ニッコウキスゲ咲く、夏の霧ヶ峰高原 花の旅

 長野県の中部にある霧ヶ峰高原は、車山を最高峰に標高1,500mから1,900mに広がる比較的起伏の緩やかな高原で、八ヶ岳中信高原国定公園に指定されています。大きな樹林はほとんどないため、360度の展望がききます。
 下界ではうだるような暑さでもここは爽やかな風が通り抜け、まさに別世界といった感じです。
 梅雨明けの7月中旬ごろから一斉に咲き始め、高原全体を黄色に染めるニッコウキスゲは有名ですが、湿原も多く存在するため、他にもたくさんの高山植物があることでも知られています。
 今年は梅雨開けが異常に早かったせいか、霧ヶ峰高原の花もだいぶ進んでいる感じですが、今回は、夏の霧ヶ峰高原で撮影した花をいくつかご紹介します。

ニッコウキスゲ(日光黄菅)

 霧ヶ峰の中でもニッコウキスゲが広範囲に群生しているのは、強清水周辺とヴィーナスの丘と呼ばれる車山肩から蝶々深山の一帯にかけてです。特にヴィーナスの丘の辺りの群生密度はとても高く、まさに一面が黄色に染まります。
 しかし、花の数はその年によってずいぶん差があり、少ない年は一面に黄色というわけにはいかず、まばらな感じのときもあります。それでもかなりの数の花が咲いているのですが、多いときの映像が脳裏に焼きついているので、余計にそう感じるのかもしれません。

 高原の高く青い空とニッコウキスゲのコントラストはとても美しく、爽やかな印象を受けますが、朝日が昇って黄色の花がオレンジ色に染まる景色も幻想的で、ほんのわずかの時間だけ見ることのできる光景です。

 下の写真は朝日が昇った直後に撮影したものです。

▲霧ヶ峰高原:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1s PROVIA100F

 右上にあるのが車山で、その左側に薄く見えているのが蓼科山です。
 車山の山頂には気象レーダーのドームが設置されているのですが、この時はいい具合に霧がかかってドームを隠してくれました。
 霧ヶ峰高原はその名の通り、霧の発生がとても多く、特に明け方はものすごい早さで霧が流れていくので、霧のかかり方によっては雰囲気が大きく変わってしまいます。個人的には、太陽が稜線の上に出たくらいの時の光の具合がいちばん好きで、この時に霧がどうかかっているかはまさに神頼みといった感じです。
 ニッコウキスゲは一日花のため、一つの花は一日でしぼんでしまうようなのですが、次から次へと咲くので、およそ一週間ほどはこのような見事な状態が続きます。

 近年、ニホンジカの食害や踏み荒らしによる被害からニッコウキスゲを保護するため、電気柵が設けられています。その効果もあってニホンジカの数も減少しているようです。以前は夜中に霧ヶ峰に向って車を走らせていると鹿に遭遇することが良くありましたが、最近はあまり見かけなくなりました。

ウスユキソウ(薄雪草)

 亜高山帯に分布しているキク科の植物で、ヨーロッパのエーデルワイスと同じ仲間です。エーデルワイスのようなモコモコした毛がないので、薄く雪をかぶっているという例えはまさにピッタリという感じです。ウスユキソウという名前は、植物の中でも雅名の一つに数えられているようで、確かに優雅な名前ではあります。
 同じ仲間のミネウスユキソウやタカネウスユキソウはもっと標高の高いところに咲いていますが、霧ヶ峰高原で見ることができるのはこのウスユキソウだけです。

▲ウスユキソウ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200mm 1:4 2X F5.6 1/30 PROVIA100F

 草原のようなところでも育成していますが、上の写真のような岩礫地でよく見かけます。生育環境がわかるように、両側の岩を多めに入れてみました。
 どちらかと言えば地味な花で、赤や黄色の花のように目を引くわけではありませんが、見つけた時はつい立ち止まって見てしまう、そんな魅力のある花です。

 あまり広い範囲を写し込むと雑然とした感じになってしまうので、少し離れたところから望遠レンズを使って撮影しています。ぼかし過ぎて背景が何だか分からなくなってしまわないよう、適度な距離と絞りを選んでいます。

シシウド(獅子独活)

 背丈が2mを超えるほど伸びるセリ科の植物です。霧ヶ峰高原では良く見かけますし、他の植物に比べて抜きんでて大きいのでとても目立ちます。
 花火のように広がった花にはたくさんのハチやハナアブがひっきりなしに来ており、花の上はとても賑わっています。

▲シシウド:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F11 1/250 PROVIA100F

 上の写真は、太陽がちょうど南中にかかるころに撮ったものです。
 シシウドの根元に屈みこみ、カメラを太陽のある方向に向けて撮影しました。太陽は直接入れていませんが、画のすぐ右側にあるのでかなりのプラス補正をしています。シシウドが白くなりすぎないように、かといってシルエットになってしまわないように、夏の高原の明るさを出すように露出値を決めましたが、完全にシルエットにしてしまっても良かったかもしれません。

 このように真夏の太陽の光をもろに受けるような場合、レンズやカメラがダメージを受けてしまうので短時間で撮り終えてしまわねばなりません。また、これは短焦点(45mm)レンズを使っていますが、それでもファインダーを長く覗いていると目に悪影響があると思われるので注意が必要です。

 シシウドは花が終わると結実し、やがて本体は枯れてしまいます。茶色くカサカサとした茎が折れているのを見ると、秋が来たなという感じがします。
 なお、春の新芽は食べられるらしいですが、私は食べたことはありません。確かに芽が出てきたところはウドとよく似ていて、間違えて採ってしまいそうです。

