ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6 シャッター修理

 先日、久しぶりに新宿の中古カメラ屋さんをはしごしていたところ、とある一軒の中古カメラ屋さんでローデンシュトックの大判レンズ、シロナーN 210mmを見つけました。このお店にはこれまで何度も立ち寄っていますが、ここでローデンシュトックの大判レンズを見たのは初めてです。
 見たところ、外観は非常にきれいです。にもかかわらず、驚くほど安い価格の値札がついていました。しかも、リンホフ規格のレンズボード付きです。

安いのには安いなりの理由がある

 諭吉一枚で足りるどころか、かなりのお釣りがくる価格のローデンシュトックのシロナーN 210mm 1:5.6、訳ありに違いないとは思いましたが、目が釘付けにでもなったようにその場から離れられません。見るだけならタダだと思い、お店の方にお願いして棚から出してもらいました。
 お店の方が、「シャッターが不良なんですよね。修理に出すと4~5万かかってしまうので、仕方なくこんな価格にせざるを得ないんです。」とおっしゃいながらレンズを渡してくれました。よく見ると、値札の下の方に小さな文字で「シャッター不良」と書かれています。

 しかし、外観はとても綺麗です。新品とは言いませんが限りなくそれに近いくらい、よーく見ると細かな傷がほんのちょっとある程度です。
 そして、外観にもまして綺麗なのがレンズです。強い光にかざしてみると微細なチリはありますが、キズや曇り、カビ、コバ落ちなどはまったく見当たりません。レンズだけ見ればまさに新品のような美しさです。もちろん、絞り羽根もシャッター膜もとても綺麗です。

▲Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 シャッター不良とはいえ、ずいぶん安いなと思いながら動作確認をしたところ、低速側のシャッター速度が正常に動作しません。1秒~1/8秒はかなりの高速で切れている感じです。ただし、1/15秒より高速になると概ね、正常な感じです。
 大判レンズの場合、高速シャッターよりも低速シャッターを使う頻度の方が多いので、これは致命的です。

 それと、T(タイム)ポジションがうまく機能しません。シャッターを開くときは問題ないのですが、閉じるときにはシャッターレバーを2~3回押さないとシャッターが閉じてくれません。B(バルブ)ポジションは問題なく動作しているので、長時間露光時もBを使えば支障はないのですが、せっかくついている機能が使えないというのはあまり気持ちの良いものではありません。

 低速側のシャッターが正しく動作しないのは、多分スローガバナーの問題だろうと想像がつきます。しかし、Tポジションの動作については原因が思い当たりません。
 焦点距離210mmのレンズを持っていないわけではないし、修理しなければ使えないレンズを買うこともないとも思いましたが、外観とレンズの美しさにどうしてもあきらめきれません。しかも、修理が必要とはいえ、こんなに安い金額でゲットできる機会はそうそうあるとも思えません。

 で、いろいろ悩んだ末に結局のところ、「ローデンシュトック シロナーN 210mm 1:5.6 お持ち帰り!」となりました。

まずはスローガバナーの修理から

 レンズを購入した翌日、早速修理に取り掛かりました。
 前玉を外して、シャッター速度ダイヤルの円盤を外すと内臓(シャッター機構)がむき出しになります。この状態で何度もシャッター切りながら内部の動作を調べます。因みに、シャッターはCOPAL-No.1です。
 すると、低速の時に、スローガバナー内にうまく動いてくれない歯車が2枚あることがわかりました。下の写真の赤い矢印の歯車が患部のようです。

▲スローガバナー

 上の写真で、シャッター速度ダイヤルを動かすと、黄色の矢印をつけたパーツが溝の中を動きます(写真では上下方向)。これによってスローガバナーの動きを切り替えているわけですが、いちばん外周側にあるときが低速シャッターを司っています。
 ドライバーの先で歯車を軽くつつくと動くので、汚れ等で粘っているのかもしれません。
 高速側は全く問題なく動いています。

 スローガバナーの内側は見えないので外してみましたが、特に汚れているようには見えません。念のため、ベンジンで洗浄して、歯車のシャフトに注油を行ない、動作確認してみると快調に動いてくれました。
 筐体内に取付けても問題なく動いてくれるので、これで低速側シャッターの問題は解消です。

Tポジションの動作不良の原因

 次にTポジションの動作ですが、こちらはどこに問題があるのかよくわかりません。シャッターをチャージし、開くときは問題ないのですが、閉じようと思ってシャッターレバーを押しても閉じてくれません。2回、3回押すとようやく閉じてくれます。
 何十回と動きを確認しているうちに気がついたのですが、シャッターレバーを押したときに動くカムのようなパーツの動きに問題があるようです。ここには髪の毛よりも細いのではないかと思われるバネが使われており、これがヘタってきているのかと思い外してみましたが、そうでもなさそうです。
 カムの下のパーツをドライバーの先でちょっと押すとシャッターが閉じてくれるので、どうやらこのパーツの動きが鈍いと思われます。

 下の写真の赤い矢印が問題のパーツです。

▲Tポジションの動作機構

 赤丸の中の右側にある階段状になっているカムと、その左側にある白っぽく見える爪のようなものがかみ合って、最初の動作でシャッター開、2回目の動作でシャッター閉となるのですが、2回目(シャッター閉)の時がうまくいっていないようでした。
 こちらは取り外さずに、シャフトのところをベンジンで軽く洗浄し、注油したところ、Tポジションでの動作が正常に行なわれるようになりました。やはり、少し粘っていたようです。

