大判カメラ タチハラフィルスタンド45 Fiel Stand 45 の蛇腹交換

 現在、私が使っている大判カメラのうち、唯一の木製カメラであるタチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は蛇腹がだいぶくたびれてきていて腰が弱くなっており、蛇腹を伸ばすと自身の重みで下側に垂れ下がってしまいます。しかも、ピンホールの補修箇所が何ヵ所もあります。光線漏れしているわけではないので使えないことはありませんが、蛇腹の締まりがないのは見てくれも良くありません。
 そこで、思い切って蛇腹を交換することにしました。

古い蛇腹の取外し

 タチハラフィルスタンドの蛇腹は、カメラのフロント部(レンズスタンダード)の裏側と、バック部の内側に直接接着されています。金属製のフィールドカメラなどのように何らかの金具を用いているわけではなく直付けです。このため、蛇腹はベりべりと引っ剥がす感じになります。
 フロント部、バック部のどちらから剝がしても問題はありませんが、フィルスタンドのフロント部は可動範囲が大きいので、フロント部を先に剥がした方が作業がし易いです。

 しかし、口で言うほど簡単には剥がれてくれず、蛇腹の端の方から少しずつ捲りあげ、ゆっくりと剥がしていくことになります。
 それでも長年の使用でへたってきている蛇腹は簡単に破れてしまい、フロント部の裏側に接着剤とともに残ってしまいますが、後で綺麗にするとして、まずはフロント側を全部剥ぎ取ってしまいます。

 フロント側を外した状態がこちらです。

 次にバック側ですが、こちらは木枠の底に貼り付けてあるような状態なので作業はしにくいですが、フロント部が外れているので蛇腹を畳んだ状態で隅のところから持ち上げていくと何とか剥がれていきます。
 取り外した蛇腹は使い道もなく廃棄ですが、こんな感じです。

 写真でもわかるように、合成ゴム系の接着剤が使われています。

 蛇腹を外したフィルスタンドはなんだかとても頼りなげな感じになってしまいます。

 次に、蛇腹が貼りついていたところに接着剤や破れた蛇腹の残骸があるので、これを綺麗にしていきます。
 カメラの素材が木なので、ドライバーの先やヘラなどの固いもので擦ると木が削れてしまう可能性があります。面倒ですが、ピンセットなどを使って残った接着剤をコツコツと取り除いていきます。剝がれにくい場合はドライヤーなどで温めると接着剤が柔らくなって剥がしやすくなります。

 こうして綺麗になったのが下の写真です。

 内側の縁が黒くなっているのは接着剤ではなく、黒い塗料が塗られていた名残です。

 バック部の内側も綺麗になりました。

新しい蛇腹の調達

 さて、新しい蛇腹ですが、いろいろと悩んだ末、今回は特注で作成していただきました。
 既製品を探してみたところ、耐久性に優れた本革製の蛇腹は非常に高額なのと、注文を受けてから作る受注生産品なので納期が2か月近くかかってしまうとのことで断念しました。私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは本革製の蛇腹を使用しているのですが、フィルスタンドはリンホフに比べると使用頻度が低いので本革製でなくてもいいだろうという自分なりの妥協です。
 また、ビニールのような素材のものあり、価格は安いのですが耐久性が心配で、こちらも候補から外しました。

 結局のところ、いろいろな蛇腹を専門に作っている会社に特注でお願いすることにしました。素材はウレタン系とのことで、耐久性も本革製に比べて劣ることはないだろうとのことでした。価格も本革製に比べると半額ほどで、納期も2週間ほどとのことでした。
 発注に際して指定した寸法等は以下の通りです。

  ・フロント側 : 外寸 112mm x 112mm、内寸 86㎜ x 86mm
  ・バック部  : 外寸 152mm x 152mm、内寸 126mm x 126mm
  ・縮長  : 45mm以下
  ・伸長  : 320mm
  ・山数  : 17(両端を除く)

 また、蛇腹の前後両端は合成ゴム系の接着剤で貼り付ける旨も伝えておきました。

 こうして届いた新しい蛇腹がこちらです。

 適度な厚みが感じられますが、本革性に比べるとたぶん軽いのではないかと思います。また、両端は接着剤がなじみやすいように布のような素材が貼り付けてありました。
 腰がしっかりしていて、両端に指をかけて持ち上げても重みで垂れ下がるようなこともありません。

新しい蛇腹の取り付け

 いよいよ新しい蛇腹の取り付けですが、手順としては外した時と反対、すなわち、バック部への取り付けを先に行ない、次にフロント部を取付けるという順番です。

 まずはバック部への取り付けですが、接着剤がはみ出して蛇腹どうしがくっついてしまわないように、一つ目の山の内側に保護用の紙を差し込んでおきます。

 上の写真だとわかり難いかもしれませんが、画用紙程度の厚さの紙を幅4cmほどに切り、これを蛇腹の内側に差し込んで紙どうしを糊付けしておきます。これで、もし接着剤が内側に流れ出ても、蛇腹の山と山がくっつかずに済みます。

 次に、蛇腹の位置が中央に来るように、バック部の木枠の内側に蛇腹のコーナーの位置をマーキングしておきます。
 そして、このマーキングした木枠の内側と、蛇腹の接着面に接着剤を塗布します。両方に薄く均一に塗った後、少し時間をおいてさらにもう一回塗布し、その状態で蛇腹をバック部の木枠内マーキング位置に貼り付けます。
 この時、カメラを後方に倒して、蛇腹を上から木枠内に落とす要領でやると作業がし易いです。

 この状態で蛇腹を上からぎゅっと押し付けます。すぐにくっつきますが、念のため5分ほど押さえておき、その後、蛇腹の上に重し(私は単行本を使いました)を載せて半日ほど放置しておきます。

 バック部を貼り付けた状態が下の写真です。

 次にフロント部への貼り付けですが、蛇腹のバック部が固定されているので作業がしにくいところがあります。貼り付け位置をバック部のようにマーキングだけではおぼつかないので、フロント部の裏側にマスキングテープを貼って位置がずれないようにします。
 このマスキングテープの内側と、蛇腹のフロント側接着面に接着剤を塗布して接着します。バック部と同様、2回の塗布を行ないました。
 フロント部は重しを載せて固定というわけにはいかないので、接着後は下の写真のようにクリップで挟んでおきます。

 蛇腹の角の部分はクリップで挟めないので、浮いてしまわないようにヘラなどを押し当ててしっかり接着しておきます。
 この状態でおよそ半日経てば、蛇腹はしっかりと接着されます。

 こうして新しい蛇腹になったタチハラフィルスタンドがこちらです。

 蛇腹の腰もしっかりしており、なんだか新しいカメラになったようです。
 接着面も確認してみましたが、浮いているような様子もなく、少々引っ張っても全く問題ありませんでした。
 また、暗室内にカメラを持ち込み、内部にLEDライトを入れてみましたが、光線漏れは確認できませんでした。
 今回、蛇腹の伸長を320mmにしてもらいました。このカメラのレールは約300mmまでしか繰り出せないのですが、蛇腹に約20mmの余裕を持たせることで蛇腹が伸び切ってしまわないようにという理由からです。

 蛇腹交換後、実際の撮影は行なっていませんが、たぶん、問題になるようなことはないと思われます。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 タチハラフィルスタンドの使用頻度はあまり高くないとはいえ、くたびれた蛇腹のままにしておくことがずっと気になっていたのですが、やっと気持ちもすっきりし、気兼ねなく撮影に使えるようになりました。
 これまでウレタン系素材の蛇腹というものを使ったことがなく、今回初めての試みですが、耐久性については最低でも4~5年は使ってみないとわからないと思います。4~5年でヘタるようなことはないと思いますが、使用感など、気がついたことがあればあらためてレポートしてみたいと思います。

