ずっと欲しかったコンパクトフィルムカメラ コニカ KONICA C35 Flash matic をゲット

 半年ほど前(2023年4月)、「いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~」というタイトルのページを書きましたが、その中の一つ、コニカ KONICA C35 Flash matic というコンパクトフィルムカメラを手に入れました。小さくて、とても愛嬌のあるフォルムが気に入っていて、ずっと以前から欲しい欲しいと思っていたカメラでした。
 今回、フィルム2本(カラーネガとリバーサル各1本)で試し撮りをしてみましたので、その使い勝手とともにご紹介したいと思います。

大手ネットオークションサイトで購入

 このカメラをネットオークションサイトで検索すると、かなりの件数(台数)がヒットします。そのほとんどは5,000円~15,000円くらいの範囲におさまっています。まれに3,000円という安いものや、20,000円を超えるようなお高いものも出品されていますが、やはり安いものはそれなりに理由があるもので、正常に動作するかどうかわからなかったり、かなり傷みがあるものだったりしています。

 1ヶ月ほど前、ビールを飲みながらオークションサイトを物色していた際、このカメラが目に留まり、欲しいという欲望が再び頭を持ち上げてきました。レンズを探す目的でオークションサイトを見ていたのですが、それはどこへやら行ってしまい、ひたすら KONICA C35 を探す羽目に。
 結局、数ある中から私が選んだのは8,000円という値がついていたものです。当然、通常使用による細かな傷などはあるものの、全体的にはかなり綺麗な状態を保っている感じで、一通りの動作もすると書かれていました。掲載された写真だけではわからないこともたくさんありますが、ある程度の割り切りも必要と思い、アルコールが入っていた勢いもあり、ぽちっとしてしまいました。
 他に入札する人もいなかったようで、2時間ほど後に「落札」のメールが届きました。

 その翌々日、早くも宅配便で KONICA C35 が届きました。
 掲載されていた写真の通り、かなり綺麗な状態の個体です。汚れもほとんど見当たりませんが、念のため、アルコールで清掃をします。
 その後、一通りの動作確認を行ないましたが特に問題になるようなところは見当たらず、たぶん問題なく使えるだろうとの感触を得ました。

こんな仕様で、こんな使い勝手のカメラ

 ネットで検索したところ、当時の取扱説明書が見つかりましたので、そこから主な部分を抜粋したのが下の仕様です。

  ・レンズ : HEXANON 38mm 1:2.8 3郡4枚
  ・撮影距離 :約1m~∞
  ・露出調整 : CdSによる自動露出
  ・ファインダー : 採光式ブライトフレーム 0.46倍
  ・距離計 : 二重像合致式
  ・シャッター : B ・ 1/30~1/650
  ・セルフタイマー : 約10秒
  ・フィルム感度設定 : ASA25~ASA400 
  ・フラッシュ対応 : GN 7~56
  ・電池 : 1.3v 水銀電池
  ・サイズ : 112mm x 70mm x 52mm
  ・重さ : 380g

 電池とフィルムを入れ、フィルム感度を設定した後は、実際に操作するのは距離合わせのピントリングのみという、実にシンプルなカメラです。
 フィルム感度も「ISO」ではなく、今となっては懐かしい「ASA」となっているところが何ともレトロさを感じます。

 フィルムの巻き上げ角は約132度で、右手の親指がちょうどカメラの右側面に行ったところで止まるので、指に負担なく巻き上げができる感じです。しかも、巻き上げ後のレバーは約30度引き出された位置で停止するので、次の巻き上げがとても楽です。
 ピント合わせのヘリコイドの回転角は約48度。少ない回転角でピント合わせができるので、最短距離から無限遠までリングを持ち変える必要がありません。
 ファインダー内の二重像合致式は視認性も良く、ピント合わせはし易い方だと思いますが、縦のラインがないと使いにくいです。

 ファインダー内には露出を示す目盛りと指針があり、露出オーバーなのか露出アンダーなのかがわかるようになっています。これを見て不思議に思ったのですが、シャッター速度と絞りの値が互いに固定されており、明るさに応じて露出計の針は動くものの、これではシャッター速度と絞り値の組合せが変化しないということです。
 どうやらこのカメラは、シャッター速度と絞りの組合せがあらかじめ決まっていて、その範囲だけで露光しているようです。
 シャッター速度が変化しているのかどうか気になったので、シャッター速度を計測してみました。
 その結果、露出計の受光部分を指で覆った場合、約1/30秒で切れていました。また、受光部分にLEDライトをあてて計測したところ、最速で約1/500秒という値が得られました。1/650秒という高速シャッターは確認できませんでしたが、たぶん、もっと強い光を当てればその速度で切れるのでしょう。ということで、精度はわかりませんが、明るさに応じてシャッター速度が変化しているのは確実なようです。

 また、ファインダー内の指標によると、このカメラの露出範囲はF2.8 1/30秒から、概ねF14 1/650秒までと読み取れます。これをEV値にするとEV8(ISO100)~約EV17(ISO100)に相当します。つまり、約9段分の露出範囲を持っていることになります。シャッター速度の変化で約4.5段分を対応し、絞りの変化で残りの約4.5段に対応していることになります。今のカメラのように複雑な露出の組合せをすることなく、極めてシンプルな方法で露出調整を行っているカメラという印象です。

 試しに電池を抜いて確認してみました。電池がなくてもシャッターは切れますが、シャッター速度は1/30秒固定のままです。また、絞り羽も開放のまま変化しません。

カラーネガフィルムでの撮影例

 実際にカラーネガフィルムを装填して撮影した写真を何枚かご紹介します。
 使用したフィルムは富士フイルムのフジカラー SUPERIA PREMIUM 400です。
 なお、カラーネガフィルムで撮影したものをスキャナで読み取っているので、フィルム上に記録された状態が比較的忠実に再現されていると思います。同時プリントしてもらうとプリントの段階でかなり補正がかかるので、ここで掲載した写真よりもかなり綺麗に仕上がると思います。 

 まず1枚目は地下鉄丸ノ内線の車両基地の写真です。

 この車両基地は道路から見下ろせる場所にあり、道路脇にはフェンスが張られていますが、その網の間にレンズを置いて撮ったものです。
 薄曇りの日なので全体に光が回っていて、コントラストはあまり高くない状態です。露出は1段くらいオーバー気味の感じです。
 ピントは画の中央部付近にある赤い車両の丸窓の辺りに合わせています。画の下側に写っている有刺鉄線や金網もはっきりとわかる状態ですし、線路に敷かれた砕石の質感も良くわかるので、解像度はまずまずといったところでしょうか。
 全体にマゼンタ系に寄っている印象があり、これはカメラというよりはフィルムによるものと思われますが、私はカラーネガフィルムを使うことがほとんどないのでその特性については疎いのではっきりとはわかりません。ですが、カラーネガの場合、この程度のカラーバランスはプリント時にいくらでも調整が効くので、特に問題になるほどではないと思います。

 2枚目は近所の公園で撮影した紅葉の写真です。

 紅葉したカエデの木の下から、頭上に伸びる枝を逆光になる位置から撮影しています。
 光が葉っぱを透過することで紅葉はとても綺麗ですが、これもやはり露出オーバーといった感じです。飽和してしまっているようにも見受けられ、葉っぱの質感も損なわれてしまっています。やはり、このようなシチュエーションでは少し厳しいのかも知れません。
 とはいえ、すべてカメラ任せでシャッターを押すだけでここまで撮れるのですから、良しとせねばなりません。

 次は、散歩の途中で見つけた河童のオブジェです。

 今にも雨が降り出しそうなどんよりとした日だったので、実際にはこの写真よりももっと暗い感じです。そのため、絞りは開放かそれに近い状態だったのではないかと思われ、歩道脇の石垣や奥の方はピントから外れています。
 画全体が低コントラストの中で河童の下の石だけがかなり明るい状態で白飛びしてしまっていますが、河童とのコントラストという点では効果的に働いているようにも思えます。
 この写真もわずかにマゼンタに寄っている感じを受けます。

