PENTAX67用 オート接写リング(エクステンションチューブ)

 PENTAX67には2本のマクロレンズ(焦点距離が100mmと135mm)がありますが、それとは別に接写リングが用意されています。
 マクロレンズと比べて接写リングは撮影の自由度が落ちるのですが、オート接写リングの場合、PENTAX67用の内爪式レンズのすべてに装着可能で、近接撮影を行なうことができるので結構重宝します(焦点距離600mm以上の超望遠レンズはバヨネットが外爪式になっており、それ用には外爪接写リングが用意されています)。
 今回は内爪式のオート接写リングをご紹介します。

3つのリングで7通りの組み合わせが可能

 一般的に接写リングは3個がセットになっているものが多く、PENTAX67用もNo.1~No.3までの3個で構成されています。いちばん薄いNo.1が厚さ14mm、次がNo.2で厚さ28mm、最も厚いのがNo.3で厚さ56mmです。厚さの比が1:2:4になっており、組み合わせを変えた時の厚さの変化が14mmステップになります。
 これら3個のリングは自由に組み合わせることができ、その組み合わせは7通りあります。

▲PENTAX67用 オート接写リング

   <組合せ>  <厚さ>
    1     14mm
    2     28mm
    1+2    42mm
    3     56mm
    1+3    70mm
    2+3    84mm
    1+2+3   98mm

 カメラ用のレンズは無限遠の時のレンズ繰出し量が最も少なく、被写体との距離が近くなるにつれてレンズの繰出し量も多くなるわけですが、最短撮影距離まで繰出すとそれ以上はヘリコイドが動かないようになっています。
 カメラとレンズの間に接写リングを挿入することで、さらにレンズを繰出すことができるようになります。つまり、この接写リングの場合、最短撮影距離の状態からさらに14mmステップで最大で98mmまでレンズを繰出すことができるということです。

撮影距離の制約

 では、接写リングを挿入することでどれくらいまで近接撮影ができるのか、PENTAX67用の標準レンズと言われている焦点距離105mmのレンズに接写リング3個を挿入した場合を例に計算してみます。

 レンズから被写体までの距離a、レンズから撮像面(フィルム)までの距離b、およびレンズの焦点距離fの間には以下のような関係があります。

   1/a + 1/b = 1/f ...式(1)

 この式から、

   1/a = 1/f - 1/b ...式(2)

 となります。

詳細は下のページをご覧ください。

  「大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 まずはレンズの距離指標を無限遠にした状態のときですが、接写リング3個重ねた時の厚さは98mmなので、
  bは 105mm+98mm で203mm
  fは焦点距離なので105mm

 これらの値を上の式(2)にあてはめてみます。

  1/a = 1 / 105 - 1 / 203
   よって、a = 217.5

 レンズから被写体までの距離aは217.5mmになります。
 これにレンズから撮像面までの距離 105mm+98mm を加えた420.5mmが撮影距離になります。

 次に、レンズのヘリコイドを目いっぱい繰出し、最短撮影距離である1mの指標に合わせた場合を計算してみます。

 無限遠の状態から最短撮影距離の指標までヘリコイドを回すと、このレンズの繰出し量は14mmです。
 すなわち、上の式のbの値は 105mm+14mm+98mm で、217mmとなります。
 同様に上の式(2)にあてはめると、

  1/a = 1 / 105 - 1 / 217
   よって、a = 203.4

 aは203.4mmとなり、これにレンズの繰出し量の217mmを加えた420.4mmが撮影距離になります。

 つまり、焦点距離105mmのレンズに接写リング3個を挿入すると、ピントが合わせられる範囲は420.4mm~420.5mmということで、わずか0.1mm足らずの範囲しかないということになります。これは許容範囲がないに等しく、これが接写リングの自由度の低さだと思います。

 参考までに、7通りの接写リングの組合せ時の撮影可能範囲を計算すると以下のようになります。

   <組合せ>  <撮影可能範囲>
     1     631.8~1011.5mm
     2     514.5~631.8mm
     1+2    462.9~514.5mm
     3     437.5~462.9mm
     1+3    425.3~437.5mm
     2+3    420.5~425.4mm
     1+2+3   420.4~420.5mm

 この値を見ていただくとわかるように、焦点距離105mmのレンズの場合、使用する接写リングの7通りの組合せによって、420.4~1011.5mmの範囲であれば無段階にピント合わせができるようになっています。

