第210話 写真にタイトルをつける(3) 主題からタイトルをつける「こぼうし流」

 以前、第99話と第100話で写真にタイトルをつけるということについて触れたことがあります。その中で、写真はタイトルをつけて完成するという持論を私は持っているということも書きました。また、私は自然風景や花を主な被写体にしているということにも触れ、あくまでも私流ではありますが、どのようにタイトルをつけているかということもご紹介させていただきました。もし、ご興味のある方は下記のページをご覧ください。

  「第99話 写真にタイトルをつける(1) タイトルがもたらす効果
  「第100話 写真にタイトルをつける(2) タイトルをつけるときの視点

 第100話で、主に風景写真や花の写真を対象にタイトルをつける手法の一つとして、「主題からタイトルつける」ということに言及していますが、これは私がタイトルをつける際にもっとも多く使っている方法で、今回はこれをさらにブレークダウンしてみたいと思います。
 主題をどうとらえるかはその人の感性によるところが大きいと思うので千差万別といった感じもしますし、私自身も明確に定義できているわけでもありませんが、その中から私にとって使用頻度の高い5項目に絞ってご紹介します。

 誤解のないようあらかじめお断りしておきますが、あくまでも私流のやり方であって世間一般に通用していることを保証するものではありません。また、スナップ写真などには当てはまらない場合も多いと思いますので、それらの点についてご承知おきください。
 タイトルのつけ方に決まりのようなものがあるわけではなく、その人なりに自由な方法でやるべきだと思っていますが、私はこんな方法でやっていますということのご紹介程度と受け止めていただければと思います。

その1:自然の摂理や営み、環境などを主題としたタイトル

 自然風景を対象に撮影に臨んでいると、自然界のふるまいのようなものに気づいたり驚いたり、あるいは感動したりすることがあります。それらはあたりまえ過ぎて普段は気がつかなかったり、自然界の時間軸がゆっくりであるがゆえに認識できなかったり、理由は様々ですが、ふとした時にそれらを感じたり気づいたりすると、人知の及ばない大自然の偉大さとか不思議さというものに接したような気持ちになります。
 自然の摂理というようなものであったり、何億年、何十億年という悠遠に繰り返されてきた営みであったり、そういったものを感じたとしたら、それはその場所を撮影し、写真にする際の主題となりうると思います。
 端正な姿の富士山や連なる山並み、きらめく海原などは美しい写真として仕上げることはそれほど難しくはありませんが、美しいだけで終わってしまっては少々もったいないわけで、その美しい景色の中に自然の摂理や大自然の営みといったものを感じ取り、それをタイトルにするだけで写真の持つ重みはずいぶん変わってくると思っています。

 下の写真はニッコウキスゲの大群落で有名な夏の信州霧ケ峰高原で撮影したものです。東の稜線から太陽が昇ってきて、半分ほど顔を出したタイミングでシャッターを切りました。ニッコウキスゲをはじめ、たくさんの花が咲いているお花畑越しの朝陽を撮ったものです。

「約束の光」

 この写真につけたタイトルは「約束の光」です。
 朝陽で東の空や雲が赤く染まったり、太陽の周囲に光輪のようなものが見えたりといった光景は理屈なく美しいのですが、それよりもここで感じたのは、前日の夕方に西の空に沈んだ太陽が、翌朝になって東の空から昇ってくるという宇宙の営み、しかも何十億年も繰り返し行われてきたであろう雄大さと不思議さのようなものです。そして、毎朝、1億5千万キロを旅して届けられる太陽の光と熱、それらを全身で受けて育つ植物たち、そういったものを表現できればという思いでつけたタイトルです。
 そのため、ニッコウキスゲなどの花たちはあえてシルエット気味にしていますが、ピントはこれらの花たちに合わせており、遠くの稜線はわずかにピントから外れています。
 また、この写真のタイトルを「霧ケ峰曙光」とか「朝焼けに染まる」とかにしてしまうと、何だかとてもチープな感じになってしまい、主題は「爽やかな高原の朝」といったところがせいぜいだと思います。

その2:人々の想いや願いなどを主題としたタイトル

 人間の営みと自然とは切っても切り離すことのできないもので、太古の昔から人間は自然とうまく共存してきたと言われています。近年はそういったものが崩れつつあるのかもしれませんが、それはともかく、自然を崇拝したり畏敬の念を持つということはわれわれ人間の根底にあるのだと思います。日本古来の神道は特定の開祖がいたり教義を持ったりしているわけではなく、自然界に存在する山や木、岩などあらゆるものに神が宿るという考え方だと言われていますが、まさに人間と自然が奥深いところでつながっているということに他ならないのではないかと思います。
 また、自然の景色を見ることによって過去の記憶が呼び戻されたりすることもあるでしょうし、大自然に抱かれることで心の安らぎを覚えたりすることもあると思いますが、こういったことも人間と自然のつながりの証であると思います。
 われわれ人間は無意識のうちに自然をよりどころにしたり依存したりしているのかも知れません。

 自然風景を撮影しているとそういった場所に出会うことも少なくありません。ご神木や磐座、あるいは水神などは代表的な例ですが、注連縄などで祀っていなくても巨木や巨岩、湧水を崇めたり、山や森全体を神域としている場所はたくさんあります。そして、そういった場所は特に地元の方にとっては神聖な場所であり、昔から大切にされてきた場所でもあります。
 このように、人々の心と自然との繋がりを主題にして、それをタイトルにするというのも効果的だと思っています。

 例えば下の写真、立派な染井吉野桜が満開になっている光景ですが、桜の木の下に百庚申があります。百庚申というのは、昔から村の安全や村人の幸せを願って建てた庚申塔が増えていって百基になったものを指すそうで、昔の人の願いが込められた場所ということだと思います。

「薄紅(うすくれない)の祈り」

 この写真には「薄紅(うすくれない)の祈り」というタイトルをつけました。
 立派な桜なのでそれだけでも美しい景色になるのですが、たくさん並んでいる庚申塔に覆いかぶさるように見える位置から撮影しています。ここにこの桜が植えられたのがいつ頃なのかはわかりませんが、たぶん、庚申塔を見守るように咲いてほしいという昔の人々の願いが込められた桜ではないかと思っています。
 今は訪れる人もほとんどいないようですが、庚申塔や桜に込められた祈りのようなものを表現できればとの思いからつけたタイトルです。いうまでもなくこの写真の主題は満開の桜でもなく百庚申でもなく、人々の祈りや願いということになります。
 なお、タイトルの「薄紅」に読み仮名をつけたのは「うすべに」と読まれたくなかったからです。「うすべに」と「うすくれない」ではずいぶん印象が異なります。

その3:植物や動物の生きざま、命の活動を主題としたタイトル

 自然界にはたくさんの植物が自生しており、その環境の下で昆虫や動物なども生息しているわけで、人間の手が加わらない中で見事な調和を保ってそれぞれが生きています。むしろ、それらを破壊しているのが人間かも知れません。
 私は動物や昆虫を撮ることはほとんどありませんが、自然界で生きている植物を撮る頻度はかなり多いです。植物の生きている時間軸は人間やその他の動物に比べるとかなりゆっくりで、変化している様子を肉眼で認識するのはまず困難です。ある時間をおいてみたときに、前回との差が感じられるというのが精一杯といったところです。
 一見、動きが感じられない植物ですが、確実に命をつなぐ活動をしているということを感じることがあります。植物は花を咲かせたり実をつけたり、あるいは紅葉したりと、季節によって人間の眼を引く姿を見せてくれたりもしますが、そういった華やかな面だけでなく、何気ないところにも命の息吹があって、植物の逞しさとか生命の神秘といったようなものを垣間見たりします。

 そういった点では動物の方がわかり易いのかもしれませんが、動物であれ植物であれ、それらの生きざまとか命をつなぐ活動とか、そういったものを主題として撮るというのが私は好きです。
 どういったところに生命観のようなものを感じるかは人によっても異なるであろうし、意識して見るのと無意識に見るのとでは当然見え方が変わってきますが、命が息づいているということを表現できる写真が撮れればと常々思っています。

 下の写真は苔むした倒木の間から芽を出してきたハイイヌガヤです。

「静かな鼓動」

 ハイイヌガヤはイチイ科の常緑樹ですが成長が非常に遅いらしく、しかも、背丈は1~2mほどにしかならない低木です。また、多雪地帯に育成するため、冬は何か月も雪の下に埋もれてしまいます。
 上の写真の左下に黄緑色した小さなハイイヌガヤがありますが、昨年、もしくは今年に芽を出したものと思われます。この小さな芽が隣にあるハイイヌガヤくらいまで育つのには何年かかるのかわかりませんが、我々の時間軸からすると止まっているのではないかと思えるほどゆっくりとした速度です。
 それでも、この小さな新芽はこの先もこの場所で少しずつ少しずつ育っていくであろうし、そうした植物の力強さや逞しさ、命の鼓動のようなものを感じます。

 この写真につけたタイトルは「静かな鼓動」です。
 もちろん、我々人間の心臓のように鼓動など聞こえるはずもありませんが、確実に生きて呼吸をしており、我々にはわからないとてもゆっくりとした速度で成長しているはずであり、それを主題としてつけたタイトルです。
 単に渓流沿いの景色としてとらえるだけでなく、そこにある植物たちのドラマのようなものを伝えられればという思いです。

その4:その場の雰囲気や感じるものを主題としたタイトル

 基本的に写真というのは光を記録するわけですが、実際に被写体が存在している場所には光だけでなく、音や熱や匂いであったり、風などのように触覚に訴えるものがあったりします。これらの要素は物理的に写真に写し込むことはできないわけです。
 しかし、目に見えるもの以上に心を揺さぶるもの、感性に訴えかけるものがあることも少なくありません。満開のお花畑のようなところにいれば花の香りが漂っているかも知れないし、きれいな水が流れている渓流では心地よい水音がしているかも知れません。そういった視覚以外の感覚で受ける要素が加わることで、目の前に広がる景色や被写体というのは全く別物のように感じられるわけです。それは、実際にその場に身を置いた人でなければ本当には理解しえない感覚です。
 このように、当事者であるからこそ得ることのできるその場における感覚であったり雰囲気であったり、そういうものを主題としてタイトルにし、伝えるというものです。

 例えば、澄んだ青空と満開の菜の花畑が広がっている清々しい春の景色を写した下の写真、これを美しい春の景色というだけで終わらせてしまうのではなく、そこに撮影者しか知りえない視覚以外の感覚で得た情報を加えるということです。

「光風渡る丘」

 この写真につけたタイトルは「光風渡る丘」です。

 光風というのは晴れた春の日に爽やかに吹く風のことで、太陽の光が草木などを輝かせ、そこを通り抜けてくる爽やかな風を指すと言われています。草や木々の葉を揺らすビュービューと吹く強い風ではなく、肌に感じるくらいの優しい風といったところでしょうか。花も木の枝も揺れていないので、このような風を一枚の写真だけで伝えるのは困難です。
 この写真では澄み渡った青空や満開の菜の花の美しさもさることながら、爽やかな風が吹く清々しくて気持ちの良いこの場所、この空間というものを伝えたいという意図から、青空とか菜の花とか春という単語は含めずにつけたタイトルです。青空や菜の花ということはあえて言わずとも見ればわかることですから、それらも含めて撮り手が感じたことを主題にし、タイトルとして表現しています。

その5:自然現象や事象を主題としたタイトル

 これは、「その1」で書いた自然の摂理や営みと似ているように思われるかもしれませんが少しニュアンスが異なっていて、光や風、あるいは音など、自然がある瞬間に見せてくれる表情と言ったらよいのかも知れません。平たく言うと、太陽の光があたって花や葉っぱが輝いたとか、風が吹いて木の葉が揺れたとか、水面に水滴が落ちて波紋が広がったとか等々、挙げたらきりがないほど自然界は多様な表情を見せてくれます。
 このような瞬間の、あるいは短い時間に生じる現象や事象というのは広い範囲にわたって生じることもあれば、ごく限られた狭い範囲にだけ生じることもありますが、それらを主題としてとらえようというものです。
 これらの現象や事象は怪奇現象のようなミステリアスなものでない限り、写真という一枚の静止画を見ただけで理解できることが多いと思います。ですので、発生している現象や事象をそのままタイトルにするのではなく、そこから撮り手が何を感じ取ったかということを表現することが必要だと思っています。

