中国製の「上海」というブランドのフィルムの存在は知っていたのですが、実際に使ったことはもちろん、使おうと思ったことはこれまで一度もありませんでした。しかし、ブローニーの220サイズのフィルムを今でも製造しているということでちょっと気にはなっていました。
220フィルムをほとんど見かけることがなくなってしまった昨今、興味本位でGP3(ISO100)の220サイズを2本だけ購入してみました。どんな写りをするのか、試し撮りをしてきたのでご紹介します。
上海 SHANGHAI GP3 100 というフィルム
このフィルムに関する知識がほとんどなかったので少し調べてみたところ、「上海建城テクノロジー」という会社が製造販売しているとのこと。もともとこの会社は1958年に設立された国営の映画会社だったようです。OEMとしてフィルム提供もしているようで、もしかしたら、この会社のフィルムが違うブランドで売られているのかも知れません。
私が購入した時、220サイズのフィルム1本の価格は1,800円(税込)でした。
数年前には220のモノクロフィルム1本が1,800円なんて考えられなかったのですが、フィルム価格が高騰している今では金銭感覚がマヒしてしまって安く感じられるので、慣れとは恐ろしいものです。
イルフォードのDELTA100に似た色の使い方をした箱のデザインですが、漢字で書かれた「上海」の文字が異彩を放っています。
箱が封印されていないことと、フィルムをとめてあるテープの糊が強力で剥がしにくいことを除けば、一般に出回っているブローニーフィルムと外観上の大差はありません。
また、リーダーペーパーの先端には富士フイルムの製品に見られるような丸い穴が開いていて、スプールの突起に引っ掛けるようになっています。これはスプールが空回りするのを防ぐことができるので便利です。
現像液はコダックのD-76を使用
一般に出回っている現像液であれば特に問題なく使えそうだったので、今回は手元にあったコダックのD-76を使用しました。現像に関するデータを調べてみたところ、D-76の原液を使用した場合、20度で9分となっていましたのでそれに準じました。
停止液、定着液はいずれも富士フイルムの製品(富士酢酸、スーパーフジックス)を使用しました。
フィルムを触った印象はやや硬めでしっかり感があります。イルフォードのフィルムと似た印象ですが、イルフォードよりも若干カールが強いように感じました。
現像後のフィルムベースはわずかに青みがかった色をしています。
また、普通のフィルムに見られるようなメーカー名やフィルム名、コマ番号などは一切入っていません。記録しておかないと、どのフィルムで撮影したのかわからなくなってしまいそうです。
乾燥させてもフィルムのカールは強くて、スリーブに入れるため3コマずつにカットしても手を離すとくるんと丸まってしまいます。スリーブに入れてもスリーブ全体が湾曲するくらいですから、かなり強力です。
下の写真はネガをライトボックスに乗せて撮影したものです。
現像後のネガを見ると、黒(ネガでは白い部分)が引き締まった印象を受けます。黒からグレー、そして白へとなだらかに変化していくというよりは、黒は黒、白は白、といった感じのネガです。ちょっと硬いというか、パキッとした感じがします。
上海 SHANGHAI GP3 ISO100の写り
今回、初めて使うGP3フィルムの試し撮りということで、新宿の東京都庁周辺を撮影してきました。使用したカメラはMamiya 6 MF、レンズは75mmと150mmです。
都庁周辺は高層ビルが林立していたり、たくさんのブロンズ像やオブジェがあるので、試し撮りをするにはうってつけのスポットです。
一枚目は都庁の都民広場にあるブロンズ像の一つ、「早蕨」です。
都民広場は東側に都議会議事堂があるため、午前中はこの建物の影になってしまい、ここにあるブロンズ像には陽があたりません。コントラストがあまり高くない状態で撮影するには午前中がお勧めです。
上の写真は、ブロンズ像に陽があたり始めた時間帯に撮ったもので、南側(写真では右側)から陽が差しており、それによって像にも明暗差が出ている状態です。像の右側が白く光って立体感が出ています。全体のコントラストはそれほど高くなく、無難な光線状態といった感じでしょうか。
背景となるビルの壁面などが非常に近いところにあるので主被写体が埋もれがちになっていますが、コントラストが高く表現されているので、壁面の模様からは浮かび上がっている感じです。
画全体から受ける印象は、メリハリがあり、黒もそこそこ締まった感じがします。ベタッとつぶれることもなく像の質感も十分に感じられる仕上がりだと思います。
