大判カメラのアオリ(7) 複合アオリ フロントライズ+フロントスイング

 以前、大判カメラのアオリのシリーズで個々のアオリについて触れてきましたが、今回は複数のアオリを組み合わせて使う複合アオリについて触れてみたいと思います。
 風景写真の場合、物撮りに比べるとアオリを使う頻度は格段に少ないのですが、それでも時には複数のアオリを使うこともあります。複合アオリの第一回目はフロントライズとフロントスイングの複合アオリです、
 なお、それぞれのアオリのふるまいについては下記のページをご覧ください。

  大判カメラのアオリ(1) フロントライズ
  大判カメラのアオリ(4) フロントスイング  

高さと奥行きのある被写体を撮影する

 高さも奥行きもある被写体というと、ビルなどが最もイメージし易いのではないかと思います。
 下の図のように、ビルを斜めに見る位置から撮影することを想定した場合、ビルのほぼ全体をフレーム内に入れるためにはカメラを上向きにする必要があります。

 ビルとカメラがこのような位置関係になると、ビルの水平ライン(上図の赤い点線)に対してレンズの光軸(上図の黒い点線)が斜め上方を向くため、平行になりません。また、ビルの垂直ライン(上図の青い点線)に対して、レンズの光軸が直角になりません。
 この状態でビルを撮影すると、ビルの上方が中央に寄っていく、いわゆる先細りになって写ってしまいます。

 下の写真は東京都の神代植物公園にある「ばら園テラス」を撮影したものです。ビルではありませんが、高さのある柱が何本も並んでいる被写体であり、上の図と同じような状況で撮影したものです。
 神代植物公園には大きな温室があり、本来はそちらの方がうってつけなのですが、温室の周囲に植えてある木々が邪魔になって良いアングルが見つけられなかったため、ばら園テラスにしました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 一番手前の柱は左に傾いているように、一方、奥の柱は右側に傾いているようになってしまいます。つまり、建物全体が上に行くにしたがって先細り状態になってしまいます。これは見上げるようなアングルで撮影するとごく普通に起こる症状で、このような写真は見慣れているせいか特に違和感があるわけでもありません。ですが、やはり肉眼で見たのとはちょっと違うぞという感じです。建物全体が向こう側に倒れているように感じられます。
 また、ピントを手前の柱付近においているので、奥の方(写真左側)の柱にはピントが合わず、ボケています。これは絞りを絞り込むことである程度は解消することができますが、同じ画角でも35mm判カメラなどと比べて焦点距離の長いレンズを使う大判カメラの場合、どうしても被写界深度が浅くなってしまうので自ずと限度があります。

 この写真のピント面は、右上の屋根の角の辺りから手前の柱上部を斜め下に輪切りにして、柱の向こう側に降りている感じなります。

フロントライズで先細りを防ぐ

 まず、上に行くにしたがって先細りになっている状態を解消するために、カメラのフロント部を上げるライズアオリをかけます。
 これは、上向きになっていたカメラの光軸が水平になるように、カメラを構え直します。こうすることで傾いているように見えた柱がまっすぐになってくれますが、建物の上部が画面からはみ出してしまい、反対に画面の半分近くまで地面が写り込んだ状態になります。
 その状態でカメラのフロント部を少しずつ上げていく、すなわち、ライズアオリをかけていくと、建物の上部が徐々に入り込んできます。

 1枚目の写真とほぼ同じ範囲が写り込むまでフロントライズさせて撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 手前の柱も奥の柱もほぼ真っすぐに立ち、建物全体が向こう側に倒れているような感じもなくなりましたし、高さも強調され、奥行き感というか立体感も増しています。
 また、1枚目の写真ではカメラが上方を向いているため、地面に対してピント面が垂直になっておらず、手前に傾いた状態になっていますが、2枚目の写真ではピント面が地面に対して垂直になっている、つまり、柱と平行になっているので、建物の向こう側にある木々のボケ方も小さくなっているのがわかると思います。

 フロントライズによるピント面の移動は下の図のようになります。

 ライズ量はレンズのイメージサークルやカメラの可動範囲の許す限りは可能ですが、焦点距離が短いレンズの場合、イメージサークルにあまり余裕がないのと、フィールドカメラはビューカメラほど可動量が大きくないので 、あまり高い建物では上の方までフレーム内に入れることができないというようなことが十分あり得ます。

フロントスイングで手前から奥までピントを合わせる

 フロントライズをかけることで建物が真っすぐに立っているように修正できました(2枚目の写真)が、奥の方(画面左側)の柱は被写界深度の外にあるため、ピントが合っていません。これを奥の柱までピントが合うように、フロント部にスイングアオリをかけます。
 ライズアオリがかかった状態のままで、レンズを少し右向きに回転させます。つまり、右から2本目の柱のあたりを向いていたレンズ面を右に回して、右から1本目と2本目の柱の中間あたりを向くようにします。こうするとピント面が右に回転するので、手前から奥の方までピントが合うようになります。

 こうして撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 建物の真っすぐな状態が保たれたまま、手前の柱から奥の柱までピントの合った状態になっています。
 フロントスイングによるピント面の移動を示したのが下の図です。

 わかり易くするために絞り開放で撮影していますが、この状態で絞り込めば奥の木立も被写界深度の範囲内になり、さらにピントの合った写真にすることができます。
 このような場合、フロントスイングによってすべての柱にピントを合わせることが多いと思いますが、スイングの度合いを変えることでピントの合う範囲を調整することができます。あえて遠くの方は若干ぼかしておきたいというようなときはスイングの量を少なめにするなど、作画意図に合わせてアオリの量を決めます。

 また、今回は作例用に撮影はしませんでしたが、レンズを左向きに回すスイングアオリをかけると、例えば、2本目の柱だけにピントが合って他はボケているという、ちょっと不思議な感じの写真にすることも出来ます。

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 フロントライズもフロントスイングも単独では比較的よく使うアオリですが、風景撮影において これらを複合して使うことはそれほど多くはありません。ですが、被写体が歪まないようにしながらピント面を自由にコントロールすることで思い通りの写真に仕上げることができるのは魅力かもしれません。
 建物単体だけでなく街並みの撮影とか、比較的近い距離での滝の撮影とか、意外と応用範囲は広いようにも思います。

(2023.1.23)

#Linhof_MasterTechnika #アオリ #リンホフマスターテヒニカ

フォーカシングスクリーンの視野率は、写真の出来を大きく左右する

 ミラーレス一眼レフのデジタルカメラは構造が異なっていますが、35mm判や中判のフィルム一眼レフカメラや二眼レフカメラ、あるいは大判カメラにはフォーカシングスクリーンがついていて、ここにレンズから入った光が結像するようになっています。大判カメラや多くの二眼レフカメラはフォーカシングスクリーンに映った像を直接見て、構図決めやピント合わせを行ないますが、一眼レフカメラの多くはアイレベルファインダーを通して見るような仕組みになっています。
 このように多少の違いはあれ、フォーカシングスクリーンに映った像を頼りに撮影することには変わりがありません。したがって、フォーカシングスクリーン上には、フィルムに記録されるのと同じように像が映されていないと具合が悪いわけですが、カメラによって映される範囲が異なっているのが実情です。

 カメラのカタログや取扱説明書を見ると、「ファインダー視野率 ○○%」という記載があります。これは撮像面(フィルム)に記録される範囲を基準にしたとき、フォーカシングスクリーン(ファインダー)で見ることの出来る範囲の割合を示したもので、100%であれば記録される範囲と見ている範囲が一致しているわけですが、100%より小さい場合は記録される範囲よりも狭い範囲しか見えていないことになります。反対に100%より大きければ、記録される範囲よりも広い範囲を見ているわけです。

 最近の一眼レフのデジカメはファインダー視野率100%というのが多いようですが、かつてのフィルム一眼レフカメラの場合、一部の機種を除いてファインダー視野率が90%台というのが多かったと記憶しています。
 何故、ファインダー視野率を低くしているのか本当の理由はわからないのですが、一説には、フィルムからL判などに機械焼き(いわゆるサービスプリントと呼ばれていたものです)する際に、周囲が若干カットされてしまうので、それを考慮してファインダーの視野率も下げているという話しを聞いたことがありますが、事実のほどはわかりません。

 理由はともかく、フォーカシングスクリーンの視野率が低いというのは撮影する側からするとあまり有り難くありません。
 因みに、私が愛用している中判カメラのPENTAX67は、アイレベルファインダーを装着した場合の視野率は約90%(カタログ値)です。
 PENTAX67のアパーチャーサイズ、すなわち、実際にフィルムに記録されるサイズは69.3mm x 55.5mmです。視野率が90%ということは、周囲が均等にカットされるとして、65.7mm x 52.7mmになってしまいます。つまり、横位置で構えた場合、フォーカシングスクリーンの左右それぞれが約1.8mm、上下それぞれが約1.7mmも見えていないということになります。

▲PENTAX67のフォーカシングスクリーン

 この値は誤差の範囲と思われるかもしれませんがそんなことはなく、例えば、中判(67判)の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズで50m先の被写体を撮影する場合、フォーカシングスクリーン上の左右それぞれ1.8mmは、50m先の被写体の位置では約85cmにも相当します。これは決して誤差の範囲などではなく、大人一人が簡単に隠れてしまう横幅です。
 フォーカシングスクリーン上では見えていなかったのに、実際に出来上がったポジ原版を見たらしっかりとおじさんが写り込んでいた、なんていうことがごく当たり前に起きてしまいます。

 もちろん、写り込んでしまったのはおじさんが悪いのでなく、撮影するこちら側に全責任があるわけです。近くに人がいるときはフレーム内に入らないか確認すべきですし、もし入りそうであれば通り過ぎるまで待つべきなのですが、つい撮り急いでしまったりするとこのようなことが起こり得ます。実際に私も何度か経験をしています。
 また、人がいなくても目に見えている範囲よりも実際に写る範囲の方が広いわけですから、構図を決める際にカメラを上下左右に振りながら確認しなければならないので、とても煩わしいです。右方向を確認するためにカメラを右に振ると左側が切れていってしまいますし、上下に関しても然りであり、フィルムに記録される全景を一度に見ることができないわけですから結構なストレスです。

 端の方に余計なものが写り込んだらトリミングすれば済む話ですが、リバーサルフィルムを使っているとそれを容認できなくなってしまいます。リバーサルフィルムの場合、現像が上がった時点で完成形となるので、そこに余計なものが写っているとそのコマは失敗作となってしまいます。
 最近はなくなってきましたが、以前は写真コンテストなどでもポジ原版(スライド)をそのまま応募する形式のものが結構ありました。余計なものが写っているからと言ってポジ原版をハサミやナイフで切ってしまうわけにはいかないので、すなわち、応募に値しない失敗作ということになってしまいます。
 そのような経験をしてきていることも理由かもしれませんが、ポジ原版上で完成させないと気が済まないという、とても面倒くさい状態になっているわけです。

 私が普段使っているカメラは、中判のPENTAX67と大判(4×5判)のカメラです。
 PENTAX67もアイレベルファインダーをつけた状態ですと視野率は約90%になってしまいますが、これを取り外してフォーカシングスクリーンを直接見るようにすると、視野率が100%にかなり近づきます。
 大判カメラの視野率もすべて同じというわけではなく、機種によって微妙に違っています。

▲Linhof MasterTechnika 2000 のフォーカシングスクリーン

 ということで、私が持っているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズと視野率を実測してみました。
 まず、アパーチャーサイズ(フィルムに記録されるサイズ)は以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.3mm x 55.5mm
  4×5判フィルムホルダー : 120.1mm x 96.1mm

 これに対して、今現在、所持しているカメラのフォーカシングスクリーンのサイズを実測したのが以下の通りです。

  PENTAX67 : 69.6mm x 54.0mm
  Linhof MasterTechnika 45 : 121.4mm x 98.4mm
  Linhof MasterTechnika 2000 : 120.3mm x 97.1mm
  WISTA 45 SP : 120.1mm x 99.7mm
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 120.0mm x 94.6mm

 この値から視野率を計算すると以下のようになります。

  PENTAX67 : 97.7%
  Linhof MasterTechnika 45 : 102.5%
  Linhof MasterTechnika 2000 : 101.2%
  WISTA 45 SP : 103.7%
  タチハラフィルスタンド 45Ⅰ : 98.4%

 縦と横とで比率は異なっていますが、フォーカシングスクリーン全体の視野率を見るとこんな感じになっています。

 リンホフとウイスタはわずかですが100%を上回っています。リンホフMT45とMT2000は同じだと思っていたのですが、実際にはごくわずかに違いがあるようです。
 一方、タチハラは短辺が少しカットされる状態になっています。

