東京には中古カメラ店がたくさんあるように思っています。人口も多いので、人口当たりの店舗数という見方をすると本当に多いのかどうか定かではありませんが、店舗の絶対数だけを見ると多いのではないかと思います。新宿駅の周辺、新橋、銀座界隈、秋葉原から御徒町、上野の一帯などは特に中古カメラ店がたくさん集まっている地域です。
これらの地域以外でもそこまで数は多くないにしろ、中古カメラ店はたくさん存在しており、一つの街に1店舗はあるのではないかと思えるほどです。フィルムカメラの衰退とともに閉めてしまった中古カメラ店もたくさんあるのですが、最近になって新たに開店するお店もあったりして、フィルム全盛期に比べると確実に需要は落ちていると思われるのですが、根強い人気があるのも事実のように思えます。
とはいえ、時代の流れとともにいろいろなことが変化していくので、お店の側からすると、これらに対応していくのも大変なようです。
上野の隣に御徒町(おかちまち)というところがあります。江戸時代は馬に乗ることを許されていない下級武士、すなわち御徒(おかち)と呼ばれる武士たちがたくさん住んでいたことが名前の由来のようです。
この御徒町一帯も中古カメラ屋さんが何件かあるのですが、その中の一件、かつては新橋の駅前で営業していた中古カメラ屋さんが、20年ほど前に御徒町に移転したお店があります。
決して大きなお店ではありませんが、大判カメラや大判レンズ、細かなパーツなども扱っていて、私も訪れる頻度が比較的多いお店でした。しかも、基本的には修理や調整したものを販売するというスタイルで、それゆえ、信頼のおけるお店という印象がありました。
ところが昨年(2023年)の秋、突然、個人客向けの販売を辞めてしまいました。それまでは実店舗での販売はもちろん、ネット通販も積極的に行なっていたのですが、現在は買取専門、そして業者向けの販売卸専門になってしまいました。
同店のサイトを見るとその経緯が掲載されていますが、その理由の多くは、購入した商品の正しい使い方をせずに壊してしまったにもかかわらず、その修理費用をお店に負担させたとか、現状渡しと記載している商品を購入したにも拘らず、不良品だとして整備済のものを要望された、あるいは、注文後、出荷直前になってキャンセルされた等々、ということのようです。
また、それらに関して、ネット上に罵詈雑言のように書き込まれてしまったということもあったようです。
このようなことがどれくらいの件数発生していたのかはわかりませんが、昔であればほとんど発生することはなかったのではないかと思われます。私のような部外者がとやかく言うつもりはありませんが、いろいろなことが変化してきたことの影響かも知れません。70年続いてきた中古カメラ店がそのスタイルを大転換しなければならないほどのインパクトがあったのだということが想像できます。
この中古カメラ店も会社自体を閉めてしまったわけではないので、いつの日か、以前のように個人向けの販売事業を再開してくれることを願っています。
私が比較的よく行くのは新宿駅周辺にある中古カメラ店です。自宅から地理的に近いというのありますが、中古カメラやレンズを物色するのに私のスタイルに合ったお店があるというのが大きな理由です。
中でも私が好んでいくお店は、置いてある商品のほとんどがフィルムカメラやそれ用のレンズで、さほど広くない店内には数えきれないカメラやレンズが所狭しと置かれていて、まるでカオスのような状態(失礼)です。ガラスの扉のついた陳列棚に並べてはあるのですが、置ききれないため、カメラの上にカメラを2段にも3段にも重ねて置いてある状態で、下の方や棚の奥の方には何があるのかさっぱりわからないといった具合です。
また、カメラやレンズに限らず小物やパーツ類も豊富で、お店の人に探し物を伝えると、何段にも重ねてある箱から一つを取り出し、持ってきてくれます。どこに何があるか、お店の人はすべて頭に入っているようです。
一見、雑然としているようですが、たくさんの宝物が埋まっているような気がして、あてもなくふらりと入ってもワクワクするようなお店です。
そんな中古カメラ店ですが、一昔前と比べるとずいぶん様子が変わってきている感じがします。
まずは、何といっても近年、在庫(商品)の数が格段に増えてきているということです。上でも書いたように、陳列棚の中は商品が積み重なった状態で、それでも入りきらないため、箱に入れられて通路に置かれているといった状態です。個人的な感覚ですが、以前に比べて倍以上に増えているのではないかと思います。デジタルカメラが普及したことで、使われなくなったフィルムカメラがこのような中古カメラ店に集まってくるのかも知れません。
しかし、集まってくるのは歓迎すべきことかもしれませんが、出ていく数、すなわち売れる数は増えているようには思えません。売れる数も同じように増えれば、これほど急激に在庫が増加するとは思えないからです。たくさん在庫があるというのは、お店を訪れる客にとってはありがたいことですが、商売が成り立つのだろうかと要らぬ心配をしてしまいます。
そして、もう一つ変わったと思うのが訪れる客層です。
以前は、このようなタイプの中古カメラ店を訪れる客はおっさんと相場が決まっていましたが、最近は若い女性と外国人の客がとても目立ちます。といっても、店内が混雑するほど押し寄せるわけではありませんが、数人の客しかいない店内で若い女性や外国人の姿はとても目立ちます。私の場合、そう頻繁に通っているわけではないので、たまたま訪れたときに若い女性や外国人の客がいたという可能性もありますが、訪れるたびにそのような光景を目にするということは、偶然とも言い切れない気がします。
狭い店内なので客とお店の人との会話が聞くともなく耳に入ってくるのですが、若い女性客の場合、フィルムカメラに精通しているというよりは、これからフィルムカメラを始めたいので手ごろなカメラを探しているといった感じです。お店の人にあれこれと相談しながら、カメラを探しているのだと思います。
