PENTAX67用には2種類のコンバージョンレンズが用意されていました。いずれもレンズとボディの間に挿入するタイプで、「リアコンバータ REAR CONVERTER」という商品名で、1.4倍(1.4X)用と2倍(2X)用がありました。
ズームレンズが主流になってからコンバージョンレンズが使われる頻度は急激に下がったように思いますが、これ1本でレンズの焦点距離を伸ばすことができるわけですから、結構重宝された時代もあったと思います。特にPENTAX67用にズームレンズが出たのは1990年代の後半で、それまでは単焦点レンズのみだったので、それなりの需要はあったのではないかと思います。
私も2本のリアコンバータを持っていましたが、実のところ使用頻度はかなり低く、今でも新品のようにきれいな状態を保っています。
PENTAX67用リアコンバータ2Xの主な仕様
最初のPENTAX67用リアコンバータは「T6-2X」という製品だったらしいのですが、私はそれを使ったことはもちろん、現物を見たこともありません。私の持っているリアコンバータは2代目ということだと思います。当時の製品カタログを見ると、110,000円(税別)という価格が記載されています。結構なお値段だと思います。
取扱説明書等を放り込んである箱をあさったところ、リアコンバータの取説が出てきたので、そこから主な仕様を転載しておきます。
・倍率 : 2倍(2X)
・レンズ構成 : 4群6枚
・絞り方式 : 自動
・測光方式 : 開放
・大きさ : φ91 x 71.5mm
・重さ : 560g
使用できるレンズはフィッシュアイ35mmから400mmまでで、500mm以上のレンズやシフト75mm、レンズシャッター内蔵のレンズ等は使用不可、もしくは推奨しないとなっています。レンズの構造上、取り付けができなかったり、画面周辺部で光量不足が生じることが理由のようです。
PENTAX67用レンズのほとんどは外観が黒色に塗られていますが、リアコンバータはグレー(灰色)に塗装されています。
コンバージョンレンズなので操作するような箇所はありませんが、レンズの絞りや開放測光に連動するための機構が組み込まれています。
リアコンバータの基本的なふるまいとレンズ構成
コンバージョンレンズには大きく分けて倍率を下げるワイドコンバージョンレンズと倍率を上げるテレコンバージョンレンズ、そして、レンズの前に取り付けるフロントコンバージョンレンズとレンズ後端に取り付けるリアコンバージョンレンズがあります。
PENTAX67用のコンバージョンレンズはテレタイプ、そしてリアタイプということになります。
テレタイプのコンバージョンレンズの基本的なふるまいは、マスターレンズからの光を凹レンズで広げて、撮像面(フィルム)に入る光の範囲を狭く(小さく)するというものです。したがって、テレタイプのコンバージョンレンズは全体が凹レンズ、すなわちマイナスのパワーを持ったレンズということになります。
下の図はテレコンバージョンレンズのふるまいを模式図にあらわしたものです。
左側のマスターレンズからの光を凹レンズによっていったん広げることで、合焦面をマスターレンズよりもさらに後方に伸ばしています。
マスターレンズからの光を広げるだけであれば凹レンズだけでも可能ですが、像面平坦性を確保するために凸群と凹群の組み合わせになっているものがほとんどのようです。
PENTAX67用の2Xリアコンバータも同様の構成を採用していることは知っていたのですが、実際のレンズ構成が不明だったので分解してみました。
その結果、上図の下側の図に示すようなレンズ構成であることがわかりました。
取扱説明書には4群6枚構成となっているので、てっきり2群3枚構成のユニットが2つ存在しているものとばかり思っていましたが、実際には前側ユニットが1群3枚構成の凸群、後側ユニットが3群3枚構成の凹群となっていました。
鏡胴から取り出したレンズユニットが下の写真です。
写真の上側がマスターレンズ側、下側がボディ側になります。
ここからレンズを取り出したのが下の写真です。
左から3枚が後側ユニット(凹群)のレンズ、いちばん右側が前側ユニット(凸群)のレンズです。
後側ユニット(凹群)の3枚のレンズのうち、いちばん外側の1枚は凸レンズで残りの2枚は凹レンズです。そして、前側ユニット(凸群)は3枚のレンズが張り合わせてあるので詳しい構成は不明です。
メーカーによっては前群ユニットを凹群、後群ユニットを凸群としているコンバージョンレンズもあるようで、それぞれ長所短所があるのかもしれませんが、詳しいことは私にはわかりません。いずれにしてもマスターレンズの特性を損なわないようにしながら倍率だけを変化させるということが求められるのだろうと思います。
あらためて言うまでもありませんが、倍率が上がった分、暗くなるので露出の補正が必要になります。2倍のコンバージョンレンズの場合、露出は4倍(2段)にする必要があります。
