フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~啓蟄~

 いよいよ三月、啓蟄という言葉を聞くと本格的な春の訪れを感じます。やはり暖冬なのか、今年(2021年)は2月から暖かな日が多く、春の訪れが早いように感じます。梅の開花も随分と早かったようで、桜の開花も例年よりも早いとの予想のようです。
 この時期はフィールドの変化が早く、近所の公園も一週間も経つと様子がずいぶん変わります。

マンサクが満開でした

 花つきが豊かなため、古くから豊年満作に通ずるとして好まれてきたと言われています。山野では木々の芽吹きもまだ先という時期に、黄色の花をびっしりとつけた姿は遠目にもそれとわかります。まるで縮れ麺を短く切ったような花姿は、どこかユーモラスでさえあります。この花が咲くと寒い季節の幕引きともいわれているらしいです。
 公園に植えられてたり、やはり縁起の良い花ということからなのか、庭木としても植えられているのをよく見掛けます。
 最近は、花の色が赤に近いアカバナマンサクというのも良く見かけるようになりましたが、花の色がちょっと毒々しくて個人的にはあまり好きになれません。やはり黄色の方が品が感じられます。

 下の写真は偶然見つけたマンサクの花です。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

 背景に裸木を入れて、黄色に輝くマンサクの花との対比を出してみました。花の形がユニークなのでアップで撮るのも面白いですが、やはり全体を入れた方が季節感が感じられると思います。

 マンサクといえば、秋田に「まんさくの花」という地酒があります。有名なので名前は知っているのですが、ほとんど飲んだ記憶がありません。秋田はマンサクが多いのかと思って調べてみたところ、NHKの連続ドラマ「マンサクの花」からつけた名前らしいです。「マンサクの花」という響きが心地よくて好きです。

日向ではオオイヌノフグリも咲いています

 オオイヌノフグリは、春先に最も早く咲き始める野草ではないかと思います。ヨーロッパ原産の帰化植物ですが、すっかり日本の春の風景になじんでしまっています。日本には明治の初めごろに入ってきたらしいですが、今では河原の土手や田んぼの畦道、道端など、いたるところで見ることができます。小さな花ですが、その繁殖力は驚くばかりです。
 瑠璃色の花は何とも可愛げがありますが、不名誉な名前をつけられてちょっとかわいそうな気もします。

 もともとは日本には在来種であるイヌノフグリがあるのですが、オオイヌノフグリに生育地を奪われてしまい、減少の一途をたどっているようです。オオイヌノフグリに比べると花の大きさが半分くらいしかありませんが、地味でつつましやかな感じがします。

 空き地に咲いていたオオイヌノフグリを撮ってみました。

PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 太陽に向かって背伸びしているようなイメージを出したいと思い、アングルを決めました。
 小さな花なので撮影には苦労します。群生しているところはまさに春の風景といった感じですが、一輪とか数輪を撮ろうとすると、目線をかなり下げなければならないので大変です。地面に腹ばいになって撮るのが楽ですが、たくさんの花を押しつぶしてしまうのでそれもはばかられます。

 同じく帰化植物であるヒメオドリコソウやホトケノザなどと大群落をつくることがありますが、そういう光景を見られるようになるにはもう少し先のようです。

テントウムシはまだ見かけません

 日差しがぽかぽかと暖かなとき、オオイヌノフグリの群落にはテントウムシの姿をよく見かけます。ナナホシテントウが多いのですが、花と同じくらいの大きさで、もぞもぞと花の上を歩きまわっている姿をみると、ほのぼのとした気持ちになります。
 まだ少し寒いのか、この写真を撮ったときには残念ながらテントウムシを見かけることはありませんでした。啓蟄とはいえ、虫が出てくるまではもう少しかかるようです。

(2021年3月7日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~立春~

 今年の立春は2月3日で、これは実に124年ぶりとの報道がされていました。寒さはまだ続きますが、これからの寒さは余寒というらしく、春に向けて暖かくなっていく寒さということで、こういう使い分けが日本人の感性の豊かさだと思います。
 旧暦では立春のころが1年の始まりだったようで、日本では旧正月を祝う習慣はなくなってしまいましたが、中国の春節やベトナムのテトなど、アジアでは旧正月を祝う国がたくさんあるようです。

梅が咲き始めました

 今ではすっかり日本の風景に溶け込んでいる梅ですが、奈良時代に中国から持ち込まれたものらしく、万葉の時代には花というと桜ではなく白梅のことをさすくらい、当時の人々に愛でられていたようです。
 学問の神様として有名な菅原道真も紅梅を深く愛したひとりで、彼の邸宅は「紅梅殿」とよばれ、春の訪れとともに芳しい香りに包まれたといわれています。藤原時平の訴えにより、九州の大宰府に左遷されてしまうわけですが、以来、日本各地にある天満宮の境内には梅の木が植えられ、神紋には梅鉢が使われるようになったといいます。