 さて、4枚目の写真は近所の公園で日向ぼっこしている野良猫です。

 太陽に背中を向けて、気持ちよさそうにしています。
 周囲は枯葉があったり木の影が落ちていたりして、野良猫の白い毛の部分とのコントラストが大きすぎ、さすがにこのような状態をカメラ任せというのは厳しい感じです。それでも、カラーネガフィルムならではの柔らかさで救われているところもありますが、やはり硬調気味に仕上がっています。
 白い毛の部分は飛んでいますが、背中の茶色い毛の部分は毛並もはっきりとわかるくらいに解像しています。さすが、ヘキサノンという感じです。

 カラーネガフィルムで撮影した5枚目は居酒屋で撮影した写真です。

 店内の鴨居につるされた提灯や、天井から下がっている電球がとても印象的でした。壁に貼ってあるポスターも、レプリカかも知れませんが時代を感じさせるようなものばかりで、思わずシャッター切った一枚です。提灯がたくさんあるといえ、昼間の屋外のように明るい状態ではないので、果たしてうまく写るかどうか気にはなりましたし、全体が暗いので提灯や電球が真っ白に飛んでしまうかとも思いましたが、予想以上に良く写ってくれました。レンズの上側についている小さな露出計ですが、良い働きをしてくれています。
 左下のメニューの文字も何となく読めるのは、ISO400のフィルムのお陰でしょう。

カラーリバーサルフィルムでの撮影例

 せっかくの試し撮りなのでリバーサルフィルムでもということで、冷蔵庫に残っていた富士フイルムのPROVIA 100F で撮影してみました。ちなみに、このフィルムは使用期限を1年ほど過ぎていました。

 まず1枚目は、日本民家園で撮影したものです。

 さすがリバーサル、といった色合いです。
 緑やグレー、茶といった色合いが多いので露出合わせはし易い状況だと思いますが、露出は1段以上オーバーという感じです。マニュアル露出で撮影するときのことを考えると、合掌造りの屋根の質感をもっと出すために1.3段、もしくは1.5段くらいは露出を切り詰めると思います。そうすると、手前のススキももっと落ち着いた色合いになるはずですが、自動露出なのであまり文句は言えません。
 解像度も概ね良好で、掲載した画像ではわかりにくいですが、ススキの穂先や合掌造り背後の木の葉先もはっきりとわかるくらいです。

 もう一枚は、散歩の途中で通りかかった神社で撮影した写真です。

 最短撮影距離に近い位置から撮影しています。ピント位置が適切ではありませんが、この被写体の場合、これくらい露出がオーバーになってもさほど気にならない感じです。実際にはもっと薄暗い感じでしたが、明るめに写ることで良い感じに仕上がったかも知れません。左側からの光に金色に輝く柄杓がやはり飛び気味ですが、かろうじて木の質感も残っています。
 かなり近寄って撮影しているので被写界深度も浅くなっており、ボケ具合も大きくはありませんが、クセのない素直なボケ方だと思います。もう少しボケて欲しいと思いますが、38mmという焦点距離を考えるとこんなところでしょうか。
 ポイントとなる柄杓の色をもっと落ち着かせたいというのが本音ですが、マニュアル設定できないカメラの限界かも知れません。

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 ずっと以前から欲しいと思っていたカメラで、その理由は性能とか写りとかではなく、その可愛らしいフォルムが魅力だったのですが、実際に使ってみて想像以上に素晴らしいカメラだというのが正直な感想です。もちろん、最近の高性能のカメラやレンズと比べるのは酷ですが、50年以上経った今でも十分に使えるカメラです。

 今回、カラーネガフィルムとリバーサルフィルムをそれぞれ1本ずつ使ってみましたが、露出は1段、もしくは1.3段くらいオーバーになる傾向のようです。しかしながら、露出条件のかなり厳しい状況でなければ問題なく使えると思いますし、カラーネガフィルムを使うのであればプリントの段階で補正が効くので全く問題のないレベルだと思います。露出計の精度や露出コントロールも優れているという印象です。微妙な露出調整はできませんが、面倒なことは考えず、お手軽に撮影できるカメラとしても十分に使えると思います。

 それにしても、見れば見るほど可愛らしいカメラです。撮ることが楽しくなるカメラ、眺めているだけで何だか笑みがこぼれてくるカメラというのはこういうカメラのことかも知れません。

 (2023.11.27)

#KONICA_C35 #コニカ #カラーネガフィルム #リバーサルフィルム

いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~

 私は何年か前に、それまで所有していた35mm判のカメラやレンズのほとんどを処分して以来、カメラの台数はほとんど増えていません。正確に言うと、衝動買いしたフォクトレンダーのベッサマチックが1台加わりましたが、このカメラはすっかりディスプレイと化しています。
 ちなみに、レンズの方は今でも微増しております。

 新たにカメラが増えていないのは、私が使ってるようなフィルムカメラの場合は、カメラが変わっても写真に大きな違いはないということがいちばんの理由です。もちろん、多くの二眼レフカメラやレンジファインダーカメラなどのようにレンズが固定式の場合は、カメラが変わればレンズも変わるので写りにも影響しますが、私が主に使っている大判カメラや中判カメラはレンズが交換できるので、カメラ本体をたくさん持つ必要がありません。
 しかしながら、カメラに対する物欲がまったく失せてしまっているかというとそんなこともなく、もう長いこと欲しい欲しいと思いながらも、いまだに手にすることができていないカメラがあります。

 まず1台目は、富士フイルムの「GF670W Professional」という中判カメラです。

▲富士フイルム製 GF670W Professional (富士フイルム HPより転載)

 このカメラは2011年3月に発売された中判フィルムカメラで、その2年前(2009年)に発売された「GF670 Professional」というカメラの広角レンズタイプです。GF670は蛇腹を採用した折り畳み式でしたが、GF670Wはレンズ固定の一般的なレンジファインダーカメラの形態をとっていました。
 価格はオープンとなっていましたが、新宿の大手カメラ量販店では15万円ほどで販売されていたと記憶しています。

 装着されていたのは「EBC FUJINON 55mm 1:4.5」という8群10枚構成のレンズで、電子制御式のシャッターが内蔵されていました。FUJINONのレンズと言えばその写りの素晴らしさは誰しもが認めるところであり、私もFUJINONの大判レンズを何本か持っていたので、写りに関しては何の懸念もありませんでした。

 66判と67判を切り替えて使うことができたのも魅力の一つでしたが、私にとっては何と言っても洗練されたデザインが最大の魅力でした。
 フィルムの巻き上げもレバーではなくダイヤル式が採用されていたりして、半世紀も前のカメラを彷彿とさせるようなたたずまいですが、とても垢抜けしているように感じたのを憶えています。
 また、中判では主に67判を使っていた私にとって、レンジファインダーの67判というところにも心を揺さぶられました。

 このカメラが発売された2011年というのはフィルムにかなり翳りが出ていた頃で、同じ会社である富士フイルム製のフィルムも次々に販売終了になっており、そんなときによく新たなフィルムカメラを出したものだと驚きました。もしかしたら「フィルム復活!?」なんていう淡い期待を抱いたのも事実です。
 しかし、わずか4年後の2015年5月には出荷終了となってしまいました。なんと、先に販売が開始されたGF670よりも2年以上も早くに出荷終了になってしまいました(GF670は2017年12月で出荷終了)。初代のGF670の方が人気があったのかも知れません。

 生産された期間がわずか4年間で、しかも、このカメラを購入しようと思う人は決して多かったとは思えません。最終的な出荷台数がどれくらいになったのかはわかりませんが、市場に出回った台数はとても少ないのではないかと思います。
 それが証拠に、中古市場でもタマ数は少ないうえに異常とも思える高値がついています。30万円、40万円とかは当たり前で、中には50万円を超えるものもあり、ここまで価格が高騰してしまうととても手が出せません。15万円で新品が購入できたときに何故買っておかなかったのか、今更ながらの後悔です。15万円というのは安い金額ではないので踏ん切りがつかなかったのと、そんなに早くに出荷終了になるとは思いもしなかったというのが、当時購入しなかった理由だと思います。

