テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 シュナイダー Schneider の大判レンズ

 シュナイダー製の大判レンズにはいくつかのテレタイプがラインナップされていますが、このテレアートン Tele-Arton もその一つです。
 私はテレアートンについてあまり詳しくないのですが、シュナイダーの古いカタログを見ると、スタジオ撮影を意識して作られたレンズのように書かれています。つまり、風景などの被写体よりも、ポートレート撮影などに向いているということだと思います。
 テレタイプのレンズはその焦点距離に対してフランジバックが短かいという特徴がありますが、反面、レンズが大きく重くなってしまい、スタジオ撮影ならともかく、フィールドに持ち出すことを考えると携行性には劣ると言わざるを得ません。
 しかしながら、魅力のあるレンズであることも確かです。

テレアートン Tele-Arton 270mm 1:5.5 の主な仕様

 他のレンズと同じように、テレアートンも改良が重ねられてきているのでたくさんのバージョンがありますが、私の持っているレンズは比較的新しいモデルだと思われます。新しいといっても、シリアル番号からすると1973年ごろにつくられたようですので、半世紀も前のレンズということになります。
 この数年後に発売されたテレアートンには「MC(マルチコーティング)」の称号がつけられていますが、私のレンズにはついていないのでシングルコーティングレンズです。前玉をのぞき込むと、シングルコーティングらしいあっさりとした色合いをしています。

 テレアートンに関する情報が少ないなかで、わかる範囲でこのレンズの仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ178mm(f16)
   レンズ構成枚数 : 5群5枚
   最小絞り : 32
   シャッター  : COPAL No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フランジバック : 約158mm (実測値)
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm (実測値)
   後枠外径寸法 : Φ51mm (実測値)
   全長  : 86.7mm (実測値)
   重量  : 512g (実測値)

 なお、フランジバック、寸法、および重量は私のレンズでの実測値です。カタログ値とは異なっているかもしれませんので、ご承知おきください。

 古いタイプのレンズにはレンズ構成が4枚とか6枚というものもあったようですが、後期モデルは5枚構成になっているようです
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ80mm前後のレンズに相当します。中望遠にあたる焦点距離で、まさにポートレート用として多用されているレンズに該当します。
 絞りの目盛りは32までしかありませんが、絞りレバーはさらに絞り込む方向に動かすことができ、F64くらいまで絞られる感じです。
 シャッターはコパルの1番が採用されていますが、後期モデルとは異なり、シャッター速度設定リングがギザギザのついた金属製のタイプです。触った感触や、回転させるとカチッとした動きなど、個人的にはこの方が好きです。
 前玉はシャッターの径と同じくらいあるのですが、長く前方に飛び出しているので絞りやシャッター速度目盛りがとても見易く、また、操作もしやすいです。

 イメージサークルは178mm(F16)と、焦点距離の割にはかなり小さめです。テレタイプではない通常の焦点距離105mmくらいのレンズよりわずかに大きいくらいですから、大きなアオリは使えません。4×5判を横位置で使用する場合、F22まで絞った状態でライズできる量は15㎜程度と思われます。
 フランジバックは約158mm(実測値)なので焦点距離に対してとても短く、一般的なフィールドカメラに装着した場合、よほどの近接撮影でない限り、可動レールがカメラベースからはみ出さすことなく使える長さです。長焦点レンズは繰り出し量が大きく、風などの影響を受けやすいのですが、フランジバックが短いとそのリスクも軽減されます。

 絞り羽根は7枚で、最小絞り(F32)まで絞り込んでも綺麗な7角形を保っています。
 また、重量は512g(実測値)もあり、ズシッと重いレンズです。

テレアートン 270mm のボケ具合と解像度

 このレンズがどのような感じにボケるのか、以前に作成したテストチャートを用いてボケ具合を確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約2.7m離れた位置から撮影をしました。絞りは開放(F5.5)です。
 撮影した画像から、ピントを合わせた位置のテストチャート、後方に25cmの位置にあるテストチャート、および、前方に25cmの位置にあるテストチャートを切り出したのが下の3枚の写真です。

 1枚目がピントを合わせた位置のもので、概ね、問題のないレベルだと思います。
 2枚目が後方25cmの位置にあるテストチャートで、後ボケ状態のものです。ボケ方自体は比較的柔らかな感じですが、ボケの中心付近に芯が残っているようなボケ方をしています。ボケの中に元の図形が残っているというのが正しい表現かも知れません。細い線状のものだと、それが残る傾向が強い感じで、被写体の形状によっては気になるボケ方になる可能性があります。
 そして、3枚目が前方25cmの位置にあるテストチャートです。いわゆる前ボケですが、後ボケに比べるとすっきりとした感じのするボケ方です。ボケがいずれかの方向に偏ることもなく、概ね、均等なボケ方をしていると思います。多くの場合、前ボケは大きくなる傾向にあるので多少クセがあっても気にならないことが多いですが、柔らかくふわっとしたボケである方が望ましいのは言うまでもありません。

 前ボケの大きさ(ボケ径)の理論値を下の近似式で計算してみます。

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 この式に、

  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 270mm
  a : 主被写体までの距離 =2,700mm
  b : 点光源までの距離 = 2,450mm
  F : 絞り値 = 5.5

 をあてはめると、ピント位置から前方25㎝の位置にある点光源が約5mmの大きさになります。上の写真でも感触はわかると思いますが、そこそこ大きなボケが期待できると思います。

 また、参考までにISO-12233規格の解像度チャート(A4サイズ)も撮影してみました。

 掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、2,000LW/PHのラインまで解像しているのでほぼ問題ないレベルだと思います。
 また、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測したところ、結果は2,163本という値が得られました。テストチャートを印刷したプリンタの性能が追いついていないので、A3サイズに印刷したテストチャートを用いればもう少し良好な結果が得られるかも知れません。

テレアートン 270mm の作例

 焦点距離270mmというレンズは4×5判で使用した場合、対角画角はおよそ32度なので、広い範囲を写し込むには被写体との距離をかなり大きくとる必要があります。ですので、広い範囲を写すというよりは、その中からある範囲を切り取るという写し方に向いています。

 まず1枚目は、きれいに色づいたカエデの紅葉を撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F11 1/30 PROVIA100F

 大きな木ではありませんが、オレンジ色から赤色へのグラデーションがとても綺麗です。
 薄曇りなので直接の日差しはありませんが、太陽の位置は後方になるので順光に近い状態です。上部の葉っぱの一部が反射で白く輝いているのがわかると思います。日差しが強いときは順光で撮影すると葉っぱの色が綺麗に出ませんが、柔らかな光だと順光状態でもきれいな色が出ます。

 背後には、かなり落葉してしまってますが茶色く色づいた枝を配しました。主要被写体のカエデから背後の木までの距離は2~3mほどでしょうか。カエデの葉っぱはなるべくぼかしたくなかったのでF11まで絞り込んでいます。背後の木がはっきりとし過ぎており、ちょっと絞り込み過ぎた感じです。カエデの葉の色が鮮やかなので背景に埋もれすぎることはありませんが、もう少しボケた方がよりカエデの葉が引き立ったと思います。
 ボケはクセがなく、素直な感じだと思います。

 画角は大きくないので、バックに余計なものが入り込まないのも270mmという焦点距離ならではという感じです。背景の選び方によってはかなり簡素化できるのも、このクラスのレンズの特徴の一つです。被写体の形が変わってしまうこともなく、また、被写界深度が浅すぎることもないので、不自然さもなく写すことができます。
 葉っぱの先端も綺麗に表現されているので解像力も問題ないと思います。

 2枚目は紅葉をバックに、まだ青々とした葉を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 紅葉はもちろん綺麗ですが、紅葉前の緑とのコントラストも美しいものです。季節の移り変わりを感じることのできる光景の一つかも知れません。
 写真を見ていただいてわかる通り、これを撮影した日は快晴で強い日差しが差し込んでいる状態です。逆光位置で紅葉を見るととても鮮やかに見えるものですが、コントラストが高くなりすぎてしまうのも事実です。

 そこで、カエデの木の近くにあった、まだ黄葉していない木の下に入り込んで撮影しました。上から下がっている一枝の葉っぱ全体にピントが合う位置を探し、その位置から紅葉を背景にしています。太陽はほぼ上部正面方向にあり、この葉っぱは透過光で見ている状態です。葉脈も綺麗に見えています。
 この枝までの距離は3mほど。もう少し近づいて背景の紅葉を大きくぼかしたかったのですが、ある程度の範囲を入れるのと、背景のボケ具合との妥協点がこの位置という結果になりました。
 背景も結構明るいので、その明るさに負けないように、そして、緑が濁らないようにということで露出は若干オーバー目にしています。そのため、葉っぱの色が本来の色より黄色っぽくなっています。

 シングルコーティングのレンズですが、この程度の逆光条件で、レンズに直接光があたっていなければフレアなども感じられず、ほとんど問題のないレベルで写ります。光の反射している箇所にはごくわずかの滲みも見られますが、ほとんど気にならないレベルです。

 さて、3枚目は紅葉したカエデの葉っぱをアップで撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/8 PROVIA100F

 近所の公園に比較的大きなカエデの木が何本もあり、そこで撮影したものです。
 木の下から見上げるようなポジションで撮っています。午前中の早い時間帯だったので太陽高度が低く、バックは日陰になっている状態なのでほぼ真っ黒に落ち込んでいます。数枚の葉っぱに木漏れ日があたったタイミングを見計らってシャッターを切っています。光があたっている葉っぱだけにすると画全体が散漫な感じになってしまうので、少し多めに入れています。

 主被写体である葉っぱまでの距離は2mほどだったと思います。マクロ撮影ほど近接はしていませんが、それでも、そこそこの大きさで撮影することができます。絞り開放で撮っているので、ピントが合っているのは葉っぱ1枚だけです。左上に行くに従いピントから外れていきますが、なだらかなボケ具合は好感が持てます。
 太陽は逆光の位置にあるのですが、このカエデの葉っぱにとってはトップライトに近い感じであり、そのため、立体感が損なわれてしまった感じの描写です。
 また、このような写真の場合、F5.5というのは若干物足りなく感じてしまいます。もう1段、絞りを開くことができれば、もっと柔らかくてだいぶ印象の違う描写になるだろうと思われます。

 前ボケの具合がわかる写真をと思って探したのですがなかなか適当なものがなく、ようやく春に写した桜の写真を見つけたので、最後にご紹介します。

▲Linhof MasterTechnika 45 F5.5 1/60 PROVIA100F

 菜の花越しにしだれ桜を撮影したもので、個人的にはあまり気に入っていない写真なのですが、比較的、前ボケの出方がわかりやすいかと思います。
 しだれ桜までの距離は5~6mほどで、一番手前の菜の花までは1mもなかったと思います。桜のピンクに対して菜の花の黄色が強すぎるので桜の印象が薄れてしまった感じですが、菜の花のふわっと広がるようなボケ方は嫌味な感じがしません。レンズによっては前ボケがこってりと出過ぎるものもありますが、このレンズのボケは割と控えめといった印象です。色とか量に気をつければ効果的な前ボケを得ることのできるレンズだと思います。

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 私はテレタイプのレンズを数本持っていますが、実はその出番は決して多くありません。例えば、今回のテレアートン270mmに関しても、これを持ち出さずに250mmや300mmのテレタイプ以外のレンズを持ち出すことの方が圧倒的に多いです。レンズが大きくて重いというのと、イメージサークルが小さいというのが理由ですが、写りに不満があるわけではありません。むしろ、花の写真を撮ったりするときなどは、扱いやすいレンズだと思っています。

 また、50年も前のレンズですから、新しいレンズと比べると性能的にも劣るのでしょうが、厳しい条件での撮影でもない限り、十分な写りをするレンズだと思います。ボケ方も変なクセがなく好感が持て、ポートレート用ということを意識して作られたレンズというのもうなずけます。
 広い風景をダイナミックに撮るというのには向いていないかも知れませんが、重さを差し引けば風景撮影にも持っていきたい1本ではあります。

(2023.12.21)

#Schneider #シュナイダー #テストチャート #ボケ #レンズ描写

ローデンシュトック シロナーN Sironar-N 210mm 1:5.6 大判レンズのボケ具合

 私は大判カメラ用の焦点距離210mmのレンズを4本持っていますが、特段、210mmのレンズが好きで使用頻度が高いというわけではありません。最初は1本だけだったのですが、友人から使わなくなった210mmレンズを譲り受けたものもありますし、何と言っても中古市場に出回っているタマ数が多いため、つい買ってしまったなんていうものもあります。
 2年ほど前に衝動買いのようにゲットしたローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 もそんなレンズの一つです。それまでは210mmというと、もっぱらシュナイダーのAPO-SYMMARを使っていたのですが、Sironar-N を手にしてからその写りが気に入ってしまい、今では210mmというとSirona-Nの使用頻度が最も高くなっています。
 とにかく感覚的な説明しかできないのですが、シャープでありながら柔らかさの感じる描写というようなところが気に入っています。
 私はレンズの数値的性能に関しては無頓着で、描写が気に入るか否かで選択している傾向が大ですが、もう少し客観的に特性がつかめるかも知れないということで、数か月前に作ったテストチャートでボケ具合を確認してみました。
 あくまでも見た目のラフな確認であって定量的な計測ではないので、予めご承知おきください。