 下の写真は紅葉した数枚のカエデの葉っぱに太陽の光があたってオレンジ色に輝いているところを撮ったものです。

「光の通り路」

 木漏れ日が数枚の葉っぱに差し込んでいる状態というのは写真を見ただけですぐにわかると思います。画の大半を黒色が占めているので、大きな木の下あたりで撮影したであろうことも想像に難くありません。
 この写真に例えば「木漏れ日」とか「輝く紅葉」とかというタイトルをつけても、それは見ればわかるといった感じであまりパッとしません。

 そこで、この写真には「光の通り路」というタイトルをつけました。
 上の方にある葉っぱの隙間から入ってきた光がまっすぐ地上に向かって降りてくる、偶然その途中にあった数枚の葉っぱにあたってオレンジ色に輝くという現象が出現した、目に見えない光の通り路が紅葉によって浮かび上がったという主題です。
 言うまでもなく主被写体は紅葉したカエデですが、表現したかったのは光です。

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 写真にタイトルをつけようがつけまいが写真そのものが何ら変わるわけではありません。ですが、タイトルがあることで写真の見方、受け取り方が変化するのも事実です。
 また、冒頭でも触れたように、タイトルのつけ方にルールや決まりのようなものがあるわけではなく自由につければ良いと思っていますが、せっかくつけるのであれば効果的なタイトルの方が望ましいのは言うまでもありません。
 今回は写真の主題に基づいたタイトルという範囲に絞っていますが、主題が明確であればタイトルをつけることはそれほど手間のかかることではないと思っています。ただし、主題をそのままタイトルにするのではなく、それを別の言葉やフレーズで表現するひと工夫が必要だと思います。いい表現が思いつき、気の利いたタイトルをつけられたときは自分の写真もちょっと違って見えてくるから不思議なものです。

(2026.7.26)

#写真観

第206話 ローデンシュトック RODENSTOCKの大判レンズ ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 MC

 私はローデンシュトックのレンズは数本しか持っていませんが、その中の1本がこのゲロナーGeronar 150mm F6.3 というレンズです。「ジェロナー」と発音する方もいらっしゃいますが、私は「ゲロナー」と言います。どちらが正しいのかよくわかりませんが、「ゲロナー」の方がドイツ語っぽくて好きです。

 ローデンシュトックのパンフレットによると、このレンズは学生やカメラ初心者などにも機材を揃えやすいようにということから廉価版のレンズとして開発されたと記述されています。一方、価格を抑えるために絞り開放値やイメージサークルを犠牲にしたとも書かれています。
 それが理由なのかどうかはわかりませんが、日本では代理店が取り扱わなかったらしく、日本の市場に出回っている数はとても少ないように思います。私もこのレンズの存在自体は知っていましたが現物を見たことはなく、今から10年ほど前に友人から譲り受けたものです。
 私の持っているレンズはシリアル番号からすると、1990~1992年頃に製造されたものではないかと思われますので、比較的新しい部類に入るのではないかと思います。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 の主な仕様

 ゲロナーには通常のGeronarと、広角タイプのGeronar WAの2種類が存在しており、カタログを見ると通常タイプのGeronarは150mm、210mm、300mmの3本が販売されているようですが、広角タイプのGeronae WAは90mmの1本だけのようです。
 ゲロナー Geronarは凸凹凸の3群3枚のトリプレット構成というレンズで、最近ではあまりお目にかかることのないレンズ構成です。かつて、カールツァイスの「トリオター」というレンズを持っていたことがありますが、そのレンズと基本的には同様の構成かと思われます。

 このレンズの主な仕様を記載しておきます。

   イメージサークル : Φ180mm(f22)
   レンズ構成枚数 : 3群3枚
   最小絞り : 64
   絞り羽根 : 7枚
   シャッター  : COPAL No.0
   シャッター速度 : T.B.1~1/500
   包括角度 : 約62°
   フィルター取付ネジ : 40.5mm
   前枠外径寸法 : Φ42mm
   後枠外径寸法 : Φ31.6mm
   全長  : 34.2mm
   重量  : 145g (レンズ締め付けリングを含む)

 上記の数値を見てもお分かりのように、とてもコンパクトなレンズです。

 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算すると焦点距離がおよそ42mm前後のレンズに相当します。画角としては35㎜判の準標準レンズあたりといったところです。
 4×5判の対角画角が約54.3度、横位置に構えたときの水平画角が約43.6度、垂直画角が約35.5度という値です。
 ただし、このレンズのフランジバックが150mmよりも少し短くて、簡易的に実測してみたところ147mm前後という数値でした。正確には焦点距離が約147mmのレンズということになりますので、実際の画角は上記の値よりも若干大きめになると思います。

 シャッターはCOPALの0番が使われています。絞りはF6.3からF64まであり、1/3段ごとに目盛りが設けられていますが一眼レフカメラ用のレンズみたいなクリックはありません。また、絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはなく、綺麗な7角形を保っています。
 レンズの前枠径が42mmととても小さいのでシャッターの目盛りの上に覆いかぶさるようなこともなく、操作性はとても良好です。

 イメージサークルは180mm(F22)しかないので4×5判での使用が限界で、大きなアオリには耐えられません。ごく普通の風景写真を撮るには問題ないと思いますが、ブツ撮りには向いていません。
 開放絞りがF6.3と、一般的なこの焦点距離のレンズに比べると1/3段ほど暗いことになりますが、特に不都合は感じられません。
 旧フジノンのW.Sシリーズの中に150mm F6.3 というレンズがありましたが、大きさも仕様も非常に似通った感じのするレンズです。ただし、W.Sシリーズはシングルコーティングでしたが、Geronarはマルチコーティングになっています。また、フジノンのW.S 150mmはテッサータイプでしたので、レンズ構成も異なっています。
 小さくて軽いので、携行するにはとてもありがたいレンズです。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 のボケ具合と解像度

 このレンズのボケ具合を、以前に作成したテストチャートを用いて確認してみました。レンズの光軸に対してテストチャートを45度の角度に設置し、レンズの焦点距離の約10倍、約1.5m離れた位置からの撮影です。
 まずは絞りはF6.3(開放)で撮影したものです。ピント位置を中心にして後方に8cmと16cmの位置に、そして前方にも8cmと16cmの位置に、合計5枚のテストチャートを設置した状態で撮影をしました。わかり易いようにテストチャートの部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置に設置したテストチャート部分を切り出したものです。

 ボケ方としては全体的にクセのない素直なボケではないかと思います。
 また、前ボケと後ボケも非常に似通っているのが印象的ですが、比較してみると前ボケの方がわずかに柔らかな感じを受けます。レンズによっては前ボケと後ボケでずいぶんと様子の異なるものもありますが、このレンズはほとんど見分けがつかないといった感じです。

 次に、絞りをF11にして同様に撮影、テストチャート部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置のものです。

 当然、ボケ方は小さくなっていますが、素直なボケ方ですし、前ボケと後ボケも非常に似通っているのは絞り開放の時と同様です。

 参考までに、同じローデンシュトックのSironar-N 150mm 1:5.6 というレンズのボケ方の写真を掲載しておきます。
 撮影条件はGeronarと同じで、絞りはGeronarの開放と同じF6.3にして撮影しました。
 同様にテストチャート部分を切り出したのが下の5枚の写真です。上から順に、ピント位置から後方16cm、後方8cm、ピント位置、ピント位置から前方8cm、前方16cmの位置のものです。

 ボケ方としては似ているように思いますが、Sironar-N のボケの方がわずかにふわっとした印象を受けます。平面のチャートを撮影したのでこういう言い方は適切ではないかもしれませんが、Sironar-N の方がボケに立体感があるように思います。

 また、ピントの合っている位置のチャートの写真を見ると、Sironar-N の方がシャープな感じがします。撮影する際のピントの合わせ方の問題のような気もしますが、ちょっと気になったので簡易的に解像度の確認もしてみました。
 使用したのはISO-12233準拠のテストチャートです。

 このチャートをフレームいっぱいになるように撮影し、比較しやすいように一部分を切り出したのが下の3枚の写真です。上から、Geronar 150mm 開放(F6.3)、Geronar 150mm 絞りF11、Sironar-N 150mm 絞りF6.3 の順です。

▲Geronar 150mm F6.3
▲Geronar 150mm F11
▲Sironar-N 150mm F6.3

 こうして3枚を比較してみると、Geronar 150mm の絞り開放で撮影したものは解像度が若干低い感じがします。コントラストも低めで、数字や線の輪郭がぼやけているように見えます。
 しかし、絞りをF11まで絞り込むとだいぶ改善されており、数字や線の輪郭もずいぶんとはっきりした感じになります。コントラストが向上しているのがわかると思います。

 そして3枚目の写真はSironar-N 150mm ですが、絞りF6.3(開放から1/3段の絞り込み)にもかかわらず非常にシャープでコントラストの高い状態になっていると思います。数字や線のエッジがGeronar 150mm に比べるとくっきりとしています。
 やはり、廉価版ということである程度割り切った性能のレンズということで販売していたのは上にも書いた通りですが、こうして比較してみると差があるのがわかります。
 この差が実際の使用上でどの程度の影響があるかというと、私のように風景を対象としている分にはほとんど気にならないのではないかと思います。

ゲロナー Geronar 150mm 1:6.3 の作例

 ということで、Geronar 150mm 1:6.3 で撮影した写真をいくつかご紹介します。撮影した時期は異なりますが、いずれも青森県の奥入瀬渓流で撮影したものです。また、使用したカメラはリンホフマスターテヒニカ45、使用したフィルムは富士フイルムのベルビア100Fです。

 まず1枚目は、川岸に生えていた矢車草を撮影したものです。

 葉っぱの形が端午の節句の鯉のぼりにつけられる矢車に似ていることからこの名がつけられたようです。日本全国の谷沿いの林床などでごく普通に見ることが出来る野草で、奥入瀬渓流にもたくさん育成しています。新緑の5月~6月頃は葉っぱの色も鮮やかで、個人的には奥入瀬川の清流との相性がとても良いと思っています。

 この写真はアオリを使わず、ノーマルの状態で撮影しています。川の流れが表現できるようにスローシャッターを切っていますが、ほぼ無風状態だったので葉っぱもほとんどブレることなく写ってくれました。
 背景がはっきりしすぎないようにということで、絞りはF16での撮影です。そのため、葉っぱの手前の方がピントから外れていますが、鋸歯の感じも良く出ていて、シャープな写りをしているのではないかと思います。
 背景の岩や川中に引っかかっている木の枝などのボケ方も柔らかな感じで、そして綺麗なボケだと思います。

 2枚目は同じく奥入瀬渓流で撮影した紅葉の写真です。

 鮮やかなオレンジ色に紅葉している樹があったので、その色をより引き立てるために手前に黒っぽい樹の幹を配してみました。奥入瀬渓流は紅葉よりも黄色く色づく、すなわち黄葉の方が圧倒的に多いので、このような赤く色づく紅葉はとても目立ちます。

 この写真は右手前の幹をぼかしたくなかったので、軽く右にスイングアオリをかけています。このレンズはイメージサークルに余裕がなく、あまり大きくあおるとけられてしまうので注意が必要です。
 また、この写真はパンフォーカスに近い状態で撮影しているのでボケの具合はほとんどわかりませんが、細い枝先などもしっかりと解像しており、このような被写体では高価なレンズにも引けを取らない写りをしていると思います。

 この日は全体に曇り空で、柔らかな光が渓流全体にまんべんなく回り込んでいるといった状態でした。そのため、紅葉もとても柔らかなしっとりとした感じの描写になってくれました。使用したフィルムはベルビア100Fなので、どちらかというとあっさりした発色傾向にあるのですが、実際に肉眼で見たよりも鮮やかな色になっていると思います。ヌケの良い発色をするレンズという感じがします。

 そして3枚目は、奥入瀬渓流の本流にかかる唯一の滝、銚子大滝の写真です。

 この写真を撮影したのは9月の早朝、川霧が立ち込めている日でした。滝つぼのあたりが白く煙っているのがわかると思います。これを撮影したひと月ほど前、青森県に発生した線状降水帯の影響で奥入瀬渓流も大洪水になったらしく、その時の爪痕が生々しく残っていました。

