第199話 フィルムカメラやレンズの修理やメンテナンスに使うツールのあれこれ

 私が使っているカメラのほとんどはフィルムカメラで、しかも半世紀以上も前のものばかりです。今のカメラのように電子化されている部分も少なく、故障する頻度もそれほど高くはありませんが、とはいえ機械ものなので時には動作に異常をきたすこともあります。また、機械ものゆえ、時どきはメンテナンスをする必要もあります。手に負えない故障などは専門のところにお願いせざるを得ませんが、軽微なものや簡単なメンテナンスなどは自分で行ないます。
 今回は自分でメンテナンスや修理を行なうために私が使っているツールのいくつかをご紹介します。
 私は修理専門業者ではありませんので特殊なツールなどは持ち合わせておらず、一般に市販されているものばかりですが、およそこのくらいのものを揃えておけばある程度までの対応は可能かと思われます。

精密ドライバー

 何はなくともこれは必要です。カメラに使われているネジは非常に小さいものが多いので、やはり精密ドライバーは必須です。

 上の写真の左側に写っているドライバーのセットで大抵のことは対応できます。+ドライバーと-ドライバーが3本ずつ入っています。いまは100円ショップでもこのようなセットが売られていて、それでも十分使えますが、やはり素材が柔らかいのか、固着したようなネジで無理な力をかけるとドライバーが負けてしまうことがあります。やはり、少しお金をかけてもしっかりしたものの方が無難であることは言うまでもありません。

 また、カメラには特殊なネジが使われていることも多く、これらのネジには専用のドライバーが必要で、私は何種類ものドライバービットがセットになっているものも用意しています。上の写真の右側がそれで、100種類のドラーバービットのほかにグリップなどがセットになっています。ネジに合わせてビットを交換しなければならないのでちょっと面倒ですが、使う頻度はそれほど高くないので、あれば便利というものです。

カニ目レンチ

 レンズのメンテナンスを行なうためにはぜひ必要な工具で、レンズを押さえているリングなどを外すときなどに使います。いろいろな形状のものが市販されていますが、私が使っているのは下の写真のようなごくシンプルなものです。

 レンチの先端が交換できるようになっていて、3種類がセットになっています。このカニ目レンチで対応できる径は約12mm~115mmですので、通常のレンズであれば問題なく使えます。
 使う上での自由度は高いのですが、対象物に合わせてレンチの幅を合わせるのに少々手間がかかるのが難点です。対象物の径にぴったり合わせないと、力を入れたときにレンチが外れてしまったり、リングの溝を削ってしまったり、最悪の場合、レンズに傷をつけてしまうこともありますので、手間がかかっても慎重に使わなければならない工具です。

オープナー

 カニ目レンチの先端をはめる溝が切ってないリングを外すときに使う工具です。ゴム製で、円錐形の先の方をカットした形状になっています。

 私が使っているのは6個セットのもので、いちばん大きなオープナーの外形が60mm、最も小さなオープナーの外形が14mmです。これをレンズを押さえているリングに押し当てて回すというものです。ゴムでできているので滑ることがなくリングを回すことができます。
 レンズにオープナーが接触した状態で回すとレンズを傷つける恐れがあるので、リングの内径よりも若干大きめのオープナーを使うことが望ましいです。

レンズサッカー

 レンズを鏡胴の中から取り出したり、また、外したレンズをもとに戻すときなどに使う工具で、簡単に言うと吸盤でレンズを吸いつけるものです。

 レンズを押さえているリングを外して、その下にあるレンズを取り出そうとしても工具などが入る隙間がありません。レンズを逆さまにして軽く振ればポトッと落ちてきますが、あまり好ましい方法ではありません。
 レンズサッカーの吸盤をレンズ面に押し当てて吸着し、上に引き上げるとレンズが簡単に取り出せます。吸盤からレンズを外すときは、持ち手の部分を軽く押して空気を吸盤の方に送ると簡単に外れます。
 私は吸盤の大きさが異なる2種類のレンズサッカーを使っています。それぞれ、吸盤の直径が20mmと30mmです。
 この工具に関しては大は小を兼ねることがなく、レンズ径よりも小さな吸盤でないと使うことができません。ただし、小さな吸盤であまり大きくて重いレンズに使うと、重さに耐えきれずに途中で落ちてしまう可能性があるので注意が必要ですが、吸盤にゆがみがなく、レンズにぴったりと密着すれば、かなりの重さに耐えられます。ちなみに、私が使っている小さいほうのレンズサッカー(20mm径)でも250gくらいは耐えられます。

