アグファ AGFA のモノクロフィルム COPEX RAPID の使用感

 アグファ AGFA といえば世界で最初に内式のリバーサルフィルムを製造・販売した会社で有名ですが、いまから30年ほど前、アグファからはSCALA200というモノクロのリバーサルフィルムが販売されていました。個性的なフィルムを出す会社という印象がありました。今はADOXから若干のモデルチェンジをした製品がSCALAブランドで販売されているようです。
 実は、前々からAGFA COPEX RAPID というフィルムが気になっていたのですがなかなか使う機会がなく、ようやくそのフィルムを使って撮影が実現できましたのでご紹介します。

アグファのドキュメント用フィルム

 AGFA COPEX RAPID というフィルムはドキュメント撮影用というカテゴリーに分類されるようで、フィルムケースのラベルには「MICROFILM」と書かれています。すなわち、風景やポートレートなどを撮る一般的なモノクロフィルムではなく、本来は書類や図面などを記録するためのフィルムということのようです。
 ISO感度は50で、マイクロフィルムとしてみれば感度は高いと思いますが、一般的なフィルムからすると低感度です。

 今回使用したのはブローニーの120サイズフィルムで、通販で1本1,300円ほどで販売されていました。1本ずつプラスチックケースに入っており、そのキャップの上部には「Rollei」のロゴが入っています。
 また、ラベルには「MANUFACTURED BY AGFA GEVAERT N.V.」とあるので、フィルムの供給はドイツのマコという会社が行なっていますが、実際に製造しているのはベルギーにあるアグファ・ゲバルト社のようです。

 マイクロフィルムというとその用途から高い鮮明度と解像力が求められており、このフィルムも鮮明度や解像力は優れているようで、販売元のデータを見ると解像力は600本/mmとなっています。富士フイルムのモノクロフィルムACROSⅡの解像力はハイコントラスト時で200本/mmどのことですから、いかにCOPEX RAPIDの解像力が高いかがわかります。
 実際にウェブサイトなどに掲載されている作例を見ても、とてもハイコントラストで高解像度の写真に仕上がっていて、やはり、一般的なモノクロフィルムとは別物といった感じです。

 ドキュメント用フィルムだからといって風景が撮れないわけではないので、今回は神社仏閣と野草を対象に撮影をしてみました。

現像に関するデータ

 このフィルムの現像は専用の現像液として販売されている「シュプール Dokuspeed SL-N」が推奨となっていますが、私は持ち合わせていないので、今回はSilverSalt現像液を使うことにしました。
 SilverSaltは比較的使う頻度が高く、使いかけのボトルが手元にあるのですが、COPEX RAPIDを現像する際のデータがありません。あちこち調べてみたのですが的確な情報を得ることが出来ず、環境的にいちばん似通っているであろうと思われるデータをもとに現像条件を決めました。

 ということで、今回の現像条件は以下の通りです。

  ・現像液 : SilverSalt
  ・希釈 : 1 + 30 (原液1に対して水30)
  ・温度 : 20度
  ・現像時間 : 9分30秒
  ・撹拌 : 最初に30秒、その後60秒ごとに2回倒立撹拌

 使用した現像タンクはパターソンのPTP115というモデルなので、必要な現像液の量は約500mlです。SilverSaltの原液17mlと水510mlを合わせて527mlの現像液を調合しました。

 因みに、135フィルムの場合、撹拌は1回で大丈夫なようです。

 先日までの猛暑もひと段落して室内温度もそれほど高くないので、現像液の温度を20度に保つにはありがたい気温になっていました。いったん20度になれば、20分ほどであればそのまま放っておいても液温はほとんど変わることはありません。

 現像後の現像液はピンク色に染まっていました。
 また、フィルムベースはほぼ透明ですが、非常にカールが強い傾向にあります。乾かしてもクリップを外すとくるんと丸まってしまい、スリーブに入れてもスリーブ自体が丸まってしまうほど強力です。

 なお、停止液と定着液は富士フイルムの製品を使いました。

COPEX RAPID の作例

 現像が成功したのか、はたまたイマイチだったのか、正直なところ判断がつきませんが、まずまずの像が得られているようです。
 今回の撮影に使用したカメラはPENTAX67、使用したレンズは105mm、200mm、300mmの3本、そして一部に接写リングを使用しています。

 まず1枚目は、神社の参道の入口にある狛犬を撮ったものです。

▲PENTAX67 SMC PENTAX-M 67 300mm F5.6 1/250

 狛犬とその隣にある石灯籠などには陽が当たっていますが、背後の神社の森は日陰になっていて、コントラストの高い状態です。肉眼では背後の森もしっかりとわかる明るさなのですが、写真ではほとんど黒くつぶれています。
 こうしてみてみると、確かにハイコントラストに仕上がっているのがわかります。ローライのRPX25というフィルムもハイコントラストの傾向がありますが、それよりももっとシャープな印象があります。

 2枚目は、お寺の山門脇の草むらに置かれていた小さなお地蔵様です。

▲PENTAX67 SMC PENTAX67 200mm F5.6 1/500

 右側のお地蔵様にピントを合わせていますが、何と言ったらよいのか、お地蔵さまも着けている前掛けや帽子などの質感さえも変わってしまっているような感じを受けます。柔らかさのようなものはどこへやら失せてしまい、金属で作られたオブジェのようにも見えてきます。

 そして3枚目、神社の拝殿を撮影しました。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 67 105mm F16 1/8

 少しコントラストの低い被写体をということで、太陽に雲がかかっている状態で神社の拝殿を正面から写しました。画の下半分はだいぶ明るいのですが、上に行くに従って陰になっているので徐々に暗くなっています。
 前の2枚に比べると確かにコントラストは低いのですが、シャープさはしっかり残っているというか、とにかくエッジがしっかりと効いているといった感じの描写です。正面の格子戸や賽銭箱、壁板、回廊に張られた床板の木目など、まるで鋭い刃物の先で線を引いたような感じで写っています。

 次に、野草も何枚か写してみたのですが、はっきり言ってこちらの方が驚きました。

 まずは道端に咲いていた野菊、多分、柚香菊(ユウガギク)だと思います。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500

 順光状態での撮影なので背後の草むらももっと明るいのですが、花弁だけがひときわ白く、まるでたくさんの小さな花火が開いているようです。花の質感が失われており露出オーバー気味ですが、それを差し引いても驚くようなハイコントラストです。

 そしてこちらも野菊の仲間、野紺菊(ノコンギク)だと思われますが、数輪だけをアップにしてみました。

▲PENTAX67 smc PENTAX67 200mm F4+1/2 1/500 EX3

 前の写真に比べると光が弱いのと、こちらは露出オーバーにはなっていないのでコントラストは若干低めですが、作り物のような印象を受けます。やはり単に鮮明度が高いというだけでなく、エッジがピンと立っているという感じです。花特有の柔らかさなありませんが、これはこれで一つの表現方法かも知れません。

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 今回は120フィルム1本、10コマだけの撮影でしたが、COPEX RAPIDというフィルムの特性を垣間見るには十分すぎるくらいでした。特に花を撮った写真の描写にはびっくりといった感じです。
 確かに風景写真や花の写真には不向きなフィルムかも知れませんが、一般的なモノクロフィルムでは味わえない独特な描写はとても印象的です。
 ただし、初めて使ったフィルムなので現像の特性等もわかっておらず、希釈率や現像時間、温度などを変えて何度か試してみる必要はありそうです。

 推奨されている現像、シュプール Dokuspeed SL-Nを使えばもう少し違う描写になるかも知れませんし、普段よく使っているD-76とかID-11などを使って現像すれば全く違う感じに仕上がるかも知れません。何種類かの現像液で試してみたい気もしています。

(2024.10.5)

#AGFA #アグファ #PENTAX67 #ペンタックス67 #モノクロフィルム #COPEX_RAPID

大判カメラ タチハラフィルスタンド45 Fiel Stand 45 の蛇腹交換

 現在、私が使っている大判カメラのうち、唯一の木製カメラであるタチハラフィルスタンド45 Ⅰ型は蛇腹がだいぶくたびれてきていて腰が弱くなっており、蛇腹を伸ばすと自身の重みで下側に垂れ下がってしまいます。しかも、ピンホールの補修箇所が何ヵ所もあります。光線漏れしているわけではないので使えないことはありませんが、蛇腹の締まりがないのは見てくれも良くありません。
 そこで、思い切って蛇腹を交換することにしました。

古い蛇腹の取外し

 タチハラフィルスタンドの蛇腹は、カメラのフロント部(レンズスタンダード)の裏側と、バック部の内側に直接接着されています。金属製のフィールドカメラなどのように何らかの金具を用いているわけではなく直付けです。このため、蛇腹はベりべりと引っ剥がす感じになります。
 フロント部、バック部のどちらから剝がしても問題はありませんが、フィルスタンドのフロント部は可動範囲が大きいので、フロント部を先に剥がした方が作業がし易いです。

 しかし、口で言うほど簡単には剥がれてくれず、蛇腹の端の方から少しずつ捲りあげ、ゆっくりと剥がしていくことになります。
 それでも長年の使用でへたってきている蛇腹は簡単に破れてしまい、フロント部の裏側に接着剤とともに残ってしまいますが、後で綺麗にするとして、まずはフロント側を全部剥ぎ取ってしまいます。

 フロント側を外した状態がこちらです。

 次にバック側ですが、こちらは木枠の底に貼り付けてあるような状態なので作業はしにくいですが、フロント部が外れているので蛇腹を畳んだ状態で隅のところから持ち上げていくと何とか剥がれていきます。
 取り外した蛇腹は使い道もなく廃棄ですが、こんな感じです。

 写真でもわかるように、合成ゴム系の接着剤が使われています。

 蛇腹を外したフィルスタンドはなんだかとても頼りなげな感じになってしまいます。

 次に、蛇腹が貼りついていたところに接着剤や破れた蛇腹の残骸があるので、これを綺麗にしていきます。
 カメラの素材が木なので、ドライバーの先やヘラなどの固いもので擦ると木が削れてしまう可能性があります。面倒ですが、ピンセットなどを使って残った接着剤をコツコツと取り除いていきます。剝がれにくい場合はドライヤーなどで温めると接着剤が柔らくなって剥がしやすくなります。

 こうして綺麗になったのが下の写真です。

 内側の縁が黒くなっているのは接着剤ではなく、黒い塗料が塗られていた名残です。

 バック部の内側も綺麗になりました。

新しい蛇腹の調達

 さて、新しい蛇腹ですが、いろいろと悩んだ末、今回は特注で作成していただきました。
 既製品を探してみたところ、耐久性に優れた本革製の蛇腹は非常に高額なのと、注文を受けてから作る受注生産品なので納期が2か月近くかかってしまうとのことで断念しました。私がメインで使っているリンホフマスターテヒニカは本革製の蛇腹を使用しているのですが、フィルスタンドはリンホフに比べると使用頻度が低いので本革製でなくてもいいだろうという自分なりの妥協です。
 また、ビニールのような素材のものあり、価格は安いのですが耐久性が心配で、こちらも候補から外しました。

 結局のところ、いろいろな蛇腹を専門に作っている会社に特注でお願いすることにしました。素材はウレタン系とのことで、耐久性も本革製に比べて劣ることはないだろうとのことでした。価格も本革製に比べると半額ほどで、納期も2週間ほどとのことでした。
 発注に際して指定した寸法等は以下の通りです。

  ・フロント側 : 外寸 112mm x 112mm、内寸 86㎜ x 86mm
  ・バック部  : 外寸 152mm x 152mm、内寸 126mm x 126mm
  ・縮長  : 45mm以下
  ・伸長  : 320mm
  ・山数  : 17(両端を除く)

