大判カメラのアオリ(7) 複合アオリ フロントライズ+フロントスイング

 以前、大判カメラのアオリのシリーズで個々のアオリについて触れてきましたが、今回は複数のアオリを組み合わせて使う複合アオリについて触れてみたいと思います。
 風景写真の場合、物撮りに比べるとアオリを使う頻度は格段に少ないのですが、それでも時には複数のアオリを使うこともあります。複合アオリの第一回目はフロントライズとフロントスイングの複合アオリです、
 なお、それぞれのアオリのふるまいについては下記のページをご覧ください。

  大判カメラのアオリ(1) フロントライズ
  大判カメラのアオリ(4) フロントスイング  

高さと奥行きのある被写体を撮影する

 高さも奥行きもある被写体というと、ビルなどが最もイメージし易いのではないかと思います。
 下の図のように、ビルを斜めに見る位置から撮影することを想定した場合、ビルのほぼ全体をフレーム内に入れるためにはカメラを上向きにする必要があります。

 ビルとカメラがこのような位置関係になると、ビルの水平ライン(上図の赤い点線)に対してレンズの光軸(上図の黒い点線)が斜め上方を向くため、平行になりません。また、ビルの垂直ライン(上図の青い点線)に対して、レンズの光軸が直角になりません。
 この状態でビルを撮影すると、ビルの上方が中央に寄っていく、いわゆる先細りになって写ってしまいます。

 下の写真は東京都の神代植物公園にある「ばら園テラス」を撮影したものです。ビルではありませんが、高さのある柱が何本も並んでいる被写体であり、上の図と同じような状況で撮影したものです。
 神代植物公園には大きな温室があり、本来はそちらの方がうってつけなのですが、温室の周囲に植えてある木々が邪魔になって良いアングルが見つけられなかったため、ばら園テラスにしました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 一番手前の柱は左に傾いているように、一方、奥の柱は右側に傾いているようになってしまいます。つまり、建物全体が上に行くにしたがって先細り状態になってしまいます。これは見上げるようなアングルで撮影するとごく普通に起こる症状で、このような写真は見慣れているせいか特に違和感があるわけでもありません。ですが、やはり肉眼で見たのとはちょっと違うぞという感じです。建物全体が向こう側に倒れているように感じられます。
 また、ピントを手前の柱付近においているので、奥の方(写真左側)の柱にはピントが合わず、ボケています。これは絞りを絞り込むことである程度は解消することができますが、同じ画角でも35mm判カメラなどと比べて焦点距離の長いレンズを使う大判カメラの場合、どうしても被写界深度が浅くなってしまうので自ずと限度があります。

 この写真のピント面は、右上の屋根の角の辺りから手前の柱上部を斜め下に輪切りにして、柱の向こう側に降りている感じなります。

フロントライズで先細りを防ぐ

 まず、上に行くにしたがって先細りになっている状態を解消するために、カメラのフロント部を上げるライズアオリをかけます。
 これは、上向きになっていたカメラの光軸が水平になるように、カメラを構え直します。こうすることで傾いているように見えた柱がまっすぐになってくれますが、建物の上部が画面からはみ出してしまい、反対に画面の半分近くまで地面が写り込んだ状態になります。
 その状態でカメラのフロント部を少しずつ上げていく、すなわち、ライズアオリをかけていくと、建物の上部が徐々に入り込んできます。

 1枚目の写真とほぼ同じ範囲が写り込むまでフロントライズさせて撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 手前の柱も奥の柱もほぼ真っすぐに立ち、建物全体が向こう側に倒れているような感じもなくなりましたし、高さも強調され、奥行き感というか立体感も増しています。
 また、1枚目の写真ではカメラが上方を向いているため、地面に対してピント面が垂直になっておらず、手前に傾いた状態になっていますが、2枚目の写真ではピント面が地面に対して垂直になっている、つまり、柱と平行になっているので、建物の向こう側にある木々のボケ方も小さくなっているのがわかると思います。

 フロントライズによるピント面の移動は下の図のようになります。

 ライズ量はレンズのイメージサークルやカメラの可動範囲の許す限りは可能ですが、焦点距離が短いレンズの場合、イメージサークルにあまり余裕がないのと、フィールドカメラはビューカメラほど可動量が大きくないので 、あまり高い建物では上の方までフレーム内に入れることができないというようなことが十分あり得ます。

フロントスイングで手前から奥までピントを合わせる

 フロントライズをかけることで建物が真っすぐに立っているように修正できました(2枚目の写真)が、奥の方(画面左側)の柱は被写界深度の外にあるため、ピントが合っていません。これを奥の柱までピントが合うように、フロント部にスイングアオリをかけます。
 ライズアオリがかかった状態のままで、レンズを少し右向きに回転させます。つまり、右から2本目の柱のあたりを向いていたレンズ面を右に回して、右から1本目と2本目の柱の中間あたりを向くようにします。こうするとピント面が右に回転するので、手前から奥の方までピントが合うようになります。

 こうして撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Super angulon 90mm 1:8 F8 1/125

 建物の真っすぐな状態が保たれたまま、手前の柱から奥の柱までピントの合った状態になっています。
 フロントスイングによるピント面の移動を示したのが下の図です。

 わかり易くするために絞り開放で撮影していますが、この状態で絞り込めば奥の木立も被写界深度の範囲内になり、さらにピントの合った写真にすることができます。
 このような場合、フロントスイングによってすべての柱にピントを合わせることが多いと思いますが、スイングの度合いを変えることでピントの合う範囲を調整することができます。あえて遠くの方は若干ぼかしておきたいというようなときはスイングの量を少なめにするなど、作画意図に合わせてアオリの量を決めます。

 また、今回は作例用に撮影はしませんでしたが、レンズを左向きに回すスイングアオリをかけると、例えば、2本目の柱だけにピントが合って他はボケているという、ちょっと不思議な感じの写真にすることも出来ます。

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 フロントライズもフロントスイングも単独では比較的よく使うアオリですが、風景撮影において これらを複合して使うことはそれほど多くはありません。ですが、被写体が歪まないようにしながらピント面を自由にコントロールすることで思い通りの写真に仕上げることができるのは魅力かもしれません。
 建物単体だけでなく街並みの撮影とか、比較的近い距離での滝の撮影とか、意外と応用範囲は広いようにも思います。

(2023.1.23)

#Linhof_MasterTechnika #アオリ #リンホフマスターテヒニカ

花を撮る(6) シルエットで撮る

 いうまでもなく花には様々な色彩があるので、フィルムカメラであれデジタルカメラであれ、カラーでの撮影に向いている被写体の一つと言えます。それぞれの花が持っている色合いを忠実に再現した写真はやはり美しいものです。
 一方、敢えて色彩をなくし、花の形だけで表現した写真も趣があって、華やかさとは違う別の表情や雰囲気が伝わってきます。
 今回はモノクロも含め、シルエットで撮った花の写真を何枚かご紹介します。

 何故か桜の咲く季節が近づくと心がウキウキして、私としては是非ともシャッターを切りたくなる被写体の代表格です。
 多くの桜は葉っぱが出る前に花が咲き、しかも、他に類を見ないほど花の密度が高いのでとても華やかに見えます。薄紅の花色はとても清楚な感じがします。

 そんな魅力的な桜ですが、桜の木全体をシルエットで撮影したのが下の写真です。

▲平堂壇桜 : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F5.6 1/30 W2 PROVIA100F

 この桜は、福島県にある「平堂壇の桜」という名前がついている一本桜です。小高い丘(古墳らしいです)の上に立つエドヒガンの巨木で、かなり遠くからでも見つけることができます。周囲に障害物がないので、360°どの方角からでも見ることができますが、私は桜の東の方角から見た時の木の形がいちばん好きです。

 夕方、太陽が西の空にかかり、東の方角から見ると桜の木全体がシルエットになります。実際にはこの写真よりももっと明るい感じですが、夕暮れの雰囲気を出すために露出を切り詰めています。また、雲の立体感を出すために、W2の色温度変換フィルターを使用しています。
 近所の方だと思われるのですが散歩にでもいらしたのか、ちょうど通りかかったのでそのタイミングを撮らせてもらいました。

 桜の木までは200mほど離れた場所から撮影しているため、真横から見ているのに近いアングルになり、巨木ではありますが全体の輪郭をとらえることができています。

コスモス(秋桜)

 日本に入ってきたのは明治時代らしいですが、今では道端や田圃の畦道、牧場などで普通に目にすることができます。近年は観光用に何十万株というコスモスを人工的に植えたコスモス畑も各地に増え、一斉に咲いている姿は見応えがあります。

 下の写真もコスモスのお花畑で 撮影したものです。

▲コスモス : PENTAX67Ⅱ smc-TAKUMAR6x7 75mm 1:4.5 F11 1/15 PROVIA100F

 撮影した時間は間もなく日の出になろうかという早朝です。太陽の光が強まるにつれ、赤から紫に変わる空のグラデーションがとても美しい時間帯です。
 完全にシルエットにしてしまうと早朝の感じが薄れてしまうと思い、わずかに赤紫の花色がわかるくらいの露出をかけています。南国育ちのコスモスは、持ち前の鮮やかな色彩と明るい光がお似合いですが、このようにシルエット、もしくはそれに近い状態でも華やかさが損なわれることがありません。

 また、たくさんの花が密生しているところをシルエットにすると重なり合ったところが平面的になってしまうので、他よりも高く伸びた数本の茎を低い位置から見上げるようなアングルで撮影しています。そうすることで、針金のような細い葉っぱや蕾などの形もすっきりと見えるようになります。

 お花畑の向こうから太陽が顔を出してしまうと光が花弁に差し込み、シルエットにならなくなってしまいます。それはそれでステンドグラスのような美しさになるのですが、全く雰囲気の違う写真になります。

ヒメジョオン(姫女苑)

 どこでも見ることのできる、北アメリカ原産の帰化植物です。
 白、またはごく薄いピンクの小さな可愛らしい花を咲かせますが、とても強い繁殖力のせいか、どちらかというと嫌われ者の感があります。亜高山帯にまで生育域を広げているため、要注意外来生物に指定されているようです。

 あまりカメラを向けようという気持ちにならないヒメジョオンですが、こんな姿を見せてくれることもあります。

▲ヒメジョオン : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX-M☆67 300mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 沈む直前の太陽をバックに、ヒメジョオンをシルエットで撮影しました。
 花や蕾の形がユニークで、まるで踊っているように見えます。そんな中でいちばん踊りが洗練されている(?)と思えた1本を、太陽のど真ん中に配置してみました。

 300mmの望遠レンズを使い、出来るだけ太陽が大きくなるようにして、ヒメジョオンの花だけでなく茎の部分も入るようにしました。
 また、ヒメジョオンが1本だけだと画が散漫になってしまうので、ある程度の取り巻きがいるアングルを探して見つけたのがここでした。
 西日は沈むのが早いので、300mmのレンズを着けるとファインダーの中で太陽が動いていくのがわかります。ですので時間との勝負です。

 同じ場所から同じアングルで撮影しても、日中ではこのようなユニークさは感じられません。嫌われ者の野草に対する見方も少し変わるかも知れません。

ノアザミ(野薊)

 アザミは初夏から秋口にかけていろいろな種類が花を咲かせますが、最もポピュラーなのがノアザミです。鮮やかな赤紫色の花が特徴的ですが、ごくまれに白い花を咲かせるのもがあり、見つけると何だか幸せな気持ちになります。
 ノアザミは特に珍しい野草というわけではありませんが、その鮮やかな花色がとても目立つので、撮りたくなる被写体の一つです。緑の中に赤紫の花が点在している景色は何とも言えない美しさです。

 花の色もさることながら花の形も特徴的なので、シルエットだけでもすぐにアザミとわかります。
 下の写真は日の出前、東の空が明るくなり始めたころに撮影したノアザミの写真です。

▲ノアザミ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/4 EX1 PROVIA100F

 花の下、総苞のところに蜂らしきものがしがみついています。指先でツンツンしてみましたが、寒いせいかピクリともしません。どうやら昨夜は家に帰らず、ここにお泊りしたようです。
 赤く染まりかけた空に抜いたノアザミだけでも綺麗なシルエットなのですが、蜂というおまけがついて、ちょっとほほえましい写真になりました。
 まだ薄暗い時間帯とはいえ、この花が咲いている環境がわかるようにと思い、下の方に草叢を、中間あたりに中景となる山並みを入れ、上の方には明るくなりかけた空を入れてみました。

 また、全体のボケが大きくなるよう、200mmのレンズに接写リングをかませての撮影です。そのおかげで溶けるようなボケになり、ノアザミのシルエットがより引き立ってくれました。

 因みに、ここでお泊りした蜂ですが、太陽が昇って暖かくなってくるともぞもぞし始め、やがてどこかに飛んでいきました。

キバナコスモス(黄花秋桜)

