なぜフィルム写真に心がときめくのか? 不思議な魅力を持ったフィルムという存在

 写真フィルムの出荷量がピークだったと言われている西暦2000年から23年が経過し、その量は1/100にまで減少したというデータもあるようですが正確なところは良くわかりません。しかし、減少していることは間違いのないことだと思われ、フィルム価格の相次ぐ値上げや製品の生産終了などを受け、フィルム写真を断念してしまう人も多いという話しも聞きます。ネット上のいろいろなサイトを拝見すると、いまどきフィルム写真をやるなんて何の意味があるのかとか、愚の骨頂とか書かれている記事もたくさんありますが、私はいまだにフィルム写真をやめられずにいます。今の時代からすると化石のような存在かも知れません。
 デジタルカメラやデジタル写真の進歩にはすさまじいものがありますが、フィルム写真と比較するようなものでもないし、また、比較しても特段意味があるとも思えませんが、解像度や見た目の綺麗さなどではデジタルの方がはるかに勝っていると思えることもたくさんあります。また、フィルムカメラではとても難しいとか、たぶん無理と思えるようなもの(被写体)であっても、今のデジタルカメラであれば容易に写すことができるということがたくさんあります。

 私が住んでいる近くに大きな公園があり、そこにオオタカが営巣している木があります。時どき、散歩がてらその木の近くを通ることがありますが、たくさんの人がまるでバズーカ砲のようなレンズを装着したカメラを三脚に据えて、全員が同じ方向を向けて撮影をしている光景を見ることができます。
 私は野鳥を撮るようなことはありませんし、そのような機材も持ち合わせていないので、皆さんの邪魔にならないように後ろの方に立ってレンズが向いている方向の木の上に目を凝らし、肉眼でオオタカの姿を探しています。
 オオタカに限らず野鳥というのは常に我々の目の前に姿を現してくれるわけではないし、運よく飛んできても長居はしてくれないので撮影チャンスはごく短い時間に限られてしまいます。私などは鳥の姿が見えなければ10分もしないうちに飽きてしまいますが、野鳥を撮られる方は何時間でもじっとチャンスを待っています。そう考えると、野鳥撮影をする皆さんの忍耐力には頭が下がります。
 そして、待ちに待ったオオタカが姿を現すと一斉にシャッターが切られ、その音があたりに響き渡ります。しかも、1秒間に10コマ以上は切られているのではないかと思えるほどの高速連射です。
 このような写真は私が持っている半世紀も前のフィルムカメラでは絶対に撮れません。まさにデジタルカメラならではです。

 野鳥の撮影は一つの例ですが、そんなデジタルカメラの凄さや便利さを承知しながらも、私はフィルム写真から離れられずにいます。
 では、なぜフィルム写真に拘っているのかと問われても、正直なところ、うまく答えを返すことができません。それは、理由が一つではないこともありますし、言葉でうまく表現できないということもあります。

 私が使用しているフィルムの7~8割はカラーリバーサルフィルムです。リバーサルフィルムはネガフィルムと違い、現像が上がった時点で完成となります。ですので、現像後のポジをライトボックスで観賞できるわけですが、これが最高に美しいと思っています。
 昔はポジ原版から直接プリントするダイレクトプリントと呼ばれるサービスもありましたし、今はスキャナで読み込んでプリントすることも出来ます。しかし、どんなに熟練したプロの職人さんがプリントしたものであっても、ライトボックス上の透過光で見た時の美しさにはかないません。また、プリントした写真よりもポジ原版を直接見た方がはるかに立体感のある写真、そして透明感のある写真に見えます。
 私が初めてリバーサルフィルムで撮影したのは今から何十年も前のことですが、初めてポジ原版を見た時の感動は忘れることがなく、今もポジ原版を見ると胸が高鳴ります。
 実際には常にポジ原版を鑑賞しているなんていうことはなく、プリントしたものを額装しているわけですが、見ようと思えばいつでもライトボックス上でポジを鑑賞できるということは何ものにも代えがたい魅力であることは間違いありません。

 では、モノクロネガフィルムの場合はどうかというと、もちろん、リバーサル現像でもしない限りは白黒が反転したネガ原版ですから、ライトボックス上で見てもリバーサルフィルムのように完成形を見ることはできません。しかし、立体感のようなものはネガ原版であっても十分に感じられますし、白黒反転していても脳がさらにそれを反転してくれるというか、普通に肉眼で見た時と同じように感じられるから不思議です。

 そして、カラーリバーサルにしてもモノクロネガにしても、フィルムという物理的な媒体を直接見るとまるでその場にいるかのような錯覚を憶えます。臨場感というのともちょっと違うのですが、撮影した空間をそっくりそのまま持ってきたという感じです。これもプリントしたものやパソコンのモニタに映した画像では味わえない感覚です。

 フィルム写真は、デジタルカメラのように撮影したその場で出来具合を確認するということはできません。これは、デジタルカメラに慣れてしまうと何とも不便なことに思えるかもしれませんが、シャッターを切った瞬間に自分の思い描いた映像がフィルムに記録されているかと思うと、ワクワクともドキドキともつかない不思議な感覚に包まれます。常に思い通りに撮れるわけではなく、予想に反した写真になってしまうこともあるわけですが、それも含めたワクワクやドキドキだと思います。
 失敗したら高いフィルムが1枚無駄になってしまうということもありますが、何よりも、今と同じ写真は二度と撮ることができないという緊張感のようなものが高揚感となって頭を持ち上げてくるように思います。特に自然相手の風景写真の場合、明日、また同じ場所に来ても同じ写真は絶対に撮れないわけで、余計にそれが強いのかもしれません。
 デジタルカメラのように、撮ったその場で確認できればどんなに便利かと思うこともありますが、現像が上がるまでの間、出来具合をあれこれ思いめぐらす時間、焦らされるような時間があるというのもフィルムならではです。
 二度と同じ写真が撮れないのであれば、失敗してもすぐに撮り直しのきくデジタルカメラの方に100%の分があるというのは承知しているのですが、フィルムに記録されるという物理的な現象には媚薬のような効き目があり、これに抗うことはできません。
 以前、この話を友人にしたことがありましたが、「お前はマゾか!?」と言われました。自分の名誉のためにつけ加えますが、私はマゾではありません。念のため。

 フィルムの価格が今のように高額でないときはカラーリバーサルフィルムの現像も自分で行なうこともありました。しかし、なかなか発色が思うようにいかず、いまはプロラボに依頼をしています。一方、モノクロフィルムは自分で現像していますが、リバーサルにしてもネガにしても、現像工程を終えて現像タンクからフィルムを取り出したときに像が形成されているのを見るとやはり感激します。無から有が生成されるマジックを見ているような感じで、しっかりと説明のつく化学変化だとわかってはいても感動の瞬間です。
 撮影の時にイメージしたものがしばらくの時間をおいた後、像となって表われ、それを手に取ることができる不思議な感覚、私にとって心をときめかせるには十分すぎる事象だと思っています。

 さて、上でも書いたように、最近のデジタルカメラは驚くほど高精細で綺麗な写真が撮れます。写真は解像度がすべてではないと思いますが、それでも高解像度で綺麗であることを否定する理由は何もありません。そのようなデジタルカメラで撮った高解像度の写真に比べると、フィルム写真はちょっとざらついた感じがします。整然と並んだ撮像素子と、ランダムに配置された乳剤粒子(ハロゲン化銀粒子)の違いによるものが主な理由だと思いますが、私はフィルムのちょっとざらついた感じが好きです。

 ざらついていると言ってもかなり拡大しないとわからないので、デジタルカメラとフィルムカメラそれぞれで、同じ被写体を同じレンズを使って、同じ位置関係で撮影してたものを比較してみます。
 私が1台だけ持っているデジタルカメラはだいぶ前のもので、撮像素子はAPS-Cサイズ、約1,600万画素という、今ではかなり見劣りのするカメラです。そして、比較用に使ったのは中判のPENTAX67です。これらのカメラにPENTAX67用の135mmレンズを装着し、同じ位置から同じ被写体(桜)を撮影しました。
 そして、67判のポジ原版をデジタルカメラの1画素とほぼ同じ大きさになるような解像度(約5,420dpi)でスキャンします。写る範囲が67判の方が圧倒的に広いので、その画像データからデジタルカメラで撮影できるのとほぼ同じ範囲を切り出してみました。

 1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出したものです。

▲デジタルカメラで撮影
▲フィルムカメラで撮影後、スキャンして切り出し

 画像処理のアルゴリズムなどの影響を受けていると思いますので2枚の写真に色調の違いはありますが、それを無視してもこうして比較すると、デジタルカメラで撮影した写真の方が滑らかな感じがすると思います。

 では、拡大してみるとどうかということで、画中央のまだ開ききっていない花の辺りを拡大したものが下の写真です。同じく1枚目がデジタルカメラで撮影したもの、2枚目がフィルムカメラで撮影したものです。

▲部分拡大 デジタルカメラ
▲部分拡大 フィルムカメラ

 明らかに違いが判ると思います。デジタルカメラ(1枚目)の方が全体に滑らかで、細部までくっきりと描写されているのがわかります。
 一方、フィルム(2枚目)の方は全体的にざらついた感じがしますが、これはフィルムに塗布された色ごとの乳剤粒子が重なっているため、それによって複雑な色の組合せが生まれていることが理由だと思われます。デジタルに比べてはるかにたくさんの色数が表現されていますが、これがざらついた感じに見えるのだと思います。
 デジタルの撮像素子とフィルムの性能比較をするつもりはなく、生成される画の違いを見ていただければと思います。

 ざらついていると言っても、中判フィルムから全紙くらいの大きさに引き伸ばしプリントした程度ではざらつきはほとんど感じられません。超高感度のフィルムを使ったときの粒子の粗さによるざらつきとは全く別物で、豊かな色調からなる画の奥深さのようなものを感じます。 
 個人的にはこのフィルムのざらついた感じが好きで、それがフィルムの魅力の一つでもあります。

 このように、私はいろいろなところでフィルムの魅力を感じていて、しかも、それらが相乗効果で押し寄せてくるので、そう簡単にフィルムに踏ん切りをつけることができないというのが正直なところです。もちろん、フィルム価格や現像料の高騰は大打撃ですが、ごくごく些細な工夫をしながらでも、フィルムを使い続けたいという気持ちがあります。
 私はフィルムと日本酒の保管専用に小型の冷蔵庫を使っていますが、扉を開けた時にフィルムと日本酒が並んでいるのを見ると幸せな気持ちになります(なぜ、フィルムと日本酒が同居しているのかという突っ込みはしないでください)。使用前のフィルムのパッケージを眺めていると、それだけでどこかに出かけて撮影しているときの映像が頭の中に浮かんできます。まるで、うなぎを焼くときの煙でご飯を食べることができるおっさんみたいですが、私にとってはそれくらい魅力的な存在です。

 現在、冷蔵庫に保管されているフィルムは1年~1年半ほどで使い切ってしまいそうな量です。今の品薄状態と高額には閉口しますが、切らさないように何とか補充し続けていきたいと思っています。

(2023.6.5)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #リバーサルフィルム #ライトボックス

現像済みリバーサルフィルム(ポジフィルム)に付着する汚れと洗浄

 私はリバーサルフィルムの使用頻度が最も高く、現像済みのリバーサルフィルム(ポジ原版)はスリーブやOP袋に入れて保管してあるのですが、長年保管しておくとフィルム表面に汚れが付着してきます。これはリバーサルフィルムに限ったことではないのですが、ポジ原版をライトボックスに乗せてルーペで見ると目立ってしまうのでとても気になります。
 昔のようにポジ原版から直接プリントすることがなくなってしまったので、少々の汚れであればレタッチソフトで修正できるのですが、一枚しかないポジ原版に汚れが付着してしまうということが精神衛生上よろしくありません。

