シュナイダー Schneiderの大判レンズ クセナー Xenar 210mm 1:6.1 テッサー型レンズの写り

 テッサー Tessar は言わずと知れた、今から100年以上も前にカール・ツァイスから世に出たレンズです。世の中にはたくさんの銘玉と言われるレンズがありますが、知名度の高さではテッサーがいちばんではないかと思います。オリジナルのテッサーに若干の変更を加えたテッサータイプといわれるレンズをほとんどのメーカーが発表しており、誰もが使える優れたレンズだということが伺い知れます。
 シュナイダーからは「クセナー Xenar」という名称でテッサータイプのレンズがラインナップされており、大判用の他にローライのカメラに採用されているのは有名です。

クセナー Xenar 210mm 1:6.1の主な仕様

 大判用のクセナーは、焦点距離75mmから480mmまでが揃っていたようで、210mmのレンズはF4.5とF6.1の2種類があります。私が持っているレンズはF6.1の方で、シリアル番号からすると1978年頃に製造されたレンズのようです。製造から45年ほどが経過したといったところです。
 追記:このページをご覧いただいた方から、もっと古い時代の大判用クセナーの210mmには、F3.5、F5.5(後にF5.6)も存在していたと教えていただきましたので、追記させていただきます。

 ちなみに、「Xenar」という名前は、原子番号54の元素である「キセノン」が由来のようですが、どういった意図でこの名前にしたのかはよく知りません。海外のレンズにはそれぞれ名前がつけられているものが多く、なんとなく親しみを感じます。

 主な仕様は以下の通りです。

  イメージサークル : Φ246mm(f22)
  レンズ構成枚数 : 3群4枚
  最小絞り : 32
  シャッター  : COPAL No.1
  シャッター速度 : T.B.1~1/400
  フィルター取付ネジ : Φ46mm
  前枠外径寸法 : Φ47.9mm
  後枠外径寸法 : Φ41.8mm
  全長  : 49.9mm
  
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当しますので、ちょっと長めの標準レンズといった感じです。
 シャッターは1番を使っていますが、テッサー型らしい小ぶりで薄型のレンズです。同じシュナイダーのジンマーやフジノンのW210mmなどと比べると二回りくらいは小さいと思われます。

 イメージサークルは246mm(F22)あるので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。
 開放絞りはF6.1で、F5.6から1/4段ほど暗いですが、無理して明るくしていない潔さのようなものを感じます。大判レンズの場合、開放F値が5.6というレンズが比較的多いですが、それに比べて1/4段ほど暗くても、実際に使用するうえで支障になることはあまりありません。
  (念のためにつけ加えますが、1/4段程度の露出は無視しても良いという意味ではありません。リバーサルフィルムで1/4段違えば、その差ははっきりとわかります。F6.1であっても使用上、特に困ることはないという意味ですので、誤解のないようにお願いします。)
 また、最小絞りの目盛りはF32となっていますが、絞りレバーは更に先まで動かすことができ、F64くらいまで絞り込めると思います。
 絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはありません。

 この時代のコパルのシャッターは金属の質感がプンプンに漂っていて、シャッター速度切り替えダイヤルのちょっと重い感触が気に入っています。一方、絞りを動かすレバーは小さくて、あまり使い易いとはいえませんが、適度な重さがあり、1/2段とか1/3段というようなわずかな動きにも絞り羽根は正確に反応してくれます。

4枚のレンズで実現されたシャープな描写

 テッサーと言えば、ピント面のシャープさや美しいボケ、歪曲の少なさなどの特徴が挙げられています。今の時代においては当たり前の写りかも知れませんが、当時は驚異的な描写をするレンズとして評価されていたのでしょう。設計や製造技術の進歩に伴い、テッサーはどちらかというと安価なグレードに使われてきたという印象もありますが、その写りが色褪せていないというのはたくさんのテッサータイプのレンズが作り続けられてきたことからも明らかなことだと思います。

 私が持っているシュナイダーのクセナーはこの1本だけしかなく、いわゆるクセナーの特性のようなものは把握していませんが、シャープで素直な写りのレンズという印象です。言い換えれば際立った特徴がないとも言えますが、私が主な被写体としている風景を撮るには、あまり癖がない方が望ましいと思っています。そして、210mmとは思えない小ぶりなレンズであり、携行性は抜群です。