念のため、シャッター速度を計測

 これで低速側シャッターもTポジションの動作も正常になりましたが、シャッター速度がどのくらいの精度があるのか気になったので、念のため、実測してみました。
 他のページで紹介しました自作のシャッター速度計測用治具が、こんなに早く役立つとは思ってもいませんでした。
 各ポジションで3回ずつ計測してみたところ、基準値から最もずれていたのが1/400秒ですが、それでも-8%以下でした。1/400秒などほとんど使うことはないし、他のポジションのずれはそれ以下でしたので、全く問題ないと思います。

 このレンズ、あまり使われてこなかったのかも知れません。もしそうだとすると、外観やレンズに傷がなく、とても綺麗なのも頷けます。しかし、機械ものなので、長期間使われないことで動きに支障が出てきてしまったのかも知れません。
 念のため、修理後は毎日シャッターを切って動きを確認していますが、今のところ快調です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 動作不良のレンズとはいえ、驚くほど安い値段で購入しましたが症状は軽症だったため、ほぼ丸一日かけた修理で正常に動くようになりました。残念ながらまだ実際の撮影では使っていませんが、近いうちに使ってみたいと思います。
 しばらく使っているうちにまた不具合が出るかもしれませんが、当面は問題なく使えそうです。

 また新たにレンズが増えてしまいました。

(2022年2月26日)

#ローデンシュトック #Rodenstock #中古カメラ

レンズには魔物が潜んでいる...買っても買っても、またレンズが欲しくなるワケ

 「レンズ沼」とか「レンズ沼にはまる」という言葉があります。簡単に言うと、次々とレンズが欲しくなる症候群のようなもので、経験された方も多いのではないかと思います。かくいう私もレンズ沼にどっぷりとはまった経験があります。幸いにも以前よりは抜け出していると思うのですが、岸に這い上がっているかというとそんなことはなく、まだ体半分くらい浸かりながらもがいているといった感じです。
 ひと言でレンズ沼と言っても、その大きさや深さ、はまり方は人それぞれのようで、とにかく究極のレンズにたどり着くために次々とレンズを手に入れる人もいれば、コレクターアイテムとしてレンズを集める人もいるでしょう。

 私が最もはまった沼は35mm判カメラ用のレンズでした。私は主にコンタックス(CONTAX)のカメラを使っていましたが、そのほかにもペンタックスやライカ、トプコン、コンタレックス、エギザクタなどのカメラがごろごろとしており、それぞれのカメラ用マウントのレンズやM42マウントのレンズなどを数えきれないほど所有していました。
 なぜそんなに膨大な量になったかというと、レンズというのはそれぞれ異なった写りをするわけですが、そういったレンズの癖や特性を実際に味わってみたいというのが理由で、それが私の沼へのはまり方でした。

 新しいレンズ(ここでいう「新しい」とは新品という意味ではなく、それまで自分が持っていなかったレンズという意味であり、実際に私が手に入れたレンズの多くは中古品です)を手に入れると、いろいろなシチュエーションで撮影を行ない、色乗りやボケ方、収差などをみて、そのレンズの特徴を自分なりに理解するということをします。ですので、その工程が終わるとよほど気に入ったレンズ以外はそれ以降、陽の目を見る機会は極端に減ってしまいます。
 使わないのなら手放せば良いのにと思われるかもしれませんが、いったん手にしたレンズには愛着がわき、なかなか手放す気になれません。そのため、レンズは増える一方でした。しかし、数えきれないほどの量で、しかもあまり使うことのないレンズが多いとはいえ、リストアップしろと言われればすべて書き出すことができる状態でした。
 そして、被写体(私の場合、風景や花を撮ることが多いのですが)を目にしたとき、あのレンズで撮ればこんな感じに写るんだろうなぁと、頭の中でイメージしていました。今から思うとかなりアブナイ奴だったかも知れません。

 ところが今から6年ほど前、35mm判カメラとレンズのほとんどを一気に手放してしまいました。

 私は作品作りに使用するのは大判カメラか中判カメラで、35mm判のカメラを使うことはほとんどありません。かつては35mm判でスナップなどもよく撮っていたのですがそれも少なくなり、35mm判カメラを使用する頻度が著しく減ってきたのが手放した理由です。
 カメラやレンズに囲まれ、それらを手にするだけで何だか幸せな気持ちになりますが、やはり使ってこそ価値のあるものだというのが私の持論なので、ちゃんと使ってもらえる人のところに行った方が、カメラやレンズたちにとっても幸せだろうと判断した結果です。
 何台かは手元に残しておこうとも思いましたが、それとて使わないのであれば同じことなので、思い切って手放してしまいました。

 ということで、いま私の手元にある35mm判カメラはコンタックスT2と、2年前に中古カメラ店で衝動買いしたフォクトレンダーのベッサマチックだけです。
 T2はお散歩カメラとして使っていますが、ベッサマチックは完全にディスプレイ化しています。

 35mm判カメラとレンズを処分したことで、私の撮影用機材の量は1/3以下になりました。

 とはいえ、大判カメラ用レンズや中判カメラ用のレンズはまだたくさんありますし、大判レンズに至ってはいまだに微増しています。さすがにかつてのように、レンズの「味」を確認したいがために購入するというようなことはなくなりましたが、時どき、無性にレンズが、特に大判レンズが欲しくなる時があります。

 このビョーキのような状態がなぜ起きるのか、自分でもうまく説明できないのですが、やはり、これまでに使ったことのないレンズで撮影をしてみたいという衝動が最も大きな理由ではないかと思います。これはレンズの「味」を確かめたいということと根本は同じかもしれません。
 例えば、同じ焦点距離のレンズであれば、ニコンだろうとフジノンだろうと、あるいはシュナイダーであろうとほとんど見分けがつかないくらいの写りをします。厳密に見れば微妙な発色の違いとかボケ方の違いとかはありますが、一枚の写真だけを見せられて、これはどのメーカーの何というレンズで撮ったものかと問われても私には答えられません。半世紀以上も前のレンズで撮影したものであれば明らかに違うのはわかると思いますが、近年に作られたレンズはいずれも拮抗しているという感じです。

