山笑う 初夏の輝く新緑を撮る

 俳句の春の季語に「山笑う」というのがあります。山の草木が一斉に若芽を吹いて、山全体が明るい景色になる様子を表現した言葉と言われています。それまでは幹や枝ばかりで寂しげだった山が一変する様子を見事に表現していると思います。
 確かに初夏の山の色合いは鮮やかでやわらかで、何ともいえない美しさがあります。日を追うごとにその色合いは濃さを増していき、若葉の色を愛でることのできる期間は長くはありません。秋の紅葉のような華やかさはありませんが、新緑を見ていると生命のエネルギーを感じます。
 そんな初夏の新緑を撮ってみました。

 ちなみに、夏の山を形容する季語は「山滴る」と言うそうです。あらためて、日本語の豊かな表現に感じ入ってしまいます。

芽吹きを撮る

 木の種類によって若干の違いはあるものの、まるで申し合わせたように一斉に芽吹いて、森全体が淡い黄緑色に染まっていきます。硬かった芽が膨らんで芽吹きが始まると、わずか数日ですべての葉っぱが開ききってしまいます。
 下の写真はカエデが芽吹いて間もないころに撮影したものですが、まだ開ききっておらず、畳んだ傘のような恰好をしています。少し前までは茶色っぽい硬い芽だったにもかかわらず、そこからこんなに大きな葉っぱが出てくるのですから、まったくもって自然の力は偉大で不思議です。見ようによってはさなぎから羽化したばかりの蝶のようにも見えます。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F5.6 1/60 Velvia100F

 背後にはブナやクヌギなどの木があり、いずれも芽吹きが進んでいて、褐色の木の幹や枝ととても美しいコントラストをつくり出しています。どれも同じような淡い黄緑色ではありますが、種類によって微妙に色合いが異なっていて、そのグラデーションもとても綺麗です。

 このような写真を撮る場合、被写界深度を深めにして出来るだけ多くの若葉にピントを合わせるか、逆に被写界深度を浅くして、ごく一部の若葉だけにピントを合わせるか、悩むところです。前者の場合は状況がわかる写真になりますが、若葉が背景に埋もれ易くなってしまいます。また、後者の場合、若葉は浮かび上がってきますがその場の状況はわかりにくくなってしまいます。
 新緑の風景として撮るのであれば、ある程度の広範囲を写す必要がありますので、森全体が芽吹きの時期を迎えているということがわかりつつも、出来るだけ多くのカエデの若葉にピントを合わせたいということで撮りましたが、もう少し背景をぼかしたかったというところです。

 もっと広い範囲で森の芽吹きの様子を撮ろうと思い、撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAC67 55mm 1:4 F16 1/15 Velvia100F

 この写真は露出をかなりオーバー気味(+2段ほど)にしています。実際の森の中はこの写真ほど明るくはないのですが、若葉を明るく写したかったので思い切って露出をかけてみました。木々の幹の色も白っぽくなり重厚さが失われておりますが、この時期の爽やかな感じを狙ってみました。しかし、やはり全体に飛び気味です。

新緑の大樹を撮る

 大樹というのはそれだけで存在感に溢れていて、四季を通じて魅力のある被写体の一つです。
 このような大きな木の全体を撮ろうとすると、被写体からかなり離れなければなりません。しかしそうすると、ぽつんと生えている一本桜のようなものでもない限り、周囲の木々も写り込んでしまい、焦点の定まらない写真になってしまいます。
 ですが、周囲を大きな木に囲まれていてもまさに紅一点の例えのように、その一本だけが異彩を放っていると遠くからでもとてもよく目立ちます。

 これはケヤキの大木ではないかと思うのですが、周囲を杉などの針葉樹に囲まれている中でとても目立った存在でした。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/30 PROVAI100F

 逆光に近い状態であり、ほぼ真上方向から太陽の光が差し込んでいて、開いたばかりの若葉が黄色く輝いています。周囲が黒っぽく落ち込んだ色調なので一層目立っています。
 隣にある若干赤っぽく見える木は山桜ではないかと思うのですが、定かではありません。

 この木がある場所は山の北側の急斜面です。それを数百メートル離れた場所から望遠レンズで撮りました。若干短めのレンズを使って、もう少し広い範囲を写した方が窮屈さがなくてよかったかもしれませんが、大樹の存在感を出すにはこれくらいの大きさの方が望ましいようにも思います。
 周囲の杉は植樹されたものだと思いますが、このケヤキや桜だけは伐採されずに昔からここにあったのでしょう。神が宿っているのではないかと思える大樹です。

川面への映り込みを撮る

 渓流や滝などに限らず、水の流れを見るとなぜか無性に撮りたくなります。何故そう思うのか、うまく説明できないのですが、水は命をはぐくむためになくてはならないものだということがそう思わせるのかも知れません。
 もちろん、植物にとっても水は欠かせない存在であり、水と植物の組合せというのは不思議な魅力があります。雨上がりの生き生きとした植物の姿はその代表格かも知れません。
 また、湖面などに写り込んだ景色も素敵で、単に樹だけを見ているよりも趣を感じるから不思議なものです。

 下の写真は清流の上に張り出している木の枝ですが、そこにに光が差し込み、川面に写り込んでいる状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:6.3 F22 1/60 Velvia100F

 この川は水がとても綺麗で、川底の石の一つひとつがわかるくらいです。水深も浅いうえに流れが穏やかなので、まるで湖面のように新緑を映し込んでいます。若葉を透過してきた黄緑色の光が川面に降り注いでいるため、水が黄緑色に染まっているように見えます。それどころか、この渓流全体の空気までも黄緑色に染まっているような錯覚を覚えます。
 黄緑色の光の感じを損なわないように露出はオーバー目にしていますので、若葉はかなり飛び気味です。少々、葉っぱの質感が失われてしまっていますが、葉っぱを適正露出にすると全体が暗くなってしまい、全く雰囲気の異なる写真になると思います。

 夏になり、葉っぱも濃い緑になるとこのような輝きは見られなくなてしまいます。それはそれで違った美しさがありますが、葉っぱ自体が発光しているような輝きを見ることができるのも新緑ならではです。

多重露光で撮る

 一口に多重露光と言ってもその表現方法は様々で、全く違う画像を重ね合わせるアート的なものもありますが、私が時々撮るのは、同じ場所で複数回の露光をするという最も簡単な方法です。もちろん、同じ場所で複数回の露光をするだけでは露光時間を長くしたのと変わらないので、1回目と2回目の露光でピント位置を変えて行ないます。ピントを外して露光するとぼやけるので、これを重ね合わせるとソフトフォースレンズで撮ったような雰囲気の写真になります。

 新緑の中にツツジ(たぶんミツバツツジではないかと思います)が一株だけ咲いていたので、これを多重露光で撮ってみました。

▲KLinhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm 1:5.6 F32 1/60、F8 1/250

 1回目は被写界深度をかせぐために出来るだけ絞り込んで撮影し、2回目は少しピントを外し、絞りも開いて撮影しています。
 2回とも適正露出で撮影すると結果的には2倍の露出をかけたことになり、若干露出オーバーになりますが、この新緑の鮮やかさを出すためにその方が望ましいだろうということで補正はしていません。
 また、2回目は前ピン(近接側)に外しているので、周辺部の方が画のずれが大きくなり、大きくボケているような印象になりますし、暗いところよりも明るいところのボケの方が大きく感じられます。

 このような多重露光の方法の場合、ぼかし具合と露出のかけ方によってずいぶんと印象が変わってきますが、全体的に柔らかな感じになるのと、メルヘンチックな描写になる傾向があります。被写体によっても印象が変わりますので、いろいろ試行錯誤してみるのも面白いかも知れません。

マクロで撮る

 マクロ写真はまったく違った世界を見せてくれるので、その魅力に取りつかれてしまうことも多いのではないかと思います。だいぶ前になりますが私もマクロ撮影にはまってしまい、一時期はマクロ撮影ばかりやっていたことがあります。私の場合、その被写体のほとんどは花でしたが、単に小さな世界を写し取るというだけでなく、たくさんの表現手法を使うことができるのも魅力の一つかも知れません。

▲PENTAC67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 上の写真は初夏に小さな白い花をつけるドウダンツツジです。公園の生け垣などにもよく使われているので身近な被写体といえると思います。
 朝方まで降っていた雨のため、葉っぱや花のあちこちに水滴が残っており、とてもいいアクセントになっています。また、水滴のおかげで玉ボケもできて、画に変化を与えてくれています。

 マクロ撮影の場合、被写界深度が非常に浅く、ピントの合う位置は一点のみといっても良いくらいですが、写り込む要素が多すぎると画全体がうるさくなってしまうので、主要被写体以外は出来るだけ大きくぼかしておいた方がすっきりとした写真になります。
 ドウダンツツジはたくさんの花をつけるので、画がゴチャゴチャしないように一輪だけひょんと飛び出した花を狙って撮りました。もちろん、前後に葉っぱもたくさんあるのですが、これらは大きくぼかして初夏の印象的な色合いになるようにしました。真っ白で清楚な感じのする花も綺麗ですが、新緑の鮮やかな色あいが爽やかさを感じさせてくれます。

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 新緑だからといって特別な撮影方法があるわけではなく、自分なりの表現手法で撮ればよいわけですが、いざ撮ろうとすると意外と難しいと感じるのも事実です。その美しさに自分の気持ちばかりが先走っているのかも知れません。
 自分の腕はともかく、新緑の美しさが格別なのは言うまでもありません。一年のうちのわずかの期間だけしか見ることのできない新緑の芽吹きは代えがたいものがあります。秋の紅葉も綺麗ですが、刹那の美しさという点では新緑は群を抜いているように思います。

 標高の低いところでは新緑の季節はすっかり終わってしまいましたが、高山に行けばまだ見ることができます。行くまでが大変ですが、高山の新緑はまた格別です。

(2023.5.15)

#PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #新緑 #ペンタックス67 #リンホフマスターテヒニカ

いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~

 私は何年か前に、それまで所有していた35mm判のカメラやレンズのほとんどを処分して以来、カメラの台数はほとんど増えていません。正確に言うと、衝動買いしたフォクトレンダーのベッサマチックが1台加わりましたが、このカメラはすっかりディスプレイと化しています。
 ちなみに、レンズの方は今でも微増しております。

 新たにカメラが増えていないのは、私が使ってるようなフィルムカメラの場合は、カメラが変わっても写真に大きな違いはないということがいちばんの理由です。もちろん、多くの二眼レフカメラやレンジファインダーカメラなどのようにレンズが固定式の場合は、カメラが変わればレンズも変わるので写りにも影響しますが、私が主に使っている大判カメラや中判カメラはレンズが交換できるので、カメラ本体をたくさん持つ必要がありません。
 しかしながら、カメラに対する物欲がまったく失せてしまっているかというとそんなこともなく、もう長いこと欲しい欲しいと思いながらも、いまだに手にすることができていないカメラがあります。

 まず1台目は、富士フイルムの「GF670W Professional」という中判カメラです。

▲富士フイルム製 GF670W Professional (富士フイルム HPより転載)

 このカメラは2011年3月に発売された中判フィルムカメラで、その2年前(2009年)に発売された「GF670 Professional」というカメラの広角レンズタイプです。GF670は蛇腹を採用した折り畳み式でしたが、GF670Wはレンズ固定の一般的なレンジファインダーカメラの形態をとっていました。
 価格はオープンとなっていましたが、新宿の大手カメラ量販店では15万円ほどで販売されていたと記憶しています。

 装着されていたのは「EBC FUJINON 55mm 1:4.5」という8群10枚構成のレンズで、電子制御式のシャッターが内蔵されていました。FUJINONのレンズと言えばその写りの素晴らしさは誰しもが認めるところであり、私もFUJINONの大判レンズを何本か持っていたので、写りに関しては何の懸念もありませんでした。

 66判と67判を切り替えて使うことができたのも魅力の一つでしたが、私にとっては何と言っても洗練されたデザインが最大の魅力でした。
 フィルムの巻き上げもレバーではなくダイヤル式が採用されていたりして、半世紀も前のカメラを彷彿とさせるようなたたずまいですが、とても垢抜けしているように感じたのを憶えています。
 また、中判では主に67判を使っていた私にとって、レンジファインダーの67判というところにも心を揺さぶられました。

