フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~立春~

 今年の立春は2月3日で、これは実に124年ぶりとの報道がされていました。寒さはまだ続きますが、これからの寒さは余寒というらしく、春に向けて暖かくなっていく寒さということで、こういう使い分けが日本人の感性の豊かさだと思います。
 旧暦では立春のころが1年の始まりだったようで、日本では旧正月を祝う習慣はなくなってしまいましたが、中国の春節やベトナムのテトなど、アジアでは旧正月を祝う国がたくさんあるようです。

梅が咲き始めました

 今ではすっかり日本の風景に溶け込んでいる梅ですが、奈良時代に中国から持ち込まれたものらしく、万葉の時代には花というと桜ではなく白梅のことをさすくらい、当時の人々に愛でられていたようです。
 学問の神様として有名な菅原道真も紅梅を深く愛したひとりで、彼の邸宅は「紅梅殿」とよばれ、春の訪れとともに芳しい香りに包まれたといわれています。藤原時平の訴えにより、九州の大宰府に左遷されてしまうわけですが、以来、日本各地にある天満宮の境内には梅の木が植えられ、神紋には梅鉢が使われるようになったといいます。

 下の写真は近所の公園で撮った早咲きの白梅です。ほかの木はまだ1~2輪がようやく咲き始めたところですが、この梅はこの公園の中でも真っ先に咲きます。

白梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 「梅は百花の魁」といわれますが、梅が咲き始めるとあたりが明るくなったようにさえ感じます。満開の状態はもちろん豪華ですが、個人的には梅は咲き始めた頃がいちばん好きです。ぽつぽつと咲き始めた頃のちょっと恥じらうような姿に風情が感じられます。特に白梅には楚々とした感じが漂っていて、例えると、春の光のもとで微笑む小町娘、といったところでしょうか。

 ここ数日の暖かさで紅梅も咲き始めていました。紅梅には白梅と違った華やかさがあります。白梅が楚々とした美しさであれば、紅梅は艶っぽさ漂う美しさといった感じです。

紅梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

福寿草も眩しいくらいに輝いて

 元日草とか正月花などの別名をもつ福寿草、旧暦の正月、ちょうど今頃に咲き始めることからついた名前のようですが、立春を待ちかねたように咲き始めていました。新年を祝う花として古くから日本人の心を癒してきたといわれていますが、いまの時代は春の訪れを告げる花というイメージの方がしっくりきます。
 雪を割って芽を出す姿には心惹かれるものがありますが、東京ではなかなかそういう姿にお目にかかることはできません。それでも緑がほとんどない大地から芽を出して、身の丈に比べて大きな花を咲かせる姿には癒されます。

福寿草 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 花の少ないこの時期に、輝くような黄色の花は遠目にも良く目立ちます。太陽の動きを追いかけて花の向きを変える性質(向日性)があり、このため、花の内側は外側に比べて温度が高くなるらしいです。まるで、太陽の熱を集めるパラボラ集熱装置のようです。

 品種改良がなされて二重咲や八重咲といった豪華な福寿草もありますが、日本に自生しているのは一種のみだそうです。上の写真の福寿草は自生種と思われますが、定かなことはわかりません。しかし、これから次々といろいろな花が咲き始めることを教えてくれることには変わりありません。 

立春限定の日本酒も

 立春の未明に搾りあがったばかりのお酒のことを「立春朝搾り」といい、日本酒好きの人には待ち焦がれたお酒です。このお酒は火入れをしていない生原酒で、どの蔵元のお酒も日付が入った同じデザインのラベルが貼られています。今年のラベルは、「令和三年辛丑二月三日」と書かれています。実は、このラベルの裏側には、「大吉」の文字が書かれており、ビンの反対側から透かすと見ることができます。ちょっとした遊び心ですね。

(2021年2月8日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #白梅 #紅梅 #二十四節気 #花の撮影

フジノン 大判レンズ FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 フジノンの大判カメラ用レンズの最終モデルとなってしまったCM Wideシリーズのうちの1本です。CM WideシリーズはWシリーズの後継モデルで、105mmから450mmまで10本がラインナップされていました。

レンズの主な仕様

 フィルターワークを容易にするために105mm~250mmまではアタッチメントサイズが67mmに統一されていました。W105mmのフィルターサイズは46mmでしたので、それと比べると前枠が大きく広がっており、図体はずいぶん大きくなったように感じます。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ174mm(f22)
   最大包括角度    : 78度
   最大適用画面寸法  : 4×5
   レンズ構成枚数   : 5群6枚
   最小絞り      : 45
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ42mm
   フランジバック   : 103.4mm
   バックフォーカス  : 92.8mm
   全長        : 51.6mm
   重量        : 220g

 このレンズを4×5判で使った場合、画角は35mm判カメラでいうと30mmくらいのレンズに相当します。イメージサークルはΦ174mm(f22)で、W105mmのΦ162mmと比べると大きくなったとはいえ、シリーズの中では最も控えめな値です。
 前モデルのW105mmのイメージサークルはほとんど余裕がなく、4×5判で撮影する場合、フロントでのアオリは実質的に使えないという感じでしたが、こちらのレンズは若干の余裕があり、4×5判で横位置撮影の場合、フロントライズで約13mm、フロントシフトで約11mmが可能です。