ハクサンフウロ(白山風露)

 霧ヶ峰高原ではニッコウキスゲと並んで人気のある花です。
 小さな花ですが、赤紫色の花はとてもよく目立ちます。背丈は30~50cmほど、他の植物の中に埋もれるようにして咲いています。花の直径は3cmほどで、花芯の辺りが白くなっているのが特徴的です。小さな花ですが結構たくさんの花をつけるので、宝石をちりばめたようです。

 このほかにグンナイフウロやタチフウロ、アサマフウロなどのフウロソウの仲間を何種類か見ることができます。

 群生している中から一輪だけを撮ったのが下の写真です。

▲ハクサンフウロ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 EX3 F4 1/125 PROVIA100F

 背丈の低い花なので、どうしても俯瞰気味の撮影が多くなってしまうのですが、ひょんと飛び出した一輪を見つけたので下から見上げるようなアングルで撮りました。
 花の傷みもなく綺麗だったのと、茎が描くラインがとても美しかったので、それを強調するように背景は極力シンプルにしました。バックを大きくぼかすように接写リングを使っています。

 あまり明るくし過ぎると雰囲気が損なわれてしまうので、露出はアンダー気味にしています。
 また、花弁にわずかな朝露が残っていると思いますが、あっという間に消えてしまうので、のんびりと構えてはいられません。
 下半分が紫色にぼやーっとしていると思いますが、これはバックに咲いているハクサンフウロのボケです。

 因みに、こんな感じで咲いています。

▲ハクサンフウロ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 45mm 1:4 F22 1/60 PROVIA100F

ホソバノキソチドリ(細葉の木曽千鳥)

 野性の蘭の一種で、深山の草原のようなところに自生する多年草です。
 背丈は20~30cmほどと小さく、草むらに咲いて、しかも花が黄緑色なのでよく探さないと見つかりません。花は小さいのですが非常に複雑な形状をしており、いかも蘭といった感じです。五線紙の上に書かれた音符のようにも見えます。
 同じ仲間にトンボソウというのがあり、非常によく似ているのですが、距がピンと跳ね上がっているので何とか見分けがつきます。霧ヶ峰高原ではトンボソウの方が圧倒的に個体数が少ないと思われます。

 草むらで見つけたホソバノキゾチドリ、花の数は多くありませんが撮ってみました。

▲ホソバノキゾチドリ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 EX3 F4 1/60 PROVIA100F

 何しろ、これ以上ないというくらい花が地味なので、草むらの中からこの花を浮かび上がらせるのは結構大変です。
 光が入り込んでいない方がバックは柔らかくなるのですが、花自体も平坦な感じになってしまいます。バックが少々うるさくなってしまいましたが、光が当たってコントラストがついているところを狙ってみました。それだけだとアクセントに欠けるので、隣に玉ボケを入れてみました。
 右側からスーッと伸びている細い葉っぱを入れるのは迷ったのですが、そのままにしておきました。

 このほかにも野性の蘭の仲間のミズチドリやテガタチドリ、クモキリソウなども非常にまれではありますが、見かけることがあります。いずれも多年草なので、見つけると翌年も同じ場所に咲くはずなのですが、数年後に訪れてみたが見当たらないということもよくあります。盗掘されてしまうのかもしれません。

シュロソウ(棕櫚草)

 湿り気の多い場所を好むらしく、湿原では割とよく見かけます。
 時に群生することもあり、そこそこ見応えはありますが、花の色はお世辞にも美しいとはいえません。
 茎は1m近くまで伸びますが、花はとても小さくて5mmほどしかありません。この小さな花が茎の周りにびっしりとついている様は、試験管を洗うブラシのように思えてなりません。
 強い毒性を持った植物というのは多くありますが、このシュロソウも根茎に毒があるらしいです。

 この花、日中はどのように撮ってもさえない写真になってしまうので、朝日が差し込んでいる状態で撮影してみました。

▲シュロソウ:PENTAX67Ⅱ SMC PENTAX67 200m 1:4 2X F4 1/125 PROVIA100F

 前方から朝日が差し込んでいる状況で、お世辞にも美しいと言えない花も、だいぶ鮮やかになってくれました。朝日なので色温度が低く、かなり赤みが強くなっていますが、玉ボケも手伝って朝の感じは出ているかと思います。
 写真ではわかりにくいかも知れませんが、花弁はかなり肉厚です。この厚い花弁を透過する強い光、そして花が密集しているため、輪郭がわかりにくくなってしまいました。もう少し早い時間帯、日の出直後あたりだと朝露をまとっているので、もっと風情のある写真になったと思います。

 小さくてよくわかりませんが、虫が張り付いています。

マツムシソウ(松虫草)

 亜高山帯で広く見ることができます。薄紫色の花はとても涼しげな感じがして、群生したマツムシソウが風になびいている光景はとても風情があります。
 低山や平地でも見ることがありますが、標高の高いところの花に比べると花弁の数が少なく、どことなく貧相な印象を受けます。
 花が終わると花床が盛り上がって、まるでイガクリ坊主のような愛嬌のある姿になります。
 日本固有種ですが、多くの都道府県で減少傾向にあるらしく、レッドリスト入りした絶滅危惧種になっているようです。

