紅葉の奥入瀬渓流を大判カメラで撮る

 奥入瀬渓流は十和田湖の子ノ口から焼山まで、およそ14kmに渡って美しい流れが続いています。両岸には豊かな樹木やたくさんの滝があり、変化に富んだ景観は見飽きることがありません。流れとほぼ同じ高さに遊歩道が整備されているので、高いところから見下ろす渓谷とは違う景色を見ることができます。
 例年の紅葉は10月中旬から11月上旬と言われていますが、今年(2021年)は10月24日の週がいちばんの見ごろだった感じです。紅葉の奥入瀬渓流を大判カメラで撮ってきました。

三乱(さみだれ)の流れ

 個人的には奥入瀬渓流の中でいちばん好きな場所です。
 流れは比較的穏やかで、その中に点在している大小の岩と、その上の着生植物が作り出す景観は得も言われぬ美しさがあります。すぐ脇を車道が走っているので、車の中からもその美しい景観を見ることができます。

 下の写真は早朝に撮った一枚です。

▲三乱の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON W125mm 1:5.6 F45 8s PROVIA100F

 流れのすぐ手前まで降りて行って撮影しています。渓流に太陽の光が差し込む前で、しかも前の夜に雨が降ったようで、しっとりとした色合いになってくれました。ほとんど無風状態でしたので、少々長めの露光をしても被写体ブレは気にならないだろうと思い、8秒の露光をしています。
 手前にある岩から奥のl紅葉までピントを合わせたかったので、フロントティルトのアオリをかけています。
 また、流れの奥行き感と広さを出すために、カメラの位置を水面から60cmほどの高さでの撮影です。

 木々はとても綺麗に色づいていますが、紅葉をあまりたくさん入れると画の締まりがなくなってしまうので、切り詰めています。その分、流れを広く入れて、点在する岩をアクセントにしました。
 早朝のしっとり感が損なわれないように露出は気持ちアンダー気味にしています。

 もう一枚、少し上流側で見つけた、岩の上に根を下ろしている黄葉です。

▲三乱の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 1s PROVIA100F

 背景を広く入れ過ぎると岩の上の黄葉が目立たなくなってしまうので、流れとの対比で黄葉が引き立つようにしました。もう少し下流側から流れを多く入れようとも思いましたが、そうすると背景も広く入ってしまいゴチャゴチャしてしまうので、流れに対して真横から撮っています。
 また、岩の上から伸びている2本の幹がとてもいいアクセントになっていたので、これがはっきり見えるアングルを選んでいます。
 こちらもほぼ無風状態だったのですが、ところどころ、わずかに葉っぱがブレています。

 まだ完全に黄葉しきっておらず緑が残っていますが、そのグラデーションがとても綺麗です。露出アンダーになるとこのグラデーションが濁ってしまうので、葉っぱの部分を何ヵ所か測光して露出を決めています。

石ヶ戸(いしけど)の瀬

 石ヶ戸休憩所がある辺りを石ヶ戸の瀬と呼ぶようです。石ヶ戸休憩所は広い駐車スペースもあり、観光バスも多く来るのでたくさんの観光客でにぎわっています。
 すぐ近くに、カツラの大木で支えられた巨大な一枚岩があり、それを石ヶ戸と呼ぶようですが、その岩の下はまるで小屋のような空間になっています。
 石ヶ戸の瀬の辺りは流れが大きなカーブを描いており、そのためか変化に富んだ景観を見ることができます。

 下の写真は石ヶ戸の瀬の中でも流れが激しい場所です。橋のようになった倒木が何とも言えぬ景色を作り出しています。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 4s PROVIA100F

 奥入瀬はどちらかというと紅葉よりも黄葉のイメージが強いのですが、この辺りは紅葉が点在しており、そのコントラストが綺麗です。
 奥行き感を出すために、手前の岩を多めに入れています。手前から奥までピントが合うようにフロントティルトのアオリをかけています。ほぼ無風状態だったので、岩の上の草もほとんどブレずにすみました。
 一方、上部中央にある黄緑色の葉っぱがアウトフォーカスになってしまい、ちょっと気になります。撮影位置をもう少し前にできればよかったのですが足場が悪く、このあたりが自然相手の難しいところです。

 上の写真より少し下流の、流れが極めて穏やかになっている場所で撮影したのが下の写真です。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON CM105mm 1:5.6 F22 1/2 PROVIA100F

 傾斜がほとんどなく、波も全くというほど立っていません。ここも、苔むした倒木がとても良いアクセントになっていると思います。
 前の写真のときと比べて陽が高くなっているので林全体が明るくなっていますが、若干暗めの方がこの場の雰囲気には合うと思い、露出は少し切り詰めています。

 波を立てて激しく流れる景色も素晴らしいですが、このように音もなく静かに流れる、まるで時が止まったような景色を見られるのも奥入瀬渓流の魅力だと思います。

 もう一枚、近くでとても綺麗に色づいた木を見つけたので撮ってみました。

▲石ヶ戸の瀬 Linhof MasterTechnika 2000  FUJINON CM105mm 1:5.6 F22 1/2 PROVIA100F

 上の方の葉っぱが赤くなってきており、そのグラデーションがとても綺麗です。
 ここの流れもとても穏やかで、波音もほとんど聞こえません。長時間露光しても波の軌跡はほとんど写らないので、川面を流れる落ち葉が線を描く程度のシャッター速度で撮影しています。欲を言うと、もう少し流れる落ち葉がたくさん欲しかったところです。

 カメラをもう少し上に振ると、切り立った崖の上の方に赤く色づいた木々が点々とあったのですが、このオレンジ色の葉っぱを引き立たせるため、敢えて上の方の紅葉は入れませんでした。もう少し引いた場所から短めのレンズで広い範囲を撮ると、これとは違った美しい渓谷美の写真になるのではないかと思います。

阿修羅(あしゅら)の流れ

 奥入瀬渓流の中でいちばん人気の場所ではないかと思います。ガイドブックや雑誌などでも紹介される回数が最も多いのが、ここ、阿修羅の流れだそうです。
 近くにわずかながら駐車スペースもあり、ここを目当てに来る方も多いようです。写真撮影する人、絵を描く人など、人が耐えることがありません。
 それでも早朝は人の数がとても少なく、ゆっくりと撮影することができます。

 下の写真は流れのすぐ近くの遊歩道から、できるだけ低いポジションで撮ったものです。

▲阿修羅の流れ Linhof MasterTechnika 2000 SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F45 8s PROVIA100F

