大判カメラによるマクロ撮影(3) 撮影の手順

 前回、前々回で撮影時における露出補正と撮影倍率について説明しましたので、今回は実際に撮影する場合の手順などについて触れておきたいと思います。実際に近接撮影した例も掲載しておきます。

撮影倍率を決めて撮影する

 まず、先に撮影倍率を決めて、その大きさで撮影する場合の手順について説明します。手近なところに花瓶に差した梅がありましたので、これを撮影してみたいと思います。
 テーブルフォトのようになるので、あまり長い焦点距離のレンズは使わず、今回は105mのレンズで等倍(1倍)撮影をしてみます。機材等は以下の通りです。

  カメラ      リンホフマスターテヒニカ45
  レンズ      フジノン CM Wide 105mm 1:5.6
  フィルムホルダー ホースマン67用フィルムホルダー

 撮影倍率はフィルムの大きさに影響を受けないので、今回はブローニーフィルムを使います(なにしろ、フィルム代が高いので)。

 撮影手順はざっと下のようになります。

  (1) レンズの繰出し量を求める
  (2) レンズと被写体の距離を求める
  (3) (2)の計算結果に基づき、カメラと被写体の位置を決める
  (4) 微調整によりピントを合わせる
  (5) 露出補正値を計算する
  (6) 撮影

 それでは、順を追って説明していきます。

 (1) レンズの繰出し量を求める

 前回説明した、撮影倍率とレンズの焦点距離から、レンズの後側焦点と撮像面の距離を求める計算式にあてはめます。
 ここで、各記号は以下の通りです。

   f : レンズの焦点距離(今回は105mm)
   z : レンズの前側焦点から被写体までの距離 
   z’ : レンズの後側焦点から撮像面までの距離
   M : 撮影倍率(今回は1倍)

 レンズの後側焦点から撮像面までの距離z’は、

   z’ = f・M
     = 105 * 1
     = 105mm

 よって、この値にレンズの焦点距離の105mmを加算した210mmがレンズの繰出し量となりますので、その位置までカメラの蛇腹をススーッと伸ばします。このとき、メジャーがあると便利です。

 (2) レンズと被写体の距離を求める

 次に、レンズ前側焦点から被写体までの距離zを求める計算式にあてはめます。

   z = f/M
     = 105/1
     = 105mm

 よって、レンズ中心から被写体までの距離は、レンズの焦点距離の105mmを加えた210mmとなります。

 (3) (2)の計算結果に基づき、カメラと被写体の位置を決める

 カメラ、もしくは被写体を動かしてこの距離を保った位置関係にします(下図を参照)。

 このとき、カメラのフォーカシングスクリーンを覗くと、概ね、ピントが合っているはずです。もし、ピントが大きくずれている場合は、レンズ繰出し量が違っているか、被写体との距離が違っているかです(両方違っている場合もありますが)。
 ここで注意が必要なのは、ピントがずれているときに、カメラ側のフォーカシングノブでピント合わせをしないということです。これをやってしまうと撮影倍率がくるってしまいます。ですので、レンズの繰出し量を再確認し、また、被写体との距離を正しい位置関係になるようにカメラ、もしくは被写体を動かし、フォーカシングスクリーン上でピントが合っている状態にします。

 すでにお分かりと思いますが、等倍撮影の場合、被写体からレンズ中心までの距離と、レンズ中心から撮像面までの距離(レンズ繰出し量)が等しくなります。そして、被写体から撮像面までの距離が最短になるのが等倍撮影のときです。

 (4) 微調整によりピントを合わせる

 最終のピント合わせ(微調整)はカメラのフォーカシングノブを動かして行います。(3)で説明した位置関係が正しく設定されていれば、微調整の量はごくわずかです。
 この状態でフォーカシングスクリーンを見ると、被写体と同じ大きさに投影された像が写されているはずです。

 (5) 露出補正値を求める

 今回の撮影ではレンズの焦点距離の2倍まで繰出しているので、露出補正が必要になります。「大判カメラによるマクロ撮影(1)」で説明した露出補正倍数を求める計算式にあてはめます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2
          = (210/105) ^ 2
          = 4倍

 となり、この場合は4倍の露出補正が必要になります。
 すなわち、露出計で測光した値に対して、2段分、多く露光されるように露出値を決め、絞り、もしくはシャッター速度を設定します。

 (6) 撮影

 等倍撮影なので被写界深度は非常に浅くなります。絞りF8で撮影する場合、焦点深度は±0.24mm(許容錯乱円を0.03mmとする)、被写界深度はおよそ1.9mmとなります。つまり、ピントの合っている状態からレンズを前後いずれかに0.24mm動かすと、ピントの合っていた位置は被写界深度の範囲から外れてしまうことになります。

 実際に、上記の条件で撮影したのが下の写真です。

白梅(等倍撮影) Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F11 1/4 PROVIA100F

 花の大きさがわかるようにメジャーも一緒に写し込みました。ピントは花の中心付近の雄蕊に合わせています。

撮影倍率ごとの作例

 撮影倍率によってフィルム上ではどのような感じになるかというのを見ていただこうと思い、1/2倍、等倍、2倍で撮影した67判のポジ原版を掲載しておきます。
 被写体は山形県米沢市の民芸品である「お鷹ポッポ」です。いずれも鷹のくちばしのあたりにピントを合わせています。梅の写真同様、メジャーも写し込んでいます。

1/2倍撮影 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F8 1/8 PROVIA100F
等倍撮影 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F8 1/2 PROVIA100F
2倍撮影 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F8 1s PROVIA100F

 フィルム面(黒縁の内側)の大きさは、横69mm×縦56mmです。実際にフィルム上に写ったメジャーの目盛りを測定してみましたが、ほぼ正確に1/2倍、等倍、2倍になっていました。
 ちなみに、2倍の倍率での撮影時の露出補正倍数は9倍になります。

撮影範囲とレンズを決めて撮影する

 「厳密な撮影倍率は気にしないが、このレンズでこの範囲を写し込みたい」ということがあると思います。その場合の撮影手順について触れておきます。
 この場合、写し込みたい範囲の寸法、撮像面の寸法、使用するレンズの焦点距離から撮影倍率を計算します。例えば、以下のような条件のとき、

  写し込みたい範囲の横幅   200mm
  撮像面の横の長さ      69mm(67判を想定)
  レンズの焦点距離      105mm

 撮影倍率は、69/200 = 0.345倍 となります。
 これ以降は上の手順と同じになります。

 参考までに計算をしてみます。
 この倍率からレンズ後側焦点から撮像面までの距離は、

   z’ = f・M
     = 105 * 0.345
     = 36.2mm

 よって、レンズ中心から撮像面までの距離(レンズ繰出し量)は、36.2 + 105 = 141.2mm になります。

 また、レンズの前側焦点から被写体までの距離を求めると、

   z = f/M
     = 105/0.345
     = 305.3mm

 よって、レンズ中心から被写体までの距離は、305.3 + 105 = 410.3mm になります。

被写体までの距離と撮影範囲を決めて撮影する

 「この位置からこの範囲を写したい」というときに、どの焦点距離のレンズを使ったらよいかを知りたいということがあると思います。
 まず、写し込みたい範囲の寸法と撮像面の寸法から撮影倍率を計算します。例えば、以下のような条件のとき、

  写し込みたい範囲の横幅   200mm
  撮像面の横の長さ      69mm(67判を想定)
  被写体までの距離      500mm

 撮影倍率は、69/200 = 0.345倍 となります。
 また、「この位置」というのがレンズの前側焦点とすると、この値からレンズの焦点距離を計算すると、

   z = f/M より、
   f = z・M
     = 500*0.345
     = 172.5mm

 となります。

 計算結果にピッタリとした焦点距離のレンズはないと思いますので、最も近い値のレンズを使うことになります。この場合は180mmといったところでしょうか。
 よって、被写体から、500+180 = 680mm の位置にレンズの中心を置くことで、概ね、想定した範囲を撮影することができます。