 下の写真は夕暮れに近づいてきたころ、マツムシソウをシルエットで撮影したものです。

▲マツムシソウ:PENTAX67Ⅱ SMC TAKUMAR 6×7 105m 1:2.4 F22 1/125 W10 PROVIA100F

 そのままで撮ると空が白くなりすぎてしまうので、色温度変換フィルター(W10)を装着しています。
 あまりたくさん群生しているとゴチャゴチャしてしまうので、数本の茎がいい塩梅に伸びている株を選んで撮りました。より、夕暮れの感じが出せればと思い、傍らに草を入れてみました。
 太陽を入れていますが、前で紹介したシシウドの写真と違い、太陽高度が低くなっているのと、薄く雲がかかっているのとで、強烈な夏の太陽の印象はありません。
 また、この時は持ち合わせていなかったのですが、軽くレフ板をあてて、マツムシソウのシルエットを少し柔らかくするのもありだと思いました。

 この時期の霧ヶ峰高原は、一年でもっとも賑わう季節ですが、夕暮れが近づくと人の数のずいぶんと減り、撮影するにはありがたい時間帯です。

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 霧ヶ峰高原の夏は本当に短くて、8月の声をきくとそろそろ秋の気配が漂い始めます。そして、咲く花の種類も夏の花から秋の花へと一気に入れ替わります。秋の花は地味な色合いのものが多いのに加えて、8月になると訪れる人の数もぐっと減るので、うら寂しさを感じるほどです。
 8月の半ばごろに、今度は秋の花を撮りに訪れれみたいと思っています。

(2022.7.24)

#霧ヶ峰高原 #ペンタックス67 #PENTAX67 #プロビア #PROVIA #花の撮影

写真・映像用品年鑑(写真・映像用品総合カタログ)が、驚くほど薄くなった!!

 写真やカメラに興味をお持ちの方であればご存じかと思いますが、一般社団法人 日本写真映像用品工業会というところが毎年発行してる「写真・映像用品年鑑」という冊子があります。工業会に加入している企業が製造・販売している写真用機器などが掲載されている総合カタログです。国内で販売されているカメラ用品や写真用品の多くが網羅されており、安価ということもあり、便利な冊子です。年一回、2月ごろに発行されるのですが、毎年購入する必要もないので、私は数年ごとに購入していました。

 先日、新宿のカメラ屋さんに立ち寄った際、この冊子の2022年度版が置いてあったので久しぶりに購入してみようと思い、手に取ってビックリしました。冊子がぺらっぺらに薄くなっています。パラパラっと中を見たところ、厚さだけでなく内容も随分希薄になったなという印象です。
 お金を出して買うほどのものではないと思い、棚に戻そうとしましたが、時代の流れを反映しているような薄い冊子に何だか興味が湧いて購入してしまいました。510円(税込)でした。

▲写真・映像用品年鑑 左:2022年度版 右:2016年度版

 私が初めて写真・映像用品年鑑を買ったのはずいぶん前のことで、いつだったのかは覚えていませんが、少なくとも20年以上は経っていると思います。
 新しいのを購入すると、ひとつ前の号を残して二つ前の号は廃棄してしまいます。数年に一度しか購入しないので、いま手元に残っている最も古いのは2016年度版(No.46)です。
 2016年度版を購入した時も、それまでのに比べると薄くなったという感じはしたのですが、それとともに、掲載されている商品の写真や文字がすごく小さくなり、ずいぶん見難くなったと感じたのを覚えています。とはいえ、掲載されている情報量が特に減ったという印象はありませんでした。経費削減のためにページ数を減らし、見易さを犠牲にしたのだろう程度に思っていました。

 ところが、今回購入した2022年度版はページ数も情報量も格段に減っています。昨年も一昨年も、その前も購入していないので、徐々に薄くなったのか、急激に薄くなったのかわからないのですが、来年は消えてしまうのではないかと思ってしまうほどです。新聞の折り込み広告などにまぎれて古紙回収に出されても気がつかないのではないかというくらいの薄さで、まさに風前の灯火といった感じです。

 手元にある中でいちばん古い2016年度版と、今回購入した最新の2022年度版を比較してみました。

  ・総ページ数 : 352ページ –> 88ページ
  ・カタログページ数 : 292ページ –> 41ページ
  ・掲載企業数 : 42社 –> 12社
  ・工業会会員数 : 51社 –> 40社

 2016年からの6年間で、冊子の厚さ(ページ数)は約1/4に、カタログが掲載されているページ数は1/7以下に、掲載している企業数も1/4近くまで減少しています。掲載企業数が12社というのはまさに驚きです。
 掲載されている商品(アイテム)数も非常に少なくなっているし、カタログページよりも他のページの方が多いという状況で、もはや「年鑑」とか「総合カタログ」と呼べる内容ではないというのが正直な感想です。
 代表的なところを挙げてみると、これまでかなりのページ数を使って掲載していたケンコー・トキナー、スリック、富士フイルム、近代インターナショナル、ユーエヌなどは数ページに減少してしまい、エツミ、ベルボン(今はハクバになっていますが)、ハクバ、マルミなどは掲載すらされていません。
 価格も昔は300円くらいだったと記憶しているのですが、それと比べるとかなり値上がりしています。
 あまり意味があるとも思えませんでしたが厚さを測ってみたところ、2016年度版は10mmちょうど、2022年度版はわずか2.9mmでした。