 近年、キバナコスモスをよく見かけるようになりました。よく見慣れているコスモスとは同属ですが別の種類らしく、コスモスに比べて花期が長いようです。東京では12月になっても見かけることがありますが、さすがにその頃になると鮮やかなオレンジ色の花弁も濁った色になってしまいます。

 そして、花が少なくなった分、代わりに目立ってくるのがトゲトゲした種子です。
 種子ができ始めの頃、トゲトゲは上を向いているのですが、徐々に開いていき、やがて小さなウニのようになります。

▲キバナコスモス : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 上の写真はまだ完全に開ききる前の状態の種子です。そのまま撮ってもつまらないので、玉ボケの中にシルエットとなるようにして撮りました。
 シルエットと言ってもこれは実体ではなく、種子の影です。背後の玉ボケは公園に設置されているステンレス製の柵に反射した光で、この中にキバナコスモスの種子の影が入るように撮影したものです。玉ボケと影の大きさのバランスを考えて撮ったつもりですが、もう少し影を小さくした方が良かったようにも思えます。

 このような写真は、玉ボケができる場所と被写体との位置関係(距離)によって出来栄えがまったく変わってしまうので、ベストポジションを探すのに手間がかかって結構大変です。

コバギボウシ(小葉擬宝珠)

 夏に薄紫色の花を咲かせる野草です。
 一本の茎にたくさんの花をつけるので、群生して咲いている様は見事です。開くとユリの花のような形になり、華やかさが増します。薄紫の中に少し濃い紫色の筋が入ったような花はとても品があり、写真映えする花だと思います。

 下の写真は、まだ開ききっていないコバギボウシをモノクロフィルムで撮ったものです。

▲コバギボウシ : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 1.4x ACROS100Ⅱ

 雲がかかっている夕陽をバックにしており、主被写体のコバギボウシは完全なシルエットになっています。赤く染まった空に抜くようにカラーリバーサルで撮ることも考えましたが、花が下向きになっていいる形を見て、モノトーンの方が似合うのではないかと思い、モノクロフィルムを使いました。ちょっと寂しげな雰囲気を出すために露出は切り詰めています。
 雲がかかっていたおかげで全体が硬くならずに済んだ感じです。

 軽くレフ板をあてた状態でも撮影してみましたが、花自体は柔らかな印象になったものの、全体としてはこちらの方が趣がある感じでした。

 なお、春の山菜の女王と言われているウルイは、同じ仲間のオオバギボウシの若葉です。今はハウス栽培物がほとんどですが、天然物のウルイは山菜特有の苦みがわずかに感じられ、山菜という実感があります。

シシウド(獅子独活)

 少し標高の高いところに行くとよく見られる野草です。
 背丈が高く、花火のように開いた花が特徴的です。花の色は白に近いクリーム色で、良く晴れた青空とのコントラストは爽やかな夏を感じさせてくれます。

 この写真もモノクロフィルムで撮影したものです。

▲シシウド : PENTAX67Ⅱ smc-PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 ACROS100Ⅱ

 シシウドの根元にカメラを設置し、見上げるようにして太陽を画面上部に直接入れることでシシウド全体をシルエットにしていますが、一つひとつの花はゴマ粒のように小さいので、綺麗な造形がくっきりと出ています。
 所どころに薄い雲がかかっていますが、ちょっとコントラストが弱い感じです。モノクロ用のフィルターのY2あたりを使った方が良かったかもしれません。好みもあると思いますが、やはりモノクロはキリッと締まった黒が表現されている方が好ましく感じます。

 シシウドは、縦にも横にも広がってたくさんの花をつけているほうが見応えがあるのですが、なかなかそのような個体に遭遇することは多くはありません。大きくて枝っぷりの良いシシウドに巡り合えたら、是非とも撮っておきたい被写体です。

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 シルエットで撮ると鮮やかな花の色は失われますが、花の魅力が失われるわけではなく、普通に見ていた時にはわからないものが見えてくるから面白いものです。
 また、もともとの色を脳が憶えているからかもしれませんが、シルエットの中に色が見えてくるような気がするのも事実です。シルエット自体はまるで影絵のように平面的にもかかわらず、立体的に見えるのも不思議です。
 シルエットのつけ方や濃淡によってずいぶんと写真の雰囲気も変わってきます。このあたりも奥深いところだという感じがします。

 (2022.11.8)

#コスモス #ノアザミ #シシウド #シルエット #PENTAX67 #野草

大判カメラで、動く被写体をブラさずに撮るために必要なシャッター速度

 大判カメラ用のレンズの開放F値は概して、35mm判カメラ用のレンズほど明るくはありません。概ね、F5.6というのが多く、焦点距離が長いレンズだとF8、あるいはそれ以上の値になってしまいます。
 また、フィルムのISO感度も一般的に常用されるのはISO100~400といったところで、カラーリバーサルフィルムにおいては、現行品として手に入るのはISO50とISO100だけです。
 このため、撮影時に高速シャッター(高速と言っても一般的な大判レンズの場合、1/500秒が最高速ですが)を切ることは多くはなく、低速シャッターを使う頻度の方がはるかに高いと思います。したがって、動いている被写体を止めて写すのはあまり得意ではありません。
 今回、風景写真における動く被写体を例に、どれくらいのシャッター速度を使えば止めることができるのかを検証してみました。

被写体ブレの定義

 写真撮影において、シャッターが開いている間に被写体が動けば被写体ブレとして写ってしまうわけですが、では、どれくらい動けば被写体ブレというかは明確に定義されているわけでもなさそうですし、そもそも、条件によってもブレの度合いは千差万別といえると思います。肉眼では全く動いていないように見えても、ポジやネガをルーペで見たり、あるいはパソコン上で等倍まで拡大してみれば被写体ブレを起こしていることは十分にありうるわけですが、それを論じてもあまり意味があるとは思えません。
 写真をどのような状態で見るかによって、被写体ブレの尺度も自ずと変わってきますので、何か基準を決める必要があります。

 被写体にピントが合っているか、合っていないかの基準に使われる「許容錯乱円」というものがあります。これを被写体ブレに適用できないかとも考えましたが、許容錯乱円は撮像(フィルム)面上での話しであり、ポジをルーペで見るとき以外にはあまり適切とは思えません。
 そこで、ここでは写真をプリントして、それを肉眼で見た時に被写体ブレが認識できるかどうかを基準にしてみることにします。
 最近は写真をプリントして観賞するということが昔に比べて減っているとは思うのですが、ルーペやパソコンを使うことなく人間の眼だけで判断できるので、いちばんわかり易いのではないかと思います。

 写真を全紙大(457mmx560mm)に引き伸ばし、これを1.5m離れたところから観賞する状態を想定します。
 人間の眼の分解能はおよそ1/120°(約0.5分)が限界と言われており、視力が1.0だとその半分ほどの1/60°程度らしいです。これは、1.5mの距離から0.436mm離れた二つの点を識別できるということになります。つまり、0.436mmよりも近い場合は二つの点として識別できないということです。この0.436mmを仮に「許容移動量」としておきます。
 全紙大に引き伸ばした写真上で被写体が許容移動量(0.436mm)以上動いていれば、その写真を1.5mの距離から見た時に、被写体ブレを起こしていることがわかるだろうという想定です。

 本来、被写体ブレは二つの点を認識できるかどうかというのとは意味合いが違いますが、二つの点として認識できない範囲内での被写体の動きであれば、ブレているようには見えないだろうという仮定です。

 さて、大判フィルム(4×5判)に写り込む範囲が、実際の被写体面においてどれくらいの距離(長さ)にあたるのかを計算しておく必要があります。
 これは、使用するレンズの焦点距離や、レンズから被写体までの距離によって異なります。つまり、レンズの焦点距離が短ければ広い範囲が写りますし、レンズから被写体までの距離が長いほど、やはり広い範囲が写ります。
 大判(4×5判)カメラで比較的よく使う焦点距離のレンズと、被写体までの距離ごとに、4×5判のシートフィルムに写り込む長辺の長さを算出したのが下の表です。4×5判のフィルムの長辺の長さは121mmとして計算しています。

 では、以上の条件において、被写体ブレを起こさない、言い換えると被写体ブレが認識できないシャッター速度について、いくつかのシチュエーションで検証してみます。

時速80kmで通過する電車を真横から撮影する場合

 まずは、比較的イメージし易い電車の撮影を想定してみます。

 時速80kmの等速度で右から左に向って走る電車を、真横(電車の進行方向に対して直角の位置)から撮影するとします。この時、全紙大の写真上の0.436mm(許容移動量)が、実際の被写体面においてどれくらいの移動距離(長さ)になるかを計算します。フィルムは横置きで撮影し、長辺(横)を対象とします。
 計算式は以下の通りです。

  被写体面における移動距離 = 被写体面の撮影長さ/全紙の長辺長さ*許容移動量

 上の式に、焦点距離90mmのレンズで被写体面まで50mの距離から撮影した場合の数値をあてはめてみます。
 50m先の被写体面を焦点距離90mmのレンズで撮ると、写り込む長辺方向の長さは67,222mm(上の表より)、全紙大の長辺の長さは560mm、許容移動量は0.436mmなので、

  被写体面における移動距離 = 67,222 / 560 * 0.436 = 52.3mm

 となります。

 つまり、50m先の電車が52.3mm移動するのに要する時間よりも早いシャッター速度で撮れば、見かけ上の被写体ブレは起きないことになります。
 80km/hで走っている電車が52.3mm移動するのに要する時間(秒)は、

  52.3 / (80*10⁶ / 3,600) = 0.002355秒

 これはシャッター速度に変換すると、1/425秒となります。

 実際には1/500秒ということになるので、一般的な大判レンズのシャッター速度でギリギリ撮影できる範囲です。

 レンズの焦点距離が変わればこの値も異なるのは上に書いた通りですので、代表的な焦点距離のレンズについて許容移動量を移動する所要時間と、それに対応するシャッター速度を計算したのが下の表です。被写体面までの距離は10m、20m、50m、100m、200mの5通りを対象としました。

 この表でわかるように、80km/hで移動する電車を大判カメラで被写体ブレが感じないように写し止めるには、かなり短焦点のレンズを使っても50mほどの距離が必要ということになります。

 私は鉄道写真を撮ることはあまりないのですが、数少ない中から大判カメラで撮影した写真を探してきました。それが下の写真です。

▲WISTA 45 SP FUJINON C300mm 1:8.5 F8.5 1/125 PROVIA100F

 正確なところはわからないのですが、被写体(電車)までの距離は150~200mくらいで、電車の速度は割とゆっくりで、時速60km程度ではなかったかと思います。
 使用したレンズの焦点距離は300mmなので、これらの値を上の計算式にあてはめると、

  200m先の被写体面の撮影長さ : 80,667mm
  被写体面における許容移動量 : 62.8mm
  許容移動量に要する時間  : 0.003768秒
  シャッター速度  : 1/265秒

 となります。

 実際の撮影時のシャッター速度は1/125秒ですから、計算上は被写体ブレが認識できてしまうことになります。
 残念ながらこの写真を全紙大に引き伸ばしてないので目視確認はできないのですが、ライトボックスでポジを見ると被写体ブレしているのがわかりますので、1.5m離れていても全紙大に引き伸ばせばわずかにブレが認識できると思います。
 電車の辺りを拡大したのが下の写真です。やはり、少しブレているのがわかると思います。

▲上の写真の部分拡大

流れ落ちる滝を撮影する場合

 次に、風景写真で被写体となることが多い滝の撮影の場合です。

 滝は水が同じ形をしたまま落ちるわけではないので、電車のようにあてはめることが妥当ではないかも知れませんが、とりあえず小さな水滴が形を変えずに落ちてくると仮定して進めます。
 滝の流れ落ちる速度は下に行くほど速くなり、滝つぼに落ちる直前が最も速くなるわけですが、その速度を求めるため、いくつかの前提条件を設定します。複雑な条件を設定してもあまり意味がないので、極力簡単になるようにします。

 まず、滝の最上流部(流れ落ちるところ)の流れの速度は0とします。つまり、初速度0m/sの自由落下ということです。
 また、空気抵抗や風の影響は無視し、理想的な等加速度運動と仮定します。

 このような条件下で、落差10mの滝の水が落ち口から滝つぼまで落ちるのに要する時間を求めます。
 自由落下の式は以下の通りです。

  x = 1/2・gt²

 ここで、xは変位(落差)、gは重力加速度(9.8m/s²)、tは時間です。
 この式から時間を求める式に変換すると、

  t = √(x / (1/2・g))

