ローデンシュトック シロナーN Rodenstock Sironar-N 210mm 1:5.6

 一年ほど前、中古カメラ店で衝動買いのようにして手に入れたローデンシュトックのシロナーN 210mmレンズです。シャッターが不良だったため驚くほど安い価格で購入できたのですが、不良個所を直し、撮影の際には持ち出す頻度の高いレンズになりました。
 私が持っている数少ないローデンシュトックのレンズのうちの一本ですが、一年近く使ってみて、結構お気に入りのレンズの一つになりました。

Sironar-N 210mm 1:5.6 レンズの主な仕様

 このレンズの主な仕様は以下の通りです。

   イメージサークル : Φ301mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 4群6枚
   最小絞り : 64
   シャッター  : No.1
   シャッター速度 : T.B.1~1/400
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法 : Φ70mm
   後枠外径寸法 : Φ60mm
   全長  : 66.2mm

 ローデンシュトックのレンズの最新モデルはほとんどが「APO」を冠していたり、デジタル用となっていますので、このレンズは二世代ほど前のモデルになります。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当します。標準レンズよりもちょっと長めといった感じです。67判で使用すると、35mm判で105mmくらいのレンズの画角に相当しますので、中望遠レンズといったところでしょうか。
 シャッターは1番、フジノンのW210mmと大きさも似通っていて、標準的な大きさだと思います。

 イメージサークルは301mm(F22)あり、5×7判までカバーできると思いますので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。大きくアオリをかけてもケラレることはなく、安心して使うことができます。フジノンのW210mmのイメージサークルが309mm(F22)ですから、仕様的にも非常によく似たレンズです。

 レンズコーティングの違いによるものだと思いますが、前玉をのぞき込んだ時の色合いはシュナイダーともフジノンとも異なり、赤紫というか濃いピンク色をしており、妖しくも艶めかしい感じがします。

準標準系(4×5判)レンズといえる画角

 35mm判カメラで言うところの標準(50mm)レンズに相当する画角を持ったレンズは4×5判では180mmと言われていますが、それに近いのが210mmレンズです。そのせいか、中古市場には180mmと210mmのレンズはとても多く出回っています。まずは標準レンズということで、この辺りの焦点距離のレンズを最初に買い求める人が多かったのかもしれません。

 4×5判での対角画角は約41度ですので、フレーミングしても違和感のない画角だと思いますが、4×5判の大きなフォーカシングスクリーンに投影された映像を見ると、もう少し焦点距離の長いレンズのような印象を受けます。これは、短焦点レンズに見られるような周辺部が引っ張られる感じがないからかもしれません。とても素直で自然な感じの画像が浮かび上がってくるのは気持ちが良いものです。

 強いパースペクティブを活かした写真には向いていませんが、程よい遠近感を出しながらお目当ての範囲を切り取ることのできる画角だと思います。
 大判レンズにはズームレンズがないので、どうしても持ち出すレンズの本数は増えてしまいがちですが、私の場合、210mmは必ずと言ってよいくらいに持ち歩いています。レンズの本数は少ない方が荷物が軽くてありがたいので、180mmか210mmか、どちらか1本というときには210mmを選択することが多いです。このあたりは焦点距離というか画角に対しての慣れの問題もあると思います。

 私は渓谷とか滝を撮ることが多いのですが被写体にあまり近づくことができないことも多く、また、あまり広い範囲を取り入れてしまうと主題がぼやけしまうこともあるので、40度前後の画角というのは結構重宝します。
 焦点距離が210mmなので、35mm判や中判カメラの場合、あまり被写体に近づくと被写界深度が浅くなってしまいますが、大判カメラの場合、アオリをかけることでそれをカバーすることができます。もちろん画角が大きくなるわけではありませんが、ワーキングディスタンスの自由度も備えていると思います。

とてもシャープでありながら、柔らかな感じの独特な写り

 ローデンシュトックのシロナーというシリーズのレンズは初めて使ってみたのですが、柔らかな写りという印象があります。
 うまく表現できないのですが、いわゆる軟焦点(ソフトフォーカス)レンズのようなフワッとした柔らかさではなく、エッジが尖り過ぎていない柔らかさとでも言ったらよいのか、ポジを比べるとシュナイダーともフジノンとも違う印象を受けます。柔らかく感じるからといって解像度が低いわけでもなく、細部まで見事にシャープな像が形成されています。ルーペで見てもまったく遜色のない、見事な解像度です。コントラストが低いことで柔らかな感じを受けるのかとも思いましたが、決してそんなこともなさそうです。
 ボキャブラリーがなくて申し訳ないのですが、カリカリした硬さがないというのが適切かもしれません。

 また、これは検証したわけではなくあくまでも想像ですが、もしかしたら発色の違いによるものかも知れないと思ったりもします。上でも書いたように、レンズの前玉をのぞき込んだ時の色合いがシュナイダーやフジノンとはずいぶん違うので、これによって色の出方が異なるのかも知れません。シュナイダーやフジノンに比べると発色が地味な印象も受けますが、いちばんナチュラルな発色と言えるかもしれません。

 では、実際にSironar-N 210mm で撮影した事例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目ですが、今年6月に群馬県の桐生川源流林で撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 16s ND8 PROVIA100F

 この辺りは木々が覆いかぶさっていて晴れていても渓流全体が薄暗いのですが、さらにこの日は空が雲に覆われており、かなり暗い状態でした。いい感じに木々の隙間から光が差し込んでいる場所を見つけて撮影したのですが、渓流の奥の方はかなり暗いのがわかると思います。
 風が少しあったので木の葉はブレていますが、下半分の渓流の部分はとてもシャープに写っています。ですが、硬さは感じられず、なんとなく全体に柔らかな印象があります。かといってコントラストが低いわけでもなく、階調も豊かに表現されていると思います。
 また、葉っぱや岩肌、苔などもとても自然な発色をしているように感じます。

 曇りの日の光は柔らかいので、一般的には出来上がった写真も柔らかな感じになるものですが、それとは違う種類の柔らかさを感じます。

 中央に近いところの岩の部分を拡大したのが下の写真です。

 岩や苔の質感も見事に表現されており、立体感のある描写です。
 全体的に柔らかさを感じるものの、解像度やシャープネスを損ねているわけでもありません。十分すぎるくらいの鮮明さを保っていると思います。

 もう一枚、下の写真は青森県で撮影したブナ林です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F32 4s PROVIA100F

 木の幹や葉っぱなどを見るととてもシャープに写っているのですが、写真全体は何となく柔らかな感じを受けるのは上の写真と共通しています。
 少し地味に感じるかも知れませんが全体的に落ち着いた色合いで、シュナイダーのレンズで撮るともう少し派手に写るのではないかという気がします。同じ場所で撮影して比べたわけではありませんが、たぶん、全体から受ける印象が違うのだろうと思います。

 この写真は密生しているブナの林を、およそ20m離れた場所から撮影しています。カメラをほぼ水平に構えた状態で真横から撮っている感じです。木の幹は多少曲がりくねっていますが、カメラを上に振ったときのように、木の上部が中央に集まってしまうようなこともなく、ほぼ平行を保って写っています。また、林の奥の方の木の幹もくっきりと写っていて、このあたりが210mmという焦点距離のレンズならではの写りといった感じです。

 下の写真は栃木県の県民の森で山道を歩いていたところ、道の脇に綺麗に黄葉した葉っぱを見つけたので撮影した一枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Sironar-N 210mm F11 1/4 PROVIA100F

 被写体までの距離は1.5mほどで、ほぼ真上からの撮影です。
 もう少し低い位置から斜め下方に向けてカメラを構え、アオリを使って全体にピントを合わせても良かったのですが、葉っぱの形が綺麗に見えるこのポジションにしました。
 黄緑から黄色へのグラデーションがとても綺麗です。葉っぱの鋸歯も鮮明に写っていますが、カリカリとした感じはしません。鮮やかな黄色もどぎつくならず、とても自然な発色だと思います。
 葉っぱの高さはほぼそろっていたのですが、出来るだけ全体にピントを合わせたかったのでF11まで絞り込んでいます。もう1段くらい開いても良かったかも知れません。

 写真全体としては派手さが控え気味という印象を受けますが、この被写体には向いているように思います。ぎらつくような黄色よりはしっとりした色合いが似合っている被写体です。

 いずれの写真も解像度やシャープネス、コントラスト、発色など十分すぎるくらいですが、どことなく柔らかな感じがするのは共通しています。それが色合いからくるものなのかわかりませんが、非常にナチュラルな写りのレンズあると言えるのではないかと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 私が持っているローデンシュトックのレンズの本数が少ないため、このレンズ一本だけでローデンシュトックの特性を語ることはできませんが、個人的には好感の持てる写りをするレンズといった印象です。同じシロナーでも、アポシロナーやアポシロナー・デジタルだと違う写りをするかも知れませんが、驚くほど高額ですし、そもそも手に入りにくいので、たぶん、一生使うことはないと思います。
 そんな最新モデルのレンズでなくても良いので、ローデンシュトックのレンズを使ってみたい衝動が沸々と湧いてきました。ローデンシュトックにはたくさんのシリーズやモデルがあって、気にしだすときりがないのですが、機会があれば別のレンズも使ってみたいと思います。

 こうして、またレンズが増えていってしまうんだろうなぁ、と思いながら...

(2022.12.14)

#ローデンシュトック #シロナーN #Rodenstock #Sironar-N #桐生川源流林 #レンズ描写

ローデンシュトック Roden stock のソフトフォーカス バレルレンズ 220mm 1:4

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズというとイマゴン Imagon が有名ですが、このレンズはそれよりもずっと前に作られたレンズのようです。詳しいデータがわからないのですが、その形状からして100年くらい前のものと思われます。
 このレンズは半年ほど前、偶然入った中古カメラ屋さんで見つけたものです。レンズは汚れがひどかったのですがカビはなさそうでしたし、何よりも珍しいレンズだったので購入してみました。
 私は、いわゆるオールドレンズというものにはあまり詳しくなく、このレンズで撮影する機会も少ないのですが、そんな中から何枚かをご紹介したいと思います。

 なお、レンズに関する記述で間違っているところがあるかも知れませんので、予めご承知おきください。

このレンズの仕様

 いわゆるバレルレンズという部類に入るレンズで、大きな口径のレンズと全身金属製(たぶん真鍮製)のため、ズシッと重いレンズです。レンズボード込みで554g、レンズボードを外しても524g(いずれも実測値)あります。
 鏡胴の直径が65mm、全長は70.5mm(いずれも実測値)で、まさにバレルレンズと呼ぶにふさわしい寸胴型をしています。外観は軟焦点レンズで有名なウォーレンサックのベリートによく似ています。
 レンズ前玉の化粧リングには「G.Roden stock Munchen Soft Focus lens 1:4 220mm」と刻印されています。

 写真ではレンズボードに取付けられた状態ですが、購入時はレンズのみだったので、手元にあった使っていないリンホフ規格のレンズボードを加工して取り付けました。
 全体に黒色の塗装がされていてあちこち塗料のハゲなどがありますが、外観はまずまずといったところです。

 レンズ構成ですが、前玉はたぶん1枚と思われます。分解しようと思い前玉のユニットを外しましたが、レンズを押さえているリングが固着しているのか、全く動きません。レンズ周辺部の厚みを測ったところ、約2mmでしたので、複数レンズの張り合わせはしてないだろうと思います。
 後玉は2枚構成です。こちらは分解できたので確認できました。
 つまり、メニスカス型のレンズが絞りを挟んで互いに向かい合った形をした、2群3枚構成のレンズです。

 絞りは開放がF4、最小がF36で、その間の指標はF6.3、F9、F12.5、F18、F25となっており、なかなか馴染みのない数値が刻まれています。なぜこのような指標になっているのかは不明ですが、最小絞りのF36を基準に1段ずつ開いた数値を用いているのではないかと思われます。

