いま、とっても欲しいカメラ ~撮影の頻度が確実に増すと思われるカメラたち~

 私は何年か前に、それまで所有していた35mm判のカメラやレンズのほとんどを処分して以来、カメラの台数はほとんど増えていません。正確に言うと、衝動買いしたフォクトレンダーのベッサマチックが1台加わりましたが、このカメラはすっかりディスプレイと化しています。
 ちなみに、レンズの方は今でも微増しております。

 新たにカメラが増えていないのは、私が使ってるようなフィルムカメラの場合は、カメラが変わっても写真に大きな違いはないということがいちばんの理由です。もちろん、多くの二眼レフカメラやレンジファインダーカメラなどのようにレンズが固定式の場合は、カメラが変わればレンズも変わるので写りにも影響しますが、私が主に使っている大判カメラや中判カメラはレンズが交換できるので、カメラ本体をたくさん持つ必要がありません。
 しかしながら、カメラに対する物欲がまったく失せてしまっているかというとそんなこともなく、もう長いこと欲しい欲しいと思いながらも、いまだに手にすることができていないカメラがあります。

 まず1台目は、富士フイルムの「GF670W Professional」という中判カメラです。

▲富士フイルム製 GF670W Professional (富士フイルム HPより転載)

 このカメラは2011年3月に発売された中判フィルムカメラで、その2年前(2009年)に発売された「GF670 Professional」というカメラの広角レンズタイプです。GF670は蛇腹を採用した折り畳み式でしたが、GF670Wはレンズ固定の一般的なレンジファインダーカメラの形態をとっていました。
 価格はオープンとなっていましたが、新宿の大手カメラ量販店では15万円ほどで販売されていたと記憶しています。

 装着されていたのは「EBC FUJINON 55mm 1:4.5」という8群10枚構成のレンズで、電子制御式のシャッターが内蔵されていました。FUJINONのレンズと言えばその写りの素晴らしさは誰しもが認めるところであり、私もFUJINONの大判レンズを何本か持っていたので、写りに関しては何の懸念もありませんでした。

 66判と67判を切り替えて使うことができたのも魅力の一つでしたが、私にとっては何と言っても洗練されたデザインが最大の魅力でした。
 フィルムの巻き上げもレバーではなくダイヤル式が採用されていたりして、半世紀も前のカメラを彷彿とさせるようなたたずまいですが、とても垢抜けしているように感じたのを憶えています。
 また、中判では主に67判を使っていた私にとって、レンジファインダーの67判というところにも心を揺さぶられました。

 このカメラが発売された2011年というのはフィルムにかなり翳りが出ていた頃で、同じ会社である富士フイルム製のフィルムも次々に販売終了になっており、そんなときによく新たなフィルムカメラを出したものだと驚きました。もしかしたら「フィルム復活!?」なんていう淡い期待を抱いたのも事実です。
 しかし、わずか4年後の2015年5月には出荷終了となってしまいました。なんと、先に販売が開始されたGF670よりも2年以上も早くに出荷終了になってしまいました(GF670は2017年12月で出荷終了)。初代のGF670の方が人気があったのかも知れません。

 生産された期間がわずか4年間で、しかも、このカメラを購入しようと思う人は決して多かったとは思えません。最終的な出荷台数がどれくらいになったのかはわかりませんが、市場に出回った台数はとても少ないのではないかと思います。
 それが証拠に、中古市場でもタマ数は少ないうえに異常とも思える高値がついています。30万円、40万円とかは当たり前で、中には50万円を超えるものもあり、ここまで価格が高騰してしまうととても手が出せません。15万円で新品が購入できたときに何故買っておかなかったのか、今更ながらの後悔です。15万円というのは安い金額ではないので踏ん切りがつかなかったのと、そんなに早くに出荷終了になるとは思いもしなかったというのが、当時購入しなかった理由だと思います。

 また、私はこのカメラで実際に撮影している人をこれまで一度も見たことがありません。中古市場に出回っているカメラも状態の良いものがほとんどで、あまり使われることもなく大事に保管されていたのではないかと思ってしまいます。出荷台数が少ないがゆえに、コレクターズアイテムのような存在になってしまっているとしたら、ちょっと寂しい気持ちになります。