 となりますので、xに10m、gに9.8m/s²をあてはめて計算すると、

  t = √(10 / (9.8/2)) = 1.429秒

 つまり、10mの落差を落ちるのに1.429秒かかることになります。

 次に、1.429秒後の流れ落ちる速度vですが、以下の計算式で求めることができます。

  v = gt

 この式に重力加速度9.8m/s²と時間1.429秒をあてはめると、滝つぼ直前の速度は、

   v = 9.8 * 1.429 = 14m/s = 50.415km/h

 となります。

 これ以降は電車の場合と同じです。
 被写体面までの距離を10m、20m、50m、100m、200mの5通りで計算すると下の表のようになります。

 落差10mの滝でも、大判カメラを使って滝の流れが止っているように写すためには、50mほど離れる必要があるので、もっと大きな滝になるとさらに条件は厳しくなります。
 私も滝はよく撮りますが、滝の流れを止めるほどの高速シャッターで撮ることは多くはありません。高速で写しとめた滝は迫力があるのですが、大判カメラでは非常に条件が限られてしまいます。

回転する風力発電の風車を撮影する場合

 近年、あちこちで見かけることが多くなったものの一つに風力発電の風車があります。海岸近くや丘の上など、風が吹くところに設置されていますが、人工物でありながら妙に風景に溶け込んでいると感じています。福島県の布引高原にも時々行きますが、ここには30基以上の風車があり、とても絵になる風景だと思います。
 この風車、一生懸命働いて(発電して)いるときに近くに行くと、唸りをあげてものすごい勢いで回転しているのがわかります。
 風車は回転しているのがわかった方が写真としては良いのかも知れませんが、この風車のブレード(羽根)が止まっているように写すことを想定してみます。

 風力発電用の風車の大きさもいろいろあるようですが、布引高原に設置されている風車について調べてみたところ、ブレードの直径が71m、ブレードの回転数は6~21.5rpmとのことでした。回転数は風の強さによって異なるので、ほぼ中央値の14rpmとして、ブレードの先端を写しとめるためのシャッター速度を求めてみます。

 風車のブレードは、電車のようにまっすぐ走るのと違って回転運動をしているので、厳密には直線運動とは異なるのですが、簡単にするために直線運動と同じ扱いをします。
 直径71m(71,000mm)のブレードの先端が回転する際に描く円周の長さは、

   円周 = 71,000 * 3.14 = 222,940mm

 です。

 ブレードは1分(60秒)間に14回転するので、1秒間だと14/60=0.233回転となり、ブレードの先端が移動する弧の長さは、

  222,940 * 0.233 = 51,945mm(51.945m)

 になります。

 すなわち、ブレード先端の速度は51.945m/sで、時速に直すと187km/hという、とんでもない速さです。新幹線に匹敵する速度であり、計算間違いかと思いましたがそうでもなさそうです。

 この高速で移動しているブレードが止まっているように見えるためにはどれくらいのシャッター速度が必要か、上と同じように計算した結果が以下の表です。布引高原の風車は巨大で、ブレードの中心までの高さが64m、ブレードが真上に行った時の先端までは99.5mにもなるため、撮影距離は50mからを対象にしました。

 このように、大判カメラの場合、短焦点レンズを使い、最低でも風車から100m離れないとブレードを写し止めることはできないということになります。

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 このような面倒くさい計算を行なわなくても、例えば電車をブラさずに写す場合はこれくらいのシャッター速度ということが経験値によってわかっていることが多いと思いますが、出来上がった写真を見る条件によって、その値はずいぶん変わってしまいます。
 今回は全紙大にプリントしたものを1.5m離れたところから観賞するという前提でしたが、もっと小さなサイズ、例えば四つ切の場合だと、許容されるシャッター速度は半分近く(正確には54.5%)まで遅くすることができます。
 一般的な大判カメラ用のレンズのシャッター速度は最高でも1/500秒ですから、高速で動く被写体を写すのはいかに苦手かということがわかります。

(2022.8.17)

#シャッター速度 #WISTA45 #ウイスタ45

大判写真と35mm判写真は何がどのように違うのか その2:画作りへの影響

 今から10ヶ月ほど前、2021年8月に同じタイトルのページを書きました。大判と35mm判とではフィルム面の大きさが異なることに起因するいくつかの違い(階調や被写界深度、ボケなど)について触れてみました。
 今回は前回とは少し違った視点、構図などの画作りという点から大判写真と35mm判写真の違いについて触れてみたいと思います。
 なお、構図や画作りというのは、階調や被写界深度などのような物理的な違いではなく、あくまでも個人的な主観によるものですので客観的な比較というわけにはいきません。あらかじめご承知おきください。

アスペクト比の違いによる構図決めへの影響

 大判フィルムと35mm判フィルムの違いは大きさ(面積)もさることながら、アスペクト比(縦横比)も大きく違います。一口に大判と言ってもサイズは何種類もありますが、ここでは現時点で一般的に手に入れることができる4×5判を対象にします。

 4×5判のフィルムを横位置にした時の縦横の比率は1:1.26(96mmx121m)です。
 これに対して35mmフィルムの場合は1:1.5(24mmx36mm)ですので、大判フィルムに比べるとかなり横長(縦に置いた場合は縦長)になります。大判フィルムに比べて長辺が約19%伸びていることになります。
 この値は結構大きくて、大判フィルムの左右両端がそれぞれ11.5mm、長くなった状態です。わかり易く図にすると下のようになります。

 このアスペクト比の違いが、撮影するうえでの画作りにものすごく大きな影響があると感じています。
 私が4×5判や中判の中でも67判を多用している理由は、フィルム面が大きいことによる画像の美しさもありますが、四切や半切、全紙などのアスペクト比に近いというのも大きな理由です。特別な意図や事情がない限り、撮影したものをできるだけ切り捨てず(トリミングせず)にプリントしたいというときに、アスペクト比が近いというのはとてもありがたいことです。
 最近ではA4とかA3というサイズが増えてきていて、これは35mm判フィルムのアスペクト比に近いので、フィルムにしてもデジタルにしても35mm判(フルサイズ)を使う場合にはその方が都合が良いわけです。

 そういった意味ではどちらが良いということではなく、慣れの問題と言えると思いますが、アスペクト比に対する慣れというのはとても重要なことだと思っています。

 上でも書いたように、横位置に構えた場合、4×5判に比べて35mm判の横方向は19%も長いわけですから、かなり広範囲に渡って画面に入り込んできます。縦(上下)方向を基準に4×5判のアスペクト比1:1.26の感覚で画面構成しようとすると、左右が広すぎて収まりがつかなくなってしまいます。
 逆に横(左右)方向を基準にすると上下が切り詰められたようで、とても窮屈な感じを受けます。

 例えば日の丸構図のように、主要被写体を画中央に配置した場合、4×5判だと左右の空間は上下のそれと比べて少し広い程度ですが、これが35mm判だと左右の空間がとても広くなります。そしてこれは主要被写体を中央に配した場合に限らず、三分割構図などのように左右のどちらかに寄せた場合でも同じで、反対側の空間が広くなりすぎて、うまく処理しないと余計なものが写り込んだり、無意味な空間ができたりしてしまいます。

 これは中判フィルムを使った69判の場合もアスペクト比が35mm判とほぼ同じなので、同様のことが起こります。

 一方、35mm判のアスペクト比で構成した画を4×5判のアスペクト比に収めると、左右がカットされて窮屈に感じたり、左右を切り詰めなければ上下が広くなりすぎ、締まりのない写真になってしまうと思います。

 実際に撮影した写真を例にとってみるとこんな感じになります。
 下の写真は奥入瀬渓流で撮影したものですが、4×5判のアスペクト比で画を構成したものです。

▲アスペクト比 1:1.26(4×5判相当)で撮影した場合

 これに対して、上下方向の範囲を変えずに35mm判のアスペクト比で撮影したのが下の写真です。

▲アスペクト比 1:1.5(35mm判相当)で撮影した場合

 どちらの写真が良いとか悪いとかではなく、また、好みもあると思いますが、写真から受ける印象がずいぶん違うということです。
 当然、左右が広い分だけ35mm判のアスペクト比の方が横の広がりを感じ、パースペクティブの影響で奥の方から流れてきているように見えます。広さや動きを表現したりするのに向いていますし、ダイナミックな画をつくることができます。
 一方、4×5判のアスペクト比の場合、横の広がりは抑えられてしまいますが、流れにボリューム感が生まれているように思います。
 ただし、この写真を例にとると、35mm判アスペクト比の場合は左右が広く写るので川の両岸、特に右岸(画面左側)の処理がうまくいってない印象を受けます。反対に、左右が広く取り入れられているので全体の様子がわかり易いと言えるかも知れません。

 こうして2枚を比べてみると、35mm判アスペクト比の場合は広がりや力強さを表現し易いフォーマットであるのに対して、4×5判アスペクト比の場合は全体に落ち着いた感じ、安定した感じを受けるフォーマットのように感じます。その分、35mm判アスペクト比の写真に比べる物足りなさを感じるかも知れません。
 ですが、いずれにしても、同じ場所を撮影してもアスペクト比によって写真から受ける印象はずいぶん異なるということです。
 このように、35mm判と4×5判の写真を比較すると、階調や被写界深度、ボケなどによる違いも大きいですが、アスペクト比の違いはフレーミングや構図の仕方にも影響を及ぼすので、数値では表せませんが非常に重要な要素であると思います。

 4×5判や67判で撮影していると、「もうちょっとだけ、横の広がりが欲しい」と思うこともありますが、決められたフォーマットの中にどう収めるかを考えるのも重要なプロセスかも知れません。

写真の四隅に対する気配りの違いによる影響

 フレーミングや構図を決めるというのは35mm判であろうが大判であろうが、撮影における欠かせないプロセスの一つですが、この際に、フォーカシングスクリーンの四隅に神経をいきわたらせる度合いが、大判カメラの方が大きいような気がしています。
 一般的に主要被写体は中央部、もしくは中央部付近に配置することが多く、極端に隅の方に配置することはそれほど多くありません。そのため、どうしても中央部周辺には意識が向きますが、周辺部、特に四隅には意識が向きにくいという傾向があるように思います。

 35mm判カメラの場合、一眼レフカメラにしてもレンジファインダーカメラにしても、ファインダーをのぞき込めば全体が容易に見渡せ、ピントの状態も一目でわかります。
 これに対して大判カメラの場合、特に短焦点レンズの場合はスクリーンの周辺部が暗くなってしまったり、肉眼だけでは正確なピントの状態がわからないなど、全体を一目で確認することが困難な場合が往々にしてあります。画面の周辺部に余計なものが写り込んではいないか、画全体のバランスを欠いていないか、ピントは大丈夫か等々、いろいろなことを気にしながらスクリーン全体を何度も見直しします。

 このような手間のかかるプロセスを経ることによって、結果的に大判カメラで撮影した方が四隅に神経が行き届いた写真になることが多いというのが私自身の実感です。
 もちろん、35mm判カメラでも四隅に注意を配ることはできますが、全体が容易に見渡せるがゆえに、大判カメラほどには気を配らずにシャッターを切ってしまうということがあるということです。

 周辺部に気を配らずに撮った写真を見ると、撮影時点では気がつかなかったものが写っていたり、余計な空間ができていたり、全体的に何となく締まりのない写真なってしまうことがあります。
 主要被写体さえしっかり写っていれば良しという考えもありかも知れませんが、やはり周辺部に締まりがないと主要被写体のインパクトも弱くなってしまいます。

 そしてこれは、前の節で書いた画作りとも密接な関係があると思っています。
 つまり、35mm判の方がアスペクト比が大きい分、中心部から四隅までの距離が長くなるわけで、そのため、より意識を向けないと四隅が甘くなってしまう可能性が高まってしまうということです。
 35mm判カメラと大判カメラの構造的な違いによって、大判カメラの方が周辺部に意識を向けざるを得なくなるということ、また、何しろフィルム代が高いので失敗は許されないという意識が働くのかも知れませんが、思いのほか、写真の出来には大きな影響を与えているように思います。

ピントとボケのコントロールによる影響

 大判カメラの大きな特徴はアオリが使えることですが、それによってピントを合わせたりぼかしたりということが自由にできます。
 35mm判の一眼レフや中判一眼レフのカメラやレンズは、ごく一部の製品を除いてはレンズの光軸が固定されています。これに対して大判カメラは、意図的に光軸をずらすことでピントのコントロールを自在に行なうことができます。

 代表的なのが風景撮影でよく使われるパンフォーカスですが、近景から遠景までピントが合った状態にすることができ、視覚的にとても気持ちの良い写真に仕上がります。
 また逆に、レンズの絞りを目いっぱい開いてもボケてくれないような状況でも、アオリを使うことで大きくぼかすこともできます。

 下の写真は福島県にある滝を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM105mm F22 16s ND8使用

 アオリを使って撮影してるため、川の中にある足元の石から奥の滝まで、ほぼパンフォーカスの状態です。

 焦点距離105mmのレンズを使い、絞りはF22で撮影していますが、絞り込んだだけではここまでパンフォーカスにはなりません。
 このようにピントやボケをコントロールすることで、35mm判カメラで撮影したものとは雰囲気の異なった写真にすることができます。

 また、ボケをコントロールすることで主要被写体を浮かび上がらせたり、写ってほしくないのだけれど画の構成上、どうしても入ってしまうものをぼかすことで目立たなくしてしまう、というようなこともできます。

 いまはレタッチソフトでかなりの加工がきてしまうので、ボケのコントロールもパソコン上で自由自在といったところですが、フォーカシングスクリーン上で意図したボケの状態を作り出す面白さというのが大判カメラにはあると思います。

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 今回触れた三つの違いのうち、アスペクト比に起因する画作りの違いと、画の四隅に対する気配りの違いというのは物理的なものではないので、撮影の時点で注意をすれば大判カメラであろうと35mm判カメラであろうと同じような状態にすることができます。ですが、やはりアスペクト比に対する慣れというものは影響力が大きく、わかってはいても不慣れなアスペクト比ではなかなか思うように撮れないことも多いというのが正直なところです。
 フィルムフォーマットに縛られてしまうと本末転倒ですが、フィルムフォーマットを活かした画作りは意識すべきことだと思います。

(2022.7.1)

#アオリ #写真観 #構図

リバーサルフィルムのラチチュードは本当に狭いのか?