 岩の間を縫うように流れる姿はとても豪快です。焦点距離90mmの短焦点レンズを使っていますが、流れを強調するために林の上部はあまり入れないようにしています。
 早朝で岩に光が回り込む前の時間帯なので、岩の重みのようなものが感じられます。8秒の露光をしていますが、風がなく葉っぱもピタッと止まってくれたのは運が良かったです。
 蛇行した激しい流れと川中の岩、着生植物のバランスは本当に美しく、奥入瀬渓流の中でいちばん人気というのも頷けます。

 右上の林に光が差し込んでいるのがわかると思いますが、林を切り詰めた分、流れが奥の方に続いている感じを出そうと思い、この辺りが少し明るくなるのを待っての撮影です。

 上の写真の少し上流から縦位置で撮ったのが下の写真です。

▲阿修羅の流れ Linhof MasterTechnika 2000 FUJINON W125mm 1:5.6 F22 4s ND8 PROVIA100F

 一枚目の写真の場所と比べると流れは穏やかで激しさはありません。しかし、左奥から大きくカーブしながら流れ落ち、テーブル状になったところに波が描く模様は、激しさと穏やかさが同居している感じが表わされているように思います。

 林全体に光が回り込んで黄葉が鮮やかになってきたので、黄葉を多めに入れてみました。紅葉や黄葉は光が入り込むと鮮やかに発色しますが、光が強すぎると白っぽくなってしまいます。太陽に雲がかかって光が柔らかくなったところを狙って撮影しました。

 この写真のすぐ右側と正面の奥には道路が走っています。何気なくシャッターを切ったら車が写り込んでいた、なんてこともあるので撮影の際は注意が必要です。

白銀(しろがね)の流れ

 奥入瀬渓流の数ある滝の中でも人気の高い雲井の滝、その少し上流にあるのが白銀の流れです。轟々と音を立ててダイナミックに流れるところは高い位置から見下ろすしかありませんが、その下流はとても穏やかな流れになっています。ここは、阿修羅の流れと銚子大滝の中間あたりで、それが理由かどうかわかりませんが、訪れる人も比較的少ない感じがします。

 下の写真は白銀の流れのいちばん下流にあたるところです。

▲白銀の流れ Linhof MasterTechnika 2000  SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F22 4s ND8 PROVIA100F

 左端にちょっと見えている階段を上ると白銀の流れを見下ろせる場所に出ます。
 この写真の場所は川幅が急に広くなるので、水深も浅く、穏やかな流れです。この時期は落葉が進んで葉っぱの数も少ないので、開けた感じのする場所です。

 流れの中に横一列に整然と並んだ岩が何とも言えません。穏やかな流れでありながら適度な波があるので、長時間露光するとまるで雲が流れているような描写になります。
 対岸にある巨木がとても印象的で、このおかげで画全体が締まっている感じです。

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 美しさもその規模も他に類を見ない奥入瀬渓流です。今回は石ヶ戸から子ノ口の間を撮影しましたが、石ヶ戸から焼山までの間の紅葉も素晴らしいです。範囲が広いので短い期間ですべてを撮るには無理があります。限られた時間の中である程度狙いを絞り込んでおかないと、被写体に振り回されてしまいそうです。
 新緑の美しさも格別で、来年、新緑の頃に訪れることができたらいいなと思ってます。

(2021年11月16日)

#奥入瀬渓流 #紅葉 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #渓流渓谷

緑深い夏の桐生川源流林を大判カメラで撮る

 桐生川は群馬県桐生市の北東にある根本山を源に、桐生市街地を通って渡良瀬川に合流する、延長約57kmの川で、美しい景観の中をとてもきれいな水が流れています。釣り人にも人気のある渓流のようですが、今回は緑に包まれた夏の桐生川の景観を撮影してみました。

木々の緑と苔むした岩がつくる見事な景観

 桐生市街地を通る桐生田沼線(66号線)を北上していくと、やがて、桐生川と並行するようになります。さらに北上すると桐生川ダムが見えてきます。発電も行なっている貯水ダムとのことで、ダム湖にかかる梅田大橋から見るとかなりの貯水量があるように見えます。

 このダムの上流側一帯が「桐生川源流林」と呼ばれており、森林浴の森 日本100選に選ばれているようです。ほとんど護岸工事がされていない手つかずの状態で残っている美しい渓流です。
 川幅は10メートルくらいでしょうか、決して大きな川ではありませんが、両岸の木々や岩とともに織りなされる景観がどこまでも続いており、一日中いても飽きることがありません。

 下の写真は、比較的見通しのきくところから撮った桐生川の景観です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 昨日までの雨のせいか、水量も多めで水も若干濁っていますが、それでも透明度の高い水が流れています。空全体はどんよりと曇っていますが、コントラストが強くなりすぎず柔らかな描写になってくれました。
 釣り人のような装備をして行けば、川を遡上して撮影ができそうです。機材を水没させないように注意が必要ですが、次回は挑戦してみたいと思います。

たくさんの民話が残る梅田地区

 桐生川源流林一帯は梅田町に属するようですが、ここにはたくさんの民話が言い伝えられているようです。川沿いの道路を走っていると、所々にそんな言い伝えが書かれた看板を目にします。
 そんな伝説の一つ、村の家畜を襲ったり田畑を荒らす大蛇が済んでいたという「蛇瑠淵(じゃるぶち)」は、岩の間を縫うように流れる景観を見ることができ、そんな伝説に真実味を感じさせてくれます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 8s PROVIA100F

 上の写真は蛇瑠淵付近を撮ったものですが、どこか妖気漂う雰囲気を出そうと思い、左上の林がアンダー目になるよう、露出を切り詰めて撮影してみました。
 一昔前は水量もずっと多く、青く渦巻くように流れていたらしいですが、いまはかなり水量が減ってしまったようです。それでも十分に魅力的な流れだと思います。

 蛇瑠淵の少し下流に「千代の滝・千代が渕」があります。ここも、山賊から村を救った若い娘が足を滑らせて滝に落ちたという悲しい伝説があるようです。
 この滝は落差が5mほどで、滝を真上から見下ろすことができます。滝のところだけ極端に川幅が狭くなっているため、かなり激しい音を立てて流れ落ちています。
 岩の間をうねるように落ちているので、滝を正面から見ることはできません。

 下の写真は千代の滝に落ち込む手前(上流側)の流れを撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 24s PROVIA100F C4フィルター

 薄暗い滝壺に落ちていく雰囲気を出すため、C4色温度変換フィルターをつけての撮影です。青と緑の中間の色、「碧」という感じの色を出そうと思ってフィルターを使いました。非現実的な色ですが、この場の雰囲気には合っているのではないかと思います。