 これをグラフに表すとこのようになります。

 このようなグラフを使用するレンズごとに用意しておくと、撮影の際にどのような接写リングの組合せにすれば良いかがすぐにわかるので便利です。

接写リングによる撮影倍率

 次に、接写リングを使用した場合の撮影倍率についても計算してみます。
 撮影倍率Mは以下の式で求めることができます。

   M = z’/f ...式(3)

 ここで、z’はレンズの後側焦点から撮像面までの距離、fはレンズの焦点距離です。

 詳細は下のページをご覧ください。

  「大判カメラによるマクロ撮影(2) 撮影倍率

 焦点距離105mmのレンズに、接写リング3個をつけた場合の撮影倍率を上の式(3)にあてはめて計算してみます。
 まず、レンズを無限遠の指標に合わせた場合ですが、z’は接写リングの厚さに等しいので、No.1~No.3を装着した場合は98mm、fは焦点距離なので105mmです。

   M = 98 / 105 = 0.93倍

 となります。

 また、レンズを最短撮影距離の1mの指標に合わせた場合、レンズの繰出し量は14mmなので、z’は 14mm+98mm で112mmとなります。
 したがって、この時の撮影倍率は、

  M = 112 / 105 = 1.07倍

 となり、焦点距離105mmのレンズに3個の接写リングをつけると、およそ等倍の撮影ができるということです。

 同様に、7通りの組合せ時の撮影倍率の計算を行なうと以下のようになります。

   <組合せ>  <撮影倍率>
    1     0.12~0.27倍
    2     0.27~0.40倍
    1+2    0.40~0.53倍
    3     0.53~0.67倍
    1+3    0.67~0.80倍
    2+3    0.80~0.93倍
    1+2+3   0.93~1.07倍

接写リング使用時は露出補正が必要

 レンズが前に繰り出されると撮像面の単位面積あたりに届く光の量が減少し、レンズの実効F値が暗くなるため、露出補正が必要になります。レンズのヘリコイド可動範囲内であれば露出補正量もわずかで誤差の範囲と言えますが、接写リングを挿入するとそういうわけにもいかず、露出補正しなければなりません。

 露出補正倍数は下の式で求めることができます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離) ^ 2 ...式(4)

 焦点距離105mmのレンズにNo.1~No.3の接写リングをつけた場合の露出補正量を計算してみます。

 まず、レンズの距離指標を無限遠に合わせた場合、レンズ繰出し量は焦点距離に接写リングの厚さを加えた値なので、105mm+98mm で203mmとなり、

   露出補正倍数 = (203 / 105) ^ 2 = 3.74倍

 の露出補正が必要ということです。
 これは2段(EV)弱のプラス補正ということになります。

 また、レンズの距離指標を最短撮影距離の1mに合わせた場合、レンズ繰出し量はさらに14mm加算されるので217mmになります。
 同様に露出補正倍数を計算すると、

   露出補正倍数 = (217 / 105) ^ 2 = 4.27倍

 となり、これは2段(EV)強のプラス補正ということになります。

 7通りの接写リングの組合せ時の露出補正倍数は以下のようになります。

   <組合せ>  <露出補正倍数>
    1     1.28~1.60倍
    2     1.60~1.96倍
    1+2    1.96~2.35倍
    3     2.35~2.78倍
    1+3    2.78~3.24倍
    2+3    3.24~3.74倍
    1+2+3   3.74~4.27倍

自由度は低いがマクロ撮影のバリエーションは広い

 接写リングをつけると無限遠などの遠景撮影ができなくなったり、一つの組合せで撮影できる範囲が非常に限定されたりしますが、マクロレンズ単体で使用するのに比べると撮影倍率ははるかに高くできます。
 また、様々な焦点距離のレンズでの使用が可能なので、撮影のバリエーションも広がります。

 とにかく撮影倍率を高くしたいのであれば、できるだけ焦点距離の短いレンズを使うことで実現できます。PENTAX67用で、フィッシュアイレンズを除く最も焦点距離の短いレンズは45mmですが、このレンズにNo.1~No.3の接写リングをつけた場合の撮影倍率は約2.27倍になります。
 また、焦点距離の長いレンズにつけると前後のボケが非常に大きくなり、背景を簡略化したり、美しいグラデーションの中に被写体を浮かび上がらせたりすることができます。

