大判カメラでの撮影時に気をつけたいこと あれこれ

 大判カメラの構造は非常にシンプルですが、それゆえに撮影するためにはいろいろとやるべきことが多く、結構な手間がかかります。一眼レフカメラのように、ファインダーを覗いて構図を決めてシャッターを切るだけというようなわけにはいきません。
 大判カメラといってもいろいろな種類やタイプが存在しますが、今回は金属製のフィールド(テクニカル)タイプカメラであるリンホフマスターテヒニカやウイスタ45を対象に、撮影に関する操作において気をつけたいことをまとめてみました。
 金属製フィールドタイプでも他の機種であったり、ビューカメラや木製(ウッド)カメラには当てはまらない内容もありますので、予めご承知おきください。

レンズスタンダードを引出す際は可動トラックを奥まで押し込む

 ベッドが折りたためるようになっているフィールドタイプカメラの多くは、可動トラックと本体内レールの間に20~30mmほどの隙間があります。

▲本体内レールと可動トラックのレールとの隙間

 ベッドを畳むときにぶつからないようにこの隙間が必要なわけですが、この隙間がある状態でレンズスタンダード(Uアーム)を引き出すと、可動トラックのレールの端にレンズスタンダードのベースがぶつかり、繰り返すうちにレールが徐々に削れてしまうということになります。
 また、この状態でレンズスタンダードを引き出すとまっすぐ移動せず左右にぶれてしまい、レールとの嵌合精度が狂ってしまうことにもなりかねません。

 これを防ぐため、カメラ本体からレンズスタンダードを引き出す場合、可動トラックを奥まで押し込んで本体内のレールとぴったりと着く状態にしておくのが望ましいです。
 可動トラックを奥まで押し込んだ状態が下の写真です。

▲本体内レールと可動トラックのレールをぴったりとつける

 可動トラックを奥まで押し込まずにレンズスタンダードを引き出すのを見かけることもあります。面倒くさいかも知れませんが、カメラをいつまでも最良の状態で使うためにも、ひと手間かけるのが良いと思います。

レンズ取付け時はレンズボード押さえと本体を手で挟まない

 レンズをレンズスタンダードに取り付ける際、レンズボード押さえを上に持ち上げる必要があります。この時、レンズボード押さえとカメラ本体の後部を手で挟んでレンズボード押さえを持ち上げようとすると、可動トラックに対して垂直に設置されているレンズスタンダードの関係が狂ってしまいます。
 レンズボード押さえのバネの力は結構強くて、実際にこの操作をやってみるとレンズスタンダードがカメラ後方に傾くのがわかると思います。

▲レンズスタンダードと本体を手で挟むと歪みのもとになる

 一度くらいでは問題ないでしょうが、このような方法でレンズを取付ける癖がつくと長年の間には何百回、何千回と行なわれることになるので、カメラにとっては好ましい状態ではありません。

 そうならないために、下の写真のようにレンズボード押さえを指でつまんで上に持ち上げるようにします。

▲レンズボード取付け時はレンズボード押さえだけを持ち上げる

 木製のカメラによくみられるようなスライド式のレンズボード押さえを採用しているカメラではこういった心配はありませんが、バネの力で押さえる方式は操作は簡単ですが注意が必要です。
 中古カメラの購入を検討する際、可動トラック上に引き出したレンズスタンダードにガタがあるようだと、ひょっとしたら長年にわたってレンズスタンダードとカメラ本体を手で挟まれてきたのかも知れません。

ケーブルレリーズを取付けたままブラブラさせない

 一般的にレンズをレンズボードに取付ける場合、レリーズ取付け部が上を向くような位置にすることが多いと思います。
 この位置はケーブルレリーズを取付けるには操作し易いのですが、取り付けた状態でケーブルレリーズをブラブラさせたままにしておくと、重みでレリーズ取付け部に負担がかかります。
 また、ケーブルレリーズもつけ根のところから180度曲がってしまい、ケーブルレリーズにとってもあまりよい状態とは言えません。

▲ケーブルレリーズをブラブラさせておくと、取付け部に負荷がかかる

 レリーズの種類にもよりますが、レリーズ取付け部とかみ合うネジ山がごくわずかという場合があり、強い力がかかると外れてしまったり、最悪の場合、破損してしまう可能性もあります。特に長いケーブルレリーズをつけた場合はかなりの重さになり、強い風で揺れたりすると何倍もの力がかかります。

