第191話 撮影時に使用しているフィルターのあれこれ

 写真撮影用のフィルターというのは昔からいろいろなものがラインナップされていて、それらは時代とともに進化しており、現在もたくさんのフィルターが販売されています。フィルターメーカー大手のケンコーからは、現行品だけでも優に100種類を超えるフィルターが勢ぞろいしています。
 しかし、フィルターの需要というのはデジタルカメラの普及によって全体としては減少しているのではないかと思います。フィルム時代はこれでもかというくらいのフィルターをカメラバッグに入れて撮影に臨んでいる人もいましたが、撮影後の加工が容易になったデジタル写真ではその必要性も薄れてきているように思います。
 私も数種類のフィルターをカメラバッグに入れてはいますが、フィルターを使う頻度はあまり高くありません。1日撮影して一度も使わないということもありますが、今回は私が持ち歩いているフィルターをご紹介します。

色温度変換(CC)フィルター

 デジタルカメラにはホワイトバランスという機能があって色温度を任意に設定することができますが、フィルムカメラの場合はそれができないので、色温度を変換するためのフィルターが用意されています。
 このフィルターの機能は簡単に言うと、例えば朝夕の時間帯に撮影すると太陽の光の影響で赤っぽく写ってしまいますが、この赤っぽくなるのを防ぐため、色温度を若干上げるというものです。また逆に、特に晴天時の日陰などで撮影すると全体が青っぽくなってしまうのを防ぐため、色温度を下げるというフィルターです。もちろん、フィルター1枚で色温度を上げたり下げたりはできないので、色温度上昇用、下降用と用意されています。
 また、色温度の変換度合いによって、さらに何種類ものフィルターがあります。

▲左側の2枚が色温度降下用Wフィルター(W2とW10)、右側の2枚が色温度上昇用Cフィルター(C2とC8)

 一般に、色温度を上げるフィルターを「Cフィルター」、色温度を下げるフィルターを「Wフィルター」と呼ぶことが多く、それぞれCとWの後にどの程度の量を変換するかという数字がついています。例えばC2とかC4、あるいはW2とかW4という具合に。
 では、このCやWの後の数字がどのような意味を持っているかというと、これは「ミレッド」という値を表しています。
 ミレッドとは逆色温度のことで、色温度(ケルビン[K])の逆数をとって10⁶倍した値を用いています。なぜこんな面倒なことをしているかというと、数値の違いと、我々が実際に感じる色の差が比例するようにということで作られた単位のようです。

 色温度(ケルビン[K])と逆色温度(ミレッド[M])の関係をグラフにすると下の図のようになります。

 つまり、色温度で200[K]の差を例にとると、色温度2,000[K]と2,200[K]を比較した場合、視覚的にもその違いは判りますが、色温度10,000[K]と10,200[K]場合はおなじ200[K]の差であっても視覚的にはほとんど違いが感じられません。
 これをミレッドで表すと、2,000[K]は500[M]、2,200[K]は455[M]となり、その差は45[M]です。一方、10,000[K]は100[M]で10,200[K]は98[M]となり、その差はわずか2[M]です。
 色温度の差が同じ値であっても、もとの色温度の値が大きい(高い)ときはその影響度が少ないので、それに比例した数値にするための仕組みということになります。

 前置きが長くなりましたが、色温度変換フィルターのCとかWの後ろについている数字はミレッドを表していて、C2の場合は20ミレッド分の色温度を上昇させる、W2の場合は20ミレッド分の色温度を下降させるということを意味します。
 これを色温度に当てはめてみると、色温度2,000[K]=500[M]の時にC2フィルターを装着すると480[M]となり、色温度に変換すると2,083[K]になります。同様に、色温度10,000[K]=100[M]のときにC2フィルターを装着すると80[M]となり、この時の色温度は12,500[K]になります。
 すなわち、同じ20[M]であっても2,000[K]のときと10,000[K]のときとでは色温度の変換量が大きく異なりますが、視覚的には同じくらいの変化として感じられるということです。