 このカメラが発売された2011年というのはフィルムにかなり翳りが出ていた頃で、同じ会社である富士フイルム製のフィルムも次々に販売終了になっており、そんなときによく新たなフィルムカメラを出したものだと驚きました。もしかしたら「フィルム復活!?」なんていう淡い期待を抱いたのも事実です。
 しかし、わずか4年後の2015年5月には出荷終了となってしまいました。なんと、先に販売が開始されたGF670よりも2年以上も早くに出荷終了になってしまいました(GF670は2017年12月で出荷終了)。初代のGF670の方が人気があったのかも知れません。

 生産された期間がわずか4年間で、しかも、このカメラを購入しようと思う人は決して多かったとは思えません。最終的な出荷台数がどれくらいになったのかはわかりませんが、市場に出回った台数はとても少ないのではないかと思います。
 それが証拠に、中古市場でも球数は少ないうえに異常とも思える高値がついています。30万円、40万円とかは当たり前で、中には50万円を超えるものもあり、ここまで価格が高騰してしまうととても手が出せません。15万円で新品が購入できたときに何故買っておかなかったのか、今更ながらの後悔です。15万円というのは安い金額ではないので踏ん切りがつかなかったのと、そんなに早くに出荷終了になるとは思いもしなかったというのが、当時購入しなかった理由だと思います。

 また、私はこのカメラで実際に撮影している人をこれまで一度も見たことがありません。中古市場に出回っているカメラも状態の良いものがほとんどで、あまり使われることもなく大事に保管されていたのではないかと思ってしまいます。出荷台数が少ないがゆえに、コレクターズアイテムのような存在になってしまっているとしたら、ちょっと寂しい気持ちになります。

 いくら欲しいとはいえ、今のような高額の状態で手を出すことはないと思いますが、もし、幸運にもこのカメラをゲットできたとしたら、スナップ感覚で風景を撮りに行く回数が確実に増えると思います。

 いま、とっても欲しいカメラの2台目は、「シャモニーChamonix 45 F-2」です。

▲Chamonix 45 F-2 (シャモニービューカメラ HPより転載)

 これは中国にあるシャモニービューカメラという会社で作られている大判(4×5判)カメラです。

 シャモニーのカメラについては以前、別のページでもちょっと触れましたが、会社のホームページを見ると、2003年に中国の写真家と登山家によって設立されたと書かれています。大判カメラを専門に作っているようですが、そのラインナップは素晴らしく、これまで聞いたことのないようなフォーマットのカメラがいくつもあります。

 私は今から10年ほど前にはじめてこの会社の存在を知り、そこで作られているカメラの美しさに目を奪われました。ウッド(木製)カメラに似ていますが、木材の他に金属や炭素繊維(カーボンファイバー)が豊富に使われており、それらがとてもよく調和したデザインになっています。
 また、とても丁寧に作られている感じがして、美しい仕上がりになっています。

 そして、最も私の気を引きつけたのがユニークなカメラムーブメントでした。
 これまでの大判カメラにはなかったと思われる独自の機構がいくつもあり、シンプルでありながら機能性に富んだカメラという印象です。カメラのベース部分は金属製ということもあり、見た目からも堅牢な感じがします。フィールドでも安心感をもって使用できるカメラだと思います。
 金属が多用されているので重量も増しているかと思いましたが、カタログ上では1,600gとなっていて、私が使っているタチハラフィルスタンドよりもほんの少し重いだけです。
 残念ながら、私は一度も触ったことはありませんが、たくさんの方が動画をアップされていて、それらを拝見することで美しさや機能性の良さをうかがい知ることができます。
 また、単にカメラを製造して販売するだけでなく、パーツ類の供給やサポート体制もしっかりとしているようで、企業体質にも誠実さが感じられます。

 国内の中古カメラ店にも時どき入荷することがあるようなのですが、人気のモデルはすぐに売れてしまうようです。4×5判であれば価格も20万円を下回っていて、べらぼうに高いという感じはしません。むしろ、リンホフやエボニーなどの中古品よりもずっとお手頃な価格です。
 ホームページに掲載されている新品価格が1,455ドルですから、円安の今でさえ、20万円ほどで手に入れることができるわけです。

 現在、私は4×5判のカメラを4台持っていて、これ以上、カメラが増えても持て余すだけになってしまいますし、特に大判カメラの場合、よほどひどい状態でない限り、どのカメラで撮っても写りに違いが出るわけではありません。ですから、今持っているカメラで何ら不都合はないのですが、魅力というのは不思議なもので、現実をはるかに超越してしまう力を持っています。
 今あるカメラを1~2台手放して、代わりにこのカメラをゲットしようかとも考えましたが、それはそれで後ろ髪を引かれる様なところがあり、思い切りよくやることができずにいます。

 それにしても、どれくらいの需要があるのかわかりませんが、これだけの品質のカメラを1,455ドルという価格で提供し続けることができるということに驚いてしまいます。事業として採算がとれるのだろうかと、つい余計な心配をしてしまいます。

 いま、とっても欲しいカメラの3台目は、「コニカ KONICA C35」、35mm判のコンパクトフィルムカメラです。

▲コニカ C35 Flash matic

 メーカーが提供している画像を見つけられなかったので、絵をかいてみました。へたくそですみません。
 
 製造発売元の小西六写真工業(のちのコニカ株式会社、現コニカミノルタ株式会社)は、富士フイルムと並ぶフィルムメーカーとしても有名でしたが、ミノルタと合併してコニカミノルタとなった後、カメラ事業や写真関連事業をあちこちに譲渡していき、現在のコニカミノルタからはカメラの臭いがなくなってしまいました。

 このC35というカメラはいくつかのモデルがあるのですが、初代は1968年に発売されたようです。今から50年以上も前で、アメリカのアポロ11号が月面に降りる前の年です。
 上の写真のカメラはC35 Flash matic というモデルで、発売年は初代機の3年後の1971年とのことですので、やはり50年以上は経過しています。

 35mm判カメラのほとんどを処分してしまったにもかかわらず、何故、今になって35mm判のコンパクトカメラが欲しいのかというと、理由はただ一つ、その見てくれの可愛らしさです。
 コンパクトフィルムカメラは、これまで各メーカーからそれこそ数えきれないくらいのモデルが発売されてきましたが、私にとってはそのデザイン性という点において、このカメラの右に出るものはないと思っています。デザインというのは好き嫌いがありますから、誰もがこのデザインを好むとは思っていませんが、私からすると、愛嬌もあり野暮ったくもない、50年経っても古臭さを感じないデザインは他にないと思っています。
 私が愛用しているCONTAX T2も優れたデザインだと思っていますが、T2のように優等生ぶっていない親しみのある風貌が何とも言えません。いわば、T2の対極にあるようなデザインといった感じです。
 以前から可愛らしいカメラだとは思っていたのですが、最近になってとても気になる存在になってきました。現役で使っている35mm判カメラがT2だけになってしまったからかも知れません。

 カタログデータを調べてみたところ、大きさはT2よりも少しばかり大きく、重量もT2より少し重いようですが、それでも非常にコンパクトであることには変わりありません。レンズは写りに定評のあるHEXANON 38mmがついているので、その描写能力に関しても問題はないと思われます。
 このカメラ、中古市場では結構たくさん出回っているようで、大手ネットオークションサイトを少し調べてみましたが、安いものであれば数千円、程度の良いものでも一万円前後で出品されています。手に入れたいと思えば比較的容易に購入できる状況のようです。

 CONTAX T2はお散歩カメラとして今も活躍してくれていますが、もし、コニカ C35を手に入れた時のことを想像すると、お散歩カメラとして持ち歩きたくなるのは間違いなくC35だと思います。なんだかT2には申し訳ないようですが、こればかりは仕方ありません。
 富士フイルムのGF670WやシャモニーのChamonix 45 F-2のように何十万円もするわけではなし、今夜にでもポチッとすれば2~3日後には手に入るカメラです。GF670WやF-2に対する物欲とは次元の違う物欲を感じるカメラです。

 こうしてあらためて振り返ってみると、いま欲しいと思っているカメラは機能や性能に優れているというだけでなく、琴線に触れるようなフォルムとかデザインを持ったカメラというような気がします。もちろん、機能や性能は重要な要素ですが、私の気持ちはどちらかというとデザインに重きが置かれているといった感じです。
 デザインの好き嫌いは個人の好みの問題ですが、どんなに機能や性能が優れていても、デザインが気に入らなければ全く興味が湧きません。これら3つのカメラは機能や性能も十分に備えながら、デザイン的にも優れているカメラだと感じています。あくまでも個人的にですが。

 この他にも気になっているカメラはいくつかあります。しかし今のところ、手に入れたいと思うようなカメラはこの3つ以外には存在しません。世の中には私がまだ知らずにいるカメラもたくさんあるわけで、そういった中には琴線に触れるものもきっとあると思います。いつか、そんなカメラと出逢う日もあるだろうという期待を持ちつつ、この3つのカメラをゲットすべきかどうか悩む日は続きそうです。

(2023.4.28)

#GF670W #Chamonix #シャモニー #コニカ #KONICA_C35

隅田川に架かる橋 ライトアップ夜景 -吾妻橋・隅田川橋梁・駒形橋・厩橋・蔵前橋-

 隅田川は岩淵水門で荒川から分岐して東京湾にそそぐ川ですが、たくさんの橋が架かっています。東京オリンピックの開催に向けてライトアップの整備も行われたため、それぞれ、個性的な景観を見ることができます。ライトアップは日没の15分後から夜11時ごろまで行われており、今の時期は午後6時を少し回った頃からライトアップが始まります。長時間ライトアップされているので、ゆっくりと撮影することができます。
 また、川の両岸は整備された広い遊歩道が続いており、フットライトも設置されているので足元も安心です。散歩をする人、ジョギングをする人、撮影をする人等々、多くの人がいらっしゃいますが、私のようにフィルムカメラを持ち込んでも安心して撮影できる場所です。

 今回、特に橋が密集している浅草界隈でライトアップされた橋の撮影をしてきました。
 なお、今回の撮影はISO100のリバーサルフィルムを使用しました。

赤色のライトアップ 吾妻橋

 吾妻橋は、浅草駅の入り口あたりから対岸のアサヒビール本社ビルの手前あたりに架かっている橋で、隅田川に架かる橋の中では最初の鉄橋らしいです。現在の橋は1931年の開通とのことですので、90年以上が経っていることになります。
 3つの径間をもった綺麗なアーチ橋です。橋の上部に構造物がないため、明るいときに見るととてもさっぱりとしたというか、簡素な感じがしますが、品格のある美しさを感じる橋です。

 ライトアップされた吾妻橋を浅草側から撮影したのが下の写真です。

▲吾妻橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 16s PROVIA100F

 アーチ部分の鉄骨も赤色で塗装されていますし、昔は灰色だったらしいのですが、欄干部分も赤系になっていることもあり、ライトアップされると橋全体がとても華やかな印象になります。欄干の部分の照明色は季節によって変わるようで、今は桜色というかピンク色に照明されていました。
 アサヒビール本社ビルの屋上に設置されている金色のオブジェもライトアップされていて、不思議な景観を作り出しています。もう少し引いて撮ると、左の方に東京スカイツリーがあります。

 少し風のある日でしたが水面が大きく波立つほどではなく、長時間露光にもかかわらず水面に映る照明の色合いがしっかりと残ってくれました。
 いちばん手前のアーチの下が暗くなっているのがわかると思いますが、何故かここだけ照明がされていないようでした。ここも赤い鉄骨が浮かび上がると、もっと華やかな感じになったと思うのですが。

白色のライトアップ 隅田川橋梁

 吾妻橋の少し上流側にある東武伊勢崎線の隅田川橋梁と、そこに併設されているすみだリバーウォーク(遊歩道)です。
 すみだリバーウォークは朝7時から夜10時までが通行可能で、浅草の浅草寺と東京スカイツリーの間を行き来するのにとても便利です。遊歩道の床板にはガラスがはめ込まれていて、隅田川を真上から見ることができます。

▲隅田川橋梁:PENTAX67 smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 60s PROVIA100F

 隅田川橋梁は電車が通る橋なので重量級の建造物という感じがしますが、架線柱がお洒落なデザインになっていて、隅田川の風景にマッチしているように思います。
 また、この橋を渡るとすぐに浅草駅がある関係で、電車はこの橋を通るときとてもゆっくりとしたスピードになり、時には橋の上でしばらく停車していることもあります。この橋を電車が通過する景色はとても絵になります。

 橋の上部や架線柱は季節によって照明色が変わるようですし、また、イベントがあったりすると特別照明がされるようです。一方、下部の方は白い照明ですが、太い鉄骨を一層無機質な感じに照らし出します。何だか、未来都市の一部を見ているような気になります。
 架線柱の真下に見える薄緑色の光は通過する電車の窓の明かりです。右方向からゆっくりした速度で来て、左の方にある浅草駅に入っていきました。高速で通過してしまうとこんなに明るく写らないのですが、これもこの橋梁ならではの景色かも知れません。

