カメラの本分とは、「光をとらえて像として記録する」という言い方ができると思います。まさにカメラが果たすべき役割という意味ではカメラの基本的機能ということになります。時代とともに技術も進歩して、カメラに備わる機能も進化、多様化してきましたが、すべては確実に写せるという土台の上に成り立っているのは言うまでもありません。
そういう視点からすると、確実に写真を撮ることが出来るのであればカメラは何でも良いという見方もできますが、カメラに限らず多くの工業製品がそうであるように、機能性の追求と同様に重要なのがデザイン性の追求だと思います。つまり、機能さえ満足していればデザインは気にしないということはあり得ないわけです。「機能美」という言葉がありますが、機能と本質的な美しさは切り離すことが出来ない、いわば表裏一体の関係にあると言えます。
工業製品のデザインは時代とともに変化をしてきたわけですが、そのデザインには機能を追求することで生まれた要素と、ユーザーに受け入れてもらうために生まれた要素が存在すると思っています。当然、ユーザーの嗜好というのも時代とともに変化していくわけですから、それをどう把握してデザインに反映させていくかというのは製造する側にとっては重要なテーマなんだと思います。
カメラもまた然りで、各メーカーが世に送り出してきた歴代のカメラを見ると、憚りながらそういうことを伺い知ることが出来るような思いになります。
特に、35mm判のカメラは製造販売された台数が中判カメラや大判カメラのそれとは桁違いに多いので、機能的にもデザイン的にも洗練されているという印象を持っています。
私が主に使っているのは大判カメラと中判カメラですが、これらのカメラには洗練された機能性やデザイン性がないかというとそんなことはなく、大判カメラとしての、あるいは中判カメラとしての機能美というものは存在していると思っています。
ですが、やはり35mm判カメラには洗練しつくされたと言っても過言ではないものがあるように感じているのも事実です。
他のページでも何度か触れてきましたが、私は今から10年ほど前に、使用する頻度が極端に減ったという理由から、それまで大量に持っていた35mm判のカメラやレンズのほとんどを手放してしまいました。いま手元に残っているのはたった2台のコンパクトフィルムカメラだけです。
しかし、他の人が持っているカメラを目にしたり、中古カメラ店に陳列されている35mm判カメラを見るたびに、「やっぱりいいなぁ」という思いを拭い去ることはできません。純粋に「美しい」と思うわけです。
もちろん、35mm判カメラであれば何でも良いというわけではなく、心を動かされないカメラもたくさん存在するのも事実です。私の場合、機能的なことよりもデザインに心を動かされることが圧倒的に多く、機能や性能がどんなに優れていても自分にとってデザインが気に入らなければ食指が動くことはありません。デザインというのは人によって好みがわかれるものですので、多くの人に受け入れられているデザインであっても自分も同じように気に入るとは限らないわけです。
では、私の琴線に触れるデザインとは何かというと、実はうまく説明ができません。形が美しいとか色使いが良いとか、そういう簡単な言葉で括れるようなものではなく、いろいろな要素が組み合わさって心が揺さぶられるとしか言いようがありません。
そんな思いというか感情は、35mm判カメラを手放して10年を経過しても少しも変わることなく、自分の中に宿り続けています。
世の中にはカメラや写真を趣味にしている人はたくさんいらっしゃいますが、私はカメラが好きな人と写真が好きな人に大別できるのではないかと思っています。もちろん、どちらも好きという人もたくさんいらっしゃると思いますが、私自身は写真が好きな部類の人間だと思っています。カメラも当然好きなのですが、そのカメラによって撮影する行為や作り出される写真の方にかなりの比重がかかっていると思っています。ですので、カメラやレンズなどの機材をコレクションするというようなことはなく、それらを実際に使うということに関心が向いています。
しかしながら、35mm判カメラに関しては少し状況が異なっていて、カメラそのもの、特に心を動かされるカメラの場合、手元に置いて眺めていたい、手に取ってみたいという気持ちがあるのも事実です。それの理由はと言うと、うまく説明のできないけれど洗練されたデザイン性によるものだと、自分自身に言い聞かせています。
訳の分からない前置きが長くなりましたが、実はつい2ヶ月ほど前、「PENTAX K2」という中古の一眼レフカメラを衝動買いしてしまいました。