テストチャートを使っての撮影

 まずは、以前に作ったボケ具合確認用のテストチャートを用いて撮影を行ないました。ボケ具合確認用のテストチャートの詳細については、下記のページをご覧ください。

  「大判レンズのピントとボケ具合を確認するためのテストチャートの作成

 このテストチャートを45度の角度をつけて設置し、これを2.1m離れた位置から撮影をしました。

 上の図のように、レンズの光軸を水平に保ち、光軸の先にピント合わせ用の十字のマーカーが来るようにして、ピントをこれに合わせます。
 撮影距離に特に理由はありませんが、離れすぎるとボケが小さくなりすぎて比較しにくいだろうし、かといって近すぎても良くないだろうということで、レンズの焦点距離の10倍ほどということで決めました。
 念のため、絞りは開放(F5.6)からF16まで、1段ずつ絞りを変えて撮影してみました。
 撮影した環境は自然光が入る室内ですが、撮影は光が強すぎない曇りの日に行ない、テストチャートに直接光が当たらないようにしています。また、陰にならないようにテストチャートは窓側に向けての撮影です。

Sironar-N 210mmのボケ具合

 実際にテストチャートを撮影した結果が下の写真です。

 中央にある十字型のマークのところにピントを合わせ、絞り開放(F5.6)で撮影したものです。
 前後に3個ずつのテストチャートを設置していますが、チャートの間隔は水平距離にして6cmごとに置いているので、中心から水平距離にして前後に18cmの範囲を写していることになります。チャートの位置が若干斜めになっているものもありますが、その辺りは大目に見てください。
 この画像でもボケ方の特徴のようなものがなんとなくわかりますが、もっとわかり易いように一番手前のチャートといちばん奥のチャートの部分を拡大したのが下の画像です。

 1枚目が一番手前(前ボケ)、2枚目がいちばん奥(後ボケ)の画像です。

 前ボケ(1枚目)は全体がふわっとした感じにボケています。ボケ方に厚みがあるというか、前に膨らんだような印象で、細かな部分はボケの中に溶け込んでしまっているといった感じです。レンズからこの最前列のテストチャートまでの距離は約1.9mですから、それほど大きなボケにはなりませんが、もっと距離を詰めればボケの大きさは格段に大きくなります。
 ちなみに、この距離における点光源が前ボケとなる大きさの理論値(近似式)は、

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 で計算できます。

 この式に、
  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 210mm
  a : 主被写体までの距離 =2,100mm
  b : 点光源までの距離 = 1,900mm
  F : 絞り値 = 5.6

 をあてはめて計算すると、最前列のテストチャートに点光源があったとして、そのボケ径B
は約3.95mmになります。更に、最前列のテストチャートが半分の0.95mの位置にあったとすると、そこの点光源のボケ径は約7.89mmになります。

 また、ボケの広がり方は均等であり、どちらかに片寄ったような広がり方ではないので、クセのない素直なボケ方だと思います。

 一方、後ボケ(2枚目)は柔らかくボケている中にも鮮明さが残っている感じです。ボケの広がり方はとても自然な感じがしますが、前ボケのように厚みのある感じはしません。また、前ボケに比べて元の形がわかり易いボケ方です。かといって、輪郭やエッジが強調されてしまっているようなことはなく、すっきりとした気持ちのよいボケ方だと思います。

 実際に花や風景などの被写体を撮影した場合、前ボケはフワッとベールをかけたように、そして後ボケは元の形を残しながらも緩やかに溶けていくといった感じになるように思います。
 対象とする被写体や個人の好みにもよると思いますが、後ボケが素直にとろけていく方が写真としては綺麗に見えるのではないかと思います。

 参考までに、上記と同じテストチャートを絞りF16で撮影したものを掲載しておきます。1枚目が最前列(前ボケ)のテストチャート画像、2枚目がいちばん奥(後ボケ)のテストチャート画像です。

 F16まで絞り込むと前ボケも後ボケも非常に似通っていて、区別がつきにくい状態です。

Sironar-N 210mmの解像力具合

 ボケ具合の確認用のテストチャートを撮影したついでなので、解像力をチャックするためのテストチャートの撮影も行ってみました。
 使用したのはISO-12233規格の解像度チャートですが、データをダウンロードして自宅で印刷したものなので品質や精度は十分ではありません。特に厳密な測定をするわけでもなく、解像力についての感触が得られればということで試してみました。

 実際に撮影したものが下の画像です。

 A4サイズに印刷したテストチャートがほぼファインダーいっぱいに入る位置でモノクロフィルムで撮影をしています。掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、2,000LW/PHのラインまで解像しているので問題ないのではないかと思うレベルです。
 実際にどれくらいの解像度が出ているのか、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測してみました。本来、このソフトはデジタルカメラの解像度を測定するものですが、撮影したフィルムをスキャナで読み取り、その画像ファイルをHYRes IVで解析するという、いたって簡単な方法で計測してみました。

 このソフトで計測した結果は2,247本でした。本来、このチャートでは2,450本くらいまで計測可能なようですが、使用したプリンターの性能がそこまで追いついていないようで、レンズの限界というよりはプリンターの限界といった感じです。撮影したネガを4,800dpiでスキャンした画像では、最も細いラインも認識できているので、レンズの限界はもう少し高いと思われます。
 また、今回は67判のフィルムを使って撮影しましたが、例えば4×5判で同じ範囲を撮影すれば解像度はより高まりますが、私の持っているプリンターではこれが限界です。テストチャートを倍の大きさのA3用紙に印刷すればプリンターの限界をカバーすることができ、より高い解像度の計測も可能になりますが、そこまでするほどでもなく、大体の感触は得られたと思います。

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 レンズの性能は高いに越したことはありませんが、私はそれほどレンズの解像度や性能に拘る方ではありません。むしろ、ボケなど目視でわかる写り具合が自分にとって気に入るかどうかということに重きを置いています。私は風景写真を撮ることが多く、解像度の高いレンズで撮影した写真は見ていて気持ちが良いですが、やはり写真の味わいに与える影響はボケ具合などの方が大きいと思います。
 ローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 は衝動買いしたレンズですが、解像度もさることながらボケ具合も好みです。ボケ方を定量的に示すのは難しく、どうしても主観的、定性的になってしまいますが、すっきりした中にも柔らかで素直なボケ方が気に入っています。

 私が持っている大判レンズの中で、かなり古いレンズや特殊なレンズを除けば写りの違いを特定するのはかなり難しく、比べて初めて分かる程度ですが、やはりこのように客観的に見てみるのもそれなりに意味があるように思います。

(2023年10月2日)

#Rodenstock #ローデンシュトック #Sironar #シロナーN #テストチャート #ボケ #レンズ描写

フジノン大判レンズ FUJINON W 125mm 1:5.6 応用範囲の広いレンズ

 フジノン大判レンズのうち、広角から標準系レンズの最終モデルはCM FUJINON シリーズですが、Wシリーズはそのひとつ前のモデルです。CM FUJINON になってからはフィルター径を67mmにそろえたものが多くなり、そのためレンズが大きくなったイメージがありますが、Wシリーズのフィルター径は必要最低限にとどめているせいか、特に105mmから150mmのレンズはとてもこじんまりとしています。

 Wシリーズの中でも150mmや180mm、210mmといった焦点距離のレンズは中古市場でもよく見かけますが、125mmや135mmは市場に出回っている数も少ないといった感じです。

フジノン FUJINON W 125mm 1:5.6の主な仕様

 フジノンのWシリーズは焦点距離105mmから360mmまで9本のレンズがラインナップされていました。ひとつ前の世代の旧Wシリーズは主にセイコーSEIKO製のシャッターが採用されていましたが、新しいWシリーズのシャッターはコパルCOPAL製に統一されています。
 10本のCM FUJINONシリーズが揃ったのが1994年とのことですが、それ以降もWシリーズの方が受け入れられていたという印象があります。レンズの性能はCM FUJINONの方が高いのかもしれませんが、出荷本数はWシリーズの方が多かったのだろうと想像できます。

 Wシリーズに関する情報がなかなか得られないのですが、このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ198mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 6群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : COPAL No.0
   シャッター速度 : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 52mm
   前枠外径寸法 : Φ54mm
   後枠外径寸法 : Φ41.9mm
   全長  : 50.8mm
   重量  : 215g
  
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると、焦点距離がおよそ35mmのレンズに相当します。ごく一般的な広角レンズの画角といった感じです。
 シャッターは0番でフィルター径も52mmしかないので、レンズボードをつけたままでもズボンのポケットに簡単に入るくらいの小ささです。CM FUJINONの中で唯一、私が持っているCM-W 105mmレンズよりもずっと小さく感じます。リンホフ規格のレンズボードに取付けてもレンズの周囲にたっぷりと余裕があり、レバーを操作したりケーブルレリーズを取付けたりする際はとてもありがたいです。
 また、前玉枠が小さいので絞りやシャッター速度の目盛りも見易いです。

 イメージサークルは198mm(F22)と、決して余裕のある方ではありませんが、4×5判で一般的な風景を対象にする場合は特に不都合は感じません。ちなみに、CM-W 125mmレンズのイメージサークルは204mm(F22)なので、若干大きくなっているようです。
 レンズ構成は6群6枚となっているので、絞りを挟んで3枚ずつの対称配置されたオルソメター型と思われます。Wシリーズはオルソメター型と言われているので間違いないと思いますが、実際に確認したわけではないのでもしかしたら違っているかも知れません。
 オルソメタータイプのレンズは焦点距離の割に薄型にすることができるらしく、このレンズも全長は50mmほどです。
 絞り羽根は5枚で、開放に近い絞り値では若干膨らんだ5角形になります。

4×5判で63度という画角

 63度というのは4×5判における対角画角ですが、横位置に構えた時の水平(長辺)画角は約53度、垂直(短辺)画角は約44度になります。
 一方、人間の視野角は個人差もあるのでしょうが、概ね、水平方向に180~200度、垂直方向に120~130度もあるらしいです。数値だけ見るとかなり広いのですが、この広い視野角の中である程度はっきりと認識できるとなると、水平・垂直とも60度ほどと、かなり狭くなってしまうようです。
 つまり、何某か視界に入っていたとしても、それを明確に認識できる範囲は1/3ほどになってしまうということですが、この視野角は焦点距離125mmのレンズを4×5判で使ったときの画角に非常に近い値です。人間が正面を向いて目の前の景色を見た時、はっきりと見えている範囲と125mmレンズの画角(4×5判)がほぼ一致しているということです。

 このように考えると、35mm判カメラにおける標準レンズは50mmではなく、35mmくらいの方がしっくりくるような気がしますが、標準レンズの定義はともかく、35mm判で35mm、4×5判では125mmという焦点距離のレンズは、人間にとっても違和感のない、とても自然な画角のように思えてきます。
 画角の広い短焦点レンズの場合、肉眼で写り込む範囲を確認しようとすると眼を上下左右に動かさなければなりませんが、60度前後の画角だと正面を向いたまま、眼を動かすことなく写る範囲がはっきりとわかります。

 レンズの焦点距離や画角に対する感覚は個人差や慣れがありますが、私の場合、いわゆる標準レンズの画角と言われている48度前後というのは結構狭いという感じがあります。
 標準と呼ばれるレンズの焦点距離が何ミリであろうと全く気にはしませんが、60度前後の画角がいちばん自然に感じられるのは確かです。
 これは撮影に臨み、使用するレンズを選択する際にフレーミングの範囲を決めやすいことにつながります。焦点距離125mmのレンズは、私にとって一つの基準となるようなレンズかもしれません。

撮影の適用範囲が広いレンズ

 一般的に4×5判では広角系に含まれることが多い125mmレンズですが、人間の視野角に近いせいか、あまりクセのないレンズと言えると思います。裏返せば面白みのないレンズと言えるのかもしれませんが、それがゆえに多彩な使い方のできるレンズではないかと思っています。引いて撮ることで広角レンズらしさを出したり、逆に寄ることで中望遠レンズっぽさを出したりと、自由度の高いレンズという感じです。

 それでは、このレンズで撮影した写真を何枚か紹介します。

 まず1枚目は福島県で撮影した雷滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F32 4s Valvia100F

 茨城県に近い湯岐(ゆじまた)温泉のあたりを車で走っていた際に、道路脇に「雷滝」と書かれた小さな看板が目に入りました。看板のある所から、人ひとりがやっと歩けるくらいの細い道がついていて、滝を正面から見ることのできる場所まで行くことができます。急斜面を降りていけば滝つぼまでたどり着けそうですが、ロープなどのアシストがないとちょっと無理そうです。水量はさほど多くないので、長靴を履いていれば川を渡ることも出来そうです。
 周囲は大きな木立に囲まれていて、昼間でも薄暗い場所です。