フィルムに付着する汚れ

 フィルムに付着する汚れの類いはいろいろあります。ホコリ、指先などの脂、カビ等々、汚れの原因は多岐に渡っています。
 ポジ原版を裸で放置しておけば当然のことながらホコリが積もってしまいます。通常、ポジ原版を裸で放置するということはないのですが、仮にホコリが付着したとしてもブロアなどでシュッシュッとやれば除去できるので、それほど目くじら立てるほどのことではないと思います。
 ただし、あまりたくさんのホコリが積もってしまうと取れにくくなってしまうこともありますが、しっかりと保管しておけば防げる問題です。

 また、ポジ原版を取り扱うときは専用のピンセット等を使いますが、つい、指で触ってしまうこともあり、そうすると指先の脂がついてしまいます。これはブロアでは取れないのと、そのままにしておくとカビが繁殖したりする可能性があるので、誤ってつけてしまった場合はフィルムクリーナーやアルコールで拭いておく必要があります。
 高温多湿などの環境で保管するとカビが生えることもあるという話しを聞きますが、私は自分が保管しているフィルムでカビを確認したことはありません。もちろん、すべてのコマをルーペで確認したわけではないので、もしかしたらカビが発生しているものがあるかも知れません。

 そして、私が最も厄介だと感じているのが、長期保管してあるポジ原版に黒い小さなポツポツとした汚れが付着してしまうことです。これはポジ原版を肉眼で見てもよくわからないことが多く、ルーペで見たりスキャナで読み取ったりするとしっかりと確認できます。
 ただし、長期保管してあるポジ原版のすべてにこのような汚れが付着するわけではなく、付着する方が極めて少数派なのですが、フィルム全面に渡って無数のポツポツが存在しているのを見るとため息が出ます。しかも、この黒いポツポツはブロアでは決して取れません。 

 実際に黒いポツポツが発生したポジ原版(67判)をスキャンした画像です。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/125 RDP

 この写真を撮影したのは今から約30年前です。1コマずつカットしてOP袋に入れて保管していたものです。記憶が定かではありませんが、この30年の間にOP袋から取り出したのは数回だと思います。
 余談ですが、撮影から30年経って若干の退色はあると思うのですが、それでもこれだけの色調を保っているというのは、リバーサルフィルムのポテンシャルの高さだと思います。これはフジクローム(RDP)というフィルムで、現行品のPROVIAやVelviaと比べると非常にあっさり系の色合いをしたフィルムでした。

 上の画像は解像度を落としてあるのでよくわからないかも知れませんが、一部を拡大してみるとこんな感じです。

▲部分拡大

 明るくて無地の背景のところ(上の画像では空の部分)に発生しているのが良く目立ちます。空以外のところにも生じているのですが、被写体の中に埋もれてしまってわからないだけです。

 この写真と同じ日、同じ場所で、少しアングルを変えて撮影したものがあと5コマあるのですが、それらのコマにはこのような黒いポツポツの付着はごくわずかです。保管期間も同じ、保管条件も同じ、にもかかわらず、なぜこのように差が出ているのか、まったくもってわかりません。わずかな違いと言えばOP袋からフィルムを取り出した回数くらいのものでしょう。とはいえ、6コマのうちこのコマだけ、取り出した回数が特別に多かったとも思えません。たかだか数回の違いです。

 そもそも、この黒いポツポツとした汚れはいったい何なのか、どこから来たのか、ということが良くわかりません。カビではなさそうですし、指先でつけてしまった脂とも違います。ましてや、長期間保管されている間にフィルムの中から浮き出てきたとも思えません。

 正体を突き止めようと思い、この黒いポツポツを顕微鏡で覗いてみました。
 その写真がこちらです(わかり易いようにモノクロにしてあります)。

▲付着したごみの顕微鏡写真(200倍)

 顕微鏡の倍率は200倍です。ホコリともカビとも違う、微細なゴミのようなものがフィルムの上に貼りついている感じです。ゴミのようなものに焦点を合わせているので、バックのフィルム面にはピントが合っていません。このことからも、こいつはフィルムの上に乗っかっているのがわかります。
 また、フィルムの光沢面、乳剤面のどちらか一方だけということはなく、どちらの面にも存在しています。
 フィルム面に付着しているとなれば外部から入り込んだものに違いないと思うのですが、現像後、OP袋等に入れて以来、一度も取り出したことがないフィルムにも付着していることがあります。となると、OP袋に入れる際に付着した何かが、長年の間にフィルム面に貼りついてしまったと考えるのが自然かもしれません。
 いずれにしろ、この黒いポツポツをきれいにしないと気になって仕方がりません。何年後かに見てみたら増殖していたなんてことになったら最悪です。

フィルムの洗浄

 カビのようにフィルムの中の方まで侵食している感じはないので、洗浄すれば除去できるのではないかということで、汚れの付着が多いフィルムを5コマほど洗浄してみました。
 市販されているフィルムクリーナーの多くはアルコールが主成分のようなので、今回は消毒用アルコールを50%くらいに希釈して使用します。

 まずは、洗浄するフィルム(今回は67判)を20度くらいの水に10分ほど浸しておきます。
 流水でフィルムの両面を洗った後、フィルムの片面にアルコールを数滴たらします。数秒でフィルム全面にアルコールが広がっていくので、その状態のまま10秒ほど置きます。このとき、スポンジ等で軽くこすった方が汚れが落ちるかもしれませんが、フィルム面に傷をつけたくないのでそのままにしておきます。その後、流水でアルコールを流します。
 フィルムの反対の面も同様に行ないます。

 洗浄後は水滴防止液(今回は富士フイルムのドライウェルを使用しました)に30秒ほど浸し、フィルムの端をクリップ等で挟んでつるして乾燥させます。水滴防止液は少し粘度が高く、わずかにドロッとした感じのする液体のため、ホコリが付着しやすい性質があります。出来るだけホコリが立ちにくい浴室などにつるしておくのが望ましいと思います。
 なお、水滴防止液は規定の濃度の半分くらいでもまったく問題ありません。

 また、水滴防止液を使いたくないという場合は、水切り用のスポンジでそっとふき取る方法でも問題ないと思います。

 洗浄後のフィルムは乾燥過程でかなりカールしますが、乾燥が進むにつれて元通りの平らな状態に戻ります。

洗浄後のフィルムの状態

 こうして洗浄・乾燥させたフィルムですが、まずはライトボックスに乗せ、ルーペで確認してみたところ、黒いポツポツはほとんど消えていました。
 また、フィルムをスキャナで読み取ってみましたが、洗浄前と比べると見違えるほどきれいな画像が得られました。確認できた黒いポツポツはごくわずかで、それもルーペでは見えない非常に小さな点のような汚れで、この程度であればレタッチソフトで簡単に修正できます。アルコールに浸しておく時間をもう少し長くすれば、残ってしまった小さな汚れも落とせるかもしれません。
 付着した汚れはブロアでは吹き飛ばせないもののアルコールできれいに落とせるということは、カビのように中まで入り込んでいるものではないと思われます。

 洗浄前の部分拡大した画像とほぼ同じあたりを切り出したのが下の画像です。

▲部分拡大

 たくさんあった黒いポツポツがきれいさっぱりとなくなっています。洗浄による色調の変化等も感じられません。乳剤面に剥離など、何らかの影響が出ているかと思いましたがその心配もなさそうです。
 洗浄前と洗浄後のスキャン画像も拡大比較してみましたが、黒いポツポツを除けばどちらが洗浄前でどちらが洗浄後か、その区別はつきませんでした。

 念のため、桜の花のあたりを顕微鏡で覗いてみました。倍率は200倍です。

▲顕微鏡写真(200倍)

 特にフィルム面や乳剤面に劣化したような痕跡はないと思われます。
 フィルムを洗浄してから一週間ほど経過しましたが、肉眼で見る限りフィルム面に異常は感じられません。また、同じタイミングで撮影したコマのうちの未洗浄のものと比べてみましたが、フィルムの状態や色調に違いは見られませんでした。むしろ、全体的にクリアな感じになったのではないかと思いましたが、残念ながらそれは全くの勘違いでした。
 ただし、もっと長期間が経過した時に、この洗浄の影響が出るのかどうかは今のところ不明です。

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 保管してあるすべてのポジ原版の汚れの付着状態を確認するのは困難であり、洗浄したほうが良いと思われるコマがどれくらいあるのかは不明です。
 また、汚れの付着度合いに差がある理由もわかりませんが、やはり、スリーブやOP袋からの出し入れの回数が多いコマの方が汚れの付着度合いも多いのではないかと想像しています。スリーブやOP袋に入れるときは必ずブロアでホコリを飛ばしているのですが、どうしても100%取り除くというわけにはいかないので、回数を重ねるうちに増えていくのかもしれません。
 まだ汚れが付着していないコマをいくつか選んで、定期的にOP袋から出し入れするのと、全く出し入れしないのをモニタリングしてみる価値はありそうです。

 なお、今回のフィルムの洗浄は素人がやっていることであり、フィルムに与えるダメージがないという保証はありませんのでご承知おきください。

(2023.4.12)

#リバーサルフィルム #PENTAX67 #ペンタックス67 #保管

ローライ Rollei RPX25 超微粒子、高解像度、高コントラストのモノクロフィルム

 私が使っているモノクロフィルムの中でいちばん使用頻度が高いのがイルフォードのDELTA100、次いで富士フィルムのACROSⅡ、そして、ローライのRPX25です。それ以外のフィルムはお試しに使ってみる程度で、常用しているのはこの3種類です。
 RPX25はDELTA100やACROSⅡに比べると使用頻度は低いのですが、カリッと締まった描写が気に入っています。ISO感度が低いので使いにくいところもありますが、他のフィルムとは一線を画したようなところがあるフィルムだと思っています。

低感度のパンクロマチックモノクロフィルム

 ISO25という低感度フィルムです。世の中にはISO6とかISO12とかの超低感度フィルムも存在するようですが、ブローニーサイズの現行品で普通に手に入るフィルムとしては、このRPX25が最も低感度ではないかと思います。かつて、コダックからISO25のコダクロームKMとPKMという低感度リバーサルフィルムが販売されていましたが、RPX25を見ているとそれを思い出します。
 本来が低感度フィルムなのでEI25として使用するのが一般的だと思いますが、現像液によってはEI320にも対応可能なようです。私はEI320どころかEI50としても使ったことがないので、どのような写りになるのか知りませんが、のっぴきならない事情があったり、あるいは特別な表現を求めるとき以外は不必要にEIを高くすることもないと思います。

 このフィルムを使って私が撮影するのはほとんどが風景です。晴天時の日中に絞りを開いての撮影であれば手持ちでもいけますが、少し薄暗いときや絞り込んでの撮影、または夜景の撮影時などは三脚が必須です。シャッター速度はどうしても遅くなりがちなので、被写体ブレを起こしたくないようなときは気を使います。

 ちなみに、RPX25の120サイズのフィルム、ヨドバシカメラでは1本1,900円ですが、通販のかわうそ商店では1本1,090円です。さらに10本セットだと9,900円なので、1本あたり990円となります(いずれも2023年3月24日時点の税込み価格です)。フィルムが高騰している現在、10本セットはいえ、1本あたりが1,000円を切っているというのはお安いのではないかと思います。

コダック Kodak のD-76でネガ現像

 現像液はローライのスーパーグレイン SUPER GRAIN が望ましいのかもしれませんが、普段使っているコダックのD-76を使用しました。EI25の場合、1+1の希釈で20℃、8分となっていますので、それに従っています。このところ、暖かさを通り越して初夏のような陽気になっており、気温も20度近くまで上がっているので、現像液を温めたり冷やしたりという手間が省け、現像するにはありがたい気候です。