 また、私はこのカメラで実際に撮影している人をこれまで一度も見たことがありません。中古市場に出回っているカメラも状態の良いものがほとんどで、あまり使われることもなく大事に保管されていたのではないかと思ってしまいます。出荷台数が少ないがゆえに、コレクターズアイテムのような存在になってしまっているとしたら、ちょっと寂しい気持ちになります。

 いくら欲しいとはいえ、今のような高額の状態で手を出すことはないと思いますが、もし、幸運にもこのカメラをゲットできたとしたら、スナップ感覚で風景を撮りに行く回数が確実に増えると思います。

 いま、とっても欲しいカメラの2台目は、「シャモニーChamonix 45 F-2」です。

▲Chamonix 45 F-2 (シャモニービューカメラ HPより転載)

 これは中国にあるシャモニービューカメラという会社で作られている大判(4×5判)カメラです。

 シャモニーのカメラについては以前、別のページでもちょっと触れましたが、会社のホームページを見ると、2003年に中国の写真家と登山家によって設立されたと書かれています。大判カメラを専門に作っているようですが、そのラインナップは素晴らしく、これまで聞いたことのないようなフォーマットのカメラがいくつもあります。

 私は今から10年ほど前にはじめてこの会社の存在を知り、そこで作られているカメラの美しさに目を奪われました。ウッド(木製)カメラに似ていますが、木材の他に金属や炭素繊維(カーボンファイバー)が豊富に使われており、それらがとてもよく調和したデザインになっています。
 また、とても丁寧に作られている感じがして、美しい仕上がりになっています。

 そして、最も私の気を引きつけたのがユニークなカメラムーブメントでした。
 これまでの大判カメラにはなかったと思われる独自の機構がいくつもあり、シンプルでありながら機能性に富んだカメラという印象です。カメラのベース部分は金属製ということもあり、見た目からも堅牢な感じがします。フィールドでも安心感をもって使用できるカメラだと思います。
 金属が多用されているので重量も増しているかと思いましたが、カタログ上では1,600gとなっていて、私が使っているタチハラフィルスタンドよりもほんの少し重いだけです。
 残念ながら、私は一度も触ったことはありませんが、たくさんの方が動画をアップされていて、それらを拝見することで美しさや機能性の良さをうかがい知ることができます。
 また、単にカメラを製造して販売するだけでなく、パーツ類の供給やサポート体制もしっかりとしているようで、企業体質にも誠実さが感じられます。

 国内の中古カメラ店にも時どき入荷することがあるようなのですが、人気のモデルはすぐに売れてしまうようです。4×5判であれば価格も20万円を下回っていて、べらぼうに高いという感じはしません。むしろ、リンホフやエボニーなどの中古品よりもずっとお手頃な価格です。
 ホームページに掲載されている新品価格が1,455ドルですから、円安の今でさえ、20万円ほどで手に入れることができるわけです。

 現在、私は4×5判のカメラを4台持っていて、これ以上、カメラが増えても持て余すだけになってしまいますし、特に大判カメラの場合、よほどひどい状態でない限り、どのカメラで撮っても写りに違いが出るわけではありません。ですから、今持っているカメラで何ら不都合はないのですが、魅力というのは不思議なもので、現実をはるかに超越してしまう力を持っています。
 今あるカメラを1~2台手放して、代わりにこのカメラをゲットしようかとも考えましたが、それはそれで後ろ髪を引かれる様なところがあり、思い切りよくやることができずにいます。

 それにしても、どれくらいの需要があるのかわかりませんが、これだけの品質のカメラを1,455ドルという価格で提供し続けることができるということに驚いてしまいます。事業として採算がとれるのだろうかと、つい余計な心配をしてしまいます。

 いま、とっても欲しいカメラの3台目は、「コニカ KONICA C35」、35mm判のコンパクトフィルムカメラです。

▲コニカ C35 Flash matic

 メーカーが提供している画像を見つけられなかったので、絵をかいてみました。へたくそですみません。
 
 製造発売元の小西六写真工業(のちのコニカ株式会社、現コニカミノルタ株式会社)は、富士フイルムと並ぶフィルムメーカーとしても有名でしたが、ミノルタと合併してコニカミノルタとなった後、カメラ事業や写真関連事業をあちこちに譲渡していき、現在のコニカミノルタからはカメラの臭いがなくなってしまいました。

 このC35というカメラはいくつかのモデルがあるのですが、初代は1968年に発売されたようです。今から50年以上も前で、アメリカのアポロ11号が月面に降りる前の年です。
 上の写真のカメラはC35 Flash matic というモデルで、発売年は初代機の3年後の1971年とのことですので、やはり50年以上は経過しています。

 35mm判カメラのほとんどを処分してしまったにもかかわらず、何故、今になって35mm判のコンパクトカメラが欲しいのかというと、理由はただ一つ、その見てくれの可愛らしさです。
 コンパクトフィルムカメラは、これまで各メーカーからそれこそ数えきれないくらいのモデルが発売されてきましたが、私にとってはそのデザイン性という点において、このカメラの右に出るものはないと思っています。デザインというのは好き嫌いがありますから、誰もがこのデザインを好むとは思っていませんが、私からすると、愛嬌もあり野暮ったくもない、50年経っても古臭さを感じないデザインは他にないと思っています。
 私が愛用しているCONTAX T2も優れたデザインだと思っていますが、T2のように優等生ぶっていない親しみのある風貌が何とも言えません。いわば、T2の対極にあるようなデザインといった感じです。
 以前から可愛らしいカメラだとは思っていたのですが、最近になってとても気になる存在になってきました。現役で使っている35mm判カメラがT2だけになってしまったからかも知れません。

 カタログデータを調べてみたところ、大きさはT2よりも少しばかり大きく、重量もT2より少し重いようですが、それでも非常にコンパクトであることには変わりありません。レンズは写りに定評のあるHEXANON 38mmがついているので、その描写能力に関しても問題はないと思われます。
 このカメラ、中古市場では結構たくさん出回っているようで、大手ネットオークションサイトを少し調べてみましたが、安いものであれば数千円、程度の良いものでも一万円前後で出品されています。手に入れたいと思えば比較的容易に購入できる状況のようです。

 CONTAX T2はお散歩カメラとして今も活躍してくれていますが、もし、コニカ C35を手に入れた時のことを想像すると、お散歩カメラとして持ち歩きたくなるのは間違いなくC35だと思います。なんだかT2には申し訳ないようですが、こればかりは仕方ありません。
 富士フイルムのGF670WやシャモニーのChamonix 45 F-2のように何十万円もするわけではなし、今夜にでもポチッとすれば2~3日後には手に入るカメラです。GF670WやF-2に対する物欲とは次元の違う物欲を感じるカメラです。

 こうしてあらためて振り返ってみると、いま欲しいと思っているカメラは機能や性能に優れているというだけでなく、琴線に触れるようなフォルムとかデザインを持ったカメラというような気がします。もちろん、機能や性能は重要な要素ですが、私の気持ちはどちらかというとデザインに重きが置かれているといった感じです。
 デザインの好き嫌いは個人の好みの問題ですが、どんなに機能や性能が優れていても、デザインが気に入らなければ全く興味が湧きません。これら3つのカメラは機能や性能も十分に備えながら、デザイン的にも優れているカメラだと感じています。あくまでも個人的にですが。

 この他にも気になっているカメラはいくつかあります。しかし今のところ、手に入れたいと思うようなカメラはこの3つ以外には存在しません。世の中には私がまだ知らずにいるカメラもたくさんあるわけで、そういった中には琴線に触れるものもきっとあると思います。いつか、そんなカメラと出逢う日もあるだろうという期待を持ちつつ、この3つのカメラをゲットすべきかどうか悩む日は続きそうです。

(2023.4.28)

#GF670W #Chamonix #シャモニー #コニカ #KONICA_C35

大判写真と35mm判写真は何がどのように違うのか その2:画作りへの影響

 今から10ヶ月ほど前、2021年8月に同じタイトルのページを書きました。大判と35mm判とではフィルム面の大きさが異なることに起因するいくつかの違い(階調や被写界深度、ボケなど)について触れてみました。
 今回は前回とは少し違った視点、構図などの画作りという点から大判写真と35mm判写真の違いについて触れてみたいと思います。
 なお、構図や画作りというのは、階調や被写界深度などのような物理的な違いではなく、あくまでも個人的な主観によるものですので客観的な比較というわけにはいきません。あらかじめご承知おきください。