 また、蛇腹の前後両端は合成ゴム系の接着剤で貼り付ける旨も伝えておきました。

 こうして届いた新しい蛇腹がこちらです。

 適度な厚みが感じられますが、本革性に比べるとたぶん軽いのではないかと思います。また、両端は接着剤がなじみやすいように布のような素材が貼り付けてありました。
 腰がしっかりしていて、両端に指をかけて持ち上げても重みで垂れ下がるようなこともありません。

新しい蛇腹の取り付け

 いよいよ新しい蛇腹の取り付けですが、手順としては外した時と反対、すなわち、バック部への取り付けを先に行ない、次にフロント部を取付けるという順番です。

 まずはバック部への取り付けですが、接着剤がはみ出して蛇腹どうしがくっついてしまわないように、一つ目の山の内側に保護用の紙を差し込んでおきます。

 上の写真だとわかり難いかもしれませんが、画用紙程度の厚さの紙を幅4cmほどに切り、これを蛇腹の内側に差し込んで紙どうしを糊付けしておきます。これで、もし接着剤が内側に流れ出ても、蛇腹の山と山がくっつかずに済みます。

 次に、蛇腹の位置が中央に来るように、バック部の木枠の内側に蛇腹のコーナーの位置をマーキングしておきます。
 そして、このマーキングした木枠の内側と、蛇腹の接着面に接着剤を塗布します。両方に薄く均一に塗った後、少し時間をおいてさらにもう一回塗布し、その状態で蛇腹をバック部の木枠内マーキング位置に貼り付けます。
 この時、カメラを後方に倒して、蛇腹を上から木枠内に落とす要領でやると作業がし易いです。

 この状態で蛇腹を上からぎゅっと押し付けます。すぐにくっつきますが、念のため5分ほど押さえておき、その後、蛇腹の上に重し(私は単行本を使いました)を載せて半日ほど放置しておきます。

 バック部を貼り付けた状態が下の写真です。

 次にフロント部への貼り付けですが、蛇腹のバック部が固定されているので作業がしにくいところがあります。貼り付け位置をバック部のようにマーキングだけではおぼつかないので、フロント部の裏側にマスキングテープを貼って位置がずれないようにします。
 このマスキングテープの内側と、蛇腹のフロント側接着面に接着剤を塗布して接着します。バック部と同様、2回の塗布を行ないました。
 フロント部は重しを載せて固定というわけにはいかないので、接着後は下の写真のようにクリップで挟んでおきます。

 蛇腹の角の部分はクリップで挟めないので、浮いてしまわないようにヘラなどを押し当ててしっかり接着しておきます。
 この状態でおよそ半日経てば、蛇腹はしっかりと接着されます。

 こうして新しい蛇腹になったタチハラフィルスタンドがこちらです。

 蛇腹の腰もしっかりしており、なんだか新しいカメラになったようです。
 接着面も確認してみましたが、浮いているような様子もなく、少々引っ張っても全く問題ありませんでした。
 また、暗室内にカメラを持ち込み、内部にLEDライトを入れてみましたが、光線漏れは確認できませんでした。
 今回、蛇腹の伸長を320mmにしてもらいました。このカメラのレールは約300mmまでしか繰り出せないのですが、蛇腹に約20mmの余裕を持たせることで蛇腹が伸び切ってしまわないようにという理由からです。

 蛇腹交換後、実際の撮影は行なっていませんが、たぶん、問題になるようなことはないと思われます。

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 タチハラフィルスタンドの使用頻度はあまり高くないとはいえ、くたびれた蛇腹のままにしておくことがずっと気になっていたのですが、やっと気持ちもすっきりし、気兼ねなく撮影に使えるようになりました。
 これまでウレタン系素材の蛇腹というものを使ったことがなく、今回初めての試みですが、耐久性については最低でも4~5年は使ってみないとわからないと思います。4~5年でヘタるようなことはないと思いますが、使用感など、気がついたことがあればあらためてレポートしてみたいと思います。

(2024.9.25)

#タチハラフィルスタンド #FielStand

EPSON エプソンのフラットベッドスキャナ GT-X970 の原稿台ガラス清掃

 私は撮影した写真(フィルム)をWebページに掲載したり自分でプリントする際に、EPSON エプソンのフラットベッドスキャナ GT-X970 を使用しています。このスキャナの発売は2007年なので、すでに発売から17年も経過しており、私が購入してからも15年近くは経っていると思われます。すでに現行機種ではありませんが今のところ順調に稼働してくれています。
 しかし、長年使っていると原稿台のガラスの内側が徐々に曇ってきます。だいぶ以前(たぶん、6~7年前)に一度、清掃をしているのですが、最近、クモリが気になりだしていました。ガラスのクモリがスキャンにどの程度の悪影響を及ぼしているのかわかりませんが、それよりも白っぽくなったガラスが気になって精神衛生上もよろしくありません。
 ということで、原稿台ガラスの内側の清掃(クモリ除去)を行ないました。

原稿台(ガラス)の取外し

 このスキャナは本体の上に原稿カバーが乗っている構造ですが、原稿台のガラスを清掃するためには、本体の上面についている原稿台を取り外す必要があります。

 まず、スキャナにつながっているすべてのケーブル(電源ケーブル、USBケーブル、原稿カバーとの接続ケーブル)を外し、原稿カバーを90度開いた状態で上に引っ張り上げると、原稿カバーのヒンジごと取り外すことができます。ヒンジは本体の穴に差し込んであるだけで、何ら固定はされていません。

 次に、原稿台を固定している4本のネジを外します。ネジは原稿台の四隅にあります。

 上の写真で赤い矢印のところにあるのが原稿台を固定しているネジの場所ですが、キャップのようなものがはめ込まれていて、ネジはこの下に隠れています。

 このキャップは押し込まれているだけなので、先の細いドライバーのようなものを差し込んでこじれば取れますが、そうすると原稿台にもキャップにも、もれなく傷がついてしまいます。傷がついても機能や性能には影響ありませんが、見てくれが良くありません。
 そこで、グルーガンを使ってこのキャップを取り外します。

 まず、キャップの上にグルーガンでグルースティックを盛ります。

 キャップの直径は1cmほどなので、ここからはみ出さないようにグルースティックを盛り、固まるまで1~2分待ちます。
 そして、グルースティックが固まったらこれをペンチなどでつかんで、上に引っ張り上げます。すると、スポッとキャップがとれます。

 キャップがとれた中には原稿台を固定しているネジの頭が見えるので、このネジを外します。
 なお、キャップに盛ったグルースティックはペンチなどでこじれば跡も残ることなく、きれいに取ることができます。

 4本のネジをすべて外せば原稿台を取り外すことができますが、原稿台の裏側の本体前側には爪のようなものがあり、これが本体に引っかかっているので、本体後ろ側から持ち上げると簡単に外すことができます。
 取り外した原稿台はこんな感じです(裏側)。

原稿台ガラス内側の清掃(クモリ除去)

 上の写真ではよくわかりませんが、ガラスの内側がまんべんなく薄っすらと曇っています。
 わかりやすいように、ガラスの背後からLEDライトをあててみました。ガラス全面が曇っている様子がよくわかります。

 LEDライトの光がガラス面で乱反射して青白くなっています。光が照射されている中央部付近が黒く見えるのはクモリを拭き取った場所です。
 また、白い点々は付着しているホコリです。
 余談ですが、このようにガラスの内側が曇るのは、クモリの原因となる物質がスキャナ内部から放出されているのではないかと思っています。もちろん何の確証もありませんが、ガラスの外側の面はそれほど曇らないのでそんな気がしています。

 このガラスを綺麗に清掃するだけの簡単な作業ですが、面積が広いので結構時間がかかります。今回はレンズクリーナーを使ってクモリの除去を行ないました。
 クモリを取り除くのはすぐにできるのですが、拭き跡が残らないようにするのが大変で、LEDライトをあてて確認しながらせっせと拭いていきます。あまりゴシゴシと拭きすぎると静電気が生じるのか、空気中を漂っている微細なホコリがガラスに付着してしまい、これを拭き取ろうとするとさらにホコリが付着するという悪循環です。ブロアでシュッとやっても取れません。

 そこで、拭き跡がなくなったところで、刷毛でホコリを取り除きます。
 使用したのはHAKUBA製の刷毛です。

 これは髪の毛よりも細いと思われるポリエチレン製の毛がびっしりと束ねられていて、静電気の力でホコリを刷毛の中に吸い取ってくれるという優れものです。
 これを使って清掃を完了した原稿台がこちらです。

 ホコリを完全に取り除くことはできませんが、LEDライトをあてても以前のようにガラス面で乱反射することなく、光が透過しているのがわかります。やはりガラスはこうでなくっちゃという感じになりました。

 あとは、きれいになったガラスを指で触ったりしないように気をつけながら、外した時と逆の要領で原稿台を本体に取り付ければ清掃は完了です。
 なお、ネジにかぶせるキャップのようなものは嵌合する位置があるので、それに合わせて押し込めばパチッと嵌まります。

清掃前と清掃後のスキャン画像の比較

 さて、多少の微細なホコリはあるものの、すっかりきれいになった原稿台でスキャン画像の違い(効果)があるものなのか、気になるので清掃前と清掃後でスキャン画像を比較してみました。
 過去に撮影したポジ原版の中から色調が濃いめで、コントラストも比較的高いと思われるものを選び、同じ条件でスキャンしてみました。
 1枚目が清掃前、2枚目が清掃後です。掲載写真は解像度を落としてありますが、いずれも6,400dpiでスキャンしました。

▲清掃前のスキャン画像
▲清掃後のスキャン画像

 はっきり言って、清掃前と清掃後の違いはほとんどわからないのですが、並べてみてみると、清掃後の画像の方がわずかにコントラストが高いように感じます。黒とか青などの濃い色の締まりがある感じです。
 しかし、別々に見るとどちらが清掃前でどちらが清掃後なのか、全くわかりません。

 そこで、画像のヒストグラムを比較してみました。
 下の画像の左側が清掃前のヒストグラム、右側が清掃後のヒストグラムです。

▲左:清掃前 右:清掃後

 波形は非常に似通っていますが、波形の左から1/4の辺り、清掃前の波形は角のような形状がありますが、清掃後の波形にはこれがありません。
 実は、清掃後にスキャンしようとした際にフィルムホルダーを落としてしまい、フィルムの一部がフィルムホルダーから外れて、長さ2mmほどの折れ跡のようなものがついてしまいました。どうやらこれが原因ではないかと思われます。

 それとは別に、ヒストグラムの左側の立ち上がりの位置が微妙に違っています。清掃前に比べて清掃後のヒストグラムの方が、左側の立ち上がりの位置がわずかに左に寄っています。
 これはごくわずかですが、全体的に色調が濃くなっていることを示していて、2枚の画像を並べて目視した際に、清掃後の方がコントラストが高めに感じるということと一致しているように思えます。これが、原稿台ガラス面のクモリがなくなったことによる結果であるならば、ごくわずかではあってもこの清掃の効果があったと言えるかも知れません。
 しかしながら、スキャン自体の条件も寸分違わずにというような厳密なものではないので、本当に因果関係があるのかどうかは怪しさがつきまとっています。