 そういったことを十分に理解しているにもかかわらず、フジノンのレンズで撮りたい、シュナイダーで撮りたいとか、あるいはローデンシュトックで撮れば...などと不埒なことを考えてしまいます。まるで、違うレンズで撮れば違った写真に仕上がるとでも言いたげです。レンズを変えたところで自分の写真の腕が上がるわけではないことぐらい、十二分にわかっているはずなのにです。
 こっちのレンズを使えば素晴らしい写真が撮れるよ、というあま~い悪魔の囁きが聞こえてきて、私の脳を麻痺させてしまうとしか言いようがありません。まさにレンズには魔物が潜んでいるという感じで、麻薬のような恐ろしさがあります。
 大判レンズの前玉をのぞき込んだ時の、あの吸い込まれるような神秘的な美しさがそう思わせるのかもしれません。まるでライン川の岩山にたたずむローレライのようです。

 35mm判は処分したものの、このように大判レンズの沼からはいまだに抜け切れずにいるわけですが、大判レンズの場合、35mm判のレンズのように数回使ってお蔵入りということはなく、使い続けるところが違っています。
 それは、35mm判レンズに比べると大判レンズの本数がずっと少ないのも使い続ける理由の一つかもしれませんが、何と言っても、そのレンズで自分なりに納得のいく写真を撮りたいという気持ちがあるからです。
 大判写真は構図決めにしても露出設定にしても、そしてピント合わせにしてもかなりの時間をかけて行ない、やっとシャッターを切るという状態ですから、そうして撮った一枚がイメージと違うものだとテンションが下がり虚しくなるとともに、とても悔しい気持ちになります。ほれぼれとするようなレンズで納得のいかない写真しか撮れないのであれば、レンズに対して申し訳ないという感じです。

 そしてもう一つ、時々、大判レンズを購入する理由として、予備のレンズを確保しておきたいということがあります。
 大判レンズはほとんどがディスコンになってしまい、徐々に修理もきかなくなりつつあります。最も切実なのはパーツが手に入らなくなることで、そうなると中古品から取るしかないということになります。そのために、比較的程度の良い個体をいくつか持っておく必要があります。これは極めて現実的な問題であり、魔物とは対極にある理由です。

 いずれにしても、自分に都合の良い理由を並べているにすぎないようにも思えますが、大判カメラや大判写真に興味がなくならない以上、このような状態が大きく変わるとは思えません。レンズ沼と一言で片づけてしまえば簡単ですが、私にとっては「魅せられた」という方が適切な表現かも知れません。
 大判カメラや中判カメラ、そしてそれらのレンズを手放す日はもう少し先になりそうです。

(2022年2月7日)

#中古カメラ

1950年代のカメラBeauty MODEL1 ビューティーモデル1で撮影してみました

 友人から送り付けられた1950年代のフォールディングカメラ「Beauty MODEL1」、修理をして一通りの動作確認はしましたが、ちゃんと撮れるのかどうか確認するため、フィルムを入れて実際に撮影してみました。最初はモノクロフィルムでと思ったのですが、色のノリ、絞りやシャッター速度等の露出精度も確認するため、ちょっともったいないと思いましたがリバーサルフィルム使うことにしました。
 結果は予想外でした。

 なお、このカメラの分解・修理についてご興味のある方はこちらの記事をご覧ください。

 「1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

撮影の前に結像することを確認

 いきなり撮影してもなにがしかの映像は写ると思いますが、フィルムを無駄にしたくないので、きちんと結像することを確認します。
 カメラの裏蓋を開け、フィルムがあたるところに乳白色のシートを貼って、レンズのシャッターを開いたときに像ができれば一応合格ということになります。
 実際に確認したのが下の写真です。

▲結像を確認するため、乳白色のシートに投影

 正確なピントまではわかりませんが、概ね、ピントは合っているようです。念のため近景でも確認しましたが、レンズの距離指標と合っているように見えますので、それほどピンボケになることはないと思われます。

 また、このカメラのピント合わせは目測で、しかもレンズの距離指標は「フィート」です。被写体までの距離を目測(もちろんメートル)で決め、およそ3倍するとフィートになりますが、目測で距離を測るということに慣れていないのでピント合わせに手間がかかりそうです。

▲ピント合わせは目測 距離目盛りは「フィート」

 フィルムの巻き上げとシャッターのチャージは独立しているので、今のカメラのようにフィルムを巻き上げないとシャッターが切れないというロック機構がありません。フィルムを巻かなくても何回でもシャッターが切れてしまうので、多重露光にならないように注意が必要です。

 フィルムの巻き上げは、裏蓋の小さな窓からフィルムの裏紙に記載されている番号(1~12)を確認して行ないます。
 因みに、このカメラは645判での撮影もできるので、その際は上側の窓を使い、1~16の番号を確認しながら巻き上げを行ないます。

▲カメラの裏蓋 66判の時は下側の窓からコマ数を確認する

予想に反してしっかりとした写りをするカメラ

 下の写真が実際に撮影したポジ原版(全12枚中の9枚)です。

▲ポジ原版 ライトボックス上で撮影

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影しているので画質は良くありませんが、意外としっかり写っているのがわかると思います。何枚か抜粋した写真はこのあと紹介しますが、まずまずのコントラストや解像度が保たれているようです。ただし、レンズのイメージサークルが小さいのでしょうか、周辺光量の落ち込みが目立ちます。

 使用したフィルムは富士フイルムのベルビア100ですので、本来であればもっとくっきりとした鮮やかな発色になるのですが、60年以上前のカメラということを考慮すると健気に頑張っているという感じです。
 正直なところ、写りに関してはまったく期待をしておらず、酷い写真しか撮れないのではないかと思っていたのですが、予想に反した仕上がりに驚きです。

