いつもと違うカメラを使えば、いつもとは違った写真が撮れる? 9割の錯覚と1割の真実

 最初にお断りをしておきます。この内容はまったくもって私の個人的な主観であって、これっぽちの客観性もないことをあらかじめご承知おきください。
 また、本文の中で、「写りの違い」とか、「写真の違い」というような表現がたくさん出てきますが、「写りの違い」というのはレンズやフィルムによって解像度やコントラスト、色の階調等の違いのことで、使用する機材によって物理的に異なることを指しています。
 一方、「写真の違い」というのは、機材に関係なく、どのような意図で撮ったとか、その写真を通じて何を伝えたかったのかということであり、抽象的なことですが、このタイトルの「いつもとは違った写真」というのは、これを指しています。

 私が撮影対象としている被写体は自然風景が圧倒的に多く、使用するカメラは大判、もしくは中判のフィルムカメラです。大判カメラも中判カメラもそれぞれ複数台を持っていますが、いちばん出番の多いカメラ、すなわち、メインで使っているカメラはほぼ決まっていて、大判だとリンホフマスターテヒニカ45、中判だとPENTAX67Ⅱといった具合です。
 フィルムカメラというのは、特に大判の場合、カメラが変わったところで写りが変わるものではありません。中判カメラや35mm一眼レフカメラで、シャッター速度設定をカメラ側で行なう場合はそれによる影響がありますが、同じレンズを使い、シャッター速度を同じにすれば違いは出ないと思われます。

 また、大判カメラであちこちにガタが来ていてピントが合わないというような場合は論外として、普通に問題なく使用できる状態であれば、リンホフで撮ろうがウイスタで撮ろうが、レンズが同じであれば同じように写り、撮影後の写真を見て使用したカメラを判断することは困難です。大判カメラの特徴であるアオリの度合いによって多少の違いは生まれますが、写真を見てカメラを特定できるほどではないと思います。

 一方、大判カメラも中判カメラも複数のフィルムフォーマット用が存在しており、フィルムフォーマットが異なれば同じポジションから同じようなフレーミングや構図で撮っても、出来上がった写真のイメージはずいぶん異なります。撮影意図によってフォーマットを使い分けることがあるので、フォーマットの異なるカメラを複数台持つことはそれなりに意味があることだと思います。

 しかし、同じフィルムフォーマットのカメラを複数台持っていたところで、カメラによって写りが変わるわけではないのは上に書いた通りです。にもかかわらず、なぜ複数台のカメラを持つのでしょうか?
 私の場合、中判(67判)のPENTAX67シリーズを3台、4×5判の大判カメラを4台持っています。
 PENTAX6x7も67も67Ⅱもレンズは共通で使えるし、細かな操作性の違いはあるものの、ほぼ同じ感覚で使うことができます。大判カメラについても然りです。

 現在、私の手元にあって現役として活躍している大判カメラは、リンホフが2台、ウイスタとタチハラがそれぞれ1台です。過去にはナガオカやホースマン、スピードグラフィクスなども使っていたことがありますが、手放してしまいました。
 現役の4台のカメラはいずれもフィールドタイプなので、操作性に多少の違いはあるものの、蛇腹の先端にレンズをつけて、後端にあるフォーカシングスクリーンでピントを合わせるというのは共通しています。当然、どのカメラを使っても写りに違いはありません。

 ということを十分に承知をしていながら、私の場合、メインで使っているカメラはリンホフマスターテヒニカ45(リンホフMT-45)で、撮影に行くときに携行する頻度がいちばん高いカメラです。
 なぜ、このカメラをメインで使っているかというと、いちばん長く使っていることもあって使い慣れているということが大きいと思います。加えて、カメラ全体がとてもスマートでありながら作りがしっかりとしていて、まるで、シュッと引き締まった鍛え抜かれたアスリートのような感じがして、そのフォルムの美しさに魅了されているというのも理由の一つかも知れません。
 どのカメラでも同じとはいいながらリンホフMT-45を多用するのは、一言でいえば、どこに持ち出しても安心して使うことのできる、信頼性の高いオールマイティー的な存在だからと言えます。

 リンホフのもう1台のカメラ、リンホフマスターテヒニカ2000(リンホフMT-2000)は、リンホフMT-45に非常によく似ていて、細かな改良は施されていますが使い勝手などもほぼ同じカメラです。唯一、大きな違いは、カメラ本体内にレンズを駆動する機構が組み込まれていて、短焦点レンズが使い易くなったという点です。
 MT-45とほぼ同じ感覚で使うことができるのですが、デザイン的にも洗練されているところがあり、私からするとちょっとお高く留まった優等生といった感じがします。「つまらない駄作を撮るために私を持ち出すんじゃないわよ!」と言われているようで、リンホフが2台並んでいても、普段使いの時は自然とMT-45に手が伸びてしまいます。
 ただし、絶対に失敗したくない撮影とか、ここ一番というような、妙に気合を入れて撮りに行くときなどはMT-2000を手にしてしまいます。MT-45なら失敗が許されるのかというと、そういうわけではないのですが、MT-2000を持ち出すと、撮影に対する意気込みのようなものが違う気がします。まるで勝負パンツのようなカメラです。

 さて、3台目は国産の金属製フィールドカメラ、ウイスタ45 SPですが、リンホフマスターテヒニカにどこか似ている気がしていて、リンホフと同じような感覚で操作することができます。しかし、細かいところの使い勝手などに工夫がされていて、日本製らしさが漂っているカメラです。慣れの問題もありますが、使い易さはウイスタ45 SPの方が勝っているかも知れません。
 リンホフマスターテヒニカに似てはいますが、リンホフのような洗練されたスマートさには及ばないところがあり、リンホフがシュッと引き締まった現役のアスリートだとすると、ウイスタ45 SPは現役を引退して、体のあちこちにお肉がついてきてしまった元アスリートといった感じです(実際のところ、リンホフよりも少し重いです)。しかし、そのぽっちゃり感というか無骨な感じに親近感が湧き、どことなく愛嬌のあるカメラです。
 あまり気張ることなく、気軽に大判カメラに向えると言ったらよいかも知れません。ミリミリと追い込んでいくというよりも、歩きながら気になった景色があったら撮ってみる、というような時などに持ち出すことの多いカメラです。

