撮影済みフィルムの効率的な管理方法...フィルム写真をデッドストックにしないために

 フィルム写真をやっていると当然のことながら撮影済みのフィルム(ポジやネガ)が溜まっていきます。フィルム1枚は薄いし軽いのですが、数が増えるとその量や重さも半端なく、保管するにも物理的に場所をとります。このあたりがデジタル写真との大きな違いでもあります。
 どんどん増えていく撮影済みフィルムの保管とその管理をどうするか、これはフィルム写真をやっていく上での永遠のテーマのようにも思えます。
 フィルムの保管の仕方や管理方法はみなさん工夫をされていると思いますし、これまで私もいろいろ試行錯誤してきました。しかし、なかなか最適解が見つからずにいますが、現在、私が行っている管理方法について触れてみたいと思います。多少なりとも参考になれば幸いです。

フィルムは整理しすぎない方が良い?

 日頃、私が使っているフィルムは大判(4×5判)と中判(ブローニー)がほとんどですが、かつては35mm判もかなり使っていました。リバーサルフィルムがいちばん多いのですが、モノクロフィルムやわずかですがカラーネガフィルムもあります。
 35mm判と4×5判ではフィルムの大きさも随分違いますし、当然、保管の方法も異なります。
 大判や中判の中でも大切なコマは中性紙に挟んで保管していますが、1コマずつのスリーブに入れて保管しているものもあります。35mm判は6コマずつのスリーブに入れたり、マウントしてあるものもあります。

▲様々な大きさのフィルム

 以前は、、35mm判も大判もできるだけ同じ方法で保管する方が管理もし易いと思い、スリーブやホルダーを統一したり、保管場所(キャビネット)を厳密に決めたりいろいろトライしてみたこともありますが、ほどなく行き詰まりを感じてしまいました。保管するための物理的なスペースの問題やコストの問題もさることながら、手間がかかりすぎるのと使いにくいということがいちばんの理由でした。
 そんな紆余曲折を経ながら、整理しすぎないことがいちばん良いのではないかという結論に達しました。

 今は、大判や中判はコマ単位にスリーブに入れたり中性紙に挟んだりしていますが、大きさや種類もバラバラですし、35mm判は6コマごとのスリーブのままというのが圧倒的に多いです。
 保管も以前のようなホルダーは使わず、お菓子の入っていた箱など、身近にある適当なものを再利用しています。その方が保管効率がはるかに高いと思っています。
 急に思い立って押し入れの中を整理し、奥の方から隙間なく詰め込んでいったら綺麗に収まったけど、どこに何があるかわからなくなり、取り出したくても取り出せなくなったという状況によく似ています。

保管するなら管理が必要

 しかしながら、整理をほどほどにしておく場合は管理をしっかり行わないと活用できなくなってしまうという問題があります。
 撮影済みのフィルムの量が少ないうちは全貌が把握できているので管理するまでもありませんが、量が増えてくると頭の中だけで把握するのは無理があります。紙でもEXCELでも構いませんが、台帳のような方式で管理してもやはり限界があります。
 今、私の手元に残っている撮影済みフィルムは、コマ数でいうと20万コマを軽く超えています。ここまでくるとEXCELでも手に負えません。

 写真というのは他人からすればつまらないものであっても、自分が撮ったものは簡単には捨てられないものです。撮影から3年を経過したら廃棄する、というようなことができれば悩まずに済むのですが、なかなかそういうわけにもいきません。
 ですが、捨てられずに保管をしておいても、使わない、あるいは使えないのであれば、そもそも保管をしておく意味がありません。撮影済みのフィルムを捨てられないのは、いつか使うかもしれない、何十年後かにまた見てみたい、というような思いがあるからではないかと思いますし、大切な思い出や記録をそう簡単に捨てられるわけがないということでしょう。
 また、仮に電子データ化したとしても、フィルムは捨てられないと思います。

 私もそのような思いをもっていますし、私の場合、過去に撮った写真を使うことが割と多くあります。オリジナルカレンダーやポストカードを作ったり額装して壁にかけたり用途は様々ですが、いずれも大量のストックの中からお目当てのコマを探し出さねばなりません。それも、できるだけ迅速に簡単に。
 一生使わないのであればともかく、使う可能性があるのであれば保管してあるフィルムを管理することがどうしても必要になります。