 コダックの薬品の国内販売が終了してしまったようですが、アマゾンなどではまだ在庫があるのか、購入ができるようです。私は販売終了のアナウンスがあった際に5袋ほど買い置きしておきましたが、そろそろ底をつきそうです。海外では販売されているようなので個人輸入という手もありますが、私の場合、それほどD-76に拘っているわけではないので、なくなったら別の現像液を使うことになりそうです。

黒が締まった硬調な描写が特徴

 先日、隅田川に架かる橋を撮りに出かけた際、RPX25を2本だけ持って行きました。その時に撮った写真を何枚かご紹介します。
 いずれも大判カメラに67判のロールフィルムホルダーを着けて撮影しています。

 まず1枚目の写真ですが、蔵前橋の下から撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD65mm 1:5.6 F22 2s

 この日は良く晴れていて、橋の下から見ると川面に反射した光が橋げたを照らしていて、無機質の鉄骨ならではのコントラストになっていました。日中なので外はかなり明るく、背景はほとんど白飛びしています。
 橋脚からアーチ型に伸びた鉄骨が放射状に広がって見えるように短焦点レンズを使っています。もちろん、実際にはこんな風に放射状になっているわけではなく、同じ間隔を保ちながら平行に並んでいます。もう少し短めのレンズを使って真上まで入れた方が迫力が出たかも知れません。

 橋げたの下の部分は反射した光で明るいのですが奥の方までは光が届いていません。しかし、奥の方が黒くつぶれているかというとそういうわけでもなく、橋げたの構造がわかるような画像が記録されています。黒に対しての許容度が高い感じを受けます。
 また、中間調も綺麗に表現されていて、黒か白かに二分されてしまうのではなく、なだらかなグラデーションになっています。全体としてはカリッとした感じを受ける描写ですが、豊かな階調も損なわれることなく表現されていて、硬調な中にも柔らかさを感じます。

 次は、橋の下から係留されている釣船を撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F8 1/250

 太陽の位置はほぼ正面上方にあり逆光状態ですが、上部に橋げたの一部を入れることで明るい空をカットして、光が直接入るのを防いでいます。また、遠くにある釣船を注視しているような効果を狙ってみました。
 川面は光の反射でとても明るいので、陽があたっていない釣船とのコントラストが高く、長めの焦点距離のレンズで撮っていることもあり、立体感が出ていると思います。釣船の右舷側はかなり暗いのですが、つぶれてしまうことなく描写されています。

 個人的には水面の反射で輝いている左舷の金属の質感が気にいっています。

 3枚目の写真は、橋げたの一部だけを撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W210mm 1:5.6 F16 2s

 水面の反射によって、橋げたの鉄骨の一部だけが明るく照らされている状況です。塗装がされているので、実際にはこんなに輝いては見えないのですが、光が当たっていないところとのコントラストと相まってモノクロならではの描写です。大量に打たれたリベットの頭部がわずかに光っているところなどに構造物の重厚感が感じられます。
 何度も塗料の塗り重ねがされてきたのだと思いますが、白く輝いている中にも表面の凹凸がわかりますし、暗部のディテールも良く出ていて、このフィルムのポテンシャルの高さを感じます。

 この日は隅田川に架かる橋の夜景を撮るのが目的で出かけたので、このフィルムでも数枚、夜景を撮影してみました。
 そのうちの1枚が下の写真です。

 日没して1時間ほど経った午後7時ごろに撮影したものです。いわゆるマジックアワーと呼ばれる時間帯は過ぎて、既に空は真っ暗です。
 このような状況において、低感度のフィルムで撮影しても弱い光はなかなか写り込んでくれません。いくら長時間露光をしても弱い光には反応してれないので、極端な言い方をすると、明るいところと暗いところだけで構成された画になってしまいがちです。
 ライトアップされた橋の欄干やアーチ、および水面への映り込みは明るいのですが、それ以外はほぼ黒といった状態で、まるで二値化された画像のようです。非常に硬い感じの描写になっていますが、これはこれで独特の趣が感じられます。

見事にヌケの良いポジが得られるリバーサル現像

 フィルム2本を撮影してきたので、1本をリバーサル現像してみました。
 RPX25は長年使ってきましたが、これまでこのフィルムでリバーサル現像をしたことは一度もなく、今回、初の試みです。
 RPX25のリバーサル現像に関するデータがないので、通常のネガ現像のデータをもとに現像時間を換算してみました。
 実際の現像時間については以下の通りです。

  第1現像 : 8分45秒
  漂白 : 5分
  洗浄 : 3分
  露光 : 片面1分
  第2現像 : 3分
  定着 : 7分

 現像液はイルフォードのシルバークロームデベロッパーを1:4(水)に希釈して使用しました。

 現像後のポジ原版が下の写真です。

 スリーブに入れたポジをライトボックス上で撮影したものなので画質が良くありませんが、黒の締まり具合、ヌケの良さ、解像度の高さなどは感じていただけるのではないかと思います。

 右上のコマをスキャンしたのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F22 1s

 こうしてスキャンして画像にしてしまうとネガ現像したものなのか、リバーサル現像したものなのかは判断がつきません。全体的に硬調な描写やしっかりと締まった黒、右の奥に見えるビルの中間調など、豊かな描写をしていると思います。金属の質感も良く出ていますが、橋脚の石の質感も見事です。

 現像の過程で大きな失敗をしなければ、ネガ現像だろうがリバーサル現像だろうが、解像度やコントラストの出方に違いはないと思われますが、リバーサル現像の方が工程が多い分、わずかな失敗でも積み重なって画質に影響を与える可能性はあります。ですので、あえてリバーサル現像をする理由もないのですが、やはり、現像後のポジをライトボックスで見た時の感動はひとしおです。
 イルフォードのDELTA100もヌケの良いポジを得られますが、もしかしたらRPX25の方が上を行っているかも知れません。

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 低感度フィルムなので多少の制約を受けることもありますが、高い解像度やコントラスト、超微粒子による緻密な描写など、魅力のあるフィルムであることは確かです。硬調な描写は見ていて気持ちの良いものですが、硬いだけではないのがこのフィルムの特性かも知れません。
 もともとコントラストの高いフィルムですが、モノクロ用のフィルター(Y2、YA3など)を装着するとさらに高コントラストになります。被写体によっては不自然になってしまうかも知れませんが、一つの表現手法でもあると思います。

 また、このフィルムは冷蔵庫などに入れておくことで長期保存も可能らしいので、買い置き向きかも知れません。

(2023.3.24)

#Rollei_RPX25 #Linhof_MasterTechnika #FUJINON #リバーサル現像 #蔵前橋

500mlの現像液で4×5″シートフィルム4枚を処理する現像タンクの製作(1) 構想編

 以前、別のページでも書きましたが、私は4×5判のモノクロフィルムを自家現像する場合、主にパターソンのPTP116という現像タンクを使っています。一度に最大で6枚のフィルムを処理することができるので便利ではありますが、使用する現像液の量も多いので、もう少し少ない量で処理できれば良いと常々思っていました。国内外の製品をいろいろ物色してみたところ、SP-445という製品があるようなのですがかなり高額なため、思い切って自作してみようと思い至りました。
 どのような現像タンクにするか、今回はその構想についてまとめてみました。

条件は、500mlの現像液で4×5″フィルム4枚を現像

 なぜ500mlかというと、それほど深い拘りがあるわけではないのですが、ブローニーフィルムの現像に使っている現像タンクに必要な現像液が500mlだからという程度のことです。500mlであれば作り置きした現像液を保管するにも場所をとらずに済みますし、ブローニーの現像液をそのまま4×5判にも使うことができるので便利です。
 また、時どきしかやらないのですが、モノクロフィルムのリバーサル現像に使う薬剤の中にはワンショットで作り置きのきかないものもあり、そういった点からも使う量は少ないに越したことはありません。

 しかし、現像液が500mlであっても、処理できるフィルムが1~2枚しかないというような状態ではあまり効率が良くないので、少ない現像液といえども一度に4枚くらいは処理できるようにしないとあまり意味がありません。何年か前に、パターソンのPTP115というブローニー用の現像タンクで2枚の4×5判フィルムを現像するためのホルダーを作ったことがありますが、これはあくまでも1枚とか2枚という現像をしなければならないという時のためであって、常用するためのものではありません。

筐体(タンク)を直方体にすることで内容積を削減

 現像液の量が最も少なくて済む方法は、たぶんバット(皿)に現像液を入れて処理する方法だと思われます。印画紙を現像するのと同じようなやり方です。
 ただし、この方法だと結構場所をとるし、暗室、もしくはかなり大型のダークボックスのようなものが必要になります。また、バットに複数枚のシートフィルムを入れることで、フィルム同士が重なってしまって現像ムラができないかという心配もあります。

 そこで、バットを立てたような形の現像タンク、すなわち、SP-445のような直方体の形状をした現像タンクにすれば液の量も少なくて済むだろうということで、あれこれと思案をしてみました。

 そうしてイメージしたのがこのような現像タンクです。

 現像タンク本体の上部に現像液の注入口、および排水口を設け、本体側面には水洗い時の排水口を設けます。そして 、本体内部にはシートフィルム用のホルダーを入れるという構造です。
 円筒形の現像タンクのようにフィルムを回転させる撹拌はできないので、倒立撹拌のみとなりますが、これはもう妥協するしかありません。もし、どうしても回転撹拌をしたいということであれば、現像タンク全体を回転させる治具を別途用意するしかありませんが、将来的に必要性を感じるようであれば、あらためて検討することとします。

 いま考えている現像タンクの内部構造(透視図)はこんな感じです。

 明るい場所で処理できることを前提としているため、注入口や排水口からの光が内部に入り込まないようにしなければなりません。
 本体上部にある注入口に注がれた現像液は、二つのすべり台を流れるようにして本体内部に入ります。向かい合わせに設置されたすべり台によって、注入口からの光の入り込みを防ごうという狙いです。

 また、本体側面の排水口からの光の入り込みを防ぐため、2枚の斜光板を設置しておきます。

 本体側面の排水口は水洗の時にしか使わない予定なので、キャップ(栓)をしておけば光が入ることもなく、斜光板はなくても良いと思ったのですが、リバーサル現像のときは第一現像や漂白の工程の後にも水洗いを行なうため、それを考慮して斜光板を設置することにしました。
 水洗の際は上部の注入口から水道水を流しっぱなしにすると、本体底部からの水が側面の排水口から流れ出ていくという想定で、水洗の効率を狙ったつもりです。

 そして、フィルムホルダーですが、下の図のようなものを考えています。

 フィルムの出し入れがやり易いように、ホルダーの側板にスリット(溝)をつけただけの簡単なものです。フィルムとフィルムの間隔は約5mmで、これだけの隙間があれば問題ないと思われますし、フィルムの裏表を気にする必要もありません。フィルムの間隔をもっと詰めれば、同じ寸法で6枚とか8枚も可能になると思いますが、工作が結構大変そうです。
 また、倒立撹拌によってフィルムやホルダー自体が動いてしまわないように、本体内に入れた後にホルダーを固定する押さえ板を設置する予定です。

 本体は上から1/3くらいの位置で上部と下部の二つの分離するようにする予定で、上部は蓋のような形で下部に被さるようにします。ここからの水漏れを防ぐため、ゴムパッキンのようなものが必要になるかも知れません。
 なお、フィルムを装填するときは暗室やダークバッグなどの中で行なう必要がありますが、中に入れた後は明所で処理できるのは他の現像タンクと同じです。

 さて、この現像タンクに必要な現像液の量ですが、4×5判フィルムを縦位置にした状態で、若干の余裕をもって現像液に浸る深さを140mmとして内容積を計算すると、504mlとなります。実際にはフィルムホルダーや斜光板なども浸ることになるので、たぶん、460mlくらいで足りるのではないかと思います。