 ケーブルレリーズはカメラ本体や三脚などに固定しておくことで、こういった問題を防ぐことができます。

フィルムホルダーを差し込む前に各部をロックする

 大判カメラは構図決めの際に動かす箇所がいくつもあります。アオリを使うとその数はさらに増えます。
 あちこち動かしながら構図を決めピントを合わせ、さて撮影という段になり、フィルムホルダーをカメラに差し込もうとフォーカシングスクリーンを持ち上げたとたん、カメラが動いてしまったなんていう可能性もあり得ます。そうなると、せっかく合わせた構図やピントもやり直しです。
 そんなことにならないように各部をしっかりロックしておく必要があります。
 また、大判カメラは重量もありますので、三脚(雲台)の各部もしっかり締めておく必要があります。

▲撮影前に各部をロックする

 ロックを忘れていちばん影響を受けるのはバック部をあおったときです。ロックせずにフォーカシングスクリーンをグイッと持ち上げようとすると、フォーカシングスクリーンが持ち上がらずにバック部が目いっぱい引き出されてしまいます。

 構図決め、ピント合わせが終わったら各部のロックネジを全て締めるように習慣づけておくのが望ましいです。

フィルムホルダーをトントンしてフィルムの移動を防ぐ

 大判カメラで使うシートフィルムホルダーのフィルムが入るスペースは、フィルムのサイズより若干大きめに作られています。このため、フィルムはフィルムホルダー内で前後左右にわずか(1~2mm)に動きます。
  フィルムがホルダー内で上側によっていると 、フィルムホルダーをカメラにセットした時、フィルムの重みで下側に移動してしまうことがあります。運悪く、シャッターが開いているときにこれが起こるとブレブレの写真になってしまいます。長時間露光の時は特に要注意です。

 フィルムホルダーをカメラにセットした時、下側になる位置にフィルムを寄せておくことでこれを防ぐことができます。
 下側になる方を手のひらにトントンとたたくことで、ホルダー内のフィルムが下側に移動します。

▲フィルムがホルダーの下側にくるようにトントンする

 フィルムが動いてしまうということはそう頻繁に起きるものではありませんが、動いたかどうかはわからないので、渾身の一枚が無駄にならないように念には念をといったところでしょうか。

シャッターチャージ後はシャッター速度を変更しない

 大判カメラ用のレンズにはシャッターが組み込まれていますが、シャッターをチャージするとシャッター速度を司るガバナーもセットされます。その状態でシャッター速度を切り替えるとガバナーも動くため、あまり好ましくないと言われています。
 実際に試してみるとわかりますが、シャッターをチャージする前はシャッター速度ダイヤルは軽く回りますが、シャッターをチャージた後にシャッター速度ダイヤルを回すと少し重くなり、「ジッ」というような音が聞こえます。
 実際にどの程度の悪影響があるのかはわかりませんが、チャージ後のシャッター速度の変更は避けたほうが良いようです。

▲シャッターチャージ後はシャッター速度を変更しないのが望ましい

 シャッターをチャージした後にシャッター速度を変えなければならない場合は、いったんシャッターを切り、シャッター速度を変更した後、再度チャージし直すのが良いということでしょう。

カメラをたたむときは各部をニュートラルに戻す

 撮影を終えてカメラをたたむときに気をつけたいのが、各部をニュートラル位置に戻すということです。
 ベッドをたたむためにはレンズスタンダードを本体内に収納しなければならないので、これを忘れることはまずありませんが、忘れがちなのがあおった状態を元に戻すことです。
 例えば、フロントライズやフロントシフトしたままレンズスタンダードを収納しようとすると、蛇腹がカメラの外枠に当たってしまったり、当たらないまでも蛇腹がずれた状態でたたまれてしまいます。
 また、可動トラックを奥に入れた状態でベッドをたたもうとしてもたためませんが、無理に力を加えると破損してまう可能性があります。

 各部がニュートラル位置にない状態でたたもうとすると動きが重くなったりするので、少しでも変な感触があるような場合は無理をしないで確認をしてみる必要があります。

 中古カメラ店で大判カメラを見せてもらうと、明らかに無理をして壊してしまったと思われるものが結構あります。金属製のカメラは剛性が高いので、普通に使っている分には簡単にガタが出ることもないのですが、長年にわたって無理を続けるとあちこちに支障が出てしまいます。

