第191話 撮影時に使用しているフィルターのあれこれ

 写真撮影用のフィルターというのは昔からいろいろなものがラインナップされていて、それらは時代とともに進化しており、現在もたくさんのフィルターが販売されています。フィルターメーカー大手のケンコーからは、現行品だけでも優に100種類を超えるフィルターが勢ぞろいしています。
 しかし、フィルターの需要というのはデジタルカメラの普及によって全体としては減少しているのではないかと思います。フィルム時代はこれでもかというくらいのフィルターをカメラバッグに入れて撮影に臨んでいる人もいましたが、撮影後の加工が容易になったデジタル写真ではその必要性も薄れてきているように思います。
 私も数種類のフィルターをカメラバッグに入れてはいますが、フィルターを使う頻度はあまり高くありません。1日撮影して一度も使わないということもありますが、今回は私が持ち歩いているフィルターをご紹介します。

色温度変換(CC)フィルター

 デジタルカメラにはホワイトバランスという機能があって色温度を任意に設定することができますが、フィルムカメラの場合はそれができないので、色温度を変換するためのフィルターが用意されています。
 このフィルターの機能は簡単に言うと、例えば朝夕の時間帯に撮影すると太陽の光の影響で赤っぽく写ってしまいますが、この赤っぽくなるのを防ぐため、色温度を若干上げるというものです。また逆に、特に晴天時の日陰などで撮影すると全体が青っぽくなってしまうのを防ぐため、色温度を下げるというフィルターです。もちろん、フィルター1枚で色温度を上げたり下げたりはできないので、色温度上昇用、下降用と用意されています。
 また、色温度の変換度合いによって、さらに何種類ものフィルターがあります。

▲左側の2枚が色温度降下用Wフィルター(W2とW10)、右側の2枚が色温度上昇用Cフィルター(C2とC8)

 一般に、色温度を上げるフィルターを「Cフィルター」、色温度を下げるフィルターを「Wフィルター」と呼ぶことが多く、それぞれCとWの後にどの程度の量を変換するかという数字がついています。例えばC2とかC4、あるいはW2とかW4という具合に。
 では、このCやWの後の数字がどのような意味を持っているかというと、これは「ミレッド」という値を表しています。
 ミレッドとは逆色温度のことで、色温度(ケルビン[K])の逆数をとって10⁶倍した値を用いています。なぜこんな面倒なことをしているかというと、数値の違いと、我々が実際に感じる色の差が比例するようにということで作られた単位のようです。

 色温度(ケルビン[K])と逆色温度(ミレッド[M])の関係をグラフにすると下の図のようになります。

 つまり、色温度で200[K]の差を例にとると、色温度2,000[K]と2,200[K]を比較した場合、視覚的にもその違いは判りますが、色温度10,000[K]と10,200[K]場合はおなじ200[K]の差であっても視覚的にはほとんど違いが感じられません。
 これをミレッドで表すと、2,000[K]は500[M]、2,200[K]は455[M]となり、その差は45[M]です。一方、10,000[K]は100[M]で10,200[K]は98[M]となり、その差はわずか2[M]です。
 色温度の差が同じ値であっても、もとの色温度の値が大きい(高い)ときはその影響度が少ないので、それに比例した数値にするための仕組みということになります。

 前置きが長くなりましたが、色温度変換フィルターのCとかWの後ろについている数字はミレッドを表していて、C2の場合は20ミレッド分の色温度を上昇させる、W2の場合は20ミレッド分の色温度を下降させるということを意味します。
 これを色温度に当てはめてみると、色温度2,000[K]=500[M]の時にC2フィルターを装着すると480[M]となり、色温度に変換すると2,083[K]になります。同様に、色温度10,000[K]=100[M]のときにC2フィルターを装着すると80[M]となり、この時の色温度は12,500[K]になります。
 すなわち、同じ20[M]であっても2,000[K]のときと10,000[K]のときとでは色温度の変換量が大きく異なりますが、視覚的には同じくらいの変化として感じられるということです。

 このように、光の具合によって赤っぽくなったり青っぽくなったりするのを防いで、自然な色合いにするのが本来の使い方なのでしょうが、私の場合、こういった使い方をすることはほとんどなく、逆の使い方をしています。つまり、色温度が低いときにさらに色温度を下げるためにWフィルターを使ったり、色温度が高いときにさらに上げるためにCフィルターを使うといった感じです。
 なぜこんな使い方をするかというと、例えば、朝夕の光が赤っぽいときに一層赤っぽくして明け方とか夕方の雰囲気を出すとか、晴天の日中の日陰で青っぽくなるのをさらに青っぽくして幻想的な雰囲気にするというのが狙いです。

 参考までに色温度変換フィルターを装着して撮影した写真を掲載します。
 下の写真は夏の日中に撮影したものですが、1枚目がフィルターなしで撮影、2枚目がC2フィルターを装着して撮影したものです。

 薄暗い渓流なのでフィルターなしでも全体的に青っぽくなっています(1枚目)が、C2フィルターをつけることで奥深い森の雰囲気を出そうとしたものです。

 色温度変換フィルターをこのような使い方をした場合、その効果が強すぎると現実離れした色になってしまい写真が台無しになってしまうこともありますが、明確な作画意図をもって使えばそれなりの効果があると思います。
 なお、色温度変換フィルターを装着した場合は露出補正が必要になります。メーカーが提示している変換量と補正量は以下の通りです。

  <変換量> <露出倍数>
  C2 : -20[M]  1.2倍
  C4 : -40[M]  1.6倍
  C8 : -80[M]  2.0倍
  W2 : +20[M]  1.2倍
  W4 : +40[M]  1.4倍
  W8 : +80[M]  1.8倍

モノクロ用フィルター

 代表的なモノクロ用フィルターと言えばY2(黄色)、YA3(橙色)、R1(赤色)で、私もこの3種類のフィルターを持っています。主に使うのは黄色のY2で、ときどきYA3を使うこともありますが、R1はほとんど使うことがありません。このほかにも緑色などもありますが、私は持っていません。

▲左下から時計回りにY2(黄色)、YA3(橙色)、R1(赤色)フィルター

 あらためて説明するまでもありませんが、これらのモノクロ用フィルターの機能は、ある波長以下の光、すなわち青寄りの光をカットしてコントラストを高めるというものです。
 具体的にフィルターごとの特性を数値で示すと以下のようになります。

  Y2  : 約500[nm]以下の光をカット
  YA3 : 約550[nm]以下の光をカット
  R1  : 約600[nm]以下の光をカット

 これをグラフにすると以下のようになります。

 これらのフィルターの効果は天候や被写体などによって異なりますが、Y2フィルターはモヤっとした描写を引き締めてくれる感じで、YA3フィルターはかなりコントラストが高くなる印象、そしてR1は赤外線フィルムで撮影したような感じに仕上がります。
 モノクロ写真の描写に関してはそれぞれの好みもあるでしょうし、作画意図によるところも大きいと思いますが、私はどちらかというとキリっとしまった感じの描写が好きです。かといってコントラストが高すぎるのは好みではなく、そういった点から黄色のY2フィルターを使うことが多いです。適度にコントラストを高めてくれるといった感じです。

 モノクロ用フィルターも露出補正が必要になります。メーカーが推奨している補正量は以下の通りです。

  Y2  : 2倍
  YA3 : 4倍
  R1  : 8倍

 ですが、私が実際に採用している補正量は以下の通りです。

  Y2  : 1.6倍
  YA3 : 3.2倍
  R1  : 6.2倍

 この差は何かというと、私が持っているフィルターを用いて実際に測光した値に基づいています。フィルターによって若干の個体差があるのかもしれませんが、メーカーの推奨値よりも補正量は少なめです。

減光(ND)フィルター

 あまたあるフィルターの中でも使用する方が多いほうに属するフィルターだと思います。
 このフィルターを使用する主な理由としては、

  1) 低速(スロー)シャッターを切りたい
  2) 絞りを開いて撮りたい 
  3) 目いっぱい絞り込んでも露出オーバーになってしまう

 というようなシチュエーションではないでしょうか。
 私の場合、大判カメラや中判カメラがメインなので、目いっぱい絞り込んでも露出オーバーになるというようなことはほとんどなく、低速シャッターを切りたいという理由がいちばん多いと思います。カメラバッグの中に常に入れているのは、ND8、ND16、ND400の3枚です。ND400は数十秒とか数分という長時間露光をするとき以外に使うことはありません。ほとんどはND8で事足りているという感じです。

▲左下から反時計回りにND8、ND16、ND400フィルター

 通常のNDフィルターよりも出番が多いのがハーフNDフィルターです。
 これは円形ではなく、私が使っているのは100mm x 150mmの長方形のフィルターです。真ん中あたりから徐々に黒くなっているもので、画面の半分くらいを減光したいというときに使います。例えば、曇った空を入れた風景を撮るときなど、空が明るすぎて飛んでしまうようなとき、空の部分だけにNDをかけるというような使い方です。
 これも減光度合いによって何種類もありますが、私が使っているのは「HND 0.6」という製品で、ND4に相当する2段分の減光をしてくれるものです。
 また、透明な部分と黒い部分の境目が急激に変わるハードタイプと、緩やかに変わっているソフトタイプがありますが、私はソフトタイプを使っています。

偏光(PL)フィルター

 このフィルターも使用していらっしゃる方は非常に多いのでないかと思います。特に風景を撮られる方の中には常用フィルター並みに多用されている方もいらっしゃるようです。
 最近はカメラのハーフミラーにも干渉を与えないC-PLがほとんどですが、大判カメラを使っている分には問題ないので、私は昔ながらの普通のPLフィルターを使っています。

▲PLフィルター

 PLフィルターを使うとコントラストが上がったりヌケの良い色合いになったりして見栄えがするのですが、かけすぎるとべたっとした感じになってしまいますので、私がこのフィルターを使うのは主に以下のような場合です。

  1) 渓流などで濡れた岩の反射を取り除きたい
  2) 木々の葉っぱが白っぽくなる反射を取り除きたい
  3) 水面の反射を取り除きたい

 渓流の濡れた岩の表面が反射するのは立体感があると言えばそうなのですが、あのぬらぬらした感じの反射があまり好きではありません。多少ならばそれほど気になりませんが、大きな岩全体がぬらぬらとテカっているのはいただけません。
 また、木々の葉っぱが白く反射していると妙にそれが目立ってしまい、しかもその量が多いと写真の重厚感が薄れてしまいます。
 そして、水面の反射に関しては、水底を見せたいという意図があるときに使います。ですが、水面は何か写りこんでいる方が見栄えがすることが多いと感じているので、この目的で使うことは多くはありません。

 なお、PLフィルターは経年劣化するというか、長年使っていると変色してきます。そうなると発色に影響があるので、変色してきたら新しいフィルターに買い替える必要があります。

保護フィルター

 レンズの性能を100%引き出すにはフィルターは使わない方がよいという意見があり、こだわりがあってフィルターは使わないという方もいらっしゃいます。確かに、レンズの前に余計なものは置かないに越したことはなく、しっかりコーティングが施されたフィルターであってもごくわずかの反射はあるでしょうから、厳密にいえば画質の低下があると言えるのかもしれません。
 しかし、保護用の無色透明のフィルターをつけた状態と外した状態で撮影した写真を比較してみても、私にはその差が全く感じられませんでした。

 私の場合、屋外、特に渓流とか山などでの撮影が多く、保護フィルターをつけておかないと埃が付着したり、木の枝などにレンズをぶつけて傷がついたりしてしまう恐れがあります。撮影の時だけフィルターを取り外すという選択肢もありますが、とてつもなく面倒くさいので着けっ放しです。唯一、取り外すのは他のフィルターを取り付ける時だけです。つまり、フィルターの2枚重ねはしないようにしています。
 保護フィルターはすべてのレンズに取り付けてありますからそれだけでそこそこの重量になるので、これらがなければ荷物も少しは軽くなると思うのですが、レンズを傷つけるわけにはいかないというほうが優先された結果です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 本文にも書いたように、保護フィルターを除けば私がフィルターを使う頻度は決して高くはありません。フィルターは持たないで出かけようと思うこともありますが、どうしても使いたいというときに持っていなければ手の打ちようもないので、最低限のフィルターだけはバッグに入れています。
 フィルター枠も薄いタイプのものがありますが、より軽くてかさばらないものがあればそれと交換したいです。

 余談ですが、今回からタイトルに通し番号をつけてみました。過去のページについては追って対応したいと思います。

(2025.3.13)

#NDフィルター #フィルター #色温度補正フィルター

簡易型ゾーンシステムに対応した露出換算器の作成

 私は大判カメラを使うことが多いのですが、大判カメラには露出計がついていないので撮影に際しては単体露出計が必要になります。また、撮影対象は風景が多いので、使用する露出計もスポット型の反射式露出計になります。
 スポット露出計は測光範囲が非常に狭い(私が使っている露出計の測光範囲は1度です)ので、1箇所だけを測光して露出を決めるということはほとんどなく、複数個所を測光して露出を決めるというプロセスを踏みます。このため、何箇所か測光した値を頭の中で捏ねくり回して決めるということもできますが、混乱して間違える可能性もあるので、自作の露出換算器を用いています。
 実際に作成したのはずいぶん前ですが、今回はその露出換算器をご紹介します。

