第212話 INNOREL インノレルの3WAY微動ギア雲台 GR7の使用感

 私は撮影用の三脚を何台か持っていますが、メインで使っている三脚にはマンフロットのギア雲台を取り付けています。あらためて説明するまでもありませんが、ギア雲台はチルト、ロール、パンのそれぞれの軸の回転を内部の歯車の嚙み合わせで行なう仕組みになっており、カメラの向きや傾きを高精度に行なうことが出来ます。軸の回転をやめた場所でピタッと止まり、その状態からレンズの重さで微動してしまうというようなこともありません。
 その反面、一般的な3WAY雲台のように3軸を同時に動かして位置決めをするというスピーディーな操作はできませんが、風景撮影などで微妙なフレーミングをするときにはストレスなく使える雲台だと思っています。

 私がギア雲台を使い始めてかれこれ20年以上になります。使い始めた当時はギア雲台というとマンフロット製くらいしかなかったのですが、その後、アルカスイスなどから高精度のギア雲台が販売されましたが、いずれも高額過ぎて私には高嶺の花でとても手が出せませんでした。
 2020年頃から、主に中国メーカーが一般ユーザー向けに手ごろな価格のギア雲台を販売し始め、選択肢も広がってきました。
 そんな中から、INNORELというメーカーの「GR7」というギア雲台を使ってみたので、今回はその使用感をお伝えしたいと思います。

INNOREL GR7 の主な仕様

 インノレルという会社は不思議というか、ちょっと謎に包まれたような感じのする会社で、2014年に設立された三脚や雲台を専門に製作している会社のようです。中国の深圳に本社を置いているようですが、自社のホームページもなく、商品の紹介はもっぱらアマゾンなどのサイトで行なわれています。
 記憶が定かではないのですが、7~8年ほど前にはヨドバシカメラの三脚売り場にもインノレルの製品が並んでいたように思います。理由はわかりませんが現在は扱っていないようです。しかし、同じ中国製のSIRUI シルイの三脚は今も扱っています。
 アマゾンのサイトにあるインノレルのページを見ると、三脚や一脚、雲台のほかにカメラバッグ、アクセサリーなどの小物も販売されています。私はインノレルの三脚や一脚を実際に使ったことがないので評価はできませんが、掲載されている写真を見る限り、とてもきれいに加工された製品であるように思います。

 今回の対象としているギア雲台 GR7 も外見はとてもきれいな仕上がりになっています。
 ちなみにこの雲台の価格ですが、ネット通販で概ね20,000円前後で販売されています(2026年8月時点)。

 この雲台の基本的な仕様は以下の通りです。いずれも、インノレルの製品紹介ページからの抜粋です。

  ・チルト : 160°- 0°- 40°
  ・ロール : 110° - 0°- 40°
  ・パン : 360°
  ・重量 : 1.04kg
  ・高さ : 120mm
  ・幅  : 130mm
  ・奥行 : 105mm
  ・耐荷重 : 6kg

 各回転軸には全周に渡り5°間隔で目盛りが刻まれていますが、パン軸以外は使用できない範囲があるのは上記の通りです。
 雲台底面(三脚取付け面)には3/8″のネジ穴があり、ほとんどの三脚への取り付けが可能です。
 カメラ取付部はアルカスイス規格に準拠しており、60mm x 38mm角のクイックプレートが付属しています。
 また、その他にパノラマパンベースとショートセンターコラム、そして結構しっかりとした作りのソフトケースが付属していますが、はっきり言ってケースは不要と思います。雲台を三脚から外して持ち歩くなどということはほとんどないので、このケースは何に使うのだろう、保管用かな、などと思ってます。