 では、このレンズで撮影した写真を何枚か紹介します。

 下の写真は福島県の小峰城です。ちょうど桜が満開の時に撮りました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 1/8 PROVIA100F

 撮影したのは午前8時ごろで、背後から光が差し込んでおり、ほぼ順光の状態です。手前の桜とお城の両方にピントを合わせたかったので、バックスイングのアオリをかけています。
 そつのないシャープな写りという感じです。エッジが立ちすぎることもなく、立体感も損なわれることなく、まさに素直な写りという表現がピッタリです。桜の色が濁らないようにギリギリまで露出をかけていますが、枝の先端や花芯までしっかりと解像しています。発色の仕方も嫌味がなく、ナチュラルカラーといった感じです。
 また、周辺部でも画質の低下はあまり感じられず、全体に渡って均一な描写をしている印象ですし、コントラストも良好で締まりの良い画質になっていると思います。解像度は若干低めかという感じもしますが、まずまずといったところでしょう。

 焦点距離の短いレンズ(例えば90mmとか75mmなど)でこのような構図で撮ると、被写体との距離によっては周辺部が若干流されるような描写になることがありますが、210mmという焦点距離はそういったことがないので、違和感のない自然な感じの画作りができます。

 クセナーのボケ具合がわかるようにということで撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F6.1 1/30 PROVIA100F

 渓流をバックにしてカエデの若葉を撮影したものです。
 主被写体であるカエデの葉っぱと背景との距離があまり大きくないのと、絞りは開放にしているとはいえ、F6.1ですから大きなボケは期待できません。ボケ方としては悪くはないと思いますが、ちょっと硬い感じがします。もう少し被写体に近づいた状態で撮影すればボケ方も随分変わってくると思うのですが、これ以上近づくことができませんでした。ただし、背景の様子がわかるにはこれくらいの距離関係の方が良いのかもしれません。背景が暗く落ち込んでいることもあって、カエデの葉っぱが浮かび上がっているような感じを受けます。

 カエデの葉っぱの描写はとてもシャープですが被写界深度は浅く、奥の方の葉っぱにはピントが合っていませんが、奥行き感は出ていると思います。ピント面はキリッとしていますが硬すぎず、カエデの若葉の質感が良く出ています。じっと見ていると、枝先がかすかに揺れているような錯覚に陥ります。
 ピントが合っているところから合っていないところに向ってなだらかにボケており、綺麗なボケと言えるのではないかと思います。
 色乗りも自然な感じで、この季節ならではの新緑の柔らかさが感じられます。

 次は、昨年の秋に撮影した紅葉の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 2s PROVIA100F

 埼玉県の中津峡にあるカエデの大木で、「女郎もみじ」という名前がついています。渓流の上に覆いかぶさるように枝を伸ばしており、妖艶さが漂う紅葉です。
 ここは周囲を山に囲まれているため陽が差し込む時間は短く、晴天の日でも日陰になっている時間帯が多い場所です。そのため、輝くような紅葉よりも、しっとりとした色合いの紅葉を撮影することができる場所です。赤く染まった紅葉もさることながら、苔むした幹が存在感を放っていて、紅葉と幹のコントラストが何とも言えない美しさをつくり出しています。

 弱い風があったため、木の枝などは被写体ブレを起こしているところもありますが、全面に渡ってシャープな画質になっていると思います。シャープでありながら硬調になり過ぎない描写はとても好感が持てます。
 晴天にもかかわらず陽が回り込んでいないため若干の青被りをしていますが、不自然さが感じられない鮮やかな発色をしています。

 この写真ではアオリは使っていませんが、手前から奥の方までこれくらいの距離であれば、絞り込むことでほぼ全面を被写界深度内に入れることができます。
 撮影した場所は道路脇なのでこれ以上、引くことはできないのですが、画角的には焦点距離180mmくらいのレンズの方が良かったかもしれません。

 このレンズはコントラストが良いので、シャープで締まりのある描写が得られますが、解像度は特に高い感じはしません。むしろ、若干低めかも知れません。最近のデジカメのように、フィルムをはるかにしのぐ解像度を持ったカメラで撮り比べると顕著にわまるかも知れませんが、フィルムを使っている限りにおいては問題になるほどではないと思います。