 素材はすべてアクリル板で作ることを想定しています。そこそこの強度もありながら加工のし易さもあり、高度な工作機械がなくても比較的簡単に加工できますし、材料費も安く済むのが理由です。
 その他には注入口や排水口に取付けるブッシングのようなものと、それ用のキャップがあれば材料は事足りそうです。

排水をシミュレーション

 もう一つ、現像タンクの重要な機能として、排水がスムーズにできるかということがあります。出来るだけ短時間に排水でき、そして、内部に現像液が残らないようにしなければなりません。光が入り込まないように斜光板を何枚も設置しているため、これがスムーズな排水を妨げる可能性があります。

 そこで、うまく排水ができるかどうかを簡単な図で確認してみました。
 下の図は、現像タンクを正立させた状態から、注入口のある方向に徐々に回転させていったときに、内部の現像液がどのように動くかを簡単に示したものです。

 上の図でわかるように、正立状態から180度回転(図の⑤の状態)させた時点で、斜めに設置された斜光板(すべり台)のところにわずかに現像液が残ってしまうことになりそうです。
 この残った分を排出するためには、さらに45度ほど回転(図の⑥の状態)させたのち、135度くらいの位置(図の④の状態)まで戻す必要がありそうです。倒立すればすべて排水完了というのが望ましいのですが、余計にひと手間が必要になってしまい、このあたりは再検討の余地があるかも知れません。
 簡単なシミュレーションなので、実際にはこの通りにいくかどうかわかりません。正確な図面を描いたうえで再度、検討が必要になりそうです。

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 手作り感満載の現像タンクですが、この構想通りにいけば案外と使い物になるのではないかと楽観視しています。
 また、アクリル板やブッシングなど、すべて購入したとしても材料費は3,000円もかからないと思われますので、手間賃の方がはるかに高額になってしまいます。購入したほうが結果的には安く済むと思いますが、作る楽しみということで。
 作り始める前にはもっと正確な図面を起こさなければなりませんが、もうしばらくの間、練り直しも含めて構想を温め、頃合いを見計らって材料の調達を始めようと思っています。
 実際の製作についてはあらためてご紹介できればと思います。

(2023.2.21)

#現像タンク #大判フィルム #フィルムホルダー

フィルム写真やフィルムカメラの将来は悲観することばかりではない...のかも知れない

 フィルムや現像薬品の製造販売終了や値上げをはじめ、現像料金の値上げなど、フィルム写真に関する暗いニュースが後を絶ちません。その類いのニュースを見たり聞いたりするたびに暗い気持ちになり、いったい、フィルム写真はいつまで続けることができるのだろうか、もしかしたら数年後にはフィルムで写真を撮ることができなくなってしまうのではないか、といった不安がよぎります。
 私のような一消費者がどんなに心配しようがあがこうが大勢には全く影響がありませんが、じわじわと真綿で首を絞められるような感じを禁じえません。

 しかし、そんな気の重くなるようなニュースの陰にも、気持ちが明るくなるような話題が時々飛び込んでくることがあり、もしかしたらフィルムの将来にも希望が持てるのかも、と思わせてくれます。

 昨年(2022年)の暮れ、リコーイメージングが新たにPENTAXブランドのフィルムカメラを開発するプロジェクトをスタートさせたというニュースがありました。若い人たちの間でフィルムの人気が高まってきており、フィルムカメラの市場性はなくなっているわけではないという判断をされたのかも知れません。
 まだ正式に新製品の発売を約束するものではないとしながらも、一度終了したフィルムカメラを再度、しかも新規に開発するという取り組みに意表を突かれるとともに、胸がときめくような感じを受けました。「えっ!今のこの時代に本当にやるの?」という釈然としない気持ちと、「あっぱれ!ぜひとも実現してほしい」という期待が混ぜこぜになったような、何とも不思議な感覚でした。

 いくら若い年代に人気が高まったところで、デジタルカメラをひっくり返すほどのシェアになるとは思えず、そんな分野に本気で企業が投資をするのだろうかと考えてしまうのは私だけではないと思います。この新規事業に利益が見込めるのかどうか私にはわかりませんし、また、利益追求だけが企業の本分ではないとは思いますが、とはいえ、仮に利益の出ない事業だとしたら、それを継続することが大変なのは素人から見ても理解できます。
 一方で、フィルムカメラという素晴らしい文化や技術を後世に伝えていくという、カメラメーカーとしての使命を全うしようとしているのではないかと思ったりもします。

 いずれにしても、リコーイメージングという大きな企業が判断したことであり、外野がとやかく言うことではありませんが、個人的にはぜひ実現してほしいという願いがあります。いつ頃、どんなカメラが出てくるのかわかりませんが、しばらくはワクワクした気持ちを持つことができそうです。

 PENTAXと言えば、新宿にあったリコーイメージングスクエア東京(旧ペンタックスフォーラム)が昨年3月に閉じて、新たに7月から四谷に「PENTAXクラブハウス」という名前でオープンしました。ショールームやギャラリーだけでなく、交流の場のようなものをコンセプトにしているようです。
 私は昨年の秋に一度訪れただけですが、その時に印象に残っていたのが「フィルムカメラ体験会」というものでした。PENTAXのフィルムカメラを有償で貸し出して、フィルムカメラを実際に使ってもらおうという試みです。実際にどれくらいの申し込みがあったのかはわかりませんが、先月(2023年1月)から第2回目が開催されているようなので、好評だったのかもしれません。PENTAX 67Ⅱや645NⅡなど、なかなか手にする機会がないカメラも実際に使えるとあって、たとえ少しずつでもフィルムカメラの魅力が伝わっていくのであれば嬉しいことです。
 67Ⅱが5時間半で6,600円、これを高いと感じるか、安いと感じるかは微妙なところですが、四谷界隈でPENTAX 67Ⅱを持って撮り歩いている人の姿を見かけたら、ちょっと微笑ましくなりそうです。

 PENTAXが新たなフィルムカメラの開発プロジェクトをスタートさせたのは喜ばしいことですが、フィルムの供給は大丈夫なのかという心配は当然あります。リバーサルフィルムはまさに風前の灯といった状態ですが、モノクロフィルムはその種類が増えているようです。現在、手に入れることができるモノクロフィルムは国内、海外ブランドを含めて約120種類あるそうで、3年前よりも若干増えているとのこと。
 もちろん、120種類すべてがオリジナルというわけではなく、OEMのような形で供給されているものもたくさんあると思いますが、それでも種類が増えているというのは喜ばしいことです。

 比較的記憶に新しいところでは、日本の企業からMARIX(マリックス)というブランドで新たなフィルムが発売されたことです。中身はフォマのようですが、にしてもジャパンブランドのフィルムが増えたということは明るい話題です。
 また、2018年3月で出荷が終了していた富士フイルムのフジカラーSUPERIA X-TRA 400 の再販が開始されたのも最近のことです。海外製品を国内向けにしているようですが、ISO-400のカラーフィルムの選択肢が増え、PREMIUM 400よりも若干安く設定されており、フィルムの裾野が広がると良いと思います。

 富士フイルムの写ルンですやコダックのM35、i60など、お手軽にフィルム写真を楽しめるカメラの売れ行きも好調に推移しているようで、これらのおかげでカラーフィルムの出荷数が下げ止まっているという話しも聞きます。
 スナップ写真や旅行の写真など、大仰な一眼レフカメラを持ち歩くよりはスマートでおしゃれな感じがするのも確かです。デザインやカラーバリエーションも豊富で、つい買ってしまいたくなる、そんな魅力も感じます。
 スマホなどの綺麗なデジタル写真を見慣れた若い世代の人たちからすると、フィルム独特の柔らかさとか温もりのある写りが新鮮に感じられるのかもしれません。
 
 リバーサルフィルムにも明るい話題があると良いのですが、残念ながらこれといった喜ばしい話は聞こえてきません。原材料の調達が思うようにいかず安定供給ができていないようですが、一時的なものであってほしいと思います。

 昨年(2022年)、日本で唯一と言われている完全アナログな銀塩プリントをしてくれる会社、アクティブスタジオさんがクラウドファンディングを実施していました。内容は、ここにしかないミニラボ機QSS-23という機械の修理や、アナログプリントを続けていくための維持費などに充てるというものでした。
 当初の目標の1.5倍ほどの支援が集まったようで現在は終了していますが、これによってアナログプリント継続の危機を脱することができたようです。とはいえ 、またいつ故障するかもわからないし、代替部品の入手も困難になる一方のようで、気が抜けない状態は続くとのことです。

 アナログプリントに拘って継続されていらっしゃることにも頭が下がりますが、クラウドファンディングで支援してくれる人もいるということに明るい気持ちになりました。
 私は6~7年前に数回、プリントをお願いしたことがありますが、フィルムをスキャンしてデジタル化した後にプリントするという、現在は当たり前になっている写真と比べると、とても自然な発色をしていると感じました。昔のプリントはこんな感じだったのにと、ちょっとノスタルジックな気持ちになったのを憶えています。
 機械の修理がきかなくなったり、使用しているアナログ印画紙(富士フイルム製だそうです)がなくなっってしまえば同様のプリントは継続できなくなってしまいますが、一日でも長く継続できることを願っています。

 少し話しがそれますが、中国にChamonix(シャモニー)というブランドで大判カメラを作っているシャモニービューカメラという会社があります。
 20年ほど前に設立した会社らしいですが、実はずっと以前からここの大判カメラが気になっていました。木製カメラのようでありながらベースには金属が多用されていたり、何と言ってもカメラムーブメントがこれまでのカメラにはなかった発想で作られています。職人が一台々々丁寧に作っているという感じで、とても綺麗な仕上がりのカメラです。いつかは使ってみたいという思いがずっと続いています。
 生産台数がどれくらいあるのかわからないのですが、特に海外では人気があるようで常に売り切れ状態です。注文をしても順番の待ち行列の最後尾に置かれてしまい、いつ手に入るのかわからないといった状況のようです。
 また、4×5判だけでなく5×7判や8×10判、さらに大きな10×12判や11×14判、そしてとても珍しい14×17判などというカメラも作っているようです。
 大判カメラというニッチな市場ではありますが、現行品として製造販売が続いており、しかも順番待ちになるほど人気のある状況をみると、フィルムカメラもまだまだ捨てたものではないという気持ちになります。

 国内でもフィルム写真やフィルムカメラ、フィルム現像などのセミナーやワークショップ、撮影会やフィルムで撮影した写真展なども増えてきているように感じており、それぞれの活動は小さいかも知れませんが、フィルム写真やフィルムカメラに対する潜在的な市場は衰退の一途をたどっているわけでもなさそうです。
 フィルムの出荷がピークと言われた2000年頃の状態に戻るとはさすがに思いませんが、フィルム写真というものが残っていってほしいと切に願います。

(2023.2.3)

#PENTAX #ペンタックス #モノクロフィルム #Chamonix

67判のポジフィルムをカバーするライトボックス用ルーペの作成

 私が主に使っているフィルムはリバーサルフィルムの中判と大判です。現像が上がったリバーサルフィルムはライトボックスで確認をするわけですが、その際、ピントやブレなどの具合を調べるためにルーペを使います。
 そのためのルーペは数個持っていますが、いずれもルーペのレンズの直径があまり大きくないので一度に見ることのできる範囲は狭く、中判や大判のフィルムを確認するためにはルーペをあちこち移動させなければなりません。これが結構なストレスになります。もちろん、大口径のルーペも販売されてはいますが驚くほど高額です。
 そこで、大判フィルムはともかく、せめて67判フィルムをカバーできるルーペをということで、家にころがっているガラクタを集めて作ってみました。