 絞り羽根は18枚で、最小絞りまで絞り込んでも円形を保っています。
 絞りリングも適度な重さがあり、古いレンズにありがちな妙に硬いとか、途中でカクッと軽くなってしまうようなこともなく、スムーズに動いてくれます。

 レンズはかなり汚れていましたが、清掃したところ、とても綺麗になりました。
 100年ほど前のレンズだとするとコーティングはされていないと思われるので、最近のレンズのように深い紫色ではなく、まさに無色透明といった感じのレンズです。

このレンズで撮影するための必要機材

 バレルレンズには絞りがついていますが、シャッターやピント合わせのためのヘリコイドはついていません。そのため、このレンズを使って撮影するためには、シャッターとヘリコイドを別途用意しなければなりません。
 いろいろな方法は考えられますが、

  1) アダプタを介して、中判カメラや35mm判カメラにレンズを取付ける
  2) 大判カメラを使い、シャッターをレンズに取付ける

 というのが容易に思いつく方法です。

 最初の中判カメラや35mm判カメラに取付けるためのアダプタですが、たぶん、一般的に市販されているマウントアダプタの中にはないと思われるので、自作ということになります。
 そして、もう一つ必要なのがピント合わせ用のヘリコイドの機能を代用するものです。
 短めのベローズ等があれば比較的簡単かもしれませんが、多くのベローズは接写用のため、無限遠が出ないという状況になってしまう可能性があります。そのため、多少の工夫と工作が必要ですが、実現できれば中判カメラでもデジタルカメラでも使えるので便利だと思います。

 二つ目の大判カメラを使う方法ですが、こちらはもっと簡単で、レンズをレンズボードに取付けさえすれば、ピント合わせはカメラ側で行なうことができます。
 問題はシャッターですが、大判カメラにはシャッター機能がありませんので、ソロントンシャッターやメカニカルシャッターなどをレンズの前に装着する必要があります。
 あとは大判フィルムで撮るも良し、アダプタを介して中判カメラや35mm判カメラで撮るも良しといったところで、最も自由度は高いと思います。

 私はバレルレンズを数本所有していますが、いずれも二つ目の大判カメラを用いた方法で撮影をしています。

 なお、バレルレンズを使った撮影やソロントンシャッターについては別の機会にご紹介したいと思います。

100年前のレンズの写り

 今回ご紹介する写真撮影に使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、およびウイスタ45 SPです。また、いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っていますが、大判フィルムで撮ったものと中判フィルムで撮ったものがあります。

 まず最初の写真は、今年の春に近所の公園で撮影した染井吉野桜です。

▲染井吉野桜 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 このレンズを購入してから最初に撮影した写真ですが、素晴らしい写りに驚きました。
 正直なところ、あまり期待はしていなかったのですが、芯がしっかりと残っており、その周囲にふわっとしたフレアがかかり、何とも味わいのある描写になっています。フレアがかかっているというよりはフレアをまとっているといった方がぴったりするくらい、立体感があります。
 国産のソフトフォーカスレンズはフレアが大きく出過ぎたり、ソフトフォーカスフィルターで撮影したように平面的であったりするものが多いのですが、このレンズはフレアも大きすぎず、被写体とフレアが一体になっているという感じがします。ちなみに、この写真は絞り開放(F4)で撮影しています。

 また、色の出方も自然で、素直な写りをするレンズという印象です。今のレンズと比べると地味な色の出方かも知れませんが、ソフトフォーカスには向いているようにも感じます。

 掲載した写真ではよくわかりませんが、ポジをルーペで見てみると、色収差の影響が残っているように感じます。しかし、写真全体の質感を損ねるほどではなく、カラーリバーサルで撮影しても問題になるようなレベルではないと思います。

 同じ位置から絞りF8で撮影したのが下の写真です。

▲染井吉野桜 : F8 1/125 PROVIA100F(中判)

 F8まで絞るとフレアはほとんど感じられず、非常に鮮明な画像が得られています。発色もボケ方もとても綺麗だと思いますし、トップライトに近い順光状態での撮影ですが平面的にならずに立体感もあります。ただし、解像度は若干低めという感じがします。

 次の写真はピンク色の梅を撮影したものです。

▲梅 : F4 1/500 PROVIA100F(中判)

 梅の花と幹や枝とのコントラストが大きく、このような状況では梅の花のフレアが必要以上に大きくなってしまうレンズが多いのですが、このレンズは大きく出過ぎず、花の周りにフレアがまとわりついているかのようです。
 周辺部になると画質の低下が少し感じられますが、極端に悪くなるというわけではなく、フレアの出方も比較的綺麗な状態を保っています。

 上の梅の写真よりもコントイラストが低めの被写体ということで、春先の小川の風景を撮ったのが下の写真です。

▲野川公園 : F4 1/30 ND8使用 PROVIA100F(中判)

 午前中の撮影で、日差しはあるものの特に強いというわけではなく、全体的にコントラストは低めの状態です。際立って明るい部分はないので、フレアは全体にまんべんなくかかっているという感じです。
 遠景というほどではないにしても、これだけ引いた状態だと若干低めの解像度が目立ってきますが、かえってそれがふわっとした印象になっているかも知れません。好みの問題もありますが、レトロな感じの仕上がりになっているように思います。
 この写真も絞り開放での撮影ですが過度なフレアは感じられず、個人的には好ましい描写だと思います。

 さて、逆に強いハイライト部がある被写体ということで、日差しに輝く川面を撮影してみました。

▲奥入瀬川 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 ここは青森県の奥入瀬川、焼山付近で撮影したものです。晴天の午後1時ごろ、太陽が天中近くにある状態ですが、撮影位置は日陰になっている木の下になります。覆いかぶさっている木は陰になっていますが、川面は強く輝いており、非常にコントラストの高い状態です。
 ハイライト部分はもっとフレアが強く出ると思っていたのですが、想像していたよりはずっと控えめで、川面の状況もよくわかります。また、陰になっている木の枝もつぶれることなく、表現されています。
 一方、川面の波の部分などを見ると、色収差が出ているのがわかります。

 このような状況を普通のレンズで撮影すると硬い感じになってしまいますが、軟らかな感じに仕上がるのがソフトフォーカスレンズならではです。

 もう一枚、下の写真は彼岸花が咲く秋の風景を撮ったものです。

▲彼岸花の里 : F4 1/60 ND8使用 PROVIA100F(4×5判)

 実った稲穂と赤い彼岸花がとても絵になる風景で、小さな祠が祀られている田圃の畦道は日本の原風景といった感じです。
 逆光気味の状態でしたが、薄雲がかかってコントラストが少し下がったときに撮りました。全体にフレアが均一にかかっており、稲穂や木の葉の先端の滲みがとても綺麗だと思います。
 撮影場所から祠までの距離は20~30mほど、背景もそれとわかるくらいのボケ方なので、この場の状況が良くわかる描写だと思います。

 このレンズに限らずソフトフォーカスレンズでピント合わせをする場合は、絞り開放ではなく、少し絞り込んだ状態で行なわないとピントがずれたようになってしまいます。意図的にピントをずらせて軟らかさを強調する場合もありますが、やはり芯がしっかりしている方が見ていて気持ちが良いと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ローデンシュトックのソフトフォーカスレンズで、イマゴンよりも昔のレンズというのは知らなかったのですが、今回、初めて使ってみて、味わいのある描写にちょっと感動しました。
 もちろん、最近のレンズと比べると解像度などは低めですが、最近のソフトフォーカスレンズとはちょっと異質の感じがします。色収差を取り切れなかったのか、それとも、敢えて残しておいたのかはわかりませんが、もしかしたらそれが影響しているのかも知れません。

 バレルレンズを持ち出すと撮影に時間がかかるのが難点ですが、新しいレンズと違ってそれぞれの特徴が良くわかるのがバレルレンズの面白さとも言えます。

(2022.10.3)

#Rodenstock #ローデンシュトック #ソフトフォーカス #バレルレンズ #Linhof_MasterTechnika #レンズ描写

富士フイルムの中判カメラ FUJI GW690Ⅱ Professional

 かつて、富士フイルムからは多くのカメラが販売されていて、特に中判カメラに関しては様々なフォーマット向けのカメラがラインナップされていました。中でも69判のGW690、GSW690シリーズはベストセラー機という印象があります。最近はあまり見られなくなりましたが、観光地などで集合写真を撮る写真屋さんが使っていたイメージが強く残っています。
 もちろん集合写真専用というわけではありませんが、パノラマ写真を除けば中判で最大のフォーマットとフジノンレンズの組合せにより、高精細な写真が実現できるカメラです。

GW690Ⅱの主な仕様

 GW690シリーズは初代機からⅢ型まで3つのモデルが存在しますが、私の持っているカメラは2代目のⅡ型で、販売が開始されたのは1985年です。遡ること7年前の1978年に販売が開始された初代機GW690とは外観もよく似ていますが、3代目のGW690Ⅲになると曲線を多く取り入れたデザインになっており、だいぶイメージが変わりました。個人的には初代、もしくは2代目の無骨なデザインが好きです。
 なお、これらのシリーズの前身となるG690やGL690というモデルが存在していたのですが、私はいずれの機種も使ったことがありません。

 このカメラの主な仕様は以下の通りです。

  ・形式 : 69判レンジファインダーカメラ
  ・レンズ : EBC FUJINON 90mm 1:3.5 5群5枚 シャッター内臓
  ・シャッター速度 : T、1s~1/500s
  ・最小絞り : f32
  ・最短撮影距離 : 1m
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.75倍
  ・フィルター径 : 67mm
  ・使用フィルム : 120、220
  ・撮影可能枚数 : 8枚(120)、16枚(220)
  ・露出計 : なし
  ・電池 : 不要

 GW690シリーズは標準(90mm)レンズ、GSW690シリーズは広角(65mm)レンズを搭載したカメラで、いずれもレンズは固定式です。
 使用できるフィルムは120、220、およびハーフレングスの120の3種類が切り替えレバーで選択できるようになっていますが、現実的なのは120フィルムのみと言っても良いと思います。ハーフレングスの120フィルムは自作でもしない限り手に入らないでしょうし、220フィルムは中国で細々と製造しているという話しも聞きますが、あまり現実的とも思えません。幸いにも120フィルムはモノクロを中心に比較的種類もそろっているので、まだまだ十分にフィルム写真を楽しむことができるカメラだと思います。
 なお、フィルムを変更した時は裏蓋内側の圧板の位置変更も必要になります。

 また、このカメラは電池が不要で、すべてが機械式で稼動します。当然、電気式の露出計は装備されていませんし、電池のいらないセレン式の露出計もついていません。この辺りは潔いという感じがします。

 ブローニーフィルムを使い、さらに約9cmのアパーチャーを確保しなければならないので、カメラの筐体も必然的に大きくなりますが、プラスチックを多く用いてるせいか、実際に持ってみると見かけよりも軽く感じます。金属製の方が持った時の質感などが格段に良いのですが、この大きさのカメラを金属製にすると、持ち歩きにはしんどい重さになるように思います。

シンプルでわかり易い、かつ使い易い操作性

 最近のデジタルカメラのように、シャッターボタンさえ押せば撮影ができるというわけにはいきませんが、撮影にあたって操作が必要なのは、巻き上げレバー、絞り、シャッタースピード、およびピントリングのみです。このうち、巻き上げレバー以外はレンズに装備されているので、とてもわかり易いです。