アスペクト比の違いによる構図決めへの影響

 大判フィルムと35mm判フィルムの違いは大きさ(面積)もさることながら、アスペクト比(縦横比)も大きく違います。一口に大判と言ってもサイズは何種類もありますが、ここでは現時点で一般的に手に入れることができる4×5判を対象にします。

 4×5判のフィルムを横位置にした時の縦横の比率は1:1.26(96mmx121m)です。
 これに対して35mmフィルムの場合は1:1.5(24mmx36mm)ですので、大判フィルムに比べるとかなり横長(縦に置いた場合は縦長)になります。大判フィルムに比べて長辺が約19%伸びていることになります。
 この値は結構大きくて、大判フィルムの左右両端がそれぞれ11.5mm、長くなった状態です。わかり易く図にすると下のようになります。

 このアスペクト比の違いが、撮影するうえでの画作りにものすごく大きな影響があると感じています。
 私が4×5判や中判の中でも67判を多用している理由は、フィルム面が大きいことによる画像の美しさもありますが、四切や半切、全紙などのアスペクト比に近いというのも大きな理由です。特別な意図や事情がない限り、撮影したものをできるだけ切り捨てず(トリミングせず)にプリントしたいというときに、アスペクト比が近いというのはとてもありがたいことです。
 最近ではA4とかA3というサイズが増えてきていて、これは35mm判フィルムのアスペクト比に近いので、フィルムにしてもデジタルにしても35mm判(フルサイズ)を使う場合にはその方が都合が良いわけです。

 そういった意味ではどちらが良いということではなく、慣れの問題と言えると思いますが、アスペクト比に対する慣れというのはとても重要なことだと思っています。

 上でも書いたように、横位置に構えた場合、4×5判に比べて35mm判の横方向は19%も長いわけですから、かなり広範囲に渡って画面に入り込んできます。縦(上下)方向を基準に4×5判のアスペクト比1:1.26の感覚で画面構成しようとすると、左右が広すぎて収まりがつかなくなってしまいます。
 逆に横(左右)方向を基準にすると上下が切り詰められたようで、とても窮屈な感じを受けます。

 例えば日の丸構図のように、主要被写体を画中央に配置した場合、4×5判だと左右の空間は上下のそれと比べて少し広い程度ですが、これが35mm判だと左右の空間がとても広くなります。そしてこれは主要被写体を中央に配した場合に限らず、三分割構図などのように左右のどちらかに寄せた場合でも同じで、反対側の空間が広くなりすぎて、うまく処理しないと余計なものが写り込んだり、無意味な空間ができたりしてしまいます。

 これは中判フィルムを使った69判の場合もアスペクト比が35mm判とほぼ同じなので、同様のことが起こります。

 一方、35mm判のアスペクト比で構成した画を4×5判のアスペクト比に収めると、左右がカットされて窮屈に感じたり、左右を切り詰めなければ上下が広くなりすぎ、締まりのない写真になってしまうと思います。

 実際に撮影した写真を例にとってみるとこんな感じになります。
 下の写真は奥入瀬渓流で撮影したものですが、4×5判のアスペクト比で画を構成したものです。

▲アスペクト比 1:1.26(4×5判相当)で撮影した場合

 これに対して、上下方向の範囲を変えずに35mm判のアスペクト比で撮影したのが下の写真です。

▲アスペクト比 1:1.5(35mm判相当)で撮影した場合

 どちらの写真が良いとか悪いとかではなく、また、好みもあると思いますが、写真から受ける印象がずいぶん違うということです。
 当然、左右が広い分だけ35mm判のアスペクト比の方が横の広がりを感じ、パースペクティブの影響で奥の方から流れてきているように見えます。広さや動きを表現したりするのに向いていますし、ダイナミックな画をつくることができます。
 一方、4×5判のアスペクト比の場合、横の広がりは抑えられてしまいますが、流れにボリューム感が生まれているように思います。
 ただし、この写真を例にとると、35mm判アスペクト比の場合は左右が広く写るので川の両岸、特に右岸(画面左側)の処理がうまくいってない印象を受けます。反対に、左右が広く取り入れられているので全体の様子がわかり易いと言えるかも知れません。

 こうして2枚を比べてみると、35mm判アスペクト比の場合は広がりや力強さを表現し易いフォーマットであるのに対して、4×5判アスペクト比の場合は全体に落ち着いた感じ、安定した感じを受けるフォーマットのように感じます。その分、35mm判アスペクト比の写真に比べる物足りなさを感じるかも知れません。
 ですが、いずれにしても、同じ場所を撮影してもアスペクト比によって写真から受ける印象はずいぶん異なるということです。
 このように、35mm判と4×5判の写真を比較すると、階調や被写界深度、ボケなどによる違いも大きいですが、アスペクト比の違いはフレーミングや構図の仕方にも影響を及ぼすので、数値では表せませんが非常に重要な要素であると思います。

 4×5判や67判で撮影していると、「もうちょっとだけ、横の広がりが欲しい」と思うこともありますが、決められたフォーマットの中にどう収めるかを考えるのも重要なプロセスかも知れません。

写真の四隅に対する気配りの違いによる影響

 フレーミングや構図を決めるというのは35mm判であろうが大判であろうが、撮影における欠かせないプロセスの一つですが、この際に、フォーカシングスクリーンの四隅に神経をいきわたらせる度合いが、大判カメラの方が大きいような気がしています。
 一般的に主要被写体は中央部、もしくは中央部付近に配置することが多く、極端に隅の方に配置することはそれほど多くありません。そのため、どうしても中央部周辺には意識が向きますが、周辺部、特に四隅には意識が向きにくいという傾向があるように思います。

 35mm判カメラの場合、一眼レフカメラにしてもレンジファインダーカメラにしても、ファインダーをのぞき込めば全体が容易に見渡せ、ピントの状態も一目でわかります。
 これに対して大判カメラの場合、特に短焦点レンズの場合はスクリーンの周辺部が暗くなってしまったり、肉眼だけでは正確なピントの状態がわからないなど、全体を一目で確認することが困難な場合が往々にしてあります。画面の周辺部に余計なものが写り込んではいないか、画全体のバランスを欠いていないか、ピントは大丈夫か等々、いろいろなことを気にしながらスクリーン全体を何度も見直しします。

 このような手間のかかるプロセスを経ることによって、結果的に大判カメラで撮影した方が四隅に神経が行き届いた写真になることが多いというのが私自身の実感です。
 もちろん、35mm判カメラでも四隅に注意を配ることはできますが、全体が容易に見渡せるがゆえに、大判カメラほどには気を配らずにシャッターを切ってしまうということがあるということです。

 周辺部に気を配らずに撮った写真を見ると、撮影時点では気がつかなかったものが写っていたり、余計な空間ができていたり、全体的に何となく締まりのない写真なってしまうことがあります。
 主要被写体さえしっかり写っていれば良しという考えもありかも知れませんが、やはり周辺部に締まりがないと主要被写体のインパクトも弱くなってしまいます。

 そしてこれは、前の節で書いた画作りとも密接な関係があると思っています。
 つまり、35mm判の方がアスペクト比が大きい分、中心部から四隅までの距離が長くなるわけで、そのため、より意識を向けないと四隅が甘くなってしまう可能性が高まってしまうということです。
 35mm判カメラと大判カメラの構造的な違いによって、大判カメラの方が周辺部に意識を向けざるを得なくなるということ、また、何しろフィルム代が高いので失敗は許されないという意識が働くのかも知れませんが、思いのほか、写真の出来には大きな影響を与えているように思います。

ピントとボケのコントロールによる影響

 大判カメラの大きな特徴はアオリが使えることですが、それによってピントを合わせたりぼかしたりということが自由にできます。
 35mm判の一眼レフや中判一眼レフのカメラやレンズは、ごく一部の製品を除いてはレンズの光軸が固定されています。これに対して大判カメラは、意図的に光軸をずらすことでピントのコントロールを自在に行なうことができます。