 そして、私が持っている現役の大判カメラの4台目、タチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は木製のフィールドタイプのカメラです。1980年代半ば頃に製造されたのではないかと思われ、40年近く経過しているので、それなりに古いカメラです。レンズを左右に移動するシフト機能がないくらいで、リンホフやウイスタと比べても機能的にはまったく遜色のないカメラです。北海道にしか自生していないといわれる朱里桜という木を用いて作られているらしく、材料の調達からカメラの完成まで4年以上かかるそうです。
 タチハラに限らず木製カメラに共通して言えるのは、木のぬくもりが感じられることです。職人さんの魂が宿っているようにさえ感じてしまいます。
 だからというわけでもないのでしょうが、このカメラを持ち出すときは、どことなく懐かしい感じのする風景を撮りたいときです。きれいな風景というのは結構たくさんありますが、懐かしさを感じる風景というのは比較的少ないのではないかと思い、そんな風景に似合うカメラはこれじゃないか、という感じです。

 このように、4台の大判カメラを持っているのですが、カメラに対する想いとか、カメラに対して抱いている自分なりのイメージというものがあり、それなりに使い分けているところがあります。ただし、それらは私個人が勝手に思い描いているものであり、最初からそのような使命をもってカメラが作られたわけではないというのは言うまでもありません。
 そして、もちろん懐かしさの感じる風景をリンホフで撮れないわけでもなく、ここ一番という写真をウイスタやタチハラで撮れないわけではありません。どのカメラを使おうが、同じレンズであれば同じように写るので、自分がカメラに対して抱いている想いと出来上がった写真とが一致しているか、そういったことが写真から感じられるかというと、実際のところほとんどそんなことはありません。
 すなわち、カメラを変えても写りに違いはないのと同じで、カメラを変えれば写真表現にも変化があるのではないかと思うのは、9割以上は自分の思い過ごし、自己満足、錯覚であろうということです。

 自分で撮影した写真のポジを見れば、どのカメラで撮ったのか大体はわかります。わかるというのは写真からそれが伝わってくるということではなく、使ったカメラを覚えているからというのが理由です。ですが、中にはどのカメラで撮影したかを忘れてしまっているものもあり、それらについては撮影記録を見ないとわかりません。
 つまり、そのポジを見ただけで使用したカメラがわかるわけではないということからも、多くは思い過ごしや錯覚であることが裏付けられています。

 しかしながら、残りの1割、もしくはそれ以下かも知れませんが、カメラを変えることで撮影時の気持ちや意気込み、あるいは画の作り方に違いがあることも事実です。カメラを変えたところで、そうそう写真が変わるわけでもないと言いながら、カメラによって気持ちが変わるという、なんとも矛盾した精神状態です。
 高いフィルムを使っているのだから、常にここ一番という気持ちで、勝負パンツのようなリンホフMT-2000を常用すれば、どんなシチュエーションにも対応できるじゃないかというのも一理ありますが、多分、常にMT-2000だけを使っていると、ここ一番という気持ちが薄れていってしまうのではないかという気がします。勝負パンツは毎日履かないからこそ意味があるのと一緒かも知れません。
 ミリミリと追い込んだ写真というのは気持ちの良いものですが、若干のスキのある写真というのも見ていてホッとするところがあり、一概に良し悪しをつけられるような性質のものではありません。

 いつもと違うカメラで撮ってみたところで、それが写真にどの程度の影響が出るのかわかりませんが、撮影するときの気持ちのありようというのは大事なことだと思います。もちろん、カメラを変えなくても気持ちのありようを変えることはできるかも知れませんし、何台ものカメラを持つことの大義名分を無理矢理こじつけているだけかも知れません。ですが、機材によって被写体に向かう気持ちに変化があるのであれば、何台ものカメラを持つことも、あながち無意味と言い切ることもできないのではないかと思うのであります。

 自動車の場合、自分の運転技術は変わらないのに、パワーのある車や走行性能に優れている車に乗ると、あたかも自分の運転がうまくなったように錯覚することがあります。自動車は性能そのものが走行に直結しますが、フィルムカメラ、特に大判カメラは機能や性能が優れていても写真そのものには直接的に影響しないので、自動車の場合とは少し事情が違います。
 しかし、同じ風景であってもカメラを変えれば撮り方が変わる、その感覚の9割以上が錯覚であっても、そんな中から何か自分なりの新しい発見があれば、それはとても新鮮な出来事に感じられると思います。

 つらつらと他愛のないことを書いていると、今まで使ったことのないカメラが欲しくなってきました...

(2022.9.4)

#リンホフマスターテヒニカ #ウイスタ45 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45 #タチハラフィルスタンド

大判カメラで、動く被写体をブラさずに撮るために必要なシャッター速度

 大判カメラ用のレンズの開放F値は概して、35mm判カメラ用のレンズほど明るくはありません。概ね、F5.6というのが多く、焦点距離が長いレンズだとF8、あるいはそれ以上の値になってしまいます。
 また、フィルムのISO感度も一般的に常用されるのはISO100~400といったところで、カラーリバーサルフィルムにおいては、現行品として手に入るのはISO50とISO100だけです。
 このため、撮影時に高速シャッター(高速と言っても一般的な大判レンズの場合、1/500秒が最高速ですが)を切ることは多くはなく、低速シャッターを使う頻度の方がはるかに高いと思います。したがって、動いている被写体を止めて写すのはあまり得意ではありません。
 今回、風景写真における動く被写体を例に、どれくらいのシャッター速度を使えば止めることができるのかを検証してみました。

被写体ブレの定義

 写真撮影において、シャッターが開いている間に被写体が動けば被写体ブレとして写ってしまうわけですが、では、どれくらい動けば被写体ブレというかは明確に定義されているわけでもなさそうですし、そもそも、条件によってもブレの度合いは千差万別といえると思います。肉眼では全く動いていないように見えても、ポジやネガをルーペで見たり、あるいはパソコン上で等倍まで拡大してみれば被写体ブレを起こしていることは十分にありうるわけですが、それを論じてもあまり意味があるとは思えません。
 写真をどのような状態で見るかによって、被写体ブレの尺度も自ずと変わってきますので、何か基準を決める必要があります。