 ようやく朝陽が渓流に差し込み始めた時間帯ですが、手前のあたりにはまだ日が入り込んおらず、滝と手間の流れとの明暗差が大きい状態だったので、滝が真っ白に飛んでしまわないように露出を決めています。全体としては明るくなり過ぎないように、露出をアンダー気味にしています。
 また、手前の流れや左下の岩にもピントを合わせたかったのでフロントティルトのアオリをかけているのですが、レンズのイメージサークルが小さいのでケラレが生じてしまうため、バックティルトも併用しています。

 これも2枚目の写真と同様、パンフォーカス気味にして撮影しているのでボケの具合はわかりにくいですが、解像度については十分に評価できるレベルではないかと思います。掲載した写真ではわかりにくいと思いますが、川中に引っかかった枝や川岸の小石などもとても鮮明に写し取られています。ベルビア100Fらしい発色も気に入っています。

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 テストチャートの比較撮影の結果でわかるように、このレンズは絞り開放だとやはり解像度が少し低下するようです。F11あたりまで絞り込めばほとんど問題のないレベルになると思いますが、開放にして浅い被写界深度で撮影したいというような場合は、解像度の低下が気になるかもしれません。近接撮影や鮮鋭度を重要視するような撮影には向いていないように思います。
 もともとのコンセプトが学生や初心者にも幅広く使ってほしいということですから、あまりシビアなものを求めるのは無理があるという気がします。しかしながら、風景撮影などでは十分な描写をしてくれるし、癖のないボケやヌケの良い発色など、廉価版とは思えないレンズだと思います。
 そして、何よりも小型軽量というのが風景撮影にはありがたい存在です。150mmのレンズとしては私が個人的にいちばん気に入っているシュナイダーのAPO-SYMMAR 150mm 1:5.6 よりも二回り以上も小柄なレンズです。シビアな目で画質を比べると差はありますが、十分に期待に応えてくれるレンズであると思っています。

 日本国内ではほとんどお目にかかることがりませんが、海外の中古市場なども含めて、Geronarの他の焦点距離のレンズも使ってみたい衝動にかられます。

(2026.4.28)

#Geronar #Rosenstock #Sironar #シロナーN #テストチャート #ローデンシュトック #奥入瀬渓流 #レンズ描写

第205話 奥入瀬渓流 撮影のお役に立てる..かもしれない情報あれこれ その2

 前回は奥入瀬渓流全般や混雑具合等について書きましたが、今回は主な撮影スポットについて触れていきたいと思います。滝や流れ、瀬など、名前がついているだけでもかなりの数になり、名前がついていなくてもとても写真映えするスポットもたくさんありますが、すべてをご紹介するのは大変なので、その中から10ヵ所を抜粋してみました。
 奥入瀬渓流の下流の焼山から上流の十和田湖に向かって順にご紹介していきたいと思います。
 なお、前回ご紹介した場所は割愛させていただきますので、奥入瀬渓流の中でも特に人気の高い5ヵ所については前回のページをご覧ください。

 今回ご紹介する場所は下の図の通りです。青色で番号表記した10ヵ所を対象としました。

 番号がついていない場所については今回は触れませんでしたが、十分に写真映えのするスポットです。

①紫明渓(しめいけい)

 奥入瀬渓流の最下流、焼山に近い辺りにある紫明渓は川幅が広く、水深が比較的浅い流れです。かつては玉石を敷きつめたような河床に澄んだ水が流れる美しい場所だったようですが、今は土砂が堆積して昔の面影はなくなってしまったようです。
 この紫明渓、春から秋にかけては地味な場所ですが、雪のシーズンになると景色が一変します。
 川中に点在している石や岩の上に雪が積もり、まるで大福もちがたくさんあるような光景を見ることが出来ます。

 もともと水深が浅い上に冬は水量が少なくなるので、石や岩の上に雪が積もり易いのだと思います。特に夜中に大雪が降った次の日は特大の大福もちを見ることが出来ますが、地元の方ならともかく、遠方から訪れるものにとっては、なかなかそういうタイミングに出会うことが難しいです。
 雪のない時期はインパクトに欠けますが、天気の良い日は川面がキラキラと輝いて、私は好きな場所のひとつです。
 また、川の右岸にカエデの木があって、新緑や紅葉の時期にはとても美しい景色になります。たくさんの人が訪れて混雑することもないので、ゆっくりと撮影をすることが出来ます。
 道路脇に5~6台の駐車スペースがあります。

②屏風岩(びょうぶいわ)

 奥入瀬でいちばん混雑する石ヶ戸から少し上流に行ったところにある、まさに屏風のように垂直に切り立った崖です。
 この岩のすぐ下を川が流れていて、川が緩やかにカーブしていることもあり、静と動のコントラストが美しい場所です。

 上の写真は紅葉も終盤の頃のものですが、初夏から夏にかけての緑と清流との組み合わせもとてもいいものです。遊歩道脇にちょっとしたスペースがあるので、三脚を立てて撮影するにはありがたい場所です。
 また、冬もきれいな場所ですが、雪が降ると道路が除雪されて路肩に高い雪の壁が出来てしまうため、このようなアングルでの写真撮影をしようとなるとその雪の壁をよじ登らなければなりません。川に転落する危険もあるのでやめておいた方が良いでしょう。
 ここは近くに駐車スペースもないので、石ヶ戸などに車を置いて徒歩で訪れることになります。

③馬門岩(まかどいわ)

 屏風岩のすぐ先、屏風岩とは反対の右岸側にそびえているのが馬門岩です。
 国道102号線に沿って続いているので、場所によっては切り立った崖の真下まで行くことが出来ます。
 その昔、馬で往来していた時代に、ここより先は馬が通れないほどの植物が生い茂っており、ここで馬を降りてその先は徒歩で進んだと言われる、門のような岩だったことからこの名がつけられたようです。

 火山から噴出した火砕流堆積物で形成されているとのことで、何枚もの岩が積み重なって大きな岩になっているのがわかります。長年の間に岩に苔が付着したり草が生えたり、また、岩の間に根を下ろした樹木などの姿があったりして、原始の森を見ているような感じもします。
 冬になると緑はすっかりなくなってしまいますが、岩を流れ落ちる水が氷柱となり、それが徐々に成長して巨大な氷瀑のような姿になります。
 下の写真は今年(2026年)に撮影した馬門岩にできた氷柱です。

 雪のない時期はこれほど岩の近くまで行くことは困難ですが、道路の除雪によって路肩に雪の壁ができる冬は、その壁をよじ登って氷柱のすぐ下まで行くことが出来ます。

④九十九島(くじゅうくしま)

 阿修羅の流れのすぐ上流にある場所で、奥入瀬渓流のなかで川中の岩が最も多いことからこの名がつけられたそうです。

 ここは流れがほぼ直下に曲がっていて、上の写真の左側が下流に向かう流れで、このすぐ先が阿修羅の流れです。
 この写真は車道脇から見下ろすようなポジションで撮影していますが、遊歩道はこの真下にあり、遊歩道からは流れとほぼ同じ高さで見ることが出来ます。
 川中の大きな岩の上にはたくさんの樹木が育っていて、その間を縫うように水が流れています。変化に富んだ美しい場所だと思います。

 なお、すぐ上流のところには平成11年に発生した大規模な地滑りによって生じた「平成の流れ」という場所があって、大きな落差の豪快な流れを見ることが出来ます。全く変わらないようでも、日々その姿を変えているのだということを感じさせてくれます。

⑤白布の滝(しらぬののたき)

 雲井の滝から少し上流に行ったところ、遊歩道から川を挟んだ対岸にある落差およそ26mの滝です。滝の落口から白い布を垂らしたような、ほぼ直瀑に近い美しい滝です。

 水量も多く、真冬でも完全に凍ってしまうことはないようです。
 上の写真は3月の半ばごろに写したもので、まだ木々に葉っぱがない時期なので滝がよく見えますが、葉っぱが生い茂ってくる季節になると視界が遮られてしまい、滝がよく見えなくなってしまいます。
 この滝は見通しがきく撮影場所が非常に限られていて、しかも車道にも遊歩道にもスペースがないので撮影には苦労します。混雑する場所ではありませんが、遊歩道を散策している人の迷惑にならないよう、早朝の撮影がお勧めです。

⑥白銀の流れ(しろがねのながれ)

 白布の滝からさらに上流へ徒歩5分ほどのところにあります。流れの激しいところと比較的緩やかなところが混在した美しい景観を見せてくれる場所です。川中の岩にぶつかって生じる波しぶきがキラキラと輝いて、白銀という表現がぴったりだと思います。

 この写真は6月の初め頃、緑が鮮やかな時期に撮影したものです。
 石ヶ戸の瀬にも似たところがある美しい場所ですが、雲井の滝より上流に行くと人の数はぐっと少なくなり、この白銀の流れのあたりも散策する人が時どき通るくらいで混雑するようなことはありません。隠れた撮影スポットという感じです。

 この付近も駐車スペースがなく車道からも離れているので、ここを見るには徒歩で訪れることになります。

⑦雲井の流れ(くもいのながれ)

 白銀の流れのさらに上流に位置していますが、ここが雲井の流れというようなスポット的な感じではなく、比較的広い範囲を指しているようです。どちらかというと穏やかな流れのところが多い場所です。

 上の写真も6月上旬、天気が良い日の日中に撮影したものです。まばゆいくらいの日差しを感じますが、木々の葉っぱにさえぎられて川面には直接光があたっておらず、繊細な流れを撮ることが出来ます。このような場所は薄曇りの日の方がしっとりとした感じに写ると思います。
 流れが穏やかなのでこの辺りの遊歩道は平坦で足腰への負担は少ないですが、水はけがあまりよくないのか、いつもぬかるんでいるという印象があります。
 また、渓流沿いには休憩用のテーブルとベンチが用意されていて、気持ちの良い流れを眺めながらランチをしている人の姿もよく見かけます。

⑧白糸の滝(しらいとのたき)

 雲井の流れからさらに上流に向かうとトイレがあります。石ヶ戸休憩所のように売店が併設されているわけではなくトイレのみで、石ヶ戸休憩所から子ノ口までの約9kmの間にある唯一のトイレです。
 そこを過ぎて20分ほど歩くと白糸の滝があります。落差が約30mほどあるようで、糸を引いたように流れ落ちる美しい滝です。

 手前にたくさんの木々が生い茂っているので、滝の全貌を見ることが出来るのは冬のみということになりますが、木々の間に見え隠れする姿も風情があっていいものです。
 ここは奥入瀬川の流れが非常に穏やかなところで、広い河原も広がっているので撮影するにはありがたい場所です。目の前の道路には車2~3台分の駐車スペースもあります。
 冬になると流れ落ちる水が風で飛ばされ、周囲の岩はびっしりと氷で埋め尽くされてしまいますが、滝自体は完全に凍ることはなく糸のように流れる姿をみせてくれています。時おり、岩に張り付いた氷が割れて落ちる音が辺りに響き渡り、ちょっとぞくっとします。

 昨年(2025年)の8月、青森県に発生した線状降水帯による猛烈な豪雨に襲われ、ここ奥入瀬渓流も水浸しになってしまったようで、その際にこの滝の向かい側斜面で大規模な土砂崩れが発生しました。それによって、大量の土砂が奥入瀬川に流れ込み、ここから下流の水は長いこと茶色く濁ってしまいましたが、土砂崩れ現場の復旧作業のおかげで紅葉の時期には綺麗な奥入瀬川に戻っていました。

⑨九段の滝(くだんのたき)

 銚子大滝から少し下ったところにある滝です。層になったように積み重なった岩の上を何段にもなって流れ落ちています。見ようによっては10段にも11段にも見えるのですが、響きの良いところで九段となったのではないかと思います。

 この滝も滝つぼのすぐ近くまで行くことが出来る、数少ない滝のひとつです。
 水量は決して多くはありませんが、真っ黒な岩肌と白い水しぶきとのコントラストが美しい滝です。上の写真は10月の紅葉の時期に撮ったもので水量が少ない時期ですが、雪解けから深緑の頃にかけてはもっと水量が多くなり、向かって左側にも水の流れが生じます。
 落差は15mほどだそうですが、間近で見上げるようにして見るせいか、実際よりも高く感じます。
 なお、この滝は木々の葉っぱが生い茂っている季節は車道から見ろことはできませんが、冬になって木々が落葉すると車道からも見ることが出来ます。

