縦長パノラマ写真の魅力 -6×12フィルムホルダーで撮る掛け軸写真-

 パノラマ写真を撮る頻度は決して高くありませんが、大判カメラを持ち出すときは必ずと言っても良いくらい、6×12のロールフィルムホルダーも持っていきます。
 パノラマ写真というのは、自分が撮るのも含めて圧倒的に横長が多いのですが、縦長のパノラマ写真というのは不思議な魅力があります。縦長のパノラマ写真はなかなか思うように撮れないのですが、今回は数少ない縦長パノラマ写真を何枚かご紹介したいと思います。

人間の視野角にあてはまらないフォーマット

 横に対して縦が極端(概ね2倍以上)に長い画像を見ると、最初はちょっとした違和感を感じます。理由はよくわかりませんが、縦長の画像を見た時に、視点が画像の下から上に動くのが自分でもわかります(私の場合、上から下ではなく、常に下から上に動くというのが何とも不思議です)。この、パッと見た後に、なめるように視点が上に移動することが違和感となっているのかもしれません。

 人間の眼の視野角というのは個人差がありますが、水平(左右)方向に180~200度、垂直(上下)方向に120~130度のようです。水平方向の方が垂直方向の約1.5倍も広く見ていることになり、これは比率にすると約3:2となります。つまり、人間は自然にものを見た時に、3:2のアスペクト比で画像をとらえているということのようです。35mmフィルムの一コマが36mmx24mmで、アスペクト比が3:2になっているのは偶然ではないのかも知れません。
 それはさておき、人間の眼は横長にとらえるのが自然であるならば、縦長の画像を見た時に違和感のようなものがあるのは当然のようにも思えます。

 しかし、縦長のパノラマ写真にはちょっとした新鮮さのようなものが感じられて、つい撮りたくなってしまいます。縦に細長く切り取られた画像の両サイド(左右)の外側が妙に気になったりもしますが、一方で、狭く窮屈なフォーマットの中にバランスよく収まった画像には無駄のない美しさのようなものも感じます。まさに「掛け軸写真」といった感じです。
 が、これは単純に普段見慣れている横長の画像とは異なっているからかも知れません。

縦長パノラマの構図はなかなか決めにくい

 そんな不思議な魅力を持った掛け軸写真ですが、実際に撮るとなると構図決めに結構苦労します。
 テーブルフォトのように被写体を自由に動かすことができれば良いのですが、自然が相手の場合はそういうわけにもいかず、横1に対して縦2のアスペクト比に収める構図を探すのが思いのほか大変、というのが私の実感です。適当に撮ると、写真の上下に無駄なものがたくさん入っていたり、左右が狭められてとても窮屈な写真に見えてしまったりします。

 例えば、広い風景などでは近景、中景、遠景がうまい具合に配置されると、全体としてまとまりもあり、奥行き感もある写真になるのですが、これがなかなか難しいです。
 また、空間の取り方も難しく、変なところに配置すると無駄な部分がとても目立ってしまいます。
 私が多用しているフィルムは4×5判や67判なので、アスペクト比はおよそ1.2:1(横:縦)ですから、縦長パノラマにこのような戸惑いを感じるのは仕方がないかも知れません。

 4×5判や67判は長年使っているので写し込める範囲が感覚的につかめるのですが、縦長のパノラマは慣れていないせいか、その感覚がイマイチしっくりときません。そのため、6×12サイズのプアマンズフレームを自作して、これを持ち歩きながら、ここはといった場所でフレームをのぞき込んで構図を確認しています。

縦長パノラマ写真(掛け軸写真)の作例

 思うように撮れない掛け軸写真ですが、これまで撮った中から何枚かをご紹介します。いずれも大判カメラに6×12のロールフィルムホルダーを装着しての撮影です。

 まず、1枚目の写真は長野県にある八岳の滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm F32 4s PROVAI100F

 多くの滝は横幅よりも高さの方が大きいので、掛け軸写真にし易い被写体と言えると思います。この滝も高さに比べて横の広がりはあまりないので、この縦長フォーマットにうまい具合に納まってくれました。
 4×5判や67判で撮るともっと横の広がりがあり、滝の周囲の環境が良くわかるのですが、このような縦長フォーマットで撮ると滝が強調され、画全体がシンプルな構成になります。
 また、滝を正面からではなく、向かって左手方向から撮っているので、画の左上から右下にかけての滝のラインが出せており、安定感も出せたのではないかと思っています。