▲写真・映像用品年鑑 上:2022年度版 下:2016年度版

 数年の間に何故ここまで薄くなってしまったのかということについては想像に難くなく、ネットで大方の情報を得ることができるようになった現在、このような総合カタログの必要性が薄れてきていることが大きな原因であろうと思われます。
 たくさんの企業の商品が掲載されている分厚いカタログをめくるよりも、パソコンやスマホで自分の見たいもの、知りたいことを検索したほうがはるかに早いし、何よりお手軽です。しかも、企業が提供しているサイトの方が圧倒的に詳しい情報を得ることができます。

 また、カタログの制作には時間もかかるしお金もかかります。昔のように商品の情報を伝える術が限られていた場合は、お金をかけても情報が集約された総合カタログのようなものは有効だったのでしょうが、今は状況が変わってきています。時間やコストをかけても効果性や効率性が期待できないということでしょう。

 そして、冊子の厚さ以上に気になるのが、日本写真映像工業会に加盟している企業数の減少です。
 写真用品や映像用品の製造・販売をしている企業数がどれくらいあるのかわかりませんが、写真業界の動向調査やカメラ業界に関する白書などを見ると、売上が減少したり、倒産したという企業が増えていることは事実のようです。そういったことが大きな原因になっているとは思いますが、6年間で2割も減ってしまうというのは驚きです。
 それまではなくてはならないとされていたものが、カメラがデジタル化されたことによって不要になったというものはかなりの数に上ると思われます。フィルムが最たるものでしょうが、レンズ用のフィルターとか、ストロボなどの照明機器、写真をパソコンなどで見ることが当たり前になったことでアルバムや額縁等々、非常に広範囲に影響が及んでいると思います。
 もちろん、新しい市場も形成されているわけですが、全体としての規模は確実に縮小しているのは間違いのないことなのでしょう。

 そういった環境の変化が及ぼす影響は大きいと思われ、写真・映像用品年鑑に掲載されている企業数も商品数も格段に減ってしまいましたが、掲載されている内容を見ると、全商品を掲載するよりは主力商品や特徴的な商品などに絞っているのと、商品そのものよりも企業のイメージを前面に出しているものが増えている傾向にあるという印象を受けます。商品の詳細は自社のホームページで紹介しているので、そちらを見てくださいという思いなのかもしれません。

 日本写真映像工業会という社団法人は1961年の設立らしいので、今年で61年という歴史ある団体です。活動内容についてはあまり詳しくありませんが、写真用品の認知向上や普及、品質向上、業界の発展ということを大きな目的にしていたことは間違いないと思います。
 その中の具体的な活動の一つとして、写真・映像用品年鑑の発行があったと思うのですが、時代の流れとは言え、あまりの変貌ぶりと言えます。私は4年ぶりの購入なので、一層その感が強いのかも知れませんが、毎年、目にされていらっしゃった方々にとってはじわじわと感じられていたことと思います。

 以前のように、300ページも400ページもあったカタログは、特に目的があるわけでもないのですがページをめくっていくこと自体に楽しみがあり、小さな写真と文字で紹介された各社の商品の中から新しい発見があるというのも総合カタログの持つ魅力だったと思っています。
 ただし、それは膨大な量の商品が掲載されているからこそであって、情報量が少ないとその魅力は一気に色褪せてしまいます。
 また、私のようにフィルム写真をやっている立場からすると、ページ数の少ない最新のカタログを見ても自分が使いたいと思うものがあまりなく、昔のカタログの中にこそ自分の使いたいものがゴロゴロしています。

 とはいえ、こんなに薄くなっても発刊し続けるということに対して頭が下がりますし、何十年も発刊し続けてきたことへの誇りのようなものも感じずにはいられません。長きに渡って写真用品の業界に大きな影響を与えてきたことは紛れもない事実だと思います。
 個人的には、以前のようにたくさんの情報が詰まった総合カタログの存在は大歓迎なのですが、継続していくことの大変さ、難しさを垣間見たような気がしました。
 毎年購入するわけではありませんが、来年(2023年)度の写真・映像用品年鑑は発行されるのだろうかと、今回購入した2022年度版を見ているととても気になってしまいます。

 因みに、写真・映像用品年鑑は日本写真映像工業会のホームページから無料で閲覧することができます。ただし、商品カタログ以外のページ(「写真が上達するコツ」、「撮影・写真用品の基礎知識」、「フォト検通信」など)は掲載されていませんでした。

(2022.7.16)

#カメラ業界

緑鮮やかな山形・秋田の滝巡り くぐり滝/慈光滝/玉簾の滝/奈曽の白滝/元滝伏流水/止滝/銚子の滝

 日本は山が多いので各地でたくさんの滝を見ることができますが、やはり、東北地方と中部地方は滝が多いイメージがあります。滝の明確な定義はあいまいなようで、どれくらいの高さ(大きさ)から滝というのかはわかりませんが、山形県のホームページを見ると、「日本一の滝王国 山形」と書かれていますし、地図を見ても滝の記号が多いと感じるのは東北地方です。
 比較的水量も多く、緑が鮮やかな梅雨の時期に、山形県から秋田県にかけて滝巡りをしてみました。たどり着くのまでに時間のかかる滝もあるので、一日に訪れることのできる滝の数は限られてしまいますが、実際に行った滝の中からいくつかをご紹介します。

くぐり滝(山形県)

 南陽市を走る国道348号線から分岐する細い道があり、2~3kmほど進むと駐車場に着きます。訪れる人は多くありませんが、車のすれ違いができない狭い道なので注意が必要です。
 駐車場からは歩きになりますが、2~3分歩くと滝が見え、さらに2~3分で滝に到着します。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON W 125mm 1:5.6 F45 8s PROVIA 100F