 下の写真は近所の公園で撮った早咲きの白梅です。ほかの木はまだ1~2輪がようやく咲き始めたところですが、この梅はこの公園の中でも真っ先に咲きます。

白梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 「梅は百花の魁」といわれますが、梅が咲き始めるとあたりが明るくなったようにさえ感じます。満開の状態はもちろん豪華ですが、個人的には梅は咲き始めた頃がいちばん好きです。ぽつぽつと咲き始めた頃のちょっと恥じらうような姿に風情が感じられます。特に白梅には楚々とした感じが漂っていて、例えると、春の光のもとで微笑む小町娘、といったところでしょうか。

 ここ数日の暖かさで紅梅も咲き始めていました。紅梅には白梅と違った華やかさがあります。白梅が楚々とした美しさであれば、紅梅は艶っぽさ漂う美しさといった感じです。

紅梅 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/500 PROVIA100F

福寿草も眩しいくらいに輝いて

 元日草とか正月花などの別名をもつ福寿草、旧暦の正月、ちょうど今頃に咲き始めることからついた名前のようですが、立春を待ちかねたように咲き始めていました。新年を祝う花として古くから日本人の心を癒してきたといわれていますが、いまの時代は春の訪れを告げる花というイメージの方がしっくりきます。
 雪を割って芽を出す姿には心惹かれるものがありますが、東京ではなかなかそういう姿にお目にかかることはできません。それでも緑がほとんどない大地から芽を出して、身の丈に比べて大きな花を咲かせる姿には癒されます。

福寿草 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 花の少ないこの時期に、輝くような黄色の花は遠目にも良く目立ちます。太陽の動きを追いかけて花の向きを変える性質(向日性)があり、このため、花の内側は外側に比べて温度が高くなるらしいです。まるで、太陽の熱を集めるパラボラ集熱装置のようです。

 品種改良がなされて二重咲や八重咲といった豪華な福寿草もありますが、日本に自生しているのは一種のみだそうです。上の写真の福寿草は自生種と思われますが、定かなことはわかりません。しかし、これから次々といろいろな花が咲き始めることを教えてくれることには変わりありません。 

立春限定の日本酒も

 立春の未明に搾りあがったばかりのお酒のことを「立春朝搾り」といい、日本酒好きの人には待ち焦がれたお酒です。このお酒は火入れをしていない生原酒で、どの蔵元のお酒も日付が入った同じデザインのラベルが貼られています。今年のラベルは、「令和三年辛丑二月三日」と書かれています。実は、このラベルの裏側には、「大吉」の文字が書かれており、ビンの反対側から透かすと見ることができます。ちょっとした遊び心ですね。

(2021年2月8日)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #白梅 #紅梅 #二十四節気 #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~大寒~

 一年のうちでいちばん寒いとされる時期で、天文学では太陽黄経が300度になった日が大寒の初日らしいです。二十四節気では立春が一年の始まりとされているので、いまは年末といったところでしょうか。
 一年でいちばん寒い時期ですが、春に向かっているという想いがあるせいか、冬至のころに比べると明るいイメージがあります。野に咲く花もこれから少しずつ増えてきます。

清楚な花が特徴のニホンスイセン

 1月も半ばを過ぎると東京でも日当たりの良いところではちらほらとスイセンが咲き始めます。ニホンスイセンと呼ばれる野生種で、一重咲きと八重咲きの2種類が見られます。家の庭先や花屋さんでよく見かけるラッパスイセンに比べると花も小ぶりです。華やかさではラッパスイセンに劣るかもしれませんが、ニホンスイセンには楚々とした美しさがあり、この花が咲くとあたりが明るくなったような感じがします。

ニホンスイセン Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 Velvia100

 野生のスイセン群生地といえば伊豆半島の爪木崎が有名ですが、今頃は300万本といわれる満開のスイセンでおおい尽くされます。もともとは平安の頃に、遣唐使などによって薬草として日本に持ち込まれたらしいですが、爪木崎では、はるか南の島から流れついた球根が根付いたという言い伝えもあるようです。どこから流れてきたのかわかりませんがロマンのある話です。
 やはり水仙の群生地で有名な越前海岸地方には、その昔、海からやってきた美しい娘が二人の若者の恋の鞘あてにあった末、海に身を投げ、自らの命を絶った。水仙はその娘の生まれ変わり...こんな逸話も残っているといいます。

 種類にもよるようですがスイセンは香料の原料にも使われるらしく、甘い香りがします。野外で咲いているときはさほど気になりませんが、切り花として屋内に持ち込むと、市販の芳香剤などとは比べ物にならないくらい強烈な芳香を放ちます。
 雪の中でも咲くことから「雪中花」とも呼ばれるようですが、春が近いことを教えてくれる花のひとつだと思います。