 ピントリングの回転角度はおよそ90度なので、ピントリングを持ち変えることなく、無限遠から最短撮影距離まで回すことができます。重すぎず、軽すぎず、適度な重みをもって回転します。カメラ自体が大きいので、ピントリングがフワフワした感じだとピント合わせがしにくくなってしまいますが、ほんの1~2mmといったわずかな移動でも行き過ぎることはなく、ピタっと位置決めすることができます。
 また、ピントリングは若干、オーバーインフになっています。

 ファインダーは明るくてとても見易く、ブライトフレームはパララックス自動補正機能がついています。二重像合致式も見易くて、ピント合わせに苦労することはありません。基線長が影響しているのかどうかわかりませんが、二重像の動きが大きいので、ほんのわずかのずれも認識することができます。ただし、視野内に垂直線(縦線)がない場合は二重像がつかみにくくなります。

 フィルムの巻き上げはダブルストローク(2回巻き上げ)になっていますが、巻き上げストロークが多い分、巻き上げに要する力は少なくて済みます。PENTAX67と比べるととても軽く感じます。

 シャッターボタンは巻き上げレバーの上部と、カメラの前面の2箇所についており、使い易い方を使えば良いと思いますが、手持ち撮影の場合はカメラ前面のシャッターボタンを使った方がカメラのホールドは良いかもしれません。特に手があまり大きくない人(私もそうです)は、巻き上げレバー上部のシャッターボタンを押そうとすると、右の手のひらがカメラ底面から外れてしまいます。
 レンズシャッターなので振動は皆無と言っても良く、慣れればかなりの低速でも手持ち撮影が可能になります。

 大きなカメラではありますが、適度な大きさのグリップがついていたりして、持ち易さ(グリップ感)も考えられている感じです。縦位置に構えた時も、手のひらにしっかりと重心が乗る感じで、非常に安定した状態を保つことができます。

 また、69判というフォーマットは35mm判のアスペクト比とほぼ同じため、35mm判カメラを使い慣れた方にとってはほとんど違和感が感じられないのではないかと思います。

EBC FUJINON 90mm 1:3.5 の写り

 では、実際にGW690Ⅱで撮影した作例をご紹介したいと思います。

 まず1枚目は、夕暮れの東京ゲートブリッジの写真です。若洲海浜公園から撮影しています。

▲東京ゲートブリッジ F11 1/250 PROVIA100F

 太陽がゲートブリッジと同じくらいの高さになり、橋がシルエットになるように狙いました。オレンジ色に焼けている西の空の輝きを損なわないよう、露出を決めました。
 また、恐竜のような形と橋の美しさが最も強く感じられる場所をと思い、防波堤に沿って行ったり来たりしながらこのポジションにしました。

 上の写真は解像度を落としてあるのでわかりにくいですが、橋の上を走る車や設置されている道路標識らしきもの、対岸に見える風力発電の風車やクレーンなどもはっきりと認識でき、解像度の高さが良くわかります。
 偶然に写し込まれたのですが、空を飛んでいる鳥も確認できます。部分拡大したのが下の写真です。

▲東京ゲートブリッジ(部分拡大)

 手持ち撮影ですが、1/250秒のシャッターを切っているのでブレはほとんど感じられません。

 この写真を撮る30分ほど前までは富士山が見えていたのですが、次第に雲が増え、残念ながら雲に隠れてしまいました。

 次の写真は青森県の種差海岸で撮影したものです。

▲種差海岸(青森県) F22 1/60 PROVIA100F

 海がとても深みとコクのある色になっていて、色の再現性においても優秀なレンズだと思います。岩の質感も良く出ているし、海面の波の一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度です。
 焦点距離が90mmとはいえ、F22まで絞り込んでいるので、手前の岩から遠景までピントが合っています。アスペクト比の大きなフォーマットなので、横の広がりを出しつつ、奥行きを感じる画作りのできるカメラという感じです。
 また、このように晴天の時は、絞りやシャッター速度の組合せの選択肢が多いので、手持ちで気軽にイメージの異なる写真を撮ることができるのもこのカメラの魅力です。

 さて、3枚目は山形県の銀山温泉で撮影したものです。

▲銀山温泉にて F5.6 1/30 PROVIA100F

 銀山温泉というと、レトロ感と風格が漂う温泉旅館が有名ですが、そんな温泉街の一角で偶然見つけた柴犬です。家の壁や玄関に通じる橋など、全体的に褐色の中で柴犬の赤茶色がとても綺麗なコントラストになっていました。
 板壁の木目や柴犬の毛並まではっきりとわかるくらいの解像度です。また、落ち着いた感じの色再現性も見事だと思います。
 さすがに、右側の手すりの手前側はピントが合わずにボケてしまっていますが、素直できれいなボケ方だと思います。
 絞りはF5.6ですが、周辺部でも画質の低下はほとんど感じられません。

 このカメラに搭載されているEBC FUJINON 90mm 1:3.5は文句のつけようのないくらいの解像度を持っていますが、私は色乗りの素晴らしさが特徴的だと感じています。同じFUJINONでも大判レンズとは違う、「こってりとした」という表現が当てはまるような色の乗り方です。とはいえ、ペンキを塗りたくったようなべったりとした感じはまったくなく、グラデーションなどもとても綺麗に再現されています。高い解像度と最適の組み合わせになっているといった感じです。
 EBC FUJINONは、11層のコーティングを施し、レンズ1面辺りの反射率は0.2%以下と言われていますが、そのコーティングのなせる業なのかも知れません。
 また、レンズ構成はガウスタイプらしいのですが、とても素直な写りをするレンズという印象です。

 69判というフォーマットを、そしてリバーサルフィルムの発色を十分に活かすことのできるレンズだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回ご紹介した3枚の写真はいずれも手持ち撮影ですが、衝撃のほとんどないレンズシャッターとカメラ自体のホールドの良さで、中判カメラながら三脚なしで幅広いシチュエーションに対応できます。
 120フィルムで8枚しか撮れないというランニングコストの高さはありますが、補って余りある写真が撮れること間違いなしといえるカメラだと思います。
 しっかり構えた作品作りにはもちろんのこと、スナップ感覚で気軽に使えるカメラでもあります。

 ただし、このカメラを首から下げて歩いているとかなり目立つようです。

(2022.9.16)

#FUJINON #フジノン #GW690#東京ゲートブリッジ #銀山温泉 #レンズ描写

コンパクトフィルムカメラ コンタックス CONTAX T2

 他のページにも書きましたが、私は何年か前に35mm判カメラのほとんどを手放してしまいました。いま手元に残っている35mm判カメラは、CONTAX T2とフォクトレンダーBESSAMATICの2台のみです。BESSAMATICはすっかりディスプレイと化していて実際に使うことはほとんどありませんが、CONTAX T2はお散歩カメラとして、発売から四半世紀を過ぎた今でもバリバリの現役です。
 CONTAX T2にもいろいろなバリエーションがありますが、私の持っているカメラは最終型のリミテッドブラックというモデルです。

CONTAX T2の主な仕様

 このカメラの主な仕様は以下の通りです(CONTAX T2取扱説明書より引用)。

   レンズ      : Sonnar T*38mm F2.8 4群5枚
   シャッター    : レンズシャッター 1秒~1/500秒
   絞り目盛り   : F2.8~F16
   最短撮影距離  : 0.7m
   露出計      : SPD受光素子
   ファインダー   : 逆ガリレオ型採光式ブライトフレーム
   AF方式     : 赤外線式アクティブオートフォーカス
   フィルム感度  : ISO25~5000
   フィルム装填  : オートローディング方式
   電池      : CR123Aリチウム電池 1本
   大きさ     : 119mm x 66mm x 33mm
   重量      : 295g(電池別)

 初代のCONTAX T2が発売されたのは1990年ですが、リミテッドブラックが発売されたのは通常モデルの生産終了後の1998年で、2,000台の限定品でした。価格(メーカー希望小売価格)は他のCONTAX T2と同じく12万円という高額のカメラでした。
 直方体の中にほとんど凹凸のない状態でレンズ(収納時)やダイヤル、ボタンなどが綺麗に納まっており、それまでのコンパクトカメラとは一線を画しているという印象がありました。

 初代のCONTAX T2を目にしたとき、欲しくて欲しくてたまらなかったのですが、あまりの高額に手が出せずにいました。「いつかはT2」と思いながらも時は過ぎ、やがて生産終了を迎えてしまいましたが、その後まもなくして限定品が出るというアナウンスを耳にし、これを逃したらいつかは来ないと思い、予約して購入したのがついこの間のことのようです。

 チタン製のボディに加えてファインダー窓にサファイアガラスが採用されていたり、多結晶サファイアのシャッターボタンやセラミック製のフィルム圧板、そして立派な化粧箱など、随所に高級感がちりばめられているというカメラでした。
 その当時、他メーカーのコンパクトカメラも持っていたのですが、CONTAX T2を手にしたとたん、それまでのコンパクトカメラがとてもチープに見えてしまったことを覚えています。CONTAX T2を持ち出すと何だか写欲が湧いてくるように感じたのは、その高額な価格のせいだけではないと思います。

自動とマニュアルを兼ね備えた、優れた操作性

 オートフォーカス(AF)、および自動露出(AE)に設定しておけば、あとはシャッターを押すだけで撮影ができるわけですが、マニュアル撮影もできるようになっており、この辺りもカメラ好きの心をくすぐるカメラと言えます。
 カメラ上面のダイヤルをAFポジションから解除する方向に回すと、その瞬間からマニュアルフォーカスになります。レンズの絞りもAEポジションから回すとマニュアル露出になり、少ない操作で自動/マニュアルが切り替えられるようになっていて、操作性に優れていると思います。
 また、ストロボ撮影もレンズの絞りリングで切り替えるようになっていて、いくつものスイッチやダイヤルをいじらなくても済むように考えられています。

 もちろん、一眼レフカメラのように細かな設定はできませんが、通常の撮影には全く不便を感じません。コンパクトカメラというカテゴリーに入るようですが、使っているとそれを忘れてしまいます。「高級コンパクトカメラ」という分野を築いたと言われるのも頷けます。

オートフォーカス機能が弱い?

 このカメラの唯一の弱点と言えるのかも知れませんが、オートフォーカスが弱いというか、クセがあるというか、そんな印象があります。
 狙ったところにピントが合わない、ということが時々起きます。特に、近景にピントを合わせようとしたときに起きる傾向が強いように感じます。ただし、これは個体差があるのかもしれません。

 また、マニュアルフォーカスでピント合わせをしようとしても、フォーカシングダイヤルの目盛りは非常にラフな状態だし、ファインダー内にフォーカシングインジケータがありますが、どの程度の精度があるのか良くわからないし、ということでマニュアルフォーカスはほとんど使ったことがありません。

 36枚撮りのフィルム1本の中で1~2コマのピンボケが生まれることがありますが、フレーミングの際に少し気をつけて慎重に行なえば回避できるレベルです。

カールツァイス ゾナー Sonnarレンズの描写力

 CONTAX T2に採用されているレンズはカールツァイスのSonnar T* 38mm F2.8ですが、焦点距離38mmに対して開放F値が2.8というのは特に明るいわけでもなく、レンズ構成の4群5枚を見ても特に目を引く仕様というわけではありません。
 これは個人的な感想ですが、カールツァイスのSonnarというと色ノリが良いという印象があります。当時、一眼レフ用のレンズでも何本かのSonnarを持っていましたが、Planarなどと比べるとこってりとした色合いになるように感じていました。
 実際にCONTAX T2で撮影してみた時に、やはり色のりはSonnarだと感じたのを覚えています。

 下の写真は、CONTAX T2で撮ったスリーブをライトボックスに乗せた状態で撮影したものです。

 良く晴れた日だったので、近所を散歩しながら青の景色を撮り歩いた写真ですが、色のりの良さがわかると思います。使用しているフィルムはVelvia100というリバーサルフィルムなので、もともとが鮮やかな色合いになる傾向ではありますが、Sonnarっぽさが感じられます。