 落差は14mほど、雪解けの頃は水量も多いようですが、訪れた時は少なめでした。
 この滝の特徴は何と言っても、岩にぽっかりと開いた大きな穴から流れ落ちていることです。なぜこのような穴があいたのかわかりませんが、穴の直径は5mほどもあるそうなので、かなり大きな穴です。
 また、この滝は三方がこのような絶壁に囲まれていて、滝つぼに立つととても圧迫感があります。

 この滝を近い距離(滝つぼの辺り)から撮ろうとすると、カメラを上に振ってかなり見上げるようなアングルでの撮影になります。大きな岩の穴を入れようとすると短焦点(広角)のレンズでの撮影になり、上方が小さくなってしまいます。それを防ぐため、目いっぱいのアオリ(フロントライズ)をかけています。
 滝の下流方向は開けていますので、滝から離れたところまで移動すれば長焦点レンズでも全貌を撮ることができます。

 また、この日は曇り空だったこともあり、空は入れたくなかったので、上辺はギリギリのところでカットしています。そのため、岩穴の上部が少し切れています。岩穴の上部もすべて入れたい場合は、やはり少し離れたところから長めのレンズで撮る必要があります。

 撮影していた時間はおよそ一時間ですが、その間、訪れる人は誰もいませんでした。

慈光滝(山形県)

 この滝は真室川町から酒田市に向かう国道344号線沿いにあります。道路のすぐ脇にあるので、車で走っていても目に入ってきます。すぐ近くに車2台分ほどの駐車スペースがあり、アクセスは非常に良いのですが、あまりにも道路に近いため、三脚を立てるには道路反対側の草むらということになってしまいます(滝の前で三脚を立てようとすると車にはねられる危険ありです)。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F45 4s PROVIA 100F

 黒い岩肌を滑り落ちるような、とても優美な感じのする滝です。だいぶ散ってしまっていますが、わずかに赤いヤマツツジの花が見えます。
 落差は6mほどあるようなのですが、この写真に写っているのは4mほどです。全景を入れようとすると道路の脇に立って覗き込むような位置で撮らねばならず、手持ち撮影しかできません。ということで、この写真は道路反対側からガードレール等が入らないギリギリの範囲で構成しています。
 雨が上がった直後で全体に柔らかな光が回り込んでいますが、画左側の木がちょっと明るすぎる感じです。

 また、この滝の反対側の路肩から河原に降りて滝の前まで行くことができるのですが、流木や木の枝、枯れ草などが雑然としていたので撮影はあきらめました。

 数年前、紅葉の時期に訪れたことがあり、華やかに色づいた中に黒と白のコントラストの滝がとても綺麗でした。その時は縦構図で紅葉を上に多く入れたのですが、今回は上方が明るすぎたので横構図にしてみました。
 露光時間は4秒ですが、時々、車が目の前を通るので、運が悪いと車の屋根が写り込んでしまい、高いフィルムが一枚、無駄になってしまいます。

玉簾の滝(山形県)

 弘法大師が神のお告げによって発見したと伝えられている落差63m、山形県随一の高さを誇る見事な滝です。広い駐車場が完備されており、駐車場から滝まで徒歩10分ほどです。滝の前には御嶽神社のお社があり、かつては山岳宗教の修験場だったようです。
 太陽の光によって滝の飛沫が玉簾のように見えることからついた名前らしいです。

 水量も多く、豪快に流れ落ちるので、滝からかなり離れていても飛沫が飛んできます。滝つぼの前まで行くことができますが、びしょ濡れになる覚悟が必要です。
 この写真を撮影した神社の裏手に当たる場所は昼間でも薄暗く、滝の飛沫の影響もあるのか、とてもひんやりとしています。長時間、一人きりでいると何だか心細くなってきます。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM105mm 1:5.6 F45 4s PROVIA 100F

 本当は曇っていてほしかったのですが、ご覧のように見事に晴れ渡ってしまいました。周囲には大きな木があるので、晴れてしまうとコントラストがつきすぎてしまいます。全体に光りの回り込んだ状態を撮りたかったのですが、自然はこちらの思うようにはなってくれません。
 周りの木や斜面をシルエットになるようにして、滝を取り囲むような構図にしてみました。偶然のタイミングですが、滝の背後の右側の崖に木の影が落ち込んでいるのがいいアクセントになってくれました。

 滝を撮るときは人工物は入れないようにすることがほとんどですが、敢えて今回は滝つぼの前に設置されている柵と立て看板のようなものを小さく入れてみました。

 なお、この滝はゴールデンウィーク期間と夏休み期間、夜になるとライトアップされるようです。

奈曽の白滝(秋田県)

 日本海沿いに北上する国道7号線から鳥海山方面に分岐する道路に入り、10分ほど走ると到着します。広い駐車場があり、一帯は奈曽の白滝公園になっています。
 滝に行くにはこの公園内を抜けるか、金峯神社の境内を通るかのどちらかですが、滝が見える観瀑台のようなところまでは徒歩で15分ほどです。金峯神社は鳥海山の修験の拠点だったらしく、境内はかなり急な石段が続いています。
 観瀑台は金峯神社の本殿の近くにあるのですが、障害物がなく滝の全貌が見えるのはここと、長い石段を下りた先の滝つぼの前だけです。

 下の写真は観瀑台からではなく、奈曽川にかかっている吊り橋の上から撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F45 8s PROVIA 100F