 ただし、ファインダーの精度は決して良くはありません。ファインダー自体は非常に単純な構造なので、覗き込む目の位置によって見える範囲がずれますし、ファインダーで見える範囲よりもだいぶ広く写るようです。写したと思ったのに周囲が欠けてしまったというよりは、多少広く写しておいた方が救済できるという判断からかも知れません。

最近のレンズと比較するのは酷だが、及第点の写り

 では、撮影したうちの何枚かをスキャンしてみましたのでご紹介します。いずれもスキャンしたままの状態で、画像の加工はしていません。

 まずは、晴天時に斜め後ろからの順光に近い状態で撮影したのが下の写真です。

▲F8 1/200

 このような条件下だと少々難ありのレンズでも比較的良好に写りますが、遊具に塗られた赤青黄の色や地面の土、生け垣の緑なども自然な感じの発色です。黄色が褪せて見えるかもしれませんが、実際にこんな感じでした。また、桜の小枝の先端も識別できるくらいですから、解像度も及第点でしょう。

 次に、近景から遠景までということで、手前に木を入れて新宿の高層ビルを撮ってみました。

▲F22 1/50

 このような構図だと周辺光量の低下が目立ちます。しかも画の中央部が最も明るいという状況なので、手前の木が黒くつぶれないようにすると新宿の高層ビルが露出オーバーになってしまいます。
 最小絞りであるF22まで絞っていますが、パンフォーカスにするには若干無理がある感じです。手前の木のディテールは損なわれますが、ピントの位置をもう少し先にもっていくと遠景がくっきりとした写真になると思います。

 もう一枚、周辺光量の落ち込みによる影響を受けている写真です。高圧線の鉄塔を見上げるアングルで撮ったものです。

▲F11 1/200

 中央の鉄塔が白く飛び気味です。もう一段絞ると鉄塔は落ち着いた色になると思いますが、手前の山茶花などはアンダーになってしまいます。やはり、このようなシチュエーションは難しいというのが正直なところですが、半世紀以上も前のカメラならではの写りと思えば、それはそれで味わい深いものです。

 下の写真は明暗差の大きな被写体ということで撮ってみました。

▲F11 1/200

 神社に奉納されたお酒の樽に陽が当たっており、そのお堂の軒下が暗く落ち込んでいる状態です。軒下はつぶれてしまうかと思いましたが、かろうじて梁のようなものが認識できます。
 やはり最も明るい酒樽のところの解像度は低下しているように見えます。

 さて、次は道路沿いにある公園にたむろしていた鳩たちです。寒いので縮こまっています。

▲F11 1/100

 中央にいる鳩までの距離は1.5mほどです。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、近距離ということもあり、まずまずの解像度が感じられます。
 また、上の1/3は暗く落ち込んでいるためにわかりませんが、下の両端を見ると光量が低下していることがわかります。

 下の写真は東京都庁の都民広場にある彫像「アダムとエヴァ」です。都民広場には全部で8体の彫像がありますが、そのうちの一つです。

▲F11 1/200

 順光ですので、彫像のディテールも結構よく出ていると思います。アダムの顔の辺りとその後方のリンゴの部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 やはりエッジのシャープさはイマイチですが、ここまで写れば文句なしというところでしょう。

 同じく都民広場の彫像の「早蕨」を背後から撮影したのが次の写真です。

▲F5.6 1/50

 彫像に直接の日差しはあたっていませんが、都庁の窓ガラスに反射した光で彫像の輪郭が青く輝いています。彫像の表情がわかるくらいまで露出をかけているので背景が非常に明るくなり、このカメラのレンズにとっては苦手な状況です。都庁にピントは合っていませんが、全体的に霞がかかったようなモヤっとした感じの描写です。

 最近のレンズと比較すると解像度は低く、エッジがシャープになっていないので画全体がふわっとした感じに写りますが、十分に撮影に使えると思います。逆光気味の条件下では厳しい感じですが、その辺りを理解して光の入り方に注意すればひどい状態になるのは避けられます。
 また、レンズのコーティングも今のレンズと全く違うのは明らかで、前玉をのぞき込んだ時、深みのある吸い込まれそうな色合いがありませんので、その影響も大きいと思います。

 なお、距離合わせが目測のため、ピントが甘くなっている可能性もありますのでご承知おきください。

60年以上経っているが十分に使えるカメラ

 今回の試し撮りでは単体露出計を使って露出を設定しました。特に露出オーバーとか露出アンダーということもなく、ほぼ設定どおりの露出で撮影できているので、シャッター速度も絞りも問題なく、正常に機能していると思います。
 また、蛇腹を修復していますが、蛇腹からの光線漏れや裏蓋周辺からの光線漏れも生じていないようです。このカメラ、裏蓋の周辺にはモルトはまったく使われていません。モルトをべたべたと貼り付けて光線漏れを防いでいるよりも個人的には好ましく思います。

 発売から60年以上が経っていますが、手入れをしていけばまだまだ十分に使えそうです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 疑心暗鬼で行なった試し撮りですが予想もしていない結果となり、ささやかな満足感とともにほっとした気持ちです。スローな写真ライフを楽しむにはうってつけのカメラかも知れません。
 きちんと写ることも確認もできたので、カメラは本来の持ち主のところに戻っていきました。

(2022年1月19日)

#スプリングカメラ #中古カメラ #リバーサルフィルム

1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

 先日、友人から「かなり昔のカメラが手に入ったんだけど、使える?」という要領のまったく得ないメールが来ました。現物を見てみないとわからないと返信すると、「では送る」という短い回答があり、後日、宅配便でカメラが送られてきました。
 開けてみると「Beauty MODEL1」というカメラでした。この週末にこのカメラを分解・清掃・修理をしてみましたのでご紹介します。

Beauty MODEL1の状態を調べてみると..