東京には中古カメラ店が集中しているエリアが何ヵ所かありますが、自宅から比較的近い新宿にも中古カメラ店が何件もあり、時どき、これらのお店を当てもなくはしごすることがあります。その日も、とある一軒の中古カメラ店に入り店内を見て回っている際に、PENTAXコーナーに置いてある「K2」のシルバーモデルが目に留まりました。ペンタックスの一眼レフカメラの中では見かけることはそれほど多くはありませんが、かといって特段珍しいというわけでもありません。
そのカメラはとてもきれいで、アタリや大きな傷なども見当たりません。何だか私の方をじっと見ているような気がして、お店の方にお願いしてショーケースから取り出していただきました。手に取って確認してみましたが、底面にえくぼのような小さなへこみがある程度で、そのほかはとてもきれいな状態を保っています。レンズをお借りして一通りの動作確認も行ないましたが、概ね、正常に機能しているようです。シャッター速度などは勘に頼るしかありませんが、たぶん、大きなずれはなさそうでした。
それまで抑えていた物欲がふつふつと湧き上がってきて、「これを逃したら今後、これほど程度の良いK2に巡り合うことはない!」という何の根拠もない理由をこじつけて、お店の方に「買います!」と宣言してしまいました。
実は、PENTAX K2は10年ほど前に手放したカメラたちの中にも含まれていて、これが2回目の購入ということになります。当時持っていたのはブラックボディでしたが、個人的にはシルバーボディの方が好きです。
いまは手元に35mmカメラ用の交換レンズが1本もないので、標準レンズも一緒に購入することになりました。購入したのはSMC PENTAX 55mm 1:1.8 というレンズで、とてもきれいな個体ですが、開放F値が若干暗いのでお安い価格設定になっていました。カメラとレンズで7,000円ほどでした。ネットオークションなどを根気よく探せばもっと安く手に入るかもしれませんが、妥当なところだと思います。
実際に購入したカメラとレンズが下の写真です。ストラップはその昔に購入したまま、使わずにいたものがあったので着けてみました。
PENTAX K2は今から半世紀ほど前の1975年にKシリーズのフラグシップ機として販売が開始されたカメラです。それまでのペンタックスの一眼レフカメラはM42マウントというスクリュー式でしたが、Kマウントというバヨネット式にモデルチェンジした最初のカメラです。
Kシリーズには K2 のほかに KX 、KM を含めた3機種が同時発売されていました。3機種の外観は似通っていますが、KXとKMは先代のSPを踏襲しているのに対して、K2は全く新しいコンセプトで開発されたと言われています。
その後、Kシリーズはこの3機種のほかに派生機種を含めて5機種が販売されましたが、1年ほどで新たにMシリーズが登場したため、Kシリーズは非常に短命で、どちらかというと影の薄い存在という印象があります。
ちなみに、発売当時のK2の価格は72,600円(ブラックボディは75,100円)だったそうです。およそ50年前のこの金額が現在ではどれくらいに相当するのか、ちょっと調べてみたところ、1975年と2025年を比較した場合、消費者物価指数は約2.9倍、大卒初任給は約2.7倍になっているとのことで、それを基準に換算すると21万円ほどになります。当時の価格には物品税が上乗せされていたはずなので、21万円というのは現在の消費税込みの金額に相当すると考えても良いかと思います。
Kシリーズで一新されたデザインはその後のMシリーズでも踏襲されていきましたが、私の個人的な印象としては、1983年に発売された「PENTAX Super A」を最後にデザインがどんどん変わっていったように思います。デザインはその人の好みと書きましたが、私が好ましいと思っているデザインはこのSuper Aまでです。
K2の機能や仕様についてこのページで細かく触れるつもりはありませんので、それらについては詳細に解説しているサイトをご覧いただくとして、K2というカメラに関する個人的な思いのようなことを綴ってみたいと思います。
リコーから提供されている資料によると、初代のPENTAX一眼レフカメラ「Asahiflex Ⅰ」が発売されたのは1952年、そして、最後のフィルム一眼レフカメラとなる「*ist」の発売が2003年とのことです。この51年間に発売されたフィルムカメラは中判も含めると50機種以上になりますが、35mm判カメラの中で私のいちばんのお気に入りが1971年発売の「PENTAX ES」、そして2番目に気に入っているのが今回のK2です。
K2はKシリーズのフラグシップ機でしたが、何故K1ではなくK2なのか不思議に思っていましたが、ESに次ぐ第2世代のフラグシップ機ということで命名されたようです。
私もペンタックスの一眼レフカメラを何台も持っていましたが、手に持った時の感触の良さ、ホールディング性という点ではこのK2がいちばんだと思っています。Kシリーズは先代のモデルに比べると大型化し、そしてMシリーズになってからカメラのサイズはずいぶん小さくなりましたが、やはり、K2くらいの大きさがあった方が使いやすさ、そして安心感があります。ニコンにFE、FE2という名機がありましたが、ちょうどそれと同じくらいの大きさです。