INNOREL GR7 の使用感

 さて、GR7を実際に使ってみた感想ですが、基本的な操作方法に関してはマンフロットの410や他社のギア雲台と同じで、ギア雲台に慣れている人であれば違和感なく使えると思います。
 各軸の回転は微動ノブと粗動ノブによる2通りが可能で、微動ノブは半回転(180°)で軸が約5°回転します。ノブを回した時のガタはまったくと言ってよいほど感じられず、スムーズに動きますので、0.1°レベルでの位置合わせが可能です。ノブは少々重く感じられるかもしれませんが、軽すぎてスカスカ回ってしまうよりも微妙な調整がしやすく、また、安心感もあります。
 微動ノブの周囲にはローレット加工が施されており、触った感触もとてもよく、指が滑ることもなくノブを回すことが出来ます。

 粗動ノブを右方向(時計回り)に少し回転させると微動ノブがリリースされ、一般的な3WAY雲台のようにグルンと回すことが出来ます。粗動ノブは6角の手裏剣のような形をしており、指を引っかける位置が6か所あるのでとても使いやすいです。
 また、この粗動ノブにはロック機構がついていて、右方向に60°ほど回すとノブの裏側に設けられた溝にピンが嵌り込み、その位置でノブがロックされるようになっています。ロックされた状態だと、粗動ノブから手を放しても各軸の回転がフリーになるので、大きく回転させたい場合には便利な仕組みだと思います。
 このロックを解除するには粗動ノブの付け根のところにある小さなボタンのようなものを押し込む操作を行ないます。

 粗動ノブのロック機構は便利ではありますが、ロックされるまでの粗動ノブの回転角が小さすぎて、ロックさせたくないのにカチッとピンが嵌ってロックされてしまうことが多いので、ロックまでの回転角をもう少し大きくとってあるとより使い易いと思います。

 チルト(カメラの上下方向の回転)はチルトダウン(下方向)に約160°まで可能ですので、レンズが真下を向くどころか、三脚等に干渉さえしなければ撮影者の足元後方を向くくらいまで回転が可能です。実際にそんな使い方をすることはないと思いますが、可動範囲が大きいということは歓迎すべきことかも知れません。

 一方、チルトアップ(上方向)は約40°です。この位置まで回すとパン軸とロール軸が干渉してしまい、それ以上は動かせなくなります。

 多くのギア雲台のチルトアップが15°~30°であるということを考えると、40°というのは評価に値すると思います。
 ただし、このGR7に限らずチルトアップ角が少ないというのはギア雲台の泣き所と言っても良く、空とか木の上の方とか、高い位置を撮影しようとすると雲台の調整だけでは無理があり、三脚の脚の長さを調整するなどの工夫が必要になります。
 カメラの向きを前後反対にすれば真上を向くところまでチルトアップが可能になりますが、雲台のノブが向こう側に行ってしまうのでとても使いにくくなってしまいます。
 センターコラムを装着することで三脚との干渉を防ぎ、チルトアップ角を稼ぐことのできる雲台もありますが、このGR7は雲台のところで干渉してしまうので、付属のセンターコラムを取り付けても防ぎようがありません。

 カメラを左右に振るロール角は向かって左方向に約110°、右方向に約40°で、こちらもチルト角と同じで右方向は雲台レベルで干渉を起こしてしまいます。

 左方向はレンズが真下を向いてもまだ余裕があります。

 可動範囲や操作性については他のギア雲台と比べてもそん色なく、各部の動きも適度な重さがあってしっかりとした作りであることが伺えます。

 さて、私がギア雲台で最も重要視しているのが、カメラを取り付けたときの各部のガタやぐらつきがないかということです。雲台だけの状態でガタやぐらつきを確認しても全く感じられませんでしたので、かなり高精度に加工されているのではないかと思われます。
 そこで、私が良く使っている中判カメラ、PENTAX67Ⅱに200mmのレンズを装着してこの雲台に取り付けてみました。
 各軸をニュートラル(0°)の位置にして、カメラを上下左右に押してみるとガタはほとんど感じられませんでしたが、軸周りにわずかに動くのが確認されました。
 レンズが下を向く方向、あるいは上を向く方向にカメラを押すと、チルト軸周りにたわむのがわかります。何度というほど大きく動くわけではありませんが、雲台内部の各可動部のほんのわずかの遊びが積算されている感じです。
 同様に左右方向にカメラを回転させる力を加えると、ロール軸周りにたわむのがわかります。