自作の管理ツールで撮影済みフィルムを一括管理

 そんなわけで、効率的な管理の必要性を痛感し、ずいぶん前になりますが撮影済みフィルムの管理ツールを作り、今はそれを使って管理しています。

 私が使っている管理ツール(名前はありません)は、RDBMS(リレーショナルデータベース)にコマ単位で写真の情報を登録し、それをいろいろな条件で検索できるようにしているという非常にシンプルなものです。個人が使うレベルであればRDBMSやアプリケーション開発用の環境なども無償で入手できるものがたくさんあるので、多少の手間がかかるだけでコストはほとんどかかりません。
 因みに私が使っているRDBMSはオープンソース・データベースで最もポピュラーな「My SQL」で、アプリケーションは「Visual Studio」で作っています。どちらも無償です。

 無償と言っても個人が使うには十分すぎる機能や性能があり、数百万件の中から指定された条件で抽出するというようなことは瞬時にやってのけます。
 また、データベースに登録できる件数はサーバ(ハードディスク)の容量に左右されますが、画像データを含めなければ数千万件くらいは物ともしません。

 実際に使用している管理方法を簡単にご紹介しますが、まず、撮影済みフィルムを管理するために以下のような項目を用いています。

  ・コマの固有番号やタイトル
  ・保管箱の番号
  ・撮影に用いた機材
  ・撮影データ(絞りやシャッター速度、フィルムなど)
  ・撮影日時
  ・撮影場所
  ・写真のカテゴリー

 これらの項目を入力したり参照したりするために、Visual Studioで作成した以下のような画面を使っています。

▲撮影済みのフィルムを管理するツールの画面

 フィルム(コマ)を入れたスリーブには固有番号を書き込み、それを保管箱に入れて保管します。
 固有番号は自由につけることができますが、それとは別に管理ツールが自動で採番する番号(Seq-No)もあるので、どちらを使っても構いません。 
 
 「タイトル」はいわゆる作品につけるタイトルではなく、どのような写真かがわかるような説明文です。
 また、青い入力フィールドは直接入力しなくても、その左側にある黄色の入力フィールドに入れると自動的に入るようになっています。例えば、撮影地(上の例では「白川郷」)を入力すると、白川村、岐阜県、日本が自動的に入るようにしています(もちろん、個別に入力することもできます)。

 写真のカテゴリーは全部で8項目まで入力できるようにしていますが、これは非常に自由度の高い項目です。当該のコマがどのようなカテゴリーなのかを登録するのですが、例えば、「風景」とか「スナップ」、「桜」、「渓谷」、「街並み」、「夏」、「人物」など等、その写真をある程度分類できるような項目を入れるようにしています。
 これは検索のときにとても効果を発揮してくれ、目的の写真を見つけ出すのに非常に役立っています。
 例えば暑中見舞いのポストカードに海の写真を使いたいというような場合、「海」、「風景」などといったカテゴリーを入力して検索すると、それに該当したコマを一覧で表示することができます。

 また、カテゴリー以外もすべて検索条件として使用でき、北海道で冬に撮影した写真を検索したいような場合は、撮影都道府県を「北海道」、季節を「冬」と入力して検索すると該当するコマの一覧が表示されます。

 そして、表示された一覧の中からコマを選択すると、登録されている写真の情報や、画像データがある場合はサムネイルが表示され、お目当てのコマがどの箱に保管されているかがわかりますので、その箱の中から固有番号(コード)のコマを探せばよいことになります。

▲撮影済みフィルムの保管箱

 箱によって保管するフィルムの種類を決めることはせず、一つの箱に大判も中判も35mm判も同居しています。その方が整理の手間がかからずに済みます。

 前の方にも書きましたが、撮影済みフィルムを保管している箱は適当な空き箱を使っており、大きさもまちまちですが、あまり大きなものは使っていません。箱に通し番号を書き込んでおいて、その番号をコマ情報の一項目として入力します。

 管理ツールの入力画面でもわかるように、撮影したコマごとに入力する情報は結構たくさんありますが、すべての項目を入力しなければならないわけではありません。
 また、固有番号とタイトル以外の項目はあらかじめ登録されたマスタデータの中から選択する方式なので、手入力する手間も省けます。
 なお、保管する箱の番号は必ず入れておかないと保管場所が特定できず、管理ツールに登録する意味が半減してしまいます。

