緑深い夏の桐生川源流林を大判カメラで撮る

 桐生川は群馬県桐生市の北東にある根本山を源に、桐生市街地を通って渡良瀬川に合流する、延長約57kmの川で、美しい景観の中をとてもきれいな水が流れています。釣り人にも人気のある渓流のようですが、今回は緑に包まれた夏の桐生川の景観を撮影してみました。

木々の緑と苔むした岩がつくる見事な景観

 桐生市街地を通る桐生田沼線(66号線)を北上していくと、やがて、桐生川と並行するようになります。さらに北上すると桐生川ダムが見えてきます。発電も行なっている貯水ダムとのことで、ダム湖にかかる梅田大橋から見るとかなりの貯水量があるように見えます。

 このダムの上流側一帯が「桐生川源流林」と呼ばれており、森林浴の森 日本100選に選ばれているようです。ほとんど護岸工事がされていない手つかずの状態で残っている美しい渓流です。
 川幅は10メートルくらいでしょうか、決して大きな川ではありませんが、両岸の木々や岩とともに織りなされる景観がどこまでも続いており、一日中いても飽きることがありません。

 下の写真は、比較的見通しのきくところから撮った桐生川の景観です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 昨日までの雨のせいか、水量も多めで水も若干濁っていますが、それでも透明度の高い水が流れています。空全体はどんよりと曇っていますが、コントラストが強くなりすぎず柔らかな描写になってくれました。
 釣り人のような装備をして行けば、川を遡上して撮影ができそうです。機材を水没させないように注意が必要ですが、次回は挑戦してみたいと思います。

たくさんの民話が残る梅田地区

 桐生川源流林一帯は梅田町に属するようですが、ここにはたくさんの民話が言い伝えられているようです。川沿いの道路を走っていると、所々にそんな言い伝えが書かれた看板を目にします。
 そんな伝説の一つ、村の家畜を襲ったり田畑を荒らす大蛇が済んでいたという「蛇瑠淵(じゃるぶち)」は、岩の間を縫うように流れる景観を見ることができ、そんな伝説に真実味を感じさせてくれます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 8s PROVIA100F

 上の写真は蛇瑠淵付近を撮ったものですが、どこか妖気漂う雰囲気を出そうと思い、左上の林がアンダー目になるよう、露出を切り詰めて撮影してみました。
 一昔前は水量もずっと多く、青く渦巻くように流れていたらしいですが、いまはかなり水量が減ってしまったようです。それでも十分に魅力的な流れだと思います。

 蛇瑠淵の少し下流に「千代の滝・千代が渕」があります。ここも、山賊から村を救った若い娘が足を滑らせて滝に落ちたという悲しい伝説があるようです。
 この滝は落差が5mほどで、滝を真上から見下ろすことができます。滝のところだけ極端に川幅が狭くなっているため、かなり激しい音を立てて流れ落ちています。
 岩の間をうねるように落ちているので、滝を正面から見ることはできません。

 下の写真は千代の滝に落ち込む手前(上流側)の流れを撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 24s PROVIA100F C4フィルター

 薄暗い滝壺に落ちていく雰囲気を出すため、C4色温度変換フィルターをつけての撮影です。青と緑の中間の色、「碧」という感じの色を出そうと思ってフィルターを使いました。非現実的な色ですが、この場の雰囲気には合っているのではないかと思います。

 もう一枚、下の写真は千代の滝の滝つぼに降りて撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F11 2m50s PROVIA100F C4フィルター

 こちらも同様にC4フィルターを使っています。
 周囲を木々に囲まれていてかなり暗い状態だったので、空が少し明るくなったところを狙っての撮影です。滝から射し込む光で正面の岩が光っているのがわかると思います。
 この滝壺の水深は30~40cmくらいなので、水に入っていけば滝の落ち口を見ることができます。夏場は子供たちの格好の水遊びの場になるようです。

ひたすら優美な流れも魅力的

 上で紹介した蛇瑠淵のような流れとは対照的に、滑(ナメ)のような優美な流れも随所で見ることができます。傾斜が緩やかなところは流れも穏やかで、両岸を木々に囲まれた薄暗い中を流れる様もいいものです。

 正面奥の木々の上部が開けており、鮮やかな緑と褐色の川面のコントラストがとても綺麗だったので撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 2s PROVIA100F ハーフNDフィルター

 正面の木々がかなり明るかったのでハーフNDフィルターを使っています。
 晴天時に陽が射し込んでいると全く違った感じになると思いますが、このような幽玄な感じは曇天ならではだと思います。

 さらに少し下流で撮影したのが下の写真です。この辺りも流れは穏やかで、滑のような状態が続いています。

▲Linhof MasterTechnika 45 SUPER-ANGULON 90mm 1:8 F32 16s PROVIA100F

 手前の流れを大きく取り入れ、かつ、S字を描くように蛇行している流れがわかるポジションから撮影しました。
 また、この写真では色温度変換フィルターは使用していませんが、C4フィルターを装着して碧い色を出しても似合うのではないかと思います。

あちこちにユキノシタの群落が

 ちょうどユキノシタが満開の時期で、林床のあちこちで見ることができます。薄暗い林の中でひっそりと咲く姿は妖艶ささえ感じます。花の色が白いので、そこだけ明かりが灯っているようです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F11 1/2 PROVIA100F

 この花は明るい日差しの下よりも、このような薄暗いところの方が似合うと思います。谷川べりなどの湿った場所や半日陰地の岩場などに自生するようなので、それももっともだと思いますが。
 このような小さな花の群落を撮る場合、被写界深度を浅くしないと花が背景に埋もれてしまいますが、浅くしすぎるとピントの合う花がほんの一部になってしまうため、レンズの焦点距離と絞りの選択には悩みます。

 桐生川源流林に咲く花の種類は決して多くはないので、花を見かけるとなんだか癒される感じがします。

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 被写体が豊富で様々な撮り方ができる桐生川源流林ですが、あまり欲張りすぎると被写体に振り回されてしまいそうです。それくらい魅力があるということですが、ある程度、的を絞って撮影に臨んだほうが良いかもしれません。
 楓の木がたくさんありましたので、秋の紅葉の時期は美しい光景が見られると思います。

 桐生川源流林は桐生川に沿って車道が通っていて、桐生川ダムから清風園という割烹旅館の辺りまでは道幅も比較的広いですが、その先に行くとすれ違いもできないくらいの狭い道路が続きます。たくさんの車が行き交うわけではありませんが、運転は注意が必要です。
 また、車を止める場所も非常に少ないので、他の車や地元の方などの迷惑にならないように心掛けることも忘れないようにしたいものです。

(2021年7月19日)

#桐生川源流林 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

レンズの「小絞りボケ」と大判カメラによる撮影の関係について

 カメラのレンズは絞るにつれて回折現象によって解像度が落ちていくというのは良く知られた話ですが、一方で、絞らなければ被写界深度が浅く、全体にピントが合った写真になりにくいというトレードオフのような関係になってしまいます。
 実際に、絞ることによってどれほど写真に影響があるのかを検証してみました。
 なお、レンズの性能を評価したり、それを論ずることが目的ではなく、あくまでも写真に与える影響にフォーカスしていますので、予めご承知おきください。

光の回折とエアリーディスク

 ある一点から出た光はレンズを通った後、撮像面に到達した光は一点に集まらず、円盤状に少し広がってしまいます。平行に進行する光が障害物に出会ったとき、障害物の裏側(影の部分)に回り込んでしまう現象で、「光の回折」と呼ばれています。これはレンズの収差をゼロにしても光が持つ波としての性質上、どうしようもないことのようです。

 この広がった光によって描かれる円を「エアリーディスク」と呼んでいます。エアリーディスクについて検索すると、下のような図がたくさん出てきます。

 エアリーディスクの大きさは次の式によって求めることができます。

  d = 2.44λF

 ここで、λは光の波長、Fは絞り値です。
 つまり、光の波長が一定であれば、エアリーディスクの大きさはレンズの絞り値によって決まるということになります(光の回折やエアリーディスクに関する学術的なことはここでは触れませんので、ご了承ください)。