カメラを三脚につけたまま移動するときはベッドをたたむ

 撮影場所を移動する際、三脚に大判カメラをつけたまま担いでいる人を見かけることがあります。一眼レフカメラならいざ知らず、大判カメラを、しかもベッドを開いた状態で担いで歩くというのは無頓着すぎる気がします。
 金属製の大判カメラは剛性が高いとはいえ、ベッドを開くと左右2本のタスキで支えられている構造のものが多く、WISTA45はタスキもなく、大型のネジで締め付ける構造になっています。ここに想定外の大きな力がかかると簡単に破損してしまいます。

 ベッドをたためば動く箇所がなくなるので、三脚につけたまま担いでも大きな損傷を受けることもないと思いますが、何しろカメラ自体が大きいので、木の枝にぶつけたりという心配もあります。できれば三脚から外してバッグに入れて移動するのが望ましいですが、最低でもベッドはたたむようにすべきと思います。

▲カメラを三脚につけたまま移動するときはベッドをたたむ

 また、足場が悪いところを歩く場合、短い距離とはいえ三脚に重いカメラをつけたままだと体のバランスもとりにくく、転倒する危険もありますので注意が必要です。

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 大判カメラは撮影自体も何かと手間がかかりますが、その前後にも気をつけなければならないことが多く、面倒くさいと言えば確かにその通りです。しかし、そういう面倒くさいことも含めての大判カメラならではの撮影だと思います。
 また、カメラ自体も決して安くはありませんが、ちょっとしたことに気をつけて大事に使えば一生ものです。とはいえ、形あるもの、いつかは壊れますが、直してまた使えるというのも大判カメラの魅力かも知れません。

(2021.12.21)

#リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

PENTAX67用ソフトフォーカスレンズ SMC PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5

 1990年前後だと思うのですが、PENTAX67用のレンズがSMCタクマーからSMCペンタックスになったタイミングでラインナップされたソフトフォーカスレンズです。
 写真家のデヴィッド・ハミルトン氏や秋山正太郎氏の影響も大きいと思うのですが、当時はソフトフォーカスの人気も高く、いろいろなソフトフォーカスレンズが各社から発売されていました。今ではレタッチソフトで加工して、ソフトフォーカスレンズで撮影したような描写に仕上げてしまうことが簡単にできるので中古市場での人気もイマイチですが、ときどき使ってみたくなるレンズです。

このレンズの主な仕様

 レンズの主な仕様は以下の通りです(PENTAX67 SOFT 120mm 使用説明書より引用)。

   レンズ構成枚数   : 3群4枚
   絞り目盛り     : F3.5~F22
   画角        : 40.5度(67判カメラ使用時)
   最短撮影距離    : 約0.75m
   測光方式      : 絞り込み測光
   フィルター取付ネジ : 77mm
   全長        : 63.5mm
   重量        : 520g

▲SMC PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5

 35mm判カメラ用の焦点距離60mmのレンズと同じくらいの画角ですので、若干長めの標準レンズといったところです。
 
 普通のレンズは球面収差をおさえるために何枚ものレンズを組み合わせていますが、このレンズはあえて球面収差を残すことで芯のある像の周囲にボケを発生させるという原理のようです。
 このレンズは、1986年に製品化された35mm判用のSMC PENTAX SOFT 85mm F2.2というレンズが原型になっていると言われています。SOFT 85mmレンズは私も購入しましたが、ソフト効果が強力過ぎるのと周辺部の画質が良くないという理由でほとんど使わずに手放してしまいました。
 しかしこちらのレンズは、SOFT 85mmと比べるとはるかにきれいな描写をするレンズです。

 PENTAX67用のレンズは多くの一般的なレンズと同様、レンズの前側にピントリングがあり、マウント側に絞りリングがありますが、このSOFT 120mmレンズは絞りリングがレンズ前側でピントリングがマウント側にあり、普通のレンズと配置が逆です。
 このレンズは絞り値によってボケ量が変化しますが、ボケ具合を確認する際、絞りリングが回し易いように前側に配置されているのではないかと思われます。
 また、ピントリングのところに距離目盛りがないのも特徴的です。