 PENTAX67用の200mmレンズは重さ約800g、どちらかと言えば軽いレンズなので、少々重い300mmレンズを装着して同じように確認してみました。PENTAX67用の300mmレンズは重さが約1,650gあり、レンズ自体に三脚座がついているタイプです。カメラとレンズの重さを合わせると約3.3kgになります。
 この状態でカメラのお尻を持ち上げるように力を加えると、雲台のチルト軸方向にかなりのたわみが生じ、300mmレンズの先端が1cmほど下に動いてしまいます。チルト軸が動いてしまうということはありませんが、各部の剛性が不足していて全体がたわんでしまうという感じです。
 ロール軸周りについても同様でした。

 耐荷重が6kgとなっており、重さには十分耐えられるのでしょうが軸周りのモーメントには少々力不足という感じは否めません。
 短焦点レンズや重量の軽いレンズを使っている分にはほとんど問題はないと思われますが、長焦点レンズや重いレンズを使う場合には注意が必要です。

 蛇足ですが、このGR7によく似た、というよりそっくりなギア雲台が数社から販売されています。ネット通販ではNEEWERやARTCISEというブランドでよく見かけますが、いずれも中国のメーカーのようです。どこがルーツかわかりませんが、もしかしたらOEMのような商品なのかも知れません。

マンフロット Manfrotto 410 との比較

 私が長年使ってきたマンフロットの410というギア雲台との比較をしてみたいと思います。410の価格ですが、現在(2026年8月)は39,000円前後で販売されていることが多いようで、私が購入したころに比べると驚くほど高くなっています。
 この製品の発売年はわからないのですが、日本国内での販売は2005年頃からのようです。国内での販売開始から実に20年以上が経過していることになります。

 マンフロット410の主な仕様は以下の通りです。

  ・チルト : 90°- 0°- 30°
  ・ロール : 90° - 0°- 30°
  ・パン : 360°
  ・重量 : 1.22kg
  ・高さ : 130mm
  ・幅  : 150mm
  ・奥行 : 115mm
  ・耐荷重 : 5kg

 インノレルのGR7と比べると可動域が狭いのと、サイズや重量は若干大きくなっています。耐荷重も5kgなので、GR7よりも1kg下回っています。
 いちばんの違いはその外観、見た目です。
 GR7はNC加工機で処理されたようなシャープで美しい外観をしていますが、410は鋳型から取り出して黒く塗装しただけみたいな武骨な外観で、マンフロットらしさがにじみ出ているといった感じです。外観は機能や性能には直接影響がないとはいえ、両者を比べれば明らかにGR7の方が洗練されていると感じるのは私だけでないと思います。

 基本的な雲台の構造や操作性はほぼ同じですが、カメラを取り付けるカメラ台の部分がGR7はアルカスイス規格に準拠しているのに対して、マンフロット410は自社の独自規格のクイックシューになっています。
 このマンフロット独自のシューですが、非常にしっかりとした構造になっていてかなりの負荷にもびくともしないのではないかと思えるほどです。しかし、いかんせんプレートが大きすぎるのと、プレートをロックする機構が強力すぎて取り外しにとんでもなく力が必要です。プレートを強く固定しすぎると外すときにレバーをハンマーで叩かなければならないほどで、正直、とても使いにくいです。
 ですので、私はマンフロットのプレートの上にベルボンのクイックシューを取り付けて使っています。
 また、微動ノブや粗動ノブの動き自体はスムーズではありますが、GR7に比べると明らかに重いです。これは、内部のギアを押さえつけるバネの力が強いためだと思われます。
 また、長年使っているとギアが摩耗して抵抗が大きくなったり、グリスが劣化してスムーズな動きが損なわれるという症状が出ることがあります。この対策としては別のページで紹介をしていますので、興味のある方は下記のページをご覧ください。