⑩万両の流れ(まんりょうのながれ)

 奥入瀬渓流の最上流、子ノ口に近いところにある「万両の流れ」と呼ばれる場所です。光が流れに反射してキラキラと輝く様を大量の小判に例えた名前のようです。
 川幅はあまり広くありませんが、川中に岩があったり、そこに倒木が引っかかっていたりして、所どころで激しい水しぶきを上げています。

 上の写真は紅葉の時期、万両の流れの下側から上流に向かって撮影したものです。たくさんの倒木が川の中にあるのがわかると思いますが、この倒木にさらに木の枝などが引っかかって、訪れるたびに流れの様相が異なっているのを感じます。
 奥入瀬では倒木などがあっても道路などをふさがない限りは人の手が加えられることはなく、自然のなすがままにされています。
 また、この付近では野生の動物に出会う機会が多く、クマを見かけたのもこの近くですし、ここの遊歩道を歩いているときにはキツネ、ネズミ、ウサギなどにも出くわしました。特にネズミはたくさんいるようで、そこら辺りをチョロチョロと走り回っている姿をよく目にします。

 この近くに車2~3台が停められる駐車スペースがありますが、ここを訪れる人は少ないです。

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 今回は奥入瀬渓流の撮影したくなるスポット10ヵ所をご紹介しました。いずれも名前がつけられている場所ですが、これ以外にも名前がついている場所がありますし、名前がついていなくても素敵な場所がたくさんあります。
 奥入瀬渓流は車道も遊歩道もよく整備されていて、車で移動しながらポイントを見て回るということもできますが、やはり奥入瀬渓流の魅力を感じるのは歩いて回ることだと思っています。季節ごとに違った景色を見ることが出来るのは言うまでもありませんが、同じ季節でも訪れるたびに新たな発見があるのも歩いて回るからこそだと思います。

 ちなみに、私は渓流釣りはやりませんが、時どき釣りをしている人に出会うことがあります。イワナやヤマメが釣れるようで、確かに水の中に魚影を見ることが良くあります。
 秋に訪れると、奥入瀬川に流れ込む小さな支流で、イワナかヤマメだと思うのですが、産卵しているシーンに出くわすことがあります。

(2026.3.24)

#奥入瀬渓流 #渓流渓谷

第204話 奥入瀬渓流 撮影のお役に立てる..かもしれない情報あれこれ その1

 今から1万5千年ほど前、十和田火山の噴火で形成されたカルデラ湖(現在の十和田湖)の東側外輪山が決壊し、流れ出した大量の水が火砕流台地を侵食しながら太平洋まで達したのが奥入瀬川だそうです。
 この奥入瀬川の起点となる子ノ口から焼山までのおよそ14kmほどが奥入瀬渓流と呼ばれていて、四季を通じて風光明媚な景色を見せてくれます。日本国内はもとより、今では海外からの観光客も増え、新緑や紅葉の季節にはたくさんの人で賑わっています。
 奥入瀬渓流の最大の特徴は、渓流沿いに整備されている遊歩道が川面とほぼ同じ高さにあるため、人の目線の高さで渓流を見ることができるということだと思います。

 奥入瀬渓流に関してはガイドブックが出版されていたりSNSなどに投稿された動画や写真がたくさんあるので情報を得るには事欠かないと思いますが、今回は奥入瀬渓流を訪れる方のお役に立てるかもしれない情報をご紹介したいと思います。
 私が奥入瀬渓流を訪れるのはもっぱら写真撮影が目的ですので、そういった内容に偏ってしまうと思いますのでご承知おきください。

奥入瀬渓流のシーズンごとの混雑具合

 奥入瀬渓流は青森県の中でも一、二を争う人気の観光地で訪れる人も多いのは確かですが、年間を通じて常に観光客がいるかというとそういうわけでもありません。わかり易いように月ごとの混雑具合をグラフにしてみるとこんな感じになると思います。なお、正確に人数を計測したわけではなく私の感覚ですので、あくまでも参考程度にご覧ください。

 何と言ってもいちばん混雑するのは紅葉の時期です。10月に入ってから色づき始め、11月の上旬にはほとんどの樹が落葉してしまいます。紅葉のピークは10月20日頃から10月末頃までの10日間ほどといったところでしょうか。
 ただし、混雑すると言っても京都のように人で埋め尽くされるような状態になるわけではありません。
 例年、この紅葉ピークの間で1週間ほどはマイカー規制がかかり、一般車の立ち入りは禁止されてしまいます。この間に奥入瀬渓流を訪れる場合はバスを使うかレンタル自転車、または徒歩ということになります。ただし、規制がかかるのは平日の10:00~16:00、土日の9:00~16:00なので、この時間帯を外した朝早くと夕方であれば自家用車を乗り入れることが出来ます。ちなみに私はこの規制がかかっている期間に撮影する場合は、早朝6時ごろには現地に入り、9時前に奥入瀬を出るというスタイルをとっています。

 紅葉シーズンほどではありませんがやはり混雑するのが新緑の季節で、5月中旬頃から梅雨に入る前の6月中旬頃までです。紅葉シーズンのようなマイカー規制はかかりませんので、車の乗り入れが可能です。
 新緑の季節が終わり、紅葉を迎えるまでのいわゆる夏の期間は訪れる人も少し減る感じで、落ち着いた静かな奥入瀬渓流を味わうことが出来ます。

 そして、ほとんど人の姿を見かけることがないのが冬の奥入瀬で、12月から翌年の3月くらいまでは雪に埋もれた静かな奥入瀬になります。私も1月~2月に雪景色を撮りに行きますが、車道を走る車には時々出会いますが、歩き回っている人を見かけることはほとんどありません。

奥入瀬渓流での移動手段

 奥入瀬渓流は川と遊歩道と車道(国道102号)がほぼ並行しているので、車での移動がいちばん便利であることは間違いないのですが、駐車場が潤沢にあるわけではないので混雑するシーズンは車を止める場所に苦労する可能性があります。
 比較的広い駐車場があるのは最下流の焼山と最上流の子ノ口、そしてその中ほどにある石ヶ戸の3ヶ所で、そのほかは路肩に2~3台分の駐車スペースが所々にある程度です。しかも、先客で埋まっていることが多いです。

 また、奥入瀬渓流沿いを通っている国道102号にはJRの路線バスとシャトルバスが走っています。上り下りとも30分に1本くらいの間隔ですが、これを有効に使うと効率よく回ることが出来ます。
 バス停はおよそ1.5kmごとに設置されています。

 車やバスも便利ですが、やはり奥入瀬渓流は歩くのがいちばんだと思います。比較的大きな駐車場が3ヶ所あると書きましたが、そこに車を止めて、後は徒歩で回るというスタイルです。
 ただし、およそ14kmある奥入瀬渓流のすべてを歩くのは結構しんどいので、時間との兼ね合いで途中まで歩いて戻りはバスを使うなどして、無理のないようにするのがお勧めです。

 なお、レンタサイクルもあるので、暖かな季節は自転車で回っている人も良く見かけます。

奥入瀬渓流の混雑スポットベスト5

 混雑するシーズンと言えども、およそ14kmの奥入瀬渓流のすべてで混雑するわけではなく、スポット的であるというのが実情です。その理由は、車やバスで人気の場所を訪れて、限られた時間で周辺を散策して、またすぐに移動してしまうというパターンの人が大半を占めているからです。
 では、どのあたりが混雑するのか、混雑する上位5ヵ所をご紹介します。簡単な地図にその5ヵ所を書き入れてみましたので参考にしてください。

 まず1番目は、奥入瀬渓流のちょうど中ほどにある「石ヶ戸」です。
 ここには渓流内で唯一の休憩所があって、一般車数十台分の駐車場や大型観光バス用の駐車場が整備されています。休憩所にはトイレや売店もあり、売店ではうどんやそばなどの軽食も用意されています。
 ここに車やバスを停めて散策するという人が多いのと、この休憩所から徒歩で5~6分のところに「石ヶ戸の瀬」と呼ばれる人気の場所があるため、初夏から秋までは終日賑わっています。特に混雑する季節の週末は駐車場もすぐに埋まってしまうので、確実に車を停めたいという場合は午前8時前には到着するのが望ましいと思います。
 大型観光バスもひっきりなしに来るので、そうするとバスからたくさんの人が降りてきて、休憩所は大変な混雑になります。

 近くの「石ヶ戸の瀬」は私も好きな場所のひとつで、よくここで写真を撮ります。

 ここを通るほとんどの人が写真を撮っていきますし、遊歩道脇にキャンバスを立てて絵を描いている人も見かけます。川中の岩の間を縫うように白波を立てて流れるさまは本当に美しいと思います。

 2番に混雑する場所は「阿修羅の流れ」です。
 ガイドブックなどでは必ずと言ってよいほど紹介されている場所で、たぶん、奥入瀬渓流の中でも一番人気の場所だと思います。2つに分かれた流れが再び合流し、激しく岩の間を流れ落ちていく迫力のある場所です。

 この場所は石ヶ戸のように広い駐車場があるわけではなく、路肩に数台分の駐車スペースがあるだけですので、ここを訪れるのは石ヶ戸から歩いて来た人か、もしくは石ヶ戸に戻っていく人がほとんどです。石ヶ戸からは徒歩で30~40分といったところです。
 観光バスもここには停まらないので、たくさんの人が一気に押し寄せるわけではありませんが、常に人がいるという感じです。

 3番目に混雑する場所は「銚子大滝」です。
 奥入瀬渓流の本流にかかる唯一の滝で、奥入瀬川の上流、十和田湖に近いところにあります。落差はおよそ7m、幅は約20mの滝で、水量の多いときは豪快に流れ落ちる水で辺りに水煙が立ち込めます。

 この滝のすぐ近くに車10台ほどと観光バス数台分が停められる駐車場が整備されています。駐車場から徒歩1分というロケーションの良さもあり、観光バスはまず間違いなく立ち寄る人気スポットです。観光バスが到着すると滝の周辺は大変な賑わいになり、写真撮影するにはあまり有難くない状態になりますが、20分もすると移動してしまうので、そうすると比較的静かな銚子大滝に戻ります。

 混雑する場所の4番目は「雲井の滝」です。
 阿修羅の流れから上流に向かって車なら数分、徒歩でも20分ほどのところにある滝で、落差がおよそ20m、水量も豊富で渓流沿いのある滝の中では一番大きな滝ではないかと思います。車道から少し奥まったところにある滝ですが、滝つぼまで歩いていくことが出来るのでそれも人気の理由の一つかもしれません。

 滝の入り口のところの車道の幅が若干広くなっていて、本来は駐車スペースではないと思うのですが、車2~3台なら停めることが出来ます。ただし、ここに車を停めてしまうと大型観光バスや大型トラックが来たときにすれ違いできなくなってしまうことがあります。迷惑になるのでここでの駐車は避けた方が良いと思います。シャトルバスのバス停も設置されているので、バス、もしくは徒歩で訪れるのが望ましいです。

 そして混雑する場所の5番目は「三乱(さみだれ)の流れ」です。
 ここは石ヶ戸から下流に向かって徒歩で20分ほどのところにあります。流れが三つに分岐することからこの名がつけられたそうです。初夏にはツツジが咲いて、緑と赤の美しいコントラストを見せてくれます。また、流れ自体がとても優美な感じがして、奥入瀬に来たらぜひ撮影したくなる場所でもあります。

 ここには駐車スペースはありません。少し下流に行ったところに1~2台が停められる場所があるだけです。しかし、路肩に停めている車を結構見かけることがあり、交通量が多いときはとても迷惑な存在です。観光バスもここには停まりませんが、車内から美しい景色を見ることが出来るよう、ゆっくりと通過していきます。
 ですので、混雑すると言っても他の場所に比べると圧倒的に人の数は少ないです。
 なお、この付近は車道と遊歩道が完全に分離されておらず、車道の端が遊歩道になっている状態なので、三脚を立てての撮影はとても危険ですし、他の人の迷惑にもなります。道路から河原に降りて撮影する人もいますが、足場も良くないので注意が必要です。