 この時のレンズの後側焦点から撮像面までの距離も計算してみます。

   z’ = f・M
     = 180*0.345
     = 62.1mm

 よって、レンズの繰出し量は、180+62.1=242.1mmとなります。

 このように計算で求めることもできますが、せっかく計算してもぴったりとはまるレンズがないとなると、あくまでも目安程度ということになってしまいます。しかしながら、レンズ選択に迷うときには有効かもしれません。
 なお、もっと簡単にレンズを決めることができる方法があります。「プアマンズフレーム」なるものを使用することで、使用するレンズの焦点距離を選択することができますので、詳細は「我楽多箱」に入れてある下のページをご覧ください。

  「構図決めに便利なプアマンズフレームの作成

補足

 大判カメラでのマクロ撮影ということで、その手順について書いてきましたが、このやり方は35mm判や中判のマニュアル一眼レフカメラなどに接写リングやベローズをつけての撮影でも基本的に同じです。
 ただし、ヘリコイド型ではない通常の接写リングの場合、レンズ繰出し量は接写リングの組み合わせにより、段階的(不連続)になってしまいますので、ベローズに比べると自由度は制限されてしまいます。一般的には3個組になっているものが多いと思いますが、いちばん薄いのが1号、その倍の厚さがある2号、4倍の厚さがある3号の組合せとなっていますので、1号のリングの厚さを把握しておけば、その倍数で7通りの長さをつくることができます。
 ちなみに、PENTAX67用の接写リング1号の厚さは14mmですので、14mm刻みで98mmまでの組み合わせができます。

(2021年2月27日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラのアオリ(3) フロントティルト

 今回はフロントティルトのアオリについて触れたいと思います。レンズを前に傾けるフロントティルトダウンと、レンズを後ろに傾けるフロントティルトアップがあります。

フロントティルトはこんな時に使うことが多い

 フロントティルトは比較的、使用頻度の高いアオリだと思います。特に風景写真などでパンフォーカスに撮りたいという場合によく使用されます。例えば、すぐ目の前からお花畑が広がっており、その先に森があり、さらに遠くには山並みがある、というようなシチュエーションを想定すると、一般的な一眼レフカメラなどでは超広角レンズでも持ってこない限り、どんなに絞り込んでも近景から遠景までピントを合わせることは困難です。
 また、それほど雄大な景色でなくても、密集しているお花畑を撮る場合、超広角レンズでは広範囲が写りすぎるので長めのレンズを使うと、やはりピントの合う範囲は限られてしまいます。
 このようなときに大判カメラのフロントティルトアオリを使うことで、目いっぱい絞り込まなくてもパンフォーカスの写真を撮ることができます。

シャインプルーフの法則

 フロントティルトのアオリを使うためには、「シャインプルーフの法則」について理解しておく必要があるので、それについて簡単に触れておきます。オーストリアのシャインプルーフという方が発見したのでこの名がついているようです。「シャインフリューク」と記載されていることも多く、どちらが正しいのかよくわかりませんが、ここでは「シャインプルーフ」としておきます。

 シャインプルーフの法則は一言でいうと、「撮像面(フィルム面)とレンズ主平面の延長線がある1点で交わるとき、ピントの合う被写体面の延長線も同じ点で交わる」というものです。
 一般のカメラは撮像面とレンズ主平面は平行になっており、これらの延長線が交わることはありません(下図を参照)。

 このため、ピントの合う被写体面は撮像面やレンズ主平面と平行な一面のみです(被写界深度があるので前後に幅を持った範囲にピントが合っているように見えますが)。
 これに対して、レンズ主平面を前に傾けた時の状態が下の図です。

 レンズ主平面を前に傾ける(ティルトダウン)ことにより、撮像面とレンズ主平面の平行関係が崩れ、それぞれの延長線がある1点で交わります。この交点を通る延長線上がピントの合う面になります。上の図ではデフォルメしてありますが、近景の花、中景にある樹木、そして遠景の山並みにピントが合っている状態を示しています。
 もちろん、撮像面とレンズ主平面の交点を通る被写体面は無数にあるわけですが、ピントの合う面はレンズの繰出し量によって決まる一面だけです。

 また、近景から遠景までをピントの合うようにしても、被写界深度によってピントが合う範囲(奥行)を稼ぐ必要はあります。絞りを開くと被写界深度は浅くなりますので、上の図でいうと、被写界深度が浅くなると、いちばん手前の花や樹木の下の方がぼけてしまうということになります。

 (説明の便宜上、撮像面、レンズ主平面、被写体面が1点で交わるとしていますが、実際にはそれぞれが面なので、下の図のように1線上で交差することになります)

フロントティルトダウンの例

 大判カメラ(リンホフ・マスターテヒニカ)でフロントティルトダウンすると、下の写真のような状態になります。

 このカメラの場合、ティルトできる角度は前後それぞれ30度です。ただし、レンズの繰出し量によっては蛇腹やベッドの影響を受けるので、30度まで傾けることができない場合もあります。
 リンホフ・マスターテヒニカ45の紹介のページでも書きましたが、このカメラのフロントティルトはネジを緩めて手で動かす方式です。ごくわずかに傾けたい場合などは微妙な操作が必要です。

 実際にフロントティルトの効果を見ていただくために、テーブルフォトで試してみました。
 会津地方の民芸品である起上り小法師を一列に並べ、これを俯瞰気味に撮ったのが下の写真で、1枚目がアオリなしで撮ったもの、2枚目がフロントティルトダウンのアオリをかけて撮ったものです。

アオリなし(ノーマル撮影)
フロントティルトダウン使用

 いずれも、前から4つ目の起上り小法師にピントを合わせています。1枚目の写真は手前方4つ目の起上り小法師以外はすでにぼけていますが、2枚目の写真ではほぼ全部にピントが合っています。
 フロントティルトの効果がわかり易いようにあまり絞り込まずに撮影しています。撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F8
  シャッター速度 1/15

 また、実際に風景撮影でフロントティルトを使った作例が下の写真です。

白川郷合掌造り Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 白川郷で撮った合掌造りの写真ですが、すぐ目の前にある稲穂から、霧に煙ってますが遠景の山までパンフォーカスになるようにティルトダウンのアオリを使っています。
 この写真でのピント面は「手前の稲穂・石垣の上部・奥の合掌造りの屋根・樹木の先端・山の頂上」と想定しています。

 これからすると、石垣の下部や右側の合掌造りの屋根の先端などはピント面から外れることになります。このため、絞り込むことで被写界深度内に納めようとしていますが、やはり屋根の先端は若干ピントが甘いです。

フロントティルトの角度を計算する

 では、パンフォーカスの写真を撮るためにどれくらいのティルト角にしたらよいかを計算してみます。
 下の図に示すように、シャインプルーフの法則に基づき、三角関数で求めることができます。

 ここで、
  z  : 撮像面と被写体の距離
  z’ : レンズ主平面と撮像面の距離
  θ₁ : レンズのティルト角
  θ₂ : 被写体面と撮像面の角度
 になります。

 これらの間には以下のような関係式が成り立ちます。

  z’ = x tanθ₁
  z = x tanθ₂
 

  x  = z’/tanθ₁ = z/tanθ₂

 よって、

  θ₁ = tan⁻¹(tanθ₂・z’/z)

 または、

  θ₁ = tan⁻¹(z’/x)