今回、作成するルーペの仕様

 私が使っている中判のサイズは圧倒的に67判が多いので 、作成するルーペの大きさとしては、このフィルムをカバーするサイズとします。「カバーする」というのは、フィルムの上にルーペを置いた状態で、ほぼフィルム全体が視野に入るということを意味します。67判の対角線長は約88mmありますから、理想は直径88mm以上のレンズということになりますが、それだとかなり大きくなってしまい、手の小さな私には持ちにくくなってしまいます。フィルムの四隅が少しカットされるのは我慢するとして、今回は直径80mm前後ということにします。

 次にルーペの高さですが、ライトボックス上にフィルムを置いたとき、どれくらいの位置から見るのが最も見易いのかをいろいろ試してみました。低すぎると上体を前に倒さなければならないので、あまり有り難くありません。かといって高すぎると、これまたルーペが巨大になってしまい、使い回しに手を焼いてしまいそうです。
 結局、ライトボックスの上面から10~15cmくらいが最も使い勝手がよろしいというのがわかったので、ルーペの高さとしてはおよそ10cmとすることにしました。

 さて、ルーペの倍率をどれくらいにするかですが、私が普段使っているルーペの倍率は約6倍と約8倍で、細部をしっかり確認するにはちょうど良いのですが、ポジ全体を見渡すには倍率が高すぎます。もう少し倍率を落とした、3~4倍あたりが使い易そうですので、今回は4倍を目安にすることにしました。

 これらの条件を満たすレンズを決めなければならないのですが、ルーペの高さから逆算すると、ライトボックス上面からレンズまでの距離が70~80mmが適当な感じです。中間値をとって75mmとして計算してみます。

 レンズの焦点距離(f)、レンズから物体(フィルム)までの距離(a)、およびレンズから虚像までの距離(b)の関係は下の図のようになります。

 ここで、a=75mm、倍率mは4倍と設定しているので、レンズから虚像までの距離(b)は、

  b = m・a

 で求められます。
 よって、

  b = 4 x 75 = 300mm

 となります。

 次に、これを満たすレンズの焦点距離(f)ですが、

  1 / a - 1 / b = 1 / f

 の関係式に各値を代入すると、

  1 / f = 1 / 75 - 1 / 300

 よって、f = 100mm となります。

 すなわち、焦点距離100mmのレンズが必要ということです。

ルーペの作成に必要なパーツ類

 焦点距離100mmのレンズというと、クローズアップレンズのNo.10がこれに相当しますが、残念ながらそんなものは持ち合わせておりません。ガラクタをあさってみたところ、直径82mmのクローズアップレンズ(No.2)が1枚と、直径77mmのクローズアップレンズ(No.2、No.3、No.3、No.4)が4枚、計5枚がでてきました。
 なぜこんなにクローズアップレンズがあるかというと、昔、35mm判カメラで接写にはまったことがあり、その時に買い集めたものが今も使われずに残っていたというものです。
 82mm径であれば大きさも問題ないのですが、No.2が1枚ではどうしようもないので、少し小さくなってしまいますが77mm径のクローズアップレンズを組み合わせて使うことにします。

 クローズアップレンズの焦点距離は以下のようになっています。

  No.2 : 500mm
  No.3 : 330mm
  No.4 : 250mm

 2枚のレンズを組み合わせた時の焦点距離は以下の式で求めることができます。

  1 / f = 1 / f₁ + 1 / f₂ - d / (f₁・f₂)

 この式で、f₁、f₂ はそれぞれのレンズの焦点距離、dはレンズ間の距離を表します。

 この式から、これらのクローズアップレンズを組み合わせて焦点距離100mmを作り出すには、No.3(330mm)を2枚とNo.4(250mm)を1枚、計3枚で100mmが作り出せることがわかります。厳密にはクローズアップレンズ同士の間隔ができるので少し変わってきますが、そんなに精度を求めているわけではないので良しとします。

▲今回使用したクローズアップレンズ (左からNo.4、No.3、No.3)

 また、クローズアップレンズを同じ向きで重ね合わせると像の歪みが大きくなるので、1枚をひっくり返して反対向きにする必要があります。反対向きにするとオネジ同士、またはメネジ同士が向かい合ってしまい、ネジ込みすることができなくなってしまいます。そこで、これらをつなぐアダプタを作らなければなりませんが、これは使わなくなった77mm径のフィルターの枠を2個、流用することにします。

▲アダプタ用に使用したフィルター(2枚)

 そして、ライトボックス上面からレンズまでの高さを稼ぐため、これも昔使っていた金属製のレンズフードを使うことにしました。おあつらえ向きに77mm用のフードがあったので、まさに復活という感じです。フード先端の内径が約80mmあるので67判の対角には少し足りませんが、まぁ、我慢することにしましょう。
 また、ライトブックスは下から光が照射されるのでルーペ内には外光が入らない方が望ましく、金属製のフードは打ってつけです。

▲77mmのレンズフード(金属製)

 後は、レンズまでの距離(高さ)が不足する場合、それを埋めるためのスペーサーとして、やはり使わなくなったフィルター枠を使います。

ルーペの組み立て

 組み立てと言ってもクローズアップレンズやフィルター枠をはめ込んでいくだけですが、作らなければならないのがクローズアップレンズ同士をつなぐアダプタと、レンズフード取り付けのためのアダプタです。
 まず、クローズアップレンズを向かい合わせにつなぐために、上にも書いたように77mm径のフィルターからガラスを取り外した枠を反対向きに接着剤でくっつけます。接着面は非常に狭くて接着剤だけでは強度的に心もとないので、内側にグルーガンで補強しておきます。
 接着剤がはみ出したりしてあまり綺麗でないので、表面に自動車用の絶縁テープを巻いておきます。

▲フィルター枠(2個)を貼り合わせたアダプタ

 それともう一つ、レンズフードを取付けるためにオネジをメネジに変換しなければならないので、不要になったフィルターの枠をひっくり返してレンズフードに接着しなければなりません。これも同じように接着剤でくっつけ、内側をグルーガンで補強しておきます。

 あとは下から順に、レンズフード、クローズアップレンズ(No.4)、アダプタ、クローズアップレンズ(No.3)、クローズアップレンズ(No.3)と重ねていけば完成です。
 今回使用したクローズアップレンズのNo.3のうちの1枚は枠が厚いタイプだったので問題ありませんでしたが、枠が薄いタイプだとレンズの中央部が枠よりも飛び出しているため、重ねると干渉してしまいます。その場合は、フィルター枠を1枚かませるなどして、干渉しないようにする必要があります。

 下の写真が組み上がったルーペです。

 大きさがわかるように隣にブローニーフィルムを置いてみました。
 いちばん上に乗っているのは保護用(プロテクター)フィルターですが、これもガラクタの中から出てきたので、上側のクローズアップレンズを保護するためにつけてみました。使用上はなくても何ら問題はありませんが、クローズアップレンズが傷ついたり汚れたりするのを防いでくれるという点では役に立っていると思います。
 また、ルーペの下に置いてあるのが67判のポジ原版です。四隅が少しはみ出しているのがわかると思います。

 No.10のクローズアップレンズがあれば1枚で済んだのですが、有り合わせのもので作ったのでちょっと不細工になってしまいました。フィルター名やレンズ名の刻印がたくさんあってにぎやかですが、気になるようであれば適当なクロスか何かを巻いておけば問題ないと思います。

ガラクタから作ったルーペの使い勝手

 こうして完成したルーペですが、大きさや重さは以下の通りです。

  高さ : 105.5mm
  外径 : 80mm(上側) 85mm(下側)
  重さ : 224g

 クローズアップレンズ3枚と保護フィルター1枚、金属製のフードやフィルター枠を使っているので、やはりちょっと重いという感じはします。
 また、もう少し外径が細い方が私には持ちやすいとは思いますが、十分に許容範囲内です。

 実際にライトボックス上でポジ原版を見てみると、若干、糸巻型の歪みが感じられますが気になるほどではありません。
 67判の四隅はフードによってカットされてしまいますが、それでもほぼ全体が視野に入ってくるのでルーペを移動させる必要もなく、とても便利です。
 倍率は正確にわからないのですが、たぶん4倍程度といった感じです。ピントの甘いところやブレているところなどもしっかりとわかりますから、十分な倍率だと思います。

 そして、いちばん驚いたのがポジ原版の画像がものすごく立体的に、浮き上がって見えることです。広い範囲が見えるのでそう感じるのかもしれませんが、肉眼で見たのとは別の写真を見ているような印象です。

 ピントの位置も特に問題なく、ルーペをライトボックス上に置いた状態でフィルムにピントが来ています。
 もし、ピント位置が合わないようであればフィルター枠をかませようかと思っていましたが、その必要もなさそうです。

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 ガラクタを集めて作ったので見てくれは良くありませんが、クローズアップレンズを交換したり減らしたりすれば倍率も変えることができますし、ピント位置の調整もフィルター枠などを使うことで容易に行なうことができます。実際にクローズアップレンズを1枚外し、2枚構成にしてポジ原版を見てみましたが、倍率は少し下がるものの、十分に使用できるレベルでした。
 細部をシビアに点検するときは6倍以上のルーペが必要ですが、67判をほぼ視野に入れることができるメリットは大きく、今後、活躍してくれそうです。

(2023.1.12)

#ルーペ #クローズアップレンズ #リバーサルフィルム #ライトボックス

中国製モノクロフィルム 「上海 SHANGHAI GP3 100(220)」 の使用感

 中国製の「上海」というブランドのフィルムの存在は知っていたのですが、実際に使ったことはもちろん、使おうと思ったことはこれまで一度もありませんでした。しかし、ブローニーの220サイズのフィルムを今でも製造しているということでちょっと気にはなっていました。
 220フィルムをほとんど見かけることがなくなってしまった昨今、興味本位でGP3(ISO100)の220サイズを2本だけ購入してみました。どんな写りをするのか、試し撮りをしてきたのでご紹介します。

上海 SHANGHAI GP3 100 というフィルム

 このフィルムに関する知識がほとんどなかったので少し調べてみたところ、「上海建城テクノロジー」という会社が製造販売しているとのこと。もともとこの会社は1958年に設立された国営の映画会社だったようです。OEMとしてフィルム提供もしているようで、もしかしたら、この会社のフィルムが違うブランドで売られているのかも知れません。

 私が購入した時、220サイズのフィルム1本の価格は1,800円(税込)でした。
 数年前には220のモノクロフィルム1本が1,800円なんて考えられなかったのですが、フィルム価格が高騰している今では金銭感覚がマヒしてしまって安く感じられるので、慣れとは恐ろしいものです。

 イルフォードのDELTA100に似た色の使い方をした箱のデザインですが、漢字で書かれた「上海」の文字が異彩を放っています。
 箱が封印されていないことと、フィルムをとめてあるテープの糊が強力で剥がしにくいことを除けば、一般に出回っているブローニーフィルムと外観上の大差はありません。
 また、リーダーペーパーの先端には富士フイルムの製品に見られるような丸い穴が開いていて、スプールの突起に引っ掛けるようになっています。これはスプールが空回りするのを防ぐことができるので便利です。

現像液はコダックのD-76を使用

 一般に出回っている現像液であれば特に問題なく使えそうだったので、今回は手元にあったコダックのD-76を使用しました。現像に関するデータを調べてみたところ、D-76の原液を使用した場合、20度で9分となっていましたのでそれに準じました。
 停止液、定着液はいずれも富士フイルムの製品(富士酢酸、スーパーフジックス)を使用しました。

