大判カメラ タチハラフィルスタンド45 Fiel Stand 45 の蛇腹交換

 現在、私が使っている大判カメラのうち、唯一の木製カメラであるタチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は蛇腹がだいぶくたびれてきていて腰が弱くなっており、蛇腹を伸ばすと自身の重みで下側に垂れ下がってしまいます。しかも、ピンホールの補修箇所が何ヵ所もあります。光線漏れしているわけではないので使えないことはありませんが、蛇腹の締まりがないのは見てくれも良くありません。
 そこで、思い切って蛇腹を交換することにしました。

古い蛇腹の取外し

 タチハラフィルスタンドの蛇腹は、カメラのフロント部(レンズスタンダード)の裏側と、バック部の内側に直接接着されています。金属製のフィールドカメラなどのように何らかの金具を用いているわけではなく直付けです。このため、蛇腹はベりべりと引っ剥がす感じになります。
 フロント部、バック部のどちらから剝がしても問題はありませんが、フィルスタンドのフロント部は可動範囲が大きいので、フロント部を先に剥がした方が作業がし易いです。

 しかし、口で言うほど簡単には剥がれてくれず、蛇腹の端の方から少しずつ捲りあげ、ゆっくりと剥がしていくことになります。
 それでも長年の使用でへたってきている蛇腹は簡単に破れてしまい、フロント部の裏側に接着剤とともに残ってしまいますが、後で綺麗にするとして、まずはフロント側を全部剥ぎ取ってしまいます。

 フロント側を外した状態がこちらです。

 次にバック側ですが、こちらは木枠の底に貼り付けてあるような状態なので作業はしにくいですが、フロント部が外れているので蛇腹を畳んだ状態で隅のところから持ち上げていくと何とか剥がれていきます。
 取り外した蛇腹は使い道もなく廃棄ですが、こんな感じです。

 写真でもわかるように、合成ゴム系の接着剤が使われています。

 蛇腹を外したフィルスタンドはなんだかとても頼りなげな感じになってしまいます。

 次に、蛇腹が貼りついていたところに接着剤や破れた蛇腹の残骸があるので、これを綺麗にしていきます。
 カメラの素材が木なので、ドライバーの先やヘラなどの固いもので擦ると木が削れてしまう可能性があります。面倒ですが、ピンセットなどを使って残った接着剤をコツコツと取り除いていきます。剝がれにくい場合はドライヤーなどで温めると接着剤が柔らくなって剥がしやすくなります。

 こうして綺麗になったのが下の写真です。

 内側の縁が黒くなっているのは接着剤ではなく、黒い塗料が塗られていた名残です。

 バック部の内側も綺麗になりました。

新しい蛇腹の調達

 さて、新しい蛇腹ですが、いろいろと悩んだ末、今回は特注で作成していただきました。
 既製品を探してみたところ、耐久性に優れた本革製の蛇腹は非常に高額なのと、注文を受けてから作る受注生産品なので納期が2か月近くかかってしまうとのことで断念しました。私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは本革製の蛇腹を使用しているのですが、フィルスタンドはリンホフに比べると使用頻度が低いので本革製でなくてもいいだろうという自分なりの妥協です。
 また、ビニールのような素材のものあり、価格は安いのですが耐久性が心配で、こちらも候補から外しました。

 結局のところ、いろいろな蛇腹を専門に作っている会社に特注でお願いすることにしました。素材はウレタン系とのことで、耐久性も本革製に比べて劣ることはないだろうとのことでした。価格も本革製に比べると半額ほどで、納期も2週間ほどとのことでした。
 発注に際して指定した寸法等は以下の通りです。

  ・フロント側 : 外寸 112mm x 112mm、内寸 86㎜ x 86mm
  ・バック部  : 外寸 152mm x 152mm、内寸 126mm x 126mm
  ・縮長  : 45mm以下
  ・伸長  : 320mm
  ・山数  : 17(両端を除く)

 また、蛇腹の前後両端は合成ゴム系の接着剤で貼り付ける旨も伝えておきました。

 こうして届いた新しい蛇腹がこちらです。

 適度な厚みが感じられますが、本革性に比べるとたぶん軽いのではないかと思います。また、両端は接着剤がなじみやすいように布のような素材が貼り付けてありました。
 腰がしっかりしていて、両端に指をかけて持ち上げても重みで垂れ下がるようなこともありません。