余談ですが、レンズユニットを分解していて思ったのですが、極めて高精度に加工されている感じです。冬場で室内の温度も若干低いことも影響しているのかも知れませんが、レンズを押さえているリングを外してもレンズがぴったりとはまっていて出てきません。ドライヤーで温めてようやく取り出せるといった状態です。
レンズをはめる時もしかりで、ドライヤーで温めて枠を膨張させておかないとレンズがはまってくれません。
リアコンバータ2Xの写りについて
では、リアコンバータ2Xを装着することで、マスターレンズの写りに影響があるのかどうかということで、いくつかのテストチャートを使って撮影をしてみました。
実際に使ったレンズは「SMC TAKUMAR 6×7 105mm F2.4」という67判では標準レンズといわれている焦点距離のものです。
まずは、自作のテストチャート用の目盛り板を撮影したものです。
左側が105mmレンズ単体で撮影したもの、右側がリアコンバータを装着して焦点距離を210mm相当にして撮影したものです。いずれも約5mの距離から撮影しており、そこからほぼ同じ範囲を切り出して並べたものです。
厳密にはわずかな違いがありますが、目盛り0を中心にして前後のボケ方はほとんど変わらないといってよいと思います。
ちなみに、105mmレンズにリアコンバータを装着した場合とほぼ同じ焦点距離の200mmのレンズで撮影したものと比較したのが下の写真です。
左側が105mmレンズにリアコンバータを装着して撮影、右側が200mmレンズ単体で撮影したもので、撮影距離は同じく約5mです。
明らかに右側の200mmレンズで撮影した方がボケ方が大きくなっています。
次に、ボケの具合を見るためにテストチャートを撮影・比較してみます。
比較用に使用するテストチャートはこちらです。
これを105mmレンズ単体とリアコンバータを装着した場合について、それぞれ前ボケ、後ボケになるような位置で撮影したのが以下の写真です。
まず、105mmレンズ単体で、絞りF2.4(開放)で撮影した前ボケ、後ボケ状態のテストパターンです。
1枚目が前ボケ状態、2枚目が後ボケ状態で、レンズからピント位置までの距離は約5m、そこから前後に30cmずらした状態で撮影したものです。
そしてこちらが105mmレンズにリアコンバータを装着して撮影したものです。撮影条件は同じです。
同様に1枚目が前ボケ状態、2枚目が後ボケ状態です。
レンズ単体の方がボケの中にわずかに芯が残っているような印象を受けますが、極端に大きな違いは感じらません。
次に絞りをF8にして撮影した写真の比較です。
1枚目が105mmレンズ単体の前ボケ状態、2枚目が後ボケ状態、3枚目が105mmにリアコンバータを装着しての前ボケ状態、4枚目が後ボケ状態の写真です。
こちらは絞り開放時よりもさらに似通っている感じで、ほとんど差がわかりません。
リアコンバータは倍率を変えるだけでマスターレンズの特性を極力保持するという点からすると、それに十分に応えているように思います。倍率が上がったのは良いけれど、写りが大きく変わってしまったというのでは有難くありません。
最後に、解像度用のテストチャートを撮影してみましたので、それも掲載しておきます。
1枚目が105mmレンズ単体で撮影、2枚目がリアコンバータを装着しての撮影です。いずれも絞りはF4、撮影距離は約5mです。撮影範囲が異なるので、ほぼ同じ範囲を切り出しています。
コンバージョンレンズを入れると多少なりとも画質が落ちるというイメージがあったのですが、ほとんど影響がないのではないかと感じました。もっと厳密に計測すれば差は出るのでしょうが、実用上はほとんど問題のない範囲ではないかと思います。
コンバージョンレンズとはいいながら6枚ものレンズで構成されていて、今回、マスターレンズとして使用したSMC TAKUMAR 6×7 105mm も5群6枚構成ですから、それと同等の枚数で構成されているということになります。性能が高くてもうなずける気がします。
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冒頭でも書いたように、私はリアコンバータを使うことが非常に少なく、そのいちばんの理由は面倒くさいからということです。
確かに、リアコンバータを1本持っていけばレンズの焦点距離のラインナップが2倍になるわけですから便利ではあります。しかし、リアコンバータをはめたり外したりという面倒くささが優先してしまい、つい敬遠しがちになってしまいます。
なお、2倍のリアコンバータを使用する場合、露出を4倍かけなければなりませんが、私の場合、風景が主な被写体なのであまり気になることはありません。
また、マスターレンズの画質を落としたり特性を変えたりしたくないという思いもあり、レンズはできるだけ素のままで使いたいという思いもあります。
しかし、今回、非常に簡易的ではありますが比較撮影をしてみて、画質に関しては危惧するほどではないというのが実感です。あとは面倒くさいという気持ちが払しょくできれば、リアコンバータの活躍頻度も上がるかもしれません。
(2025.1.16)