ピンセット

 カメラに使用されているネジは小さくて、しかも狭いところにあることが多いので、指先だけでは限界がありピンセットが必要になります。
 ピンセットはいろいろな種類がありますが、私が使用しているのは下の写真の3種類です。

 左端のものは医療用のピンセットで、先端が山型に曲がっているタイプのものです。手を自然な形のままつかむことができるのでとても使いやすいピンセットです。先端はかなり細くなっていて、非常に小さなイモネジのようなものもしっかりと掴むことができます。

 写真中央は逆作動ピンセットと呼ばれるもので、ピンセットを指でつまむと先端が開き、指を放すと閉じるという、通常のピンセットとは逆の動作をします。
 小さなものをつかんで細かな作業をする場合、指の力加減によってつかんでいたものを落としてしまうということがありますが、この逆作動ピンセットを使うと指を放した状態で物を掴んでいてくれるので作業がしやすいという利点があります。小さなネジを掴んでネジ穴に入れるというようなときに便利です。

 そして右端のは切手用のピンセットです。先端が板状で平べったくなっています。
 これは小さなものを掴むのには向いておらず、薄いシート状のものを掴むときなどに使います。例えば、レンズの絞り羽根などを掴むときなどに使っています。ある程度広い面積を掴むので、傷がついたり折れ曲がったりということが防げます。

 ピンセットは安いものだと数百円からありますが、2本の先端がピタッと一致していることと、少々力を加えても変形しない材質のものが好ましいです。

レンズ締め付けリング用レンチ

 大判レンズ以外には使うことがないかも知れませんが、大判レンズのメンテナンス時にはあると便利な工具です。大判レンズをレンズボードに取り付ける際の締め付けリングを回すためのレンチです。

 正式名称は何というのか知りませんが、私が使っているのはトヨ製で、「シャッターレンチ」という商品名で販売されています。
 長方形の鉄板の四辺がレンチになっていて、以下の6種類のシャッターに対応できます。

  ・COPAL-0
  ・COLAP-1
  ・SEIKO-0
  ・SEIKO-1
  ・COMPUR-0
  ・COMPUR-1

 レンズ締め付けリングには溝が切ってあるので、そこにこのレンチをはめて回します。
 カニ目レンチでも問題なく代用できますが、専用工具なのでやはり使いやすいです。ただし、トヨ製は販売終了になっているかも知れません。何しろ、大判レンズそのものを使う人が少ないですから、致し方ありません。

ノギス

 寸法を測る測定器ですが、長さのほかに外径、内径、深さも測ることができます。

 一般的なノギスは1/20mm(0.05mm)まで測ることのできる目盛りが刻まれていますが、廉価なものは1/10mm(0.1mm)までというものもあるようです。また、最近は計測値をデジタル表記してくれるものもありますが、私の使っているのは昔ながらのアナログ式です。
 カメラやレンズのメンテナンスにそれほど出番が多いわけではありませんが、ちょっと壊れたところを補修するとか、あるいは代替の部品を使うときなど、正確な寸法が必要な時にあると便利です。
 長さを測ると言っても物差しやメジャーとは用途が異なるので、あまり大きな寸法のものまで測れる必要はなく、150mmくらいまで測ることができるもので十分だと思います。

無水エタノール

 清掃用になくてはならない必需品です。
 新型コロナが流行していたころは需要が急増して品薄、かつ価格も高騰していましたが、最近は在庫も価格も落ち着いてきているようです。

 私が良く購入しているのは上の写真の商品です。400ml入りのボトルですが、これだけあれば軽く1年以上は使えます。このボトルのままだと使いにくいので、レンズクリーナーの空きボトルに移して使っています(写真右側)。