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 原稿台のガラスに多少のクモリがあっても、それによってスキャン画像の画質が劇的に悪くなるというものではなさそうですが、ガラス面に余計なものが付着していないに越したことはないわけで、画質に与える影響もさることながら、気になっていたモヤモヤ感が払しょくされたことの効果の方が大きいかも知れません。
 ガラスが曇ったり汚れたりするのは仕方がないことですし、使用環境や使用頻度などによってその度合いも異なってくると思いますが、いずれ、何年か経つとまた曇ってくることは明らかです。それまでこのスキャナが順調に稼働してくれるかどうかわかりませんが、故障さえしなければ数年間はクモリを気にすることなく気持ちよく使うことができそうです。

(2024.5.28)

#EPSON #GT_X970 #エプソン #スキャナ

大判カメラのアオリ(8) ティルトアオリをかけた時のピント合わせ

 大判カメラのアオリの中でも使う頻度が高いと思われるのがティルト、特にフロント(レンズ)部のティルトダウンアオリです。撮影する被写体によってその度合いは異なりますが、風景撮影の際にはパンフォーカスにしたいということから、そこそこの頻度でティルトダウンを使うことがあります。
 また、パンフォーカスとは逆に、一部のみにピントを合わせて他はぼかしたいというような場合も、ティルトアオリを使うことがあります。
 当然、ティルトをかけることによってピント位置が移動するわけで、一度合わせたピントがティルトによってずれてしまいます。そこで、再度ピントを合わせるとティルトの度合いがずれてしまうということになり、これらの操作を何度も繰り返す羽目になるということが起こり得ます。これはかなりのイライラです。

 そこで、ティルトをかけるときに、できるだけスムーズにピント合わせができる方法をご紹介します。

センターティルト方式のピント合わせ

 フロントティルトはレンズを上下に首振りさせるアオリのことですが、この動きには二通りの振る舞いがあります。
 一つは「センターティルト」と呼ばれるもので、金属製のフィールドカメラに採用されていることが多い方式です。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などがこのタイプに該当し、レンズが上下に首を振る際の回転軸(ティルト中心)、すなわち支点がレンズのシャッター付近にあります。

 下の写真はリンホフマスターテヒニカ45をティルトダウンさせた状態のものです。

 Uアーム(レンズスタンダード)の中央あたりにレンズボードを取付けるパネルが回転する軸があり、ここを中心して回転しているのがわかると思います。
 このタイプの特徴は、レンズの光軸は傾きますがレンズの位置はほとんど動かないということです。つまり、被写体とレンズの距離もほとんど変化しないということです。言い換えると、ティルトダウンすることによってピント面は回転移動しますが、いったん合わせたピント位置が大きくずれることはありません。

 このようなアオリの特性を持ったカメラの場合、最初のピント位置をどこに置けば都合がよいかを表したのが下の図です。

 上の図でもわかるように、アオリによってピント位置がずれないので、ピントを合わせたい最も近い(手前)被写体にピントを置いた状態でティルトダウンさせると、ピント合わせを効率的に行なうことができます。
 アオリをかける前のピント面は、手前の花の位置にあるレンズ主平面と平行な面ですが、この状態でティルトダウンすると、ピント位置が保持されたままピント面だけが奥側に回転して、結果的に手前から奥まで、概ね、ピントの合った状態にすることができます。
 このティルトダウンを行なっているとき、カメラのフォーカシングスクリーンを見ていると、手前から奥にかけてスーッとピントが合っていくのがわかります。ほぼ全面にピントが合った状態でティルトダウンを止め、後は微調整を行ないます。

 この方法を用いると、ピント合わせとティルトダウンを何度も繰り返す必要がありません。ほぼ1回の操作でティルトダウンの量を決めることができるので、とてもスピーディにピント合わせを行なうことができます。

 なお、最初に奥の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、同様にピントの位置は移動しませんが、奥に向かってピントが合っていくので手前の方はボケボケの状態になります。

 ちなみに、例えば、藤棚などを棚の下から見上げるアングルでパンフォーカスで撮影したいというような状況を想定すると、この場合、レンズはティルトアップ、つまり上向きにアオリをかけることになりますが、最初にピントを合わせる位置はティルトダウンの時と同様で手前側になります。レンズの光軸が回転する方向はティルトダウンと反対になりますが、レンズ自体はほとんど移動しないのでピント面もほぼ移動しません。したがって、ティルトアップによってピント面を上側に回転させていくことで全面にピントを合わせることができます。

ベースティルト方式のピント合わせ

 フロントティルトのもう一つのタイプは、「ベースティルト」と呼ばれるもので、ウッド(木製)カメラに採用されていることが多い方式です。私の持っているタチハラフィルスタンドもこの方式を採用しています。

 タチハラフィルスタンドのフロント部をティルトダウンするとこのようになります。

 上の写真で分かるように、ベースティルトの場合はティルトダウンする支点がカメラベースの上あたりになります。レンズよりもだいぶ下の位置に支点があり、ここを軸として前方に回転移動するので、レンズ全体が前方に移動するのが特徴です。そのため、ピント位置も手前に移動します。

 その振る舞いを図示するとこのようになります。

 上の図のように、ベースティルトのカメラをティルトダウンすると、ピント面が最初に合わせた位置から手前に移動するとともに、レンズの回転移動に伴ってピント面も奥に向かって回転していくことになります。これら二つの動きが別々に行なわれるわけではなく、ティルトダウンすることで同時に発生することになります。
 ピント位置が手前に移動するので、最初の段階でピントを合わせたいいちばん奥の被写体にピントを置くことで、ティルトダウンすると奥から手間にかけてピントが合ってきます。

 最初に手前の被写体にピントを合わせた状態でティルトダウンすると、ピント位置はさらに手前に移動することになり、全くピントが合わなくなります。
 同じティルトダウンですが、センターティルトとベースティルトでは、最初にピントを置く位置が正反対になります。

スイング時のピント合わせ

 スイングアオリはレンズが左右に首を振る動作で、ティルトを光軸に対して90度回転させた状態に相当します。したがって、ピント合わせに関してはティルトと同じ考え方を適用することができます。
 ただし、ほとんどのカメラの場合、スイングに関してはセンタースイングが採用されているのではないかと思います。リンホフマスターテヒニカやウイスタ45などの金属製フィールドカメラはもちろんですが、タチハラフィルスタンドなどのウッドカメラもセンタースイングが採用されており、左右のどちらかを支点にしてスイングするようなカメラを私は見たことがありません。

 したがって、スイングアオリをかけたときのピント合わせはセンターティルトと同様に、ピントを合わせたい被写体の手前側に最初にピントを合わせておくと、ピント合わせをスピーディに行なうことができます。

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 ライズやフォール、あるいはシフトといったアオリはレンズが平行移動するだけなのでピント面が移動することもありません。しかし、ティルトやスイングはピント面が動いてしまい、ピント合わせに手間がかかります。経験知によってその人なりのピントの合わせ方というものがあると思いますが、アオリをかけることによるピント面の移動の基本を把握しておくことで、手間のかかる操作を多少なりとも軽減することができると思います。
 手前にピントを合わせたら奥側のピントが外れた、奥側に合わせたら今度は手前側がボケた、などということを繰り返さないためにも、ちょっとしたコツのようなものですが、使えるようにしておけば撮影時のイライラも解消されるかも知れません。

(2024.1.22)

#FielStand #Linhof_MasterTechnika #アオリ #タチハラフィルスタンド #リンホフマスターテヒニカ

大判レンズ シュナイダー Schneider ジンマー Symmar 210mm 分解・清掃とバルサム修理

 ひと月ほど前、リンホフ規格の大判レンズ用のレンズボードが必要になり、ジャンク箱をあさってみたのですが使い切ってしまったらしく、残念ながら見つかりませんでした。中古カメラ店やネットオークションサイトなどを探してみたところ、あることはあるのですが4,000円とか5,000円という価格設定で、そこまで高額のものを購入する気にはなれません。
 つらつらとネットオークションサイトを眺めていると、時たま、1円という価格でボード付きの大判レンズが出品されていることに気がつきました。動作不良や汚れや傷みのひどいレンズがジャンク品として出品されていることが多いようですが、さすがに1円で落札させてはくれないだろうと思いながらも、送料込みで2,000円くらいまでなら許容範囲ということで、時々チェックしていました。

前玉の清掃

 1週間ほどウォッチをしていたところ、「動作未確認、レンズにカビ、クモリ、汚れあり」と説明書きのあるシュナイダーのジンマー Symmar 210mm 1:5.6 という大判レンズが1円で出品されていて、幸運にもこのレンズをを1,000円ほどで落札することができました。送料込みでも1,800円ほどです。カビやクモリがあろうが動作しなかろうが、レンズが欲しいわけではないので全く問題ありません。リンホフ規格のレンズボードさえ手に入れば目的達成です。

 数日後、落札した商品が宅配便で届きました。そのレンズがこちらです。

 リンホフがシュナイダーに委託したレンズのようで、シャッター部には大きな文字で「LINHOF」と刻印されています。確かにレンズは汚い状態です。カビとクモリもしっかりとついています。シュナイダー純正の前後のレンズキャップもついていますが、必要なのはレンズボードなので、ボードからレンズを外し、レンズはジャンク箱行きです。

 それから2週間ほど経ったある日、ジャンク箱をあさっていたところ先日のジンマー210mmがふと目に留まりました。せっかく我が家に来たレンズだからきれいにしてみようかと思い立ち、分解・清掃することにしました。
 レンズをよく見てみると、カビとクモリに加えて、バルサムもいってしまっている感じです。

 掲載した写真ではわかり難いですが、前玉の中の方に直径3~4mmの気泡のようなものがいくつか見えます(赤い矢印の先)。前玉を外し、前群のレンズユニットを取り出してみると、レンズのコバのところがべとべとしています。バルサムが流れ出てしまっているようです。

 バルサムは後回しにして、とりあえず前玉のカビとクモリの除去から始めます。

 カビは前群ユニットに、クモリは前群ユニットと後群ユニットの両方についています。カビはそれほどひどくありませんがクモリがひどくて、この状態ではフォギーフィルターを着けて撮影したような描写になってしまうのではないかと思うほどです。
 しばらく無水エタノールに浸した後、丹念に拭いていくとカビもクモリもすっかりなくなり、きれいなレンズになりました。カビもレンズの中まで侵食していなかったらしく、カビ跡も全く分かりません。

前玉のバルサム修理

 次に、前玉の前群ユニットのバルサム修理ですが、まずは接着されている2枚のレンズを剝がさなければなりません。バルサムが流れ出ているので、指で押せば動くかと思いましたがびくともしません。
 ということで、煮沸して剥がすことにしました。

 小さな鍋に水を入れ、この中でレンズを煮沸するのですが、鍋の中でレンズが踊って傷がつかないように、レンズよりも二回りほど大きな皿にラップを巻いて、その上にレンズを載せて鍋に投入します。
 弱火でコトコトと5分ほど煮ると、レンズのコバに塗ってあった墨が剥がれてきたので、バルサムも柔らかくなっているだろうと思い、鍋からレンズを取り出して指で押してみます。ねっとり感が残ってはいるものの、わずかにレンズがずれました。
 再度、鍋に入れてコトコト煮ては取り出し指で押す、ということを4~5回繰り返して、ようやく貼りついていた2枚のレンズを剥がすことができました。

 剥がれた状態が下の写真です。

 気泡のようなものがびっしりとついているのはバルサムです。
 これを無水エタノールでふき取っていきます。

 そして、きれいになったレンズがこれです。

 レンズのコバのざらついたところに若干の墨が残っていて黒っぽくなていますが、カビもクモリもないクリアな状態になりました。

 さて、前玉の前群ユニットのレンズがきれいになったところで、これを再度、貼り合わせなければなりません。
 ここで最も気を遣うのが、2枚のレンズの中心がずれないように貼り合わせるということです。専用の機器や治具などがあるわけではないので、身の回りにあるものを使って簡易的な治具を作ります。