 フィルムを触った印象はやや硬めでしっかり感があります。イルフォードのフィルムと似た印象ですが、イルフォードよりも若干カールが強いように感じました。

 現像後のフィルムベースはわずかに青みがかった色をしています。
 また、普通のフィルムに見られるようなメーカー名やフィルム名、コマ番号などは一切入っていません。記録しておかないと、どのフィルムで撮影したのかわからなくなってしまいそうです。
 乾燥させてもフィルムのカールは強くて、スリーブに入れるため3コマずつにカットしても手を離すとくるんと丸まってしまいます。スリーブに入れてもスリーブ全体が湾曲するくらいですから、かなり強力です。

 下の写真はネガをライトボックスに乗せて撮影したものです。

 現像後のネガを見ると、黒(ネガでは白い部分)が引き締まった印象を受けます。黒からグレー、そして白へとなだらかに変化していくというよりは、黒は黒、白は白、といった感じのネガです。ちょっと硬いというか、パキッとした感じがします。

上海 SHANGHAI GP3 ISO100の写り

 今回、初めて使うGP3フィルムの試し撮りということで、新宿の東京都庁周辺を撮影してきました。使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mmと150mmです。
 都庁周辺は高層ビルが林立していたり、たくさんのブロンズ像やオブジェがあるので、試し撮りをするにはうってつけのスポットです。

 一枚目は都庁の都民広場にあるブロンズ像の一つ、「早蕨」です。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/250

 都民広場は東側に都議会議事堂があるため、午前中はこの建物の影になってしまい、ここにあるブロンズ像には陽があたりません。コントラストがあまり高くない状態で撮影するには午前中がお勧めです。

 上の写真は、ブロンズ像に陽があたり始めた時間帯に撮ったもので、南側(写真では右側)から陽が差しており、それによって像にも明暗差が出ている状態です。像の右側が白く光って立体感が出ています。全体のコントラストはそれほど高くなく、無難な光線状態といった感じでしょうか。
 背景となるビルの壁面などが非常に近いところにあるので主被写体が埋もれがちになっていますが、コントラストが高く表現されているので、壁面の模様からは浮かび上がっている感じです。

 画全体から受ける印象は、メリハリがあり、黒もそこそこ締まった感じがします。ベタッとつぶれることもなく像の質感も十分に感じられる仕上がりだと思います。
 ですが、解像度がちょっと荒いというか、ざらついた感じがします。

 顔のあたりを部分拡大したのが下の写真です。

▲部分拡大

 やはり解像度が荒く、ざらついた感じがします。

 次の写真は、同じく都民広場にあるブロンズ像の「はばたき」です。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/125

 背景は陽があたって白く輝いている高層ビルです。
 像には全く陽があたっていないので黒く落ち込んでいます。背景との明暗差が大きいのでシルエットに近い状態ですが、完全なシルエットにするのではなく、顔の表情がわかるくらいにしています。

 解像度としてはまずまずといった感じで決して悪くはないのですが、やはり黒がボヤっとした印象になっています。ですが、像も真っ黒につぶれてしまうこともなく、顔の表情もはっきりとわかるくらいですから、階調表現としても悪くはないと思います。

 ブロンズ像の3枚目は逆光状態で撮影したものです。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/250

 左上から像に光があたっている状態で、それを背後から撮影しています。背景の都庁のビルは日陰になっているのでトーンが落ち込んでいます。
 像の左側のコントラストが高く、肩や顔の辺りは白く飛び気味、逆に陰になった部分は黒くつぶれているので全体的にとても硬い感じがします。金属の質感が出ているという見方もできるかもしれませんが、このような状況下にはあまり向いていないフィルムのようにも思えます。

 また、焦点距離150mmのレンズで撮っていますが、背景の都庁ビルが思ったほどボケてくれず、像の浮かび上がりが不足している感じです。もう少し短いレンズで像に寄って撮影したほうが良かったかもしれません。

 4枚目は都民広場を見下ろす位置から撮影したものです。

▲Mamiya 6 MF G150mm 1:4.5 F5.6 1/250

 画の右側から太陽光が差し込み、都民広場の地面に濃淡のパターンが描かれている状態を撮りました。カラーコーンがぽつんと置かれていたのでそれを入れてみました。
 陰になっている部分はかなり暗いのですが、つぶれてしまうことなく地面に敷かれたタイルがしっかりと識別できます。一方、ハイライト部分、特にカラーコーンなどは立体感が失われるほど白飛びしています。

 全体的に解像度が極端に悪いという感じはしませんが、明部の階調は良くありません。

 もう一枚、都庁の第一庁舎と第二庁舎の間にある「水の神殿」というオブジェを撮ったものです。

▲Mamiya 6 MF G75mm 1:3.5 F5.6 1/125

 池のように水が張ってあり、その水面に映ったビル群を撮影しています。
 このオブジェのある辺りは高いビルに遮られて日陰になっており、水面が暗く落ち込んでいるので向こうにあるビルがくっきりと映っています。風もほとんどなかったので水面が波立つこともなく、まるで鏡のようです。

 全体的に落ち着いた感じのトーンであり、このような状況下では比較的よい写りをしていると思います。黒もそこそこ締まっていながらつぶれることなく表現できているのではないかと思います。

 ちょうど1年ほど前、ほぼ同じ位置から富士フイルムのACROSⅡで撮影した写真があったので比較のために掲載します。

▲Mamiya 6 MF G75mm 1:3.5 F5.6 1/125 ACROSⅡ

 こうして比較してみると、明らかにACROSⅡの方が解像度も高く、滑らかな印象になっているのがわかると思います。
 黒の締まりはGP3の方が高く、メリハリのある写真に仕上がっていますが、ACROSⅡの方は細部にわたって表現されていながら、全体として柔らかさが感じられます。
 ただし、現像条件が同じでないので、それによる影響も含まれている可能性はあります。

 どちらの表現が良いかは好みでしょうが、フィルムのクオリティとしてはACROSⅡの方が高いと思います。

 GP3の印象としては、黒のグラデーションも比較的きれいに表現できるフィルムといった感じです。反面、オーバー気味の露出にはあまり強くないという感じがします。
 また、解像度も決して悪くはありませんが、特別良いというわけでもなく、そのあたりの癖を把握しておけば十分に使えるフィルムだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今でも220サイズのフィルムが供給されているということは、それだけで何だか貴重な存在にも感じられます。敢えて220フィルムを使う理由もありませんが、1本で倍のコマが撮れるメリットは大きいと思います。
 今回、2本購入したのでもう1本残っていますが、積極的に使いたいというわけでもなく、かといって使わずに冷蔵庫に入れたままにしておくのももったいないので、試しにリバーサル現像をしてみようかと思っています。リバーサル現像しても大きな違いが出るとは思えませんが、ひょっとしたら何か発見があるやも知れません。結果が出たらご紹介したいと思います。

(2023.1.1)

#上海 #SHANGHAI #ACROS #GP3 #D76 #Mamiya

イルフォード モノクロフィルム ILFORD FP4 PLUS の使用感

 私が使っているモノクロフィルムの中で最も使用頻度の高いのがイルフォードのDELTA100ですが、先日、ストックが切れてしまったので、新たに購入しようと思い新宿のカメラ店まで行きました。ところが、そのお店でもたまたま売り切れで、次の入荷時期もはっきりとわからないとのことでしたので、代わりにイルフォードのFP4 PLUSを購入してきました。
 実は、これまでFP4 PLUSを使ったことはなく、今回が初めての購入です。データシートを見ると、粒状性にも優れており、高画質な画像が得られるとあります。
 試し撮りに新宿に行こうと思ったのですがあまりに暑いので断念し、調布市にある緑が豊かな深大寺に行ってきました。

現像液はイルフォード ID-11を使用

 このフィルムのイルフォードの推奨現像液はILFOTEC DD-X、PERCEPTOL、またはID-11となっていますが、今回は手元にあったID-11を使用しました。データシートによるとEI125の場合、現像時間は原液(20℃)で8分30秒となっていますので、それに準じます。
 定着液はイルフォードのRAPID FIXERを使用しました。

 フィルムを触った印象はDELTA100と同じで、やや硬めでしっかり感があります。
 イルフォードのフィルムを現像するときにいつも思うのですが、撮影後のフィルムを止めたシールがとても剝ぎにくいです。端っこをつまんで持ち上げればくるんと剥けて欲しいのですが、途中から裂け目が入って、細い幅の状態でビリビリと破けていってしまいます。目くじら立てるほどのことではないのですが、結構イライラします。

 外気温が30度を軽く超えているので室温も高いし、水道水の温度も20度を超えているので、深めのバットに氷水を入れて、現像液が19度くらいになるようにしておきます。室温で現像タンクも温まっているので、現像液を入れるとちょうど20度くらいになります。
 寒い時期はヒーターを使うことで微妙な温度調整ができますが、暑い時期に水温を微妙に下げて一定に保つというのは結構大変です。

解像度も高く、滑らかな階調のフィルム

 深大寺を訪れた日は真夏の太陽が照りつける晴天で、日なたにいると汗が止まらないといった暑さでした。大きな建物や樹木があるので、日なたと日陰の明暗差がとても大きい状態です。コントラストを活かした画作りには向いているのかも知れませんが、今回は初めて使うフィルムなので、フィルムの特性がわかり易いような被写体を選んでみました。
 使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mm一本だけです。
 なお、レンズフィルターは無色の保護用フィルターのみで、Y2とかYA3などのフィルターは使用していません。

 まずはちんまりと座っていた狛犬を撮ってみました。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F5.6 1/125

 狛犬に陽があたっており、バックは日陰になっている状態です。
 所どころ、黒くなったり苔が生えたりしている石の質感がとてもよく出ていると思います。表面の細かな凹凸も損なわれることなく表現されていて、解像度も申し分ないと思います。
 日陰になっている背景のお賽銭箱や、その奥の階段状になっているところも、状態がはっきりとわかるくらいなめらかに表現できています。
 狛犬のお尻の下あたりはさすがに黒くつぶれ気味ですが、それでも墨を塗ったようなべったりとした状態になっておらず、台座の質感が残っています。

 狛犬の後ろ足の辺りを拡大したのが下の写真です。

 石のざらざらとした感じが良く出ていて、十分な解像度があると言っても良いと思います。

 次の写真は元三大師堂の高欄を、下から見上げるアングルで撮影したものです。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/60

 画の左上から日が差し込んでいる状態で、宝珠柱や擬宝珠の一部が明るくなっています。この部分を明るくし過ぎると質感を損ねてしまうので、露出は切り詰めています。左上の天井部分はかなりつぶれ気味ですが、この方が雰囲気はあると思います。
 宝珠柱の木の質感や、右側にある銅板を巻きつけた架木の質感など、とてもよく出ていると思います。
 中央の宝珠柱の明るいところから暗いところへのグラデーションも見事で、円柱になっているのが良くわかります。

 日差しがとても強く、コントラストの高い状態ですが、三元大師堂のほぼ全景を撮影したのが下の写真です。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/125

 お堂の屋根や地面などは白く飛び気味になっており、逆にお堂の中は黒くつぶれ気味といった状態です。日差しの強さが伝わってくる感じで、中間の階調に乏しい、白と黒だけで表現したモノクロならではの写真と言えますが、同じイルフォードのDELTA100と比べるとコントラストが低めといった印象を受けます。
 極端にコントラストを高めて、黒い部分は真っ黒にという表現方法もありますが、つぶれすぎないというのがこのフィルムの特徴のようです。

 コントラストがあまり高くない被写体を探していたところ、うまい具合に木の陰になってなっていた門があったので撮ってみました。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F4 1/30

 直接の日差しはないので極端に明るい部分はありません。全体的に中間的な階調で構成されていますが、とても滑らかに表現されています。キリッとエッジの立った感じはありませんが、柔らかでありながら細部まで高画質で再現されています。特に、綺麗に削られた扉の木の質感、表面の滑らかな感じがよく伝わってきます。一方で、表面がざらついた看板の力強さのようなものも感じられます。

