カラーリバーサルフィルムを使った撮影時のカラーバランスの崩れ

 フィルムカメラで特にカラーリバーサルフィルムを使って撮影をしていると、光の状態や撮影の条件などでカラーバランスが崩れてしまうことがあります。デジタルカメラのようにホワイトバランスの調整機能があれば便利なのですが、そういうわけにもいかないので、カラーバランスを崩したくないときは補正をかけるなどの対策が必要になります。もちろん、敢えてカラーバランスが崩れたままにしておくこともありますが、補正をするにしてもしないにしても、現像が完了するまでは崩れ具合を確認することはできません。
 カラーバランスの崩れ方はフィルムによって違いがありますが、代表的なカラーバランスの崩れについて触れてみたいと思います。

長時間露光によるカラーバランスの崩れ

 フィルムというのは光が当たることで、表面に塗られている乳剤(感光材料)の中のハロゲン化銀が化学反応を起こすことで像(潜像)がつくられるわけですが、このとき、フィルムにあたる光の量とハロゲン化銀が起こす化学反応の度合いの間には「相反則」という関係があります。簡単に言うと、フィルムにあたる光の量が2倍になれば化学反応の度合いも2倍になるということです。
 カメラの場合、フィルムにあたる光の量というのは絞りとシャッター速度、つまり光が当たる時間によって決まりますが、この時間が極端に短いとか、逆に極端に長い場合はこの相反則が成り立たなくなってしまいます。この現象を「相反則不軌」と言い、これが発生するとカラーバランスが崩れてしまいます。

 相反則不軌が生じる短い時間、および長い時間というのがどれくらいの時間なのか、富士フイルムから公開されているデータシートを見ると以下のように記載されています。

  PROVIA 100F : 1/4000~128秒  補正不要
  Velvia 100F  : 1/4000~1分  補正不要
  Velvia 50  : 1/4000~1秒  補正不要

 また、上記の時間を超える長時間露光の場合は色温度補正フィルター等による補正の方法も記載されていますが、上記の時間よりも短い場合の補正方法に関しては記載されていません。一般的なフィルム一眼レフカメラの最高速シャッター程度では補正するほど顕著には生じないということかもしれません。

 これを見ると、PROVIA 100FやVelvia 100Fでは一般的な撮影条件の範囲において、相反則不軌が起きることはほとんどないと思われますが、Velvia 50の場合は数秒の露光時間でも発生してしまうことになります。
 私が主に使っているフィルムはPROVIA 100FとVelvia 100Fですが、確かに長時間露光をしても相反則不軌が生じたことはほとんどありません。星の撮影などをする場合は補正が必要になると思いますが、私のように一般的な風景撮影の場合は補正不要の範囲内におさまってしまいます。
 一方、ごくまれにVelvia 50を使うことがありますが、こちらは数秒の露光でもカラーバランスが崩れてしまい、数十秒の長時間露光をすると顕著に表れてきます。

 実際にVelvia 50で長時間露光撮影した例がこちらです。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 64s Velvia50

 埼玉県にある三十槌の氷柱で撮影したものですが、早朝のため太陽光が山で遮られており、辺りは日陰になった状態です。露光時間は64秒です。
 カラーバランスが大きく崩れて、全体的にかなり青みがかっているのがわかると思います。氷柱や石の上に積もった雪の影の部分なども青くなっていますし、河原の石も黒というよりは群青色といった感じで、相反則不軌がしっかり生じています。
 このような色合いの方が冷たさや寒さが感じられるという見方もあろうかと思いますが、実際に肉眼で見た印象とはかなり異なっています。
 相反則不軌によって色合いが青になるのは、長時間露光すると赤感光層の感度が大きく低下することが理由のようです。

 富士フイルムのデータシートによると、このカラーバランスの崩れを補正するために下記のようなフィルターの使用を推奨しています。

  PROVIA 100F : 2.5G
  Velvia 100F  : 2.5B
  Velvia 50  : 5M~12.5M

 なお、長時間露光による相反則不軌は全体的に露出が不足しているわけではないので、露光時間を長くしても改善はしません。むしろ増長してしまいます。光の強い箇所(ハイライト部分)は相反則不軌はほとんど起きませんが、光の弱い箇所(シャドー部分)は相反則不軌の度合いが高いため、露光時間を長くするほどコントラストが高まっていきます。

タングステン電球や水銀ランプ等の照明によるカラーバランスの崩れ

 現在、一般に市販されているカラーリバーサルフィルムはすべてデーライト(昼光)用フィルムです。これは昼間の太陽光のもとで撮影するとバランスのとれた綺麗な発色がされるというもので、色温度がおよそ5,500Kで正しい発色をするように作られているようです。
 かつては3,200Kあたりで正しい発色をするタングステンタイプと呼ばれるフィルムも販売されていましたが、ずいぶん昔に廃盤になってしまいました。

 光の色温度が異なれば、その違いは人間の眼でもある程度はわかりますが、フィルムはこれをとても敏感に感じ取ってしまいます。タングステン電球や水銀ランプ、あるいは蛍光灯などの人工照明のもとでデーライトフィルムを使って撮影すると、それらの光の特性の影響をもろに受けます。
 例えば、タングステン電球のもとではオレンジっぽい色に、水銀ランプのもとでは緑っぽい色の写真になります。縁日などの夜景を撮ると全体に赤っぽく写ってしまうのは典型的な例です。

 下の写真は京王線の若葉台車両基地の夜景を撮影したものです(別のページで掲載したものを使用しています)。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F4.5 4s PROVIA100F