 下の写真は、焦点距離165mmのレンズにNo.3の接写リングをつけて撮影したものです。

▲smc-PENTAX67 165mm 1:2.8 接写リングNo.3使用

 撮影倍率は約0.5倍です。ピントが合っている部分はごくわずかで、画のほとんどがアウトフォーカスになっています。長めの焦点距離のレンズを使っているので、ボケも綺麗です。

 一方で、ピントを合わせられる範囲も被写界深度も著しく浅くなるので、ピント合わせは慎重に行なわなければなりません。接写リングを3つも重ねるとピントの山がつかみにくくなるので、ピント合わせにも苦労します。

 私は持っていませんが、接写リングの厚さを可変できるヘリコイド接写リングというものがあります。可変量はそれほど大きくありませんが、接写リングと組み合わせて使うと撮影可能範囲が広くなるので便利だと思います。

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 マクロレンズがあれば接写リングを持ち出すこともないかも知れませんが、マクロレンズだけでは撮れないような写真を撮ることができるので、私は常にカメラバッグの中に入れています。
 はめたり外したりが少々面倒くさいですが、それもまた手間をかけて撮影している実感があるということで、良しとしておきましょう。

(2022年3月20日)

#接写リング #マクロ撮影 #ペンタックス67 #PENTAX67

大判カメラによるマクロ撮影(3) 撮影の手順

 前回、前々回で撮影時における露出補正と撮影倍率について説明しましたので、今回は実際に撮影する場合の手順などについて触れておきたいと思います。実際に近接撮影した例も掲載しておきます。

撮影倍率を決めて撮影する

 まず、先に撮影倍率を決めて、その大きさで撮影する場合の手順について説明します。手近なところに花瓶に差した梅がありましたので、これを撮影してみたいと思います。
 テーブルフォトのようになるので、あまり長い焦点距離のレンズは使わず、今回は105mのレンズで等倍(1倍)撮影をしてみます。機材等は以下の通りです。

  カメラ      リンホフマスターテヒニカ45
  レンズ      フジノン CM Wide 105mm 1:5.6
  フィルムホルダー ホースマン67用フィルムホルダー

 撮影倍率はフィルムの大きさに影響を受けないので、今回はブローニーフィルムを使います(なにしろ、フィルム代が高いので)。

 撮影手順はざっと下のようになります。

  (1) レンズの繰出し量を求める
  (2) レンズと被写体の距離を求める
  (3) (2)の計算結果に基づき、カメラと被写体の位置を決める
  (4) 微調整によりピントを合わせる
  (5) 露出補正値を計算する
  (6) 撮影

 それでは、順を追って説明していきます。

 (1) レンズの繰出し量を求める

 前回説明した、撮影倍率とレンズの焦点距離から、レンズの後側焦点と撮像面の距離を求める計算式にあてはめます。
 ここで、各記号は以下の通りです。

   f : レンズの焦点距離(今回は105mm)
   z : レンズの前側焦点から被写体までの距離 
   z’ : レンズの後側焦点から撮像面までの距離
   M : 撮影倍率(今回は1倍)

 レンズの後側焦点から撮像面までの距離z’は、

   z’ = f・M
     = 105 * 1
     = 105mm

 よって、この値にレンズの焦点距離の105mmを加算した210mmがレンズの繰出し量となりますので、その位置までカメラの蛇腹をススーッと伸ばします。このとき、メジャーがあると便利です。

 (2) レンズと被写体の距離を求める

 次に、レンズ前側焦点から被写体までの距離zを求める計算式にあてはめます。

   z = f/M
     = 105/1
     = 105mm

 よって、レンズ中心から被写体までの距離は、レンズの焦点距離の105mmを加えた210mmとなります。

 (3) (2)の計算結果に基づき、カメラと被写体の位置を決める

 カメラ、もしくは被写体を動かしてこの距離を保った位置関係にします(下図を参照)。

 このとき、カメラのフォーカシングスクリーンを覗くと、概ね、ピントが合っているはずです。もし、ピントが大きくずれている場合は、レンズ繰出し量が違っているか、被写体との距離が違っているかです(両方違っている場合もありますが)。
 ここで注意が必要なのは、ピントがずれているときに、カメラ側のフォーカシングノブでピント合わせをしないということです。これをやってしまうと撮影倍率がくるってしまいます。ですので、レンズの繰出し量を再確認し、また、被写体との距離を正しい位置関係になるようにカメラ、もしくは被写体を動かし、フォーカシングスクリーン上でピントが合っている状態にします。