 同じアルコールでもアルコールランプなどに使う燃料用アルコールは1/4ほどの価格で購入できますが、人体に有害なので清掃用には使用しないよう注意が必要です。

クリーニング用ペーパークロス

 無水エタノールと対で必要なのがペーパークロスです。
 これもいろいろなタイプのものが販売されていますが、私は主に下の二つを使用しています。

 一つは「HCLデジタルクリーニングペーパー」、そしてもう一つが「CURA MICRO WIPER」です。
 HCLデジタルクリーニングペーパーは厚みがあって非常にしっかりとしておりながらソフトな感触、サイズも150x180mmと大きめです。無水エタノールやクリーナーをしっかり吸い込んで保持してくれるのでとても使いやすいのですが、お値段も高めです。
 一方、CURA MICRO WIPERはHCLに比べるとかなり薄くてサイズも半分ほどですが、小さなレンズやちょっとしたところのクリーニングには十分だと思います。価格もHCLの半分ほどです。

 安価なペーパークロスだと紙質が硬かったり、ペーパー自体から紙粉が出るものもありますが、この二つのペーパークロスはそういったこともなく、とても使いやすいと思っています。

グリス

 レンズのヘリコイドなどに塗布して動きを滑らかにするもので、動きが鈍くなってきたような可動部分のメンテナンスに準備しておくとよいと思います。
 大量に使うものではないので、小さな容量のもので構わないと思います。

 私が常備しているのは、ジャパンホビーツールという会社から販売されている光学用ヘリコイドです。硬さがいろいろあるのですが、私は#30を使っています。重めのヘリコイドが好みの場合は#250くらいが良いかもしれません。
 また、レンズのほかに大判カメラのレール部分にも使用していますが、滑らかになりますが軽すぎることはなく、とても良い具合になります。

拡大鏡

 カメラやレンズはとにかく小さな部品が多いので、肉眼だけで作業するのは困難なことがあります。そんな時は無理をせずに拡大鏡を使用しています。
 私が使っているのは倍率の異なるレンズが5枚セットになっている拡大鏡です。

 使用状況によって1.0x、1.5x、2.0x、2.5x、3.5xからレンズを選択してフレームのところに取り付けます。フレームの先端には小さなLED照明がついていて、対象物を照らしてくれます。
 私がよく使うのは1.0xか1.5xで、それ以上の倍率のものはほとんど使うことがありません。倍率が高すぎると視野が狭くなってしまい、作業するのに具合がよくないというのと、そこまでの倍率を必要としないというのが理由です。

 細かな作業をするにはとても便利ではありますが、フレームが重いのが難点です。倍率を変えられなくても良いので、普通の眼鏡のような拡大鏡の方が便利かもしれません。

注射器

 きわめてピンポイントで注油したい時などにこれがあると便利です。もちろん、お医者さんが使うような注射器ではありません。

 シャッター内部の特定のシャフトだけに注油をするような場合、プランジャーを押し出すとドバっと出てしまうので、プランジャーはそのままにして、針先を注油したい場所に触れるとほんの僅かの量がシャフトに伝わっていきます。ほかの部分には全く影響しないほどの量です。
 一度、油類を入れてしまうと中を完全に洗浄するのは難しいので、それ専用に使うのが良いと思います。別の液体を入れる場合は、新たに注射器を用意するのが無難です。高額なものではないので、2~3本用意しておけば十分だと思います。

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 今回ご紹介したツール類は特殊なものはなく、どれも容易に入手することができるものばかりですが、それぞれの種類がたくさんあって、どれを選べばよいか迷ってしまうものばかりです。
 また、価格もピンキリで、安価に揃えることももちろんできますが、やはり価格の高いものは品質的にも機能的にもしっかりしていると思います。安くて使い捨てのようにしても構わないものと、長く使い続けるものとを分けて考えた方が良いかも知れません。

 なお、今回は電気系のツールについては触れませんでしたが、電気系統の修理が必要になることもありますので、それら用のツールについては別途、ご紹介したいと思います。

(2025.10.21)

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