 このカメラは1950年代の半ばに、東京の神田にあった太陽堂光機という会社が発売した国産のフォールディング(折り畳み式)カメラです。
 Beautyというブランドは「BEAUTY FLEX」という二眼レフカメラの方が有名で、今でも中古カメラ店で見かけることがありますが、今回のようなシックス判のフォールディングカメラはほとんど見かけることはありません。二眼レフカメラが大成したので、フォールディングカメラからは手を引いてしまったのかも知れません。

▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1 かなり汚い
▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1

 120フィルムを使用するカメラで、Doimer(ドイマー)という焦点距離80mm 1:3.5のレンズがついています。土居さんという社長の苗字からとった名称らしいですが、洒落っ気が感じられます。シャッター速度はB・1~1/200秒、最小絞りはF22、距離合わせは目測です。

 送られてきたカメラを一通り見てみると、以下のような状態でした。

 1) 全体に汚い
 2) ファインダーが曇っていてほとんど見えない
 3) 折りたたんだ時に前蓋がしっかりと閉まらない
 4) シャッターをチャージすると、シャッター膜が半開きになってしまう
 5) レンズが汚れている カビ、クモリもある
 6) 蛇腹が破れている

 果たして使えるようになるのかどうか、分解してみることにしました。

レンズの清掃とシャッターの修理

 まずはレンズが使えるようにならないと撮影はできないので、レンズを取り外してばらしていきます。

▲Doimer 80mm 1:3.5

 レンズは3枚構成で、前玉と後玉は激しく汚れています。カビが取れるかどうかわかりませんが、しばらくエタノールに浸しておき、その後、清掃しました。わずかにカビの跡が残っていますが、かなり綺麗になりました。

▲前玉を外したところ
▲後玉を外したところ

 問題はシャッター膜が半開きになってしまう現象ですが、ばらして調べたところ、シャッターをチャージした時にロックされる爪の位置がずれているようです。なぜそのようなことが発生したのかは不明ですが、しっかりロックされる位置になるよう、調整しました。

▲シャッターをチャージすると半開き状態になってしまう

 シャッター速度はバルブも含め、変化していますが、絞り羽根もシャッター膜も粘っている感じがあったので分解して洗浄しました。

 また、ピント合わせをする前玉のヘリコイドがかなり重かったので、少しグリスを塗り込んでおきます。

▲清掃・修理後のレンズ

 シャッターとレンズを組み立てて動作確認してみましたが、粘った感じもなくなり快調に動いているようです。念のため、シャッター速度を計測してみたところ、以下のような状況でした。

 <速度目盛り> <実測値>
  1      1.083秒
  1/2     0.458秒
  1/5     0.185秒
  1/10     0.109秒
  1/25     0.048秒
  1/50     0.023秒
  1/100    0.013秒
  1/200    0.006秒

 それぞれ3回計測した平均値です。ばらつきはありますが、まずまずといったところでしょう。

ファインダーの清掃

 軍幹部の中央に可愛らしい覗き穴のようなファインダーがあります。真っ白に曇っていてほとんど視界はゼロといった感じです。軍幹部を取り外してファインダーレンズを清掃します。
 このカメラは66判と645判が使えるのですが、それに合わせて接眼部を回すとファインダー内のマスクが切り替わるようになっています。このカメラの中で最もセンスが輝いている構造のように感じました。

▲ファインダー(軍幹部のカバーの内側)

 ファインダーのレンズは取り外してエタノールで拭くと、驚くほどクリアになりました。

蛇腹の修理

 蛇腹には棒状のもので突いたような破れがあります。ピンホールもあるかと思い、LEDライトを照射して確認しましたが大丈夫そうです。蛇腹自体もヨレヨレした感じはなく、しっかりとしているので破れたところを塞げばまだ使えそうです。

 蛇腹をカメラ本体から取り外すためには、カメラ前面の張り革を剥がさなければならないようです。先の薄いヘラを張り革の下に差し込んだところ、張り革が5mmほどの大きさでボロッと欠けてしまいました。60年以上も経っているのですっかり劣化しているようです。
 うまく剥がせれば再利用しようと思っていたのですが、それはあきらめて前面の張り革を全部削り取ってしまいました。

▲カメラ前面の張り革を剥がしたところ

 張り革の下のネジを外すと、カメラの筐体から蛇腹部分を取り出すことができます。

▲カメラ筐体から蛇腹機構を取り出す

 蛇腹の破れたところは、外側と内側の両方から補修テープで塞ぎます。両面にテープを貼ると厚みが増して、蛇腹の折り畳みに影響が出るかと思いましたが問題ななそうです。念のため、補修テープの周囲に黒のタッチアップペンを塗っておきます。

 蛇腹を外したついでに、前蓋のロック機構も修理しておきます。
 前蓋を閉めた際に、カチッと爪が引っかかるようになっているのですが、この爪が歪んでいてロックされません。ラジオペンチで歪みを直してロックされるようにしましたが、前蓋自体も少し歪んでいるようで、隙間ができてしまいます。カメラを落としたか、どこかにぶつけたかして歪んでしまったのでしょう。とりあえず閉まるようになったので良しとします。

カメラ前面の張り革

 取り外した蛇腹やレンズ、軍幹部をもとのように組み上げ、ボロボロになってしまったカメラ前面の張り革は新しく張り替えます。全面張り替えたいところですが、他は剝がれたり傷んだりはしていないので、とりあえずそのままにしておきます。