 鉄道の施設で使用する照明については細かな決まりがあるらしく、詳しくは知りませんが車両基地やヤードなどでは主に水銀灯が用いられています。車両の入れ替えを安全に行なうため、作業される方が構内の施設物や車両などを確実に認識できるようにということで採用されているようです。
 この水銀灯の光は人間の眼には若干青みがかった白に見えますが、色温度が太陽光よりも低く(だいたい4,500K~5,000Kらしい)、赤色の成分が低いため、デーライトフィルムで撮ると青緑というような色に写ります。肉眼で見たのとは全く違います。
 しかし、これはこれで夜の雰囲気が出ているし、幻想的というのとはちょっと違いますがSFの世界を見ているような、秘密基地を見ているような感じがします。

 人工照明下で撮影した場合、単なる色温度の違いだけでなく色の成分の度合いも違うため、使用されている照明によって全く異なる発色をします。現像するまで発色の状態がわからないという不便さはありますが、予想外の色合いのポジが仕上がってきたときは新たな発見です。

晴天時の日陰におけるカラーバランスの崩れ

 晴天の日中、太陽光が潤沢に降り注いでいるときがデーライトフィルムにとって最も綺麗に発色するというのは上にも書いた通りですが、晴天の日中でも日陰に入ると状況はまったく異なります。
 晴天時の日陰は太陽からの直接の光が遮られるため、上空で乱反射した波長の短い光、すなわち青い成分の光の度合いが高く、それによって青っぽく写るらしいですが、難しい理由はともかく、晴天時の日陰は見た目以上に青く写ります。
 晴天時の日陰の色温度はおよそ7,000~7,500Kらしいので、直接の太陽光と比べるとかなり高い値です。

 晴天時に日陰で撮影するということは少なからずありますが、部分的に日陰になっている程度であればほとんど影響はありません。ただし、撮影している周辺一帯が日陰になっているような場合は影響が大きく、写真は青被りを起こしてしまいます。

 青被りがはっきりと出ている例が下の写真です(別のページで掲載したものを使用しています)。

▲PENTAX 67Ⅱ smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 東京都の御岳渓谷で撮影したものですが、太陽の光が正面の山に遮られており、この一帯は日陰になっている状態です。そして、上空は雲一つない青空です。
 このようなシチュエーションのときが最もカラーバランスが崩れやすく、まるでレンズに青いフィルターでも着けたかのようです。

 同じ青被りでも、長時間露光による相反則不軌が発生した時とは根本的に異なっています。相反則不軌の場合は赤の感光度合いが著しく低下することで青が強く出てしまうような状態になるわけですが、こちらは露光不足ではなく、全体に青い方にシフトしているという感じです。ですので、相反則不軌のようにコントラストが高まるということはありません。

 このようなカラーバランスの崩れは、色温度補正(変換)フィルターを使うことで補正することができます。一般的にはW2とかW4というフィルターをつけることで色温度を下げ、正常なカラーバランスにすることができます。
 色温度補正フィルターは、変換することのできる色温度によって名称がつけられていて、例えば、W2フィルターの場合は20ミレッド、W4フィルターの場合は40ミレッドの変換ができることを示しています。
 色温度変換の詳細についてはここでは触れませんが、ごく簡単にいうと、オリジナルの光源の色温度(K₁)と、フィルターを通った光の色温度(K₂)の関係を表したもので、次のような式になります。

  変換ミレッド = 1/K₂ * 10⁶ - 1/K₁ * 10⁶

 上の式にあてはめると、例えば色温度5,000Kのオリジナル光源が、W2フィルターを通ることで約4,545Kに色温度が下がることになります。

朝夕の撮影時におけるカラーバランスの崩れ

 日の出や日の入りの時間帯の光というのは見た目にも赤っぽいとわかるので、このような光の状態で撮影をすれば赤っぽく写るのはごく当たり前というか、とてもわかり易いと思います。
 しかし、この朝方や夕方の赤っぽく写る現象は人間の眼が感じているよりも長い時間続いていて、日中の光とほとんど変わらないと思っても、実際に撮影してみると赤っぽく色被りをしていたなんていうことはよくあります。
 赤っぽいからこそ朝方や夕方の感じが出るのであって、私の場合、敢えてこれを補正することはあまりありません。むしろ、風景写真などの場合、赤みを強くしたいということの方が多いのですが、時には、被写体や撮影意図によっては赤みを取り除きたいという場合もあります。

 下の写真は小海線の小淵沢大カーブと呼ばれるところで撮影したものです。

▲PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX 200mm 1:4 F16 1/125 PROVIA100F

 全体に赤っぽく色被りをしたようになっています。
 撮影したのは朝です。太陽はだいぶ高い位置まで登っており、肉眼では日中の光とほとんど同じに感じたのですが、実際に撮影してみるとかなり赤みがかってしまいました。

 この程度の赤みを補正するのであれば色温度補正フィルターのC2くらいをつければ、日中の光で撮影したと同じようなカラーバランスになります。補正せずそのままにしておくか、補正して正常なカラーバランスにするかは好みや撮影意図に合わせて選択ということになります。

 ちなみにC2とかC4フィルターはW2やW4フィルターとは逆に、色温度を高い方に変換します。変換の度合いはC2で20ミレッド、C4で40ミレッドです。

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 富士フイルムが異常とも思える値上げを発表したり、MARIXマリックスから新たにリバーサルフィルム(中身はエクタクロームとのことですが)が発売されたりと、日ごろ、リバーサルフィルムを使っている私にとっては心穏やかならぬ6月でした。
 リバーサルをやめなければならない日もそう遠くないのでは、という思いもありながら、買い置きしてあるフィルムであと1年半くらいは持ちこたえられそうなので、あまり外乱に惑わされないようにしようと思ってはいます。しかし、イマイチ、気持ちが晴ればれとしないのも事実です。
 それでも、虎の子のようなフィルムを持っていそいそと撮影に出かけると、この先もフィルムの価格がどんどん上昇して、いずれ購入することができなくなるかも知れないという沈鬱な気持ちもどこへやら吹っ飛んでしまいます。