一方、外国人客の場合はちょっと様子が異なっていて、いくつかお目当てのカメラやレンズがあるようで、それを探しているらしく、やはり、お店の人にあれこれと質問をしながらカメラを見せてもらっています。
このように訪れる客層が変わるとお店の方の対応も変えざるを得ないのでしょうが、以前は客が来てもレジのところに腰を下ろしたままひたすら自分の仕事をしていましたが、若い女性客や外国人客に質問責めにされると対応しないわけにもいかず、客の要望に応えるべく、とても忙しそうに店内を飛び回っています。私も気になった商品を見つけた時や、探している商品があるときはお店の方に声をかけるのですが、このように忙しく対応している様子を見ると声をかけるのを躊躇ってしまいます。
一昔前には想像もできない光景が繰り広げられており、これも時の流れや時代の変化の産物だと思わずにはいられません。
ここ数年で老舗ともいえる中古カメラ店が何店舗も閉店に追い込まれていますが、反面、新たにオープンした中古カメラ店もたくさんありますし、リニューアルをした店舗もあります。
そんな中でとてもユニークなお店が秋葉原にあります。秋葉原の駅前を昭和通りという大きな幹線道路が通っていますが、この通りに面したところにあるお店で、20年以上にわたり営業を続けている中古カメラ店です。
このお店、夜になると1階の店舗がバー(飲み屋)になるという驚きの中古カメラ屋さんです。なんでも店長さんがお酒好きなことから始めたバーらしいですが、接客も店長さん自らが行なわれるようです。私もこの中古カメラ店には年に数回ほど行きますが、残念ながらバーに入ったことはありません。店長さんや店員さんはもちろん、訪れるお客さんもカメラ好きでしょうから、カメラやレンズを肴にお酒を飲んでいるであろうことは想像でき、ちょっとうらやましく感じます。カメラやレンズを売るだけでなく、人々が集う場所、サロンのような場所を提供するという試みかも知れません。
そういえば、昔の街中にあった中古カメラ店の多くは店内にソファーが置かれていて、ここでお店の人と客がお茶を飲みながらカメラ談義をしている、という光景をよく見かけました。中には何も買わずにお茶だけ飲んで帰っていく客も多かったようですが、そういった人とのつながりを大切にすることが見直されているようにも思えます。
数年前、全国にチェーン展開をしているカメラや写真用品を扱っている大手販売店が、新宿に大きな店舗をオープンしました。中古カメラだけでなく新品のカメラやレンズ、アクセサリー、時計など、幅広い商品を扱うお店ですが、店内がとてもスタイリッシュなデザインで、それまでの中古カメラ店のイメージを一新したという感じです。常時、5,000点以上はあると言われているカメラやレンズが整然と陳列されていて、とても見易く、そして探し易くなっています。
また、商品に関する説明もしっかりされていたり、店員さんの対応も丁寧であったり、中古品といえども安心して購入できるということも大きな理由ではないかと思うのですが、若い人や女性客がとても多く訪れています。
このお店に影響されたのかどうかはわかりませんが、ここ数年の間に新規にオープンした中古カメラ店は、押しなべてお洒落でスタイリッシュにデザインされた店内という印象を受けます。所狭しと無造作に並べられているのではなく、整理され、整然と並んでいる姿を見ると、中古カメラ店のありようが大きく変わりつつあるというのを実感します。
私などは古い人間なので、このようなお洒落なお店よりも昔ながらの混沌としたお店の方が落ち着くのですが、やはり世の中の多くの人は、今風の洗練されたお店を好むのは自明の理です。必ずしも高級志向というわけではないのでしょうが、同じものを買うにしてもスマートに行ないたいというのは人情かも知れません。
一口に中古カメラ店といっても店舗の大きさもビジネス(商売)のやり方も様々ですが、私が以前から、ちょっと一線を画していると感じていた中古カメラ店が銀座にあります。
銀座周辺の中古カメラ店というのはどちらかというと高級志向的な雰囲気の漂っているところが多いのですが、中でも銀座5丁目の中央通りに面したところに店舗を構えている中古カメラ店は、新品と見紛うような程度の良い商品ばかり、しかも、とてもレアなものがたくさん並べられています。お店に入った時の空気もちょっと違うぞという感じで、店員さんもパリッとしたスーツを着ており、冷やかしで入るのは気が引けてしまうように思えるほどです。
銀座という一等地に店舗を構えていることもあるのかもしれませんが、結構な高額のついた商品ばかりで、私などはおいそれと購入することができません。もうずいぶん昔になりますが、どうしても欲しいレンズがあり、一度だけこのお店で購入したことがあります。店員さんの対応もすこぶる丁寧で、まるで宝石でも購入しているのではないかと錯覚するほどでした。
それにしても、これほど程度の良いレアものをたくさん集められるものだと、常々感心させられています。
フィルムカメラに興味をもつ若い人が増えているという話しも聞きますが、実際に販売される台数はデジタルカメラに比べたら誤差の範囲ではないかと思います。
しかしながら、多くの中古カメラ店はフィルムカメラを扱っていて、経営的には決して楽ではないと思われるのですが、特色を出したり工夫をしながら継続をしてくださっていることを本当にありがたく思います。
フィルムカメラを使う人は非常に少ないとはいえ、新しいフィルムカメラが製造されていないに等しい今ですから、かえって市場に出回る中古品の数が増えているのかも知れません。実店舗を持たずにネット販売に特化しているところもたくさんありますし、今の時代、実店舗があっても並行してネット対応もしていかなければならず、中古カメラ店を運営していくことはいろいろと大変な時代だろうと想像がつきます。しかし、実際に実物を見て手にすることができる中古カメラ店は代えがたい存在であり、その価値はとても大きいと思っています。
(2024.2.21)