 一般にリバーサルフィルム(ポジフィルム)はラチチュード(適正露光域とか露出寛容度)が狭いので露出設定がシビアだと言われています。この「狭い」というのが何と比べて狭いのかというと、カラーネガフィルムと比べて狭いと思われているふしがあるようなのですが、ちょっと違うような気がしています。
 私は圧倒的にリバーサルフィルムを使う頻度が高く、確かに露出設定には神経を使いますが、特段、カラーネガに比べてラチチュードが狭いとは感じたことはありません。
 リバーサルフィルムを使った撮影はハードルが高いと言われることもありますが、決してそんなことはないと思っています。

カラーリバーサルとカラーネガのフィルム特性

 何故、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言われているかというと、写真としてのそもそもの使い方の違いから来ているのではないかと思います。リバーサルは現像した時点で完成形ですが、カラーネガの場合は現像しただけでは完成しておらず、プリントが前提となっています。このため、プリントの段階で調整がきくので、カラーネガはラチチュードが広いと思われているのではないかということです。
 確かにプリントの段階で調整できるのはその通りですが、これはフィルム上に大きく圧縮された画像を、コントラストの高いペーパー上に伸長させて再現することで実現しているわけです。

 残念ながらずいぶん前に終了してしまいましたが、ダイレクトプリントというサービスがあり、リバーサルフィルムから直接プリントできました。ネガフィルムからのカラープリントに比べると、プリント時の調整幅は狭く、シャドー部がつぶれがちであったりしましたが、インターネガを介してプリントするとカラーネガフィルムからのプリントに引けを取らない調子が再現できていました。
 それを考えると、カラーネガフィルムに比べてリバーサルフィルムのラチチュードが狭いとは言い切れないのではないかと思います。

 富士フイルムから出ているデータシートからフィルムの特性グラフを参照してみました。フジカラーPRO 160 NHというネガフィルムと、フジクロームVelvia 100Fというリバーサルフィルムの比較です。

 ネガフィルムの場合、実際の被写体の明暗が反転した状態でフィルムに記録されるので、光が当たった部分が暗くなります。すなわち、グラフ上の濃度の数値が大きいということになります。逆に光が当たってない部分は明るくなるので、濃度の数値が小さくなります。
 一方、リバーサルフィルムはネガと反対ですから、光の当たった部分は濃度が低く、光の当たってない部分は濃度が高くなります。このため、グラフの傾きは、ネガとリバーサルで反対になります。

 上のグラフの横軸の相対露光量の範囲を見ると、ネガ(PRO 160 NH)はおよそ-3.6~+0.5、リバーサル(Velvia100F)はおよそ-3.4~+1.0となっていて、若干の違いはあるものの、露光量に対して画像として記録できる範囲に大きな差はありません。
 ただし、曲線の傾きがネガの方が緩やかで、リバーサルはネガに比べて傾きが大きいことがわかります。これは、ネガの方が広い露光範囲で露光量に応じた濃度が得られることを意味しています。

 また、曲線が示す最大濃度はネガが約2.7(青)に対して、リバーサルは約3.8(緑)ですから、リバーサルの方が高い濃度まで再現できることになります。しかし、リバーサルは相対露光量が-0.2くらいで曲線がフラットになってしまいますが、ネガは+0.5でもまだフラットになっていません。
 これが、ネガは露出をオーバー気味にした方が良く、リバーサルは露出をアンダー気味にした方が良いと言われている原因ではないかと思います。
 とはいえ、あくまでもフィルムの特性が示す傾向であって、意図を持った作品作りを除けば、再現性という点ではネガでもリバーサルでも適正露出で撮るのが望ましいはずです。

ポジ原版をライトボックスで見てみると..

 リバーサルフィルムの特性曲線のグラフで、相対露光量の多いところと少ないところでは曲線の傾きがなだらかになっています。これは、黒くつぶれてしまっていたり、白く飛んでしまっているように見える画像の中にもコントラストとして記録されてるということです。

 実際にリバーサルフィルムで撮影した中から、黒くつぶれているところが多いポジ原版を探してきました。ライトボックス上で撮影したのが下の写真です。

 肉眼で見たのと同じようにはいきませんが、画の右半分が真っ黒につぶれているのがわかると思います。
 まだ陽が十分に差し込む前の渓谷で撮影したものですが、黒くつぶれた右半分のさらに上半分はこの渓谷の左岸にある岩肌で、下半分は水面なのですが上の岩肌を映しこんでいて、結果、右半分が真っ黒といった状態です。肉眼で見た時には岩肌ももっと明るく見えたのですが、撮影するとこんな状態です。人間の眼のすばらしさをあらためて感じます。

 それはさておき、この写真ではほとんどわかりませんが、この黒くつぶれた中にも所どころ明るい箇所があり、何やら写っているというのが見てとれます。墨で塗りつぶしたように真っ黒というわけではなさそうです。特に右下の辺りは川底の石がぼんやりと見えるので、それなりの画像は記録されていると思われます。

黒つぶれしているポジ原版をスキャンしてみる

 では、このポジ原版をスキャンしてみます。
 特に画質調整などの加工はせず、スキャンした素のままの画像が下の写真です。

 ポジ原版をライトボックスの上に乗せて撮影したものに比べると、多少は細部も認識できるとは思いますが、アンダー部が黒くつぶれているのは変わりありません。画の左半分がほぼ適正露出なのに比べると明らかにアンダーです。
 それでも、ポジを肉眼で見たのに比べると画像が記録されている印象を受けるので、どの程度のまで認識できるかをレタッチソフトで明るくしてみます。画質をあまり犠牲にしないようにして、極端に劣化されない範囲で明るくしてみたのが下の写真です。右側上部の岩の部分です。

 一見、黒くつぶれているように見えますが、実はかなりのディテールまで画像として認識できるレベルに記録されています。もちろん、この著しくアンダーな部分を救済すれば、ほぼ適正露出である左半分は大きく露出オーバーになってしまいます。ですが、黒くつぶれているとはいえ全く画像が認識できないわけではなく、それどころかかなり鮮明に記録されているといえます。
 これが黒い中にも微妙なコントラストがある、リバーサルフィルムの表現力ではないかと思います。

 特性曲線のグラフでもわかるように、相対露光量に濃度が比例する範囲は狭いかも知れませんが、その前後が画像として記録されていないわけでなく、しっかりと記録されています。
 そういう視点からすると、一概にリバーサルフィルムのラチチュードが狭いと言い切ってしまうことはできないと思います。むしろ、露光量が少ない範囲においてもしっかりと記録できるパフォーマンスを持っていると言っても良いのではないかと思います。

 因みに、この写真の左半分にある木々の緑に対して、右側の黒くつぶれているように見える箇所の測光値は-3EV以上になります。

 なお、この写真の右半分があまり明るくなってしまうと重厚感がなくなり、この場の雰囲気が大きくそがれてしまいます。もう少し明るくても良かったとは思いますが、意図して撮影した範囲ではあります。

白飛びでも画像として認識できるか?

 黒つぶれとは反対に、露出オーバーで白く飛んでしまった状態でも画像として記録されているのか気になるところです。
 ポジ原版のストックを探したのですが適当なものが見つかりません。唯一、露出設定を著しく間違えて撮影したポジがありましたので、これで検証してみます。

 このポジは滝を撮影したものです。NDフィルターを装着して撮影するつもりでしたが、ピント合わせなどをした後にNDフィルターをつけるのを忘れてたか、NDフィルターはつけたが絞り込むのを忘れてシャッターを切ってしまったかのどちらかですが、いずれにしろ実にお粗末な結果と言わざるを得ません。たぶん、これだけスケスケ状態になっているので、絞り込むのを忘れていたのだろうと想像しますが、そうすると5EVほどの露出オーバーということになります。
 ポジ原版を見ても何が写っているのかよくわかりません。撮影した本人でさえわからないのですから、他人からすれば全く認識不能といったところでしょう。

 この写真の中央付近を切り出して、無理矢理に画質調整をしてみたのが下の写真です。

 岩の質感などはわかる程度にはなりましたが色調はどうしようもなく崩れており、もはや写真として成り立たないレベルです。しかしながら、真っ白に近い中にこれだけの情報が残っているというのは驚きです。
 この例は極端すぎますが、3EVくらいのオーバーであればもう少しまともな画像が得られるのではないかと思います。

リバーサルフィルムのラチチュードは決して狭くない

 リバーサルの場合は現像が上がった時点で完成ですから、今回のようにレタッチソフトで画質調整をすることに意味があるとは思いませんが、真っ黒につぶれているように見えたり真っ白に飛んでしまっているような中にも、かなりしっかりと記録されているというのは事実であり、フィルムの力だと思います。
 また、露出オーバーよりも露出アンダーの方がよりしっかりと記録されており、特性曲線と一致しています。もっともこれは、露光量が増えれば増えるほど情報が消えていってしまうので、当たり前のことと言えますが。

 リバーサルフィルムは、特性曲線が傾いている範囲がカラーネガに比べて少ないのでラチチュードが狭いと言われているのかもしれませんが、決して狭いわけではないと思います。
 黒くつぶれたり白く飛んだりしている中にも情報が記録されていることでべったとした感じにならず、良くわからないけれど何やら写っている、というような印象を受けることで写真全体の雰囲気が変わってきます。ここにフィルム独特の味わいが醸し出されているのではないかと勝手に思い込んでいます。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 モノクロプリントやカラープリントはもちろんですが、リバーサルフィルムからのダイレクトプリントでも覆い焼きや焼き込みといった作業で色を調整したりディテールを引き出したりしていたことを考えると、リバーサルフィルムの潜在能力の凄さをあらためて感じます。
 そして、特性の違いはありますがカラーネガフィルムに比べてハードルが高いということはなく、特に構えて使うフィルムでもないと思っています。むしろ、特性を知っておくことでいろいろな使い方ができる、そういったことに応えてくれるフィルムだと思います。
 ただし、お値段はお高めですが...