 光の状態や撮影条件によってカラーバランスが大きく変わるリバーサルフィルムですが、非現実的な発色に出会えたりするのもリバーサルフィルムならではかも知れません。

(2023年6月30日)

#リバーサルフィルム #色温度補正フィルター #カラーバランス #相反則不軌 #Velvia #PROVIA

大判レンズ #3シャッター用の平レンズボードを凸レンズボードに改造する

 私はバレルレンズを数本持っているのですが、これらのレンズを使って大判フィルムで撮影する場合はソロントンシャッターを使用します。とはいえ、これらのレンズを持ち出すのは年に数回といった状態で、ほとんど出番がありません。しかし、ソロントンシャッターは使えるシャッター速度が非常に限定されている、シャッター速度の精度が良くない、撮影までに手間がかかる等々、正直なところ、あまり積極的に使いたいものではありません。
 以前からバレルレンズにシャッターを取付けようと考えていて、大判レンズ用の#3シャッターを探していました。レンズはいらないのでシャッターだけでも手に入れられないかと思っていたのですが、#3シャッターのレンズはそもそも数が少ないうえに高価で、ネットオークションや中古カメラ店などを探しましたがなかなか見つけられずにいました。

フジノンFUJINON のSF250mm 1:5.6レンズをゲット

 先日、偶然立ち寄った新宿の中古カメラ屋さんで#3シャッターのレンズを見つけました。フジノンのソフトフォーカスレンズ、SF250mmです。レンズが少々汚れているということでかなり安い価格設定になっていました。レンズボードはついていないのですが、それを割り引いても格安だったので即購入してきました。
 このレンズはそれほどレアというわけではなく、ネットオークションなどでも時々見かけますが決して安くはありません。私はソフトフォーカスレンズで撮影する頻度は低いので、このレンズも気にはなっていましたが今まで手を出したことはありませんでした。

 今回、運よく安い個体に遭遇できたので、当初は前玉も後玉も外してシャッターだけ使う予定でした。しかし、家に持ち帰って動作を確認したり掃除をしたりしたところ、レンズの状態がとても良いので、シャッターだけを使うのは何だかもったいない気持ちになってきました。いろいろと思い悩んだ末、当初の計画を変更し、このレンズをそのまま使うことにしました。

平レンズボードのままではカメラに取付けられない

 このレンズを大判カメラで使うにはレンズボードを取付けなければなりませんが、あいにく#3のレンズボードの持ち合わせがありません。ジャンク箱を探したところ、#1のリンホフ規格のレンズボードが出てきたので、レンズ取付け穴を広げて使うことにしました。

 しかし、ここで一つ問題があります。
 FUJINON SF250mmについているコパルの#3シャッターはシャッター速度設定リングの外径が約102mmもあり、レンズボードからはみ出す大きさです。しかも、そこにシャッターチャージレバーや絞りレバーが飛び出しています。そのため、平レンズボードに締め付けリングで取り付けただけでは、私が主に使っているリンホフMT45やMT2000、WISTA45 SPなどのカメラではUアームにぶつかってしまい、取り付けることができません。私が持っている大判カメラで唯一、取り付けができるのはタチハラフィルスタンドだけです。
 リンホフやWISTAなどで使うためには凸レンズボードに取付ける必要がありますが、このボードが非常にレアなうえ、ごくまれに中古で出回っていても驚くほど高額です。さすがに、レンズ本体よりもはるかに高額なレンズボードを購入しようという気にはなりません。

平レンズボードを凸レンズボードに改造する

 ということで、ジャンク箱から出てきた#1レンズボードを使って、#3用の凸レンズボードに改造することにしました。
 一般に凸レンズボードというと、レンズボードの表面から筒のようなものが飛び出していて、その先端にレンズを取付ける構造になっていますが、この筒を加工したり取付けたりというのが、満足な工作機械もない状態だととても難しいです。市販のアルミパイプなどで代用しようとしても材料費も結構かかってしまうし、そもそも、ピッタリと寸法が合うものなど、まず存在しません。
 そこで、筒を使うのはあきらめ、スペーサーによってレンズを浮かせる方法で実現することにしました。

 使用するパーツは以下の通りです。

 ・スペーサー : M3 x 20mm 真鍮製 4本
 ・皿小ねじ : M3 x 8mm ステンレス製 8個
 ・ワッシャー : 4mm 8個
 ・ステップアップリング : Φ58mm-Φ72mm 1個
 ・フィルター枠 : Φ58mm 使わなくなったものを流用(下の写真には写っていません)

 購入価格は全部で600円ほどです。

 まずはレンズボードの加工からです。
 #1レンズボードのレンズ取付け穴を直径65mmくらいまで広げます。レーザー加工機でもあればあっという間ですが、そんな便利なものはないのでドリルで穴を開けた後、ヤスリで丹念に仕上げていきます。手作業なので真円に仕上げることは無理ですが、多少の凹凸があっても問題ありませんし、塗装をしてしまえば目立たなくなります。むしろ、真円度よりも穴の位置の方が重要で、出来るだけボードの中心からずれないように注意します。
 取付け穴の内側は耐水ペーパーで滑らかにして、表面には艶消しブラックの塗料を吹き付けておきます。

 #3のシャッターを取り付けられる大きさまで広げたレンズボードがこちらです。

 次に、スペーサーを取付けるためのネジを通す穴を開けます。穴の位置はレンズの締め付けリングをレンズに取付けた後、レンズボードがどの角度になると使い易いかということで決めます。
 また、締め付けリングに開いている4か所のネジ穴と同じ位置にしなければなりません。そのため、レンズボードの位置(角度)が決まったら、締め付けリングと重ねて穴の位置がずれないようします。
 今回はM3のネジを使用するので、3.2mmのドリルで穴を開け、ネジの頭が埋まるように6mmのドリルでザグリ加工をしておきます。レンズボードの板厚は2mmほどしかなく、あまり深くザグリを入れると強度がなくなってしまいます。ネジの頭が埋まってボードの面と同じ高さになれば良いので、ネジをあてながら少しずつ削っていきます。