 奥に見えるのが奈曽の白滝の滝つぼで、そこからの流れを撮ってみました。滝は落差26m、幅11mの豪快な滝ですが、滝そのものよりもその先の流れがとても綺麗でした。
 雨が降ったり止んだりという天気でしたが、滝を撮るには最高です。水が少し濁っていましたが、長時間露光で撮影すれば波が白くなるので、濁りをごまかすことができます。

 濡れた岩のテカリを抑えるためにPLフィルターを使おうかと思いましたが、岩がそれほど多くないのと、緑が不自然にな色になってしまうのを避けるため、PLフィルターは使用していません。
 下側(手前側)をもう少し広く入れたかったのですが、すぐ下に吊り橋を支えているワイヤーがあり、それが写り込んでしまうので手前で止めています。

 吊り橋の上に三脚を立てているので、人が吊り橋に入ると大きく揺れます。しかも全長75mの橋を渡りきるまで揺れ続けるので、この場所で撮影するのは人の少ない早朝がお勧めです。

元滝伏流水(秋田県)

 奈曽の白滝から車で数分も走ると元滝伏流水の駐車場に着きます。駐車場からは整備された遊歩道があり、15分ほどで伏流水が見えてきます。
 元滝はさらに上流になるらしいのですが、がけ崩れで立ち入り禁止になっていました。

 元滝伏流水は鳥海山の溶岩の末端から流れ出ている湧き水で、水温は年間を通じてほぼ変わらず、10度くらいとのことです。とてもきれいな水で、イワナやヤマメがいるらしく、撮影に行った時も釣りをしている人を見かけましたが、釣れたところは見られませんでした。

▲Linhof MasterTechnika 45 RodenStock Sironar-N 210mm 1:5.6 F32 8s PROVIA 100F

 岩の間から流れ落ちる水と苔むした岩、うっそうとした森がつくる景観は、形容しがたい、ぞくっとするような空間です。
 川の中ほどに草が根を下ろした小さな岩があったので、これを手前に入れて撮影しました。ほとんど無風状態だったので、草もブレずに写ってくれました。
 画左側は上部に大きな岩があり、その陰になっているので、右の方に比べるとかなり暗い状況です。右半分に弱いハーフNDフィルターをかけても良いのですが、これくらいの明暗差があった方が奥行きが感じられると思います。
 全体にあまり明るくしてしまうと、ぞくっとするような感じが薄れてしまうので、露出は切り詰め気味にしています。

 もう少し下流(写真の左方向)に行くと川の中に苔むした大きな岩がゴロゴロしており、また違った美しさを見ることができます。

止滝(秋田県)

 十和田湖に向かう国道103号線、青森県との県境に近いところにある滝です。103号線に沿って流れる大湯川にある滝で、道路のすぐ脇にあります。大湯川の水量はあまり多くないのですが、この止滝のところは川幅が狭くなっているので、大きな滝ではありませんが迫力があります。
 滝つぼのすぐ上(道路脇)には小さな神社のお社があり、滝が祀られているのかも知れません。
 滝の下流すぐのところに駐車場があるので、滝へのアクセスはとても便利です。

 下の写真は、滝つぼの少し下流にある橋の上から撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON C 300mm 1:8.5 F45 2s PROVIA 100F

 川の流れを多く入れたかったのですが、水量が少なく、あまり風情がなかったので、上の緑を多く入れました。また、滝の手前に伸びている枝が滝にかかり過ぎないポジションから撮影しています。
 折り重なる木々が平面的にならないように近くにある枝を大きく入れてみましたが、風でブレてしまい、ちょっと中途半端な感じです。これが止まってくれていると、全体がもっとすっきりとした印象になると思うのですが。

 この写真ではよくわかりませんが、カエデの木が何本もありましたので、秋の紅葉の季節はとても美しい景色になるのではないかと思います。

銚子の滝(秋田県)

 止滝から少し上流に行き、国道103号と104号が分岐している少し先にある滝です。滝のすぐ前まで車で行くことができます。
 江戸時代の紀行家、菅江真澄が訪れたらしく、「菅江真澄の道」と書かれた案内柱が立っています。

 銚子の滝とか銚子滝という名前の滝はあちこちにあり、滝の形が銚子に似ていることからつけられたものが多いですが、この滝も昔は銚子の形をしていたようです。
 落差は20mほど、季節によってはかなりの水量があるようです。

 滝は北西を向いて流れ落ちているので、晴れた日の日中は逆光になってしまうのと、晴れているとコントラストが強すぎて滝が目立たなくなってしまいます。やはり曇りとか雨の日がお勧めです。
 滝つぼは左右にかなり広がっているので、立つ位置によって滝の形や見え方がずいぶん変わってきます。

 下の写真はほぼ正面から撮影したものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6 F32 8s PROVIA 100F

 滝の上部にヤマツツジが咲いていたので、これをできるだけ入るように、かつ、空は入れないようにというフレーミングです。
 画左側の柱状節理がとても綺麗だったので、ここの質感が出るように露出を決めています。
 水量はさほど多くないので、迫力というよりは繊細な美しさを感じますが、滝の下半分と左側の柱状節理の部分を切り取ると、美しさに加えて滝の迫力が感じられる写真になると思います。

 この滝の少し手間に「錦見の滝」があり、林の中にたたずむ美しい滝です。この辺りは滝が密集しています。

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 山形県と秋田県の滝、およそ20ヵ所を巡ってきましたが、訪れたにもかかわらず光の具合が良くなくて撮影しなかった滝もあります。そういう滝は、「また、出直してきなさい」と言われているのだと思い、再度、訪れてみたいと思っています。
 今回、紹介できなかった他の滝については、別の機会にご紹介できればと思っています。