フィルムの検索履歴や使用履歴も重要な情報

 このようにフィルムを管理していると、検索に引っかかったコマの履歴がわかります。そのコマが何に使われたかまでは記録していませんが、そのデータもとれるようにしておけば使用履歴もわかるようになります。その使用履歴がわかると、あの時使ったコマをまた使いたいというような場合、とても効率的に探し出すことができます。
 自作の管理ツールですので、時間のある時にでも機能改善したいと思っています。

 しかし、こうした便利機能もデータがあってこそです。簡単な仕組みで結構便利だと自分では思っているのですが、登録してあるデータベースが消えたら目も当てられません。少々の障害なら修復できるのですが、例えばサーバのハードディスクがお亡くなりになられたりするともうお手上げです。
 そうならないようにバックアップなどの対策は必要になります。

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 撮影済みのフィルムはじわじわと増え続け、気がついたら手に負えなくなっていたなんてことは容易に起こりえます。デジタルにすればこういった悩みのいくつかは解消されますが、せっかくのフィルム写真ですから、死蔵品とならないように活用していきたいと思います。
 もっとも、デジタルにしたところで、データをどうやって保存していくかという悩みは残っていくと思いますが。

(2022.4.29)

#保管

シュナイダー Schneider APO-SYMMAR 150mmと、フジノン FUJINON W 150mmの写りの違い

 私が使っている大判レンズはシュナイダー Schneider とフジノン FUJINON がほとんどで、あとはローデンシュトックが少しと、ニコンや山崎コンゴー、あるいは昔のバレルレンズなどがそれぞれ2~3本ずつといったところです。シュナイダーもフジノンも初期のモデルはほとんど持っておらず、比較的後期に近いモデルが多いのですが、どちらのレンズもカリカリしすぎないシャープネスさや素直な写りが気に入っています。
 近年のレンズは性能が拮抗しているのでほとんど見分けがつきませんが、微妙な違いがあるのではないかということで、シュナイダーとフジノンのレンズの写りを比較してみました。
 見た目の写りの違いを比較しているだけで、精密な計測をしているわけではありませんのでご承知おきください。

レンズの仕様の違い

 ということで、今回、比較対象としたレンズは以下の2本です。

  シュナイダー APO-SYMMAR 150mm 1:5.6
  フジノン FUJINON W 150mm 1:5.6

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm 1:5.6(左) と、FUJINON W 150mm 1:5.6(右)

 この2本のレンズは仕様的にも非常に似通っています。
 主な違いですが、レンズ構成はシュナイダー APO-SYMMAR 150mmが4群6枚に対してフジノン FUJINON W 150mmが6群6枚、イメージサークルは220mm(f22)に対して224mm(f22)、フィルター径が58mmに対して55mm、全長が53.8mmに対して57mmといったところでしょうか。
 大きさもほとんど同じでコンパクトなレンズですが、フジノンの方がフィルター径が小さいのでこじんまりとした感じに見えます。
 どちらのレンズもイメージサークルが220mm以上ありますから、4×5判で通常の風景撮影をするには特に支障はありません。

 なお、フジノンの最終モデルであるCM FUJINON 150mmはフィルター径が67mmになったため、ずいぶんと大きくなった感じがします。

 また、今回使用した2つのレンズの焦点距離はともに150mmですが、APO-SYMMAR 150mmで被写体にピントを合わせた後、レンズをFUJINON W 150mmに交換するとピントの位置がずれているようで、ほんの僅か(たぶん、1mmの何分の一というくらいの微量)、レンズを引き込む必要がありました。これがレンズの焦点距離のわずかな違いによるものなのか、それともレンズボードの厚みの影響によるものなのかはわかりません。いずれにしても問題になるようなことではありませんが、参考までに。

発色や色調の違い

 では、2つのレンズで実際に撮影した写真を比較してみます。
 まずは、公園の雑木林を撮影したものです。カメラの位置を固定し、できるだけ時間差を置かずに2つのレンズで撮影しています。1枚目がAPO-SYMMAR 150mm、2枚目がFUJINON W 150mmです。いずれもリバーサルフィルム(PROVIA100F)を使っています。