 スペーサー取付け用のネジ穴加工をしたボードがこちらです。

 私はシャッターチャージレバーを真上に持ってきたかったので、そのような位置関係になる角度にしたところ、ネジ穴の位置がこうなりました。

 これでレンズボーの加工は完了で、あとは組み上げるだけです。
 まず、レンズボードの締め付けリングにスペーサーを取付けます。もともと開いている4か所のネジ穴に皿小ねじを使ってスペーサーを締めつけるだけです。

 これを先ほどのレンズボードに取付けます。
 レンズボードの裏側から皿小ねじでスペーサーを締めつけるだけですが、ザグリ加工をしたところの肉厚が薄くなっているので、レンズボードの強度を保つためにワッシャーをかませます。ワッシャーは若干大きめの方が効果があると思います。私が使ったワッシャーは外径が10mmのものですが、8mmくらいでも問題ないと思います。10mmだとレンズ取付け穴の内側に少しはみ出していますが、レンズの後玉と干渉しなければ構いません。

 組み上げるとこんな感じになります。
 上側にあるのが締め付けリングです。

 反対側(レンズボードの裏側)から見るとこんな感じです。

 この時、皿小ねじの頭とレンズボードの面が平らになっているか確認します。もし、ネジの頭が飛び出しているようでしたらザグリを少し深くする必要があります。

 そして、これをレンズに取付けたのがこちらの写真です。

 スペーサーは市販品を使っているので、レンズの後玉の高さにピッタリと合うというわけにはいきません。そこで、使わなくなったフィルターのガラスを外し、枠だけを後玉にはめ込んでいます。これで後玉とレンズボードの裏面の高さがほぼ同じになります。
 レンズボード裏面と後玉(フィルター枠)後端の高さが同じか、もしくは、レンズボード裏面の方が1mmほど高い状態であれば問題ありませんが、逆にレンズボード裏面の方が低いようであれば、ワッシャーをもう1枚追加するなどして調整します。

 さて、上の写真でもわかると思いますが、まだこの状態ではレンズの後玉とレンズボードの取付け穴の間に隙間ができています。このままではカメラに取付けても、この隙間から光が入り込んでしまい使い物になりません。
 そこで、この隙間を埋めるために後玉の後端にステップアップリングをはめ込みます。

 実際にステップアップリングを取付けたのがこちらの写真です。

 ステップアップリングのサイズは、リンホフ規格のレンズボードの裏面にある円形の突起の内側に嵌まる大きさということでΦ58mm-Φ72mmを採用しています(Φ58mmというのはこのレンズの後玉のネジ径です)。
 これでレンズボードとレンズ後玉の隙間からの光線漏れを防ぐことができます。レンズボード裏面が後玉後端と同じか、もしくは若干高くしておく必要があるのはこのためです。念のため、LEDライトで確認してみましたが光線漏れはありませんでした。
 もし、これでも心配なようであれば、ステップアップリングとレンズボード裏側の円形突起の間にモルトなどを貼れば完璧だと思います。

 以上で凸レンズボードへの改造が完了です。

 見てくれはあまりよくありませんが、レンズボード面から約20mm浮き上がった状態になっています。これでリンホフMT45やWISTA45 SPにも問題なく取付けることができます。
 ちなみに、正規の凸レンズボードに比べて若干軽く仕上がっています。

 レンズによって後玉の長さが異なるので、この改造レンズボードをそのまま他のレンズに使うことはできませんが、スペーサーの長さなどを調整すれば使用可能になります。

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 まだこのレンズを使って撮影をしてないので、光線漏れなどの問題がなく写るかどうかは未確認ですが、格安で購入したレンズの動作確認も含めて、近いうちに撮影してみようと思います。
 また、今回は#3シャッターを使用するということで改造しましたが、#0や#1のレンズボードのフランジバックを延ばすために同じような改造で対応することも可能と思われます。

 なお、当初計画していたバレルレンズへのシャッターの取付けについてはあらためて検討をしたいと思っています。実は、どのような構造にするか、どのようにバレルレンズに取付けるか模索中なのですが、いずれにしても#3のシャッターが手に入るかどうかにかかっていますので、運良く手に入れることができたら計画を進めたいと思います。

(2023.6.13)

#フジノン #FUJINON

奥入瀬渓流の初夏 色めく新緑と千変万化の流れ

 5月の中旬から末にかけて青森・岩手方面に撮影に行ってきました。今年は全国的に桜の開花が早かったですが、やはり、季節の進み方も例年に比べて早い感じがします。それでも八甲田山の上の方にはまだ雪が残っていて、十和田湖の周囲など標高の少し高いところに行くと木々の葉っぱはまだ淡い黄緑色をしていました。
 奥入瀬渓流一帯の標高は300~400mほどらしいので芽吹きの時期はとうに過ぎていますが、鮮やかな新緑が見ごろを迎えていて、清々しいという表現がピッタリの季節感です。6月に入ると緑は日増しに濃くなっていくので、5月の下旬ごろがいちばん鮮やかな緑を見ることができる時期かも知れません。