富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ

 アタッチメントサイズが統一されたのは良いのですが、レンズボード面からレンズ先端までの長さ(高さ)にくらべて前枠径が大きいので、これが邪魔になってシャッター速度のリングが非常に回しにくくなってしまっていますし、刻印されたシャッター速度もとても見難くなってます(下の写真はレンズの下側から撮影したものなのでシャッター速度の目盛りが良く見えますが、レンズ上側からは非常に見難いです)。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 しかしながら、若干の使いにくさはあるものの、収差は全くと言ってよいほど感じられませんし、解像度も極めて高いレンズだと思います。
 富士フイルムのホームページにはフジノンの歴史エピソードとして次のように掲載されています。
 「1994年、FUJINONは大判カメラ用レンズの最新型となるCM FUJINONシリーズのラインナップ10本を完成させる。
1951年に、リリースされ始めたFUJINON大判カメラ用レンズは、40年の技術革新を経て完成を見たとも言える。それは、Professionalの求める”最高画質”の一つの到達点でもある。
今まで本連載でもとりあげたように、設計技術の進化があり、そして非球面レンズ、EDガラスレンズなどの新たな硝材の開発、コート技術の革新などが、絶え間なく繰り返されてきた。FUJINON大判カメラ用レンズの最終型に冠されたNamingは”CM”。それはCommercialを意味する。ProfessionalがProfessionalとしての報酬を得る業務、つまり”Commercial 写真の現場”で使用されるためのレンズ。」

 富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ、ということが感じられます。

CM Wide 105mmで撮影した作例

 上にも書いたようにイメージサークルは大きくないのであまり大きなアオリは使えませんが、ストレートに風景を写すには全く問題はありません。4×5判で使用すると対角画角が72度の広角レンズになりますが、風景を撮るには広すぎず、使い易い画角だと思います。アオリを使わなくても絞り込めば被写界深度は深くなりますし、絞りを開けば程よいボケも得られます。

 下の写真は、このレンズで冬の滝を撮ったものです。

魚止めの滝 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 手前の落ち葉もくっきりと写したかったので、F32まで絞り込み、わずかにフロントティルトのアオリをかけています。逆光での撮影ですがコントラストも良く出ていますし、画面の周辺部でも見事に解像していると思います。詳細はわかりませんが、CMシリーズになってレンズコーティング技術もかなり向上しているらしく(11層のコーティングがされているという話しもありますが、定かではありません)、その効果も大きいのかもしれません。

 この構図をもう少し離れたところから長めのレンズで撮ると、滝の力強さは増すと思うのですが広がりが希薄になってしまい、逆にもっと近づいてより広角で撮ると散漫になってしまうということで、ここではこのレンズの画角が最適という感じでした。

 手前の落ち葉のあたりを拡大したのが下の写真です。

魚止めの滝(部分拡大) Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 画面ではうまくお伝え出来ないのが残念ですが、濡れた落ち葉の質感なども見事にとらえられており、このレンズの描写力の高さがわかるのではないかと思います。

 このレンズに限ったことではありませんが、こういう素晴らしい描写をする大判レンズが生産終了になってしまったのはやはり寂しく思います。

(2021.2.2)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 35mm判カメラや中判カメラ用のレンズには「マクロレンズ」というカテゴリーがあり、ほとんどのメーカーから複数本のレンズが出ています。大判カメラ用にも近接用レンズがありますが、種類は少ないです。大判カメラでは蛇腹を繰出すことで、すべてのレンズがマクロレンズとして使えるといっても過言ではありません。
 もちろん、35mm判カメラや中判カメラのレンズでもベローズや接写リングをかませることで近接撮影ができますが、遠距離にピントが合わなくなってしまいます。

レンズの最短撮影距離

 マクロレンズの定義は明確に決まっていないようですが、被写体に近づいて撮影でき、概ね、1/2倍以上の倍率で撮影できるレンズを一般的にはマクロレンズと呼んでいるようです。
 これに対して、マクロの名がついていない普通のレンズは被写体に極端に近づくことはできず、最短撮影距離はレンズの焦点距離の10倍くらいのものが多いのではないかと思います。焦点距離が50mmのレンズであれば50cm前後、100mmのレンズであれば1m前後といった感じです。当然、撮影倍率も自ずと限界があります。

 一方、大判カメラはレンズの種類に関係なく、蛇腹の許す範囲までレンズを繰出すことができます。

  

 何故、一般のレンズが焦点距離の10倍くらいを最短撮影距離にしているかというと、多分、画質の低下が顕著にならない距離であることと、それくらいの距離までは露出補正をしなくても影響がないことが理由かと思われます。
 カメラのレンズは無限遠にピントを合わせた時がレンズと撮像面の距離が最短になり、より近くの被写体にピントを合わせるためにはレンズを繰出す必要があります。その結果、レンズと撮像面の距離が長くなり、撮像面に入る光の量が減少してしまうため、露出を多めにしなければならなくなります(下図を参照)。

 上の図のように、レンズと撮像面の距離が長くなればなるほど撮像面に入る光の量が減少するのがわかります。例えば、レンズと撮像面の距離が2倍になるとレンズからの光が描く円の直径も2倍になるため、この円の面積は4倍になります。すなわち、撮像面に入る光の量が1/4に減少してしまうことになります。したがって、適正露出にするためには露出を4倍にする必要があります(絞りで2段開く、もしくはシャッター速度を2段分遅くする)。

撮影距離とレンズ繰出し量の計算

 近い被写体にピントを合わせる際、レンズをどれだけ繰出さなければならないかを計算で求めることができます。
 レンズから被写体までの距離をa、レンズから撮像面までの距離をb、レンズの焦点距離をfとしたとき、これらの間には下のような式が成り立ちます。

  1/a + 1/b = 1/f

 手元に「フジノンCM Wide 105mm 1:5.6」という大判カメラ用のレンズがありますので、このレンズで焦点距離の10倍にあたる1050mmに位置する被写体を撮影することを想定してみます。
 上の式に、被写体までの距離 a=1050mm、レンズの焦点距離 f=105mmを当てはめてレンズと撮像面の距離 bを計算すると、