 以上が奥入瀬渓流で混雑する場所のベスト5ですが、これ以外の場所が激しく混雑するということは見たことがありません。冬以外、遊歩道には常に人の姿はありますが、列をなすような状態になるわけではありません。

 補足ですが、奥入瀬渓流は十和田湖の子ノ口にある水門で水量の調節をしており、この水門が開くのが午前7時ごろです。それ前は水量が少なく、あちこちで川底が露出していますが、7時を過ぎると一気に水量が増えます。流れを撮影するのであれば、水量の増える午前7時以降をお勧めします。

季節ごとの服装について

 夏の日中はTシャツ一枚でも問題ありませんが、朝のうちはヒンヤリするので羽織るものか薄手の長袖があった方が良いです。
 また、渓流沿いはたくさんの木々が生い茂っているので、どちらかというと木陰の方が多い環境です。真夏でも汗がダラダラ流れるというようなことはないので、長袖は持参した方が良いと思います。
 奥入瀬渓流の遊歩道は上流、すなわち十和田湖方面に向かってゆっくりと登っていて、登山のような急登があるわけではありません。所々に石段がある程度ですので、靴はスニーカーでも大丈夫だと思いますが、長時間歩く場合はトレッキングシューズが望ましいです。
 遊歩道はぬかるんでいたり水たまりがあったりするので、底が滑りにくく、水がしみ込みにくく、多少汚れても構わないものが良いと思います。ちなみに、私はライトトレッキング用の長靴を履いていくことが多いです。

 春から初夏、そして秋は気温もだいぶ低くなるので長袖は必要で、さらにウィンドブレーカーもあった方が良いと思います。春先と晩秋はかなり冷えるので、薄手のダウンジャケットのようなものが必要になります。

 そして冬ですが、大量の雪、風も強い上に、毎日大型の除雪車が通るので路面はスケートリンクのようにカチカチつるつるです。完全な防寒対策が必要です。
 私の場合、上はヒートテックのインナーシャツ、ハイネックのアンダーシャツ、その上にセーターを着て、登山等の裏ボア付きジャケットを着こみます。
 下はアンダーパンツ、いわゆる股引のようなものを履いて、ズボンの上にはオーバーパンツを履き、足元は防寒用のトレッキング長靴です。
 これで寒さはほとんど防げますが、手の指先がどうしても冷たくなるので、手袋は二重にしています。
 冷え性の方はホッカイロのようなものをあちこちにペタペタ張っておくとよいと思います。

クマは...います クマ以外の動物もいます

 昨年(2025年)、私は奥入瀬渓流でクマを2回見かけました。いずれも十和田湖に近い上流域で、100m以上離れたところから走っている姿を見かけました。
 奥入瀬渓流入り口辺りに設置されている道路情報の電光掲示板には「ツキノワグマ出没警報」が常に表示されていますし、石ヶ戸休憩所にも「クマ出没注意」の張り紙があるので、やはりクマは普通にいるのだと思います。
 車道は常に車が走っているし、遊歩道にも人が歩いているので、そうそう人前に出てくることはないと思いますが、クマはいるということを忘れないようにしたいです。
 効果があるかどうかわかりませんが、私はクマ避けの鈴(ベアベル)を2個とクマ避けスプレーを腰につけています。

 クマ以外にもいろいろな動物に出会うことがあり、私がこれまで出会ったのはカモシカ、キツネ、シカ、ウサギ、テン、ネズミです。
 いずれも人の姿を見ると逃げてしまうのですが、一度だけ、全く逃げないネズミに出会ったことがあり、スマホで撮影することが出来ました。

 渓流に架けられた橋の上を歩いていると何やら動くものが目に入り、見てみると可愛らしいネズミが走り回っていました。何か小さな石ころのようなものを手に持ってカリカリとかじっているようにも見えましたが、近寄っても逃げるわけでもなくカリカリし続けていたので撮影することが出来ました。大きさは7~8cmほどの小さなネズミです。

 動物のほかに野鳥もたくさんいますが、私は野鳥を撮ることがないので写真は全くありません。

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 訪れるたびに違う表情を見せてくれる奥入瀬渓流で、季節ごとに魅力がありますが、個人的には初夏の奥入瀬渓流がいちばん好きです。長い冬が終わり、すべての命が目覚めて躍動しているような、本当に気持ちの良い季節だと思います。
 今回は奥入瀬渓流の混雑具合を中心に紹介しましたが、次回は撮影ポイントをできる限り紹介したいと思います。

(2026.3.19)

#奥入瀬渓流 #渓流渓谷

第193話 桜の追っかけに行って思うこと...なぜ、これほどまでに桜に心がときめくのか?

(2025.4.29)

#さくら

第177話 Wollensak VERITO ウォーレンサック ベリート 8・3/4 inchで撮る遠野(岩手県)

 ウォーレンサック Wollensak はアメリカのロチェスターにあった映像機器メーカーで、ベリート VERITO は高級軟焦点レンズとして有名です。私も今から15年くらい前に、ベリート8・3/4 inch(約220mm) F4 の中古品を購入しました。ベリートにもいくつかのモデルがあるようですが、私が持っているレンズはいわゆるバレルレンズと呼ばれるもので、その名の通り、樽のような寸胴鍋のような形状をしています。詳しいことはわかりませんが、多分、今から100年くらい前のレンズだと思われます。

 記憶があいまいなのですが、当時、10,000円くらいで購入したと思います。買ってはみたものの、このレンズを持ち出すのは年に1回程度といったところです。
 久しぶりにベリートを使ってみようと思い立ち、このレンズ1本だけを持って岩手県の遠野に行ってきました。遠野というと遠野物語のイメージが強いせいか、ノスタルジックな風景を思い浮かべてしまいます。ソフトフォーカス向きではないかと思い、遠野の地を選んでみました。

 このレンズにはシャッター機構が組み込まれていないので、今回は大判(4×5判)カメラに取付け、カメラ後部に中判カメラのPENTAX 67を取付けての撮影となりました。

荒神神社

 遠野の市街地から車で5分ほどのところにある神社で、田んぼの中にポツンと立っている姿が何とも風情があります。周囲は田んぼに囲まれていて、このお社にはどうやって行くのだろうと思ってしまいます。車道から数10mの距離で見ることができ、しかも道路の反対側には狭いながら駐車スペースがあります。この駐車スペースはこの農地の持ち主の方のご厚意で設置いただいているのではないかと思います。

 到着したのが早朝だったせいか、辺りは濃い霧がかかっていました。霧の影響で全体が柔らかく見えるところを更にソフトフォーカスで写すのもどうかと思いましたが、せっかくなので何枚か撮影をしました。

 背後には民家やガードレールなどが見えるのですが、うまい具合に濃い霧が隠してくれました。
 コントラストは高くありませんが、暗部の周囲にはやはりきれいなフレアがかかっています。霧との相乗効果でボケ過ぎてしまうかとも思いましたが、なかなかいい感じになっていると思います。田植えがされて間もない稲の苗のディテールもでているので、平面的になり過ぎずにいる感じです。

 日中になって日差しがあるときに、同じ場所を写したのが下の写真です。

 1枚目の写真よりもだいぶ右側に回り込んで写しています。じつは、早朝は霧で分からなかったのですが、近くで大規模な工事をやっているらしく、背後に巨大なクレーンが何基も林立していました。これが見事に入り込んでしまうので撮影位置をずらしたというわけです。
 やはり日差しがあると色の出方も違いますし、雰囲気も随分異なります。

卯子酉神社

 遠野ICを降りて車で走っていて偶然見つけた神社で、「うねどりじんじゃ」と読むようです。隣に公営の駐車場があるものの、民家に囲まれたような場所にある小さな神社です。卯年、子年、酉年の守り神である文殊菩薩、千手観音、不動明王を祀っているとかで、縁結びの神社として有名らしいです。
 何といってもこの神社は縄に結びつけられたたくさんの真っ赤な布が目を引きます。あちこちの神社で普通にみられる絵馬のようなものだと思うのですが、色が真っ赤なのでとてもインパクトがあります。

 境内はとても狭く、しかも大きな杉の木に囲まれているので薄暗いのですが、神社の背後は畑になっていて開けています。この明るい畑に赤い布を重ねる位置から撮影してみました。布の周囲に生じるフレアがとてもきれいだと思います。
 また、広く取り入れようとすると雑多なものが写り込んでしまうので、中望遠くらいで狭い範囲を切り取る方が作画しやすいと思います。
 普通のレンズで撮るとおどろおどろした感じがしてしまいますが、ソフトフォーカスだとそういった感じが消されるので適した被写体といえるかも知れません。

山口の水車小屋

 遠野というと何といってもカッパ渕が有名ですが、この山口の水車小屋も知名度という点ではカッパ渕に引けを取らないと思います。
 もうずいぶん昔になりますが、以前訪れたときは小屋もかなり傷んでいて水車も動いていませんでしたが、今回行ってみるとずいぶんきれいな小屋に生まれ変わっており、水車も軽快に回っていました。案内板には2015年に修理を行ったと書かれていました。

 この水車小屋自体はとてもレトロな感じなのですが、周囲には民家などの新しい建物がたくさんあったり、水車小屋のすぐ上を電線が通っていたりしており、それらを入れないようにしようとすると結構苦労します。小屋の背後には田んぼがあり、これを入れてある程度広く撮りたいのですが、そうすると入れたくないものがたくさん入り込んできてしまいます。
 一方、67判に220mmという焦点距離は中望遠になってしまい、広い範囲は取り込めず、窮屈な感じになってしまいます。
 小屋の周りをぐるぐると歩き回りながら、結局、このアングルからの撮影になりました。

 窮屈さはあるものの、ベリートらしい芯の残った描写はこの風景にぴったりという感じです。明るい部分と暗い部分の境界に生じるフレアに立体感があり、個人的には気に入っている描写です。明暗差がないと平面的になりがちなので、そのあたりに気をつけた方がより雰囲気のある仕上がりになると思います。

薬師堂近くの小さな祠

 山口の水車小屋のすぐ近くに薬師堂があり、道路に面したところに鳥居が立っています。この鳥居もなかなか風情があるのですが、その鳥居をくぐり、薬師堂に向かう途中でとても小さな祠を見つけました。高さは80cmほどでしょうか。

 よく晴れており、太陽もだいぶ高い位置にある時間帯なので、周囲の草むらの輝度はかなり高い状態です。背後は林になっているのですが、ここには日差しが当たっていないのでかなり暗く落ち込んでおり、ぼんやりと木々が写っている程度です。
 日差しが強く、露出をかけすぎると祠の質感が損なわれてしまうと思ったのですが、全体を明るめにしたかったのでオーバー目の露出にしました。
 個人的には、背後の土手の上部のフレアの出方が綺麗だと思っています。

田尻の石碑群

 遠野にはたくさんの石碑群があります。昔から神様や仏さまに対する信仰心が強かったのかもしれませんが、道しるべとなる石碑もたくさんあります。今のように地図やナビなどの便利なものがなかった時代、街道の分岐点に来た時にその先を示してくれる道しるべは旅人にとっては心強い存在であったであろうと想像できます。

 下の写真は田尻の石碑群と呼ばれている場所で、たくさんの石碑が存在しています。

 設置されている案内板には、ここは山口の街道と大槌街道の分岐点であったと記されています。ほとんどの石碑は傾いたり倒れたりしていますが、それでもその昔、ここを旅人が歩いていた光景が思い浮かぶようです。
 マンネングサの仲間ではないかと思うのですが、黄色の花が石碑の周囲に咲いており、とても癒される光景です。
 もう少し広い範囲を写したかったのですが、このすぐ右側にはコンクリート製の電柱が立っていたり、背後には建物があったりしたので、それらが入らないぎりぎりの範囲で写しました。早朝、霧が出ているときだと広い範囲が写せるかもしれません。

赤い鳥居

 中沢川の川沿いの道路を走っているときに偶然見つけた鳥居です。民家の入口のところにある小さな神社ですが、やはり遠野ではこのような神社も随所で見ることができます。遠野物語には氏神様にまつわる話がたくさんありますが、この神社も代々祀られてきた氏神様かもしれません。

