第206話 ローデンシュトック RODENSTOCKの大判レンズ ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 MC

 私はローデンシュトックのレンズは数本しか持っていませんが、その中の1本がこのゲロナーGeronar 150mm F6.3 というレンズです。「ジェロナー」と発音する方もいらっしゃいますが、私は「ゲロナー」と言います。どちらが正しいのかよくわかりませんが、「ゲロナー」の方がドイツ語っぽくて好きです。

 ローデンシュトックのパンフレットによると、このレンズは学生やカメラ初心者などにも機材を揃えやすいようにということから廉価版のレンズとして開発されたと記述されています。一方、価格を抑えるために絞り開放値やイメージサークルを犠牲にしたとも書かれています。
 それが理由なのかどうかはわかりませんが、日本では代理店が取り扱わなかったらしく、日本の市場に出回っている数はとても少ないように思います。私もこのレンズの存在自体は知っていましたが現物を見たことはなく、今から10年ほど前に友人から譲り受けたものです。
 私の持っているレンズはシリアル番号からすると、1990~1992年頃に製造されたものではないかと思われますので、比較的新しい部類に入るのではないかと思います。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 の主な仕様

 ゲロナーには通常のGeronarと、広角タイプのGeronar WAの2種類が存在しており、カタログを見ると通常タイプのGeronarは150mm、210mm、300mmの3本が販売されているようですが、広角タイプのGeronae WAは90mmの1本だけのようです。
 ゲロナー Geronarは凸凹凸の3群3枚のトリプレット構成というレンズで、最近ではあまりお目にかかることのないレンズ構成です。かつて、カールツァイスの「トリオター」というレンズを持っていたことがありますが、そのレンズと基本的には同様の構成かと思われます。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ180mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 3群3枚
   最小絞り : 64
   絞り羽根 : 7枚
   シャッター  : COPAL No.0
   シャッター速度 : T.B.1~1/500
   包括角度 : 約62°
   フィルター取付ネジ : 40.5mm
   前枠外径寸法 : Φ42mm
   後枠外径寸法 : Φ31.6mm
   全長  : 34.2mm
   重量  : 145g (レンズ締め付けリングを含む)

 上記の数値を見てもお分かりのように、とてもコンパクトなレンズです。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ42mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の準標準レンズあたりといったところです。
 4×5判の対角画角が約54.3度、横位置に構えたときの水平画角が約43.6度、垂直画角が約35.5度という値です。
 ただし、このレンズのフランジバックが150mmよりも少し短くて、簡易的に実測してみたところ147mm前後という数値でした。正確には焦点距離が約147mmのレンズということになりますので、実際の画角は上記の値よりも若干大きめになると思います。

 シャッターはCOPALの0番が使われています。絞りはF6.3からF64まであり、1/3段ごとに目盛りが設けられていますが一眼レフカメラ用のレンズみたいなクリックはありません。また、絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはなく、綺麗な7角形を保っています。
 レンズの前枠径が42mmととても小さいのでシャッターの目盛りの上に覆いかぶさるようなこともなく、操作性はとても良好です。

 イメージサークルは180mm(F22)しかないので4×5判での使用が限界で、大きなアオリには耐えられません。ごく普通の風景写真を撮るには問題ないと思いますが、ブツ撮りには向いていません。
 開放絞りがF6.3と、一般的なこの焦点距離のレンズに比べると1/3段ほど暗いことになりますが、特に不都合は感じられません。
 旧フジノンのW.Sシリーズの中に150mm F6.3 というレンズがありましたが、大きさも仕様も非常に似通った感じのするレンズです。ただし、W.Sシリーズはシングルコーティングでしたが、Geronarはマルチコーティングになっています。また、フジノンのW.S 150mmはテッサータイプでしたので、レンズ構成も異なっています。
 小さくて軽いので、携行するにはとてもありがたいレンズです。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 のボケ具合と解像度