  1/b = 1/f - 1/a
     = 1/105 - 1/1050
     = 9/1050
 
 よって、b = 116.7mm となります。
 すなわち、無限遠にピントを合わせた状態(105mm)から11.7mm、繰出すことになります。

 では、実際にレンズがどれくらい繰出されるかということで、フジノンCM Wide 105mmのレンズで実測してみました。
 無限遠にピントを合わせた時のシャッター位置から撮像面までの長さは104mmでした。ここから、焦点距離の10倍となる1050mm先の被写体にピントを合わせ、同じようにシャッター位置から撮像面までの長さを測ったところ、115mmでした。すなわち、レンズの繰出し量は11mmということです。
 上の計算式で求めた値と若干の差がありますが、実測値の測定精度はあまり高くないと思われますので、以後は理論値を使って話を進めます。

レンズを繰出すことによる露出補正値を求める

 しかしながら、たとえ11.7mmと言えどもレンズから撮像面までの距離が長くなれば、撮像面に入る光の量が減少するのは上の図からも明らかです。では、実際にどれくらいの影響があるのかを計算してみます。

 レンズを繰出すことによる露出補正量は下の式で求められます。レンズ繰出し量とは撮像面からレンズまでの距離をいいます。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 この式に、レンズ繰出し量の116.7mmとレンズ焦点距離の105mmをあてはめてみます。

  露出補正倍数 = (116.7/105) ^ 2
         = 1.235

 となり、レンズを無限遠の状態からさらに11.7mm繰出すことで、1.235倍の露出補正が必要ということになります。

 1.235倍という補正量を絞り値にあてはめると、√1.235 = 1.111 ですので、

  5.6 * 1.111 = 6.222 となります。

 よって、フジノンCM Wide 105mm 開放f値5.6のレンズが、116.7mmまで繰出されることで実効f値が6.2になるということを意味します。これは、絞りでおよそ1/4段に相当します。

 また、レンズの焦点距離、有効径、そして開放f値には以下の関係式が成り立ちます。

  開放f値 = 焦点距離/有効径

 この式にフジノンCM Wide 105mm の値をあてはめてレンズの有効径を求めると、

  有効径 = 105mm/5.6
      = 18.75mm となります。

 この有効径で116.7mmまで繰出した場合の実効f値は、

  実効f値 = 116.7mm/18.75mm
       = 6.22

 となり、上で計算した値とほぼ同じになり、実態が正しいことがわかります。

 これらのことから、1/4段程度であれば露出補正を必要としない許容範囲内という判断がされ、一般的なレンズの最短撮影距離が焦点距離の10倍前後になっているのではないかと思われます。
 1/4段を大きいとみるか小さいとみるかは意見の分かれるところかもしれませんが、一般的な一眼レフカメラなどに備わっている露出補正は1/2ステップ、もしくは1/3ステップであり、これに比べて50~75%の値ですから、許容範囲と言っても差し支えないのではないかと思います。

 最近のカメラではレンズから入ってきた光を測定して露出を決めているので、レンズの実効f値が暗くなったところで何ら気にすることはありませんが、大判カメラなどのように自動露出計が内蔵されていない場合はそういうわけにいきません。上の検証結果から分かるように、レンズの焦点距離の10倍より遠い距離にある被写体を撮影する場合は特に補正なしで問題ありませんが、それより近い被写体を撮影する場合は、実際のレンズの繰出し量を測定して露出補正値を計算しなければならず、面倒であることは間違いありません。

 繰り返しになりますが近接撮影をする場合は、レンズ繰出し量と焦点距離を下の式に当てはめて、露出補正量を計算します。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 実際にレンズ繰出し量によってどの程度の露出補正が必要になるか、焦点距離105mmのレンズについて計算して表にしてみました。レンズ繰出し量は、レンズから撮像面までの距離になります。

 大判カメラ用のレンズはどれもがマクロレンズとして使用できますが、露出補正というひと手間を加えなければならないということです。
 前置きが長くなってしまいましたが、次回は撮影倍率と実際の撮影について触れたいと思います。

(2021年1月31日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #露出

大判カメラのアオリ(2) フロントフォール

 前回はフロントライズ(レンズを上に移動する)のアオリについて触れましたが、今回はレンズを下に移動する「フロントフォール」のアオリについてです。

ベッドダウンによるフロントフォール

 フロントフォールはフロントライズに比べて仕様頻度が少なく、それが理由かどうかわかりませんが、フィールドカメラには単一の操作ではフロントフォールができないカメラも見受けられます。
 代表的なフィールドカメラの一つであるトヨフィールドは、前枠(レンズ部)単独で下方に23mmの移動(フォール)ができますが、リンホフマスターテヒニカなどはニュートラルで前枠が最下部にありますので、フロントフォールするためにはベッドダウンをしたうえで、レンズ部を少し後ろに傾ける操作(フロントティルト)をしなければなりません。

 リンホフマスターテヒニカをフロントフォールした状態が下の写真です。

ベッドダウンによるフロントフォール (リンホフマスターテヒニカ45)

 ベッドダウンは本体との接合部分を支点に下に回転運動をしますので、下におろした角度と同じだけ、レンズを反対方向(後方)に傾けることで、レンズ面と撮像面(フィルム)の平行が保たれ、フロントフォールが実現します。
 ただし、リンホフマスターテヒニカ45のベッドダウンは15度と30度の二通りしかできませんので、現実的にはかなり自由度が制限されたアオリということになってしまいます。

ティルトによるフロントフォール

 そこで、もっと自由度の高いフォールをするために、ベッドダウンを使わずにレンズ部とバック部をそれぞれ傾ける(フロントティルト、バックティルト)ことでフロントフォールと同じ状態にすることができます。
 下の写真でもわかるように、カメラを下に傾けた角度と同じだけ、レンズ部とバック部を後方に傾けます。

フロント、およびバックティルトによるフロントフォール (リンホフマスターテヒニカ45)

 ベッドダウンする方法に比べて、カメラの可動範囲内であれば任意の角度で設定できるため、アオリの自由度は高くなります。

 さて、このアオリですが、フロントライズは見上げた時に上方が窄まってしまうのを修正するのに対し、見下ろした(俯瞰)ときに上方が広がってしまうのを修正するために用いるのが多いのではないかと思います。例えば、高いビルから隣のビルを撮影するとビルの下の方が窄まり、上の方が広がって写ってしまいますが、これを修正する場合などです。

