フジノン 大判レンズ FUJINON T 400mm 1:8

 フジノンの大判カメラ用長焦点レンズです。富士フィルムからは、Tシリーズと呼ばれるテレフォトタイプのレンズが3種類(300mm、400mm、600mm)が販売されていましたが、そのうちのひとつです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(富士フィルム株式会社 公式HPより引用)。
   イメージサークル  : Φ220mm(f22)
   最大包括角度    : 31度
   最大適用画面寸法  : 5×7
   レンズ構成枚数   : 5群5枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.1
   シャッター速度   : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ54mm
   フランジバック   : 252.4mm
   バックフォーカス  : 220.5mm
   全長        : 127.5mm
   重量        : 600g

FUJINON T 400mm 1:8

 このレンズを4×5判で使った場合の画角は、35mm判カメラに換算すると115~120mmくらいのレンズに相当します。
 フジノンTシリーズの特徴は、レンズ構成がテレフォトタイプになっているため、焦点距離に対してフランジバックが短いという点です。これにより、蛇腹を大きく繰出せないカメラでも使用することができます。概ね、300mmくらいの繰出しができきるカメラであれば、通常の撮影には支障がないと思われます。

 一方、その構造上、イメージサークルは小さくなってしまいます。同じフジノンのWシリーズであるW360mmというレンズのイメージサークルは485mmもあり、大四ッ切を楽々カバーする大きさがありますので、その違いは歴然としています。とはいえ、風景撮影には十分なイメージサークルです。
 また、レンズの重量も600gと、かなり重いです。特に前玉側が大きくて重いのに対して後玉側は小さいので、レンズを持った時にアンバランス感があります。カメラに取付けた際も、フロントティルトをしっかりロックしておかないとガクッと首を下に振ってしまいそうです。

 一般的に焦点距離が300mmを超えると、コンパクトタイプを除いてはシャッターもNo.3が使用されることが多いのですが、このレンズはNo.1なのでレンズボードからはみ出すようなこともなく、カメラによっては装着不可、というような問題も起きないと思います。

風景撮影にはぜひ欲しい焦点距離

 300mm~400mmの焦点距離のレンズは、風景撮影においてぜひとも携行したいレンズの1本です。広い風景の中の一部を切り取る、狭い画角による圧縮効果を出す、大きなボケを出すなど、長焦点レンズならではの作画ができるので、少々重いですがカメラバッグには入れておきたいレンズです。
 画角は35mm判カメラの120mmくらいのレンズなので、超望遠というほどではないと感じるかも知れませんが、あくまでも焦点距離は400mmなので、画角は同じといっても35mm判カメラ用120mm前後のレンズとは全く別物といった感じです。浅い被写界深度ですが、フォーカシングスクリーン上でピントがスーッと立ってくるのは長焦点ならではです。

 遠景であればある程度絞り込むことでパンフォーカスにできますし、近景や中景では浅い被写界深度を活かして主要の被写体を浮かび上がらせることができ、いろいろな応用の利くレンズであると思います。
 ただし、あまり近い被写体の撮影(マクロ撮影など)は蛇腹の限界があるので向いていません。

 このレンズを着けて4×5判で撮影する場合、約1km離れたところから東京タワーを望むと、ちょうどフィルムの短辺方向いっぱいに東京タワーが収まるという感じです。

 また、開放でF8と若干暗めですが、フォーカシングスクリーンの周辺部でも光の入射角度は比較的垂直に近いため、見にくくなるということもありません。これは、フィールドでピント合わせをする際にとても助かります。

FUJINON T 400mmで撮影した作例

 下の写真は、このレンズで桜と新緑を撮ったものです。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T 400mm 1:8 F45 1/4 Velvia100F

 いちばん手前にある新緑、その後ろにある満開の桜、さらにその後ろにある芽吹いて間もない淡い色の新緑、そして背後にある山の斜面の重なりを、狭い画角による圧縮効果で表現しました。手前の新緑と背後の山までの距離はかなり離れているので、F45まで絞り込んでいます。
 また、新緑の明るさを出すため、若干、露出を多めにしています。
 なお、アオリは使用していません。