 このように、光の具合によって赤っぽくなったり青っぽくなったりするのを防いで、自然な色合いにするのが本来の使い方なのでしょうが、私の場合、こういった使い方をすることはほとんどなく、逆の使い方をしています。つまり、色温度が低いときにさらに色温度を下げるためにWフィルターを使ったり、色温度が高いときにさらに上げるためにCフィルターを使うといった感じです。
 なぜこんな使い方をするかというと、例えば、朝夕の光が赤っぽいときに一層赤っぽくして明け方とか夕方の雰囲気を出すとか、晴天の日中の日陰で青っぽくなるのをさらに青っぽくして幻想的な雰囲気にするというのが狙いです。

 参考までに色温度変換フィルターを装着して撮影した写真を掲載します。
 下の写真は夏の日中に撮影したものですが、1枚目がフィルターなしで撮影、2枚目がC2フィルターを装着して撮影したものです。

 薄暗い渓流なのでフィルターなしでも全体的に青っぽくなっています(1枚目)が、C2フィルターをつけることで奥深い森の雰囲気を出そうとしたものです。

 色温度変換フィルターをこのような使い方をした場合、その効果が強すぎると現実離れした色になってしまい写真が台無しになってしまうこともありますが、明確な作画意図をもって使えばそれなりの効果があると思います。
 なお、色温度変換フィルターを装着した場合は露出補正が必要になります。メーカーが提示している変換量と補正量は以下の通りです。

  <変換量> <露出倍数>
  C2 : -20[M]  1.2倍
  C4 : -40[M]  1.6倍
  C8 : -80[M]  2.0倍
  W2 : +20[M]  1.2倍
  W4 : +40[M]  1.4倍
  W8 : +80[M]  1.8倍

モノクロ用フィルター

 代表的なモノクロ用フィルターと言えばY2(黄色)、YA3(橙色)、R1(赤色)で、私もこの3種類のフィルターを持っています。主に使うのは黄色のY2で、ときどきYA3を使うこともありますが、R1はほとんど使うことがありません。このほかにも緑色などもありますが、私は持っていません。

▲左下から時計回りにY2(黄色)、YA3(橙色)、R1(赤色)フィルター

 あらためて説明するまでもありませんが、これらのモノクロ用フィルターの機能は、ある波長以下の光、すなわち青寄りの光をカットしてコントラストを高めるというものです。
 具体的にフィルターごとの特性を数値で示すと以下のようになります。

  Y2  : 約500[nm]以下の光をカット
  YA3 : 約550[nm]以下の光をカット
  R1  : 約600[nm]以下の光をカット

 これをグラフにすると以下のようになります。

 これらのフィルターの効果は天候や被写体などによって異なりますが、Y2フィルターはモヤっとした描写を引き締めてくれる感じで、YA3フィルターはかなりコントラストが高くなる印象、そしてR1は赤外線フィルムで撮影したような感じに仕上がります。
 モノクロ写真の描写に関してはそれぞれの好みもあるでしょうし、作画意図によるところも大きいと思いますが、私はどちらかというとキリっとしまった感じの描写が好きです。かといってコントラストが高すぎるのは好みではなく、そういった点から黄色のY2フィルターを使うことが多いです。適度にコントラストを高めてくれるといった感じです。

 モノクロ用フィルターも露出補正が必要になります。メーカーが推奨している補正量は以下の通りです。

  Y2  : 2倍
  YA3 : 4倍
  R1  : 8倍

 ですが、私が実際に採用している補正量は以下の通りです。

  Y2  : 1.6倍
  YA3 : 3.2倍
  R1  : 6.2倍

 この差は何かというと、私が持っているフィルターを用いて実際に測光した値に基づいています。フィルターによって若干の個体差があるのかもしれませんが、メーカーの推奨値よりも補正量は少なめです。

減光(ND)フィルター

 あまたあるフィルターの中でも使用する方が多いほうに属するフィルターだと思います。
 このフィルターを使用する主な理由としては、

  1) 低速(スロー)シャッターを切りたい
  2) 絞りを開いて撮りたい 
  3) 目いっぱい絞り込んでも露出オーバーになってしまう

 というようなシチュエーションではないでしょうか。
 私の場合、大判カメラや中判カメラがメインなので、目いっぱい絞り込んでも露出オーバーになるというようなことはほとんどなく、低速シャッターを切りたいという理由がいちばん多いと思います。カメラバッグの中に常に入れているのは、ND8、ND16、ND400の3枚です。ND400は数十秒とか数分という長時間露光をするとき以外に使うことはありません。ほとんどはND8で事足りているという感じです。