フロントフォールの効果

 しかしながら、上でも書いたようにこのアオリを使う頻度は高くありません。実際にこのアオリを使って撮影した適当な事例が手元にないため、テーブルフォト的にスプレー缶を撮ってみました。
 下の写真が普通に上から俯瞰して撮影したもの、その下の写真が同じ位置からフロントフォールして撮影したものです。窓際の自然光で撮影したために2枚の写真の光の状態が違い、色合いが若干異なってますが気にしないでください。

▲アオリなしの俯瞰撮影

▲フロントフォールのアオリを使用した撮影

 フロントフォールすることで被写体とレンズ面、フィルム面がほぼ平行になりますので、スプレー缶の下から上までがほぼ同じ太さになってます。
 また、この写真ではよくわからないですが、俯瞰撮影した場合のピント面はスプレー缶を斜めに切る位置になりますが、フロントフォールした場合のピント面はスプレー缶の垂直面と平行になりますから、同じ絞りでもピントの合う範囲が広くなります。

 ブツ撮りなどで被写体の形が変わってしまうのを好まない場合には効果的かと思いますが、被写体が高層ビルの場合、上方が広がっていたほうがビルの高さが感じられるという見方もあるかもしれません。また、自然風景で俯瞰撮影する場合でも、上方が広がるのを修正しなければならない必要性を感じることはあまりありません。そういう意味でも私にとっては、このアオリを使うことは稀です。

 フロントライズでイメージサークルについて触れましたが、このアオリについても同様で、フォールできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。

(2021.1.24)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~大寒~

 一年のうちでいちばん寒いとされる時期で、天文学では太陽黄経が300度になった日が大寒の初日らしいです。二十四節気では立春が一年の始まりとされているので、いまは年末といったところでしょうか。
 一年でいちばん寒い時期ですが、春に向かっているという想いがあるせいか、冬至のころに比べると明るいイメージがあります。野に咲く花もこれから少しずつ増えてきます。

清楚な花が特徴のニホンスイセン

 1月も半ばを過ぎると東京でも日当たりの良いところではちらほらとスイセンが咲き始めます。ニホンスイセンと呼ばれる野生種で、一重咲きと八重咲きの2種類が見られます。家の庭先や花屋さんでよく見かけるラッパスイセンに比べると花も小ぶりです。華やかさではラッパスイセンに劣るかもしれませんが、ニホンスイセンには楚々とした美しさがあり、この花が咲くとあたりが明るくなったような感じがします。

ニホンスイセン Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 Velvia100

 野生のスイセン群生地といえば伊豆半島の爪木崎が有名ですが、今頃は300万本といわれる満開のスイセンでおおい尽くされます。もともとは平安の頃に、遣唐使などによって薬草として日本に持ち込まれたらしいですが、爪木崎では、はるか南の島から流れついた球根が根付いたという言い伝えもあるようです。どこから流れてきたのかわかりませんがロマンのある話です。
 やはり水仙の群生地で有名な越前海岸地方には、その昔、海からやってきた美しい娘が二人の若者の恋の鞘あてにあった末、海に身を投げ、自らの命を絶った。水仙はその娘の生まれ変わり...こんな逸話も残っているといいます。

 種類にもよるようですがスイセンは香料の原料にも使われるらしく、甘い香りがします。野外で咲いているときはさほど気になりませんが、切り花として屋内に持ち込むと、市販の芳香剤などとは比べ物にならないくらい強烈な芳香を放ちます。
 雪の中でも咲くことから「雪中花」とも呼ばれるようですが、春が近いことを教えてくれる花のひとつだと思います。

小さなぼんぼりのようなロウバイ

 ロウバイも冬に花を咲かせる数少ない花木のひとつです。花弁が厚くて、質感が本当にロウ細工のようで、近寄るととてもいいにおいがします。太陽の光が差し込むと黄色く輝き、小さなぼんぼりに明かりが灯ったようです。
 中国原産の落葉樹らしいですが、花のほとんどない冬枯れの季節に花を見たいという昔の人の強い想いで、日本に持ち込んだのかもしれません。

ソシンロウバイ Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 Velvia100

 ロウバイは花に似合わず大きな実をつけますが、その実が翌年の開花時期になっても真っ黒になったまま残っているのを見かけます。花の写真を撮ろうとするときにはかなり目立ってしまい、邪魔な存在に感じてしまうこともしばしばです。中には小豆ほどの種が入っており、これを土にまくと春分の頃には芽が出てくるらしいです。

 最近は各地に「ロウバイ園」や「ロウバイの郷」なるものが誕生しています。関東近県では埼玉県の宝登山や、群馬県の松井田が有名です。公園などにも植えられているのをよく見かけますが、ソシンロウバイという園芸品種が多いようです。
 漢字で書くと「蝋梅」で、「梅」という字がついていますが梅の仲間ではないらしく、ロウバイ科という種類があるようです。確かに、素人が見ても梅の花と同じ仲間には見えません。
 そういった学術的なことはさておいても、この寒い時期に花を咲かせてくれることには本当に感謝です。スイセン同様に、春もそう遠くないことを感じさせてくれます。

 梅のつぼみもだいぶ膨らんできており、フィールドがにぎやかになるのも間もなくといった感じです。自然界は着実に動いていることを感じます。

(2021.1.23)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影

富士フィルム カラーネガ「PRO400H」販売終了

 2021年1月15日付で富士フィルムから、カラーネガフィルム「PRO400H」の販売終了の発表がありました。いつかは来るだろうとは思っていましたが、正直、「またか!」と思いました。私はカラーネガを使うことは少ないのですが、それでも数少ないフィルムのラインナップからまた一つ、姿を消してしまうということはとても寂しいことです(135は2021年3月、120は2022年3月で終了予定とのこと)。
 同社のカラーネガフィルムが完全になくなってしまうわけではありませんが、フィルムの将来はどうなってしまうのだろうと思わずにいられません。