 被写体にピントが合っているか、合っていないかの基準に使われる「許容錯乱円」というものがあります。これを被写体ブレに適用できないかとも考えましたが、許容錯乱円は撮像(フィルム)面上での話しであり、ポジをルーペで見るとき以外にはあまり適切とは思えません。
 そこで、ここでは写真をプリントして、それを肉眼で見た時に被写体ブレが認識できるかどうかを基準にしてみることにします。
 最近は写真をプリントして観賞するということが昔に比べて減っているとは思うのですが、ルーペやパソコンを使うことなく人間の眼だけで判断できるので、いちばんわかり易いのではないかと思います。

 写真を全紙大(457mmx560mm)に引き伸ばし、これを1.5m離れたところから観賞する状態を想定します。
 人間の眼の分解能はおよそ1/120°(約0.5分)が限界と言われており、視力が1.0だとその半分ほどの1/60°程度らしいです。これは、1.5mの距離から0.436mm離れた二つの点を識別できるということになります。つまり、0.436mmよりも近い場合は二つの点として識別できないということです。この0.436mmを仮に「許容移動量」としておきます。
 全紙大に引き伸ばした写真上で被写体が許容移動量(0.436mm)以上動いていれば、その写真を1.5mの距離から見た時に、被写体ブレを起こしていることがわかるだろうという想定です。

 本来、被写体ブレは二つの点を認識できるかどうかというのとは意味合いが違いますが、二つの点として認識できない範囲内での被写体の動きであれば、ブレているようには見えないだろうという仮定です。

 さて、大判フィルム(4×5判)に写り込む範囲が、実際の被写体面においてどれくらいの距離(長さ)にあたるのかを計算しておく必要があります。
 これは、使用するレンズの焦点距離や、レンズから被写体までの距離によって異なります。つまり、レンズの焦点距離が短ければ広い範囲が写りますし、レンズから被写体までの距離が長いほど、やはり広い範囲が写ります。
 大判(4×5判)カメラで比較的よく使う焦点距離のレンズと、被写体までの距離ごとに、4×5判のシートフィルムに写り込む長辺の長さを算出したのが下の表です。4×5判のフィルムの長辺の長さは121mmとして計算しています。

 では、以上の条件において、被写体ブレを起こさない、言い換えると被写体ブレが認識できないシャッター速度について、いくつかのシチュエーションで検証してみます。

時速80kmで通過する電車を真横から撮影する場合

 まずは、比較的イメージし易い電車の撮影を想定してみます。

 時速80kmの等速度で右から左に向って走る電車を、真横(電車の進行方向に対して直角の位置)から撮影するとします。この時、全紙大の写真上の0.436mm(許容移動量)が、実際の被写体面においてどれくらいの移動距離(長さ)になるかを計算します。フィルムは横置きで撮影し、長辺(横)を対象とします。
 計算式は以下の通りです。

  被写体面における移動距離 = 被写体面の撮影長さ/全紙の長辺長さ*許容移動量

 上の式に、焦点距離90mmのレンズで被写体面まで50mの距離から撮影した場合の数値をあてはめてみます。
 50m先の被写体面を焦点距離90mmのレンズで撮ると、写り込む長辺方向の長さは67,222mm(上の表より)、全紙大の長辺の長さは560mm、許容移動量は0.436mmなので、

  被写体面における移動距離 = 67,222 / 560 * 0.436 = 52.3mm

 となります。

 つまり、50m先の電車が52.3mm移動するのに要する時間よりも早いシャッター速度で撮れば、見かけ上の被写体ブレは起きないことになります。
 80km/hで走っている電車が52.3mm移動するのに要する時間(秒)は、

  52.3 / (80*10⁶ / 3,600) = 0.002355秒

 これはシャッター速度に変換すると、1/425秒となります。

 実際には1/500秒ということになるので、一般的な大判レンズのシャッター速度でギリギリ撮影できる範囲です。

 レンズの焦点距離が変わればこの値も異なるのは上に書いた通りですので、代表的な焦点距離のレンズについて許容移動量を移動する所要時間と、それに対応するシャッター速度を計算したのが下の表です。被写体面までの距離は10m、20m、50m、100m、200mの5通りを対象としました。

 この表でわかるように、80km/hで移動する電車を大判カメラで被写体ブレが感じないように写し止めるには、かなり短焦点のレンズを使っても50mほどの距離が必要ということになります。

 私は鉄道写真を撮ることはあまりないのですが、数少ない中から大判カメラで撮影した写真を探してきました。それが下の写真です。

▲WISTA 45 SP FUJINON C300mm 1:8.5 F8.5 1/125 PROVIA100F

 正確なところはわからないのですが、被写体(電車)までの距離は150~200mくらいで、電車の速度は割とゆっくりで、時速60km程度ではなかったかと思います。
 使用したレンズの焦点距離は300mmなので、これらの値を上の計算式にあてはめると、

  200m先の被写体面の撮影長さ : 80,667mm
  被写体面における許容移動量 : 62.8mm
  許容移動量に要する時間  : 0.003768秒
  シャッター速度  : 1/265秒

 となります。

 実際の撮影時のシャッター速度は1/125秒ですから、計算上は被写体ブレが認識できてしまうことになります。
 残念ながらこの写真を全紙大に引き伸ばしてないので目視確認はできないのですが、ライトボックスでポジを見ると被写体ブレしているのがわかりますので、1.5m離れていても全紙大に引き伸ばせばわずかにブレが認識できると思います。
 電車の辺りを拡大したのが下の写真です。やはり、少しブレているのがわかると思います。

▲上の写真の部分拡大

流れ落ちる滝を撮影する場合

 次に、風景写真で被写体となることが多い滝の撮影の場合です。

 滝は水が同じ形をしたまま落ちるわけではないので、電車のようにあてはめることが妥当ではないかも知れませんが、とりあえず小さな水滴が形を変えずに落ちてくると仮定して進めます。
 滝の流れ落ちる速度は下に行くほど速くなり、滝つぼに落ちる直前が最も速くなるわけですが、その速度を求めるため、いくつかの前提条件を設定します。複雑な条件を設定してもあまり意味がないので、極力簡単になるようにします。