(2024.9.25)

#タチハラフィルスタンド #FielStand

EPSON エプソンのフラットベッドスキャナ GT-X970 の原稿台ガラス清掃

 私は撮影した写真(フィルム)をWebページに掲載したり自分でプリントする際に、EPSON エプソンのフラットベッドスキャナ GT-X970 を使用しています。このスキャナの発売は2007年なので、すでに発売から17年も経過しており、私が購入してからも15年近くは経っていると思われます。すでに現行機種ではありませんが今のところ順調に稼働してくれています。
 しかし、長年使っていると原稿台のガラスの内側が徐々に曇ってきます。だいぶ以前(たぶん、6~7年前)に一度、清掃をしているのですが、最近、クモリが気になりだしていました。ガラスのクモリがスキャンにどの程度の悪影響を及ぼしているのかわかりませんが、それよりも白っぽくなったガラスが気になって精神衛生上もよろしくありません。
 ということで、原稿台ガラスの内側の清掃(クモリ除去)を行ないました。

原稿台(ガラス)の取外し

 このスキャナは本体の上に原稿カバーが乗っている構造ですが、原稿台のガラスを清掃するためには、本体の上面についている原稿台を取り外す必要があります。

 まず、スキャナにつながっているすべてのケーブル(電源ケーブル、USBケーブル、原稿カバーとの接続ケーブル)を外し、原稿カバーを90度開いた状態で上に引っ張り上げると、原稿カバーのヒンジごと取り外すことができます。ヒンジは本体の穴に差し込んであるだけで、何ら固定はされていません。

 次に、原稿台を固定している4本のネジを外します。ネジは原稿台の四隅にあります。

 上の写真で赤い矢印のところにあるのが原稿台を固定しているネジの場所ですが、キャップのようなものがはめ込まれていて、ネジはこの下に隠れています。

 このキャップは押し込まれているだけなので、先の細いドライバーのようなものを差し込んでこじれば取れますが、そうすると原稿台にもキャップにも、もれなく傷がついてしまいます。傷がついても機能や性能には影響ありませんが、見てくれが良くありません。
 そこで、グルーガンを使ってこのキャップを取り外します。

 まず、キャップの上にグルーガンでグルースティックを盛ります。

 キャップの直径は1cmほどなので、ここからはみ出さないようにグルースティックを盛り、固まるまで1~2分待ちます。
 そして、グルースティックが固まったらこれをペンチなどでつかんで、上に引っ張り上げます。すると、スポッとキャップがとれます。

 キャップがとれた中には原稿台を固定しているネジの頭が見えるので、このネジを外します。
 なお、キャップに盛ったグルースティックはペンチなどでこじれば跡も残ることなく、きれいに取ることができます。

 4本のネジをすべて外せば原稿台を取り外すことができますが、原稿台の裏側の本体前側には爪のようなものがあり、これが本体に引っかかっているので、本体後ろ側から持ち上げると簡単に外すことができます。
 取り外した原稿台はこんな感じです(裏側)。

原稿台ガラス内側の清掃(クモリ除去)

 上の写真ではよくわかりませんが、ガラスの内側がまんべんなく薄っすらと曇っています。
 わかりやすいように、ガラスの背後からLEDライトをあててみました。ガラス全面が曇っている様子がよくわかります。

 LEDライトの光がガラス面で乱反射して青白くなっています。光が照射されている中央部付近が黒く見えるのはクモリを拭き取った場所です。
 また、白い点々は付着しているホコリです。
 余談ですが、このようにガラスの内側が曇るのは、クモリの原因となる物質がスキャナ内部から放出されているのではないかと思っています。もちろん何の確証もありませんが、ガラスの外側の面はそれほど曇らないのでそんな気がしています。

 このガラスを綺麗に清掃するだけの簡単な作業ですが、面積が広いので結構時間がかかります。今回はレンズクリーナーを使ってクモリの除去を行ないました。
 クモリを取り除くのはすぐにできるのですが、拭き跡が残らないようにするのが大変で、LEDライトをあてて確認しながらせっせと拭いていきます。あまりゴシゴシと拭きすぎると静電気が生じるのか、空気中を漂っている微細なホコリがガラスに付着してしまい、これを拭き取ろうとするとさらにホコリが付着するという悪循環です。ブロアでシュッとやっても取れません。

 そこで、拭き跡がなくなったところで、刷毛でホコリを取り除きます。
 使用したのはHAKUBA製の刷毛です。

 これは髪の毛よりも細いと思われるポリエチレン製の毛がびっしりと束ねられていて、静電気の力でホコリを刷毛の中に吸い取ってくれるという優れものです。
 これを使って清掃を完了した原稿台がこちらです。

 ホコリを完全に取り除くことはできませんが、LEDライトをあてても以前のようにガラス面で乱反射することなく、光が透過しているのがわかります。やはりガラスはこうでなくっちゃという感じになりました。

 あとは、きれいになったガラスを指で触ったりしないように気をつけながら、外した時と逆の要領で原稿台を本体に取り付ければ清掃は完了です。
 なお、ネジにかぶせるキャップのようなものは嵌合する位置があるので、それに合わせて押し込めばパチッと嵌まります。

清掃前と清掃後のスキャン画像の比較

 さて、多少の微細なホコリはあるものの、すっかりきれいになった原稿台でスキャン画像の違い(効果)があるものなのか、気になるので清掃前と清掃後でスキャン画像を比較してみました。
 過去に撮影したポジ原版の中から色調が濃いめで、コントラストも比較的高いと思われるものを選び、同じ条件でスキャンしてみました。
 1枚目が清掃前、2枚目が清掃後です。掲載写真は解像度を落としてありますが、いずれも6,400dpiでスキャンしました。

▲清掃前のスキャン画像
▲清掃後のスキャン画像

 はっきり言って、清掃前と清掃後の違いはほとんどわからないのですが、並べてみてみると、清掃後の画像の方がわずかにコントラストが高いように感じます。黒とか青などの濃い色の締まりがある感じです。
 しかし、別々に見るとどちらが清掃前でどちらが清掃後なのか、全くわかりません。

 そこで、画像のヒストグラムを比較してみました。
 下の画像の左側が清掃前のヒストグラム、右側が清掃後のヒストグラムです。

▲左:清掃前 右:清掃後

 波形は非常に似通っていますが、波形の左から1/4の辺り、清掃前の波形は角のような形状がありますが、清掃後の波形にはこれがありません。
 実は、清掃後にスキャンしようとした際にフィルムホルダーを落としてしまい、フィルムの一部がフィルムホルダーから外れて、長さ2mmほどの折れ跡のようなものがついてしまいました。どうやらこれが原因ではないかと思われます。

 それとは別に、ヒストグラムの左側の立ち上がりの位置が微妙に違っています。清掃前に比べて清掃後のヒストグラムの方が、左側の立ち上がりの位置がわずかに左に寄っています。
 これはごくわずかですが、全体的に色調が濃くなっていることを示していて、2枚の画像を並べて目視した際に、清掃後の方がコントラストが高めに感じるということと一致しているように思えます。これが、原稿台ガラス面のクモリがなくなったことによる結果であるならば、ごくわずかではあってもこの清掃の効果があったと言えるかも知れません。
 しかしながら、スキャン自体の条件も寸分違わずにというような厳密なものではないので、本当に因果関係があるのかどうかは怪しさがつきまとっています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 原稿台のガラスに多少のクモリがあっても、それによってスキャン画像の画質が劇的に悪くなるというものではなさそうですが、ガラス面に余計なものが付着していないに越したことはないわけで、画質に与える影響もさることながら、気になっていたモヤモヤ感が払しょくされたことの効果の方が大きいかも知れません。
 ガラスが曇ったり汚れたりするのは仕方がないことですし、使用環境や使用頻度などによってその度合いも異なってくると思いますが、いずれ、何年か経つとまた曇ってくることは明らかです。それまでこのスキャナが順調に稼働してくれるかどうかわかりませんが、故障さえしなければ数年間はクモリを気にすることなく気持ちよく使うことができそうです。