 すでにお分かりと思いますが、等倍撮影の場合、被写体からレンズ中心までの距離と、レンズ中心から撮像面までの距離(レンズ繰出し量)が等しくなります。そして、被写体から撮像面までの距離が最短になるのが等倍撮影のときです。

 (4) 微調整によりピントを合わせる

 最終のピント合わせ(微調整)はカメラのフォーカシングノブを動かして行います。(3)で説明した位置関係が正しく設定されていれば、微調整の量はごくわずかです。
 この状態でフォーカシングスクリーンを見ると、被写体と同じ大きさに投影された像が写されているはずです。

 (5) 露出補正値を求める

 今回の撮影ではレンズの焦点距離の2倍まで繰出しているので、露出補正が必要になります。「大判カメラによるマクロ撮影(1)」で説明した露出補正倍数を求める計算式にあてはめます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2
          = (210/105) ^ 2
          = 4倍

 となり、この場合は4倍の露出補正が必要になります。
 すなわち、露出計で測光した値に対して、2段分、多く露光されるように露出値を決め、絞り、もしくはシャッター速度を設定します。

 (6) 撮影

 等倍撮影なので被写界深度は非常に浅くなります。絞りF8で撮影する場合、焦点深度は±0.24mm(許容錯乱円を0.03mmとする)、被写界深度はおよそ1.9mmとなります。つまり、ピントの合っている状態からレンズを前後いずれかに0.24mm動かすと、ピントの合っていた位置は被写界深度の範囲から外れてしまうことになります。

 実際に、上記の条件で撮影したのが下の写真です。

白梅(等倍撮影) Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F11 1/4 PROVIA100F

 花の大きさがわかるようにメジャーも一緒に写し込みました。ピントは花の中心付近の雄蕊に合わせています。

撮影倍率ごとの作例

 撮影倍率によってフィルム上ではどのような感じになるかというのを見ていただこうと思い、1/2倍、等倍、2倍で撮影した67判のポジ原版を掲載しておきます。
 被写体は山形県米沢市の民芸品である「お鷹ポッポ」です。いずれも鷹のくちばしのあたりにピントを合わせています。梅の写真同様、メジャーも写し込んでいます。

1/2倍撮影 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F8 1/8 PROVIA100F
等倍撮影 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F8 1/2 PROVIA100F
2倍撮影 Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM Wide 105mm 1:5.6 F8 1s PROVIA100F

 フィルム面(黒縁の内側)の大きさは、横69mm×縦56mmです。実際にフィルム上に写ったメジャーの目盛りを測定してみましたが、ほぼ正確に1/2倍、等倍、2倍になっていました。
 ちなみに、2倍の倍率での撮影時の露出補正倍数は9倍になります。

撮影範囲とレンズを決めて撮影する

 「厳密な撮影倍率は気にしないが、このレンズでこの範囲を写し込みたい」ということがあると思います。その場合の撮影手順について触れておきます。
 この場合、写し込みたい範囲の寸法、撮像面の寸法、使用するレンズの焦点距離から撮影倍率を計算します。例えば、以下のような条件のとき、

  写し込みたい範囲の横幅   200mm
  撮像面の横の長さ      69mm(67判を想定)
  レンズの焦点距離      105mm

 撮影倍率は、69/200 = 0.345倍 となります。
 これ以降は上の手順と同じになります。

 参考までに計算をしてみます。
 この倍率からレンズ後側焦点から撮像面までの距離は、

   z’ = f・M
     = 105 * 0.345
     = 36.2mm

 よって、レンズ中心から撮像面までの距離(レンズ繰出し量)は、36.2 + 105 = 141.2mm になります。

 また、レンズの前側焦点から被写体までの距離を求めると、

   z = f/M
     = 105/0.345
     = 305.3mm

 よって、レンズ中心から被写体までの距離は、305.3 + 105 = 410.3mm になります。

被写体までの距離と撮影範囲を決めて撮影する

 「この位置からこの範囲を写したい」というときに、どの焦点距離のレンズを使ったらよいかを知りたいということがあると思います。
 まず、写し込みたい範囲の寸法と撮像面の寸法から撮影倍率を計算します。例えば、以下のような条件のとき、