撮影時におけるゾーンシステムについて

 複数の測光値から最終的な露出を決める際、自分の経験値に基づくことも多いのですが、露出が微妙な場合とか失敗したくないという場合、ゾーンシステムという仕組みに頼って決めることもあります。
 ゾーンシステムとは、かの有名な写真家、アンセル・アダムスによって考案されたとのことで、簡単に言うと撮影の際に最適な露出を決める手法といえます。また、撮影時だけでなく、フィルム現像やプリントの段階にも適用できるようになっています。
 ゾーンシステムは結構奥が深く、ゾーンシステム研究会なる組織も存在するほどです。ゾーンシステムの詳細について興味のある方は別のサイトをご覧いただくとして、ここでは自作の露出換算器に関係する撮影段階におけるゾーンシステムについてのみ、簡単に触れておきます。

 被写体の明るさ(輝度)は理論上、反射率0%の真っ黒から100%の真っ白まで無段階に存在するわけですが、ゾーンシステムではこの明るさ(輝度)を11段階に分けています。

 11段階に分けたそれぞれを「ゾーン」と呼んでいて、これには0から11までの番号、「ゾーン番号」が振られています。このゾーン番号には何故かローマ数字が用いられています。
 上の図でもわかるように、ゾーン0が真っ黒、ゾーンⅩが真っ白となっていて、この間に9個のゾーンが存在します。そして、ゾーンとゾーンの間は1EVの明るさ(輝度)の差があるように定義されています。したがって、ゾーン0とゾーンⅩの間は10EVの差があることになります。
 また、中央値であるゾーンⅤはニュートラルグレーで、いわゆる18%反射率に相当する明るさになっています。

 これが、撮影時における露出決定にどう影響するかというと、例えば、ある輝度を持った被写体を中庸濃度(ニュートラルグレー)で写そうとした場合、そのゾーンはⅤに該当するので、それよりも3EV暗いゾーンⅡに該当する被写体は細部が認識できるギリギリの明るさということになります。
 一方、3EV明るいゾーンⅧに該当する被写体は白飛びして細部が認識できなくなるギリギリ手前の明るさということになります。

このように、真っ黒につぶれてしまう、あるいは真っ白に飛んでしまって何も写っていないという状態にならない適正な露出の値を知るための効果的な手法といえます。

露出換算器の作成

 では、実際に作成した露出換算器ですが、その構造は下の図のようになっています。

 全体が3枚の円盤状のパーツからなっていて、いちばん下がシャッター速度を記したパーツ、その上(中段)が絞り値を記したパーツ、そしていちばん上がゾーンシステムの目盛りを記したパーツになります。
 これら3枚を重ねると、上図の左側に示したようような状態になります。

 3枚のパーツ(目盛り板)はそれぞれ下の図のような構造になっています。

 それぞれのパーツ(円盤)には全周を24等分した目盛りを振っていますが、24等分である必要はありません。15度間隔になって都合がよいので24等分していますが、20度間隔で18等分でも実用上は問題ないと思います。

 下段のパーツの外周には1/4000秒から8分40秒まで、22段階のシャッター速度を記しています。これも長時間側はあまり必要なく、高速側をもっと欲しいという場合はそれに合わせて範囲を決めればよいと思います。
 そして、シャッター速度の内側にはEV0~EV23まで、24段階のEV値を記しています。
 この目盛りは中段のパーツで隠れてしまうのですが、中段のパーツに開けられた窓からEV値が見えるようになっています。

 次に中段のパーツですが、この外周にはF1~F1440まで22段階の絞り値が記されています。この絞り値と下段のシャッター速度を合わせたときに、そのEV値が窓から見えるようになっています。
 また、絞り値の内周にはEV0~EV23まで24段階のEV値が記されており、これは上段のパーツのゾーン番号に対応させるためのものです。

 最後に上段のパーツですが、ここにはゾーン番号が記されていて、切り欠けの窓から中段のEV値が見えるようになっています。

 これら3枚のパーツを同軸上で回転できるようにしなければならないのですが、それを実現するために使用したのが2個のフィルター枠と1個のステップアップリングです。

 まず、下段のパーツは印刷した目盛り板を丸く切り取ってステップアップリングにはめ込みました。
 それが下の写真です。

 次に中段と上段のパーツですが、ここには変色して使わなくなったPLフィルターから偏光ガラスを取り外し、代わりに透明のガラスをはめ込んだものを使っています。
 そして、やはり目盛り板を丸く切り取り、ガラスの下側に置き、さらに下側からラミネートフィルムを貼り付けています。
 中段のパーツはこんな感じになります。

 同様に、上段のパーツにも目盛り板を貼り付け、ラミネートフィルムでサンドイッチしています。

 これら3つのパーツ(ステップアップリングとフィルター枠)を重ねるとこのようになります。

 これで露出換算器は完成です。

 ちなみに、私が作成した露出換算器はφ82mmのフィルター枠、およびステップアップリングを使用しています。使用済みのフィルターがこの径しかなかったのでこれを使いましたが、もう少し径が小さい(例えばφ67mmくらい)ほうが携行性は優れていると思います。

露出換算器の使用例

 さて、この露出換算器の使い方ですが、ゾーンシステムを使わない場合は単にEV値をシャッター速度と絞り値の組み合わせに分解するだけのものです。その場合は、下段と中段のパーツだけで用が足ります。つまり、中段に設けられた窓に該当するEV値が見えるように回転させると、そのEV値に対応したシャッター速度と絞り値が決まるということになります。

 では、ゾーンシステムを考慮する場合はどのように使用するかというと、下の図のような被写体を撮影する場合を例にしてみます。

 当然、被写体の中には明るい部分や暗い部分があるので、何箇所かの輝度をスポット測光します。上の図では4箇所を測光しています。
 この被写体では重厚感が損なわれないようにするため、全体が明るくなり過ぎないようにすること、そして、暗い部分のディテールが出るようにします。ここでは中央の木戸上部の細部がつぶれない露出値にします。
 この部分の測光値がEV7(ISO100)なので、これを暗部が表現できるギリギリの位置であるゾーンⅡに置きます。

 その状態が下の写真です。

 ゾーン番号Ⅱの位置に「EV7」が来ているのがわかると思います。
 このとき、ゾーン番号Ⅴの位置に来ている値が「EV10」となっているので、この被写体の場合、「EV10」で撮影すると狙い通りの露出になるということになります。
 次に、中段のパーツの窓に「10」が来るようにパーツを回転させると、このEV値に該当するシャッター速度と絞り値の組み合わせを得ることができます。
 また、このとき、被写体の中で最も明るい屋根瓦の部分はEV11なのでゾーンⅥに該当し、ゾーンシステムの明るさの定義である「明るい石の色」と一致しているのがわかります。
 上の被写体の場合、実際にはF5.6 1/30秒で撮影しています。

 この例はシャドー基準の場合ですが、ハイライト基準の場合は明るい個所を測光して、それをどれくらいの明るさに表現したいかという意図に沿って、EV値を該当するゾーン番号の位置の合わせれば、ゾーン番号Ⅴのところに適正露出となるEV値がきます。
 なお、カラーリバーサルフィルの場合、完全な黒つぶれや白飛びを防ぐには、ゾーンⅡとⅢの間から、ゾーンⅦとⅧの間くらいに収まるようにする必要があります。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 もともとゾーンシステムはモノクロ写真を前提に考案されているようですが、カラーリバーサルフィルムにも十分に適用できると思います。
 ただし、11段階に分けられたゾーンごとの明るさの定義は結構あいまいなところがあるので、何度か試してみて、実際の明るさとゾーン番号の関係性を把握する必要はあると思います。
 また、平均測光で露出を決める場合はこのような面倒な手順を踏む必要はありませんが、撮影意図をもって露出を決めたいという場合には効果的だと思います。
 いまから80年以上も前にこの方式が考案されたというのはちょっと驚きですが、今のように便利な機器が存在していなかったからこそ生まれたものだと思うと、感慨深いものがあります。

(2025.1.24)

#ゾーンシステム #小道具 #撮影小道具 #露出

野草撮影にあると便利な小物のあれこれ

 私が撮影対象としていちばん多いのは自然風景ですが、次いで多い対象物(被写体)が野草です。
 野草は背丈が低く、しかも、草むらの中などにひっそりと咲いていることが多いので、どうしてもローポジションでの撮影になりますし、マクロ撮影とまではいかなくてもかなりの近接撮影になるとこが多いです。また、光の具合を調整したりすることも多く、そのための小物類もいくつか持ち歩いています。
 私が野草撮影に使っているカメラは主にPENTAX67、およびPENTAX67Ⅱですが、今回はこれらのカメラでの撮影の際に用いている小物類をご紹介します。

クランプヘッド

 野草撮影で最も苦労するのが、カメラをいかに低いポジションに構えられるかということです。
 PENTAX67は言わずと知れた中判のフィルムカメラで、レンズも含めるとかなりの重量級となるため、三脚も大型のものを使っています。大型の三脚は、脚を目一杯広げて低くなるようにしても、カメラの位置は地上から40~50cmほどが精一杯という状況です。
 そこで、三脚の脚の部分にカメラを設置できるようなクランプヘッドを使用しています。

 私が使用しているこのクランプヘッドは改造品で、もともとはスリック製の「クランプヘッド38N」という製品と、マンフロット製の「スーパークランプ」という製品を組み合わせて作ったものです。これについては下記のページで紹介しています。

  「スリッククランプヘッドと超ローアングル撮影」

 この自作クランプヘッドを三脚の脚の最下部に取り付けると、最低地上高が数cmという高さでの撮影が可能になります。背丈が数cmしかないような小さな野草でも、ほぼ同じ目線で撮影することができます。
 このスリックのクランプヘッドの難点は、チルトとサイドチルトはできるのですがパンができないということです。つまり、カメラを上下に振ったり水平を調節したりはできるのですが、左右に振ることができません。
 これを解決するにはここに自由雲台のようなものを取付けるしかないのですが、そうすると最低地上高が高くなってしまい、地面すれすれでの撮影ができなくなってしまいます。

アングルファインダー

 クランプヘッドを用いることで低いポジションでの撮影が可能になりますが、そうすると、地面に腹ばいにでもならない限り、カメラのファインダーを覗くのがとても難儀になってしまいます。
 そこでカメラのファインダーを上から覗くことができるアングルファインダーを使用しています。

 ファインダーからの光を直角に曲げてくれるものですが、カメラのファインダーを中心に360°回転するようになっているので、上からも横からも覗くことができます。また、視度調整機能が備わっているので、自分の視力に合わせてくっきりとした像を見ることができます。
 カメラを地面すれすれに構えた状態であっても、しゃがみ込めばファインダー内を見ることができるのでとても便利です。
 私が使っているPENTAX67用のアングルファインダーは、カメラ背面のファインダー窓に嵌まっている視度調整レンズを外し、そこにアングルファインダーをねじ込むという方式なので、取り付け取外しが少々面倒です。野草を撮るときは付けっ放しにすることが多いのですが、そうするとアイレベルでの撮影の時に不便を感じます。取り付け取外しがもっと簡単だといいのですが。

接写リング

 レンズの最短撮影距離を更に短くして近接撮影を行なうためのものです。
 これについても下記のページで紹介しているので、詳細はこちらをご覧ください。

  「PENTAX67用 オート接写リング(エクステンションチューブ)」

 私が接写リングを使う理由は、近接撮影をするということもありますが、いちばんはボケを大きくしたいということです。なので、近くによってマクロ的な撮影をするというよりも、比較的焦点距離の長いレンズに接写リングを取り付けて、少し離れた位置から撮影するというスタイルが多いです。もちろん、3個の接写リングすべてを取付ければ、長焦点レンズでもその撮影距離はかなり短くなりますが、3個も同時に使うことはほとんどなく、なだらかできれいなボケが得られる範囲での使い方が多いです。

 接写リングを使用すると、レンズ側のピント調整リングで合わせることのできる範囲が非常に狭くなってしまうので、接写リングをとっかえひっかえしたり、三脚ごと撮影位置を前後したりしなくて済むように、あらかじめ撮影位置や撮影倍率のアタリをつけておくことが望ましいです。

レフ板

 前にも書いたように野草は背丈の低いものが多いので、うまい具合に光が回ってくれないことも多々あります。小さいがゆえに、光の状態が良くないと出来上がった写真はどことなく精彩を欠いてしまうことも少なくありません。
 光を調整するといっても限界があるのですが、比較的よく使うのがレフ板です。

 ポートレート撮影などでは畳半分くらいもあるような大きなレフ板を使うこともありますが、野草撮影ではそんな大きなものは必要なく、私が使っているのは25cmx40cmほどの大きさで、二つに折りたためば半分の大きさになります。
 このレフ板も自作品で、ボール紙にアルミホイルを張り付けただけのものです。できるだけコンパクトになるよう、真ん中から半分に折りたためるようにしています。
 アルミホイルは光沢のある表と光沢の少ない裏側とがあるので、反射率で使い分けられるようにレフ板の半分に表側、もう半分に裏側を出して貼っています。また、光が拡散(乱反射)するように、アルミホイルをしわくちゃに揉んだものを使用しています。

 草むらなどで光が十分に回っていないときなど、柔らかな光をあてて全体的に明るくするという目的で使用します。

 また、二つ折りにできるレフ板をくの字に折ることで地面に自立させることができます。レフ板を手で持っていなくても済むということと、本来のレフ板の使い方ではありませんが、被写体の脇に立てることで風よけにもなります。野外で撮影していると風で花が揺れてしまうということもよくありますが、この小さなレフ板でも被写体ブレを防ぐことに大いに役立ってくれます。