小さなぼんぼりのようなロウバイ

 ロウバイも冬に花を咲かせる数少ない花木のひとつです。花弁が厚くて、質感が本当にロウ細工のようで、近寄るととてもいいにおいがします。太陽の光が差し込むと黄色く輝き、小さなぼんぼりに明かりが灯ったようです。
 中国原産の落葉樹らしいですが、花のほとんどない冬枯れの季節に花を見たいという昔の人の強い想いで、日本に持ち込んだのかもしれません。

ソシンロウバイ Pentax67Ⅱ smcPENTAX67 200mm 1:4 F4 1/125 Velvia100

 ロウバイは花に似合わず大きな実をつけますが、その実が翌年の開花時期になっても真っ黒になったまま残っているのを見かけます。花の写真を撮ろうとするときにはかなり目立ってしまい、邪魔な存在に感じてしまうこともしばしばです。中には小豆ほどの種が入っており、これを土にまくと春分の頃には芽が出てくるらしいです。

 最近は各地に「ロウバイ園」や「ロウバイの郷」なるものが誕生しています。関東近県では埼玉県の宝登山や、群馬県の松井田が有名です。公園などにも植えられているのをよく見かけますが、ソシンロウバイという園芸品種が多いようです。
 漢字で書くと「蝋梅」で、「梅」という字がついていますが梅の仲間ではないらしく、ロウバイ科という種類があるようです。確かに、素人が見ても梅の花と同じ仲間には見えません。
 そういった学術的なことはさておいても、この寒い時期に花を咲かせてくれることには本当に感謝です。スイセン同様に、春もそう遠くないことを感じさせてくれます。

 梅のつぼみもだいぶ膨らんできており、フィールドがにぎやかになるのも間もなくといった感じです。自然界は着実に動いていることを感じます。

(2021.1.23)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~冬至~

 昨日(12月21日)は冬至でした。言わずと知れた、一年のうちで昼の時間が最も短い日です。
 また、日没後の空では実に397年ぶりと言われる木星と土星の大接近が見られました。私は視力があまりよくないので、肉眼では一つに見えてしまいました。
 調べたところ、前回の大接近の時は徳川家光が将軍になった頃のようです。もしかしたら家光も見ていたかも知れません。

 冬至は、太陽の力が一番弱まる日ですが、この日を境に再び太陽の力が蘇ることから、すべての運が上昇に転じる縁起の良い日とされています。この縁起の良い日に「ん」のつく食べ物を食べると「運がつく」と言われています。最も日が短く寒さも厳しくなり、風邪をひきやすい時期であるところから、縁起を担ぐようになったのかも知れません。
 旬をむかえる柚子を入れる柚子風呂も昔からのならわしの一つです。風邪をひかないと言われていますが、高価な柚子を風呂に入れるのはためらわれてしまいます。むしろ、焼酎に入れて飲んだ方が風邪をひかなくなるのではと、ついつい不届きなことを考えてしまいます。

枯れてもなお...セイヤタアワダチソウ

 この時期、東京は冬晴れの日が続きますが、季節感の希薄な東京でも寒さが強まり、冬の訪れを感じます。同時に野に咲く花の数はめっきり減ってしまいます。しかし、この時期ならではの「花」が見られるのも自然界の妙ではないかと思います。
 下の写真はセイタカアワダチソウです。

セイタカアワダチソウ PENTAX67Ⅱ smcPENTAX67 1:4/200 F4 1/250 PROVIA100F

 秋に黄色い花を咲かせる北アメリカ原産の帰化植物ですが、ものすごい勢いで繁殖すると言われており、いたるところで見ることができます。根から他の植物の成長を抑制する化学物質を出すらしく、嫌われ者の感がありますが、葉っぱはハーブとしても利用されるようです。
 花の時期はとうに終わっており全身すっかり枯れていますが、枯れてもなお原型をとどめているところにも、この植物の繁殖力のすごさを感じます。
 枯草なのでほとんど見向きもされないだろうと思いますが、花の少ないこの時期には貴重な被写体です。セイタカアワダチソウに限らず、植物は花が咲いているときはもちろん美しいのですが、芽が出てから枯れるまでの間、その時々の美しさというのがあります。
 これは河川敷で撮ったものですが、バックが日陰になっていたおかげでセイタカアワダチソウが引き立ってくれました。