 いくら欲しいとはいえ、今のような高額の状態で手を出すことはないと思いますが、もし、幸運にもこのカメラをゲットできたとしたら、スナップ感覚で風景を撮りに行く回数が確実に増えると思います。

 いま、とっても欲しいカメラの2台目は、「シャモニーChamonix 45 F-2」です。

▲Chamonix 45 F-2 (シャモニービューカメラ HPより転載)

 これは中国にあるシャモニービューカメラという会社で作られている大判(4×5判)カメラです。

 シャモニーのカメラについては以前、別のページでもちょっと触れましたが、会社のホームページを見ると、2003年に中国の写真家と登山家によって設立されたと書かれています。大判カメラを専門に作っているようですが、そのラインナップは素晴らしく、これまで聞いたことのないようなフォーマットのカメラがいくつもあります。

 私は今から10年ほど前にはじめてこの会社の存在を知り、そこで作られているカメラの美しさに目を奪われました。ウッド(木製)カメラに似ていますが、木材の他に金属や炭素繊維(カーボンファイバー)が豊富に使われており、それらがとてもよく調和したデザインになっています。
 また、とても丁寧に作られている感じがして、美しい仕上がりになっています。

 そして、最も私の気を引きつけたのがユニークなカメラムーブメントでした。
 これまでの大判カメラにはなかったと思われる独自の機構がいくつもあり、シンプルでありながら機能性に富んだカメラという印象です。カメラのベース部分は金属製ということもあり、見た目からも堅牢な感じがします。フィールドでも安心感をもって使用できるカメラだと思います。
 金属が多用されているので重量も増しているかと思いましたが、カタログ上では1,600gとなっていて、私が使っているタチハラフィルスタンドよりもほんの少し重いだけです。
 残念ながら、私は一度も触ったことはありませんが、たくさんの方が動画をアップされていて、それらを拝見することで美しさや機能性の良さをうかがい知ることができます。
 また、単にカメラを製造して販売するだけでなく、パーツ類の供給やサポート体制もしっかりとしているようで、企業体質にも誠実さが感じられます。

 国内の中古カメラ店にも時どき入荷することがあるようなのですが、人気のモデルはすぐに売れてしまうようです。4×5判であれば価格も20万円を下回っていて、べらぼうに高いという感じはしません。むしろ、リンホフやエボニーなどの中古品よりもずっとお手頃な価格です。
 ホームページに掲載されている新品価格が1,455ドルですから、円安の今でさえ、20万円ほどで手に入れることができるわけです。

 現在、私は4×5判のカメラを4台持っていて、これ以上、カメラが増えても持て余すだけになってしまいますし、特に大判カメラの場合、よほどひどい状態でない限り、どのカメラで撮っても写りに違いが出るわけではありません。ですから、今持っているカメラで何ら不都合はないのですが、魅力というのは不思議なもので、現実をはるかに超越してしまう力を持っています。
 今あるカメラを1~2台手放して、代わりにこのカメラをゲットしようかとも考えましたが、それはそれで後ろ髪を引かれる様なところがあり、思い切りよくやることができずにいます。

 それにしても、どれくらいの需要があるのかわかりませんが、これだけの品質のカメラを1,455ドルという価格で提供し続けることができるということに驚いてしまいます。事業として採算がとれるのだろうかと、つい余計な心配をしてしまいます。

 いま、とっても欲しいカメラの3台目は、「コニカ KONICA C35」、35mm判のコンパクトフィルムカメラです。

▲コニカ C35 Flash matic

 メーカーが提供している画像を見つけられなかったので、絵をかいてみました。へたくそですみません。
 
 製造発売元の小西六写真工業(のちのコニカ株式会社、現コニカミノルタ株式会社)は、富士フイルムと並ぶフィルムメーカーとしても有名でしたが、ミノルタと合併してコニカミノルタとなった後、カメラ事業や写真関連事業をあちこちに譲渡していき、現在のコニカミノルタからはカメラの臭いがなくなってしまいました。

 このC35というカメラはいくつかのモデルがあるのですが、初代は1968年に発売されたようです。今から50年以上も前で、アメリカのアポロ11号が月面に降りる前の年です。
 上の写真のカメラはC35 Flash matic というモデルで、発売年は初代機の3年後の1971年とのことですので、やはり50年以上は経過しています。

