ホースマンの69判ロールフィルムホルダーを使ったピンホールカメラ ~撮影編~

 昨年(2023年)の暮れから今年の年始にかけ、思いついたようにピンホールカメラ(針穴写真機)を作成しましたが、そのカメラを使って実際に撮影をしてみました。ホースマンの69判ロールフィルムホルダーを使用した広角系固定焦点ピンホールカメラです。
 ピンホールレンズ自体は以前につくったものを若干改良しているだけなので、概ね問題なく撮影はできるだろうと思っていますが、今回、新たに作成したカメラ本体との相性も含めて試し撮りをしてみました。

 なお、ピンホールカメラの製作に関しては以下のページをご覧ください。

  「ホースマンの69判ロールフィルムホルダーを使ったピンホールカメラの製作

モノクロフィルムでの試し撮り

 ホースマンの69判ロールフィルムホルダーにDELTA 100(120)フィルムを入れ、近所の公園で試し撮りをしました。天気は晴れ、撮影した時間帯は午前10時~11時です。

 1枚目は、木立に囲まれた公園の広場を撮影したものです。

 カメラから中央の立木までの距離は3mほど、右端に少しだけ写っている立木までは50~60cmほどだったと思います。また、立木の影でわかるように、太陽はほぼ右側にある撮影ポジションです。
 単体露出計での計測値はEV13(ISO100)だったので、露光時間は4秒としました(ちなみに、このピンホールレンズのF値は180になるように作ったつもりです)。露出に関しては概ね良好、ほぼ予定通りのF値になっている感じです。
 木立の枝の先端もおぼろげながら認識できるので、解像度もピンホールとしてはまずまずといったところでしょう。

 この写真のように近距離を写した場合、周辺部が引っ張られて、見るからに広角系の写真という感じがします。

 2枚目は、立木の枝の広がりを逆光で撮影したものです。

 太陽は中央の立木の幹に隠してありますが、全体にわたり逆光状態なので、立木はすべてシルエットになっています。ピンホールカメラは逆光に弱いのですが、太陽からの光を直接入れなければ、結構クリアな写真になるようです。さすがに太陽を隠している幹の辺りは滲んでいますが、それ以外は比較的綺麗なシルエットになっていると思います。
 1枚目の写真ではあまり気にならなかったのですが、こちらの写真では周辺部の光量不足が感じられます。多少、周辺光量の落ち込みがあった方がピンホール写真らしさがあるという見方もありますが、個人的にはこれ以上の落ち込みがあると失敗作となってしまうので、ギリギリ許容範囲といった感じです。

リバーサルフィルムでの試し撮り

 常々、ピンホール写真はモノクロが似合っていると思っているのですが、せっかくなのでカラーリバーサルフィルムでも撮影をしてみました。使用したフィルムは富士フイルムのVelvia 100(120)です。
 撮影日は異なりますが、撮影場所はモノクロと同じ近くの公園です。

 まず1枚目は紅梅の写真です。

 この日も晴天で、澄んだ青空と梅の花のコントラストがとても綺麗でした。
 中央の梅の花の位置まではおよそ1m。まだ咲き初めで花の数がそれほど多くないので、できるだけ花に近づいての撮影です。
 全体的な露出はほぼ適正な状態だと思われますが、やはり、周辺光量の落ち込みが目立ちます。周辺部が極端に暗くなっているわけではないのでそれほど違和感はありませんが、周辺部が引っ張られるのと相まって、若干気になります。
 ピンホール写真として見れば解像度は悪くはないと思うのですが、梅の花の鮮鋭度となると、正直、厳しいといった感じです。

 2枚目は同じ公園にある白梅を撮影したものです。

 いちばん手前の花まで50cmほどに近づいて撮影しています。上の方は切れてしまいましたが、左右に関しては8割方、フレーム内に収まっています。
 ピンホール写真は全体のピントが合うパンフォーカス写真になりますが、この写真のようにたくさんの花が重なった状態の被写体の場合、ボケた部分がないので雑然とした感じに仕上がってしまいます。撮影の仕方によるところが大きいのでしょうが、この写真ではピンホールらしさがあまり感じられません。ボケた梅の写真、といった方が適切かも知れません。

 もう一枚は、近くの神社の境内で撮影したものです。

 周囲が大きな木立に囲まれているため、ほとんど日陰で暗く落ち込んでいますが、中央の社殿だけは日が差し込んでいて、全体にコントラストが大きくなっている状態です。普通のカメラで撮れば固い感じになってしまいますが、ピンホール写真特有のボケでふわっとした感じに仕上がっています。どうってことのない風景も、ちょっとばかり雰囲気のある写真になっています。
 左側の赤い奉納のぼりに書かれている文字や、社殿の軒下にある注連縄、社殿の後ろにある消火器などのはっきりと認識できるくらいの解像度があります。