▲Schneider APO-SYMMAR 150mm F45 1/2 PROVIA100F
▲FUJINON W 150mm F45 1/2 PROVIA100F

 薄曇りの日の撮影なので、比較的フラットな光の状態です。1枚目の撮影と2枚目の撮影の間は1分あるかないかくらいですので、光の状態に大きな違いはないと思われます。

 わかり易いように2枚の写真を並べてみます。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 一見、ほとんど同じように見えると思いますが、APO-SYMMAR 150mm(左側)の方がわずかに暖色系になっているのがわかると思います。木々の緑がFUJINON W 150mm(右側)に比べると若干、黄色っぽく感じます。落ち葉や木の幹もAPO-SYMMAR 150mmの方が黄色に寄っているので、ちょっと明るく感じられます。
 また、APO-SYMMAR 150mmの方が色乗りがわずかにこってりとした感じに、FUJINON W 150mmの方がわずかにあっさりとした感じに見えます。

 もう一枚、桜の写真で比較してみます。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmで撮影したものです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 雑木林の写真と同様に、APO-SYMMAR 150mmの方が暖色系の発色をしています。比べると、桜の花が黄色っぽく感じると思います。
 それぞれ単独で見ると区別がつきませんが、こうして並べてみるとわずかな違いがあります。

 デジタルカメラでも発色の違いが出るのかということで、大判カメラにアダプタを介してデジタルカメラで桜を撮影してみました。雨上がりで薄日が差している状態です。
 同じく左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 桜の花びらや左端の枝を見るとよくわかりますが、やはり、APO-SYMMAR 150mmの方が黄色っぽい発色になっています。

 このような発色の違いはレンズコーティングの違いによるものではないかと思われますが、確証はありません。
 かつて、35mm判カメラでCONTAXを使っていたことがあり、CONTAX用のレンズにはドイツ製と日本製があるのですが、ドイツ製のレンズの方が黄色っぽい発色をする印象がありました。レンズ構成などの仕様はまったく同じなので、やはりコーティングの違いではないかと思っていました。

ボケ方の違い

 次にボケ方の違いを比較してみました。
 まず、フィルムで撮影した桜の写真の一部を拡大したものです。
 左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 左上の葉っぱがわかり易いと思うのですが、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っている感じです。一方、APO-SYMMAR 150mmの方は全体に柔らかくボケている感じがします。焦点距離は同じなのでボケの大きさに違いは感じられませんが、ボケの中の色の変化はAPO-SYMMAR 150mmの方がなだらかな印象です。

 デジタルカメラで撮影した桜の写真の部分拡大も比較してみます。
 同じく、左側がAPO-SYMMAR 150mm、右側がFUJINON W 150mmです。

▲左:Schneider APO-SYMMAR 150mm 右:FUJINON W 150mm

 やはり、FUJINON W 150mmの方が輪郭がしっかり残っているのがわかります。ボケの大きさは変わりませんがAPO-SYMMAR 150mmの方がふわっとした感じに見えるのは輪郭の残り方の違いによるものと思われます。
 ただし、このボケ方の違いは拡大することでわかる程度で、写真全体を見た時には大きな違いは感じられません。強いて言えば、FUJINON W 150mmの方がボケの中に芯が残っているように感じられるくらいでしょうか。

わずかな特性の違いはあるが、秀逸なレンズ

 発色やボケ方にごくわずかの違いがありますが、比較してわかる程度の差です。比較をすれば好みが分かれるかもしれませんが、写りに関してはよく似ていると思いますし、どちらのレンズがより優れた写りをするかという差も見つけにくいと言ってよいと思います。
 解像度の測定などはしていませんが2つのレンズにほとんど差はないと思われ、いずれも素晴らしい写りをするレンズだと思います。

 この2本のレンズを使い分けるのは難しいというのが正直なところですが、赤とか黄色の被写体(例えば紅葉など)の場合はAPO-SYMMAR 150mmの方が向いているかも知れませんし、青色系の被写体の場合はFUJINON W 150mmの方がクリアな色になるかも知れません。
 しかしながら、写真を1枚だけ見せられても、私にはどちらのレンズで撮影したものなのかという判断はできません。どちらのレンズを使おうが素晴らしい写りをしてくれることは間違いのないことだと思います。