 35mm判カメラのほとんどを処分してしまったにもかかわらず、何故、今になって35mm判のコンパクトカメラが欲しいのかというと、理由はただ一つ、その見てくれの可愛らしさです。
 コンパクトフィルムカメラは、これまで各メーカーからそれこそ数えきれないくらいのモデルが発売されてきましたが、私にとってはそのデザイン性という点において、このカメラの右に出るものはないと思っています。デザインというのは好き嫌いがありますから、誰もがこのデザインを好むとは思っていませんが、私からすると、愛嬌もあり野暮ったくもない、50年経っても古臭さを感じないデザインは他にないと思っています。
 私が愛用しているCONTAX T2も優れたデザインだと思っていますが、T2のように優等生ぶっていない親しみのある風貌が何とも言えません。いわば、T2の対極にあるようなデザインといった感じです。
 以前から可愛らしいカメラだとは思っていたのですが、最近になってとても気になる存在になってきました。現役で使っている35mm判カメラがT2だけになってしまったからかも知れません。

 カタログデータを調べてみたところ、大きさはT2よりも少しばかり大きく、重量もT2より少し重いようですが、それでも非常にコンパクトであることには変わりありません。レンズは写りに定評のあるHEXANON 38mmがついているので、その描写能力に関しても問題はないと思われます。
 このカメラ、中古市場では結構たくさん出回っているようで、大手ネットオークションサイトを少し調べてみましたが、安いものであれば数千円、程度の良いものでも一万円前後で出品されています。手に入れたいと思えば比較的容易に購入できる状況のようです。

 CONTAX T2はお散歩カメラとして今も活躍してくれていますが、もし、コニカ C35を手に入れた時のことを想像すると、お散歩カメラとして持ち歩きたくなるのは間違いなくC35だと思います。なんだかT2には申し訳ないようですが、こればかりは仕方ありません。
 富士フイルムのGF670WやシャモニーのChamonix 45 F-2のように何十万円もするわけではなし、今夜にでもポチッとすれば2~3日後には手に入るカメラです。GF670WやF-2に対する物欲とは次元の違う物欲を感じるカメラです。

 こうしてあらためて振り返ってみると、いま欲しいと思っているカメラは機能や性能に優れているというだけでなく、琴線に触れるようなフォルムとかデザインを持ったカメラというような気がします。もちろん、機能や性能は重要な要素ですが、私の気持ちはどちらかというとデザインに重きが置かれているといった感じです。
 デザインの好き嫌いは個人の好みの問題ですが、どんなに機能や性能が優れていても、デザインが気に入らなければ全く興味が湧きません。これら3つのカメラは機能や性能も十分に備えながら、デザイン的にも優れているカメラだと感じています。あくまでも個人的にですが。

 この他にも気になっているカメラはいくつかあります。しかし今のところ、手に入れたいと思うようなカメラはこの3つ以外には存在しません。世の中には私がまだ知らずにいるカメラもたくさんあるわけで、そういった中には琴線に触れるものもきっとあると思います。いつか、そんなカメラと出逢う日もあるだろうという期待を持ちつつ、この3つのカメラをゲットすべきかどうか悩む日は続きそうです。

(2023.4.28)

#GF670W #Chamonix #シャモニー #コニカ #KONICA_C35

シュナイダー Schneiderの大判レンズ クセナー Xenar 210mm 1:6.1 テッサー型レンズの写り

 テッサー Tessar は言わずと知れた、今から100年以上も前にカール・ツァイスから世に出たレンズです。世の中にはたくさんの銘玉と言われるレンズがありますが、知名度の高さではテッサーがいちばんではないかと思います。オリジナルのテッサーに若干の変更を加えたテッサータイプといわれるレンズをほとんどのメーカーが発表しており、誰もが使える優れたレンズだということが伺い知れます。
 シュナイダーからは「クセナー Xenar」という名称でテッサータイプのレンズがラインナップされており、大判用の他にローライのカメラに採用されているのは有名です。

