今年(2025年)の4月に富士フイルムが値上げの発表を行なったのは記憶に新しいところです。前回、驚くような値上げがされたのが確か2022年だったと思うので、わずか3年でまたもやの大幅値上げです。今回の値上げによって、私が主に使っているブローニー判と4×5判のリバーサルフィルムは以下のような価格になりました。いずれも新宿の大手量販店で販売されている価格です。
PROVIA 100F(120) 5本パック : \21,330
Velvia 50 (120) 5本パック : \25,300
Velvia 100(120) 5本パック : \21,040
PROVIA 100F(4×5) 1箱 : \25,300
Velvia 100 (4×5) 1箱 : \24,970
いずれも税込みの価格ですが、この量販店の場合、10%のポイント還元があるので実質的にはこれより1割安い価格という換算になります。
このほかにも通販サイトなどでも販売されていますが、ほとんどがこれ以上の価格設定になっています。また、リバーサルフィルムを扱っている販売店は通販も含めて非常に少ないというのが実態です。
今回の値上げでは4×5判は対象から外れていたようですが、ブローニー判は驚くべき値上げ幅で、120フィルム1本あたりに換算すると4,200円~5,060円ほどになったことになります。120サイズのフィルム1本で撮影できる枚数は、66判で12枚、67判で10枚、69判で8枚ですから、いちばん安いフィルムを使って66判で撮った場合でも1枚当たりの価格は350円、最も高いフィルムを使って69判で撮った場合は1枚当たり632円という計算になります。もちろん、これには現像代は含まれていません。
フィルム全盛だった頃は、120サイズのフィルムが1本500円ほどで購入できたので、実に8倍から10倍になったということになります。わずか10数年ほどで8倍にも10倍にも値上がりした商品というのを私は知りません。慶応2年の米騒動でもここまでの価格高騰はなかったのではないかと思います。
フィルム価格がどんなに高かろうが、それをどうしても使いたければその価格で買わざるを得ないわけですが、やはり、今のように異常とも思える高額になっていると、自ずとフィルムの使い方にも変化が出てきます。
フィルムがリーズナブルな価格で購入できた時代、そんなに大昔のことではなく、たかだか今から10数年ほど前のことですが、その当時の撮影スタイルはというと、今から思うとほんとうに贅沢な使い方をしていました。
4×5判の場合は1回の撮影でフィルムホルダーの両面、つまり2枚を使用していました。そして、まず1枚だけを現像して、露出等に問題がなければそれを採用し、もう1枚は現像もせずに破棄していました。
もし、1枚目の現像で露出がアンダーとかオーバーだった場合のみ、2枚目を増感現像なり減感現像なりをしていたわけです。ですから、1箱に20枚のフィルムが入っていても、実質的には10枚しか使えないのと同じということです。
また、ブローニーフィルムの場合(当時は220サイズのフィルムを使うことがほとんどでしたがが)、やはり同じ場所で露出を変えて2枚~3枚の撮影をすることが多かったです。一眼レフカメラにはオートブラケット機能がついているものがありますが、あれと同じ感覚で、測光した露出に対して±0.5段とか±1段というように露出を変えて複数枚撮影しておくという方法です。4×5判のようにまず1枚を現像して、その結果によってもう1枚を現像するというようにはいかないので、露出を変えて撮影したすべてのコマが同時に現像されてしまいますが、露出による失敗を防ぐという意味で多くの人が採用していたのではないかと思います。
4×5判にしてもブローニー判にしても、今のようにフィルムが高額ではなかったため、露出をミスってせっかく撮影したコマがボツになってしまうよりは、少々もったいないという思いはあっても贅沢に使えたわけです。
ところが10数年ほど前からフィルムの価格がじわじわと上がり始め、2022年にはタガが外れたように高騰し、そして今回のさらなる高騰で、さすがに従来のようなフィルムをぜいたくに使う撮影方法はできなくなってしまったというのが正直なところです。ブローニーフィルムで1コマあたり500円以上、4×5判では1枚あたり1,250円もするフィルムを、いくら最適な露出を得るためとはいえ、同じ場所、同じ構図で複数枚撮るというのは経済的にも精神的にも耐えがたいものがあります。
このような状況になってしまったため、ここ数年は従来のように複数枚撮るという方法はやめて、基本的には同じ構図では1枚のみの撮影というようにスタイルを変更してきました。最終的に必要なのはその場所での適正露出で写された1枚だけなので、1枚で適正露出に仕上げるように取り組もうという撮影スタイルです。