 絞り羽根は8枚で、F4で綺麗な円形になります。
 また、絞りリングはF4からF22の間で中間位置にクリックがあります。

▲絞りF4で綺麗な円形になる

独特なピント合わせ

 上でも触れたように、このレンズは球面収差を利用しているため、絞りを絞るにつれて球面収差は小さくなり、F11以上になると目立たなくなります。
 しかし、開放(F3.5)からF5.6辺りではボケが大きくて、ピント合わせがし易いとは言えません。ピントの山がつかみにくいという印象です。

 レンズの使用説明書を見ると、以下のような二通りのピント合わせの方法が示されています。

 1) 絞りをF3.5~8に設定した時は、ファインダーでピント合わせをした後、ピントリングを左に回して補正する。
 2) 絞りを11以上にしてピント合わせをした後、好みのボケ量の位置まで絞りを開く

 一つ目のピント合わせについてですが、球面収差の影響で、肉眼でピントが合っていると見える位置と実際にピントが合っている位置にずれがあるようで、これを補正するためにピントリングを左に動かす(フォーカスシフト)ということのようです。
 下の写真がその補正用の目盛りです。

▲ピント補正(フォーカスシフト)用の指標

 向って右から赤、白、白と3本のラインがありますが、ピント合わせをした後、ピントリングを赤のラインから白のライン位置まで移動させるという操作を行ないます。ボケ(フレア)をあまり大きくしたくないときは真ん中の白いラインまで、ボケを大きくしたい時は左の白のラインまで移動させます。
 ピントリングを左に回すということはレンズが前に繰り出されることになりますので、後ピンになっているということのようです。

 試しに、絞りF3.5の時とF11まで絞った時の、ピントリングの位置を調べてみました。

▲絞りによってピントの合う位置がずれる

 上の写真で、ピントリングに付けてある緑の付箋(右側)がF3.5の時のピントが合った位置で、赤の付箋(左側)がF11の時にピントが合った位置です。ちょうど赤のラインと真ん中の白のラインの感覚と同じくらいのずれがあります。
 これでわかるように、絞りを開いた状態の時は後ピンでピントが合ったように見えるようです。

 二つ目のピント合わせの方法、F11以上に絞ってピント合わせをする場合ですが、この時は通常のレンズと同じようにピント合わせができるようで、補正の必要がないということです。
 ただし、F11以上に絞るとファインダーが暗くなりますので、被写体によってはかえってピントが合わせにくくなってしまいます。どちらの方法が良いか、慣れにもよると思いますが、その時の状況に応じてピント合わせの方法を使い分けることも必要かもしれません。

被写体によってフレアの出方に大きな違いがある

 ソフトフォーカスレンズのボケ方というのは、ピントが合っていないボケ(ピンぼけ)とは違って、芯(ピントが合っている)がはっきりしており、その周囲にフレアが出るというものです。また、明るいところほどフレアが強く出ます。
 このため、コントラストが強すぎる被写体の場合、ハイライト部分のフレアが非常に強く出てしまいます。強い点光源のようなものがあるとそこのフレアは非常に大きくなります。
 一方、コントラストが低い被写体の場合は均一にフレアが出るため、霧がかかったような感じになり、全体的に白っぽい画になってしまいます。フォギーフィルターというのがありますが、それをつけた時の状態に似ています。

 全体的にクセのない綺麗な描写をするレンズだと思いますが、絞り開放近辺の周辺画質は落ちる傾向にあるので、被写体によっては注意が必要かもしれません。
 テレコンバーターをつけて周辺部をカットしてしまうという方法もありますが、画角が狭くなってしまうのと、全体の画質が若干落ちてしまうため、私はほとんど使うことはありません。

SOFT 120mmで撮影した作例

 このレンズに限らず、ソフトフォーカスレンズは被写体やシチュエーションによって写りが大きく変わります。そんな中から、このレンズの特性が感じられる作例をいくつかご紹介したいと思います。

 まず一枚目は八重咲の桜をアップで撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/30 PROVIA100F

 薄曇りなので強い光は当たっておらず、そのため、バックは暗く落ち込んでいます。極端なハイライト部はない状態ですので、全体として柔らかな感じで描写されていますが、ピンクの花弁のところは綺麗なフレアが出ています。
 花弁の部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 花弁の輪郭はしっかりと残しながら、フレアが出ているのがわかると思います。
 ふわっとした柔らかさで、一味違った桜の美しさが表現できるのではないかと思います。