アポ・ジンマーと比べると若干あっさりとした色合いのレンズ

 クセナーはこの1本しかもっていないのは上にも書きましたが、クセナーに対して私が持っている印象は、シュナイダーの他のレンズに比べて色の出方が控えめということです。他のレンズと言ってもシュナイダーのすべてのブランドを持っているわけではないのですが、私が主に使っているアポジンマーと比べると、若干あっさり系の発色という感じです。
 私の持っているアポジンマーは1990年台の半ばごろに製造されたものなので、今回のクセナー210mmよりも15~6年後になります。そのため、コーティングの違いもあると思われ、実際に前玉を見た時の色の感じが違います。アポジンマーの方が濃い紫色をしているように見えます。

 ということで、アポジンマー APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 と比較をしてみました。
 あまり細かな比較をするつもりはなく、主に見た目の印象が違うかどうかという視点で見ていただければと思います。

 下に掲載した2枚の写真は、近くの公園で撮影したものですが、1枚目(上)がクセナー210mm、2枚目(下)がアポジンマー210mmです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F22 1/30 PROVIA100F
▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 F22 1/30 PROVIA100F

 まず、全体を見た時の印象ですが、アポジンマーの方がわずかに色乗りが濃い感じがします。逆の言い方をするとクセナーの方があっさりとした色合いということです。2枚の写真撮影時の光線状態にほとんど違いはないと思いますが、地面の草の色や奥の木の幹の色を比較すると違いがわかり易いと思います。
 しかし、これらは比べてわかることであり、1枚だけ見せられてもどちらのレンズで撮影したものか判断できるほどの違いではありません。アポジンマーのコクのある色も良いが、クセナーのすっきりとした色も良いといった感じで、あとは好みでしょうか?

 また、解像度については、この程度のラフな写真ではほとんど見分けることは困難ですが、拡大した画像で比較してみるとアポジンマーの方が解像度は高いのがはっきりとわかります。しっかり調べようとするのであれば解像度テストチャートなどを使う必要があると思われますが、もう少し突っ込んだ比較は別の機会にやってみたいと思います。

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 半世紀近くも前に作られたレンズで、私が持っている大判レンズの中では、100年以上も前のバレルレンズを除けば古い方のレンズになります。比較的近年に作られた大判レンズと比べると外観のデザイン的な違いはありますが、それも味わいの一つであり、今でも十分に使えるレンズであることは間違いありません。
 いわゆるオールドレンズの部類に入りますが、特有の癖のある写りを求めるのには向いていません。ですが、素直にしっかりと写したいというのであれば、期待を裏切ることはないと思います。
 今回、逆光状態で撮影した写真がないのですが、もしかしたら、そのような条件が良くない状態ではもっと違いが出るのかもしれません。

 他の焦点距離のクセナーも使ってみたいと思っているのですが、個体数が少ないのか、中古市場でもあまり見かけません。いつか、運よく巡り合ったらゲットしたいなぁと...

(2023.4.21)

#Schneider #Linhof_masterTechnika #シュナイダー #リンホフマスターテヒニカ #Xenar #クセナー #レンズ描写

シュナイダー Schneider APO-SYMMAR 150mmと、フジノン FUJINON W 150mmの写りの違い

 私が使っている大判レンズはシュナイダー Schneider とフジノン FUJINON がほとんどで、あとはローデンシュトックが少しと、ニコンや山崎コンゴー、あるいは昔のバレルレンズなどがそれぞれ2~3本ずつといったところです。シュナイダーもフジノンも初期のモデルはほとんど持っておらず、比較的後期に近いモデルが多いのですが、どちらのレンズもカリカリしすぎないシャープネスさや素直な写りが気に入っています。
 近年のレンズは性能が拮抗しているのでほとんど見分けがつきませんが、微妙な違いがあるのではないかということで、シュナイダーとフジノンのレンズの写りを比較してみました。
 見た目の写りの違いを比較しているだけで、精密な計測をしているわけではありませんのでご承知おきください。

レンズの仕様の違い

 ということで、今回、比較対象としたレンズは以下の2本です。

  シュナイダー APO-SYMMAR 150mm 1:5.6
  フジノン FUJINON W 150mm 1:5.6

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6(左) と、FUJINON W 150mm 1:5.6(右)

