ローデンシュトック Roden stock のソフトフォーカス バレルレンズ 220mm 1:4

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズというとイマゴン Imagon が有名ですが、このレンズはそれよりもずっと前に作られたレンズのようです。詳しいデータがわからないのですが、その形状からして100年くらい前のものと思われます。
 このレンズは半年ほど前、偶然入った中古カメラ屋さんで見つけたものです。レンズの汚れもひどかったのですがカビはなさそうでしたし、何よりも珍しいレンズだったので購入してみました。
 私は、いわゆるオールドレンズというものにはあまり詳しくなく、このレンズで撮影する機会も少ないのですが、そんな中から何枚かをご紹介したいと思います。

 なお、レンズに関する記述で間違っているところがあるかも知れませんので、予めご承知おきください。

このレンズの仕様

 いわゆるバレルレンズという部類に入るレンズで、大きな口径のレンズと全身金属製(たぶん真鍮製)のため、ズシッと重いレンズです。レンズボード込みで554g、レンズボードを外しても524g(いずれも実測値)あります。
 鏡胴の直径が65mm、全長は70.5mm(いずれも実測値)で、まさにバレルレンズと呼ぶにふさわしい寸胴型をしています。外観は軟焦点レンズで有名なウォーレンサックのベリートによく似ています。
 レンズ前玉の化粧リングには「G.Roden stock Munchen Soft Focus lens 1:4 220mm」と刻印されています。

 写真ではレンズボードに取付けられた状態ですが、購入時はレンズのみだったので、手元にあった使っていないリンホフ規格のレンズボードを加工して取り付けました。
 全体に黒色の塗装がされていてあちこち塗料のハゲなどがありますが、外観はまずまずといったところです。

 レンズ構成ですが、前玉はたぶん1枚と思われます。分解しようと思い前玉のユニットを外しましたが、レンズを押さえているリングが固着しているのか、全く動きません。レンズ周辺部の厚みを測ったところ、約2mmでしたので、複数レンズの張り合わせはしてないだろうと思います。
 後玉は2枚構成です。こちらは分解できたので確認できました。
 つまり、メニスカス型のレンズが絞りを挟んで互いに向かい合った形をした、2郡3枚構成のレンズです。

 絞りは開放がF4、最小がF36で、その間の指標はF6.3、F9、F12.5、F18、F25となっており、なかなか馴染みのない数値が刻まれています。なぜこのような指標になっているのかは不明ですが、最小絞りのF36を基準に1段ずつ開いた数値を用いているのではないかと思われます。

 絞り羽根は18枚で、最小絞りまで絞り込んでも円形を保っています。
 絞りリングも適度な重さがあり、古いレンズにありがちな妙に硬いとか、途中でカクッと軽くなってしまうようなこともなく、スムーズに動いてくれます。

 レンズはかなり汚れていましたが、清掃したところ、とても綺麗になりました。
 100年ほど前のレンズだとするとコーティングはされていないと思われるので、最近のレンズのように深い紫色ではなく、まさに無色透明といった感じのレンズです。

このレンズで撮影するための必要機材

 バレルレンズには絞りがついていますが、シャッターやピント合わせのためのヘリコイドはついていません。そのため、このレンズを使って撮影するためには、シャッターとヘリコイドを別途用意しなければなりません。
 いろいろな方法は考えられますが、

  1) アダプタを介して、中判カメラや35mm判カメラにレンズを取付ける
  2) 大判カメラを使い、シャッターをレンズに取付ける

 というのが容易に思いつく方法です。

 最初の中判カメラや35mm判カメラに取付けるためのアダプタですが、たぶん、一般的に市販されているマウントアダプタの中にはないと思われるので、自作ということになります。
 そして、もう一つ必要なのがピント合わせ用のヘリコイドの機能を代用するものです。
 短めのベローズ等があれば比較的簡単かもしれませんが、多くのベローズは接写用のため、無限遠が出ないという状況になってしまう可能性があります。そのため、多少の工夫と工作が必要ですが、実現できれば中判カメラでもデジタルカメラでも使えるので便利だと思います。

 二つ目の大判カメラを使う方法ですが、こちらはもっと簡単で、レンズをレンズボードに取付けさえすれば、ピント合わせはカメラ側で行なうことができます。
 問題はシャッターですが、大判カメラにはシャッター機能がありませんので、ソロントンシャッターやメカニカルシャッターなどをレンズの前に装着する必要があります。
 あとは大判フィルムで撮るも良し、アダプタを介して中判カメラや35mm判カメラで撮るも良しといったところで、最も自由度は高いと思います。