  写し込みたい範囲の横幅   200mm
  撮像面の横の長さ      69mm(67判を想定)
  被写体までの距離      500mm

 撮影倍率は、69/200 = 0.345倍 となります。
 また、「この位置」というのがレンズの前側焦点とすると、この値からレンズの焦点距離を計算すると、

   z = f/M より、
   f = z・M
     = 500*0.345
     = 172.5mm

 となります。

 計算結果にピッタリとした焦点距離のレンズはないと思いますので、最も近い値のレンズを使うことになります。この場合は180mmといったところでしょうか。
 よって、被写体から、500+180 = 680mm の位置にレンズの中心を置くことで、概ね、想定した範囲を撮影することができます。

 この時のレンズの後側焦点から撮像面までの距離も計算してみます。

   z’ = f・M
     = 180*0.345
     = 62.1mm

 よって、レンズの繰出し量は、180+62.1=242.1mmとなります。

 このように計算で求めることもできますが、せっかく計算してもぴったりとはまるレンズがないとなると、あくまでも目安程度ということになってしまいます。しかしながら、レンズ選択に迷うときには有効かもしれません。
 なお、もっと簡単にレンズを決めることができる方法があります。「プアマンズフレーム」なるものを使用することで、使用するレンズの焦点距離を選択することができますので、詳細は「我楽多箱」に入れてある下のページをご覧ください。

  「構図決めに便利なプアマンズフレームの作成

補足

 大判カメラでのマクロ撮影ということで、その手順について書いてきましたが、このやり方は35mm判や中判のマニュアル一眼レフカメラなどに接写リングやベローズをつけての撮影でも基本的に同じです。
 ただし、ヘリコイド型ではない通常の接写リングの場合、レンズ繰出し量は接写リングの組み合わせにより、段階的(不連続)になってしまいますので、ベローズに比べると自由度は制限されてしまいます。一般的には3個組になっているものが多いと思いますが、いちばん薄いのが1号、その倍の厚さがある2号、4倍の厚さがある3号の組合せとなっていますので、1号のリングの厚さを把握しておけば、その倍数で7通りの長さをつくることができます。
 ちなみに、PENTAX67用の接写リング1号の厚さは14mmですので、14mm刻みで98mmまでの組み合わせができます。

(2021年2月27日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラによるマクロ撮影(2) 撮影倍率

 前回は近接撮影の際にレンズを繰出すことによる露出補正について触れましたが、今回は撮影倍率について話を進めたいと思います。希望の倍率で撮影したい時のレンズの配置等についても触れておきます。

撮影倍率とは

 撮影倍率とは、被写体の大きさと、その被写体が撮像面(フィルム)に写った大きさの比率をいいます。例えば、直径20mmの1円硬貨が、撮像面上でも20mmに写っていれば撮影倍率は1倍(等倍)であり、撮像面上での大きさが10mmであれば撮影倍率は1/2倍ということになります。
 この撮影倍率は撮像面の大きさには関係ありませんので、35mmフィルムであろうと4×5フィルムであろうと、撮像面上で1円硬貨が20mmの大きさに写っていれば撮影倍率は等倍です(下図を参照)。

撮影倍率を計算で求める

 まず、レンズと光に関する基本的な特性として、以下の4点が挙げられます。

  1) ある一点から出たあらゆる光は、レンズを通過した後、一点に集まる
  2) 光軸と平行にレンズに入射した光は、レンズを通過した後、レンズの後側焦点を通る
  3) 前側焦点を通ってレンズに入射した光は、レンズを通過した後、光軸と平行に進む
  4) レンズの中心を通った光は直進する

 上の図で、それぞれの記号が示す意味は以下の通りです。

  F : レンズの前側焦点
  F’ : レンズの後側焦点
  H : レンズ中心 

  h : 被写体の高さ
  h’ : 撮像面上での被写体の高さ
  f  : レンズの焦点距離
  z : レンズの前側焦点から被写体までの距離 
  z’ : レンズの後側焦点から撮像面までの距離

 この図で、レンズ前側(図の左側)にある2つの黄色の三角形に注目すると、薄い黄色で塗られた大きな三角形(△ABF)と、濃い黄色で塗られた小さな三角形(△FHC)は相似形であることがわかります。

 また、
  辺BF = h  (薄い黄色の大きな三角形)
  辺HC = h’ (濃い黄色の小さな三角形)

 であることから、下の関係式が成り立ちます。

  h:h’ = z:f  ……… (1)