 白い鉄骨の部分の質感が損なわれないようにするため、露出のかけ過ぎに気をつけたのですが、水面が思ったほど明るくなってくれませんでした。もう半段くらい、露出を多めにしても良かったと思います。

青色のライトアップ 駒形橋

 上野から東に延びている浅草通りに架かっている橋です。浅草側の橋のたもとに「駒形堂」というこじんまりとした観音堂がありますが、これが名前の由来のようです。橋が架かる前は渡し舟で川を渡っていたらしいです。
 橋脚の上にはバルコニーのようなものが設けられていて、中世のお城のようなデザインです。このバルコニーからは東京スカイツリーや隅田川に沿って走る首都高が良く見え、絶好の撮影スポットです。

 ちょっとレトロ感の漂う橋ですが、夜になってライトアップされると雰囲気が一変します。

▲駒形橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F22 16s PROVIA100F

 橋の両端のアーチは下側にありますが、中央のアーチは橋の上部に設置されていて、三つのアーチがとても綺麗な弧を描いています。橋の下側には照明がありませんが、欄干やアーチを照らす明かりがかなり明るいので、水面への映り込みもとても見事です。青系で統一された色合いはちょっと冷たい感じがするかも知れませんが、暗い背景とのコントラストは抜群に綺麗だと思います。

 隅田川は屋形船や観光船などがたくさん往来しているので、船が来るのを待ってその光跡を入れたものも撮ってみました。右から左にオレンジ色の線がスーッと入って温かみを感じるような画にはなりますが、この橋には余計な光がない方がお似合いだと思います。

薄緑色のライトアップ 厩橋

 厩橋は、駒形橋から少し下流に行ったところにある3連のアーチ橋です。「厩」という名前が示すように、この橋にはいたるところに馬のレリーフやステンドグラスなどが埋め込まれています。
 流れるような優美な曲線で構成されたアーチが特徴的で、太い鉄骨で組み上げられているにもかかわらず、柔らかな感じのする橋です。アーチ部分に大量に打ち込まれているリベットさえも景色になっているように思えます。
 橋の上を車で走ってしまうと、その橋の形などはなかなかわからないものですが、この厩橋は特徴的な3連アーチが車の中からも良くわかります。

 そんな3連アーチ橋ですが、ライトアップで優美さは更に増します。

▲厩橋:PENTAX67 smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 12s PROVIA100F

 薄緑を基調に、全体的に淡い色合いの照明がなされています。橋の形が柔らかな感じなので、あまり強い色調の照明よりもこのくらいの方が似合っていると思います。
 この写真を撮ったとき、欄干部分はパステル調の青と紫色で照明されていましたが、季節によって変えているようです。

 橋の上部に大きなアーチが三つあることで、ライトアップされると遠くからでもいちばん目を引く橋です。この写真は橋の北側(上流側)から撮っていますが、橋の下をくぐって反対側に行くと東京スカイツリーとアーチがちょうど重なる位置関係になります。
 駒形橋と同じでこの橋も橋脚部分を除いて、橋の下部の照明はありません。肉眼だともっと明るい感じなので、もう少し露光時間を長くしても良かったかもしれません。

黄色のライトアップ 蔵前橋

 厩橋から数百メートル下流に架かっている橋で、形状は吾妻橋によく似ています。稲のもみ殻をイメージさせるということで、淡黄色というか黄檗色というか、そんな感じの色で塗装されています。
 大相撲の国技館、今は両国にありますが、その前は蔵前にあったことから、橋の高欄には力士のレリーフが施されています。橋の上は障害物もなくとてもすっきりとしていて、高速道路を走っているような錯覚を感じてしまう橋です。

▲蔵前橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 24s PROVIA100F

 黄色系の照明はとても明るく感じるせいか、ライトアップされると圧倒的な存在感があります。
 アーチの下側に整然と並んで組まれている鉄骨が浮かび上がり、とても綺麗です。無機質な鉄骨の建造物でありながら、周囲の景観と見事に調和している感じです。石造りの橋脚も趣があって、控えめな照明が作り出す陰影が美しいです。

 黄色は見た目以上に明るいので、露出計任せにすると暗く写ってしまい、濁った色合いになってしまいます。特にこのような夜景では思い切って多めに露出をかけた方が綺麗に仕上がります。
 上の写真でも、弧を描いているアーチの部分はほとんど白飛びしてしまっています。中央のアーチの上部には橋の名前が書かれているのですが、これが読めるように適正な明るさにすると鉄骨の部分はかなり暗くなってしまい、橋の優美さが損なわれてしまいます。

 今回使用したISO100のフィルムは常用感度(と言っても、リバーサルフィルムで現在手に入るのはISO100とISO50の2種類しかないのですが)といえるフィルムですが、決して感度が高いというわけではありません。夜景のような撮影の際、露光時間を長くしても弱い光をとらえきることは難しく、硬い感じの写真に仕上がってしまいます。
 それはそれで気持ちの良い描写ですが、明るく表現するか、暗く表現するかは撮り手の作画意図や伝えたいものによって異なります。ですが、出来るだけたくさんの光をとらえつつも、過度な露出オーバーにならないように露出を決めたいという思いもあり、そのような写真を撮るには神経を使います。

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 今回撮影した橋のうち、吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋は関東大震災の復興橋梁として架けられた9橋に含まれ、いずれも建設から90年以上が経っていますが、古臭さはまったく感じられません。むしろ、近年の建造物よりもずっとセンスがあると思います。
 さらに下流に行くといくつもの個性的な橋が架かっているので、そちらの撮影にも出かけてみたいと思っています。

 例年だと今の時期は夜になると肌寒いのですが、今年は暖かくなるのが早く、重い機材を担いで川べりを歩いていると汗ばむくらいでした。季節によって違った景観を見せてくれますが、撮影するにはいまがいちばん体への負担が少ない季節です。

(2023.3.31)

#PENTAX67 #吾妻橋 #駒形橋 #厩橋 #蔵前橋 #リバーサルフィルム #ペンタックス67

写真関係の団体に会員として加入するということ

 2週間ほど前のことです。友人から、「○○日に撮影会があるんだけど、参加してくれない?」とのお誘いの連絡が来ました。詳しく聞いてみると、東京の御茶ノ水・神田界隈を散策しながら写真撮影をするイベントが開催されるとのことです。どうやら、近年流行っているフォトウォーキングのようです。
 私は昔に比べてスナップを撮ることが少なくなってきたのと、そもそも、私はそのような撮影会に参加すること自体がまったくないのでやんわりと断ったのですが、「ぜひ、参加してくれ!」と、お誘いから懇願に変わってきました。私の友人が懇意にしてもらっている人が企画したイベントらしいですが、参加者が集まらなくて困っているとのこと。2人でも3人でも集まった人だけでやればいいじゃないかと思ったのですが、諸事情でそういうわけにもいかず困っているようです。
 あまり気が進まなかったのですが、撮影に行くこと自体が嫌なわけでもないのでとりあえず了解しておきました。

 それから数日後、指定された場所に出向きました。参加者は私の友人と私を含めて十数名で、若い人ばかりかと思っていましたがそこそこ年配の人も何人かいらっしゃいました。また、数人はリピーターのようでしたが、私のように初参加という人が大半でした。
 主催者の挨拶やら自己紹介やらが終わっていよいよ散策撮影会が始まりました。お互いに初対面の人ばかりなので会話も少なく、静かな感じで始まったのですが、最初の撮影ポイントに着いてから様相が変わってきました。各自、思い々々に撮影しては、その写真をお互いに見せ合っているのです。その光景を見て私は「しまった!」と思いました。

 私が持ってきていたカメラは富士フイルムのGW690Ⅱという骨董品のような中判のフィルムカメラです。当然のことながら、撮ったその場で見ることなど出来ません。私の持っているカメラに気がついた年配の方が、「フィルムカメラですか?渋いですね」と、半分ねぎらいのような、半分哀れみのような言葉をかけてくれました。
 一応、私も一眼レフのデジカメを1台とレンズ1本だけ持っています。が、ほとんど出番はなく、日ごろからフィルムカメラを使っているため、当日も深く考えずに弁当箱のようにでかいGW690Ⅱを持ち出してきてしまったというわけです。
 また、このような撮影会に参加した経験はなく、その場でお互いに撮影した写真を見せ合うという文化には無頓着でした。
 そんなわけで、私が撮った写真をその場でお見せすることはできませんでしたが、フィルムカメラに興味を持っていただいたり、同じ場所で撮影しているということもあり、村八分になることもなく、数時間の撮影会を終えることができました。

 ちなみに、当日、実際に撮影したうちの1枚が下の写真です。

▲FUJI GW690Ⅱ F4 1/30 GP3

 JR神田駅のガード下の光景です。神田は東京と秋葉原に挟まれていて、東京駅周辺も秋葉原駅周辺もどんどん開発が進んでいますが、神田界隈だけは昔の名残をとどめています。何だか取り残されたような感じを受けますが、昭和の臭いが漂っているような景色も好きです。ガード下の支柱もレトロな感じです。
 昨年の暮れに2本だけ購入した中国製のモノクロフィルム、GP3が1本残っていたので使ってみました。

 今回のような撮影会参加は私にとっては初の体験でしたが、撮影しながら参加された方といろいろ話をしてみて感じたのは 、カメラや撮影を通じて人との交流を図りたいとか、カメラを始めたばかりだけどどうやったら上達するのかがわからないので参加してみたという方が多いということです。今回の撮影会には指導してくれる講師のような方はいないのですが、それでも共通の趣味を持った人たちと一緒に撮影を楽しみたいという思いを持っているということです。一人で黙々と撮るよりも大勢で楽しく、ということを求めているということの表れのようにも思います。

 国内にはたくさんの写真に関する団体が存在していて、その趣旨や活動内容は様々ですが、大雑把に4つぐらいに分けられるように思っています。

 まず一つ目は、「○○連盟」とか「○○協会」という名前がついていることが多い団体で、有名どころでは「全日本写真連盟」や「全東京写真連盟」、「日本風景写真協会」などがあります。活動は全国規模で行なわれていて、一般社団法人のような形式で組織運営していたり、名だたる企業が運営母体や協賛、あるいは後援という形で関わっていたりします。
 会員になるためには入会金や年会費などを納めなければならないとか、入会のための審査が必要だったりするところもあります。格式もあるがハードルも高いといった感じもしますが、活動内容も充実しているので、やはり価値は高いと思います。

 二つ目はメーカー系の企業が主催していることが多い団体で、特にカメラメーカーには必ずと言ってよいくらい存在しています。知名度や資金力もあるので、著名な写真家などを招いての講演会や講座なども頻繁に開催されていて、そのほとんどが盛況のようです。
 年会費なども必要なところが多いと思いますが、入会のハードルが高いということはなく、誰でも気軽に入ることができるのもメリットかも知れません。

 三つ目が自治体や地元の有志の方々が運営しているもので、「○○倶楽部」みたいな名前がついていることが多い団体です。全国の市区町村に最低でも一つは存在しているのではないかと思えるくらいたくさんあります。
 団体の規模自体はそれほど大きくありませんが、事務局も設置されていてしっかりと運営されているという印象があります。当然、加入されている方は地元の方に限定というところが多いと思いますが、それだけに会員同士の交流も親密という感じです。定例会や撮影会、展示会なども積極的に行なっているところが多く、まさに地域に根差しているという団体かも知れません。

 そして四つ目が、今回、私が飛び入りで参加させてもらったような同好会とかサークルと呼ばれているものです。SNSなどの発達で、個人が発起人のようになってサークルを立ち上げ、ネット上に発信して加入者や参加者を募るということが容易にできるため、近年、その数は急激に増えているように思います。
 入会金や年会費などは不要、都度実費のみ負担というところが多いので、気軽に参加できるということもありますし、散策をしながら撮影を行なうというイベント開催の形式が最も多いようなので、写真を通じて仲間づくりというのにはもってこいかも知れません。
 一方で、事務局のようなものは存在していなかったり、定例会や展示会のようなものを行なっているのは少数派という感じもします。

 このように写真に関する団体はたくさん存在していて、私も二つの団体の末席に名を連ねさせていただいております。過去にはメーカー系の団体に加入していたこともありましたが、今は退会してしまい、現在会員になっているのは二つだけになりました。
 会員になっているとはいえ、私は決して優良会員ではなく、定例会には参加することが多いですが、撮影会などには行ったことがありません。