カメラの仕様と使い勝手

 今回製作したピンホールカメラは、焦点距離が54mm、F値が180ということで寸法取りをしたのですが、仕上がった写真を見る限り、ほぼ予定通りの仕様になっている感じです。もっとも、焦点距離が3mm長かったり短かったりしたところで、F値は190、もしくは170になる程度なので、実際の露出に与える影響はほとんど誤差の範囲です。つまり、F値が大きいので、多少の寸法の違いは影響がないということです。

 また、上で掲載した写真からも、周辺部がかなり引っ張られているのがわかると思います。これは短焦点になればなるほど顕著に現れますが、このカメラの場合、横位置に置いた時の左右両端で、およそ17%伸びる計算になります。この値は被写体によってはかなり影響が大きく、遠景ではあまり気になりませんが、近景を撮影した場合ははっきりとわかります。それに伴って光量の落ち込みも発生するので、うまく使えば味わいのある写真になるかも知れません。

 一般的に、写真は解像度が高くてくっきりと写っていた方が好ましいと思いますが、ピンホール写真に関しては必ずしもそうとは言えません。むしろ、ボヤっとしていた方が好ましいと感じる場合が多々あります。
 そういった視点からすると、今回使った直径0.3mm(にしたつもり)のピンホールは、解像度が少し高すぎるようにも思えます。ピンホール径をもう少し大きくして、全体的なボケを大きくした方がピンホール写真っぽくなるかも知れません。

 カメラの使い勝手という点では、二眼レフカメラを横にしたくらいの大きさなのでこじんまりとしていて持ち運びも苦にならいのですが、難点はホールド性がよろしくないということです。三脚に取り付けてしまえば何ら問題はないのですが、三脚に着けたり外したりする際、落としてしまいそうでちょっと不安になります。ストラップかグリップのようなものがあると安心感が高まるというのが率直な感想です。

 簡易的なスピードファインダーに関しては、もちろん、精度は良くありませんが、フレーミングした範囲と実際に写る範囲にそれほど大きな乖離はなく、実用レベルであると思います。
 ただし、スピードファインダーのフィルム側のアクリル板の取り付け位置が、フィルムホルダーの後端よりも前にあるため、のぞきにくいという欠点があります。前方のアクリル板との間隔を保ちながら、取り付け位置を全体的に30mmほど、後ろにずらした方が使いやすいことがわかりました。今から改造するのは大変なので、次回、また製作することがあれば反映したいと思います。

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 ピンホール写真というのはノスタルジックでもあり、また、そのボケ具合から独特な印象を持った写真になり、シンプルな仕組みでありながらなかなか奥の深いものだと思っています。
 しかしながら、何でもかんでもピンホールカメラで撮れば雰囲気のある写真になるかというとそうではなく、やはり、作品作りということを意識することも大事だと思います。
 普通のカメラでもいろいろとレンズが欲しくなるのと同じで、ピンホールカメラでもピンホール径や焦点距離の異なるもので撮影してみたくなります。何種類ものピンホールカメラを作って、自分のイメージにぴったりと合うものを見つけるのもピンホールカメラの面白さかも知れません。
 今年の年末にでも、仕様の違ったピンホールカメラを作ってみたいと思います。

(2024.2.29)

#Horseman #ピンホール写真 #ホースマン #白梅 #紅梅

近所の公園で初春に咲く花の撮影

 東京では1月の終り頃になるとロウバイや早咲きの梅がちらほらと咲き始め、2月の半ばを過ぎると梅も見ごろを迎えます。それまでは枯れ木ばかりが目立った公園も急に華やかな感じになります。陽あたりの良い場所ではるり色のオオイヌノフグリも咲き始め、本格的な春の訪れが近いことを感じるようになります。
 私が住んでいる近くには大きな公園がいくつかあっていろいろな花を見ることができるので、この時期には貴重な撮影場所の一つです。
 そんな公園をのんびりと歩きながら、また、いくつかの公園をはしごしながら初春に咲く花を撮影してきました。

ロウバイ(蝋梅)

 名前に「梅」の字がありますが植物学的には梅の仲間、すなわちバラ科の植物ではなく、ロウバイ科に属するようです。中国原産の植物らしいですが、近年は公園や庭木などでよく見かけます。種類の違いなのか場所によるものなのか、早いものでは12月末ごろから咲き始める個体もあります。
 どちらかというと地味な花ですが、この時期には数少ない花の一つでもあり、まるっとした黄色の花を見るとなんだか心が和みます。

 公園などで見られる木は植樹されたものですが、成長が遅いのかあまり大木にならず、目線の高さにもたくさんの花をつけているので撮影向きと言えます。

 下の写真は地面から2mほどの高さに咲いていた二輪の花を撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Tele-Xenar 360mm 1:5.5 F5.6 1/30 Velvia100F 

 ロウバイは房のような形の果実をつけるのですが、これが冬を越しても落ちずに真っ黒になって枝に残っています。花が咲いても花の数に負けないくらいのたくさんの真っ黒な果実がついていて、撮影しようとするとこれが結構気になります。なので、あまり枝が込み合っておらず、真っ黒な果実がないところに咲いている花を見つけるのが意外に大変です。
 たくさんの花が咲いているところも素敵ですが、数輪だけにして余計なものはあまり入れない方が花の素朴さや愛らしさを出すことができます。