手鏡(ミラー)とストロボスポット光アダプタ

 レフ板は全体的に柔らかな光を回すために使いますが、部分的に強めの光を当てたいということもあります。周囲は暗めにして、花のところなど部分的に明るくしたいというような場合です。
 レフ板に比べると使う頻度は低いのですが、お目当ての野草を引きたたせるために、私は手鏡とストロボを使うことがります。

 まず手鏡ですが、カードサイズの小さな手鏡の中央部分だけを出して、周囲は黒い紙でマスクしたものを使います。

 カードサイズと言えども、そんな大きな反射光は必要なく、直径3~4cmほどの大きさの反射面があればほぼ用が足ります。
 手鏡と同じ大きさの黒い紙の中央をくり抜き、これを鏡に重ねて使うだけです。くり抜く大きさのものを数種類用意しておけば便利かもしれません。
 手鏡程度であれば荷物にもならなく便利ではありますが、光の調整ができません。太陽の光をもろに反射させるので、結構強い光が当たります。周囲が影になっているときだとコントラストがとても高くなってしまうので、使い方を誤ると失敗作をつくり出しかねません。

 手鏡に比べると荷物としてはかさばりますが、光の調整ができるのがストロボです。
 マクロ撮影などで影ができないリングストロボを使う方も多いと思いますが、全体を明るくするのではなく、あくまでもスポット光を手に入れたいということなので、私はごく普通のクリップオンストロボ(しかもかなり昔の製品)を使っています。
 ただし、ストロボそのままでは照射される光がかなり広範囲に広がってしまうので、ごく狭い範囲だけに照射できるようなアダプタを自作して使っています。

 アダプタというほど大層なものではないのですが、100均のお店で黒色のストローを買ってきて、これを半分の長さに切って束ねただけのものです。これをストロボの発光窓の前に被せて使います。
 ストローの直径が約5mm、長さが約90mmで、ストロボから発せられた光はここを通ることでほぼ直進成分の光だけに絞られます。斜め成分の光はストローの中を通る際に減衰してしまうので、照射される光は絞られたスポット光になります。

 正面から見るとこんな感じになります。

 これでもストロボの発光窓と同じくらいの大きさの照射光になってしまうので、さらに小さくするためにアダプタの先端に黒い紙で作ったマスクを取付けます。これで、直径3~4cmほどのスポット光になります。
 ストロボ側で光量を調整できるので、作画意図に合わせた光を得ることができます。

半透明ポリ袋

 手鏡やストロボとは反対に、光を拡散させて弱める目的で使用します。
 使っているのはスーパーなどのレジ近くに置いてあるタイミーパック、いわゆる半透明のポリ袋です。このポリ袋をボール紙で作った四角い枠に張り付けただけのものです。

 非常に薄い素材でできていて、光の透過率はかなり高いと思われるのですが、きれいに拡散されるので影になることなく柔らかな光にすることができます。ちょうど雲を通り抜けてきた光と同じような状態になります。
 直射日光が当たっていてコントラストが高すぎるときは、雲がかかってくれないかなぁと空を仰ぎ見ることがありますが、そういときに限って青空が広がっているものです。そんな時にこのポリ袋を被写体の上の方に置くだけで、雲がかかった時のような光の状態になります。

 サイズは大きい方が使い勝手は良いと思うのですが、大きすぎるとカメラバッグに入らなくなってしまうので、スーパーのレジに置いてある程度の大きさが手ごろではないかと思います。

洗濯ばさみ

 屋外で野草撮影していて以外に重宝するのが洗濯ばさみです。
 洗濯ばさみをそのまま使うのではなく、私は洗濯ばさみどうしを紐でつないだものと、菜箸の先端に洗濯ばさみを括り付けたものの2種類をカメラバッグに入れて持ち歩いています。

 これらをどう使うかというと、まず、洗濯ばさみどうしを紐でつないだ方ですが、これは撮影に際に邪魔になる枝や草などをちょっと脇に避けてもらうときなどに使います。枝を折ったり草を切ってしまうわけにはいかないので、これを洗濯ばさみでつまんで引っ張って、もう一方の洗濯ばさみをほかの木の枝なり三脚なりに挟みます。これで、撮影が終わるまでの暫時、邪魔になるものに避けてもらうことができます。

 菜箸の先端に括り付けたほうも目的は似たようなものですが、こちらは地面に刺して使うことが多いです。紐でつないだ洗濯ばさみの一方を止める場所がないときに、この菜箸を地面に刺してここに止めるとか、あるいは菜箸の先端の洗濯ばさみで避けたいものを挟み、菜箸を地面に刺すなどといった使い方です。もちろん、手で持っていることもできますが、地面に刺しておいた方が楽です。
 また、上で紹介した半透明のポリ袋の枠をこれで保持するといった使い方もします。
 なお、洗濯ばさみは挟む力が強すぎない木製のものを使用しています。

 自然のものはあるがままの状態で写すべきとも思いますが、時にはどうしてもフレームの中に入ってほしくないものがあるのも事実で、そういったときに使っています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 フィールドでの野草撮影は結構手間がかかります。被写体が小さいというのもありますが、光の状態などによって全く雰囲気が変わってしまうので、気に入った光、気に入ったアングルなどを決めるのに時間がかかります。その間にも状況はどんどん変わっていってしまいます。自然の状態にできるだけ手は加えたくないと思うのですが、最低限の処理で撮影をするようにしています。
 野草撮影といってもそうそう珍しい花に出会えるわけではありませんが、植物図鑑やネット上の記事でしか見たことのない野草に出会ったりするとやはり嬉しいものです。
 一方で、昨年ここに咲いていたはずなのに、今年はなくなっていたなんていうこともあり、環境の変化で生きていけなくなったのか、盗掘によるものなのかはわかりませんが、寂しい思いをすることもあります。
 どちらかというと華やかさはなく地味なものが多い野草ですが、野生で生きていく力強さも相まって何とも魅力のある存在です。

(2024.8.23)

#PENTAX67 #クランプ #ペンタックス67 #小道具 #接写リング

夏の野外撮影 暑さ対策グッズのあれこれ

 昨年(2023年)は記録的な暑い夏でしたが、今年(2024年)はそれに輪をかけて暑い日が続いています。たぶん、昨年の記録を上回る暑い夏になるのではないかと確信をしています。体温に匹敵する、時には体温を上回るような暑い日が続くと撮影意欲も減退します。
 私が主に撮影する被写体は自然風景や野生の花などなので、撮影となると暑くても野外に出かけなければなりません。できるだけ気温の低い早朝や夕方の撮影をと思ってはいますが、時には日中に出かけることもあり、容赦ない太陽の光と熱を浴びながら歩いていると気が遠くなるような気がします。
 撮影中に熱中症などでぶっ倒れでもしたら大変なので、自分自身の暑さ対策もあれこれやっていますが、同じくらい、カメラやフィルムの暑さ対策も必要になります。できるだけ日陰を選んで歩いたり撮影したりはしていますが、特に大判カメラの場合、撮影の準備や撮影そのものに時間がかかるので、どうしても日にさらされる時間が長くなります。

 ということで、今回は私がやっている暑さ対策についてご紹介します。

日傘ホルダー&日傘

 夏の撮影でいちばん苦労するのは、いかに直射日光を浴びないようにするかということです。森の中などのように木が生い茂っているところは有難いのですが、自然相手の撮影なのでなかなか都合よくはいきません。
 そこで、人工的に日陰を作ろうということで、三脚に日傘を取付けて撮影に臨んでいます。

 私が使っているのは、エツミの「傘ホルダーレインブラケット DXⅡ」という製品で、これに日傘を取付けて使っています。もともとは雨降りの日の撮影用にということで用意したものですが、夏の日除け対策にも役立っています。
 この製品を購入したのは10年以上前になると思います。かなり以前から販売されていたもので、まるでメタルベンダーを使って手作業で作ったような手作り感満載の風貌です。
 最近はクランプ型の傘ホルダーの類いがたくさん販売されていますが、ちょっと力がかかると壊れてしまいそうな気がして食指が動きません。その点、この傘ホルダーはハンマーで力いっぱいたたいてもびくともしなさそうです。

 この製品は2つのパーツに分かれているのですが、L型に曲がっているパーツ(固定プレート)は三脚の雲台を固定するネジに差し込み、そのまま運台を締めつけて使用します。取り付けたり外したりが面倒なので、私は取り付けたままにしています。ここに、もう一つのパーツ(ブラケット)を取付けて使用します。こちらは取り付けたままにしておくと三脚の持ち運びの際にとても邪魔になるので、使用するときに取り付けるようにしています。

 何ともシンプルな構造ですが結構しっかりしていて、大きめの傘でもぐらつくことがありません。傘の取り付け角度は前後にそれぞれ30度ほど調整ができるので、撮影アングルや日差しの向きなどに合わせて動かすことができます。 
 傘の柄の直径が概ね10mm以下であればどんな傘でも問題なく取り付けることができますが、私は撮影の際は折りたたみ傘を持ち歩いているので、それを使用しています。

 人工的な小さな日陰ですが、この日陰があると無いとでは夏の撮影時にかかる負担は雲泥の差です。

カメラ用の日除けカバー

 日除けの傘があれば自分自身だけでなくカメラも日差しから守ることができるのですが、太陽の位置や角度によってはどうしてもカメラに直射日光が当たってしまうという場合もあります。真夏の強烈な日差しにさらしておくとカメラの筐体や蛇腹がものすごく熱くなります。このような状態を長時間続けておくと、カメラへのダメージも大きいだろうと思われ、その対策用にカメラカバーを持ち歩いています。

 これは、100均で購入した保冷袋を切り開いて、カメラにかぶせるようにしたものです。これだけだと腰がなくてフニャフニャしてしまうので、内側に薄手の段ボール紙を貼っています。
 これをカメラの上にかぶせ、左右両側に取り付けたゴム紐をカメラの下側に回しかけて固定するだけという単純なものです。
 使用するレンズによってレンズ自体の長さや繰り出す蛇腹の長さが異なるので、あまりピッタリとした寸法にするのではなく、若干大きめにしておいて、前後に自由に動かせるようにしています。

 以前は白っぽい色のタオルをカメラにかけて日除けをしていたのですが、タオルをかけてしまうとカメラの操作がしにくくなるのと、タオルがカメラに密着してしまうので、以外と熱が伝わってしまうということがあり、このカバーを使うようになりました。
 とても軽く、畳んでカメラバッグに入れておけば邪魔にもならないので思いのほか重宝しています。

フィルム用保冷バッグ

 暑い夏の撮影でもっとも神経を使うのがフィルムです。フィルムは冷凍保存ができるくらいですから寒さには強いのですが、高温のところに長時間さらされると乳剤が変質してしまいます。なので、暑い季節に野外撮影に行くときは、フィルムをできるだけ涼しいところに保管するようにしています。
 本来は保冷剤を入れた保冷バッグを使うのが望ましいのですが、かさばってしまうので現実的ではありません。
 そこで、小さな保冷袋にフィルムを入れて携行するようにしています。

 この保冷袋はフィルム用というわけではありませんが、ちょうど4×5判のフィルムホルダーが入る大きさのものを見つけたので購入したものです。4×5判フィルムホルダーが6枚と、ブローニーフィルムが5~6本入ります。
 保冷剤を入れているわけではないので冷やすことはできませんが、フィルムの温度が上がるのを極力抑えることはできます。この保冷袋ごとカメラバッグに入れています。
 4×5判フィルムホルダーが6枚だと両面で12枚のフィルムを携行することができるので、手ごろな大きさだと思います。

クールタオル

 野外撮影の際にタオルは汗を拭くだけでなく様々な用途に使えるので傾向は必須ですが、暑い時期に普通のコットンタオルを首にかけていると熱がこもってさらに暑く感じます。吸水性には優れているので何かと便利ではありますが、暑さ対策という点からするとイマイチといったところです。
 私は少しでも涼しさを感じられるようにということで、暑いときの野外撮影にはクールタオルを用いています。

 この類いの商品はたくさん販売されていて、どれが良いのやら判断に迷いますが、私が使っているのは特別なものではなく、薄い生地のクールタオルです。水で濡らした後、絞ったりブンブン振ったりするとひんやり感のあるタオルになります。暑いときは20分もすれば水分は抜けてしまいますが、それでも肌触りがサラサラした素材なので気持ちが良いです。乾いた状態で首にかけていても、熱がこもるような感じはありません。

冷却スプレー

 渓流沿いを歩いて撮影しているときのように、常に手が届くところに水がある場合は、タオルが乾けばすぐに濡らすことができますが、山や森に入るとなかなかそういうわけにはいきません。携行している飲み水でタオルを濡らすということもできますが、大量の水を持ち歩いているわけではないので、飲用以外の用途に使うことはほとんどありません。
 そこで、濡れタオルの代用として重宝するのが冷却スプレーです。

 あまり容量の大きなものは重いしかさばるので、ほどほどの大きさのものをカメラバッグに入れています。タオルに吹きかけるとすぐにキンキンに冷えるし、薄手のTシャツなどの上から吹きかけるととてもひんやりとします。
 ただし、ひんやり感はそう長くは続かないので、一時的に冷やすだけの効果です。それでも、暑さに火照った体にはありがたい存在です。
 直接肌に吹きかけると冷たさを通り越して痛みを感じるので要注意です。

