フジノン大判レンズ FUJINON W 125mm 1:5.6 応用範囲の広いレンズ

 フジノン大判レンズのうち、広角から標準系レンズの最終モデルはCM FUJINON シリーズですが、Wシリーズはそのひとつ前のモデルです。CM FUJINON になってからはフィルター径を67mmにそろえたものが多くなり、そのためレンズが大きくなったイメージがありますが、Wシリーズのフィルター径は必要最低限にとどめているせいか、特に105mmから150mmのレンズはとてもこじんまりとしています。

 Wシリーズの中でも150mmや180mm、210mmといった焦点距離のレンズは中古市場でもよく見かけますが、125mmや135mmは市場に出回っている数も少ないといった感じです。

フジノン FUJINON W 125mm 1:5.6の主な仕様

 フジノンのWシリーズは焦点距離105mmから360mmまで9本のレンズがラインナップされていました。ひとつ前の世代の旧Wシリーズは主にセイコーSEIKO製のシャッターが採用されていましたが、新しいWシリーズのシャッターはコパルCOPAL製に統一されています。
 10本のCM FUJINONシリーズが揃ったのが1994年とのことですが、それ以降もWシリーズの方が受け入れられていたという印象があります。レンズの性能はCM FUJINONの方が高いのかもしれませんが、出荷本数はWシリーズの方が多かったのだろうと想像できます。

 Wシリーズに関する情報がなかなか得られないのですが、このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ198mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 6群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : COPAL No.0
   シャッター速度 : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 52mm
   前枠外径寸法 : Φ54mm
   後枠外径寸法 : Φ41.9mm
   全長  : 50.8mm
   重量  : 215g
  
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると、焦点距離がおよそ35mmのレンズに相当します。ごく一般的な広角レンズの画角といった感じです。
 シャッターは0番でフィルター径も52mmしかないので、レンズボードをつけたままでもズボンのポケットに簡単に入るくらいの小ささです。CM FUJINONの中で唯一、私が持っているCM-W 105mmレンズよりもずっと小さく感じます。リンホフ規格のレンズボードに取付けてもレンズの周囲にたっぷりと余裕があり、レバーを操作したりケーブルレリーズを取付けたりする際はとてもありがたいです。
 また、前玉枠が小さいので絞りやシャッター速度の目盛りも見易いです。

 イメージサークルは198mm(F22)と、決して余裕のある方ではありませんが、4×5判で一般的な風景を対象にする場合は特に不都合は感じません。ちなみに、CM-W 125mmレンズのイメージサークルは204mm(F22)なので、若干大きくなっているようです。
 レンズ構成は6群6枚となっているので、絞りを挟んで3枚ずつの対称配置されたオルソメター型と思われます。Wシリーズはオルソメター型と言われているので間違いないと思いますが、実際に確認したわけではないのでもしかしたら違っているかも知れません。
 オルソメタータイプのレンズは焦点距離の割に薄型にすることができるらしく、このレンズも全長は50mmほどです。
 絞り羽根は5枚で、開放に近い絞り値では若干膨らんだ5角形になります。

4×5判で63度という画角

 63度というのは4×5判における対角画角ですが、横位置に構えた時の水平(長辺)画角は約53度、垂直(短辺)画角は約44度になります。
 一方、人間の視野角は個人差もあるのでしょうが、概ね、水平方向に180~200度、垂直方向に120~130度もあるらしいです。数値だけ見るとかなり広いのですが、この広い視野角の中である程度はっきりと認識できるとなると、水平・垂直とも60度ほどと、かなり狭くなってしまうようです。
 つまり、何某か視界に入っていたとしても、それを明確に認識できる範囲は1/3ほどになってしまうということですが、この視野角は焦点距離125mmのレンズを4×5判で使ったときの画角に非常に近い値です。人間が正面を向いて目の前の景色を見た時、はっきりと見えている範囲と125mmレンズの画角(4×5判)がほぼ一致しているということです。

 このように考えると、35mm判カメラにおける標準レンズは50mmではなく、35mmくらいの方がしっくりくるような気がしますが、標準レンズの定義はともかく、35mm判で35mm、4×5判では125mmという焦点距離のレンズは、人間にとっても違和感のない、とても自然な画角のように思えてきます。
 画角の広い短焦点レンズの場合、肉眼で写り込む範囲を確認しようとすると眼を上下左右に動かさなければなりませんが、60度前後の画角だと正面を向いたまま、眼を動かすことなく写る範囲がはっきりとわかります。

 レンズの焦点距離や画角に対する感覚は個人差や慣れがありますが、私の場合、いわゆる標準レンズの画角と言われている48度前後というのは結構狭いという感じがあります。
 標準と呼ばれるレンズの焦点距離が何ミリであろうと全く気にはしませんが、60度前後の画角がいちばん自然に感じられるのは確かです。
 これは撮影に臨み、使用するレンズを選択する際にフレーミングの範囲を決めやすいことにつながります。焦点距離125mmのレンズは、私にとって一つの基準となるようなレンズかもしれません。