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 今回のように同じ被写体をほぼ同じ条件で撮影してみて、ようやく、そのわずかな違いが明確になったという感じです。その違いを知ったからどうということもないのですが、数値的な特性の違いではなく、目で見てわかる特性の違いを知るというのはちょっと興味深いものではあります。
 機会があれば他のレンズでも比較してみたいものです。

(2022年4月19日)

#FUJINON #フジノン #Schneider #シュナイダー #レンズ描写

リバーサルフィルム写真はいつまで続けることができるのか?

 2022年4月1日から富士フィルムの製品が大幅に値上げされました。例えば、ベルビア50の120サイズ5本入りの価格が、つい先日までは5,800円くらいだったのが、一気に9,500円ほどになりました(いずれも新宿の大手カメラ店での店頭価格です)。60%以上の値上げ幅です。モノクロフィルムのACROSⅡも120サイズ1本が1,260円になりました。
 フィルムの需要が激減する中、製造販売を続けていくことは並大抵のことではないということは想像がつきます。富士フィルムという大企業だからこそ継続していただけているのであり、これが小さな会社であれば到底維持できなかったであろうと思います。

 とはいえ、一気に60%以上もの値上げというのは、フィルムユーザーに暗い影を落とされたように感じるのも事実です。
 記憶が定かではありませんが、今から7~8年ほど前はベルビア50の120サイズ5本入りが一箱2,500円くらいだったと思います。つまり、1本あたり、500円前後といったところです。それが今回の値上げで、1本あたりに換算すると2,000円に届かんとしています。
 また、同じ時期のリバーサルの現像料金は120サイズが1本600円くらいだったと記憶していますが、現在は1,300~1,400円くらいになっています。
 120サイズのブローニーフィルム1本の価格と現像料金を合わせると、およそ1,100円だったのが3,300円ほどに上がったということです。実に3倍です。

 コダックがE100というリバーサルフィルムを新たに製造販売を開始し、120サイズのブローニーフィルム5本入りが一箱14,700円という価格を見た時、このフィルムを買う人がいるのだろうかと思ったものでした。しかし一方で、富士フィルムの製品もこのような価格になる日が来るのではないかと思ったりもしました。
 今回、さすがに10,000円は超えませんでしたが、E100に近い価格になったのを見ると、「やっぱり」という感じが否めません。
 今回の富士フィルムの値上げは非常にインパクトが大きく、この先、フィルムや現像料金がどこまで高騰するのだろうか、そして、こんなに高くなったリバーサルフィルムを使い続けることができるのだろうかと考えると、なんだかとても暗い気持ちになります。

 コストが3倍になったら使用するフィルム量を1/3に減らせば、計算上、トータルのコストは変わらないわけです。昔のように比較的リーズナブルな価格でフィルムを購入できた時はバシバシとシャッターを切り、駄作も量産していたわけですから、つまらない写真を撮らないようにすればフィルム消費量は確かに減ると思います。
 しかし、一つの被写体をいくつかのアングルや異なる構図で撮りたい時に、それを我慢しなけれなばならないとすると、それはとてもストレスに感じます。
 無駄なものは撮らない、でも、撮りたいものは我慢しない、というメリハリが必要になってくるんだろうなぁと思います。

 とはいえ、この先もさらなる値上げが行なわれることは想像に難くなく、無駄打ちをしないように頑張ったところで限界があるような気もします。残念ながら、リバーサルフィルムはモノクロフィルムで代用というわけにはいかないので、リバーサルフィルムをあきらめざるを得ない日が来るようで、考えれば考えるほど憂鬱になってきます。
 私が買い置きしてあるフィルムはおよそ1年分くらいです。いま、冷蔵庫に入っているフィルムは、これまでと同じペースで使うと、来年の今頃には底をついてしまうことになります。一箱10,000円近くもするフィルムを買い続けることができるのか、気持ちも萎えてきてしまいます。