 もちろん解像度も素晴らしく、一眼レフカメラで撮影したものと比べても遜色ないといった感じです。
 スリーブの中の1コマをスキャンしたのが下の写真です。

 中央の高圧線の鉄塔やケーブルはもちろんですが、手前の木々の葉っぱも非常に良く解像していると思います。順光に近い状況ということもあり、空の青や下の方の葉っぱの緑がとても鮮やかな色になっています。

 もう一枚、福島県の大内宿で撮ったものです。

 大きな民家の軒下にたくさんのお土産品が並べられており、直射日光は当たっていないので光が柔らかく回り込んでいる状況ではありますが、やはり解像度は立派だと思います。

赤が鮮やかに発色するという噂

 CONTAX T2に搭載されたSonnarは、特に赤の発色が極めて鮮やかだという話しは有名です。
 私自身はそのように感じたことはほとんどなく、どちらかというと青とか緑の発色が鮮やかだと思っていたのですが、あらためてCONTAX T2で撮影したポジを見てみると確かに赤の発色の鮮やかさは感じられます。ただし、極めて鮮やかかというと、それほどでもないというのが正直なところです。ですが、これは撮影した被写体によるところも大きいのではないかと思います。

 CONTAX T2で撮影したコマの中から、赤が鮮やかに発色しているものを物色してみました。

 日光東照宮で撮影したものですが、建物の周囲に設置されている柵がとても鮮やかに出ています。雨上がりの早朝ということで全体が落ち着いた色合いになっているのですが、確かに赤い柵だけが妙に鮮やかに感じられます。
 全体のトーンが低いので赤が目立っているのかもしれませんが、光の具合や他の被写体との組み合わせで見え方も変わってくるわけで、この噂に関する真偽のほどはわかりません。

 むしろ、私は赤よりもピンクというか肌色というか、赤よりも少し淡い色の方が綺麗に発色すると感じていました。
 ポートレートだとわかり易いと思うのですが、CONTAX T2で撮影したポートレートがないので、比較的色合いが近いと思われるものを見つけてきました。

 どこの神社でもよく見ることができる狛犬です。
 色のトーンがニュートラルグレーに近い感じだと思うのですが、とても自然な感じに描写されていると思います。赤の鮮やかな発色とは対極にあるような印象さえ受けます。
 このように、CONTAX T2の赤の発色に対して私が持っているイメージはそれほど派手なものではありません。

いま、CONTAX T2の中古価格が異常に高騰している

 ところで、昨今、中古カメラ価格が全般的に上昇しているように感じているのですが、中でもCONTAX T2の中古価格の高騰ぶりには驚かされます。
 もともとの価格(12万円)を超える中古品はざらで、中には20万円以上するものまで出回っています。もちろん、そういった価格がついているものは程度も非常に良い個体だし、金ぴかのゴールドモデルだったりするわけですが、それにしても異常とも思える状況です。
 いったい、20万円も30万円も出して誰が買うのだろうと考えてしまいます。個人で購入する方もいらっしゃるだろうし、中古カメラ販売をビジネスにしている方もいらっしゃるとは思うのですが、そのカメラの行き先が妙に気になってしまいます。

 ネットオークションなどを見ると、CONTAX T2やT3はとても綺麗で程度の良いものがたくさん出品されています。四半世紀も前のカメラが綺麗な状態でこれほどたくさん出品されているということは、大事に保管されていてあまり使われてこなかったということなのかとも思ってしまいます。
 CONTAX T2にしてもT3にしても、これまで実際に持ち歩いている人を見かけたことは非常に少ないです。もしかしたら、箱入り娘のようなカメラなのかも知れません。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 私はこのカメラを散歩や旅行などの時に良く持ち出して他愛もないものを撮っています。購入してから24年が経ちますが、四半世紀も前のカメラということを全く感じさせません。もちろん、人によって好みがあると思いますが、私はすっきりとしたデザインがとても気に入っています。

(2022.6.12)

#CONTAX #コンタックス #リバーサルフィルム #レンズ描写

PENTAX67用 超広角レンズ smc PENTAX-6×7 45mm 1:4

 PENTAX67用の純正レンズとしては、35mmのフィッシュアイレンズを除くと最も短焦点のレンズです。レンズの種類としては「超広角」に分類されています。35mm判カメラ用の焦点距離22mmくらいのレンズと同じ画角ですので、かなり広角なのがわかると思います。
 画角が大きいので常用というには不向きかも知れませんが、広角の特性を活かした画作りするには興味深いレンズだと思います。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(smcPENTAX67交換レンズ使用説明書より引用)。

   レンズ構成  : 8群9枚
   絞り目盛り  : F4~F22
   画角     : 89度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離 : 約0.37m
   測光方式   : 開放測光
   フィルター径 : 82mm
   全長     : 57.5mm
   重量     : 485g

▲scm PENTAX-6×7 mm 1:4

 PENTAX67用のレンズはタクマーシリーズが最初で、その後、SMCタクマーシリーズ、SMCペンタックス67シリーズと続いていきますが、この45mmはSMCペンタックス67シリーズになって初めてラインナップされたレンズです。
 私の持っているレンズは初期のモデルで、正式名称が「smc PENTAX-6×7」となっていますが、後期モデルは「smc PENTAX 67」になっています。レンズ構成などの仕様は同じですが、ピントリングや絞りリングのローレット形状が異なっています。
 重さも500gを下回っており、PENTAX67用レンズの中では最も小ぶりです。

 絞りリングはF5.6からF22の間では中間位置にクリックがありますが、F4とF5.6の間は非常に狭く、中間位置のクリックがありません。
 ピントリングの回転角はおよそ120度で、回転角は大きすぎず小さすぎず、操作し易い角度といった感じです。無限遠から最短撮影距離指標まで回すと鏡筒が約11.5mm繰出されます。
 絞り羽根は8枚で、いっぱいに絞り込んでも綺麗な正8角形を保っています。

 焦点距離が45mmと短いので被写界深度も深く、最小絞りのF22まで絞り込んだ時のレンズの被写界深度目盛りを見ると、1m~∞までが被写界深度内となっています。ピント位置を2mあたりにしておけば、極端に近いところ以外はピント合わせしなくてもボケずに写るということですが、中判フィルムを使うので、いくら何でもそれは大雑把すぎるだろうと思います。

▲mc PENTAX-6×7 45mm の被写界深度目盛り

 画角が広いのでフィルターを2枚重ねると四隅がケラレます。フィルターの2枚重ねをすることはほとんどないと思いますが、保護フィルターを常用している場合、PLフィルターやNDフィルターを使う際には保護フィルターを外した方が無難です。

広い景色をより広く撮影する

 広角レンズなので広い範囲を写せるのは当たり前ですが、焦点距離75mmや55mmのレンズと比べると格段に広い範囲が写り込み、全く別物のレンズのような印象です。そのため、不用意にこのレンズで構えると写したくないものまで入り込んでしまい、雑然とした写真になってしまったり、後で大きくトリミングなんていうことにもなりかねません。
 しかし、広い風景をうまくフレーミングできれば、肉眼で見た風景に比べてはるかに広大な感じられる写真にすることができます。

 下の写真は群馬県の丘陵地帯に広がるキャベツ畑です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 左右の広がりが感じられるように、キャベツ畑を阻害するものをできるだけ排除する位置から撮影しています。ぷかぷかと浮いた雲が適度にあったので空を広めに取り入れています。遠くの山並みも広がりを強調していると思います。
 このような場所ではこのレンズの大きな画角が威力を発揮してくれます。

 この写真では無色の保護フィルターのみで、他のフィルターは使っていません。PLフィルターを適度にかけると雲の白さがより強調されたり、キャベツの葉っぱの反射が抑えられると思いますが、かけすぎるとべったりとした塗り絵のような写真になってしまいます。

 もう一枚、山形県にある棚田の春の風景を撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 田圃の畦の桜がちょうど見ごろを迎えていたので、広く取り入れた空に桜の枝を配してみました。
 右の奥の方に集落が小さく見えると思いますが、肉眼ではもっとずっと近くに見えます。広い範囲が写り込むことで遠近感が強調され、とても広く感じられます。
 また、被写界深度が深いので、手前の桜から奥の山並みまでパンフォーカスに見えます。実際には桜のところはわずかにピントが甘いのですが、この画像では画素数を落としているのでわからないかも知れません。

 いずれの写真も周辺光量の落ち込みがわずかに感じられますが、気になるほどではありません。

パースペクティブを活かして撮影する

 このレンズくらいに画角が大きくなるとパースペクティブが強く出るので、特に意識しなくても遠近感のある写真になりますが、被写体に近づくことでより強く表現することができます。
 このレンズの最短撮影距離は37cmなので、かなり被写体に近づくことができます。37cmと言わずとも1mほどに近づいただけで、その被写体はフレームの中でその存在をかなり主張してきます。

 まず、福島県の桧原湖で撮影した大山祇神社の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/15 PROVIA100F

 ここは、1888年に発生した磐梯山の噴火で川がせき止められ、それによってできた桧原湖に水没してしまった神社です。かろうじて鳥居と、この後ろにあるお社(写真には写っていません)が残っていますが、ここに至るまでの参道はすっかり水の中です。

 湖畔に降りて、この鳥居がはみ出さないギリギリのところまで近づいて撮影しています。鳥居までの距離は2mほどだったと思います。近い位置から見上げるようなポジションでカメラを構えていますので、鳥居の右側と左側ではかなり大きさが違っているのがわかると思います。

 鳥居をできるだけ強調しながら背景を広く取り入れることができるのも、89度という広い画角を持ったレンズならではです。
 鳥居が向こう側に少し傾いているように見えますが、これもパースペクティブの影響です。大判カメラであればアオリを使って補正することができますが、PENTAX67ではそういうわけにもいきません。レタッチソフトを使えばこんな補正は朝飯前でしょうが、これくらいの傾きであればむしろ自然かもしれません。

 次は枝垂桜の写真です。

▲PENTAX67 smcPENTAX-6×7 45mm F22 1/30 PROVIA100F

 福島県にある一本桜の大木ですが、桜の木の下に入りこんで真上を見上げるようなアングルから、大きく張り出した枝をできるだけたくさん入るように撮影しています。
 花の密度が最も高い左下の部分を強調して、桜全体がパンフォーカスになるようにということで目いっぱい絞り込んでいますが、上の方の花や枝はピントが外れています。それでも木の大きさや枝の広がりは表現できたのではないかと思います。

ぼかし方には注意が必要

 これまで紹介した4枚の写真はいずれもパンフォーカスか、それに近い状態で撮影していますが、あまり絞り込まず、被写界深度を浅くすることで主被写体を強調した撮り方もできます。

 下の写真は雑木林に出たフキノトウを撮ったものです。

▲PENTAX67Ⅱ smcPENTAX-6×7 45mm F5.6 1/125 PROVIA100F

 フキノトウまでの距離は40cmほどで、このレンズの最短撮影距離に近い状態です。主被写体となるフキノトウを浮かび上がらせるため、絞りはF5.6での撮影です。フキノトウまでの距離が非常に近いということもあり、フキノトウ以外はすべてピントが合っていません。
 これはこれで狙った通りなのですが、ボケ方が決して綺麗とはいえません。二線ボケがくっきりと出てしまっています。背後の立ち木や地面の枯れ枝などの棒状のものが多いので特に目立つのかもしれませんが、二線ボケが出ると画がうるさいというか、汚く感じられます。

 このレンズに限らず、PENTAX67用のレンズは全体的に二線ボケの傾向にあります。なので、二線ボケが出やすい被写体の場合は注意が必要です。ピントが合っているところはとても綺麗で文句のつけようのない描写をしますが、ボケを活かす場合はレンズの特性を良く把握しておかないと、出来上がった写真を見てガックリということになりかねません。