(2024.5.28)

#EPSON #GT_X970 #エプソン #スキャナ

大判レンズ シュナイダー Schneider ジンマー Symmar 210mm 分解・清掃とバルサム修理

 ひと月ほど前、リンホフ規格の大判レンズ用のレンズボードが必要になり、ジャンク箱をあさってみたのですが使い切ってしまったらしく、残念ながら見つかりませんでした。中古カメラ店やネットオークションサイトなどを探してみたところ、あることはあるのですが4,000円とか5,000円という価格設定で、そこまで高額のものを購入する気にはなれません。
 つらつらとネットオークションサイトを眺めていると、時たま、1円という価格でボード付きの大判レンズが出品されていることに気がつきました。動作不良や汚れや傷みのひどいレンズがジャンク品として出品されていることが多いようですが、さすがに1円で落札させてはくれないだろうと思いながらも、送料込みで2,000円くらいまでなら許容範囲ということで、時々チェックしていました。

前玉の清掃

 1週間ほどウォッチをしていたところ、「動作未確認、レンズにカビ、クモリ、汚れあり」と説明書きのあるシュナイダーのジンマー Symmar 210mm 1:5.6 という大判レンズが1円で出品されていて、幸運にもこのレンズをを1,000円ほどで落札することができました。送料込みでも1,800円ほどです。カビやクモリがあろうが動作しなかろうが、レンズが欲しいわけではないので全く問題ありません。リンホフ規格のレンズボードさえ手に入れば目的達成です。

 数日後、落札した商品が宅配便で届きました。そのレンズがこちらです。

 リンホフがシュナイダーに委託したレンズのようで、シャッター部には大きな文字で「LINHOF」と刻印されています。確かにレンズは汚い状態です。カビとクモリもしっかりとついています。シュナイダー純正の前後のレンズキャップもついていますが、必要なのはレンズボードなので、ボードからレンズを外し、レンズはジャンク箱行きです。

 それから2週間ほど経ったある日、ジャンク箱をあさっていたところ先日のジンマー210mmがふと目に留まりました。せっかく我が家に来たレンズだからきれいにしてみようかと思い立ち、分解・清掃することにしました。
 レンズをよく見てみると、カビとクモリに加えて、バルサムもいってしまっている感じです。

 掲載した写真ではわかり難いですが、前玉の中の方に直径3~4mmの気泡のようなものがいくつか見えます(赤い矢印の先)。前玉を外し、前群のレンズユニットを取り出してみると、レンズのコバのところがべとべとしています。バルサムが流れ出てしまっているようです。

 バルサムは後回しにして、とりあえず前玉のカビとクモリの除去から始めます。

 カビは前群ユニットに、クモリは前群ユニットと後群ユニットの両方についています。カビはそれほどひどくありませんがクモリがひどくて、この状態ではフォギーフィルターを着けて撮影したような描写になってしまうのではないかと思うほどです。
 しばらく無水エタノールに浸した後、丹念に拭いていくとカビもクモリもすっかりなくなり、きれいなレンズになりました。カビもレンズの中まで侵食していなかったらしく、カビ跡も全く分かりません。

前玉のバルサム修理

 次に、前玉の前群ユニットのバルサム修理ですが、まずは接着されている2枚のレンズを剝がさなければなりません。バルサムが流れ出ているので、指で押せば動くかと思いましたがびくともしません。
 ということで、煮沸して剥がすことにしました。

 小さな鍋に水を入れ、この中でレンズを煮沸するのですが、鍋の中でレンズが踊って傷がつかないように、レンズよりも二回りほど大きな皿にラップを巻いて、その上にレンズを載せて鍋に投入します。
 弱火でコトコトと5分ほど煮ると、レンズのコバに塗ってあった墨が剥がれてきたので、バルサムも柔らかくなっているだろうと思い、鍋からレンズを取り出して指で押してみます。ねっとり感が残ってはいるものの、わずかにレンズがずれました。
 再度、鍋に入れてコトコト煮ては取り出し指で押す、ということを4~5回繰り返して、ようやく貼りついていた2枚のレンズを剥がすことができました。

 剥がれた状態が下の写真です。

 気泡のようなものがびっしりとついているのはバルサムです。
 これを無水エタノールでふき取っていきます。

 そして、きれいになったレンズがこれです。

 レンズのコバのざらついたところに若干の墨が残っていて黒っぽくなていますが、カビもクモリもないクリアな状態になりました。

 さて、前玉の前群ユニットのレンズがきれいになったところで、これを再度、貼り合わせなければなりません。
 ここで最も気を遣うのが、2枚のレンズの中心がずれないように貼り合わせるということです。専用の機器や治具などがあるわけではないので、身の回りにあるものを使って簡易的な治具を作ります。

 用意するのは円筒形のボトルキャップを3個とステンレス板、そして接着剤です。ステンレス板の代わりにアルミ板やアクリル板など、表面が平らでしっかりした板状のものであれば問題ありません。
 ステンレス板の上に前群ユニットの下側の凹レンズを置き、これを3方からボトルキャップで挟み込みます。レンズとの間に隙間ができないようにしっかりと挟み、ボトルキャップを接着剤でステンレス板に接着します。多少、力を加えても動かないくらいに強く接着しておく必要があります。ボトルキャップは概ね、120度間隔で配置するのですが、それほど正確である必要はありません。3方から挟めば確実にレンズを押さえることができます。

 次に、このレンズの上にバルサムを1~2滴、垂らします。バルサムの量が多くても流れ出てしまうだけなので、ごく少量で問題ありません。
 そして、もう1枚のレンズをこの上に乗せて、下のレンズに押しつけます。バルサムが全面に広がって、中に空気が残らないようにしっかりと押さえます。

 ボトルキャップが治具の役割を果たすので、2枚のレンズの中心が一致するはずなのですが、レンズを重ねた状態で天井にある蛍光灯などの照明を写し込んだ際、それが縞状になっていたり滲んだような状態になっていたりすると、レンズの中心がうまく一致していない可能性が大です。その場合、上側のレンズをゆっくりと左右に回すと縞模様や滲みが消える場所がありますので、その位置で固定します。
 この状態で、マスキングテープなどを用いてレンズをステンレス板に固定します。レンズに糊が付着しないようにレンズの上にシルボン紙などを置き、その上からマスキングテープで抑えるのがお勧めです。
 あとは結果次第、試し撮りで確認ということになります。

 バルサムを固着させるために熱をかけるのですが、私はドライヤーで熱風を20分ほどかけました。あまり高温にしなくても固着するので、できるだけ熱が均等になるよう、満遍なく風を送ります。

 ちなみに、今回、レンズの接着に使用したのはキシロールバルサムです。カナダバルサムをキシレンで希釈したもので、私は顕微鏡用のプレパラートをつくるために使っているものです。カナダバルサムよりも粘度が低く、サラサラしているので使いやすいです。
 最近はバルサムを使わずに合成接着剤を使うことがほとんどのようですし、UVレジンを使うという方もいらっしゃるようですが、UVレジンは硬化するとやり直しがきかないのでリスクがあります。バルサムだと、万が一、失敗してもやり直しがきくので安心です。

