富士フイルムの中判カメラ FUJI GW690Ⅱ Professional

 かつて、富士フイルムからは多くのカメラが販売されていて、特に中判カメラに関しては様々なフォーマット向けのカメラがラインナップされていました。中でも69判のGW690、GSW690シリーズはベストセラー機という印象があります。最近はあまり見られなくなりましたが、観光地などで集合写真を撮る写真屋さんが使っていたイメージが強く残っています。
 もちろん集合写真専用というわけではありませんが、パノラマ写真を除けば中判で最大のフォーマットとフジノンレンズの組合せにより、高精細な写真が実現できるカメラです。

GW690Ⅱの主な仕様

 GW690シリーズは初代機からⅢ型まで3つのモデルが存在しますが、私の持っているカメラは2代目のⅡ型で、販売が開始されたのは1985年です。遡ること7年前の1978年に販売が開始された初代機GW690とは外観もよく似ていますが、3代目のGW690Ⅲになると曲線を多く取り入れたデザインになっており、だいぶイメージが変わりました。個人的には初代、もしくは2代目の無骨なデザインが好きです。
 なお、これらのシリーズの前身となるG690やGL690というモデルが存在していたのですが、私はいずれの機種も使ったことがありません。

 このカメラの主な仕様は以下の通りです。

  ・形式 : 69判レンジファインダーカメラ
  ・レンズ : EBC FUJINON 90mm 1:3.5 5群5枚 シャッター内臓
  ・シャッター速度 : T、1s~1/500s
  ・最小絞り : f32
  ・最短撮影距離 : 1m
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.75倍
  ・フィルター径 : 67mm
  ・使用フィルム : 120、220
  ・撮影可能枚数 : 8枚(120)、16枚(220)
  ・露出計 : なし
  ・電池 : 不要

 GW690シリーズは標準(90mm)レンズ、GSW690シリーズは広角(65mm)レンズを搭載したカメラで、いずれもレンズは固定式です。
 使用できるフィルムは120、220、およびハーフレングスの120の3種類が切り替えレバーで選択できるようになっていますが、現実的なのは120フィルムのみと言っても良いと思います。ハーフレングスの120フィルムは自作でもしない限り手に入らないでしょうし、220フィルムは中国で細々と製造しているという話しも聞きますが、あまり現実的とも思えません。幸いにも120フィルムはモノクロを中心に比較的種類もそろっているので、まだまだ十分にフィルム写真を楽しむことができるカメラだと思います。
 なお、フィルムを変更した時は裏蓋内側の圧板の位置変更も必要になります。

 また、このカメラは電池が不要で、すべてが機械式で稼動します。当然、電気式の露出計は装備されていませんし、電池のいらないセレン式の露出計もついていません。この辺りは潔いという感じがします。

 ブローニーフィルムを使い、さらに約9cmのアパーチャーを確保しなければならないので、カメラの筐体も必然的に大きくなりますが、プラスチックを多く用いてるせいか、実際に持ってみると見かけよりも軽く感じます。金属製の方が持った時の質感などが格段に良いのですが、この大きさのカメラを金属製にすると、持ち歩きにはしんどい重さになるように思います。

シンプルでわかり易い、かつ使い易い操作性

 最近のデジタルカメラのように、シャッターボタンさえ押せば撮影ができるというわけにはいきませんが、撮影にあたって操作が必要なのは、巻き上げレバー、絞り、シャッタースピード、およびピントリングのみです。このうち、巻き上げレバー以外はレンズに装備されているので、とてもわかり易いです。

 ピントリングの回転角度はおよそ90度なので、ピントリングを持ち変えることなく、無限遠から最短撮影距離まで回すことができます。重すぎず、軽すぎず、適度な重みをもって回転します。カメラ自体が大きいので、ピントリングがフワフワした感じだとピント合わせがしにくくなってしまいますが、ほんの1~2mmといったわずかな移動でも行き過ぎることはなく、ピタっと位置決めすることができます。
 また、ピントリングは若干、オーバーインフになっています。

 ファインダーは明るくてとても見易く、ブライトフレームはパララックス自動補正機能がついています。二重像合致式も見易くて、ピント合わせに苦労することはありません。基線長が影響しているのかどうかわかりませんが、二重像の動きが大きいので、ほんのわずかのずれも認識することができます。ただし、視野内に垂直線(縦線)がない場合は二重像がつかみにくくなります。

 フィルムの巻き上げはダブルストローク(2回巻き上げ)になっていますが、巻き上げストロークが多い分、巻き上げに要する力は少なくて済みます。PENTAX67と比べるととても軽く感じます。