瞬間冷却材

 冷却スプレーは局所的、かつ、短時間しか冷えないのに対して、もう少し長い時間、体を冷やしたいというときのために瞬間冷却材を携行しています。
 外袋を叩いて中の袋を破ると、中に入っている硝酸アンモニウムと水が反応して瞬時に冷たくなる仕組みのようです。

 外気温によっても違うのでしょうが、暑いときでも20分くらいは冷たい状態を保ってくれます。これを手ぬぐいなどにくるんで首筋や額に巻いておくと体全体が冷える感じがします。
 軽いので5~6個持ち歩いてもそれほど負担にはなりませんが、私は3個ほどを携行して、本当に暑いときにだけ使うようにしています。
 とても便利なアイテムですが、使い終わった後、ゴミになってしまうのが難点です。

防虫スプレー

 防虫スプレーは暑さ対策というわけではありませんが、特に初夏から秋口にかけては虫に刺されるリスクも高いので、防虫スプレーは常に携行しています。
 これもいろいろな商品が販売されているので自分に合ったものを使えばよいのですが、私は天然由来成分配合と書かれたものを使っています。これまでたくさんの種類の防虫スプレーを使ってみましたが、臭いがきつかったり、スプレーすると肌がべたついたりするものも多くあり、適度な香りとサラサラ感のあるものということで、今はこれを使っています。

 携行するので、できるだけ小さなボトルのものを購入しています。

 防虫スプレーはその名の通り虫よけで、いちばんなじみ(?)があるのが蚊だと思います。確かに蚊はどこにでもいるし、刺されると痒くて撮影の集中力が低減するし、防御したい虫の代表格ではありますが、実は私がいちばん避けたいのはアカウシアブです。蚊に比べると出会う頻度は格段に少ないのですが、どこにでも生息しているらしいので、どこで遭遇しても不思議ではありません。
 このアカウシアブ、見た目の大きさも姿かたちもスズメバチにそっくりです。ハチの場合、こちらが何かしなけば刺すことはないですし、追い払えば逃げていきますが、アカウシアブは動物の血液を吸うことが目的なのでしつこくつきまとい、追い払っても逃げません。刺すといういうよりは血液を吸うために肌を噛み切るらしいのですが、そうすると大きく腫れて痛みもあり、それが何日も続いて大変なことになるようです。
 私もアカウシアブには何度もつきまとわられたことがあります。幸いにもまだ噛まれた経験はありませんが。
 防虫スプレーがアカウシアブにどの程度の効果があるかわかりませんが、虫が嫌がる臭いであれば寄ってこないのではないかと思い使っています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 年々、夏の暑さが厳しくなる気がしており、夏の野外撮影は本当にしんどいと感じることが増えたように思います。毎年、自分が歳をとっていることも影響しているかもしれませんが...
 このような暑いときに撮影に行かなくてもよいではないかと思ったりもしますが、やはり、この時期でなければ撮れないものもあるわけで、暑い々々と言いながらもカメラを背負って出かけていきたくなります。
 20年くらい前まではこのような暑さ対策グッズなど持たずに出かけていたと思うのですが、年齢を重ねたことを差し引いても、近年は急速に暑さが増していると思います。
 いろいろなものを携行すればそれだけ荷物が重くなるわけで、本来は暑いときは荷物を軽くしたいのに、それに逆行している現実があります。

 そういえば、最近、水冷式のベストが脚光を浴びているようで、鳥肌が立つほど涼しいというレポートを見たことがあります。そんなに効果があるのかとだいぶ気になっているのですが、大量の水を背負った状態でさらにカメラバックを背負うことは困難だと思われ、今のところ購入に至っていません。

(2024.8.8)

#大判フィルム #小道具

最近、姿を消しつつある撮影機材などのあれこれ ~手に入らなくなる日も近いかも...~

 デジタルカメラが普及するとともにフィルム写真のシェアはどんどん小さくなっていき、フィルムカメラやフィルムが次々と市場から姿を消していったのは言うまでもありませんが、相変わらずフィルムで写真を撮っている私のような立場からすると、カメラやフィルム以外にも姿を消していっているものがたくさんあって、何とも言えない寂寥感のようなものがあります。
 デジタルカメラではほとんど使うことはないけれど、大判カメラや中判カメラではないと困ってしまうものがたくさんあり、そんな中で、特に数を減らしつつある撮影機材などについて触れてみたいと思います。

スポット単体露出計

 今のカメラには露出計が内蔵されているため単体露出計の必要性はほとんどありませんが、大判カメラには露出計が内蔵されていないので、単体露出計は必須アイテムの一つです。単体露出計はニーズが激減しているので市場から姿を消していくのは自明の理ですが、私が主な被写体としている風景撮影に必要な反射光式単体露出計、しかもスポット単体露出計の現行品は、私が知る限り1~2機種しかありません。

 現在、私が使っている露出計はPENTAXのデジタルスポットメーターという機種で、もちろん現行品ではありません。今のところは正常に機能しているので問題ありませんが、万が一、壊れでもしたら一大事です。
 入射光式の単体露出計は反射光式に比べると現行品も多くありますが、入射光式で反射光式露出計の代替をするというのはやはり無理があります。広範囲を測光するのであれば入射光式でも良いのですが、ここの露出は外したくないというようなピンポイントでの測光にはスポット露出計がどうしても必要になります。

 機械ものなのでいつかは壊れるだろうし、その時のために今から予備を用意しておこうとも思いますが、上でも書いたように現行品は極々限られた機種のみで、しかも、購入しようとするとかなりの高額を覚悟しなければなりません。かといって、中古品も潤沢に出回っているわけではなく、大手ネットオークションサイトを見てもスポット式露出計の出品はとても少ないです。また、中古品の場合は測光精度が不明なため、手を出しずらいというのが正直なところです。
 スポット測光のついているデジタルカメラを代用にと考えないこともありませんが、機材が大きくて重くなるので使い勝手としてはイマイチどころかイマニ、イマサンといった感じです。
 中古カメラ店やネットオークションサイトで根気よく探すしかないのかも知れません。

ケーブルレリーズ

 露出計のように高額でもなく、小物アクセサリーの代表格のようなケーブルレリーズですが、これも店頭からは姿を消しつつあります。それでも大手のカメラ店に行けば手に入りますが、やはり2~3種類しかありません。
 ケールレリーズなどどれでも同じだろうと思われるかも知れませんが、実はそんなことはなく、長さであったり操作部の形状であったり、自分の撮影スタイルにあったものとなると限られてしまいます。
 ちなみに、私にとって使いやすいのは、長さが60~70cmで、操作部が比較的小さなものです。

 ケーブルレリーズはまさに過去の遺物のような存在になってしまっているため、中古市場には多く出回っていますが、私の使用条件に合うものとなるとほとんどありません。
 普通に使っていれば壊れることはまずありませんが、撮影に行った際にどこかで落としてしまったなんてことは十分にありうるので、やはり予備は持っておきたい小物です。ケーブルレリーズがなければ指でシャッターを押すことも可能ではありますが、カメラブレが心配ですし、何よりも撮影時の意気込みに影響を与えます。
 また、構造はいたってシンプルなのですが、この代替となるようなものが見当たりません。
 新品で購入してもたかだか数千円の小物ですが、撮影において果たす役割はとても大きな小物でもあります。

冠布

 大判カメラでの撮影時に、外光を遮断するために頭からすっぽりとかぶる風呂敷のようなものです。
 大判カメラの後部についているフォーカシングスクリーンに光が当たると、ここの結像がほとんど見えなくなってしまいます。そのため、外部からの光、特に後部からの光を遮断して結像が良く見えるようにします。フィールドカメラにはフォーカシングスクリーンにフードがついているものもありますが、後方に太陽があるとほとんど役に立ちません。
 この冠布、扱っているお店がとても減ってしまいました。というよりは、冠布の製造をやめてしまった会社(メーカー)が多いというのが正しいと思います。

 冠布が手に入らなければ遮光性の高いカーテンなどを適当な大きさに切って代用することも可能なので、もし市場から姿を消してしまってもそれほど深刻ではありませんが、やはり、専用に作られているものの方が優れているのは言うまでもありません。
 私もかつては数枚持っていましたが、汚れたり、あちこち破れたりしたので捨ててしまい、今は1枚だけになってしまいました。この1枚がボロボロになったら、「お値段以上」のお店に行って遮光カーテンを買って自作してみようと思います。

ライトボックス

 私が使うフィルムはリバーサルがほとんどなので、撮影後のポジを確認するためにライトボックスが必要になります。フィルム用のライトボックスは光の色によってポジの色調が変わらないよう、色温度5,000Kが標準とされています。
 ライトボックスはフィルムチェック以外にもトレースなどで使用する人もいるのでなくなることはないだろうと思っていたのですが、なんと、最近になって急激に姿を消しつつあるように思います。

 私が使っているライトボックスはかなり昔のもので、光源に蛍光管を使っています。今では様々な照明機器がLEDになりつつあり、蛍光管自体が非常に珍しい存在になってしまいました。しかも、色温度が5,000Kという蛍光管はもはや手に入らないのではないかと思っています。数年前に蛍光管を交換しているので、あと数年は光量も落ちることなく使えると思いますが、その先のことはわかりません。
 LEDタイプのライトボックスにしようと思っていろいろ探してみたところ、以前は結構たくさんの機種があったのにすっかり減ってしまい、5,000Kのライトボックスはごくわずかしかありませんでした。研究用とかの非常に高額なものはあるのですが、手ごろな価格のいわゆる民生用は姿を消しつつあるという感じです。

 今使っているライトボックスの蛍光管がヘタってきたら、5,000KのLEDライトを購入して蛍光管と交換しようと思っています。
 ただし、LEDの光は蛍光管のように拡散しにくいので、乳白色板を入れるなどして、色温度が変わらないようにしながら光を拡散させなければならず、若干の工夫が必要そうです。

ポジフィルム用スリーブ、ポジフィルム袋

 ポジ原版はそのままで観賞できるように透明の袋に入れて保管しなければなりません。一般に「OP袋」と呼ばることが多く、フィルムの大きさに合うように何種類もの製品が用意されていました。
 多くの製品はフィルムがちょうど収まるような大きさですが、私が愛用しているのは、撮影データなどを書き込んだメモを差し込めるポケットがついているタイプのものです。

 かつてはいくつものメーカーから出ていたのですが、今ではほとんど見かけなくなってしまいました。店頭からすっかり姿を消してしまったのでメーカーに直接問い合わせをしたことがありますが、製造を終了してしまい、今後も製造する予定はないとの回答でした。
 また、一口にOP袋といっても様々で、非常に薄いタイプのものや腰のしっかりしたもの、透明度が高いものや何年か経つと白っぽくなってしまうものなど、いろいろです。素材の違いなのかもしれません。
 今は買い置きしたものを使っていますが、これが底をついたときに代替となるポジ袋が今のところ見つかっていません。幸いにも、メモをいれるポケットがついていないタイプのポジ袋であれば何種類も販売されているので保管に困ることはなさそうですが、メモ書きを入れて置けるという便利さは損なわれてしまいます。
 何らかの工夫をしてメモ書きを添付できるようにするか、割り切ってメモ書きはあきらめるか、手持ちのポジ袋を使い切るころに検討することとします。

四切サイズの額縁

 このサイトを始めた頃に、四切サイズの額縁が減ったというページを書きましたが、ここ最近はさらに拍車がかかった感じです。特にワイドマットタイプの四切は数えるほどしかありません。しかも、ここにきて額縁全体がかなり値上がりしています。値上がりしているのは額縁に限ったことではありませんが、額縁の値上げ幅は半端ない感じです。
 すべての額縁が減ってしまっているわけではなく、A4とかA3、ワイド四切といったサイズのものはむしろ増えている感じがします。たぶん、35㎜判フィルムの縦横比に近いことが理由だと思われます。
 そして、額縁だけでなく、一般に市販されている四切サイズのプリンタ用紙も次々と姿を消してしまいました。数年前までは各社から紙質が異なる複数の四切の製品が出ていましたが、今では数えるほどに減ってしまいました。この現象を見ても、四切のニーズがいかに少ないかということが良くわかります。

 私が使うフィルムは大判の4×5判と中判の67判がほとんどなので、縦横比が比較的近い四切はほとんどトリミングせずに額装できます。
 フィルムにしてもデジタルにしても35㎜判を使う方が圧倒的に多いでしょうから、四切が減るのは致し方ないとも思えますが、気に入ったデザインの額縁のラインナップに四切が入っていないのを目の当たりにすると、思わずため息が出てしまいます。
 個展でも開かない限り、額縁というのはそんなに大量に使うものではないので、気に入った額縁をオーダーで何枚か作ってもらい、それを使い続けることを考えています。当然、市販品に比べて割高になりますが、何年も使えるものですし、何よりも気に入った写真を気に入った額に入れる方がはるかに心が和みます。
 そして、プリンタ用紙はというと、A3サイズを購入して四切サイズにカットして使う日がくるのではないかと思っています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 フィルムカメラやフィルム写真に関する機材やアクセサリーなどがどんどん減ってしまうのは仕方のないことです。それでも、途絶えてしまわないように、細々ながらでも製品を供給し続けてくださるメーカーがあることはとてもありがたいことです。製造数が減れば価格が上がるのも当然のことかもしれませんが、たとえ種類が減っても販売が続いている実態を見ると、フィルム写真もまだ大丈夫かと淡い期待を抱いてしまいます。
 とはいえ、いずれは姿を消してしまうものもあるでしょうから、予備を用意しておくとか、代替の方法を考えておくとか、そういう対策も必要になると思っています。ないものは工夫して作る、というのも楽しみの一つかも知れません。

(2024.5.10)

#カメラ業界 #ライトボックス #レリーズ #額装

クマ除けグッズのあれこれ クマに出逢わないための効果的な方法はあるのか? 