 バルサムが完全に固まるまで1日ほど放置しておきました。
 バルサム貼りが完了した前玉前群ユニットがこちらです。

 このままでも使えないことはありませんが、コバに墨入れをします。
 私はレンズの鏡胴内などの反射防止に JET BLACK のアクリル絵の具を使っています。これは本当に「真黒」で、しかも、つやが全くないので理想的ですが、ごく薄く塗るのが難しく、今回のようなレンズのコバにはあまり向いていません。コバに塗った塗装に厚みが出てしまうとレンズが嵌まらなくなってしまう可能性があります。1㎜の数十分の一という塗装の厚みでもレンズが嵌まらなくなることがあるので、ほとんど塗り厚を気にしなくてよいということで、今回使用したのは墨汁です。二度塗りしても塗り厚が気になることはありません。

 コバに墨入れをしたのが下の写真です。

 これで前玉の分解・清掃は完了です。あとは元通りに組み上げるだけです。

後玉の清掃

 後玉は前玉に比べるとかなりきれいな状態を保っており、バルサム切れのような状態も確認できませんでした。クモリはかなりありましたがカビは見当たらず、バルサムの問題もなさそうだったので無水エタノールでの洗浄だけとしました。
 後玉の前群ユニットを外し、後群ユニットも含めて4面を清掃するだけで後玉の清掃は完了とします。

 後玉も元通りに組み上げ、シャッターに取り付ければレンズの清掃はすべて完了です。

清掃後のレンズで試し撮り

 レンズのカビやクモリもすっかりきれいになり、バルサムも修理したので見違えるようなレンズになりました。しかし、バルサムの修理をしているので、写りに問題がないかどうかの試し撮りが必要ですが、その前に、シャッターの動作確認を行います。
 このレンズに組み込まれているシャッターの絞りはF5.6~F45、シャッター速度はT・B・1~1/200秒です。いわゆる、大陸系列と呼ばれるシャッター速度になっています。私はこの大陸系列のシャッター速度に慣れていなくて、微妙な露出設定をするときには混乱してしまうことがあります。
 それはともかく、絞り羽根の開口度合いもシャッター速度も、感覚的には概ね良好といった感じです。正確に測定したわけではありませんが、シビアな精度を求めるものではないので良しとします。

 清掃後のレンズで実際に撮影したのが下の写真です。

 2枚とも、近くの公園で撮影したものですが、特に問題もなく写っていると思います。いちばん心配した、レンズを貼り合わせる際の中心軸のずれですが、これも目視する限りでは気になりません。解像度も問題のないレベルだと思います。
 また、露出も概ね良好で、顕著な露出オーバーやアンダーにはなっていません。すべての絞りやシャッター速度を試したわけではありませんが、シャッターも正常に動作しているものと思われます。

 もう一枚、黄葉した桜の葉っぱをアップで撮ってみました。

 葉っぱの縁にある鋸歯もくっきりと写っていて、特に問題になるようなところは見受けられません。

 もともと、使う予定のなかったレンズなので、清掃前の状態での撮影はしてありません。そのため、比較はできませんが、清掃前の状態ではこんなに綺麗に写ることがないだろうということは想像に難くありません。全体にフレアがかかったようなボヤっとした感じになるだろうと思われ、それはそれで趣があるといえなくもありませんが、やはりくっきりと写ると気持ちの良いものです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回の分解・清掃でレンズはすっかりきれいになりましたが、欲しくて購入したレンズではないので、この先、このレンズを使う機会はほとんどないだろうと思われます。ですが、鏡胴などにステンレスが多用されていて、持つとずっしりと重いレンズには風格が感じられるのも確かです。
 今回はレンズボードが必要だったので、このレンズについていたボードは他で使ってしまいましたが、いつか、あらたにレンズボードが手に入ったらこのレンズにつけてやろうと思います。

 なお、今回ご紹介したバルサム修理ですが、素人が我流でやっているので決してお勧めはしません。失敗するとレンズを1本駄目にしてしまいますので、もし、バルサム修理をされる場合はしかるべき専門のところに依頼するのがよろしいかと思います。

(2023.12.4)

#Schneider #シュナイダー #Symmar

昔のジャンクフィルムカメラを直して使えるようにする

 東京には中古カメラ店がたくさんあり、新宿、銀座、秋葉原から上野界隈は特に中古カメラ店が集中しているエリアです。
 私もときどき、中古カメラ店をはしごしたり、ネットオークションで中古カメラを物色したりしますが、どうしても手に入れたいカメラやレンズを探し回ることとは別に、特段の目的もなく中古カメラを見て回るということも少なくありません。中古カメラ店にも様々なタイプがあり、中古とはいえ、新品と見まがうような程度の良いものばかりを置いているお店もあれば、ジャンク品も含めて何でもありというディープなお店もあります。

 中古カメラ店もビジネスですから、いろいろな経営スタイルがあって当たり前ですが、私はジャンクもパーツも何でもありの混沌とした(失礼)お店が好きです。陳列棚の中に並べきれず、カメラの上にカメラを重ね、棚の奥の方には何があるのかわからないというような状態がとてもワクワクします。たぶん、何年もの間、来店した客から手に取ってもらうことはおろか見てもらうこともままならず、棚から取り出されることもなくじっと佇んでいたカメラやレンズがたくさんあるのではないかと思います。そして、そういった中にお宝のようなものがあるのではないかと思うと心が震えます。

 実際にそういう中古カメラ店の棚の奥の方には、半世紀以上も前に作られたカメラがあったりします。また、ネットオークションでもそのようなカメラが出品されていることは珍しくありません。
 しかし、概してこのようなカメラは捨て値同然の価格がついていることが多く、安いとはいえ購入したところで、多くはそのまま使える状態でないことは想像に難くありません。シャッターが切れないとか、低速シャッターが粘る、レンズにカビや曇りがある、ボディに錆や凹みがある等々、いくつもの症状がもれなくついてくるのはごく自然の成り行きです。

 しかし、こういったカメラたちも綺麗に清掃したり、壊れているところを修理したりすれば、立派に使えるカメラになる可能性は十分にあります。レンズに大きな傷がついていたり、ボディがぼこぼこに凹んでいたり、あるいはパーツが破損していたりすると素人が直すのは困難ですが、少々汚れていたり動作が不安定という程度であれば、私のような素人でも修理の可能性は大です。ただし、最近のカメラのように電子回路などが組み込まれていると、たぶん私には修理は無理で、100%機械式のカメラに限られます。

 そんな昔のジャンクカメラを中古カメラ店やネットオークションなどでゲットし、清掃したり修理したりして使えるカメラにするということにささやかな楽しみを感じてしまいます。
 私が対象としているのは主に35mm判カメラと中判カメラですが、何十年も前のカメラの中には国産、舶来を問わず、見たことも聞いたことのないメーカーやブランドがあって、いつ頃に作られたのか、どんな会社が作っていたのか、あるいは、実際にどのような人が購入して使っていたのかなど、興味が尽きません。もちろん、いろいろ調べてみても多くの情報は得られないこともありますが、こんなカメラが存在していたんだという新たな発見は、私にとってとても新鮮に感じられます。

 レンズの汚れやカビ、曇りなどは完全に取りきれないことも多いですが、根気よくやればずいぶんと綺麗になります。フォギーフィルターでもかけたような写真になるだろうと思われるほど汚れたレンズでも、清掃してすっきりとクリアになったのを見ると、なんだかとてもいい写真が撮れるのではないかという期待感が頭を持ち上げてきて、修理にも力が入るというものです。
 また、シャッターまわりの不調がいちばん多いのですが、破損しているものは稀で、ほとんどが長年使用されなかったことによる動作不良です。分解して清掃し、必要に応じて注油などをすれば正常に動作するようになります。