▲清掃・修理後のBeauty MODEL1

 前面だけとはいえ張り革も新しくなり、長年の汚れも落としたので、見違えるほどきれいなカメラになりました。ファインダーもくっきりと見えるし、絞りやシャッターも問題なく動作しているようです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 とりあえず正常に動作しているようには見えますが、実際に撮影をしてないので、きちんと写るのかどうかは不明です。後日、実際に撮影をしてみたいと思います。

(2021年12月5日)

#ビューティー #Beauty #スプリングカメラ #中古カメラ

BESSAMATIC(ベッサマチック)で撮ってみました

 4か月ほど前に新宿の中古カメラ店で衝動買いしたVoigtlander BESSAMATIC(フォクトレンダー ベッサマチック)がどんな写りをするのか、モノクロフィルムを入れて撮影してみました。使用したのは富士フィルムのACROS100Ⅱです。

 ついているレンズはデッケルマウントのCOLOR-SCOPAR X(カラースコパー) 1:2.8/50。60年以上も前のカメラですが、現代のフィルム一眼レフカメラと基本的なところはほぼ同じです。ただし、クイックリターンミラーは採用されていないため、フィルムを巻き上げないとミラーが上がったままで、ファインダーを覗いても真っ暗です。
 何と言ってもいちばん特徴的なのは、絞りとシャッター速度を連動させるライトバリュー方式の露出操作だと思います。絞りとシャッター速度を合わせた後、シャッター速度ダイヤルを動かすと連動して絞りダイヤルも動き、常に同じ露出を維持するような仕組みになっています。すごい機構を組み込んだものだと思いますが、個人的にはあまり使い勝手が良いとは思いません。シャッター速度だけ変えたいと思っても絞りまで動いてしまうので、絞りを元に戻す操作をしなければならず、ちょっと煩わしいです。

 フォーカシングはスプリットイメージ方式が採用されています。しかし、縦の線がはっきりしないような被写体ではマット面で合わせることになりますが、ピントの山が非常につかみにくいスクリーンです。
 セレン式の露出計も内蔵されていて動作はしているようですが、精度のほどはわかりません。

 今のカメラのようにカメラ本体にストラップをつける金具がないので、首から下げる場合は昔懐かしい茶色の革のケースに入れなければなりません。これがまた、何とも言えず格好が良いです。

Voigtlander BESSAMATIC

 さて、実際に撮影してみた感想ですが、想像していたよりもはるかにシャープな写りをするレンズでした。60年も前のレンズなので、もっとふわっとした感じの写りを想像していたのですが、ちょっと驚きです。しかし、逆光気味になると途端に画質が落ちてしまいますが、これは仕方のないことかもしれません。

 下の写真は東京都庁の都民広場です。

東京都庁 都民広場

 半円形に湾曲した壁面のグラデーションも綺麗に出ていますし、光が強く当たっているところの光の滲みもあまり感じられません。黒のしまりがいい感じに出ているのはフィルムのおかげだと思います。

 もう一枚、新宿NSビルに設置されている世界最大の振り子時計、「ユックリズム」です。

新宿NSビル ユックリズム振り子時計

 ビルの中なので全体にコントラストが低めですが、それでもシャープな写りをしていると思います。

 以前は35mm判カメラもごろごろしていたのですが、ほとんど手放してしまい、手元に残っている35mm判カメラはCONTAX T2だけです。T2はコンパクトカメラなので持ち歩きには便利ですが、「よし、撮るぞ!」という気合のようなものは湧いてきません。
 それに比べて今回持ち出したBESSAMATICは、写真を撮るという行為そのものが楽しくなるようなカメラです。決して使い易いカメラではありませんが、そのフォルムといい、茶色のケースに入ったレトロな感じといい、「カメラだなぁ」と感じさせてくれます。
 とはいえ、今後もこのカメラの出番が増えることはないと思いますが、中古カメラ店を覗いて心惹かれるものがあれば、また衝動買いをしてしまうかも知れません。

 なお、今回の現像は富士フィルムのミクロファインを使っています。

(2020.12.18)

#BESSAMATIC #ベッサマチック #中古カメラ #モノクロフィルム

ヴィンテージカメラの魅力

 例年になく長い梅雨がやっと明けたと思ったら耐え難いくらいの猛暑が押し寄せ、しかも今年は新型コロナの影響で遠出もままならない状態です。撮影も思うようにできず、悶々とした日を過ごしています。
 そんなわけで、たまには中古カメラ店にでも行ってみようかと思い、新宿と中野にある中古カメラ店を何件かはしごしてきました。

 近年、中古カメラ店に行って感じるのは、若い女性客が多いということです。しかも、デジカメではなくフィルムカメラを探している女性を多く見かけます。聞くともなく、店員さんとの会話が耳に入ってくるのですが、これからフィルムカメラを始めようと思っている女性が多いことに驚きです。
 食べ物にしてもいろいろなお店にしても、若い女性から支持されることが売上の伸びる大きな要因らしいです。フィルムカメラも若い女性に支持されて、市場が大きくなってほしいものです。

 さて、私はカメラのコレクターではありませんので、実際に使いもしないカメラやレンズを買うことはほとんどありません。ですが、中古カメラ店に並んでいる年代物のカメラを見ると、「いいなぁ」「ほしいなぁ」という気持ちが湧いてくるのも事実です。買っても実際に撮影に使うことはほとんどないだろうということがわかっていながらも、欲しいと思うのは何故なんでしょう?月並みな言い方をすると、カメラの持つオーラのようなものに引き付けられるのだということになると思うのですが、本当の心理状態はちょっと違う気もします。

 そんな葛藤をしながら何のことはない、カメラの放つオーラに負けてしまい、買ってしまいました。それが下の写真のドイツ製カメラ、Voigtlander BESSAMATICです。調べたところ、発売は1959年とのことですので60年以上前のカメラですが、傷や汚れは全くと言ってよいほどなく、とてもきれいな状態を保っています。しかも、昔懐かしい茶色の革製のケースまでついています。
 これでお値段9,000円。どこか壊れているんじゃないかと思いましたが、全く問題なく動作している感じです。