 シャッターボタンは巻き上げレバーの上部と、カメラの前面の2箇所についており、使い易い方を使えば良いと思いますが、手持ち撮影の場合はカメラ前面のシャッターボタンを使った方がカメラのホールドは良いかもしれません。特に手があまり大きくない人(私もそうです)は、巻き上げレバー上部のシャッターボタンを押そうとすると、右の手のひらがカメラ底面から外れてしまいます。
 レンズシャッターなので振動は皆無と言っても良く、慣れればかなりの低速でも手持ち撮影が可能になります。

 大きなカメラではありますが、適度な大きさのグリップがついていたりして、持ち易さ(グリップ感)も考えられている感じです。縦位置に構えた時も、手のひらにしっかりと重心が乗る感じで、非常に安定した状態を保つことができます。

 また、69判というフォーマットは35mm判のアスペクト比とほぼ同じため、35mm判カメラを使い慣れた方にとってはほとんど違和感が感じられないのではないかと思います。

EBC FUJINON 90mm 1:3.5 の写り

 では、実際にGW690Ⅱで撮影した作例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目は、夕暮れの東京ゲートブリッジの写真です。若洲海浜公園から撮影しています。

▲東京ゲートブリッジ F11 1/250 PROVIA100F

 太陽がゲートブリッジと同じくらいの高さになり、橋がシルエットになるように狙いました。オレンジ色に焼けている西の空の輝きを損なわないよう、露出を決めました。
 また、恐竜のような形と橋の美しさが最も強く感じられる場所をと思い、防波堤に沿って行ったり来たりしながらこのポジションにしました。

 上の写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、橋の上を走る車や設置されている道路標識らしきもの、対岸に見える風力発電の風車やクレーンなどもはっきりと認識でき、解像度の高さが良くわかります。
 偶然に写し込まれたのですが、空を飛んでいる鳥も確認できます。部分拡大したのが下の写真です。

▲東京ゲートブリッジ(部分拡大)

 手持ち撮影ですが、1/250秒のシャッターを切っているのでブレはほとんど感じられません。

 この写真を撮る30分ほど前までは富士山が見えていたのですが、次第に雲が増え、残念ながら雲に隠れてしまいました。

 次の写真は青森県の種差海岸で撮影したものです。

▲種差海岸(青森県) F22 1/60 PROVIA100F

 海がとても深みとコクのある色になっていて、色の再現性においても優秀なレンズだと思います。岩の質感も良く出ているし、海面の波の一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度です。
 焦点距離が90mmとはいえ、F22まで絞り込んでいるので、手前の岩から遠景までピントが合っています。アスペクト比の大きなフォーマットなので、横の広がりを出しつつ、奥行きを感じる画作りのできるカメラという感じです。
 また、このように晴天の時は、絞りやシャッター速度の組合せの選択肢が多いので、手持ちで気軽にイメージの異なる写真を撮ることができるのもこのカメラの魅力です。

 さて、3枚目は山形県の銀山温泉で撮影したものです。

▲銀山温泉にて F5.6 1/30 PROVIA100F

 銀山温泉というと、レトロ感と風格が漂う温泉旅館が有名ですが、そんな温泉街の一角で偶然見つけた柴犬です。家の壁や玄関に通じる橋など、全体的に褐色の中で柴犬の赤茶色がとても綺麗なコントラストになっていました。
 板壁の木目や柴犬の毛並まではっきりとわかるくらいの解像度です。また、落ち着いた感じの色再現性も見事だと思います。
 さすがに、右側の手すりの手前側はピントが合わずにボケてしまっていますが、素直できれいなボケ方だと思います。
 絞りはF5.6ですが、周辺部でも画質の低下はほとんど感じられません。

 このカメラに搭載されているEBC FUJINON 90mm 1:3.5は文句のつけようのないくらいの解像度を持っていますが、私は色乗りの素晴らしさが特徴的だと感じています。同じFUJINONでも大判レンズとは違う、「こってりとした」という表現が当てはまるような色の乗り方です。とはいえ、ペンキを塗りたくったようなべったりとした感じはまったくなく、グラデーションなどもとても綺麗に再現されています。高い解像度と最適の組み合わせになっているといった感じです。
 EBC FUJINONは、11層のコーティングを施し、レンズ1面辺りの反射率は0.2%以下と言われていますが、そのコーティングのなせる業なのかも知れません。
 また、レンズ構成はガウスタイプらしいのですが、とても素直な写りをするレンズという印象です。

 69判というフォーマットを、そしてリバーサルフィルムの発色を十分に活かすことのできるレンズだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回ご紹介した3枚の写真はいずれも手持ち撮影ですが、衝撃のほとんどないレンズシャッターとカメラ自体のホールドの良さで、中判カメラながら三脚なしで幅広いシチュエーションに対応できます。
 120フィルムで8枚しか撮れないというランニングコストの高さはありますが、補って余りある写真が撮れること間違いなしといえるカメラだと思います。
 しっかり構えた作品作りにはもちろんのこと、スナップ感覚で気軽に使えるカメラでもあります。