 因みに、この写真のようなシチュエーションの場合、接写リングをかませるとボケはかなり綺麗になります。しかし、被写界深度が浅くなりますので背景がボケ過ぎて、フキノトウの出ている環境がわからなくなってしまう可能性もあります。作画意図をはっきりと持った上でどのように仕上げるかを考えるのも、写真撮影の面白さの一つだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 大きな画角ゆえにクセの強いレンズとも言えますが、私の中ではボケ以外の写りに関してはかなり高評価のレンズです。エッジのきいたシャープさというか、ピントの合っているところの解像度などは見事ですし、周辺光量の落ち込みも気になるほどではなく、気持ちの良い写真に仕上げることのできるレンズといった感じです。
 焦点距離55mmのレンズは比較的なじみ易い広角かも知れませんが、それに飽き足らなくなったらこのレンズで違った世界を見てみるのも面白いのではないかと思います。

(2022.5.5)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写

シュナイダー Schneider APO-SYMMAR 150mmと、フジノン FUJINON W 150mmの写りの違い

 私が使っている大判レンズはシュナイダー Schneider とフジノン FUJINON がほとんどで、あとはローデンシュトックが少しと、ニコンや山崎コンゴー、あるいは昔のバレルレンズなどがそれぞれ2~3本ずつといったところです。シュナイダーもフジノンも初期のモデルはほとんど持っておらず、比較的後期に近いモデルが多いのですが、どちらのレンズもカリカリしすぎないシャープネスさや素直な写りが気に入っています。
 近年のレンズは性能が拮抗しているのでほとんど見分けがつきませんが、微妙な違いがあるのではないかということで、シュナイダーとフジノンのレンズの写りを比較してみました。
 見た目の写りの違いを比較しているだけで、精密な計測をしているわけではありませんのでご承知おきください。

レンズの仕様の違い

 ということで、今回、比較対象としたレンズは以下の2本です。

  シュナイダー APO-SYMMAR 150mm 1:5.6
  フジノン FUJINON W 150mm 1:5.6

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6(左) と、FUJINON W 150mm 1:5.6(右)

 この2本のレンズは仕様的にも非常に似通っています。
 主な違いですが、レンズ構成はシュナイダー APO-SYMMAR 150mmが4群6枚に対してフジノン FUJINON W 150mmが6群6枚、イメージサークルは220mm(f22)に対して224mm(f22)、フィルター径が58mmに対して55mm、全長が53.8mmに対して57mmといったところでしょうか。
 大きさもほとんど同じでコンパクトなレンズですが、フジノンの方がフィルター径が小さいのでこじんまりとした感じに見えます。
 どちらのレンズもイメージサークルが220mm以上ありますから、4×5判で通常の風景撮影をするには特に支障はありません。

 なお、フジノンの最終モデルであるCM FUJINON 150mmはフィルター径が67mmになったため、ずいぶんと大きくなった感じがします。

 また、今回使用した2つのレンズの焦点距離はともに150mmですが、APO-SYMMAR 150mmで被写体にピントを合わせた後、レンズをFUJINON W 150mmに交換するとピントの位置がずれているようで、ほんの僅か(たぶん、1mmの何分の一というくらいの微量)、レンズを引き込む必要がありました。これがレンズの焦点距離のわずかな違いによるものなのか、それともレンズボードの厚みの影響によるものなのかはわかりません。いずれにしても問題になるようなことではありませんが、参考までに。

発色や色調の違い

 では、2つのレンズで実際に撮影した写真を比較してみます。
 まずは、公園の雑木林を撮影したものです。カメラの位置を固定し、できるだけ時間差を置かずに2つのレンズで撮影しています。1枚目がAPO-SYMMAR 150mm、2枚目がFUJINON W 150mmです。いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っています。

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm F45 1/2 PROVIA100F
▲FUJINON W 150mm F45 1/2 PROVIA100F

 薄曇りの日の撮影なので、比較的フラットな光の状態です。1枚目の撮影と2枚目の撮影の間は1分あるかないかくらいですので、光の状態に大きな違いはないと思われます。

 わかり易いように2枚の写真を並べてみます。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 一見、ほとんど同じように見えると思いますが、APO-SYMMAR 150mm(左側)の方がわずかに暖色系になっているのがわかると思います。木々の緑がFUJINON W 150mm(右側)に比べると若干、黄色っぽく感じます。落ち葉や木の幹もAPO-SYMMAR 150mmの方が黄色に寄っているので、ちょっと明るく感じられます。
 また、APO-SYMMAR 150mmの方が色乗りがわずかにこってりとした感じに、FUJINON W 150mmの方がわずかにあっさりとした感じに見えます。

 もう一枚、桜の写真で比較してみます。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 雑木林の写真と同様に、APO-SYMMAR 150mmの方が暖色系の発色をしています。比べると、桜の花が黄色っぽく感じると思います。
 それぞれ単独で見ると区別がつきませんが、こうして並べてみるとわずかな違いがあります。

 デジタルカメラでも発色の違いが出るのかということで、大判カメラにアダプタを介してデジタルカメラで桜を撮影してみました。雨上がりで薄日が差している状態です。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 桜の花びらや左端の枝を見るとよくわかりますが、やはり、APO-SYMMAR 150mmの方が黄色っぽい発色になっています。

 このような発色の違いはレンズコーティングの違いによるものではないかと思われますが、確証はありません。
 かつて、35mm判カメラでCONTAXを使っていたことがあり、CONTAX用のレンズにはドイツ製と日本製があるのですが、ドイツ製のレンズの方が黄色っぽい発色をする印象がありました。レンズ構成などの仕様はまったく同じなので、やはりコーティングの違いではないかと思っていました。

ボケ方の違い

 次にボケ方の違いを比較してみました。
 まず、フィルムで撮影した桜の写真の一部を拡大したものです。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 左上の葉っぱがわかり易いと思うのですが、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っている感じです。一方、APO-SYMMAR 150mmの方は全体に柔らかくボケている感じがします。焦点距離は同じなのでボケの大きさに違いは感じられませんが、ボケの中の色の変化はAPO-SYMMAR 150mmの方がなだらかな印象です。

 デジタルカメラで撮影した桜の写真の部分拡大も比較してみます。
 同じく、左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 やはり、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っているのがわかります。ボケの大きさは変わりませんがAPO-SYMMAR 150mmの方がふわっとした感じに見えるのは輪郭の残り方の違いによるものと思われます。
 ただし、このボケ方の違いは拡大することでわかる程度で、写真全体を見た時には大きな違いは感じられません。強いて言えば、FUJINON W 150mmの方がボケの中に芯が残っているように感じられるくらいでしょうか。

わずかな特性の違いはあるが、秀逸なレンズ

 発色やボケ方にごくわずかの違いがありますが、比較してわかる程度の差です。比較をすれば好みが分かれるかもしれませんが、写りに関してはよく似ていると思いますし、どちらのレンズがより優れた写りをするかという差も見つけにくいと言ってよいと思います。
 解像度の測定などはしていませんが2つのレンズにほとんど差はないと思われ、いずれも素晴らしい写りをするレンズだと思います。

 この2本のレンズを使い分けるのは難しいというのが正直なところですが、赤とか黄色の被写体(例えば紅葉など)の場合はAPO-SYMMAR 150mmの方が向いているかも知れませんし、青色系の被写体の場合はFUJINON W 150mmの方がクリアな色になるかも知れません。
 しかしながら、写真を1枚だけ見せられても、私にはどちらのレンズで撮影したものなのかという判断はできません。どちらのレンズを使おうが素晴らしい写りをしてくれることは間違いのないことだと思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今回のように同じ被写体をほぼ同じ条件で撮影してみて、ようやく、そのわずかな違いが明確になったという感じです。その違いを知ったからどうということもないのですが、数値的な特性の違いではなく、目で見てわかる特性の違いを知るというのはちょっと興味深いものではあります。
 機会があれば他のレンズでも比較してみたいものです。

(2022年4月19日)

#FUJINON #フジノン #Schneider #シュナイダー #レンズ描写

PENTAX67用ソフトフォーカスレンズ SMC PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5

 1990年前後だと思うのですが、PENTAX67用のレンズがSMCタクマーからSMCペンタックスになったタイミングでラインナップされたソフトフォーカスレンズです。
 写真家のデヴィッド・ハミルトン氏や秋山正太郎氏の影響も大きいと思うのですが、当時はソフトフォーカスの人気も高く、いろいろなソフトフォーカスレンズが各社から発売されていました。今ではレタッチソフトで加工して、ソフトフォーカスレンズで撮影したような描写に仕上げてしまうことが簡単にできるので中古市場での人気もイマイチですが、ときどき使ってみたくなるレンズです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(PENTAX67 SOFT 120mm 使用説明書より引用)。

   レンズ構成枚数   : 3群4枚
   絞り目盛り     : F3.5~F22
   画角        : 40.5度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離    : 約0.75m
   測光方式      : 絞り込み測光
   フィルター取付ネジ : 77mm
   全長        : 63.5mm
   重量        : 520g

▲SMC PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5

 35mm判カメラ用の焦点距離60mmのレンズと同じくらいの画角ですので、若干長めの標準レンズといったところです。
 
 普通のレンズは球面収差をおさえるために何枚ものレンズを組み合わせていますが、このレンズはあえて球面収差を残すことで芯のある像の周囲にボケを発生させるという原理のようです。
 このレンズは、1986年に製品化された35mm判用のSMC PENTAX SOFT 85mm F2.2というレンズが原型になっていると言われています。SOFT 85mmレンズは私も購入しましたが、ソフト効果が強力過ぎるのと周辺部の画質が良くないという理由でほとんど使わずに手放してしまいました。
 しかしこちらのレンズは、SOFT 85mmと比べるとはるかにきれいな描写をするレンズです。

 PENTAX67用のレンズは多くの一般的なレンズと同様、レンズの前側にピントリングがあり、マウント側に絞りリングがありますが、このSOFT 120mmレンズは絞りリングがレンズ前側でピントリングがマウント側にあり、普通のレンズと配置が逆です。
 このレンズは絞り値によってボケ量が変化しますが、ボケ具合を確認する際、絞りリングが回し易いように前側に配置されているのではないかと思われます。
 また、ピントリングのところに距離目盛りがないのも特徴的です。

 絞り羽根は8枚で、F4で綺麗な円形になります。
 また、絞りリングはF4からF22の間で中間位置にクリックがあります。

▲絞りF4で綺麗な円形になる

独特なピント合わせ

 上でも触れたように、このレンズは球面収差を利用しているため、絞りを絞るにつれて球面収差は小さくなり、F11以上になると目立たなくなります。
 しかし、開放(F3.5)からF5.6辺りではボケが大きくて、ピント合わせがし易いとは言えません。ピントの山がつかみにくいという印象です。

 レンズの使用説明書を見ると、以下のような二通りのピント合わせの方法が示されています。

 1) 絞りをF3.5~8に設定した時は、ファインダーでピント合わせをした後、ピントリングを左に回して補正する。
 2) 絞りを11以上にしてピント合わせをした後、好みのボケ量の位置まで絞りを開く

 一つ目のピント合わせについてですが、球面収差の影響で、肉眼でピントが合っていると見える位置と実際にピントが合っている位置にずれがあるようで、これを補正するためにピントリングを左に動かす(フォーカスシフト)ということのようです。
 下の写真がその補正用の目盛りです。

▲ピント補正(フォーカスシフト)用の指標

 向って右から赤、白、白と3本のラインがありますが、ピント合わせをした後、ピントリングを赤のラインから白のライン位置まで移動させるという操作を行ないます。ボケ(フレア)をあまり大きくしたくないときは真ん中の白いラインまで、ボケを大きくしたい時は左の白のラインまで移動させます。
 ピントリングを左に回すということはレンズが前に繰り出されることになりますので、後ピンになっているということのようです。