 今年(2023年)は例年になくクマの出没やクマによる被害が多いとのことで、連日のようにこのニュースが流れています。本来、クマは警戒心も強く臆病な動物で、特に人間を怖がると言われていますが、人家の庭に来てくつろいでいたり、車がぶんぶん走る街中をスタスタと駆けていく映像などを見ると、本当に人間を怖がっているのだろうかと思ってしまいます。
 酷暑ともいえる今年の夏の暑さの影響で山の木の実が少ないため、食べ物の多い里に降りて来るという専門家の方の解説もよく聞きますが、どうもそれだけが理由ではないように感じてしまいます。
 本州に生息しているツキノワグマはどちらかというと草食系のようで、本来、クマは人間を襲ったり食べるために里に下りたり街中に出てくるわけではないと思いますが、食料を得るためにクマにとっても背に腹は代えられないということなのでしょうか?

 私が撮影する被写体は主に自然風景なので、どうしても一人で山に入ることが多くなります。もともと、クマだけでなくシカやイノシシ、サルなどが生息しているところに入っていくわけですから、そういった動物たちに出会っても不思議はないとは思いますが、これまでの数十年の間でクマを見かけたのは4~5回だけです。ですので、これまではそれほどクマに対する警戒心のようなものを強く持ち合わせてはいませんでした。とはいえ、クマには出逢いたくないので、山に入るときはクマ除けの鈴(ベアベル)程度は着けていました。
 しかし、近年のクマ目撃回数やクマによる被害件数の増加を見るとベアベルだけでは心もとなく感じるようになり、ここ数年でクマ対策のグッズをいろいろと揃えてきました。特に今年のようにその回数が急増しているという話しを聞くにつけ、対策を強化しなければいけないと思っています。

 ということで、以前はベアベルのみという状態だったのですが、徐々に持ち歩くクマ除けアイテムが増えていき、現在では山に入る際には下の写真のようなものを携行しています。

▲クマ除けグッズ:左からクマスプレー、電子ホイッスル、ベアベル、熊おどし、クマ除けピストル、下側中央がクマ忌避剤「熊をぼる」、その右が爆竹

 まず、いちばん基本的なアイテムのベアベルです。
 クマ除けグッズで最もポピュラーなのがこのベアベルですが、たくさんの製品が市販されています。形状や色も様々ですが、いちばん特徴的なのがその音色です。「カラカラ」というような乾いた音や「チリンチリン」という可愛らしい音のするもの、あるいは「カーンカーン」というような音のするものまで様々です。
 クマの生態に詳しい方の話だと音の大小はあまり関係ないらしいです。クマの聴覚はとても発達しているので、小さな音でもかなり遠くから聞き分けることができるようです。
 私が使っているベアベルは真鍮製で、「キーンキーン」というような甲高い音がします。音も大きめで、かなり遠くにいても聞こえるようです。これを腰に下げているので、歩いているときは常に「キーンキーン」と鳴り響いています。この音でクマの方から避けてくれればありがたいのですが、どの程度の効果があるのかはわかりません。
 一人で山の中を歩いていたり撮影しているときに遠くの方からこのベアベルの音が聞こえると、人が来るんだというのがわかってちょっとホッとしたりします。
 なお、このベアベルの音がうるさいと感じる人もいるようです。人が大勢いるような場所では鳴らさないようにしておくのもマナーかも知れません。

 ベアベルだけでは少し心もとないという思いと、歩いていないときは音がしないということもあり、4~5年ほど前に電子ホイッスルを購入しました。これはボタンを押すだけで、交通整理の警察官が吹いている笛のような音がします。しかもかなりの大音量で、取扱説明書には約120dbと書かれています。実際に近くで鳴らされると本当にうるさいと感じます。また、音量は3段階に切り替えが可能で、音色も3種類が用意されていますが、もちろん最大音量で使用しています。
 この電子ホイッスルはストラップで首から下げて携行していますが、歩きながら時どき鳴らしたり、撮影に入る前や撮影の合間に10秒ほど鳴らします。ベアベルに比べるとかなり遠くまで音が届くと思うのですが、これもクマに対して効果があるかどうかは不明です。
 ただし、近くに人がいる場所で鳴らすとかなり驚かせてしまうので、これを使用するときは近くに人がいないことを確認する必要があります。

 3つ目のアイテムはクマ除けピストルです。
 5~6年前に秋田県に撮影に行った際、地元の猟師の方から、「爆竹がいちばん効果がある」と教えていただき、その後、いろいろ探して見つけたものです。小学校の運動会などで使われるスターターを小型にしたようなもので、火薬を装填して引き金を引くと「パーン」という大きな音がします。価格は数百円だったと思います。おもちゃのようなものですが、円形に配置された8個の火薬を装填すると、8連発が可能になります。更に、撃った直後は辺りに火薬のにおいが漂います。
 山の中で撃つとこだまのように響き渡り、数百メートルくらい離れていても十分に聞こえるだろうという感じです。何の確証もないのですが、この音を聞けばクマも逃げてくれるだろうという都合の良い思い込みがあり、これを鳴らすと何だかとても心強くなります。
 もちろん、電子ホイッスルと同様で、周囲に人がいないことを確認してから使うのは言うまでもありません。

 クマ除けピストルに特に不満があったわけではありませんが、秋田の猟師さんの言葉が妙に頭の隅に残っていて、爆竹を使ったクマ除けを何とかできないかと考えていました。爆竹は子供の頃によく遊んだ記憶があり、身近に感じられたこともあるかも知れません。
 いろいろ調べていたところ、「熊おどし」というのがあることを知りました。これは北海道や東北では昔から使われてきたもののようです。片方のフシを切り落とした竹筒に爆竹を入れて火をつけるだけ、といういたってシンプルなものです。動画もいくつかアップされていたのでそれらを参考にしながら、2年ほど前に自作をしました。
 竹筒では強度的に不安があったので、金属素材で作ることにしました。直径20mmほどのステンレスパイプの切れ端があったので、これを長さ15cmほどにカットし、このパイプに、剪定で切り落とした庭の桜の枝を削ってはめ込むという簡単なものです。手で持って爆発させるので、その爆風が手にかからないようにステンレスパイプとの隙間がないようにするだけで、これといった難しさはありません。
 ステンレスパイプの先端内側に爆竹を引っかけ、ライターで導火線に火をつけると数秒後にはステンレスパイプの中で爆発します。その音はクマ除けピストルの比ではなく、感覚的には倍以上の音量ではないかと思うほどです。たまたま、道路脇にあるガードレールの近くで使ったことがあったのですが、爆発の衝撃波でガードレールが共鳴するくらいでした。爆竹を複数本入れて着火するとその威力はさらに増しますが、大量に詰め込めばよいというものでもなく、せいぜい2~3本くらいが限度かと思います。やはり空洞がないと音が良くないし、いくらステンレスと言えども同時に爆発させればダメージも大きいと思います。
 クマの生態に詳しい方によると、いきなり爆竹を鳴らすのではなく、笛(ホイッスル)を鳴らした後に熊おどしなどの爆竹を鳴らすと効果的だそうです。もし近くにクマがいた場合、いきなり爆竹の音が鳴り響くとクマもパニックを起こすかもしれないというのが理由のようです。
 爆竹を取り出し、ステンレスパイプの先端に引っ掛け、火をつけるという手間がかかるので、クマ除けピストルのような迅速性はないし連射も出来ませんが、効果はかなりあるように感じます。
 また、火をつけた爆竹を地面に放り出すわけでもないので、落ち葉に火が着くという心配もありません。
 私はステンレスパイプで自作しましたが、しっかりした素材で底のついた筒状のものであれば何でも代用可能だと思います。

 そして、今年の春に新たに手に入れたのがクマ忌避剤です。これは、「熊をぼる」という製品名で販売されているもので、1個2,300円ほどで購入しました。
 中身は木酢とカプサイシン(唐辛子成分)の混合液らしく、強烈な臭いでクマを寄せつけない効果があるらしいです。これをバックパックなどにぶら下げておくと、風下方向では1kmくらい離れていてもクマは感じ取るらしく、とても効果があると書かれていました。風上にいるクマに対しての効果は薄くなるのかもしれませんが、風の向きは常に一定ではないので、かなりの広範囲に匂いが広がるのではないかと思います。ただし、結構危険な液体のようで、直接手に触れると火傷をしたようになるらしく、取り扱いには注意が必要です。
 木酢なのでスモークのような強い臭いがします。家の中で袋から取り出すと強烈な臭いが立ち込め、半日くらいは臭いが残っています。これをつけて歩いていると風下にいる人にも臭いを浴びせることになってしまい、不快な思いをさせてしまう可能性があります。迷惑をかけたりトラブルになるのも困るので、人が多いところでは密閉袋に入れておくのが無難です。

 ここまで紹介したアイテムは、クマに人間の所在を知らせるとか、クマが嫌がる音や臭いを出すというもので、つまり、クマに出会わないようにすることを狙ったものです。たとえクマが生息していることがわかっていても、ソーシャルディスタンスをとってクマと出逢いさえしなければそれほど恐ろしさは感じません。ですから、クマと出くわさないのが最良なのですが、運悪く出くわしてしまったときには、たぶんこれらのアイテムでは役に立たないと思います。
 そこで、そのようなときのために「クマスプレー」を携行しています。

 これは実際に一度も使ったことがないので効果のほどはわかりませんが、説明書によるとカプサイシンが大量に含まれた超危険な液体が8~10mほどの距離まで噴射されるようです。また、噴射できる時間はおよそ7~8秒とのことです。したがって、クマがかなり近くに来た時に噴射しなければ効果がないということになります。そのような近距離にクマがいる状態で落ち着いてスプレーを吹きかけることができるのか、また、風向きによっては自分の方に流れてくる可能性もあるわけで、そういったことに注意しながら対応できるのか、そちらの方がはなはだ心配ですが、最後の砦といったところでしょうか。
 クマスプレーは結構高額(私が購入したものは13,000円ほどしました)で、使用期限も4~5年しかないし、しかも、これを使わざるを得ないような状況では、たぶん1回で使い切ってしまうだろうということもあり、今までは購入を見送っていました。しかし、今年のクマの出没や被害の多さをきいて4か月ほど前に初めて購入してみました。
 なお、6,000~7,000円という格安の商品もありますが、使用期限が数ヶ月しかないというようなものであることが多いらしく、格安品を購入する場合は注意が必要なようです。
 近年はクマスプレーを携行している登山者を多く見かけます。実際にクマに遭遇し、使った経験のある方にお会いしたことはありませんが、お守り代わりに持っているという方が多いようです。

 運悪くクマに出逢ったらいきなりスプレーをかけるのではなく、刺激を与えないように静かに後ずさりしながらクマにさよならするのが良いみたいですが、そういうことも理解はしていても、実際にそのような場面に遭遇した時に体がそのように動くかどうか、はなはだ疑問ではあります。

 腰のベルトにベアベルとクマスプレーをつけ、首には電子ホイッスルをぶら下げ、ウエストポーチにクマ除けピストルや熊おどしを入れ、バックパックにはクマ忌避剤をぶら下げ、撮影機材よりもクマ除けグッズの方に力が入っている感じがしないでもありませんが、クマには出逢いたくないので仕方ありません。
 突然、藪からぬっと出てこられてはどうしようもありませんが、歩いているときはあちこちを見ることができるので、黒いものが動いていると気がつきやすいと思います。いちばん恐怖心が高まるのは撮影しているときです。周囲に目がいかないし、滝や渓流の近くに入れば音がかき消されてしまうし、そんなときにクマに近寄られても全く気がつきません。撮影に入る際には音と匂いでクマを遠ざけておくしかありません。
 これらのクマ除けグッズが、はたしてクマに対して効果があるかは不明ですが、クマも人間には出逢いたくないと思っているという言葉を信じて、注意しながら山に入りたいと思います。

(2023.10.24)

#クマ避け鈴 #小道具

エプソン EPSON GT-X970 フィルムホルダー 純正品と自作品のスキャン比較

 前回、エプソンのフラットベッドスキャナ EPSON GT-X970 のフィルムホルダーの作成について書きましたが、自作のホルダーと純正品のホルダーを用いて実際にスキャンをしてみましたのでご紹介します。
 厳密な比較はできませんので、画像を目視して違いがあるかどうかというレベルです。

67判ブローニーフィルムのスキャン画像の比較

 今回の比較用に使用したのは、カラーリバーサルフィルム PROVIA 100Fで撮影した67判のポジ原版です。顕著な差は出ないであろうという予測から、出来るだけ全面にピントが来ているコマを選んでみました。ボケている(アウトフォーカス)部分が多いコマでは、そもそも比較することが難しいだろうというのが理由です。
 実際に使用したポジ原版がこちらです。ライトボックスに乗せて撮影しているので、画質も色も良くありませんが。

 2年ほど前に撮影したものですが、大判カメラに67判のロールフィルムホルダーを装着し、出来るだけ全面にピントが来るよう、アオリを使って撮影しています。
 まずはこのポジ原版を、エプソン純正のフィルムホルダーと自作のフィルムホルダーを使ってスキャンします。スキャン解像度は4,800dpiで、エプソンのスキャナソフトウェアに装備されているアンシャープマスクやホコリ除去、DIGITAL ICE 等の機能は一切使っていません。