 ただし、このカメラを首から下げて歩いているとかなり目立つようです。

(2022.9.16)

#FUJINON #フジノン #GW690#東京ゲートブリッジ #銀山温泉 #レンズ描写

シュナイダー Schneider APO-SYMMAR 150mmと、フジノン FUJINON W 150mmの写りの違い

 私が使っている大判レンズはシュナイダー Schneider とフジノン FUJINON がほとんどで、あとはローデンシュトックが少しと、ニコンや山崎コンゴー、あるいは昔のバレルレンズなどがそれぞれ2~3本ずつといったところです。シュナイダーもフジノンも初期のモデルはほとんど持っておらず、比較的後期に近いモデルが多いのですが、どちらのレンズもカリカリしすぎないシャープネスさや素直な写りが気に入っています。
 近年のレンズは性能が拮抗しているのでほとんど見分けがつきませんが、微妙な違いがあるのではないかということで、シュナイダーとフジノンのレンズの写りを比較してみました。
 見た目の写りの違いを比較しているだけで、精密な計測をしているわけではありませんのでご承知おきください。

レンズの仕様の違い

 ということで、今回、比較対象としたレンズは以下の2本です。

  シュナイダー APO-SYMMAR 150mm 1:5.6
  フジノン FUJINON W 150mm 1:5.6

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6(左) と、FUJINON W 150mm 1:5.6(右)

 この2本のレンズは仕様的にも非常に似通っています。
 主な違いですが、レンズ構成はシュナイダー APO-SYMMAR 150mmが4群6枚に対してフジノン FUJINON W 150mmが6群6枚、イメージサークルは220mm(f22)に対して224mm(f22)、フィルター径が58mmに対して55mm、全長が53.8mmに対して57mmといったところでしょうか。
 大きさもほとんど同じでコンパクトなレンズですが、フジノンの方がフィルター径が小さいのでこじんまりとした感じに見えます。
 どちらのレンズもイメージサークルが220mm以上ありますから、4×5判で通常の風景撮影をするには特に支障はありません。

 なお、フジノンの最終モデルであるCM FUJINON 150mmはフィルター径が67mmになったため、ずいぶんと大きくなった感じがします。

 また、今回使用した2つのレンズの焦点距離はともに150mmですが、APO-SYMMAR 150mmで被写体にピントを合わせた後、レンズをFUJINON W 150mmに交換するとピントの位置がずれているようで、ほんの僅か(たぶん、1mmの何分の一というくらいの微量)、レンズを引き込む必要がありました。これがレンズの焦点距離のわずかな違いによるものなのか、それともレンズボードの厚みの影響によるものなのかはわかりません。いずれにしても問題になるようなことではありませんが、参考までに。

発色や色調の違い

 では、2つのレンズで実際に撮影した写真を比較してみます。
 まずは、公園の雑木林を撮影したものです。カメラの位置を固定し、できるだけ時間差を置かずに2つのレンズで撮影しています。1枚目がAPO-SYMMAR 150mm、2枚目がFUJINON W 150mmです。いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っています。

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm F45 1/2 PROVIA100F
▲FUJINON W 150mm F45 1/2 PROVIA100F

 薄曇りの日の撮影なので、比較的フラットな光の状態です。1枚目の撮影と2枚目の撮影の間は1分あるかないかくらいですので、光の状態に大きな違いはないと思われます。

 わかり易いように2枚の写真を並べてみます。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 一見、ほとんど同じように見えると思いますが、APO-SYMMAR 150mm(左側)の方がわずかに暖色系になっているのがわかると思います。木々の緑がFUJINON W 150mm(右側)に比べると若干、黄色っぽく感じます。落ち葉や木の幹もAPO-SYMMAR 150mmの方が黄色に寄っているので、ちょっと明るく感じられます。
 また、APO-SYMMAR 150mmの方が色乗りがわずかにこってりとした感じに、FUJINON W 150mmの方がわずかにあっさりとした感じに見えます。

 もう一枚、桜の写真で比較してみます。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 雑木林の写真と同様に、APO-SYMMAR 150mmの方が暖色系の発色をしています。比べると、桜の花が黄色っぽく感じると思います。
 それぞれ単独で見ると区別がつきませんが、こうして並べてみるとわずかな違いがあります。

 デジタルカメラでも発色の違いが出るのかということで、大判カメラにアダプタを介してデジタルカメラで桜を撮影してみました。雨上がりで薄日が差している状態です。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 桜の花びらや左端の枝を見るとよくわかりますが、やはり、APO-SYMMAR 150mmの方が黄色っぽい発色になっています。