ツタモミジも輝いています

 東京の紅葉は12月に入ってからが本番なので、年末になっても場所によってはまだ紅葉を見ることができます。そんな名残の紅葉を撮ってみたのが下の一枚です。

ツタモミジ New Mamiya 6 MF Mamiya G 1:4.5/150 F5.6 1/60 PROVIA100F 

 場所は近所の公園ですが、木の幹に絡みついたツタモミジを逆光で撮ってみました。カサカサした落ち葉ばかりが目立ってしまいますが、まだこのような光景を見ることができます。この紅葉もよく見るといちばん美しい時期は過ぎており、かなり傷みが目立ってきていますが、最後の輝きを放ってくれているという感じです。
 ツタの葉っぱだけではつまらないので、後方にある常緑樹からの木漏れ日を玉ボケにしてみました。玉ボケが大きくなりすぎないように絞りを少し絞ってみましたが、やはり開放の丸いボケのほうが柔らかな感じになり、この時期らしさを出せたかも知れません。

 冬はこれからが本番ですが、葉をすっかり落した木の枝には米粒ほどの芽がついています。植物にとってはすでに春に向けての準備が始まっているのでしょう。

(2020.12.22)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影

フィルムカメラでつづる二十四節気の花暦 ~小雪~

 今日から師走。不思議なもので、12月というよりも師走と言うほうが季節感が漂います。日常の会話の中で、12月以外で旧暦の呼び名を使うことはまれですが、12月だけ旧暦の呼び名を使うことが多いのは何故なのでしょう?

 今は二十四節気の「小雪(しょうせつ)」にあたり、さらに七十二候で言うところの「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」という時期らしいです。冷たい北風が吹き、木々の葉っぱを落とす頃という意味のようですが、こういった昔の日本人の感性には驚かされます。
 木の葉が落ちるといえば、私もよく使う甲州街道(国道20号線)を新宿から八王子方面に向かうと、道路の両側に大きな欅の木がたくさん植えられています。毎年この季節になると大量の欅の葉が道路に舞い落ちます。そこを自動車が走りぬけると落ち葉が舞い上がり、まるで映画かCMのワンシーンのような感じになります。

宝石のようなヒヨドリジョウゴの実

 私は野に咲く花(野草)を撮ることも多いのですが、この時期はそういった花もほとんどなくなってしまいます。それでも、まだ自然が残されている郊外の野山などに行くと、緑もすっかり影を潜めた枯野の中に赤や紫に色づいた木の実を見ることができます。紫色のヤブムラサキやオレンジ色のカラスウリ、真っ赤なガマズミなどなど。
 そんな中でも見つけるとつい撮ってしまうのが「ヒヨドリジョウゴ(鵯上戸)」の実です。

ヒヨドリジョウゴ

 葉っぱもすっかり枯れてしまいカサカサと音をたてそうですが、赤い実はとても瑞々しく、つまんで食べてみようかと思ってしまうほどです。しかし、実だけでなく全草に毒があるらしく、食べ過ぎると下痢や嘔吐などの中毒症状が出るようですが、漢方の生薬としても利用されています。昔の人の知恵は本当に素晴らしいと思います。
 ヒヨドリジョウゴはナス科の植物で、夏から初秋にかけて小さな白い花を咲かせます。花は開いたあと白い花冠が反り返って、まるでダーツの矢のような形になり何とも可愛らしいものです。そして、花が散った後に緑色の実をつけるのですが、この頃はまだ特に目立つこともないごく普通の野草です。
 ところが、周りの野草がその寿命を終えようとしている頃になるとこの写真のように真っ赤になり、ひときわ目立ってきます。

 ヒヨドリが好んで食べることからついた名前と言われていますが、本当にヒヨドリが食べるのかどうか知りません。しかし、ヒヨドリは赤いものを好むのか、春先には梅や桜のつぼみをついばんでしまうので、もしかしたら毒のあるこの実も食べてしまうのかも知れません。

日本の原風景 残り柿

 そして、この季節に見ることができる日本の原風景といえるのが「残り柿」です。葉はすっかり落ちてしまい、実だけが残っています。

残り柿

 昔の人は、柿はすべての実をもいでしまうのではなく、下のほうは旅人のために、上のほうは鳥たちのために残しておいたと言われています。その昔、ここを通りかかった旅人がこの小さな祠にお参りをし、柿を二つ三つもいで、また旅を続けるという光景が浮かんでくるようです。
 今は食べ物も豊富で旅人が柿をもぐこともないかもしれませんが、食べ物が少なくなるこの時期、鳥たちにとっては貴重な食料源です。
 また、「柿若葉」、「柿紅葉」、「柿落ち葉」など、季節ごとの情趣に富んだ名前で呼ばれるのも柿の木ならではだと思います。

 大きな柿の木にたくさんの実がついていても、収穫されることなくそのままになっている光景をよく目にします。冬の風物詩でもある吊るし柿を作る家が減ってしまったことも、ほったらかしになっている理由の一つかもしれません。
 一方、スーパーや八百屋さんで売られている柿はとても立派で、しかもお高いです。出荷するために栽培されているものなので当然ですが、残り柿はあまり立派な実よりも、少々小ぶりのほうが風情があると感じてしまいます。

(2020.12.1)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #二十四節気 #花の撮影