 2枚目も同じく長野県北部にある小菅神社の参道です。

▲WISTA 45SP Schneider APO-SYMMAR 150mm F32 2s PROVAI100F

 参道の両側に大きな杉の木が立っている場所なので、これも掛け軸写真には向いている風景だと思います。杉並木が奥へと続く参道をより狭く感じさせているのと、縦長フォーマットにすることで杉の木の高さも感じられると思います。
 この写真では、できるだけ杉の木の上の方まで入れるため、カメラを上方に振っていますが、そのままだと杉の木の上部が中央に寄ってしまいます。それを防ぐため、フロントライズのアオリをかけています。

 次の写真は、埼玉県で通りがかりに偶然見つけた巨木です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W180mm F22 1/4 PROVAI100F

 木の種類(名前)はわかりませんが、まだ芽吹きの前で、朝焼けのグラデーションの中に綺麗なシルエットとなって立っていました。
 個人的には木の占める割合をもう少し少なくしたかったのが本音です。その方が掛け軸っぽくなるだろうと思います。ちょっと掛け軸写真というイメージからは外れてしまった感じです。

 さて、次の写真は栃木県の宮川渓谷で撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm F32 4s PROVAI100F

 大きな渓谷ではありませんが、奥からS字を描いている流れがとても綺麗です。左端中央あたりの流れが少しちょん切れてしまい、窮屈感が否めませんが、奥行き感はまずますといったところでしょう。もう少しだけ、短焦点のレンズを使った方が良かったかもしれません。
 滝のように高さはないのですが、奥行き感を出せれば掛け軸写真になるという感じです。
 また、手前から奥までパンフォーカスにするため、フロントティルトのアオリをかけています。

 次は、山梨県の河口湖畔から富士山と桜を撮った写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SW90mm F45 1/8 PROVAI100F

 縦長に収めるため、桜の木の真下に入って短焦点(広角)レンズで見上げるようなアングルで撮りました。富士山の占める比率を2割くらいにし、残りの8割は桜で埋めています。もう少し桜のボリュームが欲しかったところですが、そうすると花に陽が当たらず暗くなってしまうので、まばらに咲いている枝を選びました。
 富士山の下の方には河口湖の水面が見えるのですが、建物などの人工物も写ってしまうため、フレーミングから外しました。

 最後の写真は、近所の公園で撮影した桜(フゲンゾウ)のアップです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm F5.6 1/30 PROVAI100F

 この桜は八重咲で、しかも花が大きいのでとても豪華な感じがします。花は淡いピンクで、上品な色合いです。
 このように、数輪の花を縦長のフォーマットに入れると空間がたくさんできてしまいますが、そこに何かを入れるとゴチャゴチャしてしまいますし、なにも入れないと間の抜けた感じになってします。バックには別の枝があるのですが、これを目いっぱいぼかし、形はわからず、色合いだけがわずかに残るようにしました。

 このような構図の時に花の位置をどこにするか、何しろ空間が多いので非常に悩みます。結局、中央より少し下目に置いたのですが、もう少し下の方が掛け軸写真には向いていると感じています。

縦長パノラマ写真(掛け軸写真)はディスプレイにも苦労する

 掛け軸写真でもう一つ苦労するのがディスプレイです。
 ポジ原版をライトボックスで見るだけであったり、パソコンのモニタに映すだけであれば特段問題はないのですが、プリントして額装しようとすると結構大変です。

 まずプリントですが、このようなアスペクト比の用紙などそもそもありませんから、大きな用紙の一部を使うことになります。当然、左右の余白はカットしてしまいますので非常にもったいないです。一枚の用紙に2枚の写真を並べてという方法も考えられますが、それには最低でも半切以上の大きさが欲しいですし、そうなるとプリンタの制限も生じてきます。

 そして、プリントよりも難題なのが額です。
 規格品にはあろうはずもなく、額装するのであれば特注するしかありません。特注すればどのような額でも大概は作ってもらえますが、コストは覚悟しなければなりません。
 市販品の額のマット紙だけを自作、または加工してもらう方法もありますが、マット幅が上下と左右で異なるのは格好良くありません。

 床の間にかける掛け軸のように表装するのもありかと思いましたが、写真に表装は似合わないと思います。

 ちなみに額装するとこんな感じになるのですが、こんな額に入れられるような写真を撮りたいものです。

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 縦長パノラマ写真、掛け軸写真はうまくいくとインパクトのある写真になりますが、時間とお金をかけて額装するほどの写真にするのが難しいというのが正直なところです。
 しかしながら、掛け軸写真はやめられそうもありませんので、これからも細々と続けていこうと思っています。

(2022年3月12日)

#ホースマン #Horseman #パノラマ写真 #リバーサルフィルム #構図

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