 個人的には視野率は100%を上回っているのがありがたく、できれば110%くらいあると理想的だと思っています。理由は、実際に写り込むよりも少しだけ広い範囲が見える方が構図決めがし易いからです。フィルムに納まる範囲のちょっと外側に何があるかがわかることで、もう少し右に振るか左に振るか、あるいは上、または下に振るかを判断することができます。これによって、フィルムの上下左右や四隅を曖昧な状態にせずに、意識を配ってきちんとまとめることができるのはとても大事なことだと思っています。
 また、フィルムの端の方や隅に余計なものが入り込むのを防ぐのはもちろんですが、中途半端な入り方になってしまうのを防ぐこともできます。
 例えば、隅の方に太い木の枝がほんの少しだけ入ってしまうなんてことは有りがちですが、これは出来上がった写真(ポジ)を見た時にとても気になります。撮影の際にはそこに気が回らなくて起きてしまう失敗ですが、これもフィルムに写り込む範囲よりも少し広く見えていれば防ぐことができます。
 隅の方に写った木の枝なんてどうってことないと思うかも知れませんが、そんなことはなくて、周辺部まで気配りの行き届いた写真とそうでない写真を見比べると、カメラの位置や向きがほんのちょっと違っているだけなのに、写真から受ける印象はずいぶんと違ってきます。

 リンホフもウイスタも視野率100%を上回っているとはいえ、ゆとりをもって周辺を見ることができるほどの大きさはありません。それでも周辺部がカットされているよりははるかに構図決めはし易いです。
 そういった点からすると、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着しての撮影というのは極めて理想的と言えます。精度の問題はありますが、レンジファインダーカメラのブライトフレームの外側も見えているのと同じ感覚です。
 視野率を高くしようとするとフォーカシングスクリーンのサイズを大きくしなければならず、そうでなくても図体の大きな大判カメラはますます大きくなってしまいます。また、シートフィルムホルダーの規格もあるので無暗に大きくもできなのでしょうが、視野率にゆとりのあるフォーカシングスクリーンによる恩恵は大きいと思います。

 カメラを持ち出すたびに、フォーカシングスクリーンの視野率を高める方法はないものかと思案を巡らせる日が続いています。

(2022.12.24)

#フォーカシングスクリーン #PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45

ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 一年ほど前、中古カメラ店で衝動買いのようにして手に入れたローデンシュトックのシロナーN 210mmレンズです。シャッターが不良だったため驚くほど安い価格で購入できたのですが、不良個所を直し、撮影の際には持ち出す頻度の高いレンズになりました。
 私が持っている数少ないローデンシュトックのレンズのうちの一本ですが、一年近く使ってみて、結構お気に入りのレンズの一つになりました。

Sironar-N 210mm 1:5.6 レンズの主な仕様

 このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ301mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm
   後枠外径寸法 : Φ60mm
   全長  : 66.2mm

 ローデンシュトックのレンズの最新モデルはほとんどが「APO」を冠していたり、デジタル用となっていますので、このレンズは二世代ほど前のモデルになります。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当します。標準レンズよりもちょっと長めといった感じです。67判で使用すると、35mm判で105mmくらいのレンズの画角に相当しますので、中望遠レンズといったところでしょうか。
 シャッターは1番、フジノンのW210mmと大きさも似通っていて、標準的な大きさだと思います。

 イメージサークルは301mm(F22)あり、5×7判までカバーできると思いますので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。大きくアオリをかけてもケラレることはなく、安心して使うことができます。フジノンのW210mmのイメージサークルが309mm(F22)ですから、仕様的にも非常によく似たレンズです。

 レンズコーティングの違いによるものだと思いますが、前玉をのぞき込んだ時の色合いはシュナイダーともフジノンとも異なり、赤紫というか濃いピンク色をしており、妖しくも艶めかしい感じがします。

準標準系(4×5判)レンズといえる画角

 35mm判カメラで言うところの標準(50mm)レンズに相当する画角を持ったレンズは4×5判では180mmと言われていますが、それに近いのが210mmレンズです。そのせいか、中古市場には180mmと210mmのレンズはとても多く出回っています。まずは標準レンズということで、この辺りの焦点距離のレンズを最初に買い求める人が多かったのかもしれません。

 4×5判での対角画角は約41度ですので、フレーミングしても違和感のない画角だと思いますが、4×5判の大きなフォーカシングスクリーンに投影された映像を見ると、もう少し焦点距離の長いレンズのような印象を受けます。これは、短焦点レンズに見られるような周辺部が引っ張られる感じがないからかもしれません。とても素直で自然な感じの画像が浮かび上がってくるのは気持ちが良いものです。

 強いパースペクティブを活かした写真には向いていませんが、程よい遠近感を出しながらお目当ての範囲を切り取ることのできる画角だと思います。
 大判レンズにはズームレンズがないので、どうしても持ち出すレンズの本数は増えてしまいがちですが、私の場合、210mmは必ずと言ってよいくらいに持ち歩いています。レンズの本数は少ない方が荷物が軽くてありがたいので、180mmか210mmか、どちらか1本というときには210mmを選択することが多いです。このあたりは焦点距離というか画角に対しての慣れの問題もあると思います。

 私は渓谷とか滝を撮ることが多いのですが被写体にあまり近づくことができないことも多く、また、あまり広い範囲を取り入れてしまうと主題がぼやけしまうこともあるので、40度前後の画角というのは結構重宝します。
 焦点距離が210mmなので、35mm判や中判カメラの場合、あまり被写体に近づくと被写界深度が浅くなってしまいますが、大判カメラの場合、アオリをかけることでそれをカバーすることができます。もちろん画角が大きくなるわけではありませんが、ワーキングディスタンスの自由度も備えていると思います。

とてもシャープでありながら、柔らかな感じの独特な写り

 ローデンシュトックのシロナーというシリーズのレンズは初めて使ってみたのですが、柔らかな写りという印象があります。
 うまく表現できないのですが、いわゆる軟焦点(ソフトフォーカス)レンズのようなフワッとした柔らかさではなく、エッジが尖り過ぎていない柔らかさとでも言ったらよいのか、ポジを比べるとシュナイダーともフジノンとも違う印象を受けます。柔らかく感じるからといって解像度が低いわけでもなく、細部まで見事にシャープな像が形成されています。ルーペで見てもまったく遜色のない、見事な解像度です。コントラストが低いことで柔らかな感じを受けるのかとも思いましたが、決してそんなこともなさそうです。
 ボキャブラリーがなくて申し訳ないのですが、カリカリした硬さがないというのが適切かもしれません。

 また、これは検証したわけではなくあくまでも想像ですが、もしかしたら発色の違いによるものかも知れないと思ったりもします。上でも書いたように、レンズの前玉をのぞき込んだ時の色合いがシュナイダーやフジノンとはずいぶん違うので、これによって色の出方が異なるのかも知れません。シュナイダーやフジノンに比べると発色が地味な印象も受けますが、いちばんナチュラルな発色と言えるかもしれません。

 では、実際にSironar-N 210mm で撮影した事例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目ですが、今年6月に群馬県の桐生川源流林で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 16s ND8 PROVIA100F

 この辺りは木々が覆いかぶさっていて晴れていても渓流全体が薄暗いのですが、さらにこの日は空が雲に覆われており、かなり暗い状態でした。いい感じに木々の隙間から光が差し込んでいる場所を見つけて撮影したのですが、渓流の奥の方はかなり暗いのがわかると思います。
 風が少しあったので木の葉はブレていますが、下半分の渓流の部分はとてもシャープに写っています。ですが、硬さは感じられず、なんとなく全体に柔らかな印象があります。かといってコントラストが低いわけでもなく、階調も豊かに表現されていると思います。
 また、葉っぱや岩肌、苔などもとても自然な発色をしているように感じます。

 曇りの日の光は柔らかいので、一般的には出来上がった写真も柔らかな感じになるものですが、それとは違う種類の柔らかさを感じます。

 中央に近いところの岩の部分を拡大したのが下の写真です。

 岩や苔の質感も見事に表現されており、立体感のある描写です。
 全体的に柔らかさを感じるものの、解像度やシャープネスを損ねているわけでもありません。十分すぎるくらいの鮮明さを保っていると思います。

 もう一枚、下の写真は青森県で撮影したブナ林です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 4s PROVIA100F

 木の幹や葉っぱなどを見るととてもシャープに写っているのですが、写真全体は何となく柔らかな感じを受けるのは上の写真と共通しています。
 少し地味に感じるかも知れませんが全体的に落ち着いた色合いで、シュナイダーのレンズで撮るともう少し派手に写るのではないかという気がします。同じ場所で撮影して比べたわけではありませんが、たぶん、全体から受ける印象が違うのだろうと思います。

 この写真は密生しているブナの林を、およそ20m離れた場所から撮影しています。カメラをほぼ水平に構えた状態で真横から撮っている感じです。木の幹は多少曲がりくねっていますが、カメラを上に振ったときのように、木の上部が中央に集まってしまうようなこともなく、ほぼ平行を保って写っています。また、林の奥の方の木の幹もくっきりと写っていて、このあたりが210mmという焦点距離のレンズならではの写りといった感じです。

 下の写真は栃木県の県民の森で山道を歩いていたところ、道の脇に綺麗に黄葉した葉っぱを見つけたので撮影した一枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F11 1/4 PROVIA100F

 被写体までの距離は1.5mほどで、ほぼ真上からの撮影です。
 もう少し低い位置から斜め下方に向けてカメラを構え、アオリを使って全体にピントを合わせても良かったのですが、葉っぱの形が綺麗に見えるこのポジションにしました。
 黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗です。葉っぱの鋸歯も鮮明に写っていますが、カリカリとした感じはしません。鮮やかな黄色もどぎつくならず、とても自然な発色だと思います。
 葉っぱの高さはほぼそろっていたのですが、出来るだけ全体にピントを合わせたかったのでF11まで絞り込んでいます。もう1段くらい開いても良かったかも知れません。

 写真全体としては派手さが控え気味という印象を受けますが、この被写体には向いているように思います。ぎらつくような黄色よりはしっとりした色合いが似合っている被写体です。

 いずれの写真も解像度やシャープネス、コントラスト、発色など十分すぎるくらいですが、どことなく柔らかな感じがするのは共通しています。それが色合いからくるものなのかわかりませんが、非常にナチュラルな写りのレンズあると言えるのではないかと思います。

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 私が持っているローデンシュトックのレンズの本数が少ないため、このレンズ一本だけでローデンシュトックの特性を語ることはできませんが、個人的には好感の持てる写りをするレンズといった印象です。同じシロナーでも、アポシロナーやアポシロナー・デジタルだと違う写りをするかも知れませんが、驚くほど高額ですし、そもそも手に入りにくいので、たぶん、一生使うことはないと思います。
 そんな最新モデルのレンズでなくても良いので、ローデンシュトックのレンズを使ってみたい衝動が沸々と湧いてきました。ローデンシュトックにはたくさんのシリーズやモデルがあって、気にしだすときりがないのですが、機会があれば別のレンズも使ってみたいと思います。

 こうして、またレンズが増えていってしまうんだろうなぁ、と思いながら...