 滝は2つに分かれていますが落差はそれほど大きくなく、たぶん、左側が5~6m、右側が10mほどではないかと思われます。黒い岩とのコントラストがとても綺麗で、繊細な感じのする滝です。
 撮影した場所から滝までの距離は40~50mほどだと思いますが、広がりを感じられるように周囲を若干広めに取り入れました。ただし、広く入れ過ぎると雑然としたものも写り込んでしまうので滝の存在感を損なわない程度にしました。

 画の下部中央にある岩にもピントを合わせたかったので、少しだけフロントのアオリ(ティルト)をかけています。
 解像度は周辺部でも全く問題なく、苔の間から出ている極細い葉っぱもしっかりわかります。辺りは薄暗いうえに絞り込んでいるため、長時間露光になって木の葉はあちこちでブレていますが、全体的にシャープでありながらカリカリとし過ぎない、個人的には好ましい写りだと思っています。
 発色も嫌味がなく自然な感じで、若干、青みがかっているように見えますが、滝の流れなどを見てもニュートラルで綺麗な白なので、さほど気にするほどではないと思います。

 こうして出来上がった写真を見ても約63度という画角はとても自然な感じがして、この滝に対峙した時、視界にはもっとずっと広い範囲が入っているのですが、はっきりと認識できる範囲というとちょうどこのくらいなんだろうと思います。
 被写体に極端に近づきすぎることなく、この程度の距離からの撮影であればパースペクティブが出過ぎることもなく、肉眼で見たのに近い写真に仕上がるのがこの画角だと思います。

 2枚目は白樺林に咲くレンゲツツジを撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F5.6 1/125 Valvia100F

 長野県の峰の原高原は標高1,500mほどに広がる高原ですが、梅雨の季節に行くとレンゲツツジの群落をあちこちで見ることができます。レンゲツツジの花色は赤というよりもオレンジに近い色をしていて、とても鮮やかです。伸び始めた黄緑色の葉っぱとのコントラストも綺麗で、白樺とのコラボはとても絵になる風景です。
 レンゲツツジの名所はたくさんありますが、峰の原高原の花の密度はとても高いと思います。

 この写真を撮影した時は空一面雲に覆われていて、雨が降り出しそうな天気でした。といっても薄暗いというわけではなく、柔らかな光が回り込んでいるといった感じで、写真でもわかるように比較的明るい状態でした。
 画の下半分を締めているレンゲツツジまでの距離は1.5mほど。手前のレンゲツツジにはピントを合わせながら背景はほどほどにぼかしたかったので、被写体にできるだけ近づいての撮影です。奥行き感を出すためにピントを合わせる白樺は右側の1本だけとし、それ以外はぼかすようにしました。
 花の色が濁らないように、露出は若干多めにかけています。そのため、花弁が白く輝いているところもありますが、高原の爽やかさを出すには、これくらい明るい方が良いのではないかと思います。

 画の上半分は全体にぼかしていますが、ボケ方はとても自然な感じです。もう少しぼかしても良かったかもしれませんが、右側の白樺の幹がくっきりと浮かび上がっているのでこれくらいでも十分かも知れません。ボケながらも背景にあるレンゲツツジや白樺の樹がはっきりとわかるので、この林が奥の方まで続いているのが感じられると思います。
 掲載した写真では良くわからないと思いますが、拡大してみると周辺部に口径食が見られます。少し絞り込めば気にならなくなると思いますが、夜景などを撮るともっとはっきりと出ると思います。

 被写体に近づき、あまり絞り込まずに撮影しているので、実際の焦点距離よりも長いレンズで撮っているような感じになっていると思います。同じこの場所をもっと短い焦点距離のレンズ(105mmとか90mmなど)で撮ると背景はこれほどボケてくれず、もっと広範囲が写り込んでしまうので、全く雰囲気の異なる写真に仕上がると思います。
 被写体にぐっと寄ることでずいぶんとイメージが変わります。

 さて、3枚目は代表的な夏の野草、ノアザミを撮影した写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F5.6 1/125 Valvia100F

 6月ごろから日当たりの良い山野などで良くみられるキク科の多年草です。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、時には淡い紫や白い花を見かけることもあります。背丈が1m近くまで伸び、遠くからでもとてもよく目立ちます。夏の花というイメージですが、まれに秋口まで咲いていることもあり、野草の撮影をする立場からするとありがたい存在です。
 葉はトゲトゲしていますが、まだ柔らかい若芽や茎は食用になります。少し苦みがありますが、春の山菜らしい味かも知れません。

 ノアザミは蜜が多いのか、蝶や蜂が良く集まってきます。特に蜂は蜜集めに没頭しているせいか、触れるくらい近づいても逃げようともしません。動きが早いのでマニュアルのカメラで撮るのは結構大変ですが、ノアザミとの組み合わせは格好の被写体です。
 この写真はあらかじめフレーミングとピント合わせをしておき、そこに蝶が来たところを撮ったものです。蝶が置きピンをした位置に来た瞬間にシャッターを切ったのですが、そのとき、偶然にも蜂が飛んできて花にとまりました。

 カメラから花までの距離は30cmほど、絞りは開放なので被写界深度はごく浅く、ピントが合っているのはノアザミの頭頂部の辺りだけです。蝶が横を向いてくれたのでかろうじて羽根のつけ根の方はピントが合っていますが、先の方はピント外です。まさにマクロ撮影ですが、花の先端や蝶の目の辺りなど、まずまずの解像度ですし、コントラストも十分かと思います。
 背景は林になっているのですが、被写体からの距離は数10mはあるので大きくボケています。やはり、焦点距離125mmならではのボケという感じがします。
 被写界深度をかせぐためにもう1段くらい絞った方が良かったかもしれませんが、そうすると背景のとろけるようなボケはちょっと汚くなってしまいそうです。

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 デジタルカメラ用に設計された最新のレンズと比べれば確実に性能は劣っていると思うのですが、全紙程度にプリントしたくらいでは十分な像が得られるので、全く問題はないレンズだと思います。
 4×5判で使えば広角寄りのレンズですが、撮影の仕方によっては大きなボケを得ることができ、応用範囲の広いレンズであると思います。そこそこ広い風景から近接撮影まで無理なく使えるという点も、125mmという焦点距離ならではだと思います。

 小ぶりで携行性にも優れているため撮影時には必ず持ち出すレンズの1本ですが、何と言ってもいろいろなシチュエーションで使い易いというのがいちばんの理由かもしれません。

(2023.7.26)

#FUJINON #Linhof_MasterTechnika #フジノン #リンホフマスターテヒニカ #Velvia #レンズ描写

シュナイダー Schneiderの大判レンズ クセナー Xenar 210mm 1:6.1 テッサー型レンズの写り

 テッサー Tessar は言わずと知れた、今から100年以上も前にカール・ツァイスから世に出たレンズです。世の中にはたくさんの銘玉と言われるレンズがありますが、知名度の高さではテッサーがいちばんではないかと思います。オリジナルのテッサーに若干の変更を加えたテッサータイプといわれるレンズをほとんどのメーカーが発表しており、誰もが使える優れたレンズだということが伺い知れます。
 シュナイダーからは「クセナー Xenar」という名称でテッサータイプのレンズがラインナップされており、大判用の他にローライのカメラに採用されているのは有名です。

クセナー Xenar 210mm 1:6.1の主な仕様

 大判用のクセナーは、焦点距離75mmから480mmまでが揃っていたようで、210mmのレンズはF4.5とF6.1の2種類があります。私が持っているレンズはF6.1の方で、シリアル番号からすると1978年頃に製造されたレンズのようです。製造から45年ほどが経過したといったところです。
 追記:このページをご覧いただいた方から、もっと古い時代の大判用クセナーの210mmには、F3.5、F5.5(後にF5.6)も存在していたと教えていただきましたので、追記させていただきます。

 ちなみに、「Xenar」という名前は、原子番号54の元素である「キセノン」が由来のようですが、どういった意図でこの名前にしたのかはよく知りません。海外のレンズにはそれぞれ名前がつけられているものが多く、なんとなく親しみを感じます。

 主な仕様は以下の通りです。

  イメージサークル : Φ246mm(f22)
  レンズ構成枚数 : 3群4枚
  最小絞り : 32
  シャッター  : COPAL No.1
  シャッター速度 : T.B.1~1/400
  フィルター取付ネジ : Φ46mm
  前枠外径寸法 : Φ47.9mm
  後枠外径寸法 : Φ41.8mm
  全長  : 49.9mm
  
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当しますので、ちょっと長めの標準レンズといった感じです。
 シャッターは1番を使っていますが、テッサー型らしい小ぶりで薄型のレンズです。同じシュナイダーのジンマーやフジノンのW210mmなどと比べると二回りくらいは小さいと思われます。

 イメージサークルは246mm(F22)あるので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。
 開放絞りはF6.1で、F5.6から1/4段ほど暗いですが、無理して明るくしていない潔さのようなものを感じます。大判レンズの場合、開放F値が5.6というレンズが比較的多いですが、それに比べて1/4段ほど暗くても、実際に使用するうえで支障になることはあまりありません。
  (念のためにつけ加えますが、1/4段程度の露出は無視しても良いという意味ではありません。リバーサルフィルムで1/4段違えば、その差ははっきりとわかります。F6.1であっても使用上、特に困ることはないという意味ですので、誤解のないようにお願いします。)
 また、最小絞りの目盛りはF32となっていますが、絞りレバーは更に先まで動かすことができ、F64くらいまで絞り込めると思います。
 絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはありません。

 この時代のコパルのシャッターは金属の質感がプンプンに漂っていて、シャッター速度切り替えダイヤルのちょっと重い感触が気に入っています。一方、絞りを動かすレバーは小さくて、あまり使い易いとはいえませんが、適度な重さがあり、1/2段とか1/3段というようなわずかな動きにも絞り羽根は正確に反応してくれます。

4枚のレンズで実現されたシャープな描写

 テッサーと言えば、ピント面のシャープさや美しいボケ、歪曲の少なさなどの特徴が挙げられています。今の時代においては当たり前の写りかも知れませんが、当時は驚異的な描写をするレンズとして評価されていたのでしょう。設計や製造技術の進歩に伴い、テッサーはどちらかというと安価なグレードに使われてきたという印象もありますが、その写りが色褪せていないというのはたくさんのテッサータイプのレンズが作り続けられてきたことからも明らかなことだと思います。

 私が持っているシュナイダーのクセナーはこの1本だけしかなく、いわゆるクセナーの特性のようなものは把握していませんが、シャープで素直な写りのレンズという印象です。言い換えれば際立った特徴がないとも言えますが、私が主な被写体としている風景を撮るには、あまり癖がない方が望ましいと思っています。そして、210mmとは思えない小ぶりなレンズであり、携行性は抜群です。

 では、このレンズで撮影した写真を何枚か紹介します。

 下の写真は福島県の小峰城です。ちょうど桜が満開の時に撮りました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 1/8 PROVIA100F

 撮影したのは午前8時ごろで、背後から光が差し込んでおり、ほぼ順光の状態です。手前の桜とお城の両方にピントを合わせたかったので、バックスイングのアオリをかけています。
 そつのないシャープな写りという感じです。エッジが立ちすぎることもなく、立体感も損なわれることなく、まさに素直な写りという表現がピッタリです。桜の色が濁らないようにギリギリまで露出をかけていますが、枝の先端や花芯までしっかりと解像しています。発色の仕方も嫌味がなく、ナチュラルカラーといった感じです。
 また、周辺部でも画質の低下はあまり感じられず、全体に渡って均一な描写をしている印象ですし、コントラストも良好で締まりの良い画質になっていると思います。解像度は若干低めかという感じもしますが、まずまずといったところでしょう。

 焦点距離の短いレンズ(例えば90mmとか75mmなど)でこのような構図で撮ると、被写体との距離によっては周辺部が若干流されるような描写になることがありますが、210mmという焦点距離はそういったことがないので、違和感のない自然な感じの画作りができます。

 クセナーのボケ具合がわかるようにということで撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F6.1 1/30 PROVIA100F

 渓流をバックにしてカエデの若葉を撮影したものです。
 主被写体であるカエデの葉っぱと背景との距離があまり大きくないのと、絞りは開放にしているとはいえ、F6.1ですから大きなボケは期待できません。ボケ方としては悪くはないと思いますし、ちょっと柔らかめのフワッとした感じのボケ方をしています。もう少し被写体に近づいた状態で撮影すればボケ方も随分変わってくると思うのですが、これ以上近づくことができませんでした。ただし、背景の様子がわかるにはこれくらいの距離関係の方が良いのかもしれません。背景が暗く落ち込んでいることもあって、カエデの葉っぱが浮かび上がっているような感じを受けます。