 まず、滝の最上流部(流れ落ちるところ)の流れの速度は0とします。つまり、初速度0m/sの自由落下ということです。
 また、空気抵抗や風の影響は無視し、理想的な等加速度運動と仮定します。

 このような条件下で、落差10mの滝の水が落ち口から滝つぼまで落ちるのに要する時間を求めます。
 自由落下の式は以下の通りです。

  x = 1/2・gt²

 ここで、xは変位(落差)、gは重力加速度(9.8m/s²)、tは時間です。
 この式から時間を求める式に変換すると、

  t = √(x / (1/2・g))

 となりますので、xに10m、gに9.8m/s²をあてはめて計算すると、

  t = √(10 / (9.8/2)) = 1.429秒

 つまり、10mの落差を落ちるのに1.429秒かかることになります。

 次に、1.429秒後の流れ落ちる速度vですが、以下の計算式で求めることができます。

  v = gt

 この式に重力加速度9.8m/s²と時間1.429秒をあてはめると、滝つぼ直前の速度は、

   v = 9.8 * 1.429 = 14m/s = 50.415km/h

 となります。

 これ以降は電車の場合と同じです。
 被写体面までの距離を10m、20m、50m、100m、200mの5通りで計算すると下の表のようになります。

 落差10mの滝でも、大判カメラを使って滝の流れが止っているように写すためには、50mほど離れる必要があるので、もっと大きな滝になるとさらに条件は厳しくなります。
 私も滝はよく撮りますが、滝の流れを止めるほどの高速シャッターで撮ることは多くはありません。高速で写しとめた滝は迫力があるのですが、大判カメラでは非常に条件が限られてしまいます。

回転する風力発電の風車を撮影する場合

 近年、あちこちで見かけることが多くなったものの一つに風力発電の風車があります。海岸近くや丘の上など、風が吹くところに設置されていますが、人工物でありながら妙に風景に溶け込んでいると感じています。福島県の布引高原にも時々行きますが、ここには30基以上の風車があり、とても絵になる風景だと思います。
 この風車、一生懸命働いて(発電して)いるときに近くに行くと、唸りをあげてものすごい勢いで回転しているのがわかります。
 風車は回転しているのがわかった方が写真としては良いのかも知れませんが、この風車のブレード(羽根)が止まっているように写すことを想定してみます。

 風力発電用の風車の大きさもいろいろあるようですが、布引高原に設置されている風車について調べてみたところ、ブレードの直径が71m、ブレードの回転数は6~21.5rpmとのことでした。回転数は風の強さによって異なるので、ほぼ中央値の14rpmとして、ブレードの先端を写しとめるためのシャッター速度を求めてみます。

 風車のブレードは、電車のようにまっすぐ走るのと違って回転運動をしているので、厳密には直線運動とは異なるのですが、簡単にするために直線運動と同じ扱いをします。
 直径71m(71,000mm)のブレードの先端が回転する際に描く円周の長さは、

   円周 = 71,000 * 3.14 = 222,940mm

 です。

 ブレードは1分(60秒)間に14回転するので、1秒間だと14/60=0.233回転となり、ブレードの先端が移動する弧の長さは、

  222,940 * 0.233 = 51,945mm(51.945m)

 になります。

 すなわち、ブレード先端の速度は51.945m/sで、時速に直すと187km/hという、とんでもない速さです。新幹線に匹敵する速度であり、計算間違いかと思いましたがそうでもなさそうです。

 この高速で移動しているブレードが止まっているように見えるためにはどれくらいのシャッター速度が必要か、上と同じように計算した結果が以下の表です。布引高原の風車は巨大で、ブレードの中心までの高さが64m、ブレードが真上に行った時の先端までは99.5mにもなるため、撮影距離は50mからを対象にしました。

 このように、大判カメラの場合、短焦点レンズを使い、最低でも風車から100m離れないとブレードを写し止めることはできないということになります。

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 このような面倒くさい計算を行なわなくても、例えば電車をブラさずに写す場合はこれくらいのシャッター速度ということが経験値によってわかっていることが多いと思いますが、出来上がった写真を見る条件によって、その値はずいぶん変わってしまいます。
 今回は全紙大にプリントしたものを1.5m離れたところから観賞するという前提でしたが、もっと小さなサイズ、例えば四つ切の場合だと、許容されるシャッター速度は半分近く(正確には54.5%)まで遅くすることができます。
 一般的な大判カメラ用のレンズのシャッター速度は最高でも1/500秒ですから、高速で動く被写体を写すのはいかに苦手かということがわかります。

(2022.8.17)

#シャッター速度 #WISTA45 #ウイスタ

大判カメラのフォーカシングスクリーン すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ

 レンジファインダーカメラや最近のミラーレス一眼カメラを除けば、一眼レフカメラや二眼レフカメラ、大判カメラなどにはフォーカシングスクリーン(ピントグラス)が備わっています。レンズから入った光を結像させるとともに、ピント合わせをおこなうという非常に重要なパーツです。
 フォーカシングスクリーンは「すりガラスタイプ」と「フレネルレンズタイプ」の2種類に大別できます。それぞれ特徴がありますが、今回は大判カメラのフォーカシングスクリーンに焦点をあててみたいと思います。

すりガラスタイプ 最もベーシックなフォーカシングスクリーン

 大判カメラのフォーカシングスクリーンはこんな感じです。フィールドタイプのカメラの裏蓋を開けると、そこにフォーカシングスクリーンが見えます。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン(Linhof MasterTechnika 2000)

 すりガラスタイプは昔から使われているもので、ガラスの片面がすりガラス状になっているだけというシンプルなものです。ここにレンズからの光が当たると結像します。
 すりガラスのきめが細かいので非常に鮮明に結像されるのが特徴です。
 一方、フォーカシングスクリーンの周辺部ではレンズからの光が斜めに入ってくるので、フォーカシングスクリーンの後ろ側から見るとかなり暗く落ち込んでしまいます。

 下の写真はすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したものです。わかり易くするため、カメラには#1のレンズボードだけを装着し、レンズは着けていません。
 1枚目は蛇腹を80mm引出した状態、2枚目は250mm引出した状態です。

▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲すりガラスタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 80mm引き出した状態では周辺部は真っ黒、250mm引出しても十分な明るさにならないことがわかると思います。
 このように、短焦点レンズ(蛇腹の引出し量が少ない)の場合、フォーカシングスクリーンの周辺部はかなり暗くなってしまいます。焦点距離が長く(蛇腹の引出し量が多く)なるにつれて周辺部の暗さは少しずつ解消されますが、中心部に比べるとやはり暗いです。

 わかり易くするため、図にしてみました。

 上の図でもわかるよに、中心部、およびその周辺はフォーカシングスクリーンに対して垂直、またはそれに近い角度で光が入ってきますが、周辺部に行くほど入射角が斜めになっていきます。これはレンズの焦点距離が短くなるほど顕著になります。
 このため、ルーペでピント合わせをしようとしても、ルーペをフォーカシングスクリーンに垂直にあてると光が入ってこないので、視界が真っ暗という状況になってしまいます。

 これを解消するには光の入射方向に対してルーペのレンズ面が垂直になるように傾ければ良いのですが、そうするとルーペのピントが合わなくなってしまいます。伸縮型のルーペを使うとか、斜めから入射してくる光が見えるようなレンズ径の大きなルーペを用いるなどの工夫が必要になります。

 このように、すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは使いにくいと思われるかもしれませんが、鮮明な像が得られるのと、ピントの山がとてもつかみ易いという利点があります。
 ピント合わせ用のルーペは6~7倍の倍率のものを使うことが多いのですが、シビアなピント合わせをするときは20倍くらいのものを使うこともあります。それくらいの倍率で見てもすりガラスのざらつきがさほど気になりません。

 因みにすりガラスタイプのフォーカシングスクリーンは自分で作ることもできます。既定のサイズにカットした透明のガラスの片面を、#2500くらいの耐水ペーパーで根気よく磨くだけです。#2500の耐水ペーパーの粒度は6㎛程度らしいので、非常にきめ細かなすりガラスになります。

フレネルレンズタイプ 明るくて見やすいフォーカシングスクリーン

 すりガラスタイプのフォーカシングスクリーンに比べて、圧倒的に明るい像が得られるのがフレネルタイプのフォーカシングスクリーンです。
 肉眼では全くわかりませんが、レンズを薄くスライスし、周辺部だけを残して中をくり抜いたものを同心円状に並べたような構造をしています。

 上の図のように、薄くスライスしたレンズの周辺部だけを残すことで、三角プリズムのような形になります。ここに斜めから入射してきた光があたると屈折して、フォーカシングスクリーンに対して垂直に近い角度の光になります。これによって、フォーカシングスクリーンの周辺部で暗く落ち込んでしまうのを防ぐことができます。

 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンを真後ろから撮影したのが下の2枚の写真です。
 1枚目が蛇腹を80mm引出した状態、2枚目が250mm引出した状態で、すりガラスタイプと条件は同じです。

▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹80mm引出したとき
▲フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーン 蛇腹250mm引出したとき

 蛇腹を80mm引出した状態では周辺部の落ち込みは見られますが、250mm引出した状態ではフォーカシングスクリーン全面がほぼ同じ明るさになっており、周辺部の落ち込みは感じられません。このため、短焦点レンズを使った場合でも周辺部の落ち込みが少ないので、ピント合わせはすりガラスタイプに比べると格段にし易くなります。

 しかし、ルーペを使うと同心円状のフレネルレンズが目立ってしまい、特に高倍率のルーペではフレネルレンズの縞模様に被写体が埋もれてしまうような感じになります。6~7倍くらいの倍率であればそれほど気になりませんが、20倍というような高倍率ルーペではピントが合わせ難くなります。
 フレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンの同心円は、およそ1mmに12~15本ありますので、ピッチは0.067mm~0.083mmといったところです。これはすりガラスのざらつきに比べると桁違いに大きい値です。

 フレネルレンズ自体はアクリルやポリカーボネイトなどのごく薄い素材でできているらしく、フォーカシングスクリーンとして用いる場合は、結像のためのすりガラスと保護用の透明のガラスでサンドイッチされた構造になっています。

鮮明な像を優先するか、明るさを優先するか

 すりガラスタイプとフレネルレンズタイプ、それぞれの特徴はおわかりいただけたと思いますが、どちらのタイプを選ぶかは人それぞれだと思います。
 私は主にすりガラスタイプを使っていますが、いちばんの理由は鮮明な結像とピントの合わせやすさです。レンズを前後させたとき、ピントが立ってくるところと、それを超えてピントが崩れていくところがとてもわかり易く、ピントの山でピタッと止めることができます。

 また、大判カメラはアオリを使うことも多く、レンズの前後とアオリの量を微妙に調整しながらピント合わせを行ないます。フォーカシングノブをほんの1ミリほど動かしただけでピントが移動するのがわかるのは、やはりすりガラスタイプならではと思っています。

 周辺部の暗さについては口径の大きなルーペを使うことで凌いでいます。私は直径49mmのレンズを用いた自作のルーペを使っていますが、斜め45度くらいから覗いても視界が確保されるので、暗くてピント合わせができないというようなことはありません。
 難点は少々大きくて重いということです。

 WISTA 45 SPには標準のフレネルレンズタイプのフォーカシングスクリーンがついているのですが、時たまWISTAを持ち出すと、明るいフォーカシングスクリーンはありがたいと感じます。短焦点レンズを使う頻度が高ければ、フレネルレンズタイプは便利だと思います。

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 異なるタイプのフォーカシングスクリーンを取付けたバック部を二つ用意しておいて、被写体や使用するレンズによって使い分けるという方法もあるかも知れませんが、慣れの問題も大きいので、いろいろ試してみて自分に合ったものを選ぶということになると思います。
 なお、大判カメラのバック部に取付けられているフォーカシングスクリーンの交換は簡単にできますが、結像面がフィルム面とピッタリ同じ位置にないと、ピント合わせをしてもピントがずれた写真になってしまいますので、交換する場合は結像面位置の計測が必要になります。

(2021.11.23)

