますが、音がしたから去っていったのか、そもそも聞こえていなかったのか、それは当人に聞いてみないとわかりません。

▲クマ避けの鈴(ベアベル)

 離れていたとはいえクマを目撃した私はというと、それまでのハイテンションな気持ちがすっかり萎えてしまいました。クマは森の奥に行ったのでこのまま滝を目指すか、それともあきらめて引き返すか、どちらとも決められずにその場に立ち尽くしていました。
 クマは、滝に向かう道とはずいぶん違う方向に行ったようですが、この先でまたご対面なんていうこともないとは限りません。そう考えると足が前に出ません。

 私は過去にも二度、クマを見かけたことがあります。いずれも今回のように離れたところから見かけただけで、至近距離で遭遇したとか、ばったり鉢合わせしたとかいうことはありません。しかし、クマを見かけた後、そこから先に進むのは非常に勇気がいります。ベアベルを鳴らしながら歩いても効果があるのか、疑心暗鬼になってしまいます。クマが街中に現れたとか、民家の庭を荒らしたとかいうニュースが時々ありますが、そういうのを聞くにつけ、クマが物音に警戒して去っていくということ自体が本当なんだろうかと思ったりもします。

 5~6年前になりますが、秋田県の阿仁町というところに撮影に行ったことがあります。その時、地元のマタギの方と偶然お会いした際に教えていただいたのですが、クマは火薬のにおいをいちばん嫌うらしいです。爆竹を10本ほど鳴らしておくと、少なくともその日、その周辺にはクマは寄ってこないとのことです。クマと出会った時のことを考えるよりも、素人はクマに出会わない方法を考える方が良いともいわれました。
 確かに森に響き渡る音と漂う火薬の臭いは効果てきめんという感じがしますが、何十本もの爆竹を持って、歩きながら爆竹を鳴らすというのはさすがに気が引けます。しかも、枯葉に火でも着きようものなら大変なことになってしまいます。

 しかし、このマタギの方の話が妙に頭に残っていて、その後、クマ避けグッズをいろいろ探してみました。唐辛子のスプレーが最も効果があるようですが、これは目の前にクマがいた時の話ですし、そもそも、急にクマに出くわしたときにスプレーを噴射するような余裕はないと思います。たとえ運よくスプレーを噴射できたとしても、風向きによっては自分の顔に降り注ぐなんていうのが関の山です。

 そして、いろいろ探した結果、たどり着いたのが電子ホイッスルです。

▲電子ホイッスル

 長さが10cmほどで手のひらにすっぽりと納まる大きさです。電池式で、警察官が交通整理をするときなどに吹いている笛のような音がします。しかも、かなりの大音量です。実際にどれくらいの効果があるのか、この音でクマは去ってくれるのかはわかりませんが、森の中で鳴らすと鳥は驚いて飛び去って行きます。
 以来、私は森や山に入るときは、この電子ホイッスルをポケットに入れて歩くようにしています。もちろん、ベアベルも腰に着けています。

 音がとても大きいので、近くに人がいるときに鳴らすとかなり驚かせてしまいます。ですので、これを使うのは誰もいない森や山の中です。
 クマが出るんじゃないかという恐怖心は、歩いているときよりも撮影をしているときのほうが大きいわけですが、ファインダーを覗いていると周囲に目がいかないので、後ろからクマが忍び寄ってきても気がつかないというのがその理由です。
 撮影に入る前に周囲に人がいないことを確認したうえで数秒間、この電子ホイッスルを鳴らし続けます。これだけで何となく安心した気分になり、撮影に没頭することができます。

 今回、滝に向かう途中でクマを見かけ、その後、先に進むか引き返すか決めかねて20分ほどその場にたたずんでいましたが、恐怖心もおさまってきたこともあり、撮影に行ってきました。他に人の姿はなかったので、ときどき電子ホイッスルを鳴らしながら進んだのは言うまでもありません。
 そして、電子ホイッスルの効果があったのかどうかはわかりませんが、その後、クマの姿を見かけることはありませんでした。

 この電子ホイッスルですが、クマ避けだけでなく、緊急時に自分の存在を知らせるということにも使えそうです。幸いにもそういう事態になったことはありませんが、撮影で森や山に入るときは電子ホイッスルと強力な光を照射するLEDライトは常に持ち歩いています。
 火薬を燃焼させたときの臭いがするスプレーがあればぜひ購入して、持ち歩きたいものです。

 余談ですが、山でよく出くわすのがカモシカと鹿(ニホンジカ)です。彼らは警戒心が強いのでソーシャルディスタンスを保ちながらじっとこっちを見ているだけで、襲ってくるようなことはないので安心です。
 また、イノシシも数回見かけたことがあります。イノシシはものすごい勢いで走っていくので、その正面に立っていれば弾き飛ばされてしまいそうですが、不思議なものでクマに対するような恐怖心はありません。
 クマやイノシシの足跡と、それが新しいものか古いものかの見分け方などを教えてもらったこともありますが、撮影の時は地面についた足跡にまで気が回らず、残念ながら教えてもらったことも役に立てられていません。

(2021年12月3日)

#クマ避け鈴 #小道具

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