 この式からも、絞り値が大きくなればエアリーディスクの直径も大きくなることがわかります。
 エアリーディスクは、本来は点でなければならない光が広がってしまうわけですから、当然、画像も劣化してしまいます。

 実際に上の式を使ってエアリーディスクの大きさを計算してみます。
 光の波長を450nm(0.45μm)、レンズの絞り値をF4とすると、

  d = 2.44 × 0.45 × 4
    = 4.392μm

 となります。 

 この条件下においては点像の直径を4.392μmより小さくすることはできません。すなわち、撮像面において、4.392μm以下の大きさは識別できないことになります。

 これは、1,800万画素ほどのAPS-Cサイズの撮像素子の1画素とほぼ同じ大きさです。
 F4よりも絞るとエアリーディスクの直径は大きくなり、1画素の大きさを上回ってしまいます。

▲シュナイダー アポジンマー 150mm 1:5.6

絞り値による画質への影響

 では、実際に絞り値によってどの程度、画質に影響が出るのかを確認してみます。

 私は大判カメラを使うことが多いので、シュナイダーのアポジンマー150mmという大判用のレンズで試してみます。このレンズの絞りはF5.6~64までありますので、まずは、1段ごとのエアリーディスクの大きさを上の式にあてはめて計算してみます。
 光の波長は450nmとします。

  F5.6 : d = 2.44 × 0.45 × 5.6 =  6.149μm
  F8  : d = 2.44 × 0.45 × 8  =  8.784μm
  F11  : d = 2.44 × 0.45 × 11 = 12.078μm
  F16  : d = 2.44 × 0.45 × 16 = 17.568μm
  F22  : d = 2.44 × 0.45 × 22 = 24.156μm
  F32  : d = 2.44 × 0.45 × 32 = 35.136μm
  F45  : d = 2.44 × 0.45 × 45 = 49.410μm
  F64  : d = 2.44 × 0.45 × 64 = 70.272μm

 実際の撮影は被写界深度の影響を受けない方がわかり易いだろうと思い、奥行きのない平面的な被写体をということで腕時計の広告を使いました。
 カメラを水平にし、広告面とカメラの撮像面を極力平行に保って撮影したのが下の写真です。

▲テストチャート代わりの腕時計の広告

 この状態で、レンズの絞りをF5.6~64まで変えて8枚を撮影しました。
 そして、中心部のあたりを拡大したものが下の写真です。

▲F5.6
▲F8
▲F11
▲F16
▲F22
▲F32
▲F45
▲F64

 上の写真でわかるように、絞ることで画質が低下していくのが明らかです。F16までは画質の低下もごくわずかですが、F22からは画質の低下が顕著に感じられます。F64まで絞るとかなり甘い描写になっています。

小絞りによる画質低下と写真の関係

 絞ることで画質の低下が生じることは明確ですが、では、それがどこにどのような影響を及ぼすのかというと、いろいろな見解があると思います。
 とにかく解像度至上主義のような方にとっては、いかに解像度を高めるかということや、機材によって解像度がどれくらい違うのかということが重要だと思いますし、レンズの評価を解像度で行なう方にとっても避けては通れないことだと思います。

 私も、レンズの解像度は低いよりは高い方が望ましいとは思っていますが、「写真」というものをどうとらえるかによって、解像度の持つ意味は変わってくると思います。
 私は機材を評価するレビューアーや技術者でもありませんので、機材性能の重要さは十分に認識していますが、それよりも、それによって生み出される「写真」そのものに重きを置いています。ですので、絞れば画質が低下することは承知の上で、目いっぱい絞って撮影することもあります。それは、写真をどのように表現したいかということによって変わるものだと思っています。

 どれだけ鮮鋭な写真を撮るかということも重要な要素だと思いますが、私はその場にいた自分の感覚とか感情を、写真を通してどう表現するかということに重きを置いています。
 例えば、パンフォーカスの風景写真を撮りたい場合など、小絞りによる画質の低下は承知しながらF45とかに絞って撮ることもあるわけで、何を表現し何を訴求したいかによって、どのように撮るかが決まってくるのではないかと思っています。

 とはいえ、画質の低下は放っておけない課題ではあるので、どのように折り合いをつけるのかについて考えてみたいと思います。

 撮った写真をどのように扱うかは様々だと思いますが、私の場合は、フィルムカメラで撮影した写真を四切から全紙くらいに引き伸ばして額装するというスタイルです。撮影した写真をパソコンの画面で等倍以上に拡大して、解像度がどうのということを論ずる使い方をするわけではありませんが、やはり、全紙に引き伸ばしたときに、あまり顕著な画質の低下は避けたいと思っています。

 では、それはどのような状態なのかということを、論理的に検証してみたいと思います。

プリントに許容される絞り値は?

 額装した写真というのは人間が目で見るわけですから、その状態で違和感なく、綺麗に見えることが求められます。では、それはどのような状態なのかを検証してみたいと思います。

 まず調べてみたところ、人間の目の分解能は視野角で1/120度(0.5分)くらいが限界とのことです。これがどれくらいの分解能かというと、1mの距離から、0.145mm離れた2つの点を識別できるということです。
 この人間の持っている目の分解能で、全紙に引き伸ばした写真を見たときのことを想定してみます。
 全紙の大きさは560mm×457mmです。この写真を1.5m離れたところから見た場合、人間の目の分解能で識別できるのは0.218mmとなります。

 では、4×5フィルムから全紙にするにはどれくらい引き伸ばせばよいかというと、短辺の比率で計算すると、4×5フィルムの短辺の長さは102mmですから、
  457 ÷ 102 = 4.48
 となり、約4.5倍ということになります。
 全紙大で0.218mmの分解能なので、4×5判のフィルム上では1/4.48、すなわち、
  0.218 ÷ 4.48 = 0.0487
 となり、0.0487mmの点像が識別できることが求められます。これは、F45に絞ったときの状態に近い値です。

 これらのことから、大判(4×5判)カメラで撮影した写真を全紙大に引き伸ばし、1.5m離れたところから見る場合、F45まで絞っても特に画質の低下を感じることなく、写真を観賞できるということになります。

 しかし、実際にはこれよりも小さな値、できれば半分くらいの値である0.024mm以下が望ましいと思われます。上でエアリーディスクの計算をしましたが、0.024mm(24μm)ということは、絞りF22のときとほぼ等しいということです。

 もちろん、中判カメラや35mm判カメラであれば全紙大までの拡大率が異なりますので状況は異なります。フィルムの面積が大きいほど、プリントの際の拡大率は小さくて済みますので、エアリーディスクの影響は少なくて済みます。

 念のためにつけ加えておきますが、これらはすべて理論的な話しであって、実際の撮影対象(被写体)や撮影条件によって大きく変わってくるので、それほど単純な話ではないと思っています。ですが、一つの目安にはなると思います。

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 レンズの絞りを絞るほど画質が劣化するのは紛れもない事実ですが、撮影した写真をどのように使うかによって状況は変わります。
 パソコンの画面で画素レベルまで拡大して解像度を論じるのと、写真をプリントして観賞するのとでは全く異なります。エアリーディスクによる画質の低下を認識したうえで、作画意図に応じて撮影条件を使い分けるということが重要かと思います。

(2021.7.12)

#レンズ描写 #絞り

大判カメラにPENTAX67を取り付けるアダプタの作成

 通常、大判カメラは1枚ごとにカットされたシートフィルムを使いますが、ロールフィルムホルダーを使うことでブローニーフィルム(120、220)での撮影が可能になります。1本のフィルムで10枚とか20枚の撮影ができるので荷物がかさばらなくてありがたいのですが、構図を決め、ピントを合わせた後、カメラのフォーカシングスクリーンを外してロールフィルムホルダーを取り付けなければならず、結構面倒くさいです。
 そこで、中判カメラ(PENTAX67)を直接取り付けられるようなアダプタを作ってみました。