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約1.5m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF6.3(開放)で撮影したものです。ピント位置を中心にして後方に8cmと16cmの位置に、そして前方にも8cmと16cmの位置に、合計5枚のテストチャートを設置した状態で撮影をしました。わかり易いようにテストチャートの部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置に設置したテストチャート部分を切り出したものです。

 ボケ方としては全体的にクセのない素直なボケではないかと思います。
 また、前ボケと後ボケも非常に似通っているのが印象的ですが、比較してみると前ボケの方がわずかに柔らかな感じを受けます。レンズによっては前ボケと後ボケでずいぶんと様子の異なるものもありますが、このレンズはほとんど見分けがつかないといった感じです。

 次に、絞りをF11にして同様に撮影、テストチャート部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置のものです。

 当然、ボケ方は小さくなっていますが、素直なボケ方ですし、前ボケと後ボケも非常に似通っているのは絞り開放の時と同様です。

 参考までに、同じローデンシュトックのSironar-N 150mm 1:5.6 というレンズのボケ方の写真を掲載しておきます。
 撮影条件はGeronarと同じで、絞りはGeronarの開放と同じF6.3にして撮影しました。
 同様にテストチャート部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置のものです。

 ボケ方としては似ているように思いますが、Sironar-N のボケの方がわずかにふわっとした印象を受けます。平面のチャートを撮影したのでこういう言い方は適切ではないかもしれませんが、Sironar-N の方がボケに立体感があるように思います。

 また、ピントの合っている位置のチャートの写真を見ると、Sironar-N の方がシャープな感じがします。撮影する際のピントの合わせ方の問題のような気もしますが、ちょっと気になったので簡易的に解像度の確認もしてみました。
 使用したのはISO-12233準拠のテストチャートです。

 このチャートをフレームいっぱいになるように撮影し、比較しやすいように一部分を切り出したのが下の3枚の写真です。上から、Geronar 150mm 開放(F6.3)、Geronar 150mm 絞りF11、Sironar-N 150mm 絞りF6.3 の順です。

▲Geronar 150mm F6.3
▲Geronar 150mm F11
▲Sironar-N 150mm F6.3

 こうして3枚を比較してみると、Geronar 150mm の絞り開放で撮影したものは解像度が若干低い感じがします。コントラストも低めで、数字や線の輪郭がぼやけているように見えます。
 しかし、絞りをF11まで絞り込むとだいぶ改善されており、数字や線の輪郭もずいぶんとはっきりした感じになります。コントラストが向上しているのがわかると思います。

 そして3枚目の写真はSironar-N 150mm ですが、絞りF6.3(開放から1/3段の絞り込み)にもかかわらず非常にシャープでコントラストの高い状態になっていると思います。数字や線のエッジがGeronar 150mm に比べるとくっきりとしています。
 やはり、廉価版ということである程度割り切った性能のレンズということで販売していたのは上にも書いた通りですが、こうして比較してみると差があるのがわかります。
 この差が実際の使用上でどの程度の影響があるかというと、私のように風景を対象としている分にはほとんど気にならないのではないかと思います。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 の作例

 ということで、Geronar 150mm 1:6.3 で撮影した写真をいくつかご紹介します。撮影した時期は異なりますが、いずれも青森県の奥入瀬渓流で撮影したものです。また、使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、使用したフィルムは富士フイルムのベルビア100Fです。

 まず1枚目は、川岸に生えていた矢車草を撮影したものです。

 葉っぱの形が端午の節句の鯉のぼりにつけられる矢車に似ていることからこの名がつけられたようです。日本全国の谷沿いの林床などでごく普通に見ることが出来る野草で、奥入瀬渓流にもたくさん育成しています。新緑の5月~6月頃は葉っぱの色も鮮やかで、個人的には奥入瀬川の清流との相性がとても良いと思っています。

 この写真はアオリを使わず、ノーマルの状態で撮影しています。川の流れが表現できるようにスローシャッターを切っていますが、ほぼ無風状態だったので葉っぱもほとんどブレることなく写ってくれました。
 背景がはっきりしすぎないようにということで、絞りはF16での撮影です。そのため、葉っぱの手前の方がピントから外れていますが、鋸歯の感じも良く出ていて、シャープな写りをしているのではないかと思います。
 背景の岩や川中に引っかかっている木の枝などのボケ方も柔らかな感じで、そして綺麗なボケだと思います。