 用意するのは円筒形のボトルキャップを3個とステンレス板、そして接着剤です。ステンレス板の代わりにアルミ板やアクリル板など、表面が平らでしっかりした板状のものであれば問題ありません。
 ステンレス板の上に前群ユニットの下側の凹レンズを置き、これを3方からボトルキャップで挟み込みます。レンズとの間に隙間ができないようにしっかりと挟み、ボトルキャップを接着剤でステンレス板に接着します。多少、力を加えても動かないくらいに強く接着しておく必要があります。ボトルキャップは概ね、120度間隔で配置するのですが、それほど正確である必要はありません。3方から挟めば確実にレンズを押さえることができます。

 次に、このレンズの上にバルサムを1~2滴、垂らします。バルサムの量が多くても流れ出てしまうだけなので、ごく少量で問題ありません。
 そして、もう1枚のレンズをこの上に乗せて、下のレンズに押しつけます。バルサムが全面に広がって、中に空気が残らないようにしっかりと押さえます。

 ボトルキャップが治具の役割を果たすので、2枚のレンズの中心が一致するはずなのですが、レンズを重ねた状態で天井にある蛍光灯などの照明を写し込んだ際、それが縞状になっていたり滲んだような状態になっていたりすると、レンズの中心がうまく一致していない可能性が大です。その場合、上側のレンズをゆっくりと左右に回すと縞模様や滲みが消える場所がありますので、その位置で固定します。
 この状態で、マスキングテープなどを用いてレンズをステンレス板に固定します。レンズに糊が付着しないようにレンズの上にシルボン紙などを置き、その上からマスキングテープで抑えるのがお勧めです。
 あとは結果次第、試し撮りで確認ということになります。

 バルサムを固着させるために熱をかけるのですが、私はドライヤーで熱風を20分ほどかけました。あまり高温にしなくても固着するので、できるだけ熱が均等になるよう、満遍なく風を送ります。

 ちなみに、今回、レンズの接着に使用したのはキシロールバルサムです。カナダバルサムをキシレンで希釈したもので、私は顕微鏡用のプレパラートをつくるために使っているものです。カナダバルサムよりも粘度が低く、サラサラしているので使いやすいです。
 最近はバルサムを使わずに合成接着剤を使うことがほとんどのようですし、UVレジンを使うという方もいらっしゃるようですが、UVレジンは硬化するとやり直しがきかないのでリスクがあります。バルサムだと、万が一、失敗してもやり直しがきくので安心です。

 バルサムが完全に固まるまで1日ほど放置しておきました。
 バルサム貼りが完了した前玉前群ユニットがこちらです。

 このままでも使えないことはありませんが、コバに墨入れをします。
 私はレンズの鏡胴内などの反射防止に JET BLACK のアクリル絵の具を使っています。これは本当に「真黒」で、しかも、つやが全くないので理想的ですが、ごく薄く塗るのが難しく、今回のようなレンズのコバにはあまり向いていません。コバに塗った塗装に厚みが出てしまうとレンズが嵌まらなくなってしまう可能性があります。1㎜の数十分の一という塗装の厚みでもレンズが嵌まらなくなることがあるので、ほとんど塗り厚を気にしなくてよいということで、今回使用したのは墨汁です。二度塗りしても塗り厚が気になることはありません。

 コバに墨入れをしたのが下の写真です。

 これで前玉の分解・清掃は完了です。あとは元通りに組み上げるだけです。

後玉の清掃

 後玉は前玉に比べるとかなりきれいな状態を保っており、バルサム切れのような状態も確認できませんでした。クモリはかなりありましたがカビは見当たらず、バルサムの問題もなさそうだったので無水エタノールでの洗浄だけとしました。
 後玉の前群ユニットを外し、後群ユニットも含めて4面を清掃するだけで後玉の清掃は完了とします。

 後玉も元通りに組み上げ、シャッターに取り付ければレンズの清掃はすべて完了です。

清掃後のレンズで試し撮り

 レンズのカビやクモリもすっかりきれいになり、バルサムも修理したので見違えるようなレンズになりました。しかし、バルサムの修理をしているので、写りに問題がないかどうかの試し撮りが必要ですが、その前に、シャッターの動作確認を行います。
 このレンズに組み込まれているシャッターの絞りはF5.6~F45、シャッター速度はT・B・1~1/200秒です。いわゆる、大陸系列と呼ばれるシャッター速度になっています。私はこの大陸系列のシャッター速度に慣れていなくて、微妙な露出設定をするときには混乱してしまうことがあります。
 それはともかく、絞り羽根の開口度合いもシャッター速度も、感覚的には概ね良好といった感じです。正確に測定したわけではありませんが、シビアな精度を求めるものではないので良しとします。

 清掃後のレンズで実際に撮影したのが下の写真です。

 2枚とも、近くの公園で撮影したものですが、特に問題もなく写っていると思います。いちばん心配した、レンズを貼り合わせる際の中心軸のずれですが、これも目視する限りでは気になりません。解像度も問題のないレベルだと思います。
 また、露出も概ね良好で、顕著な露出オーバーやアンダーにはなっていません。すべての絞りやシャッター速度を試したわけではありませんが、シャッターも正常に動作しているものと思われます。

 もう一枚、黄葉した桜の葉っぱをアップで撮ってみました。

 葉っぱの縁にある鋸歯もくっきりと写っていて、特に問題になるようなところは見受けられません。

 もともと、使う予定のなかったレンズなので、清掃前の状態での撮影はしてありません。そのため、比較はできませんが、清掃前の状態ではこんなに綺麗に写ることがないだろうということは想像に難くありません。全体にフレアがかかったようなボヤっとした感じになるだろうと思われ、それはそれで趣があるといえなくもありませんが、やはりくっきりと写ると気持ちの良いものです。

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 今回の分解・清掃でレンズはすっかりきれいになりましたが、欲しくて購入したレンズではないので、この先、このレンズを使う機会はほとんどないだろうと思われます。ですが、鏡胴などにステンレスが多用されていて、持つとずっしりと重いレンズには風格が感じられるのも確かです。
 今回はレンズボードが必要だったので、このレンズについていたボードは他で使ってしまいましたが、いつか、あらたにレンズボードが手に入ったらこのレンズにつけてやろうと思います。

 なお、今回ご紹介したバルサム修理ですが、素人が我流でやっているので決してお勧めはしません。失敗するとレンズを1本駄目にしてしまいますので、もし、バルサム修理をされる場合はしかるべき専門のところに依頼するのがよろしいかと思います。

(2023.12.4)

#Schneider #シュナイダー #Symmar

ローデンシュトック シロナーN Sironar-N 210mm 1:5.6 大判レンズのボケ具合

 私は大判カメラ用の焦点距離210mmのレンズを4本持っていますが、特段、210mmのレンズが好きで使用頻度が高いというわけではありません。最初は1本だけだったのですが、友人から使わなくなった210mmレンズを譲り受けたものもありますし、何と言っても中古市場に出回っているタマ数が多いため、つい買ってしまったなんていうものもあります。
 2年ほど前に衝動買いのようにゲットしたローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 もそんなレンズの一つです。それまでは210mmというと、もっぱらシュナイダーのAPO-SYMMARを使っていたのですが、Sironar-N を手にしてからその写りが気に入ってしまい、今では210mmというとSirona-Nの使用頻度が最も高くなっています。
 とにかく感覚的な説明しかできないのですが、シャープでありながら柔らかさの感じる描写というようなところが気に入っています。
 私はレンズの数値的性能に関しては無頓着で、描写が気に入るか否かで選択している傾向が大ですが、もう少し客観的に特性がつかめるかも知れないということで、数か月前に作ったテストチャートでボケ具合を確認してみました。
 あくまでも見た目のラフな確認であって定量的な計測ではないので、予めご承知おきください。

テストチャートを使っての撮影

 まずは、以前に作ったボケ具合確認用のテストチャートを用いて撮影を行ないました。ボケ具合確認用のテストチャートの詳細については、下記のページをご覧ください。

  「大判レンズのピントとボケ具合を確認するためのテストチャートの作成

 このテストチャートを45度の角度をつけて設置し、これを2.1m離れた位置から撮影をしました。

 上の図のように、レンズの光軸を水平に保ち、光軸の先にピント合わせ用の十字のマーカーが来るようにして、ピントをこれに合わせます。
 撮影距離に特に理由はありませんが、離れすぎるとボケが小さくなりすぎて比較しにくいだろうし、かといって近すぎても良くないだろうということで、レンズの焦点距離の10倍ほどということで決めました。
 念のため、絞りは開放(F5.6)からF16まで、1段ずつ絞りを変えて撮影してみました。
 撮影した環境は自然光が入る室内ですが、撮影は光が強すぎない曇りの日に行ない、テストチャートに直接光が当たらないようにしています。また、陰にならないようにテストチャートは窓側に向けての撮影です。

Sironar-N 210mmのボケ具合

 実際にテストチャートを撮影した結果が下の写真です。

 中央にある十字型のマークのところにピントを合わせ、絞り開放(F5.6)で撮影したものです。
 前後に3個ずつのテストチャートを設置していますが、チャートの間隔は水平距離にして6cmごとに置いているので、中心から水平距離にして前後に18cmの範囲を写していることになります。チャートの位置が若干斜めになっているものもありますが、その辺りは大目に見てください。
 この画像でもボケ方の特徴のようなものがなんとなくわかりますが、もっとわかり易いように一番手前のチャートといちばん奥のチャートの部分を拡大したのが下の画像です。

 1枚目が一番手前(前ボケ)、2枚目がいちばん奥(後ボケ)の画像です。

 前ボケ(1枚目)は全体がふわっとした感じにボケています。ボケ方に厚みがあるというか、前に膨らんだような印象で、細かな部分はボケの中に溶け込んでしまっているといった感じです。レンズからこの最前列のテストチャートまでの距離は約1.9mですから、それほど大きなボケにはなりませんが、もっと距離を詰めればボケの大きさは格段に大きくなります。
 ちなみに、この距離における点光源が前ボケとなる大きさの理論値(近似式)は、

  B = ((a - f)・b - (b - f)・a) / F / b

 で計算できます。

 この式に、
  B : ボケ径
  f : レンズの焦点距離 = 210mm
  a : 主被写体までの距離 =2,100mm
  b : 点光源までの距離 = 1,900mm
  F : 絞り値 = 5.6

 をあてはめて計算すると、最前列のテストチャートに点光源があったとして、そのボケ径B
は約3.95mmになります。更に、最前列のテストチャートが半分の0.95mの位置にあったとすると、そこの点光源のボケ径は約7.89mmになります。

 また、ボケの広がり方は均等であり、どちらかに片寄ったような広がり方ではないので、クセのない素直なボケ方だと思います。

 一方、後ボケ(2枚目)は柔らかくボケている中にも鮮明さが残っている感じです。ボケの広がり方はとても自然な感じがしますが、前ボケのように厚みのある感じはしません。また、前ボケに比べて元の形がわかり易いボケ方です。かといって、輪郭やエッジが強調されてしまっているようなことはなく、すっきりとした気持ちのよいボケ方だと思います。

 実際に花や風景などの被写体を撮影した場合、前ボケはフワッとベールをかけたように、そして後ボケは元の形を残しながらも緩やかに溶けていくといった感じになるように思います。
 対象とする被写体や個人の好みにもよると思いますが、後ボケが素直にとろけていく方が写真としては綺麗に見えるのではないかと思います。