必要なパーツはたったこれだけ

 アダプタといっても非常に単純なもので、アクリル板にPENTAX67用のレンズのマウント金具を取り付けるだけのシンプルな構造です。
 まずは板厚3mmの黒いアクリル板です。

板厚3mmのアクリル板(黒)

 このアクリル板はアマゾンで400円ほどで購入できます。もちろんアクリル板でなくても構いませんが、そこそこの剛性があり、加工がし易いということからアクリル板がお勧めです。

 そして、もう一つ必要なパーツがPENTAX67用レンズのマウント部の金具です。これはさすがに作成するというわけにはいかないので、レンズから取り外して使います。

PENTAX67用レンズから取り外したマウント金具

 大手ネットオークションサイトで1円で落札したジャンクレンズから取り外しました。
 PENTAX67用レンズのマウント金具は6本のネジで止めてあります。古いレンズの場合、このネジが異常に硬いことがありますので、ネジ山を舐めないように注意して取り外します。

 その他、作成に必要な工具類は、アクリルカッター、ドリル、ヤスリ、アクリル用接着剤、ノギス、コンパスなどです。

アクリル板の加工

 今回作成するアダプタは、ホースマンなどのロールフィルムホルダのボードと同じ寸法なので、上下幅を121.5mmにします。左右幅はフィルムホルダよりも若干余裕を持たせ、180mmとします。
 ここに、PENTAX67用レンズのマウント金具をはめ込むための穴をあけます。寸法は下図の通りです。

 実際に穴をあけたアクリル板はこんな感じです。

マウント金具をはめ込む穴をあけたアクリル板

 この板をカメラ側に取付ける際、カメラ側で押さえ込める板厚は約5.6mmほどなので、この板の周囲に幅6~8mmにカットしたアクリル板を張り付けます。

周囲にアクリル板を張り付けた状態

 一方、カメラ側のフィルムホルダーを受けるところには幅3mm、深さ2mmほどの溝があり、ここにフィルムホルダの突起がはまり込むようになっています。これは、フィルムホルダのずれ防止と光が入り込むのを防ぐためかと思われます。ですので、今回作成するアダプタボードの内側にも、この溝にはまるような突起を張り付けます。これは、幅2.5mmにカットしたアクリル板を接着しています。

アダプタボードの裏側(カメラの溝にはまる突起を取り付け済み)

 これでアダプタボードはほぼ完成です。

PENTAX67用レンズマウント金具の取付け

 さて、次はPENTAX67用レンズのマウント金具をアダプタボードに取付けます。
 カメラ(PENTAX67)を取り付けた際に、カメラが水平にならなければならないので、マウント金具の位置決めは慎重に行なう必要があります。PENTAX67の場合、レンズの距離・絞り指標が真上に来た時、レンズのロックピンが左に90°の位置に来ますので、この位置がずれないように位置決めを行ないます。
 テープなどで仮止めし、マウント金具を固定するためのネジ穴をあけます。

 実際にマウント金具を取り付けるとこんな感じです。

アダプタボードにPENTAX67用レンズのマウント金具を取り付けた状態

 今回使用したアクリル板は表面が光沢面だったので、艶消しのラッカー塗装をしました。
 ボードの上下の縁に削った跡が見えると思いますが、これはカメラのボード押さえ金具がスムーズに入るようにするためのものです。

大判カメラへの取付け

 こうして作成したアダプタボードを大判カメラ(リンホフマスターテヒニカ)に取付けるとこのようになります。

リンホフマスターテヒニカ45にマウントボードを取り付けた状態

 そして、ここにPENTAX67を取り付けるとこんな感じです。

PENTAX67を取り付けた状態

 では、このアダプタボードを実際に使って撮影する際に使用可能なレンズについてですが、PENTAX67のフランジバックは85mm(正確には84.95mm)、今回作成したアダプタボードの厚さは5mm(アクリルボード+マウント金具の厚さ)、リンホフマスターテヒニカの蛇腹の最短繰出し量は約50mm(これは私のカメラの場合)で、これらを合算するとフランジバックは約140mmということになります。
 すなわち、無限遠を出すためには焦点距離が140mm以上のレンズが必要ということになります。これは中判の場合、中望遠に近い値であり、これより短焦点のレンズでは無限遠の撮影は不可能ということになります。

 一方、近接(マクロ)撮影においては自由度が広がります。

 また、PENTAX67というかなり重量級のカメラを取り付けることに加え、シャッターを切るときのミラーショックが大きいので、PENTAX67側でシャッターを切るとカメラブレを起こす可能性が高いと思われます。
 そのため、PENTAX67側はバルブにしてシャッターを開いておき、大判カメラに取付けたレンズでシャッターを切るのが望ましいと思います。

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 短焦点(広角)のレンズでの無限遠撮影には使えませんが、フォーカシングスクリーンで構図決めやピント合わせをした後に、ロールフィルムホルダに付け替えるという煩雑さからは解放されます。
 使い勝手がどの程度のものか、実際に撮影で使った時の状況については別途、掲載したいと思います。

(2021.6.26)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラの撮影時における失敗のあれこれ

 大判カメラは使用できるレンズの自由度が大きいとか、アオリが使えるとか、あるいは、35mm判のカメラでは使わないような小道具を用いるなど、大判カメラならではの特殊性があります。これによっていろいろと撮影の幅が広がるのですが、その反面、その特殊性に起因する失敗も起こりえます。
 今回は大判カメラでの撮影時に起こりやすい失敗について触れてみたいと思います。

アオリの掛け過ぎでケラレる失敗

 大判カメラの撮影でいちばん多い失敗が「ケラレ」によるものではないかと思います。ケラレと言っても原因は一つではなく多岐に渡っていますが、中でも起こり易いのがアオリによるケラレです。
 簡単に言うと、あおることで撮像面がイメージサークルからはみ出してしまうことです。
 
 一般的なフィールドカメラの場合、フロント(レンズ)部をアオリ過ぎてイメージサークルをはみ出すと、写真の四隅のうち、写真の上辺、下辺、左辺、右辺のいずれかの辺の両端が黒っぽくなってしまいます。ライズやフォール、ティルトをかけすぎると上辺、もしくは下辺の両端が、シフトやスイングをかけすぎると左辺、または右辺の両端が影響を受けます。
 ライズ(フォール)、もしくはティルトと、シフト、またはスイングを同時にかけると、四隅のうちの3か所がケラレてしまうこともあります。

 下の写真はフロントライズをかけすぎたため、画面上部の両端がケラレてしまった例です。

 
 上部の両端が黒っぽくなっているのがわかると思います(ポジをライトボックスに置いて撮影しているので、画質が悪いのはご容赦ください)。

 イメージサークルは、その外側になると突然真っ暗になるわけではなく、徐々に光量が落ちていくので、カメラのフォーカシングスクリーンではケラレているのが良くわからないことがあります。特に短焦点レンズを使っていると、フォーカシングスクリーンの周辺部はかなり暗くなってしまうので、一層わかりにくいという状態です。

 これは、フォーカシングスクリーンの四隅に付けられた切り欠きからレンズをのぞき込んで、ケラレていないかどうか確認することで防ぐことができます(切り欠きがついていないフォーカシングスクリーンもあります)。
 また、レンズの絞りが開放の時にケラレれていても、絞り込むことでケラレが解消する場合もあります。

 下の2枚の写真は、イメージサークルが174mm(F22)のレンズをカメラに取付け、フォーカシングスクリーンの右下の位置からレンズを見たものです。
 1枚目が絞りF5.6(開放)、2枚目が絞りF22の状態です。

 
 1枚目の写真(開放)ではケラレており、レモン型になっているのがわかると思います。これをF22まで絞り込むと5角形の絞りがきれいに見えており、ケラレが解消されています。
 十分に余裕のあるイメージサークルを持ったレンズであればほとんど気にする必要もありませんが、カメラの持っているアオリの可動範囲と同程度、もしくはそれ以下のイメージサークルのレンズであおる時は確認したほうが無難です。