(2022.12.14)

#ローデンシュトック #シロナーN #Rodenstock #Sironar-N #桐生川源流林 #レンズ描写

秋の福島・山形 ~大信不動滝・裏磐梯・湯川・朝日渓谷・慈光滝・地蔵沼~

 10月末から福島、山形に紅葉の撮影行に行ってきました。今年は秋の訪れが早いのではと思っていたのですが、紅葉の盛りまではもう4~5日後の方が良さそうな感じでした。また、今年は夏が暑かったからなのかわかりませんが、色づきもイマイチという印象を受けました。
 最低気温が8度を下回ると紅葉が始まるらしいのですが、私が訪れた時は結構暖かくて、紅葉も足踏みをしていたのではないかという感じです。それでも東北の紅葉はやっぱり綺麗です。

 今回は、福島県の南側県境にある白河を起点に下郷、会津若松、裏磐梯、山形県の米沢、上山、山形、新庄、酒井、鶴岡を回ってきました。
 持参したのは大判カメラ(リンホフマスターテヒニカ45)です。

大信不動滝(福島県)

 白河の市街地から国道294号線を北上し、県道58号矢吹天栄線をひたすら西に向かうと聖ヶ岩ふるさとの森キャンプ場があります。シーズンにはキャンプする人で賑わうのか、広い駐車場が完備されています。ここに車を停めて、隈戸川に沿った遊歩道を歩くこと7~8分で大信不動滝の前に出ます。
 落差は5mほどでそれほど高くありませんが、横幅が30m以上はあると思われ、黒い岩肌を滑るように流れ落ちる滝です。

▲大信不動滝 : Linhof MasterTechnika 45 SuperAngulon 90mm 1:8 F32 4s PROVIA100F

 6月に訪れた時は水量がとても多く、滝の前に立っていると飛沫でびしょ濡れになってしまうくらいでしたが、今回は水量が少なく、6月の迫力とは別物のような滝でした。水量が多いと岩肌はほとんど見えないくらいで、日差しが強いときは真っ白に飛んでしまいますが、水量が少なくて 迫力に欠ける分、しっとりとした感じがします。
 まだ色づき始めたところで緑がたくさん残っていますが、岩に貼りついたたくさんの落ち葉が深まる秋を感じさせてくれる景色です。

 周囲は木立に囲まれており、まだ太陽高度が低い時間帯だったので薄暗いような場所です。露出をかけすぎると重厚感がなくなってしまうので少し切り詰めています。
 また、左上を見ていただくとわかるように、ところどころ日が差し込んでいます。これが滝に差し込むとしっとり感がなくなってしまうので、雲がかかったタイミングを見計らってシャッターを切っています。

 農繁期も過ぎ、上流にあるダムで絞っているのかもしれませんが、それにしても水量が少なすぎます。
 なお、この辺りはマムシが出るらしく、「マムシ注意!」の看板がいくつもあります。クマのような恐ろしさはありませんが、気持ちの良いものではありません。

湯川渓谷(福島県)

 会津若松の市街地から県道325号線に入り有名な東山温泉街を抜け、さらに山道を十数キロ進むと湯川が作る渓谷を見ることができます。湯川に沿って県道が走っているため、道路脇の斜面をちょっと下ると渓谷に降りることができます。特に遊歩道のようなものが整備されているわけではありませんが、渓谷美が広がっていて撮影ポイントだらけといった感じです。

 川が蛇行していて見通しがきかないところも多いのですが、緩やかにS字を描きながら流れている場所で撮影したのが下の写真です。

▲湯川渓谷 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F22 4s PROVIA100F

 この辺りの木々はほとんどが黄葉で、紅く色づく木はとても少ない印象です。しかし、黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗で、地味ではありますがたくさんの紅葉がある景色とは違った趣があります。渓谷の岩の上に積もった落ち葉が黒い岩肌を隠していて、全体的に柔らかな感じの風景になっています。
 水量が少なめなので、流れよりも黄葉の方に重きをおいて撮りました。白い波の部分が少ないので、静けさが漂うような描写になったのではないかと思っています。

 この近くに大滝という滝があるのですが、ロープを伝いながら崖のようなところを降りていかなければならず、重い機材を背負っていくにはもっとしっかりとした装備がいると思い、大判カメラでの撮影は断念しました。

裏磐梯 曲沢沼(福島県)

 9月にも裏磐梯に行きましたが、あれから2か月足らず、すっかり秋が深まっていました。ほとんど落葉してしまっている木もあり、あっという間に秋が進んでいくのを感じます。
 裏磐梯の桧原湖、小野川湖、曽原湖に囲まれた一帯は小さな沼が無数に点在していますが、曽原湖の東側に位置する大沢沼や曲沢沼の紅葉は裏磐梯の中でも鮮やかな感じがします。

 下の写真は曲沢沼で撮影したものです。

▲曲沢沼 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/2 PROVIA100F

 小さな沼ですが周囲がこんもりとした森に囲まれていて、紅葉の密度が高い場所です。
 朝の7時過ぎ、一部の木々だけに陽が差し込み、紅葉が輝いていますが、背後は日陰になっているので黒く落ち込んでいます。ほとんど無風状態だったので水鏡のようになっています。
 ほぼ逆光の位置で撮っているためコントラストがとても高く、陽のあたっている葉っぱは若干飛び気味ですが、光の強さを出すために葉っぱの輝きが損なわれないよう、オーバー目の露出にしています。

 もう一枚、曲沢沼の近くで見つけたカエデです。

▲カエデ紅葉 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F5.6 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、羽を広げたような枝っぷりと、何と言っても鮮やかなオレンジ色の紅葉が目を引きました。背後にも赤く染まったカエデがありますが、それとは違った輝くような色が印象的でした。
 背景があまりくっきりしないように絞りは開放に近い状態にしているので、主被写体となるカエデの葉っぱのピントが甘いところがあります。もう少し焦点距離の長いレンズで、離れたところから撮影したほうが良かったように思います。

裏磐梯 レンゲ沼(福島県)

 レンゲ沼はジュンサイが採れることでも有名ですが、冬には3,000本ものキャンドルが灯される雪まつりでも有名です。沼の周囲には探勝路があり、およそ15分もあれば一周できるくらいの小さな沼です。
 特に紅葉が多いというわけではありませんが、色づいた木々と沼とのコラボレーションが綺麗な場所です。曲沢沼のような派手さはありませんが、落ち着いた秋の景色を見ることができます。

 下の写真は水面に映る景色を主に撮った一枚です。

▲レンゲ沼 : Linhof MasterTechnika 45 SuperAngulon 90mm 1:8 F22 1/4 PROVIA100F

 手前と奥の方に浮いている楕円形の葉っぱがジュンサイではないかと思います。夏はもっと緑色をしているのですが、だいぶ黄色くなっています。
 この日は良く晴れて青空が広がっており、紅葉とのコラボが綺麗でしたが、空を直接写し込まずに水面の中に入れました。青の濃度が増してコクのある色合いになっています。
 この沼ではカモと思われる水鳥をよく見かけるのですが、この日は一羽も来ませんでした。水鳥がいるとそれはそれで絵になるのですが 、そうすると水面が波立ってしまい、綺麗な水鏡を撮ることができなくなってしまいます。

朝日川渓谷(山形県)

 山形県の中央部に近いあたりに、最上川の支流の一つの朝日川があります。この朝日川に沿って県道289号線が走っているのですが、この一帯が朝日川渓谷で磐梯朝日国立公園に指定されているようです。
 水がとても綺麗であちこちに渓谷美が見られるのですが、車道の道幅が狭くてすれ違いができないような箇所もあり、車の運転は緊張します。国道287号線から分岐しておよそ10kmほど走ったあたりが最も渓谷美を感じる場所だと思います。

 渓谷の両岸は険しく切り立っていて、車道から降りていくことのできる場所は少ないのですが、偶然、河原まで降りることのできる場所を見つけて撮影したのが下の写真です。

▲朝日川渓谷 : Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 180mm 1:5.6 F45 2s PROVIA100F

 ここも水量はかなり少なめでした。川の中に入って向こう岸まで歩いて行けるのではないかと思えるほどです。
 木々もいい感じに色づいており、右上にある紅葉がとても綺麗でした。薄曇りのためコントラストが高くなりすぎることもなく、落ち着いた感じになりました。
 水面の反射や岩の反射を取り除き、紅葉を濃くするためにPLフィルターを使うことも考えましたが、ベッタリとした感じに仕上がるのが嫌で結局使いませんでした。

 撮影したくなる場所があちこちにあるのですが、車を停める場所がほとんどありません。すれ違いのための待避所は結構あるのですが、そこに停めてしまうとすれ違いの車の迷惑になってしまいます。広いスペースのところに駐車して、歩いて撮影するのお勧めの場所です。

慈光滝(山形県)

 真室川町から酒田市に通じる国道344号線沿いにある滝です。道路のすぐ脇にある滝で、すぐ近くの駐車スペースに車を停めてサンダル履きでもOKという、ロケーション的にはとっても恵まれています。
 この滝のある川の名前はわからないのですが、流れ落ちた水は車道の下をくぐり、大俣川に流れ込んでいます。

 落差は6mくらいで小ぶりな滝ですが、岩肌を糸状に落ちる優美な感じのする滝です。

▲慈光滝 : Linhof MasterTechnika 45 APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 8s PROVIA100F

 ここも紅葉真っ盛りというタイミングで、滝の美しさが一層引き立っている感じです。夏に訪れた時は木々が生い茂っていて、その中に滝が埋もれているようでしたが、この時期になると滝の全貌も見えて、夏とは全く違う景色になります。
 滝の真上にある紅葉、たぶんハウチワカエデではないかと思うのですが、このオレンジ色が個人的にはとても気に入っています。この滝には赤よりもこの色の方がお似合いな感じです。

 この写真を撮影しているとき、ちょうど通りかかった地元の方が「イワナがいる」と教えてくれました。滝つぼをのぞき込んでみると確かにいました。20cm以上はあるのではないかと思われる大きなイワナでした。

地蔵沼(山形県)

 月山の南山麓、標高およそ750mにあるこじんまりとした沼です。周囲はブナ林に囲まれていて、とても神秘的な雰囲気が漂っています。
 沼の中ほどにある島に歩いて渡るための橋がかけられていたり、沼の周囲には運動広場や野営場などがあるのですが、沼からは見えないこともあり、そういったものを感じさせない静かなたたずまいです。

 下の写真は早朝、沼に陽が差し込み始めたころに撮ったものです。

▲地蔵沼 : Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F32 1/2 PROVIA100F

 標高が高いこともあり、紅葉のピークは少し過ぎてしまっている感じです。対岸にある木々は落葉してしまっていますが、幹や枝が朝日に白く輝いて晩秋の雰囲気があります。
 沼の中ほどにある島をもう少し広く入れたかったのですが、カメラを右に振ると島に渡る橋が写り込んでしまうのでこれがギリギリでした。
 沼の西側から東を向いて撮影しているので半逆光状態ですが、夕方になって西日が差し込むと、対岸のブナ林が真っ赤に染まるのではないかと思います。青森県にある蔦沼の紅葉を思い浮かべてしまいました。

 今回、私は初めて訪れたのですが、ここは紅葉の人気撮影スポットらしく、ピーク時には三脚がずらっと並ぶそうです。私が撮影していた1時間ほどの間、他に訪れる人は一人もいませんでした。

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 紅葉のピークにはちょっと早い感じもしましたが、少し高いところに行くと落葉が始まっており、紅葉の時期は本当に短いと感じます。時間が許せば、緯度の高いところから紅葉前線とともに南下しながら撮影していくのが理想かも知れませんが、自然相手なので、その年その時の状況が同じでないところが良いのだと思います。
 いつも感じることですが、撮影していると予想以上に時間が早く過ぎてしまい、予定していた場所を回り切れないことばかりです。特に秋は日が短いので。

(2022.12.5)

#大信不動滝 #曲沢沼 #レンゲ沼 #朝日川渓谷 #慈光滝 #地蔵沼 #リンホフマスターテヒニカ

大判カメラ とっても珍しくて、とっても恥ずかしい失敗のあれこれ

 大判カメラは構造も機能もシンプル、かつ、極めてアナログ的であり、撮影には手順を踏んでやらなければならないことがたくさんあります。そのため、ちょっとしたミスが失敗作を生んでしまうこともあるわけですが、以前、そんなミスや失敗について書いたことがあります。興味ある方は下のページをご覧ください。

  「大判カメラの撮影時における失敗のあれこれ」

 この時に書いた内容は比較的起こり易い失敗についてでしたが、今回は、「えっ、こんなことが起こるの!?」と思われるような失敗について書いてみたいと思います。
 いずれも私自身が実際に経験したことで、これまでに1度きりの経験という内容です。本来であれば恥ずかしくてお披露目できるような内容ではないのですが、こんなこともあるんだという参考になればと思います。

レンズキャップを外し忘れて撮影

 レンジファインダーカメラの場合、レンズキャップをつけたままであってもファインダーを覗けば向こうの景色がくっきりと見えるわけですから、レンズキャップを外し忘れて撮影なんていうことが起きても、「あ~、やっちまったな」というくらいで、そのこと自体はそれほど不思議なことだと思いません。

 しかし、大判カメラとなると話は違います。
 大判カメラは後部のフォーカシングスクリーンで構図決めやピント合わせを行なうので、そもそもレンズキャップをつけたままの状態で行なうことはできません。
 にもかかわらず、レンズキャップをつけたままで撮影、という不可解なことをしでかしてしまいました。

 とある東北地方の海岸で、夕日を撮影しようとしていた時にその事件は起きました。

 いつものように構図を決めたりピントを合わせたり、シャッターを切るための準備は滞りなく進んでいました。左手方向から形の良い雲がゆっくりと流れてきていたので、フレーミングの中に入ってくるまでしばらく待つことにしました。
 太陽高度は低くなってきているとはいえ真夏の太陽の光は強いので、レンズのシャッター膜にダメージがないよう、保護のためにレンズキャップを被せて待っていました。
 およそ5分後、お目当ての位置に雲が流れてきたのでシャッターを切りました。手応えのようなものを感じていたのを憶えています。

 撮影行から帰り、フィルムを現像に出してさらに数日後、現像の上がったフィルムを受け取りに行ったところ、「露光されていないフィルムがあったようです」という店員さん。「そんなはずは...」と思いながら袋から紙のフォルダーを取り出してみると、中から皆既日食の観測にも使えそうな真っ黒なフィルムが出てきました。