 可動部分が正常に動くようになると息を吹き返したように感じるもので、機械ものとはいえ、命が宿っているように思えるものです。

 一通りの動作確認が済めば試し撮りです。
 中判の場合は120フィルムを使って、66判であれば12枚の撮影なので実写確認には手ごろな枚数ですが、35mm判の場合、昔のように12枚撮りというフィルムがないので長尺から10枚分ほどの長さを切り出してパトローネに詰めて使います。
 こうして撮影、現像したフィルムのコマを一つひとつルーペで見たり、スキャンしてPCの画面に映したりしながら、写り具合や光線漏れの有無などを確認します。画質の良し悪しはともかく、まともに撮影できる状態になったのを目の当たりにすると、何とも言えず嬉しい気持ちになります。

 最後はお化粧です。古いカメラなので貼り革が剥がれていたり劣化していたりしているので、新しいものに貼替えます。
 実は、ここまでの工程でいちばんお金がかかるのがこの張り革の交換です。カメラ自体は捨て値同然の価格で手に入れているのですが、張り革は購入しなければならず、これがカメラ以上に高額(といっても千数百円ですが)になってしまいます。
 黒く艶のある新しい張り革に交換したカメラは見違えるように綺麗になります。貼り革のシボ加工はオリジナルのものとは変わってしまいますが、新しいものは気持ちが良いものです。

 さて、綺麗になって使えるようになったこれらのカメラですが、それ以降は自分で使うことはなく手放してしまいます。
 私の場合、そもそもが自分で使うために直すのではなく、ジャンクを使えるようにするということが目的なので、修理や清掃が終わってしまうとすっかり出番がなくなってしまいます。手元に置いておいてもディスプレイになってしまうだけなので、有効に使ってもらえるところに行った方がカメラも幸せだろうとの思いです。

 中古カメラ店にもネット上にも中古カメラがあふれていて、程度の良い中古品は市場でも動きが早い印象がありますが、ジャンクカメラは滞留している度合いが強いように思います。自分で修理するためのジャンクカメラを探すにはとても恵まれた状態です。
 中古市場からジャンクカメラを購入し、それを直してまた市場に戻すということをビジネスにしているわけではなく、それまで見向きもされなかったジャンクカメラを修理して使えるようになることで、誰かが手に取ってくれるとしたら、それはとてもありがたいことです。

 機械仕掛けだけで動くカメラというのは本当によく考えられていて、あちこち錆だらけでボロボロになっているとか、修理不能なほど破損しているとかいうものはそれこそ不燃物としてやがて廃棄されてしまうかも知れませんが、そうでなければ修理して使うことができる素晴らしい工業製品だと思います。特に昔のカメラの場合、ハイテクが詰まった今のカメラとはまた違った技術の結晶のようなものが感じられ、ほれぼれとしてしまいます。

 私も修理のプロではないので、直そうとして分解したところ、どうしても元に戻すことができずにオシャカにしてしまったということもあります。しかし、そういうカメラは廃棄せずに分解したパーツがなくならないように箱に入れて保管してあります。いつか、元に戻せる日が来るのではないかという淡い期待とともに。

(2022.11.3)

#ジャンクカメラ #中古カメラ

PENTAX67 ペンタックス67の露出計駆動用チェーンの修理

 私はPENTAX67を数台持っているのですが、先日、いちばん古い機種を持ち出したところ、露出計が動作していないことに気がつきました。どうやら、露出計を駆動するチェーンが切れた模様です。
 私は、露出を測る際は単体露出計を使うので、内臓露出計が機能しなくてもほとんど支障はないのですが、無骨なTTLファインダーがカメラの上部に居座っているにもかかわらず、役に立っていないというのは気持ちが良くないので、修理することにしました。

PENTAX67の露出計駆動の仕組み

 PENTAX67には最初のモデルの「6×7」、次のモデルの「67」、そして最終モデルの「67Ⅱ」があり、さらに「6×7」のモデルは初期、中期、後期と三つに分類されています。最終モデルのPENTAX67Ⅱはそれまでの機種とは全く別物と言えますが、6×7と67は少しずつの改良が加えられてはいますが、基本的な機能や構造はほとんど同じです。
 私が持っているPENTAX67の中でいちばん古い機種が6×7後期モデルで、今回の修理対象機種です。ペンタプリズムのカバーの前頭部にAOCOマークが入っている年代物です。

 6×7、および67用のファインダーは交換式で、通常のペンタプリズムだけのアイレベルファインダーの他にTTLファインダーと呼ばれるものがあり、露出計はこのTTLファインダーに内蔵されています。シャッター速度やレンズの絞りの情報をカメラから露出計に伝える手段はすべて機械式で、構造自体は極めてシンプルです。
 このうち、レンズの絞りと露出計は細いチェーンで連動するようになっていて、絞りリングを回すことでチェーンが引っ張られ、露出計を駆動する仕組みです。

 この仕組みを簡略化したのが下の図です。

 このチェーンはカメラの中に隠れているので、通常の使用でチェーンに触れることはないのですが、構造上、レンズをカメラに装着した状態でTTLファインダーを外したり嵌めたりすると、露出計の爪と、それを動かす小さなパーツのかみ合わせがうまくいかずに切れてしまうこともあるようです。また、とても細いチェーンなので、長年使用していると劣化によって切れることもあるようです。
 今回、私のカメラのこのチェーンがいつ切れたのか、何故切れたのかは不明ですが、絞りリングを勢いよく回したりした際に切れたのかも知れません。

フォーカシングスクリーン上のカバーの取り外し

 露出計駆動用のチェーンを交換するために、まずはTTLファインダーの台座となっているフォーカシングスクリーン上のカバーを外します。

 TTLファインダーを取り外した状態が下の写真です。

 写真の下の方に「PENTAX」の文字があり、その下に細長い溝がありますが、本来であればこの中に細いチェーンが見えているはずです。何も見えていないので、切れてどこかに落ちていると思われます。

 台座(カバー)を外すためには赤い矢印の4本のネジを外します。
 写真上側の2つのネジは通常の+ドライバーで外せますが、下の2つのネジは先端が割れたフォークのような形をしたジャックドライバーが必要です。カニメレンチでも代用できると思いますが、ネジはとても小さいので操作性はあまりよくありません。

 ネジを外した後、台座は上に持ち上げれば簡単に外せますが、ネジ穴のところにワッシャーがあります。このワッシャーは、フォーカシングスクリーンとTTLファインダーを平行に保つための微調整用のもので、場所によって使われている枚数が異なります。1~3枚のことが多いと思いますが、この枚数を変えてしまうとTTLファインダーが傾いてしまうことになります。ワッシャーをなくさないように注意し、場所と枚数を記録しておくのが望ましいです。

レンズマウント部の取り外し

 次に、レンズがはまるマウント部分を取り外します。
 下の写真でわかるように、マウント部の周囲4か所に貼り革(赤い矢印の箇所)があるので、これを剥がします。ピンセットなどで端の方からゆっくりと持ち上げるようにすると簡単にはがせます。

 貼り革を剥がした状態が下の写真です。

 貼り革の下に隠れていた4本のネジ(赤い矢印)を外し、マウントを上にゆっくりと持ち上げます。

 マウントを取り外すと、下の写真のような状態になります。

 まず注意が必要なのは、TTLファインダーの台座と同じように、ネジ穴のところにワッシャーがありますので、これをなくさないようにすることと、それぞれの場所で使われている枚数を間違えないようにすることです。これが変わってしまうと、フィルム面に対するレンズの光軸の垂直が保てなくなります。

 さて、レンズの絞りに連動して回転するリングを外すため、それを押さえている板(緑の太い矢印)が左右2枚あり、これを取り外すのですが、モルト(橙色の矢印)が貼られていて、とても邪魔です。
 このモルトは細いうえに円形をしているので、完全に剥ぎ取ってしまうと再利用がとても難しくなります。モルトが劣化していないようであれば、押さえ板の上にかかっている部分だけを端の方に避ける程度にして、完全に剥がしてしまわない方が無難です。