 では、なぜ安くはない年会費を払いながら加入し続けているかというと、他の会員の方々からたくさんの刺激をいただくことができるからです。
 ネットが発達・普及したおかげで居ながらにして世界中の人々が撮影した写真を閲覧することはできますが、それはあくまでも写真の画像を見ているのであって、本来の写真としてみるためにはしっかりとプリントされている必要があるというのが私の持論です。高精細の大型モニタに映せば同じじゃないかという意見もあろうかと思いますが、やはり、プリントしたものは別物だと、私は勝手に思い込んでします。
 加入している団体の定例会などに出席すると、会員の方が撮影した写真を四切くらいの大きさにプリントしたものを見せていただきながら、撮影に使った機材はもちろん、撮影時の状況なども直接聞くことができます。そして、私がいちばん刺激を受けるのが、何を表現しようとしたのか、何を伝えようとしたのか、あるいは、なぜこのような構図にしたのかといったようなことです。これらは文章ではなかなか伝わりにくいことで、直接、撮影された方から聞くことで情報量は何倍にも何十倍にもなります。
 写真だけを見て撮影者の意図を想像することはできますが、それが真実かどうかはわかりません。直接お聞きすることで様々な気づきがあったりします。

 また、他の方の写真を見るだけでなく、自分が撮影した写真を見ていただき、それに対してフィードバックをもらうことも大きな刺激になります。私も心が狭いのですべてのフィードバックに納得できるわけではありませんが、そういう見方や考え方もあるんだということを知るのは大切なことで、それを何年後かに納得できたということがこれまでに何度もありました。

 写真の楽しみ方、あるいは目標や目的は人それぞれで、仲間と楽しく撮影したいという人もいれば、写真の腕を上げたいという人もいたり、納得のいく作品作りをしたいなど千差万別です。一人でコツコツと勉強したり経験を積んだりもできますが、他の人と交流をするということは楽しみを拡大したり目的を達成するためにとても重要なことだと思います。そもそも人間というのは、自分の撮った写真を人に見せたい、人に見てもらいたいという思いが根底にあるようですから。

 前の方で書いた団体の中には財政的に運営が厳しいところも少なくないようですし、会員の高齢化が進んで限界集落のようになっているところもあるという話しも聞きます。また、スマホで撮る人が増えたことでスマホ以外のカメラ人口が減少しているという統計もあるようです。カメラメーカーにとっては切実な問題でしょうが、スマホで撮影したものでも立派な写真であることには違いありません。
 あらゆるものが時代とともにその形を変えていくので、写真関連の団体の在り方も徐々に変化していくと思いますが、自分の目的や感性に合った団体を見つけて、そこに加入してみるというのは意義のあることだと思います。自身の成長はもちろんですが、加入する人が増えることで団体も活性化し、存続していくことができるわけです。

 最後に、もしも、今回のような散策撮影会にまた参加することがあったとしたら、その時は「チェキ」を手に入れて持っていきたいと思っています。なんてったって撮った写真をその場で見ることができるのですから。

(2023.3.17)

#GW690#GP3

PENTAX 67用 中望遠レンズ smc PENTAX 67 200mm 1:4

 PENTAX 67用の中望遠レンズです。35mm判カメラ用の焦点距離100mmくらいのレンズと同じ画角になります。
 この焦点距離は望遠というにはちょっと物足りないし、スナップなどを撮るには少し長すぎるといった感じで、それが理由なのか、あまり人気のないレンズのようです。中古市場やネットオークションなどでもよく見かけるし、何よりも他のレンズに比べて驚くほど安い価格が設定されています。にもかかわらず、商品の動きはあまりないようです。
 巷では不人気(?)なレンズですが、私は結構気に入っていて、持ち出す頻度もそこそこ高いレンズです。

smc PENTAX 67 200mm レンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX 67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成 : 4群5枚
   絞り目盛り : F4~F32
   画角  : 25度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 1.5m
   測光方式 : 開放測光
   フィルター径 : 77mm
   全長  : 135mm
   重量  : 795g

 このレンズは初代のスーパータクマー6×7、2代目のSMCタクマー6×7、そして3代目のSMCペンタックス67と、3つのモデルがあります。初代と2代目のレンズ構成は4群4枚でしたが、3代目のSMCペンタックス67になって4群5枚構成に変更されています。
 最短撮影距離もそれまでの2.5mから1.5mへと短くなり、だいぶ使い易くなった感じがします。欲を言えばもう少し短くしてほしいとも思いますが、200mmという焦点距離を考えればこんなものかもしれません。
 また、SMCペンタックス67になってからは、それまでのモデルに比べると重さも随分軽くなりました。カタログデータ上では100g以上軽くなっており、実際に手に持った時もズシッとした感じはなく、見た目以上に軽く感じます。プラスチックが多用されているせいもあり、デザイン的な重厚感もなくなり、どことなく安っぽさが漂っているように思えてなりません。もしかしたら、その辺りも人気がない理由の一つかもしれません。

 絞りリングはF5.6からF22の間で中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間、およびF22とF32の間にはクリックがありません。絞り羽根は8枚で、最小絞りのF32まで絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。
 ピントリングの回転角は300度くらいはあると思われ、最短撮影距離(1.5m)まで回すと鏡筒が約37mm繰出されます。ピントリングは適度な重さがあり、200mmという焦点距離でピント合わせをする際、ほんのわずか動かしたいという場合でも難なく動かすことができます。

 F32まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、遠景側でおよそ12m~∞までが被写界深度内、近景側でおよそ1.5~1.6mが被写界深度内となっています。一方、絞り開放時の被写界深度は極端に浅くなり、レンズの指標からは読み取れませんが、近景側だと数cmといったところでしょう。

 因みに、このレンズの最短撮影距離、絞り開放での被写界深度の理論値を計算してみると以下のようになります。

  前側被写界深度 = a²・ε・F/f²+a・ε・F
  後側被写界深度 = a²・ε・F/f²-a・ε・F

 ここで、aは撮影距離、εは許容錯乱円、FはF値、fはレンズの焦点距離です。
 上の式に、a = 1,500mm(最短撮影距離)、ε= 0.03mmとし、F = 4、f = 200mmをあてはめて計算すると、

  前側被写界深度 = 約6.72mm
  後側被写界深度 = 約6.78mm

 となり、前後を合わせた時の被写界深度は約13.5mmとなります。
 67判で使った場合、画角的には中望遠ですが焦点距離は200mmなので、やはり被写界深度の浅いことが良くわかると思います。

 また、このレンズをPENTAX67に装着した際のバランスはとてもよく、レンズ自体に適度の長さがあるので手持ち撮影でもホールドのし易さが感じられます。

絞りを開き、ボケを活かした写真を撮る

 上でも触れたように、200mmという焦点距離と絞り開放、もしくはそれに近い絞りを用いることで、浅い被写界深度を活かした写真に仕上げることができます。被写体までの距離が近ければ近いほどボケの効果は大きくなりますし、25度という画角は限られた比較的狭い範囲だけを切り取るので、被写体を強調し易いと言えます。フレーム内に入れたくないようなものも、撮影位置をちょっと移動するだけで簡単にフレームアウトすることができるので、画面の整理のし易さもあると思います。

 下の写真は昨年(2022年)の秋、田圃の畦に群生していたチカラシバを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/125 PROVIA100F

 この写真を撮影する少し前まで霧雨が舞っているような天気だったため、穂に水滴がついてとても綺麗な状態でした。まるで霧吹きで水を吹きかけたかのようです。たくさんのチカラシバの中から形の良いものを探し、全体のバランスや重なり具合のよさそうなアングルを選んで撮りました。
 バックには田んぼがあり、その向こうには大きな木が何本か立っている環境です。画の上部中央にある木までの距離は100m前後ではないかと思われます。
 主被写体であるチカラシバまでの距離は1.6mほどで、このレンズの最短撮影距離に近い位置からの撮影です。絞りは開放(F4)で、三脚をいちばん低くしてチカラシバとほぼ同じ高さで撮っています。

 被写界深度が浅いため、ピントが合っているのは中央の穂と左下にある小さめの穂、そして、中央の穂の下の方にある黄色く色づいた葉っぱの一部だけです。
 奥の方の穂はその形を残しながらも緩やかにボケていますし、下の方の葉っぱや茎も素直なボケ方をしていると思います。所どころに二線ボケが見られますがそれほど顕著というわけではなく、許容範囲内ではないかといった感じです。

 手前の穂といちばん奥にある穂との距離は40~50cmくらいだと思うのですが、200mmの焦点距離と近距離での撮影なのでこれだけのボケ方をしてくれます。背景など、この場の環境をもう少し説明的に写したい場合は、もう1段くらい絞り込めばかなり明確になってくると思いますが、画全体はうるさく感じられるようになってしまうと思います。
 また、これ以上ボケを大きくするには接写リング等が必要になります。

 次の写真はやはり昨年の秋に、近所の公園で撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/500 PROVIA100

 画全体に写っている茶色く枯れたようなものはトウカエデの木の種子(実)だと思います。まるでドライフラワーのように鈴なりになっていて、この季節ならではの被写体です。このトウカエデの種子だけでは寂しいので、紅葉した葉っぱを前ボケに配置しました。
 主被写体のトウカエデの種子までの距離はおよそ7~8m、手前にある紅葉した葉っぱまでの距離は2~3mほどです。1枚目の写真に比べると被写体までの距離が長いので、背景の木の形もわかるくらいに写っていますが、主被写体を埋めてしまうほどではありません。むしろ、左側の種子にはピントが合っていませんので、もう1段くらい絞り込んでも良かったかもしれません。
 また、紅葉した葉っぱの前ボケは、暗い背景との対比で鮮やかな色が出ていますが、柔らかにボケているので邪魔になるほどではないと思います。

 この撮影距離(7~8m)における絞りF4の時の被写界深度を計算してみると290~300mmくらいなので、ワーキングディスタンスをこれだけとっても大きなボケを活かすことができます。もちろん、主被写体に近いところに何かがある場合はこれほど大きくボケることはないので、主被写体の前後は出来るだけ大きな空間があった方が望ましいのは言うまでもありません。

 画の隅の方を見ると、わずかにコマ収差のようなものが感じられますが、さほど気になるほどのものではありません。

 なお、この写真は画の左前方から陽が差していて、半逆光に近い状態です。そのため、トウカエデの種子がぎらついた感じになってしまいました。もう少し陽ざしが弱い方が柔らかな感じに仕上がったと思います。

 さて、3枚目の写真は長野県にある奈良井宿の夕景を写したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F5.6 30s PROVIA100

 陽が沈んで 家々の街灯が灯り始めたころで、まだ西の空に青さが残っています。
 このような撮影では目いっぱい絞り込んで、通りの奥までピントを合わせることが多いのですが、この写真ではいちばん手前の民宿の明かりのところだけにピントを合わせ、それ以外はぼかしています。絞りを開放にすると、いちばん手前の民宿にもピントから外れてしまう部分が出るため、絞りはF5.6で撮影しています。
 手前の民宿まで20~30mほど離れた位置からの撮影ですが、2件目の民宿辺りから徐々にボケはじめ、3件目より奥はかなりボケているのがわかります。ただし、何が写っているのかわからないほどのボケではなく、ある程度の原形をとどめながら緩やかにボケています。綺麗なボケ方ではないかと思います。

 また、ピントが合ったところの解像度は高く、左上に写っている民宿の2階に設置されている柵の木目などもしっかりと認識できます。

絞り込んでパンフォーカスの写真を撮る

 被写体に寄ったり絞りを開いたりすることでボケを活かした写真に仕上げるのとは反対に、全面にピントの合ったパンフォーカスに近い写真にすることもできます。
 遠景だけを対象にするのであれば、焦点距離が多少長くても全面にピントを合わせることができますが、中景と遠景が同居しているような場合でも、パンフォーカスにすることができるのは200mmという焦点距離ならではという感じもします。

 長野県小諸市で晩秋の風景として、うっすらと冠雪した浅間山と残り柿を撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F32 1/15 PROVIA100

 柿の木までの距離は20mほどだったと思います。中央の浅間山までの距離は無限遠と言ってもよいので、20mから無限遠まで被写界深度内に入れるために最小絞りのF32まで絞り込んでいます。
 ピントの位置は柿の木の向こうにある雑木の辺りに置いていますが、これで無限遠まで被写界深度内に入ります。レンズの指標でも確認できますが、実際に絞り込んだ状態(プレビュー)でもピントの確認をしています。