 このような発色の違いはレンズコーティングの違いによるものではないかと思われますが、確証はありません。
 かつて、35mm判カメラでCONTAXを使っていたことがあり、CONTAX用のレンズにはドイツ製と日本製があるのですが、ドイツ製のレンズの方が黄色っぽい発色をする印象がありました。レンズ構成などの仕様はまったく同じなので、やはりコーティングの違いではないかと思っていました。

ボケ方の違い

 次にボケ方の違いを比較してみました。
 まず、フィルムで撮影した桜の写真の一部を拡大したものです。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 左上の葉っぱがわかり易いと思うのですが、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っている感じです。一方、APO-SYMMAR 150mmの方は全体に柔らかくボケている感じがします。焦点距離は同じなのでボケの大きさに違いは感じられませんが、ボケの中の色の変化はAPO-SYMMAR 150mmの方がなだらかな印象です。

 デジタルカメラで撮影した桜の写真の部分拡大も比較してみます。
 同じく、左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 やはり、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っているのがわかります。ボケの大きさは変わりませんがAPO-SYMMAR 150mmの方がふわっとした感じに見えるのは輪郭の残り方の違いによるものと思われます。
 ただし、このボケ方の違いは拡大することでわかる程度で、写真全体を見た時には大きな違いは感じられません。強いて言えば、FUJINON W 150mmの方がボケの中に芯が残っているように感じられるくらいでしょうか。

わずかな特性の違いはあるが、秀逸なレンズ

 発色やボケ方にごくわずかの違いがありますが、比較してわかる程度の差です。比較をすれば好みが分かれるかもしれませんが、写りに関してはよく似ていると思いますし、どちらのレンズがより優れた写りをするかという差も見つけにくいと言ってよいと思います。
 解像度の測定などはしていませんが2つのレンズにほとんど差はないと思われ、いずれも素晴らしい写りをするレンズだと思います。

 この2本のレンズを使い分けるのは難しいというのが正直なところですが、赤とか黄色の被写体(例えば紅葉など)の場合はAPO-SYMMAR 150mmの方が向いているかも知れませんし、青色系の被写体の場合はFUJINON W 150mmの方がクリアな色になるかも知れません。
 しかしながら、写真を1枚だけ見せられても、私にはどちらのレンズで撮影したものなのかという判断はできません。どちらのレンズを使おうが素晴らしい写りをしてくれることは間違いのないことだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回のように同じ被写体をほぼ同じ条件で撮影してみて、ようやく、そのわずかな違いが明確になったという感じです。その違いを知ったからどうということもないのですが、数値的な特性の違いではなく、目で見てわかる特性の違いを知るというのはちょっと興味深いものではあります。
 機会があれば他のレンズでも比較してみたいものです。

(2022年4月19日)

#FUJINON #フジノン #Schneider #シュナイダー #レンズ描写

大判レンズのシャッター速度と絞りを実測

 大判カメラ用のレンズにはシャッターが組み込まれていて、絞り羽根もシャッターも電子制御とかではなく、すべて機械的に動くようになっています。バネや歯車、カムなどの組合せでこれらを正確に動かしているわけですから本当にすごいと思います。
 この機械式シャッターがどの程度の精度で機能しているのかを実測してみました。
 高精度の測定器を用いたわけではありません。あくまでも簡易的な測定ですので精度はそれほど高くないことをあらかじめお断りしておきます。

シャッター速度の測定方法

 シャッター速度の計測は下の図のような方法で行なうことにしました。

 シャッターが開いたり閉じたりする際に、光が透過、遮断される状態を感知するための装置(治具)が必要になりますが、これは自作します。この治具をレンズの下部に置き、レンズ上方から光をあてて、シャッターを切ったときの波形をオシロスコープでつかまえようというものです。
 治具の他に必要な機器類は安定化電源、オシロスコープ、LED照明、そして外光を遮断するための暗箱(これも自作)だけという簡単なものです。

 まず、シャッターの開閉を感知するための治具ですが、これはフォトトランジスタを使って実現することにしました。電子パーツの箱をかき回したところ、東芝製のフォトトランジスタ(すでに生産終了品)があったのでこれを使います。
 あとは抵抗器、端子台くらいがあれば何とかなりそうです。

 作成する治具は下の図のようなものです。

 細かな説明は省きますが、フォトトランジスタは光があたると電流が流れるというスイッチのような役目を果たしてくれます。このフォトトランジスタと抵抗器を上の回路図のように接続して、小さなケースに収めれば治具は完成です。フォトトランジスタの受光部に光があたるよう、ケースの上側に小さな穴を開け、ここにフォトトランジスタを差し込みます。
 上図右側の写真がケースに収めた状態ですが、ケースから出ている3本の電線のうち、赤と黒の線は電源に、黄色の線はオシロスコープに接続します。