富士フィルム PRO400H  (富士フィルム株式会社 公式HPより引用)

 最近はフィルム回帰する人が増えているとか、若い人でもフィルムカメラに興味を持つ人が増えているとかいうことを良く耳にします。確かに増えていることは事実なのかもしれませんが、実際のところどれくらい増えているのか、定量的なことは全くわかりませんし、富士フィルムという大企業のフィルム事業を支えられるほど増えているとは到底思えません。
 フィルム事業もビジネスである以上、採算が見込めなければ事業縮小や撤退というのは致し方のないことです。フィルム小売価格の値上げや現像料金の値上げなどをおこなっても製造販売終了の製品が出るということは、多少のユーザーが増えても焼け石に水といった状況なのでしょう。

 フィルム写真全盛期の頃は、カラーネガの現像&同時プリントが60分とか45分とかいう看板があちこちで見られました。撮影済みのフィルムを写真屋さんにもっていけば、1時間後にはプリントが仕上がっているというサービスで、しかもおまけにフィルムがついてくるなんていう状況もありました。最初に1本のフィルムを買えば、あとは一生買わなくても写真が撮り続けられるという、いまから思えば夢のような時代でした。

 すこし調べてみたところ、2000年をピークに写真フィルムの生産量は下がり続け、2010年には6割ほどにまで減ってしまったようです。カラーフィルムに限っては10年間で1/10にまで落ち込んだというデータもありました。その後も減り続けていたようですが、2013年以降のデータを見つけることができませんでした。
 写真フィルム全体では2011年、2012年と前年比で20~30%ずつ減少していたようですから、もしこの状態が10年続いたとすると、昨年2020年にはさらに1/10にまで落ち込んだことになり、2000年と比べると1/16になってしまったということになります。ピーク時の6%ほどにまで落ち込んでしまったところに多少ユーザーが増えたところで、誤差の範囲といったところでしょう。
 また、フィルム代も現像料金も高いので、やたらに撮ることができないという声も良くききます。もっとたくさんフィルムで撮りたいけどコストがかかりすぎて...というのが本音かもしれません。

 PRO 400Hの製造販売終了で、富士フィルムのプロ用と言われるネガフィルムはPRO160NSだけになってしまいます。複数の製品を供給し続けるにはコストがかかりますから、企業としては製品を一本化していこうという方針なのかもしれませんが、それでもフィルムを作り続けてもらえることに感謝です。
 
 とはいえ、2018年に製造販売を終了したモノクロフィルムのACROSも、およそ一年後にACROSⅡとして復活した事例もあります。海外に製造委託をしているとはいえ、富士フィルムのブランドを冠しているわけですから、ACROS復活といっても間違いではないと思います。
 コダックのリバーサルフィルムE100も最初は135だけでしたが、その後、ブローニー(120)、シートフィルム(4×5)が発売されました。
 同じようにPRO400Hも、OEMでもODMでも構いませんので、いつの日か復活してくれることを願ってます。

(2021.1.19)

#カラーネガフィルム #富士フイルム

御岳渓谷 2020年最後の紅葉をPENTAX67Ⅱで撮影

 御岳渓谷は多摩川の上流、東京都青梅市にある渓谷です。多摩川は、山梨県にある笠取山の山頂直下を源として、東京都、神奈川県を経由して東京湾に注ぎこむ一級河川ですが、上流の方は護岸工事をされていないところも多く、きれいな水が流れています。御岳渓谷のあたりはカヌーの聖地とも呼ばれているらしく、カヌーで川下りをしている人をたくさん見かけます。
 11月中旬あたりから綺麗な紅葉が見られるので、2020年最後の紅葉撮りに行ってきました。

 電車だとJR青梅線の御嶽駅からすぐ、車だと近くに有料駐車場があり、そこから歩いて10分ほどで御岳渓谷に着きます。夏の暑い時期やカヌーの大会があるときは賑わいますが、普段はそれほど人出が多いわけでもなく、ゆっくりと撮影をすることができます。

玉堂美術館前の大イチョウが輝いて

 紅葉の時期、何と言ってもひときわ目を引くのが玉堂美術館の前にある大イチョウの黄葉です。下の写真は対岸(左岸側)から撮ったものです。

玉堂美術館前の大イチョウ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 この辺りは南側がすぐ山になっているため、朝のうちは日陰になっていますが、日が回り込んでくると黄色く色づいたイチョウがまさに黄金色に輝きます。樹高が30mほどもあるらしく、自ら光を放っているような姿は圧巻です。
 イチョウの葉っぱは枝についている間は綺麗な黄色を保っており、この色のまま一気に落葉していきます。他の黄葉のように葉っぱが茶色くならないので、綺麗な状態のまま散っていく潔さのようなものがあって好きです。少し強い風が吹いたときなどに一気に散る姿も見事です。

名水百選の蒼い流れ

 御岳渓谷一帯の流れは御岳渓流とも呼ばれており、名水百選に選ばれているようです。水深はあまり深くなさそうですが、大きな岩がごろごろしており、綺麗な景観をつくってくれています(下の写真)。

御岳渓谷 PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 55mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 1/2段ほど露出を抑えめにして、渓谷の蒼然たる感じを狙ってみました。まだ渓谷に陽が差し込む前なので、全体に青っぽく色かぶりをしています。
 それにしてもこんなところをカヌーで下っていくのですから凄いです。

燃えるようなイロハモミジの紅葉

 左岸側にはカエデ(イロハモミジ)がたくさんあり、日が差し込むと燃えるような色を見せてくれます。

イロハモミジ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-M67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 対岸は日が当たっていないので黒く落ち込み、そこに真っ赤に色づいたカエデが浮かび上がります。薄曇りくらいの光の方が柔らかな感じになって個人的にはその方が好きですが、この日は快晴のため光が強すぎたのと、ほぼ正面からの光で撮ってしまったために全体的に硬く、ぎらついた感じになってしまいました。