 この写真は川を挟んだ対岸から撮影しています。
 背後に竹林があり、その緑と鳥居の赤のコントラストがとても綺麗だと思い、撮った1枚です。手前には枯れたススキが残っていて、今年、新たに伸びてきた緑の葉っぱとのコラボもいい感じです。
 太陽がほぼ真上にある順光の状態なので日陰の部分ができにくいのですが、竹林に明暗差があったので単調にならずにすみました。
 右の方から誰か歩いてきてくれないかなぁ、と思いながら30分ほど粘ってみましたが、ちょうどお昼の時間帯ということもあり、誰も来てくれませんでした。

猿ヶ石川堤防の庚申塚

 早池峰神社のさらに奥、遠野市と花巻市の境界あたりに源を発し、遠野の街中を通って北上川に合流する猿ヶ石川という比較的大きな川があります。ヤマメやアユ、サクラマスなどが釣れるらしく、釣り人には人気の川のようですが、台風や集中豪雨などで度重なる被害が起きた川でもあるようです。
 遠野での撮影もそろそろ引き上げようかと思っていたころ、猿ヶ石川の堤防沿いの道路を走っているとき、堤防脇に石碑群を見つけました。水神塔や庚申塔など、5基の石碑が並んでいます。

 堤防の上は桜並木になっていて、花の時期には美しい景色がみられるのだろうと思います。
 残念ながら今は花は見られないので、石碑群のすぐ上にある桜の木の根元部分だけを入れて撮ってみました。太陽はだいぶ西に傾きつつあり、この画の左方向から日が差しているのですが、部分的に日が当たる状態を待って撮りました。石碑の先端あたりに陽が差し込んでくれないかと期待したのですが、なかなか思い通りにはいかないものです。

アジサイ

 ちょうどアジサイが咲き始めており、あちこちで見ることができました。圧倒的に青紫や赤紫のアジサイが多いのですが、白いアジサイを見つけたので撮ってみました。アジサイは遠野でなくても撮れるのですが、近接撮影の事例ということで。

 白い花色を際立たせようと思い、大きな樹の下にあり、直射日光が当たっていない状態のアジサイを探しました。白い花を包み込むようなフレアがとても綺麗だと思います。まるで、地球を包む大気圏のようです。

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 遠野は花巻から東北横断自動車道(釜石秋田線)を使うと40分ほどで行くことができます。この道路ができる前、遠野を訪れたときはとても遠い印象を持ったものですが、いまは驚くほど近くなった感じがします。市内の道路も整備され、それなりに変貌を遂げていますが、遠野の一帯は独特の雰囲気を持った景色が広がっているように思います。
 私は撮影に行くときに最低でも4~5本のレンズを携行するのですが、今回のように1本だけを持って出かけるということは極めてまれです。しかも単焦点レンズなので、フレーミングなどには苦労することもありますが、制約のある中で工夫しながら撮るというのも写真の面白さかも知れません。

 今回、すべてカラーリバーサルフィルム(PROVIA 100F)で撮影を行ないました。条件によっては色収差が出ているところもありましたが、気になるほどではありませんでした。今のレンズと比べると解像度は劣ると思いますが、十分に実用のレベルであると思います。
 新しいソフトフォーカスレンズはフォギーフィルターをかけて撮ったような描写になるものが目立ちますが、このレンズはしっかりと芯が残っていて、そこにフワッとしたフレアが出る美しい描写をするレンズだと思います。

(2024.6.29)

#ソフトフォーカス #バレルレンズ #遠野 #ベリート #VERITO #PROVIA #プロビア

第173話 ギャラリー【梅・うめ】

 梅は百花の魁と言われるように、春の訪れはまだずいぶん先と思われるような寒い時期から咲き始めます。まだフィールドにはほとんど花の姿が見られない時期に梅の花を見ると、春も間もなくだなぁと感じます。
 日本人が梅を愛でる習慣は桜よりも古いらしく、そのせいか、神社仏閣には必ずと言ってよいほど梅の木が植えられています。また、観賞用だけでなく実を収穫するための梅園も各地にあり、花の少ない時期には最高の被写体です。

(2024年3月29日)

第151話 奥入瀬渓流の初夏 色めく新緑と千変万化の流れ

 5月の中旬から末にかけて青森・岩手方面に撮影に行ってきました。今年は全国的に桜の開花が早かったですが、やはり、季節の進み方も例年に比べて早い感じがします。それでも八甲田山の上の方にはまだ雪が残っていて、十和田湖の周囲など標高の少し高いところに行くと木々の葉っぱはまだ淡い黄緑色をしていました。
 奥入瀬渓流一帯の標高は300~400mほどらしいので芽吹きの時期はとうに過ぎていますが、鮮やかな新緑が見ごろを迎えていて、清々しいという表現がピッタリの季節感です。6月に入ると緑は日増しに濃くなっていくので、5月の下旬ごろがいちばん鮮やかな緑を見ることができる時期かも知れません。

 今回は、子ノ口から焼山までおよそ14kmに渡って続いている奥入瀬渓流のうち、主に中流域と上流域で撮影をしてきました。

自然の造形美が連なる瀬

 奥入瀬渓流は上流域、中流域、下流域とでずいぶんと景観が異なっていますが、最も流れに変化が見られるのは中流域だと思います。概ね、奥入瀬バイパスとの分岐あたりから、雲井の流れあたりまでの6kmほどの範囲を中流域と呼んでいるようです。
 奥入瀬渓流に流れる水は十和田湖から流れ出ていますが、子ノ口にある水門で流れ出る水量を調節しています。朝7時ごろに水門が開かれるらしく、それよりも早い時間帯に行くと水量が少ししかありません。そして、7時を過ぎると渓流に流れる水量が急激に増えていきます。それまで川底が出ていたようなところもたちまち水底になり、奥入瀬らしい景色に変わります。

 奥入瀬渓流のほぼ中間に石ヶ戸と呼ばれる場所があります。駐車場や休憩所があって、いちばん人出で賑わう場所ですが、そこから500mほど下った場所にあるのが三乱(さみだれ)の流れです。三つに分かれた流れが再び合流することからこの名前がつけられたようです。
 流れも綺麗ですが、今の時期はツツジが咲いていて、個人的にはいちばん奥入瀬を感じる場所の一つだと思っています。車道から見下ろせる位置にあり、路肩に車を停めて見入っている人もたくさんいます。

 下の写真は道路脇からツツジと流れを入れて撮影した1枚です。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F32+1/3 5s Velvia100F

 この辺りは奥入瀬渓流のなかでも最もたくさんのツツジを見ることができる場所です。対岸にあるツツジの中でいちばん花付きの良い樹が入る場所を選んで撮りました。種類はヤマツツジだと思うのですが、ここのヤマツツジの花色はピンクに近い色をしています。
 川の水深は30cmほどではないかと思うのですが、岩の上をすべるように流れていて、いたるところにある岩の凹凸によって変化のある流れが生まれています。

 この写真は焦点距離210mmのレンズで撮っています。フィルムは4×5判ですので画角は35mm判カメラの60mmくらいの焦点距離のレンズに相当します。標準と中望遠の中間くらい焦点距離なのであまり広い範囲は写りませんが、ツツジと流れを強調しようという意図でこのレンズを使っています。
 被写界深度は深くないので、手前の岩から奥のツツジまで前面にピントを合わせるため、カメラのフロント部のアオリをかけています。

 流れの柔らかさを出しつつも表情(変化)が消えてしまわないようにということで、露光時間は5秒にしています。5秒というとわずかな風で葉っぱがブレてしまうには十分すぎる時間ですが、ほぼ無風状態だったのでほとんどブレがわからないくらいに写ってくれました。
 また、早朝の感じが損なわれないように、露出は若干切り詰め気味にしています。

 三乱の流れから少し上流に行くと石ヶ戸の瀬と呼ばれる場所があります。三乱の流れに比べて傾斜があり、川幅も狭いので流れに激しさがあります。川中に大きな岩がゴロゴロしていてその間を縫うように流れているので、立つ場所が少し違うだけで見える景色はずいぶんと異なります。奥入瀬渓流でいちばん撮影ポイントが多い一帯かも知れません。

 この一帯はツツジよりもタニウツギが多く見られます。タニウツギはツツジに比べるとずいぶん小さな花で地味な感じですが、花数が多いので新緑に色どりを添えてくれています。

 石ヶ戸の瀬の上流に近い場所で撮影した一枚が下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F22+1/2 2s Velvia100F

 左上にある大きな岩の後方から流れて来ているのが良くわかるポジションから撮りました。画の中央奥から左に、そして右に流れていくように変化をつけてみました。流れの面積が大きくなりすぎないように、適度に岩や草を配置しました。
 森の上の方は木々の密度が低く、かなり明るい状態になっていて、そこが画に入ってくると全体的に軽い感じになってしまうのでその部分はフレームアウトしています。
 また、川中の岩の上にタニウツギが咲いていて、大きな木ではありませんがしっかりと点景になってくれました。

 流れが作り出す波が真っ白に飛びきってしまわないギリギリのところ、そして、背後の森が明るくなりすぎないところで露出を決めています。
 この写真も1枚目と同じようにフロント部でアオリをかけています。

優美さと豪快さが融合した滝

 奥入瀬渓流で滝が多く見られるのは上流域です。上流域になると本流の流れは中流域に比べて単調な感じになりますが、川の両側が切り立った崖になっていて、そこに幾筋もの滝を見ることができます。、落差の大きな滝は見応えが十分にあります。いくつかの滝を除いては近くまで行くことができないので、この季節は木々の葉っぱの合間から見るような状態です。

 そんな滝の中で滝つぼの前まで行くことのできるのがこの雲井の滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 180mm 1:5.6 F45 4s Velvia100F

 落差は25mほどあるらしいですが、三段になって流れ落ちていて、水量も多いので迫力があります。風向きにもよりますが、滝つぼの前まで行かなくても近づいただけで飛沫の洗礼を受けます。
 近づきすぎると滝の上部が見えなくなってしまうので、全景を撮るのであれば飛沫のかからない辺りまで引いて撮影することになります。
 また、この滝は上の2段は右岸側に、下の段はわずかに左岸を向いて落ちているので、直瀑に比べるといろいろなバリエーションで撮ることができます。

 この写真は滝つぼまで20~30mの位置から撮っていますが、焦点距離180mmのレンズを使っているのでカメラを上に向けています。そのため、そのままでは滝の上部が小さくなり迫力がなくなってしまうのでフロント部のライズアオリをかけています。

 雲井の滝は車道からすぐのところにあるのでアクセスも良くて訪れる人も多いですが、ここから上流に行くと人の数はぐっと減ります。滝の見えるところでは車や観光バスが停まっていたりしますが、上流にある銚子大滝までの間、遊歩道を歩いている人はまばらになります。

 その銚子大滝は本流にかかる唯一の滝で、落差約7m、幅はおよそ20mもある豪快な滝です。6月ごろはいちばん水量の多い時期で、滝からかなり離れても飛沫を浴びます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm 1:5.6 F22 6s Velvia100F

 この写真を撮ったのは雨が降り出しそうに曇った日の早朝で、辺りはかなり薄暗い状況です。滝の周囲を暗く落とし、秘境っぽい感じを出そうと思って撮りました(実際にはすぐ近くに駐車場があり、全く秘境らしくないのですが)。
 画手前(下側)の倒木の上に生えている植物はシルエット気味に写し込みたかったのですが、8秒という露光時間のため、ブレが目立ってしまいました。また、あちこちで木の葉もブレています。

 早朝は訪れる人もほとんどなく、ゆっくり撮影することができます。日中、大型観光バスが着くとどっと人が降りてきて、つかの間、滝の周辺はとても賑わいますが、バスが行ってしまうと滝の音だけが聞こえる空間に戻ります。

岩上に根を下ろした植物たち

 奥入瀬渓流は流れと岩や植物によってつくられる造形美が魅力ですが、そんな景色をつくり出しているのに欠かせないのが岩上の植物です。
 奥入瀬渓流は火山活動によって形成された火砕流台地だったらしいのですが、数万年前に十和田湖の子ノ口が決壊し、大洪水が発生して侵食されたという生い立ちがあるようです。そのため、渓流の中には大小たくさんの岩が転がっていて、その上に植物が根を下ろした光景はとても風情があります。中には大木にまで育っているものもありますが、シダなどの野草類が自生している姿にはつい立ち止まり見入ってしまいます。

 下の写真は流れがとても穏やかなところで見つけたものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F16 1s Velvia100F