 下の2枚が実際にスキャンした画像です。1枚目がエプソン純正ホルダーを使用、2枚目が自作ホルダーを使用したものです。

▲エプソン純正ホルダー使用
▲自作ホルダー使用

 この画像では良くわからないと思いますが、エプソン純正ホルダーでスキャンした画像はごくわずか、左下がりに傾いています。フィルムをホルダーに入れる際も、ホルダーをスキャナに乗せる際も傾きには十分注意したつもりですが、エプソン純正のホルダーでフィルムの傾きをなくすのは結構難しいです。エプソンのソフトウェアにはフィルムの傾きを補正する機能もありますが、これもフィルムホルダーにフィルムが傾いて装着されてしまえばあまり意味をなさなくなります。

 一方、自作のホルダーですが、フィルムの傾きはほとんど認識できませんでした。

 次に画質の違いですが、このように全体を表示した画像ではその違いはまったく分かりません。もちろん、掲載の画像は解像度を落としてありますが、落とす前の画像同士を比較してもその違いはわかりません。ちなみに、4,800dpiでスキャンした画像は、約13,500×10,900でおよそ1億4,700万画素になります。

画像中央部分の画質の比較

 画像全体を見ても違いはわからないので、中央部分を拡大して比較してみます。
 画像中央あたりの落ち葉が積もっている部分を拡大したのが下の画像です。同じく、1枚目がエプソン純正ホルダーを使用、2枚目が自作ホルダーを使用したものです。

▲エプソン純正ホルダー使用
▲自作ホルダー使用

 この2枚の画像も違いはほとんどわかりませんが、エプソン純正ホルダーを使用した方が、ハイライト部分の滲みがごくわずかに大きいように見えます。理由はよくわかりませんが、気になるほどの違いではありません。
 また、2枚の解像度の違いは感じられません。

画像周辺部分の画質の比較

 次に、画像周辺部の比較ということで、画像右下の落ち葉の辺りを拡大して比較してみます。
 同じく、1枚目がエプソン純正ホルダーを使用、2枚目が自作ホルダーを使用したものです。

▲エプソン純正ホルダー使用
▲自作ホルダー使用

 この2枚はわずかに違いが感じられると思います。自作ホルダーの方が全体的に画像がシャープな印象を受けます。落ち葉の縁などを見ても、輪郭というかエッジがはっきりとしています。
 これはフィルムの平面性が保たれていることが理由ではないかと思います。
 エプソン純正ホルダーの方は若干の遊びを持たせているため、ホルダーにフィルムを装着しても完全に固定されず、わずかに動くことができる余裕があります。
 また、67判の1コマだけをホルダーに装着した場合、フィルムの4辺のうちの1辺はホルダーで押さえられていないため、どうしてもフィルムがわずかに湾曲してしまいます。
 これが原因で周辺部の画質が若干低下してしまうのではないかと思われます。

 一方、自作のホルダーはマグネットシートでフィルムの4辺を押さえていますので、目視をする限り、フィルムの湾曲はほとんど見受けられません。

使い勝手の比較

 今回作成したのは67判のフィルム1コマ用ですので、使い勝手についてエプソン純正ホルダーと単純比較をすることはできませんが、実際に使ってみると使用感の違いがあります。

 まず、フィルムの装着ですが、自作ホルダーの方が簡単で、しかも短時間で装着することができます。前の方でも書きましたが、とにかくフィルムの傾きを気にすることなく、フィルムガイドの間にフィルムを置くだけで済むので圧倒的に楽です。
 また、フィルム装着後にブロアでシュッシュッとやるのですが、エプソン純正ホルダーの方は強くやり過ぎるとフィルムが動いたり湾曲したりしてしまいますが、自作ホルダーの方はそのようなこともありません。

 次に、ホルダーをスキャナに設置する際、エプソン純正ホルダーの方はホルダーについているガイドピンをスキャナ本体の所定の位置に差し込むのですが、その状態でもホルダーがわずかにカタカタと動きます。つまり、これによってフィルムが傾いてしまうということです。
 自作ホルダーの方はまずスペーサーを置き、そこにホルダーをピッタリと密着させれば良く、ホルダーがカタカタと動くこともありません。これでフィルムの傾きはなくなるのでやはり簡単です。

 このように書くと自作ホルダーの方が優れているように感じられると思いますが、唯一、エプソン純正ホルダーにかなわないのはその汎用性です。
 エプソン純正ホルダーは様々なコマサイズやコマ数に対応していて、66判であれば同時に6コマ、67判や69判であれば同時に4コマまで装着することができます。この利便性は、ホルダーをいくつも用意しなくても良いとか、大量のフィルムをスキャンするときなどは効率を上げることができるとか、やはり優れものであることは間違いありません。

 利便性や効率性を重視するか、ごくわずかであっても画質を重視するかによって見解は分かれると思いますが、私はそれほど大量のフィルムをスキャンするわけではないので、比べて初めて分かる程度の違いではあっても画質の良い方を使いたいと思います。

 この自作ホルダーを使用してスキャンしたフィルムはまだ5~6枚ほどですが、十分に使用に耐えられるものだと思います。あとは耐久性の問題で、長年使っているとヘタってくる可能性もあり、いつまで耐えられるかということです。
 また、66判1コマ用や67判2コマ用のホルダーもおいおい作っていきたいと思っています。ホルダーが増えてしまうのは好ましいことではありませんが、私の場合、ブローニーは66判と67判があればほぼ事足りるので、とりあえず4個は用意したいということになります。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 EPSON GT-X970 の後継機はGT-X980 という機種ですが、私はまだ実際に使ったことがありません。今使っているGT-X970が壊れたら購入しようと思っているのですが、GT-X980はフィルムの平面性を高めるため、アンチニュートンリングのアクリル板の上にフィルムを乗せ、これを押さえる構造になっているようです。確かにフィルムの平面性は保たれるのでしょうが、スキャンの際に余計なものは入れたくないというのが個人的な正直な気持ちです。
 実は、今回の自作ホルダーでもガラス製のネガキャリアを使おうかとも考えたのですが、思いの他、平面性が保たれているようなので、まずは良しとしておきます。ネガキャリアを使用したホルダーについては、別途機会があれば検討してみたいと思います。

(2023年9月15日)

#EPSON #GT_X970 #エプソン #フィルムホルダー #スキャナ

エプソン EPSON GT-X970 スキャナ用フィルムホルダーの作成

 フィルムで撮影した写真をパソコンに表示したりWebで使用するためにはデータ化が必要ですが、私はエプソンのGT-X970というフラットベッドスキャナを用いてデータ化を行なっています。この機種自体はかなり古いのですが、民生用の機器としてはまずまずの性能ではないかと思っています。
 しかし、フィルムホルダーが安っぽくて、しかもあまり使い易くないというのが最大の難点です。特にブローニーフィルム用のホルダーはフィルムが傾かないようにセットするのが結構難しく、フィルムを押さえる機構がしっかりしていないのでフィルムも湾曲してしまい、なかなか平らになってくれません。
 また、長年使っているのでフィルムガイド用のピンが欠損してしていたり、あちこちに損傷も見られます。

 そこで、ブローニーフィルム用のホルダーを自作してみました。
 フィルムの傾きを出来るだけ起きないようにすること、フィルムの平面性を極力保つこと、この2点を満足するホルダーを安価で簡単に作れることを条件として作ってみました。

ブローニーフィルム用ホルダーの概要

 エプソン純正のブローニー用フィルムホルダーはサイズの異なるフィルムに対応できるように、幅約60mm、長さ約200mmの窓が二つ開いています。66判なら3コマ、67判や69判なら2コマ続いたスリーブをセットすることができるので便利ですが、窓枠よりも短いフィルムを装填した場合、フィルムの1辺が押さえられていない状態になってしまうので、どうしてもフィルムが湾曲しがちです。
 自由度が大きく適用範囲が広いのはありがたいですが、それよりも精度を高めることを重要視し、今回はフィルムサイズごとに作ることにしました。
 私はブローニーフィルムでは67判を最も多用していて、しかもフィルムを1コマごとにカットした状態で保管しているので、まずは67判一コマを2枚セットできるホルダーをつくります。

 構造はいたってシンプルで、イメージはこんな感じです。

 ベースとなるアクリル板の上にマグネットシートを2枚重ねて、このマグネットシートの間にフィルムを挟むというものです。アクリル板とマグネットシートには67判の画像サイズよりも若干大きめの窓を開けておきます。
 2枚のマグネットシートのうち、下側のマグネットシートはアクリル板に接着しておきますが、上側のマグネットシートは一端だけを両面テープで固定し、上側にめくりあげられるようにします。

エプソンGT-X970用フィルムホルダーの制約事項

 GT-X970はA4の原稿をスキャンすることができるガラス面を持っていますが、フィルムをスキャンする場合、これらすべての範囲を使うことができないようです。実測してみたところ、概ね、以下のような制約事項があることがわかりました。

 ガラス面全体は226mmx305mmの大きさがあり、A4サイズよりも少し大きくなっています。
 しかし、フィルムをスキャンできる範囲は上の図の青い部分、約160mmx約220mmの範囲に限られます。「約」となっているのは正確に測ることができず、ほぼこれくらいということです。ガラス面の周辺の30~40mmくらいの範囲はスキャンできません。
 また、スキャナを正面から見た時、ガラス面のいちばん奥(図では上側)、約12mmの範囲、および手前(図では下側)、約7mmの範囲はホルダーがかからないようにする必要があります。ここに遮光物がかかるとスキャンが正しく行われません。たぶん、遮光物がない状態の光源の明るさを測定するためのエリアではないかと思われます。

 このため、フィルムホルダーの窓がスキャン可能な範囲(上図の青い部分)に入るようにする必要があります。

67判用フィルムホルダーのサイズ

 ということで、GT-X970で正常にスキャンすることができるホルダーの図面を引いてみました。

 ホルダーの縦を100mmにしたのは特に大きな理由があるわけではなく、100円ショップで購入したマグネットシートのサイズに合わせただけです。これが実におあつらえ向きで、ホルダーを2枚並べて使うことができる寸法でもあります。
 購入したマグネットシートの長辺は300mmあるのですが、上で書いたように、GT-X970にホルダー設置禁止エリアがあるため、これに合わせて15mmカットして285mmとしました。

 67判用の窓の大きさは58mmx71mmで、これは67判の実画面サイズより縦横それぞれ2mmずつ大きくしてあります。つまり、フィルムの実画面の周囲に1mmの余黒が見えるサイズとなります。
 2枚の窓枠の位置はGT-X970のスキャン可能範囲からはみ出さないようにすれば特に問題はありませんが、フィルムをしっかり押さえられるよう、フィルム間の長さは30mm以上は確保したほうが良いと思います。

 また、スキャナのガラス面からフィルム面までの高さはかなり重要で、この位置によって得られる画像の質がずいぶん異なります。
 私が使っているGT-X970は、ガラス面からフィルムの下面まで4.7mmというのが最も質の良い画像が得られることを実測済みなので、今回もこれに合わせます。この高さはスキャナによって個体差があるようで、実際に高さを変えてスキャンしてみて、最も良い状態の高さを確認しなければなりません。結構面倒くさいのですが、仕方ありません。

 今回使用するアクリル板の厚さは1.8mm、マグネットシートの厚さは0.8mmです。そのため、ホルダーの高さをかせぐために嵩上げが必要になりますが、これも1.8mm厚のアクリル板を使います。
 上の図でもわかるように、嵩上げ1.8mm、ホルダーベースが1.8mm、下側のマグネットシートが0.8mmなので、これで4.4mmになります。まだ0.3mm不足しているので、厚さ0.25mmのアルミ板を嵩上げの下側に貼ります。この状態で実測したところ、4.65mmから4.7mmの間にあることがわかりましたので、これで良しとします。アクリル板は有機溶剤で接着しますが、マグネットシートやアルミ板は両面テープを使っているので、その分の厚さが0.05mm弱あり、結果として4.7mmに近い値になったようです。

67判用フィルムホルダーの作成

 まず、フィルムホルダーのベースをアクリル板で作ります。100mmx285mmにカットしたアクリル板に、58mmx71mmの窓を2ヵ所に開けます。位置は前出の図面の通りです。

 窓枠を開けたアクリル板が下の写真です。

 このホルダーベースの裏側に嵩上げ用のアクリル板(板厚1.8mm)とアルミ板(板厚0.25mm)を貼りつけます。

 嵩上げの部分をわかり易くするために画像をいじっていますので変な色になっていますが、ベースの両端に幅10mmのアクリル板を張り付け、その上にアルミ板(白い箇所)を貼りつけています。アルミ板は薄いので、ハサミやカッターナイフで簡単に切ることができます。ハサミで切った場合は少し反ってしまうので、滑らかなヘラなどを使って平らにします。

 次に、マグネットシートに窓を開けます。ホルダーベースと同じサイズにカットし、やはり同じ位置に同じ大きさで窓を開けます。

 上側の黒色のマグネットシートがホルダーベースに貼り付ける側で、この上にフィルムを乗せるようにします。そして、下側の白いマグネットシートがフィルムを上から押さえるためのカバーです。