撮影の適用範囲が広いレンズ

 一般的に4×5判では広角系に含まれることが多い125mmレンズですが、人間の視野角に近いせいか、あまりクセのないレンズと言えると思います。裏返せば面白みのないレンズと言えるのかもしれませんが、それがゆえに多彩な使い方のできるレンズではないかと思っています。引いて撮ることで広角レンズらしさを出したり、逆に寄ることで中望遠レンズっぽさを出したりと、自由度の高いレンズという感じです。

 それでは、このレンズで撮影した写真を何枚か紹介します。

 まず1枚目は福島県で撮影した雷滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F32 4s Valvia100F

 茨城県に近い湯岐(ゆじまた)温泉のあたりを車で走っていた際に、道路脇に「雷滝」と書かれた小さな看板が目に入りました。看板のある所から、人ひとりがやっと歩けるくらいの細い道がついていて、滝を正面から見ることのできる場所まで行くことができます。急斜面を降りていけば滝つぼまでたどり着けそうですが、ロープなどのアシストがないとちょっと無理そうです。水量はさほど多くないので、長靴を履いていれば川を渡ることも出来そうです。
 周囲は大きな木立に囲まれていて、昼間でも薄暗い場所です。

 滝は2つに分かれていますが落差はそれほど大きくなく、たぶん、左側が5~6m、右側が10mほどではないかと思われます。黒い岩とのコントラストがとても綺麗で、繊細な感じのする滝です。
 撮影した場所から滝までの距離は40~50mほどだと思いますが、広がりを感じられるように周囲を若干広めに取り入れました。ただし、広く入れ過ぎると雑然としたものも写り込んでしまうので滝の存在感を損なわない程度にしました。

 画の下部中央にある岩にもピントを合わせたかったので、少しだけフロントのアオリ(ティルト)をかけています。
 解像度は周辺部でも全く問題なく、苔の間から出ている極細い葉っぱもしっかりわかります。辺りは薄暗いうえに絞り込んでいるため、長時間露光になって木の葉はあちこちでブレていますが、全体的にシャープでありながらカリカリとし過ぎない、個人的には好ましい写りだと思っています。
 発色も嫌味がなく自然な感じで、若干、青みがかっているように見えますが、滝の流れなどを見てもニュートラルで綺麗な白なので、さほど気にするほどではないと思います。

 こうして出来上がった写真を見ても約63度という画角はとても自然な感じがして、この滝に対峙した時、視界にはもっとずっと広い範囲が入っているのですが、はっきりと認識できる範囲というとちょうどこのくらいなんだろうと思います。
 被写体に極端に近づきすぎることなく、この程度の距離からの撮影であればパースペクティブが出過ぎることもなく、肉眼で見たのに近い写真に仕上がるのがこの画角だと思います。

 2枚目は白樺林に咲くレンゲツツジを撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F5.6 1/125 Valvia100F

 長野県の峰の原高原は標高1,500mほどに広がる高原ですが、梅雨の季節に行くとレンゲツツジの群落をあちこちで見ることができます。レンゲツツジの花色は赤というよりもオレンジに近い色をしていて、とても鮮やかです。伸び始めた黄緑色の葉っぱとのコントラストも綺麗で、白樺とのコラボはとても絵になる風景です。
 レンゲツツジの名所はたくさんありますが、峰の原高原の花の密度はとても高いと思います。

 この写真を撮影した時は空一面雲に覆われていて、雨が降り出しそうな天気でした。といっても薄暗いというわけではなく、柔らかな光が回り込んでいるといった感じで、写真でもわかるように比較的明るい状態でした。
 画の下半分を締めているレンゲツツジまでの距離は1.5mほど。手前のレンゲツツジにはピントを合わせながら背景はほどほどにぼかしたかったので、被写体にできるだけ近づいての撮影です。奥行き感を出すためにピントを合わせる白樺は右側の1本だけとし、それ以外はぼかすようにしました。
 花の色が濁らないように、露出は若干多めにかけています。そのため、花弁が白く輝いているところもありますが、高原の爽やかさを出すには、これくらい明るい方が良いのではないかと思います。

 画の上半分は全体にぼかしていますが、ボケ方はとても自然な感じです。もう少しぼかしても良かったかもしれませんが、右側の白樺の幹がくっきりと浮かび上がっているのでこれくらいでも十分かも知れません。ボケながらも背景にあるレンゲツツジや白樺の樹がはっきりとわかるので、この林が奥の方まで続いているのが感じられると思います。
 掲載した写真では良くわからないと思いますが、拡大してみると周辺部に口径食が見られます。少し絞り込めば気にならなくなると思いますが、夜景などを撮るともっとはっきりと出ると思います。

