私が使っている大判レンズはシュナイダー Schneider とフジノン FUJINON がほとんどで、あとはローデンシュトックが少しと、ニコンや山崎コンゴー、あるいは昔のバレルレンズなどがそれぞれ2~3本ずつといったところです。シュナイダーもフジノンも初期のモデルはほとんど持っておらず、比較的後期に近いモデルが多いのですが、どちらのレンズもカリカリしすぎないシャープネスさや素直な写りが気に入っています。
近年のレンズは性能が拮抗しているのでほとんど見分けがつきませんが、微妙な違いがあるのではないかということで、シュナイダーとフジノンのレンズの写りを比較してみました。
見た目の写りの違いを比較しているだけで、精密な計測をしているわけではありませんのでご承知おきください。
【Table of Contents】
レンズの仕様の違い
ということで、今回、比較対象としたレンズは以下の2本です。
シュナイダー APO-SYMMAR 150mm 1:5.6
フジノン FUJINON W 150mm 1:5.6
この2本のレンズは仕様的にも非常に似通っています。
主な違いですが、レンズ構成はシュナイダー APO-SYMMAR 150mmが4群6枚に対してフジノン FUJINON W 150mmが6群6枚、イメージサークルは220mm(f22)に対して224mm(f22)、フィルター径が58mmに対して55mm、全長が53.8mmに対して57mmといったところでしょうか。
大きさもほとんど同じでコンパクトなレンズですが、フジノンの方がフィルター径が小さいのでこじんまりとした感じに見えます。
どちらのレンズもイメージサークルが220mm以上ありますから、4×5判で通常の風景撮影をするには特に支障はありません。
なお、フジノンの最終モデルであるCM FUJINON 150mmはフィルター径が67mmになったため、ずいぶんと大きくなった感じがします。
また、今回使用した2つのレンズの焦点距離はともに150mmですが、APO-SYMMAR 150mmで被写体にピントを合わせた後、レンズをFUJINON W 150mmに交換するとピントの位置がずれているようで、ほんの僅か(たぶん、1mmの何分の一というくらいの微量)、レンズを引き込む必要がありました。これがレンズの焦点距離のわずかな違いによるものなのか、それともレンズボードの厚みの影響によるものなのかはわかりません。いずれにしても問題になるようなことではありませんが、参考までに。
発色や色調の違い
では、2つのレンズで実際に撮影した写真を比較してみます。
まずは、公園の雑木林を撮影したものです。カメラの位置を固定し、できるだけ時間差を置かずに2つのレンズで撮影しています。1枚目がAPO-SYMMAR 150mm、2枚目がFUJINON W 150mmです。いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っています。
薄曇りの日の撮影なので、比較的フラットな光の状態です。1枚目の撮影と2枚目の撮影の間は1分あるかないかくらいですので、光の状態に大きな違いはないと思われます。
わかり易いように2枚の写真を並べてみます。
左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。
一見、ほとんど同じように見えると思いますが、APO-SYMMAR 150mm(左側)の方がわずかに暖色系になっているのがわかると思います。木々の緑がFUJINON W 150mm(右側)に比べると若干、黄色っぽく感じます。落ち葉や木の幹もAPO-SYMMAR 150mmの方が黄色に寄っているので、ちょっと明るく感じられます。
また、APO-SYMMAR 150mmの方が色乗りがわずかにこってりとした感じに、FUJINON W 150mmの方がわずかにあっさりとした感じに見えます。
もう一枚、桜の写真で比較してみます。
同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。
雑木林の写真と同様に、APO-SYMMAR 150mmの方が暖色系の発色をしています。比べると、桜の花が黄色っぽく感じると思います。
それぞれ単独で見ると区別がつきませんが、こうして並べてみるとわずかな違いがあります。
デジタルカメラでも発色の違いが出るのかということで、大判カメラにアダプタを介してデジタルカメラで桜を撮影してみました。雨上がりで薄日が差している状態です。
同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。