 天気が良くて日差しがあるときに逆光で撮ると、まるで花自体が発光しているように見えますが、そのように撮るときは出来るだけ背景を暗く落とし込んだ方が効果的です。バックに大きな木などがあって日陰になっている場所で、木漏れ日が花に差し込んでいる状態であれば、ぼんぼりのようなロウバイを撮ることができます。
 上の写真では右下にもぼかした状態で花を入れましたが、入れる分量を若干少なめにした方が良かったかもしれません。

 この写真は「ソシンロウバイ」ですが、種類によって花の形状も異なるようです。個人的には花が開ききる前のこのようにまるっとした状態がいちばん好きです。

白梅

 梅の種類は本当にたくさんあって、一口に白梅と言っても真っ白なもの、ごくわずかにピンクっぽく見えるもの、あるいは黄緑色っぽく見えるものなど多岐に渡っています。実際には花弁の色というよりも、花芯の色が赤っぽかったり緑色っぽかったりすることで、花全体の色合いが変わって見えるのだと思います。
 また、それぞれに名前がついているようですが、私はほとんど知りません。

 神社仏閣に行くと必ずと言ってよいくらい梅の木がありますが、梅の木のある公園もたくさんあります。花が咲くとメジロやシジュウカラなどの小鳥がたくさん来ており、見飽きることのない景色です。

 梅は桜と同じように一本の木にたくさんの花を咲かせるので、とても華やかで豪華な感じがします。風景として撮るのであればとても映えますが、公園などの人工物が多い場所で風景として撮るのは結構苦労します。とはいえ、華やかに咲いた梅の木全体を撮ると、焦点の定まらない写真になってしまいがちです。写り込んでほしくないものがたくさんある場所では一枝だけとか、数輪だけを対象にした方が撮り易いかも知れません。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Tele-Xenar 360mm 1:5.5 F5.6 1/60 Velvia100F

 上の写真はかなり早咲きの白梅で、私が良く訪れる近くの公園にある梅の中では最も早く咲き始めます。八重咲の花で花芯部分が赤っぽいのが特徴です。花も大きくてとても豪華な感じがします。
 名前がわからないので少し調べてみたところ、「月宮殿」という梅かも知れませんが定かではありません。

 一枝に咲いている花の数がとても多い木ですが、数が少なめで形の良い枝を探して撮影しました。
 画の左上から太陽光が差し込んでいる状態ですが、透過した光で乳白色からクリーム色へのグラデーションがとても綺麗です。
 背景は真っ黒にならないように明るい部分を少し入れてみました。画の上部にある黒いボヤっとした線は背後にある枝です。背景がうるさくなりすぎないように、花に近づいて撮影しています。

 さて、もう一枚は順光で撮影した白梅です。上の写真とは種類が違うのではないかと思います。

▲Linhof MasterTechnika 45 Fujinon T400mm 1:8 F8 1/125 Velvia100F

 バックに青空が入るように見上げるアングルで撮影しています。背景には枝や幹、花などがたくさん入り込んでいてちょっとにぎやかです。右上から左下に通っている枝がとても気になったのですが、切ってしまうわけにもいかず、出来るだけぼかそうとしたのですがこれが精いっぱいという感じです。
 トップライトに近い状態なので梅の花が平坦になり過ぎないよう、上にある枝で少し陰ができるタイミングで撮りました。光が透過した梅も綺麗ですが、青空との組み合わせも春らしさが感じられます。青と白というのはとても清潔感のある組み合わせだと思います。

紅梅

 紅梅は白梅に比べると遅咲きというイメージがありますが、近くの神社には早くも1月中旬に咲き始める大きな紅梅の木があり、必ずしも遅咲きではないようです。また、花の色も緋色をしたものから淡いピンク色のものまで多岐に渡っていますが、やはり紅梅は遠くからでもよく目立ちます。
 日本には数えきれないくらいたくさんの色の名前がありますが、「紅梅色」という色もあり、少し紫がかった紅色をしています。よく見かける紅梅の色とは違う感じで、こんな色をした紅梅があるのだろうかと思ったりもします。

 下の写真は紅というより、ピンク色をした紅梅です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Tele-Xenar 360mm 1:5.5 F5.6 1/125 Velvia100F

 まだ一分咲きといった感じで、ほとんどが蕾の状態です。所どころの枝先にこのように数輪から十数輪の花が咲き始めたばかりです。花は八重咲のようでボリューム感があります。びっしりとつぼみがついているので、満開になるとかなり見応えがあると思います。
 撮影した木は背丈が大きく、下の方には枝がほとんどないので、どうしても見上げるようなアングルでの撮影になってしまいます。そのため、背景に空が入ってしまい、花が綺麗に見えません。木の周りをグルグルしながらバックに生け垣が入る位置にある枝をやっと見つけて撮った一枚です。