 となります。

 例えば、レンズの光軸を水平から下に15度傾けて、撮像面から1.2m先の被写体面をパンフォーカスにする場合を想定します。この時のレンズの繰出し量を150mmとすると、

  z  = 1200
  z’ = 150
  θ₂ = 75

 となり、これらを上記の式にあてはめます。

  x = 1200/tan75
    = 321mm

  θ₁= tan⁻¹(tan75・150/1200)
    = 25°

 ということで、25度のフロントティルトをすればよいことがわかります。

 この計算は三角関数が入っているので暗算で行なうのは無理があり、また、厳密に計算したところでテクニカルカメラの場合、緻密な角度設定ができるわけでもないので、あくまでもティルト角の目安となるといった感じです。

 なお、レンズの繰出し量は被写体との距離が近いほど大きくなりますので、使用するレンズの焦点距離と撮影距離からレンズの繰出し量を計算で求める必要があります。これについては、下のページを参考にしてください。
  
  「大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

フロントティルトアップのアオリ

 ティルトダウンと反対に、レンズを後ろ側に傾けるアオリをティルトアップと言いますが、使用頻度はティルトダウンほど高くありません。
 アオリのふるまいはティルトダウンと基本的に同じですが、レンズ主平面の傾きがティルトダウンと反対になるため、ピント面が上側に来ます。すなわち、撮像面、レンズ主平面、ピント面の延長線の交点がカメラの上方に位置することになります。

 このアオリは、例えば、6月ごろに見ごろを迎える下り藤の藤棚を下から見上げるようなアングルで撮影する際に、藤棚の下面全体にピントを合わせたい時などに使うと効果的です。
 また、俯瞰撮影のアングル時にティルトアップをすると、パンフォーカスとは逆にごく一部だけにピントが合い、ミニチュア模型を撮影したような写真になります(この作例はWeb上にたくさんアップされていますので、そちらをご覧ください)。

 残念ながらどちらも手元に適当な作例がないのでご紹介できませんが、俯瞰状態でティルトアップした場合に、ごく一部にしかピントが合わないことがわかるサンプルが下の写真です。

フロントティルトアップ使用

 撮影データは上の2枚と同じです。ピントの合う面が極めて薄く、いちばん後ろの起上り小法師はボケてしまって何が写っているかわからないくらいです。窓際の自然光で撮影したため、右上に光が差し込んでしまったのはご愛嬌ということで...

 ボケを効果的に使った写真も素晴らしいですが、パンフォーカスの写真はそれはそれで見ていて気持ちの良いものです。アオリを使うことでそんな写真を撮れるのも、大判カメラの魅力の一つではないかと思います。

(2021.2.16)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラによるマクロ撮影(2) 撮影倍率

 前回は近接撮影の際にレンズを繰出すことによる露出補正について触れましたが、今回は撮影倍率について話を進めたいと思います。希望の倍率で撮影したい時のレンズの配置等についても触れておきます。

撮影倍率とは

 撮影倍率とは、被写体の大きさと、その被写体が撮像面(フィルム)に写った大きさの比率をいいます。例えば、直径20mmの1円硬貨が、撮像面上でも20mmに写っていれば撮影倍率は1倍(等倍)であり、撮像面上での大きさが10mmであれば撮影倍率は1/2倍ということになります。
 この撮影倍率は撮像面の大きさには関係ありませんので、35mmフィルムであろうと4×5フィルムであろうと、撮像面上で1円硬貨が20mmの大きさに写っていれば撮影倍率は等倍です(下図を参照)。

撮影倍率を計算で求める

 まず、レンズと光に関する基本的な特性として、以下の4点が挙げられます。

  1) ある一点から出たあらゆる光は、レンズを通過した後、一点に集まる
  2) 光軸と平行にレンズに入射した光は、レンズを通過した後、レンズの後側焦点を通る
  3) 前側焦点を通ってレンズに入射した光は、レンズを通過した後、光軸と平行に進む
  4) レンズの中心を通った光は直進する

 上の図で、それぞれの記号が示す意味は以下の通りです。

  F : レンズの前側焦点
  F’ : レンズの後側焦点
  H : レンズ中心 

  h : 被写体の高さ
  h’ : 撮像面上での被写体の高さ
  f  : レンズの焦点距離
  z : レンズの前側焦点から被写体までの距離 
  z’ : レンズの後側焦点から撮像面までの距離

 この図で、レンズ前側(図の左側)にある2つの黄色の三角形に注目すると、薄い黄色で塗られた大きな三角形(△ABF)と、濃い黄色で塗られた小さな三角形(△FHC)は相似形であることがわかります。

 また、
  辺BF = h  (薄い黄色の大きな三角形)
  辺HC = h’ (濃い黄色の小さな三角形)

 であることから、下の関係式が成り立ちます。

  h:h’ = z:f  ……… (1)

 次に、レンズ後側(図の右側)にある2つのオレンジ色の三角形に注目すると、薄いオレンジ色で塗られた大きな三角形(△C’F’H)と、濃いオレンジ色で塗られた小さな三角形(△F’A’B’)も相似形であることがわかります。

 上と同様に、
  辺C’H  = h  (薄いオレンジ色の大きな三角形)
  辺F’B’ = h’ (濃いオレンジ色の小さな三角形)

 であることから、下の関係式が成り立ちます。

  h:h’ = f:z’  ……… (2)

 hとh’の比率は、被写体の大きさと、撮像面上の被写体の大きさの比率となり、これが撮影倍率になります。
 撮影倍率をMとすると、Mは h’ / h となるので、下の関係式が成り立ちます。

  M = f/z  ……… (3)
  M = z’/f  ……… (4)

 これらのことから、撮影倍率は以下のように定義することができます。
  式(3)から、撮影倍率は、被写体からレンズの前側焦点までの距離と、レンズの焦点距離の比
  式(4)から、撮影倍率は、レンズの焦点距離と、レンズの後側焦点から撮像面までの距離の比

 これにより、所定の倍率で撮影したいときに、被写体からレンズまでの距離、レンズから撮像面までの距離を知ることができます。

 また、上の式は次のように書き換えることができます。

  z  = f/M   ……… (5)
  z’ = f・M   ……… (6)

  式(5)は、被写体からレンズの前側焦点までの距離は、レンズの焦点距離を撮影倍率で除した値
  式(6)は、レンズの後側焦点から撮像面までの距離は、レンズの焦点距離に撮影倍率を乗じた値
 ということを意味します。

 これにより、被写体からレンズまでの距離、およびレンズから撮像面までの距離がわかっているときに、撮影倍率を知ることができます。

 ここで注意が必要なのは、zは被写体からレンズの前側焦点までの距離なので、被写体からレンズ中心までの距離はzにレンズの焦点距離fを加算しなければなりません。
 同様に、z’はレンズ後側焦点から撮像面までの距離なので、レンズ中心から撮像面までの距離はz’にレンズの焦点距離fを加算しなければなりません。

撮影倍率によるレンズ位置の計算

 ここで例として、焦点距離100mmのレンズで1円硬貨(直径20mm)を2倍の大きさ(直径40m)で撮影したい時のレンズの配置を計算してみます。

 レンズの焦点距離 f = 100mm と、撮影倍率 M = 2倍 を式(5)にあてはめると、

  z = 100 / 2
   = 50mm

 となり、レンズの前側焦点の50mm前方に被写体を置けばよいことがわかります。これは、レンズ中心から150mmの位置になります。

 次に、撮像面の位置を計算するために、式(6)にあてはめると、

  z’ = 100 * 2
   = 200mm

 となり、レンズの後側焦点から200mm後方に撮像面を置けばよいことになります。これは、レンズの中心から300mmの位置になります。
 実際にカメラと被写体を配置してみると、下のような感じになります。
 (105mmのレンズが取り付けてありますが、撮影時のイメージを理解してもらうことが目的なので、焦点距離100mmのレンズということにしておいてください)