 それにしても、滝というのは魅力があります。

(2022.7.9)

#渓流渓谷 #リンホフマスターテヒニカ #Linhof_mastertechnika

大判写真と35mm判写真は何がどのように違うのか その2:画作りへの影響

 今から10ヶ月ほど前、2021年8月に同じタイトルのページを書きました。大判と35mm判とではフィルム面の大きさが異なることに起因するいくつかの違い(階調や被写界深度、ボケなど)について触れてみました。
 今回は前回とは少し違った視点、構図などの画作りという点から大判写真と35mm判写真の違いについて触れてみたいと思います。
 なお、構図や画作りというのは、階調や被写界深度などのような物理的な違いではなく、あくまでも個人的な主観によるものですので客観的な比較というわけにはいきません。あらかじめご承知おきください。

アスペクト比の違いによる構図決めへの影響

 大判フィルムと35mm判フィルムの違いは大きさ(面積)もさることながら、アスペクト比(縦横比)も大きく違います。一口に大判と言ってもサイズは何種類もありますが、ここでは現時点で一般的に手に入れることができる4×5判を対象にします。

 4×5判のフィルムを横位置にした時の縦横の比率は1:1.26(96mmx121m)です。
 これに対して35mmフィルムの場合は1:1.5(24mmx36mm)ですので、大判フィルムに比べるとかなり横長(縦に置いた場合は縦長)になります。大判フィルムに比べて長辺が約19%伸びていることになります。
 この値は結構大きくて、大判フィルムの左右両端がそれぞれ11.5mm、長くなった状態です。わかり易く図にすると下のようになります。

 このアスペクト比の違いが、撮影するうえでの画作りにものすごく大きな影響があると感じています。
 私が4×5判や中判の中でも67判を多用している理由は、フィルム面が大きいことによる画像の美しさもありますが、四切や半切、全紙などのアスペクト比に近いというのも大きな理由です。特別な意図や事情がない限り、撮影したものをできるだけ切り捨てず(トリミングせず)にプリントしたいというときに、アスペクト比が近いというのはとてもありがたいことです。
 最近ではA4とかA3というサイズが増えてきていて、これは35mm判フィルムのアスペクト比に近いので、フィルムにしてもデジタルにしても35mm判(フルサイズ)を使う場合にはその方が都合が良いわけです。

 そういった意味ではどちらが良いということではなく、慣れの問題と言えると思いますが、アスペクト比に対する慣れというのはとても重要なことだと思っています。

 上でも書いたように、横位置に構えた場合、4×5判に比べて35mm判の横方向は19%も長いわけですから、かなり広範囲に渡って画面に入り込んできます。縦(上下)方向を基準に4×5判のアスペクト比1:1.26の感覚で画面構成しようとすると、左右が広すぎて収まりがつかなくなってしまいます。
 逆に横(左右)方向を基準にすると上下が切り詰められたようで、とても窮屈な感じを受けます。

 例えば日の丸構図のように、主要被写体を画中央に配置した場合、4×5判だと左右の空間は上下のそれと比べて少し広い程度ですが、これが35mm判だと左右の空間がとても広くなります。そしてこれは主要被写体を中央に配した場合に限らず、三分割構図などのように左右のどちらかに寄せた場合でも同じで、反対側の空間が広くなりすぎて、うまく処理しないと余計なものが写り込んだり、無意味な空間ができたりしてしまいます。

 これは中判フィルムを使った69判の場合もアスペクト比が35mm判とほぼ同じなので、同様のことが起こります。

 一方、35mm判のアスペクト比で構成した画を4×5判のアスペクト比に収めると、左右がカットされて窮屈に感じたり、左右を切り詰めなければ上下が広くなりすぎ、締まりのない写真になってしまうと思います。

 実際に撮影した写真を例にとってみるとこんな感じになります。
 下の写真は奥入瀬渓流で撮影したものですが、4×5判のアスペクト比で画を構成したものです。

▲アスペクト比 1:1.26(4×5判相当)で撮影した場合

 これに対して、上下方向の範囲を変えずに35mm判のアスペクト比で撮影したのが下の写真です。

▲アスペクト比 1:1.5(35mm判相当)で撮影した場合

 どちらの写真が良いとか悪いとかではなく、また、好みもあると思いますが、写真から受ける印象がずいぶん違うということです。
 当然、左右が広い分だけ35mm判のアスペクト比の方が横の広がりを感じ、パースペクティブの影響で奥の方から流れてきているように見えます。広さや動きを表現したりするのに向いていますし、ダイナミックな画をつくることができます。
 一方、4×5判のアスペクト比の場合、横の広がりは抑えられてしまいますが、流れにボリューム感が生まれているように思います。
 ただし、この写真を例にとると、35mm判アスペクト比の場合は左右が広く写るので川の両岸、特に右岸(画面左側)の処理がうまくいってない印象を受けます。反対に、左右が広く取り入れられているので全体の様子がわかり易いと言えるかも知れません。