 正午近くの撮影だったので、正面上方から太陽の光が当たっています。逆光状態です。
 画右側に白っぽい光が見えますが、これは生け垣の隙間からの木漏れ日です。これが少し強すぎて、梅の花よりもこちらに目が行ってしまうのですが、これがないと単調になってしまうのであえて入れてみました。

 これを撮影したのは2月の半ば頃だったので、今頃は満開になっていると思います。

スイセン(水仙)

 スイセンは寒い時期から咲く花のひとつですが、日当たりの良い場所では次々と咲き始めています。
 野性のニホンズイセンには一重咲きと八重咲がありますが、個人的には素朴な一重咲きの方が好きです。一本の茎にたくさんの花をつけ、それがほぼ同じ方向を向いているので何とも微笑ましい光景になります。寒い時期から咲くので寒さに強いのかと思っていましたが耐寒性はあまりないようで、温暖な地域を好むようです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Fujinon W250mm 1:5.6 F5.6 1/60 Velvia100F

 背丈は30cmほどとあまり大きくないので、花と同じ目線で撮影するのは思いのほか苦労します。上から俯瞰するようなアングルで撮ると楽ですが、地面にある雑多なものが入り込んでしまい、これに花が埋もれてしまいます。
 上の写真も花と同じ高さにカメラを構え、バックに余計なものが入らない位置から撮影しました。

 スイセンには明るくて陽気なというイメージがあるのですが、この写真は露出を少し切り詰めて落ち着いた感じにしてみました。背景の色も濃い緑と濃い青と、比較的同系色だけで占められているので単純化できていると思います。
 この時期はあちこちでよく見かけるスイセンですが、いざ撮影しようとするとなかなか良いアングルが見つけられない花でもあります。

フクジュソウ(福寿草)

 フクジュソウは何といっても雪とのコラボが最高なのですが、残念ながら東京ではそのような光景を見ることはできません。そもそも、東京ではフクジュソウ自体、それほど容易にみられるものではなく、野生のものとなると山奥にでも行かなければ目にすることはないと思われます。
 また、フクジュソウの開花は傾熱性によるらしいので、曇天の日や日暮れ時は花が閉じてしまいます。開いた花を撮影するには晴れた日ということになります。

 下の写真は公園の片隅に咲いていたフクジュソウですが、木漏れ日があたっている花は開いていますが、その他の花は十分に開いていません。

▲Linhof MasterTechnika 45 Fujinon C300mm 1:8.5 F8.5 1/15 Velvia100F

 すぐ近くに松の木があり、地面は松の落ち葉で埋め尽くされています。周囲にある樹木で太陽の光は遮られていて全体に薄暗い環境ですが、かえってそれがフクジュソウの黄色を引き立ててくれています。特に光が当たっているところは黄色というよりも黄金色といった感じで輝いています。

 黄色は肉眼で感じるよりもずっと明るくて、露出オーバーになると質感が一気に失せてしまいます。かといってアンダー気味にすると色が濁ってしまい、撮影するには難しい色の代表格ではないかと思っています。感覚的にはほんのちょっとだけオーバー気味にするといった感じでしょうか。

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 まだまだ、咲いている花の種類は決して多くはありませんし、人間の手で植えられた樹木や草花がほとんどですが、この時期に一つの公園内で何種類もの花を見ることができるのはありがたいことです。公園なので人工物が多かったり人通りがあったりしますが、じっくり腰を落ち着けて撮影するにはもってこいの場所かも知れません。時には人工物や人物も良い被写体になることもありますし。
 また、今のところ、野草はオオイヌノフグリくらいしか咲いていませんが、これからどんどん野草の数も増えていきます。徒歩で行って一日中撮影していられるという地の利も近所の公園ならではです。

(2023.3.4)

#ロウバイ #白梅 #紅梅 #Linhof_MasterTechnika #花の撮影

秋間梅林(群馬県安中市)で満開の梅を撮影

 秋間梅林は群馬県安中市の秋間川上流の丘陵地帯に広がる梅林で、「ぐんま三大梅林」の一つと言われているようです。その広さは50ヘクタールにも及ぶらしく、変化に富んだ景観を見ることができます。都心から車だと、高速道路を使っておよそ2時間ほどの道のりです。
 秋間梅林は実を収穫することを目的に栽培されている梅林で、その多くが白梅です。例年、3月上旬から中旬にかけて見頃を迎え、折り重なるように咲く姿は圧巻です。
 今年、3年ぶりに秋間梅林を訪れてみました。

観梅公園一帯の梅林

 一般に秋間梅林というと、この観梅公園一帯を指すようです。小高い山の頂付近に観梅公園があり、そこを中心に南側斜面、東側斜面、北側斜面に梅林が広がっています。付近には駐車場も完備されており、車で行くこともできますが、私はいつも東側の県道122号線(八本松松井田線)沿いにある駐車場に車を止めて、歩いて山を登っていきます。山といってもなだらかな遊歩道が整備されているので、きつい思いをしなくても上っていくことができます。

 下の写真は上り口にある駐車場から撮影した一枚です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 200mm 1:4 F22 1/8 PROVIA100F