 2枚目は同じく奥入瀬渓流で撮影した紅葉の写真です。

 鮮やかなオレンジ色に紅葉している樹があったので、その色をより引き立てるために手前に黒っぽい樹の幹を配してみました。奥入瀬渓流は紅葉よりも黄色く色づく、すなわち黄葉の方が圧倒的に多いので、このような赤く色づく紅葉はとても目立ちます。

 この写真は右手前の幹をぼかしたくなかったので、軽く右にスイングアオリをかけています。このレンズはイメージサークルに余裕がなく、あまり大きくあおるとけられてしまうので注意が必要です。
 また、この写真はパンフォーカスに近い状態で撮影しているのでボケの具合はほとんどわかりませんが、細い枝先などもしっかりと解像しており、このような被写体では高価なレンズにも引けを取らない写りをしていると思います。

 この日は全体に曇り空で、柔らかな光が渓流全体にまんべんなく回り込んでいるといった状態でした。そのため、紅葉もとても柔らかなしっとりとした感じの描写になってくれました。使用したフィルムはベルビア100Fなので、どちらかというとあっさりした発色傾向にあるのですが、実際に肉眼で見たよりも鮮やかな色になっていると思います。ヌケの良い発色をするレンズという感じがします。

 そして3枚目は、奥入瀬渓流の本流にかかる唯一の滝、銚子大滝の写真です。

 この写真を撮影したのは9月の早朝、川霧が立ち込めている日でした。滝つぼのあたりが白く煙っているのがわかると思います。これを撮影したひと月ほど前、青森県に発生した線状降水帯の影響で奥入瀬渓流も大洪水になったらしく、その時の爪痕が生々しく残っていました。

 ようやく朝陽が渓流に差し込み始めた時間帯ですが、手前のあたりにはまだ日が入り込んおらず、滝と手間の流れとの明暗差が大きい状態だったので、滝が真っ白に飛んでしまわないように露出を決めています。全体としては明るくなり過ぎないように、露出をアンダー気味にしています。
 また、手前の流れや左下の岩にもピントを合わせたかったのでフロントティルトのアオリをかけているのですが、レンズのイメージサークルが小さいのでケラレが生じてしまうため、バックティルトも併用しています。

 これも2枚目の写真と同様、パンフォーカス気味にして撮影しているのでボケの具合はわかりにくいですが、解像度については十分に評価できるレベルではないかと思います。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、川中に引っかかった枝や川岸の小石などもとても鮮明に写し取られています。ベルビア100Fらしい発色も気に入っています。

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 テストチャートの比較撮影の結果でわかるように、このレンズは絞り開放だとやはり解像度が少し低下するようです。F11あたりまで絞り込めばほとんど問題のないレベルになると思いますが、開放にして浅い被写界深度で撮影したいというような場合は、解像度の低下が気になるかもしれません。近接撮影や鮮鋭度を重要視するような撮影には向いていないように思います。
 もともとのコンセプトが学生や初心者にも幅広く使ってほしいということですから、あまりシビアなものを求めるのは無理があるという気がします。しかしながら、風景撮影などでは十分な描写をしてくれるし、癖のないボケやヌケの良い発色など、廉価版とは思えないレンズだと思います。
 そして、何よりも小型軽量というのが風景撮影にはありがたい存在です。150mmのレンズとしては私が個人的にいちばん気に入っているシュナイダーのAPO-SYMMAR 150mm 1:5.6 よりも二回り以上も小柄なレンズです。シビアな目で画質を比べると差はありますが、十分に期待に応えてくれるレンズであると思っています。

 日本国内ではほとんどお目にかかることがりませんが、海外の中古市場なども含めて、Geronarの他の焦点距離のレンズも使ってみたい衝動にかられます。

(2026.4.28)

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