(2022.6.19)

#リバーサルフィルム #露出

縦長パノラマ写真の魅力 -6×12フィルムホルダーで撮る掛け軸写真-

 パノラマ写真を撮る頻度は決して高くありませんが、大判カメラを持ち出すときは必ずと言っても良いくらい、6×12のロールフィルムホルダーも持っていきます。
 パノラマ写真というのは、自分が撮るのも含めて圧倒的に横長が多いのですが、縦長のパノラマ写真というのは不思議な魅力があります。縦長のパノラマ写真はなかなか思うように撮れないのですが、今回は数少ない縦長パノラマ写真を何枚かご紹介したいと思います。

人間の視野角にあてはまらないフォーマット

 横に対して縦が極端(概ね2倍以上)に長い画像を見ると、最初はちょっとした違和感を感じます。理由はよくわかりませんが、縦長の画像を見た時に、視点が画像の下から上に動くのが自分でもわかります(私の場合、上から下ではなく、常に下から上に動くというのが何とも不思議です)。この、パッと見た後に、なめるように視点が上に移動することが違和感となっているのかもしれません。

 人間の眼の視野角というのは個人差がありますが、水平(左右)方向に180~200度、垂直(上下)方向に120~130度のようです。水平方向の方が垂直方向の約1.5倍も広く見ていることになり、これは比率にすると約3:2となります。つまり、人間は自然にものを見た時に、3:2のアスペクト比で画像をとらえているということのようです。35mmフィルムの一コマが36mmx24mmで、アスペクト比が3:2になっているのは偶然ではないのかも知れません。
 それはさておき、人間の眼は横長にとらえるのが自然であるならば、縦長の画像を見た時に違和感のようなものがあるのは当然のようにも思えます。

 しかし、縦長のパノラマ写真にはちょっとした新鮮さのようなものが感じられて、つい撮りたくなってしまいます。縦に細長く切り取られた画像の両サイド(左右)の外側が妙に気になったりもしますが、一方で、狭く窮屈なフォーマットの中にバランスよく収まった画像には無駄のない美しさのようなものも感じます。まさに「掛け軸写真」といった感じです。
 が、これは単純に普段見慣れている横長の画像とは異なっているからかも知れません。

縦長パノラマの構図はなかなか決めにくい

 そんな不思議な魅力を持った掛け軸写真ですが、実際に撮るとなると構図決めに結構苦労します。
 テーブルフォトのように被写体を自由に動かすことができれば良いのですが、自然が相手の場合はそういうわけにもいかず、横1に対して縦2のアスペクト比に収める構図を探すのが思いのほか大変、というのが私の実感です。適当に撮ると、写真の上下に無駄なものがたくさん入っていたり、左右が狭められてとても窮屈な写真に見えてしまったりします。

 例えば、広い風景などでは近景、中景、遠景がうまい具合に配置されると、全体としてまとまりもあり、奥行き感もある写真になるのですが、これがなかなか難しいです。
 また、空間の取り方も難しく、変なところに配置すると無駄な部分がとても目立ってしまいます。
 私が多用しているフィルムは4×5判や67判なので、アスペクト比はおよそ1.2:1(横:縦)ですから、縦長パノラマにこのような戸惑いを感じるのは仕方がないかも知れません。

 4×5判や67判は長年使っているので写し込める範囲が感覚的につかめるのですが、縦長のパノラマは慣れていないせいか、その感覚がイマイチしっくりときません。そのため、6×12サイズのプアマンズフレームを自作して、これを持ち歩きながら、ここはといった場所でフレームをのぞき込んで構図を確認しています。

縦長パノラマ写真(掛け軸写真)の作例

 思うように撮れない掛け軸写真ですが、これまで撮った中から何枚かをご紹介します。いずれも大判カメラに6×12のロールフィルムホルダーを装着しての撮影です。

 まず、1枚目の写真は長野県にある八岳の滝です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W150mm F32 4s PROVAI100F

 多くの滝は横幅よりも高さの方が大きいので、掛け軸写真にし易い被写体と言えると思います。この滝も高さに比べて横の広がりはあまりないので、この縦長フォーマットにうまい具合に納まってくれました。
 4×5判や67判で撮るともっと横の広がりがあり、滝の周囲の環境が良くわかるのですが、このような縦長フォーマットで撮ると滝が強調され、画全体がシンプルな構成になります。
 また、滝を正面からではなく、向かって左手方向から撮っているので、画の左上から右下にかけての滝のラインが出せており、安定感も出せたのではないかと思っています。

 2枚目も同じく長野県北部にある小菅神社の参道です。

▲WISTA 45SP Schneider APO-SYMMAR 150mm F32 2s PROVAI100F

 参道の両側に大きな杉の木が立っている場所なので、これも掛け軸写真には向いている風景だと思います。杉並木が奥へと続く参道をより狭く感じさせているのと、縦長フォーマットにすることで杉の木の高さも感じられると思います。
 この写真では、できるだけ杉の木の上の方まで入れるため、カメラを上方に振っていますが、そのままだと杉の木の上部が中央に寄ってしまいます。それを防ぐため、フロントライズのアオリをかけています。

 次の写真は、埼玉県で通りがかりに偶然見つけた巨木です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W180mm F22 1/4 PROVAI100F

 木の種類(名前)はわかりませんが、まだ芽吹きの前で、朝焼けのグラデーションの中に綺麗なシルエットとなって立っていました。
 個人的には木の占める割合をもう少し少なくしたかったのが本音です。その方が掛け軸っぽくなるだろうと思います。ちょっと掛け軸写真というイメージからは外れてしまった感じです。

 さて、次の写真は栃木県の宮川渓谷で撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W125mm F32 4s PROVAI100F

 大きな渓谷ではありませんが、奥からS字を描いている流れがとても綺麗です。左端中央あたりの流れが少しちょん切れてしまい、窮屈感が否めませんが、奥行き感はまずますといったところでしょう。もう少しだけ、短焦点のレンズを使った方が良かったかもしれません。
 滝のように高さはないのですが、奥行き感を出せれば掛け軸写真になるという感じです。
 また、手前から奥までパンフォーカスにするため、フロントティルトのアオリをかけています。

 次は、山梨県の河口湖畔から富士山と桜を撮った写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON SW90mm F45 1/8 PROVAI100F

 縦長に収めるため、桜の木の真下に入って短焦点(広角)レンズで見上げるようなアングルで撮りました。富士山の占める比率を2割くらいにし、残りの8割は桜で埋めています。もう少し桜のボリュームが欲しかったところですが、そうすると花に陽が当たらず暗くなってしまうので、まばらに咲いている枝を選びました。
 富士山の下の方には河口湖の水面が見えるのですが、建物などの人工物も写ってしまうため、フレーミングから外しました。

 最後の写真は、近所の公園で撮影した桜(フゲンゾウ)のアップです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W250mm F5.6 1/30 PROVAI100F

 この桜は八重咲で、しかも花が大きいのでとても豪華な感じがします。花は淡いピンクで、上品な色合いです。
 このように、数輪の花を縦長のフォーマットに入れると空間がたくさんできてしまいますが、そこに何かを入れるとゴチャゴチャしてしまいますし、なにも入れないと間の抜けた感じになってします。バックには別の枝があるのですが、これを目いっぱいぼかし、形はわからず、色合いだけがわずかに残るようにしました。

 このような構図の時に花の位置をどこにするか、何しろ空間が多いので非常に悩みます。結局、中央より少し下目に置いたのですが、もう少し下の方が掛け軸写真には向いていると感じています。

縦長パノラマ写真(掛け軸写真)はディスプレイにも苦労する

 掛け軸写真でもう一つ苦労するのがディスプレイです。
 ポジ原版をライトボックスで見るだけであったり、パソコンのモニタに映すだけであれば特段問題はないのですが、プリントして額装しようとすると結構大変です。

 まずプリントですが、このようなアスペクト比の用紙などそもそもありませんから、大きな用紙の一部を使うことになります。当然、左右の余白はカットしてしまいますので非常にもったいないです。一枚の用紙に2枚の写真を並べてという方法も考えられますが、それには最低でも半切以上の大きさが欲しいですし、そうなるとプリンタの制限も生じてきます。

 そして、プリントよりも難題なのが額です。
 規格品にはあろうはずもなく、額装するのであれば特注するしかありません。特注すればどのような額でも大概は作ってもらえますが、コストは覚悟しなければなりません。
 市販品の額のマット紙だけを自作、または加工してもらう方法もありますが、マット幅が上下と左右で異なるのは格好良くありません。

 床の間にかける掛け軸のように表装するのもありかと思いましたが、写真に表装は似合わないと思います。

 ちなみに額装するとこんな感じになるのですが、こんな額に入れられるような写真を撮りたいものです。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 縦長パノラマ写真、掛け軸写真はうまくいくとインパクトのある写真になりますが、時間とお金をかけて額装するほどの写真にするのが難しいというのが正直なところです。
 しかしながら、掛け軸写真はやめられそうもありませんので、これからも細々と続けていこうと思っています。

(2022年3月12日)

#ホースマン #Horseman #パノラマ写真 #リバーサルフィルム #構図

花を撮る(5) 夏の終りから秋に咲く花

 今年(2021年)の東京の夏は短かったという印象です。9月になると急に暑さがやわらぎ、一気に秋が来たのではないかと思えるような日が続いていました。急激に秋になってしまうのではないかとも思いましたがそんなことはなく、30度を超える日も数回あったと記憶しています。
 野に咲く花も、夏の花から秋の花に変わっていくのが感じられる季節です。今回は夏の終りから秋にかけて咲く野草を紹介します。

秋桜(コスモス)

 秋といえば何といっても秋桜を外すわけにはいきません。もともとはメキシコ原産らしいですが、今ではすっかり日本の風景となっています。「風を見る花」というロマンチックな愛称を持っており、秋を感じさせてくれる代表的な花となっています。
 田圃の畦や農道の脇に咲く秋桜も風情がありますが、牧場などで大群生している姿は圧巻です。花の色が白やピンク、赤など多彩なのも華やかさを増していると思います。

 秋桜で有名な長野県の内山牧場で撮ったのが下の写真です。

▲秋桜 PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 内山牧場は3haもの広大な丘陵地に100万本の秋桜が咲くお花畑です。
 青く澄み渡った空と咲き誇る秋桜のコラボレーションも見事ですが、上の写真は朝日が昇ってきたところを逆光で撮りました。正面にある林の上に朝日が顔を出して、秋桜畑に光が差し込んだ瞬間です。
 300mmの望遠レンズを使い、すぐ手前にある秋桜を大きくぼかし、かなり先の方にある秋桜にピントを合わせています。ピントが合っている範囲はごくわずかです。

 もろに逆光ですので、秋桜の本来の花の色は損なわれていますが、花一つひとつが発光しているような描写を狙ってみました。

 色温度の低い朝の光なので、全体的に赤っぽくなっています。色温度補正フィルターで赤みを落としても良いのですが、このままの方が朝の雰囲気が感じられると思います。

 太陽が正面にあるので、レンズに直接光が当たらないようにハレ切りを使っています。
 このような感じに写せるのはほんのわずかな時間です。太陽が高くなってくると光も白くなりますし、上からの光になるので、秋桜が光り輝くようにはなりません。

ガガイモ

 夏の終り頃から良く見かける野草です。つる性の植物で繁殖力がかなり強いらしく、雑草化してしまうのでどちらかというと嫌われ者のイメージがあります。
 薄紫色の星形をした、小さな可愛らしい花をつけます。細かい毛が密生しているため、砂糖菓子のような感じもします。

 下の写真は雨上がりに撮影したガガイモの花です。

▲ガガイモ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 M135mm 1:4 F4 1/125 EX3 PROVIA100F

 小さな花なので、俯瞰気味に撮ると葉っぱやつるの中に小さな花が埋もれてしまい、花の可愛らしさがまったく浮かび上がってきません。
 半逆光気味になるよう、下から見上げる感じで撮ると花の表情が出せると思います。
 そして、背景には余計なものを入れず、できるだけシンプルにした方が引き立ちます。

 この写真、太陽の位置は画面のほぼ右側の真上方向にあり、トップライトに近い感じで撮影しています。花に立体感を出すため、陰になる部分ができるような位置を選んでいます。
 そして、背景はできるだけ暗くなるように、日陰になっている林を入れました。陽が当たっている花と背景のコントラストが大きいので、真っ黒で平面的になり過ぎないよう、光が差し込む木々の隙間を右上に入れました。

 そのままでも十分に可愛らしい花ですが、水滴がつくことでみずみずしさも出ているのではないかと思います。
 なお、中望遠のレンズに接写リングをつけて撮影しています。

ヤマハギ

 秋の七草のひとつです。山地の草地などに自生しており、早いものでは7月の終り頃から咲き始めるものもあります。背丈は2メートルほどにもなり、紫色の花をびっしりとつけた姿は見応えがあります。
 観賞用として庭に植えられているのを見かけることも多いですが、鎌倉に行くと宝戒寺をはじめ、萩寺と呼ばれる萩の咲く名所がたくさんあります。

 牧草地に咲くヤマハギを撮ったのが下の写真です。

▲ヤマハギ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX-M 67 300mm 1:4 F4 1/250 PROVIA100F

 こんもりと生い茂った姿も秋らしい風景ですが、萩の花を輝かせるため、早朝の太陽があまり高くなる前の時間帯に逆光気味で撮影しました。バックは草地ですが、ところどころに萩の紫色がボケて入っています。
 暗い背景を選んで、萩の花を浮かび上がらせても綺麗だと思うのですが、初秋の早朝のさわやかさを出すために、あえてハイキー気味で撮っています。
 萩だけではなんとなく締まりがないので、咲き始めたワレモコウの花を隣にいれてアクセントになるようにしてみました。
 また、あまりうるさくなりすぎない程度に、適度に玉ボケを入れています。

 バックをできるだけシンプルにするため、300mmの望遠レンズでの撮影です。
 萩の咲く風景として撮影する場合はもっと短い焦点距離のレンズを使いますが、萩をポートレート風に撮るには長い焦点距離の方が萩の表情を引き出すことができます。

イヌタデ

 畑や道端、野原などでごく普通に見ることのできる野草ですが、秋を彩る野草の一つだと思います。
 子供がままごとで、この花を赤飯に見立てたところから「アカマンマ」という名前で呼ばれたりしますが、何とも風情のある名前です。
 時に畑や田んぼを埋め尽くすほどの大群落をつくることもあります。