 黒い方のマグネットシートにフィルムを乗せるので、ここにフィルムガイドを取付けます。

 フィルムガイドを貼りつけた状態はこんな感じです。

 フィルムガイドの高さはフィルム上面と同じになるように、ブローニーフィルムを7mm幅に切って両面テープで貼りつけています。スキャンするためのフィルムが傾かないよう、このフィルムガイドがマグネットシートの長辺と平行になるように注意します。
 また、フィルムガイドとフィルムガイドの間はブローニーフィルムがピッタリ入るようにします。ガイド間がフィルムの幅よりも大きすぎるとフィルムが動いてしまい、平行が保てなくなりますのでやはり注意して行ないます。
 そして、このマグネットシートをホルダーベースの表面に貼り付けます。窓の位置がぴったり重なるように仮止めして、慎重に貼っていきます。今回購入した黒色のマグネットシートの片面には両面テープがついています。

 最後に、この上にフィルム押さえカバーとなるマグネットシートを貼るのですが、もちろん、全面を貼ってしまうわけではなく、一方の短辺側だけ、両面テープで固定します。この時も窓の位置がぴったり重なるようにします。
 なお、マグネットシートは極性の関係でピッタリと重ならない場合もありますので、その場合は極性が合った位置で重ねるようにします。

 下の写真が完成したホルダーです。いちばん上のフィルム押さえカバーをめくった状態を写しています。

 このホルダーに実際にフィルムを挟んでみるとこんな感じです。ライトボックスに乗せて撮影しています。

 フィルムの実画面の周囲に1mmほどの幅で余黒が見えると思いますが、これでフィルム全面をスキャンすることができます。
 フィルムをホルダーに挟んだ状態はかなり平面性が保たれていて、エプソン純正のホルダーのように湾曲することもありません。ホコリを飛ばすためにブロアで吹いても、フィルムの位置がずれるようなことはありません。

 さて、こうして完成したフィルムホルダーをGT-X970のガラス面に乗せるわけですが、この時、ホルダーの長辺とガラス面の右縁が平行になるようにしなければなりません。フィルムがGT-X970のスキャン可能範囲内に入るよう、ホルダーの位置を少し内側に寄せなければならないので、ホルダーが平行になるようにスペーサーを入れてホルダーの位置を決めています。

 上の写真で白いフィルムホルダーの右側にあるのがスペーサーです。幅20mmにカットした板で、これをスキャナのガラス面の右縁にピッタリと合わせ、ここにフィルムホルダーの右縁を密着させます。これでホルダーの平行が保たれるはずです。
 また、スキャナのガラス面の上端と下端にホルダーがかからないようにしなければなりません。これは、スキャナのガラス面の右縁のところに原稿サイズの目盛りが刻んであるので、その「A4」の目盛りのところにフィルムホルダーの端を合わせると、上端に約12mmのスペースができます。これで、ホルダー設置禁止領域にかかることはありません。

 ちなみに、今回のフィルムホルダー作成にかかった費用ですが、実際に購入したのはマグネットシート2枚(税込220円)だけです。アクリル板とアルミ板は家に転がっていたものを使ったので、これらの実費としては0円ですが、新たに購入してもアクリル板が500円ほど、アルミ板は200円ほどだと思います。

実際にフィルムをスキャンしてみて

 今回作成したフィルムホルダーで実際にスキャンしてみました。
 エプソンから提供されているソフトウェア「EPSON Scan」でも問題なく画像認識され、サムネール画像の作成も出来ました。
 もし、サムネール画像の認識ができない場合でも、通常表示にしてスキャンする範囲を指定する機能があるので、これを使えば問題なくスキャンすることが可能です。

 また、実際にスキャンした画像ですが、その画質には全く問題がないと思われます。詳細に比較したわけではありませんが、エプソン純正のフィルムホルダーよりも画質は良いように感じます。ガラス面からフィルム面までの高さが適切だったのと、フィルムの平面性が保たれているのも要因かも知れません。
 フィルムの傾きに関しても十分に満足のいくものだと思います。ホルダーに貼ったフィルムガイドの間にフィルムを入れて、そのホルダーをスペーサーに密着するように置くことで、スキャンした画像が傾くことはほとんどありませんでした。純正のホルダーを使えば傾き補正もできるのですが、そのような機能がなくても問題のない状態の画像を得ることができます。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回作成したのは67判のフィルム1コマを2枚設置できるホルダーですが、同じやり方で67判が2コマ連続したスリーブ状態のフィルム用のホルダーも作成する予定です。窓の大きさが変わるだけで、その他の作り方は同じです。
 このサイズのホルダーであれば、スキャナのガラス面に2枚並べて置くことができ、一度に4枚のフィルムをスキャンすることができます。
 何種類ものフィルムサイズ(66判とか67判、69判など)を使う場合は、それに合わせてフィルムホルダーを何種類も用意しなければならないのは難点ですが、私の場合、主に67判なので、今回作成したものと2枚続きのスリーブ用があればほとんど対応可能です。

(2023年9月8日)

#EPSON #エプソン #フィルムホルダー #GT_X970 #スキャナ

67判のポジフィルムをカバーするライトボックス用ルーペの作成

 私が主に使っているフィルムはリバーサルフィルムの中判と大判です。現像が上がったリバーサルフィルムはライトボックスで確認をするわけですが、その際、ピントやブレなどの具合を調べるためにルーペを使います。
 そのためのルーペは数個持っていますが、いずれもルーペのレンズの直径があまり大きくないので一度に見ることのできる範囲は狭く、中判や大判のフィルムを確認するためにはルーペをあちこち移動させなければなりません。これが結構なストレスになります。もちろん、大口径のルーペも販売されてはいますが驚くほど高額です。
 そこで、大判フィルムはともかく、せめて67判フィルムをカバーできるルーペをということで、家にころがっているガラクタを集めて作ってみました。

今回、作成するルーペの仕様

 私が使っている中判のサイズは圧倒的に67判が多いので 、作成するルーペの大きさとしては、このフィルムをカバーするサイズとします。「カバーする」というのは、フィルムの上にルーペを置いた状態で、ほぼフィルム全体が視野に入るということを意味します。67判の対角線長は約88mmありますから、理想は直径88mm以上のレンズということになりますが、それだとかなり大きくなってしまい、手の小さな私には持ちにくくなってしまいます。フィルムの四隅が少しカットされるのは我慢するとして、今回は直径80mm前後ということにします。

 次にルーペの高さですが、ライトボックス上にフィルムを置いたとき、どれくらいの位置から見るのが最も見易いのかをいろいろ試してみました。低すぎると上体を前に倒さなければならないので、あまり有り難くありません。かといって高すぎると、これまたルーペが巨大になってしまい、使い回しに手を焼いてしまいそうです。
 結局、ライトボックスの上面から10~15cmくらいが最も使い勝手がよろしいというのがわかったので、ルーペの高さとしてはおよそ10cmとすることにしました。

 さて、ルーペの倍率をどれくらいにするかですが、私が普段使っているルーペの倍率は約6倍と約8倍で、細部をしっかり確認するにはちょうど良いのですが、ポジ全体を見渡すには倍率が高すぎます。もう少し倍率を落とした、3~4倍あたりが使い易そうですので、今回は4倍を目安にすることにしました。

 これらの条件を満たすレンズを決めなければならないのですが、ルーペの高さから逆算すると、ライトボックス上面からレンズまでの距離が70~80mmが適当な感じです。中間値をとって75mmとして計算してみます。

 レンズの焦点距離(f)、レンズから物体(フィルム)までの距離(a)、およびレンズから虚像までの距離(b)の関係は下の図のようになります。

 ここで、a=75mm、倍率mは4倍と設定しているので、レンズから虚像までの距離(b)は、

  b = m・a

 で求められます。
 よって、

  b = 4 x 75 = 300mm

 となります。

 次に、これを満たすレンズの焦点距離(f)ですが、

  1 / a - 1 / b = 1 / f

 の関係式に各値を代入すると、

  1 / f = 1 / 75 - 1 / 300

 よって、f = 100mm となります。

 すなわち、焦点距離100mmのレンズが必要ということです。

ルーペの作成に必要なパーツ類

 焦点距離100mmのレンズというと、クローズアップレンズのNo.10がこれに相当しますが、残念ながらそんなものは持ち合わせておりません。ガラクタをあさってみたところ、直径82mmのクローズアップレンズ(No.2)が1枚と、直径77mmのクローズアップレンズ(No.2、No.3、No.3、No.4)が4枚、計5枚がでてきました。
 なぜこんなにクローズアップレンズがあるかというと、昔、35mm判カメラで接写にはまったことがあり、その時に買い集めたものが今も使われずに残っていたというものです。
 82mm径であれば大きさも問題ないのですが、No.2が1枚ではどうしようもないので、少し小さくなってしまいますが77mm径のクローズアップレンズを組み合わせて使うことにします。

 クローズアップレンズの焦点距離は以下のようになっています。

  No.2 : 500mm
  No.3 : 330mm
  No.4 : 250mm

 2枚のレンズを組み合わせた時の焦点距離は以下の式で求めることができます。

  1 / f = 1 / f₁ + 1 / f₂ - d / (f₁・f₂)

 この式で、f₁、f₂ はそれぞれのレンズの焦点距離、dはレンズ間の距離を表します。

 この式から、これらのクローズアップレンズを組み合わせて焦点距離100mmを作り出すには、No.3(330mm)を2枚とNo.4(250mm)を1枚、計3枚で100mmが作り出せることがわかります。厳密にはクローズアップレンズ同士の間隔ができるので少し変わってきますが、そんなに精度を求めているわけではないので良しとします。

▲今回使用したクローズアップレンズ (左からNo.4、No.3、No.3)

 また、クローズアップレンズを同じ向きで重ね合わせると像の歪みが大きくなるので、1枚をひっくり返して反対向きにする必要があります。反対向きにするとオネジ同士、またはメネジ同士が向かい合ってしまい、ネジ込みすることができなくなってしまいます。そこで、これらをつなぐアダプタを作らなければなりませんが、これは使わなくなった77mm径のフィルターの枠を2個、流用することにします。

▲アダプタ用に使用したフィルター(2枚)

 そして、ライトボックス上面からレンズまでの高さを稼ぐため、これも昔使っていた金属製のレンズフードを使うことにしました。おあつらえ向きに77mm用のフードがあったので、まさに復活という感じです。フード先端の内径が約80mmあるので67判の対角には少し足りませんが、まぁ、我慢することにしましょう。
 また、ライトブックスは下から光が照射されるのでルーペ内には外光が入らない方が望ましく、金属製のフードは打ってつけです。

▲77mmのレンズフード(金属製)

 後は、レンズまでの距離(高さ)が不足する場合、それを埋めるためのスペーサーとして、やはり使わなくなったフィルター枠を使います。

ルーペの組み立て

 組み立てと言ってもクローズアップレンズやフィルター枠をはめ込んでいくだけですが、作らなければならないのがクローズアップレンズ同士をつなぐアダプタと、レンズフード取り付けのためのアダプタです。
 まず、クローズアップレンズを向かい合わせにつなぐために、上にも書いたように77mm径のフィルターからガラスを取り外した枠を反対向きに接着剤でくっつけます。接着面は非常に狭くて接着剤だけでは強度的に心もとないので、内側にグルーガンで補強しておきます。
 接着剤がはみ出したりしてあまり綺麗でないので、表面に自動車用の絶縁テープを巻いておきます。

▲フィルター枠(2個)を貼り合わせたアダプタ

 それともう一つ、レンズフードを取付けるためにオネジをメネジに変換しなければならないので、不要になったフィルターの枠をひっくり返してレンズフードに接着しなければなりません。これも同じように接着剤でくっつけ、内側をグルーガンで補強しておきます。

 あとは下から順に、レンズフード、クローズアップレンズ(No.4)、アダプタ、クローズアップレンズ(No.3)、クローズアップレンズ(No.3)と重ねていけば完成です。
 今回使用したクローズアップレンズのNo.3のうちの1枚は枠が厚いタイプだったので問題ありませんでしたが、枠が薄いタイプだとレンズの中央部が枠よりも飛び出しているため、重ねると干渉してしまいます。その場合は、フィルター枠を1枚かませるなどして、干渉しないようにする必要があります。

 下の写真が組み上がったルーペです。

 大きさがわかるように隣にブローニーフィルムを置いてみました。
 いちばん上に乗っているのは保護用(プロテクター)フィルターですが、これもガラクタの中から出てきたので、上側のクローズアップレンズを保護するためにつけてみました。使用上はなくても何ら問題はありませんが、クローズアップレンズが傷ついたり汚れたりするのを防いでくれるという点では役に立っていると思います。
 また、ルーペの下に置いてあるのが67判のポジ原版です。四隅が少しはみ出しているのがわかると思います。

 No.10のクローズアップレンズがあれば1枚で済んだのですが、有り合わせのもので作ったのでちょっと不細工になってしまいました。フィルター名やレンズ名の刻印がたくさんあってにぎやかですが、気になるようであれば適当なクロスか何かを巻いておけば問題ないと思います。

ガラクタから作ったルーペの使い勝手

 こうして完成したルーペですが、大きさや重さは以下の通りです。

  高さ : 105.5mm
  外径 : 80mm(上側) 85mm(下側)
  重さ : 224g

 クローズアップレンズ3枚と保護フィルター1枚、金属製のフードやフィルター枠を使っているので、やはりちょっと重いという感じはします。
 また、もう少し外径が細い方が私には持ちやすいとは思いますが、十分に許容範囲内です。