 もう一枚、下の写真は千代の滝の滝つぼに降りて撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F11 2m50s PROVIA100F C4フィルター

 こちらも同様にC4フィルターを使っています。
 周囲を木々に囲まれていてかなり暗い状態だったので、空が少し明るくなったところを狙っての撮影です。滝から射し込む光で正面の岩が光っているのがわかると思います。
 この滝壺の水深は30~40cmくらいなので、水に入っていけば滝の落ち口を見ることができます。夏場は子供たちの格好の水遊びの場になるようです。

ひたすら優美な流れも魅力的

 上で紹介した蛇瑠淵のような流れとは対照的に、滑(ナメ)のような優美な流れも随所で見ることができます。傾斜が緩やかなところは流れも穏やかで、両岸を木々に囲まれた薄暗い中を流れる様もいいものです。

 正面奥の木々の上部が開けており、鮮やかな緑と褐色の川面のコントラストがとても綺麗だったので撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 2s PROVIA100F ハーフNDフィルター

 正面の木々がかなり明るかったのでハーフNDフィルターを使っています。
 晴天時に陽が射し込んでいると全く違った感じになると思いますが、このような幽玄な感じは曇天ならではだと思います。

 さらに少し下流で撮影したのが下の写真です。この辺りも流れは穏やかで、滑のような状態が続いています。

▲Linhof MasterTechnika 45 SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F32 16s PROVIA100F

 手前の流れを大きく取り入れ、かつ、S字を描くように蛇行している流れがわかるポジションから撮影しました。
 また、この写真では色温度変換フィルターは使用していませんが、C4フィルターを装着して碧い色を出しても似合うのではないかと思います。

あちこちにユキノシタの群落が

 ちょうどユキノシタが満開の時期で、林床のあちこちで見ることができます。薄暗い林の中でひっそりと咲く姿は妖艶ささえ感じます。花の色が白いので、そこだけ明かりが灯っているようです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F11 1/2 PROVIA100F

 この花は明るい日差しの下よりも、このような薄暗いところの方が似合うと思います。谷川べりなどの湿った場所や半日陰地の岩場などに自生するようなので、それももっともだと思いますが。
 このような小さな花の群落を撮る場合、被写界深度を浅くしないと花が背景に埋もれてしまいますが、浅くしすぎるとピントの合う花がほんの一部になってしまうため、レンズの焦点距離と絞りの選択には悩みます。

 桐生川源流林に咲く花の種類は決して多くはないので、花を見かけるとなんだか癒される感じがします。

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 被写体が豊富で様々な撮り方ができる桐生川源流林ですが、あまり欲張りすぎると被写体に振り回されてしまいそうです。それくらい魅力があるということですが、ある程度、的を絞って撮影に臨んだほうが良いかもしれません。
 楓の木がたくさんありましたので、秋の紅葉の時期は美しい光景が見られると思います。

 桐生川源流林は桐生川に沿って車道が通っていて、桐生川ダムから清風園という割烹旅館の辺りまでは道幅も比較的広いですが、その先に行くとすれ違いもできないくらいの狭い道路が続きます。たくさんの車が行き交うわけではありませんが、運転は注意が必要です。
 また、車を止める場所も非常に少ないので、他の車や地元の方などの迷惑にならないように心掛けることも忘れないようにしたいものです。

(2021年7月19日)

#桐生川源流林 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

檜原村 初夏の風景を大判カメラで撮る

 4月の後半、檜原村(東京都)に行ってきました。檜原村は都心から車で2時間ほどですが、東京都とはいえ、さすがに標高も高いので、都心よりも季節の進み方はずいぶん遅いようです。まさに新緑真っ盛りといった感じで、大判カメラで初夏の風景を撮ってみました。
 今回持ち出したカメラは、リンホフマスターテヒニカ2000です。

新緑と山桜のコラボレーション

 あきる野市を抜け、檜原街道を西(檜原都民の森方面)に行くと徐々に山深くなってきます。それでも道の両側には民家が見られますが、南郷の駐在所を過ぎたあたりから民家はめっきり減り、東京とは思えない豊かな自然が続きます。山々はまだ淡い色をしており、ところどころに桜(山桜と思われます)も咲いています。

 下の写真は走っている途中で見つけた山桜です。それほど大きな木ではありませんが、隣のオオモミジと思われる新緑とのコラボレーションがきれいだったので撮ってみました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON CM 105mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 この日は曇り空でしたが、強い日差しが当たっているよりは全体的に柔らかな描写になるので、このような被写体を撮るにはむいています。
 道路脇から撮っており、ワーキングディスタンスが制限されてしまうので、若干、広角寄り(105mm)のレンズでの撮影です。大きな木ではないので、あえて左右を切り詰めてみました。
 オオモミジの新緑の色が濁らないように、露出は少し明るめにしています。
 ほとんど無風状態でしたので、1/4秒の低速シャッターでもブレることなく写ってくれました。

矢沢を彩る新録

 檜原街道は南秋川に沿って走っていますが、この南秋川にはいくつもの支流が流れ込んでいます。矢沢もそんな支流の一つで、神奈川県との県境にある生藤山の山麓がその源流です。小さな沢ですが景観が美しく、被写体に富んでいます。矢沢に沿って林道があるのですが、残念ながら途中で通行止めになっていました。

 南秋川に合流する手前の橋の上から撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 水量は決して多くありませんが、とてもきれいな水が流れています。河原の白い石と木々の緑のコントラストが美しい景観をつくりだしています。
 渓谷の深さを表現しようと思い、川を左下に寄せ、急峻な右岸を多めに入れてみました。沢に張り出す左右の枝が重なりすぎないアングルから撮っています。

 また、全体をパンフォーカスにしたかったのでカメラのフロント部を少しだけ下にあおっていますが、左上の奥の木々は被写界深度を外れてしまっている感じです。

 この矢沢はこのような景観が上流まで続いているので、林道の通行止めが解除されたら源流まで行ってみたいと思っています。

山萌える

 この時期の檜原村は木々が芽吹いて間もない頃で、山全体が淡い色彩に覆われています。少し山の上の方に目をやると、緑というよりは「白緑(びゃくろく)」とか「薄萌葱(うすもえぎ)」といった名前がぴったりの色をしています。
 しかし、このような色は長くは続かず、日増しに濃くなっていきます。

 白緑というにふさわしい色合いをした景色に出会いました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 木によって色合いが微妙に異なり、何とも言えない美しさが作り出されています。所どころに桜が咲いており、淡い色を一層引き立てているように感じます。

