「2032年までにフィルム写真カメラの市場が約1.4倍になる」という予測レポートについて思うこと

#カメラ業界

シュナイダー Schneiderの大判レンズ Gクラロン G-Claron 240mm 1:9

 クラロン Claron は等倍などの近接撮影用に作られたレンズにつけられた名称で、GクラロンのほかにCクラロン、Dクラロン、リプロクラロンなどがあります。私は大判用のGクラロンしか使ったことがありませんが、頭についている「G」はGraphicを意味しているようです。ちなみに、「C」はCopy、「D」はDocument、「リプロ」はReproductionを意味しているようで、いずれも近接撮影や複写用のレンズということで命名されているようです。
 私の持っているGクラロンは、シリアル番号からすると1975年前後に製造されたレンズのようです。製造からちょうど半世紀が経過したことになります。

 Gクラロンのシリーズはどれくらいの数が製造されたのか全く分かりませんが、中古市場を見てもそれほどたくさん出回っている感じもしません。近接撮影用ということで使う人も限られていたのかも知れませんが、写真館やスタジオなどで使われていたという話しも聞きます。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9 の主な仕様

 Gクラロンは大きく分けて前期型と後期型があるようで、私の持っているレンズは後期型です。レンズ構成もずいぶん違うようで、前期型はダゴールタイプ、後期型はオルソメタータイプとのことです。いずれも前群と後群が対称に配置された設計のレンズです。
 レンズはシングルコーティングと思われ、あっさりした色をしています。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ298mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 90
   絞り羽根 : 10枚
   シャッター  : COMPUR No.1
   シャッター速度 : T、1~1/500
   フィルター取付ネジ : 52mm
   前枠外径寸法 : Φ54mm
   後枠外径寸法 : Φ50.8mm
   全長  : 53mm

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ68mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の標準と中望遠の中間あたりに相当する焦点距離です。
 4×5判の対角画角が約36度、横位置に構えたときの水平画角が約29度、垂直画角が約22.5度ですから、準標準というにはちょっと長い感じです。私の場合、風景撮影で使う頻度はどちらかというと低めの画角です。画角だけを見るとポートレート向きかも知れません。

 シャッターはCOMPURの1番が使われています。絞りは90まであり、1/3段ごとにクリックが設けられています。また、絞り羽根は10枚で、円形とはいきませんが5枚羽根や7枚羽根に比べると滑らかな形状を保っています。
 私はCOMPUR製のシャッターを採用したレンズは数本しか持っておらず、コパル製のシャッターほど使い慣れてもいませんが、このシャッターも操作方法がちょっと変わっています。シャッター速度にB(バルブ)ポジションがなくT(タイム)ポジションのみで、BとTを兼用しているタイプです。そして、Tポジションの時はシャッターチャージをせずにシャッターレバーを押すとシャッターが開き、もう一度押すとシャッターが閉じる仕組みです。
 Tポジションでシャッターチャージをしても特に問題はありませんが、シャッターレバーを押してもチャージがリリースされることはありません。リリースするためにはシャッター速度ダイヤルをTポジション以外のところにセットし、そこでシャッターレバーを押すという操作が必要になります。

 また、絞り羽根を動かすレバーがシャッターチャージ用レバーと重なるような位置にあり、とても操作がしにくいのと、構図決めやピント合わせの際にシャッターを開くためのレバーもとても小さく、やはり操作しにくいのが難点です。

 イメージサークルは298mm(F22)ですので、4×5判で使う分には十分すぎる大きさがあります。
 開放絞りがF9と暗めですが、その分、レンズ全体が小ぶりなので携行には有難いです。フジノンのWシリーズに250mmのレンズがあり、焦点距離がほぼ同じですがフジノンのW250mmの開放絞りはF5.6で、明るいのは有難いのですがレンズがとても重くて携行には難儀します。F5.6とF9だと1+1/3段の違いがありますから、明るさをとるか携行性をとるかといったところで悩んでしまいます。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9のボケ具合と解像度

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.4m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF9(開放)で撮影したものです。1枚目がピントを合わせた位置、2枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート、そして3枚目が前方30cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 2枚目の後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ状態)を撮影したものを見ると、とても素直できれいなボケ方をしていると思います。ほんのわずかに芯のようなものが見て取れますが輪郭などは全く感じられず、なだらかにフワッとぼけているように思います。また、ボケ方に偏りもなく、どの方向にも均等なボケ方をしているのがわかります。
 次にテストチャートの3枚目の写真は前ボケの状態です。全体的に綺麗で素直なボケ方は同じですが、後ボケに比べるとボケ方が控えめな感じを受けます。こちらもわずかに芯が残っているように見えます。また、ボケ方は小さいですがボケに厚みが感じられ、全体がふっくらとしている印象を受けます。