 早朝の撮影ですが、晴天のため太陽の光が強くてコントラストがつきすぎてしまい、柿の葉っぱが黒くつぶれ気味ですが、ほぼ全面にピントが合っているのと、柿の木を見上げるようなアングルで入れているので、焦点距離100mmとか120mmくらいのレンズで写したような印象を受けます。柿の木の全体を入れず、枝先だけを配した構図にすると望遠レンズで撮った感じが出てくると思います。

 掲載した写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、浅間山の手前にある山の稜線の木々や柿の木の向こうにある雑木の枝先などもしっかり描写されているので、十分な解像度があると思います。
 朝の色温度の低い時間帯なので赤みが強く出ていますが、特に発色のクセのようなものは感じられず、自然な発色をしていると思います。

 もう一枚、青森県の薬研渓流で撮影した写真です。渓流を俯瞰できる橋の上から撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F32 1/2 PROVIA100

 この写真の左側には車道が走っているため、画角の大きなレンズだと写したくないものがたくさん入り込んでしまいます。渓流の雰囲気を壊さないようにするには焦点距離200mmのレンズで縦位置にするのが適当だったのですが、若干、右側が窮屈になってしまいました。カメラを右側に振ると左側が窮屈になってしまうので、たぶん、180mmくらいのレンズが最適だと思います。

 画の下側にある右岸の岩から、画の上部の奥の木までピントを合わせるため、最小絞りで撮影しています。このようなアングルの場合、大判カメラであればティルトアオリをかけることで簡単に全面にピントを合わせることができますが、PENTAX67ではそういうわけにいかないので、絞りで稼ぐしかありません。
 手前の岩までは10mくらいで、いちばん奥の木までは150m以上はあると思います。左下の岩に生えているシダ(?)の葉っぱにも、奥の木の葉っぱにもピントを合わせたかったのですが、やはり若干無理があったようで、奥の木の葉っぱのピントは甘めです。それでも、奥の木の占める面積が少ないので、ボケているという感じはあまりしません。

 また、手前の岩にもピントが合っているとはいえ、もっと焦点距離の短いレンズで撮影したものと比べるとパースペクティブに強さがありませんが、実際に使用したレンズよりは短焦点レンズで写したような印象があります。

 この写真を見ながら、カメラを横位置に構え、上1/3をカットするフレーミングも有りだと感じ、もしかしたらその方が左右の窮屈感は薄れるのではないかと思いました。残念ながら、そのように写真は撮っていませんでした。撮影の時は気がつかなくとも、後になって感じることはたくさんあるものです。

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 画角的には中望遠レンズかもしれませんが、焦点距離は200mmなのでそれなりの大きなボケを出すことができますし、絞り込むことで被写界深度を稼ぐこともでき、いろいろな使い方のできるレンズだと思っています。若干、二線ボケの傾向が見られますが、それ以外の写りに関してはこれといった難点が感じられません。
 私はこのレンズと接写リングを組み合わせて、野草などのマクロ撮影にも使っています。応用性の広いレンズだと思うのですが、人気のない理由がいまひとつわかりません。
 このレンズ1本だけを持って撮影に行ってみるのも面白いかも知れません。

(2023.2.8)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #奈良井宿 #浅間山 #薬研渓谷 #レンズ描写

中国製モノクロフィルム 「上海 SHANGHAI GP3 100(220)」 の使用感

 中国製の「上海」というブランドのフィルムの存在は知っていたのですが、実際に使ったことはもちろん、使おうと思ったことはこれまで一度もありませんでした。しかし、ブローニーの220サイズのフィルムを今でも製造しているということでちょっと気にはなっていました。
 220フィルムをほとんど見かけることがなくなってしまった昨今、興味本位でGP3(ISO100)の220サイズを2本だけ購入してみました。どんな写りをするのか、試し撮りをしてきたのでご紹介します。

上海 SHANGHAI GP3 100 というフィルム

 このフィルムに関する知識がほとんどなかったので少し調べてみたところ、「上海建城テクノロジー」という会社が製造販売しているとのこと。もともとこの会社は1958年に設立された国営の映画会社だったようです。OEMとしてフィルム提供もしているようで、もしかしたら、この会社のフィルムが違うブランドで売られているのかも知れません。

 私が購入した時、220サイズのフィルム1本の価格は1,800円(税込)でした。
 数年前には220のモノクロフィルム1本が1,800円なんて考えられなかったのですが、フィルム価格が高騰している今では金銭感覚がマヒしてしまって安く感じられるので、慣れとは恐ろしいものです。

 イルフォードのDELTA100に似た色の使い方をした箱のデザインですが、漢字で書かれた「上海」の文字が異彩を放っています。
 箱が封印されていないことと、フィルムをとめてあるテープの糊が強力で剥がしにくいことを除けば、一般に出回っているブローニーフィルムと外観上の大差はありません。
 また、リーダーペーパーの先端には富士フイルムの製品に見られるような丸い穴が開いていて、スプールの突起に引っ掛けるようになっています。これはスプールが空回りするのを防ぐことができるので便利です。

現像液はコダックのD-76を使用

 一般に出回っている現像液であれば特に問題なく使えそうだったので、今回は手元にあったコダックのD-76を使用しました。現像に関するデータを調べてみたところ、D-76の原液を使用した場合、20度で9分となっていましたのでそれに準じました。
 停止液、定着液はいずれも富士フイルムの製品(富士酢酸、スーパーフジックス)を使用しました。

 フィルムを触った印象はやや硬めでしっかり感があります。イルフォードのフィルムと似た印象ですが、イルフォードよりも若干カールが強いように感じました。

 現像後のフィルムベースはわずかに青みがかった色をしています。
 また、普通のフィルムに見られるようなメーカー名やフィルム名、コマ番号などは一切入っていません。記録しておかないと、どのフィルムで撮影したのかわからなくなってしまいそうです。
 乾燥させてもフィルムのカールは強くて、スリーブに入れるため3コマずつにカットしても手を離すとくるんと丸まってしまいます。スリーブに入れてもスリーブ全体が湾曲するくらいですから、かなり強力です。

 下の写真はネガをライトボックスに乗せて撮影したものです。

 現像後のネガを見ると、黒(ネガでは白い部分)が引き締まった印象を受けます。黒からグレー、そして白へとなだらかに変化していくというよりは、黒は黒、白は白、といった感じのネガです。ちょっと硬いというか、パキッとした感じがします。

上海 SHANGHAI GP3 ISO100の写り

 今回、初めて使うGP3フィルムの試し撮りということで、新宿の東京都庁周辺を撮影してきました。使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mmと150mmです。
 都庁周辺は高層ビルが林立していたり、たくさんのブロンズ像やオブジェがあるので、試し撮りをするにはうってつけのスポットです。

 一枚目は都庁の都民広場にあるブロンズ像の一つ、「早蕨」です。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/250

 都民広場は東側に都議会議事堂があるため、午前中はこの建物の影になってしまい、ここにあるブロンズ像には陽があたりません。コントラストがあまり高くない状態で撮影するには午前中がお勧めです。

 上の写真は、ブロンズ像に陽があたり始めた時間帯に撮ったもので、南側(写真では右側)から陽が差しており、それによって像にも明暗差が出ている状態です。像の右側が白く光って立体感が出ています。全体のコントラストはそれほど高くなく、無難な光線状態といった感じでしょうか。
 背景となるビルの壁面などが非常に近いところにあるので主被写体が埋もれがちになっていますが、コントラストが高く表現されているので、壁面の模様からは浮かび上がっている感じです。

 画全体から受ける印象は、メリハリがあり、黒もそこそこ締まった感じがします。ベタッとつぶれることもなく像の質感も十分に感じられる仕上がりだと思います。
 ですが、解像度がちょっと荒いというか、ざらついた感じがします。

 顔のあたりを部分拡大したのが下の写真です。

▲部分拡大

 やはり解像度が荒く、ざらついた感じがします。

 次の写真は、同じく都民広場にあるブロンズ像の「はばたき」です。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/125

 背景は陽があたって白く輝いている高層ビルです。
 像には全く陽があたっていないので黒く落ち込んでいます。背景との明暗差が大きいのでシルエットに近い状態ですが、完全なシルエットにするのではなく、顔の表情がわかるくらいにしています。

 解像度としてはまずまずといった感じで決して悪くはないのですが、やはり黒がボヤっとした印象になっています。ですが、像も真っ黒につぶれてしまうこともなく、顔の表情もはっきりとわかるくらいですから、階調表現としても悪くはないと思います。

 ブロンズ像の3枚目は逆光状態で撮影したものです。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/250

 左上から像に光があたっている状態で、それを背後から撮影しています。背景の都庁のビルは日陰になっているのでトーンが落ち込んでいます。
 像の左側のコントラストが高く、肩や顔の辺りは白く飛び気味、逆に陰になった部分は黒くつぶれているので全体的にとても硬い感じがします。金属の質感が出ているという見方もできるかもしれませんが、このような状況下にはあまり向いていないフィルムのようにも思えます。

 また、焦点距離150mmのレンズで撮っていますが、背景の都庁ビルが思ったほどボケてくれず、像の浮かび上がりが不足している感じです。もう少し短いレンズで像に寄って撮影したほうが良かったかもしれません。

 4枚目は都民広場を見下ろす位置から撮影したものです。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/250

 画の右側から太陽光が差し込み、都民広場の地面に濃淡のパターンが描かれている状態を撮りました。カラーコーンがぽつんと置かれていたのでそれを入れてみました。
 陰になっている部分はかなり暗いのですが、つぶれてしまうことなく地面に敷かれたタイルがしっかりと識別できます。一方、ハイライト部分、特にカラーコーンなどは立体感が失われるほど白飛びしています。

 全体的に解像度が極端に悪いという感じはしませんが、明部の階調は良くありません。

 もう一枚、都庁の第一庁舎と第二庁舎の間にある「水の神殿」というオブジェを撮ったものです。

▲Mamiya 6 MF G75mm 1:3.5 F5.6 1/125

 池のように水が張ってあり、その水面に映ったビル群を撮影しています。
 このオブジェのある辺りは高いビルに遮られて日陰になっており、水面が暗く落ち込んでいるので向こうにあるビルがくっきりと映っています。風もほとんどなかったので水面が波立つこともなく、まるで鏡のようです。

 全体的に落ち着いた感じのトーンであり、このような状況下では比較的よい写りをしていると思います。黒もそこそこ締まっていながらつぶれることなく表現できているのではないかと思います。

 ちょうど1年ほど前、ほぼ同じ位置から富士フイルムのACROSⅡで撮影した写真があったので比較のために掲載します。

▲Mamiya 6 MF G75mm 1:3.5 F5.6 1/125 ACROSⅡ

 こうして比較してみると、明らかにACROSⅡの方が解像度も高く、滑らかな印象になっているのがわかると思います。
 黒の締まりはGP3の方が高く、メリハリのある写真に仕上がっていますが、ACROSⅡの方は細部にわたって表現されていながら、全体として柔らかさが感じられます。
 ただし、現像条件が同じでないので、それによる影響も含まれている可能性はあります。

 どちらの表現が良いかは好みでしょうが、フィルムのクオリティとしてはACROSⅡの方が高いと思います。

 GP3の印象としては、黒のグラデーションも比較的きれいに表現できるフィルムといった感じです。反面、オーバー気味の露出にはあまり強くないという感じがします。
 また、解像度も決して悪くはありませんが、特別良いというわけでもなく、そのあたりの癖を把握しておけば十分に使えるフィルムだと思います。

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 今でも220サイズのフィルムが供給されているということは、それだけで何だか貴重な存在にも感じられます。敢えて220フィルムを使う理由もありませんが、1本で倍のコマが撮れるメリットは大きいと思います。
 今回、2本購入したのでもう1本残っていますが、積極的に使いたいというわけでもなく、かといって使わずに冷蔵庫に入れたままにしておくのももったいないので、試しにリバーサル現像をしてみようかと思っています。リバーサル現像しても大きな違いが出るとは思えませんが、ひょっとしたら何か発見があるやも知れません。結果が出たらご紹介したいと思います。

(2023.1.1)

#上海 #SHANGHAI #ACROS #GP3 #D76 #Mamiya

フォーカシングスクリーンの視野率は、写真の出来を大きく左右する

 ミラーレス一眼レフのデジタルカメラは構造が異なっていますが、35mm判や中判のフィルム一眼レフカメラや二眼レフカメラ、あるいは大判カメラにはフォーカシングスクリーンがついていて、ここにレンズから入った光が結像するようになっています。大判カメラや多くの二眼レフカメラはフォーカシングスクリーンに映った像を直接見て、構図決めやピント合わせを行ないますが、一眼レフカメラの多くはアイレベルファインダーを通して見るような仕組みになっています。
 このように多少の違いはあれ、フォーカシングスクリーンに映った像を頼りに撮影することには変わりがありません。したがって、フォーカシングスクリーン上には、フィルムに記録されるのと同じように像が映されていないと具合が悪いわけですが、カメラによって映される範囲が異なっているのが実情です。