 このような景観が広がっているので、どこを切り取るか非常に迷いますが、木々が最もこんもりと見えるアングルと、全体が単調なパターンにならないように所どころにアクセントとなるものが配置されるような構図を選びました。
 露出を切り詰めてしまうと、この淡い感じが消えてしまうし、露出をかけすぎると飛んでしまうし、非常に悩むところです。

 この色合い、ポジ原版をライトボックスで見ると息をのむ美しさですが、画面ではお伝え出来ないのが残念です。

ひっそりと佇む龍神の滝

 檜原村にはたくさんの滝がありますが、個人的に気に入っているのが「龍神の滝」です。檜原街道からすぐのところにあり、斜面に設けられた遊歩道を下っていくと容易に訪れることができます。
 落差が18mほどの滝で、かつてはかなりの水量があったようですが、いまはずいぶんと減ってしまい、一筋の糸のような滝です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 周囲は大きな木々でおおわれているため、昼間でも薄暗い状態です。時おり木漏れ日が差し込み、岩や水面に模様を描き出していたので、滝つぼのところだけを撮ってみました。
 昼なお薄暗いところにたたずむ雰囲気が壊れないよう、ごつごつした岩が黒くつぶれないぎりぎりのところまで露出を切り詰め、水が白く飛びすぎないようにしました。

 滝の全景を撮るには対岸からか、もしくは滝つぼから広角で見上げる構図になるかと思いますが、綺麗な滝なのでいろいろな撮り方ができると思います。
 水量は多くありませんが近づくと飛沫が飛んできますので、風の強い日などは要注意かも知れません。

 なお、この滝では滝行が行なわれ、それに訪れる人も多いらしいのですが、一度もお目にかかったことはありません。

 村域の9割以上が山林という檜原村ですが、それゆえにたくさんの自然に恵まれており、森林、渓谷、滝など、四季を通じていろいろな景色に出会うことができます。

(2021.6.4)

#檜原村 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #新緑

御岳渓谷 2020年最後の紅葉をPENTAX67Ⅱで撮影

 御岳渓谷は多摩川の上流、東京都青梅市にある渓谷です。多摩川は、山梨県にある笠取山の山頂直下を源として、東京都、神奈川県を経由して東京湾に注ぎこむ一級河川ですが、上流の方は護岸工事をされていないところも多く、きれいな水が流れています。御岳渓谷のあたりはカヌーの聖地とも呼ばれているらしく、カヌーで川下りをしている人をたくさん見かけます。
 11月中旬あたりから綺麗な紅葉が見られるので、2020年最後の紅葉撮りに行ってきました。

 電車だとJR青梅線の御嶽駅からすぐ、車だと近くに有料駐車場があり、そこから歩いて10分ほどで御岳渓谷に着きます。夏の暑い時期やカヌーの大会があるときは賑わいますが、普段はそれほど人出が多いわけでもなく、ゆっくりと撮影をすることができます。

玉堂美術館前の大イチョウが輝いて

 紅葉の時期、何と言ってもひときわ目を引くのが玉堂美術館の前にある大イチョウの黄葉です。下の写真は対岸(左岸側)から撮ったものです。

玉堂美術館前の大イチョウ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 この辺りは南側がすぐ山になっているため、朝のうちは日陰になっていますが、日が回り込んでくると黄色く色づいたイチョウがまさに黄金色に輝きます。樹高が30mほどもあるらしく、自ら光を放っているような姿は圧巻です。
 イチョウの葉っぱは枝についている間は綺麗な黄色を保っており、この色のまま一気に落葉していきます。他の黄葉のように葉っぱが茶色くならないので、綺麗な状態のまま散っていく潔さのようなものがあって好きです。少し強い風が吹いたときなどに一気に散る姿も見事です。

名水百選の蒼い流れ

 御岳渓谷一帯の流れは御岳渓流とも呼ばれており、名水百選に選ばれているようです。水深はあまり深くなさそうですが、大きな岩がごろごろしており、綺麗な景観をつくってくれています(下の写真)。

御岳渓谷 PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 55mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 1/2段ほど露出を抑えめにして、渓谷の蒼然たる感じを狙ってみました。まだ渓谷に陽が差し込む前なので、全体に青っぽく色かぶりをしています。
 それにしてもこんなところをカヌーで下っていくのですから凄いです。

燃えるようなイロハモミジの紅葉

 左岸側にはカエデ(イロハモミジ)がたくさんあり、日が差し込むと燃えるような色を見せてくれます。

イロハモミジ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-M67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 対岸は日が当たっていないので黒く落ち込み、そこに真っ赤に色づいたカエデが浮かび上がります。薄曇りくらいの光の方が柔らかな感じになって個人的にはその方が好きですが、この日は快晴のため光が強すぎたのと、ほぼ正面からの光で撮ってしまったために全体的に硬く、ぎらついた感じになってしまいました。

落ち着いた色合いのトウカエデの黄葉

 下の写真は御岳小橋の脇で見つけた黄葉です。たぶん、トウカエデではないかと思います。

トウカエデ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 だいぶ落葉してしまってスカスカしてますが、まだ綺麗な色を保っていました。太陽の位置もだいぶ高くなっているので、前のカエデの写真に比べると落ち着いた感じになりました。葉っぱが落ちた後の枝も白く輝いて、晩秋らしさが出ているのではないかと勝手に思ってます。

やはりイロハモミジの紅葉は第一級品

 午後2時過ぎ、そろそろ引き上げようと青梅街道に出る階段を昇って行ったところ、偶然に綺麗な紅葉を見つけました。赤と黄色と緑が混在した何とも美しいイロハモミジです。

イロハモミジ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F11 1/8 PROVIA100F

 逆光で撮っていますが、大木で上の方まで葉があるため、撮影している場所は日陰になっています。紅葉が濁らないように露出はかなりオーバー目にしています。緑から黄色、そして赤へのグラデーションも影響していると思いますが、柔らかな感じが気に入ってます。まだほとんど落葉しておらず、葉っぱが密集しているためにこのような撮り方ができますが、落葉してスカスカ状態だとこのような感じは出せないと思います。

 東京都心の紅葉はあまり鮮やかに色づかないものが多いですが、標高230mmほどの御岳渓谷のあたりは気温の寒暖差が大きいためか、色がとても鮮やかです。同じ東京とは思えない豊かな自然が残されており、近くにある御岳山にはレンゲショウマの群生地があるようです。一度、訪れてみたいものです。

(2021.1.13)