 カエデの葉っぱの描写はとてもシャープですが被写界深度は浅く、奥の方の葉っぱにはピントが合っていませんが、奥行き感は出ていると思います。ピント面はキリッとしていますが硬すぎず、カエデの若葉の質感が良く出ています。じっと見ていると、枝先がかすかに揺れているような錯覚に陥ります。
 ピントが合っているところから合っていないところに向ってなだらかにボケており、綺麗なボケと言えるのではないかと思います。
 色乗りも自然な感じで、この季節ならではの新緑の柔らかさが感じられます。

 次は、昨年の秋に撮影した紅葉の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 2s PROVIA100F

 埼玉県の中津峡にあるカエデの大木で、「女郎もみじ」という名前がついています。渓流の上に覆いかぶさるように枝を伸ばしており、妖艶さが漂う紅葉です。
 ここは周囲を山に囲まれているため陽が差し込む時間は短く、晴天の日でも日陰になっている時間帯が多い場所です。そのため、輝くような紅葉よりも、しっとりとした色合いの紅葉を撮影することができる場所です。赤く染まった紅葉もさることながら、苔むした幹が存在感を放っていて、紅葉と幹のコントラストが何とも言えない美しさをつくり出しています。

 弱い風があったため、木の枝などは被写体ブレを起こしているところもありますが、全面に渡ってシャープな画質になっていると思います。シャープでありながら硬調になり過ぎない描写はとても好感が持てます。
 晴天にもかかわらず陽が回り込んでいないため若干の青被りをしていますが、不自然さが感じられない鮮やかな発色をしています。

 この写真ではアオリは使っていませんが、手前から奥の方までこれくらいの距離であれば、絞り込むことでほぼ全面を被写界深度内に入れることができます。
 撮影した場所は道路脇なのでこれ以上、引くことはできないのですが、画角的には焦点距離180mmくらいのレンズの方が良かったかもしれません。

 このレンズはコントラストが良いので、シャープで締まりのある描写が得られますが、解像度は特に高い感じはしません。むしろ、若干低めかも知れません。最近のデジカメのように、フィルムをはるかにしのぐ解像度を持ったカメラで撮り比べると顕著にわまるかも知れませんが、フィルムを使っている限りにおいては問題になるほどではないと思います。

アポ・ジンマーと比べると若干あっさりとした色合いのレンズ

 クセナーはこの1本しかもっていないのは上にも書きましたが、クセナーに対して私が持っている印象は、シュナイダーの他のレンズに比べて色の出方が控えめということです。他のレンズと言ってもシュナイダーのすべてのブランドを持っているわけではないのですが、私が主に使っているアポジンマーと比べると、若干あっさり系の発色という感じです。
 私の持っているアポジンマーは1990年台の半ばごろに製造されたものなので、今回のクセナー210mmよりも15~6年後になります。そのため、コーティングの違いもあると思われ、実際に前玉を見た時の色の感じが違います。アポジンマーの方が濃い紫色をしているように見えます。

 ということで、アポジンマー APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 と比較をしてみました。
 あまり細かな比較をするつもりはなく、主に見た目の印象が違うかどうかという視点で見ていただければと思います。

 下に掲載した2枚の写真は、近くの公園で撮影したものですが、1枚目(上)がクセナー210mm、2枚目(下)がアポジンマー210mmです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F22 1/30 PROVIA100F
▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 F22 1/30 PROVIA100F

 まず、全体を見た時の印象ですが、アポジンマーの方がわずかに色乗りが濃い感じがします。逆の言い方をするとクセナーの方があっさりとした色合いということです。2枚の写真撮影時の光線状態にほとんど違いはないと思いますが、地面の草の色や奥の木の幹の色を比較すると違いがわかり易いと思います。
 しかし、これらは比べてわかることであり、1枚だけ見せられてもどちらのレンズで撮影したものか判断できるほどの違いではありません。アポジンマーのコクのある色も良いが、クセナーのすっきりとした色も良いといった感じで、あとは好みでしょうか?

 また、解像度については、この程度のラフな写真ではほとんど見分けることは困難ですが、拡大した画像で比較してみるとアポジンマーの方が解像度は高いのがはっきりとわかります。しっかり調べようとするのであれば解像度テストチャートなどを使う必要があると思われますが、もう少し突っ込んだ比較は別の機会にやってみたいと思います。

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 半世紀近くも前に作られたレンズで、私が持っている大判レンズの中では、100年以上も前のバレルレンズを除けば古い方のレンズになります。比較的近年に作られた大判レンズと比べると外観のデザイン的な違いはありますが、それも味わいの一つであり、今でも十分に使えるレンズであることは間違いありません。
 いわゆるオールドレンズの部類に入りますが、特有の癖のある写りを求めるのには向いていません。ですが、素直にしっかりと写したいというのであれば、期待を裏切ることはないと思います。
 今回、逆光状態で撮影した写真がないのですが、もしかしたら、そのような条件が良くない状態ではもっと違いが出るのかもしれません。

 他の焦点距離のクセナーも使ってみたいと思っているのですが、個体数が少ないのか、中古市場でもあまり見かけません。いつか、運よく巡り合ったらゲットしたいなぁと...

(2023.4.21)

#Schneider #Linhof_masterTechnika #シュナイダー #リンホフマスターテヒニカ #Xenar #クセナー #レンズ描写

PENTAX 67用 中望遠レンズ smc PENTAX 67 200mm 1:4

 PENTAX 67用の中望遠レンズです。35mm判カメラ用の焦点距離100mmくらいのレンズと同じ画角になります。
 この焦点距離は望遠というにはちょっと物足りないし、スナップなどを撮るには少し長すぎるといった感じで、それが理由なのか、あまり人気のないレンズのようです。中古市場やネットオークションなどでもよく見かけるし、何よりも他のレンズに比べて驚くほど安い価格が設定されています。にもかかわらず、商品の動きはあまりないようです。
 巷では不人気(?)なレンズですが、私は結構気に入っていて、持ち出す頻度もそこそこ高いレンズです。

smc PENTAX 67 200mm レンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX 67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成 : 4群5枚
   絞り目盛り : F4~F32
   画角  : 25度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 1.5m
   測光方式 : 開放測光
   フィルター径 : 77mm
   全長  : 135mm
   重量  : 795g

 このレンズは初代のスーパータクマー6×7、2代目のSMCタクマー6×7、そして3代目のSMCペンタックス67と、3つのモデルがあります。初代と2代目のレンズ構成は4群4枚でしたが、3代目のSMCペンタックス67になって4群5枚構成に変更されています。
 最短撮影距離もそれまでの2.5mから1.5mへと短くなり、だいぶ使い易くなった感じがします。欲を言えばもう少し短くしてほしいとも思いますが、200mmという焦点距離を考えればこんなものかもしれません。
 また、SMCペンタックス67になってからは、それまでのモデルに比べると重さも随分軽くなりました。カタログデータ上では100g以上軽くなっており、実際に手に持った時もズシッとした感じはなく、見た目以上に軽く感じます。プラスチックが多用されているせいもあり、デザイン的な重厚感もなくなり、どことなく安っぽさが漂っているように思えてなりません。もしかしたら、その辺りも人気がない理由の一つかもしれません。

 絞りリングはF5.6からF22の間で中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間、およびF22とF32の間にはクリックがありません。絞り羽根は8枚で、最小絞りのF32まで絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。
 ピントリングの回転角は300度くらいはあると思われ、最短撮影距離(1.5m)まで回すと鏡筒が約37mm繰出されます。ピントリングは適度な重さがあり、200mmという焦点距離でピント合わせをする際、ほんのわずか動かしたいという場合でも難なく動かすことができます。

 F32まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、遠景側でおよそ12m~∞までが被写界深度内、近景側でおよそ1.5~1.6mが被写界深度内となっています。一方、絞り開放時の被写界深度は極端に浅くなり、レンズの指標からは読み取れませんが、近景側だと数cmといったところでしょう。

 因みに、このレンズの最短撮影距離、絞り開放での被写界深度の理論値を計算してみると以下のようになります。

  前側被写界深度 = a²・ε・F/f²+a・ε・F
  後側被写界深度 = a²・ε・F/f²-a・ε・F

 ここで、aは撮影距離、εは許容錯乱円、FはF値、fはレンズの焦点距離です。
 上の式に、a = 1,500mm(最短撮影距離)、ε= 0.03mmとし、F = 4、f = 200mmをあてはめて計算すると、

  前側被写界深度 = 約6.72mm
  後側被写界深度 = 約6.78mm

 となり、前後を合わせた時の被写界深度は約13.5mmとなります。
 67判で使った場合、画角的には中望遠ですが焦点距離は200mmなので、やはり被写界深度の浅いことが良くわかると思います。

 また、このレンズをPENTAX67に装着した際のバランスはとてもよく、レンズ自体に適度の長さがあるので手持ち撮影でもホールドのし易さが感じられます。

絞りを開き、ボケを活かした写真を撮る

 上でも触れたように、200mmという焦点距離と絞り開放、もしくはそれに近い絞りを用いることで、浅い被写界深度を活かした写真に仕上げることができます。被写体までの距離が近ければ近いほどボケの効果は大きくなりますし、25度という画角は限られた比較的狭い範囲だけを切り取るので、被写体を強調し易いと言えます。フレーム内に入れたくないようなものも、撮影位置をちょっと移動するだけで簡単にフレームアウトすることができるので、画面の整理のし易さもあると思います。

 下の写真は昨年(2022年)の秋、田圃の畦に群生していたチカラシバを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/125 PROVIA100F

 この写真を撮影する少し前まで霧雨が舞っているような天気だったため、穂に水滴がついてとても綺麗な状態でした。まるで霧吹きで水を吹きかけたかのようです。たくさんのチカラシバの中から形の良いものを探し、全体のバランスや重なり具合のよさそうなアングルを選んで撮りました。
 バックには田んぼがあり、その向こうには大きな木が何本か立っている環境です。画の上部中央にある木までの距離は100m前後ではないかと思われます。
 主被写体であるチカラシバまでの距離は1.6mほどで、このレンズの最短撮影距離に近い位置からの撮影です。絞りは開放(F4)で、三脚をいちばん低くしてチカラシバとほぼ同じ高さで撮っています。

 被写界深度が浅いため、ピントが合っているのは中央の穂と左下にある小さめの穂、そして、中央の穂の下の方にある黄色く色づいた葉っぱの一部だけです。
 奥の方の穂はその形を残しながらも緩やかにボケていますし、下の方の葉っぱや茎も素直なボケ方をしていると思います。所どころに二線ボケが見られますがそれほど顕著というわけではなく、許容範囲内ではないかといった感じです。

 手前の穂といちばん奥にある穂との距離は40~50cmくらいだと思うのですが、200mmの焦点距離と近距離での撮影なのでこれだけのボケ方をしてくれます。背景など、この場の環境をもう少し説明的に写したい場合は、もう1段くらい絞り込めばかなり明確になってくると思いますが、画全体はうるさく感じられるようになってしまうと思います。
 また、これ以上ボケを大きくするには接写リング等が必要になります。

 次の写真はやはり昨年の秋に、近所の公園で撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F4 1/500 PROVIA100

 画全体に写っている茶色く枯れたようなものはトウカエデの木の種子(実)だと思います。まるでドライフラワーのように鈴なりになっていて、この季節ならではの被写体です。このトウカエデの種子だけでは寂しいので、紅葉した葉っぱを前ボケに配置しました。
 主被写体のトウカエデの種子までの距離はおよそ7~8m、手前にある紅葉した葉っぱまでの距離は2~3mほどです。1枚目の写真に比べると被写体までの距離が長いので、背景の木の形もわかるくらいに写っていますが、主被写体を埋めてしまうほどではありません。むしろ、左側の種子にはピントが合っていませんので、もう1段くらい絞り込んでも良かったかもしれません。
 また、紅葉した葉っぱの前ボケは、暗い背景との対比で鮮やかな色が出ていますが、柔らかにボケているので邪魔になるほどではないと思います。

 この撮影距離(7~8m)における絞りF4の時の被写界深度を計算してみると290~300mmくらいなので、ワーキングディスタンスをこれだけとっても大きなボケを活かすことができます。もちろん、主被写体に近いところに何かがある場合はこれほど大きくボケることはないので、主被写体の前後は出来るだけ大きな空間があった方が望ましいのは言うまでもありません。

 画の隅の方を見ると、わずかにコマ収差のようなものが感じられますが、さほど気になるほどのものではありません。

 なお、この写真は画の左前方から陽が差していて、半逆光に近い状態です。そのため、トウカエデの種子がぎらついた感じになってしまいました。もう少し陽ざしが弱い方が柔らかな感じに仕上がったと思います。

 さて、3枚目の写真は長野県にある奈良井宿の夕景を写したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F5.6 30s PROVIA100