 被写体に近づき、あまり絞り込まずに撮影しているので、実際の焦点距離よりも長いレンズで撮っているような感じになっていると思います。同じこの場所をもっと短い焦点距離のレンズ(105mmとか90mmなど)で撮ると背景はこれほどボケてくれず、もっと広範囲が写り込んでしまうので、全く雰囲気の異なる写真に仕上がると思います。
 被写体にぐっと寄ることでずいぶんとイメージが変わります。

 さて、3枚目は代表的な夏の野草、ノアザミを撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F5.6 1/125 Valvia100F

 6月ごろから日当たりの良い山野などで良くみられるキク科の多年草です。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、時には淡い紫や白い花を見かけることもあります。背丈が1m近くまで伸び、遠くからでもとてもよく目立ちます。夏の花というイメージですが、まれに秋口まで咲いていることもあり、野草の撮影をする立場からするとありがたい存在です。
 葉はトゲトゲしていますが、まだ柔らかい若芽や茎は食用になります。少し苦みがありますが、春の山菜らしい味かも知れません。

 ノアザミは蜜が多いのか、蝶や蜂が良く集まってきます。特に蜂は蜜集めに没頭しているせいか、触れるくらい近づいても逃げようともしません。動きが早いのでマニュアルのカメラで撮るのは結構大変ですが、ノアザミとの組み合わせは格好の被写体です。
 この写真はあらかじめフレーミングとピント合わせをしておき、そこに蝶が来たところを撮ったものです。蝶が置きピンをした位置に来た瞬間にシャッターを切ったのですが、そのとき、偶然にも蜂が飛んできて花にとまりました。

 カメラから花までの距離は30cmほど、絞りは開放なので被写界深度はごく浅く、ピントが合っているのはノアザミの頭頂部の辺りだけです。蝶が横を向いてくれたのでかろうじて羽根のつけ根の方はピントが合っていますが、先の方はピント外です。まさにマクロ撮影ですが、花の先端や蝶の目の辺りなど、まずまずの解像度ですし、コントラストも十分かと思います。
 背景は林になっているのですが、被写体からの距離は数10mはあるので大きくボケています。やはり、焦点距離125mmならではのボケという感じがします。
 被写界深度をかせぐためにもう1段くらい絞った方が良かったかもしれませんが、そうすると背景のとろけるようなボケはちょっと汚くなってしまいそうです。

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 デジタルカメラ用に設計された最新のレンズと比べれば確実に性能は劣っていると思うのですが、全紙程度にプリントしたくらいでは十分な像が得られるので、全く問題はないレンズだと思います。
 4×5判で使えば広角寄りのレンズですが、撮影の仕方によっては大きなボケを得ることができ、応用範囲の広いレンズであると思います。そこそこ広い風景から近接撮影まで無理なく使えるという点も、125mmという焦点距離ならではだと思います。

 小ぶりで携行性にも優れているため撮影時には必ず持ち出すレンズの1本ですが、何と言ってもいろいろなシチュエーションで使い易いというのがいちばんの理由かもしれません。

(2023.7.26)

#FUJINON #Linhof_MasterTechnika #フジノン #リンホフマスターテヒニカ #Velvia #レンズ描写

ローライ Rollei RPX100 モノクロフィルムの使用感 ACROSⅡの代替フィルム探し

 6月に富士フイルムの製品が大幅に値上げされ、私も愛用していたACROSⅡも信じられないくらいの価格になりました。新宿の大手カメラ量販店では、ブローニー(120)サイズのフィルムが1本2,310円で販売されています(2023年7月18日現在)。フィルム等を専門に扱っている通販サイトではそれよりもだいぶ安い価格で販売されていますが、それでも1本1,500円以上です。
 私の場合、ACROSⅡはイルフォードのDELTA100に次いで使用量が多いので、今回の大幅な値上げによるダメージはとても大きいです。そこで、もっと安い価格でACROSⅡの代替となるフィルムがないかということで探し始めました。ACROSⅡと同じような写りのフィルムはたぶんないだろうと思われますが、手始めにローライのRPX100を使って撮影をしてみました。

 誤解のないように追記しますが、ACROSⅡに対する絶対神話を持っているわけではありません。使い慣れてきたフィルムと同じような特性を持ったフィルムがあればということで、可能性のありそうなものを探してみたいというレベルです。

中庸感度ISO100のパンクロマチックモノクロフィルム

 RPX100フィルムに関していろいろなサイトを見てみると、概ね共通して書かれているのが、超微粒子とか素晴らしいシャープネス、あるいはなだらかな階調といった内容で、モノクロフィルムとしては優等生的な印象を受けます。実際にRPX100で撮影した作例を見ると、確かに黒の締まりもよさそうで、豊かな階調が表現されているという感じがします。
 また、フィルム感度はISO100ですから、いちばん使い易い感度であると言えますし、現像に関するデータを見てもEIは1000まで対応できるようなので、応用範囲の広いフィルムと言えると思います。