ピントが合って見える範囲は? 焦点深度と被写界深度

 ちなみに、この状態の焦点深度は極めて浅く、紙一枚ほどの厚さという感じです。実際にどれくらいの焦点深度があるか、計算をしてみます。
 焦点深度は下の式のように定義されています。

  焦点深度 = ± ε・F

 ここで、εは許容錯乱円、Fは絞り値になります。
 許容錯乱円を0.03mmとすると、絞りF8で撮影した場合の焦点深度は、

  焦点深度 = ±0.03 * 8
       = ±0.24mm

 となります。

 これを、焦点距離100mmのレンズを使ったこの撮影の場合の被写界深度に換算すると、およそ1.2mmとなりますので、ピント合わせは非常にシビアというほかありません。なお、許容錯乱円の値は、35mm判フィルムから四切程度に引き伸ばすことを前提に定義されていた値を用いています。
 被写界深度や焦点深度の詳細については別の機会にしたいと思います。

露出補正値を求める

 前回、露出補正値の求め方について触れましたが、上の例について露出補正値を計算してみます。上で求めた値を下の式にあてはめてみます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 レンズ繰出し量は、f + z’ = 300mm ですから、

   露出補正倍数 = (300 / 100) ^ 2
          = 9

 となり、9倍の露出補正が必要ということになります。これは、絞りF5.6の場合の実効f値が16.8になることを意味します。

大判カメラでの最大撮影倍率は?

 では、大判カメラを使った近接撮影で、最大撮影倍率はどれくらいまで可能なのか、算出してみたいと思います。
 リンホフマスターテヒニカ45の最大フランジバックは430mmです(私のカメラは蛇腹の都合でそこまで延びませんが)。式(4)から、レンズの焦点距離が短い方が撮影倍率が高くなることがわかりますので、私が持っているレンズの中で最も焦点距離の短い65mmのレンズを使うことを想定します。
 レンズの最大繰出し量の430mmからレンズの焦点距離の65mmを引くと、レンズの後側焦点から撮像面までの距離 z’ は365mmになります。
 これを、式(4)にあてはめると、

  M = z’/f
    = 365 / 65
    = 5.62

 となり、約5.6倍の倍率で撮影ができることになります。
 これは、直径20mmの1円硬貨が、撮像面では直径112mmの大きさで写ることになります。画質の低下や被写界深度の浅さはあるとしても、驚くべき近接撮影です。
 実際にこのような近接撮影のニーズがあることはほとんどないと思われますが、大判カメラによる近接撮影のポテンシャルについてはおわかりいただけるのではないかと思います。

 実際の撮影手順や撮影例については次回にしたいと思います。

(2021年2月11日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

フジノン 大判レンズ FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 フジノンの大判カメラ用レンズの最終モデルとなってしまったCM Wideシリーズのうちの1本です。CM WideシリーズはWシリーズの後継モデルで、105mmから450mmまで10本がラインナップされていました。

レンズの主な仕様

 フィルターワークを容易にするために105mm~250mmまではアタッチメントサイズが67mmに統一されていました。W105mmのフィルターサイズは46mmでしたので、それと比べると前枠が大きく広がっており、図体はずいぶん大きくなったように感じます。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ174mm(f22)
   最大包括角度    : 78度
   最大適用画面寸法  : 4×5
   レンズ構成枚数   : 5群6枚
   最小絞り      : 45
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ42mm
   フランジバック   : 103.4mm
   バックフォーカス  : 92.8mm
   全長        : 51.6mm
   重量        : 220g

 このレンズを4×5判で使った場合、画角は35mm判カメラでいうと30mmくらいのレンズに相当します。イメージサークルはΦ174mm(f22)で、W105mmのΦ162mmと比べると大きくなったとはいえ、シリーズの中では最も控えめな値です。
 前モデルのW105mmのイメージサークルはほとんど余裕がなく、4×5判で撮影する場合、フロントでのアオリは実質的に使えないという感じでしたが、こちらのレンズは若干の余裕があり、4×5判で横位置撮影の場合、フロントライズで約13mm、フロントシフトで約11mmが可能です。

富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ

 アタッチメントサイズが統一されたのは良いのですが、レンズボード面からレンズ先端までの長さ(高さ)にくらべて前枠径が大きいので、これが邪魔になってシャッター速度のリングが非常に回しにくくなってしまっていますし、刻印されたシャッター速度もとても見難くなってます(下の写真はレンズの下側から撮影したものなのでシャッター速度の目盛りが良く見えますが、レンズ上側からは非常に見難いです)。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 しかしながら、若干の使いにくさはあるものの、収差は全くと言ってよいほど感じられませんし、解像度も極めて高いレンズだと思います。
 富士フイルムのホームページにはフジノンの歴史エピソードとして次のように掲載されています。
 「1994年、FUJINONは大判カメラ用レンズの最新型となるCM FUJINONシリーズのラインナップ10本を完成させる。
1951年に、リリースされ始めたFUJINON大判カメラ用レンズは、40年の技術革新を経て完成を見たとも言える。それは、Professionalの求める”最高画質”の一つの到達点でもある。
今まで本連載でもとりあげたように、設計技術の進化があり、そして非球面レンズ、EDガラスレンズなどの新たな硝材の開発、コート技術の革新などが、絶え間なく繰り返されてきた。FUJINON大判カメラ用レンズの最終型に冠されたNamingは”CM”。それはCommercialを意味する。ProfessionalがProfessionalとしての報酬を得る業務、つまり”Commercial 写真の現場”で使用されるためのレンズ。」

 富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ、ということが感じられます。

CM Wide 105mmで撮影した作例

 上にも書いたようにイメージサークルは大きくないのであまり大きなアオリは使えませんが、ストレートに風景を写すには全く問題はありません。4×5判で使用すると対角画角が72度の広角レンズになりますが、風景を撮るには広すぎず、使い易い画角だと思います。アオリを使わなくても絞り込めば被写界深度は深くなりますし、絞りを開けば程よいボケも得られます。

 下の写真は、このレンズで冬の滝を撮ったものです。

魚止めの滝 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 手前の落ち葉もくっきりと写したかったので、F32まで絞り込み、わずかにフロントティルトのアオリをかけています。逆光での撮影ですがコントラストも良く出ていますし、画面の周辺部でも見事に解像していると思います。詳細はわかりませんが、CMシリーズになってレンズコーティング技術もかなり向上しているらしく(11層のコーティングがされているという話しもありますが、定かではありません)、その効果も大きいのかもしれません。

 この構図をもう少し離れたところから長めのレンズで撮ると、滝の力強さは増すと思うのですが広がりが希薄になってしまい、逆にもっと近づいてより広角で撮ると散漫になってしまうということで、ここではこのレンズの画角が最適という感じでした。

 手前の落ち葉のあたりを拡大したのが下の写真です。

魚止めの滝(部分拡大) Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 画面ではうまくお伝え出来ないのが残念ですが、濡れた落ち葉の質感なども見事にとらえられており、このレンズの描写力の高さがわかるのではないかと思います。

 このレンズに限ったことではありませんが、こういう素晴らしい描写をする大判レンズが生産終了になってしまったのはやはり寂しく思います。

(2021.2.2)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 35mm判カメラや中判カメラ用のレンズには「マクロレンズ」というカテゴリーがあり、ほとんどのメーカーから複数本のレンズが出ています。大判カメラ用にも近接用レンズがありますが、種類は少ないです。大判カメラでは蛇腹を繰出すことで、すべてのレンズがマクロレンズとして使えるといっても過言ではありません。
 もちろん、35mm判カメラや中判カメラのレンズでもベローズや接写リングをかませることで近接撮影ができますが、遠距離にピントが合わなくなってしまいます。