 新宿の大手カメラ店の店員さんが話してくれたのですが、3月の後半に富士フィルムから価格改定のアナウンスがあった直後、店頭からフィルムが消えたそうです。値上がりする前に買い置きしておこうという人が殺到したということでしょう。
 また、8×10のシートフィルムは10,000円ほど値上がりしましたが、4×5判はまだ値上がりしていないようです。値上がりする前に少し買い置きしておこうかとも思いますが、8×10の値上がり幅からすると、ブローニーほどの値上がりにはならないのでないかと楽観視しており、今のところ買い置きは踏みとどまっています。

 先のことはわかりませんし、また、いろいろ心配したところでどうなるものでもないので、可能な限りはフィルム写真を続けていこうと思います。フィルムが高騰することで一枚々々を大事に撮るようになることは肯定的にとらえるべきことかもしれません。
 しかしながら、一般庶民にとってリバーサルが手の届かない高嶺の花になりきってしまわないように願うばかりです。

 それにしても、今は亡きアスティアとかセンシア、フジクローム400、フォルティア、トレビなど、フジクロームだけでも今の何倍もの製品がラインナップされていた頃がとても懐かしいです。

(2022年4月9日)

#リバーサルフィルム #富士フイルム

初めてのARISTA EDU ULTRA 200 モノクロフィルムの使用感

 日頃、私が使用しているフィルムのおよそ8割はリバーサルで、残りの2割ほどがモノクロフィルムになります。いまやリバーサルフィルムは種類が激減し、選択肢がないに等しいですが、モノクロフィルムはこのデジタル全盛の時代においても海外製品を中心に種類も比較的多くそろっています。
 私はいろいろなフィルムをあれこれ使うことはあまりなく、気に入ったものを使い続けるタイプです。モノクロフィルムも常用しているのはイルフォードのDELTA100、富士フィルムのACROS Ⅱ、ローライのRPX25など、3種類ほどですが、今回、ARISTA EDU ULTRA 200を初めて使ってみました。

前々から、ちょっと気になっていたモノクロフィルム

 ARISTA EDUはチェコ製のモノクロフィルムで、もともとULTRA 400という製品が発売されており、今から数年前にULTRA 100とULTRA 200が追加されたようです。写真学校の学生など向けに価格を抑えるという戦略をとっていたらしく、「EDU」という名前はそこから来ているとのことです。私が購入した時も120サイズが930円くらいだったので、イルフォードのDELTA100や富士フィルムのACROSⅡに比べると、確かに安いという印象があります。

 私がいろいろなフィルムに浮気をしないのは、リバーサルフィルムは選択肢がないということも理由の一つですが、モノクルフィルムの場合はちょっと違って、フィルムによって特性が違い過ぎるのと、それに相まって現像の仕方で仕上がりがずいぶん変わってくるため、自分が気に入る仕上がりにたどり着くまでにかなりの時間と手間とお金がかかってしまいます。そのため、一度気に入ったフィルムと現像を見つけると、それを使い続けるということになります。

 そんな背景はありながら、ISO100やISO400に比べると種類が少ないISO200という感度が気になったからかも知れません。
 新宿のカメラ店にいそいそと出向き、120サイズのフィルムを2本だけ購入してきました。

現像はイルフォードのID-11を使用

 ARISTA EDU ULTRAシリーズの3種類のうち、ULTRA 100とULTRA 400はトラディショナルタイプですが、ULTRA 200はT粒子タイプらしいです。そのため、推奨現像液は「T-MAX」となっていますが、手元に持ち合わせがなかったので、今回はイルフォードのID-11を使用しました。
 希釈は1:1、現像時間は20℃で9分としました。

 現像しようと思い、リールにフィルムを巻きつけるときにはじめて気がついたのですが、フィルムがすごく薄い感じがしました。35mm判フィルムやシートフィルムと違ってブローニーフィルムの場合は裏紙がついているので、現像のときまで直接フィルムを触ることはありません。
 私が使い慣れているフィルムはパリパリした硬い感じがしますが、このフィルムはフニフニとした感じです。
 イルフォードDELTA100はフィルムベースの厚さが0.11mm(データシートより)らしいですが、このフィルムの厚さを測ってみたところ0.1mmを下回っています。マイクロメータがないので正確な厚さはわかりませんが、DELTA100に比べると薄いのは確かなようです。