 何故こんなことになったのか、必死に撮影当時の記憶を巻き戻しながら、「あっ!」と思ったのがレンズキャップを外すのを忘れたまま撮影したことでした。
 もしかて、シャッターを切った後に感じた手応えのようなものはこれだったのかと、自分の感じた手応えとはなんと当てにならないものだと痛感しました。

空っぽのシートフィルムホルダーで撮影

 大判カメラで撮影に行く前には、シートフィルムホルダーにフィルムを1枚ずつ詰めておきます。フィルムホルダーは両面に1枚ずつのフィルムが入るので、一つのホルダーで2枚の撮影ができることになります。そうして、撮影目的や撮影期間などに応じて、必要と思われる数のフィルムホルダーを携行します。

 ある日、日帰りで紅葉の撮影に行きました。
 数日後、現像のあがったフィルムを受け取りに行くと、「フィルムが入っていないホルダーがあったようです」とのこと。フィルムホルダーの引き蓋を抜いてみると確かに中は空っぽです。しかも両面とも。

 大判カメラを使うほとんどの人がしているのと同じように、私もフィルムホルダーに番号を振っておき、撮影後はその番号と撮影データを記録しておきます。
 撮影メモを確認してみると、確かにその番号のホルダーで撮影したことになっています。なぜフィルムが入っていないのか、さっぱりわかりません。

 フィルムホルダーに振ってある番号はユニークにしてあるので、どの番号のホルダーを使っても問題はありません。ですが、私は必ず連番のホルダーを持ち出すようにしています。ばらばらの番号や飛び番で持ち出すことはありません。
 単にフィルムの装填忘れかとも思いましたが、だとしたら未装填のフィルムが残っていなければなりません。

 原因不明のまま忘れかけていた頃、新たにフィルムを装填しようとしたところ、引っかかってうまく入らないホルダーがありました。もしやと思い調べてみると、案の定、中には既にフィルムが入っていました。
 どこで取り違えたのかいまだに良くわからないのですが、たぶん、連番のホルダーの最初の一つを持たず、代わりにフィルムの入っていない連番のホルダーを持ち出してしまったようです。

 フィルムの入っていないホルダーで真剣に撮影していたのかと思うと、とても惨めな気持ちになります。逃した魚は大きい...という太公望と一緒かも知れません。

ロールフィルムホルダーの引き蓋の入れ忘れ

 大判カメラでの撮影といっても必ずしも大判フィルムだけを使うわけではありません。ロールフィルムホルダーにブローニー(120)フィルムを詰めて、それで撮影することもあります。
 ロールフィルムホルダーは67判や69判、パノラマの612判など、何種類ものサイズが用意されているので、撮影意図によってホルダーを変えるということができるのも便利なところです。

 こういった機材を使った場合の撮影手順などは人によって決まったやり方、その人なりの習慣のようなものがあるもので、私の場合、ロールフィルムホルダーの引き蓋は完全に引き抜いてしまわずに、アパーチャー(フィルム開口部)から外れたところで止めておくという使い方をします。

 ところが、過去に一度だけ、引き蓋を全部抜き取って撮影したことがありました。

 房総半島の海岸で4分とか5分という長時間露光撮影をしていた時です。
 たまたま風が強い日でしたので、途中まで抜いた状態の引き蓋が風にあおられてバタバタするため、全部引き抜いて三脚のストーンバッグに入れておきました。

 そして撮影後、その引き蓋を元に戻さずにロールフィルムホルダーをカメラから外してしまいました。
 その時はまったく気がつかず、次のコマを撮影しようとしてロールフィルムホルダーを手に取ったときのことです。
 いつもならアパーチャーのところはステンレス製の引き蓋があり、銀色に光っているのですが、その時は薄茶色のような鈍い色をしたフィルムがむき出しになっているではありませんか。なんか、とってもいけないものを見てしまったときのような後味の悪さです。

 現像後のポジを見て驚きました。むき出しにしてしまったコマがスケスケなのは当然ですが、その前後のコマの半分くらいまで光が回ってスケスケ状態になっていました。都合、3コマ分のフィルムを駄目にしてしまったということです。

NDフィルターをつけ忘れて撮影

 私は滝や渓谷、海など、水のある被写体を撮ることが多く、そのため、NDフィルターを使用する機会も多くなります。3段分の減光効果のあるND8を使うことが多いのですが、長時間露光をするためにND64とかND400を使うこともあります。
 NDフィルターをつけたままだとピント合わせができないので 、構図決めやピント合わせの際は外して行なうことになります。そして、ピント合わせ後にNDフィルターを装着して撮影という手順になります。

 このNDフィルターの装着を忘れるということは普通では考えられないのですが、ある時、測光して露出設定をした直後に光の具合が変わったので測光し直しました。そして、再度、絞りやシャッター速度を設定したことで、NDフィルターの装着をすっかり忘れてしまったことがあります。何ともお粗末な結果です。

 この時に使おうとしていたフィルターはND400という真っ黒なもので、約8.5段分の減光効果があります。ですので、このフィルターをつけ忘れた状態でシャッターを切ると、約8.5段分もの露出オーバーになってしまいます。

 NDフィルターの装着忘れに気がついたのは現像が上がってきた後です。ポジ原版はスケスケ状態でした。撮影直後に気がつけば現像に出すことはなく、フィルムを無駄にするだけで済んだのですが、現像代までも無駄にしてしまいました。

 同じようなことは中判カメラでも起こりうる可能性は考えられるのですが、中判カメラの場合、大判カメラほどやることが多くないので忘れることもないのだと思われます。
 それにしても、スケスケのポジを見た時の、心の中を冷たい風が吹き抜けていくような何とも言えない無力感は忘れられません。

ティルトロックのネジ締め不足でレンズが動いた

 大判カメラはアオリ機構がついてるため可動部分がたくさんあります。当然、それらの可動部にはロックするためのネジがついているのですが、これをしっかり締めておかないとあちこちが簡単に動いてしまいます。とはいえ、何らかの力がかからなければ、勝手に動くことはありません。

 木製の大判カメラを使って撮影していた時のことです。
 手前から奥までパンフォーカスにするため、フロント部をティルトダウンしてピント合わせを終え、フィルムホルダーを差し込み、4秒のシャッターを切った直後のことです。蛇腹がゆっくり伸びていくのが目に飛び込んできました。目を疑いましたが、もはやどうすることも出来ません。

 この時使っていたレンズはフジノンのW 250mm 1:6.3 というレンズです。このレンズ、かなり重いうえに重量バランスが前玉側に大きく偏っています。つまり、レンズボードのところを手で持つと、前玉側が異常に重く感じます。
 このレンズをカメラに取付け、フロントティルトのロックネジを緩めてティルトダウンすると、自身の重さでレンズが前に首を振ってしまいます。もちろん、ロックネジをしっかり締めればそんなことは防げるのですが、どうやらこの時はロックネジの締め方が足りなかったようです。

 1/125秒とか1/250秒という高速シャッターであれば救えたかもしれませんが、4秒の間、ゆっくりと首を振っていったとなると、流し撮りのような写真になってしまうことは容易に想像できます。
 ということで、この時のフィルムはボツになりました。

フィルムホルダーを取り外すときに引き蓋が抜けた

 大判カメラのフォーカシングスクリーンがついている部分はフィルムホルダーを押さえる機能も兼ねています。フィルムホルダーが簡単に動いたり外れたりしては困るので、かなり強いバネの力で押さえつけています。
 フィルムホルダーを装着するときも取り外すときも、このバック部の片側を持ち上げるようにして行ないます。慣れればどうってことはないのですが、そのカメラのクセのようなものがあって、持ち上げる角度が悪かったりすると引っかかってうまく外れないことがあります。

 私の場合、左手でカメラのバック部を持ち上げ、右手でフィルムホルダーの端を持って取り外します。
 以前、冬の景色を撮影していた時、撮影後のフィルムホルダーを取り外そうとした際に指が滑って引き蓋の引手のところに引っかかり、引き蓋が1/3ほど抜けてしまったことがあります。引き蓋が抜けた側のフィルムは撮影前でしたが、当然、使い物にならなくなってしまいました。

 冬で湿度が低く、お肌が乾燥していたため指先の摩擦力が低下し、滑ってしまったのではないかと思っています。
 このようにちょっとしたミスで引き蓋が簡単に抜けないようにロックする爪がついているのですが、ロックし忘れていたか、フィルムホルダーを触っているうちにロックが外れてしまったと思われます。
 撮影中に引き蓋が抜けてしまうなんて、後にも先にもこの時だけです。

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 どれもこれも注意していれば防ぐことのできることばかりですが、注意が散漫になっていたりするとこのような信じられない失敗をしでかしてしまいます。大判カメラでリバーサルフィルムを使ってこのような失敗をすると、フィルム代も現像代も高額な昨今、ダメージが大きいです。
 当事者でなければ笑える内容かも知れませんが、本人にとってはかなり深刻な問題です。

 いずれもずいぶん昔の失敗で、以来、同じ失敗を繰り返したことは今のところありませんが、いつまた起きるとも知れない可能性を含んでいるおバカな失敗談でした。

(2022.11.12)

#フィルムホルダー #NDフィルター #ロックネジ #レンズキャップ

大判カメラ撮影に必要な小道具、あると便利な小道具たち(3)

 前回(およそ1年前)に続いて、大判カメラで撮影する際に、あると便利な小道具たちの紹介の3回目です。
 これらがなければ撮影ができないというような切実なものではありませんが、日ごろ、私が撮影の際に持ち歩いているものです。中には必ずしも大判カメラでの撮影に限らないものもありますが、大判カメラ使用時に出番が多いものを選定してみました。

ストーンバッグ

 ウェイトストーンバッグと呼ばれることもあります。もともとは三脚を安定させるための重しを載せるためのもので、三脚の3本の脚のつけ根辺りに紐で縛りつける、ハンモックのようなものです。
 風が強いときに三脚のブレを防ぐためであったり、そもそも重い三脚を持ち歩くのは大変なので、軽めの三脚であっても現地調達した石などを載せて安定させようという目的で作られたようです。確かに、その辺りに転がっている手ごろな石を載せれば、三脚の重心も下がるので安定度は増すと思います。
 ですが、私はもっぱら撮影時に使用する小道具置き場として使っています。

 大判カメラで撮影する際には意外とたくさんの小道具、小物類を使います。単体露出計、ルーペ、ブロア、フィルター、フィルムホルダーなどは常に使用しますが、撮影条件によってはさらにいくつもの小道具が必要になることがあります。
 これらをカメラバッグから取り出し、使い終わったらカメラバッグに入れる、というようなことはとても面倒くさいので、三脚の股の間に取付けたストーンバッグを仮置き場として使っています。もちろん、その場での撮影を終えて移動する際にはカメラバッグにしまわなければなりませんが、撮影時は必要なものが手の届くところにあるのでとても便利です。
 また、私はこの中に、常時ウェスを入れていて、三脚が濡れたり泥で汚れたりしたときにこれでふき取っています。

 私の使っているストーンバッグはナイロン製(たぶん)の安物なのでとても軽く、移動の際にも負担にならないので三脚に着けっぱなしです。安物なので、本来の使い方をしようとして大き目の石を入れると破れてしまうかも知れません。

手鏡(ミラー)

 クレジットカードと同じ大きさの鏡です。AMEX(アメリカン・エクスプレス)からもらったもので、金属製の鏡です。ガラス製ではないので、落としても割れる心配がありません。

 これを何に使うかというと、時々身だしなみを整えるためではなく、主に絞りやシャッター速度の設定の際に使用します。

 大判カメラは後部にあるフォーカシングスクリーンで構図の確認やピント合わせをするので、これが目の高さにあると腰をかがめる必要がないのでとても楽です。
 ですが、そうするとレンズも同じ高さになり、シャッターの外周につけられた絞り値やシャッター速度値がとても見難くなってしまいます。レンズ正面に回れば前面につけられた目盛りは見えますが、カメラの前後を行ったり来たりしなければならないので極めて面倒です。

 そこで、カメラ後部にいながらレンズの指標を確認できるよう、この鏡を使います。

 鏡なので左右反転して写りますが、見たいところを映すことができるのと、半絞りや1/3絞りなどの細かな設定も鏡を見ながらできるのでとても便利です。
 もちろん、強い風に吹かれたり、冠布を被ったことで乱れたヘアーを直すのにも使えることは言うまでもありません。

露出計用PLフィルター

 大判カメラには露出計がついていないので、単体露出計が必須になります。
 通常の撮影であれば、単体露出計の測光値を使う、もしくは、撮影意図によって露出を変える場合でも単体露出計の測光値をもとに補正をかけます。
 ところが、PLフィルターを使用する場合は、単体露出計の測光値をそのまま使うというわけにはいきません。NDフィルターなどは露出補正値がフィルターによってほぼ決まっていますが、PLフィルターは光の具合や偏光をかける度合いによって露出補正値が異なるからです。