 今回は、子ノ口から焼山までおよそ14kmに渡って続いている奥入瀬渓流のうち、主に中流域と上流域で撮影をしてきました。

自然の造形美が連なる瀬

 奥入瀬渓流は上流域、中流域、下流域とでずいぶんと景観が異なっていますが、最も流れに変化が見られるのは中流域だと思います。概ね、奥入瀬バイパスとの分岐あたりから、雲井の流れあたりまでの6kmほどの範囲を中流域と呼んでいるようです。
 奥入瀬渓流に流れる水は十和田湖から流れ出ていますが、子ノ口にある水門で流れ出る水量を調節しています。朝7時ごろに水門が開かれるらしく、それよりも早い時間帯に行くと水量が少ししかありません。そして、7時を過ぎると渓流に流れる水量が急激に増えていきます。それまで川底が出ていたようなところもたちまち水底になり、奥入瀬らしい景色に変わります。

 奥入瀬渓流のほぼ中間に石ヶ戸と呼ばれる場所があります。駐車場や休憩所があって、いちばん人出で賑わう場所ですが、そこから500mほど下った場所にあるのが三乱(さみだれ)の流れです。三つに分かれた流れが再び合流することからこの名前がつけられたようです。
 流れも綺麗ですが、今の時期はツツジが咲いていて、個人的にはいちばん奥入瀬を感じる場所の一つだと思っています。車道から見下ろせる位置にあり、路肩に車を停めて見入っている人もたくさんいます。

 下の写真は道路脇からツツジと流れを入れて撮影した1枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F32+1/3 5s Velvia100F

 この辺りは奥入瀬渓流のなかでも最もたくさんのツツジを見ることができる場所です。対岸にあるツツジの中でいちばん花付きの良い樹が入る場所を選んで撮りました。種類はヤマツツジだと思うのですが、ここのヤマツツジの花色はピンクに近い色をしています。
 川の水深は30cmほどではないかと思うのですが、岩の上をすべるように流れていて、いたるところにある岩の凹凸によって変化のある流れが生まれています。

 この写真は焦点距離210mmのレンズで撮っています。フィルムは4×5判ですので画角は35mm判カメラの60mmくらいの焦点距離のレンズに相当します。標準と中望遠の中間くらい焦点距離なのであまり広い範囲は写りませんが、ツツジと流れを強調しようという意図でこのレンズを使っています。
 被写界深度は深くないので、手前の岩から奥のツツジまで前面にピントを合わせるため、カメラのフロント部のアオリをかけています。

 流れの柔らかさを出しつつも表情(変化)が消えてしまわないようにということで、露光時間は5秒にしています。5秒というとわずかな風で葉っぱがブレてしまうには十分すぎる時間ですが、ほぼ無風状態だったのでほとんどブレがわからないくらいに写ってくれました。
 また、早朝の感じが損なわれないように、露出は若干切り詰め気味にしています。

 三乱の流れから少し上流に行くと石ヶ戸の瀬と呼ばれる場所があります。三乱の流れに比べて傾斜があり、川幅も狭いので流れに激しさがあります。川中に大きな岩がゴロゴロしていてその間を縫うように流れているので、立つ場所が少し違うだけで見える景色はずいぶんと異なります。奥入瀬渓流でいちばん撮影ポイントが多い一帯かも知れません。

 この一帯はツツジよりもタニウツギが多く見られます。タニウツギはツツジに比べるとずいぶん小さな花で地味な感じですが、花数が多いので新緑に色どりを添えてくれています。

 石ヶ戸の瀬の上流に近い場所で撮影した一枚が下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F22+1/2 2s Velvia100F

 左上にある大きな岩の後方から流れて来ているのが良くわかるポジションから撮りました。画の中央奥から左に、そして右に流れていくように変化をつけてみました。流れの面積が大きくなりすぎないように、適度に岩や草を配置しました。
 森の上の方は木々の密度が低く、かなり明るい状態になっていて、そこが画に入ってくると全体的に軽い感じになってしまうのでその部分はフレームアウトしています。
 また、川中の岩の上にタニウツギが咲いていて、大きな木ではありませんがしっかりと点景になってくれました。

 流れが作り出す波が真っ白に飛びきってしまわないギリギリのところ、そして、背後の森が明るくなりすぎないところで露出を決めています。
 この写真も1枚目と同じようにフロント部でアオリをかけています。

優美さと豪快さが融合した滝

 奥入瀬渓流で滝が多く見られるのは上流域です。上流域になると本流の流れは中流域に比べて単調な感じになりますが、川の両側が切り立った崖になっていて、そこに幾筋もの滝を見ることができます。、落差の大きな滝は見応えが十分にあります。いくつかの滝を除いては近くまで行くことができないので、この季節は木々の葉っぱの合間から見るような状態です。

 そんな滝の中で滝つぼの前まで行くことのできるのがこの雲井の滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 180mm 1:5.6 F45 4s Velvia100F

 落差は25mほどあるらしいですが、三段になって流れ落ちていて、水量も多いので迫力があります。風向きにもよりますが、滝つぼの前まで行かなくても近づいただけで飛沫の洗礼を受けます。
 近づきすぎると滝の上部が見えなくなってしまうので、全景を撮るのであれば飛沫のかからない辺りまで引いて撮影することになります。
 また、この滝は上の2段は右岸側に、下の段はわずかに左岸を向いて落ちているので、直瀑に比べるといろいろなバリエーションで撮ることができます。

 この写真は滝つぼまで20~30mの位置から撮っていますが、焦点距離180mmのレンズを使っているのでカメラを上に向けています。そのため、そのままでは滝の上部が小さくなり迫力がなくなってしまうのでフロント部のライズアオリをかけています。

 雲井の滝は車道からすぐのところにあるのでアクセスも良くて訪れる人も多いですが、ここから上流に行くと人の数はぐっと減ります。滝の見えるところでは車や観光バスが停まっていたりしますが、上流にある銚子大滝までの間、遊歩道を歩いている人はまばらになります。

 その銚子大滝は本流にかかる唯一の滝で、落差約7m、幅はおよそ20mもある豪快な滝です。6月ごろはいちばん水量の多い時期で、滝からかなり離れても飛沫を浴びます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F22 6s Velvia100F