 押さえ板は左右それぞれ2か所のネジ(緑の細い矢印)を抜けば取り外すことができ、その下にある絞りに連動するリング(青い矢印)が取り出せます。

 取り出したリングが下の写真です。

 チェーンが途中で切れています。
 このチェーンは、リングに設けられている非常に細い針金で作られたフックに引っ掛けてあるだけです。

露出計駆動用チェーンのリペア

 いよいよ、切れたチェーンを作り直さなければならないのですが、使われているチェーンは太さ(幅)1mmほどというとても細いもので、なかなか代用品が見つかりません。根気よく探せばあるとは思うのですが、必要な長さは20cm程度なので、購入するとなるとかなり高くつきそうです。
 ここに金属のチェーンが使われている理由は、自由に曲がる柔軟性と、引っ張っても伸びないことが求められるからではないかと思います。

 そこで、チェーンの代用となる材質をいろいろ考えた結果、釣りに使う道糸を使用することにしました。道糸の素材もいろいろあるのですが、柔軟性があり、しかも丈夫で伸びないという条件を満たす「PEライン」を使います。この道糸はとても強くて、人間の力で引っ張ったくらいでは絶対に切れません。しかもほとんど伸びることがないので打ってつけです。海釣り用のリールから30cmほど切り取ってきました。

 この道糸を長さ(上の図参照)に合わせてカットし、各パーツに結びつけ、こんな感じに仕上げました。

 中央にある青い矢印のパーツがテンションを与えるためのバネで、太いバネと細いバネの二重構造になっています。
 右側の赤い矢印のパーツが、TTLファインダーの露出計の爪と嵌合して露出計を駆動するためのものです。
 道糸のもう一端は、レンズの絞りに連動して動くリングのフックに引っ掛けます。
 結び目があまり綺麗ではありませんが、大目に見てください。

 これをカメラに取付けたのが下の写真です。

 道糸の長さは出来るだけ寸法通りになるようにカットし、結びつけるのですが、なかなかミリ単位で正確にするのは難しいです。
 バネに結ばれている側(写真では上側)の糸の長さは若干前後してもバネが吸収してくれるので問題ありません。しかし、リングに結合する側(写真では下側)の糸は、長すぎるとリングに遊び(ガタ)ができてしまい、反対に短すぎるとリングが嵌まらなくなってしまいます。
 ちょうどよい長さにするのは難しいのですが、3~4mmの範囲であれば微調整することができます。

 マウントを外した左上にチェーンをかけるプーリーがありますが、これを左右に動かすことで微調整が可能になります(下の写真)。

 赤い矢印のネジを緩めるとプーリーの位置が左右に動きますので、これで道糸(チェーン)の緩みを取り除きます。

 念のため、レンズの絞りに連動して動くリングの押さえ板をはめて、リングがスムーズに動くことを確かめたら、TTLファインダーをはめて露出計が機能することを確認します。問題がないようであればマウント、TTLファインダーの台座を元通りに取付けます。その際、ワッシャーの位置と枚数を間違えないように注意します。
 レンズを装着して動作確認を行ない、正常であればマウントの周囲の貼り革を貼って完了です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回、チェーンの代わりに釣り用の道糸を使いましたが、道糸の方が組み込みが容易な印象を持ちました。チェーンの場合、捻じれを完全に取り除いておかないと、動かした際に露出計を駆動する爪との嵌合が外れてしまうという不具合が起きます。一方、道糸を使った場合は多少の捻じれがあっても全く影響はありません。

 交換後、まだ使用回数は少ないですが、今のところは問題なく機能しているようです。

(2022.8.27)

#PENTAX67 #ペンタックス67

ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6 シャッター修理

 先日、久しぶりに新宿の中古カメラ屋さんをはしごしていたところ、とある一軒の中古カメラ屋さんでローデンシュトックの大判レンズ、シロナーN 210mmを見つけました。このお店にはこれまで何度も立ち寄っていますが、ここでローデンシュトックの大判レンズを見たのは初めてです。
 見たところ、外観は非常にきれいです。にもかかわらず、驚くほど安い価格の値札がついていました。しかも、リンホフ規格のレンズボード付きです。

安いのには安いなりの理由がある

 諭吉一枚で足りるどころか、かなりのお釣りがくる価格のローデンシュトックのシロナーN 210mm 1:5.6、訳ありに違いないとは思いましたが、目が釘付けにでもなったようにその場から離れられません。見るだけならタダだと思い、お店の方にお願いして棚から出してもらいました。
 お店の方が、「シャッターが不良なんですよね。修理に出すと4~5万かかってしまうので、仕方なくこんな価格にせざるを得ないんです。」とおっしゃいながらレンズを渡してくれました。よく見ると、値札の下の方に小さな文字で「シャッター不良」と書かれています。

 しかし、外観はとても綺麗です。新品とは言いませんが限りなくそれに近いくらい、よーく見ると細かな傷がほんのちょっとある程度です。
 そして、外観にもまして綺麗なのがレンズです。強い光にかざしてみると微細なチリはありますが、キズや曇り、カビ、コバ落ちなどはまったく見当たりません。レンズだけ見ればまさに新品のような美しさです。もちろん、絞り羽根もシャッター膜もとても綺麗です。

▲Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 シャッター不良とはいえ、ずいぶん安いなと思いながら動作確認をしたところ、低速側のシャッター速度が正常に動作しません。1秒~1/8秒はかなりの高速で切れている感じです。ただし、1/15秒より高速になると概ね、正常な感じです。
 大判レンズの場合、高速シャッターよりも低速シャッターを使う頻度の方が多いので、これは致命的です。

 それと、T(タイム)ポジションがうまく機能しません。シャッターを開くときは問題ないのですが、閉じるときにはシャッターレバーを2~3回押さないとシャッターが閉じてくれません。B(バルブ)ポジションは問題なく動作しているので、長時間露光時もBを使えば支障はないのですが、せっかくついている機能が使えないというのはあまり気持ちの良いものではありません。

 低速側のシャッターが正しく動作しないのは、多分スローガバナーの問題だろうと想像がつきます。しかし、Tポジションの動作については原因が思い当たりません。
 焦点距離210mmのレンズを持っていないわけではないし、修理しなければ使えないレンズを買うこともないとも思いましたが、外観とレンズの美しさにどうしてもあきらめきれません。しかも、修理が必要とはいえ、こんなに安い金額でゲットできる機会はそうそうあるとも思えません。

 で、いろいろ悩んだ末に結局のところ、「ローデンシュトック シロナーN 210mm 1:5.6 お持ち帰り!」となりました。

まずはスローガバナーの修理から

 レンズを購入した翌日、早速修理に取り掛かりました。
 前玉を外して、シャッター速度ダイヤルの円盤を外すと内臓(シャッター機構)がむき出しになります。この状態で何度もシャッター切りながら内部の動作を調べます。因みに、シャッターはCOPAL-No.1です。
 すると、低速の時に、スローガバナー内にうまく動いてくれない歯車が2枚あることがわかりました。下の写真の赤い矢印の歯車が患部のようです。

▲スローガバナー

 上の写真で、シャッター速度ダイヤルを動かすと、黄色の矢印をつけたパーツが溝の中を動きます(写真では上下方向)。これによってスローガバナーの動きを切り替えているわけですが、いちばん外周側にあるときが低速シャッターを司っています。
 ドライバーの先で歯車を軽くつつくと動くので、汚れ等で粘っているのかもしれません。
 高速側は全く問題なく動いています。

 スローガバナーの内側は見えないので外してみましたが、特に汚れているようには見えません。念のため、ベンジンで洗浄して、歯車のシャフトに注油を行ない、動作確認してみると快調に動いてくれました。
 筐体内に取付けても問題なく動いてくれるので、これで低速側シャッターの問題は解消です。