 私はバレルレンズを数本所有していますが、いずれも二つ目の大判カメラを用いた方法で撮影をしています。

 なお、バレルレンズを使った撮影やソロントンシャッターについては別の機会にご紹介したいと思います。

100年前のレンズの写り

 今回ご紹介する写真撮影に使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、およびウイスタ45 SPです。また、いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っていますが、大判フィルムで撮ったものと中判フィルムで撮ったものがあります。

 まず最初の写真は、今年の春に近所の公園で撮影した染井吉野桜です。

▲染井吉野桜 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 このレンズを購入してから最初に撮影した写真ですが、素晴らしい写りに驚きました。
 正直なところ、あまり期待はしていなかったのですが、芯がしっかりと残っており、その周囲にふわっとしたフレアがかかり、何とも味わいのある描写になっています。フレアがかかっているというよりはフレアをまとっているといった方がぴったりするくらい、立体感があります。
 国産のソフトフォーカスレンズはフレアが大きく出過ぎたり、ソフトフォーカスフィルターで撮影したように平面的であったりするものが多いのですが、このレンズはフレアも大きすぎず、被写体とフレアが一体になっているという感じがします。ちなみに、この写真は絞り開放(F4)で撮影しています。

 また、色の出方も自然で、素直な写りをするレンズという印象です。今のレンズと比べると地味な色の出方かも知れませんが、ソフトフォーカスには向いているようにも感じます。

 掲載した写真ではよくわかりませんが、ポジをルーペで見てみると、色収差の影響が残っているように感じます。しかし、写真全体の質感を損ねるほどではなく、カラーリバーサルで撮影しても問題になるようなレベルではないと思います。

 同じ位置から絞りF8で撮影したのが下の写真です。

▲染井吉野桜 : F8 1/125 PROVIA100F(中判)

 F8まで絞るとフレアはほとんど感じられず、非常に鮮明な画像が得られています。発色もボケ方もとても綺麗だと思いますし、トップライトに近い順光状態での撮影ですが平面的にならずに立体感もあります。ただし、解像度は若干低めという感じがします。

 次の写真はピンク色の梅を撮影したものです。

▲梅 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 梅の花と幹や枝とのコントラストが大きく、このような状況では梅の花のフレアが必要以上に大きくなってしまうレンズが多いのですが、このレンズは大きく出過ぎず、花の周りにフレアがまとわりついているかのようです。
 周辺部になると画質の低下が少し感じられますが、極端に悪くなるというわけではなく、フレアの出方も比較的綺麗な状態を保っています。

 上の梅の写真よりもコントイラストが低めの被写体ということで、春先の小川の風景を撮ったのが下の写真です。

▲野川公園 : F4 1/30 ND8使用 PROVIA100F(中判)

 午前中の撮影で、日差しはあるものの特に強いというわけではなく、全体的にコントラストは低めの状態です。際立って明るい部分はないので、フレアは全体にまんべんなくかかっているという感じです。
 遠景というほどではないにしても、これだけ引いた状態だと若干低めの解像度が目立ってきますが、かえってそれがふわっとした印象になっているかも知れません。好みの問題もありますが、レトロな感じの仕上がりになっているように思います。
 この写真も絞り開放での撮影ですが過度なフレアは感じられず、個人的には好ましい描写だと思います。

 さて、逆に強いハイライト部がある被写体ということで、日差しに輝く川面を撮影してみました。

▲奥入瀬川 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 ここは青森県の奥入瀬川、焼山付近で撮影したものです。晴天の午後1時ごろ、太陽が天中近くにある状態ですが、撮影位置は日陰になっている木の下になります。覆いかぶさっている木は陰になっていますが、川面は強く輝いており、非常にコントラストの高い状態です。
 ハイライト部分はもっとフレアが強く出ると思っていたのですが、想像していたよりはずっと控えめで、川面の状況もよくわかります。また、陰になっている木の枝もつぶれることなく、表現されています。
 一方、川面の波の部分などを見ると、色収差が出ているのがわかります。