  「第68話 ギア雲台 Manfrotto マンフロット410の分解・調整

 そして、ギア雲台において最も重要視する各軸のガタやぐらつきについてですが、結論から言うと、マンフロット410の方がはるかに優れていると言えます。
 まず、各軸周りのガタはまったくありません。かなり力を入れて動かそうとしても、歯車の遊びなどでカタカタするようなことは一切ありません。
 次に、重いカメラをのせたときのたわみですが、各軸を微動ノブや粗動ノブで動かした後、静止させた状態で取り付けたカメラやレンズに力を加えるとわずかに軸周りにたわむのが感じられます。ただし、GR7に比べるとそのたわみ量ははるかに小さい感じです。
 短焦点レンズや軽い機材であればその状態でも全く問題ありませんが、長焦点レンズなどの使用時でわずかなたわみも心配な場合は、粗動ノブを左方向(反時計回り)に回すとギュッと締め付け力が働き、たわみが全くと言ってよいほどなくなります。粗動ノブを回すと言ってもくるっと動くわけではなく、実際には1~2mmほど動くだけですが、これで内部の歯車を締め付ける機構になっているようです。
 この状態だと、PENTAX67Ⅱに300mmのレンズを装着してカメラやレンズに力を加えても微動だにしません。
 なお、粗動ノブを締め付けたままの状態で微動ノブを回そうとしても固くて思うように動きませんので、粗動ノブを右方向に回して締め付けを解除する必要があります。

 重い機材を載せての撮影でもしっかりとホールドしてくれ、少々の外力が加わっても影響を受けることがないというのは何よりの安心感です。さすが、ギア雲台の老舗的メーカーの製品だと思います。
 見てくれは武骨ですが、販売開始以来20年以上、細部の変更があったとはいえ大きくモデルチェンジすることなく今も現行品として存在しているのですから驚きです。

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 近年、中国メーカーの三脚や雲台などのカメラ用品が非常に増えたという印象があります。しかも、品質的にもそん色のないものが、それまでの有名メーカーの製品と比べるとかなりの低価格で販売されています。
 今回のインノレル GR7も例外ではなく、十分に実用に耐えうる製品が低価格で購入できますので、コスパという点では非常に優れているのではないかと思います。マンフロットの製品と比べると信頼性の面で一歩及ばないといったところはありますが、一般的な使用範囲であれば十分に実用的な製品と言えると思います。
 ただし、まだ使用して日が浅いので、5年、10年という長期間使用に耐えられるかという点については未知数です。しばらく使用してみて、何某かの気づきや発見があればあらためてご報告したいと思います。

(2026.8.28)

#INNOREL #Manfrotto #マンフロット #ギア雲台

第211話 大判カメラでの撮影時に使用するピント確認用ルーペの作成

 大判カメラはカメラ後部についているフォーカシングスクリーン(ピントグラス)に投影された像を確認しながら構図決めやピント合わせを行ないます。その際、肉眼では細部のピントの具合がわかりにくいので、ルーペを使い像を拡大した状態でピント合わせを行ないます。
 かつて、フィルム写真が全盛期だった頃は各社からいろいろなルーペが販売されており、私も数個持っていますが、なかなか使いやすくてしっくりとくるルーペというのがありません。私が持っているルーペはコンパクトなものがほとんどで、携帯には便利なのですが小さいがゆえにピント確認時はフォーカシングスクリーンに顔がつくくらいまで近づかなければならず、あまり使い勝手がよくありません。
 また、長焦点レンズの場合はあまり気になりませんが、短焦点レンズを使っているときはフォーカシングスクリーン周辺部ではレンズからの光が斜めに入ってくるため、ルーペをフォーカシングスクリーンに垂直に当てた状態だと暗くて像がよく見えません。そのため、ルーペを斜めにするのですが、そうすると小さなルーペではますます使い勝手がよくありません。

 そこで、フォーカシングスクリーンからある程度距離を保った状態でピント合わせのできるルーペを自作してみました。材料はできる限り身近にあるものを流用してコストをかけずに作ってみました。