▲左下から反時計回りにND8、ND16、ND400フィルター

 通常のNDフィルターよりも出番が多いのがハーフNDフィルターです。
 これは円形ではなく、私が使っているのは100mm x 150mmの長方形のフィルターです。真ん中あたりから徐々に黒くなっているもので、画面の半分くらいを減光したいというときに使います。例えば、曇った空を入れた風景を撮るときなど、空が明るすぎて飛んでしまうようなとき、空の部分だけにNDをかけるというような使い方です。
 これも減光度合いによって何種類もありますが、私が使っているのは「HND 0.6」という製品で、ND4に相当する2段分の減光をしてくれるものです。
 また、透明な部分と黒い部分の境目が急激に変わるハードタイプと、緩やかに変わっているソフトタイプがありますが、私はソフトタイプを使っています。

偏光(PL)フィルター

 このフィルターも使用していらっしゃる方は非常に多いのでないかと思います。特に風景を撮られる方の中には常用フィルター並みに多用されている方もいらっしゃるようです。
 最近はカメラのハーフミラーにも干渉を与えないC-PLがほとんどですが、大判カメラを使っている分には問題ないので、私は昔ながらの普通のPLフィルターを使っています。

▲PLフィルター

 PLフィルターを使うとコントラストが上がったりヌケの良い色合いになったりして見栄えがするのですが、かけすぎるとべたっとした感じになってしまいますので、私がこのフィルターを使うのは主に以下のような場合です。

  1) 渓流などで濡れた岩の反射を取り除きたい
  2) 木々の葉っぱが白っぽくなる反射を取り除きたい
  3) 水面の反射を取り除きたい

 渓流の濡れた岩の表面が反射するのは立体感があると言えばそうなのですが、あのぬらぬらした感じの反射があまり好きではありません。多少ならばそれほど気になりませんが、大きな岩全体がぬらぬらとテカっているのはいただけません。
 また、木々の葉っぱが白く反射していると妙にそれが目立ってしまい、しかもその量が多いと写真の重厚感が薄れてしまいます。
 そして、水面の反射に関しては、水底を見せたいという意図があるときに使います。ですが、水面は何か写りこんでいる方が見栄えがすることが多いと感じているので、この目的で使うことは多くはありません。

 なお、PLフィルターは経年劣化するというか、長年使っていると変色してきます。そうなると発色に影響があるので、変色してきたら新しいフィルターに買い替える必要があります。

保護フィルター

 レンズの性能を100%引き出すにはフィルターは使わない方がよいという意見があり、こだわりがあってフィルターは使わないという方もいらっしゃいます。確かに、レンズの前に余計なものは置かないに越したことはなく、しっかりコーティングが施されたフィルターであってもごくわずかの反射はあるでしょうから、厳密にいえば画質の低下があると言えるのかもしれません。
 しかし、保護用の無色透明のフィルターをつけた状態と外した状態で撮影した写真を比較してみても、私にはその差が全く感じられませんでした。

 私の場合、屋外、特に渓流とか山などでの撮影が多く、保護フィルターをつけておかないと埃が付着したり、木の枝などにレンズをぶつけて傷がついたりしてしまう恐れがあります。撮影の時だけフィルターを取り外すという選択肢もありますが、とてつもなく面倒くさいので着けっ放しです。唯一、取り外すのは他のフィルターを取り付ける時だけです。つまり、フィルターの2枚重ねはしないようにしています。
 保護フィルターはすべてのレンズに取り付けてありますからそれだけでそこそこの重量になるので、これらがなければ荷物も少しは軽くなると思うのですが、レンズを傷つけるわけにはいかないというほうが優先された結果です。

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 本文にも書いたように、保護フィルターを除けば私がフィルターを使う頻度は決して高くはありません。フィルターは持たないで出かけようと思うこともありますが、どうしても使いたいというときに持っていなければ手の打ちようもないので、最低限のフィルターだけはバッグに入れています。
 フィルター枠も薄いタイプのものがありますが、より軽くてかさばらないものがあればそれと交換したいです。

 余談ですが、今回からタイトルに通し番号をつけてみました。過去のページについては追って対応したいと思います。

(2025.3.13)

#NDフィルター #フィルター #色温度補正フィルター