#御岳渓谷 #渓流渓谷 #ペンタックス67 #PENTAX67 #紅葉

八方ヶ原(栃木県)で紅葉と渓谷の撮影(後編)

 八方ヶ原での撮影の2日目です。風も少なく、穏やかな秋晴れが続いています。2日目はもう少し標高の高いところでの撮影です。

おしらじの滝

 まずは「おしらじの滝」からスタートです。矢板から塩原に抜ける八方道路(県道56号)をひたすら進むと、登り切ったあたりに駐車場があります。駐車場の脇から滝に下る登山道のような道がついていますので、ここを下っていきます。あちこちぬかるんでいて歩きやすいとは言えませんが、急なところには柵も設置されています。最近設置されたようで、遊歩道の整備を進めているのかもしれません。

 10分ほど下ると滝の正面に到着します。以前は滝つぼまで降りて行かれたようですが、現在は立ち入り禁止になっており、4~5人も立てばいっぱいになりそうな狭い観瀑台から見るしかありません。必然的に撮影のアングルもほぼ固定されてしまいます。
 水が枯れてしまって滝が消滅してしまうことも多いらしいのですが、この日はまずまずの水量が流れ落ちていました。

おしらじの滝  Linhof Mastertechnika 45 Schneider APO-Symmar 180mm 1:5.6
                     F22 6s PROVIA100F

 それにしても美しい滝です。豪快な音を立てて落ちる迫力のある滝も見事ですが、それとは対極にあるような優美な滝です。私が今までに見た中でも、3本の指に入るくらいの優美な滝ではないかと思います。吸い込まれるような深い色をした静かな滝つぼに滝が映り込んでおり、優美さを一層引き立てている感じです。陽が差し込むと滝つぼはターコイズブルーのような美しい色に輝くようですが、残念ながら早朝なので滝つぼには光が差し込んでおらず、奇跡の色を見ることはできませんでした。
 もう少し露光時間を長くして、水面に浮いている葉っぱの動く軌跡を写し込んだ方が良かったかもしれません。

 1時間ほど撮影をしていましたが、その間、訪れる人は一人もおらず、気兼ねなく撮影をすることができました。とても狭い場所なので、他に滝を見に来たり撮影しに来た方がいらっしゃると、三脚立ててゆっくり撮影というわけにはいきません。日中になると訪れる人も増えると思います。
 撮影を終えて駐車場に向かいますが、戻りは重い機材を担いで急な坂を上っていかなければならないので少々しんどいです。

鹿の股沢風景林で紅葉の撮影

 さて、次はスッカン沢に向かいます。この先、道路は下りになり、間もなく那須塩原市に入ります。紅葉真っ盛りといった感じで、ハッと目を引くような黄紅葉があちこちにあります。このあたり一帯は、「鹿の股沢風景林」と呼ばれており、美しい落葉樹の林が続いています。ちょっと寄り道して、この風景林の中で撮影していくことにしました。林の中に分け入っていくと、車道からでは見ることのできない発見があります。
 下の写真は林の中で偶然見つけた紅葉です。ハウチワカエデではないかと思われます。周囲はすでに落葉している木が多く、そのため、紅葉がひときわ輝いている感じです。

ハウチワカエデ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/8 Velvia50

 写真でもわかると思いますが、この林の中に入るとこのような感じでたくさんの木があって見通しがききません。撮影をしているうちに方角がわからなくなり、どちらを向いても同じような景色で迷ってしまうこともありますので、出口までの目印を決めておいたほうが無難です。
 この風景林、初めて入り込んでみましたが、とても魅力的な場所です。新緑の季節もさぞかし美しいのではないかと思います。

スッカン沢 遊歩道修復工事中

 スッカン沢も紅葉の最盛期でしたが、昨年(令和元年)の台風19号で被害を受けた遊歩道の改修工事中のため、沢に降りることができません(現在は解除されているようです)。スッカン沢には「雄飛の滝」や「仁三郎の滝」など、見ごたえのある滝がたくさんあるのですが残念です。
 せっかくなので沢を見下ろす雄飛橋から1枚撮影してみました。まだ沢に陽が回り込んできていないので、若干色かぶりしていますが、右端の紅一点のモミジがとても映えていると思います。

スッカン沢  Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6
                    F32 4s PROVIA100F

 スッカン沢を下りながら撮影する予定でしたが工事中のためそういうわけにもいかず、予定を変更してもう少し那須塩原方面に向かうことにしました。下調べをしっかりしておかないとだめですね。

カエデの紅葉が真っ盛り

 県道56号線は塩原方面に向けて上りになります。スッカン沢から北寄りの山は紅い色(紅葉)が多いように感じます。紅葉はどれも美しいですが、やはり何といってもカエデの紅葉は第一級だと思います。カエデの紅葉を見つけるとシャッターを切りたくなってしまいます。
 下の写真はヤマモミジかオオモミジのどちらかではないかと思うのですが、炎のような色が印象的で撮った一枚です。

ヤマモミジ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F8 1/60 Velvia50

 こういった光景は晴れた日でなければ撮れませんが、個人的には燃え立つような紅葉よりも、どちらかというとしっとりとした紅葉のほうが好きです。しかし、紅葉と青空の組み合わせは何とも言えない爽快感がありますし、何といっても秋の清々しい空気を感じます。

 今回掲載した写真のうち、2枚目と4枚目はVelvia50で撮影したものです。やはり、このフィルムの発色には派手さがあります。この派手さも、鮮やかな紅葉を写し取るには向いているのかもしれません。

 北関東以北の紅葉の時期はほぼ終わってしまいましたが、東京近郊の紅葉はこれからです。寒い地方の紅葉と比べると東京のそれは鮮やかさでとてもかないませんが、美しい紅葉に出会えることを期待したいです。
 

(2020.11.21)

#八方ヶ原 #渓流渓谷 #紅葉 #リバーサルフィルム

八方ヶ原(栃木県)で紅葉と渓谷の撮影(前編)

 10月も中旬を過ぎてから秋の進み方が例年に比べて早まった感じがします。今年は台風の上陸も少なかったため、紅葉が綺麗ではないかといわれていますので、紅葉が見ごろを迎えている栃木県の八方ヶ原に行ってきました。

宮川渓谷 傾聴の滝

 初日は八方ヶ原の入り口、県民の森のある宮川渓谷での撮影です。東北自動車道の矢板ICから30分ほどで県民の森駐車場に到着。広い駐車場が完備されていますが、早朝のせいか車は1台もありません。このすぐわきに宮川が流れており、ここを起点に川に沿って上流と下流にそれぞれ遊歩道が整備されています。まずはここで渓谷や滝を撮っていきます。