 シャッターの開閉によりフォトトランジスタから流れる電流の波形は、角が取れた台形のような形をしています。

 台形波形の底辺の位置がシャッターが閉じている状態、上辺の位置が開いている状態になります。シャッターが開き始めてから開くまでの立ち上がり波形の1/2の位置、および、閉じ始めてから閉じきるまでの立下り波形の1/2の位置の間をシャッターが開いている時間(露光時間)とします。

シャッター速度の測定結果

 今回、計測対象としたレンズは、フジノンの大判レンズ「FUJINON W180mm 1:5.6」です。このレンズのシャッターにはコパルNo.1が使われており、シャッター速度は1~1/400秒まで、10段階あります。
 治具に外光があたらないようレンズを自作の暗箱に乗せ、上からLED照明をあてて計測します。

 実際に計測した結果は下記の通りです。
 それぞれのシャッター速度の位置で5回ずつ計測し、平均値、分散、偏差を求めてみました。

 オシロスコープの限界があるので、シャッター速度によって分解能(最小計測時間)を以下のように変えています。
  1~1/2秒   10ms
  1/4秒     5ms
  1/8秒     2ms
  1/15~1/30秒  200μs
  1/60~1/400秒 100μs

 この結果からもわかるように、低速側(1~1/8秒)では規格値よりも若干速め(開いている時間が短い)、高速側(1/15~1/400秒)では規格値よりも若干遅め(開いている時間が長い)という傾向があります。規格値に対して最もずれが大きいのが1/30秒の時ですが、それでも5.6%のずれですからかなり正確ではないかと思います。
 メーカーが規定している許容範囲がどのように設定されているのか詳しくは知りませんが、何年か前にこのレンズとは別のレンズを修理に出したことがありました。修理から戻ってきた際に検査結果表を見たら、シャッター速度は+30%~-20%くらいの許容値が書かれていたように記憶しています。
 規格値に対して30%のずれということは、大雑把に言うと絞りにして1/3段くらいに相当します。それくらいは許容範囲ということなのでしょう。

 それにしても、機械仕掛けだけでこれだけの精度を出すわけですから驚きです。

絞り開口部の測定方法

 次に、絞り羽根による開口部の測定です。
 これは開口部をデジカメで撮影し、その画像から開口部を多角形として近似的に面積を求めます。考え方を下の図に示します。

 任意の多角形(上の図では五角形)の頂点(P1~P5)と、任意の原点(P0)をプロットし、隣り合った2点ごとに原点からのベクトルの外積を求め、これを積算していくという方法です。
 この方法で任意の多角形の面積は以下の一般式で求めることができます。

 実際にレンズの開口部を撮影し、各頂点をプロットしたのが下の写真です。

 ここでは28点をプロットしています。絞り羽根の内縁は弧を描いているので、厳密にはもっと多くの頂点をプロットすべきですが、そこまでやっても有効値は得られないだろうということで28点にしました。
 各頂点の座標は、原点からの画像の画素数で求めています。
 上の写真は約1,600万画素のデジカメで撮影したものを若干トリミングしています。トリミング後の長辺が約4,480画素あり、この画素数で写している長さは約210mmですので、計算上の分解能は約0.047mmということになります。

 そして、この画像から各頂点間の長さを求めるため、基準として外側ジョウを40mmに開いたノギスを写し込んでいます。このノギスのジョウ間の画素数をもとに各頂点間の長さ(ベクトル)を求め、上の計算式にあてはめて開口部の面積を算出します。

絞り開口部の測定結果

 測定に用いたレンズはシャッター速度の計測に使ったのと同じ「FUJINON W180mm 1:5.6」です。このレンズの絞り羽根枚数は7枚です。測定対象はF5.6~F45までの7点です。なお、レンズの後玉を外して撮影しています。

 測定結果は以下の通りです。

 絞りは1段絞るごとに開口部の面積が半分になるので、F5.6のときの開口部面積を基準にして、各絞り値の時の比率を出してみました。いずれも基準値に対して±6%以内におさまっています。シャッター速度と同様に、この程度のずれに納まっているというのはやはり驚きです。
 最小絞りあたりになると開口部の形状が崩れてしまうレンズを見かけることがありますが、このレンズはF45まで絞っても、元の形と同様に比較的綺麗な7角形を保っていました。 

 露出はシャッター速度と絞りの組合せで決まるので、今回の測定結果からすると、それらの組み合わせで最もずれが大きくなるのが絞りF45、シャッター速度1/30秒の時で、露出がおよそ10%増えてしまうことになります。10%というのは通常の撮影ではほとんど気にならない誤差の範囲だと思います。
 シャッター速度や絞りが正常に機能せず、規格値から大きくずれてしまうと露出オーバーや露出アンダーの写真になってしまうわけですが、出来上がった写真を見てそれがわかるというのは、それぞれ50%以上のずれが生じている状態だと思われます。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回、大判カメラ用のレンズのシャッター速度と絞りを実測してみましたが、素人が簡易的に計測しているので計測誤差はかなりあると思います。ですが、それを差し引いても傾向はつかめたのではないかと思います。
 手持ちのレンズすべてを計測するのは時間もかかり大変ですが、レンズを修理したり清掃した後に確認の意味で計測してみるのは価値があると思います。