 私はローライのRPXシリーズというと黒いパッケージが思い浮かぶのですが、今回2本だけ購入した際のパッケージは白をベースに黄緑色を用いたデザインの箱でした。詳しくは知らないのですが、パッケージデザインが新しくなったのかも知れません。
 ちなみに、私が購入した時(2023年6月下旬)は通販サイトで1本1,280円(税込)でしたが、10本セットで購入すれば1本あたり1,199円(税込)ですので、割安感はあります。

 ローライのフィルムを製造しているのはイルフォード製品を製造している会社と同じハーマンテクノロジー社ですし、富士フイルムがOEMのような形でACROSⅡの製造を委託しているケントメアもハーマンテクノロジーに買収されているので、もしかしたらACROSⅡに似た写りになるかも知れないというかすかな期待が頭をよぎりましたが、ACROSⅡのレシピは富士フイルムがしっかり握っているでしょうから、製造会社が同じとはいえ、別物と思うべきでしょう。

イルフォード ILFORD のID-11で現像

 現像液は使う頻度が最も高いイルフォードのID-11を使用しました。使用する現像液で仕上がりはずいぶん変わってきますが、いろいろな現像液で試してみるよりは、使い慣れた現像液でACROSⅡと比較したほうが手っ取り早いだろうということで、まずはID-11で確認をしてみることにします。
 ID-11を使ってRPX100をEI100で現像する場合、現像時間は以下のように推奨されています。

  ・stock : 9分 (20℃)
  ・1+1 : 12分 (20℃)
  ・1+3 : 20分 (20℃)

 今回はstockで9分としました。

 このところの猛暑で室内温度もかなり上がっていて、液温を20℃に保つには冷やし続けなければなりません。深めのバットに氷水を入れて、この水温が18℃くらいになるように調整しながら現像液の温度管理を行ないます。大きめの氷をバットに入れてもあっという間に溶けてしまい、そのままにしておくと液温がどんどん上昇してしまいます。冬場、気温が低いときに温める方がはるかに楽です。

 イルフォードのID-11は何箱か買い置きしてあるのですが、これもご多分にもれず値上がりしていて、私が最後に購入した時に比べ、現在は1.5倍以上の価格になっています。
 同じくイルフォードからPERCEPTOLという現像液が販売されていて、こちらの方が1割ほど安く購入できるのですが、PERCEPTOLは低感度用ということになっています。ISO100フィルムであれば特に問題はないと思いますが、買い置きのID-11がなくなったらPERCEPTOLに変更するかもしれません。

風景撮影の作例

 さて、今回購入したRPX100を2本使って撮影をしてみましたので、何枚かご紹介します。今回の撮影に使用したカメラは、中判のPENTAX67Ⅱと大判のWISTA 45SPです。WISTA 45SPにはロールフィルムホルダーを装着しての撮影です。

 まずは、私が撮影対象としている被写体としていちばん多い自然風景の作例です。
 1枚目は山梨県で撮影した渓流の写真です。

▲WISTA 45SP APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 3s

 大きな岩の間を縫うように流れる渓流を撮影してみました。
 水の流れよりも岩の比率を多くして、岩の表情が良くわかるようにとの意図で露出を決めています。明るくなりすぎると岩の重厚感が薄れてしまうので、露出は若干抑え気味にしています。
 右下手前の岩までの距離は3mほどで、この岩から右上奥の木々までピントを合わせるため、カメラのフロント部でティルトアオリをかけています。
 どんよりとした曇り空のため、露光時間は長めになってしまいますが、流れの軌跡が残るギリギリのシャッター速度にしています。

 写真の印象としては、黒がとても綺麗に出ているという感じです。キリッと締まった黒というよりは、やわらかくて厚みのある黒と言ったら良いのかも知れません。そのため、平面的になり過ぎず、立体感のある画になっています。岩の表面の感じや奥行き感が良く出ていると思います。
 また、黒から白へのグラデーションや中間調も綺麗に出ているのではないかと思います。中間調が出過ぎるとインパクトの弱い写真になりがちですが、全体的に黒の比率が多いせいか、それほど気になりません。

 2枚目の写真は同じく山梨県で偶然見つけた滝です。

▲WISTA 45SP FUJINON CW105mm 1:5.6 F32 4s

 周囲はうっそうとした木々に囲まれていて、かなり薄暗い状態です。晴れていれば滝つぼに光が差し込むかもしれませんが、滝を撮るにはこのような曇天の方が向いていると思います。
 滝が流れ落ちている崖や滝つぼに転がっている岩、滝の両側の木々などのほとんどが黒く落ち込んでいて、滝とのコントラストがとても高くなっています。とはいえ、木々の葉っぱや岩の表面の凹凸など、ディテールにおける中間調はしっかりと表現されており、ベタッとした感じにならず、強いシャドー部の中にも柔らかさが感じられます。

 掲載写真ではわかりにくいと思いますが、滝の向かって左側のごつごつとした岩や、滝上部の木々の葉っぱなど、細部にわたってしっかりと認識できるだけの解像度もあると思います。
 また、流れ落ちる水のところのグラデーションもとてもなだらかで、ふわっとしたボリュームを感じる描写になっています。