 次に、レンズ後側(図の右側)にある2つのオレンジ色の三角形に注目すると、薄いオレンジ色で塗られた大きな三角形(△C’F’H)と、濃いオレンジ色で塗られた小さな三角形(△F’A’B’)も相似形であることがわかります。

 上と同様に、
  辺C’H  = h  (薄いオレンジ色の大きな三角形)
  辺F’B’ = h’ (濃いオレンジ色の小さな三角形)

 であることから、下の関係式が成り立ちます。

  h:h’ = f:z’  ……… (2)

 hとh’の比率は、被写体の大きさと、撮像面上の被写体の大きさの比率となり、これが撮影倍率になります。
 撮影倍率をMとすると、Mは h’ / h となるので、下の関係式が成り立ちます。

  M = f/z  ……… (3)
  M = z’/f  ……… (4)

 これらのことから、撮影倍率は以下のように定義することができます。
  式(3)から、撮影倍率は、被写体からレンズの前側焦点までの距離と、レンズの焦点距離の比
  式(4)から、撮影倍率は、レンズの焦点距離と、レンズの後側焦点から撮像面までの距離の比

 これにより、所定の倍率で撮影したいときに、被写体からレンズまでの距離、レンズから撮像面までの距離を知ることができます。

 また、上の式は次のように書き換えることができます。

  z  = f/M   ……… (5)
  z’ = f・M   ……… (6)

  式(5)は、被写体からレンズの前側焦点までの距離は、レンズの焦点距離を撮影倍率で除した値
  式(6)は、レンズの後側焦点から撮像面までの距離は、レンズの焦点距離に撮影倍率を乗じた値
 ということを意味します。

 これにより、被写体からレンズまでの距離、およびレンズから撮像面までの距離がわかっているときに、撮影倍率を知ることができます。

 ここで注意が必要なのは、zは被写体からレンズの前側焦点までの距離なので、被写体からレンズ中心までの距離はzにレンズの焦点距離fを加算しなければなりません。
 同様に、z’はレンズ後側焦点から撮像面までの距離なので、レンズ中心から撮像面までの距離はz’にレンズの焦点距離fを加算しなければなりません。

撮影倍率によるレンズ位置の計算

 ここで例として、焦点距離100mmのレンズで1円硬貨(直径20mm)を2倍の大きさ(直径40m)で撮影したい時のレンズの配置を計算してみます。

 レンズの焦点距離 f = 100mm と、撮影倍率 M = 2倍 を式(5)にあてはめると、

  z = 100 / 2
   = 50mm

 となり、レンズの前側焦点の50mm前方に被写体を置けばよいことがわかります。これは、レンズ中心から150mmの位置になります。

 次に、撮像面の位置を計算するために、式(6)にあてはめると、

  z’ = 100 * 2
   = 200mm

 となり、レンズの後側焦点から200mm後方に撮像面を置けばよいことになります。これは、レンズの中心から300mmの位置になります。
 実際にカメラと被写体を配置してみると、下のような感じになります。
 (105mmのレンズが取り付けてありますが、撮影時のイメージを理解してもらうことが目的なので、焦点距離100mmのレンズということにしておいてください)

ピントが合って見える範囲は? 焦点深度と被写界深度

 ちなみに、この状態の焦点深度は極めて浅く、紙一枚ほどの厚さという感じです。実際にどれくらいの焦点深度があるか、計算をしてみます。
 焦点深度は下の式のように定義されています。

  焦点深度 = ± ε・F

 ここで、εは許容錯乱円、Fは絞り値になります。
 許容錯乱円を0.03mmとすると、絞りF8で撮影した場合の焦点深度は、

  焦点深度 = ±0.03 * 8
       = ±0.24mm

 となります。

 これを、焦点距離100mmのレンズを使ったこの撮影の場合の被写界深度に換算すると、およそ1.2mmとなりますので、ピント合わせは非常にシビアというほかありません。なお、許容錯乱円の値は、35mm判フィルムから四切程度に引き伸ばすことを前提に定義されていた値を用いています。
 被写界深度や焦点深度の詳細については別の機会にしたいと思います。

露出補正値を求める

 前回、露出補正値の求め方について触れましたが、上の例について露出補正値を計算してみます。上で求めた値を下の式にあてはめてみます。

   露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 レンズ繰出し量は、f + z’ = 300mm ですから、

   露出補正倍数 = (300 / 100) ^ 2
          = 9

 となり、9倍の露出補正が必要ということになります。これは、絞りF5.6の場合の実効f値が16.8になることを意味します。

大判カメラでの最大撮影倍率は?