 日当たりの良い畑に咲いていたイヌタデを撮ってみました。

▲イヌタデ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX3 PROVIA100F

 群落というほどではありませんが、かなり広範囲にわたって咲いていました。イヌタデだけでも配置をうまく考えれば画面のバランスはとれると思うのですが、クローバー(シロツメクサ)も所どころに見られたので、これも入れてみました。

 ほとんどが背丈の低いものばかりのため、小さな花が背景に埋もれないよう、地面にすれすれの位置からの撮影です。画面の下の方に下草を入れて、その間から顔を出している様子がわかるようにしています。
 太陽の光がちょっと強すぎる感じです。薄雲がかかって、もう少し柔らかな光になってくれると良かったのですが、ぎりぎり、初秋らしい光の感じにはなっているかと思います。

 200mmの中望遠レンズに接写リングをつけての撮影ですが、接写リングをもう一個くらいかませて、被写界深度をもう少し浅くしても良かったかと思っています。

ユウガギク

 日当たりの良い草地でよく見ることができます。漢字で書くと「柚香菊」で、かすかに柚のような香りがすると言われています。夏の終り頃から晩秋まで、比較的長い期間咲いています。
 花の大きさは3cmほどと小さいですが、たくさんの花をつけるので華やかな感じがします。

 田圃の畦に咲いているユウガギクを撮ってみました。

▲ユウガギク PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/60 EX2 PROVIA100F

 ユウガギクの花弁の白と、周囲の草の緑のコントラストがきれいでした。花はたくさん咲いていましたが、一輪だけにピントを合わせ、他の花はアウトフォーカスにしました。
 白い花弁の質感が飛んでしまわないよう、花弁をスポット測光して露出を決めています。実際には全体的にもう少し明るい感じだったのですが、花の質感を残すためにはこれが限界といった感じです。

 いろいろな草の葉っぱが入り乱れており、雑然とした感じもしますが、そういところに咲いている状況を出したかったので、あまり整理しすぎないようにしました。

 ユウガギクによく似たノコンギクやカントウヨメナなども同じ時期に咲く仲間で、あちこちで見かけることができます。早朝、朝露に濡れた姿は趣があります。

エゾリンドウ

 秋の山を代表する多年草です。鮮やかな紫色の花色は遠目にもよく目立ちます。すっと伸びた茎はとてもスマートですが、大きめの頭がアンバランスな感じで、ちょっとユーモラスにも思えます。

 花屋さんで切り花として売っているのはこのエゾリンドウの栽培種らしいです。

 下の写真は山地の草原に咲くエゾリンドウです。

▲エゾリンドウ PENTAX67Ⅱ smc PENTAX67 200mm 1:4 F4 1/30 PROVIA100F

 標高が高いので草紅葉が始まっています。短い夏が過ぎ、秋も深まりつつある感じがする景色です。花の色が鮮やかなため、アップで撮ると華やかさが際立ちすぎてしまうので、草紅葉をいれて秋の寂しい感じが出るようにしました。
 花の密度が濃いところもあったのですが、あまりたくさん咲いているところよりもある程度の間隔をもって咲いている方が秋らしさが出ます。
 もう少し露出を切り詰めても良かったかもしれませんが、これ以上切り詰めると花の色が濁ってしまいます。エゾリンドウが咲いている風景として作画する場合はもっとアンダー気味が似合うと思います。

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 夏に咲く花と比べて秋に咲く花は色も地味目で、花の大きさも小型なものが多くなります。どことなくもの悲しさを感じることもありますが、それもまた秋に咲く花の魅力の一つだと思います。

(2021.10.12)

#ペンタックス67 #PENTAX67 #野草 #プロビア #PROVIA

写真撮影における測光と露出設定(3) 風景撮影における測光方式

 前回まで、露出や測光に関する基本的なことを説明してきましたが、3回目の今回は、風景写真を撮る際に用いる主な測光方式について進めていきます。風景撮影においては反射光式露出計を使って測光することが多く、入射光式露出計とは違った測光方式になります。そのあたりを、撮影事例を交えながら説明していきたいと思います。

リバーサルフィルムのラチチュード

 測光方式の前にフィルムの「ラチチュード」について簡単に触れておきます。
 ラチチュードとは「適正露光域」とか、「露出寛容度」とか訳されていますが、フィルム上で階調がなくならず、画像として成立する範囲のことをいいます。暗すぎると階調がつぶれて真っ黒になってしまい、明るすぎると階調が飛んでしまい真っ白になってしまい、いずれも画像として認識できなくなってしまいます。
 簡単に言うと、どのくらいの暗さから、そして、どのくらいの明るさまで再現できるか、その範囲のことを指します。

 リバーサルフィルの場合、このラチチュードは約5EVと言われています。モノクロのネガフィルムが約9EVといわれていますから、リバーサルフィルムのラチチュードが狭いことがわかります。
 5EVというのは輝度比でいうと1:32になります(いちばん暗いところの輝度を1としたとき、最も明るいところの輝度が32ということです)。

 ニュートラルグレーの輝度を基準にしたとき、フィルム上に再現できる最も明るいところ(白レベル)は基準から「+2・1/3EV」で、最も暗いところ(黒レベル)は基準から「-2・2/3EV」になります。この範囲を超えたところは真っ白に、または真っ黒になってしまいます。

 以下、風景撮影での測光方式について説明をしていきますが、カラーリバーサルフィルムでの撮影を前提としています。モノクロネガフィルムやカラーネガフィルムでは設定が異なりますのでご注意ください。

ハーフトーン測光

 ハーフトーン測光は、最も標準的な測光法であるいえると思います。被写体の中で、ニュートラルグレーに近い反射率(ハーフトーン)を持った部分を測光し、その測定値で絞り値とシャッター速度を設定して撮影します。
 この測光方式は簡単ですが、被写体の中のニュートラルグレーに近い反射率を持った部分が、写真を構成するうえで中心的な存在となっていることが必要です。
 ニュートラルグレーが実際にどのような色(被写体)かということについては、前回の記事をご覧いただくとわかり易いと思いますが、木々の葉っぱや草などの緑色が、比較的ニュートラルグレーに近い反射率を持っています。

 下の写真はハーフトーン方式で測光し、撮影したものです。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F16-22 1/8 PROVIA100F

 測光箇所は画面の多くを占めている木々の緑です。暗めの緑も少しありますが、大半は明るめの緑ですので、ここを測光しています。
 まだ新緑の色が残っている状態ですので、ニュートラルグレーよりも反射率は高いと思われます。そのため、測光値はEV12(ISO100)ですが、そのままだと木々の葉っぱが暗めに写ってしまうので、+0.5EVの補正をかけています。

 このように、被写体全体にわたって輝度差があまり大きくない場合はハーフトーン測光でも適正な露出設定をすることができます。

平均測光

 この測光方式は、被写体の中で最も明るい(ハイライト)部分と最も暗い(シャドー)部分を測光して、その平均値を出します。例えば、ハイライト部分がEV12(ISO100)、シャドー部がEV8(ISO100)の場合、平均値はEV10(ISO100)となります。
 ただし、ハイライト部分もシャドー部分もある程度の面積を占めている必要があります。それぞれが、ごくピンポイントでしか存在しておらず、しかも、それらが写真を構成するうえで重要な場合、この測光方式は適当ではありません。後で説明する別の測光方式を採用してください。

 平均測光方式で撮影した事例が下の写真です。

▲PENTAX67Ⅱ SMC-PENTAX6x7 200mm 1:4 F16-22 1/4 PROVIA100F

 上の写真で、いちばん明るい手前の枯れ草の部分と、いちばん暗い上側の林の部分をそれぞれ測光しています。明るい部分がEV13・1/3(ISO100)、暗い部分がEV9(ISO100)でしたので、平均値としてEV11(ISO100)で撮影しています。
 このとき、木の幹の部分をピンポイントで測光するのではなく、林全体をカバーするように少し広い範囲を測光することが必要になります。

 また、明るいところと暗いところの輝度差が5EV以上ある場合は、ハイライト部分、シャドー部分のどちらか、もしくは両方の階調は表現できなくなってしまいます。

ハイライト基準測光

 ハイライト基準測光は、被写体の中で階調を残しておきたい最も明るい部分を測光する方式です。前回の記事でも説明しましたが、反射光式露出計は色に関係なく、中庸濃度に写るように測光しますので、測光値のままで撮影すると明るい白色などもニュートラルグレーになってしまいます。
 まず、最も明るい(ハイライト)部分を測光し、得られたEVの値をラチチュードのハイライト限界値までシフトします。上で説明したように、リバーサルフィルムのラチチュードのい白レベル側限界値は基準EVの値から+2・1/3ですから、例えば測光値がEV12(ISO100)の場合、シフトすることでEV9・2/3(ISO100)にするということになります。

 次に、被写体の最も暗い(シャドー)部分のを測光し、この値が白レベルの限界値から-5EVの範囲に収まっていれば、黒くつぶれることなく階調が表現できます。
 もし、シャドー部分が-5EVの範囲に収まっていない場合は黒くつぶれてしまいますので、黒の階調はあきらめるとか、ハイライト側の階調を若干犠牲にしてハイライト限界値を超えるところまでシフトするとか、被写体のコントラストが下がる光線状態になるのを待つとか、といった選択が必要になります。

 下の写真はハイライト基準で測光して撮影した例です。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C300mm 1:8.5 F32 1/4 PROVIA100F

 画像の下半分近くを占めている水の流れの部分が最も明るいわけですが、この波模様が白く飛んでしまわないギリギリのところを基準にしています。このハイライト部分の測光値は EV14.5(ISO100) でしたが、このままで撮影すると、全体に露出アンダーの写真になってしまいます。
 そこで、ハイライト部分の測光値をハイライト限界値までシフトし、EV12(ISO100)として露出設定しています。
 階調が残るギリギリまで白く(明るく)するのではなく、もう少し抑えたいというような場合は1/3EVとか2/3EV分、EVの値を大きくします。

 また、川の流れの明るい部分に比べて岩や林の部分の輝度は4EV以上低いので、岩や林は肉眼で見た以上に暗い感じになっています。しかし、岩に生えているコケや草などの緑の部分の反射率がニュートラルグレーに近いからということでここを測光すると、川の流れは真っ白に飛んでしまい、全体として重厚感に欠けた薄っぺらな感じの写真になってしまいます。

 なお、ハイライト基準として測光する箇所は、写真を構成するうえで階調を残しておきたい部分であり、例えば画面内に光源のように非常に明るい部分があっても、そこは白く飛んで構わないような場合は測光対象から外さなければなりません。

シャドー基準測光

 シャドー基準測光はハイライト基準測光の逆と考えても良く、被写体の中で階調を表現したい最も暗い部分を測光する方式です。
 最も暗い(シャドー)部分を測光し、得られたEVの値をラチチュードのシャドー限界値までシフトします。上で示した図の通り、シャドー限界値は基準EVの値からから-2・2/3ですので、測光値がEV9(ISO100)だとすると、EV11・2/3(ISO100)にすることになります。
 次に、被写体の最も明るい(ハイライト)部分を測光し、この値が黒レベルの限界値から+5EVの範囲に収まっていれば、白飛びすることなく階調が表現できます。

 シャドー基準測光で撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR6x7 105mm 1:2.4 F22 1/2 PROVIA100F

 山の稜線から朝日が昇ってくるので空はかなり明るくなり、その影響で下半分は真っ黒につぶれてしまいます。手前のなだらかな稜線と山肌が認識でき、かつ、明るくなりすぎないギリギリまで露出を詰めるため、手前側の稜線あたりをスポット測光した値がEV7.5(ISO100)で、黒レベル限界値までシフト(-2・2/3)して、EV10(ISO100)として露出値を決めています。
 このとき、朝日が昇る稜線の上側の空の部分は+5EVほども明るい状態です。
 また、階調が消える手前ギリギリまで黒く(暗く)するのではなく、もう少し明るめにしたいというような場合は、1/3EVとか2/3EV分、EVの値を小さくします。

 この状況も、肉眼ではもっとずっと明るく見えるのですが、明るくし過ぎると朝焼けの空の色や朝日の質感が損なわれてしまいます。このシチュエーションにおいて、日の出の瞬間の雰囲気を出すにはこれくらい露出を切り詰めた方が良いと思います。

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 適正露出という言葉がありますが、「適正」というのは厳格な基準があるわけではありません。露出計は測光するために照度や輝度の基準を決めていますが、その値によってどのような露出設定をするかは撮る側の判断です。どういうイメージの写真に仕上げるかは撮る側の主観の問題です。
 目の前の風景を自分の感性に沿った写真にするため、露出計は非常に効果的なツールであると思います。露出というのはなかなか奥が深いですが、思い通りの写真が撮れた時はやはり嬉しいものです。