 この写真を撮ったのは雨が降り出しそうに曇った日の早朝で、辺りはかなり薄暗い状況です。滝の周囲を暗く落とし、秘境っぽい感じを出そうと思って撮りました(実際にはすぐ近くに駐車場があり、全く秘境らしくないのですが)。
 画手前(下側)の倒木の上に生えている植物はシルエット気味に写し込みたかったのですが、8秒という露光時間のため、ブレが目立ってしまいました。また、あちこちで木の葉もブレています。

 早朝は訪れる人もほとんどなく、ゆっくり撮影することができます。日中、大型観光バスが着くとどっと人が降りてきて、つかの間、滝の周辺はとても賑わいますが、バスが行ってしまうと滝の音だけが聞こえる空間に戻ります。

岩上に根を下ろした植物たち

 奥入瀬渓流は流れと岩や植物によってつくられる造形美が魅力ですが、そんな景色をつくり出しているのに欠かせないのが岩上の植物です。
 奥入瀬渓流は火山活動によって形成された火砕流台地だったらしいのですが、数万年前に十和田湖の子ノ口が決壊し、大洪水が発生して侵食されたという生い立ちがあるようです。そのため、渓流の中には大小たくさんの岩が転がっていて、その上に植物が根を下ろした光景はとても風情があります。中には大木にまで育っているものもありますが、シダなどの野草類が自生している姿にはつい立ち止まり見入ってしまいます。

 下の写真は流れがとても穏やかなところで見つけたものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F16 1s Velvia100F

 生えているのは主にフキだと思いますが、下の方にはカエデのような形をした葉っぱも見られます。周囲は深い緑に囲まれているため、それが水面に映り込んで全体が黄緑色に染まっています。
 上流から流れてきたと思われるのですが、川底にひっかかって先の方だけが水面に出ている木の枝があり、これがとても良いアクセントになってくれました。背景の木々の映り込みだけでは単調になってしまいがちですが、この枝のおかげで川面に波がつくられ、動きが感じられます。
 露光時間が長すぎて水面が白くなってしまわないように、また、適度に流れが感じられるようにということで1秒の露光をしています。

 フキの葉っぱが反射で白くなっているところがあります。これを取り除こうと思いPLフィルターを弱くかけてみましたが、全体がベッタリとした感じになってしまうのと、水面の反射も弱くなってしまうので、結局、使うのをやめました。

 もう一枚、前の写真とは反対に流れの激しいところで撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F11+1/3 1/4 Velvia100F

 ウマノミツバではないかと思うのですが違うかも知れません。奥入瀬の岩上植物ではいちばん多いのではないかと思えるほどよく見かけます。三つ葉のような形をした葉っぱがとても涼しげです。
 白波を立てている流れに対して、微動だにしない野草の凛とした感じを出したくて撮った一枚ですが、背景はぼかし過ぎず、この場の環境が良くわかる程度にぼかしました。大雨などで水量が増えれば流されてしまいそうなところに根を下ろした偶然。しかし、そんな杞憂はまったく関係ない、今を力の限り生きている姿に感動します。

悠久の時を経た手つかずの森

 奥入瀬の渓流沿いを歩いていると、両側に広がる森の植生が場所によって異なっているのがわかります。下流域は比較的明るい感じのする森ですが、上流域に行くにしたがって原始の森といった雰囲気が漂ってきます。林床はシダで覆われ、岩や倒木にはびっしりと苔が生えていて、恐竜が出てきそうな様相です。
 木が倒れたりしても、それが道路などにかかってさえいなければ一切手を加えられることはなく、自然の営みに任された森といった感じです。

 銚子大滝から少し下った森の中に、ゾウが歩いている姿にそっくりな大きな岩があります。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F11+1/2 1s Velvia100F

 岩の上に木が倒れていて、それがまるでゾウの鼻のように見えます。ゾウの正面(写真では左方向)の方に行くとゾウには見えないのですが、この写真の位置から見ると、鼻を持ち上げたゾウがゆっくりと向こうに歩いて行っているように見えます。この倒木がいつからこのような状態になったのかは知りませんが、自然というのは時に面白いものを見せてくれます。
 奥深い森の感じを出すために、手前にできるだけたくさんのシダを入れてみました。そして、露出はアンダー気味にしています。

 春の山菜としても有名なゼンマイや、少し森に入れば普通に見ることができるオシダなど、シダの仲間の風貌は独特で、それが生えているだけで太古の森といった感じがします。シダの仲間は種子を持たず胞子で増えるというのを小学校の理科の授業で教えてもらったときに、ちょっと不気味な印象を持った記憶がありますが、それを今でも引きずっていてそんな風に感じるのかも知れません。ですが、今はとても魅力のある被写体だと感じています。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F5.6 1/125 Velvia100F

 上の写真は苔むした樹の幹とシダの取り合わせが面白いと感じて撮った1枚です。
 背後は川ですが大半を幹で隠し、ちょっとだけ見えるようにしました。絞りは開放にして背景はできるだけぼかしています。
 雲が切れて森の中に光が差し込んでおり、画全体が緑被りしているように見えます。深い森の新緑の季節ならではの光の演出といった感じがします。

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 コロナがだいぶ落ち着いてきたからなのか、今年の奥入瀬の人出は少し増えたように感じました。とはいえ、人気のポイント以外のところは人の数も少なく、静かなたたずまいです。
 今回、主に中流域と上流域を撮影しましたが、片道およそ9kmあります。散策するだけなら1日でも十分ですが、撮影しながらだととても1日では回りきることができません。天気は毎日変わるので、昨日撮影した場所に今日行くと全く別の景色に見えたりして、なかなか前に進めません。同じ場所であっても毎回違った発見があるということなので、それはそれで良しとしておきますが、一方でまだ撮影できていない場所もたくさんあります。