 この辺りは梅の畑というよりは梅の公園といった感じで整備されており、紅梅もたくさん見ることができます。山の北側斜面になるので頂上付近に比べると花の時期は少し遅いようです。
 写真の左方向から朝日が差し込んでおり、色温度が低いため、全体的にちょっと赤みを帯びています。
 まだ早朝なので人影はほとんどありませんが、日中になるとこの遊歩道もたくさんの観光客が行き交います。左上の方には東屋もあるので、梅見には最高の場所です。

 雑木林全体はまだ冬枯れの状態ですが、それと満開の梅を対比することで早春の感じを出そうと狙ってみました。
 写真ではわかりにくいかも知れませんが、満開の一歩手前といったところで、これくらいの時の方が花の色は綺麗に出ると思います。

 さて、次は登っていく途中で見つけた白梅の老木です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 55mm 1:4 F22 1/30 PROVIA100F

 奥の方に広がっている収穫用に栽培されている木に比べるとかなり背丈も高く、枝も伸び放題という感じですが、何とも言えない風格というか、力強さを感じます。たくさんの花をつけており、まだまだ樹勢も衰えていないようです。
 畑の中の所どころにこのような老木があり、素晴らしい景観をつくりだしてくれています。

 梅の木の高さを出すように、右側の木の真下に近いところからの撮影です。
 花の白い色が飛ばないようにギリギリまで露出をかけていますが、下の三分の一はもう少しアンダーの方がこの写真の雰囲気は上がると思います。

 もう一枚、観梅公園のある頂上付近から東側斜面を望んだのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/15 PROVIA100F

 短焦点レンズで梅畑を広く入れると空が広く入り過ぎてしまうので、梅の枝を覆いかぶさるように入れています。梅の枝は曲がりくねっているものが多いので、形のよさそうな枝を選んでみました。
 この場所は秋間梅林という丘陵地帯を最も感じられる場所だと個人的に思っており、起伏にとんだ地形が見渡せるのでお気に入りの場所です。
 もう少しカメラアングルを下げたいところですが、そうすると家が何件も入り込んでしまうのでこれくらいが限界です。下の方にこっそりと屋根が写っているのがわかるかと思います。

 観梅公園一帯は白梅だけでなく紅梅の木もたくさんあり、華やかな風景を見ることができます。

 なお、観梅公園までの道路は狭いので、車で行かれる場合は運転に注意が必要です。

飽馬神社周辺の梅林

 秋間梅林の中心は観梅公園と呼ばれる小高い山の一帯ですが、そこから北東方向に少し行ったところに飽馬神社という小さなお社があります。この辺りは農家の方が栽培している梅畑が広がっており、山の南斜面に開けているのでとても眺望の良い場所です。天気が良ければ西の方角に妙義山を見ることができます。訪れる人もほとんどおらず、撮影にはもってこいの場所です。

 下の写真は満開の梅畑を下から見上げるアングルで撮った一枚です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-TAKUMAR67 75mm F22 1/30 PROVIA100F

 収穫用に栽培されている梅の木は枝が綺麗にそろえられており、まっすぐ上に延びている枝が印象的です。枝の密度も花の密度も高いので、非常にボリューム感があります。
 梅畑の脇に庚申塔があり、とてもいいアクセントになっています。
 また、梅の木の下の方は見通しがきくので、木の間から背景を入れて奥行きを出してみました。

 この辺りはいろいろな種類の梅が栽培されているらしく、このように白い花の他にピンクの花をつける木も見られます。ピンク色の花は温かみが感じられますが、白いほうが花の数が多いのか、ボリュームがあります。

 同じく、飽馬神社の南側にある梅畑を撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 200mm 1:4 F8 1/125 PROVIA100F

 ここから見る梅畑がいちばん密集しているように感じます。高いところから見下ろすポジションなので、一層そう感じるのかもしれません。

 全体的に柔らかな感じを出すように、半逆光気味になる位置から絞りを浅くしての撮影です。手前の木にはピントを合わせていますが、奥の方の木々はわずかにピントを外しています。霞がかかっているというか、フレアがかかっているというか、そんな感じを狙ってみました。
 白梅に交じって所どころにピンクの梅も見られますが、その色の変化があることで、画が単調になるのを防いでくれています。

 この写真の右方向に妙義山が見えます。妙義山をバックにした梅林も魅力的ですが、脚立などを使って高い位置から撮らないと構図が決めにくいのが難点です。
 また、この一帯は観光客用に整備されているわけではないので駐車場などはありません。車は道路脇の広いところに、邪魔にならないように止めておくしかありません。

群馬フラワーハイランド

 秋間梅林から北西に車で5分ほど行ったところに群馬フラワーハイランドがあります。
 ここは個人の方が長年にわたって整備されてきた花の楽園で、特に1月から3月にかけて咲く寒紅梅が有名ですが、四季折々の花を見ることができる場所です。秋間梅林のすぐ近くですので、ぜひ訪れてみたい場所です。