#WISTA45 #ウイスタ45 #Linhof_MasterTechnika #リンホフマスターテヒニカ

大判カメラのアオリ(6) バックティルト&バックスイング

 前回までフロント部のアオリについて説明してきましたが、今回はバック部のアオリについて触れていきたいと思います。
 ビューカメラはバック部も大きなアオリが使えますが、フィールドカメラ(テクニカルカメラ)ではフロントほど多彩な動きはできませんし、風景撮影においては使う頻度もフロント部のアオリに比べると多くありません。

フィールドカメラのバック部のアオリ動作

 フィールドカメラの場合、バック部のアオリとしては「ティルト」と「スイング」の2種類だけというのが多いと思います。ライズやフォール、シフトなどのアオリはできないのがほとんどです。
 アオリのかけ方もカメラによって異なり、例えばリンホフマスターテヒニカやホースマン45FAなどは、4本の軸で支えられたバック部を後方に引き出し、自由に動かすことができるという方式です。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45のバック部を引き出した状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 バックティルト&バックスイング

 カメラの上部と左右側面にあるロックネジを緩めるとバック部を引き出すことができます。4軸が独立して動くのでバック部全体がだらしなくグニャグニャしてしまいますが、ティルトやスイングを同時に行なうことができます。

 これに対してウイスタ45はティルトとスイングが別々に動作します。

▲WISTA 45SP バックティルト&バックスイング

 ティルトは本体側面下部にある大きなロックネジを緩めて、本体自体を前後に傾けて行ないます。
 また、スイングは本体下部にあるリリースレバーを押し込み、本体を左右に回転することで実現します。これに加えて、本体側面のダイヤルを回すことで微動スイングも可能になります。

 それぞれ一長一短があり、どちらが使い易いかは好みもあるかも知れませんが、ティルトとスイングを同時にかけたいときなどはリンホフ方式の方が自由度が高くて便利に感じます。

バック部のアオリはイメージサークルの影響を受けない

 フロント部のアオリのところでも触れたように、どんなにカメラのアオリ機能が大きくても、レンズのイメージサークル内に納めないとケラレが発生してしまいます。これは、レンズ(フロント部)を動かすことでイメージサークル自体が移動してしまうからです。
 しかし、バック部を動かしてもイメージサークルは動きませんし、また、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことはあり得ませんので、ケラレが起こることもありません(ただし、ビューカメラのようにライズやシフトができる場合は別です)。

 フロント部、およびバック部のアオリとイメージサークルの関係を下の図に表してみました。

 バック部を後方に引き出すということは、イメージサークルが大きくなる方向に移動することであり、ティルトとスイングだけであればイメージサークルからはみ出すことがないのがお判りいただけると思います。
 フロント部のアオリをかけすぎるとイメージサークルの小さなレンズではケラレが発生してしまいますが、バック部のアオリの場合はその心配がありません。

シャイン・プルーフの法則も適用される

 フロント部のアオリのところで、ピント面を自由にコントロールするシャイン・プルーフの法則について説明しましたが、バック部でも同じようにこの法則が当てはまります。

 下の図はバックティルトによって、近景から遠景までピントを合わせることを説明しています。

 フロント部は固定したまま、バック部を傾けることで撮像面が移動しますので、被写体面、レンズ面、撮像面が一か所で交わるようにすればパンフォーカスの写真を撮ることができます。

バック部のアオリは被写体の形が変形する

 バック部のアオリとフロント部のアオリの大きな違いは、バック部のアオリでは「被写体の形が変形する」ということです。フロント部のアオリでは真四角なものは真四角のままですが、バック部でアオリをかけると真四角なものが台形になってしまいます。

 上の図でわかるように、例えばバック部の上部だけを引き出すバックティルトをかけた場合、バック部の上部がイメージサークルの大きな方向に移動することになります。このため、撮像面に投影される像も広がります。
 一方、バック部の下部は移動しませんので、投影される像の大きさは変化しません。
 この結果、例えば正方形や長方形の被写体であれば、上辺が長い台形となってフォーカシングスクリーンに写ります(投影像は上下反転しているので、写真は底辺が長い台形になります)。

 被写体が変形するということは本来であれば好ましいことではありませんが、物撮りなどで形を強調したいときなどは、あえてバック部のアオリを使って撮影することもあります。

バック部のアオリの効果(実例)

 では、実際にバック部のアオリを使うとどのような効果が得られるか、わかり易いように本を使って撮影してみました。

 下の写真は漫画本(酒のほそ道...私の愛読書です)を、約45度の角度でアオリを使わずに俯瞰撮影したものです。

▲ノーマル撮影(アオリなし)

 ピントは本のタイトルの「酒」という文字のあたりに置いています。当然、本の下の方(手前側)はピントが合いませんので大きくボケています。
 撮影データは下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F8
  シャッター速度 1/4

 同じアングルで、バックティルトをかけて撮影したのが下の写真です。

▲バックティルト使用

 全面にピントを合わせるため、カメラのバック部の上部を引き出しています。すなわち、バック部を後方に傾けた状態です。
 本の表紙の全面にピントが合っているのがわかると思います。バック部のアオリでもシャイン・プルーフの法則によってパンフォーカスの写真を撮ることができます。
 なお、撮影データは上と同じです。

 一方で、アオリをかけた写真の方が、本の下部が大きく写っていると思います。これがバック部のアオリによる被写体の変形です。バック部の上部を引き出したため、被写体と撮像面の距離が長くなり、その結果、撮像面に投影される像が大きくなることによる変形です。

フロント部のアオリとバック部のアオリの比較

 フロント部のアオリでは被写体の変形は起こらないと書きましたが、実際に同じ被写体を使ってその違いを比べてみました。

 モデルは沖縄の人気者のシーサーです。
 下の写真、1枚目はフロントスイングを使って撮影、2枚目の写真はバックスイングを使って撮影しています。

▲フロントスイング使用
▲バックスイング使用

 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り  F11
  シャッター速度 1/2

 二つのシーサーの大きさは同じですが、前後にずらして配置しているので後ろ(右側)のシーサーが小さく写っています。
 しかし、1枚目の写真に比べて、2枚目の写真の手前(左側)のシーサーが若干大きく写っているのがわかると思います。やはりバック部のアオリによる被写体の変形で、バックスイングでも同じような現象が起きます。