 なお、余談ですが、今回の撮影行でクマを2度見かけました(奥入瀬ではありません)。いずれもかなり離れていたので恐怖感はありませんでしたが、今年は各地でクマの出没が多いようです。

(2023年6月8日)

#奥入瀬渓流 #新緑 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

なぜフィルム写真に心がときめくのか? 不思議な魅力を持ったフィルムという存在

 写真フィルムの出荷量がピークだったと言われている西暦2000年から23年が経過し、その量は1/100にまで減少したというデータもあるようですが正確なところは良くわかりません。しかし、減少していることは間違いのないことだと思われ、フィルム価格の相次ぐ値上げや製品の生産終了などを受け、フィルム写真を断念してしまう人も多いという話しも聞きます。
 ネット上のいろいろなサイトを拝見すると、いまどきフィルム写真をやるなんて何の意味があるのかとか、愚の骨頂とか書かれている記事もたくさんありますが、私はいまだにフィルム写真をやめられずにいます。今の時代からすると化石のような存在かも知れません。

 デジタルカメラやデジタル写真の進歩にはすさまじいものがあります。しかし、フィルム写真と比較するようなものでもないし、また、比較しても特段意味があるとも思えませんが、解像度や見た目の綺麗さなどではデジタルの方がはるかに勝っていると思えることもたくさんあります。また、フィルムカメラではとても難しいとか、たぶん無理と思えるようなもの(被写体)であっても、今のデジタルカメラであれば容易に写すことができるということがたくさんあります。

 私が住んでいる近くに大きな公園があり、そこにオオタカが営巣している木があります。時どき、散歩がてらその木の近くを通ることがありますが、たくさんの人がまるでバズーカ砲のようなレンズを装着したカメラを三脚に据えて、全員が同じ方向を向けて撮影をしている光景を見ることができます。
 私は野鳥を撮るようなことはありませんし、そのような機材も持ち合わせていないので、皆さんの邪魔にならないように後ろの方に立ってレンズが向いている方向の木の上に目を凝らし、肉眼でオオタカの姿を探しています。
 オオタカに限らず野鳥というのは常に我々の目の前に姿を現してくれるわけではないし、運よく飛んできても長居はしてくれないので撮影チャンスはごく短い時間に限られてしまいます。私などは鳥の姿が見えなければ10分もしないうちに飽きてしまいますが、野鳥を撮られる方は何時間でもじっとチャンスを待っています。そう考えると、野鳥撮影をする皆さんの忍耐力には頭が下がります。
 そして、待ちに待ったオオタカが姿を現すと一斉にシャッターが切られ、その音があたりに響き渡ります。しかも、1秒間に10コマ以上は切られているのではないかと思えるほどの高速連射です。
 このような写真は私が持っている半世紀も前のフィルムカメラでは絶対に撮れません。まさにデジタルカメラならではです。

 野鳥の撮影は一つの例ですが、そんなデジタルカメラの凄さや便利さを承知しながらも、私はフィルム写真から離れられずにいます。
 では、なぜフィルム写真に拘っているのかと問われても、正直なところ、うまく答えを返すことができません。それは、理由が一つではないこともありますし、言葉でうまく表現できないということもあります。

 私が使用しているフィルムの7~8割はカラーリバーサルフィルムです。リバーサルフィルムはネガフィルムと違い、現像が上がった時点で完成となります。ですので、現像後のポジをライトボックスで観賞できるわけですが、これが最高に美しいと思っています。
 昔はポジ原版から直接プリントするダイレクトプリントと呼ばれるサービスもありましたし、今はスキャナで読み込んでプリントすることも出来ます。しかし、どんなに熟練したプロの職人さんがプリントしたものであっても、ライトボックス上の透過光で見た時の美しさにはかないません。また、プリントした写真よりもポジ原版を直接見た方がはるかに立体感のある写真、そして透明感のある写真に見えます。
 私が初めてリバーサルフィルムで撮影したのは今から何十年も前のことですが、初めてポジ原版を見た時の感動は忘れることがなく、今もポジ原版を見ると胸が高鳴ります。
 実際には常にポジ原版を鑑賞しているなんていうことはなく、プリントしたものを額装しているわけですが、見ようと思えばいつでもライトボックス上でポジを鑑賞できるということは何ものにも代えがたい魅力であることは間違いありません。

 では、モノクロネガフィルムの場合はどうかというと、もちろん、リバーサル現像でもしない限りは白黒が反転したネガ原版ですから、ライトボックス上で見てもリバーサルフィルムのように完成形を見ることはできません。しかし、立体感のようなものはネガ原版であっても十分に感じられますし、白黒反転していても脳がさらにそれを反転してくれるというか、普通に肉眼で見た時と同じように感じられるから不思議です。

 そして、カラーリバーサルにしてもモノクロネガにしても、フィルムという物理的な媒体を直接見るとまるでその場にいるかのような錯覚を憶えます。臨場感というのともちょっと違うのですが、撮影した空間をそっくりそのまま持ってきたという感じです。これもプリントしたものやパソコンのモニタに映した画像では味わえない感覚です。