 生えているのは主にフキだと思いますが、下の方にはカエデのような形をした葉っぱも見られます。周囲は深い緑に囲まれているため、それが水面に映り込んで全体が黄緑色に染まっています。
 上流から流れてきたと思われるのですが、川底にひっかかって先の方だけが水面に出ている木の枝があり、これがとても良いアクセントになってくれました。背景の木々の映り込みだけでは単調になってしまいがちですが、この枝のおかげで川面に波がつくられ、動きが感じられます。
 露光時間が長すぎて水面が白くなってしまわないように、また、適度に流れが感じられるようにということで1秒の露光をしています。

 フキの葉っぱが反射で白くなっているところがあります。これを取り除こうと思いPLフィルターを弱くかけてみましたが、全体がベッタリとした感じになってしまうのと、水面の反射も弱くなってしまうので、結局、使うのをやめました。

 もう一枚、前の写真とは反対に流れの激しいところで撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F11+1/3 1/4 Velvia100F

 オニシモツケではないかと思うのですが違うかも知れません。奥入瀬の岩上植物ではいちばん多いのではないかと思えるほどよく見かけます。三つ葉のような形をした葉っぱがとても涼しげです。
 白波を立てている流れに対して、微動だにしない野草の凛とした感じを出したくて撮った一枚ですが、背景はぼかし過ぎず、この場の環境が良くわかる程度にぼかしました。大雨などで水量が増えれば流されてしまいそうなところに根を下ろした偶然。しかし、そんな杞憂はまったく関係ない、今を力の限り生きている姿に感動します。

悠久の時を経た手つかずの森

 奥入瀬の渓流沿いを歩いていると、両側に広がる森の植生が場所によって異なっているのがわかります。下流域は比較的明るい感じのする森ですが、上流域に行くにしたがって原始の森といった雰囲気が漂ってきます。林床はシダで覆われ、岩や倒木にはびっしりと苔が生えていて、恐竜が出てきそうな様相です。
 木が倒れたりしても、それが道路などにかかってさえいなければ一切手を加えられることはなく、自然の営みに任された森といった感じです。

 銚子大滝から少し下った森の中に、ゾウが歩いている姿にそっくりな大きな岩があります。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SWD75mm 1:5.6 F11+1/2 1s Velvia100F

 岩の上に木が倒れていて、それがまるでゾウの鼻のように見えます。ゾウの正面(写真では左方向)の方に行くとゾウには見えないのですが、この写真の位置から見ると、鼻を持ち上げたゾウがゆっくりと向こうに歩いて行っているように見えます。この倒木がいつからこのような状態になったのかは知りませんが、自然というのは時に面白いものを見せてくれます。
 奥深い森の感じを出すために、手前にできるだけたくさんのシダを入れてみました。そして、露出はアンダー気味にしています。

 春の山菜としても有名なゼンマイや、少し森に入れば普通に見ることができるオシダなど、シダの仲間の風貌は独特で、それが生えているだけで太古の森といった感じがします。シダの仲間は種子を持たず胞子で増えるというのを小学校の理科の授業で教えてもらったときに、ちょっと不気味な印象を持った記憶がありますが、それを今でも引きずっていてそんな風に感じるのかも知れません。ですが、今はとても魅力のある被写体だと感じています。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-Symmar 150mm 1:5.6 F5.6 1/125 Velvia100F

 上の写真は苔むした樹の幹とシダの取り合わせが面白いと感じて撮った1枚です。
 背後は川ですが大半を幹で隠し、ちょっとだけ見えるようにしました。絞りは開放にして背景はできるだけぼかしています。
 雲が切れて森の中に光が差し込んでおり、画全体が緑被りしているように見えます。深い森の新緑の季節ならではの光の演出といった感じがします。

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 コロナがだいぶ落ち着いてきたからなのか、今年の奥入瀬の人出は少し増えたように感じました。とはいえ、人気のポイント以外のところは人の数も少なく、静かなたたずまいです。
 今回、主に中流域と上流域を撮影しましたが、片道およそ9kmあります。散策するだけなら1日でも十分ですが、撮影しながらだととても1日では回りきることができません。天気は毎日変わるので、昨日撮影した場所に今日行くと全く別の景色に見えたりして、なかなか前に進めません。同じ場所であっても毎回違った発見があるということなので、それはそれで良しとしておきますが、一方でまだ撮影できていない場所もたくさんあります。

 なお、余談ですが、今回の撮影行でクマを2度見かけました(奥入瀬ではありません)。いずれもかなり離れていたので恐怖感はありませんでしたが、今年は各地でクマの出没が多いようです。

(2023年6月8日)

#奥入瀬渓流 #新緑 #渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

第149話 山笑う 初夏の輝く新緑を撮る

 俳句の春の季語に「山笑う」というのがあります。山の草木が一斉に若芽を吹いて、山全体が明るい景色になる様子を表現した言葉と言われています。それまでは幹や枝ばかりで寂しげだった山が一変する様子を見事に表現していると思います。
 確かに初夏の山の色合いは鮮やかでやわらかで、何ともいえない美しさがあります。日を追うごとにその色合いは濃さを増していき、若葉の色を愛でることのできる期間は長くはありません。秋の紅葉のような華やかさはありませんが、新緑を見ていると生命のエネルギーを感じます。
 そんな初夏の新緑を撮ってみました。

 ちなみに、夏の山を形容する季語は「山滴る」と言うそうです。あらためて、日本語の豊かな表現に感じ入ってしまいます。

芽吹きを撮る

 木の種類によって若干の違いはあるものの、まるで申し合わせたように一斉に芽吹いて、森全体が淡い黄緑色に染まっていきます。硬かった芽が膨らんで芽吹きが始まると、わずか数日ですべての葉っぱが開ききってしまいます。
 下の写真はカエデが芽吹いて間もないころに撮影したものですが、まだ開ききっておらず、畳んだ傘のような恰好をしています。少し前までは茶色っぽい硬い芽だったにもかかわらず、そこからこんなに大きな葉っぱが出てくるのですから、まったくもって自然の力は偉大で不思議です。見ようによってはさなぎから羽化したばかりの蝶のようにも見えます。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F5.6 1/60 Velvia100F

 背後にはブナやクヌギなどの木があり、いずれも芽吹きが進んでいて、褐色の木の幹や枝ととても美しいコントラストをつくり出しています。どれも同じような淡い黄緑色ではありますが、種類によって微妙に色合いが異なっていて、そのグラデーションもとても綺麗です。

 このような写真を撮る場合、被写界深度を深めにして出来るだけ多くの若葉にピントを合わせるか、逆に被写界深度を浅くして、ごく一部の若葉だけにピントを合わせるか、悩むところです。前者の場合は状況がわかる写真になりますが、若葉が背景に埋もれ易くなってしまいます。また、後者の場合、若葉は浮かび上がってきますがその場の状況はわかりにくくなってしまいます。
 新緑の風景として撮るのであれば、ある程度の広範囲を写す必要がありますので、森全体が芽吹きの時期を迎えているということがわかりつつも、出来るだけ多くのカエデの若葉にピントを合わせたいということで撮りましたが、もう少し背景をぼかしたかったというところです。

 もっと広い範囲で森の芽吹きの様子を撮ろうと思い、撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAC67 55mm 1:4 F16 1/15 Velvia100F

 この写真は露出をかなりオーバー気味(+2段ほど)にしています。実際の森の中はこの写真ほど明るくはないのですが、若葉を明るく写したかったので思い切って露出をかけてみました。木々の幹の色も白っぽくなり重厚さが失われておりますが、この時期の爽やかな感じを狙ってみました。しかし、やはり全体に飛び気味です。

新緑の大樹を撮る

 大樹というのはそれだけで存在感に溢れていて、四季を通じて魅力のある被写体の一つです。
 このような大きな木の全体を撮ろうとすると、被写体からかなり離れなければなりません。しかしそうすると、ぽつんと生えている一本桜のようなものでもない限り、周囲の木々も写り込んでしまい、焦点の定まらない写真になってしまいます。
 ですが、周囲を大きな木に囲まれていてもまさに紅一点の例えのように、その一本だけが異彩を放っていると遠くからでもとてもよく目立ちます。

 これはケヤキの大木ではないかと思うのですが、周囲を杉などの針葉樹に囲まれている中でとても目立った存在でした。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON T400mm 1:8 F32 1/30 PROVAI100F

 逆光に近い状態であり、ほぼ真上方向から太陽の光が差し込んでいて、開いたばかりの若葉が黄色く輝いています。周囲が黒っぽく落ち込んだ色調なので一層目立っています。
 隣にある若干赤っぽく見える木は山桜ではないかと思うのですが、定かではありません。

 この木がある場所は山の北側の急斜面です。それを数百メートル離れた場所から望遠レンズで撮りました。若干短めのレンズを使って、もう少し広い範囲を写した方が窮屈さがなくてよかったかもしれませんが、大樹の存在感を出すにはこれくらいの大きさの方が望ましいようにも思います。
 周囲の杉は植樹されたものだと思いますが、このケヤキや桜だけは伐採されずに昔からここにあったのでしょう。神が宿っているのではないかと思える大樹です。

川面への映り込みを撮る

 渓流や滝などに限らず、水の流れを見るとなぜか無性に撮りたくなります。何故そう思うのか、うまく説明できないのですが、水は命をはぐくむためになくてはならないものだということがそう思わせるのかも知れません。
 もちろん、植物にとっても水は欠かせない存在であり、水と植物の組合せというのは不思議な魅力があります。雨上がりの生き生きとした植物の姿はその代表格かも知れません。
 また、湖面などに写り込んだ景色も素敵で、単に樹だけを見ているよりも趣を感じるから不思議なものです。

 下の写真は清流の上に張り出している木の枝ですが、そこにに光が差し込み、川面に写り込んでいる状態です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm 1:6.3 F22 1/60 Velvia100F

 この川は水がとても綺麗で、川底の石の一つひとつがわかるくらいです。水深も浅いうえに流れが穏やかなので、まるで湖面のように新緑を映し込んでいます。若葉を透過してきた黄緑色の光が川面に降り注いでいるため、水が黄緑色に染まっているように見えます。それどころか、この渓流全体の空気までも黄緑色に染まっているような錯覚を覚えます。
 黄緑色の光の感じを損なわないように露出はオーバー目にしていますので、若葉はかなり飛び気味です。少々、葉っぱの質感が失われてしまっていますが、葉っぱを適正露出にすると全体が暗くなってしまい、全く雰囲気の異なる写真になると思います。

 夏になり、葉っぱも濃い緑になるとこのような輝きは見られなくなてしまいます。それはそれで違った美しさがありますが、葉っぱ自体が発光しているような輝きを見ることができるのも新緑ならではです。

多重露光で撮る

 一口に多重露光と言ってもその表現方法は様々で、全く違う画像を重ね合わせるアート的なものもありますが、私が時々撮るのは、同じ場所で複数回の露光をするという最も簡単な方法です。もちろん、同じ場所で複数回の露光をするだけでは露光時間を長くしたのと変わらないので、1回目と2回目の露光でピント位置を変えて行ないます。ピントを外して露光するとぼやけるので、これを重ね合わせるとソフトフォースレンズで撮ったような雰囲気の写真になります。

 新緑の中にツツジ(たぶんミツバツツジではないかと思います)が一株だけ咲いていたので、これを多重露光で撮ってみました。

▲KLinhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm 1:5.6 F32 1/60、F8 1/250

 1回目は被写界深度をかせぐために出来るだけ絞り込んで撮影し、2回目は少しピントを外し、絞りも開いて撮影しています。
 2回とも適正露出で撮影すると結果的には2倍の露出をかけたことになり、若干露出オーバーになりますが、この新緑の鮮やかさを出すためにその方が望ましいだろうということで補正はしていません。
 また、2回目は前ピン(近接側)に外しているので、周辺部の方が画のずれが大きくなり、大きくボケているような印象になりますし、暗いところよりも明るいところのボケの方が大きく感じられます。

 このような多重露光の方法の場合、ぼかし具合と露出のかけ方によってずいぶんと印象が変わってきますが、全体的に柔らかな感じになるのと、メルヘンチックな描写になる傾向があります。被写体によっても印象が変わりますので、いろいろ試行錯誤してみるのも面白いかも知れません。