リバーサル現像でも高い解像度と滑らかな階調

 今回、FP4 PLUS の120サイズフィルム2本を撮影してきたので、1本をリバーサル現像してみました。
 現像データは以下の通りです。

  ・第一現像: SilverChrome Developer 1:4(水) 12分(20℃)
  ・漂白: 過マンガン酸カリウム水溶液+硫酸水溶液 5分(20℃)
  ・洗浄: ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液 3分(20℃)
  ・再露光: 片面各1分
  ・第二現像: SilverChrome Developer 1:4(水) 3分(20℃)
  ・定着: Rapid Fixer 希釈 1:4(水) 5分(20℃)
  ・水洗: 10分

 第二現像液は1:9に希釈するのですが、面倒くさいので第一現像液をそのまま使用し、現像時間を半分の3分としました。なお、各工程の間に水洗を入れています。

 本堂の脇に、梅の花の形をした金属製の飾りのようなもの(名前も用途もわかりません)があったので撮ってみました。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F5.6 1/60

 梅の花びらのところに木漏れ日が落ちているところを狙いました。木漏れ日のところだけは明るめですが、その他は全体的に日陰になっているので黒くつぶれるところもなく、背景もはっきりわかる状態で写っています。梅の花にピントを合わせ、あまり絞り込まずに背景をぼかしています。
 やはり、梅の花びらのところのグラデーションが綺麗に出ていますし、ベタッとした感じではないので、立体感もあります。

 もう一枚、お寺の境内を出て、参道沿いにあるお蕎麦屋さんの店先のタヌキを撮ったのが下の写真です。

▲深大寺 Mamiya 6 MF G 75mm 1:3.5 F8 1/500

 参道にも大きな木が茂っているので日陰になっているのですが、ちょうどタヌキのところに陽が差し込んでいました。バックが明るくなりすぎないよう、露出はタヌキの顔の辺りを基準にしています。当然、背景は露出アンダーになりますが、それでも看板の文字が読めるくらいには再現されています。

 通常のネガ現像であろうがリバーサル現像であろうが、同じフィルムを使って現像に失敗しない限りは同じような感じに仕上がるはずです。ただし、今回は使用した現像液が異なるので、その差はあるかと思いましたが、解像度や滑らかな階調、黒の出方などはネガ現像したものと比べても差はわかりません。リバーサル現像した方はスキャナで読み取る際、カラーモードで行ないますので、拡大するとごくわずかに色が乗っているのがわかりますが、スキャナの処理アルゴリズムに依存するところが大きいと思われます。
 リバーサル現像して得られるポジ原版は、ライトボックスに乗せれば出来具合が一目でわかるので便利ですが、現像の手間がかかるのが難点です。

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 初めて使用したフィルムですが、全体の印象としては、細部まで再現する高い解像度を持ちながら、非常に滑らかで柔らかな階調表現のできるフィルムといった感じです。DELTA100と比べるとコントラストは低く感じますが、低すぎてボヤっとしてしまうようなことはなく、繊細な表現力を持っているフィルムと言えば良いかも知れません。
 正確なところはわかりませんが、DELTA100よりもラチチュードが若干広いような感じもします。
 リバーサル現像してもいい感じに仕上がりますし、DELTA100と比較した場合、好みもありますが、被写体や撮影意図によって使い分けのできるフィルムだと思います。

(2022.8.2)

#イルフォード #ILFORD #マミヤ #Mamiya #深大寺

大判写真と35mm判写真は何がどのように違うのか その2:画作りへの影響

 今から10ヶ月ほど前、2021年8月に同じタイトルのページを書きました。大判と35mm判とではフィルム面の大きさが異なることに起因するいくつかの違い(階調や被写界深度、ボケなど)について触れてみました。
 今回は前回とは少し違った視点、構図などの画作りという点から大判写真と35mm判写真の違いについて触れてみたいと思います。
 なお、構図や画作りというのは、階調や被写界深度などのような物理的な違いではなく、あくまでも個人的な主観によるものですので客観的な比較というわけにはいきません。あらかじめご承知おきください。

アスペクト比の違いによる構図決めへの影響

 大判フィルムと35mm判フィルムの違いは大きさ(面積)もさることながら、アスペクト比(縦横比)も大きく違います。一口に大判と言ってもサイズは何種類もありますが、ここでは現時点で一般的に手に入れることができる4×5判を対象にします。

 4×5判のフィルムを横位置にした時の縦横の比率は1:1.26(96mmx121m)です。
 これに対して35mmフィルムの場合は1:1.5(24mmx36mm)ですので、大判フィルムに比べるとかなり横長(縦に置いた場合は縦長)になります。大判フィルムに比べて長辺が約19%伸びていることになります。
 この値は結構大きくて、大判フィルムの左右両端がそれぞれ11.5mm、長くなった状態です。わかり易く図にすると下のようになります。

 このアスペクト比の違いが、撮影するうえでの画作りにものすごく大きな影響があると感じています。
 私が4×5判や中判の中でも67判を多用している理由は、フィルム面が大きいことによる画像の美しさもありますが、四切や半切、全紙などのアスペクト比に近いというのも大きな理由です。特別な意図や事情がない限り、撮影したものをできるだけ切り捨てず(トリミングせず)にプリントしたいというときに、アスペクト比が近いというのはとてもありがたいことです。
 最近ではA4とかA3というサイズが増えてきていて、これは35mm判フィルムのアスペクト比に近いので、フィルムにしてもデジタルにしても35mm判(フルサイズ)を使う場合にはその方が都合が良いわけです。

 そういった意味ではどちらが良いということではなく、慣れの問題と言えると思いますが、アスペクト比に対する慣れというのはとても重要なことだと思っています。

 上でも書いたように、横位置に構えた場合、4×5判に比べて35mm判の横方向は19%も長いわけですから、かなり広範囲に渡って画面に入り込んできます。縦(上下)方向を基準に4×5判のアスペクト比1:1.26の感覚で画面構成しようとすると、左右が広すぎて収まりがつかなくなってしまいます。
 逆に横(左右)方向を基準にすると上下が切り詰められたようで、とても窮屈な感じを受けます。

 例えば日の丸構図のように、主要被写体を画中央に配置した場合、4×5判だと左右の空間は上下のそれと比べて少し広い程度ですが、これが35mm判だと左右の空間がとても広くなります。そしてこれは主要被写体を中央に配した場合に限らず、三分割構図などのように左右のどちらかに寄せた場合でも同じで、反対側の空間が広くなりすぎて、うまく処理しないと余計なものが写り込んだり、無意味な空間ができたりしてしまいます。

 これは中判フィルムを使った69判の場合もアスペクト比が35mm判とほぼ同じなので、同様のことが起こります。

 一方、35mm判のアスペクト比で構成した画を4×5判のアスペクト比に収めると、左右がカットされて窮屈に感じたり、左右を切り詰めなければ上下が広くなりすぎ、締まりのない写真になってしまうと思います。

 実際に撮影した写真を例にとってみるとこんな感じになります。
 下の写真は奥入瀬渓流で撮影したものですが、4×5判のアスペクト比で画を構成したものです。

▲アスペクト比 1:1.26(4×5判相当)で撮影した場合

 これに対して、上下方向の範囲を変えずに35mm判のアスペクト比で撮影したのが下の写真です。

▲アスペクト比 1:1.5(35mm判相当)で撮影した場合

 どちらの写真が良いとか悪いとかではなく、また、好みもあると思いますが、写真から受ける印象がずいぶん違うということです。
 当然、左右が広い分だけ35mm判のアスペクト比の方が横の広がりを感じ、パースペクティブの影響で奥の方から流れてきているように見えます。広さや動きを表現したりするのに向いていますし、ダイナミックな画をつくることができます。
 一方、4×5判のアスペクト比の場合、横の広がりは抑えられてしまいますが、流れにボリューム感が生まれているように思います。
 ただし、この写真を例にとると、35mm判アスペクト比の場合は左右が広く写るので川の両岸、特に右岸(画面左側)の処理がうまくいってない印象を受けます。反対に、左右が広く取り入れられているので全体の様子がわかり易いと言えるかも知れません。

 こうして2枚を比べてみると、35mm判アスペクト比の場合は広がりや力強さを表現し易いフォーマットであるのに対して、4×5判アスペクト比の場合は全体に落ち着いた感じ、安定した感じを受けるフォーマットのように感じます。その分、35mm判アスペクト比の写真に比べる物足りなさを感じるかも知れません。
 ですが、いずれにしても、同じ場所を撮影してもアスペクト比によって写真から受ける印象はずいぶん異なるということです。
 このように、35mm判と4×5判の写真を比較すると、階調や被写界深度、ボケなどによる違いも大きいですが、アスペクト比の違いはフレーミングや構図の仕方にも影響を及ぼすので、数値では表せませんが非常に重要な要素であると思います。

 4×5判や67判で撮影していると、「もうちょっとだけ、横の広がりが欲しい」と思うこともありますが、決められたフォーマットの中にどう収めるかを考えるのも重要なプロセスかも知れません。

写真の四隅に対する気配りの違いによる影響

 フレーミングや構図を決めるというのは35mm判であろうが大判であろうが、撮影における欠かせないプロセスの一つですが、この際に、フォーカシングスクリーンの四隅に神経をいきわたらせる度合いが、大判カメラの方が大きいような気がしています。
 一般的に主要被写体は中央部、もしくは中央部付近に配置することが多く、極端に隅の方に配置することはそれほど多くありません。そのため、どうしても中央部周辺には意識が向きますが、周辺部、特に四隅には意識が向きにくいという傾向があるように思います。

 35mm判カメラの場合、一眼レフカメラにしてもレンジファインダーカメラにしても、ファインダーをのぞき込めば全体が容易に見渡せ、ピントの状態も一目でわかります。
 これに対して大判カメラの場合、特に短焦点レンズの場合はスクリーンの周辺部が暗くなってしまったり、肉眼だけでは正確なピントの状態がわからないなど、全体を一目で確認することが困難な場合が往々にしてあります。画面の周辺部に余計なものが写り込んではいないか、画全体のバランスを欠いていないか、ピントは大丈夫か等々、いろいろなことを気にしながらスクリーン全体を何度も見直しします。

 このような手間のかかるプロセスを経ることによって、結果的に大判カメラで撮影した方が四隅に神経が行き届いた写真になることが多いというのが私自身の実感です。
 もちろん、35mm判カメラでも四隅に注意を配ることはできますが、全体が容易に見渡せるがゆえに、大判カメラほどには気を配らずにシャッターを切ってしまうということがあるということです。

 周辺部に気を配らずに撮った写真を見ると、撮影時点では気がつかなかったものが写っていたり、余計な空間ができていたり、全体的に何となく締まりのない写真なってしまうことがあります。
 主要被写体さえしっかり写っていれば良しという考えもありかも知れませんが、やはり周辺部に締まりがないと主要被写体のインパクトも弱くなってしまいます。

 そしてこれは、前の節で書いた画作りとも密接な関係があると思っています。
 つまり、35mm判の方がアスペクト比が大きい分、中心部から四隅までの距離が長くなるわけで、そのため、より意識を向けないと四隅が甘くなってしまう可能性が高まってしまうということです。
 35mm判カメラと大判カメラの構造的な違いによって、大判カメラの方が周辺部に意識を向けざるを得なくなるということ、また、何しろフィルム代が高いので失敗は許されないという意識が働くのかも知れませんが、思いのほか、写真の出来には大きな影響を与えているように思います。

ピントとボケのコントロールによる影響

 大判カメラの大きな特徴はアオリが使えることですが、それによってピントを合わせたりぼかしたりということが自由にできます。
 35mm判の一眼レフや中判一眼レフのカメラやレンズは、ごく一部の製品を除いてはレンズの光軸が固定されています。これに対して大判カメラは、意図的に光軸をずらすことでピントのコントロールを自在に行なうことができます。