意気込みは良いのですが、同一場所で1枚しか撮らないとなると露出の失敗は許されません。今まで以上に慎重に測光を行ない、露出を決めていきます。当然、撮影に要する時間は従来よりも長くかかってしまいます。撮影の対象が自然風景の場合、シャッターを切るまでの時間が長くなるということはあまり好ましいことではなく、その間にも光や風の状況などは刻々と変化するわけですから、のんびりやっているとシャッターチャンスを逃すなんていうことにもなりかねません。とはいえ、急いでやって露出をミスるわけにもいかないので、落ち着いて、確実に、迅速にということが求められます。
以前であれば、最終的な露出に迷うようなときは、露出を変えて複数枚撮影しておけばいいという、いわば安易な方法があったのですが、その逃げ道が閉ざされてしまった感じです。
一方で、このスタイルに変えてからフィルムの消費量が従来の1/2~1/3に減りました。同じカットを何枚も撮らないのであたり前なのですが、貴重なフィルムを無駄にしなくて済むようになったというのは経済的にはもちろん、精神衛生上的にも喜ばしいことです。フィルム価格が安いときはあまり気にならなかったのですが、価格が上昇するにつれ、フィルムを無駄にするということに後ろめたいような気持ちがあったのですが、それからも解放された気分です。
また、露出の失敗も従来よりも減っていて、やはり、撮影時に慎重になっている証かも知れません。
確かに、撮影に時間がかかりすぎるというのは好ましいことではありません。ですが、露出を慎重に行なうということは、対象の被写体をじっくりと観察するということであり、それを自分なりにどのようにフィルムに記録するかというプロセスの重みが増すということにつながります。つまり、被写体と対峙する時間や密度が高くなっているといったらよいのかも知れません。
そして、ここは本当に自分が写したい場所、撮りたい被写体なのかという自問自答のようなことを繰り返すようになりました。昔のようにとりあえず撮っておけということが非常に少なくなり、撮りたいものをどう撮るかということを深く考えるようになったのも変化のひとつです。
時間をかけて1枚撮るよりも、たくさん撮ってその中から良いものを選択するというのも然りですが、高額なフィルムを使っている以上、その望みは叶いません。
ネット上には、さすがにもうフィルムは使っていられないので断念したとか、フィルムはその感触を忘れないように1年に1本くらいが限度、などという書き込みがたくさん見られます。そういった意見のどれもが尤もで賛同できます。
フィルムの消費量が激減したうえに、原材料や人件費などの高騰、設備の維持費等々、フィルムメーカーにとってはお金がかかることばかりということは十分に理解できますが、いったいこの先、リバーサルフィルムはさらなる価格上昇をしながらでも生産を続けてもらえるのか、あるいは、どこかのタイミングで生産終了となってしまうのか、ギリギリのところに来ているような気がします。
私の場合、撮影のスタイルを変えたことでフィルムの消費量が1/2~1/3に減少したと書きましたが、価格が10倍にもなっているので、かかるコストとしては3倍~5倍になっているわけで、やはり切実な問題です。
もし、リバーサルフィルムがさらに高額になったり、あるいは生産終了となった場合は全面的にモノクロフィルムに切り替えようかなとも思っています。いまも3割ほどはモノクロフィルムを使っていますし、幸いにもモノクロフィルムはまだ種類もあって、高くなったとはいえ、リバーサルフィルムに比べれば安価で購入できます。また、すぐに生産終了ということもなさそうです。
それにしてもこの高価格であっても需要があるらしく、売り切れになっていることも珍しくありません。そして、入荷時期は未定となっていますから生産量はごくわずかで、しかも常に生産しているわけではなさそうです。ある程度まとまった量を生産しないと効率が悪いですから、数ヶ月に一度というような感じで生産しているのかも知れません。
新宿の大手量販店の店頭在庫を見ても数箱ほどしか置いてないので、供給量は本当に少ないのだろうと想像に難くありません。
また、大手ネットオークションサイトにもリバーサルフィルムの出品がありますがその多くは使用期限切れで、それこそ驚くような価格設定がされています。
いま自宅の冷蔵庫にストックしてあるリバーサルフィルムは、新たに買い足しを行なわずにこれまでと同じような調子で使っていくと、1年から1年半くらいで底をつくと思われます。そうなったときにはリバーサルから足を洗うか、さらなる撮影スタイルの変化を取り入れながらでも細々と続けていくか、つらい判断が求められそうです。
(2025.6.25)