街角スナップ撮影の作例

 次の作例はスナップ写真です。
 まず1枚目は路地裏のようなところで見つけた猫の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 105mm 1:2.4 F5.6 1/60

 毛並も綺麗だし、人相も悪くなく、目つきも優しげなので飼い猫だろうと思いますが、しっかりとこちらを警戒した顔つきになっています。
 猫の背後にある自転車は放置されたもののようで、強制撤去の紙が貼られています。
 あまり近づくと逃げられてしまうだろうと思い、猫が逃げ出す体制に入る前のほどほどの距離で撮影しました。

 この写真は黒や白の比率が少なく、全体的に中間調で占められていますが、締まりのある描写という印象です。同じ場所をACROSⅡで撮影していないので比較はできませんが、ACROSⅡはもう少し軟調な感じになると思われます。
 また、地面のコンクリートの質感や、自転車の背後にある鉄板で作られたと思われる箱のようなものの表面の凹凸なども良くわかるくらいの描写力は立派だと思います。
 建物の陰で直接の日差しが入り込んでいませんが、平面的にならず奥行き感があります。

 ちなみに、PENTAX67Ⅱのシャッターを切った瞬間、その音に驚いて猫はどこへやら行ってしまいました。

 スナップ写真の2枚目は、御茶ノ水駅の近くにある湯島聖堂で撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F5.6 1/125

 湯島聖堂への入り口である入徳門の外から、大成殿とそこに上る石段を撮りました。
 門自体が黒く塗られていて光も当たっていないのに対して、門の内側は明るく、非常にコントラストの高い状態です。門の内側だけ見れば完全に露出オーバーです。
 散歩にでもいらしたのか、ご夫婦と思われる年配のお二人連れがいいポジションに立ち止まられたので撮らせていただきました。

 写真の上部と左右はかなり暗く落ち込んでいますが、つぶれることなく微妙な明暗差が写っています。やはり、この暗部の黒の出方は独特な感じです。硬くなりすぎず、やわらかさが感じられます。
 また、石段やその両側の木々は白く飛んでしまっていますが、大成殿の壁などは中間調で綺麗に表現されています。さすがに石畳のハイライト部分の中間調描写には無理がある感じですが、これくらいであれば石の質感は何とか読み取れます。

夜景撮影の作例

 長時間露光による夜景撮影がどんな感じに仕上がるかということで、隅田川の夜景を撮ってみました。
 まずは、アサヒビール本社ビル屋上のオブジェと吾妻橋を撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 105mm 1:2.4 F22 30s

 いちばん目を引くビル屋上のオブジェですが、下側からライトアップされているので上側に行くにつれて暗くなっています。このグラデーションがとても綺麗に描写されていると思います。照明が直接当たっている正面の部分は飽和してしまっていますが、滑らかな曲線で作られている立体感が良くわかります。
 一方、照明が落ちたビルの壁面や首都高の高架下などはこってりとした黒で描写されていますが、高い解像度によるものなのか、ディテールが残っていてベタッとした感じはありません。
 また、右側の高層マンションや首都高の高架壁など、暗い中にも中間調がしっかりと出ているのがわかります。

 さてもう一枚は同じく隅田川にかかる厩橋の夜景を撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 75mm 1:4.5 F22 30s

 空も真っ暗、橋の下も真っ暗といった状態で、一見するととてもハイコントラストな写真に感じます。確かに橋のアーチ部分の輝度が高いので明暗差がはっきりと分かれている写真ですが、アーチを支えている支柱の辺りを見るととても綺麗な中間調が出ています。白と黒だけで塗り分けられたのとは全く違う、鉄骨とは思えない柔らかさを感じます。
 黒の描写も「真っ黒」ではなく、わずかに光を含んだ黒という感じがします。うまく表現できないのですが、真っ黒に塗られた壁ではなく、真っ黒な煙幕とでも言えば良いのでしょうか。ハイライト部分もぎらついた感じではなく、やはり柔らかさを感じる描写です。

 風はほとんどなく水面も穏やかでしたが、長時間露光なので波による複雑な模様として写り込みます。この波頭一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度ではないかと思います。

ACROSⅡに似ているところもあるが、ACROSⅡとは別物のフィルム

 今回、2本のRPX100で撮影してみていちばんの印象は黒の出方に特徴があるということです。
 前の方で何度も書きましたが、カチッとした真っ黒ではなく、わずかに光を含んだ黒であって、それが視覚的にどことなく柔らかさを感じさせてくれるのではないかと思います。これは裏返せば黒の締まりが弱いと言えるのかも知れませんが、それは好みにもよると思います。私はイルフォードのDELTA100のような締まりのある黒の出方が好きで多用していますが、それに比べると若干軟調気味に感じられるRPX100の描写ですが、これはこれでとても美しいと思いました。