クセナー Xenar 210mm 1:6.1の主な仕様

 大判用のクセナーは、焦点距離75mmから480mmまでが揃っていたようで、210mmのレンズはF4.5とF6.1の2種類があります。私が持っているレンズはF6.1の方で、シリアル番号からすると1978年頃に製造されたレンズのようです。製造から45年ほどが経過したといったところです。
 追記:このページをご覧いただいた方から、もっと古い時代の大判用クセナーの210mmには、F3.5、F5.5(後にF5.6)も存在していたと教えていただきましたので、追記させていただきます。

 ちなみに、「Xenar」という名前は、原子番号54の元素である「キセノン」が由来のようですが、どういった意図でこの名前にしたのかはよく知りません。海外のレンズにはそれぞれ名前がつけられているものが多く、なんとなく親しみを感じます。

 主な仕様は以下の通りです。

  イメージサークル : Φ246mm(f22)
  レンズ構成枚数 : 3群4枚
  最小絞り : 32
  シャッター  : COPAL No.1
  シャッター速度 : T.B.1~1/400
  フィルター取付ネジ : Φ46mm
  前枠外径寸法 : Φ47.9mm
  後枠外径寸法 : Φ41.8mm
  全長  : 49.9mm
  
 このレンズを4×5判で使ったときの画角は、35mm判カメラに換算するとおよそ60mmのレンズに相当しますので、ちょっと長めの標準レンズといった感じです。
 シャッターは1番を使っていますが、テッサー型らしい小ぶりで薄型のレンズです。同じシュナイダーのジンマーやフジノンのW210mmなどと比べると二回りくらいは小さいと思われます。

 イメージサークルは246mm(F22)あるので、4×5判で使う分には一般的な風景撮影においては全く問題ありません。
 開放絞りはF6.1で、F5.6から1/4段ほど暗いですが、無理して明るくしていない潔さのようなものを感じます。大判レンズの場合、開放F値が5.6というレンズが比較的多いですが、それに比べて1/4段ほど暗くても、実際に使用するうえで支障になることはあまりありません。
  (念のためにつけ加えますが、1/4段程度の露出は無視しても良いという意味ではありません。リバーサルフィルムで1/4段違えば、その差ははっきりとわかります。F6.1であっても使用上、特に困ることはないという意味ですので、誤解のないようにお願いします。)
 また、最小絞りの目盛りはF32となっていますが、絞りレバーは更に先まで動かすことができ、F64くらいまで絞り込めると思います。
 絞り羽根は7枚で、絞り込んでもその形が崩れることはありません。

 この時代のコパルのシャッターは金属の質感がプンプンに漂っていて、シャッター速度切り替えダイヤルのちょっと重い感触が気に入っています。一方、絞りを動かすレバーは小さくて、あまり使い易いとはいえませんが、適度な重さがあり、1/2段とか1/3段というようなわずかな動きにも絞り羽根は正確に反応してくれます。

4枚のレンズで実現されたシャープな描写

 テッサーと言えば、ピント面のシャープさや美しいボケ、歪曲の少なさなどの特徴が挙げられています。今の時代においては当たり前の写りかも知れませんが、当時は驚異的な描写をするレンズとして評価されていたのでしょう。設計や製造技術の進歩に伴い、テッサーはどちらかというと安価なグレードに使われてきたという印象もありますが、その写りが色褪せていないというのはたくさんのテッサータイプのレンズが作り続けられてきたことからも明らかなことだと思います。

 私が持っているシュナイダーのクセナーはこの1本だけしかなく、いわゆるクセナーの特性のようなものは把握していませんが、シャープで素直な写りのレンズという印象です。言い換えれば際立った特徴がないとも言えますが、私が主な被写体としている風景を撮るには、あまり癖がない方が望ましいと思っています。そして、210mmとは思えない小ぶりなレンズであり、携行性は抜群です。

 では、このレンズで撮影した写真を何枚か紹介します。

 下の写真は福島県の小峰城です。ちょうど桜が満開の時に撮りました。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 1/8 PROVIA100F

 撮影したのは午前8時ごろで、背後から光が差し込んでおり、ほぼ順光の状態です。手前の桜とお城の両方にピントを合わせたかったので、バックスイングのアオリをかけています。
 そつのないシャープな写りという感じです。エッジが立ちすぎることもなく、立体感も損なわれることなく、まさに素直な写りという表現がピッタリです。桜の色が濁らないようにギリギリまで露出をかけていますが、枝の先端や花芯までしっかりと解像しています。発色の仕方も嫌味がなく、ナチュラルカラーといった感じです。
 また、周辺部でも画質の低下はあまり感じられず、全体に渡って均一な描写をしている印象ですし、コントラストも良好で締まりの良い画質になっていると思います。解像度は若干低めかという感じもしますが、まずまずといったところでしょう。