 この2本のレンズは仕様的にも非常に似通っています。
 主な違いですが、レンズ構成はシュナイダー APO-SYMMAR 150mmが4群6枚に対してフジノン FUJINON W 150mmが6群6枚、イメージサークルは220mm(f22)に対して224mm(f22)、フィルター径が58mmに対して55mm、全長が53.8mmに対して57mmといったところでしょうか。
 大きさもほとんど同じでコンパクトなレンズですが、フジノンの方がフィルター径が小さいのでこじんまりとした感じに見えます。
 どちらのレンズもイメージサークルが220mm以上ありますから、4×5判で通常の風景撮影をするには特に支障はありません。

 なお、フジノンの最終モデルであるCM FUJINON 150mmはフィルター径が67mmになったため、ずいぶんと大きくなった感じがします。

 また、今回使用した2つのレンズの焦点距離はともに150mmですが、APO-SYMMAR 150mmで被写体にピントを合わせた後、レンズをFUJINON W 150mmに交換するとピントの位置がずれているようで、ほんの僅か(たぶん、1mmの何分の一というくらいの微量)、レンズを引き込む必要がありました。これがレンズの焦点距離のわずかな違いによるものなのか、それともレンズボードの厚みの影響によるものなのかはわかりません。いずれにしても問題になるようなことではありませんが、参考までに。

発色や色調の違い

 では、2つのレンズで実際に撮影した写真を比較してみます。
 まずは、公園の雑木林を撮影したものです。カメラの位置を固定し、できるだけ時間差を置かずに2つのレンズで撮影しています。1枚目がAPO-SYMMAR 150mm、2枚目がFUJINON W 150mmです。いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っています。

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm F45 1/2 PROVIA100F
▲FUJINON W 150mm F45 1/2 PROVIA100F

 薄曇りの日の撮影なので、比較的フラットな光の状態です。1枚目の撮影と2枚目の撮影の間は1分あるかないかくらいですので、光の状態に大きな違いはないと思われます。

 わかり易いように2枚の写真を並べてみます。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 一見、ほとんど同じように見えると思いますが、APO-SYMMAR 150mm(左側)の方がわずかに暖色系になっているのがわかると思います。木々の緑がFUJINON W 150mm(右側)に比べると若干、黄色っぽく感じます。落ち葉や木の幹もAPO-SYMMAR 150mmの方が黄色に寄っているので、ちょっと明るく感じられます。
 また、APO-SYMMAR 150mmの方が色乗りがわずかにこってりとした感じに、FUJINON W 150mmの方がわずかにあっさりとした感じに見えます。

 もう一枚、桜の写真で比較してみます。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 雑木林の写真と同様に、APO-SYMMAR 150mmの方が暖色系の発色をしています。比べると、桜の花が黄色っぽく感じると思います。
 それぞれ単独で見ると区別がつきませんが、こうして並べてみるとわずかな違いがあります。

 デジタルカメラでも発色の違いが出るのかということで、大判カメラにアダプタを介してデジタルカメラで桜を撮影してみました。雨上がりで薄日が差している状態です。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 桜の花びらや左端の枝を見るとよくわかりますが、やはり、APO-SYMMAR 150mmの方が黄色っぽい発色になっています。

 このような発色の違いはレンズコーティングの違いによるものではないかと思われますが、確証はありません。
 かつて、35mm判カメラでCONTAXを使っていたことがあり、CONTAX用のレンズにはドイツ製と日本製があるのですが、ドイツ製のレンズの方が黄色っぽい発色をする印象がありました。レンズ構成などの仕様はまったく同じなので、やはりコーティングの違いではないかと思っていました。

ボケ方の違い

 次にボケ方の違いを比較してみました。
 まず、フィルムで撮影した桜の写真の一部を拡大したものです。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 左上の葉っぱがわかり易いと思うのですが、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っている感じです。一方、APO-SYMMAR 150mmの方は全体に柔らかくボケている感じがします。焦点距離は同じなのでボケの大きさに違いは感じられませんが、ボケの中の色の変化はAPO-SYMMAR 150mmの方がなだらかな印象です。

 デジタルカメラで撮影した桜の写真の部分拡大も比較してみます。
 同じく、左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 やはり、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っているのがわかります。ボケの大きさは変わりませんがAPO-SYMMAR 150mmの方がふわっとした感じに見えるのは輪郭の残り方の違いによるものと思われます。
 ただし、このボケ方の違いは拡大することでわかる程度で、写真全体を見た時には大きな違いは感じられません。強いて言えば、FUJINON W 150mmの方がボケの中に芯が残っているように感じられるくらいでしょうか。