 これに対して、全体的に明暗差が少なくコントラストが低い被写体を撮るとこのような感じになります。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/60 PROVIA100F

 バックも比較的明るく、これといったハイライト部もシャドー部もない状態です。全体的に霧がかかったような描写になります。
 これはこれで雰囲気があるのですが、何かポイントとなるようなものがないと写真が平坦になってしまいます。普通のレンズで撮っても面白くないのでソフトフォーカスレンズを使ってみたが、やっぱりどうってことはなかったみたいな状態に陥りやすいケースです。
 フォギーフィルターを使った時と描写が似ていますが、芯がしっかりと出ているので奥行きが感じられます。

 被写体に強い光があたっている状態だと全く違う描写になります。
 下の写真は透過光に輝く葉っぱを撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/125 PROVIA100F

 光が当たっている葉っぱと光があまりあたっていない背景とで明暗差がありますが、直接光が入り込んでいるハイライト部がないため、光が透過している葉っぱも柔らかな感じになっています。
 これを普通のレンズで撮ると、パキッとした感じになってしまいますが、このような描写できるのはソフトフォーカスレンズならではです。
 背景の木漏れ日による滲みも柔らかくて綺麗だと思います。

 下の写真は、桜の咲く時期に茅葺き屋根の民家を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/500 PROVIA100F

 薄曇りで柔らかな光が全体に回り込んでいる状態なのでフレアの出方にも大きな差がなく、画全体が滲んでいるような描写になっており、絵画のような雰囲気があります。
 コントラストはそれほど高くないので、露出をかけすぎると全体的に白っぽくなってしまいますが、露出を若干切り詰めることでこのような描写にすることができます。
 絞りを適度に絞ると明るい部分のフレアも抑えられるとともに、シャドー寄りの部分も柔らかな描写になります。

 上の写真とは正反対というか、ハイライト部分が点在している状態の被写体を撮ったのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F4 1/125 PROVIA100F

 残り柿に太陽の光があたって白く輝いている状態です。その部分のフレアが大きく広がって、全体がふわっとした感じになっています。
 枝も白く輝いており、このフレアも全体を柔らかくしています。
 残り柿の雰囲気を出すためには、もう少し露出を切り詰めた方が良いかもしれません。その方が晩秋のイメージが出ると思います。

 これらの作例でもわかると思いますが、ソフトフォーカスレンズの場合、露出過多は避けた方が良いと思います。フレアが出過ぎて、写真の雰囲気を台無しにしてしまう可能性が高いです。

 さて、もう一枚、点光源に対する描写の例ということで、夜のレインボーブリッジを撮ってみました。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 SOFT 120mm F3.5 2s PROVIA100F

 絞りは開放にしているので、ハイライト(点光源)部分のフレアは顕著に表れています。点光源が多く、かつコントラストが高いとここまでフレアが大きくなってしまい、元の形も崩れてしまうほどです。フレアをどれくらいの大きさにするかは好みというか作画意図というか、そういうものによると思います。

 橋の中央部分を拡大してみるとこんな感じです。

▲上の写真の部分拡大

 芯はしっかりとしながら綺麗な滲み(フレア)が出ています。
 しかし、点光源の影響はかなり大きいので、このような夜景を撮影する場合はどの程度絞るか、悩ましいところではあります。絞ればこのようは綺麗な円形のボケではなく多角形になってしまいますので、写真の雰囲気も変わってきます。

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 ソフトフォーカスレンズは特殊レンズに分類されるといっても良く、その描写は被写体やシチュエーションによって大きく変化します。ファインダーで見たような仕上がりにはなかなかならないという、クセのあるレンズかもしれません。デジカメであればすぐに結果を確認できますが、フィルムカメラではそのようなわけにもいかず、たくさんの撮影をしながらレンズの特性を把握していくということが必要になります。面倒くさいと言えばそれまでですが、そんなレンズの特性を理解しながら撮影するのもフィルムカメラの楽しみの一つかもしれません。

(2021.12.15)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #レンズ描写 #ソフトフォーカス

1950年代のカメラ Beauty MODEL1 ビューティーモデル1の分解・清掃・修理

 先日、友人から「かなり昔のカメラが手に入ったんだけど、使える?」という要領のまったく得ないメールが来ました。現物を見てみないとわからないと返信すると、「では送る」という短い回答があり、後日、宅配便でカメラが送られてきました。
 開けてみると「Beauty MODEL1」というカメラでした。この週末にこのカメラを分解・清掃・修理をしてみましたのでご紹介します。

Beauty MODEL1の状態を調べてみると..