 風景撮影などでよく使うF22まで絞り込んで撮影したテストチャートの写真も掲載しておきます。
 1枚目が後方30cmの位置にあるテストチャート(後ボケ)、2枚目が前方30cmの位置にあるテストチャート(前ボケ)です。 

 前ボケ、後ボケともに綺麗で素直なボケ方をしています。

 参考までに、解像度確認用のテストチャートの中央部分を撮影したのが下の写真です。

 テストチャート自体の印刷精度があまり良くないのですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでレンズの解像度としては問題のないレベルだと思います。

Gクラロン G-Claron 240mm 1:9 の作例

 上でも書いたように、標準と準望遠の中間くらいの焦点距離ということで使う頻度はあまり高くありません。景色を広く取り込むには少々画角が狭すぎるのですが、ある程度限定された範囲を撮るには都合の良いときもあります。また、撮影ポジションやワーキングディスタンスに自由度がある場合は応用範囲が広がるレンズでもあります。

 まず1枚目は秋田県の田沢湖で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider G-Claron 240mm F9 1/15 Velvia100F

 湖畔にある木の枝が湖の方に張り出していて、その影が湖面に映っているのですが、波によって揺らいでいるところを撮りました。良く晴れた日だったので湖面が見事なまでにコバルトブルーになっていて、それによって木の枝の影も黒くならず、ブルーグリーンとでもいう色合いになっていました。
 波の具合によって湖面に映る影は常にその形を変えており、シャッターを切るタイミングがなかなか決められません。低速シャッターにすると波がぶれてしまうので、絞り開放にしてなるべく早いシャッター速度でと思いましたが、1/15秒が精一杯でしした。

 手前の石と奥の木の枝、そして湖面にピントを合わせたかったのでフロント部でアオリをかけていますが、画の下側と右上の葉っぱにはピントが合っていません。ボケ方としては素直な綺麗なボケだと思います。また、解像度も良好だと思います。
 撮影しているときには気がつかなかったのですが、手前の石の上にトンボがとまっていました。掲載写真の解像度を落としてあるのでわかり難いと思いますが、トンボの翅の模様までわかります。

 2枚目も同じく田沢湖で撮影した「たつこ像」です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider G-Claron 240mm F45 1/250 Velvia100F

 対岸の山の上に朝日が昇った瞬間で、たつこ像がシルエットになるよう、太陽にカメラを向けての撮影です。
 レンズの絞り羽根が10枚なので、太陽の周りに10本の光条が発生しています。
 シングルコーティングレンズなのでこのようなシチュエーションは苦手かた思いましたが、予想に反してくっきりとした画像が得られています。たつこ像の周囲に滲みのようなものもほとんど感じられず、輪郭がはっきりと出ています。また、山の稜線にある木々もはっきりと認識ができ、50年も前のレンズとは思えない解像度という感じです。

 この像の大きさは台座も含めると4mほどの高さがあり、それほど大きな像ではありません。撮影場所からたつこ像までの距離は20mほどだったと思うのですが、240mmという焦点距離のせいか、実際よりも大きく感じられます。このように周囲に遮るものがなく見通しのきく場所であれば、実際のレンズの焦点距離よりも短いレンズで撮影したような画をつくることが出来ます。

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 このレンズで撮影した写真はあまり多くないのですが、非常にシャープに写るという印象があります。同じシュナイダーのジンマーなどはもう少し柔らかな感じに写るように思うのですが、このレンズは複写用や近接撮影用に作られたということで、写り方に差があるのかも知れません。
 個人的にはシャープすぎるよりは若干柔らかさを感じる写りの方が好きなのですが、シャープに写った写真は気持ちの良いのも事実です。この辺りは好みによるものかも知れませんし、これらは被写体やその時のシチュエーションによって大きく異なりますが、今の時期、鮮やかな紅葉をアップで撮るといったような場合、このレンズの力が出るのではないかと思います。

 余談ですが、このレンズを購入(もちろん中古で)したのは7~8年前だったと思います。シャッターや絞りなどの動作自体は何ら問題はありませんでしたが、前玉にも後玉にもクモリがあり、分解して清掃をしてあります。今はとてもきれいなレンズです。
 なお、ダゴールタイプのレンズのシャープさは別物という話しをよく聞きます。前期型のGクラロンを見つけたらぜひゲットしたいと思っています。

(2024.11.12)

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