フロント部のアオリの5回目はフロントシフトについてです。これは、レンズ主平面を左右に移動するアオリで、フロントライズを光軸まわりに90度回転させた動きになります。
このアオリは物撮りでは良く使うのかもしれませんが、私のように主な被写体が風景という場合、使用する頻度は極めてまれです。
フロントシフトを使うケース
前にも書いたように、風景撮影においてフロントシフトを使うことはほとんどありません。私の乏しい経験からすると、このアオリを使うのは以下のようなシチュエーションではないかと思います。
(1) 物撮りなどの際に、横方向が縮んでしまうのを防ぐ目的で使用する
(2) 鏡やショーウィンドウなどの撮影の際に、自分自身が写り込むのを防ぐ
(3) フレーミングをした際、左右の端の方に余計なものが入ってしまうときにカメラ位置を動かさずにフレーミングから外す
思いつく使い方はこのくらいですが、物撮りの専門の方はもっと違う使い方をしているかもしれません。
実際にフロントシフトした状態が下の写真です。
リンホフマスターテヒニカ45の場合、シフトできる量は左右それぞれ40mmですが、使用するレンズや蛇腹の繰出し量によっては制限を受けることもあります。写真でもわかるように、短焦点レンズの場合、蛇腹がタスキに当たってしまい、これ以上シフトすることができません。
操作はロックネジを緩め、手で左右に移動させるという非常にシンプルなものです。
横方向が縮んでしまうのを防ぐ
車の模型を使って、フロントシフトの効果を確認してみます。
車を斜め前方から普通に撮影したのが下の写真です。
これだけを見ていると特に違和感はないのですが、斜め前方から見ているために、車の全長が実際より短く、ずんぐりとした感じに写ってしまいます。これは、「フロントライズ」で触れた、ビルの上の方が小さく写ってしまうのと同じ現象です。
これに対して、レンズを右にシフトして撮影したのが下の写真です。
上の写真と比べると車の全長が少し伸びて、ずんぐりとしていたのが解消されているのがわかると思います。
撮影データはいずれも下記の通りです。
レンズ 125mm 1:5.6
絞り F22
シャッター速度 1s
このように、物撮りでは形を補正することができますが、これを風景撮影の際に使うことはほとんどありません。並木や街並みは遠くに行くに従って小さくなっていくから遠近感が感じられるのであって、これがなくなってしまうと、平安時代の源氏物語絵巻に出てくるような遠近感のない描写になり、違和感を感じます。フロントライズは、縦にまっすぐなものはまっすぐに写したいということで使われることは多いですが、それと同じ理屈を横に適用する必要性は感じられないということでしょうか。
自分自身が写り込むのを防ぐ
鏡やショーウィンドウなどを正面から撮ろうとすると、自分自身が写り込んでしまいます。斜めから撮れば自分自身の写り込みは防げますが、長方形の鏡やウィンドウが平行四辺形になってしまいます。
正面から歪みのない形で、しかも自分自身が写らないようにといときにシフトアオリを使うことで実現することができます。とはいえ、私が撮影する被写体においては、ほとんど出番がありません。
左右の端の余計なものをフレーミングから外す
三脚を構え、いざフレーミングしてみたが、左の端に余計なものが入っているのでもうちょっと右の方にフレーミングしたい、なんていうことはよくあると思います。カメラを右に振れば済むのですが、それだとカメラが回転運動することになり、フレーミングが微妙に変わってしまうことがあります。
三脚ごと、少し右に移動させたいのですが、フィールドでは足場が悪くてカメラを移動させることができないとか、カメラマンがずらりと並んでいるようなところではカメラを動かすと隣の人の迷惑になるとか、移動できない、移動しにくいということがあります。そんなときにフロントシフトすることで救われることもあるかと思います。
これはアオリというよりは、カメラを動かすのが面倒だからシフトで凌いでしまえという感じにも思えます。確かにアオリの効果を求めるものではありませんが、そんな使い方もできるということです。以前、別のページで、短焦点レンズを使うときにカメラのベッドが写り込んでしまうのを防ぐためにフロントライズを使うことがあると書きましたが、それと同じような使い方です。
フロントシフトの例...がありません
実際に風景撮影でフロントシフトを使った作例を掲載できれば良いのですが、残念ながらそのような写真を持ち合わせておりません。シフトアオリを使って撮ることがあれば、あらためてご紹介したいと思います。
フロント部での個々のアオリについては今回で終了で、次回はバック部のアオリについて触れたいと思います。
(2021.4.29)