作成するルーペの仕様

 今回作成するルーペは、フォーカシングスクリーンからある程度の距離を保つことが出来るということを第一条件とします。「ある程度の距離」というのはどれくらいかというと、私が主に使っている大判カメラのフォーカシングスクリーンフードを開いた状態でも、これに干渉されない程度の距離ということになります。具体的にはフォーカシングスクリーンから50~60mmのところにレンズ中心があり、そこから50~60mmの位置からルーペを覗くといった感じです。ですので、ルーペの全長は120mm前後ということになります。

 次にルーペの倍率ですが、一般的に市販されているピント確認用のルーペの倍率は6倍前後のものが多く、私が持っているルーペの倍率も6倍と7倍です。4~5倍でも使用上、さほど支障は感じませんが、細部のピントをミリミリと確認する場合は6倍くらいあった方が安心です。
 一方、倍率が高すぎると視野が狭くなってしまうのと、フォーカシングスクリーンのザラザラ感がクローズアップされてしまい、逆に使いにくくなってしまいます。個人差もあるでしょうが、私の場合、7倍という倍率はちょっと高すぎると感じています。
 ですので、今回作成するルーペの倍率は6倍とします。

 そしてルーペの大きさ(直径)ですが、大きい方が視野が広くなって使いやすいのは確かですが、大きくなると携行性が劣るので、そこの兼ね合いをどうするかです。私が持っている市販品ルーペのレンズ径は20mmとか25mmというもので、視野の広さという点で物足りなさを感じています。せめて倍くらいの視野が欲しいので、今回はレンズの直径を40mm程度とします。

 最後に、これは仕様というよりは使い勝手と言うべきですが、ルーペというと円筒形のものがほとんどです。レンズが円形をしているのであたり前ですが、鏡胴が円筒形の場合、フォーカシングスクリーンの四隅を見ようとするとルーペが枠にあたってしまい、確認ができないという問題があります。レンズの径が大きくなればなるほどこの問題は顕著になります。
 鏡胴全体は円筒形で構わないのですが、フォーカシングスクリーンに接するルーペの先端部は四角柱になるような形状とします。

 ということで、これらの条件を満たすためのレンズを選定しなければなりません。条件をもう一度整理すると、

  フォーカシングスクリーンからレンズまでの距離 : 約50mm
  倍率 : 約6倍
  レンズ径 : 約40mm

 となります。

 レンズの焦点距離(f)、レンズからフォーカシングスクリーンまでの距離(a)、およびレンズから虚像までの距離(b)の関係を図示すると下のようになります。

 ここで、a=50mm、倍率はm=6と設定しているので、レンズから虚像までの距離(b)は、

  b = m・a

 で求められます。
 よって、

  b = 6 x 50 = 300mm

 となります。

 次に、これを満たすレンズの焦点距離(f)ですが、

  1/a - 1/b = 1/f

 の関係式に各値を代入すると、

  1/f = 1/50 - 1/300

 よって、f = 60mm となります。

 すなわち、焦点距離60mmのレンズが必要ということです。

ルーペの作成に必要なパーツ類

 焦点距離60mmを1枚のレンズで実現するにはかなり分厚いレンズが必要になりますが、実際にそんなレンズはなかなか手に入らないので複数枚のレンズを重ねて目標の焦点距離を稼ぐことになります。
 毎度のごとくジャンク箱をあさってみたところ、φ40.5mm、No.8のクローズアップレンズが出てきました。φ55mmとかφ67mmとかは何枚かあったのですが、さすがに40.5mmなどという小さなものは使い道もなかったこともあり、私の在庫は1枚のみでした。もう1枚、同等以上の焦点距離のクローズアップレンズが必要になります。

 ちなみに、2枚のレンズを組み合わせた時の焦点距離は以下の式で求めることができます。

  1/f = 1/f₁ + 1/f₂ - d/(f₁ x f₂)