 RPX100の特性がDELTA100とACROSⅡのどちらに似ているかというと、若干、ACROSⅡに近いと思います。ですが、明らかにACROSⅡとも異なる描写をするフィルムだと思います。解像度も申し分ない、階調も豊かでなだらかですが、ACROSⅡとは明らかに違う感じがします。何が違うのかと問われてもうまく答えられないのですが、パッと見た時にACROSⅡの方がすっきりとした描写に感じられる気がします。ACROSⅡに比べるとRPX100の方がこってりとしている感じです。理由はよくわかりませんが、やはり黒の出方が影響しているのではないかと思います。
 といっても、RPX100の描写が野暮ったいということではありません。むしろ、かなりレベルの高い描写性能を持ったフィルムではないかと思います。

 RPX100が硬調か軟調かと言われると、どちらかというと軟調寄りのフィルムではないかと思いますが、ACROSⅡの持っている描写特性とは違う軟調系という感じです。厳密に比較したわけではないのではっきりとは言えませんが、RPX100に比べてACROSⅡの方が、中間調の範囲が広いように思います。強いて個人的な見解をこじつければ、DELTA100とACROSⅡの中間的存在といった感じでしょうか。

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 RPX100がACROSⅡの代替フィルムになるかというと、無条件にそういうわけにはいかないと思いますが、比較的近い特性を持っているようにも感じます。
 もちろん、撮影対象とする被写体によっても描写特性は違って見えるので、安易に結論を出すつもりはありませんが、RPX100のポテンシャルは十分に高いという印象を持ちました。また、現像液や現像条件を変えれば見た目も変わってくるであろうことは想像に難くありません。
 そして何よりもフィルムの描写特性は好みのよるところが大きいので、一概に良し悪しをつけることも出来ません。

 ACROSⅡと同じような特性を持ったフィルムが存在しないことがACROSⅡのアイデンティティかも知れませんが、そう考えると富士フイルムの存在意義はやはり大きいと言わざるを得ません。
 ACROSⅡの代わりに別のフィルムを使うか、その結論が出るのはもう少し先になりそうです。ただし、RPX100のポテンシャルの高さは十分に認識しましたし、今後も使ってみたいフィルムであると実感したのも事実です。

(2023.7.20)

#RPX100 #ACROS #PENTAX67 #WISTA45 #ウイスタ45

撮影済みフィルムのデータ化と保存について思うこと  ~フィルムの保存は永遠の課題~

 「フィルムは生もの」という表現を聞くことがありますが、これはどちらかというと使用前のフィルムのことを指していることが多いと思われます。フィルムには使用期限が決められており、それを過ぎるとどんどん劣化していってしまうという意味で「生もの」という表現をしているのだろうと思います。確かに、使用期限を大幅に過ぎてしまうと感度の低下や発色不良などが生じてしまうことがあります。
 同様に、撮影済み、現像済みのフィルム(ポジやネガ)も経年劣化は避けられません。特に東京のように高温多湿の時期が長い地域では劣化が進む度合いが速いと思います。

 冷暗所など、保管場所に気をつけることで劣化の速度を遅らせることはできても、劣化をとめることはできません。冷凍保存でもすれば良いのかもしれませんが、何百年も未来の人類に残すための写真であるならともかく、自分が撮影したフィルムを冷凍保存しようものなら、自分が生きている間に二度とその写真を見ることはかなわず、非現実的であるのは言うまでもありません。永久凍土に閉じ込められたマンモスのようにしても意味があるとも思えません。

 これといった画期的な手立てがなかなか思いつかないフィルムの保存ですが、有効な保存方法の選択肢の一つとして写真のデータ化があります。完ぺきな方法とはいえませんし、物理的なポジやネガのフィルムと同じような状態で保存できるわけではありませんが、私も大事な写真はデータ化をして保存しています。

 フィルムのデータ化そのものは比較的単純な作業であり、自分で行なう場合はパソコンとスキャナがあればとりあえず可能になります。しかし、民生用の機器では時間もかかるし、フィルムの枚数が多いと大変な作業量になります。
 私がこれまでに撮影したフィルム写真のうち、現在も保管されているのは20数万コマあります。フィルムの種類は35mm判、ブローニー判、大判などいろいろですが、これらをすべてデータ化しようとしたら、私の余生のすべてを注ぎ込んでも時間が足りないと思われます。
 今はフィルムからデータ化してくれるサービスもたくさんありますから、そういったところにお願いする手もありますが、全部やろうとしたら半端ない費用がかかります。

 近年、フィルム価格が高騰しているとはいえ、今もフィルムを使っているので撮影済みのフィルムは増え続てけいるわけです。過去のものも含めてすべてをデータ化しようなどとはまったく思っていません。自分にとって大切で、残しておきたいと思うコマに限って少しずつスキャンしているという状況です。

 私がデータ化に使っているスキャナはエプソンのGT-X970というフラットベッド型のスキャナです。購入してから15~6年は経過しており、製品自体はかなり古いのですが、35mm判から大判(8×10)シートフィルムまで対応できるスキャナとなると選択肢が他にありません。現行機種は後継機のGT-X980ですが、私のGT-X970はまだ問題なく動いているので使い続けています。