 カメラのカタログや取扱説明書を見ると、「ファインダー視野率 ○○%」という記載があります。これは撮像面(フィルム)に記録される範囲を基準にしたとき、フォーカシングスクリーン(ファインダー)で見ることの出来る範囲の割合を示したもので、100%であれば記録される範囲と見ている範囲が一致しているわけですが、100%より小さい場合は記録される範囲よりも狭い範囲しか見えていないことになります。反対に100%より大きければ、記録される範囲よりも広い範囲を見ているわけです。

 最近の一眼レフのデジカメはファインダー視野率100%というのが多いようですが、かつてのフィルム一眼レフカメラの場合、一部の機種を除いてファインダー視野率が90%台というのが多かったと記憶しています。
 何故、ファインダー視野率を低くしているのか本当の理由はわからないのですが、一説には、フィルムからL判などに機械焼き(いわゆるサービスプリントと呼ばれていたものです)する際に、周囲が若干カットされてしまうので、それを考慮してファインダーの視野率も下げているという話しを聞いたことがありますが、事実のほどはわかりません。

 理由はともかく、フォーカシングスクリーンの視野率が低いというのは撮影する側からするとあまり有り難くありません。
 因みに、私が愛用している中判カメラのPENTAX67は、アイレベルファインダーを装着した場合の視野率は約90%(カタログ値)です。
 PENTAX67のアパーチャーサイズ、すなわち、実際にフィルムに記録されるサイズは69.3mm x 55.5mmです。視野率が90%ということは、周囲が均等にカットされるとして、65.7mm x 52.7mmになってしまいます。つまり、横位置で構えた場合、フォーカシングスクリーンの左右それぞれが約1.8mm、上下それぞれが約1.7mmも見えていないということになります。

▲PENTAX67のフォーカシングスクリーン

 この値は誤差の範囲と思われるかもしれませんがそんなことはなく、例えば、中判(67判)の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズで50m先の被写体を撮影する場合、フォーカシングスクリーン上の左右それぞれ1.8mmは、50m先の被写体の位置では約85cmにも相当します。これは決して誤差の範囲などではなく、大人一人が簡単に隠れてしまう横幅です。
 フォーカシングスクリーン上では見えていなかったのに、実際に出来上がったポジ原版を見たらしっかりとおじさんが写り込んでいた、なんていうことがごく当たり前に起きてしまいます。

 もちろん、写り込んでしまったのはおじさんが悪いのでなく、撮影するこちら側に全責任があるわけです。近くに人がいるときはフレーム内に入らないか確認すべきですし、もし入りそうであれば通り過ぎるまで待つべきなのですが、つい撮り急いでしまったりするとこのようなことが起こり得ます。実際に私も何度か経験をしています。
 また、人がいなくても目に見えている範囲よりも実際に写る範囲の方が広いわけですから、構図を決める際にカメラを上下左右に振りながら確認しなければならないので、とても煩わしいです。右方向を確認するためにカメラを右に振ると左側が切れていってしまいますし、上下に関しても然りであり、フィルムに記録される全景を一度に見ることができないわけですから結構なストレスです。

 端の方に余計なものが写り込んだらトリミングすれば済む話ですが、リバーサルフィルムを使っているとそれを容認できなくなってしまいます。リバーサルフィルムの場合、現像が上がった時点で完成形となるので、そこに余計なものが写っているとそのコマは失敗作となってしまいます。
 最近はなくなってきましたが、以前は写真コンテストなどでもポジ原版(スライド)をそのまま応募する形式のものが結構ありました。余計なものが写っているからと言ってポジ原版をハサミやナイフで切ってしまうわけにはいかないので、すなわち、応募に値しない失敗作ということになってしまいます。
 そのような経験をしてきていることも理由かもしれませんが、ポジ原版上で完成させないと気が済まないという、とても面倒くさい状態になっているわけです。

 私が普段使っているカメラは、中判のPENTAX67と大判(4×5判)のカメラです。
 PENTAX67もアイレベルファインダーをつけた状態ですと視野率は約90%になってしまいますが、これを取り外してフォーカシングスクリーンを直接見るようにすると、視野率が100%にかなり近づきます。
 大判カメラの視野率もすべて同じというわけではなく、機種によって微妙に違っています。

▲Linhof MasterTechnika 2000 のフォーカシングスクリーン

 ということで、私が持っているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズと視野率を実測してみました。
 まず、アパーチャーサイズ(フィルムに記録されるサイズ)は以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.3mm x 55.5mm
  4×5判フィルムホルダー : 120.1mm x 96.1mm

 これに対して、今現在、所持しているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズを実測したのが以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.6mm x 54.0mm
  Linhof MasterTechnika 45 : 121.4mm x 98.4mm
  Linhof MasterTechnika 2000 : 120.3mm x 97.1mm
  WISTA 45 SP : 120.1mm x 99.7mm
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 120.0mm x 94.6mm

 この値から視野率を計算すると以下のようになります。

  PENTAX67 : 97.7%
  Linhof MasterTechnika 45 : 102.5%
  Linhof MasterTechnika 2000 : 101.2%
  WISTA 45 SP : 103.7%
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 98.4%

 縦と横とで比率は異なっていますが、フォーカシングスクリーン全体の視野率を見るとこんな感じになっています。

 リンホフとウイスタはわずかですが100%を上回っています。リンホフMT45とMT2000は同じだと思っていたのですが、実際にはごくわずかに違いがあるようです。
 一方、タチハラは短辺が少しカットされる状態になっています。

 個人的には視野率は100%を上回っているのがありがたく、できれば110%くらいあると理想的だと思っています。理由は、実際に写り込むよりも少しだけ広い範囲が見える方が構図決めがし易いからです。フィルムに納まる範囲のちょっと外側に何があるかがわかることで、もう少し右に振るか左に振るか、あるいは上、または下に振るかを判断することができます。これによって、フィルムの上下左右や四隅を曖昧な状態にせずに、意識を配ってきちんとまとめることができるのはとても大事なことだと思っています。
 また、フィルムの端の方や隅に余計なものが入り込むのを防ぐのはもちろんですが、中途半端な入り方になってしまうのを防ぐこともできます。
 例えば、隅の方に太い木の枝がほんの少しだけ入ってしまうなんてことは有りがちですが、これは出来上がった写真(ポジ)を見た時にとても気になります。撮影の際にはそこに気が回らなくて起きてしまう失敗ですが、これもフィルムに写り込む範囲よりも少し広く見えていれば防ぐことができます。
 隅の方に写った木の枝なんてどうってことないと思うかも知れませんが、そんなことはなくて、周辺部まで気配りの行き届いた写真とそうでない写真を見比べると、カメラの位置や向きがほんのちょっと違っているだけなのに、写真から受ける印象はずいぶんと違ってきます。

 リンホフもウイスタも視野率100%を上回っているとはいえ、ゆとりをもって周辺を見ることができるほどの大きさはありません。それでも周辺部がカットされているよりははるかに構図決めはし易いです。
 そういった点からすると、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着しての撮影というのは極めて理想的と言えます。精度の問題はありますが、レンジファインダーカメラのブライトフレームの外側も見えているのと同じ感覚です。
 視野率を高くしようとするとフォーカシングスクリーンのサイズを大きくしなければならず、そうでなくても図体の大きな大判カメラはますます大きくなってしまいます。また、シートフィルムホルダーの規格もあるので無暗に大きくもできなのでしょうが、視野率にゆとりのあるフォーカシングスクリーンによる恩恵は大きいと思います。

 カメラを持ち出すたびに、フォーカシングスクリーンの視野率を高める方法はないものかと思案を巡らせる日が続いています。

(2022.12.24)

#フォーカシングスクリーン #PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45

花を撮る(6) シルエットで撮る

 いうまでもなく花には様々な色彩があるので、フィルムカメラであれデジタルカメラであれ、カラーでの撮影に向いている被写体の一つと言えます。それぞれの花が持っている色合いを忠実に再現した写真はやはり美しいものです。
 一方、敢えて色彩をなくし、花の形だけで表現した写真も趣があって、華やかさとは違う別の表情や雰囲気が伝わってきます。
 今回はモノクロも含め、シルエットで撮った花の写真を何枚かご紹介します。

 何故か桜の咲く季節が近づくと心がウキウキして、私としては是非ともシャッターを切りたくなる被写体の代表格です。
 多くの桜は葉っぱが出る前に花が咲き、しかも、他に類を見ないほど花の密度が高いのでとても華やかに見えます。薄紅の花色はとても清楚な感じがします。

 そんな魅力的な桜ですが、桜の木全体をシルエットで撮影したのが下の写真です。

▲平堂壇桜 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F5.6 1/30 W2 PROVIA100F

 この桜は、福島県にある「平堂壇の桜」という名前がついている一本桜です。小高い丘(古墳らしいです)の上に立つエドヒガンの巨木で、かなり遠くからでも見つけることができます。周囲に障害物がないので、360°どの方角からでも見ることができますが、私は桜の東の方角から見た時の木の形がいちばん好きです。

 夕方、太陽が西の空にかかり、東の方角から見ると桜の木全体がシルエットになります。実際にはこの写真よりももっと明るい感じですが、夕暮れの雰囲気を出すために露出を切り詰めています。また、雲の立体感を出すために、W2の色温度変換フィルターを使用しています。
 近所の方だと思われるのですが散歩にでもいらしたのか、ちょうど通りかかったのでそのタイミングを撮らせてもらいました。

 桜の木までは200mほど離れた場所から撮影しているため、真横から見ているのに近いアングルになり、巨木ではありますが全体の輪郭をとらえることができています。

コスモス(秋桜)

 日本に入ってきたのは明治時代らしいですが、今では道端や田圃の畦道、牧場などで普通に目にすることができます。近年は観光用に何十万株というコスモスを人工的に植えたコスモス畑も各地に増え、一斉に咲いている姿は見応えがあります。

 下の写真もコスモスのお花畑で 撮影したものです。

▲コスモス : PENTAX67Ⅱ smc-TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F11 1/15 PROVIA100F

 撮影した時間は間もなく日の出になろうかという早朝です。太陽の光が強まるにつれ、赤から紫に変わる空のグラデーションがとても美しい時間帯です。
 完全にシルエットにしてしまうと早朝の感じが薄れてしまうと思い、わずかに赤紫の花色がわかるくらいの露出をかけています。南国育ちのコスモスは、持ち前の鮮やかな色彩と明るい光がお似合いですが、このようにシルエット、もしくはそれに近い状態でも華やかさが損なわれることがありません。

 また、たくさんの花が密生しているところをシルエットにすると重なり合ったところが平面的になってしまうので、他よりも高く伸びた数本の茎を低い位置から見上げるようなアングルで撮影しています。そうすることで、針金のような細い葉っぱや蕾などの形もすっきりと見えるようになります。

 お花畑の向こうから太陽が顔を出してしまうと光が花弁に差し込み、シルエットにならなくなってしまいます。それはそれでステンドグラスのような美しさになるのですが、全く雰囲気の違う写真になります。

ヒメジョオン(姫女苑)

 どこでも見ることのできる、北アメリカ原産の帰化植物です。
 白、またはごく薄いピンクの小さな可愛らしい花を咲かせますが、とても強い繁殖力のせいか、どちらかというと嫌われ者の感があります。亜高山帯にまで生育域を広げているため、要注意外来生物に指定されているようです。

 あまりカメラを向けようという気持ちにならないヒメジョオンですが、こんな姿を見せてくれることもあります。

▲ヒメジョオン : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 沈む直前の太陽をバックに、ヒメジョオンをシルエットで撮影しました。
 花や蕾の形がユニークで、まるで踊っているように見えます。そんな中でいちばん踊りが洗練されている(?)と思えた1本を、太陽のど真ん中に配置してみました。

 300mmの望遠レンズを使い、出来るだけ太陽が大きくなるようにして、ヒメジョオンの花だけでなく茎の部分も入るようにしました。
 また、ヒメジョオンが1本だけだと画が散漫になってしまうので、ある程度の取り巻きがいるアングルを探して見つけたのがここでした。
 西日は沈むのが早いので、300mmのレンズを着けるとファインダーの中で太陽が動いていくのがわかります。ですので時間との勝負です。