 まずは白梅を撮った一枚です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 PROVIA100F

 さほど大きくない木なので花の数も多くありませんが、ぽつぽつと咲いている姿が印象的でした。暗い背景に白い花だけでは寂しすぎる感じがしたので寒紅梅を入れてみましたが、ちょっと紅が強すぎたようです。
 白梅を浮かびあがらせるために長焦点レンズを使い、絞り開放で撮っています。
 また、明るくなりすぎないように露出はアンダー気味にしました。

 画全体が締まるようにと思い太めの黒い幹を入れてみましたが、右側の幹はない方が良かったように思います。
 青空に抜いた白梅は爽やかな感じがありますが、このようなシックな雰囲気もいいものです。

 フラワーハイランドは梅だけでなく様々な花が見られますが、ミツマタもこの時期に見ることのできる花の一つです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX67 45mm 1:4 F16 1/15 PROVIA100F

 高級和紙の原料になるミツマタですが、枝をものすごく広げるので、黄色の花が浮いているように見えます。まるで海を漂うクラゲの大群のようです。
 花自体は地味で、色も決して鮮やかとはいえませんが、無数に咲いているとその辺りだけぼーっと明るくなったような感じがします。

 花だけだと単調になってしまうので、太い白樺(だと思います)の幹を入れてみました。
 また、アンダー気味の方がこの花の雰囲気が出ると思い、露出は切り詰めています。

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 秋間梅林は観梅公園を中心に撮影スポットがたくさんあるので、被写体には困りません。道路沿いの畑にも随所で梅を見ることができるので、いわゆる梅園とは異なる、梅の木を入れた風景写真も撮り易いと思います。
 歩いて回るには広すぎて車がないと不便ですが、北陸新幹線の安中榛名駅の近くですので、新幹線で安中榛名まで行って、レンタカーを使うという方法もあると思います。

(2022年3月30日)

#白梅 #紅梅 #ペンタックス67 #PENTAX67 #秋間梅林 #花の撮影

花を撮る(1) 百花の魁(さきがけ) 梅

 風景と同じくらい花の写真を撮ることが多いのですが、立春から一ヶ月が経ち、フィールドではぽつぽつと花が見られるようになってきています。花を撮りにフィールドに出かける回数も増えていきそうです。
 「花はきれいに撮りたい」と常々思っているのですが、これがなかなか難しく、納得のいく写真はそう簡単に撮れません。そもそも、何をもって「きれい」というかもうまく説明できないのですが、小難しいことはともかく、パッと見た時に「きれいだ!」と感じることが大事なんだろうと思います。
 撮り方に良いとか悪いとか、決まった手法とかがあるわけでもありませんが、花と対峙して自分なりに撮った写真と、それをどのように撮ったかということも含めてご紹介できればと思います。
 第1回目は「梅」です。

ポートレート風に花の表情を撮る

 人を被写体として撮影するポートレートというのは、その人の魅力を最も的確に表現できる手法だと思っています。人と同じように花にも表情があり、ポートレート風に撮ることで花の魅力を引き出すことができます。
 梅は大きなものでは樹高が数メートルにもなり、たくさんの花をつけるので、花のポートレートとしては一輪とか数輪、あるいは一枝だけを対象とした方が花の表情を出しやすいと思います。このときに大事なのは、主役である花をどうやって引き立たせるかということです。花自体がいくら綺麗に写っていても、画全体の中に埋没してしまっているようでは残念という他ありません。

 下の写真は、小さな枝先に咲いている白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 早春の日差しの中で咲く白梅の楚々とした美しさを出そうと思い、背後からの光が透過することで花弁が輝いている状態を撮りました。バックが明るいと花が引き立ってこないので、日が当たっていない大きな常緑樹をいれて、背景全体を暗く落としています。
 しかし、それだけだとバックが黒一色で単調になってしまうので、後方にある梅の花を大きくぼかして入れ、若干青空も入れて明るさを加えました。
 花が逆光で輝いているので、スポット露出計で測った値に2倍の露出補正をしています。
 また、バックを大きくぼかすために焦点距離が長めのレンズに接写リングをかませ、花まで80cmほどの距離で撮っています。このため、さらに1.5倍ほどの露出補正をしています。
 背景をシンプルにするには、焦点距離が長めのレンズの方が効果的です。

 上の写真とは対照的に、静けさの中でひっそりと咲く可憐な姿をソフトフォーカスで撮ったのが下の写真です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 SOFT 120mm 1:3.5 F5.6 1/60 EX2 PROVIA100F

 春がまだ浅い感じを出すために、一輪だけ咲いている小さな枝を撮りました。この日は曇りで日差しが直接あたっていないため、そのままでも柔らく写りますが、温もり感を出すためにソフトフォーカスレンズを使いました。この花は紅梅というよりも濃い目のピンクといった色合いですが、このような描写も似合っています。
 背景に余計なものを入れず、太い枝と一輪の花だけのシンプルな構成にしました。また、窮屈にならないように周囲の空間を広めにとって、斜め上にスッと伸びた小枝のラインの美しさが出るようにしてみました。
 2号の接写リングをかませていますので、花弁をスポット測光した値に対して1.5倍の露出補正をしています。 

