2022年の暮れの、リコーイメージングが新しいフィルムカメラ開発のプロジェクトを立ち上げたというニュースから1年半以上が経過し、つい最近、いよいよそのカメラが市場に出てくるという発表がありました。途中、新しいカメラはハーフサイズになるだろうというアナウンスがあったりして、どんなカメラに仕上がるのだろうと興味津々でありましたが、ようやくその画像や映像を目にすることができました。
フィルムカメラやフィルム写真が斜陽の時代において、新しいフィルムカメラを世に送り出すというリコーイメージングの取り組みには驚かされましたが、私なりに感じたり思ったりしたことを書いてみたいと思います。
なお、新しいカメラ、PENTAX 17の機能や仕様等について解説するページではありませんので、予めご承知おきください。
新しいフィルムカメラの開発プロジェクトを立ち上げるというニュースを聞いたときは、ぜひ頑張ってほしいという気持ちと、本当にそんなことをやるのかという疑念にも近い気持ちが混ぜこぜになったような不思議な感覚でしたが、メーカーからのプロジェクトの途中経過などを聞くにつけ、いつ出てくるのだろうというワクワクした気持ちに変わっていったというのが正直なところです。
最初、私の頭の中ではPENTAX SPとかPENTAX K2とか、かつてのマニュアル一眼レフカメラの映像しか思い浮かばなかったのですが、ハーフサイズカメラにするという発表を聞いてから、新しいカメラの映像はまったく思い浮かばなくなってしまいました。私には想像ができなかったということです。
また、私は子供のころにオリンパス・ペンSというハーフサイズカメラを使っていたことがあり、ハーフサイズカメラというとそのイメージが強いのですが、PENTAXブランドで出す以上、全く違うカメラになるのだろうと感じていました。
そして先日、正式に発表されたPENTAX 17というカメラの画像を見て、改めて複雑な気持ちになりました。
カメラに限らず製品のデザインというのはとても重要な要素であり、好みというのは人それぞれで、気に入る人もいればそうでない人もいるのは当たり前のことですが、私の第一印象はというと、かつてのPENTAXのデザインを踏襲しつつ、新しいデザインを取り入れているというのが感じられ、うまく表現できないのですが、「ビミョー」というのが正直なところでした。デザイン的には決してどんくさいとかダサいということはなく、むしろ洗練されたセンスの良さを感じるし、画像を見ただけですがとても丁寧に作られているという印象を受けました。かつてのフィルムカメラに見られたような落ち着いた、そして高級感のあるフォルムやデザイン、コンパクトなサイズ等々、魅力に感じる点もたくさんありました。
ではなぜ「ビミョー」と感じたかというと、多分、これまでになかったデザインのカメラを素直に受け入れる器が私にはなかったということだろうと思います。率直に言うと、私には少しばかり違和感の残るデザインということです。しかしながら、時間が経てばその違和感のようなものも薄れていくかも知れません。
このカメラ、こだわりを持って作られたことが感じられる箇所が随所にあって、中でも私がいちばんほほえましく感じたのは、ファインダーの上部に刻印された「AOCO」マークです。このマークはPENTAXブランドがリコーになる前、旭光学時代に用いられていたもので、旭光学株式会社の英語表記の頭文字を、ペンタプリズムを模した6角形の中に配置しています。詳しいことはわかりませんが、1970年代後半くらいからこのマークは使用されなくなっています。私が愛用しているPENTAX 67にもこのマークが入っていますが、PENTAX 67Ⅱには使われていません。
それを今回、あえてこのマークを採用したところにPENTAXブランドに対する誇りのようなものを感じました。会社がリコーになっているにも関わらず、です。
そして、ちょっと驚いたのがこのカメラの価格です。メーカー希望小売価格が107,000円(税別)、リコーイメージングストアでの直販価格だと88,000円(税込)と25%ほど安くなりますが、それでも高価なカメラだと感じました。
しかし、よくよく考えてみると、一から設計し、何度も試作を繰り返し、これだけ素晴らしく仕上がった製品を88,000円で販売して採算がとれるのかとも思ってしまいます。もちろん、私はこのカメラの開発費や製造原価率も知りませんし、メーカーが想定している販売台数も知りませんが、このカメラ単独でこれまでの開発費も含めてすべて回収するとなると、かなりの台数を販売しなければならないことは想像に難くありません。それが1万台なのか10万台なのか、はたまた100万台なのか、私にはわかりませんし、もしかしたらメーカーは、この機種単独での回収は考えていないのかも知れません。
そういったようなことにまで思いを馳せると、88,000円という価格が決して高いとは思えなくなってきます。
一方で、このカメラの開発コンセプトとして、フィルムカメラを使ってみたい若い世代の人も対象にしているとか、スマホで写真を撮ることに慣れている人でも使い易いような縦型配置で、かつ、昨今のフィルム価格の高騰を鑑みて、少しでも1枚当たりのコストを落とすためにハーフサイズにしたということがあるとのことですが、特に若い年代層にとって88,000円は決して安い金額ではないと思います。
このカメラの発売は7月半ばのようですが、すでに予約受付が終了しているところもあるようで、もしかするとメーカーが想定していたよりも売れ行きが好調なのかも知れません。そして、どのような人が予約をしたのか、とても興味があるところです。メーカーの思惑通り、若い年代の人たちがたくさん予約をしてくれているとしたら、メーカー側の人間でない私でもちょっとうれしい気持ちになります。