 同じ場所から同じアングルで撮影しても、日中ではこのようなユニークさは感じられません。嫌われ者の野草に対する見方も少し変わるかも知れません。

ノアザミ(野薊)

 アザミは初夏から秋口にかけていろいろな種類が花を咲かせますが、最もポピュラーなのがノアザミです。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、ごくまれに白い花を咲かせるのもがあり、見つけると何だか幸せな気持ちになります。
 ノアザミは特に珍しい野草というわけではありませんが、その鮮やかな花色がとても目立つので、撮りたくなる被写体の一つです。緑の中に赤紫の花が点在している景色は何とも言えない美しさです。

 花の色もさることながら花の形も特徴的なので、シルエットだけでもすぐにアザミとわかります。
 下の写真は日の出前、東の空が明るくなり始めたころに撮影したノアザミの写真です。

▲ノアザミ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/4 EX1 PROVIA100F

 花の下、総苞のところに蜂らしきものがしがみついています。指先でツンツンしてみましたが、寒いせいかピクリともしません。どうやら昨夜は家に帰らず、ここにお泊りしたようです。
 赤く染まりかけた空に抜いたノアザミだけでも綺麗なシルエットなのですが、蜂というおまけがついて、ちょっとほほえましい写真になりました。
 まだ薄暗い時間帯とはいえ、この花が咲いている環境がわかるようにと思い、下の方に草叢を、中間あたりに中景となる山並みを入れ、上の方には明るくなりかけた空を入れてみました。

 また、全体のボケが大きくなるよう、200mmのレンズに接写リングをかませての撮影です。そのおかげで溶けるようなボケになり、ノアザミのシルエットがより引き立ってくれました。

 因みに、ここでお泊りした蜂ですが、太陽が昇って暖かくなってくるともぞもぞし始め、やがてどこかに飛んでいきました。

キバナコスモス(黄花秋桜)

 近年、キバナコスモスをよく見かけるようになりました。よく見慣れているコスモスとは同属ですが別の種類らしく、コスモスに比べて花期が長いようです。東京では12月になっても見かけることがありますが、さすがにその頃になると鮮やかなオレンジ色の花弁も濁った色になってしまいます。

 そして、花が少なくなった分、代わりに目立ってくるのがトゲトゲした種子です。
 種子ができ始めの頃、トゲトゲは上を向いているのですが、徐々に開いていき、やがて小さなウニのようになります。

▲キバナコスモス : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 上の写真はまだ完全に開ききる前の状態の種子です。そのまま撮ってもつまらないので、玉ボケの中にシルエットとなるようにして撮りました。
 シルエットと言ってもこれは実体ではなく、種子の影です。背後の玉ボケは公園に設置されているステンレス製の柵に反射した光で、この中にキバナコスモスの種子の影が入るように撮影したものです。玉ボケと影の大きさのバランスを考えて撮ったつもりですが、もう少し影を小さくした方が良かったようにも思えます。

 このような写真は、玉ボケができる場所と被写体との位置関係(距離)によって出来栄えがまったく変わってしまうので、ベストポジションを探すのに手間がかかって結構大変です。

コバギボウシ(小葉擬宝珠)

 夏に薄紫色の花を咲かせる野草です。
 一本の茎にたくさんの花をつけるので、群生して咲いている様は見事です。開くとユリの花のような形になり、華やかさが増します。薄紫の中に少し濃い紫色の筋が入ったような花はとても品があり、写真映えする花だと思います。

 下の写真は、まだ開ききっていないコバギボウシをモノクロフィルムで撮ったものです。

▲コバギボウシ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 1.4x ACROS100Ⅱ

 雲がかかっている夕陽をバックにしており、主被写体のコバギボウシは完全なシルエットになっています。赤く染まった空に抜くようにカラーリバーサルで撮ることも考えましたが、花が下向きになっていいる形を見て、モノトーンの方が似合うのではないかと思い、モノクロフィルムを使いました。ちょっと寂しげな雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
 雲がかかっていたおかげで全体が硬くならずに済んだ感じです。

 軽くレフ板をあてた状態でも撮影してみましたが、花自体は柔らかな印象になったものの、全体としてはこちらの方が趣がある感じでした。

 なお、春の山菜の女王と言われているウルイは、同じ仲間のオオバギボウシの若葉です。今はハウス栽培物がほとんどですが、天然物のウルイは山菜特有の苦みがわずかに感じられ、山菜という実感があります。

シシウド(獅子独活)

 少し標高の高いところに行くとよく見られる野草です。
 背丈が高く、花火のように開いた花が特徴的です。花の色は白に近いクリーム色で、良く晴れた青空とのコントラストは爽やかな夏を感じさせてくれます。

 この写真もモノクロフィルムで撮影したものです。

▲シシウド : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 ACROS100Ⅱ

 シシウドの根元にカメラを設置し、見上げるようにして太陽を画面上部に直接入れることでシシウド全体をシルエットにしていますが、一つひとつの花はゴマ粒のように小さいので、綺麗な造形がくっきりと出ています。
 所どころに薄い雲がかかっていますが、ちょっとコントラストが弱い感じです。モノクロ用のフィルターのY2あたりを使った方が良かったかもしれません。好みもあると思いますが、やはりモノクロはキリッと締まった黒が表現されている方が好ましく感じます。

 シシウドは、縦にも横にも広がってたくさんの花をつけているほうが見応えがあるのですが、なかなかそのような個体に遭遇することは多くはありません。大きくて枝っぷりの良いシシウドに巡り合えたら、是非とも撮っておきたい被写体です。

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 シルエットで撮ると鮮やかな花の色は失われますが、花の魅力が失われるわけではなく、普通に見ていた時にはわからないものが見えてくるから面白いものです。
 また、もともとの色を脳が憶えているからかもしれませんが、シルエットの中に色が見えてくるような気がするのも事実です。シルエット自体はまるで影絵のように平面的にもかかわらず、立体的に見えるのも不思議です。
 シルエットのつけ方や濃淡によってずいぶんと写真の雰囲気も変わってきます。このあたりも奥深いところだという感じがします。

 (2022.11.8)

#コスモス #ノアザミ #シシウド #シルエット #PENTAX67 #野草

秋の気配が漂い始めた裏磐梯高原

 福島県のシンボル的な存在、会津富士とも呼ばれる磐梯山の北側、標高800mほどのところに広がる高原一帯が裏磐梯で、磐梯朝日国立公園に指定されています。磐梯山の噴火によって誕生したといわれる湖沼群や清流が、見事な景観を作り出しています。高原リゾート地としても高い人気を誇っています。
 まだ、紅葉までにはもう少し時間が必要ですが、夏の名残がありながらも秋の訪れを感じ始めた裏磐梯を中判カメラで撮影してきました。

五色沼湖沼群

 裏磐梯の中でもひときわ人気の高いのが五色沼です。大小、数十の湖沼の総称ですが、沼によってエメラルドグリーンやコバルトブルーなどの異なる色をしていることからつけられた名前のようです。
 全長およそ4kmの探勝路が整備されており、片道2時間ほどで沼巡りをすることができます。起伏はほとんどありませんが、岩がゴロゴロしていたり、雨の後は道がぬかるんでいたりするので足元には注意が必要です。

 五色沼探勝路の入り口は裏磐梯ビジターセンター側と裏磐梯高原駅側の2箇所があり、いずれも駐車場が完備しています。
 また、この間をバスが通っているので、車で行って散策後はバスに乗って戻ってくるということも可能です。

 裏磐梯ビジターセンター側の駐車場からすぐのところにあるのが五色沼で最も大きい毘沙門沼です。

▲毘沙門沼:PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/30 PROVIA100F

 水は透き通っていますが、光の具合によってはコバルトブルーやエメラルドグリーンなどに見えます。特に天気の良い日は鮮やかな色になり、木々の緑の映り込みやさざ波によって微妙に変化する色合いが何とも言えぬ美しさになります。
 毘沙門沼のボート乗り場の近くには大きなカエデの木があり、真っ赤に紅葉した時の水の青色とのコントラストは絶景です。

 下の写真は裏磐梯高原駅側の入り口に近いところにある、るり沼です。

▲るり沼:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F22 1/30 PROVIA100F

 岸辺にはヨシの群落があり、沼の青い水に映り込む景色は一見の価値があります。
 また、この沼を見ることのできる場所は一ヵ所だけと限られていますが、正面に磐梯山を望むポイントであり、背景に磐梯山を入れた景色を撮ることもできます。
 個人的には五色沼の中ではるり沼がいちばんのお気に入りです。

 日差しが強いと木々の緑などもコントラストが高くなりすぎてしまうのですが、良く晴れた日差しの強い日ほど沼は鮮やかで神秘的な発色をするので、写真撮影する立場としては悩ましいところです。

中瀬沼

 五色沼の近く、国道459号線の裏磐梯剣ヶ峰交差点から米沢猪苗代線に入り、少し北上したところに中瀬沼があります。道路沿いの駐車場から徒歩15分ほどで中瀬沼の展望台に行くことができます。

▲中瀬沼:PENTAX 67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 1/8 PROVIA100F

 展望台は沼を見下ろせる小高い場所で、正面に磐梯山が見えます。
 この時期、まだ木々の葉っぱが生い茂っているので、沼の大半は隠れてしまっていますが、春から初夏にかけて、また、晩秋の頃になると、葉っぱが少ないので良く見渡せるようになります。

 展望台から見て磐梯山は真南に位置していますので、良く晴れた日は昼頃になると太陽が正面にきてしまい、遠景が霞んだような状態になってしまいます。この写真も雲によって磐梯山への光が遮られており、遠景のコントラストが低くなっています。

 この一帯は中瀬沼探勝路、レンゲ沼探勝路が整備されていて、1時間もあれば一回りできます。近くにあるレング沼はジュンサイが自生していたり、冬には雪まつりが開催され、3,000本のキャンドルが沼に灯った景観は息をのむ美しさです。

曽原湖

 裏磐梯の中では最も小さな湖ですが、湖中には小島があったり、周囲が林で囲まれていたりと、ちょっと日本離れした感じを受ける風景です。湖岸に立っているペンションなどもとてもお洒落で、この風景によく似あっています。

▲曾原湖:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/8 PROVIA100F

 夏の終りを惜しむかのような雲が出ていますが、木々は黄色くなり始めていて空気もヒンヤリとしています。夏は湖上もボートで賑わっているのですが、乗る人もなく係留されたままのボートがどこか寂しげです。
 秋も間近という季節感を出すために、太陽が雲に隠れて、湖面が少し暗くなる瞬間を狙ってみました。ボートのところだけ木漏れ日があたっていて、良いアクセントになってくれました。

 裏磐梯には湖や沼がたくさんありますが、「〇〇湖」のように湖がつく中では曽原湖が最小です。これより小さいのは「〇〇沼」となっています。湖と沼の違いに明確な定義はないようですが、湖より小さなものを沼と呼んでいるようです。湖というと明るくて開けた感じがしますが、沼というと薄暗くひっそりと佇んでいるという印象があるのは私だけでしょうか?