 このように、ピント面を移動させてパンフォーカスにしたり、逆にごく一部だけにピントを合わせたりということはフロント部、バック部のどちらのアオリでも同様にできますが、バック部のアオリでは被写体の変形というおまけがついてきますので、被写体や作画の意図によってどちらのアオリを使うか選択すればよいと思います。

バックティルトの作例

 実際に風景撮影でバックティルトを使って撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F32 1/4 Velvia100F

 満開の桜の木の下から遠景の山を撮影していますが、頭上にある桜にもピントを合わせたかったのでバックティルトを使っています。カメラのバック部の下部をいっぱいに引き出していますが、すぐ頭上にある桜にピントを持ってくるのはこれが限界でした。

 桜の花がかなり大きく写っているのはバックティルトによる影響です。

 ただし、このようなアオリを使った場合、ピント面は頭上の桜と遠景の山頂を結んだ面で、中景の低い位置にピントは合いません。上の写真では中景に何もないので気になりませんが、ここに木などがあるとこれが大きくボケてしまい、不自然に感じられる可能性があります。ピント面をどこに置くか、被写体の配置を考慮しながら決める必要があります。

 風景撮影でバック部のアオリを使う頻度は多くないと書きましたが、使い方によってはインパクトのある写真を撮ることができます。

(2021.5.19)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #ウイスタ45 #WISTA45

東京ゲートブリッジでピンホールカメラ試し撮り

 耐え難い暑さもやっとおさまったので、自粛中に作ったピンホールレンズの写りを確認するため、東京ゲートブリッジの定番撮影ポイントである若洲海浜公園に行ってきました。しばらく雨降りが続いていましたが久しぶりに青空が広がり、若洲海浜公園の駐車場は満車状態です。多くの方は釣りをしに来ているようです。ほぼ快晴で日差しは強いですが風がとても気持ち良いです。

WISTA 45SP でゲートブリッジ撮影

 2か月ほど前に作ったピンホールレンズでどの程度の写真が撮れるのか、4×5フィルムとブローニーフィルム(67判)で実際に撮影をしてきました。持ち出したカメラはWISTA 45SPとHorsemanのロールフィルムホルダーです。あとはピンホールレンズや単体露出計、メジャーなどの小物ばかりですので、レンズがないと本当に機材が軽いと実感しました。これで超広角から望遠まで無段階に対応できるのですから、ピンホールカメラ恐るべしです。

 まずは橋の南側からゲートブリッジ全体の形が綺麗に見えるポイントに行き、4×5フィルムで撮ったのが下の写真です。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F330 7s (4×5判)

ピンホール径を逆算してみると

 撮影データですが、焦点距離は100mm(35mm判カメラに換算すると28mmくらいのレンズの画角に相当します)、F330でシャッター速度は7秒です。
 単体露出計で手前の草の部分と海面を計測し、ピンホール径が0.3mmということで計算した露出ですが、若干、露出オーバー気味です。ということはピンホール径が0.3mmよりもわずかに大きいようです。現像が仕上がったポジの状態からピンホール径を逆算すると、0.33mmくらいあることになります。ルーペを覗きながらマチ針で開けた穴ですので決して高い精度は望めず、まぁ、こんなものかなと思います。次回の撮影からはピンホール径が0.33mmということで露出を決めれば良いので、仕上がりはもう少し良くなることを期待したいです。

 周辺部の落ち込み(光量不足)がもう少しあるかと予想していたのですが、思ったほどではありませんでした。この写真のほかにもう一枚、焦点距離85mmで撮影したポジは四隅が若干暗くなっており、光量不足の影響が出始めているのがわかりました。計算上、最短撮影距離の68mmでは周辺部で2EVほど暗くなると思っていましたが、実際には1~1.5EVくらいでおさまりそうです。

画質は及第点

 画質は予想以上に解像しており、及第点といったところでしょう。さすがに草の一本いっぽんまでは識別できませんが、穂が伸びているところや左端にある時計の目盛りなどは十分わかります。少しボヤっとしていたほうが針穴写真らしいと思いますが、どこで折り合いをつけるかが悩ましいところです。機会があればもう少し径の大きなピンホールを作って試してみたいところです。
 この写真では太陽が左側にあるのですが、フレアが起きています。これを避けたい場合はフードやハレ切りを使えば防げますが、このように晴れた日の写真ではフレアがあることで降り注ぐ太陽の光を感じられるかも知れません。

ブローニーフィルムで撮影

 下の写真はブローニーフィルム(ロールフィルムホルダーを使用)で釣りをしているところを撮ってみました。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F276 4s (67判)

 焦点距離が80mm(35mm判カメラ換算で40mmくらいのレンズの画角に相当)、F267、シャッター速度は4秒です。1枚目の写真同様、露出は若干オーバー気味です。
 手前の岩を大きく入れてみました。このような構図の場合、パンフォーカスにしようとするとレンズを使った通常の撮影ではかなり大きなアオリが必要になりますが、当然のことながらピンホールカメラでは全く気にせずにパンフォーカスになるのがすごいところです。
 また、シャッター速度が4秒くらいだと人の動きも極端に大きくブレることなく、ぎりぎりそれとわかるくらいには写し止めることができます。

遠景を望遠で撮影

 さて、長い焦点距離(望遠)ではどのように写るかということで撮影したのが下の写真です。

東京ゲートブリッジ  WISTA 45SP Pin-hole Lens F900 50s (67判)

 撮影データは、焦点距離270mm(35mm判カメラ換算で135mmレンズの画角に相当)、F900、シャッター速度は50秒です。露出オーバー気味も手伝ってか、やはりボヤっとした感じが強まっている印象ですが、ここまで写ってくれれば良しということにしましょう。

 今回は試し撮りということで4×5フィルム2枚、ブローニー(220)フィルム1本(20カット)を撮影してきましたが、構図確認用のピンホールレンズの穴径が大きすぎて、フォーカシングスクリーンに映る像がぼやけすぎてしまうということが判明しました。穴径が大きければ明るい像が得られますがボケも大きくなってしまい、構図を決めるのに手間がかかってしまいます。ここは改善の余地のあるところです。
 また、ピンホールレンズが計算通りに作ることができているか確認するため、今回は露出がシビアなリバーサルフィルムで撮影しましたが、針穴写真はモノクロやネガフィルムのほうが雰囲気があると思いますので、若干の改善をした後、次回は本格的な撮影に臨みたいと思います。