Voigtlander BESSAMATIC + COLOR-SKOPAR X 1:2.8/50

 このカメラについてはたくさんの方が記事を書いていらっしゃいますので詳細はそちらをご覧いただくとして、私の心を動かしたのは何といってもそのフォルムです。昔のカメラはどれもそうですが、金属製のボディは重厚感がありますし、デザインも機能美に満ちていると思います。60年を経ても全く古臭さを感じさせません。それどころか、個人的には最近のカメラのデザインよりもはるかにセンスがあると思います。

 しかし、金属製であれば何でも良いというわけではなく、やはりデザインはとても重要な要素です。金属製であっても心動かされないデザインのカメラもあります。もちろん個人の好みですから人それぞれですが、うっとりと眺めていられる美しさを持ったカメラというのは、中古カメラ店の棚の中でも輝いていると感じるのは贔屓目でしょうか?

 職人のこだわりが随所に感じられるこのカメラ、60年前にどういう人が手にして、どういう経路をたどって今、私の手元にあるのか、そんなことを想像させるのもこういったカメラの魅力かもしれません。
 このカメラがヴィンテージカメラに属するのかどうかよくわかりませんが(なにしろ9,000円ですから)、撮影に行く回数が激減している昨今、こんなヴィンテージカメラを探してみるのも悪くないなと思っています。

 このカメラでバシバシ撮影することはないと思われますが、一度は撮影をしてみたいと思います。どんな写りをするのか、楽しみです。

(2020.8.16)

#ベッサマチック #BESSAMATIC #中古カメラ

ピンホールカメラ(針穴写真機)をつくる

 初めて針穴写真機を作ったのは、確か小学校の夏休みの自由研究だったと思います。フィルムの代わりにポラロイド印画紙を使用することで、その場で写真を見ることができました。ぼんやりといえども、レンズもないのに像が焼き付けられることをとても不思議に思ったものでした。

PENTAX67を使ったピンホールカメラ

 以来、何台ものピンホールカメラを作っては壊ししてきましたが、いま手元に残っているピンホールカメラは一台もありません。唯一、針穴写真を撮ることができるのは、PENTAX67のボディキャップにピンホールを加工(ビールの空き缶に針で穴をあける)したものだけです。
 これは10年ほど前に作ったものですが、針穴写真といえどもそれなりに画質を追求したく、ピンホールの大きさ(直径)を何種類も作りました。その中で最もシャープに写るピンホール(レンズ)だけが手元に残っています。
 直径0.2mm~0.6mmまで、0.1mm間隔で5枚のピンホールを作りましたが、直径0.3mmのピンホールがいちばんきれいに写りました。直径が小さければ小さいほど画像はシャープになると思っていたのですが、小さくなると光の回析によって像がぼけてくるようです。
 調べたところ、最適なピンホール径はd=√2fλで求められるとのこと(fは焦点距離、λは光の波長)。PENTAX67のフランジバックは約85mmですので、これをこの式に当てはめると約0.3mmとなります。

PENTAX67 ピンホールカメラ

 PENTAX67による針穴写真は思いのほか綺麗に写り、我ながら感激したものです。しかし、焦点距離が固定になってしまいますので、接写リングをかませることで85mmから197mmまで、14mm刻みで焦点距離を変えることが出来ました。

ピンホールレンズを自作

 今回、大判フィルムやブローニーのパノラマで針穴写真を撮ってみようと思い、ピンホールレンズを作成してみました。手元にあるリンホフマスターテヒニカにピンホールレンズを着けることで、約50mm~370mmの焦点距離を実現することができます。
 PENTAX67を使ったときは、カメラ自体にシャッターがついていたので問題はなかったのですが、大判カメラにはシャッターがついていないので、シャッターを何とかしなければなりません。最初はレンズキャップを外したり着けたりでいいだろうと思っていたのですが、それだと日中の明るいときの撮影時など、シビアなことがわかりました。
 ピンホール径を0.3mmにした場合、最も焦点距離の短いときでf168くらいになり、太陽の光の強いところでは1/2秒とか1/3秒のシャッターを切らなければなりません。これをレンズキャップで行なうのは結構無理があると思い、ちゃんとしたシャッターをつけることにしました。 

 まず、インターネットオークションでジャンクの大判レンズ探しからです。できるだけピンホールの包括角度を大きく取れるようにするため、#1か#3のシャッターのついたレンズで、希望は1,000円くらい。レンズはカビがあろうが腐っていようが構いません。シャッターさえ動けば問題はないので根気よく探します。

 そんなある日、運よく#1シャッターのついたレンズが1,200円で出ていましたのでゲット。数日後、品物が届きました。「ジャンク品によりNCNRで」とありましたが、程度が良いので驚きました。レンズもきれいですが今回は不要ですので、前玉と後玉を外してシャッター部だけを使います(外した前玉と後玉は防湿庫で保管してあります)。

 厚さ0.1mmの銅板に直径0.3mmの穴をあけ、これを中央をくりぬいたレンズキャップに取り付けます。そして、大判レンズのシャッター部にピタッとはめ込めばピンホールレンズは完成です。

SEIKO #1 シャッターを利用したピンホールレンズ

 今回使用したシャッターですが、ピンホールレンズ取り付け位置がレンズボードから18mm前方にあります、また、シャッター部後端の内径が42mmですので、これらから計算すると包括角度は約100度ということになります。したがって、4×5フィルムを使用してもケラれない最短の焦点距離は約65mmになります。カメラの最短フランジバックが約50mmですから、この状態でピンホールレンズを取り付けると、ピンホールからフィルムまでの距離が68mmとなり、ぎりぎりケラれずに済みそうです(あくまで計算上ですが)。
 ということで、リンホフマスターテヒニカに取り付けた場合、実際には68mm~388mmの焦点距離を持ったピンホールカメラということになります。