 私が持っているレンズの中ではこれが最も長い焦点距離ですが、450mmや600mmというレンズも使ってみたいと思っています。しかし、カメラの蛇腹が追い付いていけないので、残念ながらこれまで実現していません。凸ボードを使用すれば何とか使えるようになりそうですが、嵩上げの大きなものが必要になりそうです。機会があれば自作してみようと考えています。

(2021.3.26)

#フジノン #FUJINON #レンズ描写

レンズやカメラの保管方法 防湿庫保管は完璧か?

 レンズやカメラの保管に気を遣う方は多いと思います。特に日本のように湿気の多い国では、レンズにカビが生えてしまうのではないかと心配になります。防湿庫を購入して、そこに大切な機材を保管している方もいらっしゃるでしょうし、もう少しお手軽に、ドライボックスの中にシリカゲルなどの乾燥剤を入れて保管している方もいらっしゃるでしょう。

 私も中型の防湿庫を1台持っていますが、すべての機材がその中に納まりきるわけではありません。むしろ、入りきらない機材の方がはるかにたくさんあります。それでも、数年前に35mm判のカメラとレンズのほとんどを処分してしまったので、機材の量は半分以下になりましたが、まだその辺りにゴロゴロしています。
 防湿庫で保管する機材とそうでない機材を区別してるかというと、実は特にそういうことをしているわけではありません。正直なところ、防湿庫に入れたり出したりするのが面倒くさいので、すべて手の届くあたりに転がしておきたいというのが本音です。

 もちろん、レンズにとってカビは大敵なので、湿気の少ないところで保管するに越したことはありません。防湿庫には湿度計がついており、大体、30~40%に保たれています。湿気を取りながらも乾燥しすぎない、適度な状態にしてくれています。

防湿庫内を湿度30~40%に保ってくれる

 しかし、どんなに快適な温度や湿度であっても、レンズをカビから完全に守ることはできないと思っています。そもそも、空気中には常にカビが浮遊しており、それがレンズ内に入り込んで腰を落ち着けてしまうのが問題なわけです。ですから、レンズ内に空気の流れをつくり、入り込んだカビが腰を落ち着けないようにすることが最も効果的だと思っています。

 そういう視点で考えると、防湿庫の中は空気の流れが皆無に等しいので、長期間そのままにしておくとレンズ内に入り込んだカビが増殖し、固着してしまう可能性が高いのではないかと想像するわけであります。もちろん、防湿庫内はカビが繁殖しにくい環境なので、すぐにカビが生えるわけではなく、長期間にわたって触らないのであれば、その辺りに転がしておくよりも防湿庫に入れておいた方が望ましいのは言うまでもありません。しかし、防湿庫に入れてさえおけば絶対に安心というわけではないということです。

 あらためて自分の持っている機材を見てみると、非常に出番の少ないレンズというのがあります。例えば、PENTAX67用のフィッシュアイ 35mmレンズなどは、実際に持ち出すのは1年に数回程度です。こういうレンズがいちばんカビに襲われやすいのだと思います。

 前置きが長くなりましたが、私は毎日のようにカメラやレンズを手に取っており、どのカメラやレンズでも最低、4~5日に1回は可動部分を動かすようにしています(カメラは空シャッターを切ったり、レンズはヘリコイドや絞りを動かしたり)。毎日、すべての機材を構ってはいられないので、4~5日ですべての機材が一回りするという感じです。
 こうすることでレンズ内に空気の流れをつくり、カビが付着するのを防いでいます。なので、防湿庫に入れておくよりも、手の届くところに置いてあった方が出し入れの手間が省け、実は都合が良いのです。