桜の花びらや左端の枝を見るとよくわかりますが、やはり、APO-SYMMAR 150mmの方が黄色っぽい発色になっています。
このような発色の違いはレンズコーティングの違いによるものではないかと思われますが、確証はありません。
かつて、35mm判カメラでCONTAXを使っていたことがあり、CONTAX用のレンズにはドイツ製と日本製があるのですが、ドイツ製のレンズの方が黄色っぽい発色をする印象がありました。レンズ構成などの仕様はまったく同じなので、やはりコーティングの違いではないかと思っていました。
ボケ方の違い
次にボケ方の違いを比較してみました。
まず、フィルムで撮影した桜の写真の一部を拡大したものです。
左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。
左上の葉っぱがわかり易いと思うのですが、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っている感じです。一方、APO-SYMMAR 150mmの方は全体に柔らかくボケている感じがします。焦点距離は同じなのでボケの大きさに違いは感じられませんが、ボケの中の色の変化はAPO-SYMMAR 150mmの方がなだらかな印象です。
デジタルカメラで撮影した桜の写真の部分拡大も比較してみます。
同じく、左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。
やはり、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っているのがわかります。ボケの大きさは変わりませんがAPO-SYMMAR 150mmの方がふわっとした感じに見えるのは輪郭の残り方の違いによるものと思われます。
ただし、このボケ方の違いは拡大することでわかる程度で、写真全体を見た時には大きな違いは感じられません。強いて言えば、FUJINON W 150mmの方がボケの中に芯が残っているように感じられるくらいでしょうか。
わずかな特性の違いはあるが、秀逸なレンズ
発色やボケ方にごくわずかの違いがありますが、比較してわかる程度の差です。比較をすれば好みが分かれるかもしれませんが、写りに関してはよく似ていると思いますし、どちらのレンズがより優れた写りをするかという差も見つけにくいと言ってよいと思います。
解像度の測定などはしていませんが2つのレンズにほとんど差はないと思われ、いずれも素晴らしい写りをするレンズだと思います。
この2本のレンズを使い分けるのは難しいというのが正直なところですが、赤とか黄色の被写体(例えば紅葉など)の場合はAPO-SYMMAR 150mmの方が向いているかも知れませんし、青色系の被写体の場合はFUJINON W 150mmの方がクリアな色になるかも知れません。
しかしながら、写真を1枚だけ見せられても、私にはどちらのレンズで撮影したものなのかという判断はできません。どちらのレンズを使おうが素晴らしい写りをしてくれることは間違いのないことだと思います。
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今回のように同じ被写体をほぼ同じ条件で撮影してみて、ようやく、そのわずかな違いが明確になったという感じです。その違いを知ったからどうということもないのですが、数値的な特性の違いではなく、目で見てわかる特性の違いを知るというのはちょっと興味深いものではあります。
機会があれば他のレンズでも比較してみたいものです。
(2022年4月19日)
とても興味深く拝読いたしました。
Apo-SymmarとFujinonWのこれだけ詳細な比較を初めて見ました。
かなり微妙な差で,どちらが良いかは好みの問題ですね。
確かに色味はシュナイダーが僅かに暖色系で,私はこちらが好みかも。
あと,桜の拡大写真の遠景(右上の茶色の点)をみると,フジノンは全体がボーとボケてますが,アポジンマーは周辺からボケて,中央の芯を残しているように見えます。この芯を残しつつ周囲から蕩けるボケ方も自分の好み。(恐らくアポジンマーは球面収差が弱いアンダー補正と予想します。)
なので自分はシュナイダーが好みです。
後は,Apo-Sironarが気になりますね。
噂よるとローデンのコーティングは独特で「艶のある瑞々しい」描写になるとか。
Mumumusさん
ご覧いただき、ありがとうございます。
わずかな差ですが、比べると微妙に違いますね。
私もボケ方としてはシュナイダーの方が好きです。
レンズをのぞき込むと、ローデンシュトックのコーティングはシュナイダーやフジノンに比べるとあっさりしているようにも見えますが、写りにどの程度の違いがあるのか、一度試してみたいと思います。