 この式で、f₁、f₂ はそれぞれのレンズの焦点距離、dはレンズ間の距離を表します。

 この式から、No.8のクローズアップレンズともう1枚を組み合わせて焦点距離60mmを作り出すには、焦点距離が約115mmのクローズアップレンズが必要ということになります。115mmなどという中途半端なクローズアップレンズはないでしょうから、焦点距離125mmのNo.8か、100mmのNo.10のいずれか1枚を組み合わせることになります。No.8+No.8の場合の焦点距離は約62.5mm、No.8+No.10の場合の焦点距離は約56mmになりますので、今回は後者の組み合わせ、すなわち、No.8+No.10を採用することにしました。
 なお、複数枚のレンズを組み合わせた場合、レンズとレンズの間に隙間ができ、それによって焦点距離が若干変わりますが、それほど精度を求めているわけではないので今回は無視することにします。

 No.10のクローズアップレンズは持ち合わせがないので、ネットで検索して600円ほどで購入しました。

 クローズアップレンズがそろえばそれをはめ込む鏡胴となる円筒形のパーツが必要になりますが、アサヒグループ食品のサプリ、ディアナチュラの空容器が使えそうでしたので、これを2個使うことにしました。


 そのほか、ルーペを首にかけるための紐などがあれば必要なパーツはOKです。

パーツの加工とルーペの組み立て

 まず、クローズアップレンズをはめ込む鏡胴をつくらなければなりません。ディアナチュラの空容器を下図のようにカット、加工します。

 外径が44mmの空容器を、蓋を取り除いた上端から約80mmの長さでカットします。
 次に、ルーペ内に光が入り込むのを防ぐため、空容器の内側に黒いラッカースプレーを吹き付けます。空容器の外側に遮光テープを巻いても良いのですが、ルーペの長さを調整できるようにするため、空容器の外側は滑らかな方が好ましいので内側の塗装を採用しました。
 この空容器を少し太めのφ48.8mmの空容器の内側にはめ込むわけですが、内径が47.2mmあって周囲に1.6mmの隙間が出来てしまいます。そこで、カットした残りの空容器から幅5mmほどのリングを切り出し、これをスペーサーとしてφ44mmの空容器の下端に巻き付け、接着します。これは、外側(φ48.8mm)の空容器の抜け落ち防止にもなります。

 実際にはこんな感じになります。

 さて、この細い方(φ44mm)の空容器内にクローズアップレンズをはめ込むわけですが、空容器の内径が43mm、クローズアップレンズの外形も43mmで、まるであつらえたようにピッタリです。少々きついですがゆっくり押し込んで、空容器の下端から少しはみ出ているくらいのところで止めておきます。これは、クローズアップレンズを外す際、指や工具を引っかけることが出来るようにするためです。
 なお、クローズアップレンズには凸メニスカスレンズが使われているため、2枚を同じ向きで重ねるのではなく、1枚をひっくり返してレンズの凸面同士が向かい合うように重ね合わせた方が像のゆがみが少なくて済みます。
 そこで、1枚のクローズアップレンズのレンズ押さえリングを外し、中のレンズを反転させて、再度レンズ押さえリングをはめ込みます。この状態で2枚のクローズアップレンズを重ねてねじ込めば向かい合わせの状態をつくることが出来ます。

 続いて太い方(φ48.8mm)の空容器の加工ですが、こちらは容器の底から約85mmのところでカットし、底に直径44mmの穴をあけます。この穴は細い方(φ44mm)の空容器を差し込むためのものです。穴の径は大きすぎるとスカスカになってしまうので、若干小さめの穴にしておくのが望ましいです。
 遮光用の塗装ですが、こちらは外側にメタリックのラッカースプレーを吹き付けました。黒いでも良いのですが、白と黒のツートンはあまり見てくれが良くないので、金属感のあるものを使ってみました。

 今回作成するルーペの条件の最後の項で、「鏡胴の先端を四角柱にする」ということを書きました。それを実現するため、太い方(φ48.8mm)の空容器の先端を90度間隔で4箇所、山折りを施します。厚さ1mmほどのプラスチック容器ですから、指で少し力を加えれば簡単に山折りが出来ます。これで先端が四角柱に近い形になります。下の写真は塗装前の状態です。