新しい蛇腹の取り付け

 いよいよ新しい蛇腹の取り付けですが、手順としては外した時と反対、すなわち、バック部への取り付けを先に行ない、次にフロント部を取付けるという順番です。

 まずはバック部への取り付けですが、接着剤がはみ出して蛇腹どうしがくっついてしまわないように、一つ目の山の内側に保護用の紙を差し込んでおきます。

 上の写真だとわかり難いかもしれませんが、画用紙程度の厚さの紙を幅4cmほどに切り、これを蛇腹の内側に差し込んで紙どうしを糊付けしておきます。これで、もし接着剤が内側に流れ出ても、蛇腹の山と山がくっつかずに済みます。

 次に、蛇腹の位置が中央に来るように、バック部の木枠の内側に蛇腹のコーナーの位置をマーキングしておきます。
 そして、このマーキングした木枠の内側と、蛇腹の接着面に接着剤を塗布します。両方に薄く均一に塗った後、少し時間をおいてさらにもう一回塗布し、その状態で蛇腹をバック部の木枠内マーキング位置に貼り付けます。
 この時、カメラを後方に倒して、蛇腹を上から木枠内に落とす要領でやると作業がし易いです。

 この状態で蛇腹を上からぎゅっと押し付けます。すぐにくっつきますが、念のため5分ほど押さえておき、その後、蛇腹の上に重し(私は単行本を使いました)を載せて半日ほど放置しておきます。

 バック部を貼り付けた状態が下の写真です。

 次にフロント部への貼り付けですが、蛇腹のバック部が固定されているので作業がしにくいところがあります。貼り付け位置をバック部のようにマーキングだけではおぼつかないので、フロント部の裏側にマスキングテープを貼って位置がずれないようにします。
 このマスキングテープの内側と、蛇腹のフロント側接着面に接着剤を塗布して接着します。バック部と同様、2回の塗布を行ないました。
 フロント部は重しを載せて固定というわけにはいかないので、接着後は下の写真のようにクリップで挟んでおきます。

 蛇腹の角の部分はクリップで挟めないので、浮いてしまわないようにヘラなどを押し当ててしっかり接着しておきます。
 この状態でおよそ半日経てば、蛇腹はしっかりと接着されます。

 こうして新しい蛇腹になったタチハラフィルスタンドがこちらです。

 蛇腹の腰もしっかりしており、なんだか新しいカメラになったようです。
 接着面も確認してみましたが、浮いているような様子もなく、少々引っ張っても全く問題ありませんでした。
 また、暗室内にカメラを持ち込み、内部にLEDライトを入れてみましたが、光線漏れは確認できませんでした。
 今回、蛇腹の伸長を320mmにしてもらいました。このカメラのレールは約300mmまでしか繰り出せないのですが、蛇腹に約20mmの余裕を持たせることで蛇腹が伸び切ってしまわないようにという理由からです。

 蛇腹交換後、実際の撮影は行なっていませんが、たぶん、問題になるようなことはないと思われます。

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 タチハラフィルスタンドの使用頻度はあまり高くないとはいえ、くたびれた蛇腹のままにしておくことがずっと気になっていたのですが、やっと気持ちもすっきりし、気兼ねなく撮影に使えるようになりました。
 これまでウレタン系素材の蛇腹というものを使ったことがなく、今回初めての試みですが、耐久性については最低でも4~5年は使ってみないとわからないと思います。4~5年でヘタるようなことはないと思いますが、使用感など、気がついたことがあればあらためてレポートしてみたいと思います。

(2024.9.25)

#タチハラフィルスタンド #FielStand

写真用レンズの被写界深度とボケについて 

 カメラで写真を撮ったことのある方は被写界深度とかボケいうものを経験値として理解されている方も多いと思います。いまさら被写界深度について書くのもどうかと思いましたが、大判カメラで撮影していると結構気にすることが多くありますので、今回はそのあたりについて触れてみたいと思います。
 因みに写真のボケを英語では、「out of focus」と「blur」、そして「bokeh」の3通りがあるようで、out of focus はピントが合っていない状態、いわゆるピンボケで、blur は明瞭に写っていない状態、そしてbokeh はボケ味を意味するようです。今回対象としているのはout of focus 、すなわちピントの合っていないボケについてです。
 なお、3番目のbokeh は日本語のボケがそのまま英語になったらしく、もともと海外ではボケ味を鑑賞するという文化がなかったようです。ボケを味わうというのは日本独特の文化だったのかも知れません。

許容錯乱円と焦点深度

 実際のカメラ用レンズは複数枚のレンズで構成されていますが、最終的にレンズの後端から出る光路をつくり出す1枚のレンズとして考えることができます。また、レンズには収差が発生するので、厳密にはレンズから出た光が1点に収束することはありませんが、ここでは1点に収束する理想のレンズがあるとして話を進めます。