幻の滝

 桧原湖から磐梯町まで、磐梯山の北側を通る磐梯山ゴールドラインがあります。10年ほど前までは有料道路でしたが、今は無料開放されています。磐梯山にあるスキー場のゲレンデの中を通っているため、冬季は閉鎖されてしまいます。
 その磐梯山ゴールドラインの中ほどに、幻の滝があります。

▲幻の滝:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 近年までほとんど知られていなかったため、幻の滝と命名されたようです。
 駐車場が整備されており、道路を横切って遊歩道を5分ほど歩けば滝の正面に出ることができます。遊歩道と言っても狭くて急坂なので、しっかりした靴でないと大変です。

 ごつごつとした岩肌を滑るように流れ落ちる涼しげな滝です。落差は15mほどで、特に高いというわけではありませんが、滝つぼの前まで行くと見上げるような体勢になります。風の強いときは飛沫がかかるので覚悟が必要です。

 上の写真は少し離れた場所から長めのレンズで滝の中央部を撮影したものです。右側にあるカエデの木とのコラボレーションがとても綺麗です。
 飛沫がかかって濡れた葉っぱが白くなっていますが、この反射はPLフィルターを使えば取り除くことができます。同様に岩肌のテカリも抑えられ、しっとりとした感じになると思います。

 駐車場からすぐのところにある滝ですが、この辺りも熊が出るらしく、「熊注意」の看板があります。こんな逃げ場のないところで熊に出会ったらパニックになりそうです。

小野川不動滝

 小野川湖からデコ平方面に通じる道路から分岐し、細い道をしばらく上ると小野川不動滝の駐車場に着きます。ここから約1km、30分ほど山道を登ると滝に到着します。探勝路はよく整備されていますが、途中に150段ほどの勾配のきつい階段があります。
 落差25mの大瀑布で、かなり手前からでも滝の轟音が聞こえてきます。滝の手前に渓谷に架かる橋があり、橋の上からも全景を見ることができます。

 下の写真は橋を渡った先を滝に向かう遊歩道から撮ったものです。

▲小野川不動滝:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F32 2s PROVIA100F

 今の時期、水量は少なめなので滝に近づくことができますが、雪解け時で水量の多いときはここまで近づくと飛沫でびしょ濡れになってしまい、撮影どころではありません。
 引いて滝全体を入れたフレーミングも良いですが、水量が少なめだったので滝の上半分だけを撮ってみました。周囲をあまり広く入れず、滝の迫力が損なわれないようにしました。

 この滝は飛沫が多いので、日差しが差し込むと虹がかかることがあります。この日は薄曇りだったので虹を見ることはできませんでしたが、コントラストが高くなりすぎず、ディテールまで表現できたと思います。

 因みに、ここも熊の目撃件数が多いようです。

桧原湖

 裏磐梯で最も大きな湖で、南北に18kmに渡って細長く広がっています。湖の周囲をほぼ湖岸に沿ってぐるりと道路が通っていて、車で一回りすることができます。桧原湖一周のサイクリング大会やバスフィッシングのプロトーナメントなど、イベントの開催も多く行なわれています。

 大きな湖なので場所によって景観もずいぶん異なり、撮影をしながらだと、一日では回り切れないほどたくさんの撮影ポイントがある魅力的な湖です。

 湖の東側にある桧原湖展望台から、夕陽を撮影したのが下の写真です。

▲桧原湖:PENTAX 67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/15 PROVIA100F

 南北には長くても東西は1kmほどしかなく、対岸の山並みがすぐそこに見えます。
 ちょうど西の空に雲が広がり、その切れ間に太陽がかかったときに撮りました。湖にも反射して、鮮やかなオレンジ色が出現しました。上空の青さを見ていただくとわかるように、まだ夕暮れというほどには暗くないのですが、初秋の夕暮れの雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
 また、広さを感じられるように短焦点レンズで撮影しています。

 桧原湖の周囲にはペンションやホテルなどの宿泊施設、オートキャンプ場などがあるので、早朝から夕暮れまでの撮影にはとても便利です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 9月中旬というと秋には少し早くて、ちょっと中途半端な感じのする時期ではありますが、夏の賑わいもなくなり、じっくりと撮影するには良い季節かも知れません。暑さもおさまり、朝晩は肌寒いくらいですから、体への負担も少なくてありがたいです。
 何度行ってもまた行きたくなる、そんな魅力にあふれた裏磐梯です。

 あと一ヶ月もすると鮮やかに染まった紅葉を見ることができます。

(2022.9.27)

#裏磐梯 #ペンタックス67 #PENTAX67 #小野川不動滝 #幻の滝

富士フイルムの中判カメラ FUJI GW690Ⅱ Professional

 かつて、富士フイルムからは多くのカメラが販売されていて、特に中判カメラに関しては様々なフォーマット向けのカメラがラインナップされていました。中でも69判のGW690、GSW690シリーズはベストセラー機という印象があります。最近はあまり見られなくなりましたが、観光地などで集合写真を撮る写真屋さんが使っていたイメージが強く残っています。
 もちろん集合写真専用というわけではありませんが、パノラマ写真を除けば中判で最大のフォーマットとフジノンレンズの組合せにより、高精細な写真が実現できるカメラです。

GW690Ⅱの主な仕様

 GW690シリーズは初代機からⅢ型まで3つのモデルが存在しますが、私の持っているカメラは2代目のⅡ型で、販売が開始されたのは1985年です。遡ること7年前の1978年に販売が開始された初代機GW690とは外観もよく似ていますが、3代目のGW690Ⅲになると曲線を多く取り入れたデザインになっており、だいぶイメージが変わりました。個人的には初代、もしくは2代目の無骨なデザインが好きです。
 なお、これらのシリーズの前身となるG690やGL690というモデルが存在していたのですが、私はいずれの機種も使ったことがありません。

 このカメラの主な仕様は以下の通りです。

  ・形式 : 69判レンジファインダーカメラ
  ・レンズ : EBC FUJINON 90mm 1:3.5 5群5枚 シャッター内臓
  ・シャッター速度 : T、1s~1/500s
  ・最小絞り : f32
  ・最短撮影距離 : 1m
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.75倍
  ・フィルター径 : 67mm
  ・使用フィルム : 120、220
  ・撮影可能枚数 : 8枚(120)、16枚(220)
  ・露出計 : なし
  ・電池 : 不要

 GW690シリーズは標準(90mm)レンズ、GSW690シリーズは広角(65mm)レンズを搭載したカメラで、いずれもレンズは固定式です。
 使用できるフィルムは120、220、およびハーフレングスの120の3種類が切り替えレバーで選択できるようになっていますが、現実的なのは120フィルムのみと言っても良いと思います。ハーフレングスの120フィルムは自作でもしない限り手に入らないでしょうし、220フィルムは中国で細々と製造しているという話しも聞きますが、あまり現実的とも思えません。幸いにも120フィルムはモノクロを中心に比較的種類もそろっているので、まだまだ十分にフィルム写真を楽しむことができるカメラだと思います。
 なお、フィルムを変更した時は裏蓋内側の圧板の位置変更も必要になります。

 また、このカメラは電池が不要で、すべてが機械式で稼動します。当然、電気式の露出計は装備されていませんし、電池のいらないセレン式の露出計もついていません。この辺りは潔いという感じがします。

 ブローニーフィルムを使い、さらに約9cmのアパーチャーを確保しなければならないので、カメラの筐体も必然的に大きくなりますが、プラスチックを多く用いてるせいか、実際に持ってみると見かけよりも軽く感じます。金属製の方が持った時の質感などが格段に良いのですが、この大きさのカメラを金属製にすると、持ち歩きにはしんどい重さになるように思います。

シンプルでわかり易い、かつ使い易い操作性

 最近のデジタルカメラのように、シャッターボタンさえ押せば撮影ができるというわけにはいきませんが、撮影にあたって操作が必要なのは、巻き上げレバー、絞り、シャッタースピード、およびピントリングのみです。このうち、巻き上げレバー以外はレンズに装備されているので、とてもわかり易いです。

 ピントリングの回転角度はおよそ90度なので、ピントリングを持ち変えることなく、無限遠から最短撮影距離まで回すことができます。重すぎず、軽すぎず、適度な重みをもって回転します。カメラ自体が大きいので、ピントリングがフワフワした感じだとピント合わせがしにくくなってしまいますが、ほんの1~2mmといったわずかな移動でも行き過ぎることはなく、ピタっと位置決めすることができます。
 また、ピントリングは若干、オーバーインフになっています。

 ファインダーは明るくてとても見易く、ブライトフレームはパララックス自動補正機能がついています。二重像合致式も見易くて、ピント合わせに苦労することはありません。基線長が影響しているのかどうかわかりませんが、二重像の動きが大きいので、ほんのわずかのずれも認識することができます。ただし、視野内に垂直線(縦線)がない場合は二重像がつかみにくくなります。

 フィルムの巻き上げはダブルストローク(2回巻き上げ)になっていますが、巻き上げストロークが多い分、巻き上げに要する力は少なくて済みます。PENTAX67と比べるととても軽く感じます。

 シャッターボタンは巻き上げレバーの上部と、カメラの前面の2箇所についており、使い易い方を使えば良いと思いますが、手持ち撮影の場合はカメラ前面のシャッターボタンを使った方がカメラのホールドは良いかもしれません。特に手があまり大きくない人(私もそうです)は、巻き上げレバー上部のシャッターボタンを押そうとすると、右の手のひらがカメラ底面から外れてしまいます。
 レンズシャッターなので振動は皆無と言っても良く、慣れればかなりの低速でも手持ち撮影が可能になります。

 大きなカメラではありますが、適度な大きさのグリップがついていたりして、持ち易さ(グリップ感)も考えられている感じです。縦位置に構えた時も、手のひらにしっかりと重心が乗る感じで、非常に安定した状態を保つことができます。

 また、69判というフォーマットは35mm判のアスペクト比とほぼ同じため、35mm判カメラを使い慣れた方にとってはほとんど違和感が感じられないのではないかと思います。

EBC FUJINON 90mm 1:3.5 の写り

 では、実際にGW690Ⅱで撮影した作例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目は、夕暮れの東京ゲートブリッジの写真です。若洲海浜公園から撮影しています。

▲東京ゲートブリッジ F11 1/250 PROVIA100F

 太陽がゲートブリッジと同じくらいの高さになり、橋がシルエットになるように狙いました。オレンジ色に焼けている西の空の輝きを損なわないよう、露出を決めました。
 また、恐竜のような形と橋の美しさが最も強く感じられる場所をと思い、防波堤に沿って行ったり来たりしながらこのポジションにしました。

 上の写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、橋の上を走る車や設置されている道路標識らしきもの、対岸に見える風力発電の風車やクレーンなどもはっきりと認識でき、解像度の高さが良くわかります。
 偶然に写し込まれたのですが、空を飛んでいる鳥も確認できます。部分拡大したのが下の写真です。

▲東京ゲートブリッジ(部分拡大)

 手持ち撮影ですが、1/250秒のシャッターを切っているのでブレはほとんど感じられません。

 この写真を撮る30分ほど前までは富士山が見えていたのですが、次第に雲が増え、残念ながら雲に隠れてしまいました。

 次の写真は青森県の種差海岸で撮影したものです。

▲種差海岸(青森県) F22 1/60 PROVIA100F

 海がとても深みとコクのある色になっていて、色の再現性においても優秀なレンズだと思います。岩の質感も良く出ているし、海面の波の一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度です。
 焦点距離が90mmとはいえ、F22まで絞り込んでいるので、手前の岩から遠景までピントが合っています。アスペクト比の大きなフォーマットなので、横の広がりを出しつつ、奥行きを感じる画作りのできるカメラという感じです。
 また、このように晴天の時は、絞りやシャッター速度の組合せの選択肢が多いので、手持ちで気軽にイメージの異なる写真を撮ることができるのもこのカメラの魅力です。

 さて、3枚目は山形県の銀山温泉で撮影したものです。

▲銀山温泉にて F5.6 1/30 PROVIA100F

 銀山温泉というと、レトロ感と風格が漂う温泉旅館が有名ですが、そんな温泉街の一角で偶然見つけた柴犬です。家の壁や玄関に通じる橋など、全体的に褐色の中で柴犬の赤茶色がとても綺麗なコントラストになっていました。
 板壁の木目や柴犬の毛並まではっきりとわかるくらいの解像度です。また、落ち着いた感じの色再現性も見事だと思います。
 さすがに、右側の手すりの手前側はピントが合わずにボケてしまっていますが、素直できれいなボケ方だと思います。
 絞りはF5.6ですが、周辺部でも画質の低下はほとんど感じられません。

 このカメラに搭載されているEBC FUJINON 90mm 1:3.5は文句のつけようのないくらいの解像度を持っていますが、私は色乗りの素晴らしさが特徴的だと感じています。同じFUJINONでも大判レンズとは違う、「こってりとした」という表現が当てはまるような色の乗り方です。とはいえ、ペンキを塗りたくったようなべったりとした感じはまったくなく、グラデーションなどもとても綺麗に再現されています。高い解像度と最適の組み合わせになっているといった感じです。
 EBC FUJINONは、11層のコーティングを施し、レンズ1面辺りの反射率は0.2%以下と言われていますが、そのコーティングのなせる業なのかも知れません。
 また、レンズ構成はガウスタイプらしいのですが、とても素直な写りをするレンズという印象です。

 69判というフォーマットを、そしてリバーサルフィルムの発色を十分に活かすことのできるレンズだと思います。

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 今回ご紹介した3枚の写真はいずれも手持ち撮影ですが、衝撃のほとんどないレンズシャッターとカメラ自体のホールドの良さで、中判カメラながら三脚なしで幅広いシチュエーションに対応できます。
 120フィルムで8枚しか撮れないというランニングコストの高さはありますが、補って余りある写真が撮れること間違いなしといえるカメラだと思います。
 しっかり構えた作品作りにはもちろんのこと、スナップ感覚で気軽に使えるカメラでもあります。

 ただし、このカメラを首から下げて歩いているとかなり目立つようです。

(2022.9.16)

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