様々な分野におけるグローバルな市場予測レポートで知られているビジネスリサーチインサイト社が、フィルム写真カメラの市場について、2023年を基準に2032年までにおよそ1.4倍に成長するというレポートを出しています。世界のフィルム写真カメラの市場規模は2023年が約286億ドルで、これが年平均3.78%で成長し、9年後の2032年には400億ドルになるというものです。現在の通貨レートで日本円に換算すると6兆円を超える額になります。
このように成長する主な理由は、アーチストやクリエーター、あるいは若い年代層の人たちのフィルム写真に対するニーズが増えているということのようです。
また、現在もっとも市場が大きいのは北米ですが、ヨーロッパやアジア、中東なども拡大しているとのことです。
このような成長率とか市場規模といった数字がどのような根拠に基づいてはじき出されたのか、私のような凡人には理解できませんが、世界的に著名なリサーチ会社が予測したレポートなので、様々な分析から導き出された結果なのだろうと思います。とはいえ、あくまでも予測ですから、実際に9年後にどうなっているかはわかりませんが、このような予測が出ているということを私などは単純に喜んでしまいます。
しかしながら、2023年の市場規模が286億ドル、年平均成長率が3.78%ということは、今年2024年の市場規模は約296.8億ドルということで、全世界で約10.8億ドル増えることになります。これを、「10.8億ドルしか」と思うか、「10.8億ドルも」と思うかは微妙なところですが、現在のフィルム写真の状況を鑑みると、増えるだけでもあっぱれと感じてしまいます。
一方で、フィルム写真やフィルムカメラが衰退してきた速度を思うとあまりにも小さすぎて、果たしてどれくらいの影響力があるのだろうとも思ってしまいます。
また、レポートの中ではフィルム写真やフィルムカメラに関するニーズを満たすにはコストがかかりすぎ、これが市場の成長を妨げる要因になる可能性もあるとしています。
このレポート、全106ページもある膨大なもので、いろいろな切り口で分析されていてとても興味深いのですが、価格が3,250ドル(現在のレートで約50万円)という高額であり、とても個人で購入できるようなものではありません。概要だけでしたら無償で閲覧できるので、興味のある方は下記URLをご覧ください。
https://www.businessresearchinsights.com/market-reports/film-photography-cameras-market-113731
ここに書かれている年平均成長率3.78%、昨年(2023年)に対して今年(2024年)の市場拡大規模10.8億ドルのうち、日本市場の占める割合がどれくらいあるのかはわかりません。もしかしたらレポートの本文には記載されているのかもしれませんが、市場をけん引している主な地域は北米やヨーロッパということなので、日本の占める割合は数パーセント、日本円にして数十億円程度ではないかと勝手に想像しています。
数十億円というのは日本の人口で単純に割ると一人当たり数十円ということになります。コーヒー一杯どころか、下手したらチロルチョコ1個も買えない金額です。もちろん、生まれたばかりの赤ちゃんなどを含めてすべての人がフィルム写真にお金をかけるなんてことはありませんから、そう考えるとフィルム写真やフィルムカメラ人口がいかに少ないかということがうかがい知れます。
また、このレポートによると、市場規模の対象となっているのはカメラなどの機材やフィルム、現像用の薬剤などのほかにアクセサリーやアプリケーションなど非常に多岐にわたっているようなので、一消費者には成長規模や成長度合いというものが実感として伝わりにくいのだろうと思います。
ちなみに私の場合、フィルム写真やカメラにかけるお金が昨年と比べてどうかというと、たぶん減っています。フィルム写真の愛好家の方からは非国民と非難されそうですが、いちばんの理由は新たに購入するフィルムが大幅に減ったことです。
私が主に使うのはリバーサルフィルムですが、数年前、フィルムが値上がりし始めた頃からコツコツと買って冷凍保存してあります。いまはそれを使っているので、新規に購入するのはモノクロフィルムくらいで、リバーサルフィルムを購入することはしばらくはないと思われます。
また、カメラやレンズなどの機材も購入する頻度は低く、購入するとしてもほとんどが中古品なので、市場の成長には貢献していません。年間に撮影する枚数は若干増えているので、現像に関するところではわずかながら貢献しているかも知れません。
さて、今年7月にリコーから新しいフィルムカメラ、PENTAX 17が発売されたのは記憶に新しいところですが、このカメラが全世界でどれくらいの台数が売れて、フィルム写真カメラ市場にどれくらいのインパクトを与えたのかは非常に興味にあるところです。このレポートの予測に、PENTAX 17の新規発売が加味されていたのかどうかというのも気になるところです。レポートのリリースが今年の6月となっていますから、もしかしたら考慮されている可能性もあるのではと思ってしまいました。
PENTAX 17の発売当時は予約が殺到したため受付を停止、生産が追いつかないという状況が続いていたようですが、現在は解消されているようです。在庫も潤沢かどうかはわかりませんが、今のところ問題なく購入できるようです。また、当初のような勢いはないにしても今も売れ続けているようですから、PENTAX 17が市場規模拡大に貢献していることは間違いのないことだと思います。
余談ですが、私はPENTAX 17を購入していませんが、友人が購入したのを一度見せてもらったことがあります。そのカメラの裏蓋を開けたときに、ハーフ版の縦長のアパーチャーの両側に不自然なスペーサーのようなものがついていることに気がつきました。このスペーサーの両端の長さが約36mmあり、これは次にハーフ版ではなく、35mm判のカメラを発売することを考慮して設けられたものではないかと邪推をしてしまいました。
フィルム写真の市場が拡大することは喜ばしいことですが、成長率が決して大きくはないことと、成長の仕方がリニアになっていることからすると、急成長させるようなエポックメイキング的なことは予想していないのだろうと思います。つまり、狭いマーケットではあるが、それがじわりじわりと広がっていくという感じなのでしょう。
今年も10月後半に青森県の奥入瀬に撮影に行ってきました。コロナ禍の時は人も少なくて静かな奥入瀬でしたが、昨年あたりから訪れる人が増えて紅葉の時期は凄い賑わいになっています。私は奥入瀬渓流とその周辺に一週間ほど滞在していたのですが、その間、フィルムカメラで撮影している人には一度も出会いませんでした。ほとんどの人がスマホで撮影していて、一眼レフカメラやコンパクトカメラを持っている人すらも非常に少ないという印象でした。
このような状況を目の当たりにすると、正直なところ、フィルム写真市場が成長していくという予想も本当なのだろうかと思ってしまいます。
一方で、都内を歩いているとフィルムカメラでスナップ撮影をしている人を見かけることも増えたような気もしますし、ネット上でもフィルム写真やフィルムカメラに関するサイトがわずかながら増えているようにも感じます。
海外は少し様子が異なると思いますが、日本においてはごく限られた人によってニッチな市場が形成されていて、それが衰退することなく踏ん張り続けているといった構図が思い浮かんできます。
そしてそこにリコーとかマリックスをはじめとするいくつもの企業の力添えによって、わずかずつではあるが市場が拡大しているのかも知れません。
先のことはわかりませんが、フィルム写真市場が拡大していったとしても以前のような状態になるとは思えません。規模に関しては言うまでもありませんが、市場の形態も以前とは異なるものになっていくような気がします。そのあたりのこともこのレポートには書かれている気もしますが、高額すぎて購入できないのが残念です。
また、個人的にはモノクロフィルムに関してはそれほど悲観すべき状況ではないと感じているのですが、リバーサルフィルムに関しては本当に危機的な状況だと思っており、一人でも多くの人がリバーサルフィルムを使ってもらえるといいなぁと、このレポートを読んであらためて思いました。
(2024.11.27)