 試しに、絞りF3.5の時とF11まで絞った時の、ピントリングの位置を調べてみました。

▲絞りによってピントの合う位置がずれる

 上の写真で、ピントリングに付けてある緑の付箋(右側)がF3.5の時のピントが合った位置で、赤の付箋(左側)がF11の時にピントが合った位置です。ちょうど赤のラインと真ん中の白のラインの感覚と同じくらいのずれがあります。
 これでわかるように、絞りを開いた状態の時は後ピンでピントが合ったように見えるようです。

 二つ目のピント合わせの方法、F11以上に絞ってピント合わせをする場合ですが、この時は通常のレンズと同じようにピント合わせができるようで、補正の必要がないということです。
 ただし、F11以上に絞るとファインダーが暗くなりますので、被写体によってはかえってピントが合わせにくくなってしまいます。どちらの方法が良いか、慣れにもよると思いますが、その時の状況に応じてピント合わせの方法を使い分けることも必要かもしれません。

被写体によってフレアの出方に大きな違いがある

 ソフトフォーカスレンズのボケ方というのは、ピントが合っていないボケ(ピンぼけ)とは違って、芯(ピントが合っている)がはっきりしており、その周囲にフレアが出るというものです。また、明るいところほどフレアが強く出ます。
 このため、コントラストが強すぎる被写体の場合、ハイライト部分のフレアが非常に強く出てしまいます。強い点光源のようなものがあるとそこのフレアは非常に大きくなります。
 一方、コントラストが低い被写体の場合は均一にフレアが出るため、霧がかかったような感じになり、全体的に白っぽい画になってしまいます。フォギーフィルターというのがありますが、それをつけた時の状態に似ています。

 全体的にクセのない綺麗な描写をするレンズだと思いますが、絞り開放近辺の周辺画質は落ちる傾向にあるので、被写体によっては注意が必要かもしれません。
 テレコンバーターをつけて周辺部をカットしてしまうという方法もありますが、画角が狭くなってしまうのと、全体の画質が若干落ちてしまうため、私はほとんど使うことはありません。

SOFT 120mmで撮影した作例

 このレンズに限らず、ソフトフォーカスレンズは被写体やシチュエーションによって写りが大きく変わります。そんな中から、このレンズの特性が感じられる作例をいくつかご紹介したいと思います。

 まず一枚目は八重咲の桜をアップで撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/30 PROVIA100F

 薄曇りなので強い光は当たっておらず、そのため、バックは暗く落ち込んでいます。極端なハイライト部はない状態ですので、全体として柔らかな感じで描写されていますが、ピンクの花弁のところは綺麗なフレアが出ています。
 花弁の部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 花弁の輪郭はしっかりと残しながら、フレアが出ているのがわかると思います。
 ふわっとした柔らかさで、一味違った桜の美しさが表現できるのではないかと思います。

 これに対して、全体的に明暗差が少なくコントラストが低い被写体を撮るとこのような感じになります。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/60 PROVIA100F

 バックも比較的明るく、これといったハイライト部もシャドー部もない状態です。全体的に霧がかかったような描写になります。
 これはこれで雰囲気があるのですが、何かポイントとなるようなものがないと写真が平坦になってしまいます。普通のレンズで撮っても面白くないのでソフトフォーカスレンズを使ってみたが、やっぱりどうってことはなかったみたいな状態に陥りやすいケースです。
 フォギーフィルターを使った時と描写が似ていますが、芯がしっかりと出ているので奥行きが感じられます。

 被写体に強い光があたっている状態だと全く違う描写になります。
 下の写真は透過光に輝く葉っぱを撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/125 PROVIA100F

 光が当たっている葉っぱと光があまりあたっていない背景とで明暗差がありますが、直接光が入り込んでいるハイライト部がないため、光が透過している葉っぱも柔らかな感じになっています。
 これを普通のレンズで撮ると、パキッとした感じになってしまいますが、このような描写できるのはソフトフォーカスレンズならではです。
 背景の木漏れ日による滲みも柔らかくて綺麗だと思います。

 下の写真は、桜の咲く時期に茅葺き屋根の民家を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/500 PROVIA100F

 薄曇りで柔らかな光が全体に回り込んでいる状態なのでフレアの出方にも大きな差がなく、画全体が滲んでいるような描写になっており、絵画のような雰囲気があります。
 コントラストはそれほど高くないので、露出をかけすぎると全体的に白っぽくなってしまいますが、露出を若干切り詰めることでこのような描写にすることができます。
 絞りを適度に絞ると明るい部分のフレアも抑えられるとともに、シャドー寄りの部分も柔らかな描写になります。

 上の写真とは正反対というか、ハイライト部分が点在している状態の被写体を撮ったのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/125 PROVIA100F

 残り柿に太陽の光があたって白く輝いている状態です。その部分のフレアが大きく広がって、全体がふわっとした感じになっています。
 枝も白く輝いており、このフレアも全体を柔らかくしています。
 残り柿の雰囲気を出すためには、もう少し露出を切り詰めた方が良いかもしれません。その方が晩秋のイメージが出ると思います。

 これらの作例でもわかると思いますが、ソフトフォーカスレンズの場合、露出過多は避けた方が良いと思います。フレアが出過ぎて、写真の雰囲気を台無しにしてしまう可能性が高いです。

 さて、もう一枚、点光源に対する描写の例ということで、夜のレインボーブリッジを撮ってみました。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F3.5 2s PROVIA100F

 絞りは開放にしているので、ハイライト(点光源)部分のフレアは顕著に表れています。点光源が多く、かつコントラストが高いとここまでフレアが大きくなってしまい、元の形も崩れてしまうほどです。フレアをどれくらいの大きさにするかは好みというか作画意図というか、そういうものによると思います。

 橋の中央部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 芯はしっかりとしながら綺麗な滲み(フレア)が出ています。
 しかし、点光源の影響はかなり大きいので、このような夜景を撮影する場合はどの程度絞るか、悩ましいところではあります。絞ればこのようは綺麗な円形のボケではなく多角形になってしまいますので、写真の雰囲気も変わってきます。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ソフトフォーカスレンズは特殊レンズに分類されるといっても良く、その描写は被写体やシチュエーションによって大きく変化します。ファインダーで見たような仕上がりにはなかなかならないという、クセのあるレンズかもしれません。デジカメであればすぐに結果を確認できますが、フィルムカメラではそのようなわけにもいかず、たくさんの撮影をしながらレンズの特性を把握していくということが必要になります。面倒くさいと言えばそれまでですが、そんなレンズの特性を理解しながら撮影するのもフィルムカメラの楽しみの一つかもしれません。

(2021.12.15)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写 #ソフトフォーカス

シュナイダー大判レンズ スーパーアンギュロン Schneider SUPER ANGULON 90mm F8

 シュナイダーの大判カメラ用レンズです。「アンギュロン ANGULON」はシュナイダーの広角系のレンズに使われているブランドで、大判レンズ用は大きく分けてアンギュロン、スーパーアンギュロン、スーパーアンギュロンXLの三種類があります。スーパーアンギュロンXLは最新モデルで、38mmから210mmまで、結構広範囲をカバーしています。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(シュナイダー製品カタログより引用)。
   イメージサークル  : Φ216mm(f22)
   最大適用画面寸法  : 5×7
   レンズ構成枚数   : 4群6枚
   最小絞り      : 64
   シャッター     : No.0
   シャッター速度   : T.B.1~1/500
   フィルター取付ネジ : 67mm
   前枠外径寸法    : Φ70mm
   後枠外径寸法    : Φ57mm
   全長        : 75.6mm
   重量        : 375g

▲Schneider KREUZNACH SUPER-ANGULON 90mm F8

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると25mm前後のレンズに相当します。標準的な広角レンズよりも少し広めの感じでしょうか。
 シャッターは0番ですが、前玉と後玉大きいので実際に持ってみると見た目よりも重く感じます。
 フジノンにもSW90mm 1:8というレンズがありますが、仕様といい見た目といい、そして操作性も非常によく似ています。下の写真でもわかると思いますが、フジノンSW90mmの方が少し大きめです。

▲左:シュナイダー SUPER-ANGULON 90mm F8  右:フジノン SW90mm F8

 216mm(F22)というイメージサークルは、一般的な風景撮影においては特に支障があるようには感じませんが、建築物等を撮影する場合は不足に感じるかもしれません。同じスーパーアンギュロンで90mm F5.6というレンズがありますが、こちらはイメージサークルが235mm(F22)ありますので、アオリにも余裕があると思います。
 なお、216mmというイメージサークルは絞りF22の時の値であり、絞りを開くとイメージサークルも小さくなってしまいます。小さな絞り値でアオリ撮影をするときはケラレないように注意が必要です。

 また、このレンズをリンホフマスターテヒニカに装着して縦位置で撮影すると、マクロ撮影でもない限り、ベッドが写り込んでしまいますので、ベッドダウンするなどの注意が必要です。

広角系のレンズとしては使い易い画角

 私は広角系に分類される大判レンズとして、65mm、75mm、90mm、105mm、125mm(125mmは広角系ではなく標準系だという意見もあろうかと思いますが)の5本を持っていますが、この中では比較的、使用頻度が高い方だと思います。105mmの画角も使い易いのですが、私の持っているレンズはFUJINON CW105mm 1:5.6 で、イメージサークルに余裕がないので90mmの方が出番が多くなる感じです。

 4×5判で約82度という対角画角があります。35mm判カメラで焦点距離25mmのレンズというと、かなり広角のイメージがありますが、同じくらいの画角でも4×5判の場合は35mm判に比べると広角の度合いが弱まる感じがします。これはフィルムのアスペクト比(縦横比)の違いによるものかもしれません。
 風景を撮影しても十分に広い範囲が写るのですが、広角らしさがあまり強くなく、もう少し焦点距離の長いレンズで写したような感じを受けます。65mmレンズのように周辺が引っ張られる感じもありません。

 また、被写体まで引きがとれないような状況でも狙った対象範囲を写すことができるので、ワーキングディスタンスの自由度も高いと思います。
 さらに、広い画角を活かしてパースペクティブが強調された写真に仕上げることもできます。
 使い易いレンズの画角というのは人それぞれですが、私にとっては4×5判で撮影するときの82度という画角は結構しっくりしています。

 67判のロールフィルムホルダーを使用すると、35mm判カメラの45mmくらいの焦点距離のレンズと同じ画角になりますので、標準レンズとして使うこともできます。

シャープな写りと綺麗なボケ

 写りに関してはこれといった難点は感じられません。ディストーションも全くと言ってよいほど感じられませんし、解像度も高くコントラストも申し分なく、とてもシャープな写りをすると思います。カリカリとした硬さはまったくなく、好感の持てる硬さと言ったらよいのでしょうか、個人的には気に入っています。
 また、フジノンと比べるとごくわずかに暖色系の発色をします。これはアポジンマーでも同じような傾向があり、レンズコーティングの違いによるものではないかと思います。いずれにしても比べて初めて分かる、ごくわずかの違いです。

 焦点距離が90mmですので、それほど大きなボケを期待することはできませんが、アウトフォーカス部分のボケはとても綺麗です。ピントの合ったところからなだらかにボケていくという感じで、全体として奥行きの感じられる美しい描写をしてくれます。
 桜とか紅葉とかを撮る場合、絞り込んでパンフォーカスにもできますが、あまり絞り込まずに主役となる桜や紅葉にピントを合わせ、それ以外を緩やかにぼかすことで味わいのある感じに仕上がります。