落ち着いた色合いのトウカエデの黄葉

 下の写真は御岳小橋の脇で見つけた黄葉です。たぶん、トウカエデではないかと思います。

トウカエデ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 だいぶ落葉してしまってスカスカしてますが、まだ綺麗な色を保っていました。太陽の位置もだいぶ高くなっているので、前のカエデの写真に比べると落ち着いた感じになりました。葉っぱが落ちた後の枝も白く輝いて、晩秋らしさが出ているのではないかと勝手に思ってます。

やはりイロハモミジの紅葉は第一級品

 午後2時過ぎ、そろそろ引き上げようと青梅街道に出る階段を昇って行ったところ、偶然に綺麗な紅葉を見つけました。赤と黄色と緑が混在した何とも美しいイロハモミジです。

イロハモミジ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F11 1/8 PROVIA100F

 逆光で撮っていますが、大木で上の方まで葉があるため、撮影している場所は日陰になっています。紅葉が濁らないように露出はかなりオーバー目にしています。緑から黄色、そして赤へのグラデーションも影響していると思いますが、柔らかな感じが気に入ってます。まだほとんど落葉しておらず、葉っぱが密集しているためにこのような撮り方ができますが、落葉してスカスカ状態だとこのような感じは出せないと思います。

 東京都心の紅葉はあまり鮮やかに色づかないものが多いですが、標高230mmほどの御岳渓谷のあたりは気温の寒暖差が大きいためか、色がとても鮮やかです。同じ東京とは思えない豊かな自然が残されており、近くにある御岳山にはレンゲショウマの群生地があるようです。一度、訪れてみたいものです。

(2021.1.13)

#御岳渓谷 #渓流渓谷 #ペンタックス67 #PENTAX67 #紅葉

大判カメラのアオリ(1) フロントライズ

 大判カメラの特徴は大きな面積のフィルムで撮影できることですが、加えて様々なアオリを使うことができるというのも大きな特徴です。
 35mm判の一眼レフなどの一般的なカメラの多くはフィルム面とレンズ面が固定されていますが、大判カメラはこれらを自由に動かすことができる構造になっています。それによって、あえて光軸をずらすことで様々な撮影をすることが可能になるわけですが、これを総じてアオリと呼んでいます。

アオリに関するカメラ各部の名称

 大判カメラには大きく分けてスタジオなどで使われることが多いビューカメラと、フィールド撮影に適したテクニカルカメラ(フィールドカメラ)がありますが、ここではテクニカルカメラに焦点を絞って説明します。
 アオリの説明の前に、テクニカルカメラの各部の名称について触れておきます。下の写真はリンホフマスターテヒニカ45の写真と各部の名称です。アオリの説明に必要な部分のみを示しています。異なる名称を使われている方もいらっしゃるかと思いますが、そのあたりは大目に見てください。

大判カメラ(テクニカルカメラ)の各部の名称

 それでは、今回は「フロントライズ」のアオリについてです。

フロントライズとはこんなアオリ

 フロントライズとはレンズを上に移動させるアオリのことで、フィルムとレンズが平行の状態を保ったまま、フィルムとレンズの中心をずらします。
 実際にレンズをライズすると下の写真のような状態になります。

フロントライズした状態

 このアオリの目的ですが、例えばビルなどの高い建物を下から見上げる状態で撮影すると上が窄まって(すぼまって)写ってしまいますが、これを修正するときなどに使われることが多いのではないかと思います。
 何故、下から見上げた状態で写すと上が窄まってしまうのか、その理由について簡単に触れておきます。
 下の図でわかると思いますが、垂直に立ったものを斜めになった面に投影すると、高い位置のものほど間隔が狭まってしまいます。これが、上が窄まって写ってしまう原因です。

 これを防ぐにはレンズの光軸を水平に、すなわち、投影面(フィルム)を垂直に立ったビルなどと平行に保つ必要があります(下の図)。

 ただし、この状態だと上の方(高い位置)が投影面(フィルム)からはみ出してしまいます。
 そこで、平行を保ったまま、レンズだけを上に移動させると上の方も投影面に納まることになります(あくまでもライズ量に制約がないという前提に基づいてですが)。これがフロントライズのふるまいです。

 実際にライズできる量(レンズの移動量)はカメラによって異なりますが、テクニカルカメラの場合、一般的には50mm前後が多いようです。ちなみに、リンホフマスターテヒニカ45の場合は55mmです。
 また、カメラの可動範囲内であっても、レンズのイメージサークルを越えてしまうとケラレが発生してしまいますので注意が必要です。

イメージサークルについて

 ここで、イメージサークルについて簡単に触れておきます。
 イメージサークルとは、レンズに入ってきた光によって結像する円形の範囲のことで、この範囲内であれば鮮明な像が得られますが、この外側は暗くなってしまい結像しません。また、この鮮明に結像する範囲を、レンズ中心から見た時の角度を「包括角度」といいますが、これらの関係を下の図にしてみました。

 包括角度が大きければ当然イメージサークルも大きくなりますが、イメージサークルはレンズと撮像面(フィルム)との距離やレンズの絞りによって変化しますので、レンズの絞りをF22、無限遠にピントを合わせた時の円の直径で表現されることが一般的です。

 下の図はカメラをフロントライズした際のイメージサークルの状態を表したものです。

 アオリのないニュートラルな状態ではイメージサークルの中心に撮像面(フィルム)がありますが、レンズを移動させるとともにイメージサークルと撮像面の相対位置も移動します。イメージサークル内であれば問題ありませんが、この範囲を超えるとケラレが発生してしまいます。
 カメラが大きな可動範囲を持っていたとしても、レンズのイメージサークルが小さいと可動範囲を活かしきれません。ライズできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。
 また、上の図からもわかるように、無限遠の時のイメージサークルが最も小さく、近接撮影になるほどレンズが繰出されるのでレンズとフィルムの距離が長くなり、イメージサークルは大きくなります。