 このカメラは1950年代の半ばに、東京の神田にあった太陽堂光機という会社が発売した国産のフォールディング(折り畳み式)カメラです。
 Beautyというブランドは「BEAUTY FLEX」という二眼レフカメラの方が有名で、今でも中古カメラ店で見かけることがありますが、今回のようなシックス判のフォールディングカメラはほとんど見かけることはありません。二眼レフカメラが大成したので、フォールディングカメラからは手を引いてしまったのかも知れません。

▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1 かなり汚い
▲太陽堂光機製 Beauty MODEL1

 120フィルムを使用するカメラで、Doimer(ドイマー)という焦点距離80mm 1:3.5のレンズがついています。土居さんという社長の苗字からとった名称らしいですが、洒落っ気が感じられます。シャッター速度はB・1~1/200秒、最小絞りはF22、距離合わせは目測です。

 送られてきたカメラを一通り見てみると、以下のような状態でした。

 1) 全体に汚い
 2) ファインダーが曇っていてほとんど見えない
 3) 折りたたんだ時に前蓋がしっかりと閉まらない
 4) シャッターをチャージすると、シャッター膜が半開きになってしまう
 5) レンズが汚れている カビ、クモリもある
 6) 蛇腹が破れている

 果たして使えるようになるのかどうか、分解してみることにしました。

レンズの清掃とシャッターの修理

 まずはレンズが使えるようにならないと撮影はできないので、レンズを取り外してばらしていきます。

▲Doimer 80mm 1:3.5

 レンズは3枚構成で、前玉と後玉は激しく汚れています。カビが取れるかどうかわかりませんが、しばらくエタノールに浸しておき、その後、清掃しました。わずかにカビの跡が残っていますが、かなり綺麗になりました。

▲前玉を外したところ
▲後玉を外したところ

 問題はシャッター膜が半開きになってしまう現象ですが、ばらして調べたところ、シャッターをチャージした時にロックされる爪の位置がずれているようです。なぜそのようなことが発生したのかは不明ですが、しっかりロックされる位置になるよう、調整しました。

▲シャッターをチャージすると半開き状態になってしまう

 シャッター速度はバルブも含め、変化していますが、絞り羽根もシャッター膜も粘っている感じがあったので分解して洗浄しました。

 また、ピント合わせをする前玉のヘリコイドがかなり重かったので、少しグリスを塗り込んでおきます。

▲清掃・修理後のレンズ

 シャッターとレンズを組み立てて動作確認してみましたが、粘った感じもなくなり快調に動いているようです。念のため、シャッター速度を計測してみたところ、以下のような状況でした。

 <速度目盛り> <実測値>
  1      1.083秒
  1/2     0.458秒
  1/5     0.185秒
  1/10     0.109秒
  1/25     0.048秒
  1/50     0.023秒
  1/100    0.013秒
  1/200    0.006秒

 それぞれ3回計測した平均値です。ばらつきはありますが、まずまずといったところでしょう。

ファインダーの清掃

 軍幹部の中央に可愛らしい覗き穴のようなファインダーがあります。真っ白に曇っていてほとんど視界はゼロといった感じです。軍幹部を取り外してファインダーレンズを清掃します。
 このカメラは66判と645判が使えるのですが、それに合わせて接眼部を回すとファインダー内のマスクが切り替わるようになっています。このカメラの中で最もセンスが輝いている構造のように感じました。

▲ファインダー(軍幹部のカバーの内側)

 ファインダーのレンズは取り外してエタノールで拭くと、驚くほどクリアになりました。

蛇腹の修理

 蛇腹には棒状のもので突いたような破れがあります。ピンホールもあるかと思い、LEDライトを照射して確認しましたが大丈夫そうです。蛇腹自体もヨレヨレした感じはなく、しっかりとしているので破れたところを塞げばまだ使えそうです。