 陽が沈んで 家々の街灯が灯り始めたころで、まだ西の空に青さが残っています。
 このような撮影では目いっぱい絞り込んで、通りの奥までピントを合わせることが多いのですが、この写真ではいちばん手前の民宿の明かりのところだけにピントを合わせ、それ以外はぼかしています。絞りを開放にすると、いちばん手前の民宿にもピントから外れてしまう部分が出るため、絞りはF5.6で撮影しています。
 手前の民宿まで20~30mほど離れた位置からの撮影ですが、2件目の民宿辺りから徐々にボケはじめ、3件目より奥はかなりボケているのがわかります。ただし、何が写っているのかわからないほどのボケではなく、ある程度の原形をとどめながら緩やかにボケています。綺麗なボケ方ではないかと思います。

 また、ピントが合ったところの解像度は高く、左上に写っている民宿の2階に設置されている柵の木目などもしっかりと認識できます。

絞り込んでパンフォーカスの写真を撮る

 被写体に寄ったり絞りを開いたりすることでボケを活かした写真に仕上げるのとは反対に、全面にピントの合ったパンフォーカスに近い写真にすることもできます。
 遠景だけを対象にするのであれば、焦点距離が多少長くても全面にピントを合わせることができますが、中景と遠景が同居しているような場合でも、パンフォーカスにすることができるのは200mmという焦点距離ならではという感じもします。

 長野県小諸市で晩秋の風景として、うっすらと冠雪した浅間山と残り柿を撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F32 1/15 PROVIA100

 柿の木までの距離は20mほどだったと思います。中央の浅間山までの距離は無限遠と言ってもよいので、20mから無限遠まで被写界深度内に入れるために最小絞りのF32まで絞り込んでいます。
 ピントの位置は柿の木の向こうにある雑木の辺りに置いていますが、これで無限遠まで被写界深度内に入ります。レンズの指標でも確認できますが、実際に絞り込んだ状態(プレビュー)でもピントの確認をしています。

 早朝の撮影ですが、晴天のため太陽の光が強くてコントラストがつきすぎてしまい、柿の葉っぱが黒くつぶれ気味ですが、ほぼ全面にピントが合っているのと、柿の木を見上げるようなアングルで入れているので、焦点距離100mmとか120mmくらいのレンズで写したような印象を受けます。柿の木の全体を入れず、枝先だけを配した構図にすると望遠レンズで撮った感じが出てくると思います。

 掲載した写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、浅間山の手前にある山の稜線の木々や柿の木の向こうにある雑木の枝先などもしっかり描写されているので、十分な解像度があると思います。
 朝の色温度の低い時間帯なので赤みが強く出ていますが、特に発色のクセのようなものは感じられず、自然な発色をしていると思います。

 もう一枚、青森県の薬研渓流で撮影した写真です。渓流を俯瞰できる橋の上から撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm F32 1/2 PROVIA100

 この写真の左側には車道が走っているため、画角の大きなレンズだと写したくないものがたくさん入り込んでしまいます。渓流の雰囲気を壊さないようにするには焦点距離200mmのレンズで縦位置にするのが適当だったのですが、若干、右側が窮屈になってしまいました。カメラを右側に振ると左側が窮屈になってしまうので、たぶん、180mmくらいのレンズが最適だと思います。

 画の下側にある右岸の岩から、画の上部の奥の木までピントを合わせるため、最小絞りで撮影しています。このようなアングルの場合、大判カメラであればティルトアオリをかけることで簡単に全面にピントを合わせることができますが、PENTAX67ではそういうわけにいかないので、絞りで稼ぐしかありません。
 手前の岩までは10mくらいで、いちばん奥の木までは150m以上はあると思います。左下の岩に生えているシダ(?)の葉っぱにも、奥の木の葉っぱにもピントを合わせたかったのですが、やはり若干無理があったようで、奥の木の葉っぱのピントは甘めです。それでも、奥の木の占める面積が少ないので、ボケているという感じはあまりしません。

 また、手前の岩にもピントが合っているとはいえ、もっと焦点距離の短いレンズで撮影したものと比べるとパースペクティブに強さがありませんが、実際に使用したレンズよりは短焦点レンズで写したような印象があります。

 この写真を見ながら、カメラを横位置に構え、上1/3をカットするフレーミングも有りだと感じ、もしかしたらその方が左右の窮屈感は薄れるのではないかと思いました。残念ながら、そのように写真は撮っていませんでした。撮影の時は気がつかなくとも、後になって感じることはたくさんあるものです。

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 画角的には中望遠レンズかもしれませんが、焦点距離は200mmなのでそれなりの大きなボケを出すことができますし、絞り込むことで被写界深度を稼ぐこともでき、いろいろな使い方のできるレンズだと思っています。若干、二線ボケの傾向が見られますが、それ以外の写りに関してはこれといった難点が感じられません。
 私はこのレンズと接写リングを組み合わせて、野草などのマクロ撮影にも使っています。応用性の広いレンズだと思うのですが、人気のない理由がいまひとつわかりません。
 このレンズ1本だけを持って撮影に行ってみるのも面白いかも知れません。

(2023.2.8)

#PENTAX67 #ペンタックス67 #奈良井宿 #浅間山 #薬研渓谷 #レンズ描写

ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 一年ほど前、中古カメラ店で衝動買いのようにして手に入れたローデンシュトックのシロナーN 210mmレンズです。シャッターが不良だったため驚くほど安い価格で購入できたのですが、不良個所を直し、撮影の際には持ち出す頻度の高いレンズになりました。
 私が持っている数少ないローデンシュトックのレンズのうちの一本ですが、一年近く使ってみて、結構お気に入りのレンズの一つになりました。

Sironar-N 210mm 1:5.6 レンズの主な仕様

 このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ301mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm
   後枠外径寸法 : Φ60mm
   全長  : 66.2mm

 ローデンシュトックのレンズの最新モデルはほとんどが「APO」を冠していたり、デジタル用となっていますので、このレンズは二世代ほど前のモデルになります。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当します。標準レンズよりもちょっと長めといった感じです。67判で使用すると、35mm判で105mmくらいのレンズの画角に相当しますので、中望遠レンズといったところでしょうか。
 シャッターは1番、フジノンのW210mmと大きさも似通っていて、標準的な大きさだと思います。

 イメージサークルは301mm(F22)あり、5×7判までカバーできると思いますので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。大きくアオリをかけてもケラレることはなく、安心して使うことができます。フジノンのW210mmのイメージサークルが309mm(F22)ですから、仕様的にも非常によく似たレンズです。

 レンズコーティングの違いによるものだと思いますが、前玉をのぞき込んだ時の色合いはシュナイダーともフジノンとも異なり、赤紫というか濃いピンク色をしており、妖しくも艶めかしい感じがします。

準標準系(4×5判)レンズといえる画角

 35mm判カメラで言うところの標準(50mm)レンズに相当する画角を持ったレンズは4×5判では180mmと言われていますが、それに近いのが210mmレンズです。そのせいか、中古市場には180mmと210mmのレンズはとても多く出回っています。まずは標準レンズということで、この辺りの焦点距離のレンズを最初に買い求める人が多かったのかもしれません。

 4×5判での対角画角は約41度ですので、フレーミングしても違和感のない画角だと思いますが、4×5判の大きなフォーカシングスクリーンに投影された映像を見ると、もう少し焦点距離の長いレンズのような印象を受けます。これは、短焦点レンズに見られるような周辺部が引っ張られる感じがないからかもしれません。とても素直で自然な感じの画像が浮かび上がってくるのは気持ちが良いものです。

 強いパースペクティブを活かした写真には向いていませんが、程よい遠近感を出しながらお目当ての範囲を切り取ることのできる画角だと思います。
 大判レンズにはズームレンズがないので、どうしても持ち出すレンズの本数は増えてしまいがちですが、私の場合、210mmは必ずと言ってよいくらいに持ち歩いています。レンズの本数は少ない方が荷物が軽くてありがたいので、180mmか210mmか、どちらか1本というときには210mmを選択することが多いです。このあたりは焦点距離というか画角に対しての慣れの問題もあると思います。

 私は渓谷とか滝を撮ることが多いのですが被写体にあまり近づくことができないことも多く、また、あまり広い範囲を取り入れてしまうと主題がぼやけしまうこともあるので、40度前後の画角というのは結構重宝します。
 焦点距離が210mmなので、35mm判や中判カメラの場合、あまり被写体に近づくと被写界深度が浅くなってしまいますが、大判カメラの場合、アオリをかけることでそれをカバーすることができます。もちろん画角が大きくなるわけではありませんが、ワーキングディスタンスの自由度も備えていると思います。

とてもシャープでありながら、柔らかな感じの独特な写り

 ローデンシュトックのシロナーというシリーズのレンズは初めて使ってみたのですが、柔らかな写りという印象があります。
 うまく表現できないのですが、いわゆる軟焦点(ソフトフォーカス)レンズのようなフワッとした柔らかさではなく、エッジが尖り過ぎていない柔らかさとでも言ったらよいのか、ポジを比べるとシュナイダーともフジノンとも違う印象を受けます。柔らかく感じるからといって解像度が低いわけでもなく、細部まで見事にシャープな像が形成されています。ルーペで見てもまったく遜色のない、見事な解像度です。コントラストが低いことで柔らかな感じを受けるのかとも思いましたが、決してそんなこともなさそうです。
 ボキャブラリーがなくて申し訳ないのですが、カリカリした硬さがないというのが適切かもしれません。

 また、これは検証したわけではなくあくまでも想像ですが、もしかしたら発色の違いによるものかも知れないと思ったりもします。上でも書いたように、レンズの前玉をのぞき込んだ時の色合いがシュナイダーやフジノンとはずいぶん違うので、これによって色の出方が異なるのかも知れません。シュナイダーやフジノンに比べると発色が地味な印象も受けますが、いちばんナチュラルな発色と言えるかもしれません。

 では、実際にSironar-N 210mm で撮影した事例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目ですが、今年6月に群馬県の桐生川源流林で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 16s ND8 PROVIA100F

 この辺りは木々が覆いかぶさっていて晴れていても渓流全体が薄暗いのですが、さらにこの日は空が雲に覆われており、かなり暗い状態でした。いい感じに木々の隙間から光が差し込んでいる場所を見つけて撮影したのですが、渓流の奥の方はかなり暗いのがわかると思います。
 風が少しあったので木の葉はブレていますが、下半分の渓流の部分はとてもシャープに写っています。ですが、硬さは感じられず、なんとなく全体に柔らかな印象があります。かといってコントラストが低いわけでもなく、階調も豊かに表現されていると思います。
 また、葉っぱや岩肌、苔などもとても自然な発色をしているように感じます。

 曇りの日の光は柔らかいので、一般的には出来上がった写真も柔らかな感じになるものですが、それとは違う種類の柔らかさを感じます。

 中央に近いところの岩の部分を拡大したのが下の写真です。

 岩や苔の質感も見事に表現されており、立体感のある描写です。
 全体的に柔らかさを感じるものの、解像度やシャープネスを損ねているわけでもありません。十分すぎるくらいの鮮明さを保っていると思います。

 もう一枚、下の写真は青森県で撮影したブナ林です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 4s PROVIA100F

 木の幹や葉っぱなどを見るととてもシャープに写っているのですが、写真全体は何となく柔らかな感じを受けるのは上の写真と共通しています。
 少し地味に感じるかも知れませんが全体的に落ち着いた色合いで、シュナイダーのレンズで撮るともう少し派手に写るのではないかという気がします。同じ場所で撮影して比べたわけではありませんが、たぶん、全体から受ける印象が違うのだろうと思います。

 この写真は密生しているブナの林を、およそ20m離れた場所から撮影しています。カメラをほぼ水平に構えた状態で真横から撮っている感じです。木の幹は多少曲がりくねっていますが、カメラを上に振ったときのように、木の上部が中央に集まってしまうようなこともなく、ほぼ平行を保って写っています。また、林の奥の方の木の幹もくっきりと写っていて、このあたりが210mmという焦点距離のレンズならではの写りといった感じです。

 下の写真は栃木県の県民の森で山道を歩いていたところ、道の脇に綺麗に黄葉した葉っぱを見つけたので撮影した一枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F11 1/4 PROVIA100F

 被写体までの距離は1.5mほどで、ほぼ真上からの撮影です。
 もう少し低い位置から斜め下方に向けてカメラを構え、アオリを使って全体にピントを合わせても良かったのですが、葉っぱの形が綺麗に見えるこのポジションにしました。
 黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗です。葉っぱの鋸歯も鮮明に写っていますが、カリカリとした感じはしません。鮮やかな黄色もどぎつくならず、とても自然な発色だと思います。
 葉っぱの高さはほぼそろっていたのですが、出来るだけ全体にピントを合わせたかったのでF11まで絞り込んでいます。もう1段くらい開いても良かったかも知れません。

 写真全体としては派手さが控え気味という印象を受けますが、この被写体には向いているように思います。ぎらつくような黄色よりはしっとりした色合いが似合っている被写体です。

 いずれの写真も解像度やシャープネス、コントラスト、発色など十分すぎるくらいですが、どことなく柔らかな感じがするのは共通しています。それが色合いからくるものなのかわかりませんが、非常にナチュラルな写りのレンズあると言えるのではないかと思います。

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 私が持っているローデンシュトックのレンズの本数が少ないため、このレンズ一本だけでローデンシュトックの特性を語ることはできませんが、個人的には好感の持てる写りをするレンズといった印象です。同じシロナーでも、アポシロナーやアポシロナー・デジタルだと違う写りをするかも知れませんが、驚くほど高額ですし、そもそも手に入りにくいので、たぶん、一生使うことはないと思います。
 そんな最新モデルのレンズでなくても良いので、ローデンシュトックのレンズを使ってみたい衝動が沸々と湧いてきました。ローデンシュトックにはたくさんのシリーズやモデルがあって、気にしだすときりがないのですが、機会があれば別のレンズも使ってみたいと思います。

 こうして、またレンズが増えていってしまうんだろうなぁ、と思いながら...