わずかな特性の違いはあるが、秀逸なレンズ

 発色やボケ方にごくわずかの違いがありますが、比較してわかる程度の差です。比較をすれば好みが分かれるかもしれませんが、写りに関してはよく似ていると思いますし、どちらのレンズがより優れた写りをするかという差も見つけにくいと言ってよいと思います。
 解像度の測定などはしていませんが2つのレンズにほとんど差はないと思われ、いずれも素晴らしい写りをするレンズだと思います。

 この2本のレンズを使い分けるのは難しいというのが正直なところですが、赤とか黄色の被写体(例えば紅葉など)の場合はAPO-SYMMAR 150mmの方が向いているかも知れませんし、青色系の被写体の場合はFUJINON W 150mmの方がクリアな色になるかも知れません。
 しかしながら、写真を1枚だけ見せられても、私にはどちらのレンズで撮影したものなのかという判断はできません。どちらのレンズを使おうが素晴らしい写りをしてくれることは間違いのないことだと思います。

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 今回のように同じ被写体をほぼ同じ条件で撮影してみて、ようやく、そのわずかな違いが明確になったという感じです。その違いを知ったからどうということもないのですが、数値的な特性の違いではなく、目で見てわかる特性の違いを知るというのはちょっと興味深いものではあります。
 機会があれば他のレンズでも比較してみたいものです。

(2022年4月19日)

#FUJINON #フジノン #Schneider #シュナイダー #レンズ描写

シュナイダー大判レンズ スーパーアンギュロン Schneider SUPER ANGULON 90mm F8

 シュナイダーの大判カメラ用レンズです。「アンギュロン ANGULON」はシュナイダーの広角系のレンズに使われているブランドで、大判レンズ用は大きく分けてアンギュロン、スーパーアンギュロン、スーパーアンギュロンXLの三種類があります。スーパーアンギュロンXLは最新モデルで、38mmから210mmまで、結構広範囲をカバーしています。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(シュナイダー製品カタログより引用)。
   イメージサークル  : Φ216mm(f22)
   最大適用画面寸法  : 5×7
   レンズ構成枚数   : 4群6枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ57mm
   全長        : 75.6mm
   重量        : 375g

▲Schneider KREUZNACH SUPER-ANGULON 90mm F8

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると25mm前後のレンズに相当します。標準的な広角レンズよりも少し広めの感じでしょうか。
 シャッターは0番ですが、前玉と後玉大きいので実際に持ってみると見た目よりも重く感じます。
 フジノンにもSW90mm 1:8というレンズがありますが、仕様といい見た目といい、そして操作性も非常によく似ています。下の写真でもわかると思いますが、フジノンSW90mmの方が少し大きめです。

▲左:シュナイダー SUPER-ANGULON 90mm F8  右:フジノン SW90mm F8

 216mm(F22)というイメージサークルは、一般的な風景撮影においては特に支障があるようには感じませんが、建築物等を撮影する場合は不足に感じるかもしれません。同じスーパーアンギュロンで90mm F5.6というレンズがありますが、こちらはイメージサークルが235mm(F22)ありますので、アオリにも余裕があると思います。
 なお、216mmというイメージサークルは絞りF22の時の値であり、絞りを開くとイメージサークルも小さくなってしまいます。小さな絞り値でアオリ撮影をするときはケラレないように注意が必要です。

 また、このレンズをリンホフマスターテヒニカに装着して縦位置で撮影すると、マクロ撮影でもない限り、ベッドが写り込んでしまいますので、ベッドダウンするなどの注意が必要です。

広角系のレンズとしては使い易い画角

 私は広角系に分類される大判レンズとして、65mm、75mm、90mm、105mm、125mm(125mmは広角系ではなく標準系だという意見もあろうかと思いますが)の5本を持っていますが、この中では比較的、使用頻度が高い方だと思います。105mmの画角も使い易いのですが、私の持っているレンズはFUJINON CW105mm 1:5.6 で、イメージサークルに余裕がないので90mmの方が出番が多くなる感じです。

