第196話 アグファ AGFA COPEX RAPID 50 モノクロフィルムのリバーサル現像

 第183話でアグファのCOPEX RAPID 50というモノクロフィルムについて書きました。もともとはマイクロフィルムとして使われてきたというだけあって非常にコントラストの高いフィルムであり、一般の撮影用にはあまり向いていないという感想を持ちました。そのため、その後は使うこともなかったのですが、メリハリの効いた描写がとても印象的で、このフィルムをリバーサル現像したらどんな感じに仕上がるのだろうという思いがむくむくと頭を持ち上げてきました。
 ということで、アグファのモノクロフィルム、COPEX RAPID 50をリバーサル現像してみました。

COPEX RAPID 50 を使っての撮影

 今回使用したフィルムはブローニー判の120サイズです。2025年7月1日現在、1本1,600円前後で購入することができます。以前購入した時は1,300円ほどでしたから、この半年ほどの間で2割以上、値上がりしているようです。

 使用したカメラはPENTAX 67Ⅱ、使用したレンズはPENTAX 67用の75mm、105mm、200mm、300mmで、撮影時のISO感度は表記通り、ISO50としました。
 67判のカメラで使用すると10枚の撮影が可能で、被写体をいろいろ選択するほどたくさんは撮れないのですが、できるだけ異なるシチュエーションを選んでみました。

リバーサル現像のプロセス

 現像プロセスはイルフォードが推奨する手順に準拠していますが、使用する薬剤や処理時間等は適宜変更を加えています。
 実際に使用した薬剤は以下の通りです。

 【第1現像液】
  コダックのD-76に準拠して自家調合した薬剤を使用しました。
  今回の現像で使用する現像タンクはパターソンのPTP115というタイプで、これに必要な現像液の量は500mlです。したがって、調合した薬剤とその量は以下の通りです。

  無水亜硫酸ソーダ : 50g
  硼砂 : 1g
  メトールサン : 1g
  ハイドロキノン : 2.5g

  これらを500mlの水に溶解して現像液を作りました。これを希釈せずに使用します。
  なお、このD-76に準拠した現像液の調合についてご興味のある方は、下記のページをご覧ください。

  第187話 モノクロフィルム現像用「D-76準拠」現像液の自家調合

 【漂泊液】

  漂泊液は以下の薬剤を使用しています。

  過マンガン酸カリウム水溶液 20ml + 水 230ml
  硫酸水溶液(10%) 25ml + 水 225ml

  これらを混合して500mlの漂泊液を作ります。

 【洗浄液】

  洗浄液の調合は以下の通りです。

  ピロ亜硫酸ナトリウム 12.5gを500mlの水に溶解します。

 【第2現像液】

  本来、第2現像液は第1現像液よりも希釈度を高めたもの、つまり濃度の薄いものを使用するように推奨されていますが、今回は第1現像液をそのまま使用し、現像時間で調整をすることとしました。

 【定着液】

  今回使用した定着液は以下の通りです。

  フジックス定着液 170ml + 水 330ml

 こうして調合したそれぞれの薬剤は1,000ml用のビーカーに入れ、それを水温20℃に保たれたバットの中にいれ、液温が20℃になるようにしています。なお、現像液は液温が変わると現像時間に影響が出るので、できるだけ正確に20℃を保つようにしたいのですが、それ以外の薬剤は多少の温度の上下があっても問題はないと思います。

 次に、実際の現像プロセスですが、以下のような手順で行ないました。

  ・第1現像: 5分20秒 最初の1分は連続倒立撹拌、以後、1分ごとに5秒の倒立撹拌
  ・水洗: 流水で5分
  ・漂泊: 5分 連続撹拌
  ・水洗: 流水で1分 漂泊液の紫色が消えればOK
  ・洗浄: 3分 連続攪拌
  ・水洗: 流水で1分
  ・再露光: 片面4分 (2分ずつ2回)
  ・第2現像: 3分 最初の1分は連続倒立撹拌、以後、1分ごとに5秒の倒立撹拌
  ・水洗: 流水で1分
  ・定着: 3分 最初の30秒は連続撹拌、以後、30秒ごとに5秒の撹拌
  ・予備水洗: 流水で1分
  ・水洗促進: 1分 連続撹拌
  ・水洗: 流水で20分
  ・水滴防止: 30秒