 PLフィルターはレンズに装着した状態で、ファインダーやフォーカシングスクリーンを見ながら偏光の効き具合を確認しますが、この時の露出補正値が正確にわかりません。明るさの変化を見て、概ねこれくらいだろうということで露出補正値を決めてしまうこともありますが、正確さを期すためには単体露出計で測光することが望ましいわけです。

 そのためには単体露出計にもPLフィルターを装着し、その状態で測光する必要がありますが、レンズにつけたPLフィルターを外して単体露出計につけるのは面倒です。
 そこで、単体露出計用の小さなPLフィルターをあらかじめ用意しておきます。

 PLフィルターの枠には変更度合いの基準となる位置にマークがついています。レンズに装着したPLフィルターで偏光度合いを確認した後、その時のマーク位置と同じになるよう単体露出計のPLフィルターも回転させ、その状態で測光すれば、偏光のかかり度合いに応じた正確な露出値を得ることができます。

 最近のPLフィルターは、カメラに内蔵されたハーフミラーやローパスフィルターに干渉しないよう、サーキュラPLというものがほとんどですが、大判カメラにはどちらも内蔵されていませんし、単体露出計に影響がなければ普通のPLフィルターでも問題ありません。

フォーカシングスクリーンマスク

 大判カメラのフォーカシングスクリーンは、そのカメラで使用するフィルムとほぼ同じ大きさになっています。つまり、視野率はほぼ100%ということです。
 ですが、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着して撮影する場合、使用するのはフォーカシングスクリーンの中央部だけ、67判であれば約55mmx69mmの範囲だけです。
 フォーカシングスクリーンによっては67判や69判の枠が引かれているものもありますが、視野率が300%ほどにもなってしまうので周囲が見えすぎてしまい、正直、使い易いとはいえません。これを改善するため、使用するフィルムの大きさに合わせたマスクを用意しておくと便利です。

 マスクと言っても黒い厚紙の中央部に、フィルムの大きさに合わせた窓をくり抜いただけのものです。これを、大判カメラのフォーカシングスクリーンのところにはめ込むという単純なものです。単純ではありますが、これで視野率が約100%となり、周囲の余計なものが見えなくなるので構図決めは格段にやり易くなります。

 フォーカシングスクリーンが嵌まっている枠の大きさはカメラによって異なるので、このマスクはカメラごとに用意しておく必要があります。
 また、フィールドタイプの大判カメラの場合、フォーカシングスクリーンにフードがついているものが多く、マスクを嵌めたままでもこのフードを畳めるよう、マスクの紙厚が厚くなりすぎないように考慮する必要があります。

色補正フィルター

 大判カメラでの撮影は長時間露光になることも多く、特にリバーサルフィルムを使用した撮影の場合、相反則不軌によってカラーバランスが崩れることがあります。
 この影響が出る露光時間はフィルムによって異なりますが、富士フイルムのデータシートによると、PROVIA100Fで4分以上の露光、Velvia100Fで2分以上の露光、Velvia50で4秒以上の露光となっています。
 2分以上の露光をすることはそれほど多くはありませんが、4秒以上の露光はかなりの頻度で発生します。つまり、Velvia50を使う場合はカラーバランス補正が必要になる頻度も高いということです。
 また、Velvia50の場合はマゼンタ系による色補正フィルターとされています。

 これに対応するため、マゼンタのポリエステルフィルターセットを使用しています。

 5Mから30Mまで5種類の濃度のフィルターがセットになっているものです。フィルター枠の大きさは100mmx100mmで、角型フィルターを使うときのホルダーに嵌まるサイズです。

 多少の色補正はレタッチソフトで修正できますが、やはりフィルムで撮る以上、ポジの状態でも適正なカラーバランスにしておきたいと思い、Velvia50を使うときは持ち歩くようにしています。

ケミカルライト

 フィールドタイプの大判カメラはその構造上、Uアーム(レンズスタンダード)を移動させるためのベッドがレンズよりも前にせり出しているものが多く、特に短焦点レンズを使う場合、このベッドが写り込んでしまうことがあります。WISTA 45 SPやタチハラフィルスタンド45では問題になりませんが、私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは、焦点距離が105mmのレンズでも縦位置だとベッドが写り込んでしまいます。
 カメラによって、焦点距離が概ね何ミリ以上のレンズであれば写り込みはないという自分なりの目安はありますが、それはカメラをニュートラル状態で使ったときの話しであって、アオリを使えばその基準は崩れてしまいます。

 ベッドが写り込まないよう、短焦点レンズを使うときは特に注意をしながらフレーミングや構図決めを行ないますが、夜景の撮影であったり、被写体が黒っぽいものであったりすると、ベッドの写り込みに気づかずにシャッターを切ってしまうこともあります。そうなると、大判で最も小さな4×5判であっても、リバーサルフィルムを使っていると千数百円(現像代含む)が飛んで行ってしまいます。

 このミスを防ぐため、夜景や暗い被写体の撮影の際にはベッドの先端にケミカルライトを着けるようにしています。

 これは本来、釣りに使うものです。2~3ヵ所をパキッと折ると緑色に発光し、約10時間くらい発光し続けます。光は蛍光色でかなり明るいです。サイズはいろいろあるのですが、私が使っているのは長さが37mm、直径が4.5mmという比較的小さなものです。価格は10本で400円ほどです。

 発光させたケミカルライトを、長さ50mmほどに切った黒いストローの中に入れます。ストローの中央にはキリで小さな穴を開けておきます。

 これを大判カメラのベッドの先端に貼りつければOKです。貼りつけは両面テープでも何でも良いのですが、私は「ひっつき虫」という粘土のようなものを使っています。つけたりとったりが何度でもできるので便利です。

 この状態で構図決めを行なうわけですが、もしベッドが写り込むとフォーカシングスクリーンの上部に緑色の光が見えるのですぐにわかります。
 10時間以上も発光し続けるので、一日の撮影でも1本あれば間に合います。数十円で高価なフィルムが無駄になるのを防げるのであれば安いものです。

マスキングテープ、ハーネステープ

 これは特に用途が決まっているわけではなく、持ち歩いていると何かと便利といった類のものです。どちらも手で簡単に切れますし、剥がしても痕が残りません。

 私がこれらをどのように使っているかというと、

  ・シートフィルムホルダーの引き蓋が抜けないようにとめておく
  ・長いケーブルレリーズ使用時、写り込まないようにカメラや三脚などにとめておく
  ・角型フィルターの隙間からの光線漏れを塞ぐ
  ・野草撮影の時、邪魔になる草や枝をまとめておく
  ・夜景撮影のため、明るいときにピントを合わせた位置をマーキングしておく

 といったようなところです。

 過去には、指を切ってしまったときに傷口にティッシュペーパーをあてて、その上からマスキングテープを巻いて包帯代わりにしたなんていうこともありました。
 とにかく持っていると重宝します。

折り畳み椅子

 大判カメラに限って必要というわけではありませんが、特に大判カメラの場合、じっくり腰を落ち着けて撮ることが多く、そんなときに椅子があると楽ちんです。レジャーシートなどを地面に広げて、そこに腰を下ろしても良いのですが、やはり椅子の方が何かと便利です。
 私は出来るだけ軽いものをということで、かろうじてお尻が乗るくらいの小さなものを持ち歩いています。長時間座るのには向いていませんが、地面に座るよりはずっと楽です。

 ただし、他の小物に比べると大きいので荷物になります。荷物の少ない方をとるか、多少荷物が増えても待機時の体の負担軽減をとるか、といったところでしょうか。

 いちばん自由度が高いのはレジャーシートだと思い、常時持ち歩いているのですが、立ったり座ったりが結構しんどいので、レジャーシートはもっぱら荷物置き用として使っています。

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 あれば便利というものはなかなかキリがなくて、撮影対象が異なればその内容も変わるでしょうし、年齢を重ねることで変わってくるものあると思います。しかし、持てる量には自ずと限りがあるので、荷物にならず手間もいらず、という小道具がいちばんありがたいです。

 また、今回は色補正フィルターについても触れましたが、その他にもカメラバッグには何種類かのフィルターが入っています。しかし、それらのフィルターは大判カメラに限ったものではないので言及しませんでしたが、フィルターについては別の機会にあらためて書いてみたいと思います。

(2022.10.18)

#撮影小道具 #ストーンバッグ #ケミカルライト #色補正フィルター

大判カメラでバレルレンズとソロントンシャッターを使う

 前回、ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズについて書いた中で、ソロントンシャッターについて触れましたので、今回はそれについて書きたいと思います。

 バレルレンズに代表されるような、シャッターが組み込まれていないレンズを用いて大判カメラで撮影を行なう場合、何らかの方法でシャッター機能を実現しなければなりません。秒単位の露光であればレンズキャップを外したり着けたりという方法で対応できますが、何分の一秒という短い露光が必要になると、人間の感覚と動作では無理があります。
 そんな問題を解決すべく、1890年頃にソロントン・ピッカード社によって開発されたのがソロントンシャッターだそうです。
 いまではその存在を目にする機会も非常にまれになってしまいましたが、バレルレンズを使うときは活躍をしてくれます。

ソロントンシャッターの仕組みと操作方法

 ソロントンシャッターというのは固有名詞というか製品名で、一般的にはローラーブラインドシャッターという分類に入るようです。
 私は今から17~8年前、初めて中古のバレルレンズを手に入れました。その後、シャッターを何とかしなければならないということで、ハンザ社製のソロントンシャッターを購入しました。記憶が定かではないのですが、当時は製品カタログにも掲載されている現行品であったような気がします。ですが、使う頻度もそれほど高くないだろうということで、私は中古品を購入しました。当時は中古カメラ店のジャンク箱の中にゴロゴロと入っていたのを憶えています。

 ソロントンシャッターは、使用するレンズによっていろいろな大きさが用意されているようですが、私が購入したのはレンズをはめる開口部の直径が83mmのものです。中程度の大きさだったと思います。このサイズを選んだのは、開口部が83mmあれば、4×5判で使うレンズのほとんどに対応できるだろうとの理由です。
 外枠は木製で、それはもう手作り感満載の製品です。

 このシャッターの仕組み自体は比較的シンプルです(下の図を参照)。

 長さが約30cmで、中央部分が窓(開口)になっているシャッター膜がドラムに巻き付けられています。ドラム内にはバネがあり、シャッター膜を巻き取り軸に巻き取るとこのバネが引っ張られ、シャッターがチャージされた状態になります。
 この状態で、巻き取り軸のロックを解除すると、バネの力でシャッター膜が走り、再びドラム側に巻き取られるという仕組みです。

 このシャッターの使い方ですが、まず、シャッター膜の巻き上げレバーを回して、シャッター膜の巻き上げを行ないます(上図の青い矢印)。
 このレバーは180度(半回転)回すと後膜が巻き上げられ、開口部が出た状態でロックされます。さらに半回転回すと先膜が巻き上げられ、同様にロックされます。つまり、2ストロークの巻き上げ操作になりますが、これでチャージ完了です。

 この状態でシャッターレバー(上図の赤い矢印)を持ち上げると、ロックが解除され、シャッター膜がドラム側に巻き取られていきます。シャッターレバーのところにはケーブルレリーズを取付けるネジ穴があり、実際にはここにレリーズを取付けてリリース操作、すなわち、シャッターを切る操作を行ないます。

 シャッター速度は上図の黄色の黄色い矢印のついたダイヤルで行ないます。
 私の持っているシャッターの場合、設定できる速度は1/15、1/30、1/45、1/60、1/75、1/90秒の6通りです。
 このダイヤルがついている面の反対側に、シャッター速度を示す目盛り板がついています。

 シャッター速度設定ダイヤルを回すと、ドラムのバネにテンションがかかるようになっていて、バネの引っ張る力が強まり、シャッター速度が上がるという仕組みのようです。
 しかしながら、その精度はあまり高いとは思えません。
 実際にシャッターを切ってみると、ガラガラというような音を立ててシャッター膜が巻き取られていき、開口部が通り過ぎる際には向こう側の景色がしっかりと見えます。その動きは何とも長閑で、ほほえましささえ感じられます。

 では、実際にどれくらいの速度で動いているのか、今さらながらではありますが、シャッター速度を計測してみました。
 その結果は以下の通りです。いずれも3回の計測値と平均値です。

  1/15 : 1/14.7 1/16.3 1/15.4  平均 1/15.4
  1/30 : 1/21.4 1/21.8 1/23.1  平均 1/22.1
  1/60 : 1/28.7 1/27.2 1/28.3  平均 1/28.1
  1/90 : 1/37.8 1/37.1 1/36.4  平均 1/37.1