構図確認用ピンホールレンズの作成

 しかしこのピンホールレンズのままでは暗くて、大判カメラのピントグラスでは何が投影されているかわからず、構図の確認ができません。ファインダーがあれば問題ないのですが、無段階に変化する焦点距離に対応できるファインダーを自作するのは困難なので、ピンホール径を2.5mmまで大きくした構図確認用のピンホールを作成しました。構図を決めるときにはこれを使い、撮影の際には撮影用のピンホールレンズに交換します。

構図確認用ピンホールレンズ (中央の穴径が約2.5mm)

 こうして出来上がったピンホールレンズは最短の焦点距離68mmでf226、最長の焦点距離388mmでf1293というとてつもなく暗いレンズです。焦点距離388mmで撮影することはまずないと思われますが、f1293がどれくらい暗いかというと、真夏の日中でf16-1/250秒というときに、約30秒の露光が必要ということになります。

露出換算用のツールが必要

 当然のことながら、こんな値は単体露出計の目盛りの範囲を超えていますので、露出計で測った後に換算しなければなりません。これが結構面倒で、計算を間違えると露出オーバーやアンダーになってしまいますので、簡単に換算できるためのツールを作りました。

 古くなって変色してきたPLフィルターのガラスを外し、透明なガラスと交換します。そして、枠のベース部分の円周上にシャッター速度を書き込みます。一方、くるくる回転する枠のガラスには絞り値を書き込みます。露出計で測定した絞りとシャッタースピードの目盛りを合わせると、ピンホールレンズのf値の時のシャッタースピードがすぐにわかるという仕組みです。

露出換算用のツール(PLフィルター利用)

大判カメラによるピンホールカメラ

 今回作成したピンホールレンズをリンホフマスターテヒニカに装着するとこんな感じです。

Linhof MasterTechnika 45 ピンホールカメラ

 さて、このピンホールレンズ、4×5フィルムを使って焦点距離100mmで撮影すると、計算上、周辺部では約1EV(1段)の光量の落ち込みがあると思われます。フランジバックを最も短くした焦点距離68mmでは、2EV強の光量の落ち込みになりそうです。周辺光量の落ち込みが気にならなくなるのは150mm以上かと思います。
 周辺光量の落ち込み、それもまた針穴写真の面白さかもしれませんが、実はまだ撮影に行くことができておらず、作例をご紹介することができません。近々、撮影日記のページでご紹介できればと思っています。

(2020.8.10)

#ピンホール写真 #中古カメラ

中古の大判カメラ&レンズの価格

 私が使っているカメラやレンズはすでに生産終了品であるばかりかメーカーサポートも終了しており、壊れた場合は自分で修理するか、手に負えない場合はカメラ修理専門店にお願いすることになります。しかし、修理不可能な場合はもう使うことができなくなってしまいます。そんな最悪の事態にならないよう、修理が難しそうな機材については予備を用意しています(丸ごと使うというよりはパーツをとるため)。当然新品が手に入るわけではないので、中古カメラ店に行ったりネットオークションなどを使ってお目当ての品を探すことになります。

 そんな中で最近気がついたことがあります。それは、中古のフィルムカメラやレンズの価格が高くなっているということです。数年前は程度の良いレンズなどでも市場に出回っている数の多いものは捨て値同然で売られていたものですが、ここ最近は価格が高騰している感じがします。ネットオークションなどでも結構高い値がつけられており、時たま安い値で出品されていても、あっという間に値が吊り上がっていってしまいます。特に大判カメラや大判レンズにその傾向が強いように思います。

 大判カメラや中判カメラを使う人がそんなに多いとは思えないのですが、ここ数年は中判や大判の売れる台数が伸びているという話を中古カメラ店の方から伺ったことがあります。しかし、私もあちこち撮影に出かけますが、中判や大判のカメラで撮影している人に出会うことは一年に一回あるかどうかといった感じで、ほとんど出会うことはありません。いったいどこで何を撮影しているのだろうと不思議にさえ思います。

 そういえば、私は新宿の大手カメラ店でフィルムを購入することが多いのですが、ここ数年、大判フィルムが売り切れという状況に遭遇したことが数回あります。フィルムを使う人が減る一方なので、お店も仕入れる数量を減らしているのだろうと思っていたのですが、どうやらそれだけの理由ではないかもしれません。昔は大判フィルムを購入するのはほとんどがプロでしたが、最近はプロではなくアマチュアの購入が圧倒的に多いという話を聞いたことがあります。

 そんな状況を鑑みると、中古市場でフィルムカメラやレンズの価格が上昇しているのもうなずける気がします。フィルムを使う人がどんどん減り、フィルムの種類も減り、価格がどんどん上がっていく中で、フィルムカメラを使う人が増えているとしたら、それはとても喜ばしいことです。私の愛機でもあるPENTAX67が若いカメラ女子にとても人気があるらしく、あの重いカメラを女性が使っている姿を妙にカッコ良く思えるのは私だけではないと思います。

 私がカメラやレンズを購入するのは予備機やパーツ取りが主な目的だというのは前にも書いた通りですが、価格は安いに越したことはありません。かつて、大判カメラや大判レンズは高価で簡単に購入できるものではありませんでした。中古の価格が上がったとはいえ、新品の価格の何分の一という金額で購入できるので、機材の面で今はとても恵まれているのかもしれません。これでフィルムの価格がもう少し下がってくれれば言うことはないのですが。

(2020.7.24)

#中古カメラ