レンズの最短撮影距離

 マクロレンズの定義は明確に決まっていないようですが、被写体に近づいて撮影でき、概ね、1/2倍以上の倍率で撮影できるレンズを一般的にはマクロレンズと呼んでいるようです。
 これに対して、マクロの名がついていない普通のレンズは被写体に極端に近づくことはできず、最短撮影距離はレンズの焦点距離の10倍くらいのものが多いのではないかと思います。焦点距離が50mmのレンズであれば50cm前後、100mmのレンズであれば1m前後といった感じです。当然、撮影倍率も自ずと限界があります。

 一方、大判カメラはレンズの種類に関係なく、蛇腹の許す範囲までレンズを繰出すことができます。

  

 何故、一般のレンズが焦点距離の10倍くらいを最短撮影距離にしているかというと、多分、画質の低下が顕著にならない距離であることと、それくらいの距離までは露出補正をしなくても影響がないことが理由かと思われます。
 カメラのレンズは無限遠にピントを合わせた時がレンズと撮像面の距離が最短になり、より近くの被写体にピントを合わせるためにはレンズを繰出す必要があります。その結果、レンズと撮像面の距離が長くなり、撮像面に入る光の量が減少してしまうため、露出を多めにしなければならなくなります(下図を参照)。

 上の図のように、レンズと撮像面の距離が長くなればなるほど撮像面に入る光の量が減少するのがわかります。例えば、レンズと撮像面の距離が2倍になるとレンズからの光が描く円の直径も2倍になるため、この円の面積は4倍になります。すなわち、撮像面に入る光の量が1/4に減少してしまうことになります。したがって、適正露出にするためには露出を4倍にする必要があります(絞りで2段開く、もしくはシャッター速度を2段分遅くする)。

撮影距離とレンズ繰出し量の計算

 近い被写体にピントを合わせる際、レンズをどれだけ繰出さなければならないかを計算で求めることができます。
 レンズから被写体までの距離をa、レンズから撮像面までの距離をb、レンズの焦点距離をfとしたとき、これらの間には下のような式が成り立ちます。

  1/a + 1/b = 1/f

 手元に「フジノンCM Wide 105mm 1:5.6」という大判カメラ用のレンズがありますので、このレンズで焦点距離の10倍にあたる1050mmに位置する被写体を撮影することを想定してみます。
 上の式に、被写体までの距離 a=1050mm、レンズの焦点距離 f=105mmを当てはめてレンズと撮像面の距離 bを計算すると、

  1/b = 1/f - 1/a
     = 1/105 - 1/1050
     = 9/1050
 
 よって、b = 116.7mm となります。
 すなわち、無限遠にピントを合わせた状態(105mm)から11.7mm、繰出すことになります。

 では、実際にレンズがどれくらい繰出されるかということで、フジノンCM Wide 105mmのレンズで実測してみました。
 無限遠にピントを合わせた時のシャッター位置から撮像面までの長さは104mmでした。ここから、焦点距離の10倍となる1050mm先の被写体にピントを合わせ、同じようにシャッター位置から撮像面までの長さを測ったところ、115mmでした。すなわち、レンズの繰出し量は11mmということです。
 上の計算式で求めた値と若干の差がありますが、実測値の測定精度はあまり高くないと思われますので、以後は理論値を使って話を進めます。

レンズを繰出すことによる露出補正値を求める

 しかしながら、たとえ11.7mmと言えどもレンズから撮像面までの距離が長くなれば、撮像面に入る光の量が減少するのは上の図からも明らかです。では、実際にどれくらいの影響があるのかを計算してみます。

 レンズを繰出すことによる露出補正量は下の式で求められます。レンズ繰出し量とは撮像面からレンズまでの距離をいいます。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 この式に、レンズ繰出し量の116.7mmとレンズ焦点距離の105mmをあてはめてみます。

  露出補正倍数 = (116.7/105) ^ 2
         = 1.235

 となり、レンズを無限遠の状態からさらに11.7mm繰出すことで、1.235倍の露出補正が必要ということになります。

 1.235倍という補正量を絞り値にあてはめると、√1.235 = 1.111 ですので、

  5.6 * 1.111 = 6.222 となります。

 よって、フジノンCM Wide 105mm 開放f値5.6のレンズが、116.7mmまで繰出されることで実効f値が6.2になるということを意味します。これは、絞りでおよそ1/4段に相当します。

 また、レンズの焦点距離、有効径、そして開放f値には以下の関係式が成り立ちます。

  開放f値 = 焦点距離/有効径

 この式にフジノンCM Wide 105mm の値をあてはめてレンズの有効径を求めると、

  有効径 = 105mm/5.6
      = 18.75mm となります。

 この有効径で116.7mmまで繰出した場合の実効f値は、

  実効f値 = 116.7mm/18.75mm
       = 6.22

 となり、上で計算した値とほぼ同じになり、実態が正しいことがわかります。

 これらのことから、1/4段程度であれば露出補正を必要としない許容範囲内という判断がされ、一般的なレンズの最短撮影距離が焦点距離の10倍前後になっているのではないかと思われます。
 1/4段を大きいとみるか小さいとみるかは意見の分かれるところかもしれませんが、一般的な一眼レフカメラなどに備わっている露出補正は1/2ステップ、もしくは1/3ステップであり、これに比べて50~75%の値ですから、許容範囲と言っても差し支えないのではないかと思います。

 最近のカメラではレンズから入ってきた光を測定して露出を決めているので、レンズの実効f値が暗くなったところで何ら気にすることはありませんが、大判カメラなどのように自動露出計が内蔵されていない場合はそういうわけにいきません。上の検証結果から分かるように、レンズの焦点距離の10倍より遠い距離にある被写体を撮影する場合は特に補正なしで問題ありませんが、それより近い被写体を撮影する場合は、実際のレンズの繰出し量を測定して露出補正値を計算しなければならず、面倒であることは間違いありません。

 繰り返しになりますが近接撮影をする場合は、レンズ繰出し量と焦点距離を下の式に当てはめて、露出補正量を計算します。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 実際にレンズ繰出し量によってどの程度の露出補正が必要になるか、焦点距離105mmのレンズについて計算して表にしてみました。レンズ繰出し量は、レンズから撮像面までの距離になります。

 大判カメラ用のレンズはどれもがマクロレンズとして使用できますが、露出補正というひと手間を加えなければならないということです。
 前置きが長くなってしまいましたが、次回は撮影倍率と実際の撮影について触れたいと思います。

(2021年1月31日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #露出

大判カメラのアオリ(2) フロントフォール

 前回はフロントライズ(レンズを上に移動する)のアオリについて触れましたが、今回はレンズを下に移動する「フロントフォール」のアオリについてです。

ベッドダウンによるフロントフォール

 フロントフォールはフロントライズに比べて仕様頻度が少なく、それが理由かどうかわかりませんが、フィールドカメラには単一の操作ではフロントフォールができないカメラも見受けられます。
 代表的なフィールドカメラの一つであるトヨフィールドは、前枠(レンズ部)単独で下方に23mmの移動(フォール)ができますが、リンホフマスターテヒニカなどはニュートラルで前枠が最下部にありますので、フロントフォールするためにはベッドダウンをしたうえで、レンズ部を少し後ろに傾ける操作(フロントティルト)をしなければなりません。

 リンホフマスターテヒニカをフロントフォールした状態が下の写真です。

ベッドダウンによるフロントフォール (リンホフマスターテヒニカ45)