スーパーアンギュロン 90mm F8で撮影した作例

 下の写真は福島県で撮った稲荷神社の桜です。

▲Linhof MasterTechnika 2000 Schneider SUPER-ANGULON 90mm F8 F32 1/8  PROVIA100F

 神社の境内は狭く、道路に面しているため、鳥居にかなり近づいて見上げるような位置で撮影しています。桜の木の大きさが損なわれないように、少しだけフロントライズのアオリをかけています。
 また、鳥居も桜の花もぼかしたくなかったのでF32まで絞り込んでいます。
 画面ではわからないかも知れませんが、塗料の剥げかかった鳥居の木目や桜の花弁一枚まで、見事に解像しています。

 手前の鳥居から奥にちょっとだけ見える社に上る石段までの距離は10メートルほどだと思うのですが、広角ならではのパースペクティブの効果で奥行きが感じられます。
 左上に少しだけ青空が見えていますが、全体としては雲が多めでしたので、空はできるだけ切り詰めました。
 雲のおかげで日差しも柔らかでしたので、桜の淡いピンク色が損なわれずにいると思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 シュナイダーのレンズの人気は相変わらず高いようで、中古市場でもあまり値崩れがなく高い価格で取引されているようですし、ネットオークションでも高い値がつけられています。シュナイダーのレンズに限らず、フジノンのレンズなども結構お高くて、大判写真を撮る人がそれほど増えているとも思えないのですが、中古レンズの価格が高くなっているという、なんとも不思議な現象が起きているような気がします。

(2021.10.8)

#シュナイダー #Schneider #レンズ描写

大判写真と35mm判写真は何がどのように違うのか

 私は風景を撮る機会が多いので、大判カメラ(主に4×5判)を使う頻度も高くなります。カメラはでかいし、撮影に手間がかかり著しく機動性に欠けるし、フィルムや現像などコストはかかるし、デメリットばかりが目立ってしまいがちですが、仕上がった大判写真の美しさや迫力は、数々のデメリットを補って余りある魅力があります。
 写真としての出来不出来は大判だろうが35mm判だろうが関係なく、大判だから良い写真が撮れるわけではありませんし、もちろん35mm判でも良い写真は撮れます。ですが、大判と35mm判とでは明らかに異なる点がいくつかあります。今回はその違いについて触れてみたいと思います。

フィルムサイズの違いとその影響

 35mm判と大判で最もわかり易い明確な違いは、言うまでもなく一目瞭然、フィルムのサイズです。実際に画像が記録される大きさは、

  35mm判 : 36mm × 24mm
  4×5判  : 121mm × 95mm

 で、面積比でいうと4×5判は35mm判の約13.3倍になります。
 アスペクト比(縦横比)が異なりますが、4×5判の対角の長さは35mm判の約3.56倍になります。

 フィルムをデジカメの撮像素子のような画素数で表現することはあまり意味があるとは思いませんが、比較をするうえで数値化したほうがわかり易いので、あえて画素数で表してみます。
 富士フィルムが公開しているデータシートによると、リバーサルフィルムVelviaの場合、解像力は80~160本/mmとなっています。コントラストが非常に低いときで80本/mm、高コントラスト時で160本/mmということですので、中間の値をとって120本/mmとして計算してみます。

 この「解像力」の意味ですが、120本/mmとは、1mmの幅の中に120本の線を識別できるということです。したがって、最低でも240画素以上が必要ということになります。
 この値をフィルムのサイズにかけ合わせると以下のようになります。

  35mm判 :  36mm × 240本/mm × 24mm × 240本/mm
       = 8,640dot × 5,760dot
       ≒ 4,977万画素

  4×5判 :  121mm × 240本/mm × 95mm × 240本/mm
       = 29,040dot × 22,800dot
       ≒ 6億6,211万画素

 では、この画素数の違いが、写真にとってどの程度の影響があるかということを試算してみます。35mm判と4×5判ではアスペクト比が違うので、横置きの場合の水平方向(長辺)を対象に進めます。

 いま、35mm判カメラに焦点距離50mmのレンズをつけて、5m先の被写体にピントを合わせることを想定してみます。水平方向の長さ36mmのフィルムに対して焦点距離50mmのレンズですので、水平画角は39.6度になります。
 4×5判のフィルムでこれと同じ水平画角となるレンズの焦点距離は168mmです。実際に168mmなどという中途半端な焦点距離のレンズはないと思いますが、便宜上、この値で話を進めます。
 下の図を参照してください。

 上の図から分かるように、5m先にある被写体を、水平画角39.6度でとらえた時、フィルムに写る水平方向の長さは3.6m(3,600mm)です。
 この3.6mを、35mm判では8,640dotで、4×5判では29,040dotで記録するわけですから、それぞれの分解能は以下のようになります。

  35mm判 : 3,600mm ÷ 8,640dot = 0.417mm/dot
  4×5判 : 3,600mm ÷ 29,040dot = 0.124mm/dot

 つまり、5m先にある被写体について、35mm判では最小で0.417mmまで識別でき、4×5判では最小で0.124mmまで識別できるということになります。言い換えると、35mm判が1ドットで記録される範囲を、4×5判は約3.36ドットで記録されるということです。
 これは、数値上からは5m先にいる人の指の指紋が識別できる解像度ですが、実際には指紋のコントラストはそんなに高くないと思いますので現実的には無理ではないかと思われます。

 また、色が変化しているような場合、4×5判の方が色の変化を滑らかに記録できることになります。35mm判で画素と画素の間の色の変化を、4×5判では3.36段階に分けて記録されるわけですから、滑らかさの違いは想像に難くないと思います。
 画素数が多いことで細部まで記録できるのはもちろんですが、写真を見た時に、35mm判に比べて4×5判で撮った写真の方が階調が豊かに感じられるのはこのような理由ではないかと思います。

 なお、実際にはレンズによっても左右されると思いますが、ここではレンズによる影響は考慮していません。

被写界深度の違いとその影響

 フィルムサイズ(画素数)の違いの次は被写界深度の違いです。
 上と同じ条件(35mm判に焦点距離50mmのレンズ、4×5判に焦点距離168mmのレンズをつけ、5m先の被写体を対象)のときの被写界深度を比較してみます。

 被写界深度の計算式(近似式)は以下の通りです。

  前側被写界深度 D₁ = a²εF / (f² + aεF)
  後側被写界深度 D₂ = a²εF / (f² - aεF)

 ここで、
  a :被写体までの距離[mm]
  ε:許容錯乱円[mm]
  F :絞り値
  f :レンズの焦点距離[mm]
 です。

 許容錯乱円は35mm判の場合、0.022~0.028mmの値が使われていることが多いようなので、ここでは中間の値の0.025mmを用いることにします。
 上の式に、a = 5,000、ε = 0.025、f = 50、および、f = 168、絞り値Fには大判レンズの開放値として多く採用されているF = 5.6をあてはめてみます。

 まず、35mm判、焦点距離50mmのレンズの場合です。

  前側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (50×50 + 5,000×0.025×5.6)
          = 1,094mm

  後側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (50×50 – 5,000×0.025×5.6)
          = 1,944mm

 続いて、4x5mm判、焦点距離168mmのレンズの場合です。

  前側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (168×168 + 5,000×0.025×5.6)
          = 121mm

  後側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (168×168 – 5,000×0.025×5.6)
          = 127mm

 この結果から分かるように、同じ絞り値F5.6の場合、35mm判(f=50mmレンズ)の被写界深度は3,038mmですが、4×5判(f=168mmレンズ)の被写界深度はわずか248mmしかありません(いずれも前側被写界深度と後側被写界深度を加算した値です)。

 ピントが合っているように見える範囲は、35mm判は4×5判の12倍以上あるわけですから、写真を見た時に明らかに違いが感じられます。4×5判ではピントの合っている範囲がごく一部であっても、35mm判だとかなり広範囲にピントが合っているように見えるはずです。この被写界深度の違いはフィルムサイズの違いによる影響よりもはるかに大きなインパクトを与えます。

 被写界深度は絞り値に影響を受けるので、4×5判(f=168mmレンズ)で35mm判(f=50mmレンズ)と同じだけの被写界深度を稼ぐには絞り値をどれくらいにすればよいかを計算してみます。

 上で示した被写界深度から絞り値Fを求めるように変形します。

  絞り値 F = ( (a²ε/D₁f²) - (aε/f²) )⁻¹

 この式に、35mm判(f=50mmレンズ)の前側被写界深度 D₁=1,094 を当てはめて計算すると、

  絞り値 F = ((5,000×5,000×0.025 / 1,094x168x168) – (5,000×0.025 / 168×168))⁻¹
       = 63.24

 となり、F64まで絞ると、35mm判(f=50mmレンズ)のF5.6とほぼ同じ被写界深度になることがわかります。

 なお、許容錯乱円の値を35mm判と同じ0.025mmを用いましたが、4×5判からプリントする場合は35mm判に比べて拡大率が低いので、一般には許容錯乱円の値も35mm判よりも大きな値(0.08~0.1)を使うことが多いようです。しかし、フィルム上での比較ということで、ここではあえて同じ値で計算しました。

 適当な作例がありませんが、ストックの中から探してきました。
 1枚目が4×5判に焦点距離210mmのレンズをつけて撮ったもの、2枚目がAPSサイズのデジカメで焦点距離40mm近辺で撮ったものです。

▲4×5判 210mm F8 1/30
▲APSサイズ 約40mm F8 1/20

 2枚のフレーミングは少しずれていますが、おおよそ同じ位置から撮っています。ツツジまでの距離は4~5mといったところです。絞り値はいずれもF8で、4×5判で210mmレンズと、APSサイズで40mmレンズの画角はほぼ同じです。
 風が強くてかなり被写体ブレを起こしていますが、今回はそこは無視してください。

 4×5判の方は後方の白樺の木がほとんどボケていますが、デジカメの方はかなり後方まで鮮明に写っているのがわかると思います。
 同じ被写体、同じ構図ですが、写真を見たイメージはずいぶん違うと思います。

ボケの大きさの違いとその影響

 3点目の違いはボケの大きです。ここでいうボケとは、ピントが合っていないところのボケの大きさをいいます。
 ここでも上と同じ条件(35mm判に焦点距離50mmのレンズ、4×5判に焦点距離168mmのレンズをつけ、5m先の被写体を対象)のときに、無限遠のボケの大きさがどれくらい異なるのかを試算してみます。

 まず、ボケの大きさはレンズの絞り値によって決まります。
 レンズの焦点距離 f、絞り値 F、そして有効径 Dの間には次のような関係式が成り立ちます。

  絞り値 F = f/D

 よって、レンズの有効径は、

  有効径D = f/F

 上の式に、焦点距離50mm、および168mm、絞り値5.6をあてはめてレンズの有効径を求めると、

  50mmレンズの有効径 = 50 / 5.6
            = 8.928mm

  168mmレンズの有効径 = 168 / 5.6
             = 30mm

 となります。

 これを図に表すとこうなります。

 上の図で、ピントの合っていないところがボケの大きさを表すことになるわけですが、絞り値が等しければ光軸に平行に入ってきた無限遠光は同じところに焦点を結ぶので、ボケの大きさも等しくなります。

 では、この状態から5m先の被写体にピントを合わせた場合のレンズの位置を計算してみます。

 レンズの焦点距離 f、レンズから被写体までの距離 a、レンズから撮像面までの距離 bの間には次のような関係があります。

  1/a + 1/b = 1/f

 よって、

  1/b = 1/f - 1/a

 この式に、a = 5,000、f = 50、および、f = 168 をあてはめると、

  50mmレンズ 1/b = 1/50 – 1/5,000
        b = 50.505mm

  168mmレンズ 1/b = 1/168 – 1/5,000
        b = 173,841mm

 となります。
 すなわち、無限遠からの繰出し量が50mmレンズの場合は0.505mm、168mmレンズだと5.841mmということです。
 レンズが前に繰り出した分、無限遠はボケることになります。