 そして、現像後の現像液をみてビックリ、現像液がメロンソーダというか、バスクリンを入れ過ぎたお風呂のような見事なエメラルドグリーン色になっていました。
 現像液はワンショットで廃棄ということはほとんどなく何度か使い回しをしますが、この色を見ると次回も使えるのかしらと思ってしまうくらいです。

 もう一つ驚いたのがフィルムがクリンクリンにカールすることです。乾けばフラットになるかと思ったのですがそんなことはなく、2コマずつカットしてスリーブに入れるにも苦労するくらいです。フィルムを入れたスリーブ全体が湾曲するくらいですから、かなり強力にカールしているのがわかります。

 そんな驚きの連続ではありましたが、何とか無事に現像ができました。

コントラストは低めだが、なだらかな階調

 今回、撮影に使用したカメラはPENTAX67、レンズはSMC TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 です。

 まず一枚目は、新宿中央公園で撮影した「絆」像です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F5.6 1/125 ARISTA EDU 200

 順光に近い右側からの斜光状態での撮影です。バックのビルの壁面にも光が当たっているため、全体的にフラットになりがちな状況です。
 微粒子をうたっているだけあって、まずまずの解像度が得られているのではないかと思います。
 また、シャドー部もベタッとした感じはなく、ディテールも残っています。

 一方、コントラストは若干低い印象を受けます。被写体や光の状況によって異なりますが、個人的にはメリハリが不足しているように感じます。しかしこれは、現像液や現像時間によって変わってくるかも知れません。

 昼休みの時間帯ということもあり、芝生の上には多くの人がいたので急いで撮影したため、像に角が生えてしまったのはご愛嬌ということで。

 次の写真は公園脇の交差点を撮影したものです。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F11 1/250 ARISTA EDU 200

 一枚目の写真に比べると斜光の度合いが強いのと陰になっている部分が多いので、全体としてコントラストが高めに見えます。
 しかし、ビル(都庁)の壁面や路面、木々の枝などを見るとわかりますが、コントラストは決して高くはありません。

 この写真は画素数を落としているのでわからないと思いますが、ネガ原版をルーペで見ると木々の枝先も認識できるので合格点とは思いますが、特別に解像度が高い印象は受けません。

 もう一枚、公園内の雑木林を撮影した写真です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F11 1/125 ARISTA EDU 200

 画面左側から光が差し込んでいる状況です。
 中央左にある2本の木の幹や、直接光が当たっていない地面なども黒くつぶれることなく表現されていますが、やはり全体の印象はコントラストが低めといった感じです。

 まったく同じ場所ではありませんが、この雑木林をイルフォードのDELTA100で撮影したのが下の写真です。

▲PENTAX67 SMC-TAKUMAR 6×7 105mm 1:2.4 F11 1/30 ILFORD DELTA100

 ULTRA 200と比べると明らかにコントラストが高いのがわかると思います。全体的に黒の締まった、メリハリが感じられる描写です。
 黒がくっきりと出る分、ディテールは若干犠牲になっていますが、とはいえ、墨を塗ったようなベタッとした黒ではなく、階調も出ているので立体感も損なわれていません。

 因みに、こちらのフィルムもイルフォードID-11(希釈1:1)を使用し、20℃で11分の現像をしています。

 ARISTA EDU ULTRA 200、イルフォードのDELTA100と比べるとその違いが明確にわかりますが、なだらかな階調表現ができるフィルムではないかと思います。パキッとしたメリハリの利いた画にはなりませんが、ディテールを犠牲にすることなく、柔らかな表現ができるフィルムといったところでしょうか。
 ポートレートとか花とか、あるいは、のどかな風景の撮影などには向いているかも知れません。

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 このフィルムを使った撮影を終えてから10日ほど経ったある日、フィルムを購入した新宿のカメラ店に立ち寄ったところ、何と、このフィルムの価格が1,300円に値上がりしていました。もちろん、ULTRA 100もULTRA 400も同じ1,300円です。イルフォードのDELTA100をはるかに超えて、ローライのRPX400と同じ価格になってしまいました。驚きです。
 もはや、学生向けのフィルムとはいえなくなってしまった感じです。

(2022年4月4日)

#アリスタ #ARISTA_EDU #PENTAX67 #ペンタックス67 #モノクロフィルム