また、この頃のカメラはボディに金属が多用されてるので、ヒンヤリズッシリした質感は近年のプラスチックボディのカメラでは味わえないものがあります。
フラグシップ機としては機能的にも性能的にも物足りないところもありますが、私は何といってもすっきりとしたデザインが気に入っています。直線的なデザインで構成されていて、最近のカメラと比較すると素朴でそっけない感じもしますが、無駄をそぎ落とした、洗練された印象を受けます。
ペンタックス一眼レフカメラの中でいちばんのお気に入りだったESも長いこと使いましたが、故障が多いというイメージを持っていました。その点、K2は非常に堅牢という感じで、最初に購入したK2も故障したことは一度もありませんでした。
このカメラ、ISO感度の設定が非常にやりにくいというのは有名で、その方法を解説したサイトもたくさんあります。確かに取扱説明書がないとどこをどう操作したらよいのかわからないという感じですが、そう頻繁に切り替えるものでもないので私はさほど気にしていません。むしろ、ISO感度切り替えをレンズマウント部に持ってくることで軍艦部がすっきりしたのではないかと思っています。
Kシリーズのペンタプリズム部に刻印されたロゴは「ASAHI PENTAX」となっており、その上部には「AOCO」マークが入っていますが、Mシリーズの途中から「ASAHI」の文字が消えて「PENTAX」だけになり、「AOCO」マークもなくなってしまいました。PENTAX MEにはASAHIの文字もAOCOマークも入っていたので、たぶんMV-1あたりから消滅したのではないかと思います。ASAHIの文字もAOCOマークもレトロな感じがして好きです。
ペンタックス一眼レフカメラに使用できる交換レンズは、Kマウント用もM42マウント用も中古市場にはかなりの数が流通しており、極めて程度の良いレンズとかレアなレンズにこだわらなければ手ごろな値段で容易に手に入れることが出来ます。M42マウントのレンズは海外も含めてたくさんのメーカーから発売されていたので、市場に出回っているタマ数としてはM42マウントレンズの方が圧倒的に多いと思いますが、経年による影響があるのも否めない感じです。
ですが、M42用のマウントアダプタを着ければK2でM42マウントのレンズを使うことが出来るので、レンズの選択肢は格段に広がると思います。レンズが曇っていてもそれもまた味わいのひとつという割り切りをして好んで使っている方もいらっしゃって、それはそれで写真の楽しみ方の一つかもしれませんが、私はクリアに写るレンズの方が好きです。
およそ10年ぶりに手にしたPENTAX K2、私にはほれぼれとするような美しいフォルムとして飽きることなくいつまでも眺めていられますが、やはりカメラなので実際に写してみたくなるのが人情というものです。
ということで、使うあてのないまま10年間も冷凍保存されていた35mmのリバーサルフィルムを取り出し、自宅近くの神社で撮影をしてみました。使用したフィルムはPROVIA 100Fです。冷凍してあるとはいえ10年も経てば多少は劣化もしていると思いますが、そのあたりは気にしないことにします。
K2の撮影モードにはマニュアルモードとオートである絞り優先モードがあるのですが、露出計が正常に機能しているのかどうか、事前に単体露出計を使って確認してみました。正確なところはわかりませんが、概ね正しい露出を計測しているようでしたので、絞り優先モード(オート)で撮影してみました。
結果はというと、ほぼ問題なく写ってくれました。被写体とその配置によっては1/3段ほど露出不足側に寄っているようにも思えますが、十分に使用に耐えうる範囲だと思います。
お散歩カメラとしてコンパクトフィルムカメラを2台持っていて、それらは時どき使っていますが、一眼レフカメラを実際に使ったのは10年ぶりのことです。率直に、一眼レフカメラはいいなぁという感じです。写真を撮っているという実感がひしひしと感じられるとでも言えばよいのか、コンパクトカメラを使っているときとは明らかに違う感覚を久しぶりに味わった気がします。
また、中判カメラや大判カメラにはない機動性も35mmカメラならではのものだと、あらためて感じました。
昔のように35mmカメラをメインに使って作品作りという状態に戻ることはないと思いますし、カメラやレンズをさらに買い足していくこともないと思いますが、時どきは一眼レフを持ち出して撮影してみるのもいいものだと思います。今のところレンズは1本しかありませんが、広角寄りのレンズがもう1本くらいあってもいいかなと思っています。
(2026.5.23)