 フィルム写真は、デジタルカメラのように撮影したその場で出来具合を確認するということはできません。これは、デジタルカメラに慣れてしまうと何とも不便なことに思えるかもしれませんが、シャッターを切った瞬間に自分の思い描いた映像がフィルムに記録されているかと思うと、ワクワクともドキドキともつかない不思議な感覚に包まれます。常に思い通りに撮れるわけではなく、予想に反した写真になってしまうこともあるわけですが、それも含めたワクワクやドキドキだと思います。
 失敗したら高いフィルムが1枚無駄になってしまうということもありますが、何よりも、今と同じ写真は二度と撮ることができないという緊張感のようなものが高揚感となって頭を持ち上げてくるように思います。特に自然相手の風景写真の場合、明日、また同じ場所に来ても同じ写真は絶対に撮れないわけで、余計にそれが強いのかもしれません。
 デジタルカメラのように、撮ったその場で確認できればどんなに便利かと思うこともありますが、現像が上がるまでの間、出来具合をあれこれ思いめぐらす時間、焦らされるような時間があるというのもフィルムならではです。
 二度と同じ写真が撮れないのであれば、失敗してもすぐに撮り直しのきくデジタルカメラの方に100%の分があるというのは承知しているのですが、フィルムに記録されるという物理的な現象には媚薬のような効き目があり、これに抗うことはできません。
 以前、この話を友人にしたところ、「お前、変わってるな」と言われたことがありました。自分ではそんなに変わっているとは思っていないのですが...

 フィルムの価格が今のように高額でないときはカラーリバーサルフィルムの現像も自分で行なうこともありました。しかし、なかなか発色が思うようにいかず、いまはプロラボに依頼をしています。一方、モノクロフィルムは自分で現像していますが、リバーサルにしてもネガにしても、現像工程を終えて現像タンクからフィルムを取り出したときに像が形成されているのを見るとやはり感激します。無から有が生成されるマジックを見ているような感じで、しっかりと説明のつく化学変化だとわかってはいても感動の瞬間です。
 撮影の時にイメージしたものがしばらくの時間をおいた後、像となって表われ、それを手に取ることができる不思議な感覚、私にとって心をときめかせるには十分すぎる事象だと思っています。

 さて、上でも書いたように、最近のデジタルカメラは驚くほど高精細で綺麗な写真が撮れます。写真は解像度がすべてではないと思いますが、それでも高解像度で綺麗であることを否定する理由は何もありません。そのようなデジタルカメラで撮った高解像度の写真に比べると、フィルム写真はちょっとざらついた感じがします。整然と並んだ撮像素子と、ランダムに配置された乳剤粒子(ハロゲン化銀粒子)の違いによるものが主な理由だと思いますが、私はフィルムのちょっとざらついた感じが好きです。

 ざらついていると言ってもかなり拡大しないとわからないので、デジタルカメラとフィルムカメラそれぞれで、同じ被写体を同じレンズを使って、同じ位置関係で撮影してたものを比較してみます。
 私が1台だけ持っているデジタルカメラはだいぶ前のもので、撮像素子はAPS-Cサイズ、約1,600万画素という、今ではかなり見劣りのするカメラです。そして、比較用に使ったのは中判のPENTAX67です。これらのカメラにPENTAX67用の135mmレンズを装着し、同じ位置から同じ被写体(桜)を撮影しました。
 そして、67判のポジ原版をデジタルカメラの1画素とほぼ同じ大きさになるような解像度(約5,420dpi)でスキャンします。写る範囲が67判の方が圧倒的に広いので、その画像データからデジタルカメラで撮影できるのとほぼ同じ範囲を切り出してみました。

 1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出したものです。

▲デジタルカメラで撮影
▲フィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出し

 画像処理のアルゴリズムなどの影響を受けていると思いますので2枚の写真に色調の違いはありますが、それを無視してもこうして比較すると、デジタルカメラで撮影した写真の方が滑らかな感じがすると思います。

 では、拡大してみるとどうかということで、画中央のまだ開ききっていない花の辺りを拡大したものが下の写真です。同じく1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影したものです。

▲部分拡大 デジタルカメラ
▲部分拡大 フィルムカメラ

 明らかに違いが判ると思います。デジタルカメラ(1枚目)の方が全体に滑らかで、細部までくっきりと描写されているのがわかります。
 一方、フィルム(2枚目)の方は全体的にざらついた感じがしますが、これはフィルムに塗布された色ごとの乳剤粒子が重なっているため、それによって複雑な色の組合せが生まれていることが理由だと思われます。デジタルに比べてはるかにたくさんの色数が表現されていますが、これがざらついた感じに見えるのだと思います。
 デジタルの撮像素子とフィルムの性能比較をするつもりはなく、生成される画の違いを見ていただければと思います。

 ざらついていると言っても、中判フィルムから全紙くらいの大きさに引き伸ばしプリントした程度ではざらつきはほとんど感じられません。超高感度のフィルムを使ったときの粒子の粗さによるざらつきとは全く別物で、豊かな色調からなる画の奥深さのようなものを感じます。 
 個人的にはこのフィルムのざらついた感じが好きで、それがフィルムの魅力の一つでもあります。

 このように、私はいろいろなところでフィルムの魅力を感じていて、しかも、それらが相乗効果で押し寄せてくるので、そう簡単にフィルムに踏ん切りをつけることができないというのが正直なところです。もちろん、フィルム価格や現像料の高騰は大打撃ですが、ごくごく些細な工夫をしながらでも、フィルムを使い続けたいという気持ちがあります。
 私はフィルムと日本酒の保管専用に小型の冷蔵庫を使っていますが、扉を開けた時にフィルムと日本酒が並んでいるのを見ると幸せな気持ちになります(なぜ、フィルムと日本酒が同居しているのかという突っ込みはしないでください)。使用前のフィルムのパッケージを眺めていると、それだけでどこかに出かけて撮影しているときの映像が頭の中に浮かんできます。まるで、うなぎを焼くときの煙でご飯を食べることができるおっさんみたいですが、私にとってはそれくらい魅力的な存在です。

 現在、冷蔵庫に保管されているフィルムは1年~1年半ほどで使い切ってしまいそうな量です。今の品薄状態と高額には閉口しますが、切らさないように何とか補充し続けていきたいと思っています。

(2023.6.5)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #リバーサルフィルム #ライトボックス