 このように、フロントライズを制約する要因がいくつかありますので、それらを把握しておくことで様々な撮影のシチュエーションの際にも迷うことは避けられると思います。

フロントライズを使った作例

 実際にフロントライズを使用して撮影した例が下の写真です。1枚目がアオリなし、2枚目がフロントライズのアオリを使って撮ってます。

尻屋崎灯台 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 1/30 PROVIA100F
尻屋崎灯台 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 1/30 PROVIA100F フロントライズ

 2枚の撮影位置は若干違いますが、灯台までの距離はほぼ同じです。2枚目の写真は灯台が手前側に起き上がってきているような感じで、高さが強調できていると思います。
 ここで使用したレンズ(FUJINON W125mm)のイメージサークルは198mmで、ライズ可能量は約29mmですが、実際に使用したライズ量は23mmくらいです。 

蛇足ながら...

 前の方でも書いたように、このアオリは建築物などの撮影で使われることが多いと思いますが、風景撮影においても、例えば木をまっすぐに立たせたいとか、滝の上部を窄ませずに迫力を出したいとか、使用する場面は結構あります。
 ただし、広角や超広角レンズはイメージサークルが決して大きくないので、アオリの量も自ずと限界があります。
 また、フロントライズは使いすぎると不自然になることもあります。建築物の撮影での使用頻度が高いと触れましたが、高層ビルや五重塔などを比較的近い距離から撮影する場合とか、不動産の広告写真などで使用するというような目的があれば別ですが、一般の撮影でライズをかけすぎると頭でっかちに見えてしまい、かえって違和感を感じます。肉眼で見ても遠くにあるものは小さく見えるわけですから、あまり不自然にならない程度にかけるのが望ましいと思います。

 なお、私は超広角レンズを使う際に、カメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐ目的で若干のフロントライズをすることがありますが、これは本来のアオリの使い方ではありません。念のため、つけ加えておきます。

(2021.1.9)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラ用の袋型ピントグラスフード

 大判カメラでのピント合わせは、カメラ後部についているピントグラス(フォーカシングスクリーン)で行ないます。この時、ピントグラスを暗くしないと像が見にくいので、多くの場合、冠布(カンプ)を頭からすっぽりとかぶり、周囲からの光を遮断して行ないます。光を通さないように2枚の布を張り合わせた大き目な風呂敷のようなもので、単純がゆえに自由度が高くて便利ではありますが、特に夏場は暑くて大変です。
 カメラにもちょっとしたフードがついていますが、小さいので遮光効果は十分とは言えず、特に順光での撮影時には後方からもろに光が入り込んできますので、ほとんど役に立ちません。

 そこで、ピントグラス全体を覆うことのできる袋型のフードを作ってみました。

袋型ピントグラスフード(リンホフマスターテヒニカに取付け)

 光を通さない黒い布(今回はナップサックに使われるようなナイロン素材を使用)を、カメラがちょうど入るくらいの筒状(直径28cmくらい)にします。一方の端はゴムひもが通るように加工し、ここにゴムひもを通して少し絞っておきます。これをぎゅっと広げて、カメラに被せることになります。

袋型フード(カメラ取付側)

 もう一方の端は、55mm径のレンズ用の金属製フード(長さが20mmほど)を用意し、この外周に巻き付けます。こうすると全体がボールのような袋状になります。

袋型フードのルーペ取付け側(レンズフード使用)

 次に、このレンズフードにはめ込むルーペを作ります。私は55mm径のNo.3クローズアップレンズを使用しましたが、No.5とかを使えばルーペの倍率を高くすることができます。そして、クローズアップレンズの前側にステップアップリングをはめ込みます(私は55-67のステップアップリングを使用しました)。
 これを先ほどのレンズフードにはめ込めばルーペになるのですが、このままだと若干緩くてするっと抜けてしまいます。そのため、クローズアップレンズの外周にパーマセルテープを巻き、ちょうど入るくらいの太さにします。

フードにはめるルーペ(クローズアップレンズ+ステップアップリング)

 こうしてできたフードはこんな感じになります。

袋型フード

 これを大判カメラに取付ければ、ピントグラスに当たる光をほぼ遮断することができます。
 ルーペ(クローズアップレンズ)を外した状態だとピントグラス全体を見ることができるので構図の確認がし易く、また、ルーペをはめるとピントの確認がし易くなります。

 ただし、正確なピント合わせはこのフードを外して、倍率の高いルーペで行なう必要があると思います。

 なお、今回作成した袋型フードの長さは約20cmですが、私の場合、若干老眼が来ているために、これ以上短くするとぼやけてしまいます。ですので、このフードの長さは目の状態に合わせて、いちばん使い易い長さにするのが良いと思います。

 実際に使用した感想ですが、遮光に関しては合格点だと思います。冠布を使っても下側からの光が入りやすいのですが、このフードは全方位遮光してくれます。それと、広角レンズや超広角レンズを使った撮影の際、ピントグラス周辺ではとても像が見にくいのですが、この袋状フードだと斜めからピントグラスを覗き込むことができるので、像が見やすくなります。また、非常に軽いですし、折りたためば小さくなるので持ち運びにも便利です。
 一方、正確なピント合わせはこのフードを外して行なわなければなりません。その点、冠布は構図確認から正確なピント合わせまですべてこれをかぶった状態で出来ますので、やはり冠布に勝るものはないといったところでしょう。

 しかし、撮影状況によっては冠布を使っても漏れてくる光で像が見にくく、それが結構なストレスになったりもしますので、それを回避してくれるという点ではこのフードを使う価値があるように思います。着けたり外したりが面倒かも知れませんが、あると便利かもしれません。