 4×5判で約82度という対角画角があります。35mm判カメラで焦点距離25mmのレンズというと、かなり広角のイメージがありますが、同じくらいの画角でも4×5判の場合は35mm判に比べると広角の度合いが弱まる感じがします。これはフィルムのアスペクト比(縦横比)の違いによるものかもしれません。
 風景を撮影しても十分に広い範囲が写るのですが、広角らしさがあまり強くなく、もう少し焦点距離の長いレンズで写したような感じを受けます。65mmレンズのように周辺が引っ張られる感じもありません。

 また、被写体まで引きがとれないような状況でも狙った対象範囲を写すことができるので、ワーキングディスタンスの自由度も高いと思います。
 さらに、広い画角を活かしてパースペクティブが強調された写真に仕上げることもできます。
 使い易いレンズの画角というのは人それぞれですが、私にとっては4×5判で撮影するときの82度という画角は結構しっくりしています。

 67判のロールフィルムホルダーを使用すると、35mm判カメラの45mmくらいの焦点距離のレンズと同じ画角になりますので、標準レンズとして使うこともできます。

シャープな写りと綺麗なボケ

 写りに関してはこれといった難点は感じられません。ディストーションも全くと言ってよいほど感じられませんし、解像度も高くコントラストも申し分なく、とてもシャープな写りをすると思います。カリカリとした硬さはまったくなく、好感の持てる硬さと言ったらよいのでしょうか、個人的には気に入っています。
 また、フジノンと比べるとごくわずかに暖色系の発色をします。これはアポジンマーでも同じような傾向があり、レンズコーティングの違いによるものではないかと思います。いずれにしても比べて初めて分かる、ごくわずかの違いです。

 焦点距離が90mmですので、それほど大きなボケを期待することはできませんが、アウトフォーカス部分のボケはとても綺麗です。ピントの合ったところからなだらかにボケていくという感じで、全体として奥行きの感じられる美しい描写をしてくれます。
 桜とか紅葉とかを撮る場合、絞り込んでパンフォーカスにもできますが、あまり絞り込まずに主役となる桜や紅葉にピントを合わせ、それ以外を緩やかにぼかすことで味わいのある感じに仕上がります。

スーパーアンギュロン 90mm F8で撮影した作例

 下の写真は福島県で撮った稲荷神社の桜です。

▲Linhof MasterTechnika 2000 Schneider SUPER-ANGULON 90mm F8 F32 1/8  PROVIA100F

 神社の境内は狭く、道路に面しているため、鳥居にかなり近づいて見上げるような位置で撮影しています。桜の木の大きさが損なわれないように、少しだけフロントライズのアオリをかけています。
 また、鳥居も桜の花もぼかしたくなかったのでF32まで絞り込んでいます。
 画面ではわからないかも知れませんが、塗料の剥げかかった鳥居の木目や桜の花弁一枚まで、見事に解像しています。

 手前の鳥居から奥にちょっとだけ見える社に上る石段までの距離は10メートルほどだと思うのですが、広角ならではのパースペクティブの効果で奥行きが感じられます。
 左上に少しだけ青空が見えていますが、全体としては雲が多めでしたので、空はできるだけ切り詰めました。
 雲のおかげで日差しも柔らかでしたので、桜の淡いピンク色が損なわれずにいると思います。

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 シュナイダーのレンズの人気は相変わらず高いようで、中古市場でもあまり値崩れがなく高い価格で取引されているようですし、ネットオークションでも高い値がつけられています。シュナイダーのレンズに限らず、フジノンのレンズなども結構お高くて、大判写真を撮る人がそれほど増えているとも思えないのですが、中古レンズの価格が高くなっているという、なんとも不思議な現象が起きているような気がします。

(2021.10.8)

#シュナイダー #Schneider #レンズ描写

シュナイダー 大判レンズ アポジンマー 150mm Schneider APO-SYMMAR 5.6/150

 Schneider製、150mmの大判用レンズです。正式には「Schneider KREUZNACH APO-SYMMAR 5.6/150(シュナイダー クロイツナッハ アポジンマー)」という長い名前がついています。

レンズの主な仕様

 4×5判カメラでこのレンズを使った場合、35mm判カメラに換算すると42mm前後のレンズの画角に相当します。シャッターはCOPALの#0ですので、ポケットに入れられるくらいの小ぶりのレンズです。
 私は150mmという焦点距離は結構好きで、このレンズの使用頻度も高めです。写りに関しても個人的には文句のつけようのない、お気に入りのレンズです。