 代表的なのが風景撮影でよく使われるパンフォーカスですが、近景から遠景までピントが合った状態にすることができ、視覚的にとても気持ちの良い写真に仕上がります。
 また逆に、レンズの絞りを目いっぱい開いてもボケてくれないような状況でも、アオリを使うことで大きくぼかすこともできます。

 下の写真は福島県にある滝を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM105mm F22 16s ND8使用

 アオリを使って撮影してるため、川の中にある足元の石から奥の滝まで、ほぼパンフォーカスの状態です。

 焦点距離105mmのレンズを使い、絞りはF22で撮影していますが、絞り込んだだけではここまでパンフォーカスにはなりません。
 このようにピントやボケをコントロールすることで、35mm判カメラで撮影したものとは雰囲気の異なった写真にすることができます。

 また、ボケをコントロールすることで主要被写体を浮かび上がらせたり、写ってほしくないのだけれど画の構成上、どうしても入ってしまうものをぼかすことで目立たなくしてしまう、というようなこともできます。

 いまはレタッチソフトでかなりの加工がきてしまうので、ボケのコントロールもパソコン上で自由自在といったところですが、フォーカシングスクリーン上で意図したボケの状態を作り出す面白さというのが大判カメラにはあると思います。

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 今回触れた三つの違いのうち、アスペクト比に起因する画作りの違いと、画の四隅に対する気配りの違いというのは物理的なものではないので、撮影の時点で注意をすれば大判カメラであろうと35mm判カメラであろうと同じような状態にすることができます。ですが、やはりアスペクト比に対する慣れというものは影響力が大きく、わかってはいても不慣れなアスペクト比ではなかなか思うように撮れないことも多いというのが正直なところです。
 フィルムフォーマットに縛られてしまうと本末転倒ですが、フィルムフォーマットを活かした画作りは意識すべきことだと思います。

(2022.7.1)

#アオリ #写真観 #構図

コンパクトフィルムカメラ コンタックス CONTAX T2

 他のページにも書きましたが、私は何年か前に35mm判カメラのほとんどを手放してしまいました。いま手元に残っている35mm判カメラは、CONTAX T2とフォクトレンダーBESSAMATICの2台のみです。BESSAMATICはすっかりディスプレイと化していて実際に使うことはほとんどありませんが、CONTAX T2はお散歩カメラとして、発売から四半世紀を過ぎた今でもバリバリの現役です。
 CONTAX T2にもいろいろなバリエーションがありますが、私の持っているカメラは最終型のリミテッドブラックというモデルです。

CONTAX T2の主な仕様

 このカメラの主な仕様は以下の通りです(CONTAX T2取扱説明書より引用)。

   レンズ      : Sonnar T*38mm F2.8 4群5枚
   シャッター    : レンズシャッター 1秒~1/500秒
   絞り目盛り   : F2.8~F16
   最短撮影距離  : 0.7m
   露出計      : SPD受光素子
   ファインダー   : 逆ガリレオ型採光式ブライトフレーム
   AF方式     : 赤外線式アクティブオートフォーカス
   フィルム感度  : ISO25~5000
   フィルム装填  : オートローディング方式
   電池      : CR123Aリチウム電池 1本
   大きさ     : 119mm x 66mm x 33mm
   重量      : 295g(電池別)

 初代のCONTAX T2が発売されたのは1990年ですが、リミテッドブラックが発売されたのは通常モデルの生産終了後の1998年で、2,000台の限定品でした。価格(メーカー希望小売価格)は他のCONTAX T2と同じく12万円という高額のカメラでした。
 直方体の中にほとんど凹凸のない状態でレンズ(収納時)やダイヤル、ボタンなどが綺麗に納まっており、それまでのコンパクトカメラとは一線を画しているという印象がありました。

 初代のCONTAX T2を目にしたとき、欲しくて欲しくてたまらなかったのですが、あまりの高額に手が出せずにいました。「いつかはT2」と思いながらも時は過ぎ、やがて生産終了を迎えてしまいましたが、その後まもなくして限定品が出るというアナウンスを耳にし、これを逃したらいつかは来ないと思い、予約して購入したのがついこの間のことのようです。

 チタン製のボディに加えてファインダー窓にサファイアガラスが採用されていたり、多結晶サファイアのシャッターボタンやセラミック製のフィルム圧板、そして立派な化粧箱など、随所に高級感がちりばめられているというカメラでした。
 その当時、他メーカーのコンパクトカメラも持っていたのですが、CONTAX T2を手にしたとたん、それまでのコンパクトカメラがとてもチープに見えてしまったことを覚えています。CONTAX T2を持ち出すと何だか写欲が湧いてくるように感じたのは、その高額な価格のせいだけではないと思います。

自動とマニュアルを兼ね備えた、優れた操作性

 オートフォーカス(AF)、および自動露出(AE)に設定しておけば、あとはシャッターを押すだけで撮影ができるわけですが、マニュアル撮影もできるようになっており、この辺りもカメラ好きの心をくすぐるカメラと言えます。
 カメラ上面のダイヤルをAFポジションから解除する方向に回すと、その瞬間からマニュアルフォーカスになります。レンズの絞りもAEポジションから回すとマニュアル露出になり、少ない操作で自動/マニュアルが切り替えられるようになっていて、操作性に優れていると思います。
 また、ストロボ撮影もレンズの絞りリングで切り替えるようになっていて、いくつものスイッチやダイヤルをいじらなくても済むように考えられています。

 もちろん、一眼レフカメラのように細かな設定はできませんが、通常の撮影には全く不便を感じません。コンパクトカメラというカテゴリーに入るようですが、使っているとそれを忘れてしまいます。「高級コンパクトカメラ」という分野を築いたと言われるのも頷けます。

オートフォーカス機能が弱い?

 このカメラの唯一の弱点と言えるのかも知れませんが、オートフォーカスが弱いというか、クセがあるというか、そんな印象があります。
 狙ったところにピントが合わない、ということが時々起きます。特に、近景にピントを合わせようとしたときに起きる傾向が強いように感じます。ただし、これは個体差があるのかもしれません。

 また、マニュアルフォーカスでピント合わせをしようとしても、フォーカシングダイヤルの目盛りは非常にラフな状態だし、ファインダー内にフォーカシングインジケータがありますが、どの程度の精度があるのか良くわからないし、ということでマニュアルフォーカスはほとんど使ったことがありません。

 36枚撮りのフィルム1本の中で1~2コマのピンボケが生まれることがありますが、フレーミングの際に少し気をつけて慎重に行なえば回避できるレベルです。

カールツァイス ゾナー Sonnarレンズの描写力

 CONTAX T2に採用されているレンズはカールツァイスのSonnar T* 38mm F2.8ですが、焦点距離38mmに対して開放F値が2.8というのは特に明るいわけでもなく、レンズ構成の4群5枚を見ても特に目を引く仕様というわけではありません。
 これは個人的な感想ですが、カールツァイスのSonnarというと色ノリが良いという印象があります。当時、一眼レフ用のレンズでも何本かのSonnarを持っていましたが、Planarなどと比べるとこってりとした色合いになるように感じていました。
 実際にCONTAX T2で撮影してみた時に、やはり色のりはSonnarだと感じたのを覚えています。

 下の写真は、CONTAX T2で撮ったスリーブをライトボックスに乗せた状態で撮影したものです。

 良く晴れた日だったので、近所を散歩しながら青の景色を撮り歩いた写真ですが、色のりの良さがわかると思います。使用しているフィルムはVelvia100というリバーサルフィルムなので、もともとが鮮やかな色合いになる傾向ではありますが、Sonnarっぽさが感じられます。

 もちろん解像度も素晴らしく、一眼レフカメラで撮影したものと比べても遜色ないといった感じです。
 スリーブの中の1コマをスキャンしたのが下の写真です。

 中央の高圧線の鉄塔やケーブルはもちろんですが、手前の木々の葉っぱも非常に良く解像していると思います。順光に近い状況ということもあり、空の青や下の方の葉っぱの緑がとても鮮やかな色になっています。