 参考までに、上記と同じテストチャートを絞りF16で撮影したものを掲載しておきます。1枚目が最前列(前ボケ)のテストチャート画像、2枚目がいちばん奥(後ボケ)のテストチャート画像です。

 F16まで絞り込むと前ボケも後ボケも非常に似通っていて、区別がつきにくい状態です。

Sironar-N 210mmの解像力具合

 ボケ具合の確認用のテストチャートを撮影したついでなので、解像力をチャックするためのテストチャートの撮影も行ってみました。
 使用したのはISO-12233規格の解像度チャートですが、データをダウンロードして自宅で印刷したものなので品質や精度は十分ではありません。特に厳密な測定をするわけでもなく、解像力についての感触が得られればということで試してみました。

 実際に撮影したものが下の画像です。

 A4サイズに印刷したテストチャートがほぼファインダーいっぱいに入る位置でモノクロフィルムで撮影をしています。掲載した画像は解像度を落としてあるのでわかりにくいと思いますが、2,000LW/PHのラインまで解像しているので問題ないのではないかと思うレベルです。
 実際にどれくらいの解像度が出ているのか、「HYRes IV」という解析用のフリーソフトを使って計測してみました。本来、このソフトはデジタルカメラの解像度を測定するものですが、撮影したフィルムをスキャナで読み取り、その画像ファイルをHYRes IVで解析するという、いたって簡単な方法で計測してみました。

 このソフトで計測した結果は2,247本でした。本来、このチャートでは2,450本くらいまで計測可能なようですが、使用したプリンターの性能がそこまで追いついていないようで、レンズの限界というよりはプリンターの限界といった感じです。撮影したネガを4,800dpiでスキャンした画像では、最も細いラインも認識できているので、レンズの限界はもう少し高いと思われます。
 また、今回は67判のフィルムを使って撮影しましたが、例えば4×5判で同じ範囲を撮影すれば解像度はより高まりますが、私の持っているプリンターではこれが限界です。テストチャートを倍の大きさのA3用紙に印刷すればプリンターの限界をカバーすることができ、より高い解像度の計測も可能になりますが、そこまでするほどでもなく、大体の感触は得られたと思います。

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 レンズの性能は高いに越したことはありませんが、私はそれほどレンズの解像度や性能に拘る方ではありません。むしろ、ボケなど目視でわかる写り具合が自分にとって気に入るかどうかということに重きを置いています。私は風景写真を撮ることが多く、解像度の高いレンズで撮影した写真は見ていて気持ちが良いですが、やはり写真の味わいに与える影響はボケ具合などの方が大きいと思います。
 ローデンシュトックのSironar-N 210mm 1:5.6 は衝動買いしたレンズですが、解像度もさることながらボケ具合も好みです。ボケ方を定量的に示すのは難しく、どうしても主観的、定性的になってしまいますが、すっきりした中にも柔らかで素直なボケ方が気に入っています。

 私が持っている大判レンズの中で、かなり古いレンズや特殊なレンズを除けば写りの違いを特定するのはかなり難しく、比べて初めて分かる程度ですが、やはりこのように客観的に見てみるのもそれなりに意味があるように思います。

(2023年10月2日)

#Rodenstock #ローデンシュトック #Sironar #シロナーN #テストチャート #ボケ #レンズ描写

ローライ Rollei RPX100 モノクロフィルムの使用感 ACROSⅡの代替フィルム探し

 6月に富士フイルムの製品が大幅に値上げされ、私も愛用していたACROSⅡも信じられないくらいの価格になりました。新宿の大手カメラ量販店では、ブローニー(120)サイズのフィルムが1本2,310円で販売されています(2023年7月18日現在)。フィルム等を専門に扱っている通販サイトではそれよりもだいぶ安い価格で販売されていますが、それでも1本1,500円以上です。
 私の場合、ACROSⅡはイルフォードのDELTA100に次いで使用量が多いので、今回の大幅な値上げによるダメージはとても大きいです。そこで、もっと安い価格でACROSⅡの代替となるフィルムがないかということで探し始めました。ACROSⅡと同じような写りのフィルムはたぶんないだろうと思われますが、手始めにローライのRPX100を使って撮影をしてみました。

 誤解のないように追記しますが、ACROSⅡに対する絶対神話を持っているわけではありません。使い慣れてきたフィルムと同じような特性を持ったフィルムがあればということで、可能性のありそうなものを探してみたいというレベルです。

中庸感度ISO100のパンクロマチックモノクロフィルム

 RPX100フィルムに関していろいろなサイトを見てみると、概ね共通して書かれているのが、超微粒子とか素晴らしいシャープネス、あるいはなだらかな階調といった内容で、モノクロフィルムとしては優等生的な印象を受けます。実際にRPX100で撮影した作例を見ると、確かに黒の締まりもよさそうで、豊かな階調が表現されているという感じがします。
 また、フィルム感度はISO100ですから、いちばん使い易い感度であると言えますし、現像に関するデータを見てもEIは1000まで対応できるようなので、応用範囲の広いフィルムと言えると思います。

 私はローライのRPXシリーズというと黒いパッケージが思い浮かぶのですが、今回2本だけ購入した際のパッケージは白をベースに黄緑色を用いたデザインの箱でした。詳しくは知らないのですが、パッケージデザインが新しくなったのかも知れません。
 ちなみに、私が購入した時(2023年6月下旬)は通販サイトで1本1,280円(税込)でしたが、10本セットで購入すれば1本あたり1,199円(税込)ですので、割安感はあります。

 ローライのフィルムを製造しているのはイルフォード製品を製造している会社と同じハーマンテクノロジー社ですし、富士フイルムがOEMのような形でACROSⅡの製造を委託しているケントメアもハーマンテクノロジーに買収されているので、もしかしたらACROSⅡに似た写りになるかも知れないというかすかな期待が頭をよぎりましたが、ACROSⅡのレシピは富士フイルムがしっかり握っているでしょうから、製造会社が同じとはいえ、別物と思うべきでしょう。

イルフォード ILFORD のID-11で現像

 現像液は使う頻度が最も高いイルフォードのID-11を使用しました。使用する現像液で仕上がりはずいぶん変わってきますが、いろいろな現像液で試してみるよりは、使い慣れた現像液でACROSⅡと比較したほうが手っ取り早いだろうということで、まずはID-11で確認をしてみることにします。
 ID-11を使ってRPX100をEI100で現像する場合、現像時間は以下のように推奨されています。

  ・stock : 9分 (20℃)
  ・1+1 : 12分 (20℃)
  ・1+3 : 20分 (20℃)

 今回はstockで9分としました。

 このところの猛暑で室内温度もかなり上がっていて、液温を20℃に保つには冷やし続けなければなりません。深めのバットに氷水を入れて、この水温が18℃くらいになるように調整しながら現像液の温度管理を行ないます。大きめの氷をバットに入れてもあっという間に溶けてしまい、そのままにしておくと液温がどんどん上昇してしまいます。冬場、気温が低いときに温める方がはるかに楽です。

 イルフォードのID-11は何箱か買い置きしてあるのですが、これもご多分にもれず値上がりしていて、私が最後に購入した時に比べ、現在は1.5倍以上の価格になっています。
 同じくイルフォードからPERCEPTOLという現像液が販売されていて、こちらの方が1割ほど安く購入できるのですが、PERCEPTOLは低感度用ということになっています。ISO100フィルムであれば特に問題はないと思いますが、買い置きのID-11がなくなったらPERCEPTOLに変更するかもしれません。

風景撮影の作例

 さて、今回購入したRPX100を2本使って撮影をしてみましたので、何枚かご紹介します。今回の撮影に使用したカメラは、中判のPENTAX67Ⅱと大判のWISTA 45SPです。WISTA 45SPにはロールフィルムホルダーを装着しての撮影です。

 まずは、私が撮影対象としている被写体としていちばん多い自然風景の作例です。
 1枚目は山梨県で撮影した渓流の写真です。

▲WISTA 45SP APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 3s

 大きな岩の間を縫うように流れる渓流を撮影してみました。
 水の流れよりも岩の比率を多くして、岩の表情が良くわかるようにとの意図で露出を決めています。明るくなりすぎると岩の重厚感が薄れてしまうので、露出は若干抑え気味にしています。
 右下手前の岩までの距離は3mほどで、この岩から右上奥の木々までピントを合わせるため、カメラのフロント部でティルトアオリをかけています。
 どんよりとした曇り空のため、露光時間は長めになってしまいますが、流れの軌跡が残るギリギリのシャッター速度にしています。

 写真の印象としては、黒がとても綺麗に出ているという感じです。キリッと締まった黒というよりは、やわらかくて厚みのある黒と言ったら良いのかも知れません。そのため、平面的になり過ぎず、立体感のある画になっています。岩の表面の感じや奥行き感が良く出ていると思います。
 また、黒から白へのグラデーションや中間調も綺麗に出ているのではないかと思います。中間調が出過ぎるとインパクトの弱い写真になりがちですが、全体的に黒の比率が多いせいか、それほど気になりません。

 2枚目の写真は同じく山梨県で偶然見つけた滝です。

▲WISTA 45SP FUJINON CW105mm 1:5.6 F32 4s

 周囲はうっそうとした木々に囲まれていて、かなり薄暗い状態です。晴れていれば滝つぼに光が差し込むかもしれませんが、滝を撮るにはこのような曇天の方が向いていると思います。
 滝が流れ落ちている崖や滝つぼに転がっている岩、滝の両側の木々などのほとんどが黒く落ち込んでいて、滝とのコントラストがとても高くなっています。とはいえ、木々の葉っぱや岩の表面の凹凸など、ディテールにおける中間調はしっかりと表現されており、ベタッとした感じにならず、強いシャドー部の中にも柔らかさが感じられます。

 掲載写真ではわかりにくいと思いますが、滝の向かって左側のごつごつとした岩や、滝上部の木々の葉っぱなど、細部にわたってしっかりと認識できるだけの解像度もあると思います。
 また、流れ落ちる水のところのグラデーションもとてもなだらかで、ふわっとしたボリュームを感じる描写になっています。

街角スナップ撮影の作例

 次の作例はスナップ写真です。
 まず1枚目は路地裏のようなところで見つけた猫の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 105mm 1:2.4 F5.6 1/60

 毛並も綺麗だし、人相も悪くなく、目つきも優しげなので飼い猫だろうと思いますが、しっかりとこちらを警戒した顔つきになっています。
 猫の背後にある自転車は放置されたもののようで、強制撤去の紙が貼られています。
 あまり近づくと逃げられてしまうだろうと思い、猫が逃げ出す体制に入る前のほどほどの距離で撮影しました。

 この写真は黒や白の比率が少なく、全体的に中間調で占められていますが、締まりのある描写という印象です。同じ場所をACROSⅡで撮影していないので比較はできませんが、ACROSⅡはもう少し軟調な感じになると思われます。
 また、地面のコンクリートの質感や、自転車の背後にある鉄板で作られたと思われる箱のようなものの表面の凹凸なども良くわかるくらいの描写力は立派だと思います。
 建物の陰で直接の日差しが入り込んでいませんが、平面的にならず奥行き感があります。

 ちなみに、PENTAX67Ⅱのシャッターを切った瞬間、その音に驚いて猫はどこへやら行ってしまいました。

 スナップ写真の2枚目は、御茶ノ水駅の近くにある湯島聖堂で撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 55mm 1:4 F5.6 1/125