 実際にライトボックス上でポジ原版を見てみると、若干、糸巻型の歪みが感じられますが気になるほどではありません。
 67判の四隅はフードによってカットされてしまいますが、それでもほぼ全体が視野に入ってくるのでルーペを移動させる必要もなく、とても便利です。
 倍率は正確にわからないのですが、たぶん4倍程度といった感じです。ピントの甘いところやブレているところなどもしっかりとわかりますから、十分な倍率だと思います。

 そして、いちばん驚いたのがポジ原版の画像がものすごく立体的に、浮き上がって見えることです。広い範囲が見えるのでそう感じるのかもしれませんが、肉眼で見たのとは別の写真を見ているような印象です。

 ピントの位置も特に問題なく、ルーペをライトボックス上に置いた状態でフィルムにピントが来ています。
 もし、ピント位置が合わないようであればフィルター枠をかませようかと思っていましたが、その必要もなさそうです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ガラクタを集めて作ったので見てくれは良くありませんが、クローズアップレンズを交換したり減らしたりすれば倍率も変えることができますし、ピント位置の調整もフィルター枠などを使うことで容易に行なうことができます。実際にクローズアップレンズを1枚外し、2枚構成にしてポジ原版を見てみましたが、倍率は少し下がるものの、十分に使用できるレベルでした。
 細部をシビアに点検するときは6倍以上のルーペが必要ですが、67判をほぼ視野に入れることができるメリットは大きく、今後、活躍してくれそうです。

(2023.1.12)

#ルーペ #クローズアップレンズ #リバーサルフィルム #ライトボックス

大判カメラ撮影に必要な小道具、あると便利な小道具たち(3)

 前回(およそ1年前)に続いて、大判カメラで撮影する際に、あると便利な小道具たちの紹介の3回目です。
 これらがなければ撮影ができないというような切実なものではありませんが、日ごろ、私が撮影の際に持ち歩いているものです。中には必ずしも大判カメラでの撮影に限らないものもありますが、大判カメラ使用時に出番が多いものを選定してみました。

ストーンバッグ

 ウェイトストーンバッグと呼ばれることもあります。もともとは三脚を安定させるための重しを載せるためのもので、三脚の3本の脚のつけ根辺りに紐で縛りつける、ハンモックのようなものです。
 風が強いときに三脚のブレを防ぐためであったり、そもそも重い三脚を持ち歩くのは大変なので、軽めの三脚であっても現地調達した石などを載せて安定させようという目的で作られたようです。確かに、その辺りに転がっている手ごろな石を載せれば、三脚の重心も下がるので安定度は増すと思います。
 ですが、私はもっぱら撮影時に使用する小道具置き場として使っています。

 大判カメラで撮影する際には意外とたくさんの小道具、小物類を使います。単体露出計、ルーペ、ブロア、フィルター、フィルムホルダーなどは常に使用しますが、撮影条件によってはさらにいくつもの小道具が必要になることがあります。
 これらをカメラバッグから取り出し、使い終わったらカメラバッグに入れる、というようなことはとても面倒くさいので、三脚の股の間に取付けたストーンバッグを仮置き場として使っています。もちろん、その場での撮影を終えて移動する際にはカメラバッグにしまわなければなりませんが、撮影時は必要なものが手の届くところにあるのでとても便利です。
 また、私はこの中に、常時ウェスを入れていて、三脚が濡れたり泥で汚れたりしたときにこれでふき取っています。

 私の使っているストーンバッグはナイロン製(たぶん)の安物なのでとても軽く、移動の際にも負担にならないので三脚に着けっぱなしです。安物なので、本来の使い方をしようとして大き目の石を入れると破れてしまうかも知れません。

手鏡(ミラー)

 クレジットカードと同じ大きさの鏡です。AMEX(アメリカン・エクスプレス)からもらったもので、金属製の鏡です。ガラス製ではないので、落としても割れる心配がありません。

 これを何に使うかというと、時々身だしなみを整えるためではなく、主に絞りやシャッター速度の設定の際に使用します。

 大判カメラは後部にあるフォーカシングスクリーンで構図の確認やピント合わせをするので、これが目の高さにあると腰をかがめる必要がないのでとても楽です。
 ですが、そうするとレンズも同じ高さになり、シャッターの外周につけられた絞り値やシャッター速度値がとても見難くなってしまいます。レンズ正面に回れば前面につけられた目盛りは見えますが、カメラの前後を行ったり来たりしなければならないので極めて面倒です。

 そこで、カメラ後部にいながらレンズの指標を確認できるよう、この鏡を使います。

 鏡なので左右反転して写りますが、見たいところを映すことができるのと、半絞りや1/3絞りなどの細かな設定も鏡を見ながらできるのでとても便利です。
 もちろん、強い風に吹かれたり、冠布を被ったことで乱れたヘアーを直すのにも使えることは言うまでもありません。

露出計用PLフィルター

 大判カメラには露出計がついていないので、単体露出計が必須になります。
 通常の撮影であれば、単体露出計の測光値を使う、もしくは、撮影意図によって露出を変える場合でも単体露出計の測光値をもとに補正をかけます。
 ところが、PLフィルターを使用する場合は、単体露出計の測光値をそのまま使うというわけにはいきません。NDフィルターなどは露出補正値がフィルターによってほぼ決まっていますが、PLフィルターは光の具合や偏光をかける度合いによって露出補正値が異なるからです。

 PLフィルターはレンズに装着した状態で、ファインダーやフォーカシングスクリーンを見ながら偏光の効き具合を確認しますが、この時の露出補正値が正確にわかりません。明るさの変化を見て、概ねこれくらいだろうということで露出補正値を決めてしまうこともありますが、正確さを期すためには単体露出計で測光することが望ましいわけです。

 そのためには単体露出計にもPLフィルターを装着し、その状態で測光する必要がありますが、レンズにつけたPLフィルターを外して単体露出計につけるのは面倒です。
 そこで、単体露出計用の小さなPLフィルターをあらかじめ用意しておきます。

 PLフィルターの枠には変更度合いの基準となる位置にマークがついています。レンズに装着したPLフィルターで偏光度合いを確認した後、その時のマーク位置と同じになるよう単体露出計のPLフィルターも回転させ、その状態で測光すれば、偏光のかかり度合いに応じた正確な露出値を得ることができます。

 最近のPLフィルターは、カメラに内蔵されたハーフミラーやローパスフィルターに干渉しないよう、サーキュラPLというものがほとんどですが、大判カメラにはどちらも内蔵されていませんし、単体露出計に影響がなければ普通のPLフィルターでも問題ありません。

フォーカシングスクリーンマスク

 大判カメラのフォーカシングスクリーンは、そのカメラで使用するフィルムとほぼ同じ大きさになっています。つまり、視野率はほぼ100%ということです。
 ですが、大判カメラにロールフィルムホルダーを装着して撮影する場合、使用するのはフォーカシングスクリーンの中央部だけ、67判であれば約55mmx69mmの範囲だけです。
 フォーカシングスクリーンによっては67判や69判の枠が引かれているものもありますが、視野率が300%ほどにもなってしまうので周囲が見えすぎてしまい、正直、使い易いとはいえません。これを改善するため、使用するフィルムの大きさに合わせたマスクを用意しておくと便利です。

 マスクと言っても黒い厚紙の中央部に、フィルムの大きさに合わせた窓をくり抜いただけのものです。これを、大判カメラのフォーカシングスクリーンのところにはめ込むという単純なものです。単純ではありますが、これで視野率が約100%となり、周囲の余計なものが見えなくなるので構図決めは格段にやり易くなります。

 フォーカシングスクリーンが嵌まっている枠の大きさはカメラによって異なるので、このマスクはカメラごとに用意しておく必要があります。
 また、フィールドタイプの大判カメラの場合、フォーカシングスクリーンにフードがついているものが多く、マスクを嵌めたままでもこのフードを畳めるよう、マスクの紙厚が厚くなりすぎないように考慮する必要があります。

色温度補正フィルター

 大判カメラでの撮影は長時間露光になることも多く、特にリバーサルフィルムを使用した撮影の場合、相反則不軌によってカラーバランスが崩れることがあります。
 この影響が出る露光時間はフィルムによって異なりますが、富士フイルムのデータシートによると、PROVIA100Fで4分以上の露光、Velvia100Fで2分以上の露光、Velvia50で4秒以上の露光となっています。
 2分以上の露光をすることはそれほど多くはありませんが、4秒以上の露光はかなりの頻度で発生します。つまり、Velvia50を使う場合はカラーバランス補正が必要になる頻度も高いということです。
 また、Velvia50の場合はマゼンタ系による色温度補正フィルターとされています。

 これに対応するため、マゼンタのポリエステルフィルターセットを使用しています。

 5Mから30Mまで5種類の濃度のフィルターがセットになっているものです。フィルター枠の大きさは100mmx100mmで、角型フィルターを使うときのホルダーに嵌まるサイズです。

 多少の色補正はレタッチソフトで修正できますが、やはりフィルムで撮る以上、ポジの状態でも適正なカラーバランスにしておきたいと思い、Velvia50を使うときは持ち歩くようにしています。

ケミカルライト

 フィールドタイプの大判カメラはその構造上、Uアーム(レンズスタンダード)を移動させるためのベッドがレンズよりも前にせり出しているものが多く、特に短焦点レンズを使う場合、このベッドが写り込んでしまうことがあります。WISTA 45 SPやタチハラフィルスタンド45では問題になりませんが、私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは、焦点距離が105mmのレンズでも縦位置だとベッドが写り込んでしまいます。
 カメラによって、焦点距離が概ね何ミリ以上のレンズであれば写り込みはないという自分なりの目安はありますが、それはカメラをニュートラル状態で使ったときの話しであって、アオリを使えばその基準は崩れてしまいます。

 ベッドが写り込まないよう、短焦点レンズを使うときは特に注意をしながらフレーミングや構図決めを行ないますが、夜景の撮影であったり、被写体が黒っぽいものであったりすると、ベッドの写り込みに気づかずにシャッターを切ってしまうこともあります。そうなると、大判で最も小さな4×5判であっても、リバーサルフィルムを使っていると千数百円(現像代含む)が飛んで行ってしまいます。

 このミスを防ぐため、夜景や暗い被写体の撮影の際にはベッドの先端にケミカルライトを着けるようにしています。

 これは本来、釣りに使うものです。2~3ヵ所をパキッと折ると緑色に発光し、約10時間くらい発光し続けます。光は蛍光色でかなり明るいです。サイズはいろいろあるのですが、私が使っているのは長さが37mm、直径が4.5mmという比較的小さなものです。価格は10本で400円ほどです。

 発光させたケミカルライトを、長さ50mmほどに切った黒いストローの中に入れます。ストローの中央にはキリで小さな穴を開けておきます。

 これを大判カメラのベッドの先端に貼りつければOKです。貼りつけは両面テープでも何でも良いのですが、私は「ひっつき虫」という粘土のようなものを使っています。つけたりとったりが何度でもできるので便利です。

 この状態で構図決めを行なうわけですが、もしベッドが写り込むとフォーカシングスクリーンの上部に緑色の光が見えるのですぐにわかります。
 10時間以上も発光し続けるので、一日の撮影でも1本あれば間に合います。数十円で高価なフィルムが無駄になるのを防げるのであれば安いものです。

マスキングテープ、ハーネステープ

 これは特に用途が決まっているわけではなく、持ち歩いていると何かと便利といった類のものです。どちらも手で簡単に切れますし、剥がしても痕が残りません。

 私がこれらをどのように使っているかというと、

  ・シートフィルムホルダーの引き蓋が抜けないようにとめておく
  ・長いケーブルレリーズ使用時、写り込まないようにカメラや三脚などにとめておく
  ・角型フィルターの隙間からの光線漏れを塞ぐ
  ・野草撮影の時、邪魔になる草や枝をまとめておく
  ・夜景撮影のため、明るいときにピントを合わせた位置をマーキングしておく

 といったようなところです。

 過去には、指を切ってしまったときに傷口にティッシュペーパーをあてて、その上からマスキングテープを巻いて包帯代わりにしたなんていうこともありました。
 とにかく持っていると重宝します。

折り畳み椅子

 大判カメラに限って必要というわけではありませんが、特に大判カメラの場合、じっくり腰を落ち着けて撮ることが多く、そんなときに椅子があると楽ちんです。レジャーシートなどを地面に広げて、そこに腰を下ろしても良いのですが、やはり椅子の方が何かと便利です。
 私は出来るだけ軽いものをということで、かろうじてお尻が乗るくらいの小さなものを持ち歩いています。長時間座るのには向いていませんが、地面に座るよりはずっと楽です。

 ただし、他の小物に比べると大きいので荷物になります。荷物の少ない方をとるか、多少荷物が増えても待機時の体の負担軽減をとるか、といったところでしょうか。

 いちばん自由度が高いのはレジャーシートだと思い、常時持ち歩いているのですが、立ったり座ったりが結構しんどいので、レジャーシートはもっぱら荷物置き用として使っています。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 あれば便利というものはなかなかキリがなくて、撮影対象が異なればその内容も変わるでしょうし、年齢を重ねることで変わってくるものあると思います。しかし、持てる量には自ずと限りがあるので、荷物にならず手間もいらず、という小道具がいちばんありがたいです。

 また、今回は色補正フィルターについても触れましたが、その他にもカメラバッグには何種類かのフィルターが入っています。しかし、それらのフィルターは大判カメラに限ったものではないので言及しませんでしたが、フィルターについては別の機会にあらためて書いてみたいと思います。

(2022.10.18)

#撮影小道具 #ストーンバッグ #ケミカルライト #色温度補正フィルター