 もう一枚、福島県の大内宿で撮ったものです。

 大きな民家の軒下にたくさんのお土産品が並べられており、直射日光は当たっていないので光が柔らかく回り込んでいる状況ではありますが、やはり解像度は立派だと思います。

赤が鮮やかに発色するという噂

 CONTAX T2に搭載されたSonnarは、特に赤の発色が極めて鮮やかだという話しは有名です。
 私自身はそのように感じたことはほとんどなく、どちらかというと青とか緑の発色が鮮やかだと思っていたのですが、あらためてCONTAX T2で撮影したポジを見てみると確かに赤の発色の鮮やかさは感じられます。ただし、極めて鮮やかかというと、それほどでもないというのが正直なところです。ですが、これは撮影した被写体によるところも大きいのではないかと思います。

 CONTAX T2で撮影したコマの中から、赤が鮮やかに発色しているものを物色してみました。

 日光東照宮で撮影したものですが、建物の周囲に設置されている柵がとても鮮やかに出ています。雨上がりの早朝ということで全体が落ち着いた色合いになっているのですが、確かに赤い柵だけが妙に鮮やかに感じられます。
 全体のトーンが低いので赤が目立っているのかもしれませんが、光の具合や他の被写体との組み合わせで見え方も変わってくるわけで、この噂に関する真偽のほどはわかりません。

 むしろ、私は赤よりもピンクというか肌色というか、赤よりも少し淡い色の方が綺麗に発色すると感じていました。
 ポートレートだとわかり易いと思うのですが、CONTAX T2で撮影したポートレートがないので、比較的色合いが近いと思われるものを見つけてきました。

 どこの神社でもよく見ることができる狛犬です。
 色のトーンがニュートラルグレーに近い感じだと思うのですが、とても自然な感じに描写されていると思います。赤の鮮やかな発色とは対極にあるような印象さえ受けます。
 このように、CONTAX T2の赤の発色に対して私が持っているイメージはそれほど派手なものではありません。

いま、CONTAX T2の中古価格が異常に高騰している

 ところで、昨今、中古カメラ価格が全般的に上昇しているように感じているのですが、中でもCONTAX T2の中古価格の高騰ぶりには驚かされます。
 もともとの価格(12万円)を超える中古品はざらで、中には20万円以上するものまで出回っています。もちろん、そういった価格がついているものは程度も非常に良い個体だし、金ぴかのゴールドモデルだったりするわけですが、それにしても異常とも思える状況です。
 いったい、20万円も30万円も出して誰が買うのだろうと考えてしまいます。個人で購入する方もいらっしゃるだろうし、中古カメラ販売をビジネスにしている方もいらっしゃるとは思うのですが、そのカメラの行き先が妙に気になってしまいます。

 ネットオークションなどを見ると、CONTAX T2やT3はとても綺麗で程度の良いものがたくさん出品されています。四半世紀も前のカメラが綺麗な状態でこれほどたくさん出品されているということは、大事に保管されていてあまり使われてこなかったということなのかとも思ってしまいます。
 CONTAX T2にしてもT3にしても、これまで実際に持ち歩いている人を見かけたことは非常に少ないです。もしかしたら、箱入り娘のようなカメラなのかも知れません。

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 私はこのカメラを散歩や旅行などの時に良く持ち出して他愛もないものを撮っています。購入してから24年が経ちますが、四半世紀も前のカメラということを全く感じさせません。もちろん、人によって好みがあると思いますが、私はすっきりとしたデザインがとても気に入っています。

(2022.6.12)

#CONTAX #コンタックス #リバーサルフィルム #レンズ描写

大判写真と35mm判写真は何がどのように違うのか

 私は風景を撮る機会が多いので、大判カメラ(主に4×5判)を使う頻度も高くなります。カメラはでかいし、撮影に手間がかかり著しく機動性に欠けるし、フィルムや現像などコストはかかるし、デメリットばかりが目立ってしまいがちですが、仕上がった大判写真の美しさや迫力は、数々のデメリットを補って余りある魅力があります。
 写真としての出来不出来は大判だろうが35mm判だろうが関係なく、大判だから良い写真が撮れるわけではありませんし、もちろん35mm判でも良い写真は撮れます。ですが、大判と35mm判とでは明らかに異なる点がいくつかあります。今回はその違いについて触れてみたいと思います。

フィルムサイズの違いとその影響

 35mm判と大判で最もわかり易い明確な違いは、言うまでもなく一目瞭然、フィルムのサイズです。実際に画像が記録される大きさは、

  35mm判 : 36mm × 24mm
  4×5判  : 121mm × 95mm

 で、面積比でいうと4×5判は35mm判の約13.3倍になります。
 アスペクト比(縦横比)が異なりますが、4×5判の対角の長さは35mm判の約3.56倍になります。

 フィルムをデジカメの撮像素子のような画素数で表現することはあまり意味があるとは思いませんが、比較をするうえで数値化したほうがわかり易いので、あえて画素数で表してみます。
 富士フィルムが公開しているデータシートによると、リバーサルフィルムVelviaの場合、解像力は80~160本/mmとなっています。コントラストが非常に低いときで80本/mm、高コントラスト時で160本/mmということですので、中間の値をとって120本/mmとして計算してみます。

 この「解像力」の意味ですが、120本/mmとは、1mmの幅の中に120本の線を識別できるということです。したがって、最低でも240画素以上が必要ということになります。
 この値をフィルムのサイズにかけ合わせると以下のようになります。

  35mm判 :  36mm × 240本/mm × 24mm × 240本/mm
       = 8,640dot × 5,760dot
       ≒ 4,977万画素

  4×5判 :  121mm × 240本/mm × 95mm × 240本/mm
       = 29,040dot × 22,800dot
       ≒ 6億6,211万画素

 では、この画素数の違いが、写真にとってどの程度の影響があるかということを試算してみます。35mm判と4×5判ではアスペクト比が違うので、横置きの場合の水平方向(長辺)を対象に進めます。

 いま、35mm判カメラに焦点距離50mmのレンズをつけて、5m先の被写体にピントを合わせることを想定してみます。水平方向の長さ36mmのフィルムに対して焦点距離50mmのレンズですので、水平画角は39.6度になります。
 4×5判のフィルムでこれと同じ水平画角となるレンズの焦点距離は168mmです。実際に168mmなどという中途半端な焦点距離のレンズはないと思いますが、便宜上、この値で話を進めます。
 下の図を参照してください。

 上の図から分かるように、5m先にある被写体を、水平画角39.6度でとらえた時、フィルムに写る水平方向の長さは3.6m(3,600mm)です。
 この3.6mを、35mm判では8,640dotで、4×5判では29,040dotで記録するわけですから、それぞれの分解能は以下のようになります。

  35mm判 : 3,600mm ÷ 8,640dot = 0.417mm/dot
  4×5判 : 3,600mm ÷ 29,040dot = 0.124mm/dot

 つまり、5m先にある被写体について、35mm判では最小で0.417mmまで識別でき、4×5判では最小で0.124mmまで識別できるということになります。言い換えると、35mm判が1ドットで記録される範囲を、4×5判は約3.36ドットで記録されるということです。
 これは、数値上からは5m先にいる人の指の指紋が識別できる解像度ですが、実際には指紋のコントラストはそんなに高くないと思いますので現実的には無理ではないかと思われます。

 また、色が変化しているような場合、4×5判の方が色の変化を滑らかに記録できることになります。35mm判で画素と画素の間の色の変化を、4×5判では3.36段階に分けて記録されるわけですから、滑らかさの違いは想像に難くないと思います。
 画素数が多いことで細部まで記録できるのはもちろんですが、写真を見た時に、35mm判に比べて4×5判で撮った写真の方が階調が豊かに感じられるのはこのような理由ではないかと思います。

 なお、実際にはレンズによっても左右されると思いますが、ここではレンズによる影響は考慮していません。

被写界深度の違いとその影響

 フィルムサイズ(画素数)の違いの次は被写界深度の違いです。
 上と同じ条件(35mm判に焦点距離50mmのレンズ、4×5判に焦点距離168mmのレンズをつけ、5m先の被写体を対象)のときの被写界深度を比較してみます。