 湯島聖堂への入り口である入徳門の外から、大成殿とそこに上る石段を撮りました。
 門自体が黒く塗られていて光も当たっていないのに対して、門の内側は明るく、非常にコントラストの高い状態です。門の内側だけ見れば完全に露出オーバーです。
 散歩にでもいらしたのか、ご夫婦と思われる年配のお二人連れがいいポジションに立ち止まられたので撮らせていただきました。

 写真の上部と左右はかなり暗く落ち込んでいますが、つぶれることなく微妙な明暗差が写っています。やはり、この暗部の黒の出方は独特な感じです。硬くなりすぎず、やわらかさが感じられます。
 また、石段やその両側の木々は白く飛んでしまっていますが、大成殿の壁などは中間調で綺麗に表現されています。さすがに石畳のハイライト部分の中間調描写には無理がある感じですが、これくらいであれば石の質感は何とか読み取れます。

夜景撮影の作例

 長時間露光による夜景撮影がどんな感じに仕上がるかということで、隅田川の夜景を撮ってみました。
 まずは、アサヒビール本社ビル屋上のオブジェと吾妻橋を撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 105mm 1:2.4 F22 30s

 いちばん目を引くビル屋上のオブジェですが、下側からライトアップされているので上側に行くにつれて暗くなっています。このグラデーションがとても綺麗に描写されていると思います。照明が直接当たっている正面の部分は飽和してしまっていますが、滑らかな曲線で作られている立体感が良くわかります。
 一方、照明が落ちたビルの壁面や首都高の高架下などはこってりとした黒で描写されていますが、高い解像度によるものなのか、ディテールが残っていてベタッとした感じはありません。
 また、右側の高層マンションや首都高の高架壁など、暗い中にも中間調がしっかりと出ているのがわかります。

 さてもう一枚は同じく隅田川にかかる厩橋の夜景を撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 75mm 1:4.5 F22 30s

 空も真っ暗、橋の下も真っ暗といった状態で、一見するととてもハイコントラストな写真に感じます。確かに橋のアーチ部分の輝度が高いので明暗差がはっきりと分かれている写真ですが、アーチを支えている支柱の辺りを見るととても綺麗な中間調が出ています。白と黒だけで塗り分けられたのとは全く違う、鉄骨とは思えない柔らかさを感じます。
 黒の描写も「真っ黒」ではなく、わずかに光を含んだ黒という感じがします。うまく表現できないのですが、真っ黒に塗られた壁ではなく、真っ黒な煙幕とでも言えば良いのでしょうか。ハイライト部分もぎらついた感じではなく、やはり柔らかさを感じる描写です。

 風はほとんどなく水面も穏やかでしたが、長時間露光なので波による複雑な模様として写り込みます。この波頭一つひとつがわかるのではないかと思えるくらいの解像度ではないかと思います。

ACROSⅡに似ているところもあるが、ACROSⅡとは別物のフィルム

 今回、2本のRPX100で撮影してみていちばんの印象は黒の出方に特徴があるということです。
 前の方で何度も書きましたが、カチッとした真っ黒ではなく、わずかに光を含んだ黒であって、それが視覚的にどことなく柔らかさを感じさせてくれるのではないかと思います。これは裏返せば黒の締まりが弱いと言えるのかも知れませんが、それは好みにもよると思います。私はイルフォードのDELTA100のような締まりのある黒の出方が好きで多用していますが、それに比べると若干軟調気味に感じられるRPX100の描写ですが、これはこれでとても美しいと思いました。

 RPX100の特性がDELTA100とACROSⅡのどちらに似ているかというと、若干、ACROSⅡに近いと思います。ですが、明らかにACROSⅡとも異なる描写をするフィルムだと思います。解像度も申し分ない、階調も豊かでなだらかですが、ACROSⅡとは明らかに違う感じがします。何が違うのかと問われてもうまく答えられないのですが、パッと見た時にACROSⅡの方がすっきりとした描写に感じられる気がします。ACROSⅡに比べるとRPX100の方がこってりとしている感じです。理由はよくわかりませんが、やはり黒の出方が影響しているのではないかと思います。
 といっても、RPX100の描写が野暮ったいということではありません。むしろ、かなりレベルの高い描写性能を持ったフィルムではないかと思います。

 RPX100が硬調か軟調かと言われると、どちらかというと軟調寄りのフィルムではないかと思いますが、ACROSⅡの持っている描写特性とは違う軟調系という感じです。厳密に比較したわけではないのではっきりとは言えませんが、RPX100に比べてACROSⅡの方が、中間調の範囲が広いように思います。強いて個人的な見解をこじつければ、DELTA100とACROSⅡの中間的存在といった感じでしょうか。

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 RPX100がACROSⅡの代替フィルムになるかというと、無条件にそういうわけにはいかないと思いますが、比較的近い特性を持っているようにも感じます。
 もちろん、撮影対象とする被写体によっても描写特性は違って見えるので、安易に結論を出すつもりはありませんが、RPX100のポテンシャルは十分に高いという印象を持ちました。また、現像液や現像条件を変えれば見た目も変わってくるであろうことは想像に難くありません。
 そして何よりもフィルムの描写特性は好みのよるところが大きいので、一概に良し悪しをつけることも出来ません。

 ACROSⅡと同じような特性を持ったフィルムが存在しないことがACROSⅡのアイデンティティかも知れませんが、そう考えると富士フイルムの存在意義はやはり大きいと言わざるを得ません。
 ACROSⅡの代わりに別のフィルムを使うか、その結論が出るのはもう少し先になりそうです。ただし、RPX100のポテンシャルの高さは十分に認識しましたし、今後も使ってみたいフィルムであると実感したのも事実です。

(2023.7.20)

#RPX100 #ACROS #PENTAX67 #WISTA45 #ウイスタ45

大判レンズ #3シャッター用の平レンズボードを凸レンズボードに改造する

 私はバレルレンズを数本持っているのですが、これらのレンズを使って大判フィルムで撮影する場合はソロントンシャッターを使用します。とはいえ、これらのレンズを持ち出すのは年に数回といった状態で、ほとんど出番がありません。しかし、ソロントンシャッターは使えるシャッター速度が非常に限定されている、シャッター速度の精度が良くない、撮影までに手間がかかる等々、正直なところ、あまり積極的に使いたいものではありません。
 以前からバレルレンズにシャッターを取付けようと考えていて、大判レンズ用の#3シャッターを探していました。レンズはいらないのでシャッターだけでも手に入れられないかと思っていたのですが、#3シャッターのレンズはそもそも数が少ないうえに高価で、ネットオークションや中古カメラ店などを探しましたがなかなか見つけられずにいました。

フジノンFUJINON のSF250mm 1:5.6レンズをゲット

 先日、偶然立ち寄った新宿の中古カメラ屋さんで#3シャッターのレンズを見つけました。フジノンのソフトフォーカスレンズ、SF250mmです。レンズが少々汚れているということでかなり安い価格設定になっていました。レンズボードはついていないのですが、それを割り引いても格安だったので即購入してきました。
 このレンズはそれほどレアというわけではなく、ネットオークションなどでも時々見かけますが決して安くはありません。私はソフトフォーカスレンズで撮影する頻度は低いので、このレンズも気にはなっていましたが今まで手を出したことはありませんでした。

 今回、運よく安い個体に遭遇できたので、当初は前玉も後玉も外してシャッターだけ使う予定でした。しかし、家に持ち帰って動作を確認したり掃除をしたりしたところ、レンズの状態がとても良いので、シャッターだけを使うのは何だかもったいない気持ちになってきました。いろいろと思い悩んだ末、当初の計画を変更し、このレンズをそのまま使うことにしました。

平レンズボードのままではカメラに取付けられない

 このレンズを大判カメラで使うにはレンズボードを取付けなければなりませんが、あいにく#3のレンズボードの持ち合わせがありません。ジャンク箱を探したところ、#1のリンホフ規格のレンズボードが出てきたので、レンズ取付け穴を広げて使うことにしました。

 しかし、ここで一つ問題があります。
 FUJINON SF250mmについているコパルの#3シャッターはシャッター速度設定リングの外径が約102mmもあり、レンズボードからはみ出す大きさです。しかも、そこにシャッターチャージレバーや絞りレバーが飛び出しています。そのため、平レンズボードに締め付けリングで取り付けただけでは、私が主に使っているリンホフMT45やMT2000、WISTA45 SPなどのカメラではUアームにぶつかってしまい、取り付けることができません。私が持っている大判カメラで唯一、取り付けができるのはタチハラフィルスタンドだけです。
 リンホフやWISTAなどで使うためには凸レンズボードに取付ける必要がありますが、このボードが非常にレアなうえ、ごくまれに中古で出回っていても驚くほど高額です。さすがに、レンズ本体よりもはるかに高額なレンズボードを購入しようという気にはなりません。

平レンズボードを凸レンズボードに改造する

 ということで、ジャンク箱から出てきた#1レンズボードを使って、#3用の凸レンズボードに改造することにしました。
 一般に凸レンズボードというと、レンズボードの表面から筒のようなものが飛び出していて、その先端にレンズを取付ける構造になっていますが、この筒を加工したり取付けたりというのが、満足な工作機械もない状態だととても難しいです。市販のアルミパイプなどで代用しようとしても材料費も結構かかってしまうし、そもそも、ピッタリと寸法が合うものなど、まず存在しません。
 そこで、筒を使うのはあきらめ、スペーサーによってレンズを浮かせる方法で実現することにしました。

 使用するパーツは以下の通りです。

 ・スペーサー : M3 x 20mm 真鍮製 4本
 ・皿小ねじ : M3 x 8mm ステンレス製 8個
 ・ワッシャー : 内径4mm 8個
 ・ステップアップリング : Φ58mm-Φ72mm 1個
 ・フィルター枠 : Φ58mm 使わなくなったものを流用(下の写真には写っていません)

 購入価格は全部で600円ほどです。

 まずはレンズボードの加工からです。
 #1レンズボードのレンズ取付け穴を直径65mmくらいまで広げます。レーザー加工機でもあればあっという間ですが、そんな便利なものはないのでドリルで穴を開けた後、ヤスリで丹念に仕上げていきます。手作業なので真円に仕上げることは無理ですが、多少の凹凸があっても問題ありませんし、塗装をしてしまえば目立たなくなります。むしろ、真円度よりも穴の位置の方が重要で、出来るだけボードの中心からずれないように注意します。
 取付け穴の内側は耐水ペーパーで滑らかにして、表面には艶消しブラックの塗料を吹き付けておきます。

 #3のシャッターを取り付けられる大きさまで広げたレンズボードがこちらです。

 次に、スペーサーを取付けるためのネジを通す穴を開けます。穴の位置はレンズの締め付けリングをレンズに取付けた後、レンズボードがどの角度になると使い易いかということで決めます。
 また、締め付けリングに開いている4か所のネジ穴と同じ位置にしなければなりません。そのため、レンズボードの位置(角度)が決まったら、締め付けリングと重ねて穴の位置がずれないようします。
 今回はM3のネジを使用するので、3.2mmのドリルで穴を開け、ネジの頭が埋まるように6mmのドリルでザグリ加工をしておきます。レンズボードの板厚は2mmほどしかなく、あまり深くザグリを入れると強度がなくなってしまいます。ネジの頭が埋まってボードの面と同じ高さになれば良いので、ネジをあてながら少しずつ削っていきます。

 スペーサー取付け用のネジ穴加工をしたボードがこちらです。

 私はシャッターチャージレバーを真上に持ってきたかったので、そのような位置関係になる角度にしたところ、ネジ穴の位置がこうなりました。

 これでレンズボーの加工は完了で、あとは組み上げるだけです。
 まず、レンズボードの締め付けリングにスペーサーを取付けます。もともと開いている4か所のネジ穴に皿小ねじを使ってスペーサーを締めつけるだけです。