レンズのイメージサークルが小さすぎることによる失敗

 そもそも、使用するレンズのイメージサークルが撮像面をカバーしていないことが原因です。
 これが起きる頻度はそれほど高くないと思いますが、69判くらいしかカバーしていないレンズを4×5判の撮影に使用してしまったというような場合です。
 この場合、アオリを使わなくても四隅が黒くなってしまいます。

 下の写真はまさにそのような失敗例です。

 
 また、カタログデータ上、4×5判をぎりぎりカバーするイメージサークルが記述されていても、この値は絞りF22の場合が一般的ですので、絞りを開くとやはりケラレてしまうことがあります。

 アオリのところでも書きましたが、同様にフォーカシングスクリーンの切り欠きから覗き込むことで確認することができます。

蛇腹でケラレる失敗

 蛇腹が内側に張り出してしまい、これが写り込んでしまうという失敗です。これが起きる原因は蛇腹固有の問題のような気がします。
 長年使っているうちに蛇腹がへたってきて、腰が弱くなって蛇腹自身の重さで垂れ下がってしまうと、フォーカシングスクリーンの上側に黒く写り込んでしまうということが起きます。

 また、蛇腹にはそれぞれ折りたたんだ時につく癖のようなものがあり、内側に膨らむような癖がついていると、やはり写り込んでしまう可能性があります。このようなクセのある蛇腹の場合は、レンズを取り付ける前に蛇腹の中に手を突っ込んで、内側から軽く押してあげることで防ぐことができます。
 しかし、このような状態は蛇腹についている癖なので放っておいても直ることはなく、毎回手を突っ込んで内側から押すのも面倒なので、蛇腹を交換する方が得策かと思います。

 下の写真は蛇腹が内側に膨らんでしまい、黒く写り込んでしまった例です。

 
 写真上部の黒い縁が下側に円弧を描いているのがわかると思います。これが蛇腹によるケラレです。

レンズフードでケラレる失敗

 大判カメラの場合、アオリを使うことがあるので35mm判カメラなどで使う筒状のレンズフードはほとんど使いません。アオリを使わなければ問題ありませんが、アオリを使ったときにこのレンズフードでケラレが生じてしまう可能性があることが使わない理由です。

 大判カメラ用に蛇腹式のフードもありますが使いにくいので、ハレ切りの方が簡単で確実です。

 下の写真はハレ切りを取り付けた状態です。

 
 黒い薄板や厚紙と自在に動くクリップがあれば十分に機能しますし、かさばらなくて便利です。私はカメラのアクセサリシューに取付けて使っています。

ベッドの写り込みによる失敗

 短焦点(広角、超広角)レンズを使ったときにおこりやすい失敗です。特に縦位置の撮影の際に起こる可能性が高いといえます。カメラにもよりますが、蛇腹を長く繰出せるカメラの方がベッド自体が長いため、このようなことが起こりやすく、例えば焦点距離65mmのレンズをつけた場合、リンホフマスターテヒニカ45ではベッドが写り込んでしまいますが、ウイスタ45SPだと写り込みが起きません。

 このベッドの写り込みはフォーカシングスクリーンの上側にボヤっと出るだけなので、気がつかないことがあります。特に夜景など、暗い状態での撮影の時には気づかずにシャッターを切ってしまうこともあります。
 せっかく苦労して撮っても、出来上がった写真を見たらベッドが写っていたなんてことが起きると、テンションダダ下がりです。
 このカメラでは〇〇mmより短い焦点のレンズではベッドが写り込む、ということを把握しておくと防止策の一つになります。

 残念ながら、掲載できるサンプルがありません。

ケーブルレリーズの写り込みによる失敗

 大判カメラの撮影にはケーブルレリーズが必需品ですが、これがレンズの前にびよ~んと飛び出してしまい、写り込んでしまうという失敗です。画の中に黒くボケた太い線が無遠慮に写っているのを見ると、ベッドの写り込みと同じくらい、テンションが下がります。

 構図を決めたりピントを合わせているときは、レリーズが飛び出していると気がつくのですが、ピントを合わせた後、シャッターをチャージしたりフィルムホルダーをセットしたりする間にレリーズが飛び出してしまったのを気づかずにいるとこのようなことが起きます。

 これはケアレスミスのようなものなので気をつければ防ぐことができますが、ケーブルレリーズを手元まで引き回した後、動かないように固定しておくのが望ましいと思います。
 私は三脚の雲台に配線止め金具を張り付けておき、ケーブルレリーズをここにはめ込むようにしています。

  
 このようにしておくとケーブルレリーズがブラブラすることがないので、レンズの前に飛び出してしまうのを防ぐとともに、レンズのレリーズをねじ込む部分がレリーズの重さで破損してしまうのを防ぐこともできます。

多重露光と未露光の失敗

 意図的に多重露光した場合を除き、撮影したにもかかわらず、同じフィルムで再度撮影してしまったという失敗が多重露光です。
 逆に、撮影したつもりで現像に出したら真っ黒なポジが戻ってきた、というのが未露光です。

 なぜこのようなことが起こるかというと、これも撮影時のケアレスミスによるところが大きいと思います。
 4×5判以上のシートフィルムはフィルムホルダーの両面に一枚ずつ入れておきますが、撮影前と撮影済みを引き蓋で判断するようにしています。一般的に引き蓋のラベルは片面が白、片面が黒になっており、例えば撮影前は白側を出しておき、撮影後は引き蓋をひっくり返して黒側を出して差し込む、というような使い方をします。
 しかし、撮影後に引き蓋をひっくり返すのを忘れてしまうことがあると、このような事態になってしまう可能性があります。

 
 大判カメラは今の一眼レフのようにEXIFデータを自動で記録してくれないので、一枚ごとに撮影記録を書きとめていきます。これによって、たとえ引き蓋をひっくり返すのを忘れてもこのような失敗を防ぐことができますが、撮影枚数が多いときなど、後になって引き蓋の状態と撮影記録が食い違っていても、どちらが正しいかわからなくなってしまうことがあります。
 撮影時の自分なりの手順が身についてくると、このような失敗は起きなくなりますが。 

フィルムホルダーからの光線漏れによる失敗

 これについて、私は実際に経験したことがないのですが、フィルムホルダーの引き蓋を引いた際に、引き蓋の差込口から光が入ってしまうということです。

 フィルムホルダーの引き蓋の差込口のところは、光が漏れないような加工が施されているのですが、ここから光が入ってしまうということは、ここがへたっているのではないかと思われます。
 このようなことが起きないように、シャッターを切る際は冠布をかけるという方もいらっしゃいますが、私は何もかけずにそのままシャッターを切っています。光が入り込んでしまうようであれば、フィルムホルダーを交換したほうが良いかもしれません。

露出設定の間違いによる失敗

 これは大判カメラに限った話ではありません。そもそも露出を読み間違えた、あるいは測光をミスったということが原因の場合と、測光は正しくできたが絞りやシャッター速度の設定を間違えたことが原因の場合が考えられます。

 絞りやシャッター速度の設定ミスは、測光したEV値からの換算で間違えてしまうということがいちばん多いのではないかと思います。例えば、EV10となるような絞りとシャッター速度の組合せは何通りもあるわけで、EV値から換算しようとして、1段分間違えてしまったというような状況です。露出計やEV値の換算表を用いることでこのような失敗は防ぐことができます。

 露出や測光については奥が深いので、これらは別の機会で触れたいと思います。

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 どんなに注意をしていても失敗はつきもので、全くなくすということはなかなか難しいのですが、大判カメラの場合、フィルムのコストもバカにならないので、極力、失敗をなくすよう、撮影は慎重に行ないたいものです。

(2021年6月12日)

#アオリ

檜原村 初夏の風景を大判カメラで撮る

 4月の後半、檜原村(東京都)に行ってきました。檜原村は都心から車で2時間ほどですが、東京都とはいえ、さすがに標高も高いので、都心よりも季節の進み方はずいぶん遅いようです。まさに新緑真っ盛りといった感じで、大判カメラで初夏の風景を撮ってみました。
 今回持ち出したカメラは、リンホフマスターテヒニカ2000です。