 第1現像、第2現像ともに倒立撹拌を行なっていますが、必ずしも倒立撹拌である必要はないと思います。ただし、倒立撹拌の方が現像液の濃度のムラはできにくいのではないかと思われます。
 漂泊と洗浄はあまり強い水流を起こし過ぎると銀粒子が剥離してしまう可能性があるので、倒立撹拌は避けた方が良いかもしれません。
 第2露光は一般的な家庭用の蛍光灯(40~60W)を使用した場合、ISO100フィルムで片面1~2分程度です。今回使用したフィルムはISO50なので片面4分としました。この時間が短すぎると残ったハロゲン化銀が完全に露光しきれず、モヤっとしたような仕上がりになってしまうことがありますので、多少長めに露光した方が無難です。
 また、最後の水洗時間が短すぎるとフィルムが黄変してしまうことがあるので、長めに確実に行なうことが望ましいと思います。

 水滴防止液にくぐらせた後は埃の少ない場所につるして自然乾燥させます。フィルムの水滴をスポンジなどでふき取る方もいらっしゃいますが、私はほったらかし乾燥です。

COPEX RAPID 50 リバーサル現像した作例

 このフィルムをリバーサル現像したのは初めてですが、仕上がったポジ原版を見ての第一印象は見事に引き締まった黒が出ているということです。ネガ原版を見ても黒が引き締まっているであろうことは容易に想像できるのですが、実際にポジを見てみるとそれを視覚で確認することができます。
 ポジ原版をライトボックスに乗せた状態はこんな感じです。

 フィルムのカールが強くてクルンとなってしまうのでスリーブに入れての撮影です。そのため、若干画質が悪いですが、締まりの良い感じがわかると思います。

 まず1枚目は、空き地に放置された農機具のようなものを撮ってみました。

 この日は薄曇りでそれほどコントラストが高い状態ではないのですが、やはり、このフィルムで撮ると高コントラストな仕上がりになります。画下側のシロツメクサの葉っぱや上側の杉のような樹の葉っぱなどは比較的中間調として表現されていますが、農機具のボディの白い部分などは真っ白になっています。一方、右上の建物の窓や農機具の下で陰になっているところなどは黒くつぶれていて、全体として目がちかちかするような高コントラストな画像です。
 掲載した写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、細かなところまでくっきりと描写されていて解像度の高さを感じます。

 右下のあたりを切り出したのが下の写真です。

 シロツメクサの葉脈や農機具のパーツに刻印された文字などもくっきりと認識できるので、十分な解像度が出ていると思います。また、粒状感もあまり感じられません。

 2枚目は、神社の参道にあった石灯篭です。

 1枚目の写真よりもさらにコントラスが低い状態です。実際にはこの写真で見るよりもはるかに暗い感じの場所でしたが、それでもコントラストが高く表現されています。石灯篭の明るい部分は飛び気味ですが、石の質感はしっかりと表現されていて、やはりこのフィルムの解像度の高さがうかがえます。

 次は桜の葉っぱを曇り空に抜いて撮影したものです。

 中間調がほとんどない状態ですが、それでも枝の先の方で重なりのない葉っぱは中間調が残っています。葉脈もしっかりと確認することができます。
 虫に食べられて葉っぱに空いた穴が面白いパターンを作り出していました。
 このようなシチュエーションでも、一般的なモノクロフィルムを用いればもっと中間調が豊かに出て柔らかな感じに仕上がると思われます。

 最後はテーブルフォトとして、室内でシーサーの置物を撮った写真です。

 余計なものが入り込まないように黒い背景紙を使っており、写真の左方向から照明を当てていますが、ちょっと照明が強すぎたようです。シーサーの体の部分の質感が損なわれており、露出ミスといったところです。
 その分、彫りが深く見えるかもしれませんが、間接照明にすべきだったと思います。

 前回、ネガ現像した際に用いた現像液はSilverSaltでしたが、今回はD-76準拠の現像液で、しかもリバーサル現像なので単純に比較することはできませんが、やはりSilverSalt現像液の方が綺麗な描写をしていると感じます。
 また、撮影時の露光条件は前回と同じですが、ハイライト部の飛び具合が今回の方が明らかに強い感じです。これは撮影時の条件の差ではなく、現像の違いではないかと思われます。
 白が強く出過ぎているということは、第1現像の時間が長すぎたことが考えられます。つまり、第1現像ではネガ画像が生成されますがこれが強く出過ぎてしまい、漂泊で洗い流されてしまったため、白飛びが強く出たと思われます。第1現像の時間を5分20秒と設定しましたが、4分50秒ぐらいが妥当だったかもしれません。