 ベッドダウンは本体との接合部分を支点に下に回転運動をしますので、下におろした角度と同じだけ、レンズを反対方向(後方)に傾けることで、レンズ面と撮像面(フィルム)の平行が保たれ、フロントフォールが実現します。
 ただし、リンホフマスターテヒニカ45のベッドダウンは15度と30度の二通りしかできませんので、現実的にはかなり自由度が制限されたアオリということになってしまいます。

ティルトによるフロントフォール

 そこで、もっと自由度の高いフォールをするために、ベッドダウンを使わずにレンズ部とバック部をそれぞれ傾ける(フロントティルト、バックティルト)ことでフロントフォールと同じ状態にすることができます。
 下の写真でもわかるように、カメラを下に傾けた角度と同じだけ、レンズ部とバック部を後方に傾けます。

フロント、およびバックティルトによるフロントフォール (リンホフマスターテヒニカ45)

 ベッドダウンする方法に比べて、カメラの可動範囲内であれば任意の角度で設定できるため、アオリの自由度は高くなります。

 さて、このアオリですが、フロントライズは見上げた時に上方が窄まってしまうのを修正するのに対し、見下ろした(俯瞰)ときに上方が広がってしまうのを修正するために用いるのが多いのではないかと思います。例えば、高いビルから隣のビルを撮影するとビルの下の方が窄まり、上の方が広がって写ってしまいますが、これを修正する場合などです。

フロントフォールの効果

 しかしながら、上でも書いたようにこのアオリを使う頻度は高くありません。実際にこのアオリを使って撮影した適当な事例が手元にないため、テーブルフォト的にスプレー缶を撮ってみました。
 下の写真が普通に上から俯瞰して撮影したもの、その下の写真が同じ位置からフロントフォールして撮影したものです。窓際の自然光で撮影したために2枚の写真の光の状態が違い、色合いが若干異なってますが気にしないでください。

▲アオリなしの俯瞰撮影

▲フロントフォールのアオリを使用した撮影

 フロントフォールすることで被写体とレンズ面、フィルム面がほぼ平行になりますので、スプレー缶の下から上までがほぼ同じ太さになってます。
 また、この写真ではよくわからないですが、俯瞰撮影した場合のピント面はスプレー缶を斜めに切る位置になりますが、フロントフォールした場合のピント面はスプレー缶の垂直面と平行になりますから、同じ絞りでもピントの合う範囲が広くなります。

 ブツ撮りなどで被写体の形が変わってしまうのを好まない場合には効果的かと思いますが、被写体が高層ビルの場合、上方が広がっていたほうがビルの高さが感じられるという見方もあるかもしれません。また、自然風景で俯瞰撮影する場合でも、上方が広がるのを修正しなければならない必要性を感じることはあまりありません。そういう意味でも私にとっては、このアオリを使うことは稀です。

 フロントライズでイメージサークルについて触れましたが、このアオリについても同様で、フォールできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。

(2021.1.24)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラのアオリ(1) フロントライズ

 大判カメラの特徴は大きな面積のフィルムで撮影できることですが、加えて様々なアオリを使うことができるというのも大きな特徴です。
 35mm判の一眼レフなどの一般的なカメラの多くはフィルム面とレンズ面が固定されていますが、大判カメラはこれらを自由に動かすことができる構造になっています。それによって、あえて光軸をずらすことで様々な撮影をすることが可能になるわけですが、これを総じてアオリと呼んでいます。

アオリに関するカメラ各部の名称

 大判カメラには大きく分けてスタジオなどで使われることが多いビューカメラと、フィールド撮影に適したテクニカルカメラ(フィールドカメラ)がありますが、ここではテクニカルカメラに焦点を絞って説明します。
 アオリの説明の前に、テクニカルカメラの各部の名称について触れておきます。下の写真はリンホフマスターテヒニカ45の写真と各部の名称です。アオリの説明に必要な部分のみを示しています。異なる名称を使われている方もいらっしゃるかと思いますが、そのあたりは大目に見てください。

大判カメラ(テクニカルカメラ)の各部の名称

 それでは、今回は「フロントライズ」のアオリについてです。

フロントライズとはこんなアオリ

 フロントライズとはレンズを上に移動させるアオリのことで、フィルムとレンズが平行の状態を保ったまま、フィルムとレンズの中心をずらします。
 実際にレンズをライズすると下の写真のような状態になります。

フロントライズした状態

 このアオリの目的ですが、例えばビルなどの高い建物を下から見上げる状態で撮影すると上が窄まって(すぼまって)写ってしまいますが、これを修正するときなどに使われることが多いのではないかと思います。
 何故、下から見上げた状態で写すと上が窄まってしまうのか、その理由について簡単に触れておきます。
 下の図でわかると思いますが、垂直に立ったものを斜めになった面に投影すると、高い位置のものほど間隔が狭まってしまいます。これが、上が窄まって写ってしまう原因です。

 これを防ぐにはレンズの光軸を水平に、すなわち、投影面(フィルム)を垂直に立ったビルなどと平行に保つ必要があります(下の図)。

 ただし、この状態だと上の方(高い位置)が投影面(フィルム)からはみ出してしまいます。
 そこで、平行を保ったまま、レンズだけを上に移動させると上の方も投影面に納まることになります(あくまでもライズ量に制約がないという前提に基づいてですが)。これがフロントライズのふるまいです。

 実際にライズできる量(レンズの移動量)はカメラによって異なりますが、テクニカルカメラの場合、一般的には50mm前後が多いようです。ちなみに、リンホフマスターテヒニカ45の場合は55mmです。
 また、カメラの可動範囲内であっても、レンズのイメージサークルを越えてしまうとケラレが発生してしまいますので注意が必要です。

イメージサークルについて

 ここで、イメージサークルについて簡単に触れておきます。
 イメージサークルとは、レンズに入ってきた光によって結像する円形の範囲のことで、この範囲内であれば鮮明な像が得られますが、この外側は暗くなってしまい結像しません。また、この鮮明に結像する範囲を、レンズ中心から見た時の角度を「包括角度」といいますが、これらの関係を下の図にしてみました。

 包括角度が大きければ当然イメージサークルも大きくなりますが、イメージサークルはレンズと撮像面(フィルム)との距離やレンズの絞りによって変化しますので、レンズの絞りをF22、無限遠にピントを合わせた時の円の直径で表現されることが一般的です。

 下の図はカメラをフロントライズした際のイメージサークルの状態を表したものです。

 アオリのないニュートラルな状態ではイメージサークルの中心に撮像面(フィルム)がありますが、レンズを移動させるとともにイメージサークルと撮像面の相対位置も移動します。イメージサークル内であれば問題ありませんが、この範囲を超えるとケラレが発生してしまいます。
 カメラが大きな可動範囲を持っていたとしても、レンズのイメージサークルが小さいと可動範囲を活かしきれません。ライズできる量はカメラの可動範囲内であり、かつレンズのイメージサークル内という制限を受けます。
 また、上の図からもわかるように、無限遠の時のイメージサークルが最も小さく、近接撮影になるほどレンズが繰出されるのでレンズとフィルムの距離が長くなり、イメージサークルは大きくなります。

 このように、フロントライズを制約する要因がいくつかありますので、それらを把握しておくことで様々な撮影のシチュエーションの際にも迷うことは避けられると思います。

フロントライズを使った作例

 実際にフロントライズを使用して撮影した例が下の写真です。1枚目がアオリなし、2枚目がフロントライズのアオリを使って撮ってます。

尻屋崎灯台 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 1/30 PROVIA100F
尻屋崎灯台 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F32 1/30 PROVIA100F フロントライズ

 2枚の撮影位置は若干違いますが、灯台までの距離はほぼ同じです。2枚目の写真は灯台が手前側に起き上がってきているような感じで、高さが強調できていると思います。
 ここで使用したレンズ(FUJINON W125mm)のイメージサークルは198mmで、ライズ可能量は約29mmですが、実際に使用したライズ量は23mmくらいです。 

蛇足ながら...