新緑と山桜のコラボレーション

 あきる野市を抜け、檜原街道を西(檜原都民の森方面)に行くと徐々に山深くなってきます。それでも道の両側には民家が見られますが、南郷の駐在所を過ぎたあたりから民家はめっきり減り、東京とは思えない豊かな自然が続きます。山々はまだ淡い色をしており、ところどころに桜(山桜と思われます)も咲いています。

 下の写真は走っている途中で見つけた山桜です。それほど大きな木ではありませんが、隣のオオモミジと思われる新緑とのコラボレーションがきれいだったので撮ってみました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON CM 105mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 この日は曇り空でしたが、強い日差しが当たっているよりは全体的に柔らかな描写になるので、このような被写体を撮るにはむいています。
 道路脇から撮っており、ワーキングディスタンスが制限されてしまうので、若干、広角寄り(105mm)のレンズでの撮影です。大きな木ではないので、あえて左右を切り詰めてみました。
 オオモミジの新緑の色が濁らないように、露出は少し明るめにしています。
 ほとんど無風状態でしたので、1/4秒の低速シャッターでもブレることなく写ってくれました。

矢沢を彩る新録

 檜原街道は南秋川に沿って走っていますが、この南秋川にはいくつもの支流が流れ込んでいます。矢沢もそんな支流の一つで、神奈川県との県境にある生藤山の山麓がその源流です。小さな沢ですが景観が美しく、被写体に富んでいます。矢沢に沿って林道があるのですが、残念ながら途中で通行止めになっていました。

 南秋川に合流する手前の橋の上から撮ったのが下の写真です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 水量は決して多くありませんが、とてもきれいな水が流れています。河原の白い石と木々の緑のコントラストが美しい景観をつくりだしています。
 渓谷の深さを表現しようと思い、川を左下に寄せ、急峻な右岸を多めに入れてみました。沢に張り出す左右の枝が重なりすぎないアングルから撮っています。

 また、全体をパンフォーカスにしたかったのでカメラのフロント部を少しだけ下にあおっていますが、左上の奥の木々は被写界深度を外れてしまっている感じです。

 この矢沢はこのような景観が上流まで続いているので、林道の通行止めが解除されたら源流まで行ってみたいと思っています。

山萌える

 この時期の檜原村は木々が芽吹いて間もない頃で、山全体が淡い色彩に覆われています。少し山の上の方に目をやると、緑というよりは「白緑(びゃくろく)」とか「薄萌葱(うすもえぎ)」といった名前がぴったりの色をしています。
 しかし、このような色は長くは続かず、日増しに濃くなっていきます。

 白緑というにふさわしい色合いをした景色に出会いました。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F32 1/4 PROVIA100F

 木によって色合いが微妙に異なり、何とも言えない美しさが作り出されています。所どころに桜が咲いており、淡い色を一層引き立てているように感じます。

 このような景観が広がっているので、どこを切り取るか非常に迷いますが、木々が最もこんもりと見えるアングルと、全体が単調なパターンにならないように所どころにアクセントとなるものが配置されるような構図を選びました。
 露出を切り詰めてしまうと、この淡い感じが消えてしまうし、露出をかけすぎると飛んでしまうし、非常に悩むところです。

 この色合い、ポジ原版をライトボックスで見ると息をのむ美しさですが、画面ではお伝え出来ないのが残念です。

ひっそりと佇む龍神の滝

 檜原村にはたくさんの滝がありますが、個人的に気に入っているのが「龍神の滝」です。檜原街道からすぐのところにあり、斜面に設けられた遊歩道を下っていくと容易に訪れることができます。
 落差が18mほどの滝で、かつてはかなりの水量があったようですが、いまはずいぶんと減ってしまい、一筋の糸のような滝です。

▲Linhof MasterTECHNIKA 2000 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 周囲は大きな木々でおおわれているため、昼間でも薄暗い状態です。時おり木漏れ日が差し込み、岩や水面に模様を描き出していたので、滝つぼのところだけを撮ってみました。
 昼なお薄暗いところにたたずむ雰囲気が壊れないよう、ごつごつした岩が黒くつぶれないぎりぎりのところまで露出を切り詰め、水が白く飛びすぎないようにしました。

 滝の全景を撮るには対岸からか、もしくは滝つぼから広角で見上げる構図になるかと思いますが、綺麗な滝なのでいろいろな撮り方ができると思います。
 水量は多くありませんが近づくと飛沫が飛んできますので、風の強い日などは要注意かも知れません。

 なお、この滝では滝行が行なわれ、それに訪れる人も多いらしいのですが、一度もお目にかかったことはありません。

 村域の9割以上が山林という檜原村ですが、それゆえにたくさんの自然に恵まれており、森林、渓谷、滝など、四季を通じていろいろな景色に出会うことができます。

(2021.6.4)

#檜原村 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #新緑

大判カメラのアオリ(6) バックティルト&バックスイング

 前回までフロント部のアオリについて説明してきましたが、今回はバック部のアオリについて触れていきたいと思います。
 ビューカメラはバック部も大きなアオリが使えますが、フィールドカメラ(テクニカルカメラ)ではフロントほど多彩な動きはできませんし、風景撮影においては使う頻度もフロント部のアオリに比べると多くありません。

フィールドカメラのバック部のアオリ動作

 フィールドカメラの場合、バック部のアオリとしては「ティルト」と「スイング」の2種類だけというのが多いと思います。ライズやフォール、シフトなどのアオリはできないのがほとんどです。
 アオリのかけ方もカメラによって異なり、例えばリンホフマスターテヒニカやホースマン45FAなどは、4本の軸で支えられたバック部を後方に引き出し、自由に動かすことができるという方式です。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45のバック部を引き出した状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 バックティルト&バックスイング

 カメラの上部と左右側面にあるロックネジを緩めるとバック部を引き出すことができます。4軸が独立して動くのでバック部全体がだらしなくグニャグニャしてしまいますが、ティルトやスイングを同時に行なうことができます。

 これに対してウイスタ45はティルトとスイングが別々に動作します。

▲WISTA 45SP バックティルト&バックスイング

 ティルトは本体側面下部にある大きなロックネジを緩めて、本体自体を前後に傾けて行ないます。
 また、スイングは本体下部にあるリリースレバーを押し込み、本体を左右に回転することで実現します。これに加えて、本体側面のダイヤルを回すことで微動スイングも可能になります。

 それぞれ一長一短があり、どちらが使い易いかは好みもあるかも知れませんが、ティルトとスイングを同時にかけたいときなどはリンホフ方式の方が自由度が高くて便利に感じます。

バック部のアオリはイメージサークルの影響を受けない

 フロント部のアオリのところでも触れたように、どんなにカメラのアオリ機能が大きくても、レンズのイメージサークル内に納めないとケラレが発生してしまいます。これは、レンズ(フロント部)を動かすことでイメージサークル自体が移動してしまうからです。
 しかし、バック部を動かしてもイメージサークルは動きませんし、また、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことはあり得ませんので、ケラレが起こることもありません(ただし、ビューカメラのようにライズやシフトができる場合は別です)。

 フロント部、およびバック部のアオリとイメージサークルの関係を下の図に表してみました。

 バック部を後方に引き出すということは、イメージサークルが大きくなる方向に移動することであり、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことがないのがお判りいただけると思います。
 フロント部のアオリをかけすぎるとイメージサークルの小さなレンズではケラレが発生してしまいますが、バック部のアオリの場合はその心配がありません。

シャイン・プルーフの法則も適用される

 フロント部のアオリのところで、ピント面を自由にコントロールするシャイン・プルーフの法則について説明しましたが、バック部でも同じようにこの法則が当てはまります。

 下の図はバックティルトによって、近景から遠景までピントを合わせることを説明しています。

 フロント部は固定したまま、バック部を傾けることで撮像面が移動しますので、被写体面、レンズ面、撮像面が一か所で交わるようにすればパンフォーカスの写真を撮ることができます。