 では、大判カメラを使った近接撮影で、最大撮影倍率はどれくらいまで可能なのか、算出してみたいと思います。
 リンホフマスターテヒニカ45の最大フランジバックは430mmです(私のカメラは蛇腹の都合でそこまで延びませんが)。式(4)から、レンズの焦点距離が短い方が撮影倍率が高くなることがわかりますので、私が持っているレンズの中で最も焦点距離の短い65mmのレンズを使うことを想定します。
 レンズの最大繰出し量の430mmからレンズの焦点距離の65mmを引くと、レンズの後側焦点から撮像面までの距離 z’ は365mmになります。
 これを、式(4)にあてはめると、

  M = z’/f
    = 365 / 65
    = 5.62

 となり、約5.6倍の倍率で撮影ができることになります。
 これは、直径20mmの1円硬貨が、撮像面では直径112mmの大きさで写ることになります。画質の低下や被写界深度の浅さはあるとしても、驚くべき近接撮影です。
 実際にこのような近接撮影のニーズがあることはほとんどないと思われますが、大判カメラによる近接撮影のポテンシャルについてはおわかりいただけるのではないかと思います。

 実際の撮影手順や撮影例については次回にしたいと思います。

(2021年2月11日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika

大判カメラによるマクロ撮影(1) 露出補正値を求める

 35mm判カメラや中判カメラ用のレンズには「マクロレンズ」というカテゴリーがあり、ほとんどのメーカーから複数本のレンズが出ています。大判カメラ用にも近接用レンズがありますが、種類は少ないです。大判カメラでは蛇腹を繰出すことで、すべてのレンズがマクロレンズとして使えるといっても過言ではありません。
 もちろん、35mm判カメラや中判カメラのレンズでもベローズや接写リングをかませることで近接撮影ができますが、遠距離にピントが合わなくなってしまいます。

レンズの最短撮影距離

 マクロレンズの定義は明確に決まっていないようですが、被写体に近づいて撮影でき、概ね、1/2倍以上の倍率で撮影できるレンズを一般的にはマクロレンズと呼んでいるようです。
 これに対して、マクロの名がついていない普通のレンズは被写体に極端に近づくことはできず、最短撮影距離はレンズの焦点距離の10倍くらいのものが多いのではないかと思います。焦点距離が50mmのレンズであれば50cm前後、100mmのレンズであれば1m前後といった感じです。当然、撮影倍率も自ずと限界があります。

 一方、大判カメラはレンズの種類に関係なく、蛇腹の許す範囲までレンズを繰出すことができます。

  

 何故、一般のレンズが焦点距離の10倍くらいを最短撮影距離にしているかというと、多分、画質の低下が顕著にならない距離であることと、それくらいの距離までは露出補正をしなくても影響がないことが理由かと思われます。
 カメラのレンズは無限遠にピントを合わせた時がレンズと撮像面の距離が最短になり、より近くの被写体にピントを合わせるためにはレンズを繰出す必要があります。その結果、レンズと撮像面の距離が長くなり、撮像面に入る光の量が減少してしまうため、露出を多めにしなければならなくなります(下図を参照)。

 上の図のように、レンズと撮像面の距離が長くなればなるほど撮像面に入る光の量が減少するのがわかります。例えば、レンズと撮像面の距離が2倍になるとレンズからの光が描く円の直径も2倍になるため、この円の面積は4倍になります。すなわち、撮像面に入る光の量が1/4に減少してしまうことになります。したがって、適正露出にするためには露出を4倍にする必要があります(絞りで2段開く、もしくはシャッター速度を2段分遅くする)。

撮影距離とレンズ繰出し量の計算

 近い被写体にピントを合わせる際、レンズをどれだけ繰出さなければならないかを計算で求めることができます。
 レンズから被写体までの距離をa、レンズから撮像面までの距離をb、レンズの焦点距離をfとしたとき、これらの間には下のような式が成り立ちます。

  1/a + 1/b = 1/f

 手元に「フジノンCM Wide 105mm 1:5.6」という大判カメラ用のレンズがありますので、このレンズで焦点距離の10倍にあたる1050mmに位置する被写体を撮影することを想定してみます。
 上の式に、被写体までの距離 a=1050mm、レンズの焦点距離 f=105mmを当てはめてレンズと撮像面の距離 bを計算すると、