 無限遠からレンズに入ってくる平行光はレンズを通過した後、レンズの後側焦点に収束、つまり結像します。

 上の図で、無限遠からの平行光は後側焦点F’で1点に収束しますが、その前後は1点にならず、ある幅を持っており、焦点から離れるにしたがって大きくなっているのがわかります。ですので、ピントが合っているのは厳密には焦点の位置だけで、その前後はボケている状態であり、このボケている円のことを錯乱円といいます。
 ところが、この錯乱円が極めて小さい範囲においては、人間の眼にはピントが合っているように見える、つまりボケているようには見えないという状態で、ピントが合っているように見えるギリギリの位置の錯乱円のことを「許容錯乱円」とよびます。

 この許容錯乱円の大きさは長らく0.03mmという値が用いられてきました。実際にはあるところまではピントが合っているように見え、そこから先は急にボケているように見えるなどということはなく、徐々にボケ量が大きくなっていくわけですが、どこかで線引きをしなければならないのでこの値が決められたようです。
 ではなぜ、許容錯乱円径が0.03mmとされたのか詳しいことはわかりませんが、一説には視力1.0の人が一定の距離から一定の大きさに引き延ばされた写真を見たとき、その中の識別できる最小の点の大きさ、つまり分解能が約0.03mmであるというところからきているようです。

 また、許容錯乱円は撮像面(フィルム面)上での大きさなので、そこから同じ大きさに引き延ばしてプリントをした場合、撮像面が小さいほど拡大率は大きくなりますし、撮像面が大きいほど拡大率は小さくて済みます。この値が決められたころ、35mm版のネガなりポジからの引き延ばしを想定しており、その場合は許容錯乱円0.03mmが妥当であったかも知れません。しかし、それよりも小さなハーフサイズ版とかAPS-C版では許容錯乱円をもっと小さくする必要があるし、逆に中判とか大判の場合はもっと大きくしても差し支えないということになります。
 ただし、この値がフラフラしているとややこしくなるので、便宜上、ここでは許容錯乱円を0.03mmとして進めることにします。

 上の図で後側焦点の両側にできる錯乱円ですが、この円の直径が0.03mmのところが許容錯乱円になります。そして、後側焦点の位置から前側にある許容錯乱円までの距離を「前側焦点深度」、後側にある許容錯乱円までの距離を「後側焦点深度」といい、これらを合わせた距離を「焦点深度」とよんでいます。言い換えると、焦点深度とは錯乱円径が許容錯乱円径以下になる範囲ということになります。
 この焦点深度は許容錯乱円が一定とすると、レンズのF値によって決まる値で、レンズの焦点距離が長かろうが短かろうがF値が同じであれば焦点深度も同じになります。
 例として、焦点距離50mm F2と、焦点距離100mm F2のレンズの焦点深度を表したのが下の図です。

 レンズのF値は焦点距離と有効径で決まり、式で表すと以下のようになります。

   F = f / D

 ここで、FはレンズのF値、fはレンズの焦点距離、Dはレンズの有効径を表します。
 上の式から、焦点距離50mmで有効径25mmのレンズのF値はF2、焦点距離100mmで有効径が50mmのレンズのF値もF2となります。そして、これらのレンズに入射する無限遠からの平行光はレンズを通過した後は同じ光路を通って後側焦点に収束することになります。したがって、許容錯乱円も焦点深度も同じということになります。
 これは、被写体を同じ大きさになるように写した場合、レンズの焦点距離が違ってもF値が同じであれば同じようにボケるということを意味します。

 これらのことから焦点深度は許容錯乱円径とレンズのF値によって決まることがわかります。
 焦点深度を求める式は以下のようになります。

   焦点深度 = ±εF = 2εF

 ここで、εは許容錯乱円径[mm]、FはレンズのF値を表します。
 また、±の符号がついているのは焦点深度の向きが前側と後側で反対になるからであり、絶対値としては2倍になることを示しています。

 実際に2種類の焦点距離のレンズを用いて、被写体が同じ大きさになるように撮影したものが下の写真です。
 使用したのは焦点距離55mm(左)と105mm(右)のレンズで、いずれもF4で撮影しています。2本のレンズの焦点距離が2倍になっている方が望ましいのですが、そのようにぴったりのレンズがなかったのでできるだけ近い焦点距離のものを採用しました。