樹形全体で華やかさや力強さを表現する

 一輪とか数輪をアップで撮ったものも魅力的ですが、何と言っても樹全体に咲き誇っている状態は圧巻です。
 下の写真は満開になっている紅梅・白梅を撮ったものです。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F32 1/4 PROVIA100F

 紅、白、ピンクの梅が密集して咲いており、華やかさを出すために少し離れたところから望遠レンズで撮っています。あまり余計なものを入れず、むしろ花が画面から若干はみ出すくらいのフレーミングにしています。
 背後に椿の緑を入れ、画全体が平面的になるのを防ぐとともに、その対比で梅の華やかさが引き立つことを狙いました。中央右側に立っている桜と思われる木も、早春の雰囲気を出してくれる良いアクセントになっていると思います。
 晴れた日でしたが、花の色をきれいに出すために太陽に雲がかかった瞬間を狙って撮りました。また、白梅の色が濁らないように、ピンクの梅を基準に露出設定しています。できるだけパンフォーカスにしたかったので、目いっぱい絞り込んでいます。

 もう一枚は、力強く咲く梅の老木(倒木)です(下の写真)。

Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 210mm 1:5.6 F32 1/15 Velvia100F

 幹の太さからしてもかなりの樹齢があると思われますが、すっかり横倒しになってしまっています。しかし、それでも樹勢が衰えている感じはなく、枝先まで見事に花をつけています。この梅の咲いている環境がわかるようにと、背後に少しだけ山を入れてみました。
 また、綺麗な青空が広がっていましたが、空を入れるとこの老木の力強さが損なわれてしまうと思い、空はカットしています。
 前の写真のような華やかさではなく、倒れてもなお咲く力強さを表現したかったので、幹の質感が飛ばないように露出を若干抑え気味にしています。そのため、梅の花だけを見るとアンダー気味ですが、全体の雰囲気としてはそれほど気にならないと思います。

梅が咲く風景として撮る

 風景の中に梅が咲いている、と言った方がわかり易いかもしれません。梅だけを撮るのではなく風景写真として撮るのですが、その中で梅が重要な役割を果たしているといった感じでしょうか。上で紹介した写真も風景写真と言えなくもありませんので、その境界線は極めて曖昧なものです。

 下の写真は、梅の花越しに妙義山を望む風景として撮りました。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR 6×7 75mm 1:4.5 F22 1/30 PROVIA100F

 空を広く入れて広大な感じを出し、そこに満開の梅と山(妙義山)を配しました。画の下の方に梅林が広がっているのですが、これだけではしまりのない写真になってしまうので手前に梅の枝を入れています。妙義山が小さすぎて残念なのですが、大きく写すために焦点距離の長いレンズを使うと広大さが損なわれてしまうので、あえて広角レンズを使っています。

 朝の空気が澄んでいる時間帯での撮影なので青空もくっきりとしており、爽やかな感じが出ているのではないかと思っています。これが午後になると太陽が回ってくるとともに遠景が白く霞んでしまうので、爽やかさが薄れてしまいます。
 手前の梅の花が濁らないように、かつ、青空が白っぽくならないようにということで露出を決めています。
 PLフィルター使えばもっと濃い青を出すことができるのでしょうが、絵の具を塗りたくったようなベットリした感じになるのが嫌いなので、PLフィルターを使うことはあまりありません。

 上の写真は広大な感じを狙っていますが、風景として必ずしも広大である必要はありません。例えば、下の写真のように、限られた範囲であっても梅が咲いている風景といえると思います。

PENTAX67Ⅱ smc TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F4 1/125 PROVIA100F

 無縁仏の近くに白梅が咲いており、傍らでずっと無縁仏を見守ってきた、そんな物語が感じられればとの思いで撮りました。もし、この梅が紅梅だと華やかさが際立ってしまい、無縁仏との組み合わせは似合わないかもしれません。
 この写真では無縁仏が目立ちすぎないように、あまり絞り込まずに若干ぼかしていますが、主題を無縁仏にした場合は、逆に梅をぼかすという作画もあると思います。この辺りは、何を表現したいかによって変わってきます。

心象的に撮る

 心象とは心の中に生ずる感覚とかイメージのようなものなので、この撮り方は千差万別、その人の主観や感性で自由に撮ればよいと思っています。アップで撮ろうが全体を撮ろうが、どういう撮り方をしようとも伝えたいものがあれば、それで成り立つと思います。

 雨上がり、水滴がついた梅の花をアップで撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 MACRO 135mm 1:4 F4 1s EX1+2+3 PROVIA100F

 この写真で表現したかったのは、雨に濡れた冷たさではなく、むしろ、春がすぐそこに来ている温もりです。それを大きな水滴と玉ボケを入れることで表現しようとしています。明るさがないとそういう感じは出ないので、露出はオーバー目にしています。
 被写界深度を極端に浅くしたかったので、接写リングの1号から3号をすべてかませています。レンズ先端から梅の花までは20cmほどの近さです。