 余談ですが、冠布は片面が黒、もう片面が赤とか銀色をしています。銀色の理由は日差しを反射して少しでも暑さを防ぐためらしいですが、赤い理由は、森の中でクマなどと間違えられて猟銃で撃たれないようにということのようです。私が使っている冠布は片面が銀色のタイプですが、銃で撃たれるのは怖いので赤いタイプに変えようかなと思ってます。

(2021.1.2)

#撮影小道具 #フレーミング #フード

中判レンズ ペンタックス67:smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF)

 PENTAX67用で焦点距離300mmの望遠レンズです。35mm判カメラ用の150mmくらいのレンズの画角に相当します。ED(特殊低分散)ガラスが採用されたレンズです。

レンズの主な仕様

 このレンズが発売される前は☆のつかない「smc PENTAX67 1:4 300mm」というレンズがあったのですが、それに比べて仕様もお値段も格段にグレードアップされました。ヘリコイドリングのところにグリーンの線が入り、前のモデルとの差を見せつけているという感じです。
 前玉側から覗き込むと、吸い込まれるような妖しい美しさがあります。

smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF)

 レンズの仕様は以下の通りです(リコーイメージング株式会社 公式HPより引用)。
   画角      : 17度
   レンズ構成枚数 : 9群9枚
   最小絞り    : 32
   最短撮影距離  : 2.0m
   フィルター径  : 82mm
   最大径x長さ  : 92.5mm × 209.5mm
   重さ      : 1,650g

重いけれど使い易いレンズ

 前のモデルのレンズ構成が5群5枚だったのに対し、こちらは9群9枚構成になり、レンズ枚数がほぼ倍増しています。また、インナーフォーカス方式が採用されているため、ヘリコイドリングを回してもレンズの全長が変化しないので、バランスの移動も起きません。そして、ヘリコイドリングは軽く、とても滑らかに動きます。これは非常に薄い被写界深度の中においても、とてもピント合わせがし易いです。まさに1mmほど動かしてピントの山を移動させたい時など、この滑らかさがないと大変です。

 ヘリコイドはオーバーインフになっていて、無限遠を通り過ぎて少し先まで回ります。前のモデルがオーバーインフになっていたかどうか記憶がありません。
 最短撮影距離が2mと、前のモデルの半分以下になっているのも使い勝手が良く、ありがたいです(前モデルの最短撮影距離は5m)。

 三脚座は鏡筒と一体になっていて取り外しはできませんが、とても薄型なので特に支障は感じません。手持ち撮影の時には手のひらにちょうど収まり、レンズを支えながら指でヘリコイドを回すことができるので便利です。

smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF) 三脚座

 とはいえ、かなり大きくて重いレンズであることには間違いありません。レンズ先端からマウント面まで約210mmあります。PENTAX67のフランジバックが約85mmですので、このレンズをカメラに取付けたときのレンズ先端からカメラ後端まで、全長は300mmを越えます。そして、レンズ単体の重さが1,650gですので、小ぶりなレンズ2~3本分の重さです。このレンズをカメラバッグに入れると途端に重くなり、持ち歩くのは決して楽ではありません。大判カメラ用で使っているニコンのM300というレンズと比較してみるとこの違いです(下の写真)。開放F値が2段以上違いますので当然と言えば当然ですが、M300は重さがわずか290gですから、いかにPENTAXのレンズが大きいかがわかります。

smc PENTAX-M☆ 67 1:4 300mm ED(IF) + PENTAX67Ⅱ

浅いピントとシャープな写り

 しかし、その大きさや重さを差し引いても使いたくなる魅力のあるレンズであることも事実です。このレンズ、とにかくキレが良くて、撮影済みのポジをライトボックスで見るとエッジのシャープさが良くわかります。被写界深度が浅いこともあり、ピントの合っている部分がまるで浮き上がっているような立体感を感じます。いわゆるヌケの良い描写をするとともに、ピントのピーキーさが際立っているレンズだと思います。

 下の写真はほとんど落葉して幹と枝ばかりになった木を撮影したものです。

裸木 PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-M 67 1:4 300mm F4 1/250 PROVIA100F

 白く輝く枝を逆光気味で撮影しています。白い枝が飛ばない程度に露出を若干オーバー目にして、裸木なりの力強さを狙ってみました。画面上ではわかりにくいかもしれませんが、枝の先端までくっきりと写っています。コントラストが高く、キリッと引き締まった印象を受ける描写だと思います。ちょっとオーバーかも知れませんが、その場の空気まで写し込むといった表現が当てはまるくらいです。
 この写真では鋭い点光源がないのでそもそも色収差は起こりにくいかもしれませんが、ポジを高倍率のルーペで確認しても色収差らしきものは見当たりません。さすが、EDレンズといった感じです。
 また、ファインダー上でピントのヤマがはっきりとわかり、ピント合わせのし易いレンズです。ヘリコイドリングを回したときにピントがスーッと立ってくるのは気持ちの良いものです。

素の状態で使ってこそ

 このレンズに1.4xのリアコンバータをつけると420mmに、2xのリアコンバータをつけると600mmの超望遠になりますが、画質の低下が目立ちます。リアコンバータが特に粗悪というわけではありませんが、このレンズの性能が高いだけにそのギャップがわかりやすいのだと思います。どうしても長い玉が必要というのでなければ、リアコンバータの併用はお勧めしません。単独で使ってこそ性能が発揮されるレンズではないかと思います。

 PENTAX67用のレンズは二線ボケの傾向がありますが、このレンズも撮影条件によっては若干二線ボケが出ることがあります。風景など遠景を撮る分にはほとんど気になることはありませんが、野草撮影などのように比較的近景を撮ると、二線ボケが気になることがあります。
 そういったレンズのクセというか個性を把握しながら撮影するのも写真の面白さかもしれません。

(2020.12.28)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写