 前の方でも書いたように、このアオリは建築物などの撮影で使われることが多いと思いますが、風景撮影においても、例えば木をまっすぐに立たせたいとか、滝の上部を窄ませずに迫力を出したいとか、使用する場面は結構あります。
 ただし、広角や超広角レンズはイメージサークルが決して大きくないので、アオリの量も自ずと限界があります。
 また、フロントライズは使いすぎると不自然になることもあります。建築物の撮影での使用頻度が高いと触れましたが、高層ビルや五重塔などを比較的近い距離から撮影する場合とか、不動産の広告写真などで使用するというような目的があれば別ですが、一般の撮影でライズをかけすぎると頭でっかちに見えてしまい、かえって違和感を感じます。肉眼で見ても遠くにあるものは小さく見えるわけですから、あまり不自然にならない程度にかけるのが望ましいと思います。

 なお、私は超広角レンズを使う際に、カメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐ目的で若干のフロントライズをすることがありますが、これは本来のアオリの使い方ではありません。念のため、つけ加えておきます。

(2021.1.9)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラ用の袋型ピントグラスフード

 大判カメラでのピント合わせは、カメラ後部についているピントグラス(フォーカシングスクリーン)で行ないます。この時、ピントグラスを暗くしないと像が見にくいので、多くの場合、冠布(カンプ)を頭からすっぽりとかぶり、周囲からの光を遮断して行ないます。光を通さないように2枚の布を張り合わせた大き目な風呂敷のようなもので、単純がゆえに自由度が高くて便利ではありますが、特に夏場は暑くて大変です。
 カメラにもちょっとしたフードがついていますが、小さいので遮光効果は十分とは言えず、特に順光での撮影時には後方からもろに光が入り込んできますので、ほとんど役に立ちません。

 そこで、ピントグラス全体を覆うことのできる袋型のフードを作ってみました。

袋型ピントグラスフード(リンホフマスターテヒニカに取付け)

 光を通さない黒い布(今回はナップサックに使われるようなナイロン素材を使用)を、カメラがちょうど入るくらいの筒状(直径28cmくらい)にします。一方の端はゴムひもが通るように加工し、ここにゴムひもを通して少し絞っておきます。これをぎゅっと広げて、カメラに被せることになります。

袋型フード(カメラ取付側)

 もう一方の端は、55mm径のレンズ用の金属製フード(長さが20mmほど)を用意し、この外周に巻き付けます。こうすると全体がボールのような袋状になります。

袋型フードのルーペ取付け側(レンズフード使用)

 次に、このレンズフードにはめ込むルーペを作ります。私は55mm径のNo.3クローズアップレンズを使用しましたが、No.5とかを使えばルーペの倍率を高くすることができます。そして、クローズアップレンズの前側にステップアップリングをはめ込みます(私は55-67のステップアップリングを使用しました)。
 これを先ほどのレンズフードにはめ込めばルーペになるのですが、このままだと若干緩くてするっと抜けてしまいます。そのため、クローズアップレンズの外周にパーマセルテープを巻き、ちょうど入るくらいの太さにします。

フードにはめるルーペ(クローズアップレンズ+ステップアップリング)

 こうしてできたフードはこんな感じになります。

袋型フード

 これを大判カメラに取付ければ、ピントグラスに当たる光をほぼ遮断することができます。
 ルーペ(クローズアップレンズ)を外した状態だとピントグラス全体を見ることができるので構図の確認がし易く、また、ルーペをはめるとピントの確認がし易くなります。

 ただし、正確なピント合わせはこのフードを外して、倍率の高いルーペで行なう必要があると思います。

 なお、今回作成した袋型フードの長さは約20cmですが、私の場合、若干老眼が来ているために、これ以上短くするとぼやけてしまいます。ですので、このフードの長さは目の状態に合わせて、いちばん使い易い長さにするのが良いと思います。

 実際に使用した感想ですが、遮光に関しては合格点だと思います。冠布を使っても下側からの光が入りやすいのですが、このフードは全方位遮光してくれます。それと、広角レンズや超広角レンズを使った撮影の際、ピントグラス周辺ではとても像が見にくいのですが、この袋状フードだと斜めからピントグラスを覗き込むことができるので、像が見やすくなります。また、非常に軽いですし、折りたためば小さくなるので持ち運びにも便利です。
 一方、正確なピント合わせはこのフードを外して行なわなければなりません。その点、冠布は構図確認から正確なピント合わせまですべてこれをかぶった状態で出来ますので、やはり冠布に勝るものはないといったところでしょう。

 しかし、撮影状況によっては冠布を使っても漏れてくる光で像が見にくく、それが結構なストレスになったりもしますので、それを回避してくれるという点ではこのフードを使う価値があるように思います。着けたり外したりが面倒かも知れませんが、あると便利かもしれません。

 余談ですが、冠布は片面が黒、もう片面が赤とか銀色をしています。銀色の理由は日差しを反射して少しでも暑さを防ぐためらしいですが、赤い理由は、森の中でクマなどと間違えられて猟銃で撃たれないようにということのようです。私が使っている冠布は片面が銀色のタイプですが、銃で撃たれるのは怖いので赤いタイプに変えようかなと思ってます。

(2021.1.2)

#撮影小道具 #フレーミング #フード

シートフィルムをフィルムホルダーに装填する際のミス防止

 大判カメラで撮影する場合は、まずシートフィルムを専用のフィルムホルダーに装填しなければなりません。この装填の仕方についてはたくさんの方が投稿されていらっしゃいますので、そちらを見ていただいた方が良いと思います。ここでは装填時のミスを防ぐちょっとしたコツのようなものをご紹介します。

シートフィルム挿入時に発生しやすいミス

 シートフィルムを装填するのは真っ暗闇で行なわなければなりません。暗室がいちばん作業しやすいのですが、暗室がない場合はダークバッグやダークボックスの中で行なうことになります。私も家でフィルムの装填をおこなうときは暗室にこもりますが、撮影先でフィルムが不足した時は暗室がありませんので、ダークバッグを使います。ダークバッグは中が狭くて、決して作業性が良いとは言えませんが仕方ありません。

 シートフィルムの装填は慣れてしまえばどうってことないですが、慣れないうちはミスってしまうこともあります。多分、いちばん多いミスはフィルムホルダーの引き蓋用のスリットに入ってしまうことではないかと思います。フィルムの表裏を間違えるというミスも可能性としてはゼロではありませんが、右側から挿入する場合はフィルムについているノッチコードを右手前に来るように確認さえすれば、表裏が逆になることはまずありません。
 ということで、フィルムが正しくない位置に入ってしまうミスの防止について触れたいと思います。

フィルムホルダーの構造

 下の写真は4×5判フィルムホルダーの全景(写真左)と、ホルダーの引き蓋を引いた状態(写真右)です。

4×5判 フィルムホルダー

 ここにシートフィルムを1枚ずつ入れていくわけですが、挿入する箇所を拡大したのが下の写真です。

4×5判 フィルムホルダー

 引き蓋を引くとレールのようなものが2本あることがわかります。上側のレール(黄色の矢印)と下側のレール(赤色の矢印)です。上側のレールと下側のレールの間のスリット(溝)は引き蓋が通るところで、フィルムは下側のレールの下のスリットに入れなければなりません。
 ところが、引き蓋が通るスリットにフィルムが入ってしまうことがあります。そうなるとフィルムが浮いた状態になりますので、どんなにピントを合わせても実際に撮影するとピントがずれた写真になってしまいます。また、最悪の場合、撮影後に引き蓋を挿入するときに引き蓋でフィルムが押されて、フィルムが折れ曲がってしまうという事態になりかねません。