 これを先ほどのレンズボードに取付けます。
 レンズボードの裏側から皿小ねじでスペーサーを締めつけるだけですが、ザグリ加工をしたところの肉厚が薄くなっているので、レンズボードの強度を保つためにワッシャーをかませます。ワッシャーは若干大きめの方が効果があると思います。私が使ったワッシャーは外径が10mmのものですが、8mmくらいでも問題ないと思います。10mmだとレンズ取付け穴の内側に少しはみ出していますが、レンズの後玉と干渉しなければ構いません。

 組み上げるとこんな感じになります。
 上側にあるのが締め付けリングです。

 反対側(レンズボードの裏側)から見るとこんな感じです。

 この時、皿小ねじの頭とレンズボードの面が平らになっているか確認します。もし、ネジの頭が飛び出しているようでしたらザグリを少し深くする必要があります。

 そして、これをレンズに取付けたのがこちらの写真です。

 スペーサーは市販品を使っているので、レンズの後玉の高さにピッタリと合うというわけにはいきません。そこで、使わなくなったフィルターのガラスを外し、枠だけを後玉にはめ込んでいます。これで後玉とレンズボードの裏面の高さがほぼ同じになります。
 レンズボード裏面と後玉(フィルター枠)後端の高さが同じか、もしくは、レンズボード裏面の方が1mmほど高い状態であれば問題ありませんが、逆にレンズボード裏面の方が低いようであれば、ワッシャーをもう1枚追加するなどして調整します。

 さて、上の写真でもわかると思いますが、まだこの状態ではレンズの後玉とレンズボードの取付け穴の間に隙間ができています。このままではカメラに取付けても、この隙間から光が入り込んでしまい使い物になりません。
 そこで、この隙間を埋めるために後玉の後端にステップアップリングをはめ込みます。

 実際にステップアップリングを取付けたのがこちらの写真です。

 ステップアップリングのサイズは、リンホフ規格のレンズボードの裏面にある円形の突起の内側に嵌まる大きさということでΦ58mm-Φ72mmを採用しています(Φ58mmというのはこのレンズの後玉のネジ径です)。
 これでレンズボードとレンズ後玉の隙間からの光線漏れを防ぐことができます。レンズボード裏面が後玉後端と同じか、もしくは若干高くしておく必要があるのはこのためです。念のため、LEDライトで確認してみましたが光線漏れはありませんでした。
 もし、これでも心配なようであれば、ステップアップリングとレンズボード裏側の円形突起の間にモルトなどを貼れば完璧だと思います。

 以上で凸レンズボードへの改造が完了です。

 見てくれはあまりよくありませんが、レンズボード面から約20mm浮き上がった状態になっています。これでリンホフMT45やWISTA45 SPにも問題なく取付けることができます。
 ちなみに、正規の凸レンズボードに比べて若干軽く仕上がっています。

 レンズによって後玉の長さが異なるので、この改造レンズボードをそのまま他のレンズに使うことはできませんが、スペーサーの長さなどを調整すれば使用可能になります。

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 まだこのレンズを使って撮影をしてないので、光線漏れなどの問題がなく写るかどうかは未確認ですが、格安で購入したレンズの動作確認も含めて、近いうちに撮影してみようと思います。
 また、今回は#3シャッターを使用するということで改造しましたが、#0や#1のレンズボードのフランジバックを延ばすために同じような改造で対応することも可能と思われます。

 なお、当初計画していたバレルレンズへのシャッターの取付けについてはあらためて検討をしたいと思っています。実は、どのような構造にするか、どのようにバレルレンズに取付けるか模索中なのですが、いずれにしても#3のシャッターが手に入るかどうかにかかっていますので、運良く手に入れることができたら計画を進めたいと思います。

(2023.6.13)

#フジノン #FUJINON

大判カメラでの撮影をより快適にするための、ちょっとした工夫のあれこれ

 大判カメラを使って撮影をしていると、いろいろと不便に感じたりすることがたくさんあります。それは、最近のデジタル一眼レフカメラなどと比べると便利な機能や装備が圧倒的に不足しているため、様々な小道具が必要になることであったり、それが故に、何かと手間がかかったりといったようなことです。大判カメラとはそういうものだと割り切ってしまえばどうってことはないのですが、とはいえ、出来るだけ手間がかからず、便利であるに越したことはありません。

 たいそうな機材や装備を用いずとも、ちょっとしたことで便利になったりすることもありますので、私が日ごろから用いているものをいくつかご紹介します。
 必ずしも大判カメラに限ったことだけではありませんが、大判カメラがゆえに気になることもたくさんあるということで。

水準器のキャリブレーション

 大判に限らず、写真というのは水平が傾い置ていると、それを見た時にとても違和感を感じるものです。このような傾きに対して人間の眼はとても敏感で、ほんのわずかな傾きでも感じ取ってしまいます。ですので、特別な表現の意図をもって写す場合はともかく、一般的に水平が傾いた写真は失敗作と言わざるを得ません。
 今のカメラは電子水準器を内蔵しているものが多く、これを頼りにすれば傾いた写真を防ぐことは容易にできますが、大判カメラにはそのようなものがついていないので、昔ながらの気泡が入った水準器を使って水平を確認するということが必要になります。
 カメラや三脚、雲台などに水準器が組み込まれているものもありますが、小さいものが多く、微妙な水平の確認をするには便利とはいえません。

 撮影の際、私は常に水準器を持ち歩いていて、これでカメラの水平を確認するようにしています。
 水準器の値段も100円ショップで購入できるような安価なものから、高い精度で作られたかなり高額なものまでいろいろありますが、私の使っているものは通販で購入したとても安価なものです。
 水準器自体がいくら高精度であっても、カメラに取付けた際に水平が確認できなければ意味がありません。ですので、安かろうが高かろうが使用する際にはキャリブレーション(調整)が必要であり、キャリブレーションができていれば安いものでも全く問題ないと思っています。

 水準器のキャリブレーションは特に難しいことではなく、最も簡単で確実な方法は、海に行って水平線を基準に確認することです。
 手順としては、まず水平線をカメラのフォーカシングスクリーンの横罫線に合わせます。これでカメラの水平が保たれた状態になります。
 次に、水準器をカメラ上部の平らな部分に置きます。この時、水準器内の気泡が2本の線の中央にあれば問題ありませんが、気泡の位置が左右のどちらかにずれているとしたら、その気泡の位置がそのカメラの水平を示していることになります。ですので、もともと水準器に刻まれていた線は無視して、新たに気泡の位置に合わせて水準器に線を書き入れます。これでキャリブレーションは完了です。
 ただし、水準器を置く場所を変えると傾きが変わる可能性もありますので、キャリブレーション後は水準器の置く位置を常に同じ場所にする必要があります。

 しかし、これを行なうためにはわざわざ海に出向かなけらばならず、海から遠いところに住んでいる場合はなかなか骨の折れる仕事です。
 そこで、家の中にいても同様にキャリブレーションができる方法があります。

 家の中で完全な水平をつくり出すことは難しいですが、垂直であれば簡単に作ることができます。
 タコ糸などの先に重りをつけて、もう一端を部屋の壁の高いところや天井などに固定して吊るします。この時、重りをつけた糸は完全な垂直状態になっているので、この糸とカメラのフォーカシングスクリーンの縦罫線とを合わせることでカメラの垂直が保たれます。つまり、カメラの水平が保たれたのと同じ状態になります。なお、フォーカシングスクリーンを縦位置にしておいた方が、より正確に垂直を確認できると思います。
 それ以降の手順は水平の時と同様です。

 このキャリブレーション方法は、使用するカメラと水準器の関係において水平を担保するものであって、水準器の絶対的水平を保証するものではありません。ですので、使用するカメラが変わったり、同じカメラでっても水準器の置く位置が変わってしまうと意味がなくなってしまいます。

大判カメラに取っ手(ベルト)を取付ける

 木製のフィールドタイプの大判カメラは、本体の上部に取っ手がついているものが多くあります。
 一方、金属製のフィールドタイプの大判カメラの場合、取っ手は本体の側面についているものが多いように思います。これはこれで、カメラをホールディングするときには便利なのですが、カメラをバッグに出し入れする場合は使い勝手が良くありません。使用するカメラバッグの形態や慣れなどによるところも大きいのでしょうが、カメラをバッグから取り出し、三脚に固定する一連の操作のやり易さを考えると、取っ手はカメラ本体の上部についている方がはるかに便利です。

 ということで、私が使っている金属製のフィールドカメラの上部には取っ手(ベルト)を取り付けてあります。

 使用している素材はカメラのネックストラップの両端の細いベルトの部分です。あちこち傷んできて捨てようと思っていたネックストラップの先端の部分を切り取って再利用しています。
 リンホフマスターテヒニカ2000の本体上部側面にはアイボルト(丸環ボルト)のようなものがついていて、これにベルトを取付けています。
 アイボルトに通してある台形をした金属のリングは、大型のゼムクリップを使って自作したものです。そこにネックストラップの細いベルトを通し、バンドリングで固定してあります。

 この取っ手(ベルト)はカメラの出し入れの際にしか使用しないので、軽くて邪魔にならない存在でありながら、カメラの重さに十分耐えられなければなりません。それを満足するということで、ネックストラップの素材は打ってつけです。また、水に濡れても全く問題ありません。
 この取っ手のおかげでカメラの出し入れはとても楽になりました。さすがにこの取っ手を持って、カメラをブラブラさせながら歩くことはしませんが。

カメラバッグの蓋を自立させる

 私はバックパック型のカメラバッグと、ショルダー式のアルミケースを持っていますが、圧倒的に使用頻度が高いのはバックパック型です。両手がフリーになるので便利なのと、同じ重さであっても、片方の肩にかけるよりは背負ったほうが軽く感じるからです。
 私が愛用しているバックパック型はロープロ Loweproのプロトレッカー BP450AW Ⅱというバッグで、機能的にもデザイン的にもとても気に入っているのですが、唯一気になっているのは、バッグの蓋を半分くらい開いた状態で保持できないということです。ナイロン素材でできているため仕方のないことですが、大判カメラを使っているとバッグから物を出し入れする回数が多いので、これが思いのほかストレスになります。
 45度くらい開いた状態で固定出来たらどんなにか便利だろうとずっと思い続けていました。

 そして思いついたのが、自動車のボンネットを開いたときに支える支柱のような方式です。

 大がかりなものにすると重くなるので、重量的には誤差の範囲内で簡単に支えられるものということで、針金ハンガーを伸ばしてコの字型に曲げ、カメラバッグの蓋の内側に配線クリップでとめただけの極めて単純なものです。
 バッグの蓋を45度くらいに開いた状態で、この針金ステーの先端をバッグの内側にある保持部に差し込めば蓋は固定されます。保持部はマジックテープに短く切ったストローを貼りつけただけのもので、この位置を変えれば蓋の開度も変わります。

 これまでは、開いた蓋を片方の手で持っていなければならなかったのですが、これのおかげで両手で物を出し入れすることができるようになりました。片手だとうまく取り出せなかったり、落としてしまったりということもあったのですが、そういうこともなくなり、ストレス解消です。

大判レンズ用の格納箱

 大判レンズにはレンズボードがついていて、レンズ自体は小ぶりであってもレンズボードがあるために収納効率はあまりよくありません。カメラバッグに入れるときなどは出来るだけ隙間が少なくなるようにしたいのですが、なかなかうまい方法がありません。
 全く頓着することなく、レンズをバッグの中にゴロゴロと入れている方もいらっしゃって、私も試したことがありますが、レンズ同士がひっかってしまって取り出しにくいとか、目的のレンズを探しにくいとかがあり、使い勝手はあまり良くないというのが実感でした。