 焦点距離の短いレンズ(例えば90mmとか75mmなど)でこのような構図で撮ると、被写体との距離によっては周辺部が若干流されるような描写になることがありますが、210mmという焦点距離はそういったことがないので、違和感のない自然な感じの画作りができます。

 クセナーのボケ具合がわかるようにということで撮影したのが下の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F6.1 1/30 PROVIA100F

 渓流をバックにしてカエデの若葉を撮影したものです。
 主被写体であるカエデの葉っぱと背景との距離があまり大きくないのと、絞りは開放にしているとはいえ、F6.1ですから大きなボケは期待できません。ボケ方としては悪くはないと思いますし、ちょっと柔らかめのフワッとした感じのボケ方をしています。もう少し被写体に近づいた状態で撮影すればボケ方も随分変わってくると思うのですが、これ以上近づくことができませんでした。ただし、背景の様子がわかるにはこれくらいの距離関係の方が良いのかもしれません。背景が暗く落ち込んでいることもあって、カエデの葉っぱが浮かび上がっているような感じを受けます。

 カエデの葉っぱの描写はとてもシャープですが被写界深度は浅く、奥の方の葉っぱにはピントが合っていませんが、奥行き感は出ていると思います。ピント面はキリッとしていますが硬すぎず、カエデの若葉の質感が良く出ています。じっと見ていると、枝先がかすかに揺れているような錯覚に陥ります。
 ピントが合っているところから合っていないところに向ってなだらかにボケており、綺麗なボケと言えるのではないかと思います。
 色乗りも自然な感じで、この季節ならではの新緑の柔らかさが感じられます。

 次は、昨年の秋に撮影した紅葉の写真です。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F32 2s PROVIA100F

 埼玉県の中津峡にあるカエデの大木で、「女郎もみじ」という名前がついています。渓流の上に覆いかぶさるように枝を伸ばしており、妖艶さが漂う紅葉です。
 ここは周囲を山に囲まれているため陽が差し込む時間は短く、晴天の日でも日陰になっている時間帯が多い場所です。そのため、輝くような紅葉よりも、しっとりとした色合いの紅葉を撮影することができる場所です。赤く染まった紅葉もさることながら、苔むした幹が存在感を放っていて、紅葉と幹のコントラストが何とも言えない美しさをつくり出しています。

 弱い風があったため、木の枝などは被写体ブレを起こしているところもありますが、全面に渡ってシャープな画質になっていると思います。シャープでありながら硬調になり過ぎない描写はとても好感が持てます。
 晴天にもかかわらず陽が回り込んでいないため若干の青被りをしていますが、不自然さが感じられない鮮やかな発色をしています。

 この写真ではアオリは使っていませんが、手前から奥の方までこれくらいの距離であれば、絞り込むことでほぼ全面を被写界深度内に入れることができます。
 撮影した場所は道路脇なのでこれ以上、引くことはできないのですが、画角的には焦点距離180mmくらいのレンズの方が良かったかもしれません。

 このレンズはコントラストが良いので、シャープで締まりのある描写が得られますが、解像度は特に高い感じはしません。むしろ、若干低めかも知れません。最近のデジカメのように、フィルムをはるかにしのぐ解像度を持ったカメラで撮り比べると顕著にわまるかも知れませんが、フィルムを使っている限りにおいては問題になるほどではないと思います。

アポ・ジンマーと比べると若干あっさりとした色合いのレンズ

 クセナーはこの1本しかもっていないのは上にも書きましたが、クセナーに対して私が持っている印象は、シュナイダーの他のレンズに比べて色の出方が控えめということです。他のレンズと言ってもシュナイダーのすべてのブランドを持っているわけではないのですが、私が主に使っているアポジンマーと比べると、若干あっさり系の発色という感じです。
 私の持っているアポジンマーは1990年台の半ばごろに製造されたものなので、今回のクセナー210mmよりも15~6年後になります。そのため、コーティングの違いもあると思われ、実際に前玉を見た時の色の感じが違います。アポジンマーの方が濃い紫色をしているように見えます。