フィルムを正しい位置に入れるために

 フィルムが正しい位置に入った状態(写真左)と、引き蓋が通る溝に入ってしまった状態(写真右)が下の写真です。

4×5判 フィルムホルダー フィルムの挿入位置

 正しい位置に入ったかどうか確認するために、挿入後に指でこの2本のレールを触ってみるという方法があります。上側と下側のレール端が5mm程ずれていますので、2つのレールの端が確認できれば、フィルムが正しい位置に入っていることになります。
 また、もし引き蓋が通るスリットに入ってしまっている状態で引き蓋を閉めると、引き蓋の動きが重くなるので、注意しているとわかります。

 ですが、そもそも引き蓋が通るスリットに入らないようにするのが理想です。そのために、引き蓋を全部引き抜てしまうのではなく、下側のレールと同じくらいの位置まで開いた状態でフィルムを挿入することで、このミスを防ぐことができます(下の写真)。

4×5判 フィルムホルダー

 赤色の矢印が下側のレールの端で、これと同じくらいの位置で引き蓋を止めておきます。この状態だと、引き蓋が通るスリットに入れる方が至難の業です。
 真っ暗闇の中、手探りでこの状態にするのが難しい場合は、暗室やダークバックに入れる前にこの状態にしておきます。

 フィルムが正しい位置に入ると、フィルムの後端を指で軽く押すだけでスーッと入っていきます。もし、引っかかるような感触があったり動きが重いようであれば、正しくない場所に入っている可能性が高いので、再度入れ直しを行なった方が無難です。

 なお、フィルムホルダーを振り回したり強く振ったりすることなく、普通に扱っていれば引き蓋が勝手に抜けてしまうようなことは起こりませんが、もし心配な場合はマスキングテープとかパーマセルテープで止めておけば振り回しても安心です。

(2020.11.26)

#フィルムホルダー

八方ヶ原(栃木県)で紅葉と渓谷の撮影(後編)

 八方ヶ原での撮影の2日目です。風も少なく、穏やかな秋晴れが続いています。2日目はもう少し標高の高いところでの撮影です。

おしらじの滝

 まずは「おしらじの滝」からスタートです。矢板から塩原に抜ける八方道路(県道56号)をひたすら進むと、登り切ったあたりに駐車場があります。駐車場の脇から滝に下る登山道のような道がついていますので、ここを下っていきます。あちこちぬかるんでいて歩きやすいとは言えませんが、急なところには柵も設置されています。最近設置されたようで、遊歩道の整備を進めているのかもしれません。

 10分ほど下ると滝の正面に到着します。以前は滝つぼまで降りて行かれたようですが、現在は立ち入り禁止になっており、4~5人も立てばいっぱいになりそうな狭い観瀑台から見るしかありません。必然的に撮影のアングルもほぼ固定されてしまいます。
 水が枯れてしまって滝が消滅してしまうことも多いらしいのですが、この日はまずまずの水量が流れ落ちていました。

おしらじの滝  Linhof Mastertechnika 45 Schneider APO-Symmar 180mm 1:5.6
                     F22 6s PROVIA100F

 それにしても美しい滝です。豪快な音を立てて落ちる迫力のある滝も見事ですが、それとは対極にあるような優美な滝です。私が今までに見た中でも、3本の指に入るくらいの優美な滝ではないかと思います。吸い込まれるような深い色をした静かな滝つぼに滝が映り込んでおり、優美さを一層引き立てている感じです。陽が差し込むと滝つぼはターコイズブルーのような美しい色に輝くようですが、残念ながら早朝なので滝つぼには光が差し込んでおらず、奇跡の色を見ることはできませんでした。
 もう少し露光時間を長くして、水面に浮いている葉っぱの動く軌跡を写し込んだ方が良かったかもしれません。

 1時間ほど撮影をしていましたが、その間、訪れる人は一人もおらず、気兼ねなく撮影をすることができました。とても狭い場所なので、他に滝を見に来たり撮影しに来た方がいらっしゃると、三脚立ててゆっくり撮影というわけにはいきません。日中になると訪れる人も増えると思います。
 撮影を終えて駐車場に向かいますが、戻りは重い機材を担いで急な坂を上っていかなければならないので少々しんどいです。

鹿の股沢風景林で紅葉の撮影

 さて、次はスッカン沢に向かいます。この先、道路は下りになり、間もなく那須塩原市に入ります。紅葉真っ盛りといった感じで、ハッと目を引くような黄紅葉があちこちにあります。このあたり一帯は、「鹿の股沢風景林」と呼ばれており、美しい落葉樹の林が続いています。ちょっと寄り道して、この風景林の中で撮影していくことにしました。林の中に分け入っていくと、車道からでは見ることのできない発見があります。
 下の写真は林の中で偶然見つけた紅葉です。ハウチワカエデではないかと思われます。周囲はすでに落葉している木が多く、そのため、紅葉がひときわ輝いている感じです。

ハウチワカエデ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/8 Velvia50

 写真でもわかると思いますが、この林の中に入るとこのような感じでたくさんの木があって見通しがききません。撮影をしているうちに方角がわからなくなり、どちらを向いても同じような景色で迷ってしまうこともありますので、出口までの目印を決めておいたほうが無難です。
 この風景林、初めて入り込んでみましたが、とても魅力的な場所です。新緑の季節もさぞかし美しいのではないかと思います。

スッカン沢 遊歩道修復工事中

 スッカン沢も紅葉の最盛期でしたが、昨年(令和元年)の台風19号で被害を受けた遊歩道の改修工事中のため、沢に降りることができません(現在は解除されているようです)。スッカン沢には「雄飛の滝」や「仁三郎の滝」など、見ごたえのある滝がたくさんあるのですが残念です。
 せっかくなので沢を見下ろす雄飛橋から1枚撮影してみました。まだ沢に陽が回り込んできていないので、若干色かぶりしていますが、右端の紅一点のモミジがとても映えていると思います。

スッカン沢  Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6
                    F32 4s PROVIA100F

 スッカン沢を下りながら撮影する予定でしたが工事中のためそういうわけにもいかず、予定を変更してもう少し那須塩原方面に向かうことにしました。下調べをしっかりしておかないとだめですね。

カエデの紅葉が真っ盛り

 県道56号線は塩原方面に向けて上りになります。スッカン沢から北寄りの山は紅い色(紅葉)が多いように感じます。紅葉はどれも美しいですが、やはり何といってもカエデの紅葉は第一級だと思います。カエデの紅葉を見つけるとシャッターを切りたくなってしまいます。
 下の写真はヤマモミジかオオモミジのどちらかではないかと思うのですが、炎のような色が印象的で撮った一枚です。

ヤマモミジ  PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F8 1/60 Velvia50

 こういった光景は晴れた日でなければ撮れませんが、個人的には燃え立つような紅葉よりも、どちらかというとしっとりとした紅葉のほうが好きです。しかし、紅葉と青空の組み合わせは何とも言えない爽快感がありますし、何といっても秋の清々しい空気を感じます。

 今回掲載した写真のうち、2枚目と4枚目はVelvia50で撮影したものです。やはり、このフィルムの発色には派手さがあります。この派手さも、鮮やかな紅葉を写し取るには向いているのかもしれません。

 北関東以北の紅葉の時期はほぼ終わってしまいましたが、東京近郊の紅葉はこれからです。寒い地方の紅葉と比べると東京のそれは鮮やかさでとてもかないませんが、美しい紅葉に出会えることを期待したいです。
 

(2020.11.21)

#八方ヶ原 #渓流渓谷 #紅葉 #リバーサルフィルム