ですが、解像度がちょっと荒いというか、ざらついた感じがします。
顔のあたりを部分拡大したのが下の写真です。
やはり解像度が荒く、ざらついた感じがします。
次の写真は、同じく都民広場にあるブロンズ像の「はばたき」です。
背景は陽があたって白く輝いている高層ビルです。
像には全く陽があたっていないので黒く落ち込んでいます。背景との明暗差が大きいのでシルエットに近い状態ですが、完全なシルエットにするのではなく、顔の表情がわかるくらいにしています。
解像度としてはまずまずといった感じで決して悪くはないのですが、やはり黒がボヤっとした印象になっています。ですが、像も真っ黒につぶれてしまうこともなく、顔の表情もはっきりとわかるくらいですから、階調表現としても悪くはないと思います。
ブロンズ像の3枚目は逆光状態で撮影したものです。
左上から像に光があたっている状態で、それを背後から撮影しています。背景の都庁のビルは日陰になっているのでトーンが落ち込んでいます。
像の左側のコントラストが高く、肩や顔の辺りは白く飛び気味、逆に陰になった部分は黒くつぶれているので全体的にとても硬い感じがします。金属の質感が出ているという見方もできるかもしれませんが、このような状況下にはあまり向いていないフィルムのようにも思えます。
また、焦点距離150mmのレンズで撮っていますが、背景の都庁ビルが思ったほどボケてくれず、像の浮かび上がりが不足している感じです。もう少し短いレンズで像に寄って撮影したほうが良かったかもしれません。
4枚目は都民広場を見下ろす位置から撮影したものです。
画の右側から太陽光が差し込み、都民広場の地面に濃淡のパターンが描かれている状態を撮りました。カラーコーンがぽつんと置かれていたのでそれを入れてみました。
陰になっている部分はかなり暗いのですが、つぶれてしまうことなく地面に敷かれたタイルがしっかりと識別できます。一方、ハイライト部分、特にカラーコーンなどは立体感が失われるほど白飛びしています。
全体的に解像度が極端に悪いという感じはしませんが、明部の階調は良くありません。
もう一枚、都庁の第一庁舎と第二庁舎の間にある「水の神殿」というオブジェを撮ったものです。
池のように水が張ってあり、その水面に映ったビル群を撮影しています。
このオブジェのある辺りは高いビルに遮られて日陰になっており、水面が暗く落ち込んでいるので向こうにあるビルがくっきりと映っています。風もほとんどなかったので水面が波立つこともなく、まるで鏡のようです。
全体的に落ち着いた感じのトーンであり、このような状況下では比較的よい写りをしていると思います。黒もそこそこ締まっていながらつぶれることなく表現できているのではないかと思います。
ちょうど1年ほど前、ほぼ同じ位置から富士フイルムのACROSⅡで撮影した写真があったので比較のために掲載します。
こうして比較してみると、明らかにACROSⅡの方が解像度も高く、滑らかな印象になっているのがわかると思います。
黒の締まりはGP3の方が高く、メリハリのある写真に仕上がっていますが、ACROSⅡの方は細部にわたって表現されていながら、全体として柔らかさが感じられます。
ただし、現像条件が同じでないので、それによる影響も含まれている可能性はあります。
どちらの表現が良いかは好みでしょうが、フィルムのクオリティとしてはACROSⅡの方が高いと思います。
GP3の印象としては、黒のグラデーションも比較的きれいに表現できるフィルムといった感じです。反面、オーバー気味の露出にはあまり強くないという感じがします。
また、解像度も決して悪くはありませんが、特別良いというわけでもなく、そのあたりの癖を把握しておけば十分に使えるフィルムだと思います。
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今でも220サイズのフィルムが供給されているということは、それだけで何だか貴重な存在にも感じられます。敢えて220フィルムを使う理由もありませんが、1本で倍のコマが撮れるメリットは大きいと思います。
今回、2本購入したのでもう1本残っていますが、積極的に使いたいというわけでもなく、かといって使わずに冷蔵庫に入れたままにしておくのももったいないので、試しにリバーサル現像をしてみようかと思っています。リバーサル現像しても大きな違いが出るとは思えませんが、ひょっとしたら何か発見があるやも知れません。結果が出たらご紹介したいと思います。
(2023.1.1)