 ただし、リバーサル現像してもこのフィルムらしい高コントラストの像は十分に保たれており、大きな品質の低下も感じられませんでした。
 黒と白だけで構成されたパターン的な描写を狙うのであれば効果的なフィルムではあると思いますが、やはり景色という視点からすると扱いの難しいフィルムです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回使用したCOPEX RAPID 50に限らず、モノクロフィルムをリバーサル現像するとポジ原版が得られるので、ライトボックスなどでそのまま鑑賞することができます。ネガを見るのとは全く違った感覚です。
 しかし、リバーサル現像してしまうと通常の紙焼き(プリント)はできなくなってしまいます。スキャナなどで読み取ってデータ化する分には問題ありませんが、紙焼きするのであれば通常のネガ現像にしておくべきで、私も時々、テスト的にリバーサル現像する程度です。
 また、スライドプロジェクターのような機器で大きく投影するにはポジ原版が必要ですが、残念ながら私はそのような機器を持ち合わせていません。スクリーンに大きく投影されれば、昔のモノクロ映画を見ているような感じで感動するかもしれません。

 なお、機会があればSilverSaltを使ってリバーサル現像してみたいと思います。

(2025.7.5)

#AGFA #COPEX_RAPID #D76 #アグファ #モノクロフィルム #リバーサル現像

第183話 アグファ AGFA のモノクロフィルム COPEX RAPID の使用感

 アグファ AGFA といえば世界で最初に内式のリバーサルフィルムを製造・販売した会社で有名ですが、いまから30年ほど前、アグファからはSCALA200というモノクロのリバーサルフィルムが販売されていました。個性的なフィルムを出す会社という印象がありました。今はADOXから若干のモデルチェンジをした製品がSCALAブランドで販売されているようです。
 実は、前々からAGFA COPEX RAPID というフィルムが気になっていたのですがなかなか使う機会がなく、ようやくそのフィルムを使って撮影が実現できましたのでご紹介します。

アグファのドキュメント用フィルム

 AGFA COPEX RAPID というフィルムはドキュメント撮影用というカテゴリーに分類されるようで、フィルムケースのラベルには「MICROFILM」と書かれています。すなわち、風景やポートレートなどを撮る一般的なモノクロフィルムではなく、本来は書類や図面などを記録するためのフィルムということのようです。
 ISO感度は50で、マイクロフィルムとしてみれば感度は高いと思いますが、一般的なフィルムからすると低感度です。

 今回使用したのはブローニーの120サイズフィルムで、通販で1本1,300円ほどで販売されていました。1本ずつプラスチックケースに入っており、そのキャップの上部には「Rollei」のロゴが入っています。
 また、ラベルには「MANUFACTURED BY AGFA GEVAERT N.V.」とあるので、フィルムの供給はドイツのマコという会社が行なっていますが、実際に製造しているのはベルギーにあるアグファ・ゲバルト社のようです。

 マイクロフィルムというとその用途から高い鮮明度と解像力が求められており、このフィルムも鮮明度や解像力は優れているようで、販売元のデータを見ると解像力は600本/mmとなっています。富士フイルムのモノクロフィルムACROSⅡの解像力はハイコントラスト時で200本/mmとのことですから、いかにCOPEX RAPIDの解像力が高いかがわかります。
 実際にウェブサイトなどに掲載されている作例を見ても、とてもハイコントラストで高解像度の写真に仕上がっていて、やはり、一般的なモノクロフィルムとは別物といった感じです。

 ドキュメント用フィルムだからといって風景が撮れないわけではないので、今回は神社仏閣と野草を対象に撮影をしてみました。

現像に関するデータ

 このフィルムの現像は専用の現像液として販売されている「シュプール Dokuspeed SL-N」が推奨となっていますが、私は持ち合わせていないので、今回はSilverSalt現像液を使うことにしました。
 SilverSaltは比較的使う頻度が高く、使いかけのボトルが手元にあるのですが、COPEX RAPIDを現像する際のデータがありません。あちこち調べてみたのですが的確な情報を得ることが出来ず、環境的にいちばん似通っているであろうと思われるデータをもとに現像条件を決めました。

 ということで、今回の現像条件は以下の通りです。

  ・現像液 : SilverSalt
  ・希釈 : 1 + 30 (原液1に対して水30)
  ・温度 : 20度
  ・現像時間 : 9分30秒
  ・撹拌 : 最初に30秒、その後60秒ごとに2回倒立撹拌

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というモデルなので、必要な現像液の量は約500mlです。SilverSaltの原液17mlと水510mlを合わせて527mlの現像液を調合しました。