 被写界深度の計算式(近似式)は以下の通りです。

  前側被写界深度 D₁ = a²εF / (f² + aεF)
  後側被写界深度 D₂ = a²εF / (f² - aεF)

 ここで、
  a :被写体までの距離[mm]
  ε:許容錯乱円[mm]
  F :絞り値
  f :レンズの焦点距離[mm]
 です。

 許容錯乱円は35mm判の場合、0.022~0.028mmの値が使われていることが多いようなので、ここでは中間の値の0.025mmを用いることにします。
 上の式に、a = 5,000、ε = 0.025、f = 50、および、f = 168、絞り値Fには大判レンズの開放値として多く採用されているF = 5.6をあてはめてみます。

 まず、35mm判、焦点距離50mmのレンズの場合です。

  前側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (50×50 + 5,000×0.025×5.6)
          = 1,094mm

  後側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (50×50 – 5,000×0.025×5.6)
          = 1,944mm

 続いて、4x5mm判、焦点距離168mmのレンズの場合です。

  前側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (168×168 + 5,000×0.025×5.6)
          = 121mm

  後側被写界深度 = 5,000×5,000×0.025×5.6 / (168×168 – 5,000×0.025×5.6)
          = 127mm

 この結果から分かるように、同じ絞り値F5.6の場合、35mm判(f=50mmレンズ)の被写界深度は3,038mmですが、4×5判(f=168mmレンズ)の被写界深度はわずか248mmしかありません(いずれも前側被写界深度と後側被写界深度を加算した値です)。

 ピントが合っているように見える範囲は、35mm判は4×5判の12倍以上あるわけですから、写真を見た時に明らかに違いが感じられます。4×5判ではピントの合っている範囲がごく一部であっても、35mm判だとかなり広範囲にピントが合っているように見えるはずです。この被写界深度の違いはフィルムサイズの違いによる影響よりもはるかに大きなインパクトを与えます。

 被写界深度は絞り値に影響を受けるので、4×5判(f=168mmレンズ)で35mm判(f=50mmレンズ)と同じだけの被写界深度を稼ぐには絞り値をどれくらいにすればよいかを計算してみます。

 上で示した被写界深度から絞り値Fを求めるように変形します。

  絞り値 F = ( (a²ε/D₁f²) - (aε/f²) )⁻¹

 この式に、35mm判(f=50mmレンズ)の前側被写界深度 D₁=1,094 を当てはめて計算すると、

  絞り値 F = ((5,000×5,000×0.025 / 1,094x168x168) – (5,000×0.025 / 168×168))⁻¹
       = 63.24

 となり、F64まで絞ると、35mm判(f=50mmレンズ)のF5.6とほぼ同じ被写界深度になることがわかります。

 なお、許容錯乱円の値を35mm判と同じ0.025mmを用いましたが、4×5判からプリントする場合は35mm判に比べて拡大率が低いので、一般には許容錯乱円の値も35mm判よりも大きな値(0.08~0.1)を使うことが多いようです。しかし、フィルム上での比較ということで、ここではあえて同じ値で計算しました。

 適当な作例がありませんが、ストックの中から探してきました。
 1枚目が4×5判に焦点距離210mmのレンズをつけて撮ったもの、2枚目がAPSサイズのデジカメで焦点距離40mm近辺で撮ったものです。

▲4×5判 210mm F8 1/30
▲APSサイズ 約40mm F8 1/20

 2枚のフレーミングは少しずれていますが、おおよそ同じ位置から撮っています。ツツジまでの距離は4~5mといったところです。絞り値はいずれもF8で、4×5判で210mmレンズと、APSサイズで40mmレンズの画角はほぼ同じです。
 風が強くてかなり被写体ブレを起こしていますが、今回はそこは無視してください。

 4×5判の方は後方の白樺の木がほとんどボケていますが、デジカメの方はかなり後方まで鮮明に写っているのがわかると思います。
 同じ被写体、同じ構図ですが、写真を見たイメージはずいぶん違うと思います。

ボケの大きさの違いとその影響

 3点目の違いはボケの大きです。ここでいうボケとは、ピントが合っていないところのボケの大きさをいいます。
 ここでも上と同じ条件(35mm判に焦点距離50mmのレンズ、4×5判に焦点距離168mmのレンズをつけ、5m先の被写体を対象)のときに、無限遠のボケの大きさがどれくらい異なるのかを試算してみます。

 まず、ボケの大きさはレンズの絞り値によって決まります。
 レンズの焦点距離 f、絞り値 F、そして有効径 Dの間には次のような関係式が成り立ちます。

  絞り値 F = f/D

 よって、レンズの有効径は、

  有効径D = f/F

 上の式に、焦点距離50mm、および168mm、絞り値5.6をあてはめてレンズの有効径を求めると、

  50mmレンズの有効径 = 50 / 5.6
            = 8.928mm

  168mmレンズの有効径 = 168 / 5.6
             = 30mm

 となります。

 これを図に表すとこうなります。

 上の図で、ピントの合っていないところがボケの大きさを表すことになるわけですが、絞り値が等しければ光軸に平行に入ってきた無限遠光は同じところに焦点を結ぶので、ボケの大きさも等しくなります。

 では、この状態から5m先の被写体にピントを合わせた場合のレンズの位置を計算してみます。

 レンズの焦点距離 f、レンズから被写体までの距離 a、レンズから撮像面までの距離 bの間には次のような関係があります。

  1/a + 1/b = 1/f

 よって、

  1/b = 1/f - 1/a

 この式に、a = 5,000、f = 50、および、f = 168 をあてはめると、

  50mmレンズ 1/b = 1/50 – 1/5,000
        b = 50.505mm

  168mmレンズ 1/b = 1/168 – 1/5,000
        b = 173,841mm

 となります。
 すなわち、無限遠からの繰出し量が50mmレンズの場合は0.505mm、168mmレンズだと5.841mmということです。
 レンズが前に繰り出した分、無限遠はボケることになります。

 次に、無限遠のボケ径は次の式で求められます。

  ∞ボケ径 d = F²/F(a - f)

 この式に、絞り値 F = 5.6、被写体までの距離 a = 5,000、焦点距離 f = 50、および、f = 168 をあてはめると、

  50mmレンズ∞ボケ径 = 50×50 / 5.6x(5,000 – 50)
            = 0.090mm

  168mmレンズ ∞ボケ径 = 168×168 / 5.6(5,000 – 168)
             = 1.043mm

 となり、5m先にピントを合わせた時の無限遠のボケの大きさは、35mm判(f=50mmレンズ)に対して4×5判(f=168mmレンズ)は約11.6倍にもなります。これは被写界深度の違いと同様で、写真を見た時に35mm判と4×5判では明らかに印象が異なります。同じ画角で同じ範囲を写しても、35mm判に比べて4×5判の方が急激に、しかも大きくボケていくことがわかります。

 では、焦点距離168mmのレンズの無限遠のボケ径が、50mmレンズと同じ大きさ(0.09mm)になるにはどれくらいまで絞ればよいかを計算してみます。

 上の式から、絞り値 F は次のように求めることができます。

  絞り F = f²/ d(a - f)

 ここにそれぞれの値をあてはめると、

  絞り F = 168×168 / 0.09x(5,000 – 168)
      = 64.9

 となり、およそF64まで絞ると50mmレンズのボケ径とほぼ同じになることがわかります。

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 このように、4×5判で撮影した写真は、撮像面の大きさによる画像の鮮明さや階調の豊かさに加え、被写界深度の違いやボケの大きさの違いによって、同じ範囲を写した写真でも35mm判の写真とは全くイメージの異なる画になります。
 どの範囲にピントを合わせ、どのようにボケを取り入れるかなどは作画意図によって変わってきますが、大判写真というのは豊かな階調やボケの大きさなどの要素が合わさり、非常に奥行きのある画になるという特徴があると思います。