 この結果から分かるように、1/15秒ではほぼ基準値、1/30秒では基準値の約1.35倍、1/60秒では約2倍、1/90秒では約2.5倍の露出がかかっていることになります。
 一方、ばらつきはそれほど大きくありません。

 はなから高い精度が出ることは期待していませんでしたが、まぁ、こんなものかという感じです。
 今まで、撮影の際には1/15秒と1/60秒しか使わず、経験値から1/60秒では-1段の補正をしていましたので、概ね、適正露出での撮影ができていました。

 なお、シャッター速度を変更する場合は、ドラムに掛けたテンションをいったん解除し、1/15秒のポジションに戻してから、再度、所定の位置までダイヤルを回すという手順をとった方が良いようです。

 また、このシャッターにはバルブ機能がついていて、上の図の緑矢印のレバーを動かす(図では下方向)と、巻き上げレバーが戻るときに180度回転したところで爪に引っかかり、シャッター膜の開口部が出た状態で止まります。つまり、露光状態になります。
 この状態で再度シャッターを切る操作をすると、この爪が外れてシャッターが閉じられる仕組みです。バルブというよりは、今のレンズで言うところのT(タイム)ポジションのような動きをします。

バレルレンズへの取付け

 さて、撮影するためにはレンズにシャッターを取付けなければなりませんが、レンズの鏡胴の外径と、シャッターの開口部の内径がぴったりと合うわけではないので、私は取付け用のアダプタを自作して、それで取付けをしています。
 使わなくなったフィルターの枠だけを利用し、バレルレンズの鏡胴にピッタリと嵌まるリングと、ソロントンシャッターの開口部にピッタリと入るリングを作成し、これらをステップアップリングで結合しています。

 上の写真で、レンズの上部に嵌めてある黒いリングが自作のアダプタです。
 シャッターの開口部にはめ込むリングは一つで済みますが、レンズの鏡胴に嵌めるリングは、使うレンズに合わせて複数個必要になります。

 これを大判カメラに取付けるとこんな感じになります。

 レンズの前側に箱がついて、何とも不格好ではありますが、昔の写真館のような雰囲気があります。上の写真ではWISTA 45に取付けていますが、本当は昔の木製カメラの方がしっくりくると思います。
 カメラとシャッターをこのような位置関係で縦長の状態で取り付けると、シャッター膜が上から下に向って走るようになります。ドラムのバネにかかる負荷を出来るだけ軽くしようと思って縦位置で使用していますが、横位置で使っている方もおられ、本当はどれが正しい使い方なのか私もよくわかりません。

 また、大判フィルムで撮影するときは、フィルムホルダーの引き蓋を引く前にシャッターをチャージしておかないと、フィルムが露光してしまいますので注意が必要です。

NDフィルターの取付け

 バレルレンズでシャッターが使えるようになるとはいえ、上でも書いたようにシャッター速度の精度が良くないので、実際に私が使っているシャッター速度は1/15と1/60秒くらいです。1/60秒は露出補正が必要ですが、2倍なので補正し易く、実用に耐えるといったところです。
 シャッター速度を変えるよりも、シャッター速度は固定にしたままで、レンズの絞りで対応する方が現実的な気がします。その方が露出の失敗も少なくて済むのではないかと思います。

 しかしながら、あまり絞りたくないという場合もあります。特にソフトフォーカスレンズの場合は絞り込んでしまうとソフト効果がなくなってしまうので、どうしても絞りを開いておく必要があります。

 そこで、NDフィルターで露出補正ができるよう、ソロントンシャッターの前側開口部にフィルターを装着できるようにしてあります。

 これも使わなくなったフィルターの枠だけを利用しています。使用しているのは82mm径のフィルター枠ですが、ソロントンシャッターの前側開口部の方がフィルター枠より少し大きいので、フィルター枠のネジの部分にプラバンを巻き付けて、前側開口部にピッタリと嵌まるようにしています。
 ここにNDフィルターを装着すれば露出補正ができます。ただし、何種類かのNDフィルターが必要になりますが、最近、よく見かけるようになった可変NDフィルターがあれば1枚で済みます。

 私はガラスを外してフィルター枠だけを使いましたが、無色のフィルターなどをそのままつければシャッター膜の保護にもなると思います。ですが、重くなるのであまりお勧めではありません。

 また、フィルター取付け枠があるとNDフィルター以外のフィルターを装着することもできるので、それなりに便利です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 私が使っているソロントンシャッターがいつ頃に作られたものかわかりませんが、今のところ、シャッター膜もしっかりしているし、精度はともかく、使える状態です。
 ですが、私がこれを持ち出すのは1年に数回ほどしかありません。バレルレンズ自体を使うことがまれなのですが、もともと手間のかかる大判カメラでの撮影に輪をかけて手間がかかってしまうことも理由の一つです。
 また、とりあえず撮影ができる状態ではありますが、1枚何百円もするシートフィルムを入れているときに、シャッター膜が走るガラガラというような音を聞くと、本当に撮影できているのかと不安になることがあります。

 しかしながら、シンプルな構造とはいえ実によく考えられていて、最初にこのシャッターを作った人を尊敬します。

(2022.10.8)

#ソロントンシャッター #バレルレンズ #ウイスタ45 #WISTA45

ローデンシュトック Roden stock のソフトフォーカス バレルレンズ 220mm 1:4

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズというとイマゴン Imagon が有名ですが、このレンズはそれよりもずっと前に作られたレンズのようです。詳しいデータがわからないのですが、その形状からして100年くらい前のものと思われます。
 このレンズは半年ほど前、偶然入った中古カメラ屋さんで見つけたものです。レンズは汚れがひどかったのですがカビはなさそうでしたし、何よりも珍しいレンズだったので購入してみました。
 私は、いわゆるオールドレンズというものにはあまり詳しくなく、このレンズで撮影する機会も少ないのですが、そんな中から何枚かをご紹介したいと思います。

 なお、レンズに関する記述で間違っているところがあるかも知れませんので、予めご承知おきください。

このレンズの仕様

 いわゆるバレルレンズという部類に入るレンズで、大きな口径のレンズと全身金属製(たぶん真鍮製)のため、ズシッと重いレンズです。レンズボード込みで554g、レンズボードを外しても524g(いずれも実測値)あります。
 鏡胴の直径が65mm、全長は70.5mm(いずれも実測値)で、まさにバレルレンズと呼ぶにふさわしい寸胴型をしています。外観は軟焦点レンズで有名なウォーレンサックのベリートによく似ています。
 レンズ前玉の化粧リングには「G.Roden stock Munchen Soft Focus lens 1:4 220mm」と刻印されています。

 写真ではレンズボードに取付けられた状態ですが、購入時はレンズのみだったので、手元にあった使っていないリンホフ規格のレンズボードを加工して取り付けました。
 全体に黒色の塗装がされていてあちこち塗料のハゲなどがありますが、外観はまずまずといったところです。

 レンズ構成ですが、前玉はたぶん1枚と思われます。分解しようと思い前玉のユニットを外しましたが、レンズを押さえているリングが固着しているのか、全く動きません。レンズ周辺部の厚みを測ったところ、約2mmでしたので、複数レンズの張り合わせはしてないだろうと思います。
 後玉は2枚構成です。こちらは分解できたので確認できました。
 つまり、メニスカス型のレンズが絞りを挟んで互いに向かい合った形をした、2群3枚構成のレンズです。

 絞りは開放がF4、最小がF36で、その間の指標はF6.3、F9、F12.5、F18、F25となっており、なかなか馴染みのない数値が刻まれています。なぜこのような指標になっているのかは不明ですが、最小絞りのF36を基準に1段ずつ開いた数値を用いているのではないかと思われます。

 絞り羽根は18枚で、最小絞りまで絞り込んでも円形を保っています。
 絞りリングも適度な重さがあり、古いレンズにありがちな妙に硬いとか、途中でカクッと軽くなってしまうようなこともなく、スムーズに動いてくれます。

 レンズはかなり汚れていましたが、清掃したところ、とても綺麗になりました。
 100年ほど前のレンズだとするとコーティングはされていないと思われるので、最近のレンズのように深い紫色ではなく、まさに無色透明といった感じのレンズです。

このレンズで撮影するための必要機材

 バレルレンズには絞りがついていますが、シャッターやピント合わせのためのヘリコイドはついていません。そのため、このレンズを使って撮影するためには、シャッターとヘリコイドを別途用意しなければなりません。
 いろいろな方法は考えられますが、

  1) アダプタを介して、中判カメラや35mm判カメラにレンズを取付ける
  2) 大判カメラを使い、シャッターをレンズに取付ける

 というのが容易に思いつく方法です。

 最初の中判カメラや35mm判カメラに取付けるためのアダプタですが、たぶん、一般的に市販されているマウントアダプタの中にはないと思われるので、自作ということになります。
 そして、もう一つ必要なのがピント合わせ用のヘリコイドの機能を代用するものです。
 短めのベローズ等があれば比較的簡単かもしれませんが、多くのベローズは接写用のため、無限遠が出ないという状況になってしまう可能性があります。そのため、多少の工夫と工作が必要ですが、実現できれば中判カメラでもデジタルカメラでも使えるので便利だと思います。

 二つ目の大判カメラを使う方法ですが、こちらはもっと簡単で、レンズをレンズボードに取付けさえすれば、ピント合わせはカメラ側で行なうことができます。
 問題はシャッターですが、大判カメラにはシャッター機能がありませんので、ソロントンシャッターやメカニカルシャッターなどをレンズの前に装着する必要があります。
 あとは大判フィルムで撮るも良し、アダプタを介して中判カメラや35mm判カメラで撮るも良しといったところで、最も自由度は高いと思います。

 私はバレルレンズを数本所有していますが、いずれも二つ目の大判カメラを用いた方法で撮影をしています。

 なお、バレルレンズを使った撮影やソロントンシャッターについては別の機会にご紹介したいと思います。

100年前のレンズの写り

 今回ご紹介する写真撮影に使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、およびウイスタ45 SPです。また、いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っていますが、大判フィルムで撮ったものと中判フィルムで撮ったものがあります。

 まず最初の写真は、今年の春に近所の公園で撮影した染井吉野桜です。

▲染井吉野桜 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 このレンズを購入してから最初に撮影した写真ですが、素晴らしい写りに驚きました。
 正直なところ、あまり期待はしていなかったのですが、芯がしっかりと残っており、その周囲にふわっとしたフレアがかかり、何とも味わいのある描写になっています。フレアがかかっているというよりはフレアをまとっているといった方がぴったりするくらい、立体感があります。
 国産のソフトフォーカスレンズはフレアが大きく出過ぎたり、ソフトフォーカスフィルターで撮影したように平面的であったりするものが多いのですが、このレンズはフレアも大きすぎず、被写体とフレアが一体になっているという感じがします。ちなみに、この写真は絞り開放(F4)で撮影しています。

 また、色の出方も自然で、素直な写りをするレンズという印象です。今のレンズと比べると地味な色の出方かも知れませんが、ソフトフォーカスには向いているようにも感じます。

 掲載した写真ではよくわかりませんが、ポジをルーペで見てみると、色収差の影響が残っているように感じます。しかし、写真全体の質感を損ねるほどではなく、カラーリバーサルで撮影しても問題になるようなレベルではないと思います。

 同じ位置から絞りF8で撮影したのが下の写真です。

▲染井吉野桜 : F8 1/125 PROVIA100F(中判)

 F8まで絞るとフレアはほとんど感じられず、非常に鮮明な画像が得られています。発色もボケ方もとても綺麗だと思いますし、トップライトに近い順光状態での撮影ですが平面的にならずに立体感もあります。ただし、解像度は若干低めという感じがします。

 次の写真はピンク色の梅を撮影したものです。

▲梅 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 梅の花と幹や枝とのコントラストが大きく、このような状況では梅の花のフレアが必要以上に大きくなってしまうレンズが多いのですが、このレンズは大きく出過ぎず、花の周りにフレアがまとわりついているかのようです。
 周辺部になると画質の低下が少し感じられますが、極端に悪くなるというわけではなく、フレアの出方も比較的綺麗な状態を保っています。

 上の梅の写真よりもコントイラストが低めの被写体ということで、春先の小川の風景を撮ったのが下の写真です。

▲野川公園 : F4 1/30 ND8使用 PROVIA100F(中判)

 午前中の撮影で、日差しはあるものの特に強いというわけではなく、全体的にコントラストは低めの状態です。際立って明るい部分はないので、フレアは全体にまんべんなくかかっているという感じです。
 遠景というほどではないにしても、これだけ引いた状態だと若干低めの解像度が目立ってきますが、かえってそれがふわっとした印象になっているかも知れません。好みの問題もありますが、レトロな感じの仕上がりになっているように思います。
 この写真も絞り開放での撮影ですが過度なフレアは感じられず、個人的には好ましい描写だと思います。