(2021年9月19日)

#露出 #EV値

写真撮影における測光と露出設定(2) Ev表の使い方と測光方式

 前回は、露出を決める5つの要素について説明しましたが、今回は、実際に撮影におけるそれぞれの値の使い方や、露出計を用いた測光方式について進めたいと思います。

Evダイヤグラム(Ev表)

 露出を決める5つの要素(絞り値、露出時間、ISO感度、照度、輝度)は、APEXが定めた方式によってAv、Tv、Iv、Bv、Svという単純化された数値に置き換えられ、それぞれの間には3つの関係式が成り立つということを説明しました。

  Ev = Av + Tv …… 式(1)
  Ev = Iv + Sv …… 式(2)
  Ev = Bv + Sv …… 式(3)

 写真撮影するうえでなじみの深い「Ev」はこれらの要素から相対的に求まる値です。そしてこれは、下のような「Evダイヤグラム」という表で表すことができます。

 上の表で、横軸はTv、Iv、Bvの値を表しています(下から4行目)。そして、その下の3行はそれぞれの値に対応する露出時間、照度、輝度になります。
 縦軸はAv、Svの値を表しており(左から3列目)、その左側の2列はAvに対応した絞り値、Svに対応したISO感度になります。

 表の中の数値はEvの値を示しており、横軸(Tv、Iv、Bv)と縦軸(Av、Sv)の交点はそれぞれの値を加算した値であり、上の式(1)から(3)を表しています。

 例えば、Ev=12となるためには、Av=5(F5.6)とTv=7(1/125秒)のほかに、この表に表されているだけでも12通りの組み合わせがあることがわかります。
 また、同様にEv=12となるために、Sv=5(ISO100)とIv=7(照度800[fc])の組合せのほかに、やはりこの表内だけで12通りあることがわかります。

 露出計によって照度、または輝度を測定することでIv、またはBvの値が決まりますので、ここに使用するフィルムや撮像素子のISO感度に相当するSvの値を加えるとEv(露出値)がわかります。
 そして、そのEvの値をAvとTvに分解すると、絞り値と露出時間(シャッター速度)が求まります。

照度の値と実際の明るさ

 絞り値や露出時間(シャッター速度)、ISO感度はカメラで設定したり、フィルムによって決まる値なのでわかり易いですが、照度が〇〇フィートカンデラとか、輝度が〇〇フィートルーメンとか言われても非常にわかりにくいです。この2つに関しては数値で覚えるよりは、Iv=5はこれくらいの明るさ、Bv=6はこれくらいの明るさというように、感覚的に覚えた方が現実的です。

 そこで、照度に関してIvの値と実際の明るさの関係をいくつか挙げてみます。

  Iv=0    夜の街灯の下
  Iv=1~2  室内
  Iv=3~4  オフィス内
  Iv=4~5  曇天の屋外
  Iv=5~6  晴天時の窓際
  Iv=8~9  晴天の屋外
  Iv=10~11 晴天の海辺やゲレンデ

 といった感じです。
 「曇天の屋外」と言っても雲の厚さや太陽の位置などによって明るさは変化しますので、おおよそこれくらいの範囲というあいまいさを残した表現になってしまいますが、仕方ありません。

 実際には露出計で測定するので、これらの関係を覚えても意味がないと思えるかもしれませんが、これくらいの明るさならIvの値はいくつくらい、ということが感覚的にわかっていると、測光しなくても絞りやシャッター速度の値がある程度わかるので、写真の仕上がり具合がイメージできます。

 因みに、フィルムの場合はISO100の感度のものを使うことが多いので、その場合はIvの値に5を加算するとEvの値になります。また、ISO400のフィルムの場合は、Ivの値に7を加算します。

入射光式露出計を用いての測光

 露出計には「入射光式露出計」と「反射光式露出計」があるということを前回も触れましたが、それぞれの測光方式と特徴について説明していきます。

 まず、「入射光式露出計」です。
 この露出計は、被写体にあたっている光、すなわち照度を測定します。いろいろな形状のものがありますが、外観上の特徴は白い半球状のカバーが見られることです。
 この半球状のカバーをカメラの方に向けて、被写体の前にかざして測光します。

▲入射光式露出計

 測定する前に、使用するフィルム(または撮像素子)のISO感度を設定しておきます。その状態で測定ボタンを押すと、測定した照度のIvの値と、設定されているISO感度のSvの値から、Evの値が表示されるというのが一般的な動作です。Evの値を針で示すアナログ式や、数値で表示されるデジタル式などがあります。

 実際に入射光式露出計で測光して撮影したのが下の写真です。
 わかり易いように色の異なる6色(白、黄、緑、赤、青、黒)のスケッチブック(黒だけはスケッチブックがなかったので、単なる厚紙です)を並べて、薄曇りの窓際の自然光で撮影しました。

▲入射光式露出計で測光して撮影 Ev=9 (ISO100)

 この時の入射光式露出計で測定した照度はIv=4でした。感度はISO100(Sv=5)にしていますので、Ev=9ということになります。
 この写真でもわかるように、赤、または青がニュートラルグレーに近いと思われ、紙の質感も良く出ています。一方、白や黄色は露出オーバー気味ですが、全体としては肉眼で見た感じに近いのではないかと思います。

 このように、入射光式露出計は被写体に入射する光の量(照度)を測定し、ニュートラルグレー(反射率18%)が中庸濃度に写るような値を返してきます。したがって、入射光式露出計で測定した値で撮影すると、ニュートラルグレーよりも反射率の高いものは白っぽく、反射率の低いものは黒っぽく写ることになります。すなわち、被写体の色によって測定した値が変わることはありません。
 反面、露出計を被写体の前にもっていかなければならないので、風景撮影などのように被写体がはるか遠方にある場合、そこまで出向いて測光するということは現実的ではありません。

反射光式露出計を用いての測光

 次に、「反射光式露出計」です。
 この露出計は、被写体に当たった光が反射することで、見かけ上の被写体の明るさ、つまり被写体の輝度を測定します。外観上の特徴は接眼部があることです。ここから被写体を覗き見て、被写体の輝度を測定します。受光角1度という非常に狭い範囲を測定するもの(スポット露出計と呼ばれることが多い)から、30度くらいの比較的広い範囲を測定するものまで、いろいろあります。

 下の写真はペンタックスのデジタルスポットメーターという受光角1度の反射光式露出計です。

▲反射光式露出計 PENTAXデジタルスポットメーター

 測定する前にISO感度を設定しておくのは入射光式と同じです。
 受光部を被写体の測定したい部分に向けて測定ボタンを押すと、測定した輝度のBvの値と、設定されているISO感度のSvの値から、露出値であるEvの値が返されます。

 では、入射光式と同じように6色の被写体を反射光式露出計で測定し、撮影してみます。
 被写体の輝度は色によって異なりますので、6色のそれぞれの色の部分を測定し、その結果の値で撮影したのが下の6枚の写真です。上から順番に、白、黄、緑、赤、青、黒を測定して撮影したものです。

▲反射光式露出計で測光して撮影 「白」を測光 Ev=11・2/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黄」を測光  Ev=10・2/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「緑」を測光  Ev=9・2/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「赤」を測光 Ev=9・1/3 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「青」を測光 Ev=9 (ISO100)
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黒」を測光  Ev=8 (ISO100)

 光の状態(照度)は同じですが、被写体の色によって写真の仕上がり具合がまったく違うのがわかると思います。
 反射光式露出計は、被写体の色に関係なく、すべてがニュートラルグレーと仮定して、それが中庸濃度に写るような値を返してきます。したがって、露出計の測光結果通りに撮影すると、白や黄色のように明るい色は暗めに、黒のように暗い色は明るめに写ります。

 わかり易くするために上の6枚の写真から色情報を抜いて、グレースケールに変換してみます。

▲反射光式露出計で測光して撮影 「白(左端)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黄(左から2番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「緑(左から3番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「赤(右から3番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「青(右から2番目)」を測光
▲反射光式露出計で測光して撮影 「黒(右端)」を測光

 白を測定した1枚目の写真は全体的に露出アンダー気味に、黒を測定した6枚目の写真は露出オーバー気味になっていますが、それぞれ測定した色のところを見ると、ばらつきはありますが、ほぼ同じようなグレーになっているのがわかると思います。

 それぞれの写真の下に記載した実際の測定データを見ていただけるとわかりますが、白のEvの値は11・2/3、黒のEvの値は8ですので、曇天という比較的柔らかい光の条件下であっても、 4段近くの露出の差があります。コントラストが強い場合はもっと大きな差が出てしまいます。

 このように、反射光式露出計は被写体のごく一部を測光することができますが、同じ光の状態であっても被写体の色によって測定結果が異なりますので、色と輝度の関係をある程度把握しておく必要があります。

被写体の輝度の値と実際の明るさ

 照度と同じように輝度も「〇〇フィートルーメン」とか言われてもピンときません。
 そこで、被写体の輝度を示すBvの値と、実際の被写体の見た目の明るさの関係について、主なものを挙げてみます。

  Bv=1~2  雨が降り出しそうな曇天下の木々の葉
  Bv=4~5  曇天下のクリーム色の家の外壁
  Bv=5~6  曇天下の黒っぽい瓦屋根
  Bv=5~6  晴天下、日陰になっている木々の葉
  Bv=6~7  晴天下の赤いチューリップ
  Bv=7~8  晴天下、日が当たっている木々の葉
  Bv=9~10  青空
  Bv=10~11 曇天の空(雲)

 これらの値にISO感度のSvの値(ISO100だとSv=5)を加算すると、露出値であるEvになります。

 一般には草や木々の葉の緑、あるいは人の肌などがニュートラルグレーに近いと言われています(上の写真では緑がかなり明るめですが、このスケッチブックの色は黄緑に近いので、草や木々の葉よりもだいぶ明るいです)。ニュートラルグレーの反射板を持ち歩いていれば基準がわかり易いですが、それも面倒なので、ニュートラルグレーに近い自分の手のひらなどを基準にする人もいます。

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 実際の被写体というのは色や光の状態によって見た目の明るさにずいぶんと差があります。写真というのは、すべてが中庸濃度になるように写せば良いというものでもなく、撮影する人の意図によって露出をコントロールするということになります。
 デジカメの場合は露出値を変えて何枚も撮影し、モニタで確認することで自分の感覚に合ったものを選ぶことができます。しかし、ピンポイントでここの色を出したいとか、この部分は飛ばないようにぎりぎりまで明るくしたいとか、そういった場合はスポット露出計があると思い通りの露出設定ができます。

 次回は具体的な事例を交えてご紹介したいと思います。

(2021年9月11日)

#露出 #EV値

写真撮影における測光と露出設定(1) 露出を決める要素

 最近のカメラは自動露出計が内蔵されており、様々なシチュエーションに合わせた適正露出を自動で決定してくれますが、大判カメラなど、露出計が内蔵されていない場合は露出計を使って測光するなどして露出値を決める必要があります。経験を積むことである程度の露出は露出計がなくても決めることができるようになりますが、精度を高めるためには露出計が必要になります。
 写真撮影において露出の設定はとても重要な要素ですが、そもそも測光とはどういうことなのか、そして、測光した結果を露出設定にどのように反映するのか、というようなことを説明していきたいと思います。

光の表現の仕方と単位

 まず、測光や露出設定に最低限必要な光の定量的な表現の仕方(とらえ方)について触れておきたいと思います。
 写真というのは、光源から発せられた光が被写体に当たり、被写体面で反射した光がカメラ(撮像面)に入射することで像が記録されるわけです。

 光源(太陽とか電球など)から発せられる単位時間当たりの光の量を「光束」といい、単位は「ルーメン[lm]」で表します。そして、ある方向への光の強さを「光度」といい、単位は「カンデラ[cd]」です。
 そして、この光が被写体に入射するわけですが、被写体の単位面積あたりに入射する光束を「照度」といい、記号は「I」、単位は「ルーメン毎平方メートル[lm/m²]」、または「ルーメン毎平方フィート[lm/ft²]」で表されます。

  【照度】
    定義:単位面積あたりに入射する光束
    記号:I
    単位:[lm/m²]、または[lm/ft²]

 また、1[ft²]あたりの光束[lm]を、1[fc](フィートカンデラ)という単位で表すこともあります。
 すなわち、1[fc] = 1[lm/ft²]になります。

 光度が1[cd]の点光源から1[sr]内に放射される光束が1[lm]となります。
 (ステラジアン[sr]とは、半径rの球体の表面を、表面積がr²となる円で切り取ったときの錐面と球の中心との立体角になります。球の表面積は4πr²ですので、光度1[cd]の光源が全方向に放射する光束は4π[lm]となります。)