マクロで撮る

 マクロ写真はまったく違った世界を見せてくれるので、その魅力に取りつかれてしまうことも多いのではないかと思います。だいぶ前になりますが私もマクロ撮影にはまってしまい、一時期はマクロ撮影ばかりやっていたことがあります。私の場合、その被写体のほとんどは花でしたが、単に小さな世界を写し取るというだけでなく、たくさんの表現手法を使うことができるのも魅力の一つかも知れません。

▲PENTAC67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 上の写真は初夏に小さな白い花をつけるドウダンツツジです。公園の生け垣などにもよく使われているので身近な被写体といえると思います。
 朝方まで降っていた雨のため、葉っぱや花のあちこちに水滴が残っており、とてもいいアクセントになっています。また、水滴のおかげで玉ボケもできて、画に変化を与えてくれています。

 マクロ撮影の場合、被写界深度が非常に浅く、ピントの合う位置は一点のみといっても良いくらいですが、写り込む要素が多すぎると画全体がうるさくなってしまうので、主要被写体以外は出来るだけ大きくぼかしておいた方がすっきりとした写真になります。
 ドウダンツツジはたくさんの花をつけるので、画がゴチャゴチャしないように一輪だけひょんと飛び出した花を狙って撮りました。もちろん、前後に葉っぱもたくさんあるのですが、これらは大きくぼかして初夏の印象的な色合いになるようにしました。真っ白で清楚な感じのする花も綺麗ですが、新緑の鮮やかな色あいが爽やかさを感じさせてくれます。

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 新緑だからといって特別な撮影方法があるわけではなく、自分なりの表現手法で撮ればよいわけですが、いざ撮ろうとすると意外と難しいと感じるのも事実です。その美しさに自分の気持ちばかりが先走っているのかも知れません。
 自分の腕はともかく、新緑の美しさが格別なのは言うまでもありません。一年のうちのわずかの期間だけしか見ることのできない新緑の芽吹きは代えがたいものがあります。秋の紅葉も綺麗ですが、刹那の美しさという点では新緑は群を抜いているように思います。

 標高の低いところでは新緑の季節はすっかり終わってしまいましたが、高山に行けばまだ見ることができます。行くまでが大変ですが、高山の新緑はまた格別です。

(2023.5.15)

#PENTAX67 #Linhof_MasterTechnika #新緑 #ペンタックス67 #リンホフマスターテヒニカ

第144話 隅田川に架かる橋 ライトアップ夜景 -吾妻橋・隅田川橋梁・駒形橋・厩橋・蔵前橋-

 隅田川は岩淵水門で荒川から分岐して東京湾にそそぐ川ですが、たくさんの橋が架かっています。東京オリンピックの開催に向けてライトアップの整備も行われたため、それぞれ、個性的な景観を見ることができます。ライトアップは日没の15分後から夜11時ごろまで行われており、今の時期は午後6時を少し回った頃からライトアップが始まります。長時間ライトアップされているので、ゆっくりと撮影することができます。
 また、川の両岸は整備された広い遊歩道が続いており、フットライトも設置されているので足元も安心です。散歩をする人、ジョギングをする人、撮影をする人等々、多くの人がいらっしゃいますが、私のようにフィルムカメラを持ち込んでも安心して撮影できる場所です。

 今回、特に橋が密集している浅草界隈でライトアップされた橋の撮影をしてきました。
 なお、今回の撮影はISO100のリバーサルフィルムを使用しました。

赤色のライトアップ 吾妻橋

 吾妻橋は、浅草駅の入り口あたりから対岸のアサヒビール本社ビルの手前あたりに架かっている橋で、隅田川に架かる橋の中では最初の鉄橋らしいです。現在の橋は1931年の開通とのことですので、90年以上が経っていることになります。
 3つの径間をもった綺麗なアーチ橋です。橋の上部に構造物がないため、明るいときに見るととてもさっぱりとしたというか、簡素な感じがしますが、品格のある美しさを感じる橋です。

 ライトアップされた吾妻橋を浅草側から撮影したのが下の写真です。

▲吾妻橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 16s PROVIA100F

 アーチ部分の鉄骨も赤色で塗装されていますし、昔は灰色だったらしいのですが、欄干部分も赤系になっていることもあり、ライトアップされると橋全体がとても華やかな印象になります。欄干の部分の照明色は季節によって変わるようで、今は桜色というかピンク色に照明されていました。
 アサヒビール本社ビルの屋上に設置されている金色のオブジェもライトアップされていて、不思議な景観を作り出しています。もう少し引いて撮ると、左の方に東京スカイツリーがあります。

 少し風のある日でしたが水面が大きく波立つほどではなく、長時間露光にもかかわらず水面に映る照明の色合いがしっかりと残ってくれました。
 いちばん手前のアーチの下が暗くなっているのがわかると思いますが、何故かここだけ照明がされていないようでした。ここも赤い鉄骨が浮かび上がると、もっと華やかな感じになったと思うのですが。

白色のライトアップ 隅田川橋梁

 吾妻橋の少し上流側にある東武伊勢崎線の隅田川橋梁と、そこに併設されているすみだリバーウォーク(遊歩道)です。
 すみだリバーウォークは朝7時から夜10時までが通行可能で、浅草の浅草寺と東京スカイツリーの間を行き来するのにとても便利です。遊歩道の床板にはガラスがはめ込まれていて、隅田川を真上から見ることができます。

▲隅田川橋梁:PENTAX67 smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 60s PROVIA100F

 隅田川橋梁は電車が通る橋なので重量級の建造物という感じがしますが、架線柱がお洒落なデザインになっていて、隅田川の風景にマッチしているように思います。
 また、この橋を渡るとすぐに浅草駅がある関係で、電車はこの橋を通るときとてもゆっくりとしたスピードになり、時には橋の上でしばらく停車していることもあります。この橋を電車が通過する景色はとても絵になります。

 橋の上部や架線柱は季節によって照明色が変わるようですし、また、イベントがあったりすると特別照明がされるようです。一方、下部の方は白い照明ですが、太い鉄骨を一層無機質な感じに照らし出します。何だか、未来都市の一部を見ているような気になります。
 架線柱の真下に見える薄緑色の光は通過する電車の窓の明かりです。右方向からゆっくりした速度で来て、左の方にある浅草駅に入っていきました。高速で通過してしまうとこんなに明るく写らないのですが、これもこの橋梁ならではの景色かも知れません。

 白い鉄骨の部分の質感が損なわれないようにするため、露出のかけ過ぎに気をつけたのですが、水面が思ったほど明るくなってくれませんでした。もう半段くらい、露出を多めにしても良かったと思います。

青色のライトアップ 駒形橋

 上野から東に延びている浅草通りに架かっている橋です。浅草側の橋のたもとに「駒形堂」というこじんまりとした観音堂がありますが、これが名前の由来のようです。橋が架かる前は渡し舟で川を渡っていたらしいです。
 橋脚の上にはバルコニーのようなものが設けられていて、中世のお城のようなデザインです。このバルコニーからは東京スカイツリーや隅田川に沿って走る首都高が良く見え、絶好の撮影スポットです。

 ちょっとレトロ感の漂う橋ですが、夜になってライトアップされると雰囲気が一変します。

▲駒形橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F22 16s PROVIA100F

 橋の両端のアーチは下側にありますが、中央のアーチは橋の上部に設置されていて、三つのアーチがとても綺麗な弧を描いています。橋の下側には照明がありませんが、欄干やアーチを照らす明かりがかなり明るいので、水面への映り込みもとても見事です。青系で統一された色合いはちょっと冷たい感じがするかも知れませんが、暗い背景とのコントラストは抜群に綺麗だと思います。

 隅田川は屋形船や観光船などがたくさん往来しているので、船が来るのを待ってその光跡を入れたものも撮ってみました。右から左にオレンジ色の線がスーッと入って温かみを感じるような画にはなりますが、この橋には余計な光がない方がお似合いだと思います。

薄緑色のライトアップ 厩橋

 厩橋は、駒形橋から少し下流に行ったところにある3連のアーチ橋です。「厩」という名前が示すように、この橋にはいたるところに馬のレリーフやステンドグラスなどが埋め込まれています。
 流れるような優美な曲線で構成されたアーチが特徴的で、太い鉄骨で組み上げられているにもかかわらず、柔らかな感じのする橋です。アーチ部分に大量に打ち込まれているリベットさえも景色になっているように思えます。
 橋の上を車で走ってしまうと、その橋の形などはなかなかわからないものですが、この厩橋は特徴的な3連アーチが車の中からも良くわかります。

 そんな3連アーチ橋ですが、ライトアップで優美さは更に増します。

▲厩橋:PENTAX67 smc PENTAX67 55mm 1:4 F22 12s PROVIA100F

 薄緑を基調に、全体的に淡い色合いの照明がなされています。橋の形が柔らかな感じなので、あまり強い色調の照明よりもこのくらいの方が似合っていると思います。
 この写真を撮ったとき、欄干部分はパステル調の青と紫色で照明されていましたが、季節によって変えているようです。

 橋の上部に大きなアーチが三つあることで、ライトアップされると遠くからでもいちばん目を引く橋です。この写真は橋の北側(上流側)から撮っていますが、橋の下をくぐって反対側に行くと東京スカイツリーとアーチがちょうど重なる位置関係になります。
 駒形橋と同じでこの橋も橋脚部分を除いて、橋の下部の照明はありません。肉眼だともっと明るい感じなので、もう少し露光時間を長くしても良かったかもしれません。

黄色のライトアップ 蔵前橋

 厩橋から数百メートル下流に架かっている橋で、形状は吾妻橋によく似ています。稲のもみ殻をイメージさせるということで、淡黄色というか黄檗色というか、そんな感じの色で塗装されています。
 大相撲の国技館、今は両国にありますが、その前は蔵前にあったことから、橋の高欄には力士のレリーフが施されています。橋の上は障害物もなくとてもすっきりとしていて、高速道路を走っているような錯覚を感じてしまう橋です。

▲蔵前橋:PENTAX67 smc TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F22 24s PROVIA100F

 黄色系の照明はとても明るく感じるせいか、ライトアップされると圧倒的な存在感があります。
 アーチの下側に整然と並んで組まれている鉄骨が浮かび上がり、とても綺麗です。無機質な鉄骨の建造物でありながら、周囲の景観と見事に調和している感じです。石造りの橋脚も趣があって、控えめな照明が作り出す陰影が美しいです。

 黄色は見た目以上に明るいので、露出計任せにすると暗く写ってしまい、濁った色合いになってしまいます。特にこのような夜景では思い切って多めに露出をかけた方が綺麗に仕上がります。
 上の写真でも、弧を描いているアーチの部分はほとんど白飛びしてしまっています。中央のアーチの上部には橋の名前が書かれているのですが、これが読めるように適正な明るさにすると鉄骨の部分はかなり暗くなってしまい、橋の優美さが損なわれてしまいます。

 今回使用したISO100のフィルムは常用感度(と言っても、リバーサルフィルムで現在手に入るのはISO100とISO50の2種類しかないのですが)といえるフィルムですが、決して感度が高いというわけではありません。夜景のような撮影の際、露光時間を長くしても弱い光をとらえきることは難しく、硬い感じの写真に仕上がってしまいます。
 それはそれで気持ちの良い描写ですが、明るく表現するか、暗く表現するかは撮り手の作画意図や伝えたいものによって異なります。ですが、出来るだけたくさんの光をとらえつつも、過度な露出オーバーにならないように露出を決めたいという思いもあり、そのような写真を撮るには神経を使います。

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 今回撮影した橋のうち、吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋は関東大震災の復興橋梁として架けられた9橋に含まれ、いずれも建設から90年以上が経っていますが、古臭さはまったく感じられません。むしろ、近年の建造物よりもずっとセンスがあると思います。
 さらに下流に行くといくつもの個性的な橋が架かっているので、そちらの撮影にも出かけてみたいと思っています。

 例年だと今の時期は夜になると肌寒いのですが、今年は暖かくなるのが早く、重い機材を担いで川べりを歩いていると汗ばむくらいでした。季節によって違った景観を見せてくれますが、撮影するにはいまがいちばん体への負担が少ない季節です。

(2023.3.31)

#PENTAX67 #吾妻橋 #駒形橋 #厩橋 #蔵前橋 #リバーサルフィルム #ペンタックス67