バック部のアオリは被写体の形が変形する

 バック部のアオリとフロント部のアオリの大きな違いは、バック部のアオリでは「被写体の形が変形する」ということです。フロント部のアオリでは真四角なものは真四角のままですが、バック部でアオリをかけると真四角なものが台形になってしまいます。

 上の図でわかるように、例えばバック部の上部だけを引き出すバックティルトをかけた場合、バック部の上部がイメージサークルの大きな方向に移動することになります。このため、撮像面に投影される像も広がります。
 一方、バック部の下部は移動しませんので、投影される像の大きさは変化しません。
 この結果、例えば正方形や長方形の被写体であれば、上辺が長い台形となってフォーカシングスクリーンに写ります(投影像は上下反転しているので、写真は底辺が長い台形になります)。

 被写体が変形するということは本来であれば好ましいことではありませんが、物撮りなどで形を強調したいときなどは、あえてバック部のアオリを使って撮影することもあります。

バック部のアオリの効果(実例)

 では、実際にバック部のアオリを使うとどのような効果が得られるか、わかり易いように本を使って撮影してみました。

 下の写真は漫画本(酒のほそ道...私の愛読書です)を、約45度の角度でアオリを使わずに俯瞰撮影したものです。

▲ノーマル撮影(アオリなし)

 ピントは本のタイトルの「酒」という文字のあたりに置いています。当然、本の下の方(手前側)はピントが合いませんので大きくボケています。
 撮影データは下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F8
  シャッター速度 1/4

 同じアングルで、バックティルトをかけて撮影したのが下の写真です。

▲バックティルト使用

 全面にピントを合わせるため、カメラのバック部の上部を引き出しています。すなわち、バック部を後方に傾けた状態です。
 本の表紙の全面にピントが合っているのがわかると思います。バック部のアオリでもシャイン・プルーフの法則によってパンフォーカスの写真を撮ることができます。
 なお、撮影データは上と同じです。

 一方で、アオリをかけた写真の方が、本の下部が大きく写っていると思います。これがバック部のアオリによる被写体の変形です。バック部の上部を引き出したため、被写体と撮像面の距離が長くなり、その結果、撮像面に投影される像が大きくなることによる変形です。

フロント部のアオリとバック部のアオリの比較

 フロント部のアオリでは被写体の変形は起こらないと書きましたが、実際に同じ被写体を使ってその違いを比べてみました。

 モデルは沖縄の人気者のシーサーです。
 下の写真、1枚目はフロントスイングを使って撮影、2枚目の写真はバックスイングを使って撮影しています。

▲フロントスイング使用
▲バックスイング使用

 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F11
  シャッター速度 1/2

 二つのシーサーの大きさは同じですが、前後にずらして配置しているので後ろ(右側)のシーサーが小さく写っています。
 しかし、1枚目の写真に比べて、2枚目の写真の手前(左側)のシーサーが若干大きく写っているのがわかると思います。やはりバック部のアオリによる被写体の変形で、バックスイングでも同じような現象が起きます。

 このように、ピント面を移動させてパンフォーカスにしたり、逆にごく一部だけにピントを合わせたりということはフロント部、バック部のどちらのアオリでも同様にできますが、バック部のアオリでは被写体の変形というおまけがついてきますので、被写体や作画の意図によってどちらのアオリを使うか選択すればよいと思います。

バックティルトの作例

 実際に風景撮影でバックティルトを使って撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F32 1/4 Velvia100F

 満開の桜の木の下から遠景の山を撮影していますが、頭上にある桜にもピントを合わせたかったのでバックティルトを使っています。カメラのバック部の下部をいっぱいに引き出していますが、すぐ頭上にある桜にピントを持ってくるのはこれが限界でした。

 桜の花がかなり大きく写っているのはバックティルトによる影響です。

 ただし、このようなアオリを使った場合、ピント面は頭上の桜と遠景の山頂を結んだ面で、中景の低い位置にピントは合いません。上の写真では中景に何もないので気になりませんが、ここに木などがあるとこれが大きくボケてしまい、不自然に感じられる可能性があります。ピント面をどこに置くか、被写体の配置を考慮しながら決める必要があります。

 風景撮影でバック部のアオリを使う頻度は多くないと書きましたが、使い方によってはインパクトのある写真を撮ることができます。

(2021.5.19)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #ウイスタ45 #WISTA45

大判カメラのアオリ(5) フロントシフト

 フロント部のアオリの5回目はフロントシフトについてです。これは、レンズ主平面を左右に移動するアオリで、フロントライズを光軸まわりに90度回転させた動きになります。
 このアオリは物撮りでは良く使うのかもしれませんが、私のように主な被写体が風景という場合、使用する頻度は極めてまれです。

フロントシフトを使うケース

 前にも書いたように、風景撮影においてフロントシフトを使うことはほとんどありません。私の乏しい経験からすると、このアオリを使うのは以下のようなシチュエーションではないかと思います。

 (1) 物撮りなどの際に、横方向が縮んでしまうのを防ぐ目的で使用する
 (2) 鏡やショーウィンドウなどの撮影の際に、自分自身が写り込むのを防ぐ
 (3) フレーミングをした際、左右の端の方に余計なものが入ってしまうときにカメラ位置を動かさずにフレーミングから外す

 思いつく使い方はこのくらいですが、物撮りの専門の方はもっと違う使い方をしているかもしれません。
 実際にフロントシフトした状態が下の写真です。

フロントシフトをした状態 Linhof MasterTechnika 45

 リンホフマスターテヒニカ45の場合、シフトできる量は左右それぞれ40mmですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。写真でもわかるように、短焦点レンズの場合、蛇腹がタスキに当たってしまい、これ以上シフトすることができません。
 操作はロックネジを緩め、手で左右に移動させるという非常にシンプルなものです。

横方向が縮んでしまうのを防ぐ

 車の模型を使って、フロントシフトの効果を確認してみます。
 車を斜め前方から普通に撮影したのが下の写真です。

ノーマル撮影(アオリなし)

 これだけを見ていると特に違和感はないのですが、斜め前方から見ているために、車の全長が実際より短く、ずんぐりとした感じに写ってしまいます。これは、「フロントライズ」で触れた、ビルの上の方が小さく写ってしまうのと同じ現象です。

 これに対して、レンズを右にシフトして撮影したのが下の写真です。

フロントシフトのアオリ使用

 上の写真と比べると車の全長が少し伸びて、ずんぐりとしていたのが解消されているのがわかると思います。
 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F22
  シャッター速度 1s

 このように、物撮りでは形を補正することができますが、これを風景撮影の際に使うことはほとんどありません。並木や街並みは遠くに行くに従って小さくなっていくから遠近感が感じられるのであって、これがなくなってしまうと、平安時代の源氏物語絵巻に出てくるような遠近感のない描写になり、違和感を感じます。フロントライズは、縦にまっすぐなものはまっすぐに写したいということで使われることは多いですが、それと同じ理屈を横に適用する必要性は感じられないということでしょうか。

自分自身が写り込むのを防ぐ

 鏡やショーウィンドウなどを正面から撮ろうとすると、自分自身が写り込んでしまいます。斜めから撮れば自分自身の写り込みは防げますが、長方形の鏡やウィンドウが平行四辺形になってしまいます。
 正面から歪みのない形で、しかも自分自身が写らないようにといときにシフトアオリを使うことで実現することができます。とはいえ、私が撮影する被写体においては、ほとんど出番がありません。

左右の端の余計なものをフレーミングから外す

 三脚を構え、いざフレーミングしてみたが、左の端に余計なものが入っているのでもうちょっと右の方にフレーミングしたい、なんていうことはよくあると思います。カメラを右に振れば済むのですが、それだとカメラが回転運動することになり、フレーミングが微妙に変わってしまうことがあります。