 こうして作成した2つの空容器、細い方(φ44mm)を太い方(φ48.8mm)の中に差し込めば組み立ては完了です。鏡胴の先端のところでピントが合うように、外側と内側の筒の位置を調整すればとりあえずルーペは完成です。
 レンズの中心辺りから鏡胴の先端までの距離を測定してみたところ、約55mmでしたので、ほぼ計算した値の許容範囲といってよいと思います。

 念のため、外側の容器が上側に抜けてしまうのを防ぐ目的で、組み上げた後に内側容器の上部にストッパーとなるよう、幅5mmほどのリングを巻き付けておきます。これは容器の下側に取り付けたスペーサーと同じように、切り取った残りの空容器から幅5mm分を切り出し、巻き付けて接着しただけのものです。鏡胴の内側容器と外側容器はスカスカ動くわけでもないのでなくても問題ないと思いますが、念のためということで。

 また、カメラのフォーカシングスクリーンに傷をつけるのを防ぐため、鏡胴(太い方の空容器)の先端にシリコンクロスを貼り付けます。鏡胴はプラスチック製なのでフォーカシングスクリーンに傷がつくことはないと思いますが、こちらも念のためということです。

 最後に、ルーペを首から下げるためのストラップ(紐)を取り付けます。
 これは内側にはめ込んである空容器の上端についているオレンジ色の蓋を受けるリングに穴を開け、そこに適当な紐を通すだけです。
 あまり太くなく、しかも引っ張っても伸びない紐があったので、これを約80cmの長さに切って取り付けてみました。ルーペ自体の素材のほとんどがプラスチックで軽いので、この程度の太さの紐でも全く問題ありません。

 こうして出来上がったルーペが下の写真です。

ガラクタから作ったルーペの使い勝手

 今回作成したルーペの大きさや重さは以下の通りです。

  高さ : 132mm (調整可能)
  直径 : 48.8mm
  重さ : 54g (ストラップ含む)

 一般に市販されているルーペに比べると長いし太いという印象はありますが、手に持った時のおさまりはいい感じです。適度な大きさと言ったらよいのでしょうか、大きすぎて邪魔になるとか、小さすぎて持ちにくいとか、そういったこともなく手のひらにちょうど入る大きさです。
 倍率は正確にわかりませんが、わたしが持っている7倍のルーペと比較すると少し控えめな感じがするので、概ね、6倍といったところではないかと思います。ピント合わせには十分な倍率ではないかと思います。

 今回、このルーペを作るうえで最も重要視した、フォーカシングスクリーンに斜めに入ってくる光を確認できるかということですが、全長が132mmあることで、ルーペを傾けてもフードなどと干渉することもなく、フォーカシングスクリーンの四隅までしっかりとチェックすることが出来ました。四隅を見たときに真っ暗になってしまうストレスから解放されるのは何よりです。

 視野もまずまずの大きさで、もちろん大きい方が使い勝手は良いのですが、このサイズでこれだけの視野が確保できれば及第点だと思います。
 また、軽いので首にかけたままにしていてもほとんど気になることはなく、カメラバッグから取り出したり、使用後にしまったりという手間が省けるのもありがたいです。

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 撮影機材の中でルーペはどちらかというと地味な存在という印象があるかもしれませんが、このルーペがないと撮影ができないといっても過言ではありません。フォーカシングスクリーンを肉眼で見ても、細部までピントが合っているかどうかを確認することは無理で、適当な状態で撮影をしても間違いなくピンボケになります。カメラとかレンズに比べるとはるかに安価な機材ではありますが、これがないと撮影になりません。
 ゆえに、各メーカーから販売されているいろいろなルーペを購入して使ってきたものの、なかなか納得のいくルーペに出会うことはありませんでした。メーカーの製品は性能面では優れているのですが、使い勝手という点で「これ!」というものに出会ったことがなく、結局、自分の撮影スタイルに合ったルーペを自作するのがいちばんというところに帰着した感じです。
 今回作ったルーペも実際に使用していくにつれて欠点や改善点が見えてくると思いますが、工夫次第では安価につくることが出来るものなので、バージョンアップしていければと思っています。

(2026.8.12)

#クローズアップレンズ #ルーペ #撮影小道具 #小道具