 次に、無限遠のボケ径は次の式で求められます。

  ∞ボケ径 d = F²/F(a - f)

 この式に、絞り値 F = 5.6、被写体までの距離 a = 5,000、焦点距離 f = 50、および、f = 168 をあてはめると、

  50mmレンズ∞ボケ径 = 50×50 / 5.6x(5,000 – 50)
            = 0.090mm

  168mmレンズ ∞ボケ径 = 168×168 / 5.6(5,000 – 168)
             = 1.043mm

 となり、5m先にピントを合わせた時の無限遠のボケの大きさは、35mm判(f=50mmレンズ)に対して4×5判(f=168mmレンズ)は約11.6倍にもなります。これは被写界深度の違いと同様で、写真を見た時に35mm判と4×5判では明らかに印象が異なります。同じ画角で同じ範囲を写しても、35mm判に比べて4×5判の方が急激に、しかも大きくボケていくことがわかります。

 では、焦点距離168mmのレンズの無限遠のボケ径が、50mmレンズと同じ大きさ(0.09mm)になるにはどれくらいまで絞ればよいかを計算してみます。

 上の式から、絞り値 F は次のように求めることができます。

  絞り F = f²/ d(a - f)

 ここにそれぞれの値をあてはめると、

  絞り F = 168×168 / 0.09x(5,000 – 168)
      = 64.9

 となり、およそF64まで絞ると50mmレンズのボケ径とほぼ同じになることがわかります。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 このように、4×5判で撮影した写真は、撮像面の大きさによる画像の鮮明さや階調の豊かさに加え、被写界深度の違いやボケの大きさの違いによって、同じ範囲を写した写真でも35mm判の写真とは全くイメージの異なる画になります。
 どの範囲にピントを合わせ、どのようにボケを取り入れるかなどは作画意図によって変わってきますが、大判写真というのは豊かな階調やボケの大きさなどの要素が合わさり、非常に奥行きのある画になるという特徴があると思います。

 一方で、被写界深度が深ければピントの合う範囲が広いので、全体として締まりのある感じになるでしょうし、浅ければ被写界深度を稼ぐために苦労するかもしれませんが、その反面、主張したいところだけを浮かび上がらせることができます。どちらがより良いということではなく、35mm判なり4×5判なり、それぞれの特性を活かした作画をすべきなんだろうと思います。

 また、今回は35mm判と4×5判が同じ画角になるようにそれぞれ、50mm、168mmの焦点距離のレンズで試算しましたが、35mm判のカメラに168mmの焦点距離のレンズを付けても被写界深度やボケの大きさに関しては4×5判で計算した値と同じになります。
 ただし、写る範囲がぐっと狭まりますので、出来上がる写真のイメージはまったく違うものになります。

 大判写真というのは単にフィルムが大きいので綺麗に写るということだけでなく、35mm判とは大きく異なる要素がいくつかあります。そういったことを理解したうえで構図をどうするか、どのように撮影するかということを考えるのも大判写真の楽しさかもしれません。

(2021年8月22日)

#レンズ描写 #写真観

レンズの「小絞りボケ」と大判カメラによる撮影の関係について

 カメラのレンズは絞るにつれて回折現象によって解像度が落ちていくというのは良く知られた話ですが、一方で、絞らなければ被写界深度が浅く、全体にピントが合った写真になりにくいというトレードオフのような関係になってしまいます。
 実際に、絞ることによってどれほど写真に影響があるのかを検証してみました。
 なお、レンズの性能を評価したり、それを論ずることが目的ではなく、あくまでも写真に与える影響にフォーカスしていますので、予めご承知おきください。

光の回折とエアリーディスク

 ある一点から出た光はレンズを通った後、撮像面に到達した光は一点に集まらず、円盤状に少し広がってしまいます。平行に進行する光が障害物に出会ったとき、障害物の裏側(影の部分)に回り込んでしまう現象で、「光の回折」と呼ばれています。これはレンズの収差をゼロにしても光が持つ波としての性質上、どうしようもないことのようです。

 この広がった光によって描かれる円を「エアリーディスク」と呼んでいます。エアリーディスクについて検索すると、下のような図がたくさん出てきます。

 エアリーディスクの大きさは次の式によって求めることができます。

  d = 2.44λF

 ここで、λは光の波長、Fは絞り値です。
 つまり、光の波長が一定であれば、エアリーディスクの大きさはレンズの絞り値によって決まるということになります(光の回折やエアリーディスクに関する学術的なことはここでは触れませんので、ご了承ください)。

 この式からも、絞り値が大きくなればエアリーディスクの直径も大きくなることがわかります。
 エアリーディスクは、本来は点でなければならない光が広がってしまうわけですから、当然、画像も劣化してしまいます。

 実際に上の式を使ってエアリーディスクの大きさを計算してみます。
 光の波長を450nm(0.45μm)、レンズの絞り値をF4とすると、

  d = 2.44 × 0.45 × 4
    = 4.392μm

 となります。 

 この条件下においては点像の直径を4.392μmより小さくすることはできません。すなわち、撮像面において、4.392μm以下の大きさは識別できないことになります。

 これは、1,800万画素ほどのAPS-Cサイズの撮像素子の1画素とほぼ同じ大きさです。
 F4よりも絞るとエアリーディスクの直径は大きくなり、1画素の大きさを上回ってしまいます。

▲シュナイダー アポジンマー 150mm 1:5.6

絞り値による画質への影響

 では、実際に絞り値によってどの程度、画質に影響が出るのかを確認してみます。

 私は大判カメラを使うことが多いので、シュナイダーのアポジンマー150mmという大判用のレンズで試してみます。このレンズの絞りはF5.6~64までありますので、まずは、1段ごとのエアリーディスクの大きさを上の式にあてはめて計算してみます。
 光の波長は450nmとします。

  F5.6 : d = 2.44 × 0.45 × 5.6 =  6.149μm
  F8  : d = 2.44 × 0.45 × 8  =  8.784μm
  F11  : d = 2.44 × 0.45 × 11 = 12.078μm
  F16  : d = 2.44 × 0.45 × 16 = 17.568μm
  F22  : d = 2.44 × 0.45 × 22 = 24.156μm
  F32  : d = 2.44 × 0.45 × 32 = 35.136μm
  F45  : d = 2.44 × 0.45 × 45 = 49.410μm
  F64  : d = 2.44 × 0.45 × 64 = 70.272μm

 実際の撮影は被写界深度の影響を受けない方がわかり易いだろうと思い、奥行きのない平面的な被写体をということで腕時計の広告を使いました。
 カメラを水平にし、広告面とカメラの撮像面を極力平行に保って撮影したのが下の写真です。

▲テストチャート代わりの腕時計の広告

 この状態で、レンズの絞りをF5.6~64まで変えて8枚を撮影しました。
 そして、中心部のあたりを拡大したものが下の写真です。

▲F5.6
▲F8
▲F11
▲F16
▲F22
▲F32
▲F45
▲F64

 上の写真でわかるように、絞ることで画質が低下していくのが明らかです。F16までは画質の低下もごくわずかですが、F22からは画質の低下が顕著に感じられます。F64まで絞るとかなり甘い描写になっています。

小絞りによる画質低下と写真の関係

 絞ることで画質の低下が生じることは明確ですが、では、それがどこにどのような影響を及ぼすのかというと、いろいろな見解があると思います。
 とにかく解像度至上主義のような方にとっては、いかに解像度を高めるかということや、機材によって解像度がどれくらい違うのかということが重要だと思いますし、レンズの評価を解像度で行なう方にとっても避けては通れないことだと思います。

 私も、レンズの解像度は低いよりは高い方が望ましいとは思っていますが、「写真」というものをどうとらえるかによって、解像度の持つ意味は変わってくると思います。
 私は機材を評価するレビューアーや技術者でもありませんので、機材性能の重要さは十分に認識していますが、それよりも、それによって生み出される「写真」そのものに重きを置いています。ですので、絞れば画質が低下することは承知の上で、目いっぱい絞って撮影することもあります。それは、写真をどのように表現したいかということによって変わるものだと思っています。

 どれだけ鮮鋭な写真を撮るかということも重要な要素だと思いますが、私はその場にいた自分の感覚とか感情を、写真を通してどう表現するかということに重きを置いています。
 例えば、パンフォーカスの風景写真を撮りたい場合など、小絞りによる画質の低下は承知しながらF45とかに絞って撮ることもあるわけで、何を表現し何を訴求したいかによって、どのように撮るかが決まってくるのではないかと思っています。

 とはいえ、画質の低下は放っておけない課題ではあるので、どのように折り合いをつけるのかについて考えてみたいと思います。

 撮った写真をどのように扱うかは様々だと思いますが、私の場合は、フィルムカメラで撮影した写真を四切から全紙くらいに引き伸ばして額装するというスタイルです。撮影した写真をパソコンの画面で等倍以上に拡大して、解像度がどうのということを論ずる使い方をするわけではありませんが、やはり、全紙に引き伸ばしたときに、あまり顕著な画質の低下は避けたいと思っています。

 では、それはどのような状態なのかということを、論理的に検証してみたいと思います。

プリントに許容される絞り値は?

 額装した写真というのは人間が目で見るわけですから、その状態で違和感なく、綺麗に見えることが求められます。では、それはどのような状態なのかを検証してみたいと思います。

 まず調べてみたところ、人間の目の分解能は視野角で1/120度(0.5分)くらいが限界とのことです。これがどれくらいの分解能かというと、1mの距離から、0.145mm離れた2つの点を識別できるということです。
 この人間の持っている目の分解能で、全紙に引き伸ばした写真を見たときのことを想定してみます。
 全紙の大きさは560mm×457mmです。この写真を1.5m離れたところから見た場合、人間の目の分解能で識別できるのは0.218mmとなります。

 では、4×5フィルムから全紙にするにはどれくらい引き伸ばせばよいかというと、短辺の比率で計算すると、4×5フィルムの短辺の長さは102mmですから、
  457 ÷ 102 = 4.48
 となり、約4.5倍ということになります。
 全紙大で0.218mmの分解能なので、4×5判のフィルム上では1/4.48、すなわち、
  0.218 ÷ 4.48 = 0.0487
 となり、0.0487mmの点像が識別できることが求められます。これは、F45に絞ったときの状態に近い値です。

 これらのことから、大判(4×5判)カメラで撮影した写真を全紙大に引き伸ばし、1.5m離れたところから見る場合、F45まで絞っても特に画質の低下を感じることなく、写真を観賞できるということになります。

 しかし、実際にはこれよりも小さな値、できれば半分くらいの値である0.024mm以下が望ましいと思われます。上でエアリーディスクの計算をしましたが、0.024mm(24μm)ということは、絞りF22のときとほぼ等しいということです。

 もちろん、中判カメラや35mm判カメラであれば全紙大までの拡大率が異なりますので状況は異なります。フィルムの面積が大きいほど、プリントの際の拡大率は小さくて済みますので、エアリーディスクの影響は少なくて済みます。

 念のためにつけ加えておきますが、これらはすべて理論的な話しであって、実際の撮影対象(被写体)や撮影条件によって大きく変わってくるので、それほど単純な話ではないと思っています。ですが、一つの目安にはなると思います。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 レンズの絞りを絞るほど画質が劣化するのは紛れもない事実ですが、撮影した写真をどのように使うかによって状況は変わります。
 パソコンの画面で画素レベルまで拡大して解像度を論じるのと、写真をプリントして観賞するのとでは全く異なります。エアリーディスクによる画質の低下を認識したうえで、作画意図に応じて撮影条件を使い分けるということが重要かと思います。

(2021.7.12)

#レンズ描写 #絞り