 さて、逆に強いハイライト部がある被写体ということで、日差しに輝く川面を撮影してみました。

▲奥入瀬川 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 ここは青森県の奥入瀬川、焼山付近で撮影したものです。晴天の午後1時ごろ、太陽が天中近くにある状態ですが、撮影位置は日陰になっている木の下になります。覆いかぶさっている木は陰になっていますが、川面は強く輝いており、非常にコントラストの高い状態です。
 ハイライト部分はもっとフレアが強く出ると思っていたのですが、想像していたよりはずっと控えめで、川面の状況もよくわかります。また、陰になっている木の枝もつぶれることなく、表現されています。
 一方、川面の波の部分などを見ると、色収差が出ているのがわかります。

 このような状況を普通のレンズで撮影すると硬い感じになってしまいますが、軟らかな感じに仕上がるのがソフトフォーカスレンズならではです。

 もう一枚、下の写真は彼岸花が咲く秋の風景を撮ったものです。

▲彼岸花の里 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 実った稲穂と赤い彼岸花がとても絵になる風景で、小さな祠が祀られている田圃の畦道は日本の原風景といった感じです。
 逆光気味の状態でしたが、薄雲がかかってコントラストが少し下がったときに撮りました。全体にフレアが均一にかかっており、稲穂や木の葉の先端の滲みがとても綺麗だと思います。
 撮影場所から祠までの距離は20~30mほど、背景もそれとわかるくらいのボケ方なので、この場の状況が良くわかる描写だと思います。

 このレンズに限らずソフトフォーカスレンズでピント合わせをする場合は、絞り開放ではなく、少し絞り込んだ状態で行なわないとピントがずれたようになってしまいます。意図的にピントをずらせて軟らかさを強調する場合もありますが、やはり芯がしっかりしている方が見ていて気持ちが良いと思います。

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 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズで、イマゴンよりも昔のレンズというのは知らなかったのですが、今回、初めて使ってみて、味わいのある描写にちょっと感動しました。
 もちろん、最近のレンズと比べると解像度などは低めですが、最近のソフトフォーカスレンズとはちょっと異質の感じがします。色収差を取り切れなかったのか、それとも、敢えて残しておいたのかはわかりませんが、もしかしたらそれが影響しているのかも知れません。

 バレルレンズを持ち出すと撮影に時間がかかるのが難点ですが、新しいレンズと違ってそれぞれの特徴が良くわかるのがバレルレンズの面白さとも言えます。

(2022.10.3)

#Rodenstock #ローデンシュトック #ソフトフォーカス #バレルレンズ #Linhof_MasterTechnika #レンズ描写

いつもと違うカメラを使えば、いつもとは違った写真が撮れる? 9割の錯覚と1割の真実

 最初にお断りをしておきます。この内容はまったくもって私の個人的な主観であって、これっぽちの客観性もないことをあらかじめご承知おきください。
 また、本文の中で、「写りの違い」とか、「写真の違い」というような表現がたくさん出てきますが、「写りの違い」というのはレンズやフィルムによって解像度やコントラスト、色の階調等の違いのことで、使用する機材によって物理的に異なることを指しています。
 一方、「写真の違い」というのは、機材に関係なく、どのような意図で撮ったとか、その写真を通じて何を伝えたかったのかということであり、抽象的なことですが、このタイトルの「いつもとは違った写真」というのは、これを指しています。

 私が撮影対象としている被写体は自然風景が圧倒的に多く、使用するカメラは大判、もしくは中判のフィルムカメラです。大判カメラも中判カメラもそれぞれ複数台を持っていますが、いちばん出番の多いカメラ、すなわち、メインで使っているカメラはほぼ決まっていて、大判だとリンホフマスターテヒニカ45、中判だとPENTAX67Ⅱといった具合です。
 フィルムカメラというのは、特に大判の場合、カメラが変わったところで写りが変わるものではありません。中判カメラや35mm一眼レフカメラで、シャッター速度設定をカメラ側で行なう場合はそれによる影響がありますが、同じレンズを使い、シャッター速度を同じにすれば違いは出ないと思われます。

 また、大判カメラであちこちにガタが来ていてピントが合わないというような場合は論外として、普通に問題なく使用できる状態であれば、リンホフで撮ろうがウイスタで撮ろうが、レンズが同じであれば同じように写り、撮影後の写真を見て使用したカメラを判断することは困難です。大判カメラの特徴であるアオリの度合いによって多少の違いは生まれますが、写真を見てカメラを特定できるほどではないと思います。

 一方、大判カメラも中判カメラも複数のフィルムフォーマット用が存在しており、フィルムフォーマットが異なれば同じポジションから同じようなフレーミングや構図で撮っても、出来上がった写真のイメージはずいぶん異なります。撮影意図によってフォーマットを使い分けることがあるので、フォーマットの異なるカメラを複数台持つことはそれなりに意味があることだと思います。

 しかし、同じフィルムフォーマットのカメラを複数台持っていたところで、カメラによって写りが変わるわけではないのは上に書いた通りです。にもかかわらず、なぜ複数台のカメラを持つのでしょうか?
 私の場合、中判(67判)のPENTAX67シリーズを3台、4×5判の大判カメラを4台持っています。
 PENTAX6x7も67も67Ⅱもレンズは共通で使えるし、細かな操作性の違いはあるものの、ほぼ同じ感覚で使うことができます。大判カメラについても然りです。

 現在、私の手元にあって現役として活躍している大判カメラは、リンホフが2台、ウイスタとタチハラがそれぞれ1台です。過去にはナガオカやホースマン、スピードグラフィクスなども使っていたことがありますが、手放してしまいました。
 現役の4台のカメラはいずれもフィールドタイプなので、操作性に多少の違いはあるものの、蛇腹の先端にレンズをつけて、後端にあるフォーカシングスクリーンでピントを合わせるというのは共通しています。当然、どのカメラを使っても写りに違いはありません。

 ということを十分に承知をしていながら、私の場合、メインで使っているカメラはリンホフマスターテヒニカ45(リンホフMT-45)で、撮影に行くときに携行する頻度がいちばん高いカメラです。
 なぜ、このカメラをメインで使っているかというと、いちばん長く使っていることもあって使い慣れているということが大きいと思います。加えて、カメラ全体がとてもスマートでありながら作りがしっかりとしていて、まるで、シュッと引き締まった鍛え抜かれたアスリートのような感じがして、そのフォルムの美しさに魅了されているというのも理由の一つかも知れません。
 どのカメラでも同じとはいいながらリンホフMT-45を多用するのは、一言でいえば、どこに持ち出しても安心して使うことのできる、信頼性の高いオールマイティー的な存在だからと言えます。

 リンホフのもう1台のカメラ、リンホフマスターテヒニカ2000(リンホフMT-2000)は、リンホフMT-45に非常によく似ていて、細かな改良は施されていますが使い勝手などもほぼ同じカメラです。唯一、大きな違いは、カメラ本体内にレンズを駆動する機構が組み込まれていて、短焦点レンズが使い易くなったという点です。
 MT-45とほぼ同じ感覚で使うことができるのですが、デザイン的にも洗練されているところがあり、私からするとちょっとお高く留まった優等生といった感じがします。「つまらない駄作を撮るために私を持ち出すんじゃないわよ!」と言われているようで、リンホフが2台並んでいても、普段使いの時は自然とMT-45に手が伸びてしまいます。
 ただし、絶対に失敗したくない撮影とか、ここ一番というような、妙に気合を入れて撮りに行くときなどはMT-2000を手にしてしまいます。MT-45なら失敗が許されるのかというと、そういうわけではないのですが、MT-2000を持ち出すと、撮影に対する意気込みのようなものが違う気がします。まるで勝負パンツのようなカメラです。

 さて、3台目は国産の金属製フィールドカメラ、ウイスタ45 SPですが、リンホフマスターテヒニカにどこか似ている気がしていて、リンホフと同じような感覚で操作することができます。しかし、細かいところの使い勝手などに工夫がされていて、日本製らしさが漂っているカメラです。慣れの問題もありますが、使い易さはウイスタ45 SPの方が勝っているかも知れません。
 リンホフマスターテヒニカに似てはいますが、リンホフのような洗練されたスマートさには及ばないところがあり、リンホフがシュッと引き締まった現役のアスリートだとすると、ウイスタ45 SPは現役を引退して、体のあちこちにお肉がついてきてしまった元アスリートといった感じです(実際のところ、リンホフよりも少し重いです)。しかし、そのぽっちゃり感というか無骨な感じに親近感が湧き、どことなく愛嬌のあるカメラです。
 あまり気張ることなく、気軽に大判カメラに向えると言ったらよいかも知れません。ミリミリと追い込んでいくというよりも、歩きながら気になった景色があったら撮ってみる、というような時などに持ち出すことの多いカメラです。

 そして、私が持っている現役の大判カメラの4台目、タチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は木製のフィールドタイプのカメラです。1980年代半ば頃に製造されたのではないかと思われ、40年近く経過しているので、それなりに古いカメラです。レンズを左右に移動するシフト機能がないくらいで、リンホフやウイスタと比べても機能的にはまったく遜色のないカメラです。北海道にしか自生していないといわれる朱里桜という木を用いて作られているらしく、材料の調達からカメラの完成まで4年以上かかるそうです。
 タチハラに限らず木製カメラに共通して言えるのは、木のぬくもりが感じられることです。職人さんの魂が宿っているようにさえ感じてしまいます。
 だからというわけでもないのでしょうが、このカメラを持ち出すときは、どことなく懐かしい感じのする風景を撮りたいときです。きれいな風景というのは結構たくさんありますが、懐かしさを感じる風景というのは比較的少ないのではないかと思い、そんな風景に似合うカメラはこれじゃないか、という感じです。

 このように、4台の大判カメラを持っているのですが、カメラに対する想いとか、カメラに対して抱いている自分なりのイメージというものがあり、それなりに使い分けているところがあります。ただし、それらは私個人が勝手に思い描いているものであり、最初からそのような使命をもってカメラが作られたわけではないというのは言うまでもありません。
 そして、もちろん懐かしさの感じる風景をリンホフで撮れないわけでもなく、ここ一番という写真をウイスタやタチハラで撮れないわけではありません。どのカメラを使おうが、同じレンズであれば同じように写るので、自分がカメラに対して抱いている想いと出来上がった写真とが一致しているか、そういったことが写真から感じられるかというと、実際のところほとんどそんなことはありません。
 すなわち、カメラを変えても写りに違いはないのと同じで、カメラを変えれば写真表現にも変化があるのではないかと思うのは、9割以上は自分の思い過ごし、自己満足、錯覚であろうということです。

 自分で撮影した写真のポジを見れば、どのカメラで撮ったのか大体はわかります。わかるというのは写真からそれが伝わってくるということではなく、使ったカメラを覚えているからというのが理由です。ですが、中にはどのカメラで撮影したかを忘れてしまっているものもあり、それらについては撮影記録を見ないとわかりません。
 つまり、そのポジを見ただけで使用したカメラがわかるわけではないということからも、多くは思い過ごしや錯覚であることが裏付けられています。

 しかしながら、残りの1割、もしくはそれ以下かも知れませんが、カメラを変えることで撮影時の気持ちや意気込み、あるいは画の作り方に違いがあることも事実です。カメラを変えたところで、そうそう写真が変わるわけでもないと言いながら、カメラによって気持ちが変わるという、なんとも矛盾した精神状態です。
 高いフィルムを使っているのだから、常にここ一番という気持ちで、勝負パンツのようなリンホフMT-2000を常用すれば、どんなシチュエーションにも対応できるじゃないかというのも一理ありますが、多分、常にMT-2000だけを使っていると、ここ一番という気持ちが薄れていってしまうのではないかという気がします。勝負パンツは毎日履かないからこそ意味があるのと一緒かも知れません。
 ミリミリと追い込んだ写真というのは気持ちの良いものですが、若干のスキのある写真というのも見ていてホッとするところがあり、一概に良し悪しをつけられるような性質のものではありません。

 いつもと違うカメラで撮ってみたところで、それが写真にどの程度の影響が出るのかわかりませんが、撮影するときの気持ちのありようというのは大事なことだと思います。もちろん、カメラを変えなくても気持ちのありようを変えることはできるかも知れませんし、何台ものカメラを持つことの大義名分を無理矢理こじつけているだけかも知れません。ですが、機材によって被写体に向かう気持ちに変化があるのであれば、何台ものカメラを持つことも、あながち無意味と言い切ることもできないのではないかと思うのであります。

 自動車の場合、自分の運転技術は変わらないのに、パワーのある車や走行性能に優れている車に乗ると、あたかも自分の運転がうまくなったように錯覚することがあります。自動車は性能そのものが走行に直結しますが、フィルムカメラ、特に大判カメラは機能や性能が優れていても写真そのものには直接的に影響しないので、自動車の場合とは少し事情が違います。
 しかし、同じ風景であってもカメラを変えれば撮り方が変わる、その感覚の9割以上が錯覚であっても、そんな中から何か自分なりの新しい発見があれば、それはとても新鮮な出来事に感じられると思います。

 つらつらと他愛のないことを書いていると、今まで使ったことのないカメラが欲しくなってきました...