(2022.12.14)

#ローデンシュトック #シロナーN #Rodenstock #Sironar-N #桐生川源流林 #レンズ描写

ローデンシュトック Roden stock のソフトフォーカス バレルレンズ 220mm 1:4

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズというとイマゴン Imagon が有名ですが、このレンズはそれよりもずっと前に作られたレンズのようです。詳しいデータがわからないのですが、その形状からして100年くらい前のものと思われます。
 このレンズは半年ほど前、偶然入った中古カメラ屋さんで見つけたものです。レンズは汚れがひどかったのですがカビはなさそうでしたし、何よりも珍しいレンズだったので購入してみました。
 私は、いわゆるオールドレンズというものにはあまり詳しくなく、このレンズで撮影する機会も少ないのですが、そんな中から何枚かをご紹介したいと思います。

 なお、レンズに関する記述で間違っているところがあるかも知れませんので、予めご承知おきください。

このレンズの仕様

 いわゆるバレルレンズという部類に入るレンズで、大きな口径のレンズと全身金属製(たぶん真鍮製)のため、ズシッと重いレンズです。レンズボード込みで554g、レンズボードを外しても524g(いずれも実測値)あります。
 鏡胴の直径が65mm、全長は70.5mm(いずれも実測値)で、まさにバレルレンズと呼ぶにふさわしい寸胴型をしています。外観は軟焦点レンズで有名なウォーレンサックのベリートによく似ています。
 レンズ前玉の化粧リングには「G.Roden stock Munchen Soft Focus lens 1:4 220mm」と刻印されています。

 写真ではレンズボードに取付けられた状態ですが、購入時はレンズのみだったので、手元にあった使っていないリンホフ規格のレンズボードを加工して取り付けました。
 全体に黒色の塗装がされていてあちこち塗料のハゲなどがありますが、外観はまずまずといったところです。

 レンズ構成ですが、前玉はたぶん1枚と思われます。分解しようと思い前玉のユニットを外しましたが、レンズを押さえているリングが固着しているのか、全く動きません。レンズ周辺部の厚みを測ったところ、約2mmでしたので、複数レンズの張り合わせはしてないだろうと思います。
 後玉は2枚構成です。こちらは分解できたので確認できました。
 つまり、メニスカス型のレンズが絞りを挟んで互いに向かい合った形をした、2群3枚構成のレンズです。

 絞りは開放がF4、最小がF36で、その間の指標はF6.3、F9、F12.5、F18、F25となっており、なかなか馴染みのない数値が刻まれています。なぜこのような指標になっているのかは不明ですが、最小絞りのF36を基準に1段ずつ開いた数値を用いているのではないかと思われます。

 絞り羽根は18枚で、最小絞りまで絞り込んでも円形を保っています。
 絞りリングも適度な重さがあり、古いレンズにありがちな妙に硬いとか、途中でカクッと軽くなってしまうようなこともなく、スムーズに動いてくれます。

 レンズはかなり汚れていましたが、清掃したところ、とても綺麗になりました。
 100年ほど前のレンズだとするとコーティングはされていないと思われるので、最近のレンズのように深い紫色ではなく、まさに無色透明といった感じのレンズです。

このレンズで撮影するための必要機材

 バレルレンズには絞りがついていますが、シャッターやピント合わせのためのヘリコイドはついていません。そのため、このレンズを使って撮影するためには、シャッターとヘリコイドを別途用意しなければなりません。
 いろいろな方法は考えられますが、

  1) アダプタを介して、中判カメラや35mm判カメラにレンズを取付ける
  2) 大判カメラを使い、シャッターをレンズに取付ける

 というのが容易に思いつく方法です。

 最初の中判カメラや35mm判カメラに取付けるためのアダプタですが、たぶん、一般的に市販されているマウントアダプタの中にはないと思われるので、自作ということになります。
 そして、もう一つ必要なのがピント合わせ用のヘリコイドの機能を代用するものです。
 短めのベローズ等があれば比較的簡単かもしれませんが、多くのベローズは接写用のため、無限遠が出ないという状況になってしまう可能性があります。そのため、多少の工夫と工作が必要ですが、実現できれば中判カメラでもデジタルカメラでも使えるので便利だと思います。

 二つ目の大判カメラを使う方法ですが、こちらはもっと簡単で、レンズをレンズボードに取付けさえすれば、ピント合わせはカメラ側で行なうことができます。
 問題はシャッターですが、大判カメラにはシャッター機能がありませんので、ソロントンシャッターやメカニカルシャッターなどをレンズの前に装着する必要があります。
 あとは大判フィルムで撮るも良し、アダプタを介して中判カメラや35mm判カメラで撮るも良しといったところで、最も自由度は高いと思います。

 私はバレルレンズを数本所有していますが、いずれも二つ目の大判カメラを用いた方法で撮影をしています。

 なお、バレルレンズを使った撮影やソロントンシャッターについては別の機会にご紹介したいと思います。

100年前のレンズの写り

 今回ご紹介する写真撮影に使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、およびウイスタ45 SPです。また、いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っていますが、大判フィルムで撮ったものと中判フィルムで撮ったものがあります。

 まず最初の写真は、今年の春に近所の公園で撮影した染井吉野桜です。

▲染井吉野桜 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 このレンズを購入してから最初に撮影した写真ですが、素晴らしい写りに驚きました。
 正直なところ、あまり期待はしていなかったのですが、芯がしっかりと残っており、その周囲にふわっとしたフレアがかかり、何とも味わいのある描写になっています。フレアがかかっているというよりはフレアをまとっているといった方がぴったりするくらい、立体感があります。
 国産のソフトフォーカスレンズはフレアが大きく出過ぎたり、ソフトフォーカスフィルターで撮影したように平面的であったりするものが多いのですが、このレンズはフレアも大きすぎず、被写体とフレアが一体になっているという感じがします。ちなみに、この写真は絞り開放(F4)で撮影しています。

 また、色の出方も自然で、素直な写りをするレンズという印象です。今のレンズと比べると地味な色の出方かも知れませんが、ソフトフォーカスには向いているようにも感じます。

 掲載した写真ではよくわかりませんが、ポジをルーペで見てみると、色収差の影響が残っているように感じます。しかし、写真全体の質感を損ねるほどではなく、カラーリバーサルで撮影しても問題になるようなレベルではないと思います。

 同じ位置から絞りF8で撮影したのが下の写真です。

▲染井吉野桜 : F8 1/125 PROVIA100F(中判)

 F8まで絞るとフレアはほとんど感じられず、非常に鮮明な画像が得られています。発色もボケ方もとても綺麗だと思いますし、トップライトに近い順光状態での撮影ですが平面的にならずに立体感もあります。ただし、解像度は若干低めという感じがします。

 次の写真はピンク色の梅を撮影したものです。

▲梅 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 梅の花と幹や枝とのコントラストが大きく、このような状況では梅の花のフレアが必要以上に大きくなってしまうレンズが多いのですが、このレンズは大きく出過ぎず、花の周りにフレアがまとわりついているかのようです。
 周辺部になると画質の低下が少し感じられますが、極端に悪くなるというわけではなく、フレアの出方も比較的綺麗な状態を保っています。

 上の梅の写真よりもコントイラストが低めの被写体ということで、春先の小川の風景を撮ったのが下の写真です。

▲野川公園 : F4 1/30 ND8使用 PROVIA100F(中判)

 午前中の撮影で、日差しはあるものの特に強いというわけではなく、全体的にコントラストは低めの状態です。際立って明るい部分はないので、フレアは全体にまんべんなくかかっているという感じです。
 遠景というほどではないにしても、これだけ引いた状態だと若干低めの解像度が目立ってきますが、かえってそれがふわっとした印象になっているかも知れません。好みの問題もありますが、レトロな感じの仕上がりになっているように思います。
 この写真も絞り開放での撮影ですが過度なフレアは感じられず、個人的には好ましい描写だと思います。

 さて、逆に強いハイライト部がある被写体ということで、日差しに輝く川面を撮影してみました。

▲奥入瀬川 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 ここは青森県の奥入瀬川、焼山付近で撮影したものです。晴天の午後1時ごろ、太陽が天中近くにある状態ですが、撮影位置は日陰になっている木の下になります。覆いかぶさっている木は陰になっていますが、川面は強く輝いており、非常にコントラストの高い状態です。
 ハイライト部分はもっとフレアが強く出ると思っていたのですが、想像していたよりはずっと控えめで、川面の状況もよくわかります。また、陰になっている木の枝もつぶれることなく、表現されています。
 一方、川面の波の部分などを見ると、色収差が出ているのがわかります。

 このような状況を普通のレンズで撮影すると硬い感じになってしまいますが、軟らかな感じに仕上がるのがソフトフォーカスレンズならではです。

 もう一枚、下の写真は彼岸花が咲く秋の風景を撮ったものです。

▲彼岸花の里 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 実った稲穂と赤い彼岸花がとても絵になる風景で、小さな祠が祀られている田圃の畦道は日本の原風景といった感じです。
 逆光気味の状態でしたが、薄雲がかかってコントラストが少し下がったときに撮りました。全体にフレアが均一にかかっており、稲穂や木の葉の先端の滲みがとても綺麗だと思います。
 撮影場所から祠までの距離は20~30mほど、背景もそれとわかるくらいのボケ方なので、この場の状況が良くわかる描写だと思います。

 このレンズに限らずソフトフォーカスレンズでピント合わせをする場合は、絞り開放ではなく、少し絞り込んだ状態で行なわないとピントがずれたようになってしまいます。意図的にピントをずらせて軟らかさを強調する場合もありますが、やはり芯がしっかりしている方が見ていて気持ちが良いと思います。

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 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズで、イマゴンよりも昔のレンズというのは知らなかったのですが、今回、初めて使ってみて、味わいのある描写にちょっと感動しました。
 もちろん、最近のレンズと比べると解像度などは低めですが、最近のソフトフォーカスレンズとはちょっと異質の感じがします。色収差を取り切れなかったのか、それとも、敢えて残しておいたのかはわかりませんが、もしかしたらそれが影響しているのかも知れません。

 バレルレンズを持ち出すと撮影に時間がかかるのが難点ですが、新しいレンズと違ってそれぞれの特徴が良くわかるのがバレルレンズの面白さとも言えます。

(2022.10.3)

#Rodenstock #ローデンシュトック #ソフトフォーカス #バレルレンズ #Linhof_MasterTechnika #レンズ描写

富士フイルムの中判カメラ FUJI GW690Ⅱ Professional

 かつて、富士フイルムからは多くのカメラが販売されていて、特に中判カメラに関しては様々なフォーマット向けのカメラがラインナップされていました。中でも69判のGW690、GSW690シリーズはベストセラー機という印象があります。最近はあまり見られなくなりましたが、観光地などで集合写真を撮る写真屋さんが使っていたイメージが強く残っています。
 もちろん集合写真専用というわけではありませんが、パノラマ写真を除けば中判で最大のフォーマットとフジノンレンズの組合せにより、高精細な写真が実現できるカメラです。

GW690Ⅱの主な仕様

 GW690シリーズは初代機からⅢ型まで3つのモデルが存在しますが、私の持っているカメラは2代目のⅡ型で、販売が開始されたのは1985年です。遡ること7年前の1978年に販売が開始された初代機GW690とは外観もよく似ていますが、3代目のGW690Ⅲになると曲線を多く取り入れたデザインになっており、だいぶイメージが変わりました。個人的には初代、もしくは2代目の無骨なデザインが好きです。
 なお、これらのシリーズの前身となるG690やGL690というモデルが存在していたのですが、私はいずれの機種も使ったことがありません。

 このカメラの主な仕様は以下の通りです。

  ・形式 : 69判レンジファインダーカメラ
  ・レンズ : EBC FUJINON 90mm 1:3.5 5群5枚 シャッター内臓
  ・シャッター速度 : T、1s~1/500s
  ・最小絞り : f32
  ・最短撮影距離 : 1m
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.75倍
  ・フィルター径 : 67mm
  ・使用フィルム : 120、220
  ・撮影可能枚数 : 8枚(120)、16枚(220)
  ・露出計 : なし
  ・電池 : 不要