 代表的なのが風景撮影でよく使われるパンフォーカスですが、近景から遠景までピントが合った状態にすることができ、視覚的にとても気持ちの良い写真に仕上がります。
 また逆に、レンズの絞りを目いっぱい開いてもボケてくれないような状況でも、アオリを使うことで大きくぼかすこともできます。

 下の写真は福島県にある滝を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM105mm F22 16s ND8使用

 アオリを使って撮影してるため、川の中にある足元の石から奥の滝まで、ほぼパンフォーカスの状態です。

 焦点距離105mmのレンズを使い、絞りはF22で撮影していますが、絞り込んだだけではここまでパンフォーカスにはなりません。
 このようにピントやボケをコントロールすることで、35mm判カメラで撮影したものとは雰囲気の異なった写真にすることができます。

 また、ボケをコントロールすることで主要被写体を浮かび上がらせたり、写ってほしくないのだけれど画の構成上、どうしても入ってしまうものをぼかすことで目立たなくしてしまう、というようなこともできます。

 いまはレタッチソフトでかなりの加工がきてしまうので、ボケのコントロールもパソコン上で自由自在といったところですが、フォーカシングスクリーン上で意図したボケの状態を作り出す面白さというのが大判カメラにはあると思います。

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 今回触れた三つの違いのうち、アスペクト比に起因する画作りの違いと、画の四隅に対する気配りの違いというのは物理的なものではないので、撮影の時点で注意をすれば大判カメラであろうと35mm判カメラであろうと同じような状態にすることができます。ですが、やはりアスペクト比に対する慣れというものは影響力が大きく、わかってはいても不慣れなアスペクト比ではなかなか思うように撮れないことも多いというのが正直なところです。
 フィルムフォーマットに縛られてしまうと本末転倒ですが、フィルムフォーマットを活かした画作りは意識すべきことだと思います。

(2022.7.1)

#アオリ #写真観 #構図

リバーサルフィルムのラチチュードは本当に狭いのか?

 一般にリバーサルフィルム(ポジフィルム)はラチチュード(適正露光域とか露出寛容度)が狭いので露出設定がシビアだと言われています。この「狭い」というのが何と比べて狭いのかというと、カラーネガフィルムと比べて狭いと思われているふしがあるようなのですが、ちょっと違うような気がしています。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使う頻度が高く、確かに露出設定には神経を使いますが、特段、カラーネガに比べてラチチュードが狭いとは感じたことはありません。
 リバーサルフィルムを使った撮影はハードルが高いと言われることもありますが、決してそんなことはないと思っています。

カラーリバーサルとカラーネガのフィルム特性

 何故、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言われているかというと、写真としてのそもそもの使い方の違いから来ているのではないかと思います。リバーサルは現像した時点で完成形ですが、カラーネガの場合は現像しただけでは完成しておらず、プリントが前提となっています。このため、プリントの段階で調整がきくので、カラーネガはラチチュードが広いと思われているのではないかということです。
 確かにプリントの段階で調整できるのはその通りですが、これはフィルム上に大きく圧縮された画像を、コントラストの高いペーパー上に伸長させて再現することで実現しているわけです。

 残念ながらずいぶん前に終了してしまいましたが、ダイレクトプリントというサービスがあり、リバーサルフィルムから直接プリントできました。ネガフィルムからのカラープリントに比べると、プリント時の調整幅は狭く、シャドー部がつぶれがちであったりしましたが、インターネガを介してプリントするとカラーネガフィルムからのプリントに引けを取らない調子が再現できていました。
 それを考えると、カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムのラチチュードが狭いとは言い切れないのではないかと思います。

 富士フイルムから出ているデータシートからフィルムの特性グラフを参照してみました。フジカラーPRO 160 NHというネガフィルムと、フジクロームVelvia 100Fというリバーサルフィルムの比較です。

 ネガフィルムの場合、実際の被写体の明暗が反転した状態でフィルムに記録されるので、光が当たった部分が暗くなります。すなわち、グラフ上の濃度の数値が大きいということになります。逆に光が当たってない部分は明るくなるので、濃度の数値が小さくなります。
 一方、リバーサルフィルムはネガと反対ですから、光の当たった部分は濃度が低く、光の当たってない部分は濃度が高くなります。このため、グラフの傾きは、ネガとリバーサルで反対になります。

 上のグラフの横軸の相対露光量の範囲を見ると、ネガ(PRO 160 NH)はおよそ-3.6~+0.5、リバーサル(Velvia100F)はおよそ-3.4~+1.0となっていて、若干の違いはあるものの、露光量に対して画像として記録できる範囲に大きな差はありません。
 ただし、曲線の傾きがネガの方が緩やかで、リバーサルはネガに比べて傾きが大きいことがわかります。これは、ネガの方が広い露光範囲で露光量に応じた濃度が得られることを意味しています。

 また、曲線が示す最大濃度はネガが約2.7(青)に対して、リバーサルは約3.8(緑)ですから、リバーサルの方が高い濃度まで再現できることになります。しかし、リバーサルは相対露光量が-0.2くらいで曲線がフラットになってしまいますが、ネガは+0.5でもまだフラットになっていません。
 これが、ネガは露出をオーバー気味にした方が良く、リバーサルは露出をアンダー気味にした方が良いと言われている原因ではないかと思います。
 とはいえ、あくまでもフィルムの特性が示す傾向であって、意図を持った作品作りを除けば、再現性という点ではネガでもリバーサルでも適正露出で撮るのが望ましいはずです。

ポジ原版をライトボックスで見てみると..

 リバーサルフィルムの特性曲線のグラフで、相対露光量の多いところと少ないところでは曲線の傾きがなだらかになっています。これは、黒くつぶれてしまっていたり、白く飛んでしまっているように見える画像の中にもコントラストとして記録されてるということです。

 実際にリバーサルフィルムで撮影した中から、黒くつぶれているところが多いポジ原版を探してきました。ライトボックス上で撮影したのが下の写真です。

 肉眼で見たのと同じようにはいきませんが、画の右半分が真っ黒につぶれているのがわかると思います。
 まだ陽が十分に差し込む前の渓谷で撮影したものですが、黒くつぶれた右半分のさらに上半分はこの渓谷の左岸にある岩肌で、下半分は水面なのですが上の岩肌を映しこんでいて、結果、右半分が真っ黒といった状態です。肉眼で見た時には岩肌ももっと明るく見えたのですが、撮影するとこんな状態です。人間の眼のすばらしさをあらためて感じます。

 それはさておき、この写真ではほとんどわかりませんが、この黒くつぶれた中にも所どころ明るい箇所があり、何やら写っているというのが見てとれます。墨で塗りつぶしたように真っ黒というわけではなさそうです。特に右下の辺りは川底の石がぼんやりと見えるので、それなりの画像は記録されていると思われます。

黒つぶれしているポジ原版をスキャンしてみる

 では、このポジ原版をスキャンしてみます。
 特に画質調整などの加工はせず、スキャンした素のままの画像が下の写真です。

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影したものに比べると、多少は細部も認識できるとは思いますが、アンダー部が黒くつぶれているのは変わりありません。画の左半分がほぼ適正露出なのに比べると明らかにアンダーです。
 それでも、ポジを肉眼で見たのに比べると画像が記録されている印象を受けるので、どの程度のまで認識できるかをレタッチソフトで明るくしてみます。画質をあまり犠牲にしないようにして、極端に劣化されない範囲で明るくしてみたのが下の写真です。右側上部の岩の部分です。

 一見、黒くつぶれているように見えますが、実はかなりのディテールまで画像として認識できるレベルに記録されています。もちろん、この著しくアンダーな部分を救済すれば、ほぼ適正露出である左半分は大きく露出オーバーになってしまいます。ですが、黒くつぶれているとはいえ全く画像が認識できないわけではなく、それどころかかなり鮮明に記録されているといえます。
 これが黒い中にも微妙なコントラストがある、リバーサルフィルムの表現力ではないかと思います。

 特性曲線のグラフでもわかるように、相対露光量に濃度が比例する範囲は狭いかも知れませんが、その前後が画像として記録されていないわけでなく、しっかりと記録されています。
 そういう視点からすると、一概にリバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言い切ってしまうことはできないと思います。むしろ、露光量が少ない範囲においてもしっかりと記録できるパフォーマンスを持っていると言っても良いのではないかと思います。

 因みに、この写真の左半分にある木々の緑に対して、右側の黒くつぶれているように見える箇所の測光値は-3EV以上になります。

 なお、この写真の右半分があまり明るくなってしまうと重厚感がなくなり、この場の雰囲気が大きくそがれてしまいます。もう少し明るくても良かったとは思いますが、意図して撮影した範囲ではあります。

白飛びでも画像として認識できるか?

 黒つぶれとは反対に、露出オーバーで白く飛んでしまった状態でも画像として記録されているのか気になるところです。
 ポジ原版のストックを探したのですが適当なものが見つかりません。唯一、露出設定を著しく間違えて撮影したポジがありましたので、これで検証してみます。

 このポジは滝を撮影したものです。NDフィルターを装着して撮影するつもりでしたが、ピント合わせなどをした後にNDフィルターをつけるのを忘れてたか、NDフィルターはつけたが絞り込むのを忘れてシャッターを切ってしまったかのどちらかですが、いずれにしろ実にお粗末な結果と言わざるを得ません。たぶん、これだけスケスケ状態になっているので、絞り込むのを忘れていたのだろうと想像しますが、そうすると5EVほどの露出オーバーということになります。
 ポジ原版を見ても何が写っているのかよくわかりません。撮影した本人でさえわからないのですから、他人からすれば全く認識不能といったところでしょう。

 この写真の中央付近を切り出して、無理矢理に画質調整をしてみたのが下の写真です。

 岩の質感などはわかる程度にはなりましたが色調はどうしようもなく崩れており、もはや写真として成り立たないレベルです。しかしながら、真っ白に近い中にこれだけの情報が残っているというのは驚きです。
 この例は極端すぎますが、3EVくらいのオーバーであればもう少しまともな画像が得られるのではないかと思います。

リバーサルフィルムのラチチュードは決して狭くない

 リバーサルの場合は現像が上がった時点で完成ですから、今回のようにレタッチソフトで画質調整をすることに意味があるとは思いませんが、真っ黒につぶれているように見えたり真っ白に飛んでしまっているような中にも、かなりしっかりと記録されているというのは事実であり、フィルムの力だと思います。
 また、露出オーバーよりも露出アンダーの方がよりしっかりと記録されており、特性曲線と一致しています。もっともこれは、露光量が増えれば増えるほど情報が消えていってしまうので、当たり前のことと言えますが。

 リバーサルフィルムは、特性曲線が傾いている範囲がカラーネガに比べて少ないのでラチチュードが狭いと言われているのかもしれませんが、決して狭いわけではないと思います。
 黒くつぶれたり白く飛んだりしている中にも情報が記録されていることでべったとした感じにならず、良くわからないけれど何やら写っている、というような印象を受けることで写真全体の雰囲気が変わってきます。ここにフィルム独特の味わいが醸し出されているのではないかと勝手に思い込んでいます。

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 モノクロプリントやカラープリントはもちろんですが、リバーサルフィルムからのダイレクトプリントでも覆い焼きや焼き込みといった作業で色を調整したりディテールを引き出したりしていたことを考えると、リバーサルフィルムの潜在能力の凄さをあらためて感じます。
 そして、特性の違いはありますがカラーネガフィルムに比べてハードルが高いということはなく、特に構えて使うフィルムでもないと思っています。むしろ、特性を知っておくことでいろいろな使い方ができる、そういったことに応えてくれるフィルムだと思います。
 ただし、お値段はお高めですが...

(2022.6.19)

#リバーサルフィルム #露出