  1/b = 1/f - 1/a
     = 1/105 - 1/1050
     = 9/1050
 
 よって、b = 116.7mm となります。
 すなわち、無限遠にピントを合わせた状態(105mm)から11.7mm、繰出すことになります。

 では、実際にレンズがどれくらい繰出されるかということで、フジノンCM Wide 105mmのレンズで実測してみました。
 無限遠にピントを合わせた時のシャッター位置から撮像面までの長さは104mmでした。ここから、焦点距離の10倍となる1050mm先の被写体にピントを合わせ、同じようにシャッター位置から撮像面までの長さを測ったところ、115mmでした。すなわち、レンズの繰出し量は11mmということです。
 上の計算式で求めた値と若干の差がありますが、実測値の測定精度はあまり高くないと思われますので、以後は理論値を使って話を進めます。

レンズを繰出すことによる露出補正値を求める

 しかしながら、たとえ11.7mmと言えどもレンズから撮像面までの距離が長くなれば、撮像面に入る光の量が減少するのは上の図からも明らかです。では、実際にどれくらいの影響があるのかを計算してみます。

 レンズを繰出すことによる露出補正量は下の式で求められます。レンズ繰出し量とは撮像面からレンズまでの距離をいいます。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 この式に、レンズ繰出し量の116.7mmとレンズ焦点距離の105mmをあてはめてみます。

  露出補正倍数 = (116.7/105) ^ 2
         = 1.235

 となり、レンズを無限遠の状態からさらに11.7mm繰出すことで、1.235倍の露出補正が必要ということになります。

 1.235倍という補正量を絞り値にあてはめると、√1.235 = 1.111 ですので、

  5.6 * 1.111 = 6.222 となります。

 よって、フジノンCM Wide 105mm 開放f値5.6のレンズが、116.7mmまで繰出されることで実効f値が6.2になるということを意味します。これは、絞りでおよそ1/4段に相当します。

 また、レンズの焦点距離、有効径、そして開放f値には以下の関係式が成り立ちます。

  開放f値 = 焦点距離/有効径

 この式にフジノンCM Wide 105mm の値をあてはめてレンズの有効径を求めると、

  有効径 = 105mm/5.6
      = 18.75mm となります。

 この有効径で116.7mmまで繰出した場合の実効f値は、

  実効f値 = 116.7mm/18.75mm
       = 6.22

 となり、上で計算した値とほぼ同じになり、実態が正しいことがわかります。

 これらのことから、1/4段程度であれば露出補正を必要としない許容範囲内という判断がされ、一般的なレンズの最短撮影距離が焦点距離の10倍前後になっているのではないかと思われます。
 1/4段を大きいとみるか小さいとみるかは意見の分かれるところかもしれませんが、一般的な一眼レフカメラなどに備わっている露出補正は1/2ステップ、もしくは1/3ステップであり、これに比べて50~75%の値ですから、許容範囲と言っても差し支えないのではないかと思います。

 最近のカメラではレンズから入ってきた光を測定して露出を決めているので、レンズの実効f値が暗くなったところで何ら気にすることはありませんが、大判カメラなどのように自動露出計が内蔵されていない場合はそういうわけにいきません。上の検証結果から分かるように、レンズの焦点距離の10倍より遠い距離にある被写体を撮影する場合は特に補正なしで問題ありませんが、それより近い被写体を撮影する場合は、実際のレンズの繰出し量を測定して露出補正値を計算しなければならず、面倒であることは間違いありません。

 繰り返しになりますが近接撮影をする場合は、レンズ繰出し量と焦点距離を下の式に当てはめて、露出補正量を計算します。

  露出補正倍数 = (レンズ繰出し量/焦点距離)^2

 実際にレンズ繰出し量によってどの程度の露出補正が必要になるか、焦点距離105mmのレンズについて計算して表にしてみました。レンズ繰出し量は、レンズから撮像面までの距離になります。

 大判カメラ用のレンズはどれもがマクロレンズとして使用できますが、露出補正というひと手間を加えなければならないということです。
 前置きが長くなってしまいましたが、次回は撮影倍率と実際の撮影について触れたいと思います。

(2021年1月31日)

#マクロ撮影 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_MasterTechnika #露出