 このような状況を普通のレンズで撮影すると硬い感じになってしまいますが、軟らかな感じに仕上がるのがソフトフォーカスレンズならではです。

 もう一枚、下の写真は彼岸花が咲く秋の風景を撮ったものです。

▲彼岸花の里 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 実った稲穂と赤い彼岸花がとても絵になる風景で、小さな祠が祀られている田圃の畦道は日本の原風景といった感じです。
 逆光気味の状態でしたが、薄雲がかかってコントラストが少し下がったときに撮りました。全体にフレアが均一にかかっており、稲穂や木の葉の先端の滲みがとても綺麗だと思います。
 撮影場所から祠までの距離は20~30mほど、背景もそれとわかるくらいのボケ方なので、この場の状況が良くわかる描写だと思います。

 このレンズに限らずソフトフォーカスレンズでピント合わせをする場合は、絞り開放ではなく、少し絞り込んだ状態で行なわないとピントがずれたようになってしまいます。意図的にピントをずらせて軟らかさを強調する場合もありますが、やはり芯がしっかりしている方が見ていて気持ちが良いと思います。

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 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズで、イマゴンよりも昔のレンズというのは知らなかったのですが、今回、初めて使ってみて、味わいのある描写にちょっと感動しました。
 もちろん、最近のレンズと比べると解像度などは低めですが、最近のソフトフォーカスレンズとはちょっと異質の感じがします。色収差を取り切れなかったのか、それとも、敢えて残しておいたのかはわかりませんが、もしかしたらそれが影響しているのかも知れません。

 バレルレンズを持ち出すと撮影に時間がかかるのが難点ですが、新しいレンズと違ってそれぞれの特徴が良くわかるのがバレルレンズの面白さとも言えます。

(2022.10.3)

#Rodenstock #ローデンシュトック #ソフトフォーカス #バレルレンズ #Linhof_MasterTechnika

ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6 シャッター修理

 先日、久しぶりに新宿の中古カメラ屋さんをはしごしていたところ、とある一軒の中古カメラ屋さんでローデンシュトックの大判レンズ、シロナーN 210mmを見つけました。このお店にはこれまで何度も立ち寄っていますが、ここでローデンシュトックの大判レンズを見たのは初めてです。
 見たところ、外観は非常にきれいです。にもかかわらず、驚くほど安い価格の値札がついていました。しかも、リンホフ規格のレンズボード付きです。

安いのには安いなりの理由がある

 諭吉一枚で足りるどころか、かなりのお釣りがくる価格のローデンシュトックのシロナーN 210mm 1:5.6、訳ありに違いないとは思いましたが、目が釘付けにでもなったようにその場から離れられません。見るだけならタダだと思い、お店の方にお願いして棚から出してもらいました。
 お店の方が、「シャッターが不良なんですよね。修理に出すと4~5万かかってしまうので、仕方なくこんな価格にせざるを得ないんです。」とおっしゃいながらレンズを渡してくれました。よく見ると、値札の下の方に小さな文字で「シャッター不良」と書かれています。

 しかし、外観はとても綺麗です。新品とは言いませんが限りなくそれに近いくらい、よーく見ると細かな傷がほんのちょっとある程度です。
 そして、外観にもまして綺麗なのがレンズです。強い光にかざしてみると微細なチリはありますが、キズや曇り、カビ、コバ落ちなどはまったく見当たりません。レンズだけ見ればまさに新品のような美しさです。もちろん、絞り羽根もシャッター膜もとても綺麗です。

▲Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 シャッター不良とはいえ、ずいぶん安いなと思いながら動作確認をしたところ、低速側のシャッター速度が正常に動作しません。1秒~1/8秒はかなりの高速で切れている感じです。ただし、1/15秒より高速になると概ね、正常な感じです。
 大判レンズの場合、高速シャッターよりも低速シャッターを使う頻度の方が多いので、これは致命的です。

 それと、T(タイム)ポジションがうまく機能しません。シャッターを開くときは問題ないのですが、閉じるときにはシャッターレバーを2~3回押さないとシャッターが閉じてくれません。B(バルブ)ポジションは問題なく動作しているので、長時間露光時もBを使えば支障はないのですが、せっかくついている機能が使えないというのはあまり気持ちの良いものではありません。