Tポジションの動作不良の原因

 次にTポジションの動作ですが、こちらはどこに問題があるのかよくわかりません。シャッターをチャージし、開くときは問題ないのですが、閉じようと思ってシャッターレバーを押しても閉じてくれません。2回、3回押すとようやく閉じてくれます。
 何十回と動きを確認しているうちに気がついたのですが、シャッターレバーを押したときに動くカムのようなパーツの動きに問題があるようです。ここには髪の毛よりも細いのではないかと思われるバネが使われており、これがヘタってきているのかと思い外してみましたが、そうでもなさそうです。
 カムの下のパーツをドライバーの先でちょっと押すとシャッターが閉じてくれるので、どうやらこのパーツの動きが鈍いと思われます。

 下の写真の赤い矢印が問題のパーツです。

▲Tポジションの動作機構

 赤丸の中の右側にある階段状になっているカムと、その左側にある白っぽく見える爪のようなものがかみ合って、最初の動作でシャッター開、2回目の動作でシャッター閉となるのですが、2回目(シャッター閉)の時がうまくいっていないようでした。
 こちらは取り外さずに、シャフトのところをベンジンで軽く洗浄し、注油したところ、Tポジションでの動作が正常に行なわれるようになりました。やはり、少し粘っていたようです。

念のため、シャッター速度を計測

 これで低速側シャッターもTポジションの動作も正常になりましたが、シャッター速度がどのくらいの精度があるのか気になったので、念のため、実測してみました。
 他のページで紹介しました自作のシャッター速度計測用治具が、こんなに早く役立つとは思ってもいませんでした。
 各ポジションで3回ずつ計測してみたところ、基準値から最もずれていたのが1/400秒ですが、それでも-8%以下でした。1/400秒などほとんど使うことはないし、他のポジションのずれはそれ以下でしたので、全く問題ないと思います。

 このレンズ、あまり使われてこなかったのかも知れません。もしそうだとすると、外観やレンズに傷がなく、とても綺麗なのも頷けます。しかし、機械ものなので、長期間使われないことで動きに支障が出てきてしまったのかも知れません。
 念のため、修理後は毎日シャッターを切って動きを確認していますが、今のところ快調です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 動作不良のレンズとはいえ、驚くほど安い値段で購入しましたが症状は軽症だったため、ほぼ丸一日かけた修理で正常に動くようになりました。残念ながらまだ実際の撮影では使っていませんが、近いうちに使ってみたいと思います。
 しばらく使っているうちにまた不具合が出るかもしれませんが、当面は問題なく使えそうです。

 また新たにレンズが増えてしまいました。

(2022年2月26日)

#ローデンシュトック #Rodenstock #中古カメラ

1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

 先日、友人から「かなり昔のカメラが手に入ったんだけど、使える?」という要領のまったく得ないメールが来ました。現物を見てみないとわからないと返信すると、「では送る」という短い回答があり、後日、宅配便でカメラが送られてきました。
 開けてみると「Beauty MODEL1」というカメラでした。この週末にこのカメラを分解・清掃・修理をしてみましたのでご紹介します。

Beauty MODEL1の状態を調べてみると..

 このカメラは1950年代の半ばに、東京の神田にあった太陽堂光機という会社が発売した国産のフォールディング(折り畳み式)カメラです。
 Beautyというブランドは「BEAUTY FLEX」という二眼レフカメラの方が有名で、今でも中古カメラ店で見かけることがありますが、今回のようなシックス判のフォールディングカメラはほとんど見かけることはありません。二眼レフカメラが大成したので、フォールディングカメラからは手を引いてしまったのかも知れません。

▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1 かなり汚い
▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1

 120フィルムを使用するカメラで、Doimer(ドイマー)という焦点距離80mm 1:3.5のレンズがついています。土居さんという社長の苗字からとった名称らしいですが、洒落っ気が感じられます。シャッター速度はB・1~1/200秒、最小絞りはF22、距離合わせは目測です。

 送られてきたカメラを一通り見てみると、以下のような状態でした。

 1) 全体に汚い
 2) ファインダーが曇っていてほとんど見えない
 3) 折りたたんだ時に前蓋がしっかりと閉まらない
 4) シャッターをチャージすると、シャッター膜が半開きになってしまう
 5) レンズが汚れている カビ、クモリもある
 6) 蛇腹が破れている

 果たして使えるようになるのかどうか、分解してみることにしました。

レンズの清掃とシャッターの修理

 まずはレンズが使えるようにならないと撮影はできないので、レンズを取り外してばらしていきます。

▲Doimer 80mm 1:3.5

 レンズは3枚構成で、前玉と後玉は激しく汚れています。カビが取れるかどうかわかりませんが、しばらくエタノールに浸しておき、その後、清掃しました。わずかにカビの跡が残っていますが、かなり綺麗になりました。

▲前玉を外したところ
▲後玉を外したところ

 問題はシャッター膜が半開きになってしまう現象ですが、ばらして調べたところ、シャッターをチャージした時にロックされる爪の位置がずれているようです。なぜそのようなことが発生したのかは不明ですが、しっかりロックされる位置になるよう、調整しました。

▲シャッターをチャージすると半開き状態になってしまう

 シャッター速度はバルブも含め、変化していますが、絞り羽根もシャッター膜も粘っている感じがあったので分解して洗浄しました。

 また、ピント合わせをする前玉のヘリコイドがかなり重かったので、少しグリスを塗り込んでおきます。

▲清掃・修理後のレンズ

 シャッターとレンズを組み立てて動作確認してみましたが、粘った感じもなくなり快調に動いているようです。念のため、シャッター速度を計測してみたところ、以下のような状況でした。

 <速度目盛り> <実測値>
  1      1.083秒
  1/2     0.458秒
  1/5     0.185秒
  1/10     0.109秒
  1/25     0.048秒
  1/50     0.023秒
  1/100    0.013秒
  1/200    0.006秒

 それぞれ3回計測した平均値です。ばらつきはありますが、まずまずといったところでしょう。

ファインダーの清掃

 軍幹部の中央に可愛らしい覗き穴のようなファインダーがあります。真っ白に曇っていてほとんど視界はゼロといった感じです。軍幹部を取り外してファインダーレンズを清掃します。
 このカメラは66判と645判が使えるのですが、それに合わせて接眼部を回すとファインダー内のマスクが切り替わるようになっています。このカメラの中で最もセンスが輝いている構造のように感じました。

▲ファインダー(軍幹部のカバーの内側)

 ファインダーのレンズは取り外してエタノールで拭くと、驚くほどクリアになりました。

蛇腹の修理

 蛇腹には棒状のもので突いたような破れがあります。ピンホールもあるかと思い、LEDライトを照射して確認しましたが大丈夫そうです。蛇腹自体もヨレヨレした感じはなく、しっかりとしているので破れたところを塞げばまだ使えそうです。

 蛇腹をカメラ本体から取り外すためには、カメラ前面の張り革を剥がさなければならないようです。先の薄いヘラを張り革の下に差し込んだところ、張り革が5mmほどの大きさでボロッと欠けてしまいました。60年以上も経っているのですっかり劣化しているようです。
 うまく剥がせれば再利用しようと思っていたのですが、それはあきらめて前面の張り革を全部削り取ってしまいました。

▲カメラ前面の張り革を剥がしたところ

 張り革の下のネジを外すと、カメラの筐体から蛇腹部分を取り出すことができます。

▲カメラ筐体から蛇腹機構を取り出す

 蛇腹の破れたところは、外側と内側の両方から補修テープで塞ぎます。両面にテープを貼ると厚みが増して、蛇腹の折り畳みに影響が出るかと思いましたが問題ななそうです。念のため、補修テープの周囲に黒のタッチアップペンを塗っておきます。