 照度Iが入射した被写体面は反射率ρの反射面となり、観測者(カメラ)からは見かけ上の単位面積当たりの明るさとして認識されます。これを「輝度」といい、記号は「B」、単位は「カンデラ毎平方メートル[cd/m²]」、または「カンデラ毎平方フィート[cd/ft²]」で表されます。
 これは、反射面によって照度が輝度に変換されたことを意味し、反射面は照度を受けて光る二次光源と言えます。

  【輝度】
    定義:見かけ上の単位面積あたりの明るさ
    記号:B
    単位:[cd/m²]、または[cd/ft²]

 また、[fL](フィートランバート)という単位が用いられることがあり、1[fL] = 1/π[cd/ft²]になります。

 写真撮影における測光とは、この「照度」、または「輝度」を測定することをいいます。

露出を決める要素とその関係

 実際に測光した照度、または輝度をもとに露出値を決めることになるわけですが、その要素は照度、輝度を含めて5つあります。

  (1)絞り値(F値)
  (2)露出時間(シャッター速度)
  (3)被写体の照度
  (4)被写体の輝度
  (5)感材の感度(ISO感度)

 照度と輝度は必ずしも両方必要ではなく、どちらか一方だけで露出値を決めることができます。

 この5要素の関係は、被写体の照度もしくは輝度と、感材の感度から露出量が決定され、それを絞り値と露出時間の組合せに換算するということになります。
 そして、これらを簡易に計算するため、APEXシステムという方法(仕組み)によってそれぞれの要素が以下のような数値に置き換えられています。

  絞り値  –> Av
  露出時間 –> Tv
  照度   –> Iv
  輝度   –> Bv
  感度   –> Sv

 これらの値から導き出される露出値はEvで表されます。

  露出値  –> Ev

 これによって、これらの数値の関係は以下のような非常に簡単な式によって表すことができます。

  Ev = Av + Tv …… 式(1)
  Ev = Iv + Sv …… 式(2)
  Ev = Bv + Sv …… 式(3)

 では、これらの数値について、順番に説明していきます。

絞り値(F値)とAvの関係

 絞り値というのはF5.6とかF8とか、カメラを扱う方であれば非常になじみの深い数値ですが、この値はレンズの焦点距離と有効径によって決まり、以下のような関係式が成り立っています。

  F値 = 焦点距離/有効径 …… 式(4)

 例えば、焦点距離50mm、有効径25mmのレンズの場合、F値は2になります。
 F2から1段絞るとF2.8、さらに1段絞るとF4となり、1段絞るとF値は√2倍(約1.4倍)になっていきます。

 しかし、これだと計算がしにくいので、1段絞ったら1だけ上がる数値に置き換えたのが「Av」です。
 F値をAとすると、AとAvは以下のような関係になります。

  Av = 2log₂ A …… 式(5)

 この式にF値(A)をあてはめると、以下のようになります。

   <F値>  <Av> 
   0.7   -1
   1    0
   1.4   1
   2    2
   2.8   3
   4    4
   5.6   5
   8    6
   11    7

 Avとは、絞りF1.0をAv=0として、絞りの段数を表していると言い換えることができます。Avの値が1増えると露出量は1/2倍(半分)になります。
 F1.4とF5.6を例にとると、それぞれのAvは1と5ですから、その差となる4がF1.4からF5.6までの段数ということになります。そして露出量は1/2 ^ 4 = 1/16となります。

 逆に、AvからF値を求める場合は、下の式になります。

  F値 = √2 ^ Av …… 式(6)

露出時間(シャッター速度)とTvの関係

 次に露出時間についてですが、露出時間をTとすると、TとTvの間は下のような関係になっています。

  Tv = -log₂ T …… 式(7)

 この式にあてはめると、露出時間1秒をTv=0とし、露出時間が半分(シャッター速度が2倍)になるとTvの値が1増え、露出時間が2倍(シャッター速度が半分)になるとTvの値が1減ることがわかります。

  <露出時間[s]> <tv>
    2     -1
    1      0
    1/2     1
    1/4     2
    1/8     3
    1/15    4
    1/30    5
    1/60    6
    1/125    7

 Avと同様に、Tvは露出時間(シャッター速度)の段数を表していることになります。Tvの値が1増えると露出時間は1/2倍(半分)になります。
 Tvを求める式でlogの逆数をとっているのは、露出時間が小さく(短く)なるほど、Tvの値を大きくする必要があるからです。

 また、下の式により、Tvから露出時間(T)を求めることができます。

  T = 1 / (2^Tv) …… 式(8)

AvとTvの関係

 絞りを1段絞ったら露出時間を2倍にすれば同じ露出が得られるというのは経験則で理解していると思いますが、これを式で表したのが式(1)です。

  Ev = Av + Tv …… 式(1)

 例えば、絞り値F2.8(Av=3)、露出時間1/60秒(Tv=6)の時と、 絞り値F5.6(Av=5)、露出時間1/15秒(Tv=4)の時はいずれも Evの値が9になるので、同じ露出値であることがわかります。
 つまり、AvとTvを足して9になる組合せのすべてが同じ露出値になる、ということを表した式であることがわかると思います。

 このように、絞り値と露出時間をそれぞれAv、Tvという値で表すことで、露出値の扱い(計算)が簡単になります。見慣れたEvの値がこのような構造になっていることも理解いただけるのではないかと思います。

被写体の照度とIvの関係

 露出値を決める5つの要素のうち、実際に測光対象となるのが被写体の照度、もしくは輝度ですが、まずは照度についてです。
 APEXの定義にあてはめると、被写体の照度IとIvには以下の関係式が成り立ちます。

  Iv = log₂(2^4/100)・I = log₂(I/6.25) …… 式(9)

 APEXの定義では、照度の単位に[fc](フィートカンデラ)が用いられているようです。6.25[fc]をIv=0としていますが、なぜこの値が用いられたのか、その理由は良くわかりません。下の表でわかるように、照度[fc]の値が切れの良い数字になるということで決められたのかもしれません(例えば、100[fc]をIv4にしたとか)。

 上の式に照度IとIvをあてはめると以下のようになります。

  <照度[fc]> <Iv> 
   3.125   -1
   6.25   0
   12.5   1
   25    2
   50    3
   100    4
   200    5
   400    6
   800    7

 照度が2倍になるとIvの値が1増え、照度が1/2倍(半分)になるとIvの値が1減るのはAvやTvと同様です。

 ちなみに、Iv=0のときの照度6.25[fc]を、なじみのある単位[lx](ルクス)に置き換えると約67ルクスになります(1[fc]=10.764[lx])。これは、夜の街灯下に近い感じです。蛍光灯照明されたオフィス内は6~700ルクスと言われていますので、かなり暗いことがわかると思います。

 一般に、照度は「入射光式露出計」で測光します。被写体に当たる光の量を測定するので被写体の色などの影響は受けませんが、被写体のある場所で測定しなければならず、風景などのように被写体が遠方にある場合は測定が困難です。

被写体の輝度とBvの関係

 輝度は[fL](フィートランバート)という単位を用いています(1[fL] = 1/π[cd/ft²])。
 被写体の輝度BとBvをAPEXの定義にあてはめると、以下のようになります。

  Bv = log₂B …… 式(10)

 これは、輝度1[fL]がBv=0となります。

 上の式に輝度BとBvをあてはめると以下のようになります。

  <輝度[fL]> <Bv> <輝度[cd/ft²]>
   0.5    -1   0.16
   1     0   0.32
   2     1   0.64
   4     2   1.27
   8     3   2.55
   16     4   5.09
   32     5   10.2
   64     6   20.4
   128    7   40.7

 輝度が2倍になるとBvの値が1増え、輝度が半分になるとBvの値が1減るのは他の要素と同様です。

 さて、照度Iで照らされた被写体の見かけ上の明るさを輝度というのは上で説明しましたが、光源が理想的な均等拡散反射面を照らしているとき、照度と輝度の間には以下のような関係が成り立ちます。

  輝度B = (反射率ρ/π)・照度I …… 式(11)

 この式に照度[fc]と輝度[cd/ft²]をあてはめると、反射率ρは16%となります。
 例えば、上の表から、Iv=4の照度は100[fc]、Bv=4の輝度は5.09[cd/ft²]ですので、これらの値を、上の式をもとに反射率を求めるように変形した式にあてはめてみます。

  反射率ρ = 輝度B/照度I× π
       = 5.09 / 100 x 3.14
       = 0.16

 一般に被写体の反射率は18%(ニュートラルグレー)という値が採用されていますが、この定義式からするとAPEXでは16%としているようです。その理由は定かではありませんが、16%とすることで輝度[fL]の値が切れの良い数字(1、2、4、8…)になるからではないかと勝手に思ってます。

 因みに、一般に使われる反射率18%という値は、白と黒の中間の反射率だという理由で採用されているようです。
 かなり反射率が低い黒色でも3%ほどは反射され、また、かなり反射率の高い白色でも100%の反射はなく、96%程度といわれており、この値を3%を起点に反射率が2倍ごとの数列で表現すると、

  3 - 6 - 12 - 24 - 48 - 96

 となります。
 ここに、各数値の中間の値を追加すると以下のようになります。

  3 - 6 - 12 - 24 - 48 - 96
   4.5 - 9 - 18 - 36 - 72

 この数列でわかるように、18%がちょうど中間の値ということになります。

 なお、被写体の輝度は「反射光式露出計」で測光しますが、同じ照度であっても被写体の色や表面の状態などによって輝度は異なりますので、測光値も変わってきます。一方、風景など遠方の被写体でも測定できるというメリットがあります。

感材の感度(ISO感度)とSvの関係

 露出を決める要素の5番目は感材の感度です。
 一般に「ISO感度」と呼ばれており、ISO100とかISO200などと表現されています。絞り値やシャッター速度と同様にカメラ側(またはフィルム)で設定するものなので、なじみ深い数値です。

 感度SとSvをAPEXの定義にあてはめると以下のようになります。

  Sv = log₂(2^5/100)・S = log₂(S/3.125) …… 式(12)

 これは、ISO3.125をSv=0とし、ISO感度が2倍になるとSvの値が1増えます。

 上の式にISO感度SとSvをあてはめると以下のようになります。

   <ISO感度> <Sv>
    1.5625  -1 
    3.125   0
    6.25    1
    12.5    2
    25     3
    50     4
    100    5
    200    6
    400    7

 なじみの深いISO100はSv=5となります。

IvとSv、BvとSvの関係

 感材の感度(ISO感度)が高ければ多少暗くても写りますし、また、明るい場所であればISO感度が低くても問題ないわけですが、これを式で表したのが式(2)、および式(3)になります。

  Ev = Iv + Sv …… 式(2)
  Ev = Bv + Sv …… 式(3)

 例えば、輝度128[fl](Bv=7)の被写体をISO100の感度(Sv=5)で撮影する場合と、輝度32[fl](Bv=5)の被写体をISO400の感度(Sv=7)で撮影する場合、いずれもEvの値は12であり、同じ露出値になることを示しています。
 このように、被写体の照度、輝度、感材の感度をそれぞれ、Iv、Bv、Svという値で表すことで、露出値の計算が容易になります。

 なお、感材の感度をどのような基準で決めたのかはわからないのですが、例えば、輝度が1[fL](Bv=0)の被写体を、絞り値F1.0(Av=0)、露出時間1秒(Tv=0)で撮影した時、被写体が中庸濃度で写る感材の感度をISO3.125(Sv=0)としたのではないかと思います。式(1)から式(3)を成り立たせるためにはそうする必要があるように思います。

露出値の式が意味すること

 露出値Evを求める3つの式のうち、式(1)は絞り値と露出時間と露出値の関係を表していますが、Av、およびTvの値が大きくなるほど、入射する光の量は少なくなることを意味します。
 一方、式(2)、および式(3)は照度、輝度、感材の感度と露出値の関係を表していますが、Iv、Bv、およびSvの値が大きくなるほど、より多くの光の影響を受けることを意味しています。

 式(1)から式(3)は等価ですから、以下のようになります。

  Ev = Av+Tv = Iv+Sv = Bv+Sv

 すなわち、同じ露出値を得るためには、より多くの光の影響を受ける状態(Iv、Bv、Svが大きい)のときは入射する光の量を少なく(Av、Tvを大きく)するということを示しており、逆に、光の影響が少ない状態 (Iv、Bv、Svが小さい)のときは入射する光の量を多く(Av、Tvを小さく)するということを示しており、 3つの式が等価であることがわかると思います。
 写真撮影ではごく当たり前に行なわれていることですが、式で表すとこのようになります。

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 今回は露出を決める5つの要素とそれらの関係について説明をしましたが、次回以降はこれらの値の具体的な使い方や測光の仕方等について触れていきたいと思います。

(2021年9月4日)

#露出 #EV値