(2022年1月25日)

#フジノン #FUJINON #シャッター速度 #絞り

フジノン 大判レンズ FUJINON T 400mm 1:8

 フジノンの大判カメラ用長焦点レンズです。富士フィルムからは、Tシリーズと呼ばれるテレフォトタイプのレンズが3種類(300mm、400mm、600mm)が販売されていましたが、そのうちのひとつです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ220mm(f22)
   最大包括角度    : 31度
   最大適用画面寸法  : 5×7
   レンズ構成枚数   : 5群5枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.1
   シャッター速度   : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ54mm
   フランジバック   : 252.4mm
   バックフォーカス  : 220.5mm
   全長        : 127.5mm
   重量        : 600g

FUJINON T 400mm 1:8

 このレンズを4×5判で使った場合の画角は、35mm判カメラに換算すると115~120mmくらいのレンズに相当します。
 フジノンTシリーズの特徴は、レンズ構成がテレフォトタイプになっているため、焦点距離に対してフランジバックが短いという点です。これにより、蛇腹を大きく繰出せないカメラでも使用することができます。概ね、300mmくらいの繰出しができきるカメラであれば、通常の撮影には支障がないと思われます。

 一方、その構造上、イメージサークルは小さくなってしまいます。同じフジノンのWシリーズであるW360mmというレンズのイメージサークルは485mmもあり、大四ッ切を楽々カバーする大きさがありますので、その違いは歴然としています。とはいえ、風景撮影には十分なイメージサークルです。
 また、レンズの重量も600gと、かなり重いです。特に前玉側が大きくて重いのに対して後玉側は小さいので、レンズを持った時にアンバランス感があります。カメラに取付けた際も、フロントティルトをしっかりロックしておかないとガクッと首を下に振ってしまいそうです。

 一般的に焦点距離が300mmを超えると、コンパクトタイプを除いてはシャッターもNo.3が使用されることが多いのですが、このレンズはNo.1なのでレンズボードからはみ出すようなこともなく、カメラによっては装着不可、というような問題も起きないと思います。

風景撮影にはぜひ欲しい焦点距離

 300mm~400mmの焦点距離のレンズは、風景撮影においてぜひとも携行したいレンズの1本です。広い風景の中の一部を切り取る、狭い画角による圧縮効果を出す、大きなボケを出すなど、長焦点レンズならではの作画ができるので、少々重いですがカメラバッグには入れておきたいレンズです。
 画角は35mm判カメラの120mmくらいのレンズなので、超望遠というほどではないと感じるかも知れませんが、あくまでも焦点距離は400mmなので、画角は同じといっても35mm判カメラ用120mm前後のレンズとは全く別物といった感じです。浅い被写界深度ですが、フォーカシングスクリーン上でピントがスーッと立ってくるのは長焦点ならではです。

 遠景であればある程度絞り込むことでパンフォーカスにできますし、近景や中景では浅い被写界深度を活かして主要の被写体を浮かび上がらせることができ、いろいろな応用の利くレンズであると思います。
 ただし、あまり近い被写体の撮影(マクロ撮影など)は蛇腹の限界があるので向いていません。

 このレンズを着けて4×5判で撮影する場合、約1km離れたところから東京タワーを望むと、ちょうどフィルムの短辺方向いっぱいに東京タワーが収まるという感じです。

 また、開放でF8と若干暗めですが、フォーカシングスクリーンの周辺部でも光の入射角度は比較的垂直に近いため、見にくくなるということもありません。これは、フィールドでピント合わせをする際にとても助かります。

FUJINON T 400mmで撮影した作例

 下の写真は、このレンズで桜と新緑を撮ったものです。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T 400mm 1:8 F45 1/4 Velvia100F

 いちばん手前にある新緑、その後ろにある満開の桜、さらにその後ろにある芽吹いて間もない淡い色の新緑、そして背後にある山の斜面の重なりを、狭い画角による圧縮効果で表現しました。手前の新緑と背後の山までの距離はかなり離れているので、F45まで絞り込んでいます。
 また、新緑の明るさを出すため、若干、露出を多めにしています。
 なお、アオリは使用していません。

 私が持っているレンズの中ではこれが最も長い焦点距離ですが、450mmや600mmというレンズも使ってみたいと思っています。しかし、カメラの蛇腹が追い付いていけないので、残念ながらこれまで実現していません。凸ボードを使用すれば何とか使えるようになりそうですが、嵩上げの大きなものが必要になりそうです。機会があれば自作してみようと考えています。