 私はこのスキャナを使って、読取り解像度6,400dpiでスキャンしています(6,400dpiはこのスキャナの主走査方向の最高解像度です)。
 6,400dpiなどという高解像度でスキャンしてもそのままの解像度で使うことはないのですが、6,400dpiというとピッチが約3.97μmで、これはリバーサルフィルムの乳剤粒子の大きさにほぼ近い値です。値が近いからと言ってフィルムと同じようになるわけではありませんが、保存用なので出来るだけフィルムの状態に近づけておきたいという思いです。実際にプリントしたりするときには、品質を損なわないところまで解像度を落として使用するのは言うまでもありません。

 6,400dpiでフィルムをスキャンした場合の画像の画素数は以下のようになります。計算上の値であり、実際には若干前後します。

  ・35mm判 : 6,047 x 9,070 (約5,480万画素)
  ・67判   : 14,110 x 17,386 (約2億4,530万画素)
  ・4×5判  : 25,700 x 32,000 (約8億2,240万画素)

 ちなみに、GT-X970の副走査方向は9,600dpiと12,800dpiも対応していますが、実際にその解像度でスキャンしても画質が良くなるわけではなく、むしろ悪くなる感じなので、私は使用していません。
 また、スキャナ用のソフトウェアにはエプソン自慢のDigital ICEやホコリ除去、退色復元などの機能がついていますが、フィルムに忠実なデータを残すということから、私はこれらの機能も一切使用していません。

 このようにスキャンして得られたデータを保存するわけですが、私は2種類のデータを用意しています。
 まず一つ目のデータはスキャンしたままのデータ、つまり、一切加工を加えていない状態のデータです。厳密にいえばスキャナのドライバやソフトウェアによって何某かの加工が加えられているわけですが、さすがにどのようなアルゴリズムで機能しているかまでは知ることはできないので、出来るだけ加工の少ない状態で読み取ったデータを素の状態とせざるを得ません。
 また、細かなゴミやホコリが着いていたりしますが、それも含めて読み取ったままの状態としておきます。これをオリジナルデータとしています。

 二つ目のデータですが、こちらはゴミの除去と色調の調整を行ないます。
 レタッチソフトを使ってオリジナルデータからゴミなどを除去していきます。ゴミ以外のところは極力いじらないようにするため、とにかく手間のかかる作業です。ゴミの付着度合いにもよりますが、67判のフィルムの場合、1コマあたり20~30分はかかります。青空のようなフラット状態のところに着いたゴミは比較的簡単に除去できますが、花とか木の枝葉など、ゴチャゴチャしているところに着いたゴミを取り除くのは手間がかかります。

 ごみを取り除いた後にポジ原版に限って行なうのが色調の調整で、ライトボックスで見たポジ原版とスキャンしたデータの色調を出来るだけ合わせるというのが目的です。
 スキャンデータはスキャナのハードウェアやソフトウェアによって色が作り出されているわけで、ライトボックス上のポジ原版と同じ色調になるはずもないのですが、出来るだけフィルムに近づけておきたいという理由です。そのため、パソコンのモニタもキャリブレーションしたものを使い、モニタによる色の影響を出来るだけ受けないようにします。
 エプソンGT-X970の場合、それほどポジ原版から偏った色調になることはないというのが私の印象ですが、若干、マゼンタが強く出る傾向があると感じています。ただし、これは私が使っている機器だけ、つまり個体差によるものかも知れません。

 なぜ、何の加工も施さないオリジナルデータと、そこに若干の加工を加えたデュプリケートデータの2種類を用意するかというと、ポジ原版が経年劣化で退色していった場合、元の色がわからなくなってしまうのを防ぐためです。全く同じ色をデータで残すことは無理ですが、少しでも撮影直後の色を残しておきたいということです。

 スキャンしたデータは48bitのTIFF形式で保存します。データサイズは大きくなりますが、圧縮などによる劣化が起きないようにするためにTIFF形式を用いています。

 さて、こうしてできた保存用のデータですが、最も頭の痛いのがその保存方法です。
 画素数も大きく、データ形式もTIFFのため、データサーズがバカになりません。1コマあたりのおおよそのデータサイズを計算すると以下のようになります。

  ・35mm判 : 約320MB
  ・67判   : 約1.4GB
  ・4×5判  : 約4.6GB

 データ保管してくれるサービスもありますが、このようにバカでかいデータをポンポンとアップロードしようものならあっという間に容量の上限を超えてしまい、課金対象の超優良顧客になってしまいます。
 ということで、私はハードディスクを用意して、そこに保存しています。