 こうして2枚を比べてみると、35mm判アスペクト比の場合は広がりや力強さを表現し易いフォーマットであるのに対して、4×5判アスペクト比の場合は全体に落ち着いた感じ、安定した感じを受けるフォーマットのように感じます。その分、35mm判アスペクト比の写真に比べる物足りなさを感じるかも知れません。
 ですが、いずれにしても、同じ場所を撮影してもアスペクト比によって写真から受ける印象はずいぶん異なるということです。
 このように、35mm判と4×5判の写真を比較すると、階調や被写界深度、ボケなどによる違いも大きいですが、アスペクト比の違いはフレーミングや構図の仕方にも影響を及ぼすので、数値では表せませんが非常に重要な要素であると思います。

 4×5判や67判で撮影していると、「もうちょっとだけ、横の広がりが欲しい」と思うこともありますが、決められたフォーマットの中にどう収めるかを考えるのも重要なプロセスかも知れません。

写真の四隅に対する気配りの違いによる影響

 フレーミングや構図を決めるというのは35mm判であろうが大判であろうが、撮影における欠かせないプロセスの一つですが、この際に、フォーカシングスクリーンの四隅に神経をいきわたらせる度合いが、大判カメラの方が大きいような気がしています。
 一般的に主要被写体は中央部、もしくは中央部付近に配置することが多く、極端に隅の方に配置することはそれほど多くありません。そのため、どうしても中央部周辺には意識が向きますが、周辺部、特に四隅には意識が向きにくいという傾向があるように思います。

 35mm判カメラの場合、一眼レフカメラにしてもレンジファインダーカメラにしても、ファインダーをのぞき込めば全体が容易に見渡せ、ピントの状態も一目でわかります。
 これに対して大判カメラの場合、特に短焦点レンズの場合はスクリーンの周辺部が暗くなってしまったり、肉眼だけでは正確なピントの状態がわからないなど、全体を一目で確認することが困難な場合が往々にしてあります。画面の周辺部に余計なものが写り込んではいないか、画全体のバランスを欠いていないか、ピントは大丈夫か等々、いろいろなことを気にしながらスクリーン全体を何度も見直しします。

 このような手間のかかるプロセスを経ることによって、結果的に大判カメラで撮影した方が四隅に神経が行き届いた写真になることが多いというのが私自身の実感です。
 もちろん、35mm判カメラでも四隅に注意を配ることはできますが、全体が容易に見渡せるがゆえに、大判カメラほどには気を配らずにシャッターを切ってしまうということがあるということです。

 周辺部に気を配らずに撮った写真を見ると、撮影時点では気がつかなかったものが写っていたり、余計な空間ができていたり、全体的に何となく締まりのない写真なってしまうことがあります。
 主要被写体さえしっかり写っていれば良しという考えもありかも知れませんが、やはり周辺部に締まりがないと主要被写体のインパクトも弱くなってしまいます。

 そしてこれは、前の節で書いた画作りとも密接な関係があると思っています。
 つまり、35mm判の方がアスペクト比が大きい分、中心部から四隅までの距離が長くなるわけで、そのため、より意識を向けないと四隅が甘くなってしまう可能性が高まってしまうということです。
 35mm判カメラと大判カメラの構造的な違いによって、大判カメラの方が周辺部に意識を向けざるを得なくなるということ、また、何しろフィルム代が高いので失敗は許されないという意識が働くのかも知れませんが、思いのほか、写真の出来には大きな影響を与えているように思います。

ピントとボケのコントロールによる影響

 大判カメラの大きな特徴はアオリが使えることですが、それによってピントを合わせたりぼかしたりということが自由にできます。
 35mm判の一眼レフや中判一眼レフのカメラやレンズは、ごく一部の製品を除いてはレンズの光軸が固定されています。これに対して大判カメラは、意図的に光軸をずらすことでピントのコントロールを自在に行なうことができます。

 代表的なのが風景撮影でよく使われるパンフォーカスですが、近景から遠景までピントが合った状態にすることができ、視覚的にとても気持ちの良い写真に仕上がります。
 また逆に、レンズの絞りを目いっぱい開いてもボケてくれないような状況でも、アオリを使うことで大きくぼかすこともできます。

 下の写真は福島県にある滝を撮ったものです。

▲Linhof MasterTechnika 45 FUJINON CM105mm F22 16s ND8使用

 アオリを使って撮影してるため、川の中にある足元の石から奥の滝まで、ほぼパンフォーカスの状態です。

 焦点距離105mmのレンズを使い、絞りはF22で撮影していますが、絞り込んだだけではここまでパンフォーカスにはなりません。
 このようにピントやボケをコントロールすることで、35mm判カメラで撮影したものとは雰囲気の異なった写真にすることができます。

 また、ボケをコントロールすることで主要被写体を浮かび上がらせたり、写ってほしくないのだけれど画の構成上、どうしても入ってしまうものをぼかすことで目立たなくしてしまう、というようなこともできます。

 いまはレタッチソフトでかなりの加工がきてしまうので、ボケのコントロールもパソコン上で自由自在といったところですが、フォーカシングスクリーン上で意図したボケの状態を作り出す面白さというのが大判カメラにはあると思います。

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 今回触れた三つの違いのうち、アスペクト比に起因する画作りの違いと、画の四隅に対する気配りの違いというのは物理的なものではないので、撮影の時点で注意をすれば大判カメラであろうと35mm判カメラであろうと同じような状態にすることができます。ですが、やはりアスペクト比に対する慣れというものは影響力が大きく、わかってはいても不慣れなアスペクト比ではなかなか思うように撮れないことも多いというのが正直なところです。
 フィルムフォーマットに縛られてしまうと本末転倒ですが、フィルムフォーマットを活かした画作りは意識すべきことだと思います。

(2022.7.1)

#アオリ #写真観 #構図