 三脚ごと、少し右に移動させたいのですが、フィールドでは足場が悪くてカメラを移動させることができないとか、カメラマンがずらりと並んでいるようなところではカメラを動かすと隣の人の迷惑になるとか、移動できない、移動しにくいということがあります。そんなときにフロントシフトすることで救われることもあるかと思います。

 これはアオリというよりは、カメラを動かすのが面倒だからシフトで凌いでしまえという感じにも思えます。確かにアオリの効果を求めるものではありませんが、そんな使い方もできるということです。以前、別のページで、短焦点レンズを使うときにカメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐためにフロントライズを使うことがあると書きましたが、それと同じような使い方です。

フロントシフトの例...がありません

 実際に風景撮影でフロントシフトを使った作例を掲載できれば良いのですが、残念ながらそのような写真を持ち合わせておりません。シフトアオリを使って撮ることがあれば、あらためてご紹介したいと思います。

 フロント部での個々のアオリについては今回で終了で、次回はバック部のアオリについて触れたいと思います。

(2021.4.29)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

春のあきる野 龍珠院の桜、広徳寺の桜を大判カメラで撮る

 今年(2021年)は桜の開花がとても早く、平年に比べて10日ほど早いようです。
 あきる野市の桜の開花は都心に比べるとだいぶ遅いのですが、開花情報を見てみるとやはり今年は早くて、3月末には満開になっていました。
 ということで、あきる野にある古刹、龍珠院と広徳寺に桜を撮りに行ってきました。

乙津花の里にたたずむ龍珠院

 多摩川の支流の一つである南秋川に沿って走る檜原街道を西に向かい、檜原村に入る手前に「乙津」という地域があります。この一帯は春になると桜やミツバツツジをはじめとした様々な花があちこちで咲き、「乙津花の里」と呼ばれています。

 そんな乙津地域の北側高台にあるお寺が龍珠院です。臨済宗建長寺派のお寺で、600年の歴史があるそうです。花のお寺としても有名で、桜が満開時の風景はそれは見事です。

 下の写真は道路側からお寺の全景を写したものです。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON SWD65mm 1:5.6 F22 1/15 PROVIA100F

 今年は新型コロナ感染拡大防止のため、駐車場が閉鎖されていましたが、桜はいつも通り見事に咲いていました。
 ソメイヨシノが満開で、そこにミツバツツジ、ミツマタ、菜の花等が色どりを添えてくれています。お寺の参道の左側にあるソメイヨシノの大木が入るよう、広角レンズで全景を撮りました。しかし、そのままだと空が広く入りすぎてしまうので、頭上にある桜の枝を入れました。
 また、全体をパンフォーカスにしたかったので、カメラのバック部のアオリを使って頭上の桜がボケないようにしています。ソメイヨシノの白い花が濁らないよう、露出は紫色のミツバツツジを基準に設定しています。
 
 本堂に向かって右の方に回り込んで撮ったのが下の写真です。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F22 1/15 PROVIA100F

 2本のソメイヨシノがアーチをつくるように重なって見えるアングルから撮っています。下にミツバツツジを入れて、花に囲まれた本堂をイメージしました。
 桜の大きさを表現するため、できるだけ木に近づいて見上げるアングルにしています。

 この写真のさらに左の方には枝垂桜があるのですが、まだ三分咲きといったところでした。枝垂桜が満開になるとソメイヨシノとは違う、落ち着いた華やかさがあるのですが、その頃にはソメイヨシノが散ってしまうので、撮るタイミングは悩むところです。

 また、ミツバツツジも見ごろでとても綺麗でしたので撮ってみました。

龍珠院 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON T400mm 1:8 F11 1/60 PROVIA100F

 お寺の参道の入り口のところに咲いていたミツバツツジです。少し離れたところから焦点距離の長いレンズで撮っています。背景がボケ過ぎずに何が写っているかわかる程度の絞り設定にしてみました。背景を思い切りぼかす表現もありますが、それだとミツバツツジだけの写真になってしまうので、「花のお寺」ということがわかるようにしています。しかし、もう少しぼかしても良かったかなと、出来上がったポジを見て思いました。

 参道の両側にはお地蔵さまが並んでおり、お地蔵様がお花見をしているようなアングルも撮りたかったのですが、そのためには道路に三脚を立てなければならず、通る車やほかの方の迷惑になるので断念しました。

 この時期、本当にたくさんの花が咲いているお寺で、一日中いても撮りあきない場所です。

堂々とした風格のある広徳寺

 龍珠院から檜原街道を五日市方面に戻り、広徳寺に向かいました。
 広徳寺は山の北斜面に建つお寺で、総門の前には「臨済宗建長寺派」と書かれた立派な門柱が立っています。龍珠院と同じ宗派のようです。

 ここは龍珠院よりも桜が進んでおり、ソメイヨシノは満開の時期を少し過ぎていましたが、茅葺き屋根とのコラボが何とも良い風情でした。

広徳寺 Linhof MasterTehinika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 1/8 PROVIA100F

 このお寺は建物が立派なので、もう少し左の方の屋根も入れたかったのですが、画全体の締まりがなくなってしまう感じがしたため、狭い範囲の切り取りにしました。
 桜の花の中心が赤っぽくなってきており、明日には散り始めてしまいそうな感じでした。風の強い日であれば綺麗な花吹雪が見られたと思います。

 本堂の前には枝垂桜の巨木があるのですが、残念ながらまだほとんど咲いていませんでした。山の陰になっていてあまり日当たりが良くないからなのか、満開まではもうしばらくかかりそうです。

 「正眼閣」と書かれた額がかけられている重厚感あふれる山門の前にはオオシマザクラとも違うようですが、花の色が白い桜の木があります(下の写真)。

広徳寺 Linhof MasterTehinika 45 FUJINON CM105mm 1:5.6 F32 1/8 PROVIA100F

 青空にとてもよく映えていたので、桜を空に抜き、山門を入れて撮ってみました。山門は大きな杉の木の陰になっていたので、黒くつぶれてしまわないように若干露出をオーバー目にしましたが、かろうじて「正眼閣」という文字が読める感じです。
 山門の向こう側に立っている2本の木は銀杏で、秋の黄葉は素晴らしいそうです。

 また、総門から山門に向う参道脇にはたくさんのシャガがありましたが、開花はもう少し先のようです。

大悲願寺の桜はすでに散っていました

 広徳寺での撮影を終えて帰る途中、五日市線の武蔵増戸駅近くにある大悲願寺に立ち寄ってみましが、残念ながらここの桜はほとんど散っていました。
 
 あきる野は都心から車で1時間半ほどで行くことができますが、東京とは思えないくらい豊かな自然が残されています。桜の時期は短いですがこれから新緑の季節を迎え、山の色が日増しに濃くなっていきます。そんな新緑の季節にもぜひ訪れてみたいと思います。

 今回の写真はすべて大判カメラで撮りました。掲載するために画像の解像度を落としていますので、大判写真のすばらしさを伝えられなくて残念です。

(2021.4.10)

#あきる野 #龍珠院 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #PROVIA #花の撮影

フジノン 大判レンズ FUJINON T 400mm 1:8

 フジノンの大判カメラ用長焦点レンズです。富士フィルムからは、Tシリーズと呼ばれるテレフォトタイプのレンズが3種類(300mm、400mm、600mm)が販売されていましたが、そのうちのひとつです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ220mm(f22)
   最大包括角度    : 31度
   最大適用画面寸法  : 5×7
   レンズ構成枚数   : 5群5枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.1
   シャッター速度   : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ54mm
   フランジバック   : 252.4mm
   バックフォーカス  : 220.5mm
   全長        : 127.5mm
   重量        : 600g

FUJINON T 400mm 1:8

 このレンズを4×5判で使った場合の画角は、35mm判カメラに換算すると115~120mmくらいのレンズに相当します。
 フジノンTシリーズの特徴は、レンズ構成がテレフォトタイプになっているため、焦点距離に対してフランジバックが短いという点です。これにより、蛇腹を大きく繰出せないカメラでも使用することができます。概ね、300mmくらいの繰出しができきるカメラであれば、通常の撮影には支障がないと思われます。