梅の撮影地

 関東で梅の有名どころと言えば水戸の偕楽園ですが、他にも梅林がたくさんあります。
 例えば、
  湯河原梅林(神奈川県)
  曽我梅林(神奈川県)
  秋間梅林(群馬県)
  越生梅林(埼玉県)
  吉野梅郷(東京都)
  高尾梅郷(東京都)
 などがあります。

 曽我梅林、秋間梅林、越生梅林は観梅ではなく、主に実を採るために農家の方が栽培している梅林です。
 また、吉野梅郷はウイルスに感染したということで、何年か前にすべて伐採されてしまいましたが、その後、植樹が始まりました。今はまだ木は小さいですが、いつの日か、以前のような絶景になってくれると思います。

 近所の公園などでも梅の木が植えられているところが多いので、有名な梅林に行かなくても撮影は十分できます。写真の表現の仕方は決まりがあるわけではなく自由なものです。梅の種類やその日の天候、周囲の環境などで様々な撮り方ができるので、被写体としてとても魅力のあるものだと思っています。

(2021.3.2)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #白梅 #紅梅 #プロビア #PROVIA #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~立春~

 今年の立春は2月3日で、これは実に124年ぶりとの報道がされていました。寒さはまだ続きますが、これからの寒さは余寒というらしく、春に向けて暖かくなっていく寒さということで、こういう使い分けが日本人の感性の豊かさだと思います。
 旧暦では立春のころが1年の始まりだったようで、日本では旧正月を祝う習慣はなくなってしまいましたが、中国の春節やベトナムのテトなど、アジアでは旧正月を祝う国がたくさんあるようです。

梅が咲き始めました

 今ではすっかり日本の風景に溶け込んでいる梅ですが、奈良時代に中国から持ち込まれたものらしく、万葉の時代には花というと桜ではなく白梅のことをさすくらい、当時の人々に愛でられていたようです。
 学問の神様として有名な菅原道真も紅梅を深く愛したひとりで、彼の邸宅は「紅梅殿」とよばれ、春の訪れとともに芳しい香りに包まれたといわれています。藤原時平の訴えにより、九州の大宰府に左遷されてしまうわけですが、以来、日本各地にある天満宮の境内には梅の木が植えられ、神紋には梅鉢が使われるようになったといいます。

 下の写真は近所の公園で撮った早咲きの白梅です。ほかの木はまだ1~2輪がようやく咲き始めたところですが、この梅はこの公園の中でも真っ先に咲きます。

白梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 「梅は百花の魁」といわれますが、梅が咲き始めるとあたりが明るくなったようにさえ感じます。満開の状態はもちろん豪華ですが、個人的には梅は咲き始めた頃がいちばん好きです。ぽつぽつと咲き始めた頃のちょっと恥じらうような姿に風情が感じられます。特に白梅には楚々とした感じが漂っていて、例えると、春の光のもとで微笑む小町娘、といったところでしょうか。

 ここ数日の暖かさで紅梅も咲き始めていました。紅梅には白梅と違った華やかさがあります。白梅が楚々とした美しさであれば、紅梅は艶っぽさ漂う美しさといった感じです。

紅梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

福寿草も眩しいくらいに輝いて

 元日草とか正月花などの別名をもつ福寿草、旧暦の正月、ちょうど今頃に咲き始めることからついた名前のようですが、立春を待ちかねたように咲き始めていました。新年を祝う花として古くから日本人の心を癒してきたといわれていますが、いまの時代は春の訪れを告げる花というイメージの方がしっくりきます。
 雪を割って芽を出す姿には心惹かれるものがありますが、東京ではなかなかそういう姿にお目にかかることはできません。それでも緑がほとんどない大地から芽を出して、身の丈に比べて大きな花を咲かせる姿には癒されます。

福寿草 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 花の少ないこの時期に、輝くような黄色の花は遠目にも良く目立ちます。太陽の動きを追いかけて花の向きを変える性質(向日性)があり、このため、花の内側は外側に比べて温度が高くなるらしいです。まるで、太陽の熱を集めるパラボラ集熱装置のようです。

 品種改良がなされて二重咲や八重咲といった豪華な福寿草もありますが、日本に自生しているのは一種のみだそうです。上の写真の福寿草は自生種と思われますが、定かなことはわかりません。しかし、これから次々といろいろな花が咲き始めることを教えてくれることには変わりありません。 

立春限定の日本酒も

 立春の未明に搾りあがったばかりのお酒のことを「立春朝搾り」といい、日本酒好きの人には待ち焦がれたお酒です。このお酒は火入れをしていない生原酒で、どの蔵元のお酒も日付が入った同じデザインのラベルが貼られています。今年のラベルは、「令和三年辛丑二月三日」と書かれています。実は、このラベルの裏側には、「大吉」の文字が書かれており、ビンの反対側から透かすと見ることができます。ちょっとした遊び心ですね。

(2021年2月8日)

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