(2021.3.26)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

フジノン 大判レンズ FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 フジノンの大判カメラ用レンズの最終モデルとなってしまったCM Wideシリーズのうちの1本です。CM WideシリーズはWシリーズの後継モデルで、105mmから450mmまで10本がラインナップされていました。

レンズの主な仕様

 フィルターワークを容易にするために105mm~250mmまではアタッチメントサイズが67mmに統一されていました。W105mmのフィルターサイズは46mmでしたので、それと比べると前枠が大きく広がっており、図体はずいぶん大きくなったように感じます。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ174mm(f22)
   最大包括角度    : 78度
   最大適用画面寸法  : 4×5
   レンズ構成枚数   : 5群6枚
   最小絞り      : 45
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ42mm
   フランジバック   : 103.4mm
   バックフォーカス  : 92.8mm
   全長        : 51.6mm
   重量        : 220g

 このレンズを4×5判で使った場合、画角は35mm判カメラでいうと30mmくらいのレンズに相当します。イメージサークルはΦ174mm(f22)で、W105mmのΦ162mmと比べると大きくなったとはいえ、シリーズの中では最も控えめな値です。
 前モデルのW105mmのイメージサークルはほとんど余裕がなく、4×5判で撮影する場合、フロントでのアオリは実質的に使えないという感じでしたが、こちらのレンズは若干の余裕があり、4×5判で横位置撮影の場合、フロントライズで約13mm、フロントシフトで約11mmが可能です。

富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ

 アタッチメントサイズが統一されたのは良いのですが、レンズボード面からレンズ先端までの長さ(高さ)にくらべて前枠径が大きいので、これが邪魔になってシャッター速度のリングが非常に回しにくくなってしまっていますし、刻印されたシャッター速度もとても見難くなってます(下の写真はレンズの下側から撮影したものなのでシャッター速度の目盛りが良く見えますが、レンズ上側からは非常に見難いです)。

FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm

 しかしながら、若干の使いにくさはあるものの、収差は全くと言ってよいほど感じられませんし、解像度も極めて高いレンズだと思います。
 富士フイルムのホームページにはフジノンの歴史エピソードとして次のように掲載されています。
 「1994年、FUJINONは大判カメラ用レンズの最新型となるCM FUJINONシリーズのラインナップ10本を完成させる。
1951年に、リリースされ始めたFUJINON大判カメラ用レンズは、40年の技術革新を経て完成を見たとも言える。それは、Professionalの求める”最高画質”の一つの到達点でもある。
今まで本連載でもとりあげたように、設計技術の進化があり、そして非球面レンズ、EDガラスレンズなどの新たな硝材の開発、コート技術の革新などが、絶え間なく繰り返されてきた。FUJINON大判カメラ用レンズの最終型に冠されたNamingは”CM”。それはCommercialを意味する。ProfessionalがProfessionalとしての報酬を得る業務、つまり”Commercial 写真の現場”で使用されるためのレンズ。」

 富士フイルムが威信をかけて世に送り出したレンズ、ということが感じられます。

CM Wide 105mmで撮影した作例

 上にも書いたようにイメージサークルは大きくないのであまり大きなアオリは使えませんが、ストレートに風景を写すには全く問題はありません。4×5判で使用すると対角画角が72度の広角レンズになりますが、風景を撮るには広すぎず、使い易い画角だと思います。アオリを使わなくても絞り込めば被写界深度は深くなりますし、絞りを開けば程よいボケも得られます。

 下の写真は、このレンズで冬の滝を撮ったものです。

魚止めの滝 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 手前の落ち葉もくっきりと写したかったので、F32まで絞り込み、わずかにフロントティルトのアオリをかけています。逆光での撮影ですがコントラストも良く出ていますし、画面の周辺部でも見事に解像していると思います。詳細はわかりませんが、CMシリーズになってレンズコーティング技術もかなり向上しているらしく(11層のコーティングがされているという話しもありますが、定かではありません)、その効果も大きいのかもしれません。

 この構図をもう少し離れたところから長めのレンズで撮ると、滝の力強さは増すと思うのですが広がりが希薄になってしまい、逆にもっと近づいてより広角で撮ると散漫になってしまうということで、ここではこのレンズの画角が最適という感じでした。

 手前の落ち葉のあたりを拡大したのが下の写真です。

魚止めの滝(部分拡大) Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 1:5.6/105mm F32 1s Velvia100F

 画面ではうまくお伝え出来ないのが残念ですが、濡れた落ち葉の質感なども見事にとらえられており、このレンズの描写力の高さがわかるのではないかと思います。

 このレンズに限ったことではありませんが、こういう素晴らしい描写をする大判レンズが生産終了になってしまったのはやはり寂しく思います。

(2021.2.2)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

フジノン 大判レンズ FUJINON SWD 1:5.6/75

 フジノンの大判用レンズです。SWD(Super Wide Delux)シリーズは65mm、75mm、90mmの3種類が発売されており、これはそのうちの一つです(もちろん、すでに販売終了になっていますが)。