Schneider KREUZNACH APO-SYMMAR 5.6/150

 レンズの主な仕様は以下の通りです(Schneider KREUZNACHカタログより引用)。
   イメージサークル  : Φ220mm(f22)
   包括角度      : 62度
   レンズ構成枚数   : 4群6枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルターサイズ  : 58mm
   前枠外径寸法    : Φ60mm
   後枠外径寸法    : Φ45mm

 開放絞りが5.6、最小絞りが64です。絞り羽根は7枚で、いっぱいに絞っても型崩れしないきれいな7角形を保っています。絞りレバーは35mm一眼レフのレンズのようなクリックはなく、スーッと動きます。シャッタースピードは最高で1/500秒ですが、いままで、このレンズを使った撮影でそんな速いシャッターを切ったことはないと思います。

Schneider KREUZNACH APO-SYMMAR 5.6/150

 また、イメージサークルが220mm(F22)ありますので、4×5フィルムで風景写真を撮る分にはよほど極端なアオリでもしない限り、ケラレるようなことはありません。もう少し広角寄りの125mmレンズも割と出番があるのですが、イメージサークルが200mmを下回ってしまい、あおる時に気を使います。その点でもこの150mmは安心感があります。

シュナイダーとフジノンの写りの違い

 私の持っている大判レンズはSchneiderと国産の富士フィルム製FUJINONでほとんどが占められていますが、APO-SYMMAR 150mmとほぼ同じ仕様で、FUJINON W150mm 1:5.6というレンズがあります。FUJINONの写りも大好きなのですが、SchneiderとFUJINONの写りを比べた場合、Schneiderの方がわずかに暖色系(アンバー気味)の発色をします。逆の言い方をすると、FUJINONの方がわずかに寒色系(シアン気味)の発色傾向があるということです。例えば新緑を撮ると、Schneiderで撮ったほうが葉っぱの緑が極わずかですが、黄色っぽく写ります。レンズのコーティングの違いではないかと思うのですが、確かにFUJINONのコーティングのほうがグリーンとブルーの色味が強めになっています。

 5~6年前まで35mm一眼レフでCONTAXを愛用していたことがありました。CONTAXのレンズは有名なCarlzeissですが、同じレンズでもドイツ製と日本製があり、やはりドイツ製のレンズのほうが暖色系の傾向がありました。これもコーティングの違いによるものだと思いますが、なぜドイツと日本で違うコーティングをしているのか、その理由はわかりません。ドイツ人と日本人の光に対する感覚の違いかもしれませんね。

「APO」を冠したレンズ

 このAPO-SYMMARを購入する前は「APO」がつかないSYMMARを使っていたのですが、それぞれのレンズで撮影したポジをルーペで見比べてみると、APO-SYMMARでは光の滲みが改善されているのがわかります。色収差が抑えられているからだと思いますが、APO-SYMMARは明暗差の大きい境界部分に出やすい滲みもほとんど感じられません。さすが、だてに「APO」の名称を冠していないという感じです。なお、誤解のないように付け加えますが、決してSYMMARの写りが酷いということではありません。あくまでも比較をすると滲みが起きやすいような箇所でその違いが判るというレベルであり、SYMMARの写りも素晴らしいです。

APO-SYMMAR 150mm の写り

 下の写真はAPO-SYMMAR 150mmで撮影した永代橋の夜景です。画面上ではわからないと思いますが、ポジを見ると解像度とコントラストの素晴らしさがわかります。うまく表現できませんが、コクのある色再現性を持ったレンズといったらいいのでしょうか。

永代橋  Linhof MasterTechnika 2000 APO-SYMMAR 5.6/150 F32 48s Velvia100F

 橋のアーチ中央部分をほぼ等倍に拡大したものです。見事な質感の描写だと思います。

永代橋(拡大)  Linhof MasterTechnika 2000 APO-SYMMAR 5.6/150 F32 48s Velvia100F

 最後にどうでもいいことですが、レンズの鏡胴部分に書かれている「Schneider」のロゴがカッコ良くて好きです。

(2020.8.1)

#シュナイダー #Schneider #レンズ描写