 GW690シリーズは標準(90mm)レンズ、GSW690シリーズは広角(65mm)レンズを搭載したカメラで、いずれもレンズは固定式です。
 使用できるフィルムは120、220、およびハーフレングスの120の3種類が切り替えレバーで選択できるようになっていますが、現実的なのは120フィルムのみと言っても良いと思います。ハーフレングスの120フィルムは自作でもしない限り手に入らないでしょうし、220フィルムは中国で細々と製造しているという話しも聞きますが、あまり現実的とも思えません。幸いにも120フィルムはモノクロを中心に比較的種類もそろっているので、まだまだ十分にフィルム写真を楽しむことができるカメラだと思います。
 なお、フィルムを変更した時は裏蓋内側の圧板の位置変更も必要になります。

 また、このカメラは電池が不要で、すべてが機械式で稼動します。当然、電気式の露出計は装備されていませんし、電池のいらないセレン式の露出計もついていません。この辺りは潔いという感じがします。

 ブローニーフィルムを使い、さらに約9cmのアパーチャーを確保しなければならないので、カメラの筐体も必然的に大きくなりますが、プラスチックを多く用いてるせいか、実際に持ってみると見かけよりも軽く感じます。金属製の方が持った時の質感などが格段に良いのですが、この大きさのカメラを金属製にすると、持ち歩きにはしんどい重さになるように思います。

シンプルでわかり易い、かつ使い易い操作性

 最近のデジタルカメラのように、シャッターボタンさえ押せば撮影ができるというわけにはいきませんが、撮影にあたって操作が必要なのは、巻き上げレバー、絞り、シャッタースピード、およびピントリングのみです。このうち、巻き上げレバー以外はレンズに装備されているので、とてもわかり易いです。

 ピントリングの回転角度はおよそ90度なので、ピントリングを持ち変えることなく、無限遠から最短撮影距離まで回すことができます。重すぎず、軽すぎず、適度な重みをもって回転します。カメラ自体が大きいので、ピントリングがフワフワした感じだとピント合わせがしにくくなってしまいますが、ほんの1~2mmといったわずかな移動でも行き過ぎることはなく、ピタっと位置決めすることができます。
 また、ピントリングは若干、オーバーインフになっています。

 ファインダーは明るくてとても見易く、ブライトフレームはパララックス自動補正機能がついています。二重像合致式も見易くて、ピント合わせに苦労することはありません。基線長が影響しているのかどうかわかりませんが、二重像の動きが大きいので、ほんのわずかのずれも認識することができます。ただし、視野内に垂直線(縦線)がない場合は二重像がつかみにくくなります。

 フィルムの巻き上げはダブルストローク(2回巻き上げ)になっていますが、巻き上げストロークが多い分、巻き上げに要する力は少なくて済みます。PENTAX67と比べるととても軽く感じます。

 シャッターボタンは巻き上げレバーの上部と、カメラの前面の2箇所についており、使い易い方を使えば良いと思いますが、手持ち撮影の場合はカメラ前面のシャッターボタンを使った方がカメラのホールドは良いかもしれません。特に手があまり大きくない人(私もそうです)は、巻き上げレバー上部のシャッターボタンを押そうとすると、右の手のひらがカメラ底面から外れてしまいます。
 レンズシャッターなので振動は皆無と言っても良く、慣れればかなりの低速でも手持ち撮影が可能になります。

 大きなカメラではありますが、適度な大きさのグリップがついていたりして、持ち易さ(グリップ感)も考えられている感じです。縦位置に構えた時も、手のひらにしっかりと重心が乗る感じで、非常に安定した状態を保つことができます。

 また、69判というフォーマットは35mm判のアスペクト比とほぼ同じため、35mm判カメラを使い慣れた方にとってはほとんど違和感が感じられないのではないかと思います。

EBC FUJINON 90mm 1:3.5 の写り

 では、実際にGW690Ⅱで撮影した作例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目は、夕暮れの東京ゲートブリッジの写真です。若洲海浜公園から撮影しています。

▲東京ゲートブリッジ F11 1/250 PROVIA100F

 太陽がゲートブリッジと同じくらいの高さになり、橋がシルエットになるように狙いました。オレンジ色に焼けている西の空の輝きを損なわないよう、露出を決めました。
 また、恐竜のような形と橋の美しさが最も強く感じられる場所をと思い、防波堤に沿って行ったり来たりしながらこのポジションにしました。

 上の写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、橋の上を走る車や設置されている道路標識らしきもの、対岸に見える風力発電の風車やクレーンなどもはっきりと認識でき、解像度の高さが良くわかります。
 偶然に写し込まれたのですが、空を飛んでいる鳥も確認できます。部分拡大したのが下の写真です。

▲東京ゲートブリッジ(部分拡大)

 手持ち撮影ですが、1/250秒のシャッターを切っているのでブレはほとんど感じられません。

 この写真を撮る30分ほど前までは富士山が見えていたのですが、次第に雲が増え、残念ながら雲に隠れてしまいました。

 次の写真は青森県の種差海岸で撮影したものです。

▲種差海岸(青森県) F22 1/60 PROVIA100F

 海がとても深みとコクのある色になっていて、色の再現性においても優秀なレンズだと思います。岩の質感も良く出ているし、海面の波の一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度です。
 焦点距離が90mmとはいえ、F22まで絞り込んでいるので、手前の岩から遠景までピントが合っています。アスペクト比の大きなフォーマットなので、横の広がりを出しつつ、奥行きを感じる画作りのできるカメラという感じです。
 また、このように晴天の時は、絞りやシャッター速度の組合せの選択肢が多いので、手持ちで気軽にイメージの異なる写真を撮ることができるのもこのカメラの魅力です。

 さて、3枚目は山形県の銀山温泉で撮影したものです。

▲銀山温泉にて F5.6 1/30 PROVIA100F

 銀山温泉というと、レトロ感と風格が漂う温泉旅館が有名ですが、そんな温泉街の一角で偶然見つけた柴犬です。家の壁や玄関に通じる橋など、全体的に褐色の中で柴犬の赤茶色がとても綺麗なコントラストになっていました。
 板壁の木目や柴犬の毛並まではっきりとわかるくらいの解像度です。また、落ち着いた感じの色再現性も見事だと思います。
 さすがに、右側の手すりの手前側はピントが合わずにボケてしまっていますが、素直できれいなボケ方だと思います。
 絞りはF5.6ですが、周辺部でも画質の低下はほとんど感じられません。

 このカメラに搭載されているEBC FUJINON 90mm 1:3.5は文句のつけようのないくらいの解像度を持っていますが、私は色乗りの素晴らしさが特徴的だと感じています。同じFUJINONでも大判レンズとは違う、「こってりとした」という表現が当てはまるような色の乗り方です。とはいえ、ペンキを塗りたくったようなべったりとした感じはまったくなく、グラデーションなどもとても綺麗に再現されています。高い解像度と最適の組み合わせになっているといった感じです。
 EBC FUJINONは、11層のコーティングを施し、レンズ1面辺りの反射率は0.2%以下と言われていますが、そのコーティングのなせる業なのかも知れません。
 また、レンズ構成はガウスタイプらしいのですが、とても素直な写りをするレンズという印象です。

 69判というフォーマットを、そしてリバーサルフィルムの発色を十分に活かすことのできるレンズだと思います。

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 今回ご紹介した3枚の写真はいずれも手持ち撮影ですが、衝撃のほとんどないレンズシャッターとカメラ自体のホールドの良さで、中判カメラながら三脚なしで幅広いシチュエーションに対応できます。
 120フィルムで8枚しか撮れないというランニングコストの高さはありますが、補って余りある写真が撮れること間違いなしといえるカメラだと思います。
 しっかり構えた作品作りにはもちろんのこと、スナップ感覚で気軽に使えるカメラでもあります。

 ただし、このカメラを首から下げて歩いているとかなり目立つようです。

(2022.9.16)

#FUJINON #フジノン #GW690#東京ゲートブリッジ #銀山温泉 #レンズ描写

コンパクトフィルムカメラ コンタックス CONTAX T2

 他のページにも書きましたが、私は何年か前に35mm判カメラのほとんどを手放してしまいました。いま手元に残っている35mm判カメラは、CONTAX T2とフォクトレンダーBESSAMATICの2台のみです。BESSAMATICはすっかりディスプレイと化していて実際に使うことはほとんどありませんが、CONTAX T2はお散歩カメラとして、発売から四半世紀を過ぎた今でもバリバリの現役です。
 CONTAX T2にもいろいろなバリエーションがありますが、私の持っているカメラは最終型のリミテッドブラックというモデルです。

CONTAX T2の主な仕様

 このカメラの主な仕様は以下の通りです(CONTAX T2取扱説明書より引用)。

   レンズ      : Sonnar T*38mm F2.8 4群5枚
   シャッター    : レンズシャッター 1秒~1/500秒
   絞り目盛り   : F2.8~F16
   最短撮影距離  : 0.7m
   露出計      : SPD受光素子
   ファインダー   : 逆ガリレオ型採光式ブライトフレーム
   AF方式     : 赤外線式アクティブオートフォーカス
   フィルム感度  : ISO25~5000
   フィルム装填  : オートローディング方式
   電池      : CR123Aリチウム電池 1本
   大きさ     : 119mm x 66mm x 33mm
   重量      : 295g(電池別)

 初代のCONTAX T2が発売されたのは1990年ですが、リミテッドブラックが発売されたのは通常モデルの生産終了後の1998年で、2,000台の限定品でした。価格(メーカー希望小売価格)は他のCONTAX T2と同じく12万円という高額のカメラでした。
 直方体の中にほとんど凹凸のない状態でレンズ(収納時)やダイヤル、ボタンなどが綺麗に納まっており、それまでのコンパクトカメラとは一線を画しているという印象がありました。

 初代のCONTAX T2を目にしたとき、欲しくて欲しくてたまらなかったのですが、あまりの高額に手が出せずにいました。「いつかはT2」と思いながらも時は過ぎ、やがて生産終了を迎えてしまいましたが、その後まもなくして限定品が出るというアナウンスを耳にし、これを逃したらいつかは来ないと思い、予約して購入したのがついこの間のことのようです。

 チタン製のボディに加えてファインダー窓にサファイアガラスが採用されていたり、多結晶サファイアのシャッターボタンやセラミック製のフィルム圧板、そして立派な化粧箱など、随所に高級感がちりばめられているというカメラでした。
 その当時、他メーカーのコンパクトカメラも持っていたのですが、CONTAX T2を手にしたとたん、それまでのコンパクトカメラがとてもチープに見えてしまったことを覚えています。CONTAX T2を持ち出すと何だか写欲が湧いてくるように感じたのは、その高額な価格のせいだけではないと思います。

自動とマニュアルを兼ね備えた、優れた操作性

 オートフォーカス(AF)、および自動露出(AE)に設定しておけば、あとはシャッターを押すだけで撮影ができるわけですが、マニュアル撮影もできるようになっており、この辺りもカメラ好きの心をくすぐるカメラと言えます。
 カメラ上面のダイヤルをAFポジションから解除する方向に回すと、その瞬間からマニュアルフォーカスになります。レンズの絞りもAEポジションから回すとマニュアル露出になり、少ない操作で自動/マニュアルが切り替えられるようになっていて、操作性に優れていると思います。
 また、ストロボ撮影もレンズの絞りリングで切り替えるようになっていて、いくつものスイッチやダイヤルをいじらなくても済むように考えられています。

 もちろん、一眼レフカメラのように細かな設定はできませんが、通常の撮影には全く不便を感じません。コンパクトカメラというカテゴリーに入るようですが、使っているとそれを忘れてしまいます。「高級コンパクトカメラ」という分野を築いたと言われるのも頷けます。

オートフォーカス機能が弱い?