 一過性のデータを保存するのであればあまり神経質になることもありませんが、あくまでも保存用ということですので、ある程度の信頼性も必要という判断から、RAID-5構成のハードディスクを使用しています。4台のディスクドライブで構成されており、4台あっても1台分はパリティ用として使われてしまうので実効容量は3/4に減ってしまいますが、障害に対する信頼性が高いのと、ドライブ故障時のリカバリ(交換)が簡単にできるというメリットがあります。
 現在、私が使用しているハードディスクの実効容量は9TB(RAID-5)です。このハードディスクに、上で書いたような方法で作成した画像データを保存する場合、67判だと約3,290コマ分、4×5判だと約1,001コマ分の保存ができます。かなりの枚数が保存できるように感じますが、今あるフィルム全体の数パーセントにも満たない量です。

 すべてのコマをデータ化して保存するつもりはないとはいえ、保存するデータは徐々に増えていくので、ハードディスクに入りきらなくなったら新たにハードディスクを追加するしかありません。しかし、いくら小型化しているとはいえ、そこそこの場所をとります。今は1台だけなので何とかなっていますが、これが2台、3台と増えていったら大変なことになります。それこそデータセンターとかホスティングを検討しなければならない状態になってしまいますが、そこまでして保存しようという気にはなりません。用意できる設備に保存可能な範囲の中で運用していくというのが現実的だと思っています。

 そして、最大の悩みが保存媒体(ハードディスク)の劣化対応です。
 データ自体は経年劣化しませんが、それを入れておく記憶媒体は機械ものなので、やはり経年劣化していきます。一般的にハードディスクの場合、3~5年が寿命と言われています。もちろん使用頻度によって寿命も大きく変わるので、業務用で使っているのでなければもう少し長くもつとは思いますが、いずれにしても交換しなければならない時期が定期的にやってくるということです。
 また、仮にクラッシュしてもバックアップがあれば何とかリカバリが可能ですが、もし、それもなければ救済不可能ということにもなりかねません。
 私もこれまでに、使用していたハードディスクがクラッシュしたという経験は何度もありますが、壊れてしまうとリカバリがとにかく大変です。壊れる前に新しい機器に交換しておくのが望ましいのでしょうが、交換するとなると出費もかさむことだし、まだ変な音がしていないからしばらくは大丈夫だろうなどと、何の根拠もない理由をこじつけて先延ばししてきたことも数えきれません。

 RAID-5構成の場合、このような最悪の事態のいくつかは軽減してくれますが、その製品自体が販売終了などということになると、いずれは総入れ替えが必要になってきます。そうなると、新しい代替の機器を購入してきても膨大な量のデータ移行という作業が待っていて、これも結構時間がかかります。
 データによる保存というのは便利で効果的にも思えますが、確実に保存していくための運用を考えるととても大変で、キリがないということです。
 例えば、フィルムは火事などで燃えてしまえば何も残りませんが、データは複数個所に分散保存しておけば完全消失は防げます。しかし、保存場所が1ヵ所しかなければデータと言えどもすべて消失してしまうことに変わりはありません。

 こうして、あらためて撮影済みのフィルムの保存について考えてみると、データ化というのは効果的な面もありますが、より確実性の高いものを求めると、時間とお金がいくらあっても足りないという気がしてきます。むしろ、フィルム自体の経年劣化を出来るだけ遅らせるところに時間とお金をかけた方が良いのではないかと思えてきたりもします。
 フィルムの経年劣化は防げないとはいえ、私のささやかな経験からすると、ポジ原版(リバーサルフィルム)は経年劣化に対する耐性が優れていると思っています。常温保管の場合、カラーネガだと6~7年で黄変やビネガーシンドロームが出始めますが、ポジ原版は30年近く経っても健在です。もちろん、劣化は進んでいるのでしょうが、目視で明確にわかるほどひどくはなりません。そして、モノクロネガははるかに耐性があります。
 であるならば、撮影済みのフィルム保管用に冷蔵庫を調達したほうが良いのでないかと思ってしまいます。

 私は、撮影済みのフィルムについては光が入らないキャビネットの中で保管していますが、特に温度管理をしているわけではなく常温保管です。それでも20年、30年経過してもまずまずの状態を維持しているわけですから、冷蔵保管すればもっと良い状態を保つことができるのではないかと思います。冷凍保存と違い、冷蔵保存であれば出し入れもし易いので、いつでも使うことができますし、冷蔵庫はハードディスクに比べて何倍も寿命が長いのもメリットに思えます。また、冷蔵庫が壊れても中のフィルムがなくなるわけではないというのが素晴らしいです(当たり前ですが)。
 ただし、全てのフィルムを冷蔵保管するとなると容量600L並みの大型冷蔵庫が必要となり、置き場所など考えるとそれはそれで頭の痛い問題です。

 自分にとって大切な写真、残しておきたい写真のデータ化は今後も地道にやろうと思いますが、完璧を求めすぎず、ほどほどにしておくのが良いと感じています。
 私の場合、何といっても撮っている写真がアナログなわけですから、保存もアナログが適しているのかも知れません。

(2023年7月9日)

#リバーサルフィルム #スキャナ #エプソン #EPSON #保管