 蛇腹をカメラ本体から取り外すためには、カメラ前面の張り革を剥がさなければならないようです。先の薄いヘラを張り革の下に差し込んだところ、張り革が5mmほどの大きさでボロッと欠けてしまいました。60年以上も経っているのですっかり劣化しているようです。
 うまく剥がせれば再利用しようと思っていたのですが、それはあきらめて前面の張り革を全部削り取ってしまいました。

▲カメラ前面の張り革を剥がしたところ

 張り革の下のネジを外すと、カメラの筐体から蛇腹部分を取り出すことができます。

▲カメラ筐体から蛇腹機構を取り出す

 蛇腹の破れたところは、外側と内側の両方から補修テープで塞ぎます。両面にテープを貼ると厚みが増して、蛇腹の折り畳みに影響が出るかと思いましたが問題ななそうです。念のため、補修テープの周囲に黒のタッチアップペンを塗っておきます。

 蛇腹を外したついでに、前蓋のロック機構も修理しておきます。
 前蓋を閉めた際に、カチッと爪が引っかかるようになっているのですが、この爪が歪んでいてロックされません。ラジオペンチで歪みを直してロックされるようにしましたが、前蓋自体も少し歪んでいるようで、隙間ができてしまいます。カメラを落としたか、どこかにぶつけたかして歪んでしまったのでしょう。とりあえず閉まるようになったので良しとします。

カメラ前面の張り革

 取り外した蛇腹やレンズ、軍幹部をもとのように組み上げ、ボロボロになってしまったカメラ前面の張り革は新しく張り替えます。全面張り替えたいところですが、他は剝がれたり傷んだりはしていないので、とりあえずそのままにしておきます。

▲清掃・修理後のBeauty MODEL1

 前面だけとはいえ張り革も新しくなり、長年の汚れも落としたので、見違えるほどきれいなカメラになりました。ファインダーもくっきりと見えるし、絞りやシャッターも問題なく動作しているようです。

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 とりあえず正常に動作しているようには見えますが、実際に撮影をしてないので、きちんと写るのかどうかは不明です。後日、実際に撮影をしてみたいと思います。

(2021年12月5日)

#ビューティー #Beauty #スプリングカメラ #中古カメラ

撮影中にクマに出会ったら... クマ避けの鈴は効果があるのか?

 10月の後半に山形、秋田、青森方面に紅葉の撮影に行ってきました。訪れた時はまだ色づきはじめでしたが、わずか一週間で一気に紅葉が進んだ感じでした。

 秋田県の、とある滝の撮影に行った時のことです。
 その滝は車を降りてから山道を30分ほど登った先にあります。最近はあちこちで目にする「熊注意!」の看板がここにもありました。私は山に入るときはクマ避けの鈴(ベアベル)をつけるのですが、この日も腰につけて歩き始めました。
 15分ほど歩いた頃でしょうか、視界の隅に動くものが飛び込んできました。「もしや...」と思って右の方を見ると真っ黒な岩のようなものがもぞもぞと動いています。たぶんクマです。距離は50~60m、もしかしたらもう少し離れていたかもしれません。こちらに背を向けているらしく、顔は見えません。
 相手はこちらの存在に気がついているのかどうかわかりませんが、走っている様子もなく、ソーシャルディスタンスを保っていると思っているのか、ゆっくりとした足取りで森の中に消えていきました。見えていた時間は4~5秒だと思います。

 私がつけているベアベルは結構甲高い音がするので、かなり離れていても聞こえます。人間でさえ聞こえるのですから、クマの耳には確実に届いていたと思われますが、音がしたから去っていったのか、そもそも聞こえていなかったのか、それは当人に聞いてみないとわかりません。

▲クマ避けの鈴(ベアベル)

 離れていたとはいえクマを目撃した私はというと、それまでのハイテンションな気持ちがすっかり萎えてしまいました。クマは森の奥に行ったのでこのまま滝を目指すか、それともあきらめて引き返すか、どちらとも決められずにその場に立ち尽くしていました。
 クマは、滝に向かう道とはずいぶん違う方向に行ったようですが、この先でまたご対面なんていうこともないとは限りません。そう考えると足が前に出ません。