 上流に向かう遊歩道を歩くと間もなく「傾聴の滝」が見えてきますが、滝の上部に出てしまい全容が見えません。全体を見るためには川の反対側(右岸)に行かなければならないようです。少し引き返して橋を渡って右岸側に行き、上流に向かって歩くと滝つぼまで降りていくことができます。ここは宮川渓谷の中でも人気の撮影ポイントらしいです。

 ということで、下の写真が傾聴の滝です。

傾聴の滝  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F32 4s Horseman612 PROVIA100F

 落差は3mほどでそれほど大きな滝ではありませんが、滝に比べて滝つぼがとても広い印象です。そして、とても穏やかな滝つぼです。滝つぼ全体を入れると滝がずいぶん小さく感じられてしまうので、612ホルダーでパノラマ撮影しました。早朝ということもありますが周囲を大きな木が覆っているため、滝つぼはかなり薄暗いです。水面に滝の向こうにある木々の黄葉を映したかったのですが、かろうじて黄色く見えてるといった感じですね。新緑の頃は水面に緑が映り込み、とても美しいのではないかと思います。

色づき始めた宮川渓谷を大判カメラで

 さらに上流に向かうと、岩の間を蛇行する優美な流れが続いています。水量は多くありませんので激しさとか力強さというよりは、整った渓谷美という表現が適切かもしれません。
 中でもいちばん渓谷美を感じた場所から撮ったのが下の写真です。

宮川渓谷  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6
                   F32 4s PROVIA100F

 この辺りは標高があまり高くないので紅葉もようやく色づき始めたところですが、緑と黄色のグラデーションも綺麗なものです。手前の岩から奥の木々までパンフォーカスにしたかったので、レンズを少しティルトしています。また、苔むす岩のしっとり感を出すために若干アンダー気味の露出設定にしています。

 ゆっくり撮影しながら2時間ほどで上流側の遊歩道の終点になります。ここで折り返して下流に向かいます。
 上流側は流れが穏やかでしたが、傾聴の滝からさらに下流にいくと流れも若干急になり、創造の滝、反省の滝、五条の滝のほかに名もない小さな滝がたくさん見られます。それにしてもこの渓谷の滝にはユニークな名前がつけられているものです。

赤滝 水辺景観10選

 午前中で宮川渓谷での撮影を切り上げ、中川にある「赤滝」に向かいました。林道赤滝線に入りましたが、滝の入り口がわかりません。途中から工事のため通行止めでしたので歩いていたところ、人ひとりが通れるくらいのガードレールの切れ目があり、「水辺景観10選 赤滝」と書かれた小さな看板が立っていました。車では気づかずに通り過ぎてしまいそうです。
 ここから狭くて急な道を降りていくと赤滝の正面に出ることができます。

 滝から下流は大きな岩がごろごろしており、足場は極めてよろしくありません。三脚を立てるのも一苦労といった感じです。

 滝の下の方の岩が赤いことから「赤滝」と呼ばれているようです。修験者の滝行にも使われているとのことですが、確かにそんな雰囲気が漂っています。水量はさほど多くありませんが落差は10mほどあるので、滝に打たれたら結構痛そうです。
 滝の美しさと周囲の険しい環境を表現できればと思い、撮影した一枚です。手前の岩を強調するため、カメラのバック部であおっています。

赤滝  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 2s PROVIA100F

 撮影しているときは全く気がつかなかったのですが、画の下側中央左寄りにある手前から2つ目の大きな岩に何やら文字のような絵のようなものが彫られています。フィルムスキャンした画像をパソコンで確認しているときに見つけましたが、何と書いてあるのか読めません。別のところにあったものが崩れてきたのか、それともここにあった岩に彫ったのかわかりませんが、いずれにしても霊験神秘な感じがします。

岩に刻まれた文字? 絵?

 なお、この滝のさらに下流には赤滝鉱泉という秘湯一軒宿があるらしいです。江戸時代から続く湯治場とのことで、次回は訪れてみたいと思います。

小さな秋があちこちに

 赤滝の撮影を終え、中川沿いを歩いてみましたが、この辺りまで来ると紅葉もだいぶ進んでいます。色づいた木の実もあちこちで見られたり、足元にはリンドウが咲いていたり、滝や渓谷とは違った小さな秋を撮ることができました。被写体は豊富で、いつまで撮っていても飽きることがありません。
 下の写真はガマズミだと思われます。葉はすっかり落ちていますが、真っ赤に色づいた実が輝いていました。もう少し寒くなって霜が降りる頃になると白い粉をふいて甘くなると思うのですが、まだ早いようです。

ガマズミ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX-M 300mm 1:4 F4 1/30 EX-Tube PROVIA100F

 後編に続きます。

(2020.11.17)

#八方ヶ原 #渓流渓谷 #紅葉 #リバーサルフィルム

中判カメラPENTAX67Ⅱで撮る北秋川渓谷神戸川(東京都檜原村)

 GoToトラベルに東京もやっと仲間入りさせてもらったとはいえ、正直なところ、県境を越えて他県に行くことには気を使います。東京都ならいいというわけではありませんが、なるべく人と接しないようにということで北秋川渓谷の支流の一つである神戸川(かのとがわ)に行ってきました。

神戸岩の滝

 檜原街道から水根本宿線(都道205号)に入り、神大橋の手前を右折します。この先は北秋川に合流する神戸川に沿って進みます。4~5km行くと神戸岩(かのといわ)の駐車場に到着。車をここに停めて神戸岩に向かうと、間もなく神戸岩から流れ落ちる滝が見えてきます。落差はさほどありませんが岩穴から流れ出てくように見え、とても雰囲気のある滝です。

神戸岩の滝  PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR6×7 75mm 1:4.5 F22 1s PROVIA100F

 この滝の右側に梯子が掛けられており、そこを上っていくと神戸岩の中に入っていくことができます。しかしその先は岩場に幅30cmほどの足場があるくらいで、鎖につかまりながら進むという状態ですのでカメラや三脚などの機材をもっていくのは困難です。何とか持って行ったとしても三脚を立てるようなスペースもなく、残念ながら機材はこの滝の手前に置いていくしかありません。
 神戸岩はこの川の両側に垂直に100mほども切り立っており、ほとんど日差しが入ることもないと思われます。両側の岩に反響するせいか、流れる水の音がひときわ大きく聞こえます。