(2020.10.5)

#東京ゲートブリッジ #ピンホール写真 #ウイスタ45 #WISTA45 #リバーサルフィルム

大判カメラ:WISTA 45SP ウイスタ 45SP

 日本の代表的な大判カメラのメーカーであるウイスタが製造販売している金属製大判フィールドカメラです。現時点でも同社の金属製大判(4×5)カメラとしてはこの45SPのほかに45VX、45RFを含めた全3機種が製造販売されているようですが、オンラインショップをのぞくと45RF以外は品切れとなっていますので、もしかしたら生産終了かもしれません。

堅牢なボディとユニークな構造

 国産の金属製大判フィールドカメラとしてはTOYO FIELD(トヨフィールド)やHORSEMAN(ホースマン)も有名ですが、トヨフィールドはかなり大きいし、ホースマンはコンパクトですが小さすぎて使いにくく、個人的にはウイスタの大きさがいちばん使い易いと思っています。オールダイキャストで作られたボディは非常に堅牢です。

WISTA 45SP

 このカメラの標準蛇腹での繰出し量は約300mmで、あまり長い玉は使えません。FUJINONのC300というレンズはフランジバックが282mmですから使うことはできますが、近景を撮影しようとすると無理があります。ですので、300mmレンズを使うのであればテレタイプが無難です。もちろん長尺蛇腹に交換すれば問題ありません。
 一方、カメラの構造上、レールが短くできているので65mmレンズでもベッドダウンなしでもケラレることはありません。これは広角撮影の時はとてもありがたいです。
 また、リンホフのようにベッド部と本体を固定するタスキがなく、大型のノブで締めつける方式が採用されたユニークな構造になっています。

カメラの主な仕様

 このカメラの主な仕様は以下の通りです(WISTA 45SP 取扱説明書より引用)。
  画面サイズ    : 4×5インチ判
  レンズマウント  : リンホフ規格仕様
  フロントライズ  : 56mm
  フロントフォール : バックティルトとティルトアップによる
  フロントティルト : 前後各15度  
  フロントスイング : 左右各15度 
  フロントシフト  : 左右各40mm
  バックティルト  : 前90度、後15度  
  バックスイング  : 左右各15度
  最大フランジバック: 300mm
  収納時外形寸法  : 180mm(W)×197mm(H)×105mm(D)
  重量       : 2,900g

リンホフボード使用時に注意すること

 レンズボードはリンホフ規格を採用しているので、リンホフボードに取付けたレンズをそのまま使うことができます。ただし、リンホフ規格のボードはレンズ取付け穴がボード中心から約8mm下にオフセットされているため、ウイスタで使う場合はレンズ部を約8mm上げなければなりません。これでレンズの中心とフィルム面の中心がそろうことになります。これを忘れると、イメージサークルの小さなレンズではケラレてしまうことがあり、私もFUJINON W105mmレンズでその失敗を何度か経験しました。
 下の写真はフロント部のライズ前後の状態です(左がライズなし、右が約8mmライズした状態)。

WISTA 45SP フロントライズ

フロント部のアオリ

 アオリについて少し触れてみたいと思います。
 まずフロント部ですが、ライズ、ティルト、スイング、シフトのいずれも十分な量のアオリが可能です。フォール(レンズ部を下げる)については、リンホフボードを使用した場合に限り、最下端から8mm上がったところがニュートラルになるため、結果的にベッドダウンせずに約8mmのフォールが可能ということになります。
 フロントティルトはフリクション方式により微動が可能で、とても使い易いです。ただし、ニュートラル位置にクリックがないので、戻す際には目で確認するしかありません。スイングとシフトは手による移動になりますが、ニュートラル位置にクリックがあるので目で確認しなくても戻すことができます。

WISTA 45SP フロントティルト

バック部のアオリ

 バック部はリンホフのように全体が自由に動くのではなく、ティルトとスイングがそれぞれ独立した操作になります。ティルトは本体とベッド部を固定しているノブを緩めることで前後に倒れます(前に90度、後ろに15度)。フィルム下端に近いところが支点となって上部が前後に振れるので、ピント合わせはしやすいと思います。
 バック部のスイングは、本体全体が左右に15度ずつ首を振るのに加えて、カメラの左右側面中央のノブを回すことにより、左右それぞれ独立して4度の微動スイングができるようになっています。このあたりの作りはさすがに日本のメーカーといった感じです。
 大判カメラの場合、冠布をかぶってカメラの後方から操作をするわけですが、その状態でフロント部もバック部もすべての操作ができるよう、ノブの配置等が考えられていると思います。
 下の写真はバック部の微動スイング前後の状態です(左がスイングなし、右がスイングをした状態)。

WISTA 45SP バック部の微動スイング

フレネルタイプのフォーカシングスクリーン

 フォーカシングスクリーン(ピントグラス)は標準でフレネルタイプが採用されており、通常の擦りガラスに比べるとかなり明るいです。周辺部でも明るく、超広角レンズ以外はほぼ正面からピント合わせができるのでとてもありがたいです。擦りガラスの場合は斜めからのぞき込むなどしないと周辺部はとても見にくく、ピント合わせに苦労があります。子供の頃、テレビに写った女性のスカート中が見えるのではないかと、テレビの下の方からのぞき込んでいた姿に似ています。周りの人からすると、風呂敷のようなものをかぶって中でゴソゴソと何をやっているんだと思われているに違いありません。
 しかし、フレネルタイプは倍率の高いルーペでシビアなピント合わせをしようとすると、フレネルレンズの同心円模様が目立ってしまい、ピント合わせしにくいということもあります。
 フレネルタイプか通常の擦りガラスタイプか、どちらが好みかはそれぞれでしょうが、私はピントがキリッと立ってくる擦りガラスタイプが好きです。

豊富なアクセサリー

 もう一つ、ウイスタのカメラの特筆すべき点はアクセサリー群の豊富さだと思います。私はほとんどアクセサリーをもっていませんが、交換蛇腹や交換レールに始まりレンズボード、フォーカシングフード、フィルムホルダー、レンズフード、スライドアダプタ等々、その発想力と開発力に驚くばかりです。 

(2020.9.19)

#ウイスタ45 #WISTA45