(2022.9.4)

#リンホフマスターテヒニカ #ウイスタ45 #Linhof_MasterTechnika #WISTA45 #タチハラフィルスタンド

大判カメラで、動く被写体をブラさずに撮るために必要なシャッター速度

 大判カメラ用のレンズの開放F値は概して、35mm判カメラ用のレンズほど明るくはありません。概ね、F5.6というのが多く、焦点距離が長いレンズだとF8、あるいはそれ以上の値になってしまいます。
 また、フィルムのISO感度も一般的に常用されるのはISO100~400といったところで、カラーリバーサルフィルムにおいては、現行品として手に入るのはISO50とISO100だけです。
 このため、撮影時に高速シャッター(高速と言っても一般的な大判レンズの場合、1/500秒が最高速ですが)を切ることは多くはなく、低速シャッターを使う頻度の方がはるかに高いと思います。したがって、動いている被写体を止めて写すのはあまり得意ではありません。
 今回、風景写真における動く被写体を例に、どれくらいのシャッター速度を使えば止めることができるのかを検証してみました。

被写体ブレの定義

 写真撮影において、シャッターが開いている間に被写体が動けば被写体ブレとして写ってしまうわけですが、では、どれくらい動けば被写体ブレというかは明確に定義されているわけでもなさそうですし、そもそも、条件によってもブレの度合いは千差万別といえると思います。肉眼では全く動いていないように見えても、ポジやネガをルーペで見たり、あるいはパソコン上で等倍まで拡大してみれば被写体ブレを起こしていることは十分にありうるわけですが、それを論じてもあまり意味があるとは思えません。
 写真をどのような状態で見るかによって、被写体ブレの尺度も自ずと変わってきますので、何か基準を決める必要があります。

 被写体にピントが合っているか、合っていないかの基準に使われる「許容錯乱円」というものがあります。これを被写体ブレに適用できないかとも考えましたが、許容錯乱円は撮像(フィルム)面上での話しであり、ポジをルーペで見るとき以外にはあまり適切とは思えません。
 そこで、ここでは写真をプリントして、それを肉眼で見た時に被写体ブレが認識できるかどうかを基準にしてみることにします。
 最近は写真をプリントして観賞するということが昔に比べて減っているとは思うのですが、ルーペやパソコンを使うことなく人間の眼だけで判断できるので、いちばんわかり易いのではないかと思います。

 写真を全紙大(457mmx560mm)に引き伸ばし、これを1.5m離れたところから観賞する状態を想定します。
 人間の眼の分解能はおよそ1/120°(約0.5分)が限界と言われており、視力が1.0だとその半分ほどの1/60°程度らしいです。これは、1.5mの距離から0.436mm離れた二つの点を識別できるということになります。つまり、0.436mmよりも近い場合は二つの点として識別できないということです。この0.436mmを仮に「許容移動量」としておきます。
 全紙大に引き伸ばした写真上で被写体が許容移動量(0.436mm)以上動いていれば、その写真を1.5mの距離から見た時に、被写体ブレを起こしていることがわかるだろうという想定です。

 本来、被写体ブレは二つの点を認識できるかどうかというのとは意味合いが違いますが、二つの点として認識できない範囲内での被写体の動きであれば、ブレているようには見えないだろうという仮定です。

 さて、大判フィルム(4×5判)に写り込む範囲が、実際の被写体面においてどれくらいの距離(長さ)にあたるのかを計算しておく必要があります。
 これは、使用するレンズの焦点距離や、レンズから被写体までの距離によって異なります。つまり、レンズの焦点距離が短ければ広い範囲が写りますし、レンズから被写体までの距離が長いほど、やはり広い範囲が写ります。
 大判(4×5判)カメラで比較的よく使う焦点距離のレンズと、被写体までの距離ごとに、4×5判のシートフィルムに写り込む長辺の長さを算出したのが下の表です。4×5判のフィルムの長辺の長さは121mmとして計算しています。

 では、以上の条件において、被写体ブレを起こさない、言い換えると被写体ブレが認識できないシャッター速度について、いくつかのシチュエーションで検証してみます。

時速80kmで通過する電車を真横から撮影する場合

 まずは、比較的イメージし易い電車の撮影を想定してみます。

 時速80kmの等速度で右から左に向って走る電車を、真横(電車の進行方向に対して直角の位置)から撮影するとします。この時、全紙大の写真上の0.436mm(許容移動量)が、実際の被写体面においてどれくらいの移動距離(長さ)になるかを計算します。フィルムは横置きで撮影し、長辺(横)を対象とします。
 計算式は以下の通りです。

  被写体面における移動距離 = 被写体面の撮影長さ/全紙の長辺長さ*許容移動量

 上の式に、焦点距離90mmのレンズで被写体面まで50mの距離から撮影した場合の数値をあてはめてみます。
 50m先の被写体面を焦点距離90mmのレンズで撮ると、写り込む長辺方向の長さは67,222mm(上の表より)、全紙大の長辺の長さは560mm、許容移動量は0.436mmなので、

  被写体面における移動距離 = 67,222 / 560 * 0.436 = 52.3mm

 となります。

 つまり、50m先の電車が52.3mm移動するのに要する時間よりも早いシャッター速度で撮れば、見かけ上の被写体ブレは起きないことになります。
 80km/hで走っている電車が52.3mm移動するのに要する時間(秒)は、

  52.3 / (80*10⁶ / 3,600) = 0.002355秒

 これはシャッター速度に変換すると、1/425秒となります。

 実際には1/500秒ということになるので、一般的な大判レンズのシャッター速度でギリギリ撮影できる範囲です。

 レンズの焦点距離が変わればこの値も異なるのは上に書いた通りですので、代表的な焦点距離のレンズについて許容移動量を移動する所要時間と、それに対応するシャッター速度を計算したのが下の表です。被写体面までの距離は10m、20m、50m、100m、200mの5通りを対象としました。

 この表でわかるように、80km/hで移動する電車を大判カメラで被写体ブレが感じないように写し止めるには、かなり短焦点のレンズを使っても50mほどの距離が必要ということになります。

 私は鉄道写真を撮ることはあまりないのですが、数少ない中から大判カメラで撮影した写真を探してきました。それが下の写真です。

▲WISTA 45 SP FUJINON C300mm 1:8.5 F8.5 1/125 PROVIA100F

 正確なところはわからないのですが、被写体(電車)までの距離は150~200mくらいで、電車の速度は割とゆっくりで、時速60km程度ではなかったかと思います。
 使用したレンズの焦点距離は300mmなので、これらの値を上の計算式にあてはめると、

  200m先の被写体面の撮影長さ : 80,667mm
  被写体面における許容移動量 : 62.8mm
  許容移動量に要する時間  : 0.003768秒
  シャッター速度  : 1/265秒

 となります。

 実際の撮影時のシャッター速度は1/125秒ですから、計算上は被写体ブレが認識できてしまうことになります。
 残念ながらこの写真を全紙大に引き伸ばしてないので目視確認はできないのですが、ライトボックスでポジを見ると被写体ブレしているのがわかりますので、1.5m離れていても全紙大に引き伸ばせばわずかにブレが認識できると思います。
 電車の辺りを拡大したのが下の写真です。やはり、少しブレているのがわかると思います。

▲上の写真の部分拡大

流れ落ちる滝を撮影する場合

 次に、風景写真で被写体となることが多い滝の撮影の場合です。

 滝は水が同じ形をしたまま落ちるわけではないので、電車のようにあてはめることが妥当ではないかも知れませんが、とりあえず小さな水滴が形を変えずに落ちてくると仮定して進めます。
 滝の流れ落ちる速度は下に行くほど速くなり、滝つぼに落ちる直前が最も速くなるわけですが、その速度を求めるため、いくつかの前提条件を設定します。複雑な条件を設定してもあまり意味がないので、極力簡単になるようにします。

 まず、滝の最上流部(流れ落ちるところ)の流れの速度は0とします。つまり、初速度0m/sの自由落下ということです。
 また、空気抵抗や風の影響は無視し、理想的な等加速度運動と仮定します。

 このような条件下で、落差10mの滝の水が落ち口から滝つぼまで落ちるのに要する時間を求めます。
 自由落下の式は以下の通りです。

  x = 1/2・gt²

 ここで、xは変位(落差)、gは重力加速度(9.8m/s²)、tは時間です。
 この式から時間を求める式に変換すると、

  t = √(x / (1/2・g))

 となりますので、xに10m、gに9.8m/s²をあてはめて計算すると、

  t = √(10 / (9.8/2)) = 1.429秒

 つまり、10mの落差を落ちるのに1.429秒かかることになります。

 次に、1.429秒後の流れ落ちる速度vですが、以下の計算式で求めることができます。

  v = gt

 この式に重力加速度9.8m/s²と時間1.429秒をあてはめると、滝つぼ直前の速度は、

   v = 9.8 * 1.429 = 14m/s = 50.415km/h

 となります。

 これ以降は電車の場合と同じです。
 被写体面までの距離を10m、20m、50m、100m、200mの5通りで計算すると下の表のようになります。

 落差10mの滝でも、大判カメラを使って滝の流れが止っているように写すためには、50mほど離れる必要があるので、もっと大きな滝になるとさらに条件は厳しくなります。
 私も滝はよく撮りますが、滝の流れを止めるほどの高速シャッターで撮ることは多くはありません。高速で写しとめた滝は迫力があるのですが、大判カメラでは非常に条件が限られてしまいます。

回転する風力発電の風車を撮影する場合

 近年、あちこちで見かけることが多くなったものの一つに風力発電の風車があります。海岸近くや丘の上など、風が吹くところに設置されていますが、人工物でありながら妙に風景に溶け込んでいると感じています。福島県の布引高原にも時々行きますが、ここには30基以上の風車があり、とても絵になる風景だと思います。
 この風車、一生懸命働いて(発電して)いるときに近くに行くと、唸りをあげてものすごい勢いで回転しているのがわかります。
 風車は回転しているのがわかった方が写真としては良いのかも知れませんが、この風車のブレード(羽根)が止まっているように写すことを想定してみます。

 風力発電用の風車の大きさもいろいろあるようですが、布引高原に設置されている風車について調べてみたところ、ブレードの直径が71m、ブレードの回転数は6~21.5rpmとのことでした。回転数は風の強さによって異なるので、ほぼ中央値の14rpmとして、ブレードの先端を写しとめるためのシャッター速度を求めてみます。

 風車のブレードは、電車のようにまっすぐ走るのと違って回転運動をしているので、厳密には直線運動とは異なるのですが、簡単にするために直線運動と同じ扱いをします。
 直径71m(71,000mm)のブレードの先端が回転する際に描く円周の長さは、

   円周 = 71,000 * 3.14 = 222,940mm

 です。

 ブレードは1分(60秒)間に14回転するので、1秒間だと14/60=0.233回転となり、ブレードの先端が移動する弧の長さは、

  222,940 * 0.233 = 51,945mm(51.945m)

 になります。

 すなわち、ブレード先端の速度は51.945m/sで、時速に直すと187km/hという、とんでもない速さです。新幹線に匹敵する速度であり、計算間違いかと思いましたがそうでもなさそうです。

 この高速で移動しているブレードが止まっているように見えるためにはどれくらいのシャッター速度が必要か、上と同じように計算した結果が以下の表です。布引高原の風車は巨大で、ブレードの中心までの高さが64m、ブレードが真上に行った時の先端までは99.5mにもなるため、撮影距離は50mからを対象にしました。

 このように、大判カメラの場合、短焦点レンズを使い、最低でも風車から100m離れないとブレードを写し止めることはできないということになります。

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 このような面倒くさい計算を行なわなくても、例えば電車をブラさずに写す場合はこれくらいのシャッター速度ということが経験値によってわかっていることが多いと思いますが、出来上がった写真を見る条件によって、その値はずいぶん変わってしまいます。
 今回は全紙大にプリントしたものを1.5m離れたところから観賞するという前提でしたが、もっと小さなサイズ、例えば四つ切の場合だと、許容されるシャッター速度は半分近く(正確には54.5%)まで遅くすることができます。
 一般的な大判カメラ用のレンズのシャッター速度は最高でも1/500秒ですから、高速で動く被写体を写すのはいかに苦手かということがわかります。

(2022.8.17)

#シャッター速度 #WISTA45 #ウイスタ45