 低速側のシャッターが正しく動作しないのは、多分スローガバナーの問題だろうと想像がつきます。しかし、Tポジションの動作については原因が思い当たりません。
 焦点距離210mmのレンズを持っていないわけではないし、修理しなければ使えないレンズを買うこともないとも思いましたが、外観とレンズの美しさにどうしてもあきらめきれません。しかも、修理が必要とはいえ、こんなに安い金額でゲットできる機会はそうそうあるとも思えません。

 で、いろいろ悩んだ末に結局のところ、「ローデンシュトック シロナーN 210mm 1:5.6 お持ち帰り!」となりました。

まずはスローガバナーの修理から

 レンズを購入した翌日、早速修理に取り掛かりました。
 前玉を外して、シャッター速度ダイヤルの円盤を外すと内臓(シャッター機構)がむき出しになります。この状態で何度もシャッター切りながら内部の動作を調べます。因みに、シャッターはCOPAL-No.1です。
 すると、低速の時に、スローガバナー内にうまく動いてくれない歯車が2枚あることがわかりました。下の写真の赤い矢印の歯車が患部のようです。

▲スローガバナー

 上の写真で、シャッター速度ダイヤルを動かすと、黄色の矢印をつけたパーツが溝の中を動きます(写真では上下方向)。これによってスローガバナーの動きを切り替えているわけですが、いちばん外周側にあるときが低速シャッターを司っています。
 ドライバーの先で歯車を軽くつつくと動くので、汚れ等で粘っているのかもしれません。
 高速側は全く問題なく動いています。

 スローガバナーの内側は見えないので外してみましたが、特に汚れているようには見えません。念のため、ベンジンで洗浄して、歯車のシャフトに注油を行ない、動作確認してみると快調に動いてくれました。
 筐体内に取付けても問題なく動いてくれるので、これで低速側シャッターの問題は解消です。

Tポジションの動作不良の原因

 次にTポジションの動作ですが、こちらはどこに問題があるのかよくわかりません。シャッターをチャージし、開くときは問題ないのですが、閉じようと思ってシャッターレバーを押しても閉じてくれません。2回、3回押すとようやく閉じてくれます。
 何十回と動きを確認しているうちに気がついたのですが、シャッターレバーを押したときに動くカムのようなパーツの動きに問題があるようです。ここには髪の毛よりも細いのではないかと思われるバネが使われており、これがヘタってきているのかと思い外してみましたが、そうでもなさそうです。
 カムの下のパーツをドライバーの先でちょっと押すとシャッターが閉じてくれるので、どうやらこのパーツの動きが鈍いと思われます。

 下の写真の赤い矢印が問題のパーツです。

▲Tポジションの動作機構

 赤丸の中の右側にある階段状になっているカムと、その左側にある白っぽく見える爪のようなものがかみ合って、最初の動作でシャッター開、2回目の動作でシャッター閉となるのですが、2回目(シャッター閉)の時がうまくいっていないようでした。
 こちらは取り外さずに、シャフトのところをベンジンで軽く洗浄し、注油したところ、Tポジションでの動作が正常に行なわれるようになりました。やはり、少し粘っていたようです。

念のため、シャッター速度を計測

 これで低速側シャッターもTポジションの動作も正常になりましたが、シャッター速度がどのくらいの精度があるのか気になったので、念のため、実測してみました。
 他のページで紹介しました自作のシャッター速度計測用治具が、こんなに早く役立つとは思ってもいませんでした。
 各ポジションで3回ずつ計測してみたところ、基準値から最もずれていたのが1/400秒ですが、それでも-8%以下でした。1/400秒などほとんど使うことはないし、他のポジションのずれはそれ以下でしたので、全く問題ないと思います。

 このレンズ、あまり使われてこなかったのかも知れません。もしそうだとすると、外観やレンズに傷がなく、とても綺麗なのも頷けます。しかし、機械ものなので、長期間使われないことで動きに支障が出てきてしまったのかも知れません。
 念のため、修理後は毎日シャッターを切って動きを確認していますが、今のところ快調です。

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 動作不良のレンズとはいえ、驚くほど安い値段で購入しましたが症状は軽症だったため、ほぼ丸一日かけた修理で正常に動くようになりました。残念ながらまだ実際の撮影では使っていませんが、近いうちに使ってみたいと思います。
 しばらく使っているうちにまた不具合が出るかもしれませんが、当面は問題なく使えそうです。

 また新たにレンズが増えてしまいました。

(2022年2月26日)

#ローデンシュトック #Rodenstock #中古カメラ