 一方、その構造上、イメージサークルは小さくなってしまいます。同じフジノンのWシリーズであるW360mmというレンズのイメージサークルは485mmもあり、大四ッ切を楽々カバーする大きさがありますので、その違いは歴然としています。とはいえ、風景撮影には十分なイメージサークルです。
 また、レンズの重量も600gと、かなり重いです。特に前玉側が大きくて重いのに対して後玉側は小さいので、レンズを持った時にアンバランス感があります。カメラに取付けた際も、フロントティルトをしっかりロックしておかないとガクッと首を下に振ってしまいそうです。

 一般的に焦点距離が300mmを超えると、コンパクトタイプを除いてはシャッターもNo.3が使用されることが多いのですが、このレンズはNo.1なのでレンズボードからはみ出すようなこともなく、カメラによっては装着不可、というような問題も起きないと思います。

風景撮影にはぜひ欲しい焦点距離

 300mm~400mmの焦点距離のレンズは、風景撮影においてぜひとも携行したいレンズの1本です。広い風景の中の一部を切り取る、狭い画角による圧縮効果を出す、大きなボケを出すなど、長焦点レンズならではの作画ができるので、少々重いですがカメラバッグには入れておきたいレンズです。
 画角は35mm判カメラの120mmくらいのレンズなので、超望遠というほどではないと感じるかも知れませんが、あくまでも焦点距離は400mmなので、画角は同じといっても35mm判カメラ用120mm前後のレンズとは全く別物といった感じです。浅い被写界深度ですが、フォーカシングスクリーン上でピントがスーッと立ってくるのは長焦点ならではです。

 遠景であればある程度絞り込むことでパンフォーカスにできますし、近景や中景では浅い被写界深度を活かして主要の被写体を浮かび上がらせることができ、いろいろな応用の利くレンズであると思います。
 ただし、あまり近い被写体の撮影(マクロ撮影など)は蛇腹の限界があるので向いていません。

 このレンズを着けて4×5判で撮影する場合、約1km離れたところから東京タワーを望むと、ちょうどフィルムの短辺方向いっぱいに東京タワーが収まるという感じです。

 また、開放でF8と若干暗めですが、フォーカシングスクリーンの周辺部でも光の入射角度は比較的垂直に近いため、見にくくなるということもありません。これは、フィールドでピント合わせをする際にとても助かります。

FUJINON T 400mmで撮影した作例

 下の写真は、このレンズで桜と新緑を撮ったものです。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T 400mm 1:8 F45 1/4 Velvia100F

 いちばん手前にある新緑、その後ろにある満開の桜、さらにその後ろにある芽吹いて間もない淡い色の新緑、そして背後にある山の斜面の重なりを、狭い画角による圧縮効果で表現しました。手前の新緑と背後の山までの距離はかなり離れているので、F45まで絞り込んでいます。
 また、新緑の明るさを出すため、若干、露出を多めにしています。
 なお、アオリは使用していません。

 私が持っているレンズの中ではこれが最も長い焦点距離ですが、450mmや600mmというレンズも使ってみたいと思っています。しかし、カメラの蛇腹が追い付いていけないので、残念ながらこれまで実現していません。凸ボードを使用すれば何とか使えるようになりそうですが、嵩上げの大きなものが必要になりそうです。機会があれば自作してみようと考えています。

(2021.3.26)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

大判カメラのアオリ(4) フロントスイング

 今回はフロントスイングのアオリについてです。フロントティルトはレンズ主平面を前後に傾けましたが、スイングはレンズ主平面を左右に傾けるアオリになります。フロントティルトを光軸まわりにカメラを90度回転させた状態と考えるとわかり易いかもしれません。
 私の場合、フロントスイングはフロントティルトに比べると使用頻度は低めですが、風景撮影では重要なアオリの一つです。

フロントスイングはこんな時に使うことが多い

 フロントティルトはカメラの正面に広がっている面にピントを合わせたい時によく使いますが、フロントスイングはカメラの側面に広がっている面にピントを合わせたいときに使います。
 例えば、すぐ手前から先の方まで続いている並木を撮る場合や、通りに沿って続く家並みを撮る場合、あるいは築地塀のようなものを撮るときなど、全体をパンフォーカスにしたいときなどに使うことが多いです。

 実際にレンズをフロントスイングすると、下の写真のような状態になります。

フロントスイング Linhof MasterTechnika 2000

 テクニカルカメラの場合、スイングできる角度は30度前後が多いのではないかと思います。ちなみに、リンホフマスターテヒニカ2000も左右それぞれ30度ですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。テクニカルカメラなので正確な角度目盛りがついているわけではありません。おおよその感覚で角度をつけることになります。また、スイングさせるためのダイアルのようなものがあるわけではないので、微妙に角度をつけたいという場合も、手で行なわなければなりません。

シャインプルーフの法則もフロントティルトと同様

 フロントティルトのページでシャインプルーフの法則について触れましたが、こちらのアオリもフロントティルトに対して90度、回転しているだけで、基本的に振る舞いは同じです。
 なお、シャインプルーフの法則の詳細については下記のページをご覧ください。

   「大判カメラのアオリ(3) フロントティルト

 簡単に図を掲載しておきます。

 フロントティルトの場合は、撮像面、レンズ主平面、被写体面の交点がカメラの上か下になりましたが、フロントスイングではこの交点がカメラの右、もしくは左になります(上の図ではレンズを右にスイングしているので、交点もカメラの右側にきています)。

フロントスイングの効果

 実際にフロントスイングの効果を見ていただくために、車の模型を撮影してみました。
 カメラに対して車を斜めに配置し、フロントフェンダーのあたりにピントを置いています。下の写真の1枚目がアオリなし、2枚目がフロントスイングを使用して撮影しています。

ノーマル撮影(アオリなし)
フロントスイングを使用して撮影

 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り F8
  シャッター速度 1/15

 2枚目の写真では車のフロントからリアまでピントが合っているのがわかると思います。
 アオリの効果がわかり易いように、あまり絞り込まずに撮影していますので、車の向こう側(右サイド)にはピントが合っておらずボケています。これは絞り込むことで被写界深度を深くし、ピントを合わせることができます。

フロントスイングの例

 また、実際に風景撮影でフロントスイングを使った作例が下の写真です。

Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 東京都檜原村の払沢の滝です。
 手前右にある木と奥にある滝の両方にピントを合わせるため、レンズを右にスイングしています。この写真では、木の幹と滝を結ぶ面をピント面と想定しています。
 このため、この面から外れるところにある被写体にはピントが合いませんが、絞り込むことである程度カバーしています。例えば、手前右側の幹の奥にあたる辺りはピント面からずいぶん外れていますので、絞り込んでいますが被写界深度範囲からは外れています。

フロントスイングの注意点

 フロントスイングは手前から奥に向かって斜めに配置されているとき、この面にピントを合わせることができるのは上で説明したとおりですが、このピント面から外れている被写体が大きくボケてしまうと妙に違和感を感じることがあります。
 例えば、まっすぐに伸びた道路わきに植えられた街路樹並木を撮る場合、手前から奥までの木にピントを合わせることはできますが、道路にいる人や物がピント面から外れてしまいます。特にそれが近い位置にある場合、絞り込んでもピントが合わないことがあります。

 このような状態を解消するために、下のようないくつかの方法が考えられますので、その場の状況や撮影意図に合わせて使い分けることが必要です。

 (1)ピント面を並木と道路上の人や物の中間になる位置に移動し、双方を被写界深度内に入れる
 (2)ピントが合わない被写体をフレーミングから外す
 (3)撮影位置を変えてピント面に納まるようにする

 上の(1)を簡単な図にしておきます。

 これらはフロントティルトでも同じことが起きるわけですが、ティルトの場合、ピント面から外れるのが上方(例えば、目線より上の空間)、もしくは下方(例えば、地面より下)になり、ここには被写体がないことが多いので、そのような場合はあまり気になりません。

(2021.3.10)

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