また、せっかく高いお金を払ってフィルムカメラを購入したのであれば、そのカメラにフィルムを入れて実際に撮影しようとするのは当たり前のことで、これが一種の起爆剤のようになって、たとえわずかでもフィルムの需要が上がってくれることを期待せずにはいられません。36枚撮りフィルムを1本入れれば72枚の撮影ができるわけで、スマホのようにバシバシと撮るわけではないでしょうから、高いフィルムをそう頻繁に購入するということもないかも知れません。それでも、フィルムを購入してくれる人が増えれば、今のこの危機的状況が改善はしなくとも、さらに悪化することは防げるかも知れません。
そして、フィルムの場合は必ず現像が必要になるので、自分で現像を行なう人もいるでしょうが、多くの人は写真店にフィルムを持ち込むなり送るなりして現像をしてもらうことになります。当然、現像液などの薬品等の需要も増えるわけです。
昔と違って今は写真もプリントせず、データ化してしまうことが多いと思いますが、もしかしたら、かつての同時プリントのようにサービス版とかL版というサイズにプリントする人も増えるかもしれません。プリントされたものを実際に手に取って見るというのは、パソコンやスマホの画面で見るのとはまた違った魅力があると思います。
このように考えると、1台のフィルムカメラが市場に出ることでその影響がいろいろなところに波及していくことになるので、フィルム写真というカテゴリー全体が、わずかながらでも活性化していくことが期待できます。
往年の名器といわれる「PENTAX SP」は全世界で400万台も売れたそうですが、それは別次元の実績としてそこまでの期待はないにしても、このカメラが世の中にじわじわと浸透していって欲しいと思うのは私だけではないと思います。
新しい工業製品を世に送り出す時には膨大なコスト、すなわち投資が必要なので、それらを回収するためにシリーズ化して後継機種を出していくのが一般的なやり方ですが、リコーイメージングは次の機種の発売について、現時点では全くの未知数だと言っています。
ですが、数年後にPENTAX 17の後継機種、例えば、PENTAX 17Ⅱとかいうカメラが発売されたり、あるいは今回のようなハーフサイズではなく、35㎜判の一眼レフカメラや中判カメラが新たに発売されたりする可能性もゼロではないわけで、もしそれが実現したら、まさに奇跡のように思えます。
リコーイメージングという会社が利潤追求だけでこのカメラをつくったとは到底思えません。企業の利益だけを考えれば、このような事業はやらないと思います。企業にとって利益を出すことは絶対条件ですが、加えて、これまで蓄積されてきた技術や文化を途絶えさせることなく継承していくという価値観というか、使命感によるものではないかと、素人ながらに思わずにはいられません。
せっかくの、そして久しぶりの明るい話題に水を差すつもりはありませんが、フィルム製造には欠かせない銀が高騰し続けているとか、フィルムをほとんど海外から調達している現状において、今の円安は非常に大きな打撃になっているとか、フィルム写真の拡大という側から見ると阻害要因ともいえることがたくさんあるわけで、手放しで喜んでいるわけにもいかないといったところです。
カメラを購入したのはいいが、フィルム代や現像代などのランニングコストが高すぎて継続できない、という状態になるのがいちばん不幸なことです。
思いつくに任せ他愛もないことをつらつらと書いてしまいましたが、翻って自分自身のことはどうかというと、今のところ、私はこのカメラを購入する予定はありませんし、是が非でも欲しいというわけでもありません。私は昔に比べて35㎜判カメラを使う頻度やスナップなどを撮ることが著しく減ってしまったというのが大きな理由です。
しかしながら、一度は使ってみたいという気持ちはあります。また、将来的に欲しくなることがあるかも知れません。私はお散歩カメラ用にCONTAX T2とKONICA C35を使っていますが、PENTAX 17はこれら2台のカメラとは違った使い方ができる気もしており、魅力のあるカメラであることに違いはありません。
はたしてこのカメラがどれくらいの台数売れるのか、私にはまったく予想もつきませんが、フィルム写真という技術や文化が途絶えてしまうのではないかと危惧される今の状況において、私には希望の灯火のように思えます。
(2024.6.21)
Pentax 17には私も少し驚きました。
ハーフサイズのカメラにしては凝った作りで,88000円の直販価格は決して安くはないですが,今の円ドルレートで考えると,実質500~600ドル/ユーロで買えるなら,海外で人気が出れば飛ぶ様に売れるかもしれません。
おそらく開発途中でRollei 35 AFの計画が発表された為,競合を避けて廉価版のハーフ判をコンシューマー向けに出し,デジカメに飽きた若いユーザーを取り込む計画なのだと思います。
とすると,これが売れて一息ついたら次もあるかも知れません。17という名前がその伏線かも知れず,私としては,Pentax 35,Pentax 67… が出ないか(?)と少し期待して見ています。
Mumumuさま
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
そうですね、おっしゃるようにローライ35AFとはバッティングしないようにしたかったというのはあるかも知れませんね。
私も数年後に次のカメラが発表されるの期待しています。個人的には中判カメラが出てくれると嬉しいなぁと思っています。