 ということで、いろいろと試行錯誤した結果、レンズがすっぽりと納まる直方体の箱が最も便利だという結論に至り、今はこの方法を用いています。

 箱は薄手(厚さ2mm程度)の段ボールを切り出し、レンズボードがついたレンズの寸法に合わせて箱にしているだけです。
 #0と#1シャッターのレンズの場合、箱の深さはリンホフ規格のレンズボードの高さが入る約100mm、横幅はレンズボードの幅の約96mm、長さは入れるレンズの全長に合わせています。
 一方、#3シャッターはボード幅よりも大きいので、深さは同じにできますが横幅は大きくしなければなりません。
 また、箱の内側にはレンズ名や焦点距離を書いておき、お目当てのレンズがすぐにわかるようにしてあります。

 この箱をカメラバッグの中に並べて詰めていくことで、カメラバッグの中でレンズが躍ってしまうようなこともありません。
 段ボール自体はとても軽いのと、内部が空洞になっているため若干のクッションの役目も果たしてくれます。もし、衝撃が気になるようであれば箱の底に厚さ2~3mmのクッション材を敷いておけばかなり効果的だと思います。

三脚に蓄光テープを巻き付ける

 私が主に使っている三脚はベルボンのジオ・カルマーニュN830という製品ですが、結構大型の三脚です。三脚は当然のことながら、脚を伸ばせば伸ばすほど、3本の脚が地面に描く三角形の面積も大きくなります。
 大判カメラでの撮影の場合、いろいろな小道具を使うので、カメラバッグはできるだけ三脚の真下あたりに置いておきたいのですが、足元の状態によっては脇の方に置かなければならないこともあります。その結果、カメラとバッグの間を行ったり来たりすることになります。
 昼間の明るいときであれば何ら問題はないのですが、夜の撮影時などは足元も暗いので、三脚の脚が見えずに蹴とばしてしまうこともあります。三脚を倒してしまうようなことはありませんが、せっかく構図決めやピント合わせをした後だったりすると、もう一度やり直さなければなりません。

 そこで、暗闇でも三脚の先端がわかるように、蓄光テープを巻き付けてあります。

 これは、光にあてた後は暗闇でも発光し続けるので、とても目立ちます。明るさは徐々に落ちていきますが、それでも1時間くらいは十分な明るさを保っていますし、もし、暗くなってしまったら懐中電灯などの光を当てると、再度蓄光されて明るく光るようになります。
 三脚だけでなく、カメラバッグなどにも貼っておけば目印になると思います(私は貼っていませんが)。

 また、人通りが多い場所での夜間撮影の時など、三脚を立てておくと前を通った人が脚に足を引っかけてしまう心配もあります。もちろん、細心の注意を払って三脚を立てるべきですが完璧というわけにはいかず、そんなときも緑色に光っていれば、多少なりともそういった事故を軽減することができるかも知れません。

カメラバッグ内を明るくする照明

 これも夜間撮影時のためのものですが、カメラバッグの中が暗くて物が見えにくいというのは不便なものです。私は夜間撮影時にはネックライトを使っていますが、バッグ内を隅々まで照らすには光量不足です。明るくするためにはかなり腰をかがめなければなりません。
 バッグの中全体を明るく照らしてくれるような照明を取付けようと思い、通販サイトで探してみました。

 最近は小型でも明るいLEDライトがとても安い金額で購入することができ、しかも驚くほどたくさんの製品に溢れていて目移りしてしまうのですが、とにかく小型のものということで長さ10cmほどのLEDライトをゲットしました。

 電源はモバイル用の予備バッテリーを使います。以前、とあるメーカーからもらったものですが、全く使っていなかったので、今回デビューです。
 これをマジックテープでカメラバッグの蓋の内側に取付けてあります。

 LEDライトにはスイッチがないのですが、バッテリーにはスイッチがついているのでオンオフが可能です。蓋を開けたら自動で点灯っていうのが理想ですが、それほど頻繁に使うものではないので良しとしましょう。
 バッテリーの容量とLEDライトの消費電力から計算すると、フル充電された状態で10時間以上使えるようなので、長時間の夜間撮影でも問題ありません。
 実際に点灯させると予想以上に明るく、バッグ内は隅々まで見えるどころか、明るすぎて恥ずかしいくらいです。

 マジックテープでとめてあるだけなので取り外しも簡単にでき、懐中電灯の代わりにも使用できます。

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 大判カメラに限ったことだけではないとは言いながら、最新の35mm判の一眼レフを使っていれば、それほど気にならないことも事実です。機材の進歩は撮影時の状況を変えてしまうのは言うまでもありませんが、今更ながら大判カメラは何かと手間がかかるということです。
 だからこそ、長年使っていると気になったり不便に感じたりということが出てきますが、今の時代、大判カメラに関する新製品やグッズが発売されるなどということは望むべくもなく、自分で工夫するしかないといった感じです。
 それはそれで楽しいことでもありますが、所詮は素人が思いつきでやっていることですから他愛もないことでもあり、すべてがうまくいくわけでもありません。それでも、昨日よりも少しは良くなったという自己満足も大事なことかと思っています。

(2023.5.8)

#Velbon #Linhof_MasterTechnika #Lowpro #ベルボン #ロープロ

大判カメラのアオリ(7) 複合アオリ フロントライズ+フロントスイング

 以前、大判カメラのアオリのシリーズで個々のアオリについて触れてきましたが、今回は複数のアオリを組み合わせて使う複合アオリについて触れてみたいと思います。
 風景写真の場合、物撮りに比べるとアオリを使う頻度は格段に少ないのですが、それでも時には複数のアオリを使うこともあります。複合アオリの第一回目はフロントライズとフロントスイングの複合アオリです、
 なお、それぞれのアオリのふるまいについては下記のページをご覧ください。

  大判カメラのアオリ(1) フロントライズ
  大判カメラのアオリ(4) フロントスイング  

高さと奥行きのある被写体を撮影する

 高さも奥行きもある被写体というと、ビルなどが最もイメージし易いのではないかと思います。
 下の図のように、ビルを斜めに見る位置から撮影することを想定した場合、ビルのほぼ全体をフレーム内に入れるためにはカメラを上向きにする必要があります。

 ビルとカメラがこのような位置関係になると、ビルの水平ライン(上図の赤い点線)に対してレンズの光軸(上図の黒い点線)が斜め上方を向くため、平行になりません。また、ビルの垂直ライン(上図の青い点線)に対して、レンズの光軸が直角になりません。
 この状態でビルを撮影すると、ビルの上方が中央に寄っていく、いわゆる先細りになって写ってしまいます。

 下の写真は東京都の神代植物公園にある「ばら園テラス」を撮影したものです。ビルではありませんが、高さのある柱が何本も並んでいる被写体であり、上の図と同じような状況で撮影したものです。
 神代植物公園には大きな温室があり、本来はそちらの方がうってつけなのですが、温室の周囲に植えてある木々が邪魔になって良いアングルが見つけられなかったため、ばら園テラスにしました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 一番手前の柱は左に傾いているように、一方、奥の柱は右側に傾いているようになってしまいます。つまり、建物全体が上に行くにしたがって先細り状態になってしまいます。これは見上げるようなアングルで撮影するとごく普通に起こる症状で、このような写真は見慣れているせいか特に違和感があるわけでもありません。ですが、やはり肉眼で見たのとはちょっと違うぞという感じです。建物全体が向こう側に倒れているように感じられます。
 また、ピントを手前の柱付近においているので、奥の方(写真左側)の柱にはピントが合わず、ボケています。これは絞りを絞り込むことである程度は解消することができますが、同じ画角でも35mm判カメラなどと比べて焦点距離の長いレンズを使う大判カメラの場合、どうしても被写界深度が浅くなってしまうので自ずと限度があります。

 この写真のピント面は、右上の屋根の角の辺りから手前の柱上部を斜め下に輪切りにして、柱の向こう側に降りている感じなります。

フロントライズで先細りを防ぐ

 まず、上に行くにしたがって先細りになっている状態を解消するために、カメラのフロント部を上げるライズアオリをかけます。
 これは、上向きになっていたカメラの光軸が水平になるように、カメラを構え直します。こうすることで傾いているように見えた柱がまっすぐになってくれますが、建物の上部が画面からはみ出してしまい、反対に画面の半分近くまで地面が写り込んだ状態になります。
 その状態でカメラのフロント部を少しずつ上げていく、すなわち、ライズアオリをかけていくと、建物の上部が徐々に入り込んできます。

 1枚目の写真とほぼ同じ範囲が写り込むまでフロントライズさせて撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 手前の柱も奥の柱もほぼ真っすぐに立ち、建物全体が向こう側に倒れているような感じもなくなりましたし、高さも強調され、奥行き感というか立体感も増しています。
 また、1枚目の写真ではカメラが上方を向いているため、地面に対してピント面が垂直になっておらず、手前に傾いた状態になっていますが、2枚目の写真ではピント面が地面に対して垂直になっている、つまり、柱と平行になっているので、建物の向こう側にある木々のボケ方も小さくなっているのがわかると思います。

 フロントライズによるピント面の移動は下の図のようになります。

 ライズ量はレンズのイメージサークルやカメラの可動範囲の許す限りは可能ですが、焦点距離が短いレンズの場合、イメージサークルにあまり余裕がないのと、フィールドカメラはビューカメラほど可動量が大きくないので 、あまり高い建物では上の方までフレーム内に入れることができないというようなことが十分あり得ます。

フロントスイングで手前から奥までピントを合わせる

 フロントライズをかけることで建物が真っすぐに立っているように修正できました(2枚目の写真)が、奥の方(画面左側)の柱は被写界深度の外にあるため、ピントが合っていません。これを奥の柱までピントが合うように、フロント部にスイングアオリをかけます。
 ライズアオリがかかった状態のままで、レンズを少し右向きに回転させます。つまり、右から2本目の柱のあたりを向いていたレンズ面を右に回して、右から1本目と2本目の柱の中間あたりを向くようにします。こうするとピント面が右に回転するので、手前から奥の方までピントが合うようになります。

 こうして撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 建物の真っすぐな状態が保たれたまま、手前の柱から奥の柱までピントの合った状態になっています。
 フロントスイングによるピント面の移動を示したのが下の図です。

 わかり易くするために絞り開放で撮影していますが、この状態で絞り込めば奥の木立も被写界深度の範囲内になり、さらにピントの合った写真にすることができます。
 このような場合、フロントスイングによってすべての柱にピントを合わせることが多いと思いますが、スイングの度合いを変えることでピントの合う範囲を調整することができます。あえて遠くの方は若干ぼかしておきたいというようなときはスイングの量を少なめにするなど、作画意図に合わせてアオリの量を決めます。

 また、今回は作例用に撮影はしませんでしたが、レンズを左向きに回すスイングアオリをかけると、例えば、2本目の柱だけにピントが合って他はボケているという、ちょっと不思議な感じの写真にすることも出来ます。

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 フロントライズもフロントスイングも単独では比較的よく使うアオリですが、風景撮影において これらを複合して使うことはそれほど多くはありません。ですが、被写体が歪まないようにしながらピント面を自由にコントロールすることで思い通りの写真に仕上げることができるのは魅力かもしれません。
 建物単体だけでなく街並みの撮影とか、比較的近い距離での滝の撮影とか、意外と応用範囲は広いようにも思います。

(2023.1.23)

#Linhof_MasterTechnika #アオリ #リンホフマスターテヒニカ