 このカメラの唯一の弱点と言えるのかも知れませんが、オートフォーカスが弱いというか、クセがあるというか、そんな印象があります。
 狙ったところにピントが合わない、ということが時々起きます。特に、近景にピントを合わせようとしたときに起きる傾向が強いように感じます。ただし、これは個体差があるのかもしれません。

 また、マニュアルフォーカスでピント合わせをしようとしても、フォーカシングダイヤルの目盛りは非常にラフな状態だし、ファインダー内にフォーカシングインジケータがありますが、どの程度の精度があるのか良くわからないし、ということでマニュアルフォーカスはほとんど使ったことがありません。

 36枚撮りのフィルム1本の中で1~2コマのピンボケが生まれることがありますが、フレーミングの際に少し気をつけて慎重に行なえば回避できるレベルです。

カールツァイス ゾナー Sonnarレンズの描写力

 CONTAX T2に採用されているレンズはカールツァイスのSonnar T* 38mm F2.8ですが、焦点距離38mmに対して開放F値が2.8というのは特に明るいわけでもなく、レンズ構成の4群5枚を見ても特に目を引く仕様というわけではありません。
 これは個人的な感想ですが、カールツァイスのSonnarというと色ノリが良いという印象があります。当時、一眼レフ用のレンズでも何本かのSonnarを持っていましたが、Planarなどと比べるとこってりとした色合いになるように感じていました。
 実際にCONTAX T2で撮影してみた時に、やはり色のりはSonnarだと感じたのを覚えています。

 下の写真は、CONTAX T2で撮ったスリーブをライトボックスに乗せた状態で撮影したものです。

 良く晴れた日だったので、近所を散歩しながら青の景色を撮り歩いた写真ですが、色のりの良さがわかると思います。使用しているフィルムはVelvia100というリバーサルフィルムなので、もともとが鮮やかな色合いになる傾向ではありますが、Sonnarっぽさが感じられます。

 もちろん解像度も素晴らしく、一眼レフカメラで撮影したものと比べても遜色ないといった感じです。
 スリーブの中の1コマをスキャンしたのが下の写真です。

 中央の高圧線の鉄塔やケーブルはもちろんですが、手前の木々の葉っぱも非常に良く解像していると思います。順光に近い状況ということもあり、空の青や下の方の葉っぱの緑がとても鮮やかな色になっています。

 もう一枚、福島県の大内宿で撮ったものです。

 大きな民家の軒下にたくさんのお土産品が並べられており、直射日光は当たっていないので光が柔らかく回り込んでいる状況ではありますが、やはり解像度は立派だと思います。

赤が鮮やかに発色するという噂

 CONTAX T2に搭載されたSonnarは、特に赤の発色が極めて鮮やかだという話しは有名です。
 私自身はそのように感じたことはほとんどなく、どちらかというと青とか緑の発色が鮮やかだと思っていたのですが、あらためてCONTAX T2で撮影したポジを見てみると確かに赤の発色の鮮やかさは感じられます。ただし、極めて鮮やかかというと、それほどでもないというのが正直なところです。ですが、これは撮影した被写体によるところも大きいのではないかと思います。

 CONTAX T2で撮影したコマの中から、赤が鮮やかに発色しているものを物色してみました。

 日光東照宮で撮影したものですが、建物の周囲に設置されている柵がとても鮮やかに出ています。雨上がりの早朝ということで全体が落ち着いた色合いになっているのですが、確かに赤い柵だけが妙に鮮やかに感じられます。
 全体のトーンが低いので赤が目立っているのかもしれませんが、光の具合や他の被写体との組み合わせで見え方も変わってくるわけで、この噂に関する真偽のほどはわかりません。

 むしろ、私は赤よりもピンクというか肌色というか、赤よりも少し淡い色の方が綺麗に発色すると感じていました。
 ポートレートだとわかり易いと思うのですが、CONTAX T2で撮影したポートレートがないので、比較的色合いが近いと思われるものを見つけてきました。

 どこの神社でもよく見ることができる狛犬です。
 色のトーンがニュートラルグレーに近い感じだと思うのですが、とても自然な感じに描写されていると思います。赤の鮮やかな発色とは対極にあるような印象さえ受けます。
 このように、CONTAX T2の赤の発色に対して私が持っているイメージはそれほど派手なものではありません。

いま、CONTAX T2の中古価格が異常に高騰している

 ところで、昨今、中古カメラ価格が全般的に上昇しているように感じているのですが、中でもCONTAX T2の中古価格の高騰ぶりには驚かされます。
 もともとの価格(12万円)を超える中古品はざらで、中には20万円以上するものまで出回っています。もちろん、そういった価格がついているものは程度も非常に良い個体だし、金ぴかのゴールドモデルだったりするわけですが、それにしても異常とも思える状況です。
 いったい、20万円も30万円も出して誰が買うのだろうと考えてしまいます。個人で購入する方もいらっしゃるだろうし、中古カメラ販売をビジネスにしている方もいらっしゃるとは思うのですが、そのカメラの行き先が妙に気になってしまいます。

 ネットオークションなどを見ると、CONTAX T2やT3はとても綺麗で程度の良いものがたくさん出品されています。四半世紀も前のカメラが綺麗な状態でこれほどたくさん出品されているということは、大事に保管されていてあまり使われてこなかったということなのかとも思ってしまいます。
 CONTAX T2にしてもT3にしても、これまで実際に持ち歩いている人を見かけたことは非常に少ないです。もしかしたら、箱入り娘のようなカメラなのかも知れません。

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 私はこのカメラを散歩や旅行などの時に良く持ち出して他愛もないものを撮っています。購入してから24年が経ちますが、四半世紀も前のカメラということを全く感じさせません。もちろん、人によって好みがあると思いますが、私はすっきりとしたデザインがとても気に入っています。

(2022.6.12)

#CONTAX #コンタックス #リバーサルフィルム #レンズ描写

PENTAX67用 超広角レンズ smc PENTAX-6×7 45mm 1:4

 PENTAX67用の純正レンズとしては、35mmのフィッシュアイレンズを除くと最も短焦点のレンズです。レンズの種類としては「超広角」に分類されています。35mm判カメラ用の焦点距離22mmくらいのレンズと同じ画角ですので、かなり広角なのがわかると思います。
 画角が大きいので常用というには不向きかも知れませんが、広角の特性を活かした画作りするには興味深いレンズだと思います。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成  : 8群9枚
   絞り目盛り  : F4~F22
   画角     : 89度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 約0.37m
   測光方式   : 開放測光
   フィルター径 : 82mm
   全長     : 57.5mm
   重量     : 485g

▲scm PENTAX-6×7 mm 1:4

 PENTAX67用のレンズはタクマーシリーズが最初で、その後、SMCタクマーシリーズ、SMCペンタックス67シリーズと続いていきますが、この45mmはSMCペンタックス67シリーズになって初めてラインナップされたレンズです。
 私の持っているレンズは初期のモデルで、正式名称が「smc PENTAX-6×7」となっていますが、後期モデルは「smc PENTAX 67」になっています。レンズ構成などの仕様は同じですが、ピントリングや絞りリングのローレット形状が異なっています。
 重さも500gを下回っており、PENTAX67用レンズの中では最も小ぶりです。

 絞りリングはF5.6からF22の間では中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間は非常に狭く、中間位置のクリックがありません。
 ピントリングの回転角はおよそ120度で、回転角は大きすぎず小さすぎず、操作し易い角度といった感じです。無限遠から最短撮影距離指標まで回すと鏡筒が約11.5mm繰出されます。
 絞り羽根は8枚で、いっぱいに絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。

 焦点距離が45mmと短いので被写界深度も深く、最小絞りのF22まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、1m~∞までが被写界深度内となっています。ピント位置を2mあたりにしておけば、極端に近いところ以外はピント合わせしなくてもボケずに写るということですが、中判フィルムを使うので、いくら何でもそれは大雑把すぎるだろうと思います。

▲mc PENTAX-6×7 45mm の被写界深度目盛り

 画角が広いのでフィルターを2枚重ねると四隅がケラレます。フィルターの2枚重ねをすることはほとんどないと思いますが、保護フィルターを常用している場合、PLフィルターやNDフィルターを使う際には保護フィルターを外した方が無難です。

広い景色をより広く撮影する

 広角レンズなので広い範囲を写せるのは当たり前ですが、焦点距離75mmや55mmのレンズと比べると格段に広い範囲が写り込み、全く別物のレンズのような印象です。そのため、不用意にこのレンズで構えると写したくないものまで入り込んでしまい、雑然とした写真になってしまったり、後で大きくトリミングなんていうことにもなりかねません。
 しかし、広い風景をうまくフレーミングできれば、肉眼で見た風景に比べてはるかに広大な感じられる写真にすることができます。

 下の写真は群馬県の丘陵地帯に広がるキャベツ畑です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 左右の広がりが感じられるように、キャベツ畑を阻害するものをできるだけ排除する位置から撮影しています。ぷかぷかと浮いた雲が適度にあったので空を広めに取り入れています。遠くの山並みも広がりを強調していると思います。
 このような場所ではこのレンズの大きな画角が威力を発揮してくれます。

 この写真では無色の保護フィルターのみで、他のフィルターは使っていません。PLフィルターを適度にかけると雲の白さがより強調されたり、キャベツの葉っぱの反射が抑えられると思いますが、かけすぎるとべったりとした塗り絵のような写真になってしまいます。

 もう一枚、山形県にある棚田の春の風景を撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 田圃の畦の桜がちょうど見ごろを迎えていたので、広く取り入れた空に桜の枝を配してみました。
 右の奥の方に集落が小さく見えると思いますが、肉眼ではもっとずっと近くに見えます。広い範囲が写り込むことで遠近感が強調され、とても広く感じられます。
 また、被写界深度が深いので、手前の桜から奥の山並みまでパンフォーカスに見えます。実際には桜のところはわずかにピントが甘いのですが、この画像では画素数を落としているのでわからないかも知れません。

 いずれの写真も周辺光量の落ち込みがわずかに感じられますが、気になるほどではありません。

パースペクティブを活かして撮影する

 このレンズくらいに画角が大きくなるとパースペクティブが強く出るので、特に意識しなくても遠近感のある写真になりますが、被写体に近づくことでより強く表現することができます。
 このレンズの最短撮影距離は37cmなので、かなり被写体に近づくことができます。37cmと言わずとも1mほどに近づいただけで、その被写体はフレームの中でその存在をかなり主張してきます。

 まず、福島県の桧原湖で撮影した大山祇神社の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/15 PROVIA100F

 ここは、1888年に発生した磐梯山の噴火で川がせき止められ、それによってできた桧原湖に水没してしまった神社です。かろうじて鳥居と、この後ろにあるお社(写真には写っていません)が残っていますが、ここに至るまでの参道はすっかり水の中です。

 湖畔に降りて、この鳥居がはみ出さないギリギリのところまで近づいて撮影しています。鳥居までの距離は2mほどだったと思います。近い位置から見上げるようなポジションでカメラを構えていますので、鳥居の右側と左側ではかなり大きさが違っているのがわかると思います。

 鳥居をできるだけ強調しながら背景を広く取り入れることができるのも、89度という広い画角を持ったレンズならではです。
 鳥居が向こう側に少し傾いているように見えますが、これもパースペクティブの影響です。大判カメラであればアオリを使って補正することができますが、PENTAX67ではそういうわけにもいきません。レタッチソフトを使えばこんな補正は朝飯前でしょうが、これくらいの傾きであればむしろ自然かもしれません。

 次は枝垂桜の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 福島県にある一本桜の大木ですが、桜の木の下に入りこんで真上を見上げるようなアングルから、大きく張り出した枝をできるだけたくさん入るように撮影しています。
 花の密度が最も高い左下の部分を強調して、桜全体がパンフォーカスになるようにということで目いっぱい絞り込んでいますが、上の方の花や枝はピントが外れています。それでも木の大きさや枝の広がりは表現できたのではないかと思います。

ぼかし方には注意が必要

 これまで紹介した4枚の写真はいずれもパンフォーカスか、それに近い状態で撮影していますが、あまり絞り込まず、被写界深度を浅くすることで主被写体を強調した撮り方もできます。

 下の写真は雑木林に出たフキノトウを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F5.6 1/125 PROVIA100F

 フキノトウまでの距離は40cmほどで、このレンズの最短撮影距離に近い状態です。主被写体となるフキノトウを浮かび上がらせるため、絞りはF5.6での撮影です。フキノトウまでの距離が非常に近いということもあり、フキノトウ以外はすべてピントが合っていません。
 これはこれで狙った通りなのですが、ボケ方が決して綺麗とはいえません。二線ボケがくっきりと出てしまっています。背後の立ち木や地面の枯れ枝などの棒状のものが多いので特に目立つのかもしれませんが、二線ボケが出ると画がうるさいというか、汚く感じられます。

 このレンズに限らず、PENTAX67用のレンズは全体的に二線ボケの傾向にあります。なので、二線ボケが出やすい被写体の場合は注意が必要です。ピントが合っているところはとても綺麗で文句のつけようのない描写をしますが、ボケを活かす場合はレンズの特性を良く把握しておかないと、出来上がった写真を見てガックリということになりかねません。

 因みに、この写真のようなシチュエーションの場合、接写リングをかませるとボケはかなり綺麗になります。しかし、被写界深度が浅くなりますので背景がボケ過ぎて、フキノトウの出ている環境がわからなくなってしまう可能性もあります。作画意図をはっきりと持った上でどのように仕上げるかを考えるのも、写真撮影の面白さの一つだと思います。

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 大きな画角ゆえにクセの強いレンズとも言えますが、私の中ではボケ以外の写りに関してはかなり高評価のレンズです。エッジのきいたシャープさというか、ピントの合っているところの解像度などは見事ですし、周辺光量の落ち込みも気になるほどではなく、気持ちの良い写真に仕上げることのできるレンズといった感じです。
 焦点距離55mmのレンズは比較的なじみ易い広角かも知れませんが、それに飽き足らなくなったらこのレンズで違った世界を見てみるのも面白いのではないかと思います。

(2022.5.5)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写