 ということで、アポジンマー APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 と比較をしてみました。
 あまり細かな比較をするつもりはなく、主に見た目の印象が違うかどうかという視点で見ていただければと思います。

 下に掲載した2枚の写真は、近くの公園で撮影したものですが、1枚目(上)がクセナー210mm、2枚目(下)がアポジンマー210mmです。

▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider Xenar 210mm 1:6.1 F22 1/30 PROVIA100F
▲Linhof MasterTechnika 45 Schneider APO-SYMMAR 210mm 1:5.6 F22 1/30 PROVIA100F

 まず、全体を見た時の印象ですが、アポジンマーの方がわずかに色乗りが濃い感じがします。逆の言い方をするとクセナーの方があっさりとした色合いということです。2枚の写真撮影時の光線状態にほとんど違いはないと思いますが、地面の草の色や奥の木の幹の色を比較すると違いがわかり易いと思います。
 しかし、これらは比べてわかることであり、1枚だけ見せられてもどちらのレンズで撮影したものか判断できるほどの違いではありません。アポジンマーのコクのある色も良いが、クセナーのすっきりとした色も良いといった感じで、あとは好みでしょうか?

 また、解像度については、この程度のラフな写真ではほとんど見分けることは困難ですが、拡大した画像で比較してみるとアポジンマーの方が解像度は高いのがはっきりとわかります。しっかり調べようとするのであれば解像度テストチャートなどを使う必要があると思われますが、もう少し突っ込んだ比較は別の機会にやってみたいと思います。

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 半世紀近くも前に作られたレンズで、私が持っている大判レンズの中では、100年以上も前のバレルレンズを除けば古い方のレンズになります。比較的近年に作られた大判レンズと比べると外観のデザイン的な違いはありますが、それも味わいの一つであり、今でも十分に使えるレンズであることは間違いありません。
 いわゆるオールドレンズの部類に入りますが、特有の癖のある写りを求めるのには向いていません。ですが、素直にしっかりと写したいというのであれば、期待を裏切ることはないと思います。
 今回、逆光状態で撮影した写真がないのですが、もしかしたら、そのような条件が良くない状態ではもっと違いが出るのかもしれません。

 他の焦点距離のクセナーも使ってみたいと思っているのですが、個体数が少ないのか、中古市場でもあまり見かけません。いつか、運よく巡り合ったらゲットしたいなぁと...

(2023.4.21)

#Schneider #Linhof_masterTechnika #シュナイダー #リンホフマスターテヒニカ #Xenar #クセナー #レンズ描写

現像済みリバーサルフィルム(ポジフィルム)に付着する汚れと洗浄

 私はリバーサルフィルムの使用頻度が最も高く、現像済みのリバーサルフィルム(ポジ原版)はスリーブやOP袋に入れて保管してあるのですが、長年保管しておくとフィルム表面に汚れが付着してきます。これはリバーサルフィルムに限ったことではないのですが、ポジ原版をライトボックスに乗せてルーペで見ると目立ってしまうのでとても気になります。
 昔のようにポジ原版から直接プリントすることがなくなってしまったので、少々の汚れであればレタッチソフトで修正できるのですが、一枚しかないポジ原版に汚れが付着してしまうということが精神衛生上よろしくありません。

フィルムに付着する汚れ

 フィルムに付着する汚れの類いはいろいろあります。ホコリ、指先などの脂、カビ等々、汚れの原因は多岐に渡っています。
 ポジ原版を裸で放置しておけば当然のことながらホコリが積もってしまいます。通常、ポジ原版を裸で放置するということはないのですが、仮にホコリが付着したとしてもブロアなどでシュッシュッとやれば除去できるので、それほど目くじら立てるほどのことではないと思います。
 ただし、あまりたくさんのホコリが積もってしまうと取れにくくなってしまうこともありますが、しっかりと保管しておけば防げる問題です。