心霊スポットで有名な神戸対隧道 

 神戸岩を抜けた後、戻りは神戸岩をまいて通っている車道を歩くことになります。ここはトンネルになっているのですが、真っ暗なうえに有名な心霊スポットらしく、ここを一人で歩くのはちょー怖いです。後ろから何かついてきていないかとか、背中に何か張り付いていないかとか、そんなことが気になって振り返りながらつい足早になってしまいます。トンネル出口部分の天井だけコンクリートで固めてありますが、岩から染み出た水がこのコンクリートに女性の姿を描き出すといわれており、怖くて見る気にもなりません。トンネルから出た後に振り返りましたが、トンネルに吸い込まれるようなおどろおどろしい雰囲気があります。

小さな滝が続く神戸川の流れ

 気を取りなおし、神戸川を下流に向かいます。下の写真はいくつもの小さな滝を作りながら流れる神戸川を撮影した一枚です。

神戸川  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX-M 67 300mm 1:4 F32 8s PROVIA100F

 岩の間を流れ落ちる小さな滝と、川底が見える静かな流れとの対比がとても美しいと思います。枝っぷりの良い楓が渓流に張り出しており、まだ青々としていますが、紅葉するとまた違った美しさを見せてくれることでしょう。
 この辺りは山に囲まれており、かなり太陽が高くならないと渓谷まで陽が入り込んできません。陽が差し込んでくるとコントラストが強くなりすぎてしまい、しっとり感がなくなってしまうので、その前にできるだけ撮影しようと気がせいてしまいます。

神戸川 差し込む光に輝く水面

 午前10時半くらいになるとようやく木々の間から光が漏れて、渓谷に差し込んできます。澄んだ流れと光があちこちに美しい景色を作り出しています。そんな中の一枚が下の写真です。

神戸川  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 MACRO135mm 1:4 F22 1/4 PROVIA100F

 川面全体に光が差し込み、川底の石が輝いているようです。一方、川から垂直に立ち上がっている対岸の岩に差す光はまばらで、草や岩の上にたまった落ち葉を浮かび上がらせています。明るいところと暗いところの露出差が5EVほどもあるため、陽がさしていない岩のところは黒くつぶれてしまうかと思いましたが、かろうじて写ってくれました。

石垣に根を下ろしたシダ

 陽が高くなってきたので渓谷での撮影を切り上げ、林の中に入り、モノクロフィルムで林の中の小さな景色を切り取ってみました。下の写真は苔むした石垣の隙間に根付いたシダの葉っぱです。

シダ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 MACRO135mm 1:4 F4 1/60 ILFORD Delta 100

 石垣全体に陽が当たってしまうとフラットになってしまうので、木の枝の隙間からスポットライトのようにシダに陽が差し込む瞬間を狙ってみました。光を反射して輝く葉っぱと、周囲の濡れた苔とのコントラストが出るようにとの思いで撮影した一枚ですが、左上の苔に当たる光がちょっと強すぎる感じですね。
 林の中にはとっくに花期を終えたヤマアジサイもたくさんあり、モノクロで撮るには格好の被写体でした。

 今ごろの季節は、夏が終わって秋に向かうちょうど変わり目の時期で、ちょっと中途半端な感じもしますが、季節の移ろいを感じられる時期でもあります。錦秋の季節も間もなくで、気持ちも高ぶってきます。
 この日はすべてPENTAX67Ⅱでの撮影で、使用したレンズは55mm、75mm、105mm、135mm、200mm、300mmの6本でした。

(2020.10.10)

#神戸川 #北秋川渓谷 #渓流渓谷 #ペンタックス67 #PENTAX67

東京ゲートブリッジでピンホールカメラ試し撮り

 耐え難い暑さもやっとおさまったので、自粛中に作ったピンホールレンズの写りを確認するため、東京ゲートブリッジの定番撮影ポイントである若洲海浜公園に行ってきました。しばらく雨降りが続いていましたが久しぶりに青空が広がり、若洲海浜公園の駐車場は満車状態です。多くの方は釣りをしに来ているようです。ほぼ快晴で日差しは強いですが風がとても気持ち良いです。

WISTA 45SP でゲートブリッジ撮影

 2か月ほど前に作ったピンホールレンズでどの程度の写真が撮れるのか、4×5フィルムとブローニーフィルム(67判)で実際に撮影をしてきました。持ち出したカメラはWISTA 45SPとHorsemanのロールフィルムホルダーです。あとはピンホールレンズや単体露出計、メジャーなどの小物ばかりですので、レンズがないと本当に機材が軽いと実感しました。これで超広角から望遠まで無段階に対応できるのですから、ピンホールカメラ恐るべしです。

 まずは橋の南側からゲートブリッジ全体の形が綺麗に見えるポイントに行き、4×5フィルムで撮ったのが下の写真です。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F330 7s (4×5判)

ピンホール径を逆算してみると

 撮影データですが、焦点距離は100mm(35mm判カメラに換算すると28mmくらいのレンズの画角に相当します)、F330でシャッター速度は7秒です。
 単体露出計で手前の草の部分と海面を計測し、ピンホール径が0.3mmということで計算した露出ですが、若干、露出オーバー気味です。ということはピンホール径が0.3mmよりもわずかに大きいようです。現像が仕上がったポジの状態からピンホール径を逆算すると、0.33mmくらいあることになります。ルーペを覗きながらマチ針で開けた穴ですので決して高い精度は望めず、まぁ、こんなものかなと思います。次回の撮影からはピンホール径が0.33mmということで露出を決めれば良いので、仕上がりはもう少し良くなることを期待したいです。

 周辺部の落ち込み(光量不足)がもう少しあるかと予想していたのですが、思ったほどではありませんでした。この写真のほかにもう一枚、焦点距離85mmで撮影したポジは四隅が若干暗くなっており、光量不足の影響が出始めているのがわかりました。計算上、最短撮影距離の68mmでは周辺部で2EVほど暗くなると思っていましたが、実際には1~1.5EVくらいでおさまりそうです。

画質は及第点

 画質は予想以上に解像しており、及第点といったところでしょう。さすがに草の一本いっぽんまでは識別できませんが、穂が伸びているところや左端にある時計の目盛りなどは十分わかります。少しボヤっとしていたほうが針穴写真らしいと思いますが、どこで折り合いをつけるかが悩ましいところです。機会があればもう少し径の大きなピンホールを作って試してみたいところです。
 この写真では太陽が左側にあるのですが、フレアが起きています。これを避けたい場合はフードやハレ切りを使えば防げますが、このように晴れた日の写真ではフレアがあることで降り注ぐ太陽の光を感じられるかも知れません。

ブローニーフィルムで撮影

 下の写真はブローニーフィルム(ロールフィルムホルダーを使用)で釣りをしているところを撮ってみました。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F276 4s (67判)