 レンズの焦点距離が約2倍の違いがあるので、被写体までの距離も約2倍の差がありますが、ボケ方はほぼ同じことがわかると思います。
 ただし、撮影距離が違うのでパースペクティブに差が出ています。短焦点レンズ(55mm)の方は手前のものが大きく、奥のものが小さく写っているのに対して、長焦点レンズ(100mm)の方は大きさの差が少なくなっています。主被写体を同じ大きさになるように写しても、短焦点レンズの方が画角が大きいので背景が広く、そして小さく写るというレンズの特性です。

焦点深度と被写界深度

 上で説明したように焦点深度は撮像面での振る舞いであり、普段あまり使うことはない用語かも知れません。一方、被写界深度という用語は使う頻度が結構高く、感覚的にもわかりやすいと思いますが、この焦点深度と被写界深度の関係について少し触れておきたいと思います。

 下の図はレンズの基本的な光路を描いたものです。

 まず、レンズの前方の任意の位置にある被写体S (緑色の矢印)を、比較的焦点距離の長いレンズを想定して撮像面に結像した状態を表したのが図3の①です。右側にある下向きの緑色の矢印S’の位置が撮像面になります。
 いま、この下向きの緑色矢印の位置を基準に前側焦点深度と後側焦点深度の位置に緑色点線で矢印を書き入れます(図3の② S1’、および S2′)。ここはピントが合っているとみなされるギリギリの位置ということになります(実際に焦点深度はもっと浅いのですが、わかり易くするために大きめにとっています)。
 次に、前側、後側焦点深度の位置にある緑色点線の矢印から、そこに結像するための被写体の位置を描き入れます。図3の②の左側に示した緑色点線の矢印S1、およびS2 がその位置になります。
 つまり、撮像面の焦点深度両端が、被写体ではどの位置になるかを示しており、これが被写界深度になります。

 この図で分かるように、焦点深度は前側も後側も同じ距離ですが、被写界深度は後側が大きく(深く)、前側が小さい(浅い)ことがわかると思います。被写界深度は手前に浅く、奥に深いと言われている所以です。

 次に、これよりも焦点距離の短いレンズを想定して同じように作図をしてみます。
 下の図の赤色の線が短い焦点距離のレンズの場合で、図3で用いたレンズの半分の焦点距離としています。なお、いずれも同じF値という想定で描いています。

 レンズから被写体までの距離が同じ場合、焦点距離が短いほど撮像面に写る被写体の像は小さくなるのは言うまでもありません。
 そして、この結像の位置から前後に、許容錯乱円の大きさとなる場所に赤色点線の矢印(S1’、およびS2′)を描き入れます。許容錯乱円の大きさは図3②の青色矢印と青色点線矢印の高さの差になるので、これと等しい差分になる位置が焦点深度の両端になります。
 次に赤色点線の矢印からそれぞれの被写体の位置に線を引き、そこに結像するための被写体の位置を赤色点線の矢印(S1、およびS2)で描き入れます。この図の左側にある赤色点線の矢印間(S1~S2)がこのレンズの場合の被写界深度になります。

 この図からも明らかなように、同じ距離の被写体を写した場合、焦点距離の短いレンズの方が被写界深度が深くなるのがわかると思います。
 また、被写体までの距離が大きくなれば焦点深度が深くなり、逆に被写体までの距離が短くなれば焦点深度が浅くなるので、被写界深度にも同様の影響が出ます。

 一眼レフ用のレンズなどはピントリングのところに被写界深度目盛りがついているものがほとんどですが、同じF値でも広角レンズの方が広範囲まで被写界深度内に入っていることと一致します。
 参考までにPENTAX67用の焦点距離55mm(左)と200mm(右)のレンズの被写界深度目盛りの写真を掲載します。

 上の写真でもわかるように、被写体までの距離を3mに合わせた場合、焦点距離55mmのレンズでは絞りF22で約1.5mから無限遠までが被写界深度内に入っています。一方、焦点距離200mmのレンズでは絞りF22で約2.8mから約3.2mまでしか入っていません。
 レンズの焦点距離によって被写界深度は大きく異なりますが、あくまでも被写体までの距離が同じという前提があることに注意してください。

被写界深度とボケ

 ここまでの内容から、被写界深度を決める要素は次の4つになります。

  1) レンズの焦点距離:f
  2) レンズのF値:F
  3) 被写体までの距離(撮影距離):a
  4) 許容錯乱円径:ε

 これらの要素から被写界深度を求める近似式は以下のようになります。

  前側被写界深度 = ( a²・ε・F ) / ( f² + a・ε・F )

  後側被写界深度 = ( a²・ε・F ) / ( f² - a・ε・F )