 また、大判レンズにはシャッターが組み込まれていますが、ここに使われているスローガバナーという部品(低速シャッターを司る重要なパーツです)は、長期間動かさないでおくと動きが鈍くなってしまうことがあります。そうなると、分解して清掃・修理をしなくてはならなくなります。カビだけでなく、可動部分の故障対策という意味でも、ときどき動かすことがカメラやレンズのためには好ましいということです。
 もちろん、そのうえで防湿庫等で保管すれば最高であることは言うまでもありません。

 ちょっと自慢げに聞こえたら申し訳ないのですが、私はレンズに目視で確認できるようなカビを生やしたことはありません。特別なことをしなくても、週に1~2回、可動部を動かすことでカビの発生はかなり防げると思っています。わかり易く言うと、カメラやレンズはいつもかまってあげることが大切ではないかということです。頻繁に使うレンズにカビが生えたという話しはあまり聞いたことがありません。

カメラやレンズは時々かまってやることが大切

 一方、空気の流れをつくると、小さなホコリもレンズ内に舞い込んでしまいます。しかし、微細なホコリも定期的に空気の流れをつくることで出たり入ったりするので、長期的に見ればホコリも増えるでしょうが、いきなりレンズ内にどんどん蓄積されてしまうというわけではありません。微細なホコリは着地するのにかなりの時間がかかるらしいので、やはり空気の流れをつくることは効果があると思います。

 誤解のないように付け加えますが、決して防湿庫を否定しているわけではありませんし、効果がないと言っているわけでもありません。防湿庫の効果は十分認めておりますが、防湿庫に入れてさえおけば安心ということではなく、防湿庫を使ったうえで、ときどき機材を動かしてあげることで防カビ効果は倍増するであろうし、何よりも、機材を健全な状態で長く使うことができるであろうということです。

 カビも小さなうちであれば割と簡単に落とすことができますが、レンズに深く入り込んでしまったカビは拭いた程度では取れません。カビの発生を完璧に防ぐことができないのであれば、カビを早期に発見することがやはり重要になります。

 夜な夜な愛しいレンズを手に取り、酒でも飲みながら、このレンズでこんなものを撮影したいとか想像するのも楽しいものです。すべてを吸い込んでしまうのではないかと思われるような美しいレンズを眺めながら、撮影のイメージングとレンズのカビ防止とカビの早期発見が同時にできるのであれば、これを一石二鳥と言わずに何というのでしょう?
 くれぐれも、レンズに酒をこぼさないように注意は必要ですが。

(2021.3.15)

#保管

大判カメラのアオリ(4) フロントスイング

 今回はフロントスイングのアオリについてです。フロントティルトはレンズ主平面を前後に傾けましたが、スイングはレンズ主平面を左右に傾けるアオリになります。フロントティルトを光軸まわりにカメラを90度回転させた状態と考えるとわかり易いかもしれません。
 私の場合、フロントスイングはフロントティルトに比べると使用頻度は低めですが、風景撮影では重要なアオリの一つです。

フロントスイングはこんな時に使うことが多い

 フロントティルトはカメラの正面に広がっている面にピントを合わせたい時によく使いますが、フロントスイングはカメラの側面に広がっている面にピントを合わせたいときに使います。
 例えば、すぐ手前から先の方まで続いている並木を撮る場合や、通りに沿って続く家並みを撮る場合、あるいは築地塀のようなものを撮るときなど、全体をパンフォーカスにしたいときなどに使うことが多いです。

 実際にレンズをフロントスイングすると、下の写真のような状態になります。

フロントスイング Linhof MasterTechnika 2000

 テクニカルカメラの場合、スイングできる角度は30度前後が多いのではないかと思います。ちなみに、リンホフマスターテヒニカ2000も左右それぞれ30度ですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。テクニカルカメラなので正確な角度目盛りがついているわけではありません。おおよその感覚で角度をつけることになります。また、スイングさせるためのダイアルのようなものがあるわけではないので、微妙に角度をつけたいという場合も、手で行なわなければなりません。

シャインプルーフの法則もフロントティルトと同様

 フロントティルトのページでシャインプルーフの法則について触れましたが、こちらのアオリもフロントティルトに対して90度、回転しているだけで、基本的に振る舞いは同じです。
 なお、シャインプルーフの法則の詳細については下記のページをご覧ください。

   「大判カメラのアオリ(3) フロントティルト

 簡単に図を掲載しておきます。

 フロントティルトの場合は、撮像面、レンズ主平面、被写体面の交点がカメラの上か下になりましたが、フロントスイングではこの交点がカメラの右、もしくは左になります(上の図ではレンズを右にスイングしているので、交点もカメラの右側にきています)。

フロントスイングの効果

 実際にフロントスイングの効果を見ていただくために、車の模型を撮影してみました。
 カメラに対して車を斜めに配置し、フロントフェンダーのあたりにピントを置いています。下の写真の1枚目がアオリなし、2枚目がフロントスイングを使用して撮影しています。

ノーマル撮影(アオリなし)
フロントスイングを使用して撮影

 撮影データはいずれも下記の通りです。
  レンズ 125mm 1:5.6
  絞り F8
  シャッター速度 1/15

 2枚目の写真では車のフロントからリアまでピントが合っているのがわかると思います。
 アオリの効果がわかり易いように、あまり絞り込まずに撮影していますので、車の向こう側(右サイド)にはピントが合っておらずボケています。これは絞り込むことで被写界深度を深くし、ピントを合わせることができます。

フロントスイングの例

 また、実際に風景撮影でフロントスイングを使った作例が下の写真です。

Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA100F

 東京都檜原村の払沢の滝です。
 手前右にある木と奥にある滝の両方にピントを合わせるため、レンズを右にスイングしています。この写真では、木の幹と滝を結ぶ面をピント面と想定しています。
 このため、この面から外れるところにある被写体にはピントが合いませんが、絞り込むことである程度カバーしています。例えば、手前右側の幹の奥にあたる辺りはピント面からずいぶん外れていますので、絞り込んでいますが被写界深度範囲からは外れています。

フロントスイングの注意点

 フロントスイングは手前から奥に向かって斜めに配置されているとき、この面にピントを合わせることができるのは上で説明したとおりですが、このピント面から外れている被写体が大きくボケてしまうと妙に違和感を感じることがあります。
 例えば、まっすぐに伸びた道路わきに植えられた街路樹並木を撮る場合、手前から奥までの木にピントを合わせることはできますが、道路にいる人や物がピント面から外れてしまいます。特にそれが近い位置にある場合、絞り込んでもピントが合わないことがあります。

 このような状態を解消するために、下のようないくつかの方法が考えられますので、その場の状況や撮影意図に合わせて使い分けることが必要です。

 (1)ピント面を並木と道路上の人や物の中間になる位置に移動し、双方を被写界深度内に入れる
 (2)ピントが合わない被写体をフレーミングから外す
 (3)撮影位置を変えてピント面に納まるようにする

 上の(1)を簡単な図にしておきます。

 これらはフロントティルトでも同じことが起きるわけですが、ティルトの場合、ピント面から外れるのが上方(例えば、目線より上の空間)、もしくは下方(例えば、地面より下)になり、ここには被写体がないことが多いので、そのような場合はあまり気になりません。

(2021.3.10)

#アオリ #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~啓蟄~

 いよいよ三月、啓蟄という言葉を聞くと本格的な春の訪れを感じます。やはり暖冬なのか、今年(2021年)は2月から暖かな日が多く、春の訪れが早いように感じます。梅の開花も随分と早かったようで、桜の開花も例年よりも早いとの予想のようです。
 この時期はフィールドの変化が早く、近所の公園も一週間も経つと様子がずいぶん変わります。

マンサクが満開でした

 花つきが豊かなため、古くから豊年満作に通ずるとして好まれてきたと言われています。山野では木々の芽吹きもまだ先という時期に、黄色の花をびっしりとつけた姿は遠目にもそれとわかります。まるで縮れ麺を短く切ったような花姿は、どこかユーモラスでさえあります。この花が咲くと寒い季節の幕引きともいわれているらしいです。
 公園に植えられてたり、やはり縁起の良い花ということからなのか、庭木としても植えられているのをよく見掛けます。
 最近は、花の色が赤に近いアカバナマンサクというのも良く見かけるようになりましたが、花の色がちょっと毒々しくて個人的にはあまり好きになれません。やはり黄色の方が品が感じられます。

 下の写真は偶然見つけたマンサクの花です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

 背景に裸木を入れて、黄色に輝くマンサクの花との対比を出してみました。花の形がユニークなのでアップで撮るのも面白いですが、やはり全体を入れた方が季節感が感じられると思います。

 マンサクといえば、秋田に「まんさくの花」という地酒があります。有名なので名前は知っているのですが、ほとんど飲んだ記憶がありません。秋田はマンサクが多いのかと思って調べてみたところ、NHKの連続ドラマ「マンサクの花」からつけた名前らしいです。「マンサクの花」という響きが心地よくて好きです。

日向ではオオイヌノフグリも咲いています

 オオイヌノフグリは、春先に最も早く咲き始める野草ではないかと思います。ヨーロッパ原産の帰化植物ですが、すっかり日本の春の風景になじんでしまっています。日本には明治の初めごろに入ってきたらしいですが、今では河原の土手や田んぼの畦道、道端など、いたるところで見ることができます。小さな花ですが、その繁殖力は驚くばかりです。
 瑠璃色の花は何とも可愛げがありますが、不名誉な名前をつけられてちょっとかわいそうな気もします。

 もともとは日本には在来種であるイヌノフグリがあるのですが、オオイヌノフグリに生育地を奪われてしまい、減少の一途をたどっているようです。オオイヌノフグリに比べると花の大きさが半分くらいしかありませんが、地味でつつましやかな感じがします。

 空き地に咲いていたオオイヌノフグリを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 太陽に向かって背伸びしているようなイメージを出したいと思い、アングルを決めました。
 小さな花なので撮影には苦労します。群生しているところはまさに春の風景といった感じですが、一輪とか数輪を撮ろうとすると、目線をかなり下げなければならないので大変です。地面に腹ばいになって撮るのが楽ですが、たくさんの花を押しつぶしてしまうのでそれもはばかられます。

 同じく帰化植物であるヒメオドリコソウやホトケノザなどと大群落をつくることがありますが、そういう光景を見られるようになるにはもう少し先のようです。

テントウムシはまだ見かけません

 日差しがぽかぽかと暖かなとき、オオイヌノフグリの群落にはテントウムシの姿をよく見かけます。ナナホシテントウが多いのですが、花と同じくらいの大きさで、もぞもぞと花の上を歩きまわっている姿をみると、ほのぼのとした気持ちになります。
 まだ少し寒いのか、この写真を撮ったときには残念ながらテントウムシを見かけることはありませんでした。啓蟄とはいえ、虫が出てくるまではもう少しかかるようです。

(2021年3月7日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気

花を撮る(1) 百花の魁(さきがけ) 梅

 風景と同じくらい花の写真を撮ることが多いのですが、立春から一ヶ月が経ち、フィールドではぽつぽつと花が見られるようになってきています。花を撮りにフィールドに出かける回数も増えていきそうです。
 「花はきれいに撮りたい」と常々思っているのですが、これがなかなか難しく、納得のいく写真はそう簡単に撮れません。そもそも、何をもって「きれい」というかもうまく説明できないのですが、小難しいことはともかく、パッと見た時に「きれいだ!」と感じることが大事なんだろうと思います。
 撮り方に良いとか悪いとか、決まった手法とかがあるわけでもありませんが、花と対峙して自分なりに撮った写真と、それをどのように撮ったかということも含めてご紹介できればと思います。
 第1回目は「梅」です。

ポートレート風に花の表情を撮る

 人を被写体として撮影するポートレートというのは、その人の魅力を最も的確に表現できる手法だと思っています。人と同じように花にも表情があり、ポートレート風に撮ることで花の魅力を引き出すことができます。
 梅は大きなものでは樹高が数メートルにもなり、たくさんの花をつけるので、花のポートレートとしては一輪とか数輪、あるいは一枝だけを対象とした方が花の表情を出しやすいと思います。このときに大事なのは、主役である花をどうやって引き立たせるかということです。花自体がいくら綺麗に写っていても、画全体の中に埋没してしまっているようでは残念という他ありません。

 下の写真は、小さな枝先に咲いている白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 早春の日差しの中で咲く白梅の楚々とした美しさを出そうと思い、背後からの光が透過することで花弁が輝いている状態を撮りました。バックが明るいと花が引き立ってこないので、日が当たっていない大きな常緑樹をいれて、背景全体を暗く落としています。
 しかし、それだけだとバックが黒一色で単調になってしまうので、後方にある梅の花を大きくぼかして入れ、若干青空も入れて明るさを加えました。
 花が逆光で輝いているので、スポット露出計で測った値に2倍の露出補正をしています。
 また、バックを大きくぼかすために焦点距離が長めのレンズに接写リングをかませ、花まで80cmほどの距離で撮っています。このため、さらに1.5倍ほどの露出補正をしています。
 背景をシンプルにするには、焦点距離が長めのレンズの方が効果的です。

 上の写真とは対照的に、静けさの中でひっそりと咲く可憐な姿をソフトフォーカスで撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5 F5.6 1/60 EX2 PROVIA100F

 春がまだ浅い感じを出すために、一輪だけ咲いている小さな枝を撮りました。この日は曇りで日差しが直接あたっていないため、そのままでも柔らく写りますが、温もり感を出すためにソフトフォーカスレンズを使いました。この花は紅梅というよりも濃い目のピンクといった色合いですが、このような描写も似合っています。
 背景に余計なものを入れず、太い枝と一輪の花だけのシンプルな構成にしました。また、窮屈にならないように周囲の空間を広めにとって、斜め上にスッと伸びた小枝のラインの美しさが出るようにしてみました。
 2号の接写リングをかませていますので、花弁をスポット測光した値に対して1.5倍の露出補正をしています。 

樹形全体で華やかさや力強さを表現する

 一輪とか数輪をアップで撮ったものも魅力的ですが、何と言っても樹全体に咲き誇っている状態は圧巻です。
 下の写真は満開になっている紅梅・白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 1/4 PROVIA100F

 紅、白、ピンクの梅が密集して咲いており、華やかさを出すために少し離れたところから望遠レンズで撮っています。あまり余計なものを入れず、むしろ花が画面から若干はみ出すくらいのフレーミングにしています。
 背後に椿の緑を入れ、画全体が平面的になるのを防ぐとともに、その対比で梅の華やかさが引き立つことを狙いました。中央右側に立っている桜と思われる木も、早春の雰囲気を出してくれる良いアクセントになっていると思います。
 晴れた日でしたが、花の色をきれいに出すために太陽に雲がかかった瞬間を狙って撮りました。また、白梅の色が濁らないように、ピンクの梅を基準に露出設定しています。できるだけパンフォーカスにしたかったので、目いっぱい絞り込んでいます。

 もう一枚は、力強く咲く梅の老木(倒木)です(下の写真)。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/15 Velvia100F

 幹の太さからしてもかなりの樹齢があると思われますが、すっかり横倒しになってしまっています。しかし、それでも樹勢が衰えている感じはなく、枝先まで見事に花をつけています。この梅の咲いている環境がわかるようにと、背後に少しだけ山を入れてみました。
 また、綺麗な青空が広がっていましたが、空を入れるとこの老木の力強さが損なわれてしまうと思い、空はカットしています。
 前の写真のような華やかさではなく、倒れてもなお咲く力強さを表現したかったので、幹の質感が飛ばないように露出を若干抑え気味にしています。そのため、梅の花だけを見るとアンダー気味ですが、全体の雰囲気としてはそれほど気にならないと思います。

梅が咲く風景として撮る

 風景の中に梅が咲いている、と言った方がわかり易いかもしれません。梅だけを撮るのではなく風景写真として撮るのですが、その中で梅が重要な役割を果たしているといった感じでしょうか。上で紹介した写真も風景写真と言えなくもありませんので、その境界線は極めて曖昧なものです。

 下の写真は、梅の花越しに妙義山を望む風景として撮りました。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 1/30 PROVIA100F

 空を広く入れて広大な感じを出し、そこに満開の梅と山(妙義山)を配しました。画の下の方に梅林が広がっているのですが、これだけではしまりのない写真になってしまうので手前に梅の枝を入れています。妙義山が小さすぎて残念なのですが、大きく写すために焦点距離の長いレンズを使うと広大さが損なわれてしまうので、あえて広角レンズを使っています。

 朝の空気が澄んでいる時間帯での撮影なので青空もくっきりとしており、爽やかな感じが出ているのではないかと思っています。これが午後になると太陽が回ってくるとともに遠景が白く霞んでしまうので、爽やかさが薄れてしまいます。
 手前の梅の花が濁らないように、かつ、青空が白っぽくならないようにということで露出を決めています。
 PLフィルター使えばもっと濃い青を出すことができるのでしょうが、絵の具を塗りたくったようなベットリした感じになるのが嫌いなので、PLフィルターを使うことはあまりありません。

 上の写真は広大な感じを狙っていますが、風景として必ずしも広大である必要はありません。例えば、下の写真のように、限られた範囲であっても梅が咲いている風景といえると思います。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F4 1/125 PROVIA100F

 無縁仏の近くに白梅が咲いており、傍らでずっと無縁仏を見守ってきた、そんな物語が感じられればとの思いで撮りました。もし、この梅が紅梅だと華やかさが際立ってしまい、無縁仏との組み合わせは似合わないかもしれません。
 この写真では無縁仏が目立ちすぎないように、あまり絞り込まずに若干ぼかしていますが、主題を無縁仏にした場合は、逆に梅をぼかすという作画もあると思います。この辺りは、何を表現したいかによって変わってきます。

心象的に撮る

 心象とは心の中に生ずる感覚とかイメージのようなものなので、この撮り方は千差万別、その人の主観や感性で自由に撮ればよいと思っています。アップで撮ろうが全体を撮ろうが、どういう撮り方をしようとも伝えたいものがあれば、それで成り立つと思います。

 雨上がり、水滴がついた梅の花をアップで撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1s EX1+2+3 PROVIA100F

 この写真で表現したかったのは、雨に濡れた冷たさではなく、むしろ、春がすぐそこに来ている温もりです。それを大きな水滴と玉ボケを入れることで表現しようとしています。明るさがないとそういう感じは出ないので、露出はオーバー目にしています。
 被写界深度を極端に浅くしたかったので、接写リングの1号から3号をすべてかませています。レンズ先端から梅の花までは20cmほどの近さです。

梅の撮影地

 関東で梅の有名どころと言えば水戸の偕楽園ですが、他にも梅林がたくさんあります。
 例えば、
  湯河原梅林(神奈川県)
  曽我梅林(神奈川県)
  秋間梅林(群馬県)
  越生梅林(埼玉県)
  吉野梅郷(東京都)
  高尾梅郷(東京都)
 などがあります。

 曽我梅林、秋間梅林、越生梅林は観梅ではなく、主に実を採るために農家の方が栽培している梅林です。
 また、吉野梅郷はウイルスに感染したということで、何年か前にすべて伐採されてしまいましたが、その後、植樹が始まりました。今はまだ木は小さいですが、いつの日か、以前のような絶景になってくれると思います。

 近所の公園などでも梅の木が植えられているところが多いので、有名な梅林に行かなくても撮影は十分できます。写真の表現の仕方は決まりがあるわけではなく自由なものです。梅の種類やその日の天候、周囲の環境などで様々な撮り方ができるので、被写体としてとても魅力のあるものだと思っています。

(2021.3.2)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #白梅 #紅梅 #プロビア #PROVIA #花の撮影