 蛇腹を外したついでに、前蓋のロック機構も修理しておきます。
 前蓋を閉めた際に、カチッと爪が引っかかるようになっているのですが、この爪が歪んでいてロックされません。ラジオペンチで歪みを直してロックされるようにしましたが、前蓋自体も少し歪んでいるようで、隙間ができてしまいます。カメラを落としたか、どこかにぶつけたかして歪んでしまったのでしょう。とりあえず閉まるようになったので良しとします。

カメラ前面の張り革

 取り外した蛇腹やレンズ、軍幹部をもとのように組み上げ、ボロボロになってしまったカメラ前面の張り革は新しく張り替えます。全面張り替えたいところですが、他は剝がれたり傷んだりはしていないので、とりあえずそのままにしておきます。

▲清掃・修理後のBeauty MODEL1

 前面だけとはいえ張り革も新しくなり、長年の汚れも落としたので、見違えるほどきれいなカメラになりました。ファインダーもくっきりと見えるし、絞りやシャッターも問題なく動作しているようです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 とりあえず正常に動作しているようには見えますが、実際に撮影をしてないので、きちんと写るのかどうかは不明です。後日、実際に撮影をしてみたいと思います。

(2021年12月5日)

#ビューティー #Beauty #スプリングカメラ #中古カメラ

ギア雲台 Manfrotto マンフロット410の分解・調整

 私は主にマンフロットの410というギア雲台を使用しています。構図決めの際、微妙な調整がし易いのが愛用している主な理由です。3軸(パン、ティルト、ロール)が、それぞれ独立したノブを回すことで動くのですが、長年使っているとこのノブが重く(固く)なってきます。重くなると動かす際にとても力がいるので、分解して調整することにしました。

分解の手順

 マンフロット410雲台の外見は複雑な形をしていますが、構造は比較的シンプルです。

▲マンフロット410 ギア雲台

 分解は1軸ごとにやっていきます。どの軸も構造は同じです。
 まずはロール軸からですが、マンフロットのロゴと角度目盛りが書かれたラベルを剝がします。これはかなり強力な両面テープで張り付けてあるので、ラベルの端を剥がし、強く持ち上げるとラベルにキズ(折り目)がついてしまいます。ラベルの周囲から細めのマイナスドライバを差し込み、少しずつ持ち上げていくと綺麗に剥がれます。

▲オレンジ色の矢印のラベルを剥がす

 クッション性のある厚めの両面テープが使われており、剥がすとラベルの裏側と雲台本体の両方にテープが残ってしまいます。これを再利用することは難しいので、綺麗に剝ぎ取ってしまいます。
 ラベルを剥がした状態が下の写真です。

▲ロール軸のラベルを剥がした状態

 ラベルを剥がすとギアをおさえている丸い金属板(押さえ板)があり、その中央にネジ(オレンジ色の矢印)がありますので、4mmの6角レンチを使ってこのネジを緩めます。
 中央のネジを抜くと丸い押さえ板も外れますので、ロール軸の可動部も外れます。
下の写真でもわかるように、中は空洞です。

▲押さえ板を外した状態

 この状態で、ロール軸のギアのかみ合わせをリリースするノブ(下の写真の黄色の矢印)をいっぱいに回し、押さえ板がはまっていた反対側(オレンジ色の矢印の箇所)を軽く押すと、中にはまっている円筒形のギアがポロっと外れます。これで分解完了です。

▲押さえ板がはまっていたのと反対側の状態

ノブが重くなる原因

 このギア雲台は、上で外した円筒形のパーツの外側に付けられたギアに、ウォームギアがかみ合い、ウォームギアを回すことでそれぞれの軸が回転する仕組みになっています。そして、遊び(ガタ)が出ないように、強力なバネでウォームギアを円筒形のギアに押し付けています。
 ところが、長年使っていると円筒形のギアが徐々に摩耗して、歯高が低くなってしまいます。ここにウォームギアが押し付けられるので、ウォームギアの歯先が円筒形のギアの歯の底に当たってしまい、摩擦抵抗が大きくなり、ノブが非常に重くなるということになってしまいます。

▲円筒形のギア

 上の写真で、黒く汚れている辺りの歯が摩耗しているのがわかるでしょうか?
 一方、ウォームギアの方は特に摩耗しているようには見えません(下の写真)。

▲ウォームギア

 円筒形のギアはアルミ製で、ウォームギアは真鍮製です。真鍮はブリネル硬さでアルミの3倍ほどありますから、アルミ製のギアの方が摩耗してしまうのだと思います。

ギアのかみ合う位置を変える

 摩耗してしまったパーツは新しいものに交換するのが望ましいのですが、パーツ代も結構高額のようですので、まだ摩耗していないところを使うようにします。

▲未使用で歯が摩耗していない箇所

 この雲台のティルト軸とロール軸の可動範囲はそれぞれ120°です。この範囲を行ったり来たりしているので、円筒形のパーツは全周のおよそ1/3しか使っていません。残りの2/3は未使用状態ですので、この未使用部分とウォームギアがかみ合うようにすれば、ノブが重いという問題は解消されます。

 なお、ウォームギアのところにはグリスが塗ってありますが劣化してきているので、ウエスなどで綺麗にふき取り、新しいグリスを塗り込んでおきます。

 また、円筒形のギアも汚れていますので、こちらも綺麗にふき取り、グリスを塗っておきます。

組み上げの手順

 組み上げは、まずロール軸のギアのかみ合わせをリリースするノブをいっぱいに回した状態で、円筒形のギアをはめ込みます。この時、ギアが摩耗していない未使用の箇所がウォームギアがとかみ合うように、はめ込む位置を確認します。120°可動しても、摩耗した部分がウォームギアとかみ合うことがないようにします。

 次に、ロール軸を雲台に嵌合させ、押さえ板をはめてネジを締め込めば組み上げは完了です。

 この状態でロール軸の可動範囲いっぱいまでノブを回してみて、重くなることがなければ大丈夫です。もし途中で重くなるようであれば、摩耗している歯の部分にかみ合っているので、再度分解してギアの位置を移動させる必要があります。

 また、丸い押さえ板を止めるネジですが、これが緩んでくるとギア雲台にガタが生じますので、このネジはかなり強く締めておいた方がよろしいと思います。

 動作確認をして問題がなければ、最初に剥がしたラベルを張り付けます。何年後かにまた調整をすることを考慮すると、両面テープで張り付けるのが良いのではないかと思います。

ティルト軸の調整

 ティルト軸もロール軸と同様の手順で行ないます。
 ティルト軸の可動範囲もロール軸と同じ120°で、全周の2/3は未使用の状態ですので、そことウォームギアがかみ合うようにすればOKです。

パン軸の調整 

 パン軸も分解の手順は同じですが、状況が若干異なっています。パン軸の可動範囲は360°あり、このため、円筒形のギアの全周に渡って歯が摩耗している可能性があります。その場合は、ウォームギアとのかみ合い位置を変えても改善は見込めません。
 また、摩耗箇所が部分的であったとしても、使用している途中で摩耗箇所とウォームギアがかみ合う位置に来る可能性は十分にあるので、完全に問題解消というわけにはいきません。もし、パン軸のノブが重くて支障があるようでしたら、パーツを新しいものに交換するか、もしくは、雲台そのものを新しくするかしかありません。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 この調整で、ノブが快調に動くのがどれくらいの期間かというのは使用頻度によって異なるので一概に言えませんが、いずれノブが重くなったとしても、ティルト軸とロール軸の円筒形ギアに関してはまだ1/3が未使用なので、さらにもう一度、調整できる余裕が残っています。それまでパン軸が耐えられればですが。

(2021.7.1)

#マンフロット #Manfrotto #ギア雲台