レンズの主な仕様

 4×5判で使用した場合、35mm判に換算すると21mmくらいのレンズの画角になりますので、超広角に分類されるレンズです。最大包括角度は105度、イメージサークルは196mm(f22)あり、キャビネ判まで対応していますが決してゆとりがあるというわけではありません。横位置撮影の際のライズ可能範囲は26mmほどで、大きなアオリを使おうとするとケラれてしまいますので注意が必要です。

FUJINON SWD 1:5.6/75

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ196mm(f22)
   最大包括角度    : 105度
   最大適用画面寸法  : キャビネ
   レンズ構成枚数   : 6群8枚
   最小絞り      : 45
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ70mm
   フランジバック   : 85.1mm
   バックフォーカス  : 53.4mm
   全長        : 76.0mm
   重量        : 400g

ベッドの写り込みを防ぐ

 このレンズをリンホフマスターテヒニカ45で使用する場合は、横位置でも無限遠時はベッドがわずかに写り込んでしまいますので、ベッドダウンかライズが必要になります。しかし、撮影するポジションまでレンズを繰り出すとUアーム(レンズ支柱)がボディトラックと繰出しトラックの両方にかかってしまい、ベッドダウンができません。これを回避するためには凹みレンズボードを使って、Uアームがボディトラックから完全に外れ、繰出しトラック上にある状態にするか、もしくは、逆にUアームをボディトラック上に置いて、カメラのバック部を引っ張り出すかをしなければなりません。ただし、後者の場合はピント合わせに苦しみます。
 私の使っているレンズボードは通常のフラットなタイプですので、少しだけライズをしてお手軽に済ませてしまっています。(ちなみに、マスターテヒニカ2000の場合はボディトラックが移動するような機構が組み込まれており、Uアームをボディトラックだけに乗せて使えるのでずいぶん便利です)

大きな後玉外枠径

 F5.6の大口径ですので明るくて使い易いですが、レンズ単体で400gあり、結構重いです。また、後玉の外枠径が70mm(前玉の外枠径と同じです)もあるため、リンホフマスターテヒニカやウイスタ45では問題ありませんが、ホースマン45FAの場合はレンズ取付け部の穴径が小さくて入りません。どうしても取り付けたい場合はいったん後玉を外し、蛇腹の後方から手を突っ込んで後玉を取り付けるという面倒なことをしなければなりません。
 下の写真はSWD75mm(左)とW210mm(右)を真横から見た状態です。SWD75mmの後玉が大きいのがわかると思います。

FUJINON SWD75mm & FUJINON W210mm

 このレンズは建築やインテリアなどの撮影に使われることが多いのかもしれませんが、私はそういった写真を撮ることはほとんどなく、もっぱら風景撮影に使っています。手前から広がりのある風景をパンフォーカスで撮ることができるので、インパクトのある写真にすることができます。超広角といえども焦点距離は75mmあるわけですから、よほど間近なものでも撮らない限り、パースが強すぎることによる歪みは抑えられていると思います。超広角レンズの特徴であるパースをあえて出したい場合は極端に近寄るか、もしくは、より短焦点のレンズを使う必要があります。

作例 青森県下北半島 仏ケ浦

 同じフジノンの大判レンズの中でもこのSWDシリーズのレンズは、Wシリーズのレンズと比べるとコクのある色乗りと言ったらいいのか、若干こってりとした印象があります。決して嫌みのあるこってり感ではなく、ヌケの良いクリアな色乗りが特徴のレンズではないかと思います。

 下の写真は青森県の仏ケ浦で撮影したものです。

仏ケ浦(青森県)  Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6  F45 1/8 PROVIA100F

 早朝に撮影したのでまだ太陽の光が若干赤みを帯びていますが、空と雲と岩のコントラストが綺麗に出ていると思います。中央右寄りの「如来の首」という名前がついている岩の高さは15mほどあります。この如来の首ももちろんですが、左端の岩も垂直に立たせたかったので、このレンズのギリギリまでライズしてカメラをできるだけ水平に近く保っていますが、もう少しイメージサークルが欲しいというのが正直なところです。画面ではよくわからないと思いますが、解像度でも色再現性においても、さすがFUJINONといった描写力だと思います。

 大判カメラに67判のフィルムホルダーを着けてこのレンズで撮影する場合は、35mm判換算で35~38mmのレンズに相当する画角になりますので、標準的な広角レンズといったところです。重いレンズではありますが、広い風景を切り取ったりパースペクティブを活かしたり、いろいろなシチュエーションで使えるレンズであり、重宝しています。

(2020.11.8)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写