 私は過去にも二度、クマを見かけたことがあります。いずれも今回のように離れたところから見かけただけで、至近距離で遭遇したとか、ばったり鉢合わせしたとかいうことはありません。しかし、クマを見かけた後、そこから先に進むのは非常に勇気がいります。ベアベルを鳴らしながら歩いても効果があるのか、疑心暗鬼になってしまいます。クマが街中に現れたとか、民家の庭を荒らしたとかいうニュースが時々ありますが、そういうのを聞くにつけ、クマが物音に警戒して去っていくということ自体が本当なんだろうかと思ったりもします。

 5~6年前になりますが、秋田県の阿仁町というところに撮影に行ったことがあります。その時、地元のマタギの方と偶然お会いした際に教えていただいたのですが、クマは火薬のにおいをいちばん嫌うらしいです。爆竹を10本ほど鳴らしておくと、少なくともその日、その周辺にはクマは寄ってこないとのことです。クマと出会った時のことを考えるよりも、素人はクマに出会わない方法を考える方が良いともいわれました。
 確かに森に響き渡る音と漂う火薬の臭いは効果てきめんという感じがしますが、何十本もの爆竹を持って、歩きながら爆竹を鳴らすというのはさすがに気が引けます。しかも、枯葉に火でも着きようものなら大変なことになってしまいます。

 しかし、このマタギの方の話が妙に頭に残っていて、その後、クマ避けグッズをいろいろ探してみました。唐辛子のスプレーが最も効果があるようですが、これは目の前にクマがいた時の話ですし、そもそも、急にクマに出くわしたときにスプレーを噴射するような余裕はないと思います。たとえ運よくスプレーを噴射できたとしても、風向きによっては自分の顔に降り注ぐなんていうのが関の山です。

 そして、いろいろ探した結果、たどり着いたのが電子ホイッスルです。

▲電子ホイッスル

 長さが10cmほどで手のひらにすっぽりと納まる大きさです。電池式で、警察官が交通整理をするときなどに吹いている笛のような音がします。しかも、かなりの大音量です。実際にどれくらいの効果があるのか、この音でクマは去ってくれるのかはわかりませんが、森の中で鳴らすと鳥は驚いて飛び去って行きます。
 以来、私は森や山に入るときは、この電子ホイッスルをポケットに入れて歩くようにしています。もちろん、ベアベルも腰に着けています。

 音がとても大きいので、近くに人がいるときに鳴らすとかなり驚かせてしまいます。ですので、これを使うのは誰もいない森や山の中です。
 クマが出るんじゃないかという恐怖心は、歩いているときよりも撮影をしているときのほうが大きいわけですが、ファインダーを覗いていると周囲に目がいかないので、後ろからクマが忍び寄ってきても気がつかないというのがその理由です。
 撮影に入る前に周囲に人がいないことを確認したうえで数秒間、この電子ホイッスルを鳴らし続けます。これだけで何となく安心した気分になり、撮影に没頭することができます。

 今回、滝に向かう途中でクマを見かけ、その後、先に進むか引き返すか決めかねて20分ほどその場にたたずんでいましたが、恐怖心もおさまってきたこともあり、撮影に行ってきました。他に人の姿はなかったので、ときどき電子ホイッスルを鳴らしながら進んだのは言うまでもありません。
 そして、電子ホイッスルの効果があったのかどうかはわかりませんが、その後、クマの姿を見かけることはありませんでした。

 この電子ホイッスルですが、クマ避けだけでなく、緊急時に自分の存在を知らせるということにも使えそうです。幸いにもそういう事態になったことはありませんが、撮影で森や山に入るときは電子ホイッスルと強力な光を照射するLEDライトは常に持ち歩いています。
 火薬を燃焼させたときの臭いがするスプレーがあればぜひ購入して、持ち歩きたいものです。

 余談ですが、山でよく出くわすのがカモシカと鹿(ニホンジカ)です。彼らは警戒心が強いのでソーシャルディスタンスを保ちながらじっとこっちを見ているだけで、襲ってくるようなことはないので安心です。
 また、イノシシも数回見かけたことがあります。イノシシはものすごい勢いで走っていくので、その正面に立っていれば弾き飛ばされてしまいそうですが、不思議なものでクマに対するような恐怖心はありません。
 クマやイノシシの足跡と、それが新しいものか古いものかの見分け方などを教えてもらったこともありますが、撮影の時は地面についた足跡にまで気が回らず、残念ながら教えてもらったことも役に立てられていません。

(2021年12月3日)

#クマ避け鈴 #小道具