 一方で、被写界深度が深ければピントの合う範囲が広いので、全体として締まりのある感じになるでしょうし、浅ければ被写界深度を稼ぐために苦労するかもしれませんが、その反面、主張したいところだけを浮かび上がらせることができます。どちらがより良いということではなく、35mm判なり4×5判なり、それぞれの特性を活かした作画をすべきなんだろうと思います。

 また、今回は35mm判と4×5判が同じ画角になるようにそれぞれ、50mm、168mmの焦点距離のレンズで試算しましたが、35mm判のカメラに168mmの焦点距離のレンズを付けても被写界深度やボケの大きさに関しては4×5判で計算した値と同じになります。
 ただし、写る範囲がぐっと狭まりますので、出来上がる写真のイメージはまったく違うものになります。

 大判写真というのは単にフィルムが大きいので綺麗に写るということだけでなく、35mm判とは大きく異なる要素がいくつかあります。そういったことを理解したうえで構図をどうするか、どのように撮影するかということを考えるのも大判写真の楽しさかもしれません。

(2021年8月22日)

#レンズ描写 #写真観

BESSAMATIC(ベッサマチック)で撮ってみました

 4か月ほど前に新宿の中古カメラ店で衝動買いしたVoigtlander BESSAMATIC(フォクトレンダー ベッサマチック)がどんな写りをするのか、モノクロフィルムを入れて撮影してみました。使用したのは富士フィルムのACROS100Ⅱです。

 ついているレンズはデッケルマウントのCOLOR-SCOPAR X(カラースコパー) 1:2.8/50。60年以上も前のカメラですが、現代のフィルム一眼レフカメラと基本的なところはほぼ同じです。ただし、クイックリターンミラーは採用されていないため、フィルムを巻き上げないとミラーが上がったままで、ファインダーを覗いても真っ暗です。
 何と言ってもいちばん特徴的なのは、絞りとシャッター速度を連動させるライトバリュー方式の露出操作だと思います。絞りとシャッター速度を合わせた後、シャッター速度ダイヤルを動かすと連動して絞りダイヤルも動き、常に同じ露出を維持するような仕組みになっています。すごい機構を組み込んだものだと思いますが、個人的にはあまり使い勝手が良いとは思いません。シャッター速度だけ変えたいと思っても絞りまで動いてしまうので、絞りを元に戻す操作をしなければならず、ちょっと煩わしいです。

 フォーカシングはスプリットイメージ方式が採用されています。しかし、縦の線がはっきりしないような被写体ではマット面で合わせることになりますが、ピントの山が非常につかみにくいスクリーンです。
 セレン式の露出計も内蔵されていて動作はしているようですが、精度のほどはわかりません。

 今のカメラのようにカメラ本体にストラップをつける金具がないので、首から下げる場合は昔懐かしい茶色の革のケースに入れなければなりません。これがまた、何とも言えず格好が良いです。

Voigtlander BESSAMATIC

 さて、実際に撮影してみた感想ですが、想像していたよりもはるかにシャープな写りをするレンズでした。60年も前のレンズなので、もっとふわっとした感じの写りを想像していたのですが、ちょっと驚きです。しかし、逆光気味になると途端に画質が落ちてしまいますが、これは仕方のないことかもしれません。

 下の写真は東京都庁の都民広場です。

東京都庁 都民広場

 半円形に湾曲した壁面のグラデーションも綺麗に出ていますし、光が強く当たっているところの光の滲みもあまり感じられません。黒のしまりがいい感じに出ているのはフィルムのおかげだと思います。

 もう一枚、新宿NSビルに設置されている世界最大の振り子時計、「ユックリズム」です。

新宿NSビル ユックリズム振り子時計

 ビルの中なので全体にコントラストが低めですが、それでもシャープな写りをしていると思います。

 以前は35mm判カメラもごろごろしていたのですが、ほとんど手放してしまい、手元に残っている35mm判カメラはCONTAX T2だけです。T2はコンパクトカメラなので持ち歩きには便利ですが、「よし、撮るぞ!」という気合のようなものは湧いてきません。
 それに比べて今回持ち出したBESSAMATICは、写真を撮るという行為そのものが楽しくなるようなカメラです。決して使い易いカメラではありませんが、そのフォルムといい、茶色のケースに入ったレトロな感じといい、「カメラだなぁ」と感じさせてくれます。
 とはいえ、今後もこのカメラの出番が増えることはないと思いますが、中古カメラ店を覗いて心惹かれるものがあれば、また衝動買いをしてしまうかも知れません。

 なお、今回の現像は富士フィルムのミクロファインを使っています。

(2020.12.18)

#BESSAMATIC #ベッサマチック #中古カメラ #モノクロフィルム

ヴィンテージカメラの魅力

 例年になく長い梅雨がやっと明けたと思ったら耐え難いくらいの猛暑が押し寄せ、しかも今年は新型コロナの影響で遠出もままならない状態です。撮影も思うようにできず、悶々とした日を過ごしています。
 そんなわけで、たまには中古カメラ店にでも行ってみようかと思い、新宿と中野にある中古カメラ店を何件かはしごしてきました。

 近年、中古カメラ店に行って感じるのは、若い女性客が多いということです。しかも、デジカメではなくフィルムカメラを探している女性を多く見かけます。聞くともなく、店員さんとの会話が耳に入ってくるのですが、これからフィルムカメラを始めようと思っている女性が多いことに驚きです。
 食べ物にしてもいろいろなお店にしても、若い女性から支持されることが売上の伸びる大きな要因らしいです。フィルムカメラも若い女性に支持されて、市場が大きくなってほしいものです。

 さて、私はカメラのコレクターではありませんので、実際に使いもしないカメラやレンズを買うことはほとんどありません。ですが、中古カメラ店に並んでいる年代物のカメラを見ると、「いいなぁ」「ほしいなぁ」という気持ちが湧いてくるのも事実です。買っても実際に撮影に使うことはほとんどないだろうということがわかっていながらも、欲しいと思うのは何故なんでしょう?月並みな言い方をすると、カメラの持つオーラのようなものに引き付けられるのだということになると思うのですが、本当の心理状態はちょっと違う気もします。

 そんな葛藤をしながら何のことはない、カメラの放つオーラに負けてしまい、買ってしまいました。それが下の写真のドイツ製カメラ、Voigtlander BESSAMATICです。調べたところ、発売は1959年とのことですので60年以上前のカメラですが、傷や汚れは全くと言ってよいほどなく、とてもきれいな状態を保っています。しかも、昔懐かしい茶色の革製のケースまでついています。
 これでお値段9,000円。どこか壊れているんじゃないかと思いましたが、全く問題なく動作している感じです。

Voigtlander BESSAMATIC + COLOR-SKOPAR X 1:2.8/50

 このカメラについてはたくさんの方が記事を書いていらっしゃいますので詳細はそちらをご覧いただくとして、私の心を動かしたのは何といってもそのフォルムです。昔のカメラはどれもそうですが、金属製のボディは重厚感がありますし、デザインも機能美に満ちていると思います。60年を経ても全く古臭さを感じさせません。それどころか、個人的には最近のカメラのデザインよりもはるかにセンスがあると思います。

 しかし、金属製であれば何でも良いというわけではなく、やはりデザインはとても重要な要素です。金属製であっても心動かされないデザインのカメラもあります。もちろん個人の好みですから人それぞれですが、うっとりと眺めていられる美しさを持ったカメラというのは、中古カメラ店の棚の中でも輝いていると感じるのは贔屓目でしょうか?

 職人のこだわりが随所に感じられるこのカメラ、60年前にどういう人が手にして、どういう経路をたどって今、私の手元にあるのか、そんなことを想像させるのもこういったカメラの魅力かもしれません。
 このカメラがヴィンテージカメラに属するのかどうかよくわかりませんが(なにしろ9,000円ですから)、撮影に行く回数が激減している昨今、こんなヴィンテージカメラを探してみるのも悪くないなと思っています。

 このカメラでバシバシ撮影することはないと思われますが、一度は撮影をしてみたいと思います。どんな写りをするのか、楽しみです。

(2020.8.16)

#ベッサマチック #BESSAMATIC #中古カメラ