 焦点距離が80mm(35mm判カメラ換算で40mmくらいのレンズの画角に相当)、F267、シャッター速度は4秒です。1枚目の写真同様、露出は若干オーバー気味です。
 手前の岩を大きく入れてみました。このような構図の場合、パンフォーカスにしようとするとレンズを使った通常の撮影ではかなり大きなアオリが必要になりますが、当然のことながらピンホールカメラでは全く気にせずにパンフォーカスになるのがすごいところです。
 また、シャッター速度が4秒くらいだと人の動きも極端に大きくブレることなく、ぎりぎりそれとわかるくらいには写し止めることができます。

遠景を望遠で撮影

 さて、長い焦点距離(望遠)ではどのように写るかということで撮影したのが下の写真です。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F900 50s (67判)

 撮影データは、焦点距離270mm(35mm判カメラ換算で135mmレンズの画角に相当)、F900、シャッター速度は50秒です。露出オーバー気味も手伝ってか、やはりボヤっとした感じが強まっている印象ですが、ここまで写ってくれれば良しということにしましょう。

 今回は試し撮りということで4×5フィルム2枚、ブローニー(220)フィルム1本(20カット)を撮影してきましたが、構図確認用のピンホールレンズの穴径が大きすぎて、フォーカシングスクリーンに映る像がぼやけすぎてしまうということが判明しました。穴径が大きければ明るい像が得られますがボケも大きくなってしまい、構図を決めるのに手間がかかってしまいます。ここは改善の余地のあるところです。
 また、ピンホールレンズが計算通りに作ることができているか確認するため、今回は露出がシビアなリバーサルフィルムで撮影しましたが、針穴写真はモノクロやネガフィルムのほうが雰囲気があると思いますので、若干の改善をした後、次回は本格的な撮影に臨みたいと思います。

(2020.10.5)

#東京ゲートブリッジ #ピンホール写真 #ウイスタ45 #WISTA45 #リバーサルフィルム

大判カメラ リンホフマスターテヒニカで撮る払沢の滝(東京都檜原村)

 明日からしばらく雨の日が続きそうとの予報でしたので、急に思い立ち、檜原村にある払沢の滝に行ってきました。
 新型コロナ感染拡大抑止対策のための県境を越えての移動自粛が解除されたとはいえ、東京から出ることに気を使ってしまいます。檜原村の方からすれば、同じ東京とはいえ都心方面からは来てほしくないという気持ちもあろうかと思いますが、なるべく人と接しないように気をつけながら行くことにしました。

東京で唯一、日本の滝百選に選ばれている落差62mの滝

 東京の滝では唯一、日本の滝百選に選ばれている払沢の滝を訪れるのは2年ぶりです。都心から車で1時間半ほど。平日のせいもあり、駐車場には2台の車が止まっていただけでした。雨は降らない予報でしたが、霧雨のような雨が降っていたのでしばらく車の中で待機。30分ほどで雨も上がり、空が明るくなってきたので滝に向かいます。今日は大判カメラでの撮影です。駐車場から滝まではゆっくり歩いても15分ほど。きれいに整備された遊歩道があるので歩くのも楽です。滝に向かって遊歩道の左手側が深い渓谷になっています。
 途中、下ってくるカップルに出会いましたが、滝についたときには誰もいませんでした。雨が続いていたせいか、滝の水量も多いように感じます。落差62メートル、4段になって落ちる滝らしいのですが、ほとんど最下段しか見えません。下から2段目が木の間からわずかに見える程度です。

 下の写真は滝から少し離れ、手前に滝つぼからの流れを入れてみました。風はほとんどなかったのですが、やはり4秒の露光ですので木の葉がぶれています。手前の岩にもピントが来るようにカメラのバック部をあおっています。
 縦位置で90mmレンズを使うとカメラのレールが写り込んでしまうので、フロントを少しライズさせなければなりません。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider SuperAngulon 90mm 1:8
                   F32 4s PROVIA100F

 滝を訪れる人も徐々に増えてきたので、滝を3カット撮って下流に移動です。

小さいながら、趣のある滝も

 下の写真は落差50cmほどの小滝です。落差の割には深い滝つぼです。雨に濡れて黒く引き締まった岩の表情が綺麗でした。岩が白っぽくならないように、アンダー気味の露出設定にしました。少しだけフロントティルトのあおりをかけています。
 この小さな滝、妙に人気があるようで、この滝をバックにスマホを使って自撮りしている人がたくさんいました。

▲Linhof MasterTechnika45 ApoSymmar 150mm 1:5.6 F22 8s PROVIA100F

 ここから下流は渓谷が深くなって降りていくこともできないので、渓流の写真はここまでです。もう少し下流に忠助淵というところがあるのですが、この時期は木の葉が茂っていて見通しがききません。
 少し前まで雨が降っていたのと、曇っているため柔らかな光が綺麗に回り込んでいて、遊歩道沿いの木々の緑がとても鮮やかです。遊歩道脇のドクダミの花も満開で、薄暗い森の中に小さな明かりが灯っているようです。

雨に濡れた緑が美しい

 下の写真は遊歩道沿いの杉林です。雨に濡れて褐色になった杉の幹と木々の葉っぱの緑のコントラストがとても美しいです。もう1/2段ほど露出をアンダーにしたほうが雰囲気が出たかもしれませんが、そうすると葉っぱの緑が濁ってしまい、難しいところです。

▲Linhof MasterTechnika45 Schneider ApoSymmar 180mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 この後、杉の幹に絡むボタンヅル等を撮り、駐車場に戻りました。駐車場に戻ったのが午後1時過ぎ。約3時間の撮影行で、本日の撮影は大判(4×5)フィルムで8カットでした。
 出発するときは全部で3台しか止まっていなかった車が、帰ってきたときには10台ほどになっていました。
 帰路、八王子にある道の駅に立ち寄り、野菜や果物を買い求めました。この道の駅は地元産の野菜や果物がたくさんあるため、平日でも結構混んでいます。
 その後は新宿に直行し、本日撮影したフィルムを現像に出してきました。

(2020.6.24)

#檜原村 #払沢の滝 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

ギャラリー【裏磐梯彩景】

 福島県磐梯山の北側に広がる裏磐梯一帯は、とても好きな撮影地の一つです。磐梯山の噴火によって作られたたくさんの湖沼群、そしてそれを取り囲む山々。訪れるたびに様々な表情を見せてくれるとても魅力的な場所です。

#裏磐梯 #プロビア #PROVIA