 因みに、135フィルムの場合、撹拌は1回で大丈夫なようです。

 先日までの猛暑もひと段落して室内温度もそれほど高くないので、現像液の温度を20度に保つにはありがたい気温になっていました。いったん20度になれば、20分ほどであればそのまま放っておいても液温はほとんど変わることはありません。

 現像後の現像液はピンク色に染まっていました。
 また、フィルムベースはほぼ透明ですが、非常にカールが強い傾向にあります。乾かしてもクリップを外すとくるんと丸まってしまい、スリーブに入れてもスリーブ自体が丸まってしまうほど強力です。

 なお、停止液と定着液は富士フイルムの製品を使いました。

COPEX RAPID の作例

 現像が成功したのか、はたまたイマイチだったのか、正直なところ判断がつきませんが、まずまずの像が得られているようです。
 今回の撮影に使用したカメラはPENTAX67、使用したレンズは105mm、200mm、300mmの3本、そして一部に接写リングを使用しています。

 まず1枚目は、神社の参道の入口にある狛犬を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX-M 67 300mm F5.6 1/250

 狛犬とその隣にある石灯籠などには陽が当たっていますが、背後の神社の森は日陰になっていて、コントラストの高い状態です。肉眼では背後の森もしっかりとわかる明るさなのですが、写真ではほとんど黒くつぶれています。
 こうしてみてみると、確かにハイコントラストに仕上がっているのがわかります。ローライのRPX25というフィルムもハイコントラストの傾向がありますが、それよりももっとシャープな印象があります。

 2枚目は、お寺の山門脇の草むらに置かれていた小さなお地蔵様です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 200mm F5.6 1/500

 右側のお地蔵様にピントを合わせていますが、何と言ったらよいのか、お地蔵さまも着けている前掛けや帽子などの質感さえも変わってしまっているような感じを受けます。柔らかさのようなものはどこへやら失せてしまい、金属で作られたオブジェのようにも見えてきます。

 そして3枚目、神社の拝殿を撮影しました。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 67 105mm F16 1/8

 少しコントラストの低い被写体をということで、太陽に雲がかかっている状態で神社の拝殿を正面から写しました。画の下半分はだいぶ明るいのですが、上に行くに従って陰になっているので徐々に暗くなっています。
 前の2枚に比べると確かにコントラストは低いのですが、シャープさはしっかり残っているというか、とにかくエッジがしっかりと効いているといった感じの描写です。正面の格子戸や賽銭箱、壁板、回廊に張られた床板の木目など、まるで鋭い刃物の先で線を引いたような感じで写っています。

 次に、野草も何枚か写してみたのですが、はっきり言ってこちらの方が驚きました。

 まずは道端に咲いていた野菊、多分、柚香菊(ユウガギク)だと思います。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500

 順光状態での撮影なので背後の草むらももっと明るいのですが、花弁だけがひときわ白く、まるでたくさんの小さな花火が開いているようです。花の質感が失われており露出オーバー気味ですが、それを差し引いても驚くようなハイコントラストです。

 そしてこちらも野菊の仲間、野紺菊(ノコンギク)だと思われますが、数輪だけをアップにしてみました。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500 EX3

 前の写真に比べると光が弱いのと、こちらは露出オーバーにはなっていないのでコントラストは若干低めですが、作り物のような印象を受けます。やはり単に鮮明度が高いというだけでなく、エッジがピンと立っているという感じです。花特有の柔らかさなありませんが、これはこれで一つの表現方法かも知れません。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回は120フィルム1本、10コマだけの撮影でしたが、COPEX RAPIDというフィルムの特性を垣間見るには十分すぎるくらいでした。特に花を撮った写真の描写にはびっくりといった感じです。
 確かに風景写真や花の写真には不向きなフィルムかも知れませんが、一般的なモノクロフィルムでは味わえない独特な描写はとても印象的です。
 ただし、初めて使ったフィルムなので現像の特性等もわかっておらず、希釈率や現像時間、温度などを変えて何度か試してみる必要はありそうです。

 推奨されている現像、シュプール Dokuspeed SL-Nを使えばもう少し違う描写になるかも知れませんし、普段よく使っているD-76とかID-11などを使って現像すれば全く違う感じに仕上がるかも知れません。何種類かの現像液で試してみたい気もしています。

(2024.10.5)

#AGFA #アグファ #PENTAX67 #ペンタックス67 #モノクロフィルム #COPEX_RAPID