 上の2つの式から、分子の値を大きく、分母の値を小さくすれば被写界深度が大きくなることがわかります。アバウトな表現をすると、許容錯乱円径を一定とした場合、被写体までの距離aを大きく、F値を小さく、レンズの焦点距離を短くすれば被写界深度が深くなるということになり、撮影の際に感覚的に理解している内容と一致すると思います。

 数式だけではわかり難いので、撮影距離と被写界深度の関係をグラフにしてみました。
 わかりやすいように焦点距離50mmと100mmのレンズを対象に、絞りをF4、F8、F16にしたときのグラフで、縦軸に被写界深度、横軸に撮影距離をとっています。縦軸の被写界深度は上側が後側被写界深度、下側が前側被写界深度です。なお、横軸、縦軸とも対数目盛を用いています。

 これら2つのレンズで被写体を同じ大きさに写そうとした場合、言うまでもなく、被写体までの距離(撮影距離)は焦点距離50mmのレンズに対して100mmのレンズでは2倍になります。この時、F値が同じであればそれぞれの焦点深度も同じになりますが、被写界深度は被写体距離がさほど大きくないときは比較的近い値をとります。

 被写界深度はピントが合っているように見える範囲であり、厳密にはピントを合わせた位置から前後に変位すればするほどボケ量が大きくなっていくというのは前で述べたとおりですが、では、ボケ量がどれくらい変化するのかを近似式で求めてみます。

 任意の位置に被写体を置き、レンズから被写体までの距離をaとします。
 そして、この被写体の位置から前後に、ある相対量だけ変位した位置の点光源が撮像面上でどれくらいのボケ径になるかを計算してみます。
 レンズから被写体後方にある点光源までの距離をc、また、レンズから被写体前方にある点光源までの距離をc’とします。
 これを図で表すとこのようになります。

 ここで、被写体の位置にピントを合わせた状態で、後方に変位した位置にある点光源のボケ径(いわゆる後ボケ)b₁、前方に変位した位置にある点光源のボケ径(いわゆる前ボケ)b₂ を求める近似式は以下の通りです。

  b₁ = ( f/F ) ・ ( f (c-a)/c(a-f))

  b₂ = ( f/F ) ・ ( f (a-c’)/c'(a-f))

 上の式をもとに、焦点距離50mmと100mmのレンズについて計算した結果をグラフにしてみるとこんな感じになります。なお、被写体までの距離は5mとして計算しています。

 このグラフでのボケ径とは撮像面における錯乱円の大きさを意味します。つまり、このボケ径が許容錯乱円(0.03mm)以下であれば被写界深度の範囲内にあることを示しています。
 グラフの目盛りの範囲が大きすぎるので、被写体距離周辺部だけを拡大したのがこちらのグラフです。

 焦点距離100mmのレンズで絞りF4、被写体距離5mで撮影した時の被写界深度を近似式で計算すると、

   前側被写界深度 : 283.0mm
   後側被写界深度 : 319.1mm

 となります。
 このグラフでボケ径が約0.03mmのところを見ると、被写界深度の位置が被写体の後方が5.3m付近、前方が4.7m付近となっており、被写界深度との関係が一致しているのがわかると思います。

 ここまで述べてきたように、ボケの大きさや被写界深度を決定づける要素として、レンズの焦点距離、F値、被写体距離、背景や前景との距離などがありますが、それぞれが密接に関係し合っていて、単純にどれか一つの要素だけで被写界深度やボケ径が決まるわけではありません。例えば、焦点距離が長い方がボケる、というのは間違いではありませんが、それより短い焦点距離のレンズでも絞りを開いた方がボケは大きくなることもあるわけですから、それぞれの要素に前提条件をつけておかないと全く違った結果になってしまうなどということが起こり得ます。
 複雑な計算式を覚えておく必要はありませんが、要素の相互関係とそれによる振る舞いを理解しておくというのは大事なことだと思います。

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 撮影したい被写体を前にした時、どの範囲を撮るか(フレーミング)、パンフォーカスにするか、あるいはどこをぼかしたいか等々、自分の作画意図に合わせて出来上がるであろう写真を頭の中で想像しながらレンズの選択や撮影位置、露出などを決めています。
 被写界深度やボケ具合はカメラのファインダーを覗けばある程度確認はできますが、それが作画意図に合わなかった場合はレンズを変えたり場所を変えたりと、とても非効率です。
 露出も重要なことですが、被写界深度やボケというものも同じくらい写真の出来に影響を与える重要な構図の要素の一つだと思います。

(2024.9.10)

#ボケ #絞り #被写界深度 #焦点深度