 また、ポジ原版を取り扱うときは専用のピンセット等を使いますが、つい、指で触ってしまうこともあり、そうすると指先の脂がついてしまいます。これはブロアでは取れないのと、そのままにしておくとカビが繁殖したりする可能性があるので、誤ってつけてしまった場合はフィルムクリーナーやアルコールで拭いておく必要があります。
 高温多湿などの環境で保管するとカビが生えることもあるという話しを聞きますが、私は自分が保管しているフィルムでカビを確認したことはありません。もちろん、すべてのコマをルーペで確認したわけではないので、もしかしたらカビが発生しているものがあるかも知れません。

 そして、私が最も厄介だと感じているのが、長期保管してあるポジ原版に黒い小さなポツポツとした汚れが付着してしまうことです。これはポジ原版を肉眼で見てもよくわからないことが多く、ルーペで見たりスキャナで読み取ったりするとしっかりと確認できます。
 ただし、長期保管してあるポジ原版のすべてにこのような汚れが付着するわけではなく、付着する方が極めて少数派なのですが、フィルム全面に渡って無数のポツポツが存在しているのを見るとため息が出ます。しかも、この黒いポツポツはブロアでは決して取れません。 

 実際に黒いポツポツが発生したポジ原版(67判)をスキャンした画像です。

▲PENTAX67 smc TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F22 1/125 RDP

 この写真を撮影したのは今から約30年前です。1コマずつカットしてOP袋に入れて保管していたものです。記憶が定かではありませんが、この30年の間にOP袋から取り出したのは数回だと思います。
 余談ですが、撮影から30年経って若干の退色はあると思うのですが、それでもこれだけの色調を保っているというのは、リバーサルフィルムのポテンシャルの高さだと思います。これはフジクローム(RDP)というフィルムで、現行品のPROVIAやVelviaと比べると非常にあっさり系の色合いをしたフィルムでした。

 上の画像は解像度を落としてあるのでよくわからないかも知れませんが、一部を拡大してみるとこんな感じです。

▲部分拡大

 明るくて無地の背景のところ(上の画像では空の部分)に発生しているのが良く目立ちます。空以外のところにも生じているのですが、被写体の中に埋もれてしまってわからないだけです。

 この写真と同じ日、同じ場所で、少しアングルを変えて撮影したものがあと5コマあるのですが、それらのコマにはこのような黒いポツポツの付着はごくわずかです。保管期間も同じ、保管条件も同じ、にもかかわらず、なぜこのように差が出ているのか、まったくもってわかりません。わずかな違いと言えばOP袋からフィルムを取り出した回数くらいのものでしょう。とはいえ、6コマのうちこのコマだけ、取り出した回数が特別に多かったとも思えません。たかだか数回の違いです。

 そもそも、この黒いポツポツとした汚れはいったい何なのか、どこから来たのか、ということが良くわかりません。カビではなさそうですし、指先でつけてしまった脂とも違います。ましてや、長期間保管されている間にフィルムの中から浮き出てきたとも思えません。

 正体を突き止めようと思い、この黒いポツポツを顕微鏡で覗いてみました。
 その写真がこちらです(わかり易いようにモノクロにしてあります)。

▲付着したごみの顕微鏡写真(200倍)

 顕微鏡の倍率は200倍です。ホコリともカビとも違う、微細なゴミのようなものがフィルムの上に貼りついている感じです。ゴミのようなものに焦点を合わせているので、バックのフィルム面にはピントが合っていません。このことからも、こいつはフィルムの上に乗っかっているのがわかります。
 また、フィルムの光沢面、乳剤面のどちらか一方だけということはなく、どちらの面にも存在しています。
 フィルム面に付着しているとなれば外部から入り込んだものに違いないと思うのですが、現像後、OP袋等に入れて以来、一度も取り出したことがないフィルムにも付着していることがあります。となると、OP袋に入れる際に付着した何かが、長年の間にフィルム面に貼りついてしまったと考えるのが自然かもしれません。
 いずれにしろ、この黒いポツポツをきれいにしないと気になって仕方がりません。何年後かに見てみたら増殖していたなんてことになったら最悪です。

フィルムの洗浄

 カビのようにフィルムの中の方まで侵食している感じはないので、洗浄すれば除去できるのではないかということで、汚れの付着が多いフィルムを5コマほど洗浄してみました。
 市販されているフィルムクリーナーの多くはアルコールが主成分のようなので、今回は消毒用アルコールを50%くらいに希釈して使用します。

 まずは、洗浄するフィルム(今回は67判)を20度くらいの水に10分ほど浸しておきます。
 流水でフィルムの両面を洗った後、フィルムの片面にアルコールを数滴たらします。数秒でフィルム全面にアルコールが広がっていくので、その状態のまま10秒ほど置きます。このとき、スポンジ等で軽くこすった方が汚れが落ちるかもしれませんが、フィルム面に傷をつけたくないのでそのままにしておきます。その後、流水でアルコールを流します。
 フィルムの反対の面も同様に行ないます。

 洗浄後は水滴防止液(今回は富士フイルムのドライウェルを使用しました)に30秒ほど浸し、フィルムの端をクリップ等で挟んでつるして乾燥させます。水滴防止液は少し粘度が高く、わずかにドロッとした感じのする液体のため、ホコリが付着しやすい性質があります。出来るだけホコリが立ちにくい浴室などにつるしておくのが望ましいと思います。
 なお、水滴防止液は規定の濃度の半分くらいでもまったく問題ありません。

 また、水滴防止液を使いたくないという場合は、水切り用のスポンジでそっとふき取る方法でも問題ないと思います。

 洗浄後のフィルムは乾燥過程でかなりカールしますが、乾燥が進むにつれて元通りの平らな状態に戻ります。

洗浄後のフィルムの状態

 こうして洗浄・乾燥させたフィルムですが、まずはライトボックスに乗せ、ルーペで確認してみたところ、黒いポツポツはほとんど消えていました。
 また、フィルムをスキャナで読み取ってみましたが、洗浄前と比べると見違えるほどきれいな画像が得られました。確認できた黒いポツポツはごくわずかで、それもルーペでは見えない非常に小さな点のような汚れで、この程度であればレタッチソフトで簡単に修正できます。アルコールに浸しておく時間をもう少し長くすれば、残ってしまった小さな汚れも落とせるかもしれません。
 付着した汚れはブロアでは吹き飛ばせないもののアルコールできれいに落とせるということは、カビのように中まで入り込んでいるものではないと思われます。

 洗浄前の部分拡大した画像とほぼ同じあたりを切り出したのが下の画像です。

▲部分拡大

 たくさんあった黒いポツポツがきれいさっぱりとなくなっています。洗浄による色調の変化等も感じられません。乳剤面に剥離など、何らかの影響が出ているかと思いましたがその心配もなさそうです。
 洗浄前と洗浄後のスキャン画像も拡大比較してみましたが、黒いポツポツを除けばどちらが洗浄前でどちらが洗浄後か、その区別はつきませんでした。

 念のため、桜の花のあたりを顕微鏡で覗いてみました。倍率は200倍です。

▲顕微鏡写真(200倍)

 特にフィルム面や乳剤面に劣化したような痕跡はないと思われます。
 フィルムを洗浄してから一週間ほど経過しましたが、肉眼で見る限りフィルム面に異常は感じられません。また、同じタイミングで撮影したコマのうちの未洗浄のものと比べてみましたが、フィルムの状態や色調に違いは見られませんでした。むしろ、全体的にクリアな感じになったのではないかと思いましたが、残念ながらそれは全くの勘違いでした。
 ただし、もっと長期間が経過した時に、この洗浄の影響が出るのかどうかは今のところ不明です。

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 保管してあるすべてのポジ原版の汚れの付着状態を確認するのは困難であり、洗浄したほうが良いと思われるコマがどれくらいあるのかは不明です。
 また、汚れの付着度合いに差がある理由もわかりませんが、やはり、スリーブやOP袋からの出し入れの回数が多いコマの方が汚れの付着度合いも多いのではないかと想像しています。スリーブやOP袋に入れるときは必ずブロアでホコリを飛ばしているのですが、どうしても100%取り除くというわけにはいかないので、回数を重ねるうちに増えていくのかもしれません。
 まだ汚れが付着していないコマをいくつか選んで、定期的にOP袋から出し入れするのと、全く出し入れしないのをモニタリングしてみる価値はありそうです。

 なお、今回のフィルムの洗浄は素人がやっていることであり、フィルムに与えるダメージがないという保証はありませんのでご承知おきください。

(2023.4.12)

#リバーサルフィルム #PENTAX67 #ペンタックス67 #保管