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クマ除けグッズのあれこれ クマに出逢わないための効果的な方法はあるのか? 

 今年(2023年)は例年になくクマの出没やクマによる被害が多いとのことで、連日のようにこのニュースが流れています。本来、クマは警戒心も強く臆病な動物で、特に人間を怖がると言われていますが、人家の庭に来てくつろいでいたり、車がぶんぶん走る街中をスタスタと駆けていく映像などを見ると、本当に人間を怖がっているのだろうかと思ってしまいます。
 酷暑ともいえる今年の夏の暑さの影響で山の木の実が少ないため、食べ物の多い里に降りて来るという専門家の方の解説もよく聞きますが、どうもそれだけが理由ではないように感じてしまいます。
 本州に生息しているツキノワグマはどちらかというと草食系のようで、本来、クマは人間を襲ったり食べるために里に下りたり街中に出てくるわけではないと思いますが、食料を得るためにクマにとっても背に腹は代えられないということなのでしょうか?

 私が撮影する被写体は主に自然風景なので、どうしても一人で山に入ることが多くなります。もともと、クマだけでなくシカやイノシシ、サルなどが生息しているところに入っていくわけですから、そういった動物たちに出会っても不思議はないとは思いますが、これまでの数十年の間でクマを見かけたのは4~5回だけです。ですので、これまではそれほどクマに対する警戒心のようなものを強く持ち合わせてはいませんでした。とはいえ、クマには出逢いたくないので、山に入るときはクマ除けの鈴(ベアベル)程度は着けていました。
 しかし、近年のクマ目撃回数やクマによる被害件数の増加を見るとベアベルだけでは心もとなく感じるようになり、ここ数年でクマ対策のグッズをいろいろと揃えてきました。特に今年のようにその回数が急増しているという話しを聞くにつけ、対策を強化しなければいけないと思っています。

 ということで、以前はベアベルのみという状態だったのですが、徐々に持ち歩くクマ除けアイテムが増えていき、現在では山に入る際には下の写真のようなものを携行しています。

▲クマ除けグッズ:左からクマスプレー、電子ホイッスル、ベアベル、熊おどし、クマ除けピストル、下側中央がクマ忌避剤「熊をぼる」、その右が爆竹

 まず、いちばん基本的なアイテムのベアベルです。
 クマ除けグッズで最もポピュラーなのがこのベアベルですが、たくさんの製品が市販されています。形状や色も様々ですが、いちばん特徴的なのがその音色です。「カラカラ」というような乾いた音や「チリンチリン」という可愛らしい音のするもの、あるいは「カーンカーン」というような音のするものまで様々です。
 クマの生態に詳しい方の話だと音の大小はあまり関係ないらしいです。クマの聴覚はとても発達しているので、小さな音でもかなり遠くから聞き分けることができるようです。
 私が使っているベアベルは真鍮製で、「キーンキーン」というような甲高い音がします。音も大きめで、かなり遠くにいても聞こえるようです。これを腰に下げているので、歩いているときは常に「キーンキーン」と鳴り響いています。この音でクマの方から避けてくれればありがたいのですが、どの程度の効果があるのかはわかりません。
 一人で山の中を歩いていたり撮影しているときに遠くの方からこのベアベルの音が聞こえると、人が来るんだというのがわかってちょっとホッとしたりします。
 なお、このベアベルの音がうるさいと感じる人もいるようです。人が大勢いるような場所では鳴らさないようにしておくのもマナーかも知れません。

 ベアベルだけでは少し心もとないという思いと、歩いていないときは音がしないということもあり、4~5年ほど前に電子ホイッスルを購入しました。これはボタンを押すだけで、交通整理の警察官が吹いている笛のような音がします。しかもかなりの大音量で、取扱説明書には約120dbと書かれています。実際に近くで鳴らされると本当にうるさいと感じます。また、音量は3段階に切り替えが可能で、音色も3種類が用意されていますが、もちろん最大音量で使用しています。
 この電子ホイッスルはストラップで首から下げて携行していますが、歩きながら時どき鳴らしたり、撮影に入る前や撮影の合間に10秒ほど鳴らします。ベアベルに比べるとかなり遠くまで音が届くと思うのですが、これもクマに対して効果があるかどうかは不明です。
 ただし、近くに人がいる場所で鳴らすとかなり驚かせてしまうので、これを使用するときは近くに人がいないことを確認する必要があります。

 3つ目のアイテムはクマ除けピストルです。
 5~6年前に秋田県に撮影に行った際、地元の猟師の方から、「爆竹がいちばん効果がある」と教えていただき、その後、いろいろ探して見つけたものです。小学校の運動会などで使われるスターターを小型にしたようなもので、火薬を装填して引き金を引くと「パーン」という大きな音がします。価格は数百円だったと思います。おもちゃのようなものですが、円形に配置された8個の火薬を装填すると、8連発が可能になります。更に、撃った直後は辺りに火薬のにおいが漂います。
 山の中で撃つとこだまのように響き渡り、数百メートルくらい離れていても十分に聞こえるだろうという感じです。何の確証もないのですが、この音を聞けばクマも逃げてくれるだろうという都合の良い思い込みがあり、これを鳴らすと何だかとても心強くなります。
 もちろん、電子ホイッスルと同様で、周囲に人がいないことを確認してから使うのは言うまでもありません。

 クマ除けピストルに特に不満があったわけではありませんが、秋田の猟師さんの言葉が妙に頭の隅に残っていて、爆竹を使ったクマ除けを何とかできないかと考えていました。爆竹は子供の頃によく遊んだ記憶があり、身近に感じられたこともあるかも知れません。
 いろいろ調べていたところ、「熊おどし」というのがあることを知りました。これは北海道や東北では昔から使われてきたもののようです。片方のフシを切り落とした竹筒に爆竹を入れて火をつけるだけ、といういたってシンプルなものです。動画もいくつかアップされていたのでそれらを参考にしながら、2年ほど前に自作をしました。
 竹筒では強度的に不安があったので、金属素材で作ることにしました。直径20mmほどのステンレスパイプの切れ端があったので、これを長さ15cmほどにカットし、このパイプに、剪定で切り落とした庭の桜の枝を削ってはめ込むという簡単なものです。手で持って爆発させるので、その爆風が手にかからないようにステンレスパイプとの隙間がないようにするだけで、これといった難しさはありません。
 ステンレスパイプの先端内側に爆竹を引っかけ、ライターで導火線に火をつけると数秒後にはステンレスパイプの中で爆発します。その音はクマ除けピストルの比ではなく、感覚的には倍以上の音量ではないかと思うほどです。たまたま、道路脇にあるガードレールの近くで使ったことがあったのですが、爆発の衝撃波でガードレールが共鳴するくらいでした。爆竹を複数本入れて着火するとその威力はさらに増しますが、大量に詰め込めばよいというものでもなく、せいぜい2~3本くらいが限度かと思います。やはり空洞がないと音が良くないし、いくらステンレスと言えども同時に爆発させればダメージも大きいと思います。
 クマの生態に詳しい方によると、いきなり爆竹を鳴らすのではなく、笛(ホイッスル)を鳴らした後に熊おどしなどの爆竹を鳴らすと効果的だそうです。もし近くにクマがいた場合、いきなり爆竹の音が鳴り響くとクマもパニックを起こすかもしれないというのが理由のようです。
 爆竹を取り出し、ステンレスパイプの先端に引っ掛け、火をつけるという手間がかかるので、クマ除けピストルのような迅速性はないし連射も出来ませんが、効果はかなりあるように感じます。
 また、火をつけた爆竹を地面に放り出すわけでもないので、落ち葉に火が着くという心配もありません。
 私はステンレスパイプで自作しましたが、しっかりした素材で底のついた筒状のものであれば何でも代用可能だと思います。

 そして、今年の春に新たに手に入れたのがクマ忌避剤です。これは、「熊をぼる」という製品名で販売されているもので、1個2,300円ほどで購入しました。
 中身は木酢とカプサイシン(唐辛子成分)の混合液らしく、強烈な臭いでクマを寄せつけない効果があるらしいです。これをバックパックなどにぶら下げておくと、風下方向では1kmくらい離れていてもクマは感じ取るらしく、とても効果があると書かれていました。風上にいるクマに対しての効果は薄くなるのかもしれませんが、風の向きは常に一定ではないので、かなりの広範囲に匂いが広がるのではないかと思います。ただし、結構危険な液体のようで、直接手に触れると火傷をしたようになるらしく、取り扱いには注意が必要です。
 木酢なのでスモークのような強い臭いがします。家の中で袋から取り出すと強烈な臭いが立ち込め、半日くらいは臭いが残っています。これをつけて歩いていると風下にいる人にも臭いを浴びせることになってしまい、不快な思いをさせてしまう可能性があります。迷惑をかけたりトラブルになるのも困るので、人が多いところでは密閉袋に入れておくのが無難です。

 ここまで紹介したアイテムは、クマに人間の所在を知らせるとか、クマが嫌がる音や臭いを出すというもので、つまり、クマに出会わないようにすることを狙ったものです。たとえクマが生息していることがわかっていても、ソーシャルディスタンスをとってクマと出逢いさえしなければそれほど恐ろしさは感じません。ですから、クマと出くわさないのが最良なのですが、運悪く出くわしてしまったときには、たぶんこれらのアイテムでは役に立たないと思います。
 そこで、そのようなときのために「クマスプレー」を携行しています。

 これは実際に一度も使ったことがないので効果のほどはわかりませんが、説明書によるとカプサイシンが大量に含まれた超危険な液体が8~10mほどの距離まで噴射されるようです。また、噴射できる時間はおよそ7~8秒とのことです。したがって、クマがかなり近くに来た時に噴射しなければ効果がないということになります。そのような近距離にクマがいる状態で落ち着いてスプレーを吹きかけることができるのか、また、風向きによっては自分の方に流れてくる可能性もあるわけで、そういったことに注意しながら対応できるのか、そちらの方がはなはだ心配ですが、最後の砦といったところでしょうか。
 クマスプレーは結構高額(私が購入したものは13,000円ほどしました)で、使用期限も4~5年しかないし、しかも、これを使わざるを得ないような状況では、たぶん1回で使い切ってしまうだろうということもあり、今までは購入を見送っていました。しかし、今年のクマの出没や被害の多さをきいて4か月ほど前に初めて購入してみました。
 なお、6,000~7,000円という格安の商品もありますが、使用期限が数ヶ月しかないというようなものであることが多いらしく、格安品を購入する場合は注意が必要なようです。
 近年はクマスプレーを携行している登山者を多く見かけます。実際にクマに遭遇し、使った経験のある方にお会いしたことはありませんが、お守り代わりに持っているという方が多いようです。

 運悪くクマに出逢ったらいきなりスプレーをかけるのではなく、刺激を与えないように静かに後ずさりしながらクマにさよならするのが良いみたいですが、そういうことも理解はしていても、実際にそのような場面に遭遇した時に体がそのように動くかどうか、はなはだ疑問ではあります。

 腰のベルトにベアベルとクマスプレーをつけ、首には電子ホイッスルをぶら下げ、ウエストポーチにクマ除けピストルや熊おどしを入れ、バックパックにはクマ忌避剤をぶら下げ、撮影機材よりもクマ除けグッズの方に力が入っている感じがしないでもありませんが、クマには出逢いたくないので仕方ありません。
 突然、藪からぬっと出てこられてはどうしようもありませんが、歩いているときはあちこちを見ることができるので、黒いものが動いていると気がつきやすいと思います。いちばん恐怖心が高まるのは撮影しているときです。周囲に目がいかないし、滝や渓流の近くに入れば音がかき消されてしまうし、そんなときにクマに近寄られても全く気がつきません。撮影に入る際には音と匂いでクマを遠ざけておくしかありません。
 これらのクマ除けグッズが、はたしてクマに対して効果があるかは不明ですが、クマも人間には出逢いたくないと思っているという言葉を信じて、注意しながら山に入りたいと思います。

(2023.10.24)

#クマ避け鈴 #小道具

ローライ Rollei のモノクロフィルム RPX25を現像したら謎の白い斑点が大量に出現!

 私はローライのモノクロフィルムRPX25が好きで時々使っています。ISO25と低感度で使いにくいところもありますが、引き締まった黒や高コントラストが気に入っています。使用頻度の多いイルフォードのDELTA100と比べるとずっと少ないのですが、陰陽を表現したいときにはやっぱりRPX25といった感じです。
 先日、久しぶりにマミヤの中判カメラ Mamiya 6 MFを持ち出し、RPX25とイルフォードのDELTA100を1本ずつ持って都内に撮影に出かけました。日中なので低感度フィルムでもそこそこのシャッター速度を切ることができ、何か月ぶりかで街角スナップを撮ってきました。

 翌日、撮影済みの2本のフィルムの現像を行ないました。
 いつもの通り現像処理を行ない、乾燥を終えたネガをスリーブに入れるため、カットしようとライトボックスに乗せた時でした。何やら小さな白い斑点のようなものが一面に付着しているのに気がつきました。まさに、「なんじゃ、こりゃ!?」といった感じです。他のコマも見てみましたが、12コマすべてにポツポツとした白い斑点のようなものがびっしりとついています。ネガ上で白い斑点なので、プリントしたりネガスキャンすれば黒い斑点となって現れることになります。

 それが下の画像です。モノクロネガを反転させず、そのままスキャンしてありますので、ネガを見ているのと同じ状態です。

 わかり易いのは空の部分で、ネガ上では黒っぽいところなので白い斑点状のものがはっきりと見えます。白っぽいところには出ていないように見えますが、わかりにくいだけで、ルーペで見るとはっきりと出現しています。

 白枠で囲った辺りを拡大したのが下の画像です。

 びっしりと斑点状になっているのがわかると思います。

 最初にこれを見た時は現像の失敗かと思いました。現像液内に気泡のようなものができて、それによるものなのかとも思いましたが、どう見ても気泡によるものではなさそうです。
 また、私は現像液を調合する際は水道水を5分ほど煮沸し、それを冷ましたものを使いますので、水道水の中に含まれている不純物等による影響も考えにくいです。
 フィルムの結露かも知れないとも考えましたが、結露には十分注意しているのでたぶんあり得ません。

 掲載画像だとわかりにくいかも知れませんが、フィルムの上に何かが付着しているという感じではなく、画像として写り込んでいるといった方が適切かもしれません。
 しかし解せないのは、白っぽくなっているということはほとんど露光されていないということになります。つまり、光が当たっていない、もしくはごく弱い光しか当たっていないということになります。

 自家現像は何十年もやってきましたが、こんな現象は初めてのことです。ちなみに、もう一本のフィルム、DELTA100の方は何ともありません。今回使用した現像液はイルフォードのID-11で、1+1の希釈にしています。2本とも現像液は同じものを使っています。
 液温管理も20℃±1℃くらいの範囲でやりましたので、特に問題になるとは思えません。

 しかし、見れば見るほど不気味でおぞましい画像です。失敗作として廃棄してしまおうかとも思いましたが、何だかとても気になるのも事実であり、どういった現象で何が原因なのかを知りたくなり、いろいろ検索してみました。
 その結果、似たような経験をされた方の記事をいくつか見つけることができました。私の経験した現象と同じかどうかわかりませんが、斑点が出るという現象は似ているようです。

 その方々の記事によると、「カビ説」と「静電気説」の二つがあるようです。
 まず「カビ説」ですが、使用前のフィルムにカビが繁殖してしまうというものです。現像済みのフィルムが長年経つ間にカビが付着するというのはよく聞く話しですが、使用前のフィルムにカビがつくことなどあるのかと思ってしまいます。そもそも、使用前のフィルムは遮光性のポリ袋のような中に入れられて密閉されているので、外からカビが入り込むなどということは考えにくいです。もし、カビが入り込んだとしたら、工場での製造工程中がいちばん怪しいということになってしまいますが、フィルムをつくるような工場がそんなずさんな管理をしているとも思えません。
 また、このフィルムは購入してから半年くらいしか経っておらず、もちろん使用期限内であり、しかも冷蔵庫で保管していたので、仮にカビであったとしてもこんなにすさまじく繁殖するのも考えにくいです。

 二つ目の「静電気説」ですが、摩擦などによってまれにフィルム全体が静電気をあびてしまうことがあるとのことです。冬場の乾燥した時期とか、自分の着ている衣類の材質等によって静電気が発生する可能性は十分あるわけですが、このフィルムをそのような環境にさらした記憶はありません。
 フィルムが静電気を浴びるとどのようなダメージを受けるのか、私は良く知りませんが、もし静電気によって露光したのと同じような症状になるとしたら、現像したネガ上では、そこは白ではなく黒っぽく出るのではないかと思います。白い斑点状ということは未露光に近い状態なので、つじつまが合わない気がします。
 それに、静電気によるものだとしたら、このようにゴマをまき散らしたような感じになるのかという疑問も湧いてきます。スタティックマーク、いわゆる静電気によるフィルム上の傷跡というのを見たことがありますが、もっとシャープな感じでした。

 「カビ説」も「静電気説」も、私にはどうも納得がいきません。

 それと、もう一つ気になる点があります。空の辺りがわかり易いのですが、横方向に縞模様が見えると思いますが、これは斑点が鎖のように横方向に連なっている状態です。縦方向に連なっているのは見られず、横方向だけというのがとても気になります。カメラの中でのフィルムの送り方向と何らかの関係があるのかとも考えてみましたが、もしそうだとしたら他のフィルムでも発生するだろうと思います。
 また、縞模様というとレチキュレーションという疑いも捨てきれないわけですが、何年も経過したフィルムではないし、特に高温状態で保管されていたわけでもなく、フィルムに過度の力を加えてもいないわけで、やはり原因は違うのではないかと思います。

 ネットでいろいろ検索していたところ、何年か前にイルフォードのフィルムでもこのような現象が出たことがあったらしいのですが、画像や詳細な情報を見つけられず、今回のこの現象と同様のものだったのかどうかはわかりませんでした。

 ということで原因はまったくわからないままですが、試しにネガを顕微鏡で覗いてみました。白い斑点のところはフィルムに何かが付着しているという感じではなく、明らかにフィルムの中に記録された像の一部になっていて、あまり露光されていない白い部分と同じような状態でした。何かが付着しているのであれば盛り上がって見えるのですが、フィルムのどちらの面を見てもそのようなことはありません。
 また、輪郭はボヤっとしていて、倍率を上げ過ぎると境界がわからなくなってしまうくらいです。斑点の大きさはまちまちですが、比較的大きめのものでもフィルム上での直径が0.05~0.1mmといったところです。

 今回使用したRPX25は10本まとめて購入したもので、念のため確認してみましたがエマルジョン番号はすべて同じでした。

 いろいろ調べたり、購入から現像までの経緯を疑ってみたりしてみましたが、今のところ原因はまったくわかりません。上でも書いたように、ネガ上で白くなるということは光が十分に当たっていないということなので、何か光を遮る原因があったのではないかというのがいちばん理にかなっているように思えます。カビのように物理的に何かが付着して光を遮ったのかとか、あるいはフィルムの平面性が保てずに光が拡散してしまったのかとか、あれこれ思いめぐらしてはみてもどれも決定打にはなりえない感じです。

 購入した10本のRPX25のうち、今回のフィルムが6本目なので未使用フィルムがあと4本あります。残りの4本の中にも白い斑点が出現するのか、あるいはRPX25以外のフィルムでも発生することがあるのか、原因がわからないというのは精神衛生上、とてもよろしくない状態です。
 フィルム価格が高騰している昨今、120フィルム1本を駄目にしてしまったというのは少なからずダメージがありますが、大判フィルムで気合を入れて撮ったものでなかったというのがせめてもの救いです。今回は気軽に出かけられる都内だったのも幸いしましたが、これが遠方で何日もかけて撮影してきたものだったりすると目も当てられません。

 しかし、原因不明のこんなことがあると、モノクロフィルムを使うのをためらってしまいます。原因がわかれば対処のし様もありますが、今のところは起きないように神頼みしかないといった情けない状況です。原因がはっきりするまでモノクロの大判フィルムの使用は控えようかと思いますが、いろいろ試してみないと原因はつかめないままですし...
 同様の事例がないか、もう少し時間をかけて調べてみようと思いますので、何かわかればあらためてご報告したいと思います。

(2023年8月16日)

#Rollei_RPX25

撮影済みフィルムのデータ化と保存について思うこと  ~フィルムの保存は永遠の課題~

 「フィルムは生もの」という表現を聞くことがありますが、これはどちらかというと使用前のフィルムのことを指していることが多いと思われます。フィルムには使用期限が決められており、それを過ぎるとどんどん劣化していってしまうという意味で「生もの」という表現をしているのだろうと思います。確かに、使用期限を大幅に過ぎてしまうと感度の低下や発色不良などが生じてしまうことがあります。
 同様に、撮影済み、現像済みのフィルム(ポジやネガ)も経年劣化は避けられません。特に東京のように高温多湿の時期が長い地域では劣化が進む度合いが速いと思います。

 冷暗所など、保管場所に気をつけることで劣化の速度を遅らせることはできても、劣化をとめることはできません。冷凍保存でもすれば良いのかもしれませんが、何百年も未来の人類に残すための写真であるならともかく、自分が撮影したフィルムを冷凍保存しようものなら、自分が生きている間に二度とその写真を見ることはかなわず、非現実的であるのは言うまでもありません。永久凍土に閉じ込められたマンモスのようにしても意味があるとも思えません。

 これといった画期的な手立てがなかなか思いつかないフィルムの保存ですが、有効な保存方法の選択肢の一つとして写真のデータ化があります。完ぺきな方法とはいえませんし、物理的なポジやネガのフィルムと同じような状態で保存できるわけではありませんが、私も大事な写真はデータ化をして保存しています。

 フィルムのデータ化そのものは比較的単純な作業であり、自分で行なう場合はパソコンとスキャナがあればとりあえず可能になります。しかし、民生用の機器では時間もかかるし、フィルムの枚数が多いと大変な作業量になります。
 私がこれまでに撮影したフィルム写真のうち、現在も保管されているのは20数万コマあります。フィルムの種類は35mm判、ブローニー判、大判などいろいろですが、これらをすべてデータ化しようとしたら、私の余生のすべてを注ぎ込んでも時間が足りないと思われます。
 今はフィルムからデータ化してくれるサービスもたくさんありますから、そういったところにお願いする手もありますが、全部やろうとしたら半端ない費用がかかります。

 近年、フィルム価格が高騰しているとはいえ、今もフィルムを使っているので撮影済みのフィルムは増え続てけいるわけです。過去のものも含めてすべてをデータ化しようなどとはまったく思っていません。自分にとって大切で、残しておきたいと思うコマに限って少しずつスキャンしているという状況です。

 私がデータ化に使っているスキャナはエプソンのGT-X970というフラットベッド型のスキャナです。購入してから15~6年は経過しており、製品自体はかなり古いのですが、35mm判から大判(8×10)シートフィルムまで対応できるスキャナとなると選択肢が他にありません。現行機種は後継機のGT-X980ですが、私のGT-X970はまだ問題なく動いているので使い続けています。

 私はこのスキャナを使って、読取り解像度6,400dpiでスキャンしています(6,400dpiはこのスキャナの主走査方向の最高解像度です)。
 6,400dpiなどという高解像度でスキャンしてもそのままの解像度で使うことはないのですが、6,400dpiというとピッチが約3.97μmで、これはリバーサルフィルムの乳剤粒子の大きさにほぼ近い値です。値が近いからと言ってフィルムと同じようになるわけではありませんが、保存用なので出来るだけフィルムの状態に近づけておきたいという思いです。実際にプリントしたりするときには、品質を損なわないところまで解像度を落として使用するのは言うまでもありません。

 6,400dpiでフィルムをスキャンした場合の画像の画素数は以下のようになります。計算上の値であり、実際には若干前後します。

  ・35mm判 : 6,047 x 9,070 (約5,480万画素)
  ・67判   : 14,110 x 17,386 (約2億4,530万画素)
  ・4×5判  : 25,700 x 32,000 (約8億2,240万画素)

 ちなみに、GT-X970の副走査方向は9,600dpiと12,800dpiも対応していますが、実際にその解像度でスキャンしても画質が良くなるわけではなく、むしろ悪くなる感じなので、私は使用していません。
 また、スキャナ用のソフトウェアにはエプソン自慢のDigital ICEやホコリ除去、退色復元などの機能がついていますが、フィルムに忠実なデータを残すということから、私はこれらの機能も一切使用していません。

 このようにスキャンして得られたデータを保存するわけですが、私は2種類のデータを用意しています。
 まず一つ目のデータはスキャンしたままのデータ、つまり、一切加工を加えていない状態のデータです。厳密にいえばスキャナのドライバやソフトウェアによって何某かの加工が加えられているわけですが、さすがにどのようなアルゴリズムで機能しているかまでは知ることはできないので、出来るだけ加工の少ない状態で読み取ったデータを素の状態とせざるを得ません。
 また、細かなゴミやホコリが着いていたりしますが、それも含めて読み取ったままの状態としておきます。これをオリジナルデータとしています。

 二つ目のデータですが、こちらはゴミの除去と色調の調整を行ないます。
 レタッチソフトを使ってオリジナルデータからゴミなどを除去していきます。ゴミ以外のところは極力いじらないようにするため、とにかく手間のかかる作業です。ゴミの付着度合いにもよりますが、67判のフィルムの場合、1コマあたり20~30分はかかります。青空のようなフラット状態のところに着いたゴミは比較的簡単に除去できますが、花とか木の枝葉など、ゴチャゴチャしているところに着いたゴミを取り除くのは手間がかかります。

 ごみを取り除いた後にポジ原版に限って行なうのが色調の調整で、ライトボックスで見たポジ原版とスキャンしたデータの色調を出来るだけ合わせるというのが目的です。
 スキャンデータはスキャナのハードウェアやソフトウェアによって色が作り出されているわけで、ライトボックス上のポジ原版と同じ色調になるはずもないのですが、出来るだけフィルムに近づけておきたいという理由です。そのため、パソコンのモニタもキャリブレーションしたものを使い、モニタによる色の影響を出来るだけ受けないようにします。
 エプソンGT-X970の場合、それほどポジ原版から偏った色調になることはないというのが私の印象ですが、若干、マゼンタが強く出る傾向があると感じています。ただし、これは私が使っている機器だけ、つまり個体差によるものかも知れません。

 なぜ、何の加工も施さないオリジナルデータと、そこに若干の加工を加えたデュプリケートデータの2種類を用意するかというと、ポジ原版が経年劣化で退色していった場合、元の色がわからなくなってしまうのを防ぐためです。全く同じ色をデータで残すことは無理ですが、少しでも撮影直後の色を残しておきたいということです。

 スキャンしたデータは48bitのTIFF形式で保存します。データサイズは大きくなりますが、圧縮などによる劣化が起きないようにするためにTIFF形式を用いています。

 さて、こうしてできた保存用のデータですが、最も頭の痛いのがその保存方法です。
 画素数も大きく、データ形式もTIFFのため、データサーズがバカになりません。1コマあたりのおおよそのデータサイズを計算すると以下のようになります。

  ・35mm判 : 約320MB
  ・67判   : 約1.4GB
  ・4×5判  : 約4.6GB

 データ保管してくれるサービスもありますが、このようにバカでかいデータをポンポンとアップロードしようものならあっという間に容量の上限を超えてしまい、課金対象の超優良顧客になってしまいます。
 ということで、私はハードディスクを用意して、そこに保存しています。

 一過性のデータを保存するのであればあまり神経質になることもありませんが、あくまでも保存用ということですので、ある程度の信頼性も必要という判断から、RAID-5構成のハードディスクを使用しています。4台のディスクドライブで構成されており、4台あっても1台分はパリティ用として使われてしまうので実効容量は3/4に減ってしまいますが、障害に対する信頼性が高いのと、ドライブ故障時のリカバリ(交換)が簡単にできるというメリットがあります。
 現在、私が使用しているハードディスクの実効容量は9TB(RAID-5)です。このハードディスクに、上で書いたような方法で作成した画像データを保存する場合、67判だと約3,290コマ分、4×5判だと約1,001コマ分の保存ができます。かなりの枚数が保存できるように感じますが、今あるフィルム全体の数パーセントにも満たない量です。

 すべてのコマをデータ化して保存するつもりはないとはいえ、保存するデータは徐々に増えていくので、ハードディスクに入りきらなくなったら新たにハードディスクを追加するしかありません。しかし、いくら小型化しているとはいえ、そこそこの場所をとります。今は1台だけなので何とかなっていますが、これが2台、3台と増えていったら大変なことになります。それこそデータセンターとかホスティングを検討しなければならない状態になってしまいますが、そこまでして保存しようという気にはなりません。用意できる設備に保存可能な範囲の中で運用していくというのが現実的だと思っています。

 そして、最大の悩みが保存媒体(ハードディスク)の劣化対応です。
 データ自体は経年劣化しませんが、それを入れておく記憶媒体は機械ものなので、やはり経年劣化していきます。一般的にハードディスクの場合、3~5年が寿命と言われています。もちろん使用頻度によって寿命も大きく変わるので、業務用で使っているのでなければもう少し長くもつとは思いますが、いずれにしても交換しなければならない時期が定期的にやってくるということです。
 また、仮にクラッシュしてもバックアップがあれば何とかリカバリが可能ですが、もし、それもなければ救済不可能ということにもなりかねません。
 私もこれまでに、使用していたハードディスクがクラッシュしたという経験は何度もありますが、壊れてしまうとリカバリがとにかく大変です。壊れる前に新しい機器に交換しておくのが望ましいのでしょうが、交換するとなると出費もかさむことだし、まだ変な音がしていないからしばらくは大丈夫だろうなどと、何の根拠もない理由をこじつけて先延ばししてきたことも数えきれません。

 RAID-5構成の場合、このような最悪の事態のいくつかは軽減してくれますが、その製品自体が販売終了などということになると、いずれは総入れ替えが必要になってきます。そうなると、新しい代替の機器を購入してきても膨大な量のデータ移行という作業が待っていて、これも結構時間がかかります。
 データによる保存というのは便利で効果的にも思えますが、確実に保存していくための運用を考えるととても大変で、キリがないということです。
 例えば、フィルムは火事などで燃えてしまえば何も残りませんが、データは複数個所に分散保存しておけば完全消失は防げます。しかし、保存場所が1ヵ所しかなければデータと言えどもすべて消失してしまうことに変わりはありません。

 こうして、あらためて撮影済みのフィルムの保存について考えてみると、データ化というのは効果的な面もありますが、より確実性の高いものを求めると、時間とお金がいくらあっても足りないという気がしてきます。むしろ、フィルム自体の経年劣化を出来るだけ遅らせるところに時間とお金をかけた方が良いのではないかと思えてきたりもします。
 フィルムの経年劣化は防げないとはいえ、私のささやかな経験からすると、ポジ原版(リバーサルフィルム)は経年劣化に対する耐性が優れていると思っています。常温保管の場合、カラーネガだと6~7年で黄変やビネガーシンドロームが出始めますが、ポジ原版は30年近く経っても健在です。もちろん、劣化は進んでいるのでしょうが、目視で明確にわかるほどひどくはなりません。そして、モノクロネガははるかに耐性があります。
 であるならば、撮影済みのフィルム保管用に冷蔵庫を調達したほうが良いのでないかと思ってしまいます。

 私は、撮影済みのフィルムについては光が入らないキャビネットの中で保管していますが、特に温度管理をしているわけではなく常温保管です。それでも20年、30年経過してもまずまずの状態を維持しているわけですから、冷蔵保管すればもっと良い状態を保つことができるのではないかと思います。冷凍保存と違い、冷蔵保存であれば出し入れもし易いので、いつでも使うことができますし、冷蔵庫はハードディスクに比べて何倍も寿命が長いのもメリットに思えます。また、冷蔵庫が壊れても中のフィルムがなくなるわけではないというのが素晴らしいです(当たり前ですが)。
 ただし、全てのフィルムを冷蔵保管するとなると容量600L並みの大型冷蔵庫が必要となり、置き場所など考えるとそれはそれで頭の痛い問題です。

 自分にとって大切な写真、残しておきたい写真のデータ化は今後も地道にやろうと思いますが、完璧を求めすぎず、ほどほどにしておくのが良いと感じています。
 私の場合、何といっても撮っている写真がアナログなわけですから、保存もアナログが適しているのかも知れません。

(2023年7月9日)

#リバーサルフィルム #スキャナ #エプソン #EPSON #保管

なぜフィルム写真に心がときめくのか? 不思議な魅力を持ったフィルムという存在

 写真フィルムの出荷量がピークだったと言われている西暦2000年から23年が経過し、その量は1/100にまで減少したというデータもあるようですが正確なところは良くわかりません。しかし、減少していることは間違いのないことだと思われ、フィルム価格の相次ぐ値上げや製品の生産終了などを受け、フィルム写真を断念してしまう人も多いという話しも聞きます。
 ネット上のいろいろなサイトを拝見すると、いまどきフィルム写真をやるなんて何の意味があるのかとか、愚の骨頂とか書かれている記事もたくさんありますが、私はいまだにフィルム写真をやめられずにいます。今の時代からすると化石のような存在かも知れません。

 デジタルカメラやデジタル写真の進歩にはすさまじいものがあります。しかし、フィルム写真と比較するようなものでもないし、また、比較しても特段意味があるとも思えませんが、解像度や見た目の綺麗さなどではデジタルの方がはるかに勝っていると思えることもたくさんあります。また、フィルムカメラではとても難しいとか、たぶん無理と思えるようなもの(被写体)であっても、今のデジタルカメラであれば容易に写すことができるということがたくさんあります。

 私が住んでいる近くに大きな公園があり、そこにオオタカが営巣している木があります。時どき、散歩がてらその木の近くを通ることがありますが、たくさんの人がまるでバズーカ砲のようなレンズを装着したカメラを三脚に据えて、全員が同じ方向を向けて撮影をしている光景を見ることができます。
 私は野鳥を撮るようなことはありませんし、そのような機材も持ち合わせていないので、皆さんの邪魔にならないように後ろの方に立ってレンズが向いている方向の木の上に目を凝らし、肉眼でオオタカの姿を探しています。
 オオタカに限らず野鳥というのは常に我々の目の前に姿を現してくれるわけではないし、運よく飛んできても長居はしてくれないので撮影チャンスはごく短い時間に限られてしまいます。私などは鳥の姿が見えなければ10分もしないうちに飽きてしまいますが、野鳥を撮られる方は何時間でもじっとチャンスを待っています。そう考えると、野鳥撮影をする皆さんの忍耐力には頭が下がります。
 そして、待ちに待ったオオタカが姿を現すと一斉にシャッターが切られ、その音があたりに響き渡ります。しかも、1秒間に10コマ以上は切られているのではないかと思えるほどの高速連射です。
 このような写真は私が持っている半世紀も前のフィルムカメラでは絶対に撮れません。まさにデジタルカメラならではです。

 野鳥の撮影は一つの例ですが、そんなデジタルカメラの凄さや便利さを承知しながらも、私はフィルム写真から離れられずにいます。
 では、なぜフィルム写真に拘っているのかと問われても、正直なところ、うまく答えを返すことができません。それは、理由が一つではないこともありますし、言葉でうまく表現できないということもあります。

 私が使用しているフィルムの7~8割はカラーリバーサルフィルムです。リバーサルフィルムはネガフィルムと違い、現像が上がった時点で完成となります。ですので、現像後のポジをライトボックスで観賞できるわけですが、これが最高に美しいと思っています。
 昔はポジ原版から直接プリントするダイレクトプリントと呼ばれるサービスもありましたし、今はスキャナで読み込んでプリントすることも出来ます。しかし、どんなに熟練したプロの職人さんがプリントしたものであっても、ライトボックス上の透過光で見た時の美しさにはかないません。また、プリントした写真よりもポジ原版を直接見た方がはるかに立体感のある写真、そして透明感のある写真に見えます。
 私が初めてリバーサルフィルムで撮影したのは今から何十年も前のことですが、初めてポジ原版を見た時の感動は忘れることがなく、今もポジ原版を見ると胸が高鳴ります。
 実際には常にポジ原版を鑑賞しているなんていうことはなく、プリントしたものを額装しているわけですが、見ようと思えばいつでもライトボックス上でポジを鑑賞できるということは何ものにも代えがたい魅力であることは間違いありません。

 では、モノクロネガフィルムの場合はどうかというと、もちろん、リバーサル現像でもしない限りは白黒が反転したネガ原版ですから、ライトボックス上で見てもリバーサルフィルムのように完成形を見ることはできません。しかし、立体感のようなものはネガ原版であっても十分に感じられますし、白黒反転していても脳がさらにそれを反転してくれるというか、普通に肉眼で見た時と同じように感じられるから不思議です。

 そして、カラーリバーサルにしてもモノクロネガにしても、フィルムという物理的な媒体を直接見るとまるでその場にいるかのような錯覚を憶えます。臨場感というのともちょっと違うのですが、撮影した空間をそっくりそのまま持ってきたという感じです。これもプリントしたものやパソコンのモニタに映した画像では味わえない感覚です。

 フィルム写真は、デジタルカメラのように撮影したその場で出来具合を確認するということはできません。これは、デジタルカメラに慣れてしまうと何とも不便なことに思えるかもしれませんが、シャッターを切った瞬間に自分の思い描いた映像がフィルムに記録されているかと思うと、ワクワクともドキドキともつかない不思議な感覚に包まれます。常に思い通りに撮れるわけではなく、予想に反した写真になってしまうこともあるわけですが、それも含めたワクワクやドキドキだと思います。
 失敗したら高いフィルムが1枚無駄になってしまうということもありますが、何よりも、今と同じ写真は二度と撮ることができないという緊張感のようなものが高揚感となって頭を持ち上げてくるように思います。特に自然相手の風景写真の場合、明日、また同じ場所に来ても同じ写真は絶対に撮れないわけで、余計にそれが強いのかもしれません。
 デジタルカメラのように、撮ったその場で確認できればどんなに便利かと思うこともありますが、現像が上がるまでの間、出来具合をあれこれ思いめぐらす時間、焦らされるような時間があるというのもフィルムならではです。
 二度と同じ写真が撮れないのであれば、失敗してもすぐに撮り直しのきくデジタルカメラの方に100%の分があるというのは承知しているのですが、フィルムに記録されるという物理的な現象には媚薬のような効き目があり、これに抗うことはできません。
 以前、この話を友人にしたところ、「お前、変わってるな」と言われたことがありました。自分ではそんなに変わっているとは思っていないのですが...

 フィルムの価格が今のように高額でないときはカラーリバーサルフィルムの現像も自分で行なうこともありました。しかし、なかなか発色が思うようにいかず、いまはプロラボに依頼をしています。一方、モノクロフィルムは自分で現像していますが、リバーサルにしてもネガにしても、現像工程を終えて現像タンクからフィルムを取り出したときに像が形成されているのを見るとやはり感激します。無から有が生成されるマジックを見ているような感じで、しっかりと説明のつく化学変化だとわかってはいても感動の瞬間です。
 撮影の時にイメージしたものがしばらくの時間をおいた後、像となって表われ、それを手に取ることができる不思議な感覚、私にとって心をときめかせるには十分すぎる事象だと思っています。

 さて、上でも書いたように、最近のデジタルカメラは驚くほど高精細で綺麗な写真が撮れます。写真は解像度がすべてではないと思いますが、それでも高解像度で綺麗であることを否定する理由は何もありません。そのようなデジタルカメラで撮った高解像度の写真に比べると、フィルム写真はちょっとざらついた感じがします。整然と並んだ撮像素子と、ランダムに配置された乳剤粒子(ハロゲン化銀粒子)の違いによるものが主な理由だと思いますが、私はフィルムのちょっとざらついた感じが好きです。

 ざらついていると言ってもかなり拡大しないとわからないので、デジタルカメラとフィルムカメラそれぞれで、同じ被写体を同じレンズを使って、同じ位置関係で撮影してたものを比較してみます。
 私が1台だけ持っているデジタルカメラはだいぶ前のもので、撮像素子はAPS-Cサイズ、約1,600万画素という、今ではかなり見劣りのするカメラです。そして、比較用に使ったのは中判のPENTAX67です。これらのカメラにPENTAX67用の135mmレンズを装着し、同じ位置から同じ被写体(桜)を撮影しました。
 そして、67判のポジ原版をデジタルカメラの1画素とほぼ同じ大きさになるような解像度(約5,420dpi)でスキャンします。写る範囲が67判の方が圧倒的に広いので、その画像データからデジタルカメラで撮影できるのとほぼ同じ範囲を切り出してみました。

 1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出したものです。

▲デジタルカメラで撮影
▲フィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出し

 画像処理のアルゴリズムなどの影響を受けていると思いますので2枚の写真に色調の違いはありますが、それを無視してもこうして比較すると、デジタルカメラで撮影した写真の方が滑らかな感じがすると思います。

 では、拡大してみるとどうかということで、画中央のまだ開ききっていない花の辺りを拡大したものが下の写真です。同じく1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影したものです。

▲部分拡大 デジタルカメラ
▲部分拡大 フィルムカメラ

 明らかに違いが判ると思います。デジタルカメラ(1枚目)の方が全体に滑らかで、細部までくっきりと描写されているのがわかります。
 一方、フィルム(2枚目)の方は全体的にざらついた感じがしますが、これはフィルムに塗布された色ごとの乳剤粒子が重なっているため、それによって複雑な色の組合せが生まれていることが理由だと思われます。デジタルに比べてはるかにたくさんの色数が表現されていますが、これがざらついた感じに見えるのだと思います。
 デジタルの撮像素子とフィルムの性能比較をするつもりはなく、生成される画の違いを見ていただければと思います。

 ざらついていると言っても、中判フィルムから全紙くらいの大きさに引き伸ばしプリントした程度ではざらつきはほとんど感じられません。超高感度のフィルムを使ったときの粒子の粗さによるざらつきとは全く別物で、豊かな色調からなる画の奥深さのようなものを感じます。 
 個人的にはこのフィルムのざらついた感じが好きで、それがフィルムの魅力の一つでもあります。

 このように、私はいろいろなところでフィルムの魅力を感じていて、しかも、それらが相乗効果で押し寄せてくるので、そう簡単にフィルムに踏ん切りをつけることができないというのが正直なところです。もちろん、フィルム価格や現像料の高騰は大打撃ですが、ごくごく些細な工夫をしながらでも、フィルムを使い続けたいという気持ちがあります。
 私はフィルムと日本酒の保管専用に小型の冷蔵庫を使っていますが、扉を開けた時にフィルムと日本酒が並んでいるのを見ると幸せな気持ちになります(なぜ、フィルムと日本酒が同居しているのかという突っ込みはしないでください)。使用前のフィルムのパッケージを眺めていると、それだけでどこかに出かけて撮影しているときの映像が頭の中に浮かんできます。まるで、うなぎを焼くときの煙でご飯を食べることができるおっさんみたいですが、私にとってはそれくらい魅力的な存在です。

 現在、冷蔵庫に保管されているフィルムは1年~1年半ほどで使い切ってしまいそうな量です。今の品薄状態と高額には閉口しますが、切らさないように